説明

化粧品組成物および感覚的冷却方法

100 J/gを超える融解熱および実質的に体温に近い融点を有する少なくとも1種の不溶化油溶性疎水性冷却成分、該冷却成分が溶けないポリマー乳化剤、ならびに化粧品用として許容しうる担体を含む、皮膚に局所適用するための組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、スキンケア化粧品組成物およびスキンケア方法に関する。特に本発明は、感覚的冷却感をもたらす新規な化粧品組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
当分野における一般的な方法では、皮膚に冷却感(cooling sensation)をもたらす成分を含有する組成物を必要とする。かかる組成物としては、香水、ローション、シェービングクリームおよびジェル、シェービング後用の調製品、シャンプー、制汗剤、脱臭剤、抗ニキビ剤、救急軟膏、ならびに様々な他のスキンケア製品および皮膚に適用する医薬品が挙げられる。
【0003】
皮膚にかかる冷却感を提供するために、しばしばメントールが使用される。生理学的冷却剤として知られているメントールは神経終末の冷受容器に直接刺激として働き、次いで該受容器が中枢神経系を刺激すると考えられる。しかし、メントールはその強い香気とその相対揮発度のために用途が限られている。メントールの高い揮発度のせいで、メントールが冷却感を提供しうる期間が制限され、また目のすぐ近くに適用した場合には目にしみる感じがすることもある。メントールならびに他の関連テルペンアルコールおよびそれらの誘導体の冷却効果は、Koryo, 95, (1970), pp.39〜43でも報告されている。特殊なメントールである2, 3-p-メンタンジオールもまた、ピリっとした清冷味を有することが報告されている(Beilstein, Handbuch der Organischen Cheme, 4th Ed. (1923) Vol. 6, p. 744)。
【0004】
エタノールおよび揮発性アルコールなどの様々な添加物が、冷却効果をもたらすために組成物に使用されている。しかし、これらのアルコールは揮発性であるため、冷却感は長続きしない。その上、揮発性アルコールには、冷却感に加えて舌を刺すような感覚を与えるものが多い。
【0005】
従って、公知先行技術の舌を刺すような感覚および揮発度に関する問題を克服する、改善された冷却効果のための組成物および方法が依然として必要とされている。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、100 J/gを超える融解熱および実質的に体温に近い融点を有する少なくとも1種の不溶化油溶性疎水性冷却成分、該冷却成分が溶けないポリマー乳化剤、ならびに化粧品用として許容しうる担体を含む、皮膚に局所適用するための組成物を含む。本発明は、100 J/gを超える融解熱および実質的に体温に近い融点を有する少なくとも1種の不溶化油溶性疎水性冷却成分、該冷却成分が溶けないポリマー乳化剤、ならびに化粧品用として許容しうる担体を含む組成物を皮膚に適用することを含む、皮膚に冷却感をもたらすための方法をさらに含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
詳細な説明
実施例および比較例、または別に明示した場合を除き、材料の量もしくは比率または反応条件、材料の物理的性質および/または用途を示す本明細書中の全ての数字は、「約」という言葉によって修正されるものと理解されたい。全ての量は、別段の指定がない限り、最終組成物の重量に基づく。
【0008】
以下に本明細書中で使用する用語の定義一覧を挙げる。
【0009】
「冷却感」とは、前記組成物の融解熱によって判断した場合に、少なくとも10秒間皮膚温が下がる感覚を意味する。
【0010】
「皮膚温」とは、温度35〜40℃の、ヒトまたは哺乳動物の皮膚の最上層の温度を意味する。
【0011】
「不溶化」とは、ある成分が、組成物内に組み込まれた時に実質的にその結晶形態のままであることを意味する。
【0012】
「実質的に不溶化」とは、前記成分の少なくとも85%が不溶化したままであることを意味する。
【0013】
「有効な量」とは、正しい官能評価の範囲内で体温に冷却感を提供するのに十分な作用物質(例えば、冷却成分)の量を意味する。
【0014】
いずれの理論にも束縛されるつもりはないが、冷却感は、高揮発性物質が皮膚に接触した時にもたらされると考えられる。冷却感は、該物質が皮膚から蒸発し、それによって外表皮膚温を冷やす際に生じる。また冷却感は、皮膚が、該皮膚から熱を吸収しそれによって外表皮膚温を下げる成分に接触した時にもたらされることもある。熱の吸収によってもたらされる冷却感は、より長く持続する効果を有すると考えられる。
【0015】
成分は、皮膚に適用した時に該皮膚から熱を吸収することによって融解を促進していると考えられる。融解熱とは、ある質量単位の固体化学元素により、該固体を同一温度の液体へと変換するためにその融点で吸収される熱のことである。固体の融解に費やされるエネルギーは、分子の平均熱速度を増加させるためというよりはむしろ、その分子を適所に保っている分子間結合を解離させるために利用される。
【0016】
驚いたことに、100 J/gよりも高い融解熱および実質的にヒト体温と同じ融点を持ち結晶形態をとる成分は、皮膚に適用した時に冷却感を提供することが見出された。いずれの理論にも束縛されるつもりはないが、この比較的高い融解熱により、皮膚へ適用した時に固体成分の融解を早めるための皮膚からの熱の吸収が促進され、それによって皮膚温が冷やされると考えられる。該成分を皮膚への適用時にのみ融解させるためには、該成分の融点は実質的にヒト体温と同じであることが好ましい。好ましくは、融点は30℃〜40℃、最も好ましくは30℃〜38℃である。
【0017】
驚いたことに、100 J/gより高いがヒト皮膚への悪影響を避けるため化粧品用として許容しうる範囲内に上限がある融解熱および実質的にヒト体温と同じ融点を持ち、かつ製剤中ではその結晶状態のままである油溶性疎水性成分は、皮膚に適用した時に冷却感をもたらすことが見出された。成分を化粧品として適切な組成物に組み込むと可溶化されてそれらの元の構造を失うことは当分野で一般に知られているため、かかる成分は同様に、皮膚との接触時に冷却感を提供するその能力も失う。驚いたことに、本発明は、不溶化状態の油溶性疎水性成分を担持するポリマーエマルションを含有する組成物を提供し、驚いたことにはそれによって化粧品組成物を皮膚に適用した時に冷却感を与えることにより、この問題を克服する。かかる組成物は、よくある舌を刺すような感覚または強い香気もなしに、長期にわたる冷却感を提供する。
【0018】
100 J/gより高い融解熱および実質的にヒト体温と同じ融点を有する適切な油溶性疎水性成分としては、n-オクタデカンおよびn-ノナデカンなどのC18〜C19直鎖炭化水素ならびにヘプタン酸ステアリル(stearyl heptanoate)が挙げられるが、これらに限定されない。好適な実施形態では、ヘプタン酸ステアリルを、8%〜70%、好ましくは15%〜60%および最も好ましくは30%〜40%の量で使用する。
【0019】
冷却成分は、ポリマー乳化剤に組み込まれるが、該ポリマー乳化剤は該冷却成分が可溶化することのないように選択される。驚いたことに、油性成分を取り込むと同時にかかる成分をエマルション内に物理的に固定しうる架橋コポリマーは、本発明の冷却成分を可溶化しないことが見出された。従って、本発明で使用する適切なポリマー乳化剤は、固定機能および封入機能をそれぞれ果たす、小さな親油性部分および大きな疎油性部分を有する乳化剤である。
【0020】
好適な実施形態では、適切なポリマー乳化剤としてアクリル酸とC10〜C30アルキルアクリレートとの架橋コポリマーが挙げられるが、これに限定されない。最も好ましくは、アクリレート/C10〜C30アルキルアクリレートのクロスポリマー(Ohio州ClevelandのNoveon, Inc.から入手できるPemulen(登録商標))を使用する。
【0021】
好適な実施形態では、前記ポリマー乳化剤を、前記コポリマーの重量に基づいて10〜60%、好ましくは15〜55%および最も好ましくは30%〜40%の量で使用する。
【0022】
前記組成物は、皮膚、毛髪および/または爪への局所適用に適した、化粧品用として許容しうるビヒクルをさらに含む。この目的上、該組成物は、クリーム、ジェル、エマルション、リキッド、サスペンション、ネイルコーティング、スキンオイル、ローション、またはワックスを形成するのに適合させた成分を含んでいてもよい。好適な実施形態では、該組成物はエマルションの形態をとる。前記冷却成分は不溶化状態のままでないといけないので、乳化性を一切持たない水溶性材料のみ該組成物に使用することができる。該組成物に含めうる成分としては、例えば、水溶性保湿剤、水溶性収斂剤、水溶性フィルム形成材料、水溶性日焼け止め、水溶性色素または水溶性タンパク質および/もしくは繊維が挙げられる。
【0023】
本発明の目的上、ビヒクルは好ましくは、前記冷却成分の担体として機能しうる親水性物質である。当業者に公知の親水性担体を使用できる。1種または複数種のビヒクルは、前記組成物の重量に基づいて、約1〜約99.9%、好ましくは約50〜約99.5%、より好ましくは約70〜約99.3%および最も好ましくは80〜90%を占める場合がある。
【0024】
本発明の好適な実施形態は、日焼け後用、シェービング後用および体用の保湿製品に使用するためのエマルションローションの形態をとる。
【0025】
本発明の組成物は、本発明の美的性能を増大させる追加の水溶性化粧品成分をさらに含有していてもよい。例えば、水溶性色素、水溶性増粘剤、疎油性パウダーおよび非石油系香料を使用することによって本発明の美的魅力を高めてもよい。
【0026】
前記香料は、消費者にとってより魅力的な組成物を調製するのに十分な量であればよい。好ましくは、該香料は、該組成物の重量に基づいて約0.01〜約10%の量である。
【0027】
上記構成成分に加えて、本発明のスキンケア組成物はスキンケア活性成分を含んでいてもよい。活性成分は、本発明の目的上、皮膚軟化剤および単に該組成物の物理的特性を改善するだけの成分以外の、水溶性で皮膚または毛髪にとって有益な作用物質と定義される。有用であり得る活性成分の具体例としては、限定するものではないが、シミ、角質およびシワを取る作用物質、鎮痛剤、麻酔剤、抗ニキビ剤、抗菌剤、抗酵母剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗フケ剤、抗皮膚炎剤、抗掻痒剤、制吐剤、抗動揺病剤、抗炎症剤、抗過角質溶解剤(antihyperkeratolytic agent)、抗乾燥肌剤、制汗剤、抗乾癬剤、抗脂漏剤、ヘアコンディショナーおよびヘアトリートメント剤、老化防止剤、抗シワ剤、抗喘息剤および気管支拡張剤、日焼け止め剤、抗ヒスタミン剤、皮膚美白剤、脱色剤、ビタミン、コルチコステロイド、セルフ・タンニング剤、ホルモン、ならびに局所心血管作動剤が挙げられる。
【0028】
冷却感をもたらす方法
本発明の組成物は、皮膚に冷却感を生み出す際に特に有用である。具体的に言うと、100 J/gを超える融解熱および実質的に体温に近い融点を有する不溶化油溶性疎水性冷却成分は、驚いたことに、この組成物を皮膚に局所適用した時に冷却感をもたらす。
本発明組成物は、シェービング後用、日焼け後用、脱臭用、抗刺激用または他のスキンケア用の製品として有用である。本発明の好適な用途は、鎮静効果のある冷却感を提供するための日焼け後用またはシェービング後用の製品である。本発明の組成物は、各消費者が望む量で、シェービング後に直接皮膚に適用できる。
【0029】
また本発明は、水溶性活性成分を加えて、乾燥肌、重度の乾燥肌、乾燥症、フケ、角化症、乾癬、湿疹、シミ、ほくろ、黒皮症、吹き出物のある肌(blemished skin)、過度に色素沈着した肌、過角化した肌、炎症性皮膚病および加齢に伴う皮膚の変化などの皮膚疾患を含むがこれらに限定されない皮膚炎または皮膚疾患を制御する方法に使用できる。かかる方法は、活性成分をさらに含む本発明の組み合わせを安全かつ有効な量で皮膚に投与または局所適用することを含む。組成物中の該成分の量は、被験体に(もし存在するならば)既存の皮膚の老化のレベル、さらなる老化の速度、および所望の制御レベルによって大きく異なる。
【0030】
適用療法は、前記組成物の最終的な使用目的によって異なる。例えば、該組成物を、冷却感が求められる場合に必要に応じて、特に火照り、刺激、さらには炎症を理由に皮膚を冷やすための日焼け後用またはシェービング後用の製品として適用してもよい。あるいは、特に皮膚の老化を制御したり上記の他の皮膚疾患を治療したりするための活性物質を含有する組成物に関しては、長期適用が望ましいかもしれない。皮膚を処置する好適な量は、安全かつ有効な量の新規組成物の局所適用を介して上記の日光曝露またはシェービング後に冷却感を提供する量とする。
【0031】
一例として、局所適用は、週に1回程度から1日に4〜5回程度、好ましくは週に3回程度から1日に1回とすることが提案される。前記組成物は、約0.01〜90%、好ましくは約1〜20%、および最も好ましくは約1〜5%の前記活性成分を含む。しかし、活性成分を組成物に組み込む時に患者のニーズに応じて医薬品の投与量を調節することは、完全に皮膚科医または他の医療提供者などの当業者の権限内にあるという点に留意されたい。
【0032】
下記実施例により本発明の新規な組成物および方法をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
下記組成物により、エマルション形態の本発明組成物を組み込む好適な実施形態の一例を提供する。以後の実施例は、下記組成物を利用して実施する。
【表1】

【実施例2】
【0034】
本発明で必要とする100 J/gを超える融解熱および体温と同じ融点を持たない成分と比較した場合の、本発明のヘプタン酸ステアリルの冷却効果/冷却能を調べるために、下記実験を実施した。
【0035】
3つの試料に10%、20%および40%のヘプタン酸ステアリルを、また4つ目の試料には40%Marrix(C12〜C15フマル酸アルキル)を用いて、前記組成物の4つの試料を調製した。各試料をまず計量し、その後-10℃に冷やした。熱量計(Perkin Elmerから入手したPyris 1示差走査熱量計)を使用し、各試料に1分刻みで毎分10℃ずつ50℃まで熱を加えた。該熱量計により、各増分時の試料の熱を測定した。得られた熱の示度を、各試料について時間に対してプロットした。該熱量計でプロット上のピーク下面積を測定することにより、各試料の融解熱(J/g)を算出した。各試料の融解熱とは、該試料を固体形態から液体形態へと融解させるために必要なエネルギーのことである。各試料の融解熱から、該試料が吸収しうるエネルギーの量が分かる。従って、皮膚の冷却と関連付けると、試料/材料の融解熱が高いほど、該試料/材料は適用時に皮膚からより多くの熱を吸収し、それに伴って皮膚に冷却感を生み出すということになる。
【表2】

【0036】
上記表1を見て分かるように、本発明の冷却成分であるヘプタン酸ステアリルは、本発明の定義には含まれない成分であるMarrixよりもずっと高い融解熱(74.5)を有していた。表1を見て分かるように、本発明の組成物は、驚いたことに、適用時に皮膚に冷却感をもたらした。かかる活性成分単独では、100 J/gを超える融解熱、具体的には174.3 J/gの融解熱を有することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100 J/gを超える融解熱および実質的に体温と同じ融点を有する少なくとも1種の不溶化油溶性疎水性冷却成分、
該冷却成分がその中で溶けないポリマー乳化剤、および
該冷却成分を可溶化しない、化粧品用として許容しうる担体
を含む、皮膚に局所適用するための組成物。
【請求項2】
前記ポリマー乳化剤がアクリル酸とC10〜C30アルキルアクリレートとの架橋コポリマーから選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記冷却成分がヘプタン酸ステアリルである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
100 J/gを超える融解熱および実質的に体温と同じ融点を有する少なくとも1種の不溶化油溶性疎水性冷却成分、該冷却成分がその中で溶けないポリマー乳化剤、ならびにビヒクルが該冷却成分を可溶化することのないように選択された化粧品用として許容しうる担体、を含む組成物を皮膚に適用することを含む、皮膚に冷却感をもたらす方法。
【請求項5】
前記ポリマー乳化剤がアクリル酸とC10〜C30アルキルアクリレートとの架橋コポリマーから選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記冷却成分がヘプタン酸ステアリルである、請求項4記載の方法。
【請求項7】
100 J/gを超える融解熱および実質的に体温と同じ融点を有する油溶性疎水性冷却成分の不溶化状態を維持する方法であって、前記冷却成分を該冷却成分がその中で溶けないポリマー乳化剤に組み込むことを含む、前記方法。
【請求項8】
前記冷却成分がヘプタン酸ステアリルである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマー乳化剤がアクリル酸とC10〜C30アルキルアクリレートとの架橋コポリマーからなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマー乳化剤がアクリレート/C10〜C30アルキルアクリレート・クロスポリマーである、請求項7記載の方法。

【公表番号】特表2008−505110(P2008−505110A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519483(P2007−519483)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2005/023534
【国際公開番号】WO2006/007564
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(598100128)イーエルシー マネージメント エルエルシー (112)
【Fターム(参考)】