説明

化粧鋼板

【課題】安定かつ高精度な横方向の絵柄を有する化粧鋼板が容易に得られて、その幅方向の接合作業を極めて簡単に行い得る化粧鋼板を提供する。
【解決手段】表面に絵柄が付与された鋼板と、裏面に透かし柄が付与されて鋼板の表面側にラミネートされた略透明なフィルムとからなることを特徴とする。前記フィルムは、例えば複数枚の略透明なフィルムで形成され、上層側のフィルムの耐熱性が下層側のフィルムより高く設定されると共に、上層側のフィルムの裏面に透かし柄が付与される。また、前記鋼板に付与される絵柄は、化粧鋼板製造時の鋼板の流れ方向に対して略直交する方向に所定幅で形成された略ストライプ調に設定される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば浴室、トイレ及び洗面室等の水廻り空間の壁材として使用される化粧鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、システムバス等の浴室の壁材として使用される化粧鋼板としては、例えば図4に示す構造のものが知られている。すなわち、図4(a)に示す化粧鋼板Aは、鋼板Kの表面にリン酸処理等の化成処理Sを施しその後に塗装を施した、いわゆるカラー鋼板と称されるものであり、図4(b)に示す化粧鋼板Bは、前記カラー鋼板に印刷の絵柄Gを付与し、クリアー塗装Tを施したものである。
【0003】また、図4(c)に示す化粧鋼板Cは、鋼板Kの表面に予めラミネートされた2枚のフィルムF1、F2をラミネートしたものであり、この化粧鋼板Cの場合、2枚のフィルムF1、F2の材質的な組み合わせとしては、下記表1の9種類のものが一般的に知られている。そして、この化粧鋼板Cの場合、絵柄(図示せず)はフィルムF1の裏面に例えばグラビア印刷等によって施されている。
【0004】
【表1】


【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、化粧鋼板A、Bにあっては、鋼板Kの表面に単に化成処理Sや塗装を施したカラー鋼板であったり、このカラー鋼板を使用したものであるため、耐候性の面で劣り例えば浴室等のように湿気が多い場所で使用した場合に、腐食し易いという問題点を有している。そこで、この問題点を解消するものとして、鋼板に最初にフィルムをラミネートし、このフィルムの表面に塗装や印刷を施す構造も考えられるが、この構造の場合は、製造工程が複雑化して化粧鋼板自体がコスト高になり易いという問題点がある。
【0006】また、化粧鋼板Cにあっては、現在最もポピュラーな構造であるものの、鋼板KとフィルムF1、F2のラミネートが一般的に連続製造ラインで行われることから、次のような問題点を有している。すなわち、壁材に付与される絵柄が縦ストライプ調の場合は、化粧鋼板C製造時の鋼板K等の流れ方向に沿って、フィルムF1に絵柄を付与すれば良く、製造された複数枚の化粧鋼板Cを幅方向に接合して壁材を形成しても、各化粧鋼板C間に絵柄のズレ等はなく、大きな問題は発生しない。
【0007】ところが、壁材に横方向のストライプ調の絵柄を入れる場合は、絵柄が製造時の鋼板K等の流れ方向と直交する方向に(横方向)に付与されて、この化粧鋼板Cが複数枚幅方向に接合されることから、各化粧鋼板Cのストライプ調絵柄の位置が正確でないと接合部において絵柄のズレが発生することになる。そこで、この絵柄のズレを防止するために、化粧鋼板の製造時の鋼板KやフィルムF1、F2の搬送速度、ラミネート時の熱条件等の各種製造条件を高精度に管理することも考えられる。
【0008】しかし、この場合、絵柄が伸縮性のあるフィルムF1に付与されることから、その位置を安定かつ高精度に管理することが製造ライン上現実的に困難で、化粧鋼板Cの歩留まり低下を招き易い。また。この化粧鋼板Cの場合は、フィルムF1、F2として、塩ビフィルムが比較的多く使用されているが、この塩ビフィルムの使用が環境対応として難しくなりつつあり、新たな構造の化粧鋼板の出現が望まれているのが実状である。
【0009】本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、請求項1記載の発明の目的は、安定かつ高精度な横方向の絵柄を有する化粧鋼板が容易に得られて、その幅方向の接合作業を極めて簡単に行い得る化粧鋼板を提供することにある。また、請求項2記載の発明の目的は、請求項1記載の発明の目的に加え、接着強度と表面平滑性を両立し得ると共に多彩な絵柄が安定して得られる化粧鋼板を提供し、請求項3記載の発明の目的は、請求項1または2記載の発明の目的に加え、横方向のストライプ調絵柄を有する壁材が簡単かつ安価に得られる化粧鋼板を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1記載の発明は、表面に絵柄が付与された鋼板と、裏面に透かし柄が付与されて前記鋼板の表面側にラミネートされた略透明なフィルムとからなることを特徴とする。
【0011】このように構成することにより、剛性を有する鋼板の表面に予め塗装や印刷等によって所定の絵柄が付与されると共に、この鋼板の表面側に裏面に透かし柄が付与された略透明なフィルムがラミネートされ、このフィルムの透かし柄を介して鋼板の絵柄が表面側から視認される。これにより、絵柄が剛性体としての鋼板に印刷等により正確に位置決めできることから、化粧鋼板の製造時の条件等を高精度に管理することなく、横方向のストライプ調絵柄であっても、安定かつ高精度に付与された化粧鋼板が容易に得られて、例えば複数枚の化粧鋼板の幅方向の接合作業が極めて簡単に行える。
【0012】また、請求項2記載の発明は、フィルムが、複数枚の略透明なフィルムで形成され、上層側のフィルムの耐熱性が下層側のフィルムより高く設定されると共に、上層側のフィルムの裏面に透かし柄が付与されていることを特徴とする。このように構成することにより、複数枚の略透明なフィルムのうち、上層側のフィルムの耐熱性が下層側のフィルムより高く設定されていることから、上層側のフィルムの融点より低い温度でフィルムを鋼板に熱融着することにより、化粧鋼板の表面の平滑性向上を図ることができる。また、耐熱性の低い下層側のフィルムが熱溶融されることから、フィルムと鋼板の接着強度の向上をも図ることができる。さらに、熱変形や溶融し難い上層側のフィルムの裏面に透かし柄が付与されることから、透かし柄自体が安定して鋼板の絵柄と合わせ多彩な絵柄を有する化粧鋼板が容易に得られる。
【0013】また、請求項3記載の発明は、鋼板に付与される絵柄が、化粧鋼板製造時の鋼板の流れ方向に対して略直交する方向に所定幅で形成された略ストライプ調絵柄であることを特徴とする。このように構成することにより、化粧鋼板が横方向の安定した所定幅の略ストライプ調絵柄を有することから、化粧鋼板製造時の鋼板の流れ方向と直交する方向に切断して形成される複数枚の化粧鋼板を幅方向に接合する際に、その位置が均一化された各絵柄の上下の境界線部分を略一致させることができて、横方向のストライプ調絵柄を有する壁材が簡単かつ安価に得られる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1〜図3は、本発明に係わる化粧鋼板を浴室の壁材に適用した場合の一実施例を示し、図1がその要部正面図、図2がその断面図、図3が化粧鋼板の製造方法の一例を示す工程図である。
【0015】図1において、浴室の壁材1は、複数枚(図では2枚)の化粧鋼板で構成される壁パネル2を幅方向に接合することによって形成されている。各壁パネル2は、その全体に後述する鋼板6のベース色3を有すると共に、上下方向の所定位置に横方向の複数本のストライプ調の絵柄4が形成されると共に、所定の透かし柄5が形成されている。
【0016】そして、壁パネル2は、図2に示すように、所定厚さt1の鋼板6と、この鋼板6の表面側にラミネートされたフィルム7とで形成されている。前記鋼板6は、例えば亜鉛メッキ鋼板の表裏面にクロメート処理で表層8が形成され、この表層8の表面にポリエステル等の塗料の塗布により、厚さ0.4〜0.6mmの前記ベース色3としての塗装膜9が形成されている。また、鋼板6の表面側の塗装膜9表面に前記絵柄4が付与され、この絵柄4は、例えばウレタンインク等のスクリーン印刷によって形成されている。
【0017】前記フィルム7は、上層に位置する厚さt2=20〜70μmで耐熱性200℃以上の、例えばPET等からなる透明な第1フィルム10と、下層に位置する厚さt3=50〜150μmで耐熱性180℃以下の、例えばPP、PMMA、ABS、塩ビ等からなる透明な第2フィルム11とで形成されている。そして、第1フィルム10の裏面10aには、前記透かし柄5が例えばグラビア印刷等によって付与されている。なお、第1フィルム10と第2フィルム11の透明度については、絵柄4が視認され得る範囲に設定されている。
【0018】この壁パネル2を構成する化粧鋼板の製造は、例えば図3に示すようにして行われる。すなわち、先ず、鋼板6の表面及び裏面にクロメート処理(K101)を施して表層8を形成し、この鋼板6の表層8上に塗装(K102)を施して塗装膜9をそれぞれ形成する。そして、この塗装膜9が形成された鋼板6の表面側に絵柄4を印刷(K103)する。
【0019】一方、フイルム7を形成する第1フィルム10の裏面10aに透かし柄5を印刷(K104)し、この第1フィルム10と第2フィルム11を温度が200℃(但しロール温度)の条件下でラミネート(K105)する。そして、このラミネートされた第1フィルム10と第2フィルム11からなるフィルム7を、前記工程K101〜K103で製造された鋼板6の表面側に、例えば前記温度条件下でラミネート(K106)する。
【0020】この工程K105及び工程K106のラミネート時に、ロール温度が、第2フィルム11の融点より高く第1フィルム10の融点より低い200℃に設定されていることから、第1フィルム10はそのままの状態で第2フィルム11のみが溶融しつつラミネートされ、この溶融した第2フィルム11の接着性と第2フィルム11と鋼板6間に介装された接着剤とによってフィルム7と鋼板6とが強固に接着される。
【0021】これにより、横方向のストライプ調の絵柄4を有する化粧鋼板が製造され、この化粧鋼板の製造は、例えば連続製造ラインによって自動的に行われる。なお、以上の製造方法は一例であって、例えば工程K102や工程K104において、印刷以外の他の付与手段(塗装等)を採用することもできるし、工程自体も適宜に変更することができる。
【0022】次に、本発明の実施例と比較例及びその評価結果を下記表2及び表3に示す。なお、フィルム7と鋼板6のラミネート時には、ポリエステル系接着剤を使用し、ロール温度を200℃としてサンプルを作成した。また、評価の折曲性の試験は0.5R90°の試験方法を採用した。表2に示すように、実施例1〜4においては、表面の鏡面性、フィルム7と鋼板6の接着性及び壁パネル2の折曲性の全てにおいて、良好な評価結果が得られることが確認された。
【0023】一方、表3に示すように、比較例1及び比較例3〜5の鏡面性においては、比較例1ではフィルムが単層であることからゴミ等による凹凸が表面に発生し、比較例3〜5ではフィルムF1が溶融して良好な鏡面性が得られない。また、比較例1、2の接着性においては、フィルムF2が熱溶着せず良好な接着強度が得られず、さらに、比較例2の折曲性においては、折り曲げにより白化が発生して良好な折曲性が得られないことが確認された。
【0024】
【表2】


【0025】
【表3】


【0026】このように、上記実施例の壁パネル2によれば、剛性体としての鋼板6の表面に予め絵柄4を塗装や印刷等で付与し、この鋼板6の表面側に2層構造のフィルム7をラミネートした化粧鋼板を使用するため、ラミネート時の温度で絵柄4自体が変形したり絵柄4の位置が変化することがなく、塗装等で予め付与したままの状態の安定した絵柄4を有する壁パネル2を容易に得ることができる。
【0027】これにより、各壁パネル2の例えば横方向のストライプ調の絵柄4の位置が均一化され、複数枚の壁パネル2を幅方向に接合させて壁材1を形成しても、接合部における図1の二点鎖線a、bで示すような絵柄4の上下方向のズレ発生がなくなる。その結果、壁パネル2自体の製造時における歩留まり向上が図れると共に、複数枚の壁パネル2の接合(施工)作業自体を極めて簡単に行うことができる等、安定した絵柄4を有する壁材1を安価に得ることが可能になる。
【0028】また、フィルム7として耐熱性の高い第1フィルム10と耐熱性の低い第2フィルム11を使用しているため、ラミネート時に第1フィルム10の溶融や変形が防止されて、その表面(すなわち壁パネル2の表面)に十分な平滑性を有する鏡面を維持することができると共に、第2フィルム11の溶融で第1フィルム10と鋼板6の接着強度を高めることができる。
【0029】さらに、化成処理や塗装の施された鋼板6にフィルム7がマミネートされるので、壁パネル2の耐候性を高めることができ、これらのことから、上記壁パネル2を浴室等のように湿気の多い場所に使用しても、鋼板6の腐食等の発生を確実に防止できて、長期に亘り清潔で安定した絵柄4の壁材1が得られ、各種水廻り空間の壁材1として好適に使用することが可能になる。
【0030】また、フィルム7を2層構造とし、耐熱性が高く熱変形や溶融し難い第1フィルム10の裏面10aに透かし柄5を印刷等で付与しているため、安定した透かし柄5を得ることができて、例えば鋼板6の絵柄4と合わせ壁パネル2自体に多彩な絵柄(模様)を得ることができ、各種の絵柄が要求される壁材1に容易に対応することができる。
【0031】なお、上記実施例においては、フィルム7として2枚のフィルム10、11を使用したが、本発明は例えば3枚以上のフィルムを使用することもできる。また、上記実施例においては、壁パネル2を水廻り空間としての浴室の壁材1に適用する場合について説明したが、本発明はトイレ、洗面室あるいは台所等の各種水廻り空間の壁材にも勿論適用することができる。さらに、本発明は、複数枚の壁パネル2を接合する場合に適用して好適であるが、一枚の壁パネル2のみを使用する場合も排除するものではない。
【0032】
【発明の効果】以上詳述したように、請求項1記載の発明によれば、絵柄が剛性体としての鋼板に予め塗装や印刷等によって付与されると共に、この鋼板の表面側に裏面に透かし柄が付与された略透明なフィルムがラミネートされるため、化粧鋼板の製造時の温度条件等を高精度に管理することなく、横方向のストライプ調絵柄であっても、安定かつ高精度に付与できると共に、この絵柄が付与された複数枚の化粧鋼板を幅方向に接合しても絵柄のズレの発生を防止できて、接合作業を極めて簡単に行うことができる等、所定の絵柄を有する壁材が容易に得られる。
【0033】また、請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加え、複数枚の略透明なフィルムのうち、上層側のフィルムの耐熱性が下層側のフィルムに対して高く設定されているため、化粧鋼板の表面の平滑性が向上すると共に、耐熱性の低い下層側のフィルムが熱溶融されるため、フィルムと鋼板の接着強度が向上し、かつ、熱変形や溶融し難い上層側のフィルムの裏面に透かし柄が付与されるため、透かし柄自体が安定化して鋼板の絵柄と合わせ多彩な絵柄を有する化粧鋼板が容易に得られる。
【0034】また、請求項3記載の発明によれば、請求項1または2記載の発明の効果に加え、化粧鋼板が横方向の安定した所定幅の略ストライプ調絵柄を有するため、複数枚の化粧鋼板を幅方向に接合する際に、その位置が均一化された各絵柄の上下の境界線部分を略一致させることが容易にできて、横方向のストライプ調絵柄を有する例えば水廻り空間の壁材が簡単かつ安価に得られる等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる化粧鋼板を浴室の壁材に適用した場合の一実施例を示す要部正面図
【図2】同その断面図
【図3】同化粧鋼板の製造方法の一例を示す工程図
【図4】従来の化粧鋼板の各例を示す断面図
【符号の説明】
1・・・・・・・・壁材
2・・・・・・・・壁パネル
3・・・・・・・・ベース色
4・・・・・・・・絵柄
5・・・・・・・・透かし柄
6・・・・・・・・鋼板
7・・・・・・・・フィルム
8・・・・・・・・表層
9・・・・・・・・塗装膜
10・・・・・・・第1フィルム
10a・・・・・・裏面
11・・・・・・・第2フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】表面に絵柄が付与された鋼板と、裏面に透かし柄が付与されて前記鋼板の表面側にラミネートされた略透明なフィルムとからなることを特徴とする化粧鋼板。
【請求項2】前記フィルムは、複数枚の略透明なフィルムで形成され、上層側のフィルムの耐熱性が下層側のフィルムより高く設定されると共に、上層側のフィルムの裏面に前記透かし柄が付与されていることを特徴とする請求項1記載の化粧鋼板。
【請求項3】前記鋼板に付与される絵柄は、化粧鋼板製造時の鋼板の流れ方向に対して略直交する方向に所定幅で形成された略ストライプ調絵柄であることを特徴とする請求項1または2記載の化粧鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2002−137330(P2002−137330A)
【公開日】平成14年5月14日(2002.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−337519(P2000−337519)
【出願日】平成12年11月6日(2000.11.6)
【出願人】(392008529)ヤマハリビングテック株式会社 (349)
【Fターム(参考)】