医療用接着剤及び医療用材料
【課題】接着性及び生体安全性に優れた医療用接着剤を提供する。
【解決手段】ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとから構成される組織接着性を有する医療用接着剤であって、上記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチン濃度が5〜40質量%であって、かつ粘度が1〜2000mPa・sであり、上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒド濃度が0.01〜10質量%である医療用接着剤。
【解決手段】ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとから構成される組織接着性を有する医療用接着剤であって、上記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチン濃度が5〜40質量%であって、かつ粘度が1〜2000mPa・sであり、上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒド濃度が0.01〜10質量%である医療用接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用接着剤及び医療用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術時に、生体患部の止血や、生体組織又は臓器を接合する手段として、医療用接着剤が広く用いられている。
このような医療用接着剤は、対象とする生体組織面にはよく接着するが、その塗布面に生成した固化接着剤面は相対するいかなる組織とも接着しない、すなわち、二つの物体を結合するのではなく、一つの対象組織面の被覆材として使用される。一般的には、損傷した組織面が修復するまでそれを被覆する保護材、閉鎖材、止血材、癒着防止材等として使用されるのである。
【0003】
このような医療用接着剤は、生体組織や生体代替組織に素早く接着し、かつ、接着力が優れることが必要とされる。同時に、局所に刺激を与えず、また、生体に害を与えないことが重要である。
【0004】
上記医療用接着剤の成分として、従来より、フィブリン糊、シアノアクリレートやゼラチン−ホルムアルデヒド等が知られている。いずれも外科手術に大いに貢献しているのは事実であるが、それぞれ問題を抱えている。例えば、フィブリン糊では、原料の一つがヒトの血液から得られるフィブリノーゲンであり、これがウイルスによって汚染されているおそれがあるという問題があった。また、接着剤の引っ張り強度や、生体組織への接着強度が不充分であるといった問題があった。
【0005】
特許文献1には、コラーゲン蛋白部分加水分解物質、水及び多価フェノールとからなる接着成分と、ホルムアルデヒド及びグルタルアルデヒドを含有する水溶液からなる硬化成分とよりなる生体組織接着用組成物が開示されている。
しかしながら、上記生体組織接着用組成物では、原料に発癌性物質であるホルムアルデヒドが使用されており、生体への安全面では未だ充分ではない。
【0006】
特許文献2には、血漿タンパク質及び二又は多官能アルデヒドの混合液を含んでなる接着剤組成物が開示されている。
しかしながら、使用される血漿タンパク質は、ヒトの血清アルブミンとグルタルアルデヒド(GA)であり、ヒト血清由来の、又は、ゲル化アルブミンより溶出するグルタルアルデヒドが高い濃度で残存するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−70972号公報
【特許文献2】国際公開第94/01508号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、接着性及び生体安全性に優れた医療用接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとから構成される組織接着性を有する医療用接着剤であって、上記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチン濃度が5〜40質量%であって、かつ粘度が1〜2000mPa・sであり、上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒド濃度が0.01〜10質量%であることを特徴とする医療用接着剤である。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の濃度のゼラチン水溶液及びグルタルアルデヒド水溶液とを使用することにより、優れた接着性及び生体安全性を有する医療用接着剤とすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとから構成される医療用接着剤である。
上記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチンを水又はpH5〜8の緩衝液である溶媒に溶解又は分散させたものである。
上記ゼラチンは、水に不溶性のコラーゲンを酸又はアルカリで前処理してから、熱加水分解して可溶化したものである。本発明においては、いずれのゼラチンを使用してもよく、求められる効果には差はない。ただし、塩基性細胞成長因子等を複合化する場合にはアルカリ処理したゼラチンを選択することが好ましい。
【0012】
上記ゼラチンは、重量平均分子量が5,000〜30万であることが好ましい。上記重量平均分子量が5,000未満であると、ゼラチンが固まらないおそれがある。30万を超えると、ゼラチン水溶液の粘度が高くなりすぎて接着剤として塗布することが困難になるおそれがある。上記重量平均分子量は、5万〜20万であることがより好ましい。
なお、上記重量平均分子量は、GPCの方法にて得られる値である。
【0013】
上記ゼラチンは、市販品を用いてもよく、例えば、メディゼラチン(ニッピ社製)等を使用することができる。
【0014】
上記ゼラチン水溶液Aの溶媒である上記pH5〜8の緩衝液としては、リン酸緩衝液(PBS)、トリス塩酸緩衝液(Tris−Cl)等を挙げることができる。
【0015】
上記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチン濃度が5〜40質量%である。
上記ゼラチン濃度が5質量%未満であると、流動性が高く、目的部位に塗布した時に流れてしまい、接着剤としての役割を果たせなくなる。40質量%を超えると、粘度が高くなり過ぎるために、目的部位に塗布して塗り拡げることが不可能になってしまう。
上記ゼラチン濃度は、10〜30質量%であることが好ましい。
【0016】
上記ゼラチン水溶液Aは、細胞成長因子を更に含有していてもよい。
細胞成長因子を含有することにより、接着剤として塗布した臓器表面の創傷治癒を促進させることができる。
上記細胞成長因子としては、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などを挙げることができる。
【0017】
上記ゼラチン水溶液Aは、粘度が1〜2000mPa・sである。
粘度が2000mPa・sを超えると、ゼラチン水溶液Aを目的部位に塗布して塗り拡げるげることができない。
【0018】
上記ゼラチン水溶液Aは、pHが5〜9であることが好ましい。
pHが5未満であると、ゼラチンのゲル化時間が長くなってしまい、接着剤としての機能を果たせないおそれがある。pHが9を超えると、アルカリ性となり塗布した部位の組織に炎症を惹起させてしまうおそれがある。
上記ゼラチン水溶液Aは、pHが6〜8であることがより好ましい。なお、pHの調整は、リン酸緩衝液(PBS)、トリス塩酸緩衝液(Tris−Cl)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)等を使用して行うとよい。
【0019】
上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒドを蒸留水に溶解させたものである。
【0020】
上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒド濃度が0.01〜10質量%である。グルタルアルデヒド濃度が0.01質量%未満であると、ゼラチンの架橋反応が進まず、接着剤としての機能を発揮できなくなる。10質量%を超えると、ゲル化速度が高まりすぎ、手術時の混合操作などに支障を及ぼす。
上記グルタルアルデヒド濃度は、0.1〜1質量%であることが好ましい。
【0021】
上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、更に、増粘剤を含有することが好ましい。
増粘剤を含有することにより、ゼラチン水溶液Aと混合する際にグルタルアルデヒド水溶液Bが流延することなく混合させることができる。
上記増粘剤としては、水溶液の粘度を高める物質であれば特に限定されるものではないが、多糖類であることが好ましい。上記多糖類としては、アルギン酸、ヒアルロン酸、カルボシキメチルセルロース、アミロース、アミロペクチン等が例示できる。
【0022】
上記グルタルアルデヒド水溶液B中の増粘剤の濃度は、0.5〜10質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、十分な粘性が得られずにグルタルアルデヒド水溶液Bが流延してしまうおそれがある。10質量%を超えると、粘性が高くなり過ぎてゼラチン水溶液Aと十分に混合できないおそれがある。
上記増粘剤の濃度は、2〜5質量%であることがより好ましい。
上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、粘度が1〜2000mPa・sであることが好ましい。
【0023】
上記グルタルアルデヒド水溶液BのpHは特に限定されるものではないが、pHが高くなるとグルタルアルデヒドが縮合反応してしまい、架橋剤として使えなくなってしまう。上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、pHが3〜5であることがより好ましい。
【0024】
本発明の医療用接着剤では、上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合することにより、ゲルが生成される。このゲルにより、生体組織や臓器が接着又は接合される。
【0025】
上記グルタルアルデヒド水溶液Bと上記ゼラチン水溶液Aとの混合比(B/A)は、質量比で0.01〜2であることが好ましい。上記グルタルアルデヒド水溶液Bの量が上記範囲より少ないと十分な接着強度が得られないおそれがあり、多いと接着剤全体が硬くなり脆くなるおそれがある。
上記混合比は、0.05〜1であることがより好ましい。
【0026】
上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合する場合の温度は、30〜65℃であることが好ましい。30℃未満であるとゼラチン水溶液Aが固まってしまうおそれがある。65℃を超えるとゼラチンが変性してしまうおそれがある。上記温度は、35〜60℃であることがより好ましい。
【0027】
上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合してからゲルが生成するまでのゲル化時間は、45℃下で5〜100秒であることが好ましい。
上記ゲル化時間が5秒未満であると、操作中に接着剤が固まってしまい組織に接着しなくなるおそれがある。100秒を超えると接着剤を塗布した部位から流延してしまうおそれがある。
上記ゲル化時間は、10〜60秒であることがより好ましい。
【0028】
本発明の医療用接着剤の使用方法については、上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合してから、生体組織又は臓器の接合部又は止血部に塗布してもよいし、上記ゼラチン水溶液Aを上記接合部又は止血部に塗布した後に、上記グルタルアルデヒド水溶液Bをその上に塗布してもよい。
適用部位への接着剤の塗布が短時間にかつ簡便にできる点で、あらかじめゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合してから、生体組織又は臓器の接合部又は止血部に塗布する方が好ましい。
【0029】
上記塗布量としては、例えば、0.4〜4,000mg/cm2であることが好ましい。0.4mg/cm2未満であると、ゲルを十分に伸ばせなくなるおそれがある。4,000mg/cm2を超えると、ゲルが壊れてしまうおそれがある。上記塗布量は4〜400mg/cm2であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明の医療用接着剤の混合方法としては、例えば、ゼラチン水溶液とグルタルアルデヒド水溶液をそれぞれ別のシリンジに充填し、シリンジの先端部に二股ノズルを取り付ける。そして、両方のシリンジを同時に押すことによって、ノズル先端部で2液を混合させるという方法を挙げることができる。
本発明の医療用接着剤は、このように上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとの二液型混合接着剤であることが好ましい。
【0031】
本発明の医療用接着剤を適用する場合に、具体的には、以下のような塗布システムを用いてもよい。
図1は、本発明の医療用接着剤を使用した外科用接着剤塗布システムの一例を示した概略図である。
図1に示すように、上記外科用接着剤塗布システムは、ゼラチン水溶液A充填部1、グルタルアルデヒド水溶液B充填部2、充填部1及び2を加温するための加温器3、並びに、先端ノズル4を備える。先端ノズル4は、ゼラチン水溶液A及びグルタルアルデヒド水溶液Bを混合して医療用接着剤を塗布するためのものである。
具体的には、例えば、ゼラチン水溶液A充填部1及びグルタルアルデヒド水溶液B充填部2はシリンジ状になっており、先端ノズル4は二股ノズルとなっており、両方のシリンジを同時に押すことによって、先端ノズル4の先端で2液が混合される。
また、上記外科用接着剤塗布システムは、加温器3の温度を制御するための温度制御器5を更に備えていてもよい。
上記充填部、加温器、先端ノズル4、温度制御器は、公知のものを適宜適用するとよい。
上記外科用接着剤塗布システムにおいては、上記ゼラチン水溶液A及びグルタルアルデヒド水溶液Bを上述した好適な温度下で混合し、得られた混合物を、所望の箇所へ、短時間で、すなわち、ゲル化反応が終了するまでの間に供することができる。
このような、外科用接着剤塗布システムもまた、本発明の一つである。
【0032】
本発明では、このように上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合することにより、ゲル化が起こり、ゲル状の医療用材料が得られる。このようなゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとを混合して生成されるゲルを主体とする医療用材料もまた本発明の一つである。
【0033】
上記ゲルを主体とする医療用材料は、接着強度が20gf/cm2以上であることが好ましい。上記接着強度が20gf/cm2未満であると、組織を接着するという目的を達成できないだけでなく、生体組織の動きによる伸縮や動きに耐えられないおそれがある。上記接着強度は、50gf/cm2以上であることがより好ましい。
上記接着強度は、バネ秤を用いた方法により測定して得られた値である。
【0034】
また、上記ゲルを主体とする医療用材料は、その材料自体の引張強度が20gf/cm2以上であることが好ましい。上記引張強度が20gf/cm2未満であると、組織活動による伸縮や動きに耐えられないおそれがある。上記引張強度は、50gf/cm2以上であることがより好ましい。
上記引張強度は、バネ秤を用いた方法により測定して得られた値である。
【0035】
上記ゲルを主体とする医療用材料は、重量比が5倍のリン酸緩衝液中に、37℃で1分間浸漬することにより抽出されたグルタルアルデヒド濃度が0〜50μg/mlであることが好ましい。上記範囲外であると、アルデヒド基が周囲の組織に毒性を示すおそれがある。
【0036】
上記ゲルを主体とする医療用材料は、生体内において、埋入1日後の重量残存率が30%以上であって、かつ埋入5日後の重量残存率が30%以下であることが好ましい。
上記ゲルを主体とする医療用材料は、また、含水率が80%〜95%であることが好ましい。
【0037】
上記ゲルを主体とする医療用材料は、ゲル生成反応中は生体組織と接着し、ゲル生成後は他の生体組織と接着しないことが好ましい。このため、上記医療用材料は、接着すべき生体組織に対する所望の接着性を有し、かつ、ゲル生成後は、周辺組織等の他の生体組織と接着しないため、癒着が起こらず、生体安全性にも優れるものである。
【0038】
このように本発明の医療用接着剤は、ゼラチンの分子量、ゼラチン水溶液の濃度、グルタルアルデヒドの濃度、水溶液のpH、反応温度等について最適条件を設定することにより、ゼラチン水溶液とグルタルアルデヒド水溶液とからなる医療用接着剤において、上記グルタルアルデヒドの含有量を従来より低減させても、優れた接着性及び生体安全性を有するゲル状の医療用材料を得ることができる医療用接着剤とすることができたものである。
【0039】
また、本発明の医療用接着剤を用いて、生体吸収性多孔体を生体組織に接着させることもできる。上記生体吸収性多孔体を生体組織に接着させることにより、止血等を好適に行うことができる。
上記生体吸収性多孔体としては、生体吸収性成分からなる多孔構造を有するものを挙げることができる。
上記生体吸収性成分としては、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン等の天然成分;ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−ε−カプロラクトン等の合成生体内分解性高分子等を挙げることができる。
上記多孔構造を有するものとしては、不織布や多孔質フィルム、あるいはスポンジ状の基材が挙げられる。
上記生体吸収性多孔体としては、コラーゲンスポンジが好ましい。
このような本発明の医療用接着剤と上記生体吸収性多孔体とからなる止血材もまた、本発明の一つである。
【0040】
このように本発明の医療用接着剤は、接着性及び生体安全性に優れるものである。このため、本発明の医療用接着剤は、外科用接着剤、止血材、エアリーク阻止材、組織修復材、再生医療用足場等として好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の医療用接着剤は、上述の構成からなるものであるため、接着性及び生体安全性に優れたものである。このため、本発明の医療用接着剤は、外科手術において、生体組織等の結合や止血等に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の医療用接着剤を使用した外科用接着剤塗布システムの一例を示した概略図である。
【図2】図2は、45℃におけるゲル化時間に及ぼすグルタルアルデヒド濃度の影響を表すグラフである。
【図3】図3は、60℃におけるゲル化時間に及ぼすグルタルアルデヒド濃度の影響を表すグラフである。
【図4】図4は、ゲル化に及ぼすゼラチン水溶液のpHの影響を表すグラフである。
【図5】図5は、ゲルから抽出したグルタルアルデヒド量を表すグラフである。
【図6】図6は、ゼラチン濃度と接着強度との関係を表すグラフである。
【図7】図7は、実施例で用いた耐圧試験装置の模式図である。
【図8】図8は、人工硬膜針穴モデル耐圧試験結果を表すグラフである。
【図9】図9は、人工硬膜針縫合部モデル耐圧試験結果を表すグラフである。
【図10】図10は、ゼラチンゲルのin vivoにおける重量変化を表すグラフである。
【図11】図11は、ゼラチンゲルの粘度を表すグラフである。
【図12】図12は、ゼラチンゲルの含水率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」及び「部」は、それぞれ「質量%」及び「質量部」を意味するものとする。
【0044】
実施例1(ゲル化時間の最適化)
ゼラチン粉末(メディゼラチン、ニッピ社製)をリン酸緩衝液(PBS)(−)に添加して、10、20、30、40%の濃度のゼラチン水溶液を調製した(A液)。また、同様に、グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を蒸留水に添加して、0.25、0.5、0.75、1、2、4%の濃度のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を調製した(B液)。前記のゼラチン水溶液(A液)1.0mLとGA水溶液(B液)0.2mLとを、それぞれ45℃又は60℃で30分間保温し、両液を混合した。混合液に直径1.4cmのスターラー回転子を投入し、300rpmで回転を始めてから、溶液の粘度が高くなってスターラー回転子の回転が停止するまでの時間を、ゲル化時間として測定した。GA溶液濃度とゲル化時間の関係について、45℃のゲル化実験結果を図2に、60℃のゲル化実験結果を図3に示した。
【0045】
実施例2(ゼラチン水溶液のpHによる影響)
ゼラチン粉末(メディゼラチン、ニッピ社製)をリン酸緩衝液(PBS)(−)に添加して、20%の濃度のゼラチン水溶液を調製し、さらにpHを5、5.8、6.1、7.2、9.0に調整した(A液)。また、同様に、グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を蒸留水に添加して、0.5%の濃度のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を調製した(B液)。前記のゼラチン水溶液(A液)1.0mLとGA水溶液(B液)0.2mLとを、それぞれ40℃で30分間保温し、両液を混合した。混合液に直径1.4cmのスターラー回転子を投入し、300rpmで回転を初めてから、溶液の粘度が高くなってスターラー回転子の回転が停止するまでの時間を、ゲル化時間として測定した。ゼラチン水溶液のpHとゲル化時間との関係について、結果を図4に示した。
【0046】
実施例3(ゲルから抽出されるGA量、タンパク質量)
実施例2と同様に調製した、ゼラチン濃度が20又は30%のゼラチン水溶液1mLと、グルタルアルデヒド(GA)濃度が0.5又は1.0%のGA水溶液0.2mLとを40℃で保温した後、両液を混合してゼラチンゲルを調製した。
比較として、市販品のアルブミングルー(CryoLife International社製)同様の組成となるように、アルブミン(和光純薬社製)を蒸留水に添加して45%アルブミン水溶液を調製し、10%グルタルアルデヒド水溶液(和光純薬社製)を混合して、アルブミンゲルを調製した。
得られたこれらのゲルを、重量比が5倍のリン酸緩衝液中に、37℃で1分間浸漬し、リン酸緩衝液中に抽出されたGA量を測定し、その結果を図5に示した。
図5より、本発明の医療用接着剤により得られるゼラチンゲルから溶出するGA量は、従来のアルブミンゲルから抽出される量よりも非常に少ないことがわかる。
【0047】
実施例4(接着強度)
ゼラチン粉末(メディゼラチン、ニッピ社製)をリン酸緩衝液(PBS)(−)に添加して、10、20、30%の濃度のゼラチン水溶液を調製した(A液)。また、同様に、グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を蒸留水に添加して、0.25、0.5%の濃度のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を調製した(B液)。
鳥のむね肉を1×3cm2に切り、表面の水分をキムワイプで充分に抜き取ってから37℃に保温した。上記A液40μL及びB液10μLを45℃で混合し、これを肉片表面1×1cm2に塗り、他の肉片を、上記塗った1×1cm2の表面に合わせるように、上に乗せて指で軽く30秒間押した。その後、37℃で3分間保温した。保温後、片方の肉片にバネ秤を垂直に引っ張って、肉片が剥がれる強度を測定した。
図6に、ゼラチン濃度と接着強度との関係を示した。
【0048】
実施例5(ゲル接着強度)
ゼラチン粉末(メディゼラチン、ニッピ社製)をリン酸緩衝液(PBS)(−)に添加して、30%の濃度のゼラチン水溶液を調製した(A液)。また、同様に、グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を蒸留水に添加して、1%の濃度のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を調製した(B液)。
上記A液200μL及びB液27μLを45℃で混合し、37℃に保温した鶏肉の上に塗布した。
比較としては、医療用のフィブリン糊(商品名縁プラスト、CSLベーリング社製)を当該製品の用法に従って調整したものを用いた。
塗布した鶏肉を5分間室温で静置した後、ゲル内に封入した糸に強力測定器を取り付け、垂直にゆっくりと引張り上げ、ゲルが鶏肉から剥がれるときの数値を引張強度とした。
実施例の評価試験を4回行ったときの平均引張強度は165.6±40.3gf/cm2であった。上記と同じ方法で測定したフィブリン糊の平均引張強度は36.6±26.2gf/cm2であり、明らかに接着性は本願発明のゼラチン接着剤のほうがフィブリン糊より優れていた。
【0049】
実施例6
(止血効果)
麻酔下でラットの腹部を切開して胃を露出させ、前壁に0.5×0.5cm2の上皮剥離創を作製し、出血させた。その出血部をガーゼで30秒間押しても止血できないことを確認してから、上記実施例5と同様に調製した、20%ゼラチン水溶液0.5mLと、0.5%グルタルアルデヒド水溶液0.1mLとを混合し、得られたゼラチンゲル0.6mLを、完全にゲル化する前に、患部とその周囲に塗布した。その結果、ゼラチンゲルは患部に密着し、塗布後5分後においても止血効果の持続が認められた。
【0050】
実施例7
(空気漏れ防止効果)
犠牲死させたイヌの肺に空気を入れ、その圧を5atmに保ちながら18G針で穿刺後、空気漏れの発生したことを確認した。次に、上記実施例5と同様に調製した、20%ゼラチン水溶液0.5mLと0.5%グルタルアルデヒド水溶液0.1mLとを混合し、得られたゼラチンゲル0.6mLを、完全にゲル化する前に、孔の上とその周囲に塗布した。その3分後に圧を挙げたところ、空気漏れの起こった圧は19.0±5.5atmであった。
【0051】
実施例8(癒着防止)
上記実施例5と同様に調製した、20%ゼラチン水溶液1.0mLと、0.25、0.5又は1%のグルタルアルデヒド水溶液0.1mLとを混合し、37℃下でゼラチン接着剤を調製した。
上記ゼラチン接着剤のみ使用、上記ゼラチン接着剤とゼラチンシートの併用、又は、何も貼らない場合についての癒着防止効果を下記の方法により評価した。
まず、麻酔下でラットの腹部を切開して、盲腸前壁と腹膜に癒着を起こすように15mm径の漿膜をゆるく傷つけた。この傷部位に、およそ1mLの上記ゼラチン接着剤を40℃にて塗布、又は、ゼラチンシート(多孔体)を貼った後に上記ゼラチン接着剤を塗布して、3分間放置した。ゼラチン接着剤を塗布しない場合は、傷口を併せるように盲腸と腹膜を1針ナイロン糸で縫った後、腹部を縫合した。これらを各2匹ずつ行った。
1週間後に開腹して癒着の有無を観察した結果、ゼラチン接着剤を塗布、又は、ゼラチン接着剤とゼラチンシートを併用した部分には癒着が認められなかったが、ゼラチン接着剤を用いずに組織面を傷つけたままに放置した場合には、すべて強い癒着が生じた。ここでいう癒着防止の評価においては、処理面積の50%以上の癒着の場合を強い癒着とした。この場合、50%以上の鋭的剥離を必要とした。
【0052】
実施例9(ゼラチン接着剤のフィルム化)
ゼラチン接着剤のフィルム化を下記の方法により評価した。まず、トリのムネ肉に、図1に示すようなアプリケーターを用いて、0.2mlのゼラチン接着剤を塗布し、すばやく薄く延ばした。この時の設定温度は55℃で、30%ゼラチン水溶液と1%GA水溶液とを使用した。上記ゼラチン水溶液及び上記GA水溶液は、実施例5と同様にして調製した。5分間放置後、薄いフィルムができており、端から引張っても剥がれることはなかった。
比較として、同様にムネ肉にフィブリン糊(商品名縁プラスト、CSLベーリング社製)をスプレーノズルを用いて塗布したが、薄いフィルムはできず、ピンセットで引張ると簡単に剥がれた。
【0053】
実施例10(耐圧試験)
人工硬膜(グンゼ社製)に23Gの針で穴を1つあけ、図7に示す耐圧試験装置にセットし、温度を37℃に調整した。人工硬膜の穴のあいた表面部分に50℃の5%ゼラチン水溶液60μLを塗布し、その上からさらに50℃の35%ゼラチン水溶液100μLと1%グルタルアルデヒド水溶液20μLを同時に塗布して攪拌した。5分間静置した後、10mmHgから圧力を5mmHgずつ上げていき、水が漏れ出した時の圧力を測定した。また、同様に、人工硬膜の穴のあいた表面部分に50℃の10%ゼラチン水溶液を60μL塗布し、その上からさらに50℃の35%ゼラチン水溶液100μLと1%グルタルアルデヒド水溶液20μLを同時に塗布して攪拌した場合における、上記圧力を測定した。
比較として、あらかじめ人工硬膜の穴のあいた表面部分にゼラチン水溶液を塗布することなく、35%ゼラチン水溶液150μLと1%グルタルアルデヒド水溶液30μL同時に塗布して攪拌した場合の上記圧力を測定した。
なお、上記ゼラチン水溶液及びグルタルアルデヒド水溶液は、実施例5と同様にして調製した。
これらの結果を図8に示した。あらかじめゼラチン水溶液を塗布しておいた方が、耐圧性に優れていた。
【0054】
実施例11(吻合部の耐圧試験)
人工硬膜(グンゼ社製)とイヌ硬膜を連続縫いで縫合し、縫合部モデルを作製した。図8に示した耐圧試験装置に縫合部モデルをセットし温度を37℃にした。
50℃の35%ゼラチン水溶液100μLを縫合部に先に塗布してから、1%グルタルアルデヒド水溶液20μLを塗布して攪拌した。5分間放置後、10mmHgから圧力を5mmHgずつ上げていき、水が漏れ出すまでどの程度の圧力に耐えられるか測定をおこなった。
また、50℃の1%グルタルアルデヒド水溶液20μLを縫合部に先に塗布してから、35%ゼラチン水溶液100μLを塗布して攪拌した場合の上記圧力も同様に測定した。
なお、上記ゼラチン水溶液及びグルタルアルデヒド水溶液は、実施例5と同様にして調製した。
これらの結果を図9に示した。グルタルアルデヒド水溶液を縫合部に先に塗った時の方が、耐圧性に優れているという結果になった。
【0055】
実施例12
(細胞毒性)
ゼラチン(ニッピ社製、メディゼラチン)をリン酸緩衝液(PBS)(−)に添加して、20%ゼラチン水溶液を調製し(A液)、グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を蒸留水に添加して、0.5%グルタルアルデヒド(GA)水溶液を調製し(B液)、二液型ゼラチン糊セットを作製した。37℃に保ちながら1mLのA液と、0.2mLのB液とを混合して攪拌したところ、約30秒間でゲル化した。次に、ゲル化から2分後に、得られたゲルを5mLの培養液(DMEM+10%FBS)に入れ、37℃に保温した。その1分後に抽出培養液を回収し、12wellプレートに培養しておいたヒト線維芽細胞の上に、1mL/wellだけ入れ、37℃で24時間培養した。その後、MTTアッセイにて細胞生存率を求めた。コントロール(培養ディッシュ)を100%とした時の抽出液のMTT量は95.7±2.8%であり、細胞毒性は微少であった。
【0056】
(混合操作性とゲル強度)
0.2%グルタルアルデヒド水溶液に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業製)を濃度5%となるように加えて粘度600mPa・sの溶液とし、35%のゼラチン水溶液と1:1で混合した。比較として、0.2%グルタルアルデヒド水溶液にカルボキシメチルセルロースナトリウムを加えずに、35%のゼラチン水溶液と1:1で混合したものを用いた。上記グルタルアルデヒド水溶液及びゼラチン水溶液は、実施例12と同様にして調製した。
0.5%増粘剤含有のほうが35%のゼラチン水溶液の粘度に近く、操作性が良かった。形成したゲルを37℃の水に浸してゲルの硬さをピンセットでつまみ観察してみた。増粘剤が入っていた方が、ゲルがしっかりしていた。
【0057】
(in vivoにおける分解性)
図1に示すアプリケーターを用い、45℃の温度で、30%ゼラチン水溶液と1%GA水溶液とを混合してプラスチックトレー上に押し出し、ゲル化させた。上記グルタルアルデヒド水溶液及びゼラチン水溶液は、実施例12と同様にして調製した。5分後にゲルを0.5×1cm2の大きさに切り、重量を測定した。ラットの背を切開し、ポケットを作製してゲルを埋め込んだ。1、3、5、7日後にゲルを取り出して冷水で洗浄し、乾燥後、重量を測定してゲル残存率を計算した。実験結果を図10に示した。
【0058】
(ゼラチンゲル粘度)
5、10、20、30、40%ゼラチン水溶液3mLを試料瓶に入れウォーターバスで37又は60℃に温めた。振動式粘度計を用いてゼラチン水溶液の粘度を測定した。上記ゼラチン水溶液は、実施例12と同様にして調製した。実験結果を図11に示した。
【0059】
(ゲルの含水率)
図1に示すアプリケーターを用い、45℃にて20、10%ゼラチン水溶液と1%GA水溶液からなるゲルを2.4mL、24wellプレートに流し込んだ。上記ゼラチン水溶液及びグルタルアルデヒド水溶液は、実施例12と同様にして調製した。
流し込んだゲルに、直径1.4cmのスターラー回転子を投入し、300rpmで回転させ、スターラー回転子の回転が停止してから10分後に37℃のリン酸緩衝生理食塩水に24時間浸した。浸潤重量を測定してから、90℃のチャンバーで乾燥させ、乾燥重量を測定した。下記式(1)により含水率を求めた。
含水率(%)=[(Ws−Wd)/Ws]×100(%) (1)
式(1)中、Wsは湿潤重量を表し、Wdは乾燥重量を表す。実験結果を図12に示した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の医療用接着剤は、外科手術において、生体組織等の結合や止血等に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ゼラチン水溶液A充填部
2 グルタルアルデヒド水溶液B充填部
3 加温器
4 先端ノズル
5 温度制御器
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用接着剤及び医療用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術時に、生体患部の止血や、生体組織又は臓器を接合する手段として、医療用接着剤が広く用いられている。
このような医療用接着剤は、対象とする生体組織面にはよく接着するが、その塗布面に生成した固化接着剤面は相対するいかなる組織とも接着しない、すなわち、二つの物体を結合するのではなく、一つの対象組織面の被覆材として使用される。一般的には、損傷した組織面が修復するまでそれを被覆する保護材、閉鎖材、止血材、癒着防止材等として使用されるのである。
【0003】
このような医療用接着剤は、生体組織や生体代替組織に素早く接着し、かつ、接着力が優れることが必要とされる。同時に、局所に刺激を与えず、また、生体に害を与えないことが重要である。
【0004】
上記医療用接着剤の成分として、従来より、フィブリン糊、シアノアクリレートやゼラチン−ホルムアルデヒド等が知られている。いずれも外科手術に大いに貢献しているのは事実であるが、それぞれ問題を抱えている。例えば、フィブリン糊では、原料の一つがヒトの血液から得られるフィブリノーゲンであり、これがウイルスによって汚染されているおそれがあるという問題があった。また、接着剤の引っ張り強度や、生体組織への接着強度が不充分であるといった問題があった。
【0005】
特許文献1には、コラーゲン蛋白部分加水分解物質、水及び多価フェノールとからなる接着成分と、ホルムアルデヒド及びグルタルアルデヒドを含有する水溶液からなる硬化成分とよりなる生体組織接着用組成物が開示されている。
しかしながら、上記生体組織接着用組成物では、原料に発癌性物質であるホルムアルデヒドが使用されており、生体への安全面では未だ充分ではない。
【0006】
特許文献2には、血漿タンパク質及び二又は多官能アルデヒドの混合液を含んでなる接着剤組成物が開示されている。
しかしながら、使用される血漿タンパク質は、ヒトの血清アルブミンとグルタルアルデヒド(GA)であり、ヒト血清由来の、又は、ゲル化アルブミンより溶出するグルタルアルデヒドが高い濃度で残存するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−70972号公報
【特許文献2】国際公開第94/01508号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、接着性及び生体安全性に優れた医療用接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとから構成される組織接着性を有する医療用接着剤であって、上記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチン濃度が5〜40質量%であって、かつ粘度が1〜2000mPa・sであり、上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒド濃度が0.01〜10質量%であることを特徴とする医療用接着剤である。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の濃度のゼラチン水溶液及びグルタルアルデヒド水溶液とを使用することにより、優れた接着性及び生体安全性を有する医療用接着剤とすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとから構成される医療用接着剤である。
上記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチンを水又はpH5〜8の緩衝液である溶媒に溶解又は分散させたものである。
上記ゼラチンは、水に不溶性のコラーゲンを酸又はアルカリで前処理してから、熱加水分解して可溶化したものである。本発明においては、いずれのゼラチンを使用してもよく、求められる効果には差はない。ただし、塩基性細胞成長因子等を複合化する場合にはアルカリ処理したゼラチンを選択することが好ましい。
【0012】
上記ゼラチンは、重量平均分子量が5,000〜30万であることが好ましい。上記重量平均分子量が5,000未満であると、ゼラチンが固まらないおそれがある。30万を超えると、ゼラチン水溶液の粘度が高くなりすぎて接着剤として塗布することが困難になるおそれがある。上記重量平均分子量は、5万〜20万であることがより好ましい。
なお、上記重量平均分子量は、GPCの方法にて得られる値である。
【0013】
上記ゼラチンは、市販品を用いてもよく、例えば、メディゼラチン(ニッピ社製)等を使用することができる。
【0014】
上記ゼラチン水溶液Aの溶媒である上記pH5〜8の緩衝液としては、リン酸緩衝液(PBS)、トリス塩酸緩衝液(Tris−Cl)等を挙げることができる。
【0015】
上記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチン濃度が5〜40質量%である。
上記ゼラチン濃度が5質量%未満であると、流動性が高く、目的部位に塗布した時に流れてしまい、接着剤としての役割を果たせなくなる。40質量%を超えると、粘度が高くなり過ぎるために、目的部位に塗布して塗り拡げることが不可能になってしまう。
上記ゼラチン濃度は、10〜30質量%であることが好ましい。
【0016】
上記ゼラチン水溶液Aは、細胞成長因子を更に含有していてもよい。
細胞成長因子を含有することにより、接着剤として塗布した臓器表面の創傷治癒を促進させることができる。
上記細胞成長因子としては、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などを挙げることができる。
【0017】
上記ゼラチン水溶液Aは、粘度が1〜2000mPa・sである。
粘度が2000mPa・sを超えると、ゼラチン水溶液Aを目的部位に塗布して塗り拡げるげることができない。
【0018】
上記ゼラチン水溶液Aは、pHが5〜9であることが好ましい。
pHが5未満であると、ゼラチンのゲル化時間が長くなってしまい、接着剤としての機能を果たせないおそれがある。pHが9を超えると、アルカリ性となり塗布した部位の組織に炎症を惹起させてしまうおそれがある。
上記ゼラチン水溶液Aは、pHが6〜8であることがより好ましい。なお、pHの調整は、リン酸緩衝液(PBS)、トリス塩酸緩衝液(Tris−Cl)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)等を使用して行うとよい。
【0019】
上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒドを蒸留水に溶解させたものである。
【0020】
上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒド濃度が0.01〜10質量%である。グルタルアルデヒド濃度が0.01質量%未満であると、ゼラチンの架橋反応が進まず、接着剤としての機能を発揮できなくなる。10質量%を超えると、ゲル化速度が高まりすぎ、手術時の混合操作などに支障を及ぼす。
上記グルタルアルデヒド濃度は、0.1〜1質量%であることが好ましい。
【0021】
上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、更に、増粘剤を含有することが好ましい。
増粘剤を含有することにより、ゼラチン水溶液Aと混合する際にグルタルアルデヒド水溶液Bが流延することなく混合させることができる。
上記増粘剤としては、水溶液の粘度を高める物質であれば特に限定されるものではないが、多糖類であることが好ましい。上記多糖類としては、アルギン酸、ヒアルロン酸、カルボシキメチルセルロース、アミロース、アミロペクチン等が例示できる。
【0022】
上記グルタルアルデヒド水溶液B中の増粘剤の濃度は、0.5〜10質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、十分な粘性が得られずにグルタルアルデヒド水溶液Bが流延してしまうおそれがある。10質量%を超えると、粘性が高くなり過ぎてゼラチン水溶液Aと十分に混合できないおそれがある。
上記増粘剤の濃度は、2〜5質量%であることがより好ましい。
上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、粘度が1〜2000mPa・sであることが好ましい。
【0023】
上記グルタルアルデヒド水溶液BのpHは特に限定されるものではないが、pHが高くなるとグルタルアルデヒドが縮合反応してしまい、架橋剤として使えなくなってしまう。上記グルタルアルデヒド水溶液Bは、pHが3〜5であることがより好ましい。
【0024】
本発明の医療用接着剤では、上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合することにより、ゲルが生成される。このゲルにより、生体組織や臓器が接着又は接合される。
【0025】
上記グルタルアルデヒド水溶液Bと上記ゼラチン水溶液Aとの混合比(B/A)は、質量比で0.01〜2であることが好ましい。上記グルタルアルデヒド水溶液Bの量が上記範囲より少ないと十分な接着強度が得られないおそれがあり、多いと接着剤全体が硬くなり脆くなるおそれがある。
上記混合比は、0.05〜1であることがより好ましい。
【0026】
上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合する場合の温度は、30〜65℃であることが好ましい。30℃未満であるとゼラチン水溶液Aが固まってしまうおそれがある。65℃を超えるとゼラチンが変性してしまうおそれがある。上記温度は、35〜60℃であることがより好ましい。
【0027】
上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合してからゲルが生成するまでのゲル化時間は、45℃下で5〜100秒であることが好ましい。
上記ゲル化時間が5秒未満であると、操作中に接着剤が固まってしまい組織に接着しなくなるおそれがある。100秒を超えると接着剤を塗布した部位から流延してしまうおそれがある。
上記ゲル化時間は、10〜60秒であることがより好ましい。
【0028】
本発明の医療用接着剤の使用方法については、上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合してから、生体組織又は臓器の接合部又は止血部に塗布してもよいし、上記ゼラチン水溶液Aを上記接合部又は止血部に塗布した後に、上記グルタルアルデヒド水溶液Bをその上に塗布してもよい。
適用部位への接着剤の塗布が短時間にかつ簡便にできる点で、あらかじめゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合してから、生体組織又は臓器の接合部又は止血部に塗布する方が好ましい。
【0029】
上記塗布量としては、例えば、0.4〜4,000mg/cm2であることが好ましい。0.4mg/cm2未満であると、ゲルを十分に伸ばせなくなるおそれがある。4,000mg/cm2を超えると、ゲルが壊れてしまうおそれがある。上記塗布量は4〜400mg/cm2であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明の医療用接着剤の混合方法としては、例えば、ゼラチン水溶液とグルタルアルデヒド水溶液をそれぞれ別のシリンジに充填し、シリンジの先端部に二股ノズルを取り付ける。そして、両方のシリンジを同時に押すことによって、ノズル先端部で2液を混合させるという方法を挙げることができる。
本発明の医療用接着剤は、このように上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとの二液型混合接着剤であることが好ましい。
【0031】
本発明の医療用接着剤を適用する場合に、具体的には、以下のような塗布システムを用いてもよい。
図1は、本発明の医療用接着剤を使用した外科用接着剤塗布システムの一例を示した概略図である。
図1に示すように、上記外科用接着剤塗布システムは、ゼラチン水溶液A充填部1、グルタルアルデヒド水溶液B充填部2、充填部1及び2を加温するための加温器3、並びに、先端ノズル4を備える。先端ノズル4は、ゼラチン水溶液A及びグルタルアルデヒド水溶液Bを混合して医療用接着剤を塗布するためのものである。
具体的には、例えば、ゼラチン水溶液A充填部1及びグルタルアルデヒド水溶液B充填部2はシリンジ状になっており、先端ノズル4は二股ノズルとなっており、両方のシリンジを同時に押すことによって、先端ノズル4の先端で2液が混合される。
また、上記外科用接着剤塗布システムは、加温器3の温度を制御するための温度制御器5を更に備えていてもよい。
上記充填部、加温器、先端ノズル4、温度制御器は、公知のものを適宜適用するとよい。
上記外科用接着剤塗布システムにおいては、上記ゼラチン水溶液A及びグルタルアルデヒド水溶液Bを上述した好適な温度下で混合し、得られた混合物を、所望の箇所へ、短時間で、すなわち、ゲル化反応が終了するまでの間に供することができる。
このような、外科用接着剤塗布システムもまた、本発明の一つである。
【0032】
本発明では、このように上記ゼラチン水溶液Aと上記グルタルアルデヒド水溶液Bとを混合することにより、ゲル化が起こり、ゲル状の医療用材料が得られる。このようなゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとを混合して生成されるゲルを主体とする医療用材料もまた本発明の一つである。
【0033】
上記ゲルを主体とする医療用材料は、接着強度が20gf/cm2以上であることが好ましい。上記接着強度が20gf/cm2未満であると、組織を接着するという目的を達成できないだけでなく、生体組織の動きによる伸縮や動きに耐えられないおそれがある。上記接着強度は、50gf/cm2以上であることがより好ましい。
上記接着強度は、バネ秤を用いた方法により測定して得られた値である。
【0034】
また、上記ゲルを主体とする医療用材料は、その材料自体の引張強度が20gf/cm2以上であることが好ましい。上記引張強度が20gf/cm2未満であると、組織活動による伸縮や動きに耐えられないおそれがある。上記引張強度は、50gf/cm2以上であることがより好ましい。
上記引張強度は、バネ秤を用いた方法により測定して得られた値である。
【0035】
上記ゲルを主体とする医療用材料は、重量比が5倍のリン酸緩衝液中に、37℃で1分間浸漬することにより抽出されたグルタルアルデヒド濃度が0〜50μg/mlであることが好ましい。上記範囲外であると、アルデヒド基が周囲の組織に毒性を示すおそれがある。
【0036】
上記ゲルを主体とする医療用材料は、生体内において、埋入1日後の重量残存率が30%以上であって、かつ埋入5日後の重量残存率が30%以下であることが好ましい。
上記ゲルを主体とする医療用材料は、また、含水率が80%〜95%であることが好ましい。
【0037】
上記ゲルを主体とする医療用材料は、ゲル生成反応中は生体組織と接着し、ゲル生成後は他の生体組織と接着しないことが好ましい。このため、上記医療用材料は、接着すべき生体組織に対する所望の接着性を有し、かつ、ゲル生成後は、周辺組織等の他の生体組織と接着しないため、癒着が起こらず、生体安全性にも優れるものである。
【0038】
このように本発明の医療用接着剤は、ゼラチンの分子量、ゼラチン水溶液の濃度、グルタルアルデヒドの濃度、水溶液のpH、反応温度等について最適条件を設定することにより、ゼラチン水溶液とグルタルアルデヒド水溶液とからなる医療用接着剤において、上記グルタルアルデヒドの含有量を従来より低減させても、優れた接着性及び生体安全性を有するゲル状の医療用材料を得ることができる医療用接着剤とすることができたものである。
【0039】
また、本発明の医療用接着剤を用いて、生体吸収性多孔体を生体組織に接着させることもできる。上記生体吸収性多孔体を生体組織に接着させることにより、止血等を好適に行うことができる。
上記生体吸収性多孔体としては、生体吸収性成分からなる多孔構造を有するものを挙げることができる。
上記生体吸収性成分としては、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン等の天然成分;ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−ε−カプロラクトン等の合成生体内分解性高分子等を挙げることができる。
上記多孔構造を有するものとしては、不織布や多孔質フィルム、あるいはスポンジ状の基材が挙げられる。
上記生体吸収性多孔体としては、コラーゲンスポンジが好ましい。
このような本発明の医療用接着剤と上記生体吸収性多孔体とからなる止血材もまた、本発明の一つである。
【0040】
このように本発明の医療用接着剤は、接着性及び生体安全性に優れるものである。このため、本発明の医療用接着剤は、外科用接着剤、止血材、エアリーク阻止材、組織修復材、再生医療用足場等として好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の医療用接着剤は、上述の構成からなるものであるため、接着性及び生体安全性に優れたものである。このため、本発明の医療用接着剤は、外科手術において、生体組織等の結合や止血等に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の医療用接着剤を使用した外科用接着剤塗布システムの一例を示した概略図である。
【図2】図2は、45℃におけるゲル化時間に及ぼすグルタルアルデヒド濃度の影響を表すグラフである。
【図3】図3は、60℃におけるゲル化時間に及ぼすグルタルアルデヒド濃度の影響を表すグラフである。
【図4】図4は、ゲル化に及ぼすゼラチン水溶液のpHの影響を表すグラフである。
【図5】図5は、ゲルから抽出したグルタルアルデヒド量を表すグラフである。
【図6】図6は、ゼラチン濃度と接着強度との関係を表すグラフである。
【図7】図7は、実施例で用いた耐圧試験装置の模式図である。
【図8】図8は、人工硬膜針穴モデル耐圧試験結果を表すグラフである。
【図9】図9は、人工硬膜針縫合部モデル耐圧試験結果を表すグラフである。
【図10】図10は、ゼラチンゲルのin vivoにおける重量変化を表すグラフである。
【図11】図11は、ゼラチンゲルの粘度を表すグラフである。
【図12】図12は、ゼラチンゲルの含水率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」及び「部」は、それぞれ「質量%」及び「質量部」を意味するものとする。
【0044】
実施例1(ゲル化時間の最適化)
ゼラチン粉末(メディゼラチン、ニッピ社製)をリン酸緩衝液(PBS)(−)に添加して、10、20、30、40%の濃度のゼラチン水溶液を調製した(A液)。また、同様に、グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を蒸留水に添加して、0.25、0.5、0.75、1、2、4%の濃度のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を調製した(B液)。前記のゼラチン水溶液(A液)1.0mLとGA水溶液(B液)0.2mLとを、それぞれ45℃又は60℃で30分間保温し、両液を混合した。混合液に直径1.4cmのスターラー回転子を投入し、300rpmで回転を始めてから、溶液の粘度が高くなってスターラー回転子の回転が停止するまでの時間を、ゲル化時間として測定した。GA溶液濃度とゲル化時間の関係について、45℃のゲル化実験結果を図2に、60℃のゲル化実験結果を図3に示した。
【0045】
実施例2(ゼラチン水溶液のpHによる影響)
ゼラチン粉末(メディゼラチン、ニッピ社製)をリン酸緩衝液(PBS)(−)に添加して、20%の濃度のゼラチン水溶液を調製し、さらにpHを5、5.8、6.1、7.2、9.0に調整した(A液)。また、同様に、グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を蒸留水に添加して、0.5%の濃度のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を調製した(B液)。前記のゼラチン水溶液(A液)1.0mLとGA水溶液(B液)0.2mLとを、それぞれ40℃で30分間保温し、両液を混合した。混合液に直径1.4cmのスターラー回転子を投入し、300rpmで回転を初めてから、溶液の粘度が高くなってスターラー回転子の回転が停止するまでの時間を、ゲル化時間として測定した。ゼラチン水溶液のpHとゲル化時間との関係について、結果を図4に示した。
【0046】
実施例3(ゲルから抽出されるGA量、タンパク質量)
実施例2と同様に調製した、ゼラチン濃度が20又は30%のゼラチン水溶液1mLと、グルタルアルデヒド(GA)濃度が0.5又は1.0%のGA水溶液0.2mLとを40℃で保温した後、両液を混合してゼラチンゲルを調製した。
比較として、市販品のアルブミングルー(CryoLife International社製)同様の組成となるように、アルブミン(和光純薬社製)を蒸留水に添加して45%アルブミン水溶液を調製し、10%グルタルアルデヒド水溶液(和光純薬社製)を混合して、アルブミンゲルを調製した。
得られたこれらのゲルを、重量比が5倍のリン酸緩衝液中に、37℃で1分間浸漬し、リン酸緩衝液中に抽出されたGA量を測定し、その結果を図5に示した。
図5より、本発明の医療用接着剤により得られるゼラチンゲルから溶出するGA量は、従来のアルブミンゲルから抽出される量よりも非常に少ないことがわかる。
【0047】
実施例4(接着強度)
ゼラチン粉末(メディゼラチン、ニッピ社製)をリン酸緩衝液(PBS)(−)に添加して、10、20、30%の濃度のゼラチン水溶液を調製した(A液)。また、同様に、グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を蒸留水に添加して、0.25、0.5%の濃度のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を調製した(B液)。
鳥のむね肉を1×3cm2に切り、表面の水分をキムワイプで充分に抜き取ってから37℃に保温した。上記A液40μL及びB液10μLを45℃で混合し、これを肉片表面1×1cm2に塗り、他の肉片を、上記塗った1×1cm2の表面に合わせるように、上に乗せて指で軽く30秒間押した。その後、37℃で3分間保温した。保温後、片方の肉片にバネ秤を垂直に引っ張って、肉片が剥がれる強度を測定した。
図6に、ゼラチン濃度と接着強度との関係を示した。
【0048】
実施例5(ゲル接着強度)
ゼラチン粉末(メディゼラチン、ニッピ社製)をリン酸緩衝液(PBS)(−)に添加して、30%の濃度のゼラチン水溶液を調製した(A液)。また、同様に、グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を蒸留水に添加して、1%の濃度のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を調製した(B液)。
上記A液200μL及びB液27μLを45℃で混合し、37℃に保温した鶏肉の上に塗布した。
比較としては、医療用のフィブリン糊(商品名縁プラスト、CSLベーリング社製)を当該製品の用法に従って調整したものを用いた。
塗布した鶏肉を5分間室温で静置した後、ゲル内に封入した糸に強力測定器を取り付け、垂直にゆっくりと引張り上げ、ゲルが鶏肉から剥がれるときの数値を引張強度とした。
実施例の評価試験を4回行ったときの平均引張強度は165.6±40.3gf/cm2であった。上記と同じ方法で測定したフィブリン糊の平均引張強度は36.6±26.2gf/cm2であり、明らかに接着性は本願発明のゼラチン接着剤のほうがフィブリン糊より優れていた。
【0049】
実施例6
(止血効果)
麻酔下でラットの腹部を切開して胃を露出させ、前壁に0.5×0.5cm2の上皮剥離創を作製し、出血させた。その出血部をガーゼで30秒間押しても止血できないことを確認してから、上記実施例5と同様に調製した、20%ゼラチン水溶液0.5mLと、0.5%グルタルアルデヒド水溶液0.1mLとを混合し、得られたゼラチンゲル0.6mLを、完全にゲル化する前に、患部とその周囲に塗布した。その結果、ゼラチンゲルは患部に密着し、塗布後5分後においても止血効果の持続が認められた。
【0050】
実施例7
(空気漏れ防止効果)
犠牲死させたイヌの肺に空気を入れ、その圧を5atmに保ちながら18G針で穿刺後、空気漏れの発生したことを確認した。次に、上記実施例5と同様に調製した、20%ゼラチン水溶液0.5mLと0.5%グルタルアルデヒド水溶液0.1mLとを混合し、得られたゼラチンゲル0.6mLを、完全にゲル化する前に、孔の上とその周囲に塗布した。その3分後に圧を挙げたところ、空気漏れの起こった圧は19.0±5.5atmであった。
【0051】
実施例8(癒着防止)
上記実施例5と同様に調製した、20%ゼラチン水溶液1.0mLと、0.25、0.5又は1%のグルタルアルデヒド水溶液0.1mLとを混合し、37℃下でゼラチン接着剤を調製した。
上記ゼラチン接着剤のみ使用、上記ゼラチン接着剤とゼラチンシートの併用、又は、何も貼らない場合についての癒着防止効果を下記の方法により評価した。
まず、麻酔下でラットの腹部を切開して、盲腸前壁と腹膜に癒着を起こすように15mm径の漿膜をゆるく傷つけた。この傷部位に、およそ1mLの上記ゼラチン接着剤を40℃にて塗布、又は、ゼラチンシート(多孔体)を貼った後に上記ゼラチン接着剤を塗布して、3分間放置した。ゼラチン接着剤を塗布しない場合は、傷口を併せるように盲腸と腹膜を1針ナイロン糸で縫った後、腹部を縫合した。これらを各2匹ずつ行った。
1週間後に開腹して癒着の有無を観察した結果、ゼラチン接着剤を塗布、又は、ゼラチン接着剤とゼラチンシートを併用した部分には癒着が認められなかったが、ゼラチン接着剤を用いずに組織面を傷つけたままに放置した場合には、すべて強い癒着が生じた。ここでいう癒着防止の評価においては、処理面積の50%以上の癒着の場合を強い癒着とした。この場合、50%以上の鋭的剥離を必要とした。
【0052】
実施例9(ゼラチン接着剤のフィルム化)
ゼラチン接着剤のフィルム化を下記の方法により評価した。まず、トリのムネ肉に、図1に示すようなアプリケーターを用いて、0.2mlのゼラチン接着剤を塗布し、すばやく薄く延ばした。この時の設定温度は55℃で、30%ゼラチン水溶液と1%GA水溶液とを使用した。上記ゼラチン水溶液及び上記GA水溶液は、実施例5と同様にして調製した。5分間放置後、薄いフィルムができており、端から引張っても剥がれることはなかった。
比較として、同様にムネ肉にフィブリン糊(商品名縁プラスト、CSLベーリング社製)をスプレーノズルを用いて塗布したが、薄いフィルムはできず、ピンセットで引張ると簡単に剥がれた。
【0053】
実施例10(耐圧試験)
人工硬膜(グンゼ社製)に23Gの針で穴を1つあけ、図7に示す耐圧試験装置にセットし、温度を37℃に調整した。人工硬膜の穴のあいた表面部分に50℃の5%ゼラチン水溶液60μLを塗布し、その上からさらに50℃の35%ゼラチン水溶液100μLと1%グルタルアルデヒド水溶液20μLを同時に塗布して攪拌した。5分間静置した後、10mmHgから圧力を5mmHgずつ上げていき、水が漏れ出した時の圧力を測定した。また、同様に、人工硬膜の穴のあいた表面部分に50℃の10%ゼラチン水溶液を60μL塗布し、その上からさらに50℃の35%ゼラチン水溶液100μLと1%グルタルアルデヒド水溶液20μLを同時に塗布して攪拌した場合における、上記圧力を測定した。
比較として、あらかじめ人工硬膜の穴のあいた表面部分にゼラチン水溶液を塗布することなく、35%ゼラチン水溶液150μLと1%グルタルアルデヒド水溶液30μL同時に塗布して攪拌した場合の上記圧力を測定した。
なお、上記ゼラチン水溶液及びグルタルアルデヒド水溶液は、実施例5と同様にして調製した。
これらの結果を図8に示した。あらかじめゼラチン水溶液を塗布しておいた方が、耐圧性に優れていた。
【0054】
実施例11(吻合部の耐圧試験)
人工硬膜(グンゼ社製)とイヌ硬膜を連続縫いで縫合し、縫合部モデルを作製した。図8に示した耐圧試験装置に縫合部モデルをセットし温度を37℃にした。
50℃の35%ゼラチン水溶液100μLを縫合部に先に塗布してから、1%グルタルアルデヒド水溶液20μLを塗布して攪拌した。5分間放置後、10mmHgから圧力を5mmHgずつ上げていき、水が漏れ出すまでどの程度の圧力に耐えられるか測定をおこなった。
また、50℃の1%グルタルアルデヒド水溶液20μLを縫合部に先に塗布してから、35%ゼラチン水溶液100μLを塗布して攪拌した場合の上記圧力も同様に測定した。
なお、上記ゼラチン水溶液及びグルタルアルデヒド水溶液は、実施例5と同様にして調製した。
これらの結果を図9に示した。グルタルアルデヒド水溶液を縫合部に先に塗った時の方が、耐圧性に優れているという結果になった。
【0055】
実施例12
(細胞毒性)
ゼラチン(ニッピ社製、メディゼラチン)をリン酸緩衝液(PBS)(−)に添加して、20%ゼラチン水溶液を調製し(A液)、グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を蒸留水に添加して、0.5%グルタルアルデヒド(GA)水溶液を調製し(B液)、二液型ゼラチン糊セットを作製した。37℃に保ちながら1mLのA液と、0.2mLのB液とを混合して攪拌したところ、約30秒間でゲル化した。次に、ゲル化から2分後に、得られたゲルを5mLの培養液(DMEM+10%FBS)に入れ、37℃に保温した。その1分後に抽出培養液を回収し、12wellプレートに培養しておいたヒト線維芽細胞の上に、1mL/wellだけ入れ、37℃で24時間培養した。その後、MTTアッセイにて細胞生存率を求めた。コントロール(培養ディッシュ)を100%とした時の抽出液のMTT量は95.7±2.8%であり、細胞毒性は微少であった。
【0056】
(混合操作性とゲル強度)
0.2%グルタルアルデヒド水溶液に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業製)を濃度5%となるように加えて粘度600mPa・sの溶液とし、35%のゼラチン水溶液と1:1で混合した。比較として、0.2%グルタルアルデヒド水溶液にカルボキシメチルセルロースナトリウムを加えずに、35%のゼラチン水溶液と1:1で混合したものを用いた。上記グルタルアルデヒド水溶液及びゼラチン水溶液は、実施例12と同様にして調製した。
0.5%増粘剤含有のほうが35%のゼラチン水溶液の粘度に近く、操作性が良かった。形成したゲルを37℃の水に浸してゲルの硬さをピンセットでつまみ観察してみた。増粘剤が入っていた方が、ゲルがしっかりしていた。
【0057】
(in vivoにおける分解性)
図1に示すアプリケーターを用い、45℃の温度で、30%ゼラチン水溶液と1%GA水溶液とを混合してプラスチックトレー上に押し出し、ゲル化させた。上記グルタルアルデヒド水溶液及びゼラチン水溶液は、実施例12と同様にして調製した。5分後にゲルを0.5×1cm2の大きさに切り、重量を測定した。ラットの背を切開し、ポケットを作製してゲルを埋め込んだ。1、3、5、7日後にゲルを取り出して冷水で洗浄し、乾燥後、重量を測定してゲル残存率を計算した。実験結果を図10に示した。
【0058】
(ゼラチンゲル粘度)
5、10、20、30、40%ゼラチン水溶液3mLを試料瓶に入れウォーターバスで37又は60℃に温めた。振動式粘度計を用いてゼラチン水溶液の粘度を測定した。上記ゼラチン水溶液は、実施例12と同様にして調製した。実験結果を図11に示した。
【0059】
(ゲルの含水率)
図1に示すアプリケーターを用い、45℃にて20、10%ゼラチン水溶液と1%GA水溶液からなるゲルを2.4mL、24wellプレートに流し込んだ。上記ゼラチン水溶液及びグルタルアルデヒド水溶液は、実施例12と同様にして調製した。
流し込んだゲルに、直径1.4cmのスターラー回転子を投入し、300rpmで回転させ、スターラー回転子の回転が停止してから10分後に37℃のリン酸緩衝生理食塩水に24時間浸した。浸潤重量を測定してから、90℃のチャンバーで乾燥させ、乾燥重量を測定した。下記式(1)により含水率を求めた。
含水率(%)=[(Ws−Wd)/Ws]×100(%) (1)
式(1)中、Wsは湿潤重量を表し、Wdは乾燥重量を表す。実験結果を図12に示した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の医療用接着剤は、外科手術において、生体組織等の結合や止血等に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ゼラチン水溶液A充填部
2 グルタルアルデヒド水溶液B充填部
3 加温器
4 先端ノズル
5 温度制御器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとから構成される組織接着性を有する医療用接着剤であって、
前記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチン濃度が5〜40質量%であって、かつ、粘度が1〜2000mPa・sであり、さらに
前記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒド濃度が0.01〜10質量%である
ことを特徴とする医療用接着剤。
【請求項2】
ゼラチンの重量平均分子量が5,000〜30万である請求項1記載の医療用接着剤。
【請求項3】
ゼラチン水溶液AのpHが5〜9である請求項1又は2記載の医療用接着剤。
【請求項4】
グルタルアルデヒド水溶液Bは、更に増粘剤を0.5〜10質量%含有する請求項1、2又は3記載の医療用接着剤。
【請求項5】
グルタルアルデヒド水溶液Bの粘度が1〜2000mPa・sである請求項4記載の医療用接着剤。
【請求項6】
グルタルアルデヒド水溶液Bとゼラチン水溶液Aとの混合比(B/A)が、質量比で0.01〜2である請求項1、2、3、4又は5記載の医療用接着剤。
【請求項7】
ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとを混合する場合の温度が30〜65℃である請求項1、2、3、4、5又は6記載の医療用接着剤。
【請求項8】
ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとを混合してからゲルが生成するまでのゲル化時間が5〜100秒である請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の医療用接着剤。
【請求項9】
ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとを混合して生成されるゲルを主体とする医療用材料であって、
前記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチン濃度が5〜40質量%であり、
前記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒド濃度が0.01〜10質量%である
ことを特徴とする医療用材料。
【請求項10】
接着強度が20gf/cm2以上である請求項9記載の医療用材料。
【請求項11】
引張強度が20gf/cm2以上である請求項9記載の医療用材料。
【請求項12】
重量比が5倍のリン酸緩衝液中に、37℃で1分間浸漬することにより抽出されたグルタルアルデヒド濃度が0〜50μg/mlである請求項9、10又11記載の医療用材料。
【請求項13】
ゲル生成反応中は生体組織と接着し、ゲル生成後は生体組織の癒着が起こらない請求項9、10、11又は12記載の医療用材料。
【請求項14】
生体内において、埋入1日後の重量残存率が30%以上であって、かつ埋入5日後の重量残存率が30%以下であることを特徴とする、請求項9、10、11、12又は13記載の医療用材料。
【請求項15】
含水率が80%〜95%になることを特徴とする、請求項9、10、11、12、13又は14記載の医療用材料。
【請求項16】
請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の医療用接着剤を塗布するための外科用接着剤塗布システムであり、
ゼラチン水溶液A充填部、グルタルアルデヒド水溶液B充填部、前記充填部を加温するための加温器、並びに、ゼラチン水溶液A及びグルタルアルデヒド水溶液Bを混合して塗布するための先端ノズルを備えた
ことを特徴とする外科用接着剤塗布システム。
【請求項17】
生体吸収性多孔体及び請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の医療用接着剤からなることを特徴とする止血剤。
【請求項1】
ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとから構成される組織接着性を有する医療用接着剤であって、
前記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチン濃度が5〜40質量%であって、かつ、粘度が1〜2000mPa・sであり、さらに
前記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒド濃度が0.01〜10質量%である
ことを特徴とする医療用接着剤。
【請求項2】
ゼラチンの重量平均分子量が5,000〜30万である請求項1記載の医療用接着剤。
【請求項3】
ゼラチン水溶液AのpHが5〜9である請求項1又は2記載の医療用接着剤。
【請求項4】
グルタルアルデヒド水溶液Bは、更に増粘剤を0.5〜10質量%含有する請求項1、2又は3記載の医療用接着剤。
【請求項5】
グルタルアルデヒド水溶液Bの粘度が1〜2000mPa・sである請求項4記載の医療用接着剤。
【請求項6】
グルタルアルデヒド水溶液Bとゼラチン水溶液Aとの混合比(B/A)が、質量比で0.01〜2である請求項1、2、3、4又は5記載の医療用接着剤。
【請求項7】
ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとを混合する場合の温度が30〜65℃である請求項1、2、3、4、5又は6記載の医療用接着剤。
【請求項8】
ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとを混合してからゲルが生成するまでのゲル化時間が5〜100秒である請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の医療用接着剤。
【請求項9】
ゼラチン水溶液Aとグルタルアルデヒド水溶液Bとを混合して生成されるゲルを主体とする医療用材料であって、
前記ゼラチン水溶液Aは、ゼラチン濃度が5〜40質量%であり、
前記グルタルアルデヒド水溶液Bは、グルタルアルデヒド濃度が0.01〜10質量%である
ことを特徴とする医療用材料。
【請求項10】
接着強度が20gf/cm2以上である請求項9記載の医療用材料。
【請求項11】
引張強度が20gf/cm2以上である請求項9記載の医療用材料。
【請求項12】
重量比が5倍のリン酸緩衝液中に、37℃で1分間浸漬することにより抽出されたグルタルアルデヒド濃度が0〜50μg/mlである請求項9、10又11記載の医療用材料。
【請求項13】
ゲル生成反応中は生体組織と接着し、ゲル生成後は生体組織の癒着が起こらない請求項9、10、11又は12記載の医療用材料。
【請求項14】
生体内において、埋入1日後の重量残存率が30%以上であって、かつ埋入5日後の重量残存率が30%以下であることを特徴とする、請求項9、10、11、12又は13記載の医療用材料。
【請求項15】
含水率が80%〜95%になることを特徴とする、請求項9、10、11、12、13又は14記載の医療用材料。
【請求項16】
請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の医療用接着剤を塗布するための外科用接着剤塗布システムであり、
ゼラチン水溶液A充填部、グルタルアルデヒド水溶液B充填部、前記充填部を加温するための加温器、並びに、ゼラチン水溶液A及びグルタルアルデヒド水溶液Bを混合して塗布するための先端ノズルを備えた
ことを特徴とする外科用接着剤塗布システム。
【請求項17】
生体吸収性多孔体及び請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の医療用接着剤からなることを特徴とする止血剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図6】
【図7】
【図8】
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【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−95769(P2012−95769A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244714(P2010−244714)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】
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