説明

医用画像処理装置

【課題】 一枚の画像の中で、対象に応じて強調周波数帯域や、強調の程度を変化させることができる医用画像処理装置を提供する。
【解決手段】 複数の周波数処理画像を合成する合成の割合を画像濃度によって変化させることにより、一枚の画像の中で、対象に応じて強調周波数帯域や、強調の程度を変化させる。この合成の割合と画像濃度の関係は、読影を行なう施設ごとに異なるので、施設ごとに部位に応じて設定できるようにする。又、この関係は画像ごとに異なるので、画像の特徴量を用いて画像ごとに変形するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線画像などの医用画像を診断に適するように画像処理する医用画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医用画像処理の分野において、周波数特性の異なる複数の周波数処理を行った後に合成する周波数強調は、特許文献1に示されるように従来から行われてきた。
同一の画像についての周波数成分が異なる複数の画像データを原画像より生成する。それらの複数の画像データを可変の増幅率でそれぞれ増幅し、増幅出力を加算する。上記画像データのそれぞれの増幅率は制御部により、操作者により制御される。高空間周波数を強調する周波数処理を行うために、一旦平滑化画像を得てこれを原画像から差引く非先鋭マスク処理が一般的に行われている。非先鋭マスク処理は、平滑化マスクとして矩形平均化マスクを用いると高速な処理が可能であり、大マトリックスサイズを要するX線画像などを対象とする医用画像に好適である。非先鋭マスク処理では平滑化処理のマスクサイズなどを変えることで、周波数特性を変更できる。
【0003】
周波数特性の異なる複数の非先鋭マスク処理法による周波数処理画像の合成は、特許文献2に示されるように、周波数特性の異なる平滑化画像を合成した平滑化画像を原画像から差引くことによっても可能である。
対象となる放射線画像から複数の平滑化画像を得る。更にそれらの複数の平滑化画像に基づいて1つの平滑化画像を得る。
この合成平滑化画像を対象画像から差引いて差分画像を得る。周波数強調の副作用である偽輪郭やオーバーフローの防止のため、差分成分を非線形に変換する。変換後の差分画像を対象画像に加算する。
【特許文献1】特開平5−242243号公報
【特許文献2】特開2002−358517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医用画像の周波数成分を診断に有用なように強調する場合、一枚の画像の中でも、場所によって最適の強調周波数帯域や、強調の程度が異なっている。
例えば、胸部X線画像の場合、縦隔や肋骨の上では、X線ノイズや骨稜を強調することなく腫瘤影などを見やすくするために、中周波数帯域の強調が適している。
一方、肺野部では、X線ノイズや骨の障害陰影が少ないので、細かい血管や腫瘤影の辺縁を見やすくするために高周波数帯域の強調が適している。
従来技術では、一枚の画像の中で、対象に応じて強調周波数帯域や、強調の程度を変化させることができないので、上記のような要求に応えられない。
【0005】
[特許文献1]では、周波数処理画像の合成の割合は可変になっているが、この場合も一枚の画像全体に同一の割合が適用されるので、例えば、胸部X線画像で縦隔や肋骨と肺野部の両者に適した周波数処理画像を得ることはできない。
【0006】
又、[特許文献2]で述べられている、差分成分の非線形変換は、差分成分のみの関数であるため、周波数強調の副作用である偽輪郭やオーバーフローを防止するためには、差分成分の絶対値が大きい場合に一律に抑制する必要があるので、充分な強調が得られない場合があり、かつオーバーフローを完全に防ぐことができない。
【0007】
本発明の目的は、一枚の画像の中で、対象に応じて強調周波数帯域や、強調の程度を変化させることができる医用画像処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、複数の周波数処理画像を合成する合成の割合を画像濃度によって変化させることにより、一枚の画像の中で、対象に応じて強調周波数帯域や、強調の程度を変化させる。
この合成の割合と画像濃度の関係は、読影を行なう施設ごとにことなる。画像濃度と合成の割合の関係を設定する手段をもつ。この合成の割合と画像濃度の関係は、同じ施設の中でも部位ごとに異なる。例えば胸部X線画像の場合と、整形領域で要求される骨の画像とでは大きく異なる。画像濃度と合成の割合の関係を部位に応じて設定する。
【0009】
この合成の割合と画像濃度の関係は、同じ施設、同じ部位でも画像によって異なる。例えば、胸部X線画像の場合、縦隔や肋骨と肺野部との濃度のコントラストは体厚や線質によって変化するので、見たい対象の濃度は画像ごとに変わり、この変化に応じて周波数処理画像の合成の割合と画像濃度の関係を変化させるほうが望ましい。
画像濃度と合成の割合の関係を画像の特徴量によって変形する。画像の特徴量として、縦隔や肺野部と位置に対応する複数ROIの特徴量を用いている。
上記を非先鋭マスク処理に適用するには、複数の平滑化画像を画像濃度に応じて変化する割合で合成して原画像から差引き、差分画像を得る。
更に、上記差分画像に画像濃度に応じて変化する係数を乗じた強調化画像を原画像に加える。
【0010】
ここで、合成の割合を変化させる画像濃度としては、ノイズの影響の少なく、ある程度大局的な性質のものがふさわしい。合成の割合を変化させる画像濃度として、平滑化画像の画像濃度を用いる。
更に、強調化画像を原画像に加える際、加えられる原画像の画像濃度と強調化画像の値の正負に応じて、画像濃度が低い場合はより低濃度にする変化を抑制し、画像濃度が高い場合はより高濃度にする変化を抑制する、非対称・非線形変換を行なうことにより。不必要な強調の抑制なしにオーバーフローを完全に防ぐことができる。
なおここで、平滑化画像を合成する割合を、差分画像の直流成分がゼロになるようにとることで、周波数強調による直流成分の変化を防止する。
【発明の効果】
【0011】
複数の周波数処理画像を合成する合成の割合を画像濃度によって変化させることにより、一枚の画像の中で、対象に応じて強調周波数帯域や、強調の程度を変化させられる。
画像濃度と合成の割合の関係を設定する手段をもち合成の割合と画像濃度の関係を読影を行なう施設ごとに、部位に応じて設定できる。縦隔や肺野部と位置に対応する複数ROIの特徴量を用いて画像濃度と合成の割合の関係を画像ごとに変形することで、見たい対象濃度の画像ごとの変化に対応できる。非先鋭マスク処理として実現しているので、従来よりも高速な処理となる。
【0012】
合成の割合を変化させる画像濃度として平滑化画像の画像濃度を用いることで、ノイズの影響の少なくし、合成の割合の変化に、ある程度大局的な性質を持たせられる。
強調化画像を原画像に加える際、加えられる原画像の画像濃度と強調化画像の値の正負に応じて、画像濃度が低い場合はより低濃度にする変化を抑制し、画像濃度が高い場合はより高濃度にする変化を抑制する、非対称・非線形変換を行なうことにより。不必要な強調の抑制なしにオーバーフローを完全に防げる。
平滑化画像を合成する割合を、差分画像の直流成分がゼロになるようにとることで、周波数強調による直流成分の変化が防げる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の医用画像処理装置1を用いたX線撮影システムの全体構成図。
X線発生器2で発生したX線は被写体を透過後、医用画像処理装置1に入射し、X線平面センサ111、画像データ収集回路112よりなる画像入力部11でデジタル画像データとなり、画像処理部10で画像処理を受け、表示メモリ121と液晶ディスプレイ122よりなる画像出力部12で表示画像として出力される。
【0014】
図2は本発明の医用画像処理装置1の画像処理部10の構成を示すブロック図。
まず画像入力部11より入力した画像データは原画像メモリ101に蓄えられる。
操作者が操作・制御手段102で部位選択することで処理が始まる。
【0015】
操作・処理手段102はマスクサイズ設定1021で平滑化処理手段103に大き目のマスクサイズ(マスクサイズ30)を設定し、メモリ切替え1022で切替え器104の出力を平滑化画像メモリ(1)105側にしてから平滑化処理手段103を動作させ、大き目のマスクサイズの平滑化画像M1を平滑化画像メモリ(1)105に蓄える。
ここで平滑化処理手段103では、周知の移動平均法による平滑化処理が行なわれている。
【0016】
操作・処理手段102はマスクサイズ設定1021で平滑化処理手段103に小さ目のマスクサイズ(マスクサイズ10)を設定し、メモリ切替え1022で切替え器104の出力を平滑化画像メモリ(2)106側にしてからて平滑化処理手段103を動作させ、小さ目のマスクサイズの平滑化画像M2を平滑化画像メモリ(2)106に蓄える。
【0017】
操作・処理手段102は合成係数作成手段107に平滑化画像M2の画像データ1061と部位選択1024を入力することにより、後で述べる方法により、強調化画像作成手段108で用いる係数f1,f2の画像データ依存性を定める二種類のLUTを、合成係数作成手段107の中に作成する。
【0018】
操作・処理手段102は原画像メモリ101より原画像データOを、平滑化画像メモリ(1)105から平滑化画像M1を、平滑化画像メモリ(2)106から平滑化画像M2を画素ごとに同時に読出し、平滑化画像M2の画像データ1061を合成係数作成手段107の中の先に作成した二種類のLUTに入力することにより、係数f1、f2 1071を得て、これらより、強調化画像作成手段108で式1による演算を行なうことにより、強調化画像データVを得る:
V=(f1+f2)O−f1*M1−f2*M2 (式1)
ここで、Oの係数を(f1+f2)とすることで、強調化画像の直流成分をゼロにして周波数強調による直流成分の変化を防止している。
【0019】
強調化画像データVは原画像データOと共に非対称・非線形変換手段109に入力し、式2
による変換を受ける:
V’=γ×h(V/γ) (式2)
ここで、V’は非対称・非線形変換手段109の出力である。
γは強調化画像データVの正負に従い、原画像データO、出力画像データの上限Omax、出力画像データの下限Ominより、式3に従って得られる:
γ=Omax−O (V≧0の場合); (式3)
γ=O−Omin (V<0の場合);
【0020】
又、hは逆正接関数を元にした、式4のように定義される関数である。
h(x)≡(2/π)arctan(πx/2) (式4)
この関数は、(−1,1)の区間の値を持ち、0付近では式5の性質を持つ。
h(x)≒x (式5)
【0021】
非対称・非線形変換手段109の出力V’は加算器110で原画像データOに加算され、周波数強調修理画像データ(O+V’)となって、画像出力部12に出力される。
(式2)、(式3)及びh(x)の値域より、O+V’は(Omin,Omax)の範囲の値となるので、オーバーフローは生じない。
(式2)と(式5)の性質よりγが大きい場合、式6となることがわかる。
V’≒V (式6)
これは、画像濃度が低い領域では高濃度にする強調はほとんど抑制されない、画像濃度が高い場合は低濃度にする強調はほとんど抑制されないことを意味する。即ち、不要な強調の抑制が生じない。
【0022】
図3は本発明の医用画像処理装置1の画像処理部10の中の合成係数作成手段107の構成を示すブロック図である。
合成係数作成手段107の中にはROI(1)設定テーブル1701、ROI(2)設定テーブル1702、定数A,B設定テーブル1703、係数F1のLUT群1705、係数F2のLUT群1706が設けられており、それぞれ、部位ごとのROI(1)設定データ、ROI(2)設定データ、定数A,B値、係数F1のLUT、係数F2のLUTが蓄えられている。
上記の部位ごとの設定、LUTは操作・制御手段102よりテーブル設定1023によって、施設ごとにあらかじめ書き込まれている。
【0023】
強調化画像作成手段108で係数f1,f2 1071を使用する前に、操作・処理手段102は合成係数作成手段107に平滑化画像M2の画像データ1061と部位選択1024を入力することにより、強調化画像作成手段108で用いる係数f1,f2の画像データ依存性を定める二種類のLUTを作成する。
【0024】
部位選択1024によりROI(1)設定テーブル1071、ROI(2)設定テーブル1702、定数A,B設定テーブル1703、係数F1のLUT群1705、係数F2のLUT群1706内のROI(1)設定データ、ROI(2)設定データ、定数A,B値、係数F1のLUT、係数F2のLUTが部位に従って選択される。
選択されたROI(1)設定データに従ってROI(1)最大値検出手段1707を動作させ、平滑化画像M2の画像データ1061内のROI(1)の最大値Pが求められる。
【0025】
ROI(1)は例えば胸部画像の場合は肺野部に設定される。
ここで平滑化画像M2が用いられるのは、ノイズの影響が少なく、かつある程度画像データの変動を残した画像データだからである。
選択されたROI(1)設定データに従ってROI(2)最小値検出手段1708を動作させ、平滑化画像M2の画像データ1061内のROI(2)の最小値Qが求められる。
【0026】
ROI(2)は例えば胸部画像の場合は縦隔部に設定される。
定数A,Bは最大値P、最小値Qの標準的な値に設定されており、これと画像ごとに異なる、P,Qから、LUT変換パラメータ算出手段1709によって、次の式7でLUT変換パラメータα,Δが求められる:
α=(P−Q)/(A―B) (式7)
Δ=Q/α−B
【0027】
LUT変換パラメータα,ΔはLUT変換手段1710に入力し、係数F1のLUT群1705、係数F2のLUT群1706から選択された係数F1のLUT、係数F2のLUTの入力側をα倍し、Δだけ平行移動することによって、係数f1のLUT1712、係数f2のLUT1713が得られる。
【0028】
こうすることで、係数F1のLUT、係数F2のLUTの入力Aに対応する出力と入力Bに対する出力が、係数f1のLUT1712、係数f2のLUT1713の、それぞれ入力Pに対する出力と入力Qに対する出力で得られるようになる。
【0029】
原画像メモリ101より原画像データOを、平滑化画像メモリ(1)105から平滑化画像M1を、平滑化画像メモリ(2)106から平滑化画像M2を画素ごとに同時に読出し、強調化画像作成手段108で強調化画像データVを得る際、平滑化画像M2の画像データ1061を合成係数作成手段107の中の係数f1のLUT1712、係数f2のLUT1713に入力することにより、係数f1,f2 1071を得る。
【0030】
図4に、胸部画像用に設計された係数FのLUT、係数F2のLUTの例を、入出力関係を表すグラフとして示す。
このようにすることにより、入力Bに対応する縦隔の付近では、正のF1の値により比較的大きなマスクのM1による中帯域の強調が行なわれ、負のF2の値により高域の強調が抑えられ、又、比較的ノイズの多い領域なのでF1を小さくしている。
【0031】
入力Aに対応する肺野の付近では、F1の値を0としF2の値を1にすることで、強調帯域を高域にシフトさせ、より細かい構造が強調されるようにしている。又比較的ノイズの少ない領域なのでF2を大きくしている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の医用画像処理装置を用いたX線撮影システムの全体構成図。
【図2】本発明の医用画像処理装置の画像処理部の構成を示すブロック図。
【図3】本発明の医用画像処理装置の画像処理部の中の合成係数作成手段の構成を示すブロック図。
【図4】本発明の医用画像処理装置の画像処理部の中の合成係数作成手段の中に設定される係数GのLUT、係数F1のLUT、係数F2のLUTの入出力関係を表すグラフの例。
【符号の説明】
【0033】
101 原画像メモリ
102 操作・制御手段
103 平滑化処理手段
104 切替え器
105 平滑化画像メモリ(1)
106 平滑化画像メモリ(2)
107 合成係数作成手段
108 強調化画像作成手段
109 非対称・非線形変換手段
110 加算器
1021 マスクサイズ設定
1022 メモリ切替え
1023 テーブル選択
1024 部位選択
1061 平滑化画像M2の画像データ
1071 係数f1,f2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用画像生成手段により生成された医用画像に周波数特性の異なる複数の周波数処理を行った後に合成する周波数強調処理手段を備えた医用画像処理装置において、前記周波数強調処理手段は、前記医用画像の濃度によって複数の周波数処理画像の合成の割合を可変設定する手段を備えたことを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医用画像処理装置において、前記医用画像の濃度と前記可変設定手段によって可変設定された合成の割合の関係を前記医用画像の特徴量によって変形する手段を備えたことを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の医用画像処理装置において、前記変形手段は、前記医用画像の特徴量として複数の関心領域の特徴量を用いて変形することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の医用画像処理装置において、前記周波数強調処理手段は複数の平滑化画像を画像濃度に応じて変化する割合で合成して原画像から差引き、差分画像を算出する手段を備え、この差分画像算出手段によって算出された差分画像を用いて周波数強調処理することを特徴とする医用画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−26198(P2006−26198A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211267(P2004−211267)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】