説明

医療技術機器およびこの機器の製造方法

【課題】内視鏡シャフト(2)を駆動するため、内視鏡シャフト(2)を取り囲む外にめくり返ったチューブ(3)を含む、内視鏡(1)等の医療技術機器を提供する。
【解決手段】内視鏡シャフト(2)と外にめくり返ったチューブ(3)との間の相対移動による摩擦を小さくするため、及び/又は外にめくり返ったチューブ(3)の二つの向き合った表面間の摩擦を小さくするため、これらの領域に潤滑剤が適用される。この目的のため、外にめくり返ったチューブ(3)及び/又は内視鏡シャフト(2)を、固体の状態で提供された第1成分でコーティングする。第1成分と反応する第2成分を第1成分に加えることによって、第1成分が液化し、及び/又は膨潤し、その潤滑性を発現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間や動物の身体に侵入するための医療技術機器(medico-technical device) に関し、更に詳細には内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡機器や、医療用内視鏡を体腔内に導入するための機器は、例えば、公開されたドイツ国特許出願DE−A−39 25 484(特許文献1)に記載されている。ここに記載された機器により、内視鏡は、もはや、検査されるべき身体に押し込まれず、体内を独力で移動する。この目的のため、内視鏡には、容易に且つ手早く挿入できるようにする駆動装置(固有の駆動装置)が設けられている。
【0003】
例えば外にめくり返ったチューブ(everting tube) とも呼ばれるこのような固有の機器を使用でき、このような機器内に内視鏡シャフトが導入される。内視鏡の推進時に様々な相対移動が生じる。一方では、互いに摺動接触した内視鏡シャフトと外にめくり返ったチューブとの間で相対移動が生じる。他方では、巻き戻し(unwinding)された、外にめくり返ったチューブの内側部分と外側部分との間で相対移動が生じる。
【0004】
各場合に生じる摺動摩擦並びに各々のエレメント間の付着を減少するため、例えば外部から供給された潤滑剤を使用することが、例えば、EP−A−0 873 761(特許文献2)に記載されている。これらの両方の場合において、潤滑剤は、一方では、内視鏡シャフトと外にめくり返ったチューブとの間に供給され、他方では、二つの重なった、外にめくり返ったチューブ間に供給される。多くの場合で使用された潤滑剤は食用オイルのようなオイルである。しかしながら、オイルの場合には、例えば内視鏡シャフトに沿って移動し、内視鏡のレンズを潤滑剤の薄膜で覆ってしまうという問題がある。この薄膜は除去するのが困難である。
【特許文献1】DE−A−39 25 484
【特許文献2】EP−A−0 873 761
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、改良された医療技術機器、特に改良された内視鏡機器を提供することである。好ましくは達成されるべき特定の改良は、医療技術機器の構造を簡単にし、効率を向上し、機器を使用する人々に広く受け入れられるようにするとともに、医療技術機器に生じる摩擦力を減少することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、この目的は、請求項1に記載の医療技術機器によって達成される。
【0007】
本発明の更に有利な形態は、従属項の要旨である。
【0008】
従って、本発明は、第2成分を加えたときにだけ潤滑性を発現する第1成分を設けた少なくとも一つのエレメントを含む、例えば内視鏡等の医療技術機器である。即ち、医療技術機器の作動中に摩擦が加わるエレメント、例えば外にめくり返ったチューブ又は内視鏡シャフト/内視鏡の内視鏡シャフトカバーを、例えばセルロース等の固体の状態の第1成分で予めコーティングする。第1成分は、医療技術機器又は内視鏡を作動するとき、水等の第2成分によって液化し、潤滑性を発現する。かくして、作動中に摩擦が加わるエレメントと、このエレメントと摩擦接触するエレメントとの間の摩擦が減少する。
【0009】
医療技術機器は、好ましくは、内視鏡である。
【0010】
有利には、エレメントは、医療技術機器の作動中に強い摩擦が加わる医療技術機器の一部又は部分である。エレメントは、好ましくは、外にめくり返ったチューブ及び/又は内視鏡シャフト/内視鏡の内視鏡シャフトカバーである。このようにして、外にめくり返ったチューブと内視鏡シャフト/内視鏡の内視鏡シャフトカバーとの間、及び/又は互いに対して移動する、外にめくり返ったチューブの表面間の付着及び摺動摩擦を減少できる。エレメントは、更に、医療技術機器の作動中に摩擦が加わる医療技術機器の任意の他の部分又は部分の一部であってもよい。
【0011】
一般的には、第1成分は、エレメントの外面及び/又は内面の少なくとも一部に設けられる。別の態様では、エレメントの全面(外面及び内面の両方)に第1成分を設けてもよい。好ましくは、外にめくり返ったチューブの内面及び外面の両方の全体に第1成分を設ける。
【0012】
好ましい実施形態では、エレメントに対する第1成分の結合エネルギは、第2成分を追加する前には高い。有利には、結合エネルギが非常に高いため、例えば外にめくり返ったチューブの裏返し部等で特にエレメントに強い変形が加わる場合、第1成分がエレメントから外れることが効率的に阻止される。これに関し、第2成分を追加する前には、第1成分は撓み弾性が高いことが望ましい。
【0013】
第2成分を追加する前には、第1成分は固体の状態で提供されることが望ましい。そのため、医療技術機器又はエレメントを長期に亘って貯蔵する場合の乾燥を考慮する必要がない。しかしながら、これは、本発明の主題についての必要な前提条件ではない。
【0014】
有利には、第1成分は、外にめくり返ったチューブに形成されたキャビティに収容されている。前記キャビティは、小孔や溝等であってもよい。
【0015】
キャビティは、レーザー彫刻(laser engraving) によって形成してもよい。しかしながら、外にめくり返ったチューブにキャビティを形成できる、例えばエンボス加工、発泡、切断、圧延、等の任意の他の方法を適用できる。
【0016】
キャビティは、好ましくは、プラズマ処理によって形成される。
【0017】
有利には、医療技術機器のエレメントはゴム製であり、好ましくはシリコーンゴム製である。
【0018】
第1成分及び/又は第2成分は、有利には、物理的な耐性を有する/生体親和性の又は生物学的に分解可能な材料で形成される。
【0019】
有利には、膨潤可能な高分子を第1成分として使用する。好ましくは、第1成分は多糖類である。この場合、第1成分は、有利には、でんぷん、グリコーゲン、セルロース、組み換えセルロース、又は寒天を含む。第1成分は、大豆タンパク質添加剤及び/又はホエータンパク質添加剤を含むアルギン酸塩を含む。
【0020】
変形例では、第1成分は、ペプチドであってもよい。この場合、第1成分は、有利には、コラーゲン、ゼラチン、又は組み換えゼラチンを含む。
【0021】
更に、第1成分は、合成材料又は珪酸塩であってもよい。
【0022】
第2成分は、好ましくは、オイル、水、オイル−水乳濁液である。
【0023】
有利には、腸内の流体等の体液を第2成分として使用してもよい。
【0024】
更に、第2成分は、例えばエタノール、グリコール、プロパノール、又はグリセリン等のアルコールを含んでもよい。
【0025】
医療技術機器は、内視鏡シャフトを含む内視鏡であるのが好ましい。内視鏡シャフトは、内視鏡シャフトカバーと、内視鏡シャフトを少なくとも部分的に包囲する、外にめくり返ったチューブとを含んでいてもよい。
【0026】
有利には、第2成分は、医療技術機器の作動中に強い摩擦が加わる医療技術機器の場所に適用される。内視鏡では、第2成分は、好ましくは、外にめくり返ったチューブの前方の裏返し部及び/又は後方の裏返し部に適用される。しかしながら、第2成分は、追加的に又は変形例として、内視鏡シャフトと、外にめくり返ったチューブとの間に適用されてもよい。しかし、第2成分を、追加的に又は変形例として、外にめくり返ったチューブの裏返しにされた表面間に、及び/又は内視鏡シャフトから遠ざかる方向に向いた外にめくり返ったチューブの表面上に付けることもできる。
【0027】
第2成分は、好ましくは、内視鏡シャフトに形成された導管/チャンネルを通して第1成分に供給される。前記導管は、例えば、作動導管、冷却導管、又は内視鏡に形成された別の導管であってもよい。第2成分は、必ずしも、内視鏡に形成された導管を通して供給されなくてもよく、例えば、外部に形成された導管を通して供給してもよい。
【0028】
有利には、内視鏡は、第2成分を貯蔵してここから第2成分を供給するような外部供給チャンバを含む。
【0029】
本発明の好ましい実施形態を、添付図面を参照して以下に詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この実施形態では、第2成分によって活性化されたときにだけ潤滑性を発現する第1成分が外にめくり返ったチューブだけにしか設けられていないが、内視鏡の他の及び/又は追加のエレメントに第1成分を設けてもよいということは明らかである。
【0031】
図1に示すように、内視鏡1は、内視鏡シャフト2、外にめくり返ったチューブ3、及び駆動手段4を含む。更に、この実施形態では、二つの外部貯留チャンバ5及び6が設けられており、これらの貯留チャンバは、ライン5a及び6aを介して、外にめくり返ったチューブ3の内側3d及び外側3a、3b、3cと夫々流体連通している。
【0032】
本発明によれば、外にめくり返ったチューブ3には、第2成分によって活性化されたときにだけ、又は第2成分と相互作用したときにだけ潤滑性を持つ、即ち第2成分によって第1成分を活性化する前には潤滑剤自体が形成されない、第1成分が設けられている。
【0033】
この方法では、実際上の潤滑剤である第1成分を、既に製造中であるときにも、外にめくり返ったチューブ3に、潤滑剤がその潤滑性を失うことなく、設けることができる。これは、第2成分によって活性化されたときにだけ潤滑性を発現するためである。実際に使用される前にオイルにコーティングされる、外にめくり返ったチューブとは対照的に、医療用機器の部分である外にめくり返ったチューブの貯蔵中、又は外にめくり返ったチューブが実際に使用される前に、外にめくり返ったチューブから医療技術機器(medico-technical device) の他の部分に潤滑剤が漏出したり移動したりすることがない。
【0034】
好ましくは、第1成分は、第2成分によって活性化される前には、固体の形態であり、その特性は、長期に亘る貯蔵中にも損なわれない。
【0035】
更に、第1成分は、好ましくは、外にめくり返ったチューブの全内面3d及び全外面3cの両方に適用される。好ましくは、第1成分は、均質に適用される。
【0036】
第1成分は、例えば浸漬コーティング、ローラーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、いわゆるドクターブレード法等の適切な従来の方法によって、外にめくり返ったチューブ3に実際に適用できる。有利には、使用された方法によって、第1成分を均等に、及びかくして特に滑らかに適用する。
【0037】
外にめくり返ったチューブ3には、特にその外にめくり返る部分で、強い変形が加わる。従って、第1成分は、有利には、外にめくり返ったチューブ3に対して高い結合エネルギを有するとともに、高い撓み弾性を有する。これは、第1成分が外にめくり返ったチューブ3から外れないようにするためである。更に、活性化に関し、第2成分によって活性化された後、第1成分は、外にめくり返ったチューブに対して十分に高い結合エネルギを有するのが望ましい。そのため、このようにして形成された潤滑剤は、形成された平面に残り、検査を受ける人間又は動物の身体内に移動しないか或いは非常に僅かな量しか移動しない。外にめくり返ったチューブ3に対する第1成分の結合エネルギを高めるため、例えば、第1成分の付着を良好にできるように、外にめくり返ったチューブの表面を荒らすことができ、又は外にめくり返ったチューブに溝を設けることができる。これに関し、化学的予備処理も考えられる。
【0038】
形成された潤滑剤の分離(segregation) を特に良好にするため、並びに第1成分を外にめくり返ったチューブ3の表面上に直接的に貯蔵するため、外にめくり返ったチューブ3の少なくとも一つの表面が、第1成分を収容するキャビティを持つプロファイルを示すのが好ましい。例えば溝形状のキャビティは、有利には、エンボス加工、発泡、及び切断開放すること、切断、ロール掛け、又は彫刻、特にレーザー彫刻によって形成できる。
【0039】
従って、本発明の好ましい実施形態では、第1成分は、外にめくり返ったチューブ3の表面に直接配置された溝に設けられる。幾つかの実施形態では、プロファイルは、規則的に配置された溝によって形成され、他の実施形態では、不規則に配置された溝によって形成される。
【0040】
変形例として、外にめくり返ったチューブは層状構造を備えていてもよい。この層状構造は、層を上側に重ねるための安定したベースを形成する少なくとも一つの基材層と、基材の少なくとも片側、好ましくは両側に、実際に使用する上で十分な潤滑剤を収容するように配置された第1成分用の貯留層と、基材の少なくとも片側又は両側に貯留層が配置されている場合に、潤滑剤即ち第1成分を、第2成分によって活性化された後に制御された態様で放出するようになった二つの外部有孔層とを含む。第1の態様では、基材/貯留層/有孔層の基本的構造が得られ、第2の態様では、有孔層/貯留層/基材/貯留層/有孔層の基本的構造が得られ、各態様において、中間層を更に設けることができる。
【0041】
基材層は、外にめくり返ったチューブ3自体によって形成され、これは、有利には、シリコーンゴム製である。貯留層は、有利には、好ましくは固体の形態で提供される第1成分を含む層である。第2成分によって前記層を活性化することによって、第1成分を液化し、膨潤させる。即ち潤滑性を発現し、次いで、このようにして形成した潤滑剤を少なくとも一つの隣接した層に放出する。
【0042】
更に、貯留層は、スポンジ状構造を持つように、又は毛管作用を持つ材料によって形成され、第1成分を、スポンジ状構造によって、又は材料によって吸い込み、第2成分によって活性化することによって、第1成分を少なくとも一つの隣接した層に放出する。
【0043】
二つの貯留層が設けられている場合には、これらの貯留層は、同一に形成されていてもよいし、異なるように形成されていてもよい。様々な圧力衝撃が外にめくり返ったチューブ3に作用する場合には、形態が異なるのが特に有利である。外にめくり返ったチューブ3では、例えば内部貯留層及び外部貯留層内の圧力等の様々な物理的影響が、特に外にめくり返った領域で生じ、その結果、夫々の外部条件に適合させたこの層の様々な形態を利用できる。同じことが、以下に説明する有孔層にも適用できる。
【0044】
好ましくは、有孔層は、貯留層と直接的に隣接するように設けられており、エレメントの外表面を形成する。しかしながら、第1成分、および第2成分によって活性化することによって形成された潤滑剤の夫々に対して実質的に透過性である限り、貯留層と有孔層との間に別の層が配置されていてもよい。有孔層の小孔は、任意の設計としてもよい。この層は、中央軸線が、有孔層によって形成されたエレメントの表面に対してほぼ直角、即ち、例えば80°乃至100°、特に約90°の、通孔又は導管を備えているのが好ましい。このようにして、形成された潤滑剤は、貯留層から、潤滑されるべき表面まで、特に効率的に且つ制御された態様で移動する。
【0045】
層をなして形成されたエレメントにより、例えば予め個々の層を必要とされるように準備した後、これらを互いに積層し、又は潤滑剤層を基材(外にめくり返ったチューブ3)又は基材の上に配置された層のうちの最も上の層に適用することによって、簡単に製造でき、その後、前記複合材料に有孔層を設ける。この形態の利点は、潤滑剤貯留部、即ち第1成分用の貯留部を、用途に応じた任意のパラメータに従って設計できるということである。
【0046】
上述のプロファイルは、好ましくは、放出された潤滑剤を、特に高い摩擦が加わる領域に供給するように適合できる。このため、プロファイルは、長さ方向に、横方向に、又は螺旋状に延びるキャビティを備えていてもよく、これらのキャビティは、好ましくは、溝又はスロットによって形成され、又は局所的に形成された個々の窪みによって形成される。
【0047】
第1成分を収容し、潤滑剤を制御された態様で放出する目的に適したプロファイルは、彫刻によって、特にレーザー彫刻によって形成できる。従って、レーザー彫刻によって形成されるべきプロファイルを持つ、外にめくり返ったチューブ3は、同様に、本発明に含まれる。
【0048】
レーザー彫刻により、材料の摩耗を例えばパルスレーザービームによって制御下で行うことができる。好ましくは、機械加工の精度を向上させるため、ビームを非常に強力に焦合させる。この場合、焦点の直径は、0.01mm乃至0.1mmである。焦点では、例えば2000℃より大きな非常に高い温度に達し、これによりほぼ全ての材料を迅速に機械加工できる。
【0049】
彫刻工程中、処理された表面に、形成されるキャビティの側方から狂いが生じる。このような狂いにより、外にめくり返ったチューブ3の摺動特性が低下する。従って、レーザー彫刻及び続いて行われる平滑化によってプロファイルを得ることができる。セラミックコーティング、シリケート化、紫外線照射、アクリレートコーティング、及びポリシラザンコーティングが、狂いを平均化すると同時に、十分な量の第1成分を受け入れるのに適した彫刻を施したキャビティの深さを保持するように、彫刻を施した表面を滑らかにするための特に適した方法であるということがわかった。
【0050】
本発明によれば、レーザー彫刻を予め行うことなく表面を処理するため、上述の方法のうちの一つの方法を使用できる。この場合、一層の第1成分層が表面上に形成される。
【0051】
第1成分を受け入れるためのキャビティを、外にめくり返ったチューブに形成するための別の好ましい変形例は、例えば、フラウンホーファー研究所等が境界表面及びプロセスエンジニアリングについて使用しているような、従来周知のプラズマ処理を使用することである。このようなプラズマ法は、基材の接着性を高めるために、基材の表面を荒らすため、又は活性化するためにその周知の用途で役立つ。しかしながら、本出願人は、プラズマ法によって形成したキャビティは、第1成分(好ましくは、アルギン酸塩)を導入できるのに十分であり、これによって得られる潤滑効果は、外にめくり返ったチューブ及び内視鏡シャフト/内視鏡シャフトカバーの夫々を満足のいくように潤滑する上で十分である。従って、第1成分を収容するキャビティを形成するため、従来周知のプラズマ法を、その元来の目的とは別に使用する。この場合、アルギン酸塩を第1成分として使用するのが好ましい。
【0052】
好ましくは、外にめくり返ったチューブ3が内視鏡に使用されるため、第1成分及び第2成分は、これらが、検査されるべき身体に対し多量に使用されたときに、物理的に耐性のある/生体親和性であり及び/又は無害であるのが有利である。第1成分及び第2成分は、更に、生物学的に分解可能な材料で形成されていてもよい。
【0053】
本発明によれば、第1成分は、第2成分によって活性化された後でのみ、その潤滑性を発現し、又は膨潤する。
【0054】
第1成分として、でんぷん、グリコーゲン、セルロース、組み換えセルロース(recombinant cellulose) (例えば、微生物や遺伝子組み換え植物から得られる)、寒天、あるいは、大豆タンパク質添加剤及び/又はでんぷんタンパク質添加剤を含むアルギン酸塩等の多糖類を使用するのが特に好ましい。これらのエレメントは、固体の形態で層として非常に容易に形成でき、更に、特に物理的に耐性を有する。変形例として、第1成分として使用する上で、例えばコラーゲン、ゼラチン、又は組み換えゼラチン(例えば、微生物や遺伝子組み換え植物から得られる)等のペプチドが非常によく適している。これは、これらもまた、層として非常に容易に形成できるためであり、物理的耐性が特に優れている。更に、このような使用について、膨潤性のある他の高分子又は他のプラスチック材料を考慮できる。
【0055】
上述のエレメントを第1成分として使用する場合、水を第2成分として使用するのが特に有利である。これは、水がどこでも手に入り、物理的に耐性を有するためである。上述のエレメントは、水で活性化したとき、液化し及び/又は膨潤し、及びかくして潤滑性を発現する。しかしながら、例えば、外にめくり返ったチューブを内視鏡機器で使用する場合、検査されるべき領域で第2成分として体液を使用することもできる。第2成分として使用するにあたり、例えばエタノール、グリコール、プロパノール、又はグリセリン等のアルコールも、非常に適している。
【0056】
潤滑剤を形成するために上述の第1成分及び第2成分を使用した場合、例えば内視鏡のレンズまで移動した場合に取り除くのが困難な脂肪のような潤滑剤の薄膜をレンズ上に形成するオイルとは異なり、潤滑剤を、例えば弱いウォータージェットによってレンズから非常に容易に除去できる。
【0057】
図1を参照すると、第2成分は二つの貯留部(5、6)内に収容されており、第2成分は、第1成分を活性化するため、これらの貯留部から、第1成分が設けられた外にめくり返ったチューブまで、ライン5a及び6aを介して搬送される。ライン5aは、第2成分を外にめくり返ったチューブ3の内面3dに適用するため、駆動装置4のハウジングに連結されている。ライン6aは、内視鏡シャフト2を通って延びており、外にめくり返ったチューブ3の外側3cと向き合った内視鏡シャフト2の外側のところに開放している。かくして、第2成分は、外にめくり返ったチューブの内側3d及び外側3a、3b、3cの両方に適用される。
【0058】
本発明は、上述の構成に限定されず、多くの変更が加えられる。主として重要なことは、第1成分が適用されたエレメント/外にめくり返ったチューブの領域に第2成分が安全に適用されるということである。従って、例えば二つのラインが枝分かれした唯一の共通の貯留部を形成してもよく、又は、例えば体液を使用する場合には、貯留部及び/又はラインを完全に不要にできる。しかしながら、内視鏡シャフトを通って延びるか或いは、内視鏡シャフトとは別個に形成されているかのいずれかのラインを介して第2成分だけを供給することもできる。内視鏡シャフトを通って延びるラインを使用する場合には、このラインを新たに設ける必要はなく、作動導管、冷却導管、又はスプレーノズル供給用導管等の現存のライン又は導管の一部又は全部を使用できる。
【0059】
図1に示す実施形態では、第2成分を外にめくり返ったチューブ3の内側3dに、及び外にめくり返ったチューブ3と内視鏡シャフト2との間の外側3cの場所に適用する。しかしながら、本発明は、このような構成に限定されない。好ましくは、第2成分は、特別に高い摩擦に露呈される外にめくり返ったチューブの領域に適用される。従って、第2成分は、例えば、外にめくり返ったチューブの外にめくり返った点3a、3bの一方又は両方に適用されると考えられる。
【0060】
内視鏡等の医療技術機器は、内視鏡シャフトを駆動するために内視鏡シャフトを包囲する、外にめくり返ったチューブを有する。内視鏡シャフトと外にめくり返ったチューブとの間の相対移動による摩擦及び/又は外にめくり返ったチューブの二つの向き合った表面間の摩擦を小さくするため、前記領域に潤滑剤が適用される。この目的のため、外にめくり返ったチューブ及び/又は内視鏡シャフトは、固体の状態で提供された第1成分がコーティングしてある。第1成分と反応する第2成分を第1成分に加えることにより、第1成分を液化し及び/又は第1成分を膨潤し、その潤滑性を発現する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施形態による、外にめくり返ったチューブを有する内視鏡の構造の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療技術機器において、
第2成分を加えたときにだけ潤滑性を発現する第1成分が設けられた少なくとも一つのエレメントを含む、医療技術機器。
【請求項2】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記エレメントは、外にめくり返ったチューブ及び/又は内視鏡シャフト及び/又は内視鏡シャフトカバーである、医療技術機器。
【請求項3】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第1成分は、前記第2成分が加えられる前に固体の状態で提供される、医療技術機器。
【請求項4】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第1成分は、前記エレメントの外面及び/又は内面を少なくとも部分的に覆っている、医療技術機器。
【請求項5】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第1成分は、前記エレメントに対する結合エネルギが高い、医療技術機器。
【請求項6】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第1成分は、高い撓み弾性を有する、医療技術機器。
【請求項7】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第1成分は、前記エレメントの表面に形成されたキャビティに収容されている、医療技術機器。
【請求項8】
請求項7に記載の医療技術機器において、
前記キャビティは、レーザー彫刻又はプラズマ処理によって形成できる、医療技術機器。
【請求項9】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記エレメントは、シリコーンゴム製である、医療技術機器。
【請求項10】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第1成分及び前記第2成分は、物理的な耐性を有する及び/又は生物学的に分解可能な材料でできている、医療技術機器。
【請求項11】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第1成分は多糖類である、医療技術機器。
【請求項12】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第1成分は、でんぷん、グリコーゲン、セルロース、組み換えセルロース、寒天、あるいは、大豆タンパク質添加剤及び/又はホエータンパク質添加剤を含むアルギン酸塩を含む、医療技術機器。
【請求項13】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第1成分は、ペプチドである、医療技術機器。
【請求項14】
請求項13に記載の医療技術機器において、
前記第1成分は、コラーゲン、ゼラチン、又は組み換えゼラチンを含む、医療技術機器。
【請求項15】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第1成分はプラスチック材料である、医療技術機器。
【請求項16】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第2成分は、オイル、水、オイル−水乳濁液、又は体液である、医療技術機器。
【請求項17】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記第2成分は、エタノール、グリコール、プロパノール、又はグリセリンである、医療技術機器。
【請求項18】
請求項1に記載の医療技術機器において、
前記医療技術機器は内視鏡であり、この内視鏡は、内視鏡シャフトと、該内視鏡シャフトを少なくとも部分的に包囲する、外にめくり返ったチューブとを含む、医療技術機器。
【請求項19】
請求項18に記載の医療技術機器において、
前記第2成分は、前記外にめくり返ったチューブの前方の裏返し部及び/又は後方の裏返し部に適用される、医療技術機器。
【請求項20】
請求項18に記載の医療技術機器において、
前記第2成分は、前記内視鏡シャフトと前記外にめくり返ったチューブとの間に適用される、医療技術機器。
【請求項21】
請求項18に記載の医療技術機器において、
前記第2成分は、前記外にめくり返ったチューブの裏返しにされた表面間に適用される、医療技術機器。
【請求項22】
請求項18に記載の医療技術機器において、
前記第2成分は、前記内視鏡シャフトから遠ざかる方向に向いた前記外にめくり返ったチューブの表面に適用される、医療技術機器。
【請求項23】
請求項18に記載の医療技術機器において、
前記第2成分は、前記内視鏡シャフトに形成された導管を通して加えられる、医療技術機器。
【請求項24】
請求項18に記載の医療技術機器において、
外部供給チャンバを更に含み、このチャンバに前記第2成分が貯蔵され、前記チャンバから前記第2成分が供給される、医療技術機器。
【請求項25】
医療技術機器の少なくとも一つのエレメントに、第2成分によって活性化されたときにだけ潤滑性を発現する第1成分を設ける方法において、
プラズマ処理によって前記エレメントの表面にキャビティを形成する工程と、
形成されたキャビティに前記第1成分を導入する工程とを含む、方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、
前記エレメントは外にめくり返ったチューブ及び/又は内視鏡シャフト及び/又は内視鏡シャフトカバーである、方法。
【請求項27】
請求項25に記載の方法において、
前記第1成分は、前記外にめくり返ったチューブの外面の少なくとも一部に設けられている、方法。
【請求項28】
請求項25に記載の方法において、
前記エレメントはシリコーンゴム製である、方法。
【請求項29】
請求項25に記載の方法において、
前記第1及び第2の成分は、物理的な耐性を有する及び/又は生物学に分解できる材料である、方法。
【請求項30】
請求項25に記載の方法において、
前記第1成分は多糖類である、方法。
【請求項31】
請求項25に記載の方法において、
前記第1成分は、でんぷん、グリコーゲン、セルロース、組み換えセルロース、寒天、あるいは、大豆タンパク質添加剤及び/又はホエータンパク質添加剤を含むアルギン酸塩を含む、方法。
【請求項32】
請求項25に記載の方法において、
前記第1成分は、ペプチドである、方法。
【請求項33】
請求項32に記載の方法において、
前記第1成分は、コラーゲン、ゼラチン、又は組み換えゼラチンを含む、方法。
【請求項34】
請求項25に記載の方法において、
前記第1成分はプラスチック材料である、方法。
【請求項35】
請求項25に記載の方法において、
前記第2成分は、オイル、水、オイル−水乳濁液、又は体液である、方法。
【請求項36】
請求項25に記載の方法において、
前記第2成分は、エタノール、グリコール、プロパノール、又はグリセリンである、方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−55166(P2008−55166A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221449(P2007−221449)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(598053695)インベンド メディカル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツンク (13)
【Fターム(参考)】