説明

化成処理性および塗装後耐食性に優れた冷延鋼板の製造方法

【課題】化成処理性および塗装後耐食性に優れた冷延鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】冷延鋼板表面にZnの付着量が100〜5000mg/m2となるように電気Znめっきを施し、水洗した後に、Pを含有する水溶液に前記冷延鋼板を接触させる。この時、Pを含有する水溶液のP濃度は0.001〜2g/Lであり、温度は30〜60℃の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、十分な化成皮膜を形成し、かつ塗装後耐食性が良好な冷延鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として、自動車からのCO2排出量を減らすために、車体の軽量化をいかに行うかが自動車メーカーにとって課題となっている。車体の軽量化に対しては、使用する鋼板の薄肉化が最も有効であるが、鋼板の強度が同じままで板厚だけを薄くすると、鋼板の剛性が減少し、今度は衝突時などの乗員の安全性を確保できなくなる。このため、板厚を薄くし、その分で減った剛性を鋼の高強度化により補った、高強度鋼板を車体材料として採用する動きが徐々に高まり、至近では引張強度1180MPaクラスの高強度鋼板においてもボディ用途に使用する動きが活発になってきている。
【0003】
鋼板を高強度化するには、SiやMnなどの合金元素を添加して固溶強化する方法、結晶粒を微細化する方法、Nb、Ti、Vなどの析出物形成元素を添加して析出強化する方法、マルテンサイト相などの硬質な変態組織を生成させて強化する方法などが有効である。
【0004】
一般に、合金元素の添加による高強度化は、一方で延性の低下を招くため、部品の形状をつくるプレス成形がしにくいという欠点がある。しかし、固溶強化の中でもSiは他の元素と比較して延性低下の影響が小さいことから、延性を確保しつつ高強度化を図る際には有効な元素である。このため、加工性と高強度化を両立した鋼板にはSiの添加がほぼ必須と言ってよい。
【0005】
しかしながら、Siは酸化物の平衡酸素分圧が非常に低く、一般の冷延鋼板の製造で使用される連続焼鈍炉内の還元性雰囲気において容易に酸化されることから、Siを含有した鋼板を連続焼鈍炉に通板すると、Siが鋼板表面で選択酸化されSiO2が形成される。このように表面にSiO2が形成された鋼板を塗装前の化成処理に供すると、このSiO2が化成処理液と鋼板の反応を阻害するため、化成結晶が形成されない所謂スケと呼ばれる部分が存在することになる。そして、このような化成処理後にスケが存在する鋼板は、化成処理後の水洗段階で既に錆が見られることがあり、また仮に錆にまで至らなかったとしても、電着塗装後の鋼板の耐食性が非常に悪いことから、Siを含有する高強度冷延鋼板をボディ用途に使用することは非常に困難であった。
【0006】
このようなSiを含有する高強度冷延鋼板の化成処理性を改善する方法としては、従来から多くの提案がある。例えば、特許文献1には、原子比[Si/Mn]が1以下の酸化物を表面に形成した冷延鋼板と、その製造方法として、鋼板成分の(Si/Mn)比、焼鈍温度と、雰囲気の水素と水分の分圧比をパラメータとして規定したものが提案されている。しかし、この方法では、鋼板成分のSi量が増加するにつれて焼鈍温度を低下させる必要があるため、所望の強度や延びを得るために高温焼鈍が必要な場合には、雰囲気の水分比を上げなければならない。しかし、逆に鋼板表面にはFe系酸化物が形成されるため、製品として成立しない。すなわち、現在の高強度鋼板の主流である1.0%程度のSiを含有する鋼板に対しては適用できない技術である。
【0007】
特許文献2には、Si:0.05〜2%、かつ[Si]/[Mn]≦0.4の鋼板に対して、鋼板表面のSi-Mn複合酸化物のサイズと単位面積あたりの個数、かつSiを主体とする酸化物の鋼板表面被覆率を規定した高強度冷延鋼板が提案されている。
【0008】
特許文献3には、Si:0.1〜1%、かつ[Si]/[Mn]≦0.4の鋼板に対して、鋼板表面のMn-Si複合酸化物の(Mn/Si)比とサイズと単位面積あたりの個数、かつSiを主体とする酸化物の鋼板表面被覆率を規定した高強度冷延鋼板が提案されている。
【0009】
特許文献4には、Si:0.1〜2%、かつ[Si]/[Mn]≦0.4の鋼板に対して、鋼板表面のMn-Si複合酸化物の(Mn/Si)比とサイズと単位面積あたりの個数、かつSiを主体とする酸化物の鋼板表面被覆率を規定した高強度冷延鋼板が提案されている。
【0010】
特許文献2〜4の技術は、最大2%のSiを含有する鋼板に対してまで適用可能であり、その製造方法の例としては、熱間圧延後の酸洗条件や連続焼鈍時の露点を-40℃以下に抑えるとしている。しかし、特定のSi/Mn比を満足する鋼板であることが必要であり、鋼板成分の自由度が少ない欠点がある。また、連続焼鈍時の露点を-40℃以下とすることは現実の製造ラインの露点変動を考えるとかなり制御が困難であるため、量産には適さない技術である。
【0011】
特許文献5には、Si:0.4%以上、かつ[Si]/[Mn]≧0.4の鋼板に対して、鋼板表面のSi基酸化物の表面被覆率を規定した冷延鋼板と、焼鈍後に酸洗を施す製造方法が提案されている。
【0012】
特許文献6には、Siを0.5質量%以上含有する鋼板に対して、焼鈍後に鋼板表面を2.0g/m2以上研削する技術が提案されている。
【0013】
特許文献7には、Si:0.5〜2.0%含有する鋼板を焼鈍した後に、pH0〜4、温度10〜100℃の酸性溶液で5〜150秒間処理し、かつpH10〜14、温度10〜100℃のアルカリ溶液で2〜50秒間処理を行う技術が提案されている。
【0014】
特許文献5〜7の技術は、いずれも焼鈍後の表面に形成された酸化物層を除去するものであるが、特許文献5の例では、Si基酸化物を除去するために高濃度の酸を使用する必要があり、この場合、逆に鉄地の不働態皮膜の形成を促進するため、必ずしも化成処理性の向上には働かない欠点がある。特許文献6や7では、ライン内に、研削のセクション、もしくは酸性溶液処理→アルカリ溶液処理のセクションを設ける必要があり、設備の長大化やコストの増加を招き、現実的ではない。
【0015】
特許文献8には、鋼板表面に付着量が10〜2000mg/m2のZnめっき皮膜を有し、かつ所定の結晶配向性を持たせることで、耐型かじり性と化成処理性を両立する技術が提案されている。この技術は、主に耐型かじり性を改善するためになされたものであり、化成処理性については、わずかなZn付着量においてもZnの付着部と鋼板露出部との間でミクロセルが形成され、化成処理反応が活発になると示唆している。しかし、鋼板のSi濃度が高い場合などは、鋼板表面のかなりの部分がSiO2酸化物で覆われており、この部分が鋼板露出部であった場合には、必ずしもミクロセルを形成するとはいえない。また、電気めっき浴には、硫酸浴を使用しており、実施例に提示されている同じ条件でZnめっき皮膜を形成したところ、化成処理前のアルカリ脱脂液の種類によっては十分な脱脂ができないことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平4-276060号公報
【特許文献2】特許第3934604号公報
【特許文献3】特開2005-290440号公報
【特許文献4】特許第3889768号公報
【特許文献5】特開2004-323969号公報
【特許文献6】特開2003-226920号公報
【特許文献7】特開2007-009269号公報
【特許文献8】特開2006-299351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このように、延性を低下させずに高強度を図る目的でSiを添加した冷延鋼板の場合、化成処理性を満足する技術は未だ十分とは言えず、高強度鋼板の自動車車体への適用を阻害しているのが現状である。
【0018】
本発明は、Siを強化元素として含有する鋼板に対して、上記のような問題点を解決し、化成処理性および塗装後耐食性に優れた冷延鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、SiO2が鋼板表面に形成されると、形成された部分では、鋼板の主成分であるFeが溶解しないため、化成結晶形成反応が生じないことに着目した。そして、なんらかの方法で鋼板表面の溶解反応を生じさせることが化成結晶形成反応に結びつくと考えた。また、金属Znは化成処理液との反応により、化成皮膜としてリン酸亜鉛皮膜を形成することを考え、検討した結果、リン酸亜鉛皮膜を形成するのに十分な量の薄いZnを冷延鋼板表面に付与することで、Siを含有する冷延鋼板に対しても化成結晶形成反応が進行し、その結果、化成処理後にリン酸亜鉛被膜を形成できることを確認した。
【0020】
しかしながら、化成処理は、アルカリ脱脂→表面調整→リン酸塩処理で進行するのが一般的なプロセスであり、このうちアルカリ脱脂工程においては油が次々と混入していくため、実ラインではかなり脱脂能力が劣ってしまう。そして、このような実ラインを想定した脱脂液に、電気Znめっきを施し水洗しただけの鋼板を浸漬すると、鋼板に付与されている防錆油などが十分に除去できず水はじきが生じることを見出した。このような水はじきが生じた鋼板は、そのまま化成処理液との濡れ性も悪く表面ムラを生じるため、アルカリ脱脂後には鋼板表面の油分を完全に除去することが重要である。この観点から、電気Znめっきを施し水洗した後に、さらにPを含有する水溶液に接触させることで、実ラインを想定した脱脂液を用いた場合でも、鋼板の油分を除去することができ、十分な水濡れ率が得られることがわかった。
【0021】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]冷延鋼板表面にZnの付着量が100〜5000mg/m2となるように電気Znめっきを施し、水洗した後に、Pを含有し、前記Pの濃度が0.001〜2g/Lであり、温度が30〜60℃の範囲である水溶液に前記冷延鋼板を接触させることを特徴とする化成処理性および塗装後耐食性に優れた冷延鋼板の製造方法。
[2]冷延鋼板表面にZnの付着量が100〜1000mg/m2となるように電気Znめっきを施し、水洗した後に、Pを含有し、前記Pの濃度が0.001〜2g/Lであり、温度が30〜60℃の範囲である水溶液に前記冷延鋼板を接触させることを特徴とする化成処理性および塗装後耐食性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、化成処理性および塗装後耐食性に優れた冷延鋼板が得られる。表面濃化元素として知られるSiやMnの酸化物が表面に形成されているがゆえに自動車製造での塗装工程において化成処理皮膜が形成されにくくなっている鋼板に対しても、十分な化成皮膜を形成し、かつ良好な塗装後耐食性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
一般に、冷延鋼板は、冷間圧延された鋼板を水素を含有した還元性雰囲気中で700〜900℃の範囲で熱処理を施すことによって製造される。しかし、この還元性雰囲気中で加熱することにより、鋼板成分のうち易酸化性元素が鋼板表面に酸化物として濃化する現象(以下、表面濃化と称することがある)が生じてしまう。この代表的な酸化物としては、SiO2、MnOやSi-Mn系複合酸化物がある。これらの酸化物が鋼板表面に存在する部分では、化成処理液により鋼板をエッチングし化成結晶を析出する反応が阻害され、鋼板表面では部分的に化成結晶が形成されない部分、いわゆるスケが発生し、化成処理性に劣ることになる。
【0024】
これに対して、鋼板表面にZnめっきを施すと、Znが表面濃化した酸化物を覆うため、酸化物が存在していた鋼板表面においても、Znと化成処理液との反応が生じる。また、表面濃化した酸化物を全部覆い尽くすことができなかったとしても、周辺に存在するZnが化成処理液と反応するため、化成皮膜を容易に形成することができる。
【0025】
ここで、通常の冷延鋼板の場合、化成処理液と反応する元素は鋼板成分のFeである。しかし、表面にZnめっきを施した場合にはこのZnが化成処理液と反応する元素になる。また、形成されるリン酸塩結晶も、通常の冷延鋼板ではフォスフォフィライト(Zn2Fe(PO4)2・4H2O)が形成されるが、本発明ではかなりのリン酸塩結晶がホパイト(Zn3(PO4)2・4H2O)となる。
【0026】
このような化成処理性改善の効果を得るためには、鋼板表面へのZnの付着量が100mg/m2以上である必要がある。先述したように、本技術は表面に付与したZnが化成処理結晶を形成する働きをするため、鋼板表面を十分に覆っておく必要がある。すなわち、100mg/m2未満の付着量では鋼板表面をZnが覆いつくすことができず化成処理の改善が認められない。一方、Zn付着量が多くなっても化成性の観点では問題ないが、冷延鋼板自身の化成性改善の目的のみではZn付着量増加はコストアップにつながるため、上限は5000mg/m2とする。好ましくは、1000mg/m2以下である。
【0027】
鋼板表面にZnを付着させる方法は種々考えられるが、電気めっきによる方法が最もよい。本発明において、効果を奏するZnの適切な付着量が5000mg/m2以下であるため、例えば、溶融めっき法ではこのような薄めっきに対応できない。
【0028】
通常の化成処理は、アルカリ脱脂→表面調整→リン酸塩処理の順番で行われる。最初のアルカリ脱脂工程では、鋼板に塗布された防錆油や、自動車ボディ外板のプレス成形時に頻繁に使用されるプレス洗浄油などを除去する必要がある。しかしながら、薄い電気Znめっきを施した鋼板をそのままアルカリ脱脂液に浸漬させても、必ずしも油を除去できるとは限らない。特に、自動車メーカーの塗装ラインなどで次々と流れてくる何台もの車体に対してアルカリ脱脂をする場合、油が混入したりアルカリ脱脂液の劣化などが考えられるため、場合によっては十分に脱脂が施されず水はじきが生じた状態で次の表面調整工程にまわされる場合がある。このような水はじき部分では、表面調整液がきちんと付与されず、さらに次のリン酸塩処理工程では、リン酸塩結晶が粗大化したり結晶が形成されない部分が存在するなどリン酸塩処理へ悪影響がある。
【0029】
そこで、本発明では、電気Znめっきを施した後にP含有水溶液に浸漬することとする。P含有水溶液に浸漬することで、表面に微量なPが付着し、これによりアルカリ脱脂液の劣化などを考えた場合でも十分に脱脂が可能となる。このメカニズムについては推定ではあるが、電気Znめっき浴として一般的な硫酸亜鉛浴を使用すると硫酸根がZnめっき皮膜中に取り込まれ、この硫酸根が油との親和性を高めるために、脱脂が困難になると考えられる。これに対して、Pを含有する水溶液を鋼板に接触させると、表面に存在する硫酸根が洗い流され、さらにPが微量に付着することで油との親和性を低くするため、脱脂性が向上すると考えられる。
【0030】
鋼板に接触させるPを含有する水溶液のP濃度は、0.001〜2g/Lの範囲が好ましい。これは、0.001g/L未満であると、硫酸根の洗浄効果が小さく、かつPの表面への付着が十分でない場合がある。一方、2g/Lを超えても効果に大きな差は認められない。
【0031】
Pを含有する水溶液の温度は、30〜60℃の範囲が好ましい。30℃未満であると、硫酸根の洗浄およびPの付着に時間を要し、連続焼鈍設備では長大な設備を必要とする。一方、60℃を超えると効果は十分であるが、加熱するための設備が余計に必要になるなど経済上適切でない。
【0032】
Pを含有する水溶液に鋼板を接触させる方法については特に限定はしない。例えば、浸漬方式やスプレー方式など採用することができる。スプレー方式を採用した場合のスプレー圧やノズル径、ノズルから鋼板の距離などは、水溶液が鋼板に接触するだけの十分な条件が満たされていればよく、この条件についても特に限定はしない。
【0033】
なお、本発明では、焼鈍後の冷延鋼板表面にSiO2などが存在することで化成皮膜が形成されない鋼板に対して、皮膜の形成を促すことが目的の一つであるため、Siを例えば0.5%以上含んでいる高強度冷延鋼板などに対して好適に用いられる。しかし、鋼板表面にZnの付着量が100〜5000mg/m2とZnを付着させる、すなわち、鋼板表面へのわずかなZnの存在により塗装後耐食性の向上が認められるため、一般的な冷延鋼板に対しても塗装後耐食性の観点から適用が可能である。このため、本発明は、全ての冷延鋼板を対象に化成処理性と塗装後耐食性が確保される技術である。
【実施例】
【0034】
表1に示した成分組成を有するA〜Hの鋼を常法の製綱プロセスで溶製し、連続鋳造してスラブとし、次いで、このスラブを1250℃に再加熱後、仕上げ圧延終了温度を850℃、巻き取り温度を600℃とする熱間圧延を施し、板厚3.0mmの熱延板とした。この熱延板を、酸洗後、板厚1.5mmまで冷間圧延し供試材とした。この供試材を、ラボの還元加熱シミュレータを使用して水素を10vol%含有した窒素雰囲気中で800〜850℃の範囲で最大2分間、加熱処理し焼鈍板(冷延鋼板)を作製した。
【0035】
上記により得られた焼鈍板(冷延鋼板)に対して、硫酸亜鉛七水和物:1mol/Lを含有し、硫酸を用いてpH2.0に調整した水溶液を用いて、アノードにイリジウムオキサイド板を使用して電気めっきを施し、表面にZnを付着させた。Znの付着量は、電流密度と通電時間を変えることで変化させた。電気めっきを施した後のサンプルは、水洗した後、さらに二リン酸ナトリウム(Na4P2O7・10H2O)水溶液に3秒間浸漬させた。溶液はP濃度として0.5g/L、温度:50℃を基準とし、一部では濃度と温度を変化させて評価も行った。なお、比較のため、電気めっきを施さず表面にZnを付着しない焼鈍板(冷延鋼板)も準備した。
【0036】
次に、以上により得られた冷延鋼板に対して、以下に示す化成処理を実施した。
【0037】
まず、市販のアルカリ脱脂液(日本パーカライジング(株)製、ファインクリーナーFC-E2001)を規定濃度で建浴した場合と、劣化した場合を想定して規定濃度の2倍に希釈して建浴した場合のそれぞれにおいて、冷延鋼板を2分間浸漬し、水洗後の鋼板の水濡れ率を評価した。水濡れ率が80%以上のものを○、80%に満たないものを△、50%以下のものを×とし、脱脂性の指標とした。
【0038】
次に、前述した規定濃度の2倍に希釈した脱脂液で脱脂した冷延鋼板を、表面調整液(日本パーカライジング(株)製、PL-ZTH)に浸漬し、リン酸塩処理液(日本パーカライジング(株)製、パルボンドPB-L3080)に、浴温:43℃、処理時間:120秒の条件で浸漬し化成処理を行った。
【0039】
化成処理後の冷延鋼板表面をSEMを用いて倍率300倍で10視野観察し、化成結晶が生成していない領域(スケ)の有無と大きさ、および結晶状態の不均一さにより、化成処理評点として以下の5段階で評価した。
5点:スケは認められず、また結晶も均一である。
4点:わずかに結晶の不均一も認められるがスケは認められない。
3点:微小なスケが認められる。
2点:比較的大きなスケが認められる。
1点:比較的大きなスケが多数認められる。
【0040】
化成処理後の鋼板は、さらに、市販のED塗装(関西ペイント(株)製、GT-10)を塗膜厚:20μmにて施し、塗装面にNTカッター(登録商標)でクロスカットを入れた後、温塩水(5%NaCl、50℃)に10日間浸漬した。浸漬後のサンプルはポリエステルテープでクロスカット部を覆い剥離作業を行った後に、カットからの片側の最大剥離幅を測定した。
以上により得られた結果を条件と併せて表2〜5に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
表2〜5より、鋼A、BおよびCについては、鋼板成分にSiを多く含んでいないため、表面に電気Znめっきを施さない例(比較例1〜3)においても良好な化成処理性が得られているが、剥離幅が大きく塗装後耐食性が劣っている。
【0047】
比較例9、10と本発明例1〜8(鋼A)、比較例11、12と本発明例9〜16(鋼B)、比較例13、14と本発明例17〜24(鋼C)では、表面に電気Znめっきを付与していくと温塩水浸漬試験後の剥離幅が減少し、特に100mg/m2以上の付着量では剥離幅のレベルが低く安定し塗装後耐食性に優れていることが分かる。
【0048】
鋼D〜Hは、Siを多く含むことから、表面にZnめっきを施さない例(比較例4〜8)においては、化成結晶にスケが認められ、特に、Si量1.5%以上となるG、Hでは化成結晶がほとんど形成されていない評点1のレベルになった。
【0049】
電気Znめっきを施した場合、Zn付着量が100mg/m2未満の例(比較例15〜24)では、まだスケが見られる化成結晶のレベルであり十分でない。
【0050】
Zn付着量が100mg/m2以上の例(本発明例25〜64)では、いずれもスケのない化成結晶が得られ化成処理性に優れている。また、同時に温塩水浸漬試験後の剥離幅も低く安定しており、鋼成分の影響をほとんど受けていないことが分かる。
【0051】
また、電気Znめっき後に、Pを含有する水溶液に接触させない例(比較例25)や、Pを含有する水溶液に接触させても、そのP濃度が低い例(比較例26、27)、温度が低い例(比較例28、29))では、規定濃度に建浴した脱脂液では十分な脱脂性が得られるものの、実際の塗装ラインでの劣化状態を模擬した規定濃度の2倍に希釈した脱脂液で脱脂では脱脂後に水はじきが発生していた。
【0052】
これに対して、P濃度および処理液温度が本発明範囲内にある例(本発明例65〜69、70)では、希釈脱脂液においても十分な脱脂性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
Siなどの強化元素を多く含む高張力冷延鋼板においても塗装前の化成処理性が良好であり、かつ塗装後の耐食性も良好になることから、例えば、自動車ボディー用途として最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷延鋼板表面にZnの付着量が100〜5000mg/m2となるように電気Znめっきを施し、水洗した後に、
Pを含有し、前記Pの濃度が0.001〜2g/Lであり、温度が30〜60℃の範囲である水溶液に前記冷延鋼板を接触させることを特徴とする化成処理性および塗装後耐食性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項2】
冷延鋼板表面にZnの付着量が100〜1000mg/m2となるように電気Znめっきを施し、水洗した後に、
Pを含有し、前記Pの濃度が0.001〜2g/Lであり、温度が30〜60℃の範囲である水溶液に前記冷延鋼板を接触させることを特徴とする化成処理性および塗装後耐食性に優れた冷延鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−167362(P2012−167362A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285173(P2011−285173)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】