説明

医療用カプセル

【課題】患者に大きな苦痛を強いることなく、かつ、大がかりな設備を要することなしに、体液採取または薬液放出が可能な医療用カプセルを得る。
【解決手段】生体体腔内に飲み込むことが可能な医療用カプセルであって、体腔内のpH情報を得るpH測定手段と、体腔内の体液を採取する体液採取機構及び体腔内に薬液を放出する薬液放出機構の少なくとも一方と、このpH測定手段によるpH情報に基づいて、体液採取機構又は薬液放出機構を動作させる駆動機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の体腔内を通過中に、該体腔内に存在する体液を採取し、又は(及び)体腔内に薬液を放出する医療用カプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば病変の有無を発見するために、体腔内の特定の部位の体液を採取するには従来、内視鏡の先端部を対象部位に入れ、吸引チャンネルを介して採取するのが一般的であった。また、飲み込むカプセルと位置検出システムを組み合わせたカプセルシステムでは、カプセルが所定部位に達したことを検知したとき、該カプセルに搭載している吸引装置を無線駆動して、採取することも提案されている。体腔内の特定の部位に、例えば治療の目的で薬液を放出する場合も同様である。
【特許文献1】特開昭51-49587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前者は患者の苦痛が大きく、後者はカプセルの位置を常時モニタしなければならない。また、いずれも装置自体が大型化しコストが高い。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑み、患者に大きな苦痛を強いることなく、かつ、大がかりな設備を要することなしに、体液採取または薬液放出が可能な医療用カプセルを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、体腔内のpH値は体腔内の部位によって変化することから、pH値と体腔部位との相関を予め検出しておき、pHが特定の値になったときに、体液を採取し、あるいは薬液を放出する機構を医療用カプセルに設ければ、小型のカプセルで、患者に大きな苦痛を強いることなく、体液採取または薬液放出ができるという着眼に基づいてなされたものである。
【0006】
本発明の医療用カプセルは、生体体腔内に飲み込むことが可能な医療用カプセルであって、体腔内のpH情報を得るpH測定手段と、体腔内の体液を採取する体液採取機構及び体腔内に薬液を放出する薬液放出機構の少なくとも一方と、このpH測定手段によるpH情報に基づいて、体液採取機構又は薬液放出機構を動作させる駆動機構とを有することを特徴としている。
【0007】
体液採取機構は、体液採取口を有するケーシングと、該ケーシング内に液密にかつ移動可能に支持された内部を負圧とした体液保持タンクと、この体液保持タンクをケーシング内で移動させる移動機構とを有することが実際的である。上記体液保持タンクは、上記体液採取口に対応する内側開口を備えていて、上記駆動機構は、pH情報に基づき上記移動機構によって動作され、該内側開口と体液採取口との位置が合致する位置に体液保持タンクを移動させて上記負圧により体液を該体液保持タンク内に採取することが好ましい。体液保持タンクは、複数備えることができる。この場合、各体液保持タンクは、その内側開口が選択的にケーシングの体液採取口に一致するように上記移動機構によって移動することが好ましい。
【0008】
薬液放出機構は、薬液放出口を有するケーシングと、該ケーシング内に液密にかつ移動可能に支持され、内部に薬液及び正圧を生じさせる不活性ガスを封入した薬液保持タンクと、この薬液保持タンクをケーシング内で移動させる移動機構とを有することが実際的である。上記薬液保持タンクは、上記薬液放出口に対応する内側開口を備えていて、上記駆動機構は、pH情報に基づき上記移動機構によって動作され、該内側開口と体液採取口との位置が合致する位置に体液保持タンクを移動させて上記正圧により薬液を該体液保持タンクから体腔内に放出することが好ましい。薬液保持タンクは、複数備えることができる。この場合、各薬液保持タンクは、その内側開口が選択的にケーシングの薬液放出口に一致するように上記移動機構によって移動することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療用カプセルは、生体の体腔内のpH情報からカプセルが存在する場所を推定し、その推定結果に基づき、体腔内の体液を採取する体液採取機構及び体腔内に薬液を放出する薬液放出機構の少なくとも一方を動作させるので、大がかりな設備を要することなく、必要な体腔内体液を採取し、あるいは薬液を体腔内に放出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1ないし図3は、本発明の医療用カプセルを体液採取カプセル10に適用した実施形態を示している。体液採取カプセル10は、体液採取口11aが形成されたカプセル型のケーシング11を有し、このケーシング11内に、体腔内の体液を採取し、保持するための体液保持タンク12と、体液保持タンク12をケーシング11内で移動可能に支持する送りねじ13と、この送りねじ13に動力を与えるモータ14と、このモータ14を駆動制御する制御回路15と、駆動源であるバッテリ16とを収納している。本実施形態では、説明の便宜上、制御回路15を配置した側(図示左側)をケーシング11の先端側(先方)と定義して説明する。ケーシング11の外壁11bには、先端側と後端側の両方に、体腔内のpH情報を得るpH測定手段17が配置されている。
【0011】
ケーシング11内のモータ14より後方は、体液保持タンク12を収納するための空間であって、体液採取口11aを境界にして、体液採取前の体液保持タンク12を位置させる第1空間18(体液採取口11aより図示左側)と体液採取後の体液保持タンク12を位置させる第2空間19(体液採取口11aより図示右側)とに別けられる。送りねじ13は、第1空間18から第2空間19に向かって直線状に延びている。
【0012】
体液保持タンク12は、図2に詳細に示されるように、体液採取口11aに対応する内側開口12aと、この内側開口12aを介して体腔内から採取した体液を保持するタンク室12bと、内側開口12aとケーシング内壁11cの間を液密に保持するシール材12cと、送りねじ13に螺合する支持ねじ穴12dとを有し、モータ14からの動力によって送りねじ13が回動したときに、該送りねじ13の軸方向(図示右方向)に移動する。この体液保持タンク12は、送りねじ13を回転中心とする円運動が制限されるように、送りねじ13の軸方向から見た形状を、図2(B)に示されるように非円形状(長円形状、楕円形状)としてある。
【0013】
内側開口12aは、タンク室12bの内外を連通する出入口部であって、タンク室12bからケーシング内壁11cに向けて突出形成されている。この内側開口12aは、ケーシング内壁11cに対向し、体液採取口11aに合致する位置で開放され、合致しない位置ではケーシング内壁11cにより塞がれる。内側開口12aのケーシング内壁11cと対向する側の外周には、シール材12cを嵌合する嵌合溝12eが形成されている。
【0014】
タンク室12bは、体液採取前(体液保持タンク12が第1空間18に位置するとき)、真空状態(中空かつ内圧を負圧にした状態)で保持されている。よって、内側開口12aと体液採取口11aが合致する位置に体液保持タンク12が移動すると、内側開口12a及び体液採取口11aを介してタンク室12bが開放され、その負圧により、患者の体腔内から体液がタンク室12b内に吸い込まれる。
【0015】
本実施形態の体液保持タンク12は、体液採取口11aに近い側(図示右側)から順に一定間隔をあけて配置した、第1体液保持タンク12A、第2体液保持タンク12B及び第3体液保持タンク12Cで構成されている。この第1〜第3体液保持タンク12A〜12Cは、送りねじ13の軸方向に一定間隔をあけて配置されているので、その内側開口12aが選択的にケーシング11の体液採取口11aに一致するように順次移動する。ケーシング11内に備える体液保持タンク12の個数は任意である。
【0016】
次に、図3を参照して、体液採取カプセル10の制御系について説明する。この制御系は、モータ14、制御回路15、バッテリ16及びpH測定手段17により構成され、バッテリ16からの電力供給を受けて動作する。制御回路15は、pH測定手段17からのpH情報に基づいて体液採取するか否かを検知する検知部15Aと、検知部15Aの検知結果に応じてモータ14を駆動制御するCPU15Bとを有している。CPU15Bは、検知部15Aから体液採取する旨の検知結果を入力したとき、モータ14を駆動させて、第1空間18に位置する体液保持タンク12を第2空間19まで移動させる。この移動中、体液保持タンク12の内側開口12aとケーシング11の体液採取口11aが合致する位置で、患者の体腔内から体液が採取される。体液保持タンク12の移動速度は、患者の体腔内から体液を採取した瞬間に内側開口12aがケーシング内壁11cで塞がれる程度の速さとする。一方、検知部15Aから体液採取しない旨の検知結果を入力したとき、CPU15Bは何も実行しない。
【0017】
体液採取カプセル10の体液採取位置は、体腔内のpH値により設定可能である。体腔内におけるpH値は、口及び食道ではほぼ中性(6.8≦pH値<7.2)で、食道から胃に入ると中性から強酸性(1.0≦pH値≦3.0)に変化し、胃から10cm程度出ると一気に弱アルカリ性(7.2≦pH値<7.8)に変化するため、pH値の変化により体液採取カプセル10の現在位置を推定することができる。具体的に、胃液を採取したい場合には、pH測定手段17からのpH情報が中性から強酸性に変化したときに検知部15Aが体液採取する旨の検知結果を出力するように構成し、また、腸液を採取したい場合には、pH測定手段17からのpH情報が強酸性から弱アルカリ性に変化したときに検知部15Aが体液採取する旨の検知結果を出力するように構成すればよい。
【0018】
また、体液採取時におけるモータ14の駆動量は、第1〜第3体液保持タンク12A〜12Cをすべて第2空間19に移動させる量に設定しても、第1〜第3体液保持タンク12A〜12Cを1ずつ移動させる量に設定してもよい。前者の場合は、CPU15Bが検知部15Aから体液採取する旨の検知結果を入力してモータ14を駆動させると、体液採取口11aに近い第1体液保持タンク12Aから第2体液保持タンク12B、第3体液保持タンク12Cの順に第2空間19へ移動し、体液が第1〜第3体液保持タンク12A〜12Cに順次採取されるので、1種類の体液を採取したい場合に適用する。後者の場合は、CPU15Bが検知部15Aから体液採取する旨の検知結果を入力してモータ14を駆動させると、その都度、第1空間18に位置しかつ体液採取口11aに最も近い1つの体液保持タンク12が第2空間19へ移動し、移動した体液保持タンク12に体液が採取されるので、2種類以上の体液を採取したい場合に適用する。
【0019】
次に、体液採取カプセル10を用いた体液採取動作について、胃液を採取する場合を例に挙げて説明する。
【0020】
体液採取カプセル10は、胃液採取に用いる場合、pH測定手段17からのpH情報が中性から強酸性に変化したときに制御回路15の検知部15Aが体液採取する旨の検知結果を出力するように設定し、また、制御回路15のCPU15Bが制御するモータ駆動量を、第1〜第3体液保持タンク12A〜12Cをすべて第2空間19に移動させる量に設定しておく。
【0021】
体液採取カプセル10による体液採取動作は、患者があらかじめ体液採取カプセル10を嚥下して体腔内に導入した状態で行われる。嚥下された体液採取カプセル10は、口から食道、胃、十二指腸、小腸、大腸を通って排出され、体腔内を通過中に胃液を採取する。上述したように人間の体腔内におけるpH値は、口及び食道ではほぼ中性で、食道から胃に入ると中性から強酸性に変化し、胃から出ると弱アルカリ性に変化する。したがって、体液採取カプセル10が食道から胃に入ると、制御回路15がpH測定手段17のpH情報変化(中性→強酸性)から体液採取位置であることを検知してモータ14を駆動させ、第1〜第3の体液保持タンク12A〜12Bをケーシング11内の第1空間18から第2空間19に移動させる。この移動中、第1〜第3体液保持タンク12A〜12Bは、体液採取口11aに近い第1体液保持タンク12Aから順に、ケーシング11の体液採取口11aを通過し、この体液採取口11aと内側開口12aが合致する位置で患者の体腔内から胃液を採取する。胃液採取後の第1〜第3体液保持タンク12A〜12Bは、ケーシング11内の第2空間19で保持される。第2空間19では、第1〜第3体液保持タンク12A〜12Cの内側開口12aがケーシング内壁11c及びシール材12cにより液密に塞がれるので、採取した体液が漏れることはない。第1〜第3体液保持タンク12A〜12Cに保持された胃液は、患者の体腔内から排出された体液採取カプセル10から回収され、各種検査に使用される。
【0022】
以上のように本発明の医療用カプセルを体液採取カプセル10に適用した実施形態によれば、体液採取位置と体腔内のpH情報を関連させ、pH測定手段17からのpH情報に応じて体液採取カプセル10の現在位置を推定し、体液保持タンクの負圧を利用して体液採取を実行している。このようにpH情報から体液採取位置を特定し、かつ、負圧吸引式の体液保持タンクを用いれば、患者に大きな苦痛を強いることなく、かつ、大がかりな設備を要することなしに、体液採取が可能になる。
【0023】
図4ないし図6は、本発明の医療用カプセルを薬液放出カプセル110に適用した実施形態を示している。薬液放出カプセル110は、薬液放出口111aが形成されたカプセル型のケーシング111を有し、このケーシング111内に、薬液を封入した薬液保持タンク112と、薬液保持タンク112をケーシング111内で移動可能に支持する送りねじ113と、この送りねじ113に動力を与えるモータ114と、このモータ114を駆動制御する制御回路115と、駆動源であるバッテリ116とを収納している。本実施形態においても、説明の便宜上、制御回路115を配置した側(図示左側)をケーシング111の先端側(先方)と定義して説明する。ケーシング111の外壁111bには、先端側と後端側の両方に、体腔内のpH情報を得るpH測定手段117が配置されている。
【0024】
ケーシング111内のモータ114より後方は、薬液保持タンク112を収納するための空間であって、薬液放出口111aを境界にして、薬液放出前の薬液保持タンク112を位置させる第1空間118(薬液放出口111aより図示左側)と薬液放出後の薬液保持タンク112を位置させる第2空間119(薬液放出口111aより図示右側)とに別けられる。送りねじ113は、第1空間118から第2空間119に向かって直線状に延びている。
【0025】
薬液保持タンク112は、図5に詳細に示されるように、薬液放出口111aに対応する内側開口112aと、内部に薬液112f及び正圧を生じさせる不活性ガス112gを封入したタンク室112bと、内側開口112aとケーシング内壁11cの間を液密に保持するシール材112cと、送りねじ113に螺合する支持ねじ穴112dとを有し、モータ114からの動力によって送りねじ113が回動したときに、該送りねじ113の軸方向(図示右方向)に移動する。この薬液保持タンク112は、送りねじ113を回転中心とする円運動が制限されるように、送りねじ113の軸方向から見た形状を、図5(B)に示されるように非円形状(長円形状、楕円形状)としてある。
【0026】
内側開口112aは、タンク室112bの内外を連通する出入口部であって、タンク室112bからケーシング内壁111cに向けて突出形成されている。この内側開口112aは、ケーシング内壁111cに対向し、薬液放出口111aに合致する位置で開放され、合致しない位置ではケーシング内壁111cにより塞がれる。内側開口112aのケーシング内壁111cと対向する側の外周には、シール材112cを嵌合する嵌合溝112eが形成されている。
【0027】
タンク室112bは、内側開口112aから薬液112fを注入した後、内側開口112aとは反対側から該タンク室112b内に不活性ガス112gを注入したもので、タンク室内圧が正圧に保持されている。タンク室112b内の薬液112fは、不活性ガス112gにより、内側開口112a側に付勢されている。内側開口112aと薬液放出口111aが合致する位置に薬液保持タンク112が移動すると、内側開口112a及び薬液放出口111aを介してタンク室112bが開放され、不活性ガス112gの正圧により、薬液112fが患者の体腔内に飛び出す。薬液112fは例えば抗がん剤等であり、不活性ガス112gには例えば炭酸ガス等を用いることができる。
【0028】
本実施形態の薬液保持タンク112は、薬液放出口111aに近い側(図示右側)から順に配置した、第1薬液保持タンク112A、第2薬液保持タンク112B及び第3薬液保持タンク112Cで構成されている。この第1〜第3薬液保持タンク112A〜112Cは、送りねじ113の軸方向に一定間隔をあけて配置されているので、その内側開口112aが選択的にケーシング111の薬液放出口111aに一致するように順次移動する。ケーシング111内に備える薬液保持タンク112の個数は任意である。
【0029】
次に、図6を参照して、薬液放出カプセル110の制御系について説明する。この制御系は、モータ114、制御回路115、バッテリ116及びpH測定手段117により構成され、バッテリ116からの電力供給を受けて動作する。制御回路115は、pH測定手段117からのpH情報に基づいて薬液放出するか否かを検知する検知部115Aと、検知部115Aの検知結果に応じてモータ114を駆動制御するCPU115Bとを有している。CPU115Bは、検知部115Aから薬液放出する旨の検知結果を入力したとき、モータ114を駆動させて、第1空間118に位置する薬液保持タンク112を第2空間19まで移動させる。この移動中、薬液保持タンク112の内側開口112aとケーシング111の薬液放出口111aが合致する位置で、タンク室112bから薬液112fが患者の体腔内に放出される。薬液保持タンク112の移動速度は、タンク室112b内の薬液112fをすべて患者の体腔内に放出できる速さとする。一方、検知部115Aから薬液放出しない旨の検知結果を入力したとき、CPU115Bは何も実行しない。
【0030】
薬液放出カプセル110の薬液放出位置は、体腔内のpH値により設定可能である。体腔内におけるpH値は、口及び食道ではほぼ中性(6.8≦pH値<7.2)で、食道から胃に入ると中性から強酸性(1.0≦pH値≦3.0)に変化し、胃から10cm程度出ると一気に弱アルカリ性(7.2≦pH値<7.8)に変化するため、pH値の変化により薬液放出カプセル110の現在位置を推定することができる。具体的に、胃で薬液を放出したい場合には、pH測定手段117からのpH情報が中性から強酸性に変化したときに検知部115Aが薬液放出する旨の検知結果を出力するように構成し、また、腸で薬液を放出したい場合には、pH測定手段117からのpH情報が強酸性から弱アルカリ性に変化したときに検知部115Aが薬液放出する旨の検知結果を出力するように構成すればよい。
【0031】
また、薬液放出時におけるモータ114の駆動量は、第1〜第3薬液保持タンク112A〜112Cをすべて第2空間119に移動させる量に設定しても、第1〜第3薬液保持タンク112A〜112Cを1ずつ移動させる量に設定してもよい。前者の場合は、CPU115Bが検知部115Aから薬液放出する旨の検知結果を入力してモータ114を駆動させると、薬液放出口111aに近い第1薬液保持タンク112Aから第2薬液保持タンク112B、第3薬液保持タンク112Cの順に第2空間119へ移動し、第1〜第3薬液保持タンク112A〜112Cから薬液112fが順次放出されるので、体腔内の一部位に薬液112fを放出したい場合に適用する。後者の場合は、CPU115Bが検知部115Aから薬液放出する旨の検知結果を入力してモータ114を駆動させると、その都度、第1空間118に位置しかつ薬液放出口111aに最も近い1つの薬液保持タンク112が第2空間119へ移動し、移動した薬液保持タンク112から薬液112fが放出されるので、体腔内の二部位以上に薬液112fを放出したい場合に適用する。
【0032】
次に、薬液放出カプセル110による薬液放出動作について、胃で薬液112fを放出する場合を例に挙げて説明する。
【0033】
薬液放出カプセル110は、胃で薬液112fを放出させる場合、pH測定手段117からのpH情報が中性から強酸性に変化したときに制御回路115の検知部115Aが薬液放出する旨の検知結果を出力するように設定し、また、制御回路115のCPU115Bが制御するモータ駆動量は、第1〜第3薬液保持タンク112A〜112Cをすべて第2空間119に移動させる量に設定しておく。
【0034】
この薬液放出カプセル110による薬液放出動作は、患者があらかじめ薬液放出カプセル110を嚥下して体腔内に導入した状態で行われる。嚥下された薬液放出カプセル110は、口から食道、胃、十二指腸、小腸、大腸を通って排出され、胃を通過中に薬液112fを放出する。上述したように人間の体腔内におけるpH値は、口及び食道ではほぼ中性で、食道から胃に入ると中性から強酸性に変化し、胃から出ると弱アルカリ性に変化する。したがって、薬液放出カプセル110が食道から胃に入ると、制御回路115がpH測定手段117のpH情報変化(中性→強酸性)から薬液放出位置であることを検知してモータ114を駆動させ、第1〜第3薬液保持タンク112A〜112Bをケーシング111内の第1空間118から第2空間119に移動させる。この移動中、第1〜第3薬液保持タンク112A〜112Bは、薬液放出口111aに近い第1薬液保持タンク112Aから順に、ケーシング111の薬液放出口111aを通過し、この薬液放出口111aと内側開口112aが合致する位置で薬液112fが患者の体腔内(胃)へ放出される。薬液放出後の第1〜第3薬液保持タンク112A〜112Bは、ケーシング111内の第2空間119で保持される。第2空間119では、第1〜第3薬液保持タンク112A〜112Cの内側開口112aがケーシング内壁111c及びシール材112cにより液密に塞がれるので、薬液112fがタンク室112b内に万一残存していても、該薬液112fが漏れることはない。
【0035】
以上のように本発明の医療用カプセルを薬液放出カプセル110に適用した実施形態によれば、薬液放出位置と体腔内のpH情報を関連させ、pH測定手段117からのpH情報に応じて薬液放出カプセル110の現在位置を推定し、薬液保持タンク112内の正圧を利用して薬液112fを放出する。このようにpH情報から薬液放出位置を特定し、かつ、正圧放出式の薬液保持タンク112を用いれば、患者に大きな苦痛を強いることなく、かつ、大がかりな設備を要することなしに、薬液放出が可能になる。
【0036】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による医療用カプセルを体液採取カプセルに適用した実施形態の内部構成を示す図である。
【図2】(A)同体液採取カプセルの体液保持タンクを拡大して示す拡大断面図、(B)(A)のB−B線に沿う断面図である。
【図3】同体液採取カプセルの制御系を示すブロック図である。
【図4】本発明による医療用カプセルを薬液放出カプセルに適用した実施形態の内部構成を示す図である。
【図5】(A)同薬液放出カプセルの薬液保持タンクを拡大して示す拡大断面図、(B)(A)のB−B線に沿う断面図である。
【図6】同薬液放出カプセルの制御系を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
10 体液採取カプセル
11 ケーシング
11a 体液採取口
11b 外壁
11c 内壁(ケーシング内壁)
12 体液保持タンク
12a 内側開口
12b タンク室
12c シール材
12d 支持ねじ穴
12e 嵌合溝
13 送りねじ
14 モータ
15 制御回路
16 バッテリ
17 pH測定手段
18 第1空間
19 第2空間
100 薬液放出カプセル
111 ケーシング
111a 薬液放出口
111b 外壁
111c 内壁(ケーシング内壁)
112 薬液保持タンク
112a 内側開口
112b タンク室
112c シール材
112d 支持ねじ穴
112e 嵌合溝
112f 薬液
112g 不活性ガス
113 送りねじ
114 モータ
115 制御回路
116 バッテリ
117 pH測定手段
118 第1空間
119 第2空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体体腔内に飲み込むことが可能な医療用カプセルであって、
体腔内のpH情報を得るpH測定手段と、
体腔内の体液を採取する体液採取機構及び体腔内に薬液を放出する薬液放出機構の少なくとも一方と、
このpH測定手段によるpH情報に基づいて、体液採取機構又は薬液放出機構を動作させる駆動機構と、
を有することを特徴とする医療用カプセル。
【請求項2】
請求項1記載の医療用カプセルにおいて、体液採取機構は、体液採取口を有するケーシングと、該ケーシング内に液密にかつ移動可能に支持された内部を負圧とした体液保持タンクと、この体液保持タンクをケーシング内で移動させる移動機構とを有し、上記体液保持タンクは、上記体液採取口に対応する内側開口を備えていて、上記駆動機構は、pH情報に基づき、上記移動機構によって、該内側開口と体液採取口との位置が合致する位置に体液保持タンクを移動させて上記負圧により体液を該体液保持タンク内に採取する医療用カプセル。
【請求項3】
請求項2記載の医療用カプセルにおいて、体液保持タンクは複数備えられており、各体液保持タンクは、その内側開口が選択的にケーシングの体液採取口に一致するように上記移動機構によって移動する医療用カプセル。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の医療用カプセルにおいて、薬液放出機構は、薬液放出口を有するケーシングと、該ケーシング内に液密にかつ移動可能に支持され、内部に薬液及び正圧を生じさせる不活性ガスを封入した薬液保持タンクと、この薬液保持タンクをケーシング内で移動させる移動機構とを有し、上記薬液保持タンクは、上記薬液放出口に対応する内側開口を備えていて、上記駆動機構は、pH情報に基づき、上記移動機構によって、該内側開口と体液採取口との位置が合致する位置に体液保持タンクを移動させて上記正圧により薬液を該体液保持タンクから体腔内に放出する医療用カプセル。
【請求項5】
請求項4記載の医療用カプセルにおいて、薬液保持タンクは、複数が備えられており、各薬液保持タンクは、その内側開口が選択的にケーシングの薬液放出口に一致するように上記移動機構によって移動する医療用カプセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−34292(P2009−34292A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200271(P2007−200271)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】