説明

化学防護服の気密試験方法

【課題】 化学防護服である送気式気密服の気密試験方法であって、排気弁の分解復旧を要さない、気密試験方法を提供する。
【解決手段】 送気式気密服の排気弁のカバーを取り外して排気弁に蓋部材を装着する。排気弁の弁体と蓋部材との間の空間の内圧を計測しつつ、送気口に接続した送気ホースを介して空気供給源から服内へ送気して、排気弁の弁体と蓋部材との間の空間の内圧が所定値になるまで服内を加圧する。送気停止後所定時間経過時の送気ホースの内圧を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学防護服の気密試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体に有害な液体、気体、固体粉末等の人体への付着や人による吸引を防止するために人体に装着される化学防護服は、JIS T8115により気密服と密閉服とに分類されている。上記気密服については、JIS T8032に規定された気密試験がJIS
T8115により義務付けられている。
JIS T8115は気密服を更に3タイプに分類している。前記3タイプ中の1タイプである送気式気密服は、服外から呼吸可能な空気を送気ホースで服内へ送気するものであり、送気口と排気口とを有している。送気口には送気ホース接続部材が取り付けられ、排気口には排気弁が取り付けられている。
送気式気密服の気密試験においては、従来、排気弁収容筒のみを残して排気弁を分解除去し、排気弁収容筒に蓋部材を装着し、外部の空気供給源から送気ホースと送気ホース接続部材とを介して服内へ送気して服内をJIS T8032で規定された所定圧に加圧し、送気停止後JIS T8032で規定された所定時間経過時の服内圧を、前記蓋部材を貫通する導圧ホースを介して圧力計に導き、計測していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
送気式気密服の従来の気密試験方法には、送気式気密服の気密に関わる部分である排気弁の分解復旧を要するので、分解復旧作業に作業ミスがあると、復旧後の送気式気密服の気密性が損なわれる場合を生ずるという問題があった。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、化学防護服である送気式気密服の気密試験方法であって、排気弁の分解復旧を要さない、気密試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明においては、化学防護服である送気式気密服の排気弁のカバーを取り外して排気弁に蓋部材を装着し、排気弁の弁体と蓋部材との間の空間の内圧を計測しつつ、送気口に接続した送気ホースを介して空気供給源から服内へ送気して、排気弁の弁体と蓋部材との間の空間の内圧が所定値になるまで服内を加圧し、送気停止後所定時間経過時の送気ホースの内圧を計測することを特徴とする化学防護服の気密試験方法を提供する。
送気ホースの内圧を計測して気密試験を行うのであれば、排気弁の分解復旧を行わなくても良い。しかし、送気中は送気ホース接続部材で発生する圧力損失により送気ホース内圧は気密服内圧よりも高くなる。従って、送気ホース内圧を計測しつつ送気した場合には、気密服内圧がJIS T8032で規定する所定圧まで上昇したことを確認できない。他方、排気弁の開弁圧は微小なので、気密服内圧がJIS T8032で規定する所定値に達するまでに排気弁が開閉弁を繰り返し、気密服内圧が前記所定圧に達した時には、排気弁と蓋部材との間の空間の内圧は、気密服内圧以下で且つ気密服内圧から排気弁の開弁圧を差し引いた圧力以上になっている。JIS
T8032で規定する所定圧は上下に幅を持っており、また排気弁の開弁圧は前記所定圧の上下幅未満なので、排気弁と蓋部材との間の空間の内圧と排気弁の開弁圧との和が前記上下幅の上限値になった時に送気を停止すれば、送気停止時の送気式気密服の内圧は、JIS
T8032で規定する所定圧の上下幅の中に納まる。
送気停止後は、送気ホース接続部材内の空気流が停止して送気ホース接続部材の圧力損失がゼロになり、送気ホース内圧は気密服内圧と同圧となる。従って、送気停止後所定時間経過時の送気ホース内圧を計測すれば、JIS T8032で規定する気密試験を実施したことになる。
本発明においては、送気口に接続した送気ホースの内圧を計測することによって、送気停止後の気密服内圧を計測するので、排気弁はカバーの脱着をするだけで、分解復旧を要さない。従って、気密試験によって防護服の気密性が損なわれるおそれはない。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】化学防護服である送気式気密服の外観図である。(a)は正面図であり、(b)は背面図である。
【図2】図1の送気式気密服に取り付けられた排気弁の断面図である。
【図3】カバーを取り外した状態の排気弁の外観斜視図である。
【図4】カバーを取り外した排気弁に装着される蓋部材の断面図である。
【図5】蓋部材の装着手順を示す排気弁と蓋部材の外観斜視図である。
【図6】蓋部材装着後の排気弁と蓋部材の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の実施例に係る化学防護服の気密試験方法を説明する。
図1に示すように、化学防護服である送気式気密服1は、気密服本体2と、送気ホース接続部材3と、排気弁4とを備えている。
送気ホース接続部材3は、気密服本体2の左太股部に形成された送気口2aに嵌合固定され左太股部に沿って延在する筒体である。
図2、3に示すように、排気弁4は、気密服本体2の後頭部に形成された排気口2bに嵌合固定されると共に弁座が形成された排気弁収容筒4aと、排気弁収容筒4aに収容された弁体4bと、弁体4bに所定の開弁圧を付与するバネ4cと、排気弁収容筒4aに固定されたバネ押さえ4dとを備えている。バネ押さえ4dに弾性係合した排気弁カバー5が排気弁4を覆い、排気弁4を保護している。
図4〜6に示すように、気密試験時に排気弁カバー5に代えて排気弁4に装着される蓋部材6は、環状周縁部がバネ押さえ4dの環状周縁部に当接して排気弁の弁本体4bとの間に圧力計測空間αを形成する碗状のゴムパッキン6aと、ゴムパッキン6aを収容すると共に環状周縁部がゴムパッキン6aの環状周縁部に当接する硬質樹脂から成る碗状のパッキン押さえ6bと、パッキン押さえ6bを収容すると共に内フランジ部6c’がバネ押さえ4dの環状周縁部の外周側面に形成された溝4d’に係合可能な半割り碗状の蓋部材カバー6cと、蓋部材カバー6cに螺合する押圧螺子6dとを有している。導圧ホース7の一端がパッキン押さえ6bとゴムパッキン6aとを貫通してパッキン押さえ6bに固定されている。
【0007】
送気式気密服1の気密試験に際しては、図3に示すように、排気弁カバー5を排気弁4から取り外す。図4〜6に示すように、一体に組み付けたゴムパッキン6aとパッキン押さえ6bとを排気弁4のバネ押さえ4dに被せ、ゴムパッキン6aの環状周縁部をバネ押さえ4dの環状周縁部に当接させる。内フランジ6c’を溝4d’に係合させつつ側方から蓋部材カバー6cをバネ押さえ4dに装着し、押圧螺子6dを蓋部材カバー6cに螺入させて螺子先端部でパッキン押さえ6bを押圧し、パッキン押さえ6bの環状周縁部をゴムパッキン6aの環状周縁部に押圧する。この結果、ゴムパッキン6aの環状周縁部がバネ押さえ4dの環状周縁部に押圧されて、ゴムパッキン6aの環状周縁部とバネ押さえ4dの環状周縁部との当接部がシールされる。
導圧ホース7の他端に図示しない第1圧力計を取り付ける。
図1に示すように、送気ホース接続部材3に送気ホース8の一端を接続し、送気ホース8の他端を図示しない加圧空気供給源に接続すると共に、送気ホース8から分岐する導圧ホース9を図示しない第2圧力計に接続する。
【0008】
加圧空気供給源から送気ホース8を介して送気式気密服1に加圧空気を供給しつつ、排気弁4の弁体4bとゴムパッキン6aとの間の圧力計測空間αの内圧を、導圧ホース7を介して第1圧力計へ導き、計測する。圧力計測空間αの内圧は、送気式気密式服1の内圧以下で且つ送気式気密式服1の内圧から排気弁4の開弁圧を差し引いた圧力以上である。
圧力計測空間αの内圧と排気弁4の既知の開弁圧との和がJIS T8032で規定する所定圧力の上下幅の上限値に達した時点で送気を停止する。排気弁4の開弁圧はJIS
T8032で規定する所定圧力の上下幅未満なので、送気停止時の送気式気密服1の内圧はJIS T8032で規定する所定圧力の上下幅内に納まる。
【0009】
送気停止により、送気ホース接続部材3内の空気流が停止し、送気ホース接続部材3で発生する圧力損失がゼロになる。この結果、送気ホース8の内圧が送気式気密服1の内圧と同圧になる。
送気停止後、JIS T8032で規定する所定時間経過時の送気ホース8の内圧を、導圧ホース9を介して第2圧力計へ導き、計測する。送気ホース8の内圧は送気式気密服1の内圧と同圧なので、送気ホース8の内圧を計測することにより、送気式気密服1の内圧を計測することができる。
上記説明から分かるように、本実施例に係る方法に従って気密試験を実施すれば、JIS
T8032で規定する気密試験を実施したことになる。
【0010】
気密試験の終了後、送気ホース8を送気ホース接続部材3から取り外す。押圧螺子6dを緩め、蓋部材カバー6cを側方へ移動させて、蓋部材カバー6cとバネ押さえ4cとの係合を解除する。パッキン押さえ6bとゴムパッキン6aとを排気弁4から取り外す。排気弁カバー5をバネ押さえ4cに弾性係合させて、排気弁カバー5を排気弁4に取り付ける。
【0011】
本実施例に係る気密試験方法においては、送気口2aに接続した送気ホース8の内圧を計測することによって、送気停止後の送気式気密服1の内圧を計測するので、排気弁4はカバー5の脱着をするだけで、分解復旧を要さない。従って、気密試験によって送気式気密服1の気密性が損なわれるおそれはない。
【符号の説明】
【0012】
1 送気式気密服
2 気密服本体
3 送気ホース接続部材
4 排気弁
5 排気弁カバー
6 蓋部材
7、9 導圧ホース
8 送気ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学防護服である送気式気密服の排気弁のカバーを取り外して排気弁に蓋部材を装着し、排気弁の弁体と蓋部材との間の空間の内圧を計測しつつ、送気口に接続した送気ホースを介して空気供給源から服内へ送気して、排気弁の弁体と蓋部材との間の空間の内圧が所定値になるまで服内を加圧し、送気停止後所定時間経過時の送気ホースの内圧を計測することを特徴とする化学防護服の気密試験方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate