説明

医療用ドレーンチューブ

【課題】 体腔内からの滲出液を吸引する際、吸引器を陰圧にしても吸引効率を低下することなく確実に吸引が行え、抜去時に患者の体内と外気とが連通することのないドレーンチューブを提供する。
【解決手段】 集液部となる体内留置部を備え、前記体内留置部に、周壁部長手方向に、内壁面に達するスリットとを備えた医療用ドレーンチューブであって、吸引法によるスリットのタック値が30sec以下であり、かつ、前記体内留置部のチューブの引張試験を行った際の20%歪までの引張応力エネルギーが5mJ/mm2以下であることを特徴とする医療用ドレーンチューブである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術後にその創部から滲出する血液や体液の排出を行うドレーンチューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドレーンチューブは、外科用医療用具として体液の排出用に多く用いられており、さまざまな内外径、断面構造あるいは形状を持った製品が市販されている。
【0003】
これまでのドレーンチューブは、チューブ側壁面に側孔があり、体液の貯留部位に挿入した場合にチューブの先端部分及び側孔部分から体液がチューブ内に流入し、排出される構造になっている。しかし、患者の創部が治癒する前に、体組織がチューブの側孔内へ向かって成長し、側孔が塞がれるだけでなく、チューブの抜去時に体組織が引き裂かれる結果になり、患者に大きな苦痛を与えることがあった。
【0004】
この対策として、チューブの外側に、長手方向に均一断面をもつ複数の溝を設け、その溝によって体液の排出を行う形状のものが提案されている(例えば特許文献1)。
これは、体内に留置される体内留置部が、溝を設けた構造になっている。そのため、チューブの長手方向の外面に溝が設けられている構造により、患者の傷の治癒後には痛みを伴うことなくチューブを抜去することができる。
【0005】
しかしながら、これまでの側孔付きチューブや溝付きのチューブでは、いずれも側孔及び溝の双方とも常に開口しているため患者からの抜去時に患者の体内と外気とが連通することになる。一方患者からの抜去時に患者からチューブを抜去するのは一般病棟で術者の回診時に行われることが多く、必ずしも無菌環境下で実施されるとは限らないため感染の恐れがあった。
【0006】
また、持続吸引を行う際、側孔及び溝の双方とも常に開口しているため、チューブ内に組織が入り、そのため内腔が詰まり排出機能を失うということがあった。また、これらのチューブは、吸引器等で陰圧をかけたときに、チューブ先端側と後端側では吸引圧が異なり、先端側では低く、後端側では、高くなるという問題があった。
【0007】
そのため、吸引器等で陰圧をかけたときに、体内に留置されたチューブの先端から後端まで比較的、均等に吸引圧が伝わり、効率的に排出が行え、体内と外気とが連通することがない、また、チューブ内に組織が入らず、詰まりにくいドレーンチューブが用いられている、すなわち、従来の溝に変わって、体内留置部に周壁部長手方向に内壁面に達するスリットを設けたドレーンチューブである(例えば特許文献2)。
【0008】
スリットの形状をもつため、吸引しないときは、スリットがお互い密着し患者の体内と外気とが連通することを防止し、吸引時にスリットがチューブ内側に引き込まれ体液等を効率的に排出することが出来るものである。
【0009】
しかし、ドレーンチューブの用途拡大にともない、これまでのドレーンチューブだけでは十分に対応でない場合が出てきた。すなわち、留置する目的や部位によって体液の滲出が特に多い部分にドレーンチューブをうまく沿わせて、より効率的に吸引したい場合や破壊しやすい組織をより安全に組織を保護しつつ留置したい場合には、柔軟なドレーンチューブを求められるようになった。
柔軟なドレーンチューブとするためには、チューブの材料を柔軟な素材をもちいることにより得ることは出来る。しかしながら、柔軟なドレーンチューブは粘着性(タック性)が高いために、スリットの部分が貼付いたりして、吸引器で陰圧にした場合に、十分に吸引効率を維持できない問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開昭57−160471号公報
【特許文献2】特開平11−123238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、体腔内からの滲出液を吸引する際、吸引器を陰圧にしても吸引効率を低下することなく確実に吸引が行え、抜去時に患者の体内と外気とが連通することのないドレーンチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ストレートチューブからなる体外留置部と、前記ストレートチューブの先端部に接続され、内腔を有する体内留置部と、前記体内留置部の周壁部長手方向に内壁面に達するスリットとを備えた医療用ドレーンチューブであって、 吸引法によるスリットのタック値が30sec以下であり、かつ、前記体内留置部のチューブの引張試験を行った際の20%歪までの引張応力エネルギーが5mJ/mm2以下であることを特徴とする医療用ドレーンチューブが提供される。
【0013】
本発明に係る医療用ドレーンチューブは、外科用医療用具として体液の排出用として体腔内に挿入して用いられるものであり、スリットを介して内腔に体液を吸引し集液するように構成されている。本発明においては、吸引法によりタック値が30sec以下でかつ引張応力エネルギーが5mJ/mm2以下であることにより、体液の滲出が多い部分や、より効率的に吸引したい患部に沿わせたりすることができる。また、組織を破壊することなくより安全に吸引効率を低下させることなく吸引することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、体腔内からの滲出液を吸引する際、吸引器を陰圧にしても吸引効率を低下することなく確実に吸引が行え、抜去時に患者の体内と外気とが連通することのないドレーンチューブを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、共通する構成要素には同一符号を付し、以下の説明において詳細な説明を適宜省略する。
【0016】
本実施形態に係るドレーンチューブ100を図1に示す。ドレーンチューブ100は、集液部106として機能する内腔104を有する体内留置部110と、を備える。体内留置部110には、周壁部長手方向に、内壁面109に達するスリット102が設けられている。
内腔104は、体液の集液部として機能し、スリット102は、体液の取り込み部として機能する。本実施形態では、スリット102は、集液部106先端側から後端側に向かって2本形成されているが、スリットを設ける領域やスリットの本数は適宜設定することができる。
スリット102は、集液を行なっていないときは、スリット面同士は密着しており、チューブ内周面とチューブ外周面は連通していない。チューブ内を陰圧に吸引することにより、スリット102が内腔104側に引き込まれ連通し、浸出液を吸引することが可能となる。
【0017】
以下、ドレーンチューブ100の各部の構成について説明する。
【0018】
ドレーンチューブ100の材質としては、軟質塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂など、医療用として一般に使用されているものでよい。それらの中でもシリコーン樹脂がより好ましい。ドレーンチューブの断面形状は図2のように円形のほか、楕円形や長円形であってもよい。
【0019】
ドレーンチューブ100は、抜去時に患者の体内と外気が連通することがないため感染を防止することができ、また持続吸引の際にも体組織がドレーンチューブ100内に入り込み、排出機能を失うことのないような構造となっている。体内留置部110の側面に長さ方向に平行なスリット102が施されているが、体内留置中に持続的な吸引を行った際には、陰圧によりスリット部の切れ目が開き、滲出した体液を吸引することができるようになっている。通常スリットは、チューブ製造工程において先にチューブを成形した後、刃物などで施すため、切断面同士が密着した状態となっている。
【0020】
本発明のドレーンチューブ100の切断面の密着性(タック性)は、吸引法によるスリットのタック値が30sec以下であり、好ましくは20sec以下、さらに好ましくは10sec以下である。タック値がこの秒数以内であれば、安定して滲出した体液を持続して吸引することができる。また、下限については0secを超える値であればよく、例えば0.01sec以上あればよい。タック値がこの秒数以上であれば、吸引開始まではスリット面が密着しており、体内と外気とが連通することによる汚染を防止することができる。
【0021】
なお、ここでいう吸引法によるタック値とは、材料のタック性により上記スリット状の切れ目の断面同士が張り付くために吸引効率が低下する度合いを数値化したものである。図3に示す装置を用いて測定を行なう。
すなわち、
該当するシリコーン材料で外径がφ3.5mmで長さ250mm以上の2ルーメンチューブを作製し、切れ目の位置に刃物で長さ方向に直線のスリット切れ目を入れる。このときスリット134はチューブ138の中央付近に200mmの長さで加工する。このチューブ138を70℃のオーブンに入れ4日間加熱し、その後取り出して常温まで冷却する。
このチューブ138の両端でスリット134のない部分をそれぞれ鉗子132で挟み、チューブの内腔の空気の流れを遮断する。
チューブの片方に低圧持続吸引器142を接続する。この低圧持続吸引器142はゴム製のバルーン式であらかじめ膨らませておいたバルーンが縮まる際にバルーンとバルーンの外側にある容器との間の空隙が陰圧になることを利用して吸引力を生じさせるものである。チューブ側から低圧持続吸引器142に空気が流入するとバルーンは徐々に収縮し、最終的にもとの形状に戻ると収縮は停止し吸引力はなくなる。
この低圧持続吸引器142のバルーンをあらかじめ膨らませ吸引力が−140mmHgにセットしておき、低圧持続吸引器142に接続したチューブの当該吸引器側の鉗子132を取り外すと、陰圧によりチューブのスリットから外気が吸引され低圧持続吸引器142に空気が流入し、吸引圧が低下する。
この鉗子132を取り外してから低圧持続吸引器142の吸引圧が0mmHgに低下するまでの時間を測定する。
前述のチューブを5本用意し、それぞれ測定した時間の平均値を測定値とする。
【0022】
本発明のドレーンチューブ100の引張試験を行った際の20%歪までの引張応力エネルギーが5mJ/mm2以下である。より好ましくは4.5mJ/mm2以下である。引張応力エネルギーが上記数値以下であれば、体液の滲出が特に多い部分にドレーンチューブをうまく沿わせて、より効率的に吸引することができる。また、下限については、3.0mJ/mm2以上が好ましい。上記数値以上であれば、破壊しやすい組織をより安全に保護しつつ留置することができる。
【0023】
次に、本発明のドレーンチューブの製造方法について説明する。
【0024】
材料として、硬度が70(デュロメータA)以上の比較的硬度の高いシリコーンゴム材料を使用する。チューブ製造工程において押出機に材料を投入し先端のダイスでチューブの形状を成形し、連続的に一次加硫炉を通過させて加熱することによりシリコーンゴムを一次加硫させて硬化する。一次加硫炉を通過した一次加硫が終わったチューブを、延伸装置に導入しチューブを流れ方向に2倍以上、4倍以下に延伸する。延伸の工程を通過したチューブは一旦延伸された後、延伸機から排出された際にゴム弾性によりほぼ延伸前の長さに戻った状態になる。このチューブを引続き連続的に切断装置に導入し、適正な長さに切断する。切断されたチューブは束ねて、さらに2次加硫炉に投入し二次加硫を行ない架橋を終了させる。こうして製造されたチューブは延伸装置による延伸工程を経ずに製造されたチューブと比較し、特に延伸倍率が300%以下の領域において引張応力が低下しており実使用時の柔軟性があり、低硬度材料を用いて製造されたチューブと同様に使用することができる。しかも高硬度材料を使用しているため粘着性が低く、体内留置部分に施したスリット状の切れ目の断面同士が張り付くことが無いため吸引効率の低下を招くことがない。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
硬度70のシリコーンゴム材料を用いて外径が3.5mmのチューブを試作し、一次加硫後にそのチューブを長さ方向に3.5倍延伸し、応力を緩和させた後2次加硫を行った。一次加硫温度は240℃、ライン速度は3.5m/minで試作を行った。2次加硫は200℃のオーブンで4時間加熱をした。
この方法で試作したチューブと一次加硫後に延伸せず、すぐに2次加硫を施した従来方法のチューブについて引張試験を行った際の応力−伸び曲線を比較した。
図4の(a)は従来法で作成したチューブの応力−伸び曲線であり、図4の(b)は延伸を加えたチューブの応力−伸び曲線である。延伸を加えたチューブは伸びが0から300%付近の間で応力が下がり柔軟性が向上していることがわかる。また20%歪までの応力エネルギーは4.4mJ/mmであった。
ここで試作したチューブにカミソリ刃で長手方向の切れ目を加え、前述の吸引法でタック性を評価すると8.7secであった。
【0026】
(比較例1)
上記具体例と同じ硬度70のシリコーンゴム材料を用いて一次加硫後の延伸をせずに同形状のチューブを試作した。その際延伸を施さないこと以外は全て同じ条件で成形した。
【0027】
(比較例2)
硬度65のシリコーンゴム材料を用いて比較例1と同条件で同形状のチューブを試作した。
比較例1および比較例2のチューブに対し、同様に引張応力エネルギーと吸引法によるタック性を測定した。
結果は表1に示すように比較例1ではタック性は8.1secと良好であるが引張応力エネルギーは6.4mJ/mmと高く、チューブが硬いことがわかる。また比較例2では、硬度の低いシリコーンゴムを使用しているため、引張応力エネルギーは5.4mJ/mmと比較的柔軟であるが、吸引法のタック性が60secと高く、吸引効率が悪いことが分かる。
この様に本発明における製造方法により作製されたチューブは、柔軟性と低いタック性を両方兼ね備えており、吸引効率の低下を招くことなく柔軟性を要求される用途に使用できる。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明を用いることにより、目的や留置部位に合わせた柔軟性の高いチューブを選択でき、尚且つドレーンチューブに求められる性能すなわち陰圧をかけたときに体内に留置されたチューブの先端から後端まで比較的均等に吸引圧が伝わり、体内と外気が連通することなく、また、チューブ内に組織が詰まりにくく抜去抵抗が小さいことを満足したドレーンチューブを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態に係るドレーンチューブの構造を示す図で(a)は先端正面図、(b)は側面図である。
【図2】実施形態に係るドレーンチューブのスリットを示す先端断面図である。
【図3】吸引法によるタック値を測定するための測定装置の概略図である。
【図4】チューブを引張試験した場合の応力―歪線図であり(a)は延伸しないチューブであり、(b)は延伸したチューブのグラフである。
【符号の説明】
【0031】
100 ドレーンチューブ
102 スリット
104 内腔
106 集液部
108 外壁面
109 内壁面
110 体内留置部(集液部)
130 タック値測定装置
132a、132b 鉗子
134 スリット
136 スリット長さ200mm
138 測定チューブ
140 水銀柱圧力計
142 低圧持続吸引器
144 トラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集液部となる体内留置部を備え、
前記体内留置部に、周壁部長手方向に、内壁面に達するスリットが設けられた医療用ドレーンチューブであって、
前記スリットの吸引法によるタック値が30sec以下であり、かつ、前記医療用ドレーンチューブの引張試験を行った際の20%歪までの引張応力エネルギーが5mJ/mm2以下であることを特徴とする医療用ドレーンチューブ。
【請求項2】
前記体内留置部は、シリコーン樹脂で形成される請求項1に記載の医療用ドレーンチューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−20841(P2007−20841A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206532(P2005−206532)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】