説明

医療用刃物

【課題】
刃体の撓いを抑制、或いは防止することができる医療用刃物を提供する。
【解決手段】
眼科手術用メスは保護カバー40の内壁面に該保護カバー40が被覆位置に位置する際に刃体35に当接する撓い抑制突起40aを有する。運搬中や落下させた時のように刃体35に負荷が加わったとき、保護カバー40の撓い抑制突起40aが刃体35に当接されて、刃体35の撓いを防止し、刃先エッジの損傷を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用刃物、詳しくは保護カバーを備えた医療用刃物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、医療用刃物としてメスは、切れることが重要とされており、するどい刃先エッジを備えている。この刃先エッジにより手術中に助手が執刀医師に手渡すときや、手術前の準備中に誤って手術関係者の手等を損傷する虞があるため、従来特許文献1〜4に記載の保護カバー付きメスが提案されている。
【0003】
特許文献1のメスは、ナイフ型の刃体をハンドルの先端に有するとともにハンドルの長手方向に保護カバーがスライド自在に設けられ、不使用時には刃体が該保護カバーで覆われ、使用時には保護カバーが移動されて刃体が露出して使用できるようにされている。
【0004】
特許文献2のメスは、ハンドルの中にナイフ形の刃体をスライド自在に収納可能に構成されており、不使用時には刃体がハンドル内に収納され、使用時に刃体がハンドルから突出するようにされている。
【0005】
特許文献3、特許文献4のメスは、刃体が屈曲されたベントタイプとされている。そして、両特許文献3,4のメスはハンドルの長手方向に保護カバーがスライド自在に設けられ、不使用時には刃体が該保護カバーで覆われ、使用時には保護カバーが移動されて刃体が露出して使用できるようにされている。又、特許文献4では、保護カバーには屈曲された刃体を収納可能に膨出部が形成されて、刃体を覆う位置に保護カバーが移動されたときに該膨出部内に刃体を収納するようにされている。又、いずれのメスも輸送中等の不使用時には、保護カバーで刃体を覆う様にされている。
【特許文献1】米国特許第5309641号明細書
【特許文献2】米国特許第6254621号明細書
【特許文献3】米国特許第6569175号明細書
【特許文献4】米国意匠特許第504513号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような医療用刃物では、刃体がハンドルに固定され、刃体の刃部は非固定状態となっている。一般に医療用刃物は、厚みが0.15〜0.20mm程度であるため、輸送中や誤って落下させてしまったとき、刃体が撓りやすい。前記保護カバーで刃体が覆われている状態で、刃体が撓ると、保護カバーの内壁に接近して接触し刃体の刃先エッジに損傷を受ける虞がある。
【0007】
特に、特許文献3のようなベントタイプのメスの場合は、保護カバーに接触しやすいものとなっている。一方、特許文献4では、刃体を収納する膨出部が設けられているため、特許文献3のメスに比較して刃体の刃先エッジの損傷は受けにくくなっている。しかし、特許文献4では、刃体の近傍に膨出部が設けられているため、使用時にハンドル側へ保護カバーが移動されて、刃体が露出された状態になっても、該膨出部の膨らみが刃体に近接していることにより使用者が刃体の刃先エッジを目視しにくい問題がある。
【0008】
本発明の目的は、運搬中や落下させた時のように刃体に負荷が加わったとき、刃体の撓いを抑制、或いは防止することができるとともに刃先エッジの損傷を抑制でき、又、使用中に刃体が目視しにくくなることがない医療用刃物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、先端に刃体が設けられた柄本体の外周に対して、保護カバーが前記刃体を覆う被覆位置と、該刃体を露出する露出位置間を移動自在に配置された医療用刃物において、前記保護カバーの内壁面には、該保護カバーが前記被覆位置に位置する際に前記刃体に当接、或いは刃体が撓うときの運動軌跡内に位置して該刃体に当接可能な撓い抑制部材が設けられていることを特徴とする医療用刃物を要旨とするものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、前記刃体はベントタイプであり、前記保護カバーが被覆位置に位置する際、前記撓い抑制部材が前記刃体の屈曲されている面に対して当接、或いは刃体が撓うときの運動軌跡内に位置して前記面に当接可能に形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2において、前記柄本体の外周には、前記保護カバーが露出位置に位置する際に、前記撓い抑制部材の移動を許容する許容部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項において、前記柄本体の外周には、前記保護カバーが前記刃体を被覆している状態で、該保護カバーの移動をロック解除不能にロックするロック手段が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項4において、前記保護カバーが前記ロック手段によりロックされているときに、前記撓い抑制部材が前記刃体の先端を超えた位置に位置することを特徴とする。なお、本明細書において、撓い抑制部材が刃体の先端を超えた位置とは、該撓い抑制部材が刃体の延びる方向において刃体の基端を基準として刃体の先端よりも遠位の位置をいう。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、運搬中や落下させた時のように刃体に負荷が加わったとき、保護カバーの撓い抑制部材が刃体に当接、或いは刃体が撓うときの運動軌跡内に位置しているため、刃体の撓いを抑制、或いは防止することができ、刃先エッジの損傷を抑制できる効果を奏する。又、保護カバーを移動させて刃体を露出させた場合、保護カバーには、刃体が目視しにくくなるものがないため、使用中に保護カバーにより刃体が目視しにくくない効果を奏する。
【0015】
請求項2の発明によれば、ベントタイプの刃体に対して請求項1の効果を実現できる。
請求項3の発明によれば、保護カバーを露出位置に移動させた際、柄本体に干渉することがなく、保護カバーの移動操作が損なわれることがない。
【0016】
請求項4の発明によれば、ロック解除不能なロック手段によりロックされた保護カバーは進退移動できないため、刃体の被覆保持ができ、医療用刃物を安全に処理することができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、前記保護カバーが前記ロック手段によりロックされているときに、撓い抑制部材が刃体を超えて位置するため、撓い抑制部材が保護カバーの外部からの物等の侵入を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の医療用刃物として眼科手術用メス(以下、単に手術用メスという)に具体化した一実施形態を図1〜5を参照して説明する。
図1(a)、(b)に示すように、手術用メスの柄本体10は把持部20と該把持部20の先端に同軸的に設けられた支持部30とからなる。把持部20は片手により握って把持できる長さを有するとともに断面円形をなし、直径が基端(図1(a)において右端)に行くほど小さくなるようにされている。柄本体10の材質は、限定されるものではなく、例えば合成樹脂やステンレス等の金属で形成されている。
【0019】
支持部30は先端部を除いて円柱状に形成されるとともに把持部20の先端部の外径よりも小径を有する。なお、把持部20の先端部の外径は、把持部20の最大外径となる。支持部30の先端の周面にはテーパー面31が形成されている。又、支持部30の先端面において、支持部30の軸心から偏倚した部位には刃体35が取付け支持されている。刃体35は中央部と基端部との間において、テーパー面31側に向かって90度未満に屈曲されたベントタイプであつて、平面視された場合(図2(b)参照)、先端部が山形に形成されて一対の刃先35aを備えている(鎗状刀)。図4に示すように支持部30の外周面には、テーパー面31から把持部20に向かって、支持部30の軸心に平行に許容部としての許容溝32が延出されている。
【0020】
図1(a)、(b)に示すように支持部30には保護カバー40が取付けされている。保護カバー40は図3(a)に示すように円筒状に形成されるとともにその内周面が断面円形に形成されている。保護カバー40の材質は限定されるものではないが、本実施形態では、合成樹脂により成形されている。そして、保護カバー40は図1(a)、(b)に示すように支持部30の外周面に対して支持部30軸心方向に沿って摺動自在に嵌合されている。
【0021】
保護カバー40には、その軸心方向に沿って、内外の両周面を貫通するスリット41が形成されている。ここで、スリット41の延出方向とは、保護カバー40の軸心方向のことである。
【0022】
又、支持部30の外周面において、その軸心方向よりも先端側寄り位置には、突起36が軸心方向とは直交するように突出され、スリット41内に相対移動自在に係入されている。突起36は断面円形に形成されている。なお、突起36の形状は断面円形に限定されるものではなく、断面三角形状や、多角形形状であってもよい。そして、保護カバー40がその軸心方向に沿って移動する際に、突起36がスリット41の内側面に摺接することにより該軸心方向へガイドするガイド機能を有するとともに支持部30に対する保護カバー40の軸心周りの相対回動を規制する。なお、突起36は、スリット41を介して保護カバー40から出ない長さを有するように形成されている。このように、突起36がスリット41から突出しない構成にすると、手術用メスを使用する際に、突起36が邪魔になることがない。ここでスリット41において、把持部20に近い端部を近位端部といい、遠い端部を遠位端部という。
【0023】
スリット41の近位端部には、細スリット41aが形成されている。細スリット41aは、前記スリット41幅よりも小幅であり、すなわち、突起36の大きさ(本実施形態では直径)よりも幅が短くされている。該細スリット41aが軸心方向に延出されることによりスリット41は近位端部において外部と連通されている。又、スリット41の遠位端部には、細スリット41bが形成されている。細スリット41bは、前記スリット41よりも小幅である、すなわち、突起36の大きさ(本実施形態では直径)よりも幅が短くされている。該細スリット41bが軸心方向に延出されることによりスリット41は遠位端部においても外部と連通されている。これらの細スリット41a,41bは、突起36よりも大きさ(本実施形態では直径)よりも幅が短いため、スリット41から、突起36の脱出は不能にされている。この細スリット41a,41b、及びスリット41により組み付け時に保護カバー40が図示しない治具等によりその弾性力に抗して拡開されて支持部30に対して取着される。なお、保護カバー40は前記治具等による拡開が解除されると、その弾性力により縮径して、支持部30に嵌合される。
【0024】
近位端部及び遠位端部には、図3(b)に示すように、係止部42,43が設けられている。係止部42は、近位端部に対してスリット41の延出方向とは交差する方向(本実施形態では、直交する方向)に切込44及び切り溝45が延出形成されて、両者の間に係合片46が形成されることにより構成されている。係合片46は切り溝45が形成されていることにより弾性を有する。又、係合片46は切込44の周部の一部を構成する。
【0025】
又、切込44はその奥部が突起36の係入可能な大きさに形成されるとともに、入り口の幅は突起36の大きさ(本実施形態では直径)よりも若干短くされている。そして、突起36が入り口を介して切込44内に係入する際には、係合片46の弾性力に抗して該入り口を開くことにより突起36が切込44の奥部に係入可能とされている。そして、切込44内に突起36が係入されている状態では、保護カバー40はその軸心方向への移動ができないようにロックされるとともに、図1(b)に示すように、刃体35を覆うようにされている。以下、図1(b)で示す刃体35を覆う位置を被覆位置という。
【0026】
係止部43は、遠位端部に対してスリット41の延出方向とは交差する方向に切込47及び切り溝48が延出形成されて、両者の間に係合片49が形成されることにより構成されている。係合片49は切り溝48が形成されていることにより弾性を有する。又、係合片49は、切込47の周部の一部を構成する。又、切込47はその奥部が突起36の係入可能な大きさに形成されるとともに、入り口の幅は突起36の大きさ(本実施形態では直径)よりも若干短くされている。そして、突起36が入り口を介して切込47内に係入する際には、係合片49の弾性力に抗して該入り口を開くことにより突起36が切込47の奥部に係入可能とされている。
【0027】
そして、切込47内に突起36が係入されている状態では、保護カバー40はその軸心方向への移動ができないようにロックされるとともに、図1(a)に示すように、刃体35を露出するようにされている。以下、図1(a)で示す刃体35を露出する位置を露出位置という。又、露出位置に保護カバー40が位置する際、保護カバー40の基端部は把持部20の先端面に当接されている。又、保護カバー40の基端部の外周面には等間隔に操作突部50が突出されている。又、切り溝45と切り溝48との間には、周回する複数の溝53が刻設されている。把持部20を片手で握った際、親指を該溝53又は操作突部50に対して押圧することにより保護カバー40を軸心方向に沿って又はその軸心の周りで回動操作する。
【0028】
又、保護カバー40において、支持部30の許容溝32と対応する先端部の内壁面には、撓い抑制部材としての撓い抑制突起40aが保護カバー40の径方向に棒状に突出されている。撓い抑制突起40aは、図5に示すように保護カバー40が被覆位置に位置する際に刃体35の屈曲方向の面側であって、先端部の中央に当接可能となるようにかつ刃先35aには接触しないように形成されている。又、撓い抑制突起40aは図4に示すように保護カバー40が露出位置に位置するときは、許容溝32内に係入されるように形成されている。なお、許容溝32は、保護カバー40が露出位置にロック又はロック解除するために回動されても、撓い抑制突起40aが該溝の壁面に接触しない幅を有している。
【0029】
さて上記のように構成された手術用メスの作用について説明する。
図1(b)、図5に示すように保護カバー40が被覆位置に位置する場合、突起36が切込44の奥部に係合されている状態であり、この状態では保護カバー40は係合片46によりロックされている。この状態では、保護カバー40をその軸心方向に操作しようとしても保護カバー40が移動することがなく、刃体35は保護カバー40により被覆されている。又、この状態では、撓い抑制突起40aは、図5に示すように刃体35の屈曲方向の面側であって、先端部の中央に当接されている。従って、運搬中や落下させたときのように、刃体35に負荷が加わっても刃体35は屈曲方向に撓うことがない。又、この状態で、手術中に助手から執刀医師に安全に手渡すことができる。
【0030】
執刀医師が使用する場合、まず、把持部20を片手で握った状態で、その片手の親指を例えば操作突部50に当て、保護カバー40をその軸心の周りで係合片46から突起36が離脱する方向へ回動させると係合片46の弾性力に抗して突起36が切込44から離脱されスリット41の近位端に相対的に移動する。
【0031】
この状態で、執刀医師は親指により操作して保護カバー40を被覆位置から露出位置に移動操作させる。このとき、撓い抑制突起40aは許容溝32内に係入される。
そして、保護カバー40が把持部20の先端面に当接すると、突起36はスリット41の遠位端部に位置する(図1(a)参照)。この状態で続いて執刀医師は、先ほどと同様に把持部20を片手で握った状態で、その片手の親指を例えば操作突部50に当て、保護カバー40をその軸心の周りで切込47内に係入する方向(軸心方向と交差する方向)へ回動させると、係合片49の弾性力に抗して突起36が切込47内に係入されロックされる。この一連の親指の操作により図1(a)に示すように、刃体35は保護カバー40から露出された状態となる。この状態では、保護カバー40は、ロックされているため、保護カバー40を軸心方向に移動操作しようとしても、移動することがない。
【0032】
そして、手術用メスの使用が終了した場合は、前述した説明とは逆順に操作することにより再び図1(b)に示すように保護カバー40を被覆位置にロックした状態に戻す。このとき、撓い抑制突起40aは、再び図5に示すように刃体35に当接される。
【0033】
このようにして、本実施形態の手術用メスは、保護カバー40の被覆位置と露出位置間の移動操作、各位置におけるロック操作及び解除を、片手の親指だけの操作で行うことができる。なお、前記ロック操作及び解除を行う場合、把持部20を、片手の中指、薬指、小指で握った状態とし、親指と人指し指で保護カバー40を挟んだ状態で回動操作を行ってもよい。この場合でも片手だけで、保護カバー40の移動操作、ロック操作及び解除を2段モーションで行うことができる。
【0034】
上記実施形態は下記の効果を奏する。
(1) 本実施形態の眼科手術用メスによれば、保護カバー40の内壁面には、該保護カバー40が被覆位置に位置する際に刃体35に当接する撓い抑制突起40aが設けられている。この結果、運搬中や落下させた時のように刃体35に負荷が加わったとき、保護カバー40の撓い抑制突起40aが刃体35に当接しているため、刃体35の撓いを防止することができ、刃先エッジの損傷を抑制できる。
【0035】
(2) 本実施形態の眼科手術用メスは、刃体35はベントタイプであり、保護カバー40が被覆位置に位置する際、撓い抑制突起40aが刃体35の屈曲されている面に対して当接可能に形成されている。この結果、ベントタイプの刃体を有する手術用メスに対して(1)の効果を実現できる。
【0036】
(3) 本実施形態の眼科手術用メスでは、柄本体10の外周には、保護カバー40が露出位置に位置する際に、撓い抑制突起40aの移動を許容する許容溝32が形成されている。この結果、本実施形態では、保護カバー40を露出位置に移動させた際、撓い抑制突起40aが柄本体10の許容溝32内に入るため、柄本体10に干渉することがなく、保護カバー40の移動操作が損なわれることがない。
【0037】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の眼科手術用メス(以下、手術用メスという)を図6〜10を参照して説明する。なお、説明の便宜上、図6、図7(a)、図8(b)、(c)、(e)及び図10(a)〜(e)において、上側を背側といい、下側を腹側という。又、図7(b)、(c)、図8(a)、(d)、及び図9(a)〜(c)において、上側を右側といい、下側を左側という。又、図8(e)において、左側を右側といい、右側を左側という。
【0038】
図6(a)、(b)に示すように、手術用メスの柄本体110は把持部120と該把持部120の先端に同軸的に設けられた支持部130とからなる。把持部120は、第1実施形態の把持部20と同形状及び同材質からなる。
【0039】
図7(a)〜(c)に示すように支持部130は柱状に形成されており、断面形状が略四角状のスライドレール部130Aと、該スライドレール部130Aに対して一体に形成されるとともに、図10(a)〜(e)に示すように周面が断面円弧状をなす腹部130Bとからなる。なお、図7(a)〜(c)では、説明の便宜上、後述する刃体160は省略されている。腹部130Bの周面は、把持部120の周面と面一にされている。又、腹部130B周面の基端側には複数の溝131が併設されている。
【0040】
スライドレール部130Aの右側面及び左側面には、一対の摺接面132,133が互いに平行にかつ支持部130の軸心方向に沿って形成されている。摺接面132は、図7(b)、(c)に示すように把持部120の先端面120aから把持部120の軸心方向に沿って延出された平面とされている。一方、摺接面133には、先端部を除いた残りの部位全体にスライド溝134が凹設されている。該スライド溝134は、図7(c)に示すように把持部120の先端面を端壁面とするように形成されている。図7(b)、(c)に示すようにスライド溝134の底部134aは、支持部130の軸心方向に沿って延出された平面とされるとともに摺接面132と平行に形成されている。
【0041】
底部134aにおいて、把持部120の先端面120aを壁面とするように断面四角形状をなす第1係合凹部135が凹設されている。第1係合凹部135の開口部において、先端面120aとは180°反対側の端縁には斜状に形成されたガイド面135aが形成されている。該ガイド面135aはスライド溝134の底部134aに連結されている。
【0042】
又、底部134aにおいて、その長さ方向の中央には第1係合凹部135と同じ断面形状及び大きさを有する第2係合凹部136が凹設されている。第2係合凹部136の開口部において、長さ方向の両端縁にはそれぞれ斜状に形成されたガイド面136a,136bが形成されている。両ガイド面136a,136bはスライド溝134の底部134aにそれぞれ連結されている。又、底部134aにおいて、第2係合凹部136よりもスライド溝134の先端寄り部位には、第2係合凹部136よりも長さ方向(支持部130の軸心方向)の長さが長い第3係合凹部137が凹設されている。
【0043】
又、スライドレール部130Aの先端面にはテーパー面138が形成されている。支持部130の先端面において、支持部130の軸心から偏倚した部位には刃体160が取付け支持されている。刃体160は中央部と基端部との間において、テーパー面138側に向かって90度未満に屈曲されたベントタイプであつて、平面視された場合(図9(b)参照)、先端部が山形に形成されて一対の刃先160aを備えている。
【0044】
図7(a)〜(c)に示すようにスライドレール部130Aの背側周面には、許容部としての許容溝139がテーパー面138から把持部120に向かって、支持部130の軸心に平行に延出されている。
【0045】
図6(a)〜(c)、図9(a)〜(c)に示すように支持部130のスライドレール部130Aには保護カバー140が取付けされている。保護カバー140は図8(e)に示すように略半円筒状に形成されている。保護カバー140の内周面が左内側面140a、右内側面140b及び両内側面を連結する内頂壁面140cから構成され、腹側が開放されている。
【0046】
保護カバー140は、左内側面140a,右内側面140b及び内頂壁面140cがスライドレール部130Aの摺接面133、摺接面132、及び背側周面に対し摺接されることによりスライドレール部130Aの軸心方向に沿って摺動自在に嵌合されている。保護カバー140の材質は、本実施形態では、合成樹脂により成形されているが、限定されるものではない。
【0047】
図8(b)に示すように保護カバー140において、スライド溝134に対応する側部の基端部には、切込141が保護カバー140の軸心方向に沿って切り込み形成されている。この切込141により保護カバー140には弾性を有する係合片142が形成されている。保護カバー140において、スライド溝134に対応する側部内面において、係合片142及び該係合片142から保護カバー140の先端に向かった領域には段部143が形成されている。段部143は、スライド溝134に対して摺動自在に嵌合されている。又、係合片142の先端内面には突起144が形成されている。突起144は、係合片142の弾性力により第1係合凹部135、第2係合凹部136及び第3係合凹部137に係合可能に形成されている。
【0048】
ここで突起144が第2係合凹部136に係合されるとき、保護カバー140は図9(a)に示すように刃体160を覆うように配置される。この位置を以下、被覆位置という。そして、この位置に保護カバー140が位置している状態で、刃体160側や、或いは把持部120側に保護カバー140が押圧されると、突起144は第2係合凹部136のガイド面136a,136bによりガイドされて第2係合凹部136から脱出可能とされている。
【0049】
又、突起144が第1係合凹部135に係合されるとき、保護カバー140は図9(b)に示すように刃体160を露出するように配置される。この位置を以下、露出位置という。そして、この位置に保護カバー140が位置している状態で、第1係合凹部135から刃体160側に保護カバー140が押圧されると、突起144は第1係合凹部135のガイド面135aによりガイドされて、第1係合凹部135から脱出可能とされている。
【0050】
又、突起144が第3係合凹部137に係合されると、保護カバー140は図9(c)に示すように刃体160の露出を保持した状態となる。この保護カバー140は、この位置に位置している状態では、第3係合凹部137から刃体160側へ保護カバー140が押圧されても、許容されている遊び部分の移動終了後は段部143がスライド溝134の端部に係合され移動不能にされている。又、保護カバー140がこの位置に位置している状態では、第3係合凹部137から把持部120側に保護カバー140が押圧されても、突起144が第3係合凹部137の端部に係合することにより保護カバー140が移動不能にされている。この結果、突起144は、第3係合凹部137から脱出不能とされ、保護カバー140はこの位置から移動できないようにされている。第2実施形態ではこの第3係合凹部137に突起144が係合した位置を以下、ロック位置という。このように本実施形態では、段部143と係合可能なスライド溝134の端部及び、第3係合凹部137によりロック手段が構成され、このロック手段により保護カバー140が刃体160を被覆している状態で、保護カバー140の移動をロック解除不能にしている。なお、第2実施形態のロック位置とは、保護カバー140が前記したように遊び部分の移動が許容される範囲を含むようにしているが、保護カバー140が第3係合凹部137に係合した際、遊び部分の移動がないように構成してもよく、この場合、ロック位置とは1ポイントの位置となる。
【0051】
又、保護カバー140において、支持部130の許容溝139と対応する先端部の内頂壁面140cには、撓い抑制部材としての撓い抑制突起150が保護カバー140の径方向に棒状に一体に突出されている。なお、撓い抑制突起150は別部材にして保護カバー140に組み付け、或いは接着、溶着等の接合方法により一体にしてもよい。撓い抑制突起150は、図6(a)に示すように保護カバー140が被覆位置に位置する際に刃体160の屈曲方向の面側であって、先端部の中央に当接可能となるようにかつ刃先160aには接触しないように形成されている。又、撓い抑制突起150は図6(b)、図9(b)に示すように保護カバー140が露出位置に位置するときは、許容溝139内に係入されるように形成されている。又、撓い抑制突起150は、図6(c)、図9(c)に示すようにロック位置に位置する際は、刃体160の先端を越えた位置に位置するように配置されている。
【0052】
なお、図7(a)、(b)及び図10(e)に示すようにスライドレール部130Aにおいて、第1係合凹部135の背側壁部は係入口135bが切りかかれて形成されている。係入口135bと対応するスライドレール部130Aの背側の周面には斜状の平面を有するガイド面135cが形成されている。
【0053】
又、図6(b)に示す保護カバー140が露出位置に位置する際に、段部143と対応するスライドレール部130Aの背側周面には、図7(a)、(b)、図10(c)に示すように斜状の平面を有するガイド面134bが形成されている。
【0054】
図10(a)、(b)、(d)に示すようにスライドレール部130Aの周面において、摺接面132と背側頂面とを結ぶコーナーは断面円弧状に形成されている。又、図10(a)、(b)、(d)に示すようにスライドレール部130Aの周面において、ガイド面134b、135cを除いた左側面と背側頂面とを結ぶコーナーは断面円弧状に形成されている。
【0055】
保護カバー140は、支持部130に取り付けされる際に突起144が係入口135bに対応して配置された状態で、スライドレール部130Aに対し背側から押圧されることにより嵌合される。このとき、保護カバー140の段部143、及び突起144がガイド面134b、135cに対して押圧当接された際、係合片142がその弾性に抗して開かれる。そして、ガイド面135cに係合片142の突起144がガイド面135cを介して第1係合凹部135内に係入されるとともに段部143がスライド溝134係入されることによりスライド溝134内に係合片142が係入される。
【0056】
保護カバー140の基端部において、背側頂面には押圧操作方向を示す表示部171が形成された操作部170が設けられている。又、操作部170から先端より位置には、複数の溝173が併設されている。
【0057】
さて上記のように構成された手術用メスの作用について説明する。
図6(a)、図9(a)に示すように保護カバー140が被覆位置に位置する場合、突起144が第2係合凹部136に係合されている状態である。
【0058】
この状態では係合片142により保護カバー140は、ロックされているため、保護カバー140をその軸心方向に操作しようとする場合、小さな力では保護カバー140が移動することがなく、刃体160は保護カバー140により被覆されている。
【0059】
又、この状態では、撓い抑制突起150は、図6(a)に示すように刃体160の屈曲方向の面側であって、先端部の中央に当接されている。従って、手術用メスを運搬中や落下させたときのように、刃体160に負荷が加わっても刃体160は屈曲方向に撓うことがない。又、この状態で、手術中に助手から執刀医師に手術用メスを安全に手渡すことができる。
【0060】
執刀医師がこの手術用メスを使用する場合、まず、執刀医師が把持部120を片手で握った状態で、その片手の親指を操作部170に当てて操作して保護カバー140を被覆位置から露出位置に移動操作させる。このとき、突起144は、係合片142の弾性力に抗してガイド面136bによりガイドされて第2係合凹部136から脱出され、底部134aを移動する。又、撓い抑制突起150は許容溝139内に係入される。
【0061】
そして、保護カバー140が把持部120の先端面に当接すると、突起144は係合片142の弾性力により第1係合凹部135内に係入されロックされる。この一連の親指の操作により図6(b)、図9(b)に示すように、刃体160は保護カバー140から露出された状態となる。この状態では、保護カバー140は、ロックされているため、保護カバー140を小さな力で軸心方向に移動操作しようとしても、移動することがない。
【0062】
そして、手術用メスの使用が終了した場合は、執刀医師が把持部120を片手で握った状態で、その親指を操作部170に当てて操作して保護カバー140を露出位置からロック位置に移動操作させる。
【0063】
この操作により図6(c)に示すように保護カバー140はロック位置に移動する。このとき、突起144は第2係合凹部136内にガイド面136bにガイドされて一旦係入されるが、該突起144はガイド面136a(図9(c)参照)にガイドされて第2係合凹部136を脱出し、底部134aを介して係合片142の弾性力により第3係合凹部137内に係入する。
【0064】
又、保護カバー140が露出位置からロック位置に移動する際、撓い抑制突起150は、刃体160に一旦当接する。しかし、保護カバー140が刃体160の弾性力に抗してさらに移動されるため、刃体160が弾性変形することにより抑制突起150はその移動が許容され、図6(c)、図9(c)に示すように、刃体160を越した位置に位置する。このロック位置に保護カバー140が位置すると、突起144が第3係合凹部137から脱出不能となるとともに撓い抑制突起150に刃体160が係合されて露出位置への移動が阻害されるため、保護カバー140が被覆位置や露出位置へ移動されることはない。
【0065】
上記のように前記実施形態は下記の効果を奏する。本実施形態は、第1実施形態の(1)、(2)、(3)と同様の効果を奏する他、下記の効果を奏する。
(1) 本実施形態の手術用メスでは、段部143と係合可能なスライド溝134の端部及び、第3係合凹部137によりロック手段が構成され、このロック手段により保護カバー140が刃体160を被覆している状態で、保護カバー140の移動をロック解除不能にしている。この結果、ロック解除不能なロック手段によりロックされた保護カバー140は進退移動できないため、刃体の被覆保持ができ、医療用刃物を安全に処理することができる。
【0066】
(2) 本実施形態では、ロック手段を構成する、段部143と係合可能なスライド溝134の端部及び第3係合凹部137は、保護カバー140が被覆位置から反露出位置側へ移動した際に保護カバー140をロックするようにした。この結果、保護カバー140を被覆位置から直線的に操作するだけで、保護カバーを容易に移動不能にロックすることができる。
【0067】
(3) 本実施形態では、保護カバー140がロックされているときに、撓い抑制部材としての撓い抑制突起150が刃体160の先端を超えた位置に位置するようにした。この結果、撓い抑制突起150が保護カバー140の外部からの物等の侵入を防止することができる。
【0068】
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、下記のように具体化してもよい。
○ 第1実施形態では、撓い抑制突起40aは、図5に示すように保護カバー40が被覆位置に位置する際に刃体35の屈曲方向の面において、先端部の中央に当接可能となるように形成した。この構成に代えて、下記のように変更してもよい。刃体35はベントタイプであるため、屈曲している方向に撓いやすい。このため、保護カバー40が被覆位置に位置する際に、刃先35aの撓う方向(すなわち、屈曲する方向)において、離間した位置であって、該刃体35が撓うときの運動軌跡内に位置するように撓い抑制突起40aを形成してもよい。このように構成すると、保護カバー40が被覆位置に位置した状態において、刃体35に負荷がかかったとき、刃体35は若干撓うが、刃体35は撓い抑制突起40aに当接されてその撓いが抑制される。
【0069】
○ 第1実施形態では、撓い抑制突起40aの係入を許容する許容部として許容溝32を形成したが、第1実施形態において、許容溝32の溝底に相当する部分まで、支持部30の周面を削り込みして支持部30に許容部としての段部を形成してもよい。このようにしても、該段部により保護カバー40を露出位置に移動させた際、撓い抑制突起40aが柄本体10にぶつかることがなく、保護カバー40の移動操作が損なわれることがない。
【0070】
○ 前記各実施形態では、撓い抑制部材(撓い抑制突起)を棒状の突起に形成したが、形状は限定されるものではなく、円錐、円錐台、角柱、円柱等の形状にしてもよい。
○ 把持部20の断面形状は、片手で握ることができる形状であればよく、断面円形以外の、断面形状が三角形、楕円形、又は多角形や、へらのような平板形状であってもよい。
【0071】
○ 前記各実施形態では医療用刃物としてはベントタイプの刃体を有する眼科手術用メスに具体化したが、これに限定されるものではない、ベントタイプ以外の刃体であってもよい。又、医療用刃物としては他に脳神経用の微細手術用メスを挙げることができる。又、解剖等に使用される大型のメスや、病理標本切り出し用刃物(トリミングナイフ)の医療用刃物に本発明を具体化してもよい。
【0072】
○ 前記各実施形態では、撓い抑制突起を刃体の屈曲方向の面側であって先端部の中央に当接可能としたが、刃体の基端部に当接、或いは刃体が撓うときの運動軌跡内に位置して該刃体の基端部に当接可能としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(a)は第1実施形態の刃体が露出状態の眼科手術用メスの正面図、(b)は同じく刃体が覆われている状態の眼科手術用メスの正面図。
【図2】(a)は柄本体の側面図、(b)は柄本体の支持部の平面図。
【図3】(a)は保護カバーの側面図、(b)は保護カバーの正面図。
【図4】第1実施形態の刃体が露出状態の眼科手術用メスの要部断面図。
【図5】第1実施形態の刃体が覆われている状態の眼科手術用メスの要部断面図。
【図6】(a)は第2実施形態の刃体が覆われている状態の眼科手術用メスの正面図、(b)は刃体が露出状態の眼科手術用メスの正面図、(c)は保護カバーがロック位置に位置する状態の眼科手術用メスの正面図。
【図7】(a)は第2実施形態の柄本体の支持部の正面図、(b)は同じく平面図、(c)は同じく一部切り欠き断面図。
【図8】(a)は第2実施形態の保護カバーの平面図、(b)は同じく正面図、(c)は同じく正断面図、(d)は同じく底面図、(e)は側面図。
【図9】(a)は図6のA−A線断面図、(b)は図6のB−B−線断面図、(c)は図6のC−C線断面図。
【図10】(a)は図7のD−D線断面図、(b)は図7のE−E線断面図、(c)は図7のF−F線断面図、(d)は図7のG−G線断面図、(e)は図7のH−H線断面図。
【符号の説明】
【0074】
10…柄本体、20…把持部、30…支持部、32…許容溝(許容部)、
35…刃体、40…保護カバー、110…柄本体、120…把持部、
130…支持部、134…スライド溝、137…第3係合凹部(スライド溝134の端部とともにロック手段を構成する)、139…許容溝(許容部)、
140…保護カバー、160…刃体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に刃体が設けられた柄本体の外周に対して、保護カバーが前記刃体を覆う被覆位置と、該刃体を露出する露出位置間を移動自在に配置された医療用刃物において、
前記保護カバーの内壁面には、該保護カバーが前記被覆位置に位置する際に前記刃体に当接、或いは刃体が撓うときの運動軌跡内に位置して該刃体に当接可能な撓い抑制部材が設けられていることを特徴とする医療用刃物。
【請求項2】
前記刃体はベントタイプであり、前記保護カバーが被覆位置に位置する際、前記撓い抑制部材が前記刃体の屈曲されている面に対して当接、或いは刃体が撓うときの運動軌跡内に位置して前記面に当接可能に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の医療用刃物。
【請求項3】
前記柄本体の外周には、前記保護カバーが露出位置に位置する際に、前記撓い抑制部材の移動を許容する許容部が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の医療用刃物。
【請求項4】
前記柄本体の外周には、前記保護カバーが前記刃体を被覆している状態で、該保護カバーの移動をロック解除不能にロックするロック手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の医療用刃物。
【請求項5】
前記保護カバーが前記ロック手段によりロックされているときに、前記撓い抑制部材が前記刃体の先端を超えた位置に位置することを特徴とする請求項4に記載の医療用刃物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−236452(P2007−236452A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59521(P2006−59521)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000112473)フェザー安全剃刀株式会社 (17)
【Fターム(参考)】