説明

医療用ポンプシステム及び医療用ポンプ装着ラック

【課題】ラックに複数の医療用ポンプを装着して用いた際に、警報発生中の医療用ポンプを使用者が直ちに且つ容易に特定できるようにする。
【解決手段】複数の医療用ポンプがラックに装着された医療用ポンプシステムであって、ラックは、装着されている複数の医療用ポンプと通信するための通信部を有する。ラックは、複数の医療用ポンプのいずれかから通信部を介して警報通知が受信されると、当該警報通知を送信した医療用ポンプの当該ラックにおける装着位置を判定し、警報通知を発生している医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプのそれぞれから上記判定した装着位置を指し示すように、他の医療用ポンプのそれぞれに表示させる方向表示を決定する。そして、決定された方向表示を表示させるための指示を、他の医療用ポンプのそれぞれに対して通信部を介して送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の医療用ポンプをラックに搭載した医療用ポンプシステムおよび医療用ポンプ装着ラックに関する。
【背景技術】
【0002】
病院等において、薬液等を患者の体内へ送液するためには、輸液バッグ中の薬液を設定された輸液速度、輸液量で輸液チューブを介して患者に注入する輸液ポンプや、シリンジの薬剤を設定された注入速度,注入量で患者に送液するシリンジポンプが用いられる。一般に、これら輸液ポンプやシリンジポンプ(本明細書では、これらを総称して医療用ポンプと称する)は、1種類の薬液を送液するのに一つの医療用ポンプが必要である。そのため、手術室や集中治療室などにおいて複数の薬液を同時に患者に投与しようとする場合には、薬液の数に応じた複数の医療用ポンプが必要となる。複数の医療用ポンプを机上に並べたり、床に置いたりすると、場所がとられてしまう上に、それらを移動するのも容易ではないため、複数の医療用ポンプを並べて装着するためのラックが用いられる。
【0003】
複数の医療用ポンプをラックに装着して用いる場合、医療用ポンプを個別に操作して各種の設定を行ったり、監視したりする作業は煩雑である。そこで、ラックに装着されたそれぞれの医療用ポンプと通信する中央制御装置を設け、中央制御装置において医療用ポンプの接続形態や各医療用ポンプの輸液状態を監視できるようにした構成が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−347118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療用ポンプは、送液中になんらかの不具合の発生が検出された場合、または何らかの不具合の発生の予兆が検出された場合には警報を発生して使用者に対処を促す機能を有する。しかしながら、ラックに複数の医療用ポンプが装着されて送液を行っている間にある一つの医療用ポンプから、たとえば音による警報が発生された場合には、使用者はどの医療用ポンプから警報が発生しているのかを把握しにくい。或いは、医療用ポンプが表示器を用いて警報を発生中であることを示す表示を行うにしても、その表示が通常表示と著しく異なるものでなければ、複数の医療用ポンプから警報発生中のものを直ちに特定することは難しい。
【0006】
特許文献1のように、医療用ポンプが装着されたラックとは別個に中央制御装置を設けた場合、中央制御装置の表示画面でラックに装着された医療用ポンプのいずれにおいて警報が発生しているかを表示させることができる。しかしながら、この表示はあくまでも中央制御装置の画面上の表示であり、使用者は、まず画面上の配置を確認しなければならず、その後、画面上の配置を実際のラック上の配置へ置き換えて警報を発生している医療用ポンプを特定することになる。すなわち、特許文献1に記載の中央制御装置では、実際に警報を発生している医療用ポンプへの直接的なアクセスを可能にするものではない。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ラックに複数の医療用ポンプを装着して用いた際に、警報発生中の医療用ポンプを使用者が直ちに且つ容易に視認できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の一態様による医療用ポンプシステムは以下の構成を備える。すなわち、
複数の医療用ポンプがラックに装着された医療用ポンプシステムであって、
前記ラックは、
装着されている複数の医療用ポンプと通信するための通信手段と、
前記複数の医療用ポンプのいずれかから前記通信手段を介して警報通知が受信されると、当該警報通知を送信した医療用ポンプの前記ラックにおける装着位置を判定する判定手段と、
前記警報通知を発生している医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプのそれぞれから前記判定手段で判定した前記装着位置を指し示すように、前記他の医療用ポンプのそれぞれに表示させる方向表示を決定する決定手段と、
前記決定手段で決定された方向表示を表示させるための指示を、前記他の医療用ポンプのそれぞれに対して前記通信手段を介して送信する送信手段とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ラックに装着された複数の医療用ポンプの表示画面を利用して警報を発生している医療用ポンプを指し示すような表示が行われるため、使用者は直ちに且つ容易にラック上の警報発生中の医療用ポンプを特定できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は、第1実施形態による、医療用ポンプシステムの全体構成例を示す図、(b)は第1実施形態による医療用ポンプ装着ラックを説明する図である。
【図2】第1実施形態による医療用ポンプ装着ラックと医療用ポンプの制御構成を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態の医療用ポンプにおける制御手順を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態の医療用ポンプ装着ラックによる制御手順を示すフローチャートである。
【図5】(a)(b)は、第1実施形態の医療用ポンプシステムにおける、警報発生中の医療用ポンプの指示表示の例を示す図である。
【図6】第1実施形態の医療用ポンプシステムにおいて、医療用ポンプを2次元的に配置可能とした例を示す図である。
【図7】(a)(b)は、第2実施形態の医療用ポンプシステムの全体構成例を示す図である。
【図8】第2実施形態による医療用ポンプ装着ラックの制御構成を説明するブロック図である。
【図9】第2実施形態による医療用ポンプ装着ラックを2次元的に配置可能とした例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示する。
【0012】
[第1実施形態]
図1(a)は、第1実施形態による医療用ポンプシステムの外観構成の一例を示す図である。図1(a)に示されるように、本実施形態では、複数の医療用ポンプ(本例では6台としている)が専用のラックに装着された構成の医療用ポンプシステムを説明する。図1(a)において、101は医療用ポンプ装着ラック(以下、ラック101という)であり、本例では6台までの医療用ポンプ201を縦方向に一列に装着可能な構成となっている。また、図示の例では、医療用ポンプ201の例として輸液ポンプが示されており、各ポンプには、輸液バッグ(不図示)から各医療用ポンプ201に薬液を輸送するためのチューブ211a,各医療用ポンプ201から患者に薬液を輸送するためのチューブ211bが装着された様子が示されている。但し、医療用ポンプの装着台数はこれに限られるものではないし、医療用ポンプも輸液ポンプに限られるものではなく、シリンジポンプなど各種の医療用のポンプを装着可能である。
【0013】
図1(b)は、医療用ポンプ201が未装着な状態のラック101を正面から見た図である。ラック101には、複数のポンプ装着位置に対応して複数の(本例では6個の)ポート102が配置されている。複数のポート102の各々は、医療用ポンプ201と接続可能なコネクタにより形成されており、医療用ポンプ201はポート102を介してラック101と通信する。なお、ポート102は、縦に配列されたポンプ装着位置の上から順に#1、#2、…、#6という番号が割り当てられている。
【0014】
図2は、第1実施形態によるラック101と医療用ポンプ201の制御構成例を示すブロック図である。ラック101の6つのポート102は、それぞれ通信モジュール111に接続されている。通信モジュール111は、ポート102を介して医療用ポンプ201からの信号(データ)を受信すると、その受信したデータと受信したポートの番号(#1〜#6のいずれかのポート番号)を制御部121に通知する。また、制御部121から、ポート番号とデータ(コマンド等)の対を受信すると、当該ポート番号に対応するポート102に対して制御部121から受信したデータを出力する。こうして、ラック101の制御部121は、装着されている複数の医療用ポンプ201のそれぞれと個別に通信することが可能となっている。なお、制御部121は、マイクロコンピュータなどのCPU(不図示)とCPUにより実行される装置全体の制御プログラムや各種データを記憶するROM(不図示)とワークエリアとして測定データや各種データを一時的に記憶するRAM(不図示)などを備え、図4のフローチャートで示した処理を含む各種処理を、各処理工程(ステップ)において判断を行いながら実行する。
【0015】
医療用ポンプ201において、表示部202は、たとえば液晶パネルを有し、ポンプ制御部205の制御下で各種表示を行う。コネクタ203はポート102と接続し、医療用ポンプ201との電気的な接続(通信)を実現する。なお、コネクタ203とポート102との間はケーブルを介して接続されるものとする。或いは、コネクタ203とポート102が直接に接続される(たとえば、医療用ポンプ201をラック101に装着することでコネクト203とポート102が接続される)ようにしてもよい。ポンプ制御部205は、送液機構206を制御して、送液量を制御する。医療用ポンプ201が輸液ポンプの場合、送液機構206はたとえば送液用の複数のフィンガーを具備し、複数のフィンガーが順次に輸液チューブを押すことによりチューブ内の薬液を送出する。また、医療用ポンプ201がシリンジポンプであれば、送液機構206はシリンジを装着してその押し子を押圧する構成となる。
【0016】
以上のような構成の医療用ポンプ201において、ポンプ制御部205は、自身が制御する医療用ポンプ201において使用者に警報を通知すべき状態が検出された場合に、警報を発生する。ポンプ制御部205は、警報の発生を表示部202の画面を用いて報知するほか、通信モジュール204を介してラック101に通知する。また、ポンプ制御部205は、通信モジュール204を介してラック101から矢印表示の指示を受けると、表示部202に指示された種類の矢印を表示する機能を持つ。以下、この動作について図3のフローチャートを参照して説明する。
【0017】
図3は医療用ポンプ201の動作を説明するフローチャートである。ステップS301において、ポンプ制御部205は、医療用ポンプ201が発生した異常、異常発生の予兆、警報の要因の発生(使用者に対して、操作や対応措置により警報要因の解除を促す)を監視する。ここで異常とは、例えば、チューブ211bの閉塞、異常発生の予兆とは、例えば、メンテナンス時期のアラーム、警報の要因の発生とは、例えば、開始忘れやチューブ211a,211bまたはシリンジ(不図示)が医療用ポンプ201に正しくセットされていない場合である。警報の要因の発生(例えば、すべての設定・入力が完了し、輸液の開始準備が整った状態で輸液開始ボタン操作が行なわれなかったような状況)が検出されると、ポンプ制御部205は、表示部202を用いて警報表示を行い、通信モジュール204を介してラック101に警報通知を出力する(ステップS302でYES→ステップS303、ステップS304)。その後、ステップS305において、ポンプ制御部205は警報の要因が解除されるのを待つ。警報の要因が解除されると処理はステップS305からS306へ進む。ステップS306において、ポンプ制御部205は、ステップS304で行った警報通知の出力を停止し、ステップS303で行った警報表示から通常表示に戻す。
【0018】
警報の要因が発生していない場合は、処理はステップS302からステップS307に進む。ステップS307において、ポンプ制御部205は、ラック101のポート102から通信モジュール204を介して矢印表示の指示を受信したか否かを判定する。矢印表示の指示を受信した場合、処理はステップS307からステップS308へ進み、ポンプ制御部205は、指示された矢印を表示部202に表示する。また、矢印表示の終了指示を受信した場合は、ステップS309からステップS310に処理が進み、ポンプ制御部205は、表示部202の表示を通常状態に戻す。以上が、本実施形態の医療用ポンプ201における、警報通知に関わる表示処理である。
【0019】
次に、本実施形態のラック101による制御について説明する。本実施形態では、ラック101に装着された医療用ポンプ201において警報が発生した場合に、どの医療用ポンプで警報が発生しているのかを使用者に明示するために、ラック101に装着された他の医療用ポンプの表示部202を利用する。このような表示制御は、ラック101の制御部121により実行されるものであり、以下、図4のフローチャートと、図5(a)(b)を参照して詳細に説明する。
【0020】
ステップS401において、制御部121は、通信モジュール111及び#1〜#6の各ポート102を介して、医療用ポンプ201からの警報通知が受信されているポートを確認する。上述したように、通信モジュール111はポート番号と警報通知を対にして制御部121に通知するので、制御部121は#1〜#6のどのポートが警報通知を受信しているのかを知ることができる。次に、ステップS402において、制御部121は、各ポートにおける警報通知の受信状態が直前の状態から変化したか否かを判定する。これはたとえば、
・警報通知を受信しているポート102の数が変化した場合(警報通知を受信しているポートが無い状態(0個)からありの状態への変化や、警報通知を受信しているポートがありの状態から無い状態への変化を含む)、
・警報通知を受信しているポートの数は変わらないが、受信しているポートが変化した場合(例えば、警報通知を受信しているポートが#1から#2のポートに切り替わったような場合)、
等が挙げられる。
【0021】
ステップS402において、警報通知の受信状態に変化が無いと判定された場合は、処理はステップS401に戻る。一方、警報通知の受信状態に変化があると判定された場合は、処理はステップS403に進む。ステップS403において、制御部121は、いずれかのポート102で警報通知を受信しているかどうかを判定する。全てのポート102において警報通知を受信していない場合は、警報を解除した医療用ポンプ201が存在することを意味する。したがって、処理はステップS404に進み、制御部121は#1〜#6の全てのポート102に対して矢印表示の終了指示を出力する。上述したように、ポート102から矢印表示の終了指示を受けた医療用ポンプ201のポンプ制御部205は、もしもラック101からの表示指示によって矢印を表示中であれば、その表示を終了して通常表示に戻る(S309、S310)。
【0022】
一方、ステップS403で、いずれかのポート102において警報通知を受信していると判定された場合は、処理はステップS405に進む。ステップS405において、制御部121は、警報通知を受信しているポート102のポート番号のうちの最大値を変数Mに、最小値を変数Lに設定する。本実施形態の場合、縦一列に医療用ポンプが配置され、上から順にポート番号が増加するように割り当てられているので、変数L、Mの設定により警報を発生している医療用ポンプの装着位置を判定できることになる。なお、警報を受信しているポートが一つの場合は、M=Lとなる。たとえば、図5(a)の場合、#3のポートに接続された医療用ポンプ201のみが警報を発生しており、この場合、M=L=3となる。また、図5(b)の場合、#3と#5の医療用ポンプ201で警報を発生しており、M=5、L=3となる。そして、ステップS406において、制御部121は処理対象のポート番号として先頭のポート番号(本例では一番上に位置するポートの番号)である「1」を変数Pにセットする。以下、変数Pが最大ポート数(本例では6)になるまでステップS407〜S412の処理を繰り返すことで、全てのポートについて処理が行われることになる。
【0023】
まず、ステップS407において、制御部121は、番号Pのポートが警報を受信しているポート(以下、警報ポートとも言う)であるか否かを判定する。警報ポートであれば、そのポートに接続されている医療用ポンプ201が警報を発生してるため、矢印表示の指示はせず、処理をステップS413までスキップさせる。たとえば、図5(a)のような状況であれば、#3(P=3)のポートはステップS407で警報ポートと判定されることになる。
【0024】
番号Pのポートが警報を受信しているポートでなければ、処理はステップS408に進む。ステップS408において、制御部121は、変数M,L,Pの値の大小を比較する。その結果、M(最大値)>P(ポート番号)>L(最小値)であれば、番号Pのポートに対して、上下矢印の表示を指示する。これにより、たとえば、図5(b)の#4のポートに接続された医療用ポンプの表示部において、図示のような上下矢印が表示されて、当該医療用ポンプの上方向と下方向に警報を発生している医療用ポンプがあることが使用者に示すことができる。
【0025】
ステップS408でNOと判定された場合は、ポート番号Pが最小値Lより小さいか、ポート番号Pが最大値Mよりも大きいかのいずれかである。そこで、ステップS410において、制御部121はL>Pか否かを判断し、L>Pであれば(YESであれば)ステップS411に、そうでなければ(NOであれば)ステップS412に処理を進める。
【0026】
最小値Lよりもポート番号Pが小さい場合(ステップS410でYESの場合)、警報を発生している医療用ポンプは、ポート番号Pに接続された医療用ポンプよりも下に存在することになる。これは、本例では図1(b)に示したように上から下へポート番号が増加するように割り当てられているためである。したがって、ステップS411において、制御部121は、番号Pのポートに対して下向きの矢印を表示する指示を行う。この結果、図5(a)や図5(b)の例の場合、#1,#2のポートに装着された医療用ポンプに対して下矢印を表示する指示が送信されることになり、図示のような表示が実現される。
【0027】
一方、処理がステップS410からステップS412に進んだ(S410でNO)場合は、ポート番号Pが最大値Mよりも大きいということになる。この場合、ポート番号Pのポートに接続された医療用ポンプは、警報を発生している医療用ポンプよりも下に存在することになる。したがって、ステップS412において、制御部121は、番号Pのポートに対して上向きの矢印を表示する指示を出力する。その結果、図5(a)の場合、#4〜#6のポートに対して上矢印の表示指示が送出され、これらのポートに装着された医療用ポンプは上向きの矢印を画面に表示することになる。同様に、図5(b)の場合は#6のポートに上矢印の表示指示が送出され、#6のポートに装着された医療用ポンプは上向きの矢印を画面に表示することになる。こうして、警報を発生していない医療用ポンプの各々から、警報通知を行っている医療用ポンプ(の装着位置)へ向かう方向の矢印表示が行われる。なお、ポート番号の割り当て方は本例に限られるものではなく、種々の変形が可能であり、その割り当て方に応じて上述した処理内容も変更されることになるが、そのような変形は当業者には明らかである。
【0028】
ステップS413において、制御部121は、変数Pが最大ポート番号(本例では6)になった否かにより、全てのポートについて上記処理を行ったかを判定する。変数Pが最大ポート番号でなければ、ステップS414でPを1つインクリメントして処理をステップS407に戻し、次のポートについて上記ステップS407〜S412の処理を行う。一方、変数Pが最大ポート番号に達した場合は、処理をステップS401に戻す。
【0029】
以上のような処理により、本実施形態の医療用ポンプシステムでは、図5(a)(b)に示すように、警報を発生した医療用ポンプが存在する場合に、他の医療用ポンプの表示部により警報を発生した医療用ポンプを指し示すような表示がなされる。そのため、使用者は、ラック101を見るだけで、警報を発生している医療用ポンプがいずれであるかを直ちに視認できる。
【0030】
以上、第1実施形態では、図1に示したように医療用ポンプが縦一列に並ぶ構成を説明したが、これに限られるものではない。たとえば、横一列に医療用ポンプが並ぶようなラックを用いた医療用ポンプシステムとしてもよいことは明らかである。この場合、矢印表示は左右を指すものとなるであろう。
【0031】
また、図6に示すように、縦横に複数列の2次元的に医療用ポンプを配置できるような構成にも適用が可能である。この場合、どの列の何番目のポートであるかを特定するために、ポート番号を2桁とし、上位桁が列を、下位桁が何番目かを示すようにする。たとえば、図6では右側の列を1、左側の列を2とし、#11〜#16が右側の列の6個のポート番号、#21〜#26が左側の列の6個のポート番号としている。このようにすれば、警報ポートと他のポートの相対的な2次元の位置関係を判定することができる。したがって、制御部121は、複数種類の矢印の中から警報ポートの位置へ向かう方向に最も近い方向の矢印を選択することができ、選択した矢印を表示するように各医療用ポンプ(各ポート102)に表示指示を出せば、図6のような表示を実現できる。たとえば、上下左右、斜めの8方向の矢印を用意しておき、その中から、あるポートから警報ポートへの方向に最も近い方向の矢印が選択される。図6の場合、#23のポートが警報ポートであり、#11、#12の医療用ポンプでは、#11、#12のポートから#23のポートの方向に最も近い矢印である右斜め下方向の矢印が選択され、表示されている。なお、このような表示制御は、3列以上の場合にも適用でき、各医療ポンプにおいて表示すべき矢印を決定できる。なお、矢印の細かさはこれに限られるものではない。また、ラック101から矢印の方向を角度で指示するようにし、医療用ポンプ201において指示された角度の矢印を描画、表示するようにしても良い。
【0032】
以上のように、第1実施形態の医療用ポンプシステムによれば、制御部121は、警報通知が受信されると、当該警報通知を発生している医療用ポンプのラック101における装着位置をポートの番号から判定する(S305)。制御部121は、警報を発生している医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプのそれぞれの表示部に、警報を発生している医療用ポンプの装着位置を示すように表示の内容を決定する(S307〜S312)。そして、制御部121は、決定された表示の内容を、警報を発生している医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプの他のポンプのそれぞれに対して、決定した表示内容を表示させるべく指示を行う(S309,S311,S312)。その結果、図5や図6に示したような、警報通知を行っている医療用ポンプの位置を他の医療用ポンプによって指し示す表示が実現される。そのため、使用者はラックに装着された医療用ポンプの表示から警報の発生した医療用ポンプを容易に特定でき、警報に対して迅速な対応を実施できる。
【0033】
また、複数の警報ポートが検出された場合に、上下矢印を用いたが、下矢印と上矢印の2種類の矢印の交互表示を行う構成としても良い。その場合、ラック101から上下矢印の表示指示を受け取った医療用ポンプが下矢印と上矢印を交互に表示するようにしてもよいし、ラック101から上矢印と下矢印の表示指示を適切な時間間隔で点滅することで交互に医療用ポンプに与えるようにしてもよい。この点滅時間間隔を適宜制御することで、下から上へ、または上から下へのアニメーションの矢印ように、使用者に見えるようにしてもよい。また、警報を発生している医療用ポンプの装着位置を示すための方向表示として矢印を用いたが、これに限られるものではない。また、開始忘れアラーム,残量アラームの場合には、オレンジ色の矢印に、輸液完了アラームの場合には赤色の矢印にし、警報の内容に応じて、矢印の色を代えるようにしてもよい。また、方向を指し示すことができる何らかの図形を用いた表示といったような方向の属性を持つ表示であればいかなるものでもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、警報通知を受けたポート番号から警報を発生している医療用ポンプの装着位置を判定したが、各医療用ポンプ201が警報通知に装着位置を示す情報を加えるようにしても良い。但し、この場合、各医療用ポンプに装着位置を登録する構成が必要となる。たとえば医療用ポンプ201にデジスイッチを設けて上述したポート番号に対応する番号を設定できるようにし、警報が発生した場合には、ポンプ制御部205がデジスイッチの設定値を読み取って、これを警報通知に加えてラック101に通知することになる。このような構成によれば、通信モジュール111がポート番号を付加する機能を省くことができるが、医療用ポンプの各々に、番号設定の機能を持たせることが必要となる。
【0035】
[第2実施形態]
第1実施形態では単独のラック101に複数の医療用ポンプ201を装着する構成を説明した。第2実施形態では、それぞれが複数の医療用ポンプ201を装着可能な複数のラックを連結して医療用ポンプシステムを形成可能とし、柔軟にシステム構築を行える実施形態を説明する。図7(a)(b)は第2実施形態による医療用ポンプシステムの外観の一例を示す図である。図7(a)では主ラック601に2台の従属ラック701が縦方向に接続されて、医療用ポンプが縦方向に1列にならぶ構成が示されている。主ラック601、従属ラック701はそれぞれ3台の医療用ポンプ201を装着可能であり、図7(a)では9台の医療用ポンプが縦一列に並んだ様子が示されている。
【0036】
図8は、図7(a)に示すラック構成における制御機能を説明するブロック図である。主ラック601は、第1実施形態のラック101と同様に、複数のポート602、制御部611、及び通信モジュール621を有する。主ラック601は、更に、従属ラックを接続するためのコネクタ605,606,607を有する。従属ラック701は、医療用ポンプと通信接続するための複数のポート702、主ラック601のコネクタ605,606,607のいずれかと接続するためのコネクタ703を有する。従属ラック701において、複数のポート702の各々の信号線は一つのコネクタ703に接続されている。
【0037】
通信モジュール621は、主ラック601のコネクタ605〜607と接続された従属ラック701から信号を受信すると、従属ラック701におけるポート番号に所定数を加算した値をポート番号とし、これを当該信号とともに制御部611に提供する。加算される所定数は、各コネクタに対して予め設定されており、たとえば、コネクタ605に10、コネクタ606に20、コネクタ607に30が設定されている。従属ラックを増設する際には、主ラック601の直下に配置される従属ラック701をコネクタ605と接続し、その下に配置される従属ラックをコネクタ606に接続し、更にその下に配置される従属ラックをコネクタ607に接続するものとする。たとえば、通信モジュール621は、コネクタ605に接続された従属ラック701の#2のポートから警報通知を受信すると、所定数である10を加算して、#12のポートから警報通知を受信したものとして制御部611にこれを通知する。同様に、コネクタ606に接続された従属ラック701の#3のポートから警報を受信すると、通信モジュール621は、コネクタ606に設定された所定数である20を加算して、#23のポートから警報を受信したものとして制御部611にこれを通知する。なお、コネクタ605〜607のそれぞれに割り当てる所定数を、使用者が設定できるように構成してもよい。たとえば、コネクタ605〜607の各々の近傍にデジスイッチを設けて、ユーザが設定できるようにすれば良い。
【0038】
以上のような構成によれば、主ラック601のポート602は上から順に#1、#2、#3となり、コネクタ605と接続された従属ラック701のポート702は上から順に#11、#12、#13となる。また、コネクタ606と接続された従属ラック701のポート702は上から順に#21、#22、#23となる。したがって、主ラック601の直下に配置される従属ラック701をコネクタ605と接続し、その下に配置される従属ラックをコネクタ606に接続することで、上から順にポート番号が増加するように構成できる。その結果、第1実施形態で説明した処理(図4のフローチャート)を適用して、警報の発生した医療用ポンプを他の医療用ポンプの表示部によって指し示すように構成することができる。図7(a)では、上から5番目のポート(本例ではポート番号が#13として扱われる)の医療用ポンプから警報通知が出力された場合の、各医療用ポンプにおける方向表示の状態が示されている。
【0039】
以上、主ラック601と従属ラック701を縦方向に並べた医療用ポンプシステムを説明した。しかしながら、コネクタ606〜607に割り当てる所定数を工夫することで、図7の(b)に示したような2次元的なラック配置に対応できるようになる。図9は、主ラック601と従属ラック701を縦、横に接続可能とする構成を説明する図である。たとえば、コネクタ605には加算する所定値として3を、コネクタ606には10を、コネクタ607には13を割り当てる。そして、図9に示すように、
・コネクタ605に接続される従属ラック701を主ラック601の直下に、
・コネクタ606に接続される従属ラック701を主ラック601の右隣に、
・コネクタ607に接続される従属ラック701を主ラック601の右斜め下に、
それぞれ配置する。
【0040】
このように構成すると、図7(b)における右側の列のポート番号は上から#1〜#6となり、左側の列のポート番号は上から#11〜#16となる。そして、このように所定値が加算されたポート番号の左の桁と列を示す番号(ポート番号が1桁の場合は左の桁を0として扱う)、右の桁を列中の上からのポート位置とすれば、図6に示したような医療用ポンプの2次元的な配置と、ポート番号の割り当てが実現される。なお、図6では縦列の番号が1から始まるのに対して、図9の例では縦列の番号0から始まるが、ポート番号による位置関係の判定において、この差異は何等支障をきたすものではないことは当業者には明らかである。
【0041】
なお、上述した主ラックと従属ラックの配置は一例に過ぎず、たとえば主ラックが下に配置されるようにしてもよい。また、各ラックのポンプの装着数は3台までとしたが、これに限られるものではない。但し、コネクタ605〜607に割り当てられる加算値を上述のように10、20、30とすると、各従属ラックにおけるポンプ装着数は最大10までとなる。また、図9に示したように、加算する所定数を3,10,13とした場合には、各ラック3台までが接続可能な構成となる。
【0042】
また、上記第2実施形態では、主ラック601と制御部611等を持たない従属ラック701を接続する構成としたがこれに限られるものではない。主ラック601において主/従を切換可能にすれば、同一のラック601を複数連携させることができる。たとえば、主ラック601に主/従切換スイッチを設け、主が選択されていれば主ラック601として、従が選択されたら従属ラック701として機能するように制御部611が通信モジュール621を制御すればよい。なお、従属ラックとして機能する場合は、たとえば、コネクタ605をコネクタ703の代わりとして利用する。このようすれば、インテリジェントな主ラック601を主、従として機能させることができるので、医療ポンプシステムを更に柔軟に変更できる。
【0043】
以上説明したように、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、警報を発生している医療用ポンプの装着位置を他の医療用ポンプから指し示すことが可能となる。そのため、使用者はラックに装着された医療用ポンプの表示から警報の発生した医療用ポンプを容易に特定でき、警報に対して迅速な対応を実施できる。また、複数のラックを連結可能な構成としたので、システムの規模に応じてラック数を変更でき、柔軟に医療用ポンプシステムを構築できる。
【符号の説明】
【0044】
101:医療用ポンプ装着ラック、102〜107:ポート、201:医療用ポンプ、202:表示部、111,204:通信モジュール、121:制御部、203:コネクタ、205:ポンプ制御部、206:送液機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の医療用ポンプがラックに装着された医療用ポンプシステムであって、
前記ラックは、
装着されている複数の医療用ポンプと通信するための通信手段と、
前記複数の医療用ポンプのいずれかから前記通信手段を介して警報通知が受信されると、当該警報通知を送信した医療用ポンプの前記ラックにおける装着位置を判定する判定手段と、
前記警報通知を発生している医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプのそれぞれから前記判定手段で判定した前記装着位置を指し示すように、前記他の医療用ポンプのそれぞれに表示させる方向表示を決定する決定手段と、
前記決定手段で決定された方向表示を表示させるための指示を、前記他の医療用ポンプのそれぞれに対して前記通信手段を介して送信する送信手段とを備える、ことを特徴とする医療用ポンプシステム。
【請求項2】
前記通信手段は、前記ラックにおける複数のポンプ装着位置のそれぞれに対応して設けられた複数のポートを有し、
前記判定手段は、複数のポートのいずれから前記警報通知が受信されたかに基づいて、当該警報を発生しているポンプの前記ラックにおける装着位置を判定することを特徴とする請求項1に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項3】
前記決定手段は、前記他の医療用ポンプのそれぞれの前記ラックにおける装着位置から前記警報通知を発生している医療用ポンプの装着位置へ向かう方向の矢印を、前記他の医療用ポンプのそれぞれの方向表示として決定することを特徴とする請求項1または2に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項4】
前記決定手段は、それぞれが異なる方向に対応した複数の矢印の中から、前記他のポンプのそれぞれの装着位置から前記警報通知を発生している医療用ポンプの装着位置へ向かう方向に最も近い矢印を選択し、前記他のポンプのそれぞれが表示する方向表示として決定することを特徴とする請求項3に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項5】
前記決定手段は、前記判定手段が複数の装着位置を判定しており、一つの医療用ポンプから前記複数の装着位置に対応した複数の方向を指し示すことが必要な場合、当該一つの医療用ポンプに表示させる方向表示を、前記複数の方向を指し示す方向表示に決定することを特徴とする請求項1に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項6】
前記複数の方向を指し示す方向表示とは、前記一つの医療用ポンプに前記複数の方向に対応した複数の方向表示の交互表示、または、前記複数の方向を同時に指し示すことのできる方向表示であることを特徴とする請求項5に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項7】
前記ラックは、それぞれが所定数のポンプを装着可能な主ラックと従属ラックを連結した構成を有し、
前記判定手段、前記決定手段、前記送信手段は前記主ラックに設けられ、
前記通信手段は、
前記主ラックに設けられ、医療用ポンプと通信するための複数のポートと、
前記従属ラックに設けられ、医療用ポンプと通信するための複数のポートと、
前記従属ラックの複数のポートの各信号線を前記主ラックへ接続する接続手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項8】
複数の医療用のポンプを装着可能な医療用ポンプ装着ラックであって、
装着されている複数の医療用ポンプと通信するための通信手段と、
前記複数の医療用ポンプのいずれかから前記通信手段を介して警報通知が受信されると、当該警報通知を送信した医療用ポンプの前記ラックにおける装着位置を判定する判定手段と、
前記警報通知を発生している医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプのそれぞれから前記判定手段で判定した前記装着位置を指し示すように、前記他の医療用ポンプのそれぞれに表示させる方向表示を決定する決定手段と、
前記決定手段で決定された方向表示を表示させるための指示を、前記他の医療用ポンプのそれぞれに対して前記通信手段を介して送信する送信手段とを備える、ことを特徴とする医療用ポンプ装着ラック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−70992(P2012−70992A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218979(P2010−218979)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】