説明

化粧シート

【課題】本発明は、ポリ乳酸樹脂を主成分として、生分解を極力起こさないような工夫をしつつ、(1)ポリ乳酸樹脂の有機溶剤系塗工液に対する塗工適性が高い、(2)ポリ乳酸樹脂の透明性が高い、(3)加熱伸縮しにくい、(4)柔軟性があり、Vカットなどの後加工性が高い、(5)各層との密着強度が高い、などの特徴を同時に併せもった、植物由来成分を主とする化粧シートを提供することである。
【解決手段】少なくとも模様層および、熱可塑性樹脂層(イ)、ポリ乳酸樹脂層、熱可塑性樹脂層(ロ)をこの順で積層した3層構造とを含み、前記熱可塑性樹脂層(イ)および熱可塑性樹脂層(ロ)が、少なくともポリエステルを含む樹脂からなることを特徴とする化粧シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、木質系ボード類、無機系ボード類、金属板等の表面に接着剤で貼り合わせて化粧板として用いる化粧シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のかかる用途に用いる化粧シートとしては、ポリ塩化ビニル系材料を使用して、これに印刷、エンボス加工等で装飾を施した化粧シート(特許文献1、2参照)が用いられていたが、近年これに代わるものとして、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルムを使用した化粧シートが登場してきた(特許文献3参照)。
【0003】
上記のようなポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルムを使用した化粧シートは、ポリ塩化ビニルを使用した化粧シートと比較すると、(1)燃焼時に有毒なガスが発生しない、(2)ポリ塩化ビニル中に含まれる可塑剤の析出などの心配がない、(3)溶剤に対する耐性が高い、などの利点を持っている。特に昨今の環境問題を考えた場合に、(1)は重要なポイントである。また(2)の可塑剤の中には、環境ホルモン物質の疑いが懸念される材料も存在している。
【0004】
しかしながら、現在のポリオレフィン系材料を使用した化粧シートも、結局は石油系材料を元に重合された材料であり、その材料を燃焼してしまうと、地上の二酸化炭素を増やしてしまう事になってしまうので、昨今の地球温暖化問題を考えた場合には、問題も残されている。
【0005】
このような問題を鑑みて、澱粉やセルロースなどの植物由来材料を元にしたプラスチックの研究開発が盛んに行なわれており、特に、ポリ乳酸を材料にした化粧シートについては、いくつかの提案がなされている(特許文献4〜7参照)。これら植物由来材料を基にしたプラスチック材料は、当初は生分解性が注目されていたが、近年では植物由来であり、燃焼しても大気中の二酸化炭素を増大させない点が注目されている。
【0006】
一方我々は、上述した文献等を参考に、ポリ乳酸を使用した化粧シートの検討を鋭意行なってきたが、その結果、以下のような問題に対峙した。
【0007】
それは即ち、未延伸なポリ乳酸シートをもちいて化粧シートを作製しようとすると、有機溶剤に対する耐性が悪い為に有機溶剤系の塗工液が使用しづらい事や、経時での結晶化の進行により透明性が落ちる現象がみられる事などである。これらの不具合を回避する為に、ポリ乳酸のシート製膜時の延伸や製膜後の高温でのエージングなどを行なうと、加熱伸縮性を悪化させたり、シートの柔軟性が低下したりしてしまう。その結果、寸法ばらつきが大きな化粧シートになってしまい、また、改質基材に貼り合わせる際の後加工がしづらくなってしまう。また延伸する事で耐溶剤性が高くなる分、塗工液の密着性が低下するなどの問題も発生する。
【0008】
上記特許を含めた公知の技術では、ポリ乳酸を使用した化粧シートにおけるこれらの諸問題を同時回避するための具体的な解決策が不明であった。
【特許文献1】特公昭28−5036号公報
【特許文献2】特公昭58−14312号公報
【特許文献3】特開昭54−62255号公報
【特許文献4】特許第3841894号公報
【特許文献5】特開平11−129426号公報
【特許文献6】特許第3900321号公報
【特許文献7】特開平11−207916号公報
【0009】
また、高温高湿度下に置かれたポリ乳酸樹脂は、その生分解性により劣化が急速に進行するので、化粧シートのような耐久消費財向けに使用する場合には、この点が問題になる。それゆえ、ポリ乳酸樹脂を化粧シートに使用する場合には、生分解を起こしにくくするような工夫が必要とされていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決する為に、更なる研究開発を続けた結果なされたものであり、その意図するところは、ポリ乳酸樹脂を主成分として、生分解を極力起こさないような工夫をしつつ、(1)ポリ乳酸樹脂の有機溶剤系塗工液に対する塗工適性が高い、(2)ポリ乳酸樹脂の透明性が高い、(3)加熱伸縮しにくい、(4)柔軟性があり、Vカットなどの後加工性が高い、(5)各層との密着強度が高い、などの特徴を同時に併せもった、植物由来成分を主とする化粧シートを提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、少なくとも模様層および、熱可塑性樹脂層(イ)、ポリ乳酸樹脂層、熱可塑性樹脂層(ロ)をこの順で積層した3層構造とを有し、前記熱可塑性樹脂層(イ)および熱可塑性樹脂層(ロ)が、少なくともポリエステルを含む樹脂からなることを特徴とする化粧シートである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記ポリエステルがポリエステルとエラストマー成分のブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シートである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載の化粧シートである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記ポリエチレンテレフタレートが、非晶質ポリエチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の化粧シートである。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記ポリエステルに、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸の無水物がグラフト重合されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の化粧シートである。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記不飽和カルボン酸がマレイン酸であることを特徴とする請求項5に記載の化粧シートである。
【0017】
請求項7に記載の発明は、前記ポリ乳酸樹脂層が、流れ方向及び幅方向にそれぞれ延伸倍率1.5倍以上3.0倍以下で2軸延伸されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の化粧シートである。
【0018】
請求項8に記載の発明は、前記ポリ乳酸樹脂層の厚みが10μm以上25μm未満であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の化粧シートである。
【0019】
請求項9に記載の発明は、前記ポリ乳酸樹脂層、熱可塑性樹脂層(イ)および熱可塑性樹脂層(ロ)のうち少なくとも1層に無機フィラーが含有されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の化粧シートである。
【0020】
請求項10に記載の発明は、請求項1から9のいずれかの化粧シートに、紙が積層されていることを特徴とする化粧シートである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明は、少なくとも模様層および、熱可塑性樹脂層(イ)、ポリ乳酸樹脂層、熱可塑性樹脂層(ロ)をこの順で積層した3層構造とを有し、前記熱可塑性樹脂層(イ)および熱可塑性樹脂層(ロ)が、少なくともポリエステルを含む樹脂からなることを特徴とする化粧シートである。熱可塑性樹脂層(イ)、ポリ乳酸樹脂層、熱可塑性樹脂層(ロ)をこの順で積層した3層構造とすることで、ポリ乳酸の生分解を抑制する効果が得られ、その結果、植物由来材料を使用しつつ、耐久性が高く、また熱可塑性樹脂とポリ乳酸樹脂のいずれもが、同じポリエステル系樹脂であるため、熱可塑性樹脂層/ポリ乳酸樹脂層/熱可塑性樹脂層の3層間の積層密着力を強固に保つことができる化粧シートを得ることが可能となる。
【0022】
請求項2に記載の発明は、前記ポリエステルがポリエステルとエラストマー成分のブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シートである。ポリエステルがポリエステルとエラストマー成分のブロック共重合体であることにより、ポリエステル樹脂の柔軟性が確保されるため、積層界面の応力緩和能力が働いて、積層密着強度をさらに強固なものにする。また、化粧シート自体の柔軟性も増すため、ハンドリング性も向上する。
【0023】
請求項3に記載の発明は、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載の化粧シートである。ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることにより化粧シートとして十分な耐熱性と透明性が得られ、且つ剛性が高いため耐傷付き性も良好になる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、前記ポリエチレンテレフタレートが、非晶質ポリエチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の化粧シートである。ポリエチレンテレフタレートが、非晶質ポリエチレンテレフタレート樹脂であることにより、経時的な結晶化の進行による白濁や延伸成形における透明性の低下を抑制することができる。
【0025】
請求項5に記載の発明は、前記ポリエステルに、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸の無水物がグラフト重合されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の化粧シートである。ポリエステルに化学的な接着能力が付与されるため、積層時の界面密着力の経時変化を抑制することが可能となる。
【0026】
請求項6に記載の発明は、前記不飽和カルボン酸がマレイン酸であることを特徴とする請求項5に記載の化粧シートである。種々の不飽和カルボン酸官能基の中でも、マレイン酸であることにより、化学的な接着力をより強固にすることが可能となる。マレイン酸は無水マレイン酸であれば更に好ましいものとなる。
【0027】
請求項7に記載の発明は、前記ポリ乳酸樹脂層が、流れ方向及び幅方向にそれぞれ延伸倍率1.5倍以上3.0倍以下で2軸延伸されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の化粧シートである。請求項7に記載の発明により、ポリ乳酸樹脂の透明性が経時的にも安定したものとすることが可能である。
【0028】
請求項8に記載の発明は、前記ポリ乳酸樹脂層の厚みが10μm以上25μm未満であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の化粧シートである。請求項8に記載の発明により、ポリ乳酸樹脂の透明性が高い、加熱伸縮しにくい、柔軟性を持つ、という性能を同時に満たすことが可能である。
【0029】
請求項9に記載の発明は、前記ポリ乳酸樹脂層、熱可塑性樹脂層(イ)および熱可塑性樹脂層(ロ)のうち少なくとも1層に無機フィラーが含有されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の化粧シートである。無機フィラーが含有されていることにより、化粧シートに隠蔽性を付与することが可能になり、化粧シートの被着基材や接着剤を見えなくすることが可能になる。
【0030】
請求項10に記載の発明は、請求項1から9のいずれかの化粧シートに、紙が積層されていることを特徴とする化粧シートである。紙を積層させることにより、化粧シートの隠蔽性をさらに向上させることが可能になるとともに、化粧シート中の植物由来材料の割合をさらに高くすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明のもっとも基本的な層構成を示す断面図であり、ポリ乳酸樹脂層1を延伸加工し、そこに模様層2を設ける事により得る事ができる。ポリ乳酸樹脂層を延伸加工する事により、透明性や耐溶剤性の高い化粧シートを得る事ができる。
【0032】
図1の化粧シートでは、熱可塑性樹脂層(イ)/ポリ乳酸樹脂層/熱可塑性樹脂層(ロ)の順で積層されており、一方の熱可塑性樹脂層(イ)には模様層2が、もう一方の熱可塑性樹脂層(ロ)には表面保護層5がそれぞれ積層されている。熱可塑性樹脂層(イ)/ポリ乳酸樹脂層/熱可塑性樹脂層(ロ)の3層の積層は、Tダイを用いた共押出法を用いると、熱可塑性樹脂層(イ)および熱可塑性樹脂層(ロ)がポリエステルを含む樹脂からなるため前記3層間の共押出界面の積層密着力がもっとも強固になるので望ましい。
【0033】
ポリ乳酸樹脂は一般的に有機溶剤などに対する耐性がよくないので、熱可塑性樹脂層(イ)/ポリ乳酸樹脂層/熱可塑性樹脂層(ロ)の3層構造とする。また、ポリ乳酸樹脂層と熱可塑性樹脂層とを積層することで、熱可塑製樹脂層のバリア効果によりポリ乳酸樹脂層に直接水分が影響するのを抑えることが可能になり、ポリ乳酸樹脂が本来持つ生分解性を起こし難くすることが可能となる。ポリ乳酸樹脂層の両面に熱可塑性樹脂を積層することにより、耐生分解性を格段に高くすることができる。
【0034】
また、ポリ乳酸樹脂層を、流れ方向及び巾方向にそれぞれ延伸倍率1.5倍以上3.0倍以下で2軸延伸し、かつ厚みが10〜24μmの範囲内にすると、更に物性のバランスの取れた化粧シートを得ることができ好ましい。
【0035】
ポリ乳酸樹脂層の延伸倍率を1.5倍以上3.0倍以下の範囲内に規定することにより、先にあげた要求性能のうちの、(2)ポリ乳酸樹脂の透明性が高い、(3)加熱伸縮しにくい、(4)柔軟性を持つ、を同時に満たす事ができる。延伸倍率を3.0倍以下とすることで、加熱伸縮を抑制する事が可能となり、またポリ乳酸樹脂層の柔軟性も確保できる。また、ポリ乳酸樹脂においては、成形時に延伸をかけると、未延伸のものと比較して、(1)の有機溶剤系塗工液に対する塗工適性のうち、塗工液との密着性が低下の傾向がみられる。しかし延伸倍率を3.0倍以下にして、更にポリ乳酸に公知の表面処理であるコロナ処理などを併用する事で、実用上充分なポリ乳酸樹脂層と塗工液との密着性を確保できる。
【0036】
また延伸倍率1.5倍以上の延伸をかけることで、その後の熱履歴等によってもポリ乳酸樹脂の結晶化の進行が大きくないため、透明性低下の抑制効果も得られる。延伸倍率1.5倍以下では、経時での透明性の低下が見られることがある。
【0037】
このように、上記の相反する問題を解決するためにはポリ乳酸樹脂層の延伸倍率を1.5倍以上3.0倍以下の範囲にすることが好ましいが、延伸倍率の範囲が1.5倍以上2.1倍未満であるとより好ましい。尚、延伸方法としては、1軸延伸と2軸延伸の2つの方法があるが、1軸延伸では延伸方向と未延伸方向との間で機械物性や加熱伸縮性などが大きく異なってしまう為、2軸延伸としたほうが望ましい。
【0038】
尚、透明性については、その後の熱履歴などの使用環境によっては、経時の結晶化による白濁が原因でヘイズ値が高くなってしまい、透明性を損なう場合もあるが、ポリ乳酸樹脂層の厚みを10μm以上25μm未満の範囲内にすることで、経時でも充分な透明性を確保することが可能になる。またこの範囲内の厚みにする事で、化粧シートにした場合の柔軟性も確保される。
【0039】
上記したように、熱可塑性樹脂層(イ)/ポリ乳酸樹脂層/熱可塑性樹脂層(ロ)の3層構造とし、かつ、ポリ乳酸樹脂に延伸を施すことにより、表面保護層や模様層を有機溶剤で希釈して塗工するような場合でも、ポリ乳酸樹脂層を溶剤の汚染から防ぐことができる。
【0040】
図2は、化粧シートの隠蔽性を更に向上させることと、化粧シート中の植物由来材料の割合の向上を目的に、接着剤6を介して紙7を積層したものである。紙は植物繊維を主原料としているものが好ましい。また、紙の隠蔽性を向上させたり、引張り張力などに対する耐性を付与したりするために、顔料やフィラー、各種樹脂等の含浸は好適に用いられる。
【0041】
図3は、模様層2の保護を目的として、透明ポリプロピレン樹脂層を積層したものである。ここで透明とは、無機顔料やフィラーを含んでいない状態を指す。ポリプロピレン樹脂は汎用性があり、なおかつ軽量で安価であるため、経済性に優れた材料であると共に、優れた耐薬品性、実用上充分な耐熱性、耐傷付き性、透明性などを有している。
【0042】
ポリプロピレン樹脂の欠点である耐候性を補い、かつ艶調整を容易にして意匠感を高めるために、表面保護層を設けることが好ましい。耐候性能を付与するためには、紫外線吸収剤や光安定剤などが適宜添加され、また艶調整のためには、シリカなどの無機系フィラーの添加が好適に用いられる。また、化粧シートの隠蔽性を高めるために、ポリ乳酸樹脂層や熱可塑性樹脂層(イ)および(ロ)には、フィラーや顔料を添加することが好ましい。フィラーや顔料は有機系でも無機系でもよい。
【0043】
以下、各層について、更に詳細な説明を加える。
【0044】
ポリ乳酸樹脂層は機能性付与のための添加剤として紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、難燃剤、造核剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、顔料、染料、充填剤、発泡剤等が適宜添加されていてもよい。さらに、シート成形加工性を向上させるために、低密度ポリエチレンなどの長鎖分岐成分を添加することも好ましい。また、ポリ乳酸樹脂の剛直性の高さを緩和するために、ポリブチレンサクシネートなどをはじめとする、柔軟成分を添加することも特に好ましい。
【0045】
これらの中でも特に好適に使用されるのは、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤の3種類である。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、ヒドロキシフェニルトリアジン、ベンゾエート、サリチル酸エステル等の有機物、又は0.2μm径以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタン等の無機物を用いることができる。好適な添加量は0.1重量%〜2.0重量%程度である。光安定剤としては、ヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、ピペリジン系ラジカル捕捉剤等のラジカル捕捉剤を用いることができる。好適な添加量は0.1重量%〜2.0重量%程度である。一般的には紫外線吸収剤と光安定剤とを併用するのが好ましい。
【0046】
熱安定剤は、ヒンダードフェノール系やリン系のラジカル補足剤が好適に用いられ、好適な添加量は0.1重量%〜1.0重量%程度である。光安定剤及び熱安定剤は、ラジカル補足剤としては同じような効果を発するが、ヒンダードフェノール系やリン系は、主に加工時の熱(100℃以上)でできるラジカルを捕捉するのに対して、ヒンダードアミン系は、常温域において、主に光励起により発生するラジカルを捕捉する。
【0047】
模様層2は、バインダーとして、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、等が好適に用いられ、顔料としては、チタン白、亜鉛華、弁柄、朱、群青、コバルトブルー、チタン黄、黄鉛、カーボンブラック等の無機顔料、イソインドリノン、ハンザイエローA、キナクリドン、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー、インダスレンブリーRS、アニリンブラック等の有機顔料(或いは染料も含む)、アルミニウム、真鍮、等の金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料、等が用いられる。
これらを一種又は二種以上混合して用いる。模様としては、木目模様、石目模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形、文字、記号、或いは全面ベタ等がある。模様は化粧シートの表面、裏面、表裏両面、或いは層間に設ける。
【0048】
模様層2の積層方法としては、印刷法がもっとも一般的に用いられており、グラビア印刷、凹版印刷、フレキソ印刷、シルク印刷、静電印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷方法が挙げられる。化粧シートは、微妙な色使いを要求される場合が多いので、上記印刷法のうち、グラビア印刷がもっとも好適に用いられる。
【0049】
模様層2の硬化方法としては、イソシアネート硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型、などが好適に用いられているが、もっとも一般的に用いられているのは、イソシアネート硬化型である。
【0050】
イソシアネート硬化型は、分子中に2個以上の水酸基を持つポリオール(主剤)と、同じく分子中に2個以上のイソシアネート基を持つ多価イソシアネートとの反応により硬化させる方式であり、ポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が用いられる。又、イソシアネートとしては、例えば、2−4トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4−4ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、或いはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネートが用いられる。
【0051】
熱可塑性樹脂層(イ)と熱可塑性樹脂層(ロ)とは、同じ熱可塑性樹脂からなる層である。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂など公知の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂を用いることで共押出加工が可能となり、積層密着力が強固な積層化が容易に行なえる。熱可塑性樹脂層(イ)、(ロ)の厚みとしては、1〜30μmの範囲が好ましい。1μm以上の厚みを確保することで、統計的に生じる厚みばらつきによる、熱可塑性樹脂層の部分的な抜けの影響を排除できる。また、30μm以下とすることで、経済性に優れた化粧シートを得ることができる。
【0052】
前記熱可塑性樹脂層(イ)、(ロ)は、少なくともポリエステルを含む樹脂からなることが好ましい。ポリエステルを含むことにより、熱可塑性樹脂とポリ乳酸樹脂のいずれもが、同じポリエステル系樹脂であるため、熱可塑性樹脂層(イ)/ポリ乳酸樹脂層/熱可塑性樹脂層(ロ)の3層間の積層密着力を強固に保つことができる。
【0053】
前記ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルとエラストマー成分のブロック共重合体、テレフタル酸、エチレングリコール、1,4−シクロへキサンジメタノールなどの共重合体からなる非晶質ポリエチレンテレフタレート樹脂が、経時的な結晶化の進行による白濁や延伸成形における透明性の低下を抑制することができるため好ましい。
【0054】
また、ポリエステルを含む熱可塑性樹脂層に易接着性を付与するために、コロナ処理やオゾン処理などを用いて表面に官能基を導入する方法は公知であるが、このような方法で付与された易接着な性能は、経時とともにその効果が減少してしまう恐れがある。そこで、ポリエステルにあらかじめ不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸の無水物をグラフト重合させておくことにより、経時でも安定かつ強固な積層密着力を得ることが可能となり好ましい。
【0055】
なお、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フタル酸、シトラコン酸、イタコン酸、およびそれらの無水物などが挙げられるが、これらの中でも無水マレイン酸が特に好ましい。
【0056】
表面保護層5の材料としては、アクリル系、エステル系、ウレタン系等の材料を好ましく用いることができる。また、硬化形態としては、イソシアネート硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型等を単独で使用する方法、又はそれらを併用する方法が挙げられる。表面保護層5の形成方法は、公知の技術を用いればよく、例えばグラビア塗布法が挙げられる。
【0057】
表面保護層5の厚さは、3〜20μmであることが好ましい。表面保護層5の厚さが3μm以上であれば、意匠性、諸物性等を高める効果が得られやすい。また、表面保護層5の厚さが20μm以下であれば、折り曲げ加工などを行った際の白化や割れを抑制する事が可能であるとともに、経済性にも優れる。
【0058】
接着剤層6には公知のものを使用することができ、層間の密着力向上に寄与するものであれば、特にその材質等に制限はない。硬化反応形態も特に制限はないが、熱硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型などが広く用いられる。
【0059】
透明ポリプロピレン樹脂層8には、透明性を第一に考えるならば、エチレンなど、プロピレン以外のオレフィンモノマーをランダムに共重合させたランダムポリプロピレンが好適に用いられるが、剛性や耐熱性などを第一に考えるならば、ホモポリプロピレンが好適である。ランダムポリプロピレンはホモポリプロピレンと比較して透明性が高く、かつ柔軟であるが、更なる透明性の向上と柔軟性を求める場合には、エラストマー成分の添加が好適である。しかし、ポリプロピレンとは非相容なエラストマーでは透明性の低下を招くため、ポリプロピレンとの相容性の高いエラストマー、例えばプロピレンやブテンなどの含有比率の高いエラストマーの使用が好適である。また、ペンタッド分率の低いポリプロピレン樹脂を単独あるいはアイソタクティシティの高いポリプロピレンとの混合により使用することでも、透明性の向上と柔軟性の付与ができる。
【0060】
また、透明ポリプロピレン樹脂層には、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、増核剤など必要に応じて添加される。また、透明ポリプロピレン樹脂層を押出ラミネート法により積層する場合には、低密度ポリエチレンを1〜20%添加すると、成形安定性が高くなる。
【0061】
また、透明ポリプロピレン樹脂層は、単層に限るものではなく、複数の透明ポリプロピレン樹脂の積層体であってもよく、このとき各層に異なる機能を持たせてもよい。透明ポリプロピレン樹脂層の厚みとしては、経済性、ハンドリングのしやすさ、後加工性等の観点から、20〜200μmの範囲内にあることが好ましく、40〜100μmの範囲内であることがより好ましい。
【0062】
また、本発明の化粧シートの各樹脂層には必要に応じて凹陥模様の付与が好適に用いられる(図示しない)。凹陥模様の付与により、化粧シート表面の手触り感や、意匠性の向上という効果を得る事ができる。凹陥模様の形状は、特に限定はなく、また凹陥模様の中には、意匠性の更なる向上を目指してインキを埋め込んでもよい。あるいは耐候性能の更なる向上を目的に、凹陥模様の中に表面保護層を充填して埋め込んでもよい。また隠蔽性を高めるためフィラーや顔料を添加してもよい。
【0063】
また本発明の化粧シートに紙を積層することも可能である。これにより、植物由来成分比をより高めることが可能になる。紙としては隠蔽性のあるものが好適である。例えば酸化チタンを添加して隠蔽性を高めたものなどがより好適である。厚みは化粧シートの厚みを勘案して適宜選択すればよい。
【0064】
以下に本発明の実施例を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0065】
2種3層の共押出が可能な押出機を使用して、ポリ乳酸樹脂(テラマック TE2000C ユニチカ株式会社製)99.2重量%、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チヌビン329 チバ・ジャパン株式会社製)0.3重量%、ヒンダードアミン系光安定剤(チヌビン783 チバ・ジャパン株式会社製)0.5重量%、を押出機で混練押出し、一方で、不飽和カルボン酸極性基をグラフト重合したポリエステルとエラストマー成分とのブロック共重合樹脂(プリマロイ−AP GQ131 三菱化学株式会社製)を混練押出し、フィードブロック形状によって、プリマロイ−AP/添加剤入りテラマック/プリマロイ−APの順になるようにTダイで3層共押出し、延伸倍率流れ方向・巾方向ともに2.0倍、共押出層比が8μm/20μm/8μmとなるように透明3層共押出シートを作成した。押出温度は、プリマロイ−AP:220℃、テラマック:220℃で行った。
その後、両面にコロナ処理などの表面処理を施さないまま、グラビアコーティング法を用いて、片面に模様層(VKNT 東洋インキ製造株式会社製)を厚み2μmで塗布し、もう片面には表面保護層(UCクリアー 株式会社ディ−・アイ・シ−社製)を厚み6μmで塗布して、実施例1の化粧シートを得た。模様層および表面保護層の塗工時の希釈溶剤には、メチルエチルケトンと酢酸エチルを1:1で混合したものを使用した。
【0066】
<比較例1>
延伸を行わず、無延伸とした他は、実施例1と同じ手法を用いて、比較例1の化粧シートを得た。
【0067】
<比較例2>
延伸倍率を流れ方向・巾方向ともに4.0倍とした他は、実施例1と同じ手法を用いて、比較例2の化粧シートを得た。
【0068】
<比較例3>
ポリ乳酸樹脂層の押出厚みを60μmにした他は、実施例1と同じ手法を用いて、比較例3の化粧シートを得た。
【実施例2】
【0069】
不飽和カルボン酸をグラフト重合したエステル系エラストマー樹脂の代わりに、非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(EASTER PETG6763 イーストマン ケミカル ジャパン株式会社製)を使用した他は、実施例1と同じ手法を用いて実施例2の化粧シートを得た。押出温度は、非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂:280℃、テラマック:220℃で行った。
【実施例3】
【0070】
不飽和カルボン酸をグラフト重合したエステル系エラストマー樹脂の代わりに、ポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人株式会社製)を使用した他は、実施例1と同じ手法を用いて、実施例3の化粧シート積層体を得た。押出温度は、ポリエチレンテレフタレート:280℃、テラマック:220℃で行った。
【0071】
<比較例4>
プリマロイ−AP/添加剤入りテラマック/プリマロイ−APの3層共押出にするかわりに、添加剤入りテラマック単層で厚みを20μmとした他は、実施例1と同じ手法を用いて、比較例4の化粧シートを得た。
【0072】
実施例1〜3、比較例1〜4の化粧シートを25℃環境下で30日間放置した後、次の評価を行った。
【0073】
(耐溶剤性)
純度90%以上のトルエン溶液を不織布に染み込ませて評価する化粧シート上に置き(試験部とする)、ガラス製の時計皿を被せて溶剤の揮発を抑えて、23℃環境下で6時間放置した後、時計皿、不織布を取り除き、試験部を乾いた布で拭き取って、溶剤による侵食の程度を確認した。
【0074】
(透明性)
各化粧シートの透明性を目視で相対比較した。
【0075】
(加熱伸縮性)
100mm各にカットした化粧シートに縦横100mmの線を引き、60℃オーブンで15分加熱後に、縦横の線の長さを実測した。測定結果を元に、以下の式から加熱伸縮率を計算した。
(加熱後の実測値−100[mm])/100[mm]×100[%]
【0076】
(耐生分解性)
化粧シートを温度60℃、湿度90%の環境下で1000時間放置し、クラックの有無などから脆化の程度を確認した。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の結果を見て分かるように、生分解性のあるポリ乳酸樹脂層の両面を、生分解性のほとんどないポリエステル系樹脂で挟み込むような構造を取っている実施例1〜3、比較例2〜3では、脆化を起こしていない。一方、比較例4では、ポリ乳酸樹脂層は最表層となっていないものの、インキおよび表面保護層はグラビアコーティングしただけであるため、生分解が進んで脆化を起こしている。また、耐溶剤性については、2.0倍の延伸による耐溶剤性向上が伺える。
【0079】
無延伸の比較例1において、白濁傾向が見られており、経時での結晶化の進行が影響を及ぼしているものと考えられる。また、比較例3においても薄い白濁が確認されているが、これはポリ乳酸樹脂層が60μmと厚膜であるため、20μmの厚みでは認識されなかった白濁が認識されるようになったためと考えられる。
【0080】
比較例2においては、加熱伸縮性が悪くなっている。これは、延伸倍率4.0倍の延伸により、配向した結晶が解けるためと考えられる。
一方、実施例1、2および3においては延伸倍率を2.0倍としているため、透明性と加熱伸縮性の性能バランスが取れている。

【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の化粧シートの一例の模式断面図である。
【図2】本発明の化粧シートの一例の模式断面図である。
【図3】本発明の化粧シートの一例の模式断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1 ポリ乳酸樹脂層
2 模様層
3 熱可塑性樹脂層(イ)
4 熱可塑性樹脂層(ロ)
5 表面保護層
6 接着剤層
7 紙
8 透明ポリプロピレン樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも模様層および、熱可塑性樹脂層(イ)、ポリ乳酸樹脂層、熱可塑性樹脂層(ロ)をこの順で積層した3層構造とを有し、前記熱可塑性樹脂層(イ)および熱可塑性樹脂層(ロ)が、少なくともポリエステルを含む樹脂からなることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記ポリエステルがポリエステルとエラストマー成分のブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記ポリエチレンテレフタレートが、非晶質ポリエチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記ポリエステルに、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸の無水物がグラフト重合されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項6】
前記不飽和カルボン酸がマレイン酸であることを特徴とする請求項5に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記ポリ乳酸樹脂層が、流れ方向及び幅方向にそれぞれ延伸倍率1.5倍以上3.0倍以下で2軸延伸されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項8】
前記ポリ乳酸樹脂層の厚みが10μm以上25μm未満であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項9】
前記ポリ乳酸樹脂層、熱可塑性樹脂層(イ)および熱可塑性樹脂層(ロ)のうち少なくとも1層に無機フィラーが含有されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの化粧シートに、紙が積層されていることを特徴とする化粧シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−52335(P2010−52335A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221186(P2008−221186)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】