説明

医療用容器

【課題】必要時には容易に剥離可能であり、且つ、落下等によって意図せずに剥離することがない弱シール部を備えた医療用容器を提供する。
【解決手段】剥離可能な弱シール部20が、液状物が収納される収納室18を区画している。弱シール部の収納室とは反対側の端縁21に凸部31が形成されており、弱シール部の収納室側の端縁22に、凸部に対向する位置に凹部36が形成されている。凹部の開口幅Wが5mm以下である。凹部の凸部側の先端P0は、凸部の両端を結ぶ直線Lよりも凸部側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性材料から構成され、剥離可能な弱シール部を備えた医療用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、経腸栄養療法において患者に投与される経腸栄養剤を収納するためのバッグが記載されている。このバッグは、上部に開閉自在なチャックシールを備え、下部に経腸栄養剤が流出するポートを備えた、可撓性を有する袋状物である。チャックシールとポートとの間であって、チャックシール近傍に剥離可能な弱シール部が設けられている。弱シール部とポートとの間の空間に経腸栄養剤が収納されている。経腸栄養療法は例えば以下のようにして行われる。最初に、一端が患者の体内に挿入されたチューブの他端をポートに接続し、バッグ内の経腸栄養剤を患者に投与する。その後、チャックシールを開き、更に弱シール部を剥離して開いて、バッグ内に水又は温湯を注入して、チャックシールを再度閉じる。その後、バッグ内に残存した経腸栄養剤を水又は温湯ともに患者に投与する。
【0003】
特許文献2,3には、静脈栄養療法や腹膜透析において患者に投与される薬剤や栄養剤などを含む液剤を収納するためのバッグが記載されている。このバッグは、剥離可能な弱シール部で区画された2つの空間を備え、一方の空間に連通してポートが設けられている。2つの空間にはそれぞれ異なる液剤が収納されている。静脈栄養療法や腹膜透析は例えば以下のように行われる。最初に、2つの空間のうちの一方を押圧し該空間内の圧力を高めて弱シール部を剥離する。これにより、2つの空間が連通し、両液剤が混合される。次いで、一端が患者に接続されたチューブの他端をポートに接続し、バッグ内の混合された液剤を患者に投与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−299875号公報
【特許文献2】特開2005−228号公報
【特許文献3】特開平9−327498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、経腸栄養療法、静脈栄養療法、腹膜透析などにおいて患者に投与される液状物を収納するためのバッグには、弱シール部が設けられているものがある。
【0006】
弱シール部は、必要時には容易に剥離できる必要があるが、その一方で、必要時以外には意図せずに剥離しないことが必要である。例えば、輸送時に複数のバッグを積み重ねたりバッグを手で把持したりすることにより加えられる押力やバッグを落下したときの衝撃などによって弱シール部が簡単に剥離してしまうことがないような密着強度を有している必要がある。上記の従来のバッグはこれらの特性に関して十分とは言えない。
【0007】
本発明は、必要時には容易に剥離可能であり、且つ、意図せずに剥離することがない弱シール部を備えた医療用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の医療用容器は、液状物が収納される収納室と、前記収納室を区画する剥離可能な弱シール部とを備え、可撓性材料からなる医療用容器である。前記弱シール部の前記収納室とは反対側の端縁に凸部が形成されており、前記弱シール部の前記収納室側の端縁に、前記凸部に対向する位置に凹部が形成されている。前記凹部の開口幅Wが5mm以下である。前記凹部の前記凸部側の先端は、前記凸部の両端を結ぶ直線よりも前記凸部側に位置している。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療用容器では、弱シール部の収納室とは反対側の端縁に凸部が形成されており、弱シール部の収納室側の端縁に、凸部に対向する位置に凹部が形成されている。そして、凹部の凸部側の先端は、凸部の両端を結ぶ直線よりも凸部側に位置している。これにより、弱シール部よりも収納室とは反対側において弱シール部を剥離させようとする剥離力が弱シール部に作用すると、この剥離力は凸部の先端に集中し、該先端を起点として弱シール部の剥離が開始する。そして、剥離が凹部に達した後は、凹部の両側で凹部から離れるように剥離が進行する。したがって、弱い力で弱シール部を容易に剥離することができる。
【0010】
また、本発明の医療用容器では、凹部の開口幅Wは5mm以下である。これにより、収納室内の液状物は凹部内にほとんど浸入することができない。したがって、外部からの押力や衝撃によって収納室内の液状物の圧力が上昇しても、弱シール部を剥離させようとする剥離力は弱シール部全体に分散して作用し、凹部に集中しない。よって、弱シール部が意図せずに剥離するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る医療用容器の概略構成を示した平面図である。
【図2】図2は、図1に示した医療用容器に設けられた弱シール部の拡大平面図である。
【図3】図3は、図2の部分IIIの拡大平面図である。
【図4】図4A〜図4Cは、本発明の実施の形態1に係る医療用容器において、凸部が形成された側から弱シール部が剥離される様子を順に示した拡大平面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1に係る医療用容器において、収納室内の液状物が弱シール部に加える剥離力を模式的に示した拡大平面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2に係る医療用容器の概略構成を示した平面図である。
【図7】図7Aは比較例に係る医療用容器に設けられた弱シール部の拡大平面図、図7Bは図7Aの部分VIIBの拡大平面図である。
【図8】図8Aは開封試験において使用した治具の概略を示した斜視図である。図8Bは開封試験の実施方法を示した断面図である。
【図9】図9は耐圧試験の実施方法を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の医療用容器(以下、「容器」という)は、可撓性材料からなり、好ましくは可撓性を有する1枚又は複数枚のシートからなる。その具体的な材質は、収納される液状物の種類などに応じて適宜選択することができるが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのプラスチック材料を用いることができる。容器を構成するシートは、単層シートであってもよいが、層ごとに材料が異なる二層以上の複合シートであってもよい。更に、バリア層として酸化アルミニウムやシリカなどを含む薄膜が形成されていてもよい。容器内の液状物の量などを確認することができるように、その少なくとも一部が透明又は半透明であってもよい。
【0013】
本発明において、容器内に収納される液状物の種類は、容器の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、経腸栄養療法、静脈栄養療法、腹膜透析などを行う際に患者に投与される公知の液状物のいずれであってもよい。
【0014】
容器は、液状物を収納するための空間、即ち、収納室を備えている。容器が備える収納室の数に限定はなく、容器の用途に応じて1つ又は2つ以上であってもよい。
【0015】
収納室は、例えば上記のプラスチック材料からなるシートを袋状に接合することで形成される。接合方法は特に制限はなく、例えばヒートシール法や超音波シール法を採用できる。ヒートシール法にて2枚のシートを接合する場合、各シートの相手方のシートと対向する面には一般にヒートシール層が設けられる。
【0016】
収納室を区画する接合部分の少なくとも一部は、不可逆的に剥離可能な弱シール部で構成される。弱シール部の形成方法は、特に制限はなく、例えば、接合される2枚のシート間に弱溶着シートを挟んでヒートシールするなどの公知の方法で形成することができる。
【0017】
弱シール部の収納室とは反対側の端縁に凸部が形成されており、弱シール部の収納室側の端縁に凹部が形成されている。凹部は、凸部と対向する位置に、凸部に向かって窪んでいる。容器が複数の収納室を備える場合には、複数の収納室のうちのいずれか1つが、上記の凸部及び凹部を備えた弱シール部で区画されていればよい。例えば、2つの収納室の間に弱シール部が形成されている場合には、弱シール部の両側の端縁のうちの一方に凸部が形成され、且つ、他方に凹部が形成されている場合は、本発明に含まれる。
【0018】
1つの弱シール部に、凸部及び凹部からなる対は少なくとも1つ形成されていればよい。凸部及び凹部の対を1つのみ設ける場合には、該対は弱シール部の延設方向の略中央部に設けられることが好ましい。凸部及び凹部の対を複数対設ける場合には、該対は弱シール部の延設方向に略等間隔で設けられることが好ましい。
【0019】
凸部の端縁がなす形状は、略楔状又は略山形であることが好ましい。また、凹部の端縁がなす形状は、略楔状又は略山形、あるいは一定間隔の溝状であることが好ましい。
【0020】
凹部の深さは深いことが好ましく、具体的には凹部の凸部側の先端は、凸部の両端を結ぶ直線よりも収納室とは反対側に位置している。
【0021】
このように弱シール部に凸部及び凹部からなる対が形成されているので、2枚のシートを離間させるような剥離力を弱シール部の収納室とは反対側(即ち、凸部が形成された側)で2枚のシートに印加すると、剥離力が凸部の先端に集中し、該先端を起点として弱シール部の剥離が開始する。そして、剥離が凹部に達した後は、凹部の両側で凹部から離れるように剥離が進行する。このようにして、弱い力で弱シール部を容易に剥離することができる。
【0022】
一方、弱シール部の収納室側の端縁に形成された凹部の開口幅Wは5mm以下(即ち、0<W≦5mm)、好ましくは2mm以下である。このように凹部の開口幅が狭いので、凹部内において2枚のシートは密着し、凹部内に液状物はほとんど浸入しない。したがって、外部からの押力や衝撃によって収納室内の液状物の圧力が上昇しても、2枚のシートを離間させるような剥離力は弱シール部全体に分散して作用し、凹部に集中しない。よって、弱シール部が意図せずに剥離するのを防止することができる。
【0023】
凸部の端縁がなす角度をθ1、凹部の端縁がなす角度をθ2としたとき、θ2≦θ1/2を満足することが好ましい。このように凹部の角度(開度)が相対的に小さいことにより、凹部内に液状物が浸入する可能性がさらに少なくなるので、外部からの押力や衝撃によって収納室内の液状物の圧力が上昇しても弱シール部が意図せずに剥離する可能性を更に低減することができる。
【0024】
シール部の全体形状は、収納室とは反対側(即ち、凸部が形成された側)に突出した略楔状又は略円弧状であることが好ましい。これにより、収納室とは反対側(即ち、凸部が形成された側)からシール部に剥離力が作用した場合には、剥離力がシール部の最も突出した頂部に集中して作用するので、シール部の剥離性が向上する。逆に、収納室側(即ち、凹部が形成された側)からシール部に剥離力が作用した場合には、剥離力がシール部全体に分散して作用するので、シール部の意図しない剥離の可能性を低減することができる。
【0025】
容器には、容器の内外を連通させるための少なくとも一つのポートが設けられることが好ましい。ポートの形状は特に制限はなく、例えば容器の用途などに応じて公知のポートから適宜選択して用いることができる。ポートは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン酢酸ビニルコポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリアセタール等の容器を構成するシートに比べて相対的に硬い樹脂材料を用いて、例えば射出成型にて一体的に製造することができる。シートとポートとの接合方法は特に制限はなく、例えばヒートシール法や超音波シール法を採用できる。
【0026】
弱シール部に対して収納室とは反対側に開閉可能なチャックシールが設けられていてもよい。これにより、例えば経腸栄養療法に好ましく使用することができる医療用容器を実現できる。
【0027】
あるいは、医療用容器が液状物を収納する収納室を2つ備え、弱シール部は2つの収納室を仕切っていてもよい。これにより、例えば腹膜透析や静脈栄養療法に好ましく使用することができる医療用容器を実現できる。
【0028】
以下に、本発明の好適な実施の形態を説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定されないことは言うまでもない。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、経腸栄養療法において好適に使用することができる、本発明の実施の形態1に係る医療用容器(以下、単に「容器」という)10の概略構成を示した平面図である。この容器10は、可撓性を有する同一形状の2枚のプラスチック材料からなるシート11a,11bを重ね合わせて、その周縁のシール領域12にて接合してなる袋状物(いわゆるパウチ)である。図1において、容器10の上側に、ポケットジップ13、チャックシール14、弱シール部20がこの順に設けられており、容器10の下側には、ポート15が設けられている。ポート15とは反対側のシール領域12内に、容器10を懸吊するための開口17が形成されている。
【0030】
ポケットジップ13は、重ね合わされた2枚のシート11a,11bのうちの一方のみを図1の点線に沿って不可逆的に切開することができるように構成されている。ポケットジップ13が未切開の状態では、チャックシール14の良好な衛生状態が維持される。
【0031】
チャックシール14は、重ね合わされた2枚のシート11a,11bの内面の対向位置にそれぞれ設けられた凸条と凹条とから構成される。凸条と凹条とを嵌合させると液密なシールが形成される。凸条と凹条との嵌合及びその解除は、何度でも繰り返して行うことができる。
【0032】
弱シール部20は、シール領域11よりも相対的に密着力が弱く、弱シール部20に2枚のシート11a,11bが離間する向きの力(剥離力)を加えると不可逆的に剥離することができる。弱シール部20とポート15との間の領域に液状物が収納される収納室18が形成される。
【0033】
ポート15は、収納室18と連通し、収納室18に収納された液状物を外部に流出させる。
【0034】
図2は、図1に示した医療用容器に設けられた弱シール部20の拡大平面図である。弱シール部20の収納室18とは反対側(チャックシール14側)の端縁21にはチャックシール14側に向かって突出した凸部31が形成されている。また、弱シール部20の収納室18側の端縁22には凸部31に向かって窪んだ凹部36が形成されている。凸部31は、容器10の幅方向(弱シール部20の長手方向、即ち、図2の紙面横方向)において弱シール部20のほぼ中央位置に形成されている。凹部36は、凸部31に対向する位置に形成されている。
【0035】
弱シール部20の凸部31及び凹部36を除く部分は、幅方向の中央部(凸部31及び凹部36が形成された部分)が収納室18とは反対側(チャックシール14側)に突出した、全体としてなだらかな略楔形状を有している。弱シール部20の幅(即ち端縁21と端縁22との間隔)は、凸部22及び凹部36が形成された部分を除いてほぼ一定であり、一実施例では2mmとすることができる。
【0036】
図3は、図2の凸部31及び凹部36を含む部分IIIの拡大平面図である。
【0037】
凸部31は略楔状又は略山形を有し、先端の略円弧32と、略円弧32の両端に接続された直線33a,33bと、直線33a,33bにそれぞれ接続された略円弧34a,34bとからなる。直線33aと直線33bとがなす角度(即ち、凸部31の端縁がなす角度)をθ1とする。一実施例では、略円弧32の半径は1mm、略円弧34a,34bの半径は2mm、角度θ1は90度とすることができる。
【0038】
凹部36も略楔状又は略山形を有し、先端の略円弧37と、略円弧37の両端に接続された直線38a,38bと、直線38a,38bにそれぞれ接続された略円弧39a,39bとからなる。直線38aと直線38bとがなす角度(即ち、凹部36の端縁がなす角度)をθ2とする。端縁22の凹部36を除く部分の延長線と直線38a,38bの延長線との交点をP1,P2とし、点P1と点P2との間隔を凹部36の開口幅Wとする。一実施例では、略円弧37の半径は0.25mm、略円弧39a,39bの半径は1mm、角度θ2は14度、開口幅Wは1mmとすることができる。
【0039】
凸部31の両端(本実施形態では、端縁21の凸部31を除く直線部分と略円弧34a,34bとが接続される点)を結ぶ直線をLとする。凹部36の凸部31側の先端(凹部36の最深部)P0は、直線Lよりも凸部31側に位置している。一実施例では、P0と直線Lとの距離は0.2mmとすることができる。
【0040】
図3は、一例であって、凸部31及び凹部36の形状はこれに限定されない。例えば、略円弧32を省略し、直線33aと直線33bとが交差していてもよい。同様に、略円弧37を省略し、直線38aと直線38bとが交差していてもよい。さらに、略円弧34a,34b及び/又は略円弧39a,39bを省略してもよい。略円弧37の両端に接続された直線38aと直線38bとが互いに平行(即ち、角度θ2=0度)であってもよい。弱シール部20の幅は、一定である必要はなく、例えば凸部22及び凹部36に近づくにしたがって減少又は増大していてもよい。
【0041】
以上のように構成された本実施の形態1に係る容器10を用いて経腸栄養療法を行う場合の作業手順の一例を以下に説明する。
【0042】
容器10は、収納室18に所定の液状物(経腸栄養剤)が収納された状態で病院などの医療機関に納品される。このとき、ポケットジップ13、チャックシール14、及び弱シール部20はいずれも閉じられている。
【0043】
次いで、患者の体内に挿入されたPEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)チューブとポート15とを経腸栄養延長チューブを介して接続する。次いで、容器10を開口17を利用してイルリガートル台に吊り下げ、収納室18に収納された液状物を重力により患者の体内に流入させる。液状物の粘度が高く重力だけでは液状物を患者に投与することが困難な場合には、容器10に圧力を加えてもよい。
【0044】
収納室18内の液状物がほぼ流出し終わると、ポケットジップ13を切開し、2枚のシート11a,11bに互いに離間させる向きの力を加えて、チャックシール14及び弱シール部20を順に開く。そして、収納室18内に水又は温湯を注入し、チャックシール14を閉じる。そして、再度、容器10をイルリガートル台に吊り下げて、収納室18内に残存した液状物を水又は温湯とともに患者に投与する。
【0045】
次に、容器10に設けられた弱シール部20の作用を説明する。
【0046】
最初に、弱シール部20をチャックシール14側から剥離する場合を図4A〜図4Cを用いて説明する。
【0047】
弱シール部20よりもチャックシール14側において2枚のシート11a,11bに離間させる向きの力(剥離力)を加えると、剥離力F1は弱シール部20のうちチャックシール14に最も接近した凸部31の先端の略円弧32に集中する。したがって、図4Aに示すように、凸部31の略円弧32を起点として弱シール部20の剥離が容易に開始する。図4Aにおいて、弱シール部20のうちドット模様を付した領域は未剥離領域を示し、ドット模様が付されていない領域は剥離済み領域を示す。未剥離領域と剥離済み領域との境界を「剥離線」25と呼ぶ。
【0048】
凸部31に対向する位置に凹部36が形成されており、且つ、凸部31の両端を結ぶ直線Lよりも凹部36の先端P0が凸部31側に位置しているので、弱シール部20の剥離が進行すると、剥離線25はまもなく凹部36に達する。図4Bに示すように、凹部36は、剥離線25を凹部36を挟む2つの剥離線25a,25bに分割する。
【0049】
その後、図4Cに示すように凹部36の両側で2つの剥離線25a,25bが互いに離れるように移動して弱シール部20の剥離が進行する。
【0050】
このようにして、本実施の形態1では、弱シール部20を弱い力で容易に剥離することができる。
【0051】
次に、輸送時や落下時に収納室18内の液状物に押力が加えられた場合を図5を用いて説明する。
【0052】
収納室18内の液状物に押力が加えられると、液状物の圧力が上昇し、この液状物の圧力は、弱シール部20に剥離力として作用する。図5において、矢印は、収納室18内の液状物の圧力上昇によって、弱シール部20に作用する剥離力F2を模式的に示している。上述したように、凹部36の開口幅W及び角度θ2(図3参照)が小さいので、弱シール部20が未剥離のとき、凹部36内において2枚のシート11a,11bは密着しており、シート11a,11b間に液状物はほとんど浸入できない。したがって、収納室18内の液状物による剥離力F2は、凹部36にはほとんど作用せず、弱シール部20の凹部36を除く端縁22にほぼ均一に作用する。端縁22において、剥離力が集中して作用する箇所が発生しないので、剥離は開始しない。したがって、収納室18内に液状物が収納された状態において、輸送時の積み重ねや把持により加えられる押力や落下時の衝撃によって収納室18内の液状物の圧力が高まっても、弱シール部20が意図せずに剥離することがない。
【0053】
(実施の形態2)
図6は、腹膜透析や静脈栄養療法に好適に使用することができる、本発明の実施の形態2に係る医療用容器(以下、単に「容器」という)60の概略構成を示した平面図である。実施の形態1の容器10と同様に、この容器60も、可撓性を有する同一形状の2枚のプラスチック材料からなるシート61a,61bを重ね合わせて、その周縁のシール領域62にて接合してなる袋状物(いわゆるパウチ)である。
【0054】
実施の形態1の容器10と異なり、容器60は2つの収納室68a,68bを備え、収納室68a,68bは剥離可能な弱シール部70によって区画されている。弱シール部70よりも上側の第1収納室68aに連通して第1ポート65aが設けられ、弱シール部70よりも下側の第2収納室68bに連通して第2ポート65bが設けられている。
【0055】
第1収納室68aには第1ポート65aを通じて所定の液状物が注入される。第1収納室68aに液状物を注入後は第1ポート65aはシールされる。
【0056】
第2収納室68bには第2ポート65bを通じて所定の液状物が注入される。また、弱シール部70を剥離して第1収納室68a内の液状物と第2収納室68b内の液状物とを混合して得た液状物は、第2ポート65bを通じて外部に流出される。
【0057】
第2ポート65bとは反対側のシール領域62内に、容器60を懸吊するための開口67が形成されている。
【0058】
弱シール部70の第1収納室68a側の端縁71には凸部81が形成されている。また、弱シール部70の第2収納室68b側の端縁72には凸部81に向かって窪んだ凹部86が形成されている。凸部81は、容器60の幅方向(弱シール部70の長手方向、即ち、図6の紙面横方向)において弱シール部70のほぼ中央位置に形成されている。凹部86は、凸部81に対向する位置に形成されている。
【0059】
図3で説明したのと同様に、凹部86の開口幅は5mm以下である。また、凹部86の凸部81側の先端(凹部86の最深部)は凸部81の両端を結ぶ直線よりも凸部81側に位置している。凸部81及び凹部86の形状は、例えば実施の形態1の凸部31及び凹部36の形状とほぼ相似形とすることができる。
【0060】
本実施の形態2に係る容器60を用いて腹膜透析を行う場合の作業手順の一例を以下に説明する。
【0061】
容器60は、第1,第2収納室68a,68bに所定の液状物が収納された状態で病院などの医療機関に納品される。
【0062】
最初に、第1収納室68aに押力を加える。これにより、第1収納室68a内の液状物の圧力が高まり、弱シール部70が剥離する。そして、第1収納室68a内の液状物と第2収納室68b内の液状物とを混合する。
【0063】
次いで、患者の腹膜内に挿入されたチューブと第2ポート65bとをチューブを介して接続する。そして、容器60を開口67を利用してスタンドに吊り下げ、容器60内の混合された液状物を重力により患者の体内に流入させる。
【0064】
本実施の形態2では、液状物が収納された第1収納室68aを押圧すると、第1収納室68a内の液状物の圧力が上昇して、2枚のシート61a,61bを離間させる剥離力がシール部70に作用する。この力は、弱シール部70のうち凸部81の先端に集中するから、実施の形態1の場合と同様に、弱シール部70を容易に剥離することができる。
【0065】
一方、液状物が収納された第2収納室68bが押圧された場合には、実施の形態1の場合と同様に、第2収納室68b内の液状物が弱シール部70に加える剥離力は、凹部86にはほとんど作用せず、弱シール部70の凹部86を除く端縁72にほぼ均一に作用する。したがって、第2収納室68b内に液状物が収納された状態において、輸送時の積み重ねや把持により加えられる押力や落下時の衝撃によって第2収納室68b内の液状物の圧力が高まっても、弱シール部70が意図せずに剥離することがない。
【0066】
なお、輸送時の積み重ねや把持により加えられる押力や落下時の衝撃によって第1収納室68a内の液状物の圧力が上昇した場合は、凸部81を起点として弱シール部70が剥離する可能性がある。しかしながら、例えば、容器60を弱シール部70で折り返した二つ折り状態で輸送したり取り扱ったりすることにより、第1収納室68a内の液状物の圧力が上昇しても弱シール部70が剥離するのを防止することが可能である。
【0067】
上記の実施の形態1,2は一例であって、本発明はこれらに限定されず種々に変更することができる。
【0068】
例えば、上記の実施の形態では、弱シール部20,70の全体形状は、凸部31,81を頂点とするなだらかな略楔形状であったが、本発明はこれに限定されず、例えば凸部及び凹部が形成された部分を除いて一直線状であってもよい。
【0069】
1つの弱シール部に、2以上の凸部及び凹部からなる対が形成されていてもよい。
【0070】
1つの医療用容器が、液状物が収納される3つ以上の収納室を有していても良い。この場合、複数の収納室のうちの少なくとも1つが本発明の弱シール部で区画されていればよい。
【0071】
液状物が収納される1つの収納室に対して2以上のポートが設けられていてもよい。
【実施例】
【0072】
(実施例)
シート11a,11bとして樹脂製の多層複合シートを用いて、実施の形態1に示した容器10を作成した(図1参照)。弱シール部20の各部の寸法は以下の通りとした。図2において、弱シール部20の全長W0は104mm、弱シール部20の端縁22の両端を結ぶ直線から凸部31の先端までの距離(即ち、弱シール部20の全高)H0は6mm、凸部31及び凹部36を除いた領域での弱シール部20の幅(即ち、距離H0と同方向における端縁21と端縁22との間の距離)W1は一定で2mmとした。図3において、略円弧32は半径1mmの円弧、略円弧34a,34bは半径2mmの円弧、略円弧37は半径0.25mmの円弧、略円弧39a,39bは半径1mmの円弧とした。凸部31の端縁がなす角度θ1は90度、凹部36の端縁がなす角度θ2は14度、凹部36の開口幅Wは1mmとした。凸部31の頂部と略円弧37の円弧の中心との距離H1は2mmとした。
【0073】
(比較例)
弱シール部の形状が異なる以外は上記の実施例と同様にして容器910を作成した。図7Aは比較例の容器の弱シール部920の拡大平面図、図7Bは図7Aの部分VIIBの拡大平面図である。比較例の弱シール部920は、図7Aに示すように、収納室18側の端縁922は直線、収納室18とは反対側の端縁921は波状の曲線とした。弱シール部920の全長W0は実施例の弱シール部20と同じ104mmとした。図7Bに示すように、端縁921は、端縁922側に凸の円弧923と端縁922側に凹の円弧924とが交互に繰り返して配置されて構成されている。円弧923の半径は6.25mm、円弧924の半径は1mm、円弧924の配置ピッチPは10mmとした。弱シール部920の幅は、円弧923での最小幅W2を4mm、円弧924での最大幅W3を6mmとした。
【0074】
(評価方法)
上記の実施例の容器10及び比較例の容器910に対して以下の開封試験及び耐圧試験を行い、それぞれの弱シール部20,920を評価した。
【0075】
1.開封試験
図8Aに示すような、略L字状の治具100を2つ作成した。治具100は、一定厚さの矩形板状の把持部101と、円弧状の端縁を先端に有する一定厚さの支持部102とを備える。把持部101と支持部102とがなす角度は90度である。支持部102の突出長D1は15mm、支持部102の幅D2は15mmとした。支持部102は、人が容器の弱シール部を剥離する際にシート11a,11bを把持する親指を模したものである。
【0076】
実施例及び比較例の容器10,910を構成するシート11a,11bを、ポケットジップ13(図1参照)に沿って切断した。次いで、図8Aに示した一対の治具100の支持部102の下面を互いに重ね合わせて、図8Bに示すように、シート11a,11bの間に支持部102を挿入した。次いで、シート11a,11bを把持部101とともに引張試験機の上下のチャック110a,110bにそれぞれ把持させた。この状態でチャック110a,110bを離間する向きに移動させて、容器10,910の弱シール部20,920に引張り力を作用させ、弱シール部20,920を剥離した。弱シール部20,920を剥離する過程で引っ張り力を測定し、その最大値を「開封力」とした。実施例の容器10及び比較例の容器910のそれぞれについて10サンプルの開封力を測定し、その平均値を求めた。
【0077】
2.耐圧試験
実施例及び比較例の容器10,910の収納室18内に、ポート15を通じて水を注入し、ポート15を閉じた。この水を注入した容器10,910を、図9に示すように、剛性を有する平板111上に置き、上方より剛性を有する平板112を介して圧縮試験機110にて圧縮荷重を印加した。弱シール部20,920が剥離するまでの圧縮荷重を測定し、その最大値を「耐圧強度」とした。実施例の容器10及び比較例の容器910のそれぞれについて10サンプルの耐圧強度を測定し、その平均値を求めた。
【0078】
(評価結果)
比較例の容器920の平均開封力は24.3N、平均耐圧強度は316Nであった。
【0079】
実施例の容器10の開封力及び耐圧強度は、弱シール部20のヒートシール時の温度を高くすると大きくなる傾向があった。平均耐圧強度が比較例と同程度となるようにヒートシール時の温度を調整したところ、平均開封力が14.1N、平均耐圧強度が333Nの弱シール部20を有する容器10を作成することができた。この容器10は、平均耐圧強度が比較例の容器910と同等でありながら、平均開封力は比較例の容器910よりも大幅に小さい。
【0080】
従って、本発明により、弱い力で容易に剥離することができ、且つ、意図せずに剥離することが少ない弱シール部を有する容器が得られることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の利用分野は特に制限はなく、剥離可能な弱シール部を備えた医療用容器に広範囲に利用することができる。例えば、経腸栄養療法、静脈栄養療法、腹膜透析などで使用される容器として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
10,60 容器
11a,11b,61a,61b シート
12,62 シール領域
13 ポケットジップ
14 チャックシール
15 ポート
17,67 開口
18 収納室
20,70 弱シール部
21,22,71,72 弱シール部の端縁
25,25a,25b 剥離線
31,81 凸部
36,86 凹部
65a 第1ポート
65b 第2ポート
68a 第1収納室
68b 第2収納室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状物が収納される収納室と、前記収納室を区画する剥離可能な弱シール部とを備え、可撓性材料からなる医療用容器であって、
前記弱シール部の前記収納室とは反対側の端縁に凸部が形成されており、
前記弱シール部の前記収納室側の端縁に、前記凸部に対向する位置に凹部が形成されており、
前記凹部の開口幅Wが5mm以下であり、
前記凹部の前記凸部側の先端は、前記凸部の両端を結ぶ直線よりも前記凸部側に位置していることを特徴とする医療用容器。
【請求項2】
前記凸部の端縁がなす角度をθ1、前記凹部の端縁がなす角度をθ2としたとき、θ2≦θ1/2を満足する請求項1に記載の医療用容器。
【請求項3】
前記弱シール部に対して前記収納室とは反対側に開閉可能なチャックシールを備えた請求項1又は2に記載の医療用容器。
【請求項4】
液状物を収納する前記収納室を2つ備え、前記弱シール部は2つの前記収納室を仕切っている請求項1又は2に記載の医療用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−269132(P2010−269132A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80670(P2010−80670)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】