説明

医療受診者用問診システム

【課題】問診用プログラム搭載のコンピュータを用い、表示装置の画面に問診用質問と、これに対応する複数の予想回答を表示し、患者が自身の症状を示す回答を選択してタッチし、問診表を作成可能な、効率的な診療を支援する自動問診システムを提供する。
【解決手段】質問と回答を表示できるタッチパネルを具備し、問診用プログラムとしては格子型(マトリックス型)の論理構造を採用し、階層化手法を用いて患部領域ごとに、患部の部位、主訴、主訴関連個別質問、主訴関連共通質問、全患者共通質問の順に、質問文と複数の回答を同一画面に表示する。一連の問診質問と対応する複数の予想回答の中から患者が選択タッチした回答を集計し、作成問診データを医療システムに転送し、医師、看護師等の関係者に問診表を利用できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、問診用プログラムを搭載したコンピュータを用いて、表示装置の画面に医療機関内での共通問診及び各診療科特有の問診用質問と、これに対応する複数の予想回答を表示し、患者が自身の症状に該当する回答を選択してタッチする操作を順次複数の質問について実行し、得られたデータを、診療機関内の医療システムに取り込み、効率的な診療を支援するシステム技術に関する。
【背景技術】
【0002】
診療の最初の段階において、医師が患者の病状の訴え(以下コンプレインツという)を細部にわたり質問し記録することが必要である。しかし限られた診療時間内に多数の患者の診療を余儀なくされる医療現場では、通常医師が患者のコンプレインツを医師自身の判断で要約し、診療録(カルテ)にメモ書きするに留まり、丁寧な問診への対応が難しい。予め患者が問診表に主な訴状(以下主訴という)や既往歴を手書きし、診察時に提出させる場合も多いが、医師のカルテ記入を前提として設問が簡略化され、また主訴の関連病状を追補質問する機能がないため、医師の問診の負担を軽減し難い。
【0003】
コンピュータの発達と価格低下を受け、診断や診断の前提となる問診への応用研究は多数の医科大学で試みられてきたが、未だ実用化には到っていない。その理由として、患者のコンプレインツが主観的でデータ化に適さないこと、患者がしばしば楽観的な病状表現を行うので、医師は臨機応変に別の角度から質問を補足し実態確認を行う必要が生じるが、この場合の問診は、医師の高度な経験的技能に頼らざるを得ない。また、問診技能が指導教官の口伝的教育によって伝承されたため研究データの蓄積がないなども挙げられ、更に医師は自ら体得した技能として問診ノウハウの公開に消極的な面も見られる。
【0004】
他方、近時医療事故や治療ミスへの追求が厳しさを増し、裁判事件に発展することも日常的になっている。事実判定のため裁判所からカルテの提示を求められる状況も生じているが、現状のカルテの記録程度では患者のコンプレインツと、診断、治療の関係を解明する資料としては不十分である。従って、患者の主訴、副次的な症状の順に病状の訴えを聴取し、正確に記録しておくことは、確実な診療を実現するためにも重要な要素となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1999年4月当時の厚生省通達により診療録の電子化(以下、電子カルテと称する)が承認され、その後医療機関におけるカルテの電子化が推進されている。しかし、診療時に医師が問診しながら、コンプレインツをキーボードを用いて入力することは、全ての医師がコンピュータの操作に精通しているわけではないので医師に余分な負担をかける恐れがある。問診を医師以外の者が行うことに規制はないので、患者が自身の症状に基づいて正確に問診表を作成できれば、貴重な診療時間を使わずに済む利点がある。
【0006】
しかし、患者もまた、コンピュータの操作に精通しているわけではないし、医学的な知識を持ってはいない。従って患者自身が、キーボードやマウスのような入力装置を使用して、医師が希望するような医学用語に基づいた症状の記述を、医療関係者の助力無しに行うことは至難の業である。
【0007】
本発明は、医療機関に来院した患者が、診療に先立って、画面タッチ方式による入力手段を用いて、コンピュータの制御に基づき表示される問診のための質問と、それに対応する複数の予想回答を表示させ、患者が該当する回答にタッチして入力し、その後も質問と回答を反復して、患者の病状の正確な申告を問診表の形で容易に作成可能とするシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、タッチパネルを具備したコンピュータを用いて、中央処理装置内の主記憶装置には、一連の問診内容と回答の選択入力を制御するプログラムを記憶させる。このプログラムは、基本的には格子型(マトリックス型)の論理構造を採用し、階層化手法を用いて患部領域ごとに、患部の部位、主訴、主訴関連個別質問、主訴関連共通質問、全患者共通質問の順に、質問文と複数の回答を同一画面に表示し、患者にキーやボタン(以下コンピュータへの命令用として設置するキーをボタンという)操作をさせる方法により病状の問診を行うシステムを実現するように構築する。
【0009】
コンピュータには、表示画面に特定機能を選択するボタンを設定し、このボタンによって、診療科と、患部領域の一部、患部領域内の一部の質問文を不表示とし、自動問診機能を、自院または自診療科における診療の実施のために最適化する手段とする。
【0010】
各画面には、必要に応じて[拡大]ボタンを設け、このボタンにタッチすると予想回答部分を拡大表示に切り替えて、文字等を大きく表示することにより、視力が劣化した高齢者にも表示を判読し易く、また所要の回答をタッチし易くする手段を持たせる。
【0011】
タッチパネルと入出力機能を備え、CDーR/W、ハードディスク、またはフラッシュメモリー等の小型で大容量の記憶媒体を内蔵する携帯型入出力端末機(以下携帯型端末機という)を応用し、内蔵メモリーに問診用質問文と、各質問に対応した想定回答をリスト型式に整理した回答用語句群(回答用リストという)を格納した携帯型端末機を複数の患者に貸与して、診療の待ち時間に各自のコンプレインツを入力させ、診療時に医師が当該携帯型端末機を患者から回収し、診療用小型コンピュータまたは院内医療情報システムの診療用端末機に患者の問診結果を入力し利用するシステムを手段とする。
【発明の効果】
【0012】
患者が診察前の診療待ち時間に、図4に示すような身長、体重など基本事項問診を始めとして、所定のプログラムに従って、順次コンピュータ画面に問診のための質問を表示し、患者が質問を読み自身の病状を画面上の回答から選択することにより問診が進行するので、医師や看護師の手を煩わすことなく、患者のコンプレインツを整理した形で受け取れる。
【0013】
電子カルテに応用する場合、診療開始前、即ち患者の診療待ち時間に自動問診を行った結果を、院内医療情報システムに自動伝送することにより、医師が診察時に院内医療情報システムの診療用端末機の画面上で参照することができる。その結果、電子カルテ普及の妨げとなっている診察しながら患者の病状をキーボードから入力するための時間的ロスが解消し、また、患者基本情報を毎日繰り返して初診患者の数だけ質問することを省略できるから医師の診療上の負荷も軽減される。
【0014】
本発明の自動問診の付加効果として、プログラムに従って回答を行うと、結果的に患者自身のコンプレインツを自動的に整理していくことになり、その結果医師が直裁的に病状を把握することが可能となり診療効率が向上する。また診察前に基本的な問診を終えているので、医師は重点事項に絞り患者と対話する時間が得られる。さらに問診する事項が標準化され順次回答を得られるので、症状や既往歴など重要診断要素を聞き漏らしてしまうおそれを防止できる。
【0015】
医療関係の係争事件で、裁判官などの第三者が、コンプレインツと診断や治療との関係を検証するに耐え得る資料の保存が重要であるが、中でも、患者自身の入力によるコンプレインツがそのまま記録・保存されることから、医療裁判において、第三者の検証に際して公正な資料を提供し得ることが社会的に最も意義がある。本発明を、救急医療に応用し、状況説明と同時に問診結果を無線伝送すれば、急患受け入れ病院では、患者到着前に病状に対応した準備ができるので、救命効果を向上させることを期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の、自動問診に用いるコンピュータシステムのブロック図である。11は、全てのデータ処理プロセスを統御する中央処理装置、12は質問文とそれに対応する回答を表示する表示兼入出力部であって、液晶表示装置のような表示部と、この上に重ねた回答選択用タッチパネルを具備している。表示兼入出力部は、入出力制御部13を介して中央処理装置11に接続される。また記憶制御装置14を介して接続された記憶装置15を備えている。記憶装置には、問診のための多数の質問に対して、それぞれ設定された予想回答文、または回答用語句記憶部(以下、質問・回答記憶部と略称)15を持つ。これらの質問文、予想回答文群、またはリスト化した語句群は、データベースを構成する。
【0017】
自動問診プログラムを起動させると、図1の質問・回答記憶部15に記憶されている上記データベースの質問と回答を、順次表示兼入力部12に表示する。具体的に自動問診プロセスを説明すると、図1の表示兼入力部12において、図3の問診開始画面で常時表示されている「コンピュータ問診をお受けください」という案内文とともに、初診用の問診開始用ボタン[初めて受診]、再診患者で、病状が進んだり他の症状が出現した場合の問診開始ボタン[継続受診中][以前受診した]が表示される。案内文を読んだ患者が問診開始指示ボタン兼回答用キー、例えば[初めて受診]をタッチすると問診が開始される。
【0018】
制御プログラムは、図4に例示する患者基本データ問診に始まる一連の質問と、対応する回答群をタッチパネルに表示し、患者は質問文を読み、タッチパネルに表示させた回答の中から適当と考えられる語句を選択して入力すると選択された回答を認識し、質問・回答記憶部15に伝達するとともに、回答に応じて次に表示すべき質問を読み出して画面の入出力制御部13に送出する。このため、表示兼入力部12と中央処理装置11間にあって、質問文や回答用語句群の入出や転送をコントロールする入出力制御部13と階層化された患部部位データや、次質問とそれに対応する回答文群や語句を予め定めている順序に従って選出する記憶制御装置14をも備えている。
【0019】
指先タッチでボタンを選択すると、表示兼入力部12が、当該ボタンの画面番号と画面上のボタン位置情報を検知して、入出力制御部13に伝達する。入出力制御部13が中央処理装置11に送出し、中央処理装置が当該画面番号と位置情報を記憶制御装置14に伝え、憶制御装置が中央処理装置から受け取った同情報を問診開始および次質問選出命令として認識し、予め設定している論理に従って次質問文と、これにリンクしている回答文群や語句を予め定めている順序に従って、質問・回答記憶部15から選出し、中央処理装置に送出する。
【0020】
送出された次質問と予想回答語句は、表示兼入出力部12に、患者回答を送出する場合と逆の処理過程を辿って、中央処理装置から入出力制御部を経由して表示兼入力部に送出され、表示兼入出力部画面に表示する。問診開始指示ボタンがタッチされた以降に表示兼入出力部画面に表示した質問文と回答のデータは、患者ID(診察券)番号ごとに質問・回答記憶部15に保存する。
【0021】
特定の質問文に予め付している問診終了サインが質問文とともに入出力制御部13へ送出されると、入出力制御部は、「これで問診を終わります」という案内文とリンクした回答用語句[OK]を表示兼入出力部画面12に表出し、患者が[OK]にタッチすると、入出力制御部13は、問診終了信号として中央処理装置11に伝達し、中央処理装置は、記憶制御装置14に、当該患者の問診結果データの中央処理装置への送出を指令し、当該データを受け取った時点で入出力制御部13に対しプリンターへの出力を指令する。また、プリンターへの出力後、自動問診システムを図3の自動問診開始画面に復帰させる。
【0022】
電子カルテとの統合運用を行う場合は、図2に示すように、予め本案自動問診用小型コンピュータを院内医療情報システムとLANで接続し、自動問診用コンピュータに患者のID番号が入力された時、通信制御部17,18経由でID番号を院内医療情報システムの中央処理装置に、患者基本情報の送出要請として伝送し、同中央処理が自己の主記憶装置より、患者の初診受け付け時に登録された患者基本データから、氏名、性別、年齢(生年月日の場合は小型コンピュータ側中央処理装置で年齢に換算)を呼び出して、通信制御部経由で自動問診用小型コンピュータに送出する。
【0023】
同コンピュータは、中央処理装置11、入出力制御部12を経て表示兼入出力部にそのデータを表示する。画面上で患者が自己の患者基本データを確認し、[OK]ボタンにタッチすることで、自動問診が始まる。この手順を利用するには、院内医療情報システムメーカーとの接続条件調整と、インターフェイスソフトウェアの開発が必要となるが、患者の誤認防止と、入力軽減がはかれる。また各院内診療科が問診情報を共有できることのメリットも大きい。
【0024】
本発明の自動問診プロセスは、図5を例として説明すると、例えば「どこが具合悪いですか」という、患部を確認する質問と、予想される[頭][腹部]など複数の回答用リストを同一画面に表示し、そのいずれかを患者に選択・タッチさせる。回答用リストに設定している回答には、それぞれ1枠ごとに独立した入力キーとしての機能を持たせる。回答が終わった時点で次質問に移行させるために、画面上に[次へ進む]ボタンを設置する。
【0025】
本来、医療機関では診療科ごとに診療分野と範囲を定めており、外来担当医は、自診療科での必要範囲内で、病状を、患部部位、主訴、主訴関連質問、既往歴などの順に質問する。他方、患者は必ずしも来院時に、受診を希望する診療科ごとの診療範囲を理解しているわけでないので、例えば急に激しい頭痛が起こり、めまいに襲われ、手足がふるえる場合、これらをまとめて医師に訴えようとする。脳神経外科医の立場からは、これらの訴えから脳障害を想定し、脳の外科的診療手順を踏もうとするが、手足のふるえの治療については、医師が必要と判断した場合に、患者を整形外科に紹介する。
【0026】
紹介先の整形外科では、脳疾患を意識しつつも、改めて手足のふるえに関して問診を行う。精神科では、この患者が関連的に認知症を発症した場合に認知症診断のために独自の問診を行う。本発明では、例えば緑内障の主訴に前頭部痛があること、乳房に関しては内科、外科、婦人科で同一内容の問診を必要としていることなどから、また問診はできる限り患者の訴えに沿って行うべきとの立場を取ることから、問診を診療科ごとに区分設定することを避け、図5、図6で示すように、患部の確認と、選択された患部への主訴質問から始める。また患者が関連的に他の部位の症状も同時に訴えられるよう、患部を患部領域という概念に拡大する。
【0027】
この概念によれば、図6に示すように例えば[頭]の主訴回答として、手足の[ふるえ]も、精神領域とされる[認知障害]に関する質問も提示できる。また、医療機関ごとに担当診療科が異なる[乳房](乳腺疾患、乳がん)について診療科を問わず問診が行える。また今後医療の潮流になるとされている女性医師を運営母体とする女性専用外来において、更年期障害のように全身にわたる身体的症状と精神症状が混在する症状を、専門医以外が問診する場合にも有用である。
【0028】
本発明では、患部領域名(兼入力キー)を[耳・めまい](厳密にはめまいは患部ではないが)[精神・神経][小児科の病気][産・婦人科の相談]のように、可能な限り患者が診療科を容易に類推できるように表現し、また、例えば耳鼻咽喉科の患部領域である[耳・めまい][鼻][口・のど]の患部領域キーを隣接して設定する。更に、自院で診療対象としていない患部領域キーや質問文を医師自身により簡単な操作で不表示にできる機能を備える。
【0029】
この不表示機能は、本来的に、自院ないし自診療科では診療に責任を負えない患部領域について問診を受け付けないための手段ではあるが、診断に当り、参考のため一部専門外患部領域の症状を聞き置く手段として、また、専門外患部領域の患者を他の医療機関に紹介する際に、その症状への所見を書き添えるため、医師が適宜残置し利用することをも可能とする。
【0030】
本発明における自動問診は、1つの質問文と、これに対する複数の回答という一連の情報から成り、患者の症状を判断する資料を生成する。また、予め回答ごとに設定した最適の次質問と回答用リストを提示し、患者にこの中から該当する回答を選択して応答することを求める。
【0031】
患者が適切な回答を見出せない場合に備えて画面には[その他]キーと[わからない]キーを設定し、患者が回答に行き詰まっても問診を進行させる。画面には、図3のように、患者に親しみを感じさせるよう、医師と看護師のイラストを配し、問診のプロセスや意味を説明する案内文も表示し、回答キーは別色で区分し患者がタッチした場合には色を変える、障害のため指を使えない場合に、他の身体部位でタッチできるよう回答キーは可能な限り広げるなど、ハードウェア上にも患者の利便性に工夫を加える。
【0032】
自動問診を実用化するためには、コンピュータ処理の論理構造を確立することと、問診のための質問文や回答用文・語句の性格別分類と論理構造に適応した階層化、患者の入力負荷を最小限に押さえるための質問数の選定や画面レイアウトなど、コンピュータ上での詳細な構造設計が必要である。通常コンピュータにおけるインタビューの論理としては、Yes、Noの何れかの選択を継続する、いわゆるツリー型を適用するが、本発明では、主訴関連質問において、複数の回答に対してそれぞれ複数の次質問と複数の予想回答リストを提示しなければならないことから、また適切な回答が見当たらないとして回答が選択されなかった場合でも問診を進行させる必要があり、ツリー型構造では対応できないため、複数の質問と複数の回答を任意にリンクできる格子型(マトリックス型)論理構造を取る。
【0033】
患者が誤った回答を選択し、医師の誤診を招く場合がある。この事態を避けるには、矛盾が判明するような質問、例えば、妊娠回数の次に、出産、流産、妊娠回数を副次的質問としてコンピュータが追補質問を行うことにより、問診表への記入方式よりも更に精度の高い問診が可能になる。産婦人科等の関連では、口頭の問診の場合、羞恥心により回答し辛い質問に困惑することが起こり得るが、本発明によればコンピュータ画面と相い対するのみで人が介入せず、記録も秘匿できるから患者にとって精神的な苦痛は緩和される。
【0034】
自動問診システムが医師の診断を支援するためには、患者の回答結果について更なる関連質問を要する場合がある。図によって説明すれば例えば、図6「頭」の主訴において[ふるえ]が選択された場合、次質問として図8のように患部位確認を行い、仮に患部を「半身」と回答した場合には、次々質問として、左右の別を確認しなければならない。このため、本発明では、図9のような[それは、左右どちらですか」という質問を画面に表示する。また図6で、[めまい]が選択された場合、めまいの性質により診断名が異なるので、追補質問として図10のように[どのような症状ですか][めまい]を画面に表示する。
【0035】
自動問診は、図4に示すように、最初に、医師が診断に必要とはするが、必ずしも医師自身で問診するメリットのない、患者の性別、年齢、身長、体重、女性患者における妊娠の有無を患者基本データとして最初に一括質問し、次に、医師の口頭問診と同じく、患部部位を質問する。この場合、症状により発症部位が異なるので、[頭]のように症状が小範囲の部位については図7のように専用患部表を準備し、全身にわたって症状が発生する、例えば[ふるえ][けいれん][しびれ][まひ]のような部位については、図8、図9のような共通患部表を準備し、回答を標準化する。
【0036】
男女により予想回答が異なる場合、例えば「痛み」の部位回答用リストでは、男性用には[こうがん]を、女性用には[乳房]を配する。男性用、女性用部位リストを選択的に表示するには、患者基本データ問診における性別データを参照する。患部部位質問では、例えば図6で、主訴回答として[まひ」が選択され、次質問で図8、患部[手」「足]が選択された場合には、左右の別を質問する必要があるので、図9のような患部詳細質問と回答を次質問として設置する。
【0037】
論理構築上の工夫としては患部部位質問の次に、図6で示すように、第1段階層に選択された回答ごとに回答条件の違いにより次質問が変化する、主訴個別質問群を設置し、回答ごとに必要とされる次質問文群も同一階層に設置する。主訴個別質問の次階層に、主訴共通質問、即ち「症状は、いつごろからですか」「症状は、いつ起こりますか」「症状は、今も続いていますか」のように、いずれの主訴回答に対しても同じ次質問を提示すべき主訴共通質問群を設置する。次いで、図11「アレルギーがありますか」など、病状に関係なく全ての患者に同じ質問を提示する、全患者共通質問群を最下階層に設置する。
【0038】
患者に提示する回答用リストは、患者が順に読み進むことができる限界として1画面あたり25枠(兼入力キー)と定め、1患者あたりの質問項目を、回答によって変動するのではあるが、ほぼ35項目程度と定め、患者一人の問診を約5〜6分でできるよう設計する。更に、本マトリックス型論理を、図5患部領域[頭]を例として説明すれば下記の通りとなる。
【0039】
(1)図5のように、「どこが具合悪いですか」という質問文と、患部領域回答用リストとを同時に提示する。回答を選択した後[次へ進む]ボタンにタッチすると、次質問に移行する。
(2)患部領域[頭]が選択された場合、図6に示すように質問文「どのような症状ですか[頭]」と、頭の主訴として予想される回答用リストを、同一画面上に表示する。各主訴回答に付した回答番号、例えば主訴回答(1)[頭が痛い]については、次質問として質問文「頭のどのあたりですか[頭の患部]」との交点に○記号を付して表示命令とする。主訴回答(5)[めまい]が選択された場合には、次質問として「どのような症状ですか[めまい]」との交点に○記号を付して表示命令とする。
【0040】
主訴回答(7)[ふるえ]が選択された場合については、次質問として「部位を指してください」との交点に○記号を付して表示命令とする。更に左右を確認する必要のある部位については、◆(黒菱形、前質問で特定の回答が選択された場合のみ質問する指定マーク)記号を、質問文「それは、左右どちらですか」と主訴回答との交点に付し、選択条件として[半身][手」「足」などと指定する。回答は、案内文により指定されている数まで可能である。もし、患者が指定数以下で、案内文に従って、[次へ進む]ボタンにタッチすれば次質問に移行する。指定されている数まで回答した場合には[次へ進む]ボタンにタッチしなくても次質問に移行する。
【0041】
主訴回答(1)への次質問文「頭のどのあたりですか」が表示されている場合は、予めリンクさせている、図7の患部詳細部位の回答用リストを自動的に表示させる。主訴回答(5)[めまい]への次質問文「どのような症状ですか[めまい]」が表示されている場合は、図10のめまいの種類の回答用リストを自動的に表示させる。主訴回答(7)[ふるえ](8)[けいれん](9)[しびれ](10)[まひ]への次質問文「部位を指してください」が表示されている場合、回答条件で指定されている、例えば[半身][手」「足]についてのみ、図9の左右確認の質問と回答用リストとを表示させる。
【0042】
(3)主訴個別質問が終わると、図6下部の階層別質問表において、主訴共通質問「症状は、いつごろからですか」、「症状は、いつ起こりますか」、「症状は、今も続いていますか」を○交点記号により順次表示させる。
(4)主訴共通質問が終わると、図11、図12に示すように、「アレルギーがありますか」、「下記の病気をしたことがありますか」など全患者共通質問文を○交点記号により順次表示させる。乳房、婦人科の患者では一般既往歴の他に、婦人科固有の既往歴を追加質問する。
【0043】
(5)主訴回答として[その他]または[わからない]が選択された場合、回答内容が不明なので、内容の確認は診察時の医師との対話に委ね、主訴個別質問や、主訴共通質問は行わず、全患者共通質問のみを質問する。
(6)自動問診は主として初診患者に適用するが、再診患者でも、前回受診時より病状が悪化した場合や、前回診療時と異なった病状で来院した場合には自動問診を行う。この場合に備え、図3自動問診開始画面に示すように、[以前受診した]ボタンをシステム起動用として設置する。再診患者の場合、患者の入力負荷を軽減し、医師との会話を増やすため、自動問診は、主訴個別質問と主訴共通質問に留め、全患者共通質問に関する変化の確認は医師による口頭問診に委ねる。
【0044】
精神疾患である[せん妄]は、医学界では一つの概念として定着しているとしても、一般人には理解できないので一種の簡易翻訳機能を必要とする。本発明では、回答用リストに説明短文呼び出しのために[わからない]ボタンを付加し、回答にタッチした後、[次へ進む]の代わりにこのボタンにタッチすると、回答内容を[(せん妄)わけがわからないまま興奮することです]と説明短文をポップアップ表示する機能を備える。尚、この解説短文は次のキータッチを行うと解消する。
【0045】
患者のコンプレインツと、医学の専門的な症状の判断との間で表現上の差が出ることがある。医師としては、医学用語を用いた正確な設問を行い、適切な回答を希望するが、医学的知識がない患者としては、回答が難しい場合がある。本発明では、質問文、回答用語句とも、一般の人に平易な表現、例えば[関節の拘縮]を[関節のこわばり]のように医学専門門用語を一般用語に置換するとともに、[嘔吐(おうと)][失禁(尿もれ)]のように難解と思われる語句には読み仮名や短い説明を付加する。
【0046】
患者がタッチパネル上の問診のみでは回答が困難を覚えた場合には、ヘルプ機能を設け質問の内容と回答のヒントを音声情報によって説明することができる。この機能を実現するためには、前もって説明のためのデータを準備しておく必要があるが、このため画面上の[わからない]キーに患者がタッチした場合、当該画面番号と質問番号を図1の質問・回答記憶部15に記憶させれば、自動問診を改善する学習機能を持たせることが可能となる。
【0047】
電子カルテとの統合運用を行う場合、患者が図2の表示兼入出力部画面12上の「問診終了」キーを押すと、病院内医療情報システムに自動問診データ送信の許可を要請し、図2の院内医療情報システムの中央処理装置20が許可信号を、自動問診用コンピュータに送出すると、自動問診データが院内医療情報システムに伝送され同主記憶装置21に格納される。
【0048】
医師が自動問診結果を電子カルテ上で見る場合には、図2の院内医療情報システム23の診療用端末機に、患者の診察券番号を入力するか、又は、当日の診察予約者リスト上で患者氏名の指定を行うと、当該患者の問診データを院内医療情報システムの図2の主記憶装置21から読み出して、診療用端末の画面上に表示することができる。
【0049】
患者の訴えを自院診療科の診療分野と整合させ、自院で責任をもって対処できない疾病に関しての問診を避ける手段として、医師自身の簡単な操作により、患部領域と特定質問文の不表示機能を備える。即ち、不表示設定は、図3自動問診開始画面で、部外者による誤操作や悪戯を避けるため隠しボタンとしている看護師イラストをダブルタッチすることにより開始する。
【0050】
自院または自診療科診療科が扱う疾病を固定するため、図13の診療科の不表示設定画面で、自院または自診療科で扱わない診療科名にタッチすることにより不表示とする。勿論、不表示設定者を管理するためのセキュリテー対策が必要であるが、一般的なソフトウェア設計と同様、パスワード(番号)入力画面を設定することで対応する。診療科の不表示設定画面には、自動問診の画面と同様、次画面への移行のための[次へ進む]ボタンや、誤入力の修正用キーを設定する。不表示設定がなされた場合、画面上の当該キーは、反転表示されミス入力を防止する。
【0051】
診療科不表示設が終了した時、[患部領域へ]ボタンにタッチすると、図14に示すような患部領域不表示設定画面に移行する。患部領域の不表示設定は、自院または自診療科で問診が必要とされる以外の患部領域への問診を一括不表示処理する機能である。
【0052】
患部領域としての自動問診は残すが、当該患部領域の内の特定問診文を不表示とする場合は、図15のように、患部領域ごとの問診画面を順次表示するので、不表示を希望する質問文にタッチし、更に、主訴回答と当該質問文との○交点記号にタッチすると、○交点記号が×交点記号に変わり、×交点記号によって指定される主訴回答についてのみ当該質問文が不表示となる。
【0053】
例えば図15の患部領域[頭]の主訴回答の内、[ふるえ]、[けいれん][しびれ][まひ]の内、[ふるえ]について部位質問を不表示とする場合は、質問文「部位を指してください[患部表1]の文頭と、当該質問文と主訴回答[ふるえ]との交点にある○交点記号にタッチすれば、○交点記号が×交点記号に変わり、主訴回答[ふるえ]では患部部位質問を行わない。
【0054】
患部領域ごとの不表示設定画面は、順次全患部領域について画面表示を行うので、必要な患部領域での不表示設定操作を行い、設定が終了した時、画面上の[設定終了]ボタンにタッチするとコンピュータ内部の設定条件を更新し、不表示とされない部分のみが自院独自の自動問診として実現する。
【0055】
医師自身により問診文を追加することは、主訴個別質問文が他の質問文と関連しているため困難であるが、システム提供者側に依頼して、カスタマイズ処理または次期バージョンで、関連する問診と整合するように検討して不都合が生じないことを確認した後に付加することができる。
【0056】
介護保険主治医が介護度認定に必要な資料となる意見書を作成する際の支援用自動問診に利用する場合に、診療用自動問診の手法を応用することができるが、問診の対象は、患者ではなく介護者である。患者が介護保険対象の特定疾病の症状を有するか否か、障害の程度が24時間のケアを要するか否か、など所要の事項を判定するのは、日常介護を担当している介護者に判断して貰うほかはない。
【0057】
診療用自動問診は、患者が初診の時1度利用するのに対し、介護制度における問診では、回答者が患者の生活状況を必ずしも全て把握しているとは限らないため、問診が複数回にわたること、回答者の身分確認が重要であること、などの相違点があるので、主治医意見書作成支援の場合次回の問診では、未回答項目について回答を行えば済むように改良して、医師、介護者の負担を軽減する。診療用と主治医意見書作成支援の問診システムの複合的利用者は、コンビュータの共用が可能となり、処理コストの低減が可能となる。
【0058】
タッチパネルの画面表示においては、図5に示すように、各画面上に[拡大]ボタンを設置し、画面に表示される文字が小さくて判読し難い場合には、利用者がこのボタンにタッチすることにより予想回答部分を拡大表示に切り替え、高齢者あるいは視力に障害がある人にも判読し易くする機能を持たせる。
【0059】
タッチパネルを備えた携帯型端末機に、問診用質問文と、回答用リストを格納し、診療を受けようとする患者に、携帯型端末機を貸与して、診察待時間に各自のコンプレインツを入力させる。この方法によれば、外来担当医は診察直前に患者から当該携帯型端末機を受け取り、記録されている問診回答データを、診療用小型コンピュータあるいは院内医療情報システムの診療用端末機に読み込ませることにより、患者のコンプレインツを画面上で見ることができる。
【0060】
この方法は、携帯型端末機の扱いが繁雑となるが、オンライン化に必要な接続用ソフトウェアが不要であり、携帯型端末機が自動問診用の小型コンピータより安価なため、容易に複数台数を備えることができる。医師は、携帯型端末機内の問診データを診療用端末機に記録した後、データを消去して次の患者に渡すこともでき、また医療機関の間で患者を紹介する場合、紹介元の医療機関への患者受け入れ後の状況報告やカルテコピーを手渡しすることにも応用できる。この場合、紹介元への公衆回線によるオンライン伝送費用も、繁雑な伝送手順も不要である。患者としても、個別に椅子席での入力ができるので身体的負担が軽減される。
【0061】
更に携帯型端末機による自動問診を、電子健康管理手帳の型式で応用すれば、正確な診断に必要とされながらも、現在の診療では参照できないままとなっている就寝前と起床時の血圧の変動と推移や、歩数、栄養状態などの生活習慣がデータとして記録できるので、このデータを診療の際に医師に提示することにより診断と治療精度の向上が期待できる。
【0062】
自動問診の最後尾に、来院動機の質問文を表示して回答して貰い、満足度調査のデータとして利用することができる。初めて来院した人に対しては、医院または病院を選択した理由、例えば交通の便、医療の評判等について質問を表示し、広報や医療サービスの改善、診療、運営のため資料に役立てることが可能となる。また、再来の患者に対しては、診療に対する満足度、信頼度に関する質問を設定し、その回答を統計的に処理して、患者の意識と信頼度、満足度等の把握をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の自動問診システムのブロック図
【図2】問診用コンピュータと院内医療情報システムとの接続システム図
【図3】問診開始画面図
【図4】患者基本データ問診質問画面
【図5】患部確認の例を示す画面図
【図6】症状確認の例を示す画面図
【図7】患部位置確認用質問画面図
【図8】共通患部部位確認用質問画面図
【図9】患部位置詳細質問画面図
【図10】症状の補足質問画面図
【図11】全患者共通質問群の例を示す画面図
【図12】全患者共通質問群の例を示す画面図
【図13】診療科不表示設定の例を示す画面図
【図14】患部領域の不表示設定の例を示す画面図
【図15】特定問診文を不表示とする設定の例を示す画面図
【符号の説明】
【0064】
11 中央処理装置
12 質問文とそれに対応する回答を表示する表示兼入出力部
13 入出力制御部
14 記憶制御装置
15 予想回答文、または回答用語句記憶部(以下、質問・回答記憶部と略称)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タッチパネルを具備した小型コンピュータ上に、格子型(マトリックス型)の論理構造を構築し、階層化手法を用いて患部領域ごとに、患部の部位、主訴、主訴関連個別質問、主訴関連共通質問、全患者共通質問の順に、質問文と複数の回答を同一画面に表示し、患者にキーやボタン操作をさせる方法により病状の問診を行うシステム。
【請求項2】
小型コンピュータに、特定機能を有するボタンを設定し、このボタンによって、診療科と、患部領域の一部、患部領域内の一部の質問文を特定主訴について不表示とし、医療機関ごとの自動問診を自院へ最適化するシステム。
【請求項3】
画像表示と入力が可能なタッチパネルを備えた携帯型端末機と、その記憶装置に問診用質問文と、回答用リストを格納し、患者に手渡して、診療待時間に各自のコンプレインツを入力させ、診療時に医師が当該携帯型端末機を患者から回収し、診療用小型コンピュータに患者の問診結果を入力し利用するシステム。
【請求項4】
診療機関が患者を他の診療機関に紹介する際に、その患者の問診データ及び診療データを記憶装置に格納した携帯型端末機を患者に貸与し、紹介先の診療機関に診療内容を伝達し、相互に診療データの共用を可能とした請求項3に記載の診療データ利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−102743(P2007−102743A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321472(P2005−321472)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(592224275)有限会社クレドシステム (1)
【Fターム(参考)】