医療において用いるためのベクター
本発明は、患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクターであって、前記ベクターが、(a)結合部分と、(b)治療剤とを含み、前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、前記ベクターが、電磁石と、前記部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて投与されるベクターを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療における磁性タンパク質、ペプチド、及びポリペプチドの使用に関する。前記使用は、前記磁性タンパク質を用いる治療剤が身体の特定の領域を標的とすることを可能にするという優れた利点を有する。磁性物質の存在により、患者の体内で治療のためのより複雑な空間操作が可能になり、このことは、健常組織及び細胞と罹患組織及び細胞の双方に対して作用する治療剤に対して特に有益である。標的部位に治療剤を局在させることに加えて、本発明に係る磁性タンパク質を使用すると、治療剤の拘束及び制御、更には前記治療剤の除去も可能になる。更に、本発明は、磁化可能物質自体が治療効果をもたらすことができる医学的使用に関する。また本発明は、医薬組成物などの製品、及び医学的使用に関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト/動物体内の特定の部位に対する治療剤のターゲティングは、当該技術分野で知られている。標的療法の例は、放射標識された抗体を用いて癌組織に放射線治療剤を制御送達する療法である。前記抗体は、その抗原に結合することで、前記抗体に付着している放射性同位体を所望の標的に送達する。
【0003】
非ホジキンリンパ腫について米国における臨床使用が現在承認されている放射標識抗体の例としては、90Y Zevalin(イブリツモマブ又はチウキセタンとしても知られている)(Biogen Idec Inc.)及びBexxar(131I−トシツモマブとしても知られている)(GlaxoSmithKline)が挙げられる。米国及び英国で使用が承認されている薬剤にコンジュゲートしている抗体の例は、Mylotarg(ゲムツズマブ又はオゾガマイシンとしても知られている)(Wyeth)である。
【0004】
かかるターゲティングアプローチの利点の1つは、健常組織及び細胞に及ぼされる有害な治療剤の作用を最小限に抑えられることである。
【0005】
治療剤と細胞表面上の受容体との結合及びその後の架橋は、該細胞を破壊する、又は細胞応答を減じ得る(例えば免疫反応をダウンレギュレートする)拮抗的シグナル伝達反応を確立するのに十分であり得る。米国で使用が承認されている多くの抗体は、上記方法で作用するため有効である。例としては、冠動脈形成術で血小板による血餅を防ぐために用いられるReoPro(アブシキシマブとしても知られている)(Centocor,Inc.)、並びに急性腎臓移植拒絶反応の予防のために用いられるZenapax(ダクリズマブとしても知られている)(F.Hoffman−LaRoche Ltd)及びSimulect(バシリキシマブとしても知られている)(Novartis AG)が挙げられる。
【0006】
また多くの抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)又は補体依存性細胞傷害(CDC)により細胞を除去する。Fcガンマ受容体(例えば、Fcガンマ受容体IIa及びIIIa)に多型を有する患者は、抗体が受容体に効率よく結合しないため、有効なADCC反応を誘発することができなくなる場合があることが示唆されている。したがって、上記方法に代わるターゲティングを用いた治療アプローチは、これらの患者で有益であり得る。
【0007】
当該技術分野で知られている他の標的アプローチは、治療剤が細胞に送達される改変ウイルス粒子中の遺伝子である遺伝子治療に用いられるアプローチである。このアプローチは、細胞表面上の受容体に対してウイルスカプシドタンパク質が本来有している親和性を利用しており、該親和性は、通常条件下で野生型ウイルスが特定の細胞種に感染するのを可能にしている性質である。放射標識抗体と同様に、治療用遺伝子を有する改変ウイルス粒子と標的細胞との結合によっても、特定の細胞種に遺伝子を送達させることができる。
【0008】
或いは、治療には、特定の細胞種の表面上のホルモン(又は他の)受容体にそれ自体が結合し、生体が本来有するリガンドの結合をブロックすることができるタモキシフェンなどの小分子薬剤を利用してもよい。
【0009】
標的治療剤は、現在ヒト及び動物の医療になくてはならないものになっている。しかし、体内の特定の細胞又は組織を標的とする抗体又はリガンドの使用に対して他の利点又は更なる利点を提供する異なるターゲティング方法の提供が現在も必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前記要求に取り組み、ヒト又は動物の身体の特定の領域、組織、又は細胞に治療剤を導くために使用可能な代替送達系又はターゲティング系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクターであって、前記ベクターが、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記ベクターが、電磁石と、前記部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて投与されるベクターを提供する。
【0012】
本発明らは、磁性タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを治療剤のベクター又は担体として用い得ることを見出した。更に本発明らは、驚くべきことに、かかるベクターを使用して、前記治療剤を患者の体内の特定の領域に局在させ得ること、及び前記ベクターを除去し得ることを見出した。これは、ベクターの磁性によるものである。磁場に反応する磁性タンパク質又は磁化可能物質が前記ベクターに組み込まれているため、前記ベクターを操作することができる。具体的には、前記ベクターは、金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチド中に金属原子又は金属イオン(又は該金属原子若しくは金属イオンを含有している化合物)を含む。
【0013】
他のターゲティングアプローチと同様に、かかるベクターを使用することにより、有害である可能性のある治療を治療が必要な領域においてのみ行うことができる。また、前記治療剤は、標的部位で治療濃度に達するのに十分な用量のみを局在させ得るため、治療剤のより効率的な使用につながり、全身で前記用量を得なければならない従来のアプローチとは対照的である。
【0014】
しかし、他のターゲティングアプローチとは異なり、本発明を用いて治療剤を除去できることは、更なる利点をもたらす。具体的には、前記治療剤は、高用量剤を用いたときに生じることの多い副作用を増加させることなしに、短期間高用量で用いることができる。更に、体内から治療剤を除去できることにより、治療剤使用の妨げとなるであろう治療剤への長期間の曝露に付随するリスクなしに、高活性治療剤を用いた治療が可能になる。
【0015】
更に、ベクター中に磁性要素が存在することにより、ベクターを患者に投与した後ベクターを可視化することができる。これにより、患者の体内のベクターの位置、ひいては治療剤の位置を判定することができる。例えば、該判定は、MRIスキャニングを用いて行うことができる。
【0016】
更なる利点は、ベクターの磁性によりベクターの作製及び精製が容易になるという点である。具体的には、治療剤を含むベクターは、親和性精製又は磁場精製などの確立されている技術を用いて容易に精製される。本発明の送達ベクターは、単純な化学的手順を用いて磁化又は消磁することができるという更なる利点を有する。
【0017】
また本発明者らは、本発明において使用するのに特に好ましい医薬組成物を見出した。具体的には、本発明に係る医薬組成物は、(a)結合部分と、(b)治療剤と、(c)認識部分とを含み、前記結合部分は、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む。
【0018】
本発明のこの態様の1つの実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質自体が治療剤であり、磁場を用いる患者の治療と併用される。具体的には、医薬組成物は、温熱療法に対する感受性の高い患者の罹患細胞又は組織の治療に用いるためのものであり、前記医薬組成物は、患者に電磁場を印加する前に投与される。
【0019】
本発明の更なる態様では、医薬組成物は、磁性物質又は磁化可能物質に加えて治療剤を含み、前記治療剤は、結合部分に付着している。
【0020】
更なる態様では、本発明は、患者の体内のある部位で治療を行う、又は前記部位における前記治療を止めるために用いられる薬剤を製造するためのベクターの使用であって、前記ベクターが、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記ベクターが、電磁石と、前記部位の近傍に前記治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて投与される使用を提供する。
【0021】
本発明の更なる態様は、電磁石と、患者の体内のある部位の近傍にベクターを運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて前記部位にベクターを投与する方法であって、
電磁石を用いて前記ベクターを前記エレメントに接着させる工程と、
患者の体内に前記エレメントを挿入する工程と、
前記電磁石を用いて前記エレメントからの前記ベクターの放出を制御する工程と、
を含み、
前記ベクターが、結合部分と、治療剤とを含み、前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む方法を提供する。
【0022】
本発明の他の態様は、電磁石と、患者の体内のある部位の近傍にベクターを運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて前記部位からベクターを除去する方法であって、
患者の体内に前記エレメントを挿入する工程と、
前記電磁石を用いて前記ベクターを前記エレメントに接着させる工程と、
患者の体内から前記エレメント及び前記ベクターを取り出す工程と、
を含み、
前記ベクターが、結合部分と、治療剤とを含み、前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む方法を提供する。
【0023】
次に、一例として添付図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施形態の模式図を示す。図1(A):バルーン血管形成術のように、動脈を通して血管性閉塞に達するまでカテーテルを挿入する。図1(B):磁性粒子を内封している融合タンパク質を含む本発明に係るベクターは、電磁石を用いてカテーテルの外表面に拘束されている。図1(C):カテーテルを適切な位置に配置すると、電磁石のスイッチを切ることによりベクターを放出させる。
【図2】図2は、本発明の医薬組成物を用いて温熱療法により腫瘍を治療する、本発明の実施形態の概略図を示す。具体的には、図2は、(A)ヒト体内の腫瘍の位置、(B)本発明に係る医薬組成物の腫瘍への局在化、及び交番磁場を用いる身体の治療、(C)正常組織を無傷のまま残しながら、局所温熱療法による腫瘍の破壊を示す。
【図3】図3は、本発明のベクターで用いられる融合タンパク質の結合部分及び認識部分を作製するために、適切な遺伝子をプラスミドなどにクローニングする方法を示す。融合タンパク質中の磁化可能タンパク質ユニットの数は、必要に応じて多コピーの適切な遺伝子を含むことにより制御できる。この例では、抗体のVH領域及びVL領域の遺伝子のみが含まれているため、最終的な抗体ではなく、抗体のscFv部分が、最終的な好ましいキメラタンパク質に含まれる。
【図4】図4は、IgGなどの抗体の構造を単純化して概略的に示す。パパインなどの酵素を用いてプロテアーゼ処理した後、抗体は、ヒンジ領域の近くで3つの部分に分解される。抗体のエフェクタ機能部(ヒンジ、CH2、及びCH3)は、X線回折分析のために結晶化することが比較的容易であるため、この部分は結晶化可能断片(Fc)領域として知られている。抗体の抗原結合部は、抗体断片(Fab)として知られている。酵素分解後、Fab断片は、ヒンジ領域で連結してF(ab)2断片を形成する場合もある。他の抗体は、Fc領域内のドメイン数が異なる場合もあり、またヒンジ領域に変異が存在する場合もある。
【図5】図5は、scFv−フェリチン融合タンパク質の構造を示す。
【図6】図6は、scFv−MT2融合タンパク質の構造を示す。
【図7】図7は、scFv断片の構造を示す。
【図8】図8は、cDNAライブラリの構築方法を示す。組織サンプルからcDNAライブラリを構築するために、mRNAを抽出し、cDNAに逆転写し、プラスミドベクターにライゲーションする。次いで、これらベクターを用いて細菌細胞を形質転換する。形質転換された細胞は、必要になるまで凍結保存する。適切な培地で増殖させることにより凍結細胞を増やしてもよい。次いで、プラスミドを精製する。次いで、更に分析するために特異的プライマー対を用いて対象遺伝子をPCRで増幅させてもよい。
【図9a】図9aは、フェリチン重(H)鎖遺伝子及びフェリチン軽(L)鎖遺伝子のPCR増幅産物を示す。
【図9b】図9bは、フェリチン重鎖遺伝子及びフェリチン軽鎖遺伝子のオーバーラップPCR産物を示す
【図9c】図9cは、コロニーPCRの結果を示し、配列決定のためにクローン1、3、及び4が選択された。
【図10a】図10aは、抗フィブロネクチンscFvと、フェリチン重鎖及びフェリチン軽鎖ポリジーンとのPCR増幅産物(矢印)を示すゲルである。
【図10b】図10bは、抗フィブロネクチンscFvと、フェリチン重鎖及びフェリチン軽鎖ポリジーンとのオーバーラップPCR産物を示すゲルである。
【図11】図11は、scFv:フェリチン融合コンストラクトとライゲーションされたプラスミドを用いて形質転換された多くのクローンのPCRによるスクリーニング結果を示すゲルである。
【図12】図12は、細胞可溶化物のクマシーブルー染色ゲル及びウエスタンブロットを示す。記号:1.フェリチンで2時間誘導、2.フェリチンで3時間誘導、3.フェリチンで4時間誘導、4.ベンチマーク(Invitrogen)プロテインラダー。
【図13】図13は、ヒト肝臓ライブラリ由来のMT2のPCR増幅産物を示すゲルである。
【図14】図14は、scFv:MT2コンストラクトを含むプラスミドで形質転換されたクローンのコロニー分析結果を示す。
【図15】図15は、scFv:MT2(矢印)のクマシーゲル及びウエスタンブロットを示す。
【図16】図16は、再可溶化されたscFv:フェリチン融合タンパク質及びscFv:MT2融合タンパク質のクマシーブルー染色ゲル及びウエスタンブロットの写真を示す。融合タンパク質を丸で囲んだ。両方のゲルのレーン2がフェリチンであり、両方のゲルのレーン3がMT2である。レーン1は、タンパク質分子量ラダーである。
【図17a】図17aは、MT2融合タンパク質の結合のSPR分析から得られたセンサグラムを重ねたものである。
【図17b】図17bは、フェリチン融合タンパク質の結合のSPR分析から得られたセンサグラムを重ねたものである。
【図18】図18は、本発明で用いるために作製されたマグネトフェリチンの磁性を示す。
【図19】図19は、作製中のフェリチン濃度及びマグネトフェリチン濃度を示す。記号:MF;マグネトフェリチン、ft;フロースルー、前;Macs(登録商標)カラムで濃縮されたマグネトフェリチンの透析前、後;Macs(登録商標)カラムで濃縮されたマグネトフェリチンの透析後。
【図20】図20は、scFv:フェリチン及び熱処理したscFv:フェリチンのフィブロネクチンに対する結合を示す。
【図21a】図21aは、磁化された融合タンパク質に対してVarioskan Flash機器を用いて記録した吸光度測定値を示す。濃縮後もモノクローナル抗フェリチン抗体はタンパク質を認識する。
【図21b】図21bは、磁化された融合タンパク質に対してVarioskan Flash機器を用いて記録した吸光度測定値を示す。磁化抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質は、その標的抗原に対する結合能を保持する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上記のように、本発明は、患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクターであって、前記ベクターが、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記ベクターが、電磁石と、前記部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて投与されるベクターに関する。
【0026】
前記ベクターは、電磁石と、前記部位の近傍に前記治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて送達される。好ましい実施形態では、前記エレメントは患者の体内に挿入される。具体的には、前記エレメントは、治療される領域にベクターを物理的に送達するために片方の端部に電磁石を備えるカテーテル(例えば、血管形成術/密封小線源療法で日常的に用いられている種類のカテーテル)であることが好ましい。図1に示すように、一旦電磁石のスイッチを切ると、治療剤を有する磁性ベクターは周囲の組織に移動することができる。
【0027】
磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する結合部分は、毒性がなく、前記物質に結合することができ、且つ前記治療剤に付着することができる限り、特に限定されない。結合部分は、金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチド(又はかかるタンパク質、ポリペプチド、若しくはペプチドの金属結合ドメイン)を含む。前記結合部分は、粒子又は集合体などの形態である磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する(又は特異的若しくは非特異的に付着する)ことができなければならない。
【0028】
これら粒子又は集合体は、典型的には100,000未満、より好ましくは10,000未満、最も好ましくは5,000未満の、部分全体(又は各部分)に結合している原子、イオン若しくは分子、又は部分全体(又は各部分)に内封されている原子、イオン若しくは分子を有する。最も好ましい物質は、最高3,000の原子、イオン若しくは分子、特に約2,000以下の原子、イオン若しくは分子、又は500以下の原子、イオン若しくは分子に結合することができる。
【0029】
本発明で使用される1つの具体例では、フェリチン(24個のサブユニットのタンパク質シェル)の金属要素は、8nm(8×10−9m)の無機コアからなる。各コアは、約2,000個のFe原子を含む。別の例では、Streptococcus mutans由来のDpr(12個のサブユニットのシェル)は、480個のFe原子を含む9nmのシェルからなる。更なる例では、ラクトフェリンは、2個のFe原子と結合し、ヘムに結合している鉄を含む(コア内の鉄分子に結合するフェリチンとは対照的である)。メタロチオネイン−2(MT)は、7個の二価遷移金属に結合する。MT中の亜鉛イオンは、Mn2+及びCd2+に置換されて、室温で磁性を有するタンパク質を作製する。MTは、1以上の更なる金属結合部位を更に組み込むよう改変されてもよく、これによりMn、Cd MTタンパク質の磁性が増加する。
【0030】
これら結合環境によって、単一部分に結合している又は単一部分に内封されている物質の総体積は、典型的には1×105nm3を超えない(物質の粒子又は集合体の平均直径が約58nm以下であることを表す)。該物質は、1×104nm3以下の総体積を有し得ることがより好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が約27nm以下であることを表す)。該物質は、1×103nm3以下の総体積を有し得ることが更により好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が約13nm以下であることを表す)。該物質は、100nm3以下の総体積を有し得ることが最も好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が6nm以下であることを表す)。しかし、粒子のサイズは、体積の代わりに平均直径により決定することもできる。したがって、本発明では、結合している粒子の平均直径は、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下が好ましく、10nm以下が最も好ましい。この状況において、平均とは、全粒子の直径の合計を粒子数で除した数を意味する。
【0031】
本発明の特に好ましい実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質は、常磁性であり、より強力な磁石の影響下でのみ磁性を示す。
【0032】
典型的には、結合部分は、1以上の遷移金属原子、ランタニド金属原子、遷移金属イオン、及びランタニド金属イオンの少なくともいずれか、又は遷移金属イオン及びランタニド金属イオンを含む任意の化合物を結合乃至内封する。遷移金属イオン及びランタニド金属イオンとしては、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Cu、Zn、Cd、Y、Gd、Dy、又はEuのうちのいずれか1種以上のイオンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明のより好ましい実施形態では、前記1種以上の金属イオンは、Fe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Mn2+、Mn3+、Mn4+、Cd2+、及びNi2+のうちのいずれか1種以上を含む。本発明で用いるための最も好ましいイオンは、Fe2+イオン、Fe3+イオン、Cd2+イオン、及びMn2+イオンである。典型的には、これらイオンは、鉄の場合ラクトフェリン、トランスフェリン、及びフェリチンに結合し、カドミウム及びマンガンの場合メタロチオネイン−2に結合する。Fe2+の結合は、酸性条件を用いることにより促進されることが好ましく、一方Fe3+の結合は、中性条件又はアルカリ性条件を用いることにより促進されることが好ましい。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、金属結合部分は、ラクトフェリン、トランスフェリン、フェリチン(アポフェリチン)、メタロチオネイン(MT1又はMT2)、第二鉄イオン結合タンパク質(例えばHaemophilus influenzae由来のFBP)、フラタキシン、及びシデロホア(細菌膜を貫通して鉄を輸送する機能を有する非常に小さなタンパク質)から選択されるタンパク質又はタンパク質の金属結合ドメインを含む。
【0035】
特に好ましい実施形態では、金属結合部分は、フェリチン、メタロチオネインII(MT2)、これらの断片、又はこれらのセグメントを含む。フェリチンは、直径12nm、分子量480kDaの大きなタンパク質である。該タンパク質は、数千の鉄イオンを貯蔵することができる大きな空洞(直径8nm)からなる。フェリチン内の内因性鉄は常磁性ではないため、典型的には、タンパク質に損傷を与えることなしに該内因性鉄を除去し、常磁性形態に置換することが必要である。フェリチンは、8個のFe輸送孔と、12個のミネラル核形成部位と、第二鉄及び酸素からミネラル前駆体を生成する最高24個のオキシダーゼ部位とを有する大きな多機能性タンパク質である。脊椎動物では、2種のサブユニット(重鎖(H)及び軽鎖(L))がフェリチンを形成しており、それぞれのサブユニットが触媒活性(H)オキシダーゼ部位及び触媒不活性(L)オキシダーゼ部位を有している。重鎖と軽鎖との比は、要件によって変化する。最高4,000個の鉄が、フェリチンタンパク質の中心に局在し得る。
【0036】
フェリチン内に貯蔵されている鉄は、通常酸化鉄フェリハイドライト水和物(5Fe2O3・9H2O)の形態である。フェリハイドライトコアをフェリ磁性酸化鉄、即ちマグネタイト(Fe3O4)に置換してもよい。これは、チオグリコール酸を用いて鉄を除去し、アポフェリチンを生成することにより達成され得る。次いで、空気又は他の酸化剤を導入することにより、酸化を緩徐に制御しながら、アルゴン又は他の不活性ガス下でFe(II)溶液を徐々に添加する。
【0037】
対照的に、タンパク質メタロチオネインIIは、緩い格子配置中にフェリチンよりも少ない数の金属イオンを保持しているため、フェリチンよりも内因性イオンの除去及び置換が容易であり得る。メタロチオネインは、細胞内に存在する低分子量のシステインリッチなタンパク質である。
【0038】
MT2は、カルボキシル(α−ドメイン)末端及びアミノ(β−ドメイン)末端において2つの金属結合クラスタを介して7つの二価遷移金属に結合する。20個のシステイン残基が、結合プロセスに関与している。
【0039】
Changらは、7つの亜鉛(Zn2+)イオンを、マンガン(Mn2+)イオン及びカドミウム(Cd2+)イオンに置換する方法について記載している。得られたタンパク質は、室温で磁性ヒステリシスループを呈することが示された。これは、タンパク質が常磁性であることを示唆する。
【0040】
Toyamaらは、ヒトMT2を操作して更なる金属結合部位を構築した。これは、MT2の常磁性機能を潜在的に高めることができ、また本発明で使用することができる。
【0041】
幾つかの実施形態では、本発明のベクターは、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する結合部分を複数含んでいてもよい。ベクターの磁性を制御するために、かかる部分の数を制御してもよい。典型的には、かかる実施形態では、ベクターは、2個〜100個の磁性物質又は磁化可能物質の結合部分、好ましくは2個〜50個の該部分、最も好ましくは2個〜20個の該部分を含んでいてもよい。最終的なキメラタンパク質では、金属結合タンパク質の各コピーは、可動性のために非荷電アミノ酸リンカー配列により次の金属結合タンパク質に付着していてもよい。
【0042】
更なる実施形態では、(電)磁性を調整するために、タンパク質/ペプチド結合部分にグリコシル化又はリン酸化などの修飾を行ってもよい。
【0043】
ベクターによって運ばれる治療剤は、結合部分に付着することができる限り特に限定されない。本発明の状況において「付着する」とは、特異的結合及び非特異的結合を含む任意の種類の付着、また内封をも意味する。したがって、結合部分は、治療剤を結合乃至内封し(又は特異的若しくは非特異的に付着し)、前記ベクターが前記治療剤を運ぶことを可能にできるべきである。本発明の特定の態様では、治療剤は、結合部分を備える融合タンパク質として形成される。
【0044】
本発明の特定の実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質の磁性が治療で用いられ、前記磁性物質又は磁化可能物質が治療剤である。具体的には、以下に詳細に記載されるように、患者の体内の特定の部位に局在する磁性物質又は磁化可能物質を含むベクターは、磁場を用いる患者の治療と併用してもよい。前記磁場により前記磁性物質又は磁化可能物質が加熱され、前記部位で温熱療法が行われる。かかる温熱療法を用いて、前記部位において細胞を破壊することができる。この実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質は、電磁場を印加して前記部位で温熱療法を行うのに好適である。
【0045】
本発明の別の実施形態では、治療剤は、放射性同位体、化学療法剤、血栓溶解剤、即ち抗血栓剤、及び抗血管新生剤から選択される。好ましい実施形態では、治療剤は、抗トロンビンIIIであり、治療は、血餅の治療である。血餅部位に直接抗凝固剤を送達するための本発明の使用は、抗凝固剤の全身送達に比べて有益である。具体的には、本発明は、(局所治療濃度を維持しながら)抗凝固剤を低用量で使用し、抗凝固剤治療に付随するリスク、例えば非標的組織(特に脳)における過剰出血のリスクを低減することができる。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、ベクターは、罹患細胞又は罹患組織上に存在する1以上の標的に結合することができる1以上の認識部分も含む。ベクターの一部として少なくとも1つの認識部分が存在することにより、ベクターのターゲティング能を高めることができる。可能性のある標的の例は、感染病原体若しくは感染病原体の構成要素(ウイルス、ウイルス粒子、又はウイルス構成要素など)、細胞表面上に存在する細胞の構成要素、内因性小分子若しくは外因性小分子などの小分子(例えば、代謝産物、医薬品、又は薬剤)、又は血餅などの身体であってもよい。細胞内ターゲティングも可能である。核局在シグナルを認識部分として用いて、ベクターに核を標的とさせることができる。或いは、ベクターがゴルジ体又は細胞膜の内側を標的とするよう認識部分を選択してもよい。細胞膜の内側に対するターゲティングは、ベクターが治療剤を放出し、前記治療剤が細胞から周囲組織に拡散することが望ましい箇所で特に有効であり得る。
【0047】
具体的には、認識部分は、腫瘍細胞の表面上で発現している抗原を認識することができる。一部の腫瘍は、該腫瘍表面上で様々な抗原を発現する。したがって、ベクターは、腫瘍細胞表面上の少なくとも2種の異なる抗原を認識し、結合する少なくとも2種の認識部分を含むことが特に好ましい。他の方法では、ベクターは、受容体との架橋を達成するための少なくとも2種の認識部分を含む。例えば、認識部分のうちの1つが腫瘍マーカーを認識し、他の認識部分が免疫細胞上のFc受容体に結合し活性化させてもよい。次いで、免疫細胞が、腫瘍細胞を「認識」し、殺傷する。かかる受容体との架橋は、治療の選択性を高めるため、有益である。
【0048】
上記標的に結合できる認識部分は、標的に対する結合に適している限り、それ自体いずれの種類の物質又は分子であってもよい。一般的に、認識部分は、抗体、抗体断片、受容体、受容体断片、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド模倣体、核酸、オリゴヌクレオチド、及びアプタマーから選択される。より具体的には、前記認識部分は、抗体、抗体断片、受容体、受容体断片、タンパク質、及びポリペプチドから選択される。本発明のより好ましい実施形態では、認識部分は、抗体の可変ポリペプチド鎖(Fv)、T細胞受容体、T細胞受容体断片、アビジン、ストレプトアビジン、及びヘパリンから選択される。認識部分は、抗体の単鎖可変部(sc−Fv)から選択されることが最も好ましい。
【0049】
本発明の特に好ましい態様では、結合部分と認識部分とが融合タンパク質を形成する。本発明の状況では、融合タンパク質は、単一の組み換えタンパク質として発現しているタンパク質である。融合タンパク質は、任意の既知の発現系から産生され得る。しかし、本発明の好ましい態様では、ベクターの融合タンパク質は、哺乳類の発現系で産生される。融合タンパク質の結合部分と認識部分とは、リンカーにより隔てられていることが好ましい。リンカーの長さは、15アミノ酸残基未満が典型的であり、10アミノ酸残基未満が好ましく、5アミノ酸残基未満が最も好ましい。
【0050】
この好ましい態様の実施形態では、ベクターは、複数のフェリチンサブユニットである結合部分を含み、該サブユニットは、集合して、粒子の外表面上に認識部分が存在する粒子を形成する。かかる粒子は、更なる治療剤と共に、磁性物質又は磁化可能物質を内封していてもよい。
【0051】
ベクターにおける融合タンパク質の使用は、多くの更なる利点を有する。ベクター中の融合タンパク質の認識腕部(例えばscFv)の配向が制御されるため、該融合タンパク質の標的に結合しやすくなる。また融合タンパク質は、単一融合タンパク質に複数の認識部分を組み込める可能性を高める。これら認識部位は、同じ標的に対するものであってもよく、異なる標的に対するものであってもよい。
【0052】
融合タンパク質の使用は、結合部分がフェリチンを含む場合と同様に、結合部分が、集合して粒子を形成する幾つかのサブユニットで構成されている場合特に有利である。産生中、結合部分をコードする遺伝的に操作されたヌクレオチド配列がインビトロで発現する。産生されたタンパク質/ペプチドは、該タンパク質/ペプチドを粒子に集合させることができる条件に供される。多機能性粒子を作製するために、異なるヌクレオチド配列を一緒に発現させてもよい。例えば、サブユニットの一部のみが認識部分を提示する粒子を作製するために、フェリチンのみをコードする配列を、フェリチン及び認識部分の融合タンパク質をコードする配列と共に発現させてもよい。最適数の認識部分を提示する集合粒子を得るために、異なるヌクレオチド配列の発現比を制御してもよい。かかる系を用いて立体障害の作用を最低限に抑え、標的に対する粒子の結合を最適化することができる。
【0053】
上記のように、好ましい態様では、ベクターは1以上の認識部分を含み、該認識部分は抗体又は抗体断片であることが好ましい。抗体は、外来抗原の認識に関与し、脊椎動物で発現する免疫グロブリン分子である。抗体は、Bリンパ球又はB細胞として知られている特殊な種類の細胞により産生される。個々のB細胞が生成するのは1種の抗体のみであり、該抗体は単一エピトープを標的とする。B細胞が抗原に遭遇すると、該抗原を認識し、分裂し、抗体産生細胞(又は形質細胞)に分化する。
【0054】
大部分の抗体の基本構造は、2種の異なる種類の4本のポリペプチド鎖から構成される(図4)。小(軽)鎖の分子質量は、25キロダルトン(kDa)であり、大(重)鎖の分子質量は、50kDa〜70kDaである。軽鎖は、1個の可変(VL)領域と1個の定常(CL)領域とを有する。重鎖は、1個の可変領域(VH)と抗体のクラスによって3個〜4個の定常(CH)領域とを有する。重鎖の第1定常領域及び第2定常領域は、様々な長さのヒンジ領域によって隔てられている。2本の重鎖は、ジスルフィド架橋を介してヒンジ領域で連結されている。ヒンジ領域の下の重鎖領域は、Fc領域(結晶化可能断片)としても知られている。ヒンジ領域の上の軽鎖及び重鎖複合体は、Fab(抗体断片)領域として知られており、2個の抗体結合部位を合わせてF(ab)2領域として知られている。重鎖の定常領域は、補体カスケードの分子及び細胞表面上の抗体受容体を含む免疫系の他の構成要素に結合することができる。抗体の軽鎖及び重鎖は、多くの場合ジスルフィド架橋により連結している複合体を形成し、該複合体は、可変末端で所定のエピトープに結合することができる(図4)。
【0055】
抗体の可変遺伝子は、突然変異、体細胞組み換え(遺伝子シャフリングとしても知られている)、遺伝子変換、及びヌクレオチド付加事象により形成される。
【0056】
scFv抗体は、以下を含む膨大な数の標的に対して産生され得る:
1.ウイルス:Torrance et al.2006.Oriented immobilisation of engineered single−chain antibodies to develop biosensors for virus detection.J Virol Methods.134(1−2)164−70
2.C型肝炎ウイルス:Gal−Tanamy et al.2005.HCV NS3 serine protease−neutralizing single−chain antibodies isolated by a novel genetic screen.J Mol Biol.347(5):991−1003)及びLi and Allain.2005.Chimeric monoclonal antibodies to hypervariable region 1 of hepatitis C virus.J Gen Virol.86(6)1709−16
3.癌:Holliger and Hudson.Engineered antibody fragments and the rise of single domains.Nat Biotechnol.23(9)1126−36。
【0057】
したがって、最も好ましい実施形態では、本発明は、体内の1以上の標的を認識するための、1以上の抗体の1以上の抗原結合腕部と、該抗原結合腕部に付着している金属結合タンパク質の1以上のコピーとから典型的には形成される、多認識部分ベクターを使用する。典型的には、用いられる抗体断片は、単鎖ペプチド(sc)を作製するために可動性リンカーにより接合されている重鎖及び軽鎖の可変領域(VH及びVL)を含み、これは通常scFvと呼ばれる。ベクター中の認識部分及び結合部分の双方がタンパク質及び/又はポリペプチドから形成されるとき(即ち、ベクターがキメラタンパク質を含むとき)、該ベクターは、当該技術分野で周知である組み換え技術を用いて部分的に形成することができる。これを図3に図示する。しかし、認識部分のいずれかが他の種から形成される場合、ベクターは、ある種を別の種に単純に付着させることにより作製できる。
【0058】
本発明のベクターは、必要に応じてベクターを破壊することができるように、結合部分と認識部分との間、認識部分内、又は結合部分が集合粒子である場合は粒子のサブユニット間に特異的切断部位を所望により組み込んでもよい。これは、具体的には、ベクターに特異的プロテアーゼ切断部位を組み込むことにより達成され得る。
【0059】
例えば、特定のプロテアーゼの切断部位をもたらす、ある長さのアミノ酸残基により結合部分のサブユニットを連結してもよい。使用中、ベクターがプロテアーゼに曝露されると、該ベクターは分解され、内封されていた治療剤を放出する。特定の細胞種又は組織においてのみ認識される特異的切断部位を用いてもよく、これにより治療剤の選択的放出が行われる。或いは、切断部位は、プロテアーゼの作用により認識部分の上方のセグメントを除去して、異なる特異性を有する第2の認識部分を「露出させる」ことができるように、認識部分内に存在してもよい。
【0060】
本発明の更なる態様は、上記本発明における特定の用途に用いられる医薬組成物を提供する。具体的には、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
(c)認識部分と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む医薬組成物が提供される。
【0061】
前記結合部分及び前記認識部分が、上記種類の融合タンパク質の一部を形成することが特に好ましい。
【0062】
上記ベクターの結合部分、治療剤、認識部分、及び磁性物質又は磁化可能物質に関する記載は、医薬組成物にも適用される。
【0063】
本発明の医薬組成物は、賦形剤、担体、溶媒、希釈剤、アジュバント、及びバッファから選択される更なる成分を含んでいてもよい。
【0064】
ある実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質が治療剤として用いられるが、他の実施形態では、医薬組成物は、磁性物質又は磁化可能物質ではなく、結合部分に付着する治療剤を含む。
【0065】
磁性物質又は磁化可能物質が治療剤である場合、医薬組成物は、患者における温熱療法に対する感受性の高い罹患細胞又は罹患組織の治療に用いるためのものであり、患者に電磁場を印加する前に投与される。この実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質は、電磁場を印加して患者に温熱療法を行うのに好適である。
【0066】
フェリチン仲介性電磁温熱療法を腫瘍性細胞の選択的治療で用い得ることが、当該技術分野において示唆されている(Babincova M. et al.,Medical Hypotheses(2000)Volume54,No.2,pages177−179)。具体的には、癌細胞は正常非癌細胞よりも高温に対する感受性が高いことが知られている。Babincovaらは、強磁性粒子又はフェライト粒子の懸濁液を含む磁性流体と共に腫瘍本体を注入するという初期の研究について記載した。交番磁場の印加により粒子は加熱される。Babincovaらは、フェリチン遺伝子を患者の体内の癌細胞に特異的に送達して、これら悪性細胞におけるフェリチン濃度を高める遺伝子治療技術を提唱している。
【0067】
本発明は、上記医薬組成物を用いる他のアプローチを提供する。具体的には、図2に示すように、認識部分を用いて、結合部分により結合乃至内封されている磁性物質又は磁化可能物質を癌細胞に送達することができる。具体的には、認識部分は、磁性物質又は磁化可能物質が腫瘍中に濃縮されるように、癌細胞上で発現しているマーカーを標的とする。交番磁場の印加により、結合部分中の磁性物質又は磁化可能物質が加熱され、温度が上昇する。これにより、腫瘍性細胞は死滅するが、非腫瘍性細胞は影響を受けず、生存し続ける。
【0068】
本発明のこの態様の他の実施形態では、医薬組成物を用いて体内における他の種類の異常な組織増殖又は機能を治療することもできる。例えば、前記医薬組成物を用いて、甲状腺機能亢進症、嚢腫成長、及びアテローム性動脈硬化巣などの症状を治療することができる。具体的には、甲状腺組織を標的とする認識部分を含む医薬組成物を用いて、甲状腺機能亢進症の治療において甲状腺の一部を破壊又は除去することができる。更に、アテローム性動脈硬化巣は、多数の局在マーカーの増加に関連している。1以上のこれらマーカーを標的とする認識部分を含む医薬組成物を用いて、(特にその形成初期において)アテローム性動脈硬化巣を破壊することができる。
【0069】
上の段落における薬剤は、認識部分を用いて局在するが、電磁石を用いる本発明の方法を用いてターゲティングされることが好ましい場合もある。
【実施例】
【0070】
次に、一例として以下の具体的な実施形態を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0071】
(実施例1:血餅の治療)
本発明のベクターを用いて患者の血管内の血餅が治療されると考えられる。ベクターは、フェリチン及び抗トロンビンIII抗体断片を含む融合タンパク質を含む。ベクターは、磁性物質又は磁化可能物質としてFe2O3を更に含む。
【0072】
ベクターは、カテーテルの片方の端部の外側に存在する電磁石に付着し、前記カテーテルは、大腿動脈を通して患者に挿入される。一旦可能な限り血餅部位の近くにカテーテルが配置されると、電磁石のスイッチを切り、ベクターを放出させる。融合タンパク質の抗トロンビンIII部分は、凝固系酵素に結合し、更なる凝固を防ぐと考えられる。
【0073】
以下の実験の詳細は、融合タンパク質の認識部分及び結合部分を作製し得る方法について示す。
【0074】
(実施例2:融合タンパク質の設計及び作製)
本発明を例証するために、市販のマウス抗フィブロネクチン抗体を用いて、融合タンパク質を設計した。短い可動性リンカーによりMT2又はフェリチンのいずれかに遺伝的に連結している抗フィブロネクチンscFvからなる融合タンパク質を作製した。この実施例は、融合タンパク質の構築、該融合タンパク質の特徴付け及び単離について詳述する。
【0075】
抗フィブロネクチンフェリチン又はMT2融合タンパク質の設計は、マウス抗フィブロネクチン抗体のVH遺伝子及びVL遺伝子のベクターへのクローニングに基づいていた。該VH遺伝子及びVL遺伝子は、小さな非荷電アミノ酸から構成される短い可動性リンカーにより連結されていた。VL遺伝子の3’末端の直後において、別の短い可動性リンカーがフェリチン遺伝子又はMT2遺伝子のいずれかにつながっていた。両方の融合タンパク質は、ニッケルカラムで精製するための6−ヒスチジン領域を有していた。融合タンパク質の翻訳は、フェリチン軽鎖遺伝子又はMT2遺伝子の3’末端に挿入されている終止コドンで終結した。これらエレメントを全て含むプラスミドベクターを用いて、発現用細菌を形質転換した。
【0076】
フェリチン及びMT2遺伝子は、cDNAライブラリから入手した。cDNAライブラリは、細胞又は組織からmRNAを得、逆転写酵素として知られている酵素を用いて該mRNAをcDNAに逆転写し、各個別のcDNAをプラスミドベクターにクローニングすることにより形成される(図8を参照)。
【0077】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質の作製>
<<背景>>
フェリチンは、直径12nm、分子量480kDaのタンパク質である。該タンパク質は、鉄を包む大きな空洞(直径8nm)からなる。該空洞は、非共有結合により保持されている4へリックスバンドルに折り畳まれた24個のフェリチンポリペプチドの自発性集合により形成される。フェリチンのアミノ酸配列、延いては二次構造及び三次構造は、動物と植物との間で保存されている。細菌のタンパク質構造は、真核生物と同じであるが、配列は異なる。脊椎動物では、2種のサブユニット(重鎖(H)及び軽鎖(L))がフェリチンを形成しており、それぞれのサブユニットが触媒活性(H)オキシダーゼ部位及び触媒不活性(L)オキシダーゼ部位を有している。重鎖と軽鎖との比は、要件によって変化する。融合タンパク質の構築で用いられるフェリチン重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列は、以下の通りである。
フェリチン重鎖(分子量21,096.5Da):
MTTASTSQVRQNYHQDSEAAINRQINLELYASYVYLSMSYYFDRDDVALKNFAKYFLHQSHEEREHAKLMKLQNQRGGRIFLQDIKKPDCDDWESGLNAMECALHLEKNVNQSLLELHKLATDKNDPHLCDFIETHYLNEQVKAIKELGDHVTNLRKMGAPESGLAEYLFDKHTLGDSDNES(配列番号3)
フェリチン軽鎖(分子量20,019.6Da):
MSSQIRQNYSTDVEAAVNSLVNLYLQASYTYLSLGFYFDRDDVALEGVSHFFRELAEEKREGYERLLKMQNQRGGRALFQDIKKPAEDEWGKTPDAMKAAMALEKKLNQALLDLHALGSARTDPHLCDFLETHFLDEEVKLIKKMGDHLTNLHRLGGPEAGLGEYLFERLTLKHD(配列番号4)
【0078】
抗フィブロネクチンscFvアミノ酸配列と合わせた、融合タンパク質の単一ポリペプチドの予測配列は、以下の通りである(抗体重鎖遺伝子と抗体軽鎖遺伝子との間、及び抗体軽鎖とフェリチン重鎖との間のリンカー配列を小文字で強調する):
LVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTSRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSSGDgssggsggASTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIKsgggMTTASTSQVRQNYHQDSEAAINRQINLELYASYVYLSMSYYFDRDDVALKNFAKYFLHQSHEEREHAKLMKLQNQRGGRIFLQDIKKPDCDDWESGLNAMECALHLEKNVNQSLLELHKLATDKNDPHLCDFIETHYLNEQVKAIKELGDHVTNLRKMGAPESGLAEYLFDKHTLGDSDNESMSSQIRQNYSTDVEAAVNSLVNLYLQASYTYLSLGFYFDRDDVALEGVSHFFRELAEEKREGYERLLKMQNQRGGRALFQDIKKPAEDEWGKTPDAMKAAMALEKKLNQALLDLHALGSARTDPHLCDFLETHFLDEEVKLIKKMGDHLTNLHRLGGPEAGLGEYLFERLTLKHD(配列番号1)
ポリペプチド構成要素の分子量は、65.550kDaであった。
【0079】
<<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質遺伝子の組立>>
PCRを用いてヒト肝臓cDNAライブラリからフェリチン重鎖遺伝子及びフェリチン軽鎖遺伝子を増幅させた(図9aを参照)。PCR産物は、予想されたサイズ(〜540bp)であった。オーバーラップPCRを用いてこれらPCR産物を用いてライゲーションした(図9b−PCR産物は、予想されたサイズである)。
【0080】
オーバーラップPCR産物をゲル精製し、配列解析のために配列決定ベクターにライゲーションした。これは、フェリチン重鎖及び軽鎖がオーバーラップしている遺伝子を含む配列決定ベクターで細菌を形質転換することを含む。次いで、形質転換された細菌を抗生物質含有プレート上に広げ、クローンを分離させた。細胞を一晩インキュベートして、コロニーを形成させた。次いで、個々のクローンをプレートから取り、液体培地中で増殖させた。各クローン由来のプラスミドを単離し、PCRを用いて分析した(図9c)。クローン4が、予想される配列を含んでいることが見出された。したがって、この後の全ての更なる研究では、このクローン由来のDNAを用いた。
【0081】
マウス抗ヒトフィブロネクチン抗体の可変重鎖及び軽鎖遺伝子を、モノクローナルハイブリドーマからPCRで増幅させた。これら遺伝子は、可動性リンカー領域により既に連結され、scFVを形成していた。PCRを用いてこのscFv遺伝子融合体を増幅させた。フェリチンポリジーンオーバーラップ産物と並んで、このscFv遺伝子融合体増幅産物を図10aのDNAゲルに見出すことができる。明らかなバンドをゲルから切り出し、DNAを精製した。次いで、これを更なるオーバーラップPCRで用いて、scFv及びフェリチンポリジーンを複合体化させた(図10b)。矢印で示すバンドは、scFv:フェリチン融合体の予想されるサイズのバンドである。これを切り出し、更に使用するためにDNAを精製した。
【0082】
これを行うために用いられたプライマーは、プラスミドにライゲーションするために、エンドヌクレアーゼ(二本鎖DNAの特定の配列を切断することができる酵素)でDNAを切断できる配列を含んでいた。
【0083】
ゲル精製後、制限酵素(エンドヌクレアーゼ)BamHI及びEcoRIを用いて、scFv:フェリチンPCR産物を切断した。次いで、精製された切断産物を2つの発現ベクター:pRSET及びpET26bにクローニングした。上記の通りクローンを単離し、陽性クローンを同定するためのPCRの結果を図11に見出すことができる。
【0084】
配列解析のために、プラスミドpRSETを含むセットからコロニー3〜5、及び7と、プラスミドpET26bを含むセットからコロニー6を選択した。
【0085】
得られたデータは、pRSETのクローン4及び5と、pET26bのクローン6が、scFv:フェリチンコンストラクトを含んでいることを示した。pRSETのクローン4をタンパク質発現に用いた。
【0086】
<<抗フィブロネクチンscFv:フェリチン融合タンパク質の発現>>
融合タンパク質の発現を確認するために、LBブロス(Luria−Bertaniブロス:1リットル当たり10gのトリプトン、5gの酵母抽出物、10gのNaCl)中で5mLの培養物3つを増殖させた。様々な時間、IPTG(イソプロピルβ−D−1−チオガラクトプレノシド)を用いて細胞のタンパク質発現を誘導した。次いで8Mの尿素で培養物を溶解させ、SDS−PAGEを用いて分析した。クマシーブルーを用いてゲル中のタンパク質内容物を染色した(結果は図12を参照)。抗ポリヒスチジン抗体を用いてウエスタンブロットを実施し、融合タンパク質を特異的に同定した(図12)。
【0087】
接種の2時間後、3時間後、及び4時間後の時点で誘導を行った。
【0088】
ブロット中に見られるバンドは、融合タンパク質が発現しており、且つ抗ヒスチジン抗体を用いて該融合タンパク質を検出できることを示した。ポリペプチドのサイズは、約75kDa〜約85kDaであった。発現量は比較的多く、クマシーブルーで染色したゲル中に見られる非常に暗いバンドに対応する融合タンパク質のバンドと比べて高発現していることは明らかであった。接種の3時間後に誘導することにより、比較的高水準の発現が得られたため、これを次の発現のために用いた。
【0089】
<抗フィブロネクチン:MT2融合タンパク質の作製>
<<背景>>
メタロチオネインは、細胞内に存在する低分子量のシステインリッチなタンパク質である。これらタンパク質は、全ての真核生物で見出され、強力な金属結合能及びレドックス能を有している。MT−1及びMT−2は、様々な金属、薬剤、及び炎症メディエータにより肝臓において急速に誘導される。MT2は、カルボキシル(α−ドメイン)末端及びアミノ(β−ドメイン)末端において2つの金属結合クラスタを介して7つの二価遷移金属に結合する。20個のシステイン残基が、結合プロセスに関与している。
【0090】
MT2の配列は、以下の通りである:
MDPNCSCAAGDSCTCAGSCKCKECKCTSCKKSCCSCCPVGCAKCAQGCICKGASDKCSCCAPGSAGGSGGDSMAEVQLLE(配列番号5)。
【0091】
抗フィブロネクチンscFvアミノ酸配列と合わせた、融合タンパク質の単一ポリペプチドの予測配列は、以下の通りである(抗体重鎖遺伝子と抗体軽鎖遺伝子との間、及び抗体軽鎖とMT2重鎖との間のリンカー配列を小文字で強調する):LVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSSGDgssggsggASTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIKsgggMDPNCSCAAGDSCTCAGSCKCKECKCTSCKKSCCSCCPVGCAKCAQGCICKGASDKCSCCAPGSAGGSGGDSMAEVQLLE(配列番号2)。
【0092】
<<抗フィブロネクチン:MT2融合タンパク質遺伝子の組立>>
PCRを用いてヒト肝臓cDNAライブラリからメタロチオネインII遺伝子を増幅させた(図13)。PCR産物は、予想されたサイズ(〜200bp)であった。
【0093】
BglII制限酵素を用いてPCR産物を切断し、既に切断されているプラスミド(Xa因子ベクター)にライゲーションした。
【0094】
選択されたクローンのコロニーPCRにより、選択された全てのクローンのバンドが見られた(図14)。配列解析のためにクローン2、4、及び9を選択した。更なる研究ではクローン9を用いた。
【0095】
<<抗フィブロネクチンscFv:MT2融合タンパク質の発現>>
scFv:MT2融合タンパク質の発現を確認するために、フェリチン融合タンパク質のように、様々な時点において(IPTGで)誘導されたLBブロス中で5mLの培養物を3つ増殖させた。8Mの尿素を用いて培養物を溶解させ、クマシーブルーで染色したSDS−PAGEゲルを用いて分析し、抗ヒスチジン抗体を用いてブロットした(図15)。接種の4時間後に誘導された細胞は、僅かに多いタンパク質を産生した(両方のゲルのレーン3)。これら増殖条件を後のタンパク質発現で用いた。
【0096】
<<融合タンパク質の精製>>
封入体を単離し、洗浄し、再可溶化させることによる可溶性タンパク質の単離を行った。
【0097】
プロトコルの完了には約1週間かかった。クマシーブルーで染色されたゲルの写真と、再可溶化されたscFv:フェリチン融合タンパク質及びscFv:MT2融合タンパク質のウエスタンブロットの写真とを、図16中に見出すことができる。融合タンパク質を丸で囲んだ。両方のゲルのレーン2がフェリチンであり、両方のゲルのレーン3がMT2である。レーン1は、タンパク質分子量ラダーである。
【0098】
これから、融合タンパク質がうまく発現し、濃縮されていることが分かる。磁化プロトコル及び更なる実験でこれらタンパク質を用いた。
【0099】
(実施例3:SPR分析)
SensiQ機器(ICX Nomadics)を用いる表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイにおいて、抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質及び抗フィブロネクチンMT2融合タンパク質の封入体調製物を用いた。
【0100】
これら実験では、フィブロネクチンペプチドをカルボキシルチップ表面にカップリングさせた。次いで、融合タンパク質調製物をチップ上に流し、会合速度(Ka)及び解離速度(Kd)を測定した。
【0101】
<分析用融合タンパク質サンプル>
以下の表2及び表3に記載されるランニングバッファ中で0.0013μM〜0.133μMの濃度の融合タンパク質のサンプルを6種作製した。
【表2】
【表3】
【0102】
<メタロチオネイン>
サンプル(サイクル1〜6)=0.0013μM〜0.133μMのメタロチオネイン融合タンパク質20μL
アッセイラン=Mab&Glyアッセイサイクル(上記の通り)
【0103】
SensiQ Qdat分析ソフトウェア、及び動態パラメータ(Ka、Kd)を算出するためのデータに適合したモデルを用いて上記サイクルのセンサグラムを重ねた。Kdの最良推定値は、データの解離部分にのみモデルを適合させることにより得られた。結果を図17aに示す。0.00503s−1のKdに対し、2.289×10−9MのKdが得られた(Kaは2.197×106M−1s−1)。
【0104】
<フェリチン>
サンプル(サイクル1〜6)=0.0013μM〜0.133μMのフェリチン融合タンパク質20μL
アッセイラン=Mab&Glyアッセイサイクル(上記の通り)
【0105】
SensiQ Qdat分析ソフトウェア、及び動態パラメータ(Ka、Kd)を算出するためのデータに適合したモデルを用いて上記サイクルのセンサグラムを重ねた。Kdの最良推定値は、データの解離部分にのみモデルを適合させることにより得られた。結果を図17bに示す。0.00535s−1のKdに対し、6.538×10−10MのKdが得られた(Kaは8.183×106M−1s−1)。
【0106】
<結果>
上記実験データから、フィブロネクチンのエキストラドメインB(aa16〜42)抗原が、うまくSensiQチップ上にコーティングされたことが分かった。予想通り、75kDaのメタロチオネイン融合タンパク質及び270kDaのフェリチン融合タンパク質の両方が、抗原を特異的に認識し、結合した。融合タンパク質と抗原との相互作用に関する動態データを推定し、両方の融合タンパク質の動態データが類似しており、大部分の抗体/抗原相互作用の範囲である10−8M〜10−10Mと比べて、両方の融合タンパク質について予想される範囲であること、即ち、Kdが10−9Mの範囲であることを見出した。
【0107】
したがって、この機器を用いて得られた値は、比較的親和性の高い抗体の結合親和性に匹敵する結合親和性を示唆する。更に、得られたデータは、融合タンパク質が、抗原に対する複数の結合部位を有することを示唆する。このことは、フェリチン融合タンパク質については予想されていた。しかし、MT2融合タンパク質については予想されておらず、MT2融合タンパク質は、二量体又はより高次の多量体タンパク質を形成しているため、結合親和力が増加していることが示唆された。
【0108】
(実施例4:フェリチンの磁化)
フェリチンは、通常水和酸化鉄(III)を含む。常磁性フェリチンを作製するために、より強い磁性を有するマグネタイト(Fe3O4)にこれらイオンを置換した。この実験に用いられる方法には、制御条件下でアポフェリチンの鉄イオンを添加し、これらイオンを酸化させることが含まれていた。
【0109】
<材料>
・逆浸透水(RO水)
・50mMのN−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)バッファ(pH8.6)(Sigma A6659)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)(Sigma 317594)
・0.1Mの硫酸アンモニウム鉄(II)
・ウマ脾臓アポフェリチン(Sigma A3641)
【0110】
<方法>
トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)をオーブン内で30分間80℃に加熱し、Me3Nを除去した後、室温まで冷却した。114mgのTMAを15mLのRO水に添加し、0.07M溶液を作製した。使用前に鉄及びTMA溶液を15分間窒素パージした。
【0111】
AMPSOバッファ(1リットル)を、1時間N2で脱気した。3.0mLのアポフェリチン(66mg/mL)をAMPSOバッファに添加し、該溶液を更に30分間脱気した。1リットルの容器中のAMPSO/アポフェリチン溶液を、65℃に予め加熱しておいた水浴中に入れた。該溶液中からN2供給管を取り出し、該溶液の表面上に浮かせて該溶液を嫌気条件下に維持した。硫酸アンモニウム鉄の最初の添加により、溶液中に存在する可能性のある任意の残留酸素イオンを除去する。
【0112】
0.1Mの硫酸アンモニウム鉄及びTMAバッファのアリコートを以下のように15分間に1回添加した。
添加1回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL
添加2回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加3回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加4回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加5回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加6回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加7回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加8回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
【0113】
Fe及びTMAの後半の添加時には、溶液の色が淡黄色から暗茶色に変化し、暗色沈殿が全体に分散した。この溶液を、この時点から「マグネトフェリチン」と呼ぶ。
【0114】
強いネオジムのリング状磁石を瓶に押しつけた状態で、マグネトフェリチン溶液を一晩室温でインキュベートした。次の日、図18の写真から分かるように、暗色固体物質が磁石に引き寄せられていた。
【0115】
<マグネトフェリチンの濃縮>
500mLのマグネトフェリチン溶液を、磁石上の5つのMacs(登録商標)LSカラムに通した(約100mLのマグネトフェリチンが各カラムを通過した)。カラムを通過した溶液(「フロースルー」と呼ばれる)をDuran瓶に回収した。磁石からカラムを取り外し、3mLのPBSを添加し、供給されているプランジャを用いることにより、3mLのPBSを用いて捕捉された物質を各カラムから溶出し、各カラムから約4.5mLを得た。後で分析するために、約1mLを2℃〜8℃で保存した(「透析前濃縮マグネトフェリチン」と呼ぶ)。溶出された溶液の残り(〜20mL)を4℃で一晩5リットルのPBSで透析し、過剰のFe及びTMAを除去した(「透析後濃縮マグネトフェリチン」と呼ぶ)。溶液の色の変化を記録した。マグネトフェリチンは元来暗茶色であったが、フロースルーは淡黄色になり、Macs(登録商標)カラムで濃縮された物質は、暗茶色〜黒色であった。
【0116】
透析管(Medicell International Ltd.、分画分子量12〜14,000ダルトン、〜15cm)をRO水中で10分間インキュベートし、管を柔らかくした。磁性的に単離して濃縮したマグネトフェリチンを透析管に移し、一晩撹拌しながら2℃〜8℃で5リットルのPBS中にてインキュベートした。2℃〜8℃で透析を続けながら、PBS溶液を3回交換し、次の日は2時間間隔で交換した。
【0117】
<マグネトフェリチンの分析>
磁石を用いて単離された磁性タンパク質の量を比較するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を実施した。
【0118】
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL RO水溶液)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・1質量%のウシ血清アルブミン(BSA(Celliance 82−045−2))−PBS溶液
・ウマ脾臓アポフェリチン(Sigma Aldrich A3641)
・ウサギ抗ウマフェリチン抗体(Sigma Aldrich F6136)
・ヤギ抗ウサギ抗体(Sigma A3687)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNCカタログ番号:468667)
【0119】
<<方法>>
マグネトフェリチンを定量するために、アポフェリチンの希釈液(50μg/mL、25μg/mL、12.5μg/mL、6.25μg/mL、3.125μg/mL、及び1.5625μg/mL)を作製した。
【0120】
マグネトフェリチン(未精製)、透析前濃縮マグネトフェリチン、透析後マグネトフェリチン、及びフロースルーを、以下のように炭酸塩バッファで希釈した。
マグネトフェリチン、透析前、及び透析後の希釈:
100倍希釈、200倍希釈、400倍希釈、800倍希釈、1,600倍希釈、3,200倍希釈、6,400倍希釈、及び12,800倍希釈
フロースルー:
10倍希釈、20倍希釈、40倍希釈、80倍希釈、160倍希釈、320倍希釈、640倍希釈、及び1,280倍希釈
【0121】
100μLの各溶液を、二連でマイクロタイタープレートのウェルに添加した。炭酸塩バッファ(100μL)を陰性対照として2つのウェルに添加した。プレートを4℃で一晩インキュベートした。次の日、溶液を軽くはじき飛ばし(flicked off)、室温で1時間、200μLの1質量%BSAを用いてブロッキングした。1ウェル当たり300μLのPBSで3回洗浄した後、ウェルを軽く叩いて乾かし、10μg/mLの抗ウマフェリチン抗体100μLを添加した。これを室温で1時間インキュベートした後、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。AP複合体化抗ウサギ抗体を、7.43μg/mLの濃度になるようPBSで3,500倍に希釈し、室温で1時間インキュベートした。抗体複合体を除去し、上記のようにウェルを洗浄した。AP基質(100μL)を各ウェルに添加し、15分間顕色させた後、停止液を添加した。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher)を用いて吸光度を記録した。
【0122】
Macs(登録商標)カラムは、フロースルー中に見出されたマグネトフェリチンの量の35倍のマグネトフェリチンを保持しており、これはタンパク質の磁化が成功したことを示す。
【0123】
<アポフェリチンの作製/ウマ脾臓フェリチンの鉱質除去>
<<材料>>
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・チオグリコール酸(Sigma T6750)
・ウマ脾臓フェリチン(Sigma 96701)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
【0124】
<<方法>>
透析管をRO水中で10分間柔らかくした。0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ10mLを、切り取った透析管中のウマ脾臓フェリチン(125mg/mL)1mLに添加した。1時間窒素パージしておいた0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(〜800mL)中に透析袋を移した。チオグリコール酸(2mL)をバッファに添加し、2時間窒素パージを続けた。更なる1mLのチオグリコール酸を酢酸ナトリウムバッファに添加し、その後更に30分間窒素パージを行った。酢酸ナトリウムバッファ(800mL)を交換し、窒素パージを続けた。フェリチン溶液が無色になるまで、鉱質除去手順を繰り返した。窒素パージを停止し、撹拌しながら1時間PBS(2L)でアポフェリチン溶液を透析した。PBSを交換し(3リットル)、一晩2℃〜8℃にてPBSでアポフェリチン溶液を透析した。
【0125】
<<結果>>
フェリチン溶液の色は、手順中に淡茶色から無色に変化し、これは鉄が除去されたことを示す。
【0126】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質に対する熱処理の分析>
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL水溶液)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
・1質量%のウシ血清アルブミン(BSA(Celliance 82−045−2))−PBS溶液
・フィブロネクチンペプチド
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・抗ヒトフェリチンマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz SC51887)
・抗マウスアルカリホスファターゼ抗体(Sigma A3562)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNCカタログ番号:468667)
【0127】
<<方法>>
100μL(100μg/mL)のscFv:フェリチンを薄壁PCRチューブに移し、60℃で30分間サーモサイクラー内にて加熱した。
【0128】
マイクロタイタープレートのウェルを、炭酸塩バッファで15μg/mLに希釈したフィブロネクチンペプチド(1.5mg/mLで供給)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、室温で1時間1質量%BSA−PBS溶液を用いてプレートをブロッキングした。これを軽くはじき飛ばし、PBSでプレートを3回洗浄した。scFv:フェリチン融合タンパク質及び熱処理したscFv:フェリチン融合タンパク質を、33μg/mL(各100μL)の濃度でウェルに添加した。フェリチン融合タンパク質を室温で2時間インキュベートした後、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積で各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を希釈し(50μL+950μLのPBS)、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。全てのウェルに基質を添加し、室温で45分間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した。
【0129】
scFv:フェリチンは、フィブロネクチンに対する結合能を保持しており、60℃で30分間加熱した後も抗ヒトフェリチンモノクローナル抗体により検出可能である(図20)。
【0130】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質の鉱質除去>
<<材料>>
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ
・チオグリコール酸(70%w/w Sigma T6750)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
【0131】
<<方法>>
scFv:フェリチン融合タンパク質を、−20℃から室温に解凍した。100μg/mLの該融合タンパク質を9mL、柔らかくした透析管に分注した。該融合タンパク質を収容している管を、合計1mLの酢酸ナトリウムバッファですすぎ、これを9mLのタンパク質に添加した(0.9mg/mL溶液が得られた)。800mLの酢酸ナトリウムバッファを15分間窒素パージした後、透析袋を入れた。次いで、溶液を更に2時間パージした。窒素パージを続けていたバッファに、2mLのチオグリコール酸を添加した。更に2時間後、1mLのチオグリコール酸を更に添加した。バッファを交換し(3mLのチオグリコール酸を含有している予めパージした酢酸ナトリウムバッファ800mL)、窒素下で1時間透析を続けた。次いで、室温(N2無)の2リットルのPBSに透析袋を移し、次いで3リットルのPBS中に移して4℃にて一晩放置した。次いで、鉱質除去された融合タンパク質を用いて、以下のように鉄添加及び制御酸化により常磁性融合タンパク質を作製した。
【0132】
<磁性scFv:フェリチンの作製>
<<材料>>
・逆浸透水(RO水)
・50mMのN−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)バッファ(pH8.6)(Sigma A6659)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)(Sigma 317594)
・0.1Mの硫酸アンモニウム鉄(II)
【0133】
トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)をオーブン内で30分間80℃に加熱して、Me3Nを除去した後、室温まで冷却した。114mgのTMAを15mLのRO水に添加して、0.07Mの溶液を作製した。使用前に、鉄及びTMA溶液を15分間窒素パージした。
【0134】
窒素下で撹拌しながら室温で2時間、1リットルのAMPSOバッファを用いて、透析袋(上に詳述した)内に収容されている鉱質除去された融合タンパク質を透析した。鉱質除去されたscFv:フェリチン(〜10mL)を三角フラスコに移した。窒素パージして残留酸素を除去しながら、鉱質除去されたタンパク質溶液に18μLの鉄溶液を添加した。25分後、15μLの鉄及び10μLのTMAを添加した。
【0135】
次いで、以下に記載する量の鉄及びTMAバッファを15分間隔で添加した。
添加3回目 鉄30μL+TMA20μL
添加4回目 鉄15μL+TMA10μL
添加5回目 鉄15μL+TMA10μL
添加6回目 鉄15μL+TMA10μL
【0136】
磁化されたタンパク質を、Macs(登録商標)LSカラムに通した。フロースルーをもう1度通過させ、捕捉効率を高めた。磁石からカラムを取り外し、1mLのPBSを添加し、プランジャを用いることにより、磁化されたタンパク質をカラムから溶出した(溶出液 約2mL)。これは、カラム上でタンパク質が2倍希釈されたことを表す。
【0137】
以下に詳述するような分析のために、溶出されたタンパク質及び対照をマイクロタイタープレートにコーティングした。
【0138】
<ELISAによるscFv:マグネトフェリチン融合タンパク質の分析>
磁化された融合タンパク質が、抗フェリチンモノクローナル抗体に対する結合能を保持しているかどうかを確認するために、酵素結合免疫吸着アッセイを行った。
【0139】
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL水溶液、pH9.6)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mLのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・フィブロネクチンペプチド
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・抗ヒトフェリチンマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz SC51887)
・抗マウスアルカリホスファターゼ抗体(Sigma A3562)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNC Cat:468667)
【0140】
<<方法>>
−融合タンパク質によるウェルのコーティング−
炭酸塩バッファで3倍希釈したscFv:フェリチン(未処理)、scFv:マグネトフェリチン、Macs(登録商標)カラムから溶出されたscFv:マグネトフェリチン、及びフロースルーでウェルをコーティングした。プレートを週末の間4℃でインキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、室温で1時間1質量%BSA−PBS溶液を用いてブロッキングした。これを軽くはじき飛ばし、PBS(各洗浄につき300μL/ウェル)を用いてプレートを3回洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を10μg/mLに希釈し、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。基質を全てのウェルに添加し、室温で1時間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した(図21aを参照)。
【0141】
−フィブロネクチンによるウェルのコーティング−
炭酸塩バッファで15μg/mLに希釈した100μLのフィブロネクチンペプチド(1.5mg/mLで供給)で、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングした。該プレートを2℃〜8℃で一晩インキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、300μLのPBSでウェルを3回洗浄した。二連で適切なウェル(100μL)に、scFv:フェリチン融合タンパク質を未希釈で添加した。次いで、プレートを室温で1時間インキュベートした。溶液を軽くはじき飛ばし、300μLのPBSでウェルを3回洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を10μg/mLに希釈し、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。基質を全てのウェルに添加し、室温で45分間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した(図21bを参照)。
【0142】
磁化された融合タンパク質をMacs(登録商標)カラムにより濃縮しても、該タンパク質は、依然としてモノクローナル抗フェリチン抗体により認識された。これは、抗フィブロネクチン−フェリチン融合タンパク質が、磁化されても構造的完全性を保持していたことを示す。また上記データは、磁化された抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質が、その標的抗原に対する結合能を保持していることも示す。したがって、二機能性単鎖融合タンパク質は両方共磁化可能であり、標的に選択的に結合し得ることが示される。
【0143】
(実施例5:血小板の単離及びFACS分析)
抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)が、フィブロネクチンを発現している血小板を他の種類の細胞から選択する能力を示すために実験を行った。
【0144】
大部分の細胞を定着させるために3日間4℃でEDTAバキュテナー内に保存していた血液サンプル由来の血漿を、30分間空気に曝露して、血小板を活性化させた。上記のように磁化されたscFv:フェリチン100μLを、10μLの該血漿と混合した。磁性融合タンパク質/血漿混合物を室温で30分間インキュベートした後(10μLを分析用に残した)、磁化され、且つ予め平衡化されているLS MACSカラム(Miltenyi Biotec)に通した。フロースルーを分析用に残した。市販のプランジャを用いてカラムから結合画分を溶出した。該画分をPBSで500μLに希釈し、蛍光活性化細胞選別(FACS)により前方散乱及び側方散乱を用いて分析した。
【0145】
結果を表4に示す。FACS分析では、設定されている数の事象(例えば10,000回)を記録するまでサンプルが分析されることを認識すべきである。したがって、サンプルの体積は、細胞の濃度によって大きく変動し得る。細胞濃度の高いサンプルを、細胞の多くが除去されているサンプルと比較するとき、これは特に重要である。細胞除去又は単離手順の効率を計算するとき、このサンプル体積の差を補正することが必要である。これを表4で行う。
【表4】
【0146】
この最適化されていない手順により、リンパ球に対してほぼ100%の選択性を有しながら、利用可能な血小板の90%が捕捉されたことが分かる。これは、scFv:フェリチンタンパク質のフィブロネクチンに結合する能力が血小板表面上で示されたことを示す。
【0147】
顕微鏡による目視検査の結果(結果は図示しない)がFACS分析の結果と相関していたことは、融合タンパク質が血小板に結合し、大きな粒状集合体の形成を導くことを示す。
【0148】
(実施例6:更なるプロトコル)
<scFv:MT2融合タンパク質の磁化>
scFv−MT2融合タンパク質は、亜鉛イオンをマンガンイオン及びカドミウムイオンに置換することにより磁化できる。これを行う方法は、必要に応じて最適化してもよい。これを達成する方法としては、必要に応じて既に公開されているプロトコルを変更した透析を用いて、透析した後置換を行うことにより亜鉛を枯渇させることが挙げられる。
【0149】
詳細には、これらプロトコルは以下の通りである。
1. 5mgのMT2を5mLのバッファ(4.5Mの尿素、10mMのトリス塩基、0.1Mのジチオスレイトール(DTT)、0.1質量%のマンニトール、及び0.5mMのPefabloc、pH11)を溶解させて、タンパク質の金属イオンを取り除く。
2. 同バッファで1時間透析する。
3. バッファ1(10mMのトリス塩基、2Mの尿素、0.1MのDTT、0.1質量%のマンニトール、0.5μMのPefabloc、及び1mMのCd2+/Mn2+、pH11)で72時間透析することにより、タンパク質を再度折り畳む。
4. 透析バッファをバッファ2に交換し(尿素の濃度が1Mであることを除いて上記の通り)、24時間透析する。
5. 透析バッファを、尿素を含有していない上記バッファに交換する。24時間透析する。
6. 工程5のように、透析バッファをpH8.8のバッファに交換する。24時間透析する。
7. 工程6のように、透析バッファをマンニトールを含有していないバッファに交換し、上記のように透析する。
8. 工程7のように、バッファをCd2+/Mn2+を含有しているバッファに交換し、24時間透析する。
【0150】
結合性は、フェリチン融合タンパク質について実施例3に記載したように評価することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療における磁性タンパク質、ペプチド、及びポリペプチドの使用に関する。前記使用は、前記磁性タンパク質を用いる治療剤が身体の特定の領域を標的とすることを可能にするという優れた利点を有する。磁性物質の存在により、患者の体内で治療のためのより複雑な空間操作が可能になり、このことは、健常組織及び細胞と罹患組織及び細胞の双方に対して作用する治療剤に対して特に有益である。標的部位に治療剤を局在させることに加えて、本発明に係る磁性タンパク質を使用すると、治療剤の拘束及び制御、更には前記治療剤の除去も可能になる。更に、本発明は、磁化可能物質自体が治療効果をもたらすことができる医学的使用に関する。また本発明は、医薬組成物などの製品、及び医学的使用に関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト/動物体内の特定の部位に対する治療剤のターゲティングは、当該技術分野で知られている。標的療法の例は、放射標識された抗体を用いて癌組織に放射線治療剤を制御送達する療法である。前記抗体は、その抗原に結合することで、前記抗体に付着している放射性同位体を所望の標的に送達する。
【0003】
非ホジキンリンパ腫について米国における臨床使用が現在承認されている放射標識抗体の例としては、90Y Zevalin(イブリツモマブ又はチウキセタンとしても知られている)(Biogen Idec Inc.)及びBexxar(131I−トシツモマブとしても知られている)(GlaxoSmithKline)が挙げられる。米国及び英国で使用が承認されている薬剤にコンジュゲートしている抗体の例は、Mylotarg(ゲムツズマブ又はオゾガマイシンとしても知られている)(Wyeth)である。
【0004】
かかるターゲティングアプローチの利点の1つは、健常組織及び細胞に及ぼされる有害な治療剤の作用を最小限に抑えられることである。
【0005】
治療剤と細胞表面上の受容体との結合及びその後の架橋は、該細胞を破壊する、又は細胞応答を減じ得る(例えば免疫反応をダウンレギュレートする)拮抗的シグナル伝達反応を確立するのに十分であり得る。米国で使用が承認されている多くの抗体は、上記方法で作用するため有効である。例としては、冠動脈形成術で血小板による血餅を防ぐために用いられるReoPro(アブシキシマブとしても知られている)(Centocor,Inc.)、並びに急性腎臓移植拒絶反応の予防のために用いられるZenapax(ダクリズマブとしても知られている)(F.Hoffman−LaRoche Ltd)及びSimulect(バシリキシマブとしても知られている)(Novartis AG)が挙げられる。
【0006】
また多くの抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)又は補体依存性細胞傷害(CDC)により細胞を除去する。Fcガンマ受容体(例えば、Fcガンマ受容体IIa及びIIIa)に多型を有する患者は、抗体が受容体に効率よく結合しないため、有効なADCC反応を誘発することができなくなる場合があることが示唆されている。したがって、上記方法に代わるターゲティングを用いた治療アプローチは、これらの患者で有益であり得る。
【0007】
当該技術分野で知られている他の標的アプローチは、治療剤が細胞に送達される改変ウイルス粒子中の遺伝子である遺伝子治療に用いられるアプローチである。このアプローチは、細胞表面上の受容体に対してウイルスカプシドタンパク質が本来有している親和性を利用しており、該親和性は、通常条件下で野生型ウイルスが特定の細胞種に感染するのを可能にしている性質である。放射標識抗体と同様に、治療用遺伝子を有する改変ウイルス粒子と標的細胞との結合によっても、特定の細胞種に遺伝子を送達させることができる。
【0008】
或いは、治療には、特定の細胞種の表面上のホルモン(又は他の)受容体にそれ自体が結合し、生体が本来有するリガンドの結合をブロックすることができるタモキシフェンなどの小分子薬剤を利用してもよい。
【0009】
標的治療剤は、現在ヒト及び動物の医療になくてはならないものになっている。しかし、体内の特定の細胞又は組織を標的とする抗体又はリガンドの使用に対して他の利点又は更なる利点を提供する異なるターゲティング方法の提供が現在も必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前記要求に取り組み、ヒト又は動物の身体の特定の領域、組織、又は細胞に治療剤を導くために使用可能な代替送達系又はターゲティング系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクターであって、前記ベクターが、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記ベクターが、電磁石と、前記部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて投与されるベクターを提供する。
【0012】
本発明らは、磁性タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを治療剤のベクター又は担体として用い得ることを見出した。更に本発明らは、驚くべきことに、かかるベクターを使用して、前記治療剤を患者の体内の特定の領域に局在させ得ること、及び前記ベクターを除去し得ることを見出した。これは、ベクターの磁性によるものである。磁場に反応する磁性タンパク質又は磁化可能物質が前記ベクターに組み込まれているため、前記ベクターを操作することができる。具体的には、前記ベクターは、金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチド中に金属原子又は金属イオン(又は該金属原子若しくは金属イオンを含有している化合物)を含む。
【0013】
他のターゲティングアプローチと同様に、かかるベクターを使用することにより、有害である可能性のある治療を治療が必要な領域においてのみ行うことができる。また、前記治療剤は、標的部位で治療濃度に達するのに十分な用量のみを局在させ得るため、治療剤のより効率的な使用につながり、全身で前記用量を得なければならない従来のアプローチとは対照的である。
【0014】
しかし、他のターゲティングアプローチとは異なり、本発明を用いて治療剤を除去できることは、更なる利点をもたらす。具体的には、前記治療剤は、高用量剤を用いたときに生じることの多い副作用を増加させることなしに、短期間高用量で用いることができる。更に、体内から治療剤を除去できることにより、治療剤使用の妨げとなるであろう治療剤への長期間の曝露に付随するリスクなしに、高活性治療剤を用いた治療が可能になる。
【0015】
更に、ベクター中に磁性要素が存在することにより、ベクターを患者に投与した後ベクターを可視化することができる。これにより、患者の体内のベクターの位置、ひいては治療剤の位置を判定することができる。例えば、該判定は、MRIスキャニングを用いて行うことができる。
【0016】
更なる利点は、ベクターの磁性によりベクターの作製及び精製が容易になるという点である。具体的には、治療剤を含むベクターは、親和性精製又は磁場精製などの確立されている技術を用いて容易に精製される。本発明の送達ベクターは、単純な化学的手順を用いて磁化又は消磁することができるという更なる利点を有する。
【0017】
また本発明者らは、本発明において使用するのに特に好ましい医薬組成物を見出した。具体的には、本発明に係る医薬組成物は、(a)結合部分と、(b)治療剤と、(c)認識部分とを含み、前記結合部分は、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む。
【0018】
本発明のこの態様の1つの実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質自体が治療剤であり、磁場を用いる患者の治療と併用される。具体的には、医薬組成物は、温熱療法に対する感受性の高い患者の罹患細胞又は組織の治療に用いるためのものであり、前記医薬組成物は、患者に電磁場を印加する前に投与される。
【0019】
本発明の更なる態様では、医薬組成物は、磁性物質又は磁化可能物質に加えて治療剤を含み、前記治療剤は、結合部分に付着している。
【0020】
更なる態様では、本発明は、患者の体内のある部位で治療を行う、又は前記部位における前記治療を止めるために用いられる薬剤を製造するためのベクターの使用であって、前記ベクターが、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記ベクターが、電磁石と、前記部位の近傍に前記治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて投与される使用を提供する。
【0021】
本発明の更なる態様は、電磁石と、患者の体内のある部位の近傍にベクターを運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて前記部位にベクターを投与する方法であって、
電磁石を用いて前記ベクターを前記エレメントに接着させる工程と、
患者の体内に前記エレメントを挿入する工程と、
前記電磁石を用いて前記エレメントからの前記ベクターの放出を制御する工程と、
を含み、
前記ベクターが、結合部分と、治療剤とを含み、前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む方法を提供する。
【0022】
本発明の他の態様は、電磁石と、患者の体内のある部位の近傍にベクターを運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて前記部位からベクターを除去する方法であって、
患者の体内に前記エレメントを挿入する工程と、
前記電磁石を用いて前記ベクターを前記エレメントに接着させる工程と、
患者の体内から前記エレメント及び前記ベクターを取り出す工程と、
を含み、
前記ベクターが、結合部分と、治療剤とを含み、前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む方法を提供する。
【0023】
次に、一例として添付図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施形態の模式図を示す。図1(A):バルーン血管形成術のように、動脈を通して血管性閉塞に達するまでカテーテルを挿入する。図1(B):磁性粒子を内封している融合タンパク質を含む本発明に係るベクターは、電磁石を用いてカテーテルの外表面に拘束されている。図1(C):カテーテルを適切な位置に配置すると、電磁石のスイッチを切ることによりベクターを放出させる。
【図2】図2は、本発明の医薬組成物を用いて温熱療法により腫瘍を治療する、本発明の実施形態の概略図を示す。具体的には、図2は、(A)ヒト体内の腫瘍の位置、(B)本発明に係る医薬組成物の腫瘍への局在化、及び交番磁場を用いる身体の治療、(C)正常組織を無傷のまま残しながら、局所温熱療法による腫瘍の破壊を示す。
【図3】図3は、本発明のベクターで用いられる融合タンパク質の結合部分及び認識部分を作製するために、適切な遺伝子をプラスミドなどにクローニングする方法を示す。融合タンパク質中の磁化可能タンパク質ユニットの数は、必要に応じて多コピーの適切な遺伝子を含むことにより制御できる。この例では、抗体のVH領域及びVL領域の遺伝子のみが含まれているため、最終的な抗体ではなく、抗体のscFv部分が、最終的な好ましいキメラタンパク質に含まれる。
【図4】図4は、IgGなどの抗体の構造を単純化して概略的に示す。パパインなどの酵素を用いてプロテアーゼ処理した後、抗体は、ヒンジ領域の近くで3つの部分に分解される。抗体のエフェクタ機能部(ヒンジ、CH2、及びCH3)は、X線回折分析のために結晶化することが比較的容易であるため、この部分は結晶化可能断片(Fc)領域として知られている。抗体の抗原結合部は、抗体断片(Fab)として知られている。酵素分解後、Fab断片は、ヒンジ領域で連結してF(ab)2断片を形成する場合もある。他の抗体は、Fc領域内のドメイン数が異なる場合もあり、またヒンジ領域に変異が存在する場合もある。
【図5】図5は、scFv−フェリチン融合タンパク質の構造を示す。
【図6】図6は、scFv−MT2融合タンパク質の構造を示す。
【図7】図7は、scFv断片の構造を示す。
【図8】図8は、cDNAライブラリの構築方法を示す。組織サンプルからcDNAライブラリを構築するために、mRNAを抽出し、cDNAに逆転写し、プラスミドベクターにライゲーションする。次いで、これらベクターを用いて細菌細胞を形質転換する。形質転換された細胞は、必要になるまで凍結保存する。適切な培地で増殖させることにより凍結細胞を増やしてもよい。次いで、プラスミドを精製する。次いで、更に分析するために特異的プライマー対を用いて対象遺伝子をPCRで増幅させてもよい。
【図9a】図9aは、フェリチン重(H)鎖遺伝子及びフェリチン軽(L)鎖遺伝子のPCR増幅産物を示す。
【図9b】図9bは、フェリチン重鎖遺伝子及びフェリチン軽鎖遺伝子のオーバーラップPCR産物を示す
【図9c】図9cは、コロニーPCRの結果を示し、配列決定のためにクローン1、3、及び4が選択された。
【図10a】図10aは、抗フィブロネクチンscFvと、フェリチン重鎖及びフェリチン軽鎖ポリジーンとのPCR増幅産物(矢印)を示すゲルである。
【図10b】図10bは、抗フィブロネクチンscFvと、フェリチン重鎖及びフェリチン軽鎖ポリジーンとのオーバーラップPCR産物を示すゲルである。
【図11】図11は、scFv:フェリチン融合コンストラクトとライゲーションされたプラスミドを用いて形質転換された多くのクローンのPCRによるスクリーニング結果を示すゲルである。
【図12】図12は、細胞可溶化物のクマシーブルー染色ゲル及びウエスタンブロットを示す。記号:1.フェリチンで2時間誘導、2.フェリチンで3時間誘導、3.フェリチンで4時間誘導、4.ベンチマーク(Invitrogen)プロテインラダー。
【図13】図13は、ヒト肝臓ライブラリ由来のMT2のPCR増幅産物を示すゲルである。
【図14】図14は、scFv:MT2コンストラクトを含むプラスミドで形質転換されたクローンのコロニー分析結果を示す。
【図15】図15は、scFv:MT2(矢印)のクマシーゲル及びウエスタンブロットを示す。
【図16】図16は、再可溶化されたscFv:フェリチン融合タンパク質及びscFv:MT2融合タンパク質のクマシーブルー染色ゲル及びウエスタンブロットの写真を示す。融合タンパク質を丸で囲んだ。両方のゲルのレーン2がフェリチンであり、両方のゲルのレーン3がMT2である。レーン1は、タンパク質分子量ラダーである。
【図17a】図17aは、MT2融合タンパク質の結合のSPR分析から得られたセンサグラムを重ねたものである。
【図17b】図17bは、フェリチン融合タンパク質の結合のSPR分析から得られたセンサグラムを重ねたものである。
【図18】図18は、本発明で用いるために作製されたマグネトフェリチンの磁性を示す。
【図19】図19は、作製中のフェリチン濃度及びマグネトフェリチン濃度を示す。記号:MF;マグネトフェリチン、ft;フロースルー、前;Macs(登録商標)カラムで濃縮されたマグネトフェリチンの透析前、後;Macs(登録商標)カラムで濃縮されたマグネトフェリチンの透析後。
【図20】図20は、scFv:フェリチン及び熱処理したscFv:フェリチンのフィブロネクチンに対する結合を示す。
【図21a】図21aは、磁化された融合タンパク質に対してVarioskan Flash機器を用いて記録した吸光度測定値を示す。濃縮後もモノクローナル抗フェリチン抗体はタンパク質を認識する。
【図21b】図21bは、磁化された融合タンパク質に対してVarioskan Flash機器を用いて記録した吸光度測定値を示す。磁化抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質は、その標的抗原に対する結合能を保持する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上記のように、本発明は、患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクターであって、前記ベクターが、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記ベクターが、電磁石と、前記部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて投与されるベクターに関する。
【0026】
前記ベクターは、電磁石と、前記部位の近傍に前記治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて送達される。好ましい実施形態では、前記エレメントは患者の体内に挿入される。具体的には、前記エレメントは、治療される領域にベクターを物理的に送達するために片方の端部に電磁石を備えるカテーテル(例えば、血管形成術/密封小線源療法で日常的に用いられている種類のカテーテル)であることが好ましい。図1に示すように、一旦電磁石のスイッチを切ると、治療剤を有する磁性ベクターは周囲の組織に移動することができる。
【0027】
磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する結合部分は、毒性がなく、前記物質に結合することができ、且つ前記治療剤に付着することができる限り、特に限定されない。結合部分は、金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチド(又はかかるタンパク質、ポリペプチド、若しくはペプチドの金属結合ドメイン)を含む。前記結合部分は、粒子又は集合体などの形態である磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する(又は特異的若しくは非特異的に付着する)ことができなければならない。
【0028】
これら粒子又は集合体は、典型的には100,000未満、より好ましくは10,000未満、最も好ましくは5,000未満の、部分全体(又は各部分)に結合している原子、イオン若しくは分子、又は部分全体(又は各部分)に内封されている原子、イオン若しくは分子を有する。最も好ましい物質は、最高3,000の原子、イオン若しくは分子、特に約2,000以下の原子、イオン若しくは分子、又は500以下の原子、イオン若しくは分子に結合することができる。
【0029】
本発明で使用される1つの具体例では、フェリチン(24個のサブユニットのタンパク質シェル)の金属要素は、8nm(8×10−9m)の無機コアからなる。各コアは、約2,000個のFe原子を含む。別の例では、Streptococcus mutans由来のDpr(12個のサブユニットのシェル)は、480個のFe原子を含む9nmのシェルからなる。更なる例では、ラクトフェリンは、2個のFe原子と結合し、ヘムに結合している鉄を含む(コア内の鉄分子に結合するフェリチンとは対照的である)。メタロチオネイン−2(MT)は、7個の二価遷移金属に結合する。MT中の亜鉛イオンは、Mn2+及びCd2+に置換されて、室温で磁性を有するタンパク質を作製する。MTは、1以上の更なる金属結合部位を更に組み込むよう改変されてもよく、これによりMn、Cd MTタンパク質の磁性が増加する。
【0030】
これら結合環境によって、単一部分に結合している又は単一部分に内封されている物質の総体積は、典型的には1×105nm3を超えない(物質の粒子又は集合体の平均直径が約58nm以下であることを表す)。該物質は、1×104nm3以下の総体積を有し得ることがより好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が約27nm以下であることを表す)。該物質は、1×103nm3以下の総体積を有し得ることが更により好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が約13nm以下であることを表す)。該物質は、100nm3以下の総体積を有し得ることが最も好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が6nm以下であることを表す)。しかし、粒子のサイズは、体積の代わりに平均直径により決定することもできる。したがって、本発明では、結合している粒子の平均直径は、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下が好ましく、10nm以下が最も好ましい。この状況において、平均とは、全粒子の直径の合計を粒子数で除した数を意味する。
【0031】
本発明の特に好ましい実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質は、常磁性であり、より強力な磁石の影響下でのみ磁性を示す。
【0032】
典型的には、結合部分は、1以上の遷移金属原子、ランタニド金属原子、遷移金属イオン、及びランタニド金属イオンの少なくともいずれか、又は遷移金属イオン及びランタニド金属イオンを含む任意の化合物を結合乃至内封する。遷移金属イオン及びランタニド金属イオンとしては、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Cu、Zn、Cd、Y、Gd、Dy、又はEuのうちのいずれか1種以上のイオンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明のより好ましい実施形態では、前記1種以上の金属イオンは、Fe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Mn2+、Mn3+、Mn4+、Cd2+、及びNi2+のうちのいずれか1種以上を含む。本発明で用いるための最も好ましいイオンは、Fe2+イオン、Fe3+イオン、Cd2+イオン、及びMn2+イオンである。典型的には、これらイオンは、鉄の場合ラクトフェリン、トランスフェリン、及びフェリチンに結合し、カドミウム及びマンガンの場合メタロチオネイン−2に結合する。Fe2+の結合は、酸性条件を用いることにより促進されることが好ましく、一方Fe3+の結合は、中性条件又はアルカリ性条件を用いることにより促進されることが好ましい。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、金属結合部分は、ラクトフェリン、トランスフェリン、フェリチン(アポフェリチン)、メタロチオネイン(MT1又はMT2)、第二鉄イオン結合タンパク質(例えばHaemophilus influenzae由来のFBP)、フラタキシン、及びシデロホア(細菌膜を貫通して鉄を輸送する機能を有する非常に小さなタンパク質)から選択されるタンパク質又はタンパク質の金属結合ドメインを含む。
【0035】
特に好ましい実施形態では、金属結合部分は、フェリチン、メタロチオネインII(MT2)、これらの断片、又はこれらのセグメントを含む。フェリチンは、直径12nm、分子量480kDaの大きなタンパク質である。該タンパク質は、数千の鉄イオンを貯蔵することができる大きな空洞(直径8nm)からなる。フェリチン内の内因性鉄は常磁性ではないため、典型的には、タンパク質に損傷を与えることなしに該内因性鉄を除去し、常磁性形態に置換することが必要である。フェリチンは、8個のFe輸送孔と、12個のミネラル核形成部位と、第二鉄及び酸素からミネラル前駆体を生成する最高24個のオキシダーゼ部位とを有する大きな多機能性タンパク質である。脊椎動物では、2種のサブユニット(重鎖(H)及び軽鎖(L))がフェリチンを形成しており、それぞれのサブユニットが触媒活性(H)オキシダーゼ部位及び触媒不活性(L)オキシダーゼ部位を有している。重鎖と軽鎖との比は、要件によって変化する。最高4,000個の鉄が、フェリチンタンパク質の中心に局在し得る。
【0036】
フェリチン内に貯蔵されている鉄は、通常酸化鉄フェリハイドライト水和物(5Fe2O3・9H2O)の形態である。フェリハイドライトコアをフェリ磁性酸化鉄、即ちマグネタイト(Fe3O4)に置換してもよい。これは、チオグリコール酸を用いて鉄を除去し、アポフェリチンを生成することにより達成され得る。次いで、空気又は他の酸化剤を導入することにより、酸化を緩徐に制御しながら、アルゴン又は他の不活性ガス下でFe(II)溶液を徐々に添加する。
【0037】
対照的に、タンパク質メタロチオネインIIは、緩い格子配置中にフェリチンよりも少ない数の金属イオンを保持しているため、フェリチンよりも内因性イオンの除去及び置換が容易であり得る。メタロチオネインは、細胞内に存在する低分子量のシステインリッチなタンパク質である。
【0038】
MT2は、カルボキシル(α−ドメイン)末端及びアミノ(β−ドメイン)末端において2つの金属結合クラスタを介して7つの二価遷移金属に結合する。20個のシステイン残基が、結合プロセスに関与している。
【0039】
Changらは、7つの亜鉛(Zn2+)イオンを、マンガン(Mn2+)イオン及びカドミウム(Cd2+)イオンに置換する方法について記載している。得られたタンパク質は、室温で磁性ヒステリシスループを呈することが示された。これは、タンパク質が常磁性であることを示唆する。
【0040】
Toyamaらは、ヒトMT2を操作して更なる金属結合部位を構築した。これは、MT2の常磁性機能を潜在的に高めることができ、また本発明で使用することができる。
【0041】
幾つかの実施形態では、本発明のベクターは、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する結合部分を複数含んでいてもよい。ベクターの磁性を制御するために、かかる部分の数を制御してもよい。典型的には、かかる実施形態では、ベクターは、2個〜100個の磁性物質又は磁化可能物質の結合部分、好ましくは2個〜50個の該部分、最も好ましくは2個〜20個の該部分を含んでいてもよい。最終的なキメラタンパク質では、金属結合タンパク質の各コピーは、可動性のために非荷電アミノ酸リンカー配列により次の金属結合タンパク質に付着していてもよい。
【0042】
更なる実施形態では、(電)磁性を調整するために、タンパク質/ペプチド結合部分にグリコシル化又はリン酸化などの修飾を行ってもよい。
【0043】
ベクターによって運ばれる治療剤は、結合部分に付着することができる限り特に限定されない。本発明の状況において「付着する」とは、特異的結合及び非特異的結合を含む任意の種類の付着、また内封をも意味する。したがって、結合部分は、治療剤を結合乃至内封し(又は特異的若しくは非特異的に付着し)、前記ベクターが前記治療剤を運ぶことを可能にできるべきである。本発明の特定の態様では、治療剤は、結合部分を備える融合タンパク質として形成される。
【0044】
本発明の特定の実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質の磁性が治療で用いられ、前記磁性物質又は磁化可能物質が治療剤である。具体的には、以下に詳細に記載されるように、患者の体内の特定の部位に局在する磁性物質又は磁化可能物質を含むベクターは、磁場を用いる患者の治療と併用してもよい。前記磁場により前記磁性物質又は磁化可能物質が加熱され、前記部位で温熱療法が行われる。かかる温熱療法を用いて、前記部位において細胞を破壊することができる。この実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質は、電磁場を印加して前記部位で温熱療法を行うのに好適である。
【0045】
本発明の別の実施形態では、治療剤は、放射性同位体、化学療法剤、血栓溶解剤、即ち抗血栓剤、及び抗血管新生剤から選択される。好ましい実施形態では、治療剤は、抗トロンビンIIIであり、治療は、血餅の治療である。血餅部位に直接抗凝固剤を送達するための本発明の使用は、抗凝固剤の全身送達に比べて有益である。具体的には、本発明は、(局所治療濃度を維持しながら)抗凝固剤を低用量で使用し、抗凝固剤治療に付随するリスク、例えば非標的組織(特に脳)における過剰出血のリスクを低減することができる。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、ベクターは、罹患細胞又は罹患組織上に存在する1以上の標的に結合することができる1以上の認識部分も含む。ベクターの一部として少なくとも1つの認識部分が存在することにより、ベクターのターゲティング能を高めることができる。可能性のある標的の例は、感染病原体若しくは感染病原体の構成要素(ウイルス、ウイルス粒子、又はウイルス構成要素など)、細胞表面上に存在する細胞の構成要素、内因性小分子若しくは外因性小分子などの小分子(例えば、代謝産物、医薬品、又は薬剤)、又は血餅などの身体であってもよい。細胞内ターゲティングも可能である。核局在シグナルを認識部分として用いて、ベクターに核を標的とさせることができる。或いは、ベクターがゴルジ体又は細胞膜の内側を標的とするよう認識部分を選択してもよい。細胞膜の内側に対するターゲティングは、ベクターが治療剤を放出し、前記治療剤が細胞から周囲組織に拡散することが望ましい箇所で特に有効であり得る。
【0047】
具体的には、認識部分は、腫瘍細胞の表面上で発現している抗原を認識することができる。一部の腫瘍は、該腫瘍表面上で様々な抗原を発現する。したがって、ベクターは、腫瘍細胞表面上の少なくとも2種の異なる抗原を認識し、結合する少なくとも2種の認識部分を含むことが特に好ましい。他の方法では、ベクターは、受容体との架橋を達成するための少なくとも2種の認識部分を含む。例えば、認識部分のうちの1つが腫瘍マーカーを認識し、他の認識部分が免疫細胞上のFc受容体に結合し活性化させてもよい。次いで、免疫細胞が、腫瘍細胞を「認識」し、殺傷する。かかる受容体との架橋は、治療の選択性を高めるため、有益である。
【0048】
上記標的に結合できる認識部分は、標的に対する結合に適している限り、それ自体いずれの種類の物質又は分子であってもよい。一般的に、認識部分は、抗体、抗体断片、受容体、受容体断片、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド模倣体、核酸、オリゴヌクレオチド、及びアプタマーから選択される。より具体的には、前記認識部分は、抗体、抗体断片、受容体、受容体断片、タンパク質、及びポリペプチドから選択される。本発明のより好ましい実施形態では、認識部分は、抗体の可変ポリペプチド鎖(Fv)、T細胞受容体、T細胞受容体断片、アビジン、ストレプトアビジン、及びヘパリンから選択される。認識部分は、抗体の単鎖可変部(sc−Fv)から選択されることが最も好ましい。
【0049】
本発明の特に好ましい態様では、結合部分と認識部分とが融合タンパク質を形成する。本発明の状況では、融合タンパク質は、単一の組み換えタンパク質として発現しているタンパク質である。融合タンパク質は、任意の既知の発現系から産生され得る。しかし、本発明の好ましい態様では、ベクターの融合タンパク質は、哺乳類の発現系で産生される。融合タンパク質の結合部分と認識部分とは、リンカーにより隔てられていることが好ましい。リンカーの長さは、15アミノ酸残基未満が典型的であり、10アミノ酸残基未満が好ましく、5アミノ酸残基未満が最も好ましい。
【0050】
この好ましい態様の実施形態では、ベクターは、複数のフェリチンサブユニットである結合部分を含み、該サブユニットは、集合して、粒子の外表面上に認識部分が存在する粒子を形成する。かかる粒子は、更なる治療剤と共に、磁性物質又は磁化可能物質を内封していてもよい。
【0051】
ベクターにおける融合タンパク質の使用は、多くの更なる利点を有する。ベクター中の融合タンパク質の認識腕部(例えばscFv)の配向が制御されるため、該融合タンパク質の標的に結合しやすくなる。また融合タンパク質は、単一融合タンパク質に複数の認識部分を組み込める可能性を高める。これら認識部位は、同じ標的に対するものであってもよく、異なる標的に対するものであってもよい。
【0052】
融合タンパク質の使用は、結合部分がフェリチンを含む場合と同様に、結合部分が、集合して粒子を形成する幾つかのサブユニットで構成されている場合特に有利である。産生中、結合部分をコードする遺伝的に操作されたヌクレオチド配列がインビトロで発現する。産生されたタンパク質/ペプチドは、該タンパク質/ペプチドを粒子に集合させることができる条件に供される。多機能性粒子を作製するために、異なるヌクレオチド配列を一緒に発現させてもよい。例えば、サブユニットの一部のみが認識部分を提示する粒子を作製するために、フェリチンのみをコードする配列を、フェリチン及び認識部分の融合タンパク質をコードする配列と共に発現させてもよい。最適数の認識部分を提示する集合粒子を得るために、異なるヌクレオチド配列の発現比を制御してもよい。かかる系を用いて立体障害の作用を最低限に抑え、標的に対する粒子の結合を最適化することができる。
【0053】
上記のように、好ましい態様では、ベクターは1以上の認識部分を含み、該認識部分は抗体又は抗体断片であることが好ましい。抗体は、外来抗原の認識に関与し、脊椎動物で発現する免疫グロブリン分子である。抗体は、Bリンパ球又はB細胞として知られている特殊な種類の細胞により産生される。個々のB細胞が生成するのは1種の抗体のみであり、該抗体は単一エピトープを標的とする。B細胞が抗原に遭遇すると、該抗原を認識し、分裂し、抗体産生細胞(又は形質細胞)に分化する。
【0054】
大部分の抗体の基本構造は、2種の異なる種類の4本のポリペプチド鎖から構成される(図4)。小(軽)鎖の分子質量は、25キロダルトン(kDa)であり、大(重)鎖の分子質量は、50kDa〜70kDaである。軽鎖は、1個の可変(VL)領域と1個の定常(CL)領域とを有する。重鎖は、1個の可変領域(VH)と抗体のクラスによって3個〜4個の定常(CH)領域とを有する。重鎖の第1定常領域及び第2定常領域は、様々な長さのヒンジ領域によって隔てられている。2本の重鎖は、ジスルフィド架橋を介してヒンジ領域で連結されている。ヒンジ領域の下の重鎖領域は、Fc領域(結晶化可能断片)としても知られている。ヒンジ領域の上の軽鎖及び重鎖複合体は、Fab(抗体断片)領域として知られており、2個の抗体結合部位を合わせてF(ab)2領域として知られている。重鎖の定常領域は、補体カスケードの分子及び細胞表面上の抗体受容体を含む免疫系の他の構成要素に結合することができる。抗体の軽鎖及び重鎖は、多くの場合ジスルフィド架橋により連結している複合体を形成し、該複合体は、可変末端で所定のエピトープに結合することができる(図4)。
【0055】
抗体の可変遺伝子は、突然変異、体細胞組み換え(遺伝子シャフリングとしても知られている)、遺伝子変換、及びヌクレオチド付加事象により形成される。
【0056】
scFv抗体は、以下を含む膨大な数の標的に対して産生され得る:
1.ウイルス:Torrance et al.2006.Oriented immobilisation of engineered single−chain antibodies to develop biosensors for virus detection.J Virol Methods.134(1−2)164−70
2.C型肝炎ウイルス:Gal−Tanamy et al.2005.HCV NS3 serine protease−neutralizing single−chain antibodies isolated by a novel genetic screen.J Mol Biol.347(5):991−1003)及びLi and Allain.2005.Chimeric monoclonal antibodies to hypervariable region 1 of hepatitis C virus.J Gen Virol.86(6)1709−16
3.癌:Holliger and Hudson.Engineered antibody fragments and the rise of single domains.Nat Biotechnol.23(9)1126−36。
【0057】
したがって、最も好ましい実施形態では、本発明は、体内の1以上の標的を認識するための、1以上の抗体の1以上の抗原結合腕部と、該抗原結合腕部に付着している金属結合タンパク質の1以上のコピーとから典型的には形成される、多認識部分ベクターを使用する。典型的には、用いられる抗体断片は、単鎖ペプチド(sc)を作製するために可動性リンカーにより接合されている重鎖及び軽鎖の可変領域(VH及びVL)を含み、これは通常scFvと呼ばれる。ベクター中の認識部分及び結合部分の双方がタンパク質及び/又はポリペプチドから形成されるとき(即ち、ベクターがキメラタンパク質を含むとき)、該ベクターは、当該技術分野で周知である組み換え技術を用いて部分的に形成することができる。これを図3に図示する。しかし、認識部分のいずれかが他の種から形成される場合、ベクターは、ある種を別の種に単純に付着させることにより作製できる。
【0058】
本発明のベクターは、必要に応じてベクターを破壊することができるように、結合部分と認識部分との間、認識部分内、又は結合部分が集合粒子である場合は粒子のサブユニット間に特異的切断部位を所望により組み込んでもよい。これは、具体的には、ベクターに特異的プロテアーゼ切断部位を組み込むことにより達成され得る。
【0059】
例えば、特定のプロテアーゼの切断部位をもたらす、ある長さのアミノ酸残基により結合部分のサブユニットを連結してもよい。使用中、ベクターがプロテアーゼに曝露されると、該ベクターは分解され、内封されていた治療剤を放出する。特定の細胞種又は組織においてのみ認識される特異的切断部位を用いてもよく、これにより治療剤の選択的放出が行われる。或いは、切断部位は、プロテアーゼの作用により認識部分の上方のセグメントを除去して、異なる特異性を有する第2の認識部分を「露出させる」ことができるように、認識部分内に存在してもよい。
【0060】
本発明の更なる態様は、上記本発明における特定の用途に用いられる医薬組成物を提供する。具体的には、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
(c)認識部分と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む医薬組成物が提供される。
【0061】
前記結合部分及び前記認識部分が、上記種類の融合タンパク質の一部を形成することが特に好ましい。
【0062】
上記ベクターの結合部分、治療剤、認識部分、及び磁性物質又は磁化可能物質に関する記載は、医薬組成物にも適用される。
【0063】
本発明の医薬組成物は、賦形剤、担体、溶媒、希釈剤、アジュバント、及びバッファから選択される更なる成分を含んでいてもよい。
【0064】
ある実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質が治療剤として用いられるが、他の実施形態では、医薬組成物は、磁性物質又は磁化可能物質ではなく、結合部分に付着する治療剤を含む。
【0065】
磁性物質又は磁化可能物質が治療剤である場合、医薬組成物は、患者における温熱療法に対する感受性の高い罹患細胞又は罹患組織の治療に用いるためのものであり、患者に電磁場を印加する前に投与される。この実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質は、電磁場を印加して患者に温熱療法を行うのに好適である。
【0066】
フェリチン仲介性電磁温熱療法を腫瘍性細胞の選択的治療で用い得ることが、当該技術分野において示唆されている(Babincova M. et al.,Medical Hypotheses(2000)Volume54,No.2,pages177−179)。具体的には、癌細胞は正常非癌細胞よりも高温に対する感受性が高いことが知られている。Babincovaらは、強磁性粒子又はフェライト粒子の懸濁液を含む磁性流体と共に腫瘍本体を注入するという初期の研究について記載した。交番磁場の印加により粒子は加熱される。Babincovaらは、フェリチン遺伝子を患者の体内の癌細胞に特異的に送達して、これら悪性細胞におけるフェリチン濃度を高める遺伝子治療技術を提唱している。
【0067】
本発明は、上記医薬組成物を用いる他のアプローチを提供する。具体的には、図2に示すように、認識部分を用いて、結合部分により結合乃至内封されている磁性物質又は磁化可能物質を癌細胞に送達することができる。具体的には、認識部分は、磁性物質又は磁化可能物質が腫瘍中に濃縮されるように、癌細胞上で発現しているマーカーを標的とする。交番磁場の印加により、結合部分中の磁性物質又は磁化可能物質が加熱され、温度が上昇する。これにより、腫瘍性細胞は死滅するが、非腫瘍性細胞は影響を受けず、生存し続ける。
【0068】
本発明のこの態様の他の実施形態では、医薬組成物を用いて体内における他の種類の異常な組織増殖又は機能を治療することもできる。例えば、前記医薬組成物を用いて、甲状腺機能亢進症、嚢腫成長、及びアテローム性動脈硬化巣などの症状を治療することができる。具体的には、甲状腺組織を標的とする認識部分を含む医薬組成物を用いて、甲状腺機能亢進症の治療において甲状腺の一部を破壊又は除去することができる。更に、アテローム性動脈硬化巣は、多数の局在マーカーの増加に関連している。1以上のこれらマーカーを標的とする認識部分を含む医薬組成物を用いて、(特にその形成初期において)アテローム性動脈硬化巣を破壊することができる。
【0069】
上の段落における薬剤は、認識部分を用いて局在するが、電磁石を用いる本発明の方法を用いてターゲティングされることが好ましい場合もある。
【実施例】
【0070】
次に、一例として以下の具体的な実施形態を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0071】
(実施例1:血餅の治療)
本発明のベクターを用いて患者の血管内の血餅が治療されると考えられる。ベクターは、フェリチン及び抗トロンビンIII抗体断片を含む融合タンパク質を含む。ベクターは、磁性物質又は磁化可能物質としてFe2O3を更に含む。
【0072】
ベクターは、カテーテルの片方の端部の外側に存在する電磁石に付着し、前記カテーテルは、大腿動脈を通して患者に挿入される。一旦可能な限り血餅部位の近くにカテーテルが配置されると、電磁石のスイッチを切り、ベクターを放出させる。融合タンパク質の抗トロンビンIII部分は、凝固系酵素に結合し、更なる凝固を防ぐと考えられる。
【0073】
以下の実験の詳細は、融合タンパク質の認識部分及び結合部分を作製し得る方法について示す。
【0074】
(実施例2:融合タンパク質の設計及び作製)
本発明を例証するために、市販のマウス抗フィブロネクチン抗体を用いて、融合タンパク質を設計した。短い可動性リンカーによりMT2又はフェリチンのいずれかに遺伝的に連結している抗フィブロネクチンscFvからなる融合タンパク質を作製した。この実施例は、融合タンパク質の構築、該融合タンパク質の特徴付け及び単離について詳述する。
【0075】
抗フィブロネクチンフェリチン又はMT2融合タンパク質の設計は、マウス抗フィブロネクチン抗体のVH遺伝子及びVL遺伝子のベクターへのクローニングに基づいていた。該VH遺伝子及びVL遺伝子は、小さな非荷電アミノ酸から構成される短い可動性リンカーにより連結されていた。VL遺伝子の3’末端の直後において、別の短い可動性リンカーがフェリチン遺伝子又はMT2遺伝子のいずれかにつながっていた。両方の融合タンパク質は、ニッケルカラムで精製するための6−ヒスチジン領域を有していた。融合タンパク質の翻訳は、フェリチン軽鎖遺伝子又はMT2遺伝子の3’末端に挿入されている終止コドンで終結した。これらエレメントを全て含むプラスミドベクターを用いて、発現用細菌を形質転換した。
【0076】
フェリチン及びMT2遺伝子は、cDNAライブラリから入手した。cDNAライブラリは、細胞又は組織からmRNAを得、逆転写酵素として知られている酵素を用いて該mRNAをcDNAに逆転写し、各個別のcDNAをプラスミドベクターにクローニングすることにより形成される(図8を参照)。
【0077】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質の作製>
<<背景>>
フェリチンは、直径12nm、分子量480kDaのタンパク質である。該タンパク質は、鉄を包む大きな空洞(直径8nm)からなる。該空洞は、非共有結合により保持されている4へリックスバンドルに折り畳まれた24個のフェリチンポリペプチドの自発性集合により形成される。フェリチンのアミノ酸配列、延いては二次構造及び三次構造は、動物と植物との間で保存されている。細菌のタンパク質構造は、真核生物と同じであるが、配列は異なる。脊椎動物では、2種のサブユニット(重鎖(H)及び軽鎖(L))がフェリチンを形成しており、それぞれのサブユニットが触媒活性(H)オキシダーゼ部位及び触媒不活性(L)オキシダーゼ部位を有している。重鎖と軽鎖との比は、要件によって変化する。融合タンパク質の構築で用いられるフェリチン重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列は、以下の通りである。
フェリチン重鎖(分子量21,096.5Da):
MTTASTSQVRQNYHQDSEAAINRQINLELYASYVYLSMSYYFDRDDVALKNFAKYFLHQSHEEREHAKLMKLQNQRGGRIFLQDIKKPDCDDWESGLNAMECALHLEKNVNQSLLELHKLATDKNDPHLCDFIETHYLNEQVKAIKELGDHVTNLRKMGAPESGLAEYLFDKHTLGDSDNES(配列番号3)
フェリチン軽鎖(分子量20,019.6Da):
MSSQIRQNYSTDVEAAVNSLVNLYLQASYTYLSLGFYFDRDDVALEGVSHFFRELAEEKREGYERLLKMQNQRGGRALFQDIKKPAEDEWGKTPDAMKAAMALEKKLNQALLDLHALGSARTDPHLCDFLETHFLDEEVKLIKKMGDHLTNLHRLGGPEAGLGEYLFERLTLKHD(配列番号4)
【0078】
抗フィブロネクチンscFvアミノ酸配列と合わせた、融合タンパク質の単一ポリペプチドの予測配列は、以下の通りである(抗体重鎖遺伝子と抗体軽鎖遺伝子との間、及び抗体軽鎖とフェリチン重鎖との間のリンカー配列を小文字で強調する):
LVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTSRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSSGDgssggsggASTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIKsgggMTTASTSQVRQNYHQDSEAAINRQINLELYASYVYLSMSYYFDRDDVALKNFAKYFLHQSHEEREHAKLMKLQNQRGGRIFLQDIKKPDCDDWESGLNAMECALHLEKNVNQSLLELHKLATDKNDPHLCDFIETHYLNEQVKAIKELGDHVTNLRKMGAPESGLAEYLFDKHTLGDSDNESMSSQIRQNYSTDVEAAVNSLVNLYLQASYTYLSLGFYFDRDDVALEGVSHFFRELAEEKREGYERLLKMQNQRGGRALFQDIKKPAEDEWGKTPDAMKAAMALEKKLNQALLDLHALGSARTDPHLCDFLETHFLDEEVKLIKKMGDHLTNLHRLGGPEAGLGEYLFERLTLKHD(配列番号1)
ポリペプチド構成要素の分子量は、65.550kDaであった。
【0079】
<<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質遺伝子の組立>>
PCRを用いてヒト肝臓cDNAライブラリからフェリチン重鎖遺伝子及びフェリチン軽鎖遺伝子を増幅させた(図9aを参照)。PCR産物は、予想されたサイズ(〜540bp)であった。オーバーラップPCRを用いてこれらPCR産物を用いてライゲーションした(図9b−PCR産物は、予想されたサイズである)。
【0080】
オーバーラップPCR産物をゲル精製し、配列解析のために配列決定ベクターにライゲーションした。これは、フェリチン重鎖及び軽鎖がオーバーラップしている遺伝子を含む配列決定ベクターで細菌を形質転換することを含む。次いで、形質転換された細菌を抗生物質含有プレート上に広げ、クローンを分離させた。細胞を一晩インキュベートして、コロニーを形成させた。次いで、個々のクローンをプレートから取り、液体培地中で増殖させた。各クローン由来のプラスミドを単離し、PCRを用いて分析した(図9c)。クローン4が、予想される配列を含んでいることが見出された。したがって、この後の全ての更なる研究では、このクローン由来のDNAを用いた。
【0081】
マウス抗ヒトフィブロネクチン抗体の可変重鎖及び軽鎖遺伝子を、モノクローナルハイブリドーマからPCRで増幅させた。これら遺伝子は、可動性リンカー領域により既に連結され、scFVを形成していた。PCRを用いてこのscFv遺伝子融合体を増幅させた。フェリチンポリジーンオーバーラップ産物と並んで、このscFv遺伝子融合体増幅産物を図10aのDNAゲルに見出すことができる。明らかなバンドをゲルから切り出し、DNAを精製した。次いで、これを更なるオーバーラップPCRで用いて、scFv及びフェリチンポリジーンを複合体化させた(図10b)。矢印で示すバンドは、scFv:フェリチン融合体の予想されるサイズのバンドである。これを切り出し、更に使用するためにDNAを精製した。
【0082】
これを行うために用いられたプライマーは、プラスミドにライゲーションするために、エンドヌクレアーゼ(二本鎖DNAの特定の配列を切断することができる酵素)でDNAを切断できる配列を含んでいた。
【0083】
ゲル精製後、制限酵素(エンドヌクレアーゼ)BamHI及びEcoRIを用いて、scFv:フェリチンPCR産物を切断した。次いで、精製された切断産物を2つの発現ベクター:pRSET及びpET26bにクローニングした。上記の通りクローンを単離し、陽性クローンを同定するためのPCRの結果を図11に見出すことができる。
【0084】
配列解析のために、プラスミドpRSETを含むセットからコロニー3〜5、及び7と、プラスミドpET26bを含むセットからコロニー6を選択した。
【0085】
得られたデータは、pRSETのクローン4及び5と、pET26bのクローン6が、scFv:フェリチンコンストラクトを含んでいることを示した。pRSETのクローン4をタンパク質発現に用いた。
【0086】
<<抗フィブロネクチンscFv:フェリチン融合タンパク質の発現>>
融合タンパク質の発現を確認するために、LBブロス(Luria−Bertaniブロス:1リットル当たり10gのトリプトン、5gの酵母抽出物、10gのNaCl)中で5mLの培養物3つを増殖させた。様々な時間、IPTG(イソプロピルβ−D−1−チオガラクトプレノシド)を用いて細胞のタンパク質発現を誘導した。次いで8Mの尿素で培養物を溶解させ、SDS−PAGEを用いて分析した。クマシーブルーを用いてゲル中のタンパク質内容物を染色した(結果は図12を参照)。抗ポリヒスチジン抗体を用いてウエスタンブロットを実施し、融合タンパク質を特異的に同定した(図12)。
【0087】
接種の2時間後、3時間後、及び4時間後の時点で誘導を行った。
【0088】
ブロット中に見られるバンドは、融合タンパク質が発現しており、且つ抗ヒスチジン抗体を用いて該融合タンパク質を検出できることを示した。ポリペプチドのサイズは、約75kDa〜約85kDaであった。発現量は比較的多く、クマシーブルーで染色したゲル中に見られる非常に暗いバンドに対応する融合タンパク質のバンドと比べて高発現していることは明らかであった。接種の3時間後に誘導することにより、比較的高水準の発現が得られたため、これを次の発現のために用いた。
【0089】
<抗フィブロネクチン:MT2融合タンパク質の作製>
<<背景>>
メタロチオネインは、細胞内に存在する低分子量のシステインリッチなタンパク質である。これらタンパク質は、全ての真核生物で見出され、強力な金属結合能及びレドックス能を有している。MT−1及びMT−2は、様々な金属、薬剤、及び炎症メディエータにより肝臓において急速に誘導される。MT2は、カルボキシル(α−ドメイン)末端及びアミノ(β−ドメイン)末端において2つの金属結合クラスタを介して7つの二価遷移金属に結合する。20個のシステイン残基が、結合プロセスに関与している。
【0090】
MT2の配列は、以下の通りである:
MDPNCSCAAGDSCTCAGSCKCKECKCTSCKKSCCSCCPVGCAKCAQGCICKGASDKCSCCAPGSAGGSGGDSMAEVQLLE(配列番号5)。
【0091】
抗フィブロネクチンscFvアミノ酸配列と合わせた、融合タンパク質の単一ポリペプチドの予測配列は、以下の通りである(抗体重鎖遺伝子と抗体軽鎖遺伝子との間、及び抗体軽鎖とMT2重鎖との間のリンカー配列を小文字で強調する):LVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSSGDgssggsggASTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIKsgggMDPNCSCAAGDSCTCAGSCKCKECKCTSCKKSCCSCCPVGCAKCAQGCICKGASDKCSCCAPGSAGGSGGDSMAEVQLLE(配列番号2)。
【0092】
<<抗フィブロネクチン:MT2融合タンパク質遺伝子の組立>>
PCRを用いてヒト肝臓cDNAライブラリからメタロチオネインII遺伝子を増幅させた(図13)。PCR産物は、予想されたサイズ(〜200bp)であった。
【0093】
BglII制限酵素を用いてPCR産物を切断し、既に切断されているプラスミド(Xa因子ベクター)にライゲーションした。
【0094】
選択されたクローンのコロニーPCRにより、選択された全てのクローンのバンドが見られた(図14)。配列解析のためにクローン2、4、及び9を選択した。更なる研究ではクローン9を用いた。
【0095】
<<抗フィブロネクチンscFv:MT2融合タンパク質の発現>>
scFv:MT2融合タンパク質の発現を確認するために、フェリチン融合タンパク質のように、様々な時点において(IPTGで)誘導されたLBブロス中で5mLの培養物を3つ増殖させた。8Mの尿素を用いて培養物を溶解させ、クマシーブルーで染色したSDS−PAGEゲルを用いて分析し、抗ヒスチジン抗体を用いてブロットした(図15)。接種の4時間後に誘導された細胞は、僅かに多いタンパク質を産生した(両方のゲルのレーン3)。これら増殖条件を後のタンパク質発現で用いた。
【0096】
<<融合タンパク質の精製>>
封入体を単離し、洗浄し、再可溶化させることによる可溶性タンパク質の単離を行った。
【0097】
プロトコルの完了には約1週間かかった。クマシーブルーで染色されたゲルの写真と、再可溶化されたscFv:フェリチン融合タンパク質及びscFv:MT2融合タンパク質のウエスタンブロットの写真とを、図16中に見出すことができる。融合タンパク質を丸で囲んだ。両方のゲルのレーン2がフェリチンであり、両方のゲルのレーン3がMT2である。レーン1は、タンパク質分子量ラダーである。
【0098】
これから、融合タンパク質がうまく発現し、濃縮されていることが分かる。磁化プロトコル及び更なる実験でこれらタンパク質を用いた。
【0099】
(実施例3:SPR分析)
SensiQ機器(ICX Nomadics)を用いる表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイにおいて、抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質及び抗フィブロネクチンMT2融合タンパク質の封入体調製物を用いた。
【0100】
これら実験では、フィブロネクチンペプチドをカルボキシルチップ表面にカップリングさせた。次いで、融合タンパク質調製物をチップ上に流し、会合速度(Ka)及び解離速度(Kd)を測定した。
【0101】
<分析用融合タンパク質サンプル>
以下の表2及び表3に記載されるランニングバッファ中で0.0013μM〜0.133μMの濃度の融合タンパク質のサンプルを6種作製した。
【表2】
【表3】
【0102】
<メタロチオネイン>
サンプル(サイクル1〜6)=0.0013μM〜0.133μMのメタロチオネイン融合タンパク質20μL
アッセイラン=Mab&Glyアッセイサイクル(上記の通り)
【0103】
SensiQ Qdat分析ソフトウェア、及び動態パラメータ(Ka、Kd)を算出するためのデータに適合したモデルを用いて上記サイクルのセンサグラムを重ねた。Kdの最良推定値は、データの解離部分にのみモデルを適合させることにより得られた。結果を図17aに示す。0.00503s−1のKdに対し、2.289×10−9MのKdが得られた(Kaは2.197×106M−1s−1)。
【0104】
<フェリチン>
サンプル(サイクル1〜6)=0.0013μM〜0.133μMのフェリチン融合タンパク質20μL
アッセイラン=Mab&Glyアッセイサイクル(上記の通り)
【0105】
SensiQ Qdat分析ソフトウェア、及び動態パラメータ(Ka、Kd)を算出するためのデータに適合したモデルを用いて上記サイクルのセンサグラムを重ねた。Kdの最良推定値は、データの解離部分にのみモデルを適合させることにより得られた。結果を図17bに示す。0.00535s−1のKdに対し、6.538×10−10MのKdが得られた(Kaは8.183×106M−1s−1)。
【0106】
<結果>
上記実験データから、フィブロネクチンのエキストラドメインB(aa16〜42)抗原が、うまくSensiQチップ上にコーティングされたことが分かった。予想通り、75kDaのメタロチオネイン融合タンパク質及び270kDaのフェリチン融合タンパク質の両方が、抗原を特異的に認識し、結合した。融合タンパク質と抗原との相互作用に関する動態データを推定し、両方の融合タンパク質の動態データが類似しており、大部分の抗体/抗原相互作用の範囲である10−8M〜10−10Mと比べて、両方の融合タンパク質について予想される範囲であること、即ち、Kdが10−9Mの範囲であることを見出した。
【0107】
したがって、この機器を用いて得られた値は、比較的親和性の高い抗体の結合親和性に匹敵する結合親和性を示唆する。更に、得られたデータは、融合タンパク質が、抗原に対する複数の結合部位を有することを示唆する。このことは、フェリチン融合タンパク質については予想されていた。しかし、MT2融合タンパク質については予想されておらず、MT2融合タンパク質は、二量体又はより高次の多量体タンパク質を形成しているため、結合親和力が増加していることが示唆された。
【0108】
(実施例4:フェリチンの磁化)
フェリチンは、通常水和酸化鉄(III)を含む。常磁性フェリチンを作製するために、より強い磁性を有するマグネタイト(Fe3O4)にこれらイオンを置換した。この実験に用いられる方法には、制御条件下でアポフェリチンの鉄イオンを添加し、これらイオンを酸化させることが含まれていた。
【0109】
<材料>
・逆浸透水(RO水)
・50mMのN−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)バッファ(pH8.6)(Sigma A6659)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)(Sigma 317594)
・0.1Mの硫酸アンモニウム鉄(II)
・ウマ脾臓アポフェリチン(Sigma A3641)
【0110】
<方法>
トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)をオーブン内で30分間80℃に加熱し、Me3Nを除去した後、室温まで冷却した。114mgのTMAを15mLのRO水に添加し、0.07M溶液を作製した。使用前に鉄及びTMA溶液を15分間窒素パージした。
【0111】
AMPSOバッファ(1リットル)を、1時間N2で脱気した。3.0mLのアポフェリチン(66mg/mL)をAMPSOバッファに添加し、該溶液を更に30分間脱気した。1リットルの容器中のAMPSO/アポフェリチン溶液を、65℃に予め加熱しておいた水浴中に入れた。該溶液中からN2供給管を取り出し、該溶液の表面上に浮かせて該溶液を嫌気条件下に維持した。硫酸アンモニウム鉄の最初の添加により、溶液中に存在する可能性のある任意の残留酸素イオンを除去する。
【0112】
0.1Mの硫酸アンモニウム鉄及びTMAバッファのアリコートを以下のように15分間に1回添加した。
添加1回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL
添加2回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加3回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加4回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加5回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加6回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加7回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加8回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
【0113】
Fe及びTMAの後半の添加時には、溶液の色が淡黄色から暗茶色に変化し、暗色沈殿が全体に分散した。この溶液を、この時点から「マグネトフェリチン」と呼ぶ。
【0114】
強いネオジムのリング状磁石を瓶に押しつけた状態で、マグネトフェリチン溶液を一晩室温でインキュベートした。次の日、図18の写真から分かるように、暗色固体物質が磁石に引き寄せられていた。
【0115】
<マグネトフェリチンの濃縮>
500mLのマグネトフェリチン溶液を、磁石上の5つのMacs(登録商標)LSカラムに通した(約100mLのマグネトフェリチンが各カラムを通過した)。カラムを通過した溶液(「フロースルー」と呼ばれる)をDuran瓶に回収した。磁石からカラムを取り外し、3mLのPBSを添加し、供給されているプランジャを用いることにより、3mLのPBSを用いて捕捉された物質を各カラムから溶出し、各カラムから約4.5mLを得た。後で分析するために、約1mLを2℃〜8℃で保存した(「透析前濃縮マグネトフェリチン」と呼ぶ)。溶出された溶液の残り(〜20mL)を4℃で一晩5リットルのPBSで透析し、過剰のFe及びTMAを除去した(「透析後濃縮マグネトフェリチン」と呼ぶ)。溶液の色の変化を記録した。マグネトフェリチンは元来暗茶色であったが、フロースルーは淡黄色になり、Macs(登録商標)カラムで濃縮された物質は、暗茶色〜黒色であった。
【0116】
透析管(Medicell International Ltd.、分画分子量12〜14,000ダルトン、〜15cm)をRO水中で10分間インキュベートし、管を柔らかくした。磁性的に単離して濃縮したマグネトフェリチンを透析管に移し、一晩撹拌しながら2℃〜8℃で5リットルのPBS中にてインキュベートした。2℃〜8℃で透析を続けながら、PBS溶液を3回交換し、次の日は2時間間隔で交換した。
【0117】
<マグネトフェリチンの分析>
磁石を用いて単離された磁性タンパク質の量を比較するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を実施した。
【0118】
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL RO水溶液)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・1質量%のウシ血清アルブミン(BSA(Celliance 82−045−2))−PBS溶液
・ウマ脾臓アポフェリチン(Sigma Aldrich A3641)
・ウサギ抗ウマフェリチン抗体(Sigma Aldrich F6136)
・ヤギ抗ウサギ抗体(Sigma A3687)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNCカタログ番号:468667)
【0119】
<<方法>>
マグネトフェリチンを定量するために、アポフェリチンの希釈液(50μg/mL、25μg/mL、12.5μg/mL、6.25μg/mL、3.125μg/mL、及び1.5625μg/mL)を作製した。
【0120】
マグネトフェリチン(未精製)、透析前濃縮マグネトフェリチン、透析後マグネトフェリチン、及びフロースルーを、以下のように炭酸塩バッファで希釈した。
マグネトフェリチン、透析前、及び透析後の希釈:
100倍希釈、200倍希釈、400倍希釈、800倍希釈、1,600倍希釈、3,200倍希釈、6,400倍希釈、及び12,800倍希釈
フロースルー:
10倍希釈、20倍希釈、40倍希釈、80倍希釈、160倍希釈、320倍希釈、640倍希釈、及び1,280倍希釈
【0121】
100μLの各溶液を、二連でマイクロタイタープレートのウェルに添加した。炭酸塩バッファ(100μL)を陰性対照として2つのウェルに添加した。プレートを4℃で一晩インキュベートした。次の日、溶液を軽くはじき飛ばし(flicked off)、室温で1時間、200μLの1質量%BSAを用いてブロッキングした。1ウェル当たり300μLのPBSで3回洗浄した後、ウェルを軽く叩いて乾かし、10μg/mLの抗ウマフェリチン抗体100μLを添加した。これを室温で1時間インキュベートした後、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。AP複合体化抗ウサギ抗体を、7.43μg/mLの濃度になるようPBSで3,500倍に希釈し、室温で1時間インキュベートした。抗体複合体を除去し、上記のようにウェルを洗浄した。AP基質(100μL)を各ウェルに添加し、15分間顕色させた後、停止液を添加した。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher)を用いて吸光度を記録した。
【0122】
Macs(登録商標)カラムは、フロースルー中に見出されたマグネトフェリチンの量の35倍のマグネトフェリチンを保持しており、これはタンパク質の磁化が成功したことを示す。
【0123】
<アポフェリチンの作製/ウマ脾臓フェリチンの鉱質除去>
<<材料>>
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・チオグリコール酸(Sigma T6750)
・ウマ脾臓フェリチン(Sigma 96701)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
【0124】
<<方法>>
透析管をRO水中で10分間柔らかくした。0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ10mLを、切り取った透析管中のウマ脾臓フェリチン(125mg/mL)1mLに添加した。1時間窒素パージしておいた0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(〜800mL)中に透析袋を移した。チオグリコール酸(2mL)をバッファに添加し、2時間窒素パージを続けた。更なる1mLのチオグリコール酸を酢酸ナトリウムバッファに添加し、その後更に30分間窒素パージを行った。酢酸ナトリウムバッファ(800mL)を交換し、窒素パージを続けた。フェリチン溶液が無色になるまで、鉱質除去手順を繰り返した。窒素パージを停止し、撹拌しながら1時間PBS(2L)でアポフェリチン溶液を透析した。PBSを交換し(3リットル)、一晩2℃〜8℃にてPBSでアポフェリチン溶液を透析した。
【0125】
<<結果>>
フェリチン溶液の色は、手順中に淡茶色から無色に変化し、これは鉄が除去されたことを示す。
【0126】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質に対する熱処理の分析>
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL水溶液)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
・1質量%のウシ血清アルブミン(BSA(Celliance 82−045−2))−PBS溶液
・フィブロネクチンペプチド
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・抗ヒトフェリチンマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz SC51887)
・抗マウスアルカリホスファターゼ抗体(Sigma A3562)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNCカタログ番号:468667)
【0127】
<<方法>>
100μL(100μg/mL)のscFv:フェリチンを薄壁PCRチューブに移し、60℃で30分間サーモサイクラー内にて加熱した。
【0128】
マイクロタイタープレートのウェルを、炭酸塩バッファで15μg/mLに希釈したフィブロネクチンペプチド(1.5mg/mLで供給)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、室温で1時間1質量%BSA−PBS溶液を用いてプレートをブロッキングした。これを軽くはじき飛ばし、PBSでプレートを3回洗浄した。scFv:フェリチン融合タンパク質及び熱処理したscFv:フェリチン融合タンパク質を、33μg/mL(各100μL)の濃度でウェルに添加した。フェリチン融合タンパク質を室温で2時間インキュベートした後、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積で各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を希釈し(50μL+950μLのPBS)、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。全てのウェルに基質を添加し、室温で45分間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した。
【0129】
scFv:フェリチンは、フィブロネクチンに対する結合能を保持しており、60℃で30分間加熱した後も抗ヒトフェリチンモノクローナル抗体により検出可能である(図20)。
【0130】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質の鉱質除去>
<<材料>>
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ
・チオグリコール酸(70%w/w Sigma T6750)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
【0131】
<<方法>>
scFv:フェリチン融合タンパク質を、−20℃から室温に解凍した。100μg/mLの該融合タンパク質を9mL、柔らかくした透析管に分注した。該融合タンパク質を収容している管を、合計1mLの酢酸ナトリウムバッファですすぎ、これを9mLのタンパク質に添加した(0.9mg/mL溶液が得られた)。800mLの酢酸ナトリウムバッファを15分間窒素パージした後、透析袋を入れた。次いで、溶液を更に2時間パージした。窒素パージを続けていたバッファに、2mLのチオグリコール酸を添加した。更に2時間後、1mLのチオグリコール酸を更に添加した。バッファを交換し(3mLのチオグリコール酸を含有している予めパージした酢酸ナトリウムバッファ800mL)、窒素下で1時間透析を続けた。次いで、室温(N2無)の2リットルのPBSに透析袋を移し、次いで3リットルのPBS中に移して4℃にて一晩放置した。次いで、鉱質除去された融合タンパク質を用いて、以下のように鉄添加及び制御酸化により常磁性融合タンパク質を作製した。
【0132】
<磁性scFv:フェリチンの作製>
<<材料>>
・逆浸透水(RO水)
・50mMのN−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)バッファ(pH8.6)(Sigma A6659)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)(Sigma 317594)
・0.1Mの硫酸アンモニウム鉄(II)
【0133】
トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)をオーブン内で30分間80℃に加熱して、Me3Nを除去した後、室温まで冷却した。114mgのTMAを15mLのRO水に添加して、0.07Mの溶液を作製した。使用前に、鉄及びTMA溶液を15分間窒素パージした。
【0134】
窒素下で撹拌しながら室温で2時間、1リットルのAMPSOバッファを用いて、透析袋(上に詳述した)内に収容されている鉱質除去された融合タンパク質を透析した。鉱質除去されたscFv:フェリチン(〜10mL)を三角フラスコに移した。窒素パージして残留酸素を除去しながら、鉱質除去されたタンパク質溶液に18μLの鉄溶液を添加した。25分後、15μLの鉄及び10μLのTMAを添加した。
【0135】
次いで、以下に記載する量の鉄及びTMAバッファを15分間隔で添加した。
添加3回目 鉄30μL+TMA20μL
添加4回目 鉄15μL+TMA10μL
添加5回目 鉄15μL+TMA10μL
添加6回目 鉄15μL+TMA10μL
【0136】
磁化されたタンパク質を、Macs(登録商標)LSカラムに通した。フロースルーをもう1度通過させ、捕捉効率を高めた。磁石からカラムを取り外し、1mLのPBSを添加し、プランジャを用いることにより、磁化されたタンパク質をカラムから溶出した(溶出液 約2mL)。これは、カラム上でタンパク質が2倍希釈されたことを表す。
【0137】
以下に詳述するような分析のために、溶出されたタンパク質及び対照をマイクロタイタープレートにコーティングした。
【0138】
<ELISAによるscFv:マグネトフェリチン融合タンパク質の分析>
磁化された融合タンパク質が、抗フェリチンモノクローナル抗体に対する結合能を保持しているかどうかを確認するために、酵素結合免疫吸着アッセイを行った。
【0139】
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL水溶液、pH9.6)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mLのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・フィブロネクチンペプチド
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・抗ヒトフェリチンマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz SC51887)
・抗マウスアルカリホスファターゼ抗体(Sigma A3562)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNC Cat:468667)
【0140】
<<方法>>
−融合タンパク質によるウェルのコーティング−
炭酸塩バッファで3倍希釈したscFv:フェリチン(未処理)、scFv:マグネトフェリチン、Macs(登録商標)カラムから溶出されたscFv:マグネトフェリチン、及びフロースルーでウェルをコーティングした。プレートを週末の間4℃でインキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、室温で1時間1質量%BSA−PBS溶液を用いてブロッキングした。これを軽くはじき飛ばし、PBS(各洗浄につき300μL/ウェル)を用いてプレートを3回洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を10μg/mLに希釈し、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。基質を全てのウェルに添加し、室温で1時間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した(図21aを参照)。
【0141】
−フィブロネクチンによるウェルのコーティング−
炭酸塩バッファで15μg/mLに希釈した100μLのフィブロネクチンペプチド(1.5mg/mLで供給)で、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングした。該プレートを2℃〜8℃で一晩インキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、300μLのPBSでウェルを3回洗浄した。二連で適切なウェル(100μL)に、scFv:フェリチン融合タンパク質を未希釈で添加した。次いで、プレートを室温で1時間インキュベートした。溶液を軽くはじき飛ばし、300μLのPBSでウェルを3回洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を10μg/mLに希釈し、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。基質を全てのウェルに添加し、室温で45分間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した(図21bを参照)。
【0142】
磁化された融合タンパク質をMacs(登録商標)カラムにより濃縮しても、該タンパク質は、依然としてモノクローナル抗フェリチン抗体により認識された。これは、抗フィブロネクチン−フェリチン融合タンパク質が、磁化されても構造的完全性を保持していたことを示す。また上記データは、磁化された抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質が、その標的抗原に対する結合能を保持していることも示す。したがって、二機能性単鎖融合タンパク質は両方共磁化可能であり、標的に選択的に結合し得ることが示される。
【0143】
(実施例5:血小板の単離及びFACS分析)
抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)が、フィブロネクチンを発現している血小板を他の種類の細胞から選択する能力を示すために実験を行った。
【0144】
大部分の細胞を定着させるために3日間4℃でEDTAバキュテナー内に保存していた血液サンプル由来の血漿を、30分間空気に曝露して、血小板を活性化させた。上記のように磁化されたscFv:フェリチン100μLを、10μLの該血漿と混合した。磁性融合タンパク質/血漿混合物を室温で30分間インキュベートした後(10μLを分析用に残した)、磁化され、且つ予め平衡化されているLS MACSカラム(Miltenyi Biotec)に通した。フロースルーを分析用に残した。市販のプランジャを用いてカラムから結合画分を溶出した。該画分をPBSで500μLに希釈し、蛍光活性化細胞選別(FACS)により前方散乱及び側方散乱を用いて分析した。
【0145】
結果を表4に示す。FACS分析では、設定されている数の事象(例えば10,000回)を記録するまでサンプルが分析されることを認識すべきである。したがって、サンプルの体積は、細胞の濃度によって大きく変動し得る。細胞濃度の高いサンプルを、細胞の多くが除去されているサンプルと比較するとき、これは特に重要である。細胞除去又は単離手順の効率を計算するとき、このサンプル体積の差を補正することが必要である。これを表4で行う。
【表4】
【0146】
この最適化されていない手順により、リンパ球に対してほぼ100%の選択性を有しながら、利用可能な血小板の90%が捕捉されたことが分かる。これは、scFv:フェリチンタンパク質のフィブロネクチンに結合する能力が血小板表面上で示されたことを示す。
【0147】
顕微鏡による目視検査の結果(結果は図示しない)がFACS分析の結果と相関していたことは、融合タンパク質が血小板に結合し、大きな粒状集合体の形成を導くことを示す。
【0148】
(実施例6:更なるプロトコル)
<scFv:MT2融合タンパク質の磁化>
scFv−MT2融合タンパク質は、亜鉛イオンをマンガンイオン及びカドミウムイオンに置換することにより磁化できる。これを行う方法は、必要に応じて最適化してもよい。これを達成する方法としては、必要に応じて既に公開されているプロトコルを変更した透析を用いて、透析した後置換を行うことにより亜鉛を枯渇させることが挙げられる。
【0149】
詳細には、これらプロトコルは以下の通りである。
1. 5mgのMT2を5mLのバッファ(4.5Mの尿素、10mMのトリス塩基、0.1Mのジチオスレイトール(DTT)、0.1質量%のマンニトール、及び0.5mMのPefabloc、pH11)を溶解させて、タンパク質の金属イオンを取り除く。
2. 同バッファで1時間透析する。
3. バッファ1(10mMのトリス塩基、2Mの尿素、0.1MのDTT、0.1質量%のマンニトール、0.5μMのPefabloc、及び1mMのCd2+/Mn2+、pH11)で72時間透析することにより、タンパク質を再度折り畳む。
4. 透析バッファをバッファ2に交換し(尿素の濃度が1Mであることを除いて上記の通り)、24時間透析する。
5. 透析バッファを、尿素を含有していない上記バッファに交換する。24時間透析する。
6. 工程5のように、透析バッファをpH8.8のバッファに交換する。24時間透析する。
7. 工程6のように、透析バッファをマンニトールを含有していないバッファに交換し、上記のように透析する。
8. 工程7のように、バッファをCd2+/Mn2+を含有しているバッファに交換し、24時間透析する。
【0150】
結合性は、フェリチン融合タンパク質について実施例3に記載したように評価することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクターであって、前記ベクターが、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質若しくは磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記ベクターが、電磁石を備えるデバイスと、前記部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを用いて投与されることを特徴とするベクター。
【請求項2】
部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントがカテーテルである請求項1に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項3】
治療剤が放射性同位体又は化学療法剤である請求項1から2のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項4】
治療剤が血栓溶解剤又は抗血栓剤である請求項1から2のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項5】
治療剤が抗トロンビンIIIである請求項4に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項6】
治療剤が磁性物質又は磁化可能物質であり、前記磁性物質又は磁化可能物質が電磁場を印加して患者の体内のある部位で温熱療法を行うのに好適である請求項1に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項7】
ベクターが患者の体内のある部位を標的とするための認識部分を更に含む請求項1から6のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項8】
認識部分が抗体、抗体断片、受容体、受容体断片、タンパク質、ポリペプチド、核酸、及びアプタマーから選択される請求項7に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項9】
認識部分が抗体の可変ポリペプチド鎖(Fv)、T細胞受容体、又はT細胞受容体断片から選択される請求項8に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項10】
認識部分が抗体の単鎖可変部(sc−Fv)である請求項9に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項11】
結合部分がラクトフェリン、トランスフェリン、フェリチン、鉄結合タンパク質、又はメタロチオネイン(MT)から選択されるタンパク質又はタンパク質の金属結合ドメインを含む請求項1から10のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項12】
結合部分がフェリチンを含む請求項11に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項13】
磁性物質又は磁化可能物質が遷移金属原子、ランタニド金属原子、遷移金属イオン、ランタニド金属イオン、並びに遷移金属イオン、及びランタニド金属イオンを含む化合物の少なくともいずれかである請求項1から12のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項14】
遷移金属イオン及びランタニド金属イオンの少なくともいずれかが、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Cu、Zn、Cd、Y、Gd、Dy、又はEuのうちのいずれか1種以上を含む請求項13に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項15】
1種以上の金属イオンがFe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Mn2+、Mn3+、Mn4+、Ni2+、Zn2+、Gd3+、及びCd2+のうちのいずれか1種以上を含む請求項14に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項16】
磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する部分を複数個含む請求項1から15のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項17】
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
(c)認識部分と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項18】
治療剤が磁性物質又は磁化可能物質であり、前記磁性物質又は磁化可能物質が電磁場を印加して患者の体内のある部位で温熱療法を行うのに好適である請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
請求項3から5のいずれかに記載のベクターに含まれる治療剤を更に含む請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
結合部分がラクトフェリン、トランスフェリン、フェリチン、鉄結合タンパク質、フラタキシン、シデロホア、及びメタロチオネイン(MT)から選択されるタンパク質又はタンパク質の金属結合ドメインを含む請求項17から19のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項21】
磁性物質又は磁化可能物質が請求項13から15のいずれかに記載のベクターに含まれる磁性物質又は磁化可能物質である請求項17から20のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項22】
認識部分が請求項8から10のいずれかに記載のベクターに含まれる認識部分である請求項17から21のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項23】
患者の温熱療法に対する感受性の高い罹患細胞又は罹患組織を治療するために用いられ、患者に電磁場を印加する前に投与される請求項17から22のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項24】
患者の体内のある部位で治療を行う、又は前記部位における前記治療を止めるために用いられる薬剤を製造するためのベクターの使用であって、前記ベクターが、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記ベクターが、電磁石と、前記部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて投与されることを特徴とする使用。
【請求項25】
電磁石と、患者の体内のある部位の近傍にベクターを運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて前記部位にベクターを投与する方法であって、
電磁石を用いて前記ベクターを前記エレメントに接着させる工程と、
患者の体内に前記エレメントを挿入する工程と、
前記電磁石を用いて前記エレメントからの前記ベクターの放出を制御する工程と、
を含み、
前記ベクターが、結合部分と、治療剤とを含み、前記結合部分が、磁性物質若しくは磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
電磁石と、患者の体内のある部位の近傍にベクターを運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて前記部位からベクターを除去する方法であって、
患者の体内に前記エレメントを挿入する工程と、
前記電磁石を用いて前記ベクターを前記エレメントに接着させる工程と、
患者の体内から前記エレメントを取り出す工程と、
を含み、
前記ベクターが、結合部分と、治療剤とを含み、前記結合部分が、磁性物質若しくは磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含むことを特徴とする方法。
【請求項1】
患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクターであって、前記ベクターが、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質若しくは磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記ベクターが、電磁石を備えるデバイスと、前記部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを用いて投与されることを特徴とするベクター。
【請求項2】
部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントがカテーテルである請求項1に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項3】
治療剤が放射性同位体又は化学療法剤である請求項1から2のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項4】
治療剤が血栓溶解剤又は抗血栓剤である請求項1から2のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項5】
治療剤が抗トロンビンIIIである請求項4に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項6】
治療剤が磁性物質又は磁化可能物質であり、前記磁性物質又は磁化可能物質が電磁場を印加して患者の体内のある部位で温熱療法を行うのに好適である請求項1に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項7】
ベクターが患者の体内のある部位を標的とするための認識部分を更に含む請求項1から6のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項8】
認識部分が抗体、抗体断片、受容体、受容体断片、タンパク質、ポリペプチド、核酸、及びアプタマーから選択される請求項7に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項9】
認識部分が抗体の可変ポリペプチド鎖(Fv)、T細胞受容体、又はT細胞受容体断片から選択される請求項8に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項10】
認識部分が抗体の単鎖可変部(sc−Fv)である請求項9に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項11】
結合部分がラクトフェリン、トランスフェリン、フェリチン、鉄結合タンパク質、又はメタロチオネイン(MT)から選択されるタンパク質又はタンパク質の金属結合ドメインを含む請求項1から10のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項12】
結合部分がフェリチンを含む請求項11に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項13】
磁性物質又は磁化可能物質が遷移金属原子、ランタニド金属原子、遷移金属イオン、ランタニド金属イオン、並びに遷移金属イオン、及びランタニド金属イオンを含む化合物の少なくともいずれかである請求項1から12のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項14】
遷移金属イオン及びランタニド金属イオンの少なくともいずれかが、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Cu、Zn、Cd、Y、Gd、Dy、又はEuのうちのいずれか1種以上を含む請求項13に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項15】
1種以上の金属イオンがFe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Mn2+、Mn3+、Mn4+、Ni2+、Zn2+、Gd3+、及びCd2+のうちのいずれか1種以上を含む請求項14に記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項16】
磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する部分を複数個含む請求項1から15のいずれかに記載の患者の体内のある部位で治療を行う又は治療を止めるために用いられるベクター。
【請求項17】
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
(c)認識部分と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項18】
治療剤が磁性物質又は磁化可能物質であり、前記磁性物質又は磁化可能物質が電磁場を印加して患者の体内のある部位で温熱療法を行うのに好適である請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
請求項3から5のいずれかに記載のベクターに含まれる治療剤を更に含む請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
結合部分がラクトフェリン、トランスフェリン、フェリチン、鉄結合タンパク質、フラタキシン、シデロホア、及びメタロチオネイン(MT)から選択されるタンパク質又はタンパク質の金属結合ドメインを含む請求項17から19のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項21】
磁性物質又は磁化可能物質が請求項13から15のいずれかに記載のベクターに含まれる磁性物質又は磁化可能物質である請求項17から20のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項22】
認識部分が請求項8から10のいずれかに記載のベクターに含まれる認識部分である請求項17から21のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項23】
患者の温熱療法に対する感受性の高い罹患細胞又は罹患組織を治療するために用いられ、患者に電磁場を印加する前に投与される請求項17から22のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項24】
患者の体内のある部位で治療を行う、又は前記部位における前記治療を止めるために用いられる薬剤を製造するためのベクターの使用であって、前記ベクターが、
(a)結合部分と、
(b)治療剤と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記ベクターが、電磁石と、前記部位の近傍に治療剤を運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて投与されることを特徴とする使用。
【請求項25】
電磁石と、患者の体内のある部位の近傍にベクターを運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて前記部位にベクターを投与する方法であって、
電磁石を用いて前記ベクターを前記エレメントに接着させる工程と、
患者の体内に前記エレメントを挿入する工程と、
前記電磁石を用いて前記エレメントからの前記ベクターの放出を制御する工程と、
を含み、
前記ベクターが、結合部分と、治療剤とを含み、前記結合部分が、磁性物質若しくは磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
電磁石と、患者の体内のある部位の近傍にベクターを運ぶのに好適なエレメントとを備えるデバイスを用いて前記部位からベクターを除去する方法であって、
患者の体内に前記エレメントを挿入する工程と、
前記電磁石を用いて前記ベクターを前記エレメントに接着させる工程と、
患者の体内から前記エレメントを取り出す工程と、
を含み、
前記ベクターが、結合部分と、治療剤とを含み、前記結合部分が、磁性物質若しくは磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含むことを特徴とする方法。
【図1】
【図17a】
【図17b】
【図19】
【図20】
【図21a】
【図21b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図10a】
【図10b】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図17a】
【図17b】
【図19】
【図20】
【図21a】
【図21b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図10a】
【図10b】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【公表番号】特表2011−520791(P2011−520791A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506737(P2011−506737)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055321
【国際公開番号】WO2009/133204
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(507194084)アイティーアイ・スコットランド・リミテッド (30)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055321
【国際公開番号】WO2009/133204
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(507194084)アイティーアイ・スコットランド・リミテッド (30)
【Fターム(参考)】
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