説明

医療用注射器

【課題】注射動作に続いて針の収納を自動的に行うことができるとともに、不慮の操作を防止し得るる医療用注射器を提供する。
【解決手段】プランジャ6は、ピストン4が取り付けられる軸部61と、その後端部に取り付けられる軸部62とを備え、ピストン4の移動による注射中は軸部61と軸部62とが一体となってケーシング7に対して軸方向に移動し、軸部61に対して軸部62を先端側に押し込むことによってこれらを切り離し、軸部61から切り離された軸部62をさらに押し込むことによってケーシング7を押し込み操作して、該ケーシング7の先端部により針の外周を覆うように構成する。そして、キャップ9を、注射前のプランジャ6の後部を保護するためにケーシング7の後部に装着可能とするとともに、注射後に注射針を前方から覆い隠すためにケーシング7の前部に装着可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャロッドの押し込み操作によって注射後に自動的に針を保護することができる医療用注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種従来の注射器として、特許文献1や特許文献2に開示されたものが公知である。これら従来の注射器は、プランジャロッド若しくは管状部材を押し込み操作するだけで、注射動作に続いて針の収納を自動的に行うことができるものである。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1090652号明細書
【特許文献2】特願2000−518721号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、保管時等における針を収納するケーシングやプランジャロッドの保護が十分に考慮されてはいない。また、使用直前にシリンジ先端に注射針アタッチメントを装着するように設計変更した場合、該ケーシングはシリンジに対して軸方向移動可能であるため、外周のほぼ全体を覆うケーシングを把持して注射針アタッチメントをシリンジ先端に押し込むと該シリンジ先端がケーシング内に収納されてしまうという不具合が生ずる。さらに、注射完了後には注射針の外周はケーシングにより保護されるが、注射針の先端側は露呈しているため、廃棄処分はやはり慎重に行う必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するために、次の技術的手段を講じた。
【0005】
即ち、本発明の医療用注射器は、先端に注射針を取付け可能で且つ後端が開口する筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンと、先端部に前記ピストンが取り付けられ且つ後端部が前記シリンジの後端開口から後方に突出するプランジャロッドと、前記シリンジの外周側に設けられる管状ケーシングと、一端側が閉塞する筒状のキャップとを備える。なお、シリンジの先端には予め注射針を固定していてもよく、使用時に注射針アタッチメントを装着してもよい。シリンジ内には注射液が収容され、その後部が前記ピストンによって液密状にシールされる。シリンジはケーシング内に収容されるので、ケーシングをプラスチック製とすることにより、例えばガラス製のシリンジを外部からの衝撃から保護できる。
【0006】
前記ケーシングは、その先端部よりも前記シリンジ先端に取り付けられた注射針が先端側に突出する第1位置から、その先端部により前記注射針の外周を覆う第2位置に向けて前記シリンジに対して軸方向移動可能であってよい。
【0007】
前記プランジャロッドは、先端部に前記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部の後端部に取り付けられた第2軸部とを備えることができる。そして、該第2軸部の後端部は、前記ケーシングの後端部よりも後方に突出していてよい。これら軸部は、中実の棒状乃至筒状であってよく、好ましくは、一方の軸部が他方の筒状軸部内に軸方向移動自在に挿通案内されるものとすることができる。
【0008】
前記プランジャロッドは、ピストンがシリンジ内の軸方向中途部から先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって前記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、第1軸部に対して第2軸部を先端側に押し込むことによって第1軸部と第2軸部とを切り離し可能であってよい。好ましくは、第1軸部と第2軸部とを破断可能な接続リブを介して一体成形しておくのがよい。
【0009】
また、第1軸部から切り離された第2軸部をシリンジ及び第1軸部に対して軸方向先端側に押し込むことによって該第2軸部とともに前記ケーシングをその第1位置から第2位置へ移動させるように、前記ケーシングに後方から当接する操作部を第2軸部の後部に設けることができる。この操作部は、フランジ乃至フレア状に形成できる。また、操作部は、第2軸部の軸方向中途部にあってもよいが、好ましくは後端部に設けることができる。
【0010】
前記キャップは、注射前のプランジャロッドの後部を保護するために第1位置にあるケーシングの後部に装着可能であってよい。これによれば、保管時や輸送時においてプランジャロッドをケーシングにより保護し、不慮にプランジャロッドが操作されてしまうことや、プランジャロッドの破損等を防止できる。
【0011】
また、前記キャップは、注射後に注射針を前方から覆い隠すために第2位置にあるケーシングの前部に装着可能であってよい。これによれば、使用前にはプランジャロッドの保護に用いられていたキャップを、使用後には注射針の前方の隠蔽保護に用いることができ、キャップをケーシングに一体的に連結して廃棄処分を行うことができる。
【0012】
好ましくは、前記キャップが第1位置にあるケーシングの後部に装着されたとき、該キャップによって前記ケーシングのシリンジに対する軸方向移動を規制させることができる。このように、キャップを、ケーシングとシリンジとを固定するロック部材として用いることにより、使用前におけるケーシングの不慮の動作をより確実に防止できるとともに、使用直前に注射針アタッチメントをシリンジの先端に押し込み装着する際、その作業をケーシングを把持して行うことができるので、装着作業性が向上し、迅速かつ容易に注射針アタッチメントを取り付けることができる。
【0013】
前記シリンジの後端部には、円板状プレートと、該プレートから直径方向に張り出す一対のタブと、前記ケーシングを案内保持するスロットとを有する接続部が設けられていてよい。
【0014】
前記キャップは、第1位置にあるケーシングの後部に装着されたときプレートの後面に当接し、これによりケーシングをシリンジに対して固定させることができる。
【0015】
また、前記キャップの外周形状は、前記プレートの外周縁に沿うか或いはプレートの外周縁よりも内側にあるのが好ましい。
【0016】
好ましくは、前記ケーシングの後端部には、第2軸部を案内保持するとともに前記操作部が当接するバックプレートが設けられ、該バックプレートは、ケーシングが第2位置へ移動したとき、前記接続部に連結されてケーシングをシリンジに対して固定する。これによれば、注射後にケーシングをシリンジに固定することで、ケーシングが不慮に移動して注射針が再度露出してしまうことを防止できる。
【0017】
また、前記ケーシングの軸方向中途部には、ケーシングの前部に装着される前記キャップが外嵌固定される隆起部が設けられていてよい。該隆起部は前記接続部よりも前方に設けることができる。また、キャップ内面には、隆起部に係合する係合部を設けることができる。さらに、係合部からキャップの開口端までの軸方向寸法は、第1位置にあるケーシングの隆起部から接続部のプレートまでの軸方向寸法よりも長く、第2位置にあるケーシングの隆起部から前記プレートまでの軸方向寸法よりも短いものとすることができる。
【0018】
また、前記キャップは、一側方がほぼ軸方向全長にわたって開口しており、第1位置にあるケーシングに対して側方から嵌め込み装着されるものであってよい。これによれば、キャップを軸方向に大きく抜き取る必要性がなく、キャップの着脱操作を迅速に行うことができる。
【0019】
また、本発明の医療用注射器は、先端に注射針を取付け可能で且つ後端が開口する筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンと、先端部に前記ピストンが取り付けられ且つ後端部が前記シリンジの後端開口から後方に突出するプランジャロッドと、前記シリンジの外周側に設けられる管状ケーシングと、シリンジ後退防止手段とを備え、該ケーシングは、その先端部よりも前記シリンジ先端に取り付けられた注射針が先端側に突出する第1位置から、その先端部により前記注射針の外周を覆う第2位置に向けて前記シリンジに対して軸方向移動可能であり、前記プランジャロッドは、先端部に前記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部の後端部に取り付けられた第2軸部とを備え、該第2軸部の後端部は、前記ケーシングの後端部よりも後方に突出しており、該プランジャロッドは、ピストンがシリンジ内の軸方向中途部から先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって前記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、第1軸部に対して第2軸部を先端側に押し込むことによって第1軸部と第2軸部とを切り離し可能であり、第1軸部から切り離された第2軸部をシリンジ及び第1軸部に対して軸方向先端側に押し込むことによって該第2軸部とともに前記ケーシングをその第1位置から第2位置へ移動させるように、前記ケーシングに後方から当接する操作部が第2軸部の後部に設けられ、前記シリンジ後退防止手段は、第1位置にあるケーシングのシリンジに対する軸方向移動を解除操作可能にロックするものであってよい。
【0020】
上記シリンジ後退防止手段は、ケーシングやシリンジに対して取り付けられるリング状若しくは鈎形状等のロック部材であってよく、また、シリンジ後退防止手段は、ケーシングとシリンジとを回転操作等によって解除操作可能に直接係合させるものであってもよい。好ましくは、シリンジ後退防止手段は、上記キャップによって構成するのがよい。
【0021】
前記シリンジ後退防止手段は、第1位置にあるケーシングと前記シリンジとに係合することによって前記ロックを行う部材からなるものであってもよい。ここで、係合の態様は、螺合であってもよく、当接であってもよく、嵌合であってもよい。より好ましくは、シリンジ後退防止手段を構成する部材を第1位置にあるケーシングの後部に着脱可能に取り付け固定し、該部材をシリンジに対して後方から当接させることができる。
【0022】
また、前記シリンジの後端部には接続部が設けられ、該接続部は、円板状プレートと、該プレートから直径方向に張り出す一対のタブと、前記ケーシングを案内保持するスロットとを有し、前記シリンジ後退防止手段は、第1位置にあるケーシングの後部に装着可能で且つプレートの後面に当接する部材からなるものであってもよい。この場合、前記シリンジ後退防止手段を構成する部材の外周形状は、前記プレートの外周縁に沿うか或いはプレートの外周縁よりも内側にあることが好ましい。
【0023】
また、前記ケーシングの後端部に、第2軸部を案内保持するとともに前記操作部が当接するバックプレートを設けることができる。このバックプレートは、ケーシングが第2位置へ移動したとき、前記接続部に連結されてケーシングをシリンジに対して固定するものとすることができる。
【0024】
また、前記シリンジ後退防止手段は、第1位置にあるケーシングに対して側方から嵌め込み装着される断面略コ字状部材からなるものとすることができる。
【0025】
上記本発明の医療用注射器において、注射針の未装着時にシリンジの先端に取り付けられる栓体と、前記ケーシングの先端部に着脱自在に外嵌される先端キャップとをさらに備えていてもよい。この先端キャップは、シリンジ先端の栓体を覆うものとすることができる。これによれば、栓体とケーシングとの隙間から異物がケーシング内に入り込むことを先端キャップにより防止することができる。また、本発明の注射器の使用後に注射針をケーシングの先端部内に格納した状態で先端キャップをケーシングの先端部に装着することによって、注射針を覆い隠し、より一層の安全性の向上を図ることができる。なお、本発明は、医療用以外の種々の用途の注射器として実施可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、注射器のプランジャロッドを2つに分割し、第1軸部をピストンの移動による注射動作時のみ押し込み部材として機能させ、第2軸部を注射動作後に第1軸部から切り離して、ケーシングの押し込み操作のための押し込み部材としても機能させることにより、第2軸部の1回の押し込み操作によって注射と、注射後の針の保護とを行うことができる。さらに、キャップによってプランジャロッド並びにケーシングが不慮に操作されてしまうことを防止するとともに、該キャップ又は先端キャップを注射後にケーシングの前部に装着することによって、完全な針の保護を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1〜図18は、本発明の第一の実施形態に係る医療用注射器1並びにその構成部品を示している。この注射器1は、先端に注射針2を取付け可能で且つ後端が開口する円筒状のシリンジ3と、該シリンジ3内に液密性を維持しつつ軸方向移動自在に設けられるゴム製のピストン4と、シリンジ3の後端開口部に取り付けられる接続部材5(接続部)と、先端部に前記ピストン4が取り付けられ且つ後端部が前記シリンジ3の後端開口から後方に突出するプランジャロッド6と、シリンジ3の外周側に設けられる管状ケーシング7と、該ケーシング7の後端部に取り付けられるバックプレート8と、一端側が閉塞する筒状のキャップ9(シリンジ後退防止手段)とを備えている。
【0029】
前記シリンジ3は、例えばガラス製であって、先端部にはノズル部31が一体成形されている。注射器1の出荷時や保管時には、ノズル部31にはゴム栓32(栓体)が取り付けられ、シリンジ3内に収容された薬液を外気から密封している。そして、ゴム栓32を取り外して、注射針2を備える注射針アタッチメント20をノズル部31に嵌着することによって、注射針2がシリンジ3の先端に取り付けられるようになっている。また、シリンジ3の後端部にはフランジ33が一体成形されている。
【0030】
前記接続部材5は、図3〜図5にも示すように、円板状プレート51と、該プレート51から直径方向に張り出す一対のタブ52と、プレート51の前面から前方に延出し且つシリンジ3のフランジ33に外嵌固定される筒状のチャック54と、プレート51の後面から後方に延出する一対の係止片55とを一体に備えている。また、プレート51には、ケーシング7を案内保持する円弧状のスロット53と、プランジャロッド6を案内保持する中心貫通孔56とが形成されている。この接続部材5は、例えばポリカーボネート製の射出成形品により構成できる。
【0031】
前記プランジャロッド6は、例えばポリプロピレン製の射出成形品からなり、図6〜図8にも示すように、先端部にピストン4が取り付けられる第1軸部61と、該第1軸部61の後端部に直径方向に対向する一対の接続リブ63を介して一体的に取り付けられた第2軸部62とにより主構成されている。第2軸部62は、第1軸部61の後端部から後方に延びて前記接続部材5の貫通孔56に挿通され、その後端部はケーシング7の後端部よりも後方に突出している。また、第2軸部62は、第1軸部61を内部に挿通案内し得る円筒状に構成されている。第1軸部61の外周には、軸方向ほぼ全長にわたる4つのリブ64が設けられている。また、第2軸部62の内周面には軸方向先端部から後方に向けて延びる案内溝65が設けられており、第1軸部61の後端部に設けた係止片66が案内溝65内に軸方向移動自在に係合し、これにより第1軸部61と第2軸部62の相対回転を防止している。上記接続リブ63は、第1軸部61に対して第2軸部62を所定の設定値を超える力で押し込むことにより容易に破断可能である。この所定の設定値は、ピストン4の摺動によりシリンジ3内の薬液を注射する際にプランジャロッド6に生じる軸力よりも大きく、注射中に接続リブ63が破断しないようにしてある。
【0032】
したがって、プランジャロッド6は、ピストン4がシリンジ3内の軸方向中途部から先端に移動するまでの間は第1軸部61と第2軸部62とが一体となってケーシング7に対して軸方向移動自在であるとともに、ピストン4がシリンジ3内の先端に移動されることによって押し込み動作が規制された第1軸部61に対して第2軸部62を先端側に押し込むことによってこれらを切り離し可能である。そして、第1軸部61から切り離された第2軸部62をシリンジ3及び第1軸部61に対して軸方向先端側に押し込むことによって該第2軸部62とともにケーシング7をその第1位置から第2位置へ移動させるように、ケーシング7に後方から当接するフレア状ないしフランジ状の操作部67が第2軸部62の後端部に設けられている。
【0033】
前記ケーシング7は、例えばTPX(ポリメチルペンテン)製の射出成形品からなり、図9〜図12にも示すように、先端側の小径筒部71と後端側の大径筒部72とがテーパー部73を介して一体的に設けられている。小径筒部71は完全な円筒からなり、その内径はシリンジ3の外径よりも若干大径である。大径筒部72は、直径方向に対向し且つ離間する一対の円弧状壁部72a,72bにより主構成されており、各壁部72a,72bがそれぞれ接続部材5のスロット53に挿通され、軸方向移動自在に案内保持されている。そして、ケーシング7は、その先端部よりもシリンジ先端に取り付けられた注射針2が先端側に突出する第1位置(図19(a)〜(c)参照)から、その先端部により前記注射針の外周を覆う第2位置(図19(d)参照)に向けて前記シリンジ3に対して軸方向移動可能である。
【0034】
前記バックプレート8は、例えばPC製の射出成形品からなり、図13〜図16にも示すように、ケーシング7の後端縁部に嵌着される嵌着部81と、第2軸部62を軸方向摺動自在に案内保持する4つの抱持片82とを備えていて、前記第2軸部62の操作部67は、バックプレート8を介してケーシング7の後端部に当接する。4つの抱持片82は、バックプレート8の中心貫通孔83の周囲に等間隔で配置されており、第2軸部62は中心貫通孔83に挿通保持されている。また、バックプレート8には、接続部材5の係止片55に対応する係止孔84が設けられており、ケーシング7が第2位置へ移動したとき、係止片55が係止孔84に挿通し係合することによって、バックプレート8が接続部材5に連結されてケーシング7をシリンジ3に対して固定するようになっている。また、バックプレート8の外周面には、キャップ9を螺着するためのネジ85が形成されている。
【0035】
前記キャップ9は、軸方向一端側が閉塞し他端側が開口する筒状であって、注射前のプランジャロッド6の後部を保護するために第1位置にあるケーシング7の後部に装着可能であるとともに、注射後に注射針2を前方から覆い隠すために第2位置にあるケーシング7の前部に装着可能である。
【0036】
より詳細には、キャップ9の軸方向中途部の内周面には、バックプレート8の外周に螺着するためのネジ91が形成されている。そして、バックプレート8の外周にキャップ9を螺着したとき、図1に示すように、キャップ9が第2軸部62並びにケーシング7の後部を覆い隠すとともに、このようにキャップ9が第1位置にあるケーシング7の後部に装着されたとき、該キャップ9の先端部が接続部材5のプレート51の後面に当接することによって、ケーシング7のシリンジ3に対する軸方向移動が規制されるようになっている。かかるキャップ9によって、第1位置にあるケーシング7のシリンジ3に対する軸方向移動を解除操作可能にロックするシリンジ後退防止手段が構成されている。
【0037】
このキャップ9の外周形状は、正10角形状であって、接続部材5のプレート51の外周縁に沿うか或いはプレート51の外周縁よりも内側にある。したがって、キャップ9を装着しても、注射器1の最大外径寸法は非装着のときと同様であり、キャップ装着時の外観の向上並びに取り扱いの利便性向上を図ることができる。また、キャップ9を非円形とすることによって、装着時の転がり防止が図られている。
【0038】
また、キャップ9の軸方向中途部であって且つ前記ネジ91よりも開口端側の内周面には、内方に隆起する係合凸部92が形成されている。一方、ケーシング7の軸方向中途部(より詳細にはテーパー部の後端)には、ケーシング7の前部に装着される前記キャップ9が外嵌固定されるフランジなどの隆起部74が設けられている。キャップ9の係合凸部92はこの隆起部74に軸方向に係合し、これによりキャップがケーシング7の前部に装着された状態でケーシング7に取り付け固定される。なお、隆起部74は前記接続部材5よりも前方に位置するとともに、隆起部74の内周面側には、ケーシング7が第1位置にあるときに接続部材5が後方から係合する段部75が設けられている。
【0039】
次に、図19に基づいて、上記注射器1の使用方法を説明する。
【0040】
まず、保管されていた注射器1のシリンジ3先端からゴム栓32を取り外し、図19(a)に示すように注射針アタッチメント20をノズル部31に取り付ける。このとき、キャップ9によってプランジャロッド6の押し込み操作並びにケーシング7に対するシリンジ3の軸方向移動が防止されているため、ケーシング7やキャップ9を把持して針アタッチメント20をノズル部31に押し込むことができる。
【0041】
注射針2の装着後、図19(b)に示すようにキャップ9を取り外し、接続部材5のタブ52に人差し指と中指を掛けて親指によりプランジャロッド6の後端部を押し込むと、ピストン4によりシリンジ3内の薬液が注射される。
【0042】
ピストン4がシリンジ3内の先端まで押し込まれると、図19(c)に示すようにプランジャロッド6の操作部67がケーシング7の後端に当接し、この状態からさらに操作部67を押し込むと、プランジャロッド6の第1軸部61と第2軸部62とを接続するリブ63が破断して、第1軸部61に対して第2軸部62を押し込み操作可能となる。
【0043】
第1軸部61をさらにシリンジ3に対して押し込んでいくと、この第1軸部61とともにケーシング7がシリンジ3に対して軸方向に移動し、図19(d)に示すようにケーシング7の先端部により針2の外周を保護する。
【0044】
そして、キャップ9又は先端キャップ11をケーシング7の前部に装着することによって、針2を完全に覆い隠すことができ、安全に廃棄処分を行うことができる。
【0045】
図20及び図21は本発明の第2実施形態に係る注射器1’を示しており、上記第1実施形態と同様の構成については同符号を付して詳細説明を省略し、異なる構成、作用効果について説明する。
【0046】
本実施形態の注射器1’は、ケーシング7の先端部に着脱自在に外嵌される先端キャップ11をさらに備えている。この先端キャップ11は、先端部が閉塞されているとともに後端が開口しており、この後端開口部がケーシング7の先端部に嵌着され、キャップ11後端部とケーシング7先端部とは全周にわたって接触している。上記ゴム栓32(栓体)は、ケーシング7に取り付けられた先端キャップ11の内部に収容され、該キャップ11によってゴム栓32が覆われている。かかる先端キャップ11を装着すれば、ゴム栓32とケーシング7と隙間から異物がケーシング7とシリンジ3との間に混入することが防止される。
【0047】
また、ケーシング7の後部に装着されるキャップ9(シリンジ後退防止部材)は、バックプレート8に対応する位置から後端側にしたがって徐々に小径となされており、全体としてスマート乃至スリムな外観を呈するように構成している。なお、本実施形態では、後部キャップ9は、注射完了後にケーシング7の前部に装着されず、先端キャップ11をケーシング7の前端に再度装着することによって針を完全に保護することが可能である。
【0048】
図22〜図29は本発明の第3実施形態を示しており、上記第1実施形態と異なるところはキャップ9のみであるので、他の構成については同符号を付して詳細説明を省略し、キャップ9の構成について以下説明する。
【0049】
本実施形態のキャップ9は、ケーシング7並びにプランジャロッド6の第2軸部62に対して側方から嵌め込み装着可能であるように、一側方がほぼ軸方向全長にわたって開口された断面略コ字状の部材からなり、ケーシング7の後部を抱持する第1部分93と、バックプレート8の外周を覆う第2部分94と、プランジャロッド6の第2軸部62の外周を覆う第3部分95と、第2軸部62の後方を覆う第4部分96とが連設されてなる。各部分93〜96の径はそれぞれ可能な限り小さくなされており、全体としてスマート乃至スリムな外観を呈するようにしている。
【0050】
第1部分93の前端部は接続部材5の後面に当接され、一方、第2部分94の前端部はバックプレート8の周縁部に前方から係止される。これにより、キャップ9を装着したとき、第1位置にあるケーシング7のシリンジ3に対する軸方向移動がキャップ9によって阻止されるようになっている。また、第1部分93は、図30に示すように開口先端側が狭められており、不慮にキャップ9がケーシング7から抜け落ちることを防止している。一方、第1部分93と第2部分94との間にスリット97を設けることによって、第1部分93を弾性変形可能に構成し、手で引き抜く程度の外力が作用することにより容易にキャップ9をケーシング7から取り外し可能にしている。なお、第3部分95の背部には軸方向に沿って縦リブ98を一体成形してあり、この縦リブ98を把持部ないしツマミとして利用することが可能である。
【0051】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載した発明の技術的事項の範囲内で適宜設計変更し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係る医療用注射器の全体縦断面図である。
【図2】同注射器の断面方向を90°回転した全体縦断面図である。
【図3】同注射器の接続部材の3面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】図3のB−B線断面図である。
【図6】同注射器のプランジャロッドを示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図7】同プランジャロッドの断面図を示し、(a)は図6のC−C線断面図、(b)は図6のD−D線断面図である。
【図8】図6のE−E線断面拡大図である。
【図9】同プランジャロッドのケーシングの4面図である。
【図10】図9のF−F線断面図である。
【図11】図9のG−G線断面図である。
【図12】図9のH−H線断面図である。
【図13】同注射器のバックプレートの4面図である。
【図14】図13のI−I線断面図である。
【図15】図13のJ−J線断面図である。
【図16】図13のK−K線断面図である。
【図17】同注射器のキャップの2面図である。
【図18】同キャップの縦断面図である。
【図19】同注射器の使用工程図である。
【図20】本発明の第2実施形態に係る注射器の全体縦断面図である。
【図21】同注射器の断面方向を90°回転した全体縦断面図である。
【図22】本発明の第3実施形態に係る注射器の全体縦断面図である。
【図23】同注射器の断面方向を90°回転した全体縦断面図である。
【図24】同注射器の後部キャップの拡大側面図である。
【図25】同注射器の後部キャップの拡大正面図である。
【図26】図24のA−A線切断部端面図である。
【図27】図24のB−B線切断部端面図である。
【図28】図24のC−C線切断部端面図である。
【図29】図24のD−D線切断部端面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 注射器
2 注射針
3 シリンジ
4 ピストン
5 接続部
51 プレート
52 タブ
53 スロット
55 係止片
6 プランジャロッド
61 第1軸部
62 第2軸部
63 接続リブ
7 ケーシング
8 バックプレート
9 キャップ(シリンジ後退防止手段)
11 先端キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に注射針を取付け可能で且つ後端が開口する筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンと、先端部に前記ピストンが取り付けられ且つ後端部が前記シリンジの後端開口から後方に突出するプランジャロッドと、前記シリンジの外周側に設けられる管状ケーシングと、シリンジ後退防止手段とを備え、
該ケーシングは、その先端部よりも前記シリンジ先端に取り付けられた注射針が先端側に突出する第1位置から、その先端部により前記注射針の外周を覆う第2位置に向けて前記シリンジに対して軸方向移動可能であり、
前記プランジャロッドは、先端部に前記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部の後端部に取り付けられた第2軸部とを備え、該第2軸部の後端部は、前記ケーシングの後端部よりも後方に突出しており、
該プランジャロッドは、ピストンがシリンジ内の軸方向中途部から先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって前記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、第1軸部に対して第2軸部を先端側に押し込むことによって第1軸部と第2軸部とを切り離し可能であり、
第1軸部から切り離された第2軸部をシリンジ及び第1軸部に対して軸方向先端側に押し込むことによって該第2軸部とともに前記ケーシングをその第1位置から第2位置へ移動させるように、前記ケーシングに後方から当接する操作部が第2軸部の後部に設けられ、
前記シリンジ後退防止手段は、第1位置にあるケーシングのシリンジに対する軸方向移動を解除操作可能にロックすることを特徴とする医療用注射器
【請求項2】
請求項1に記載の医療用注射器において、前記シリンジ後退防止手段は、第1位置にあるケーシングと前記シリンジとに係合することによって前記ロックを行う部材からなることを特徴とする医療用注射器。
【請求項3】
請求項1に記載の医療用注射器において、前記シリンジの後端部には接続部が設けられ、該接続部は、円板状プレートと、該プレートから直径方向に張り出す一対のタブと、前記ケーシングを案内保持するスロットとを有し、前記シリンジ後退防止手段は、第1位置にあるケーシングの後部に装着可能で且つプレートの後面に当接する部材からなることを特徴とする医療用注射器。
【請求項4】
請求項3に記載の医療用注射器において、前記シリンジ後退防止手段を構成する部材の外周形状は、前記プレートの外周縁に沿うか或いはプレートの外周縁よりも内側にあることを特徴とする医療用注射器。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の医療用注射器において、前記ケーシングの後端部には、第2軸部を案内保持するとともに前記操作部が当接するバックプレートが設けられ、該バックプレートは、ケーシングが第2位置へ移動したとき、前記接続部に連結されてケーシングをシリンジに対して固定することを特徴とする医療用注射器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療用注射器において、前記シリンジ後退防止手段は、第1位置にあるケーシングに対して側方から嵌め込み装着される断面略コ字状部材からなることを特徴とする医療用注射器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の医療用注射器において、注射針の未装着時にシリンジの先端に取り付けられる栓体と、前記ケーシングの先端部に着脱自在に外嵌される先端キャップとをさらに備え、該先端キャップは、シリンジ先端の栓体を覆うことを特徴とする医療用注射器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2008−289908(P2008−289908A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185625(P2008−185625)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【分割の表示】特願2003−57847(P2003−57847)の分割
【原出願日】平成15年3月4日(2003.3.4)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【出願人】(000206185)大成化工株式会社 (83)
【Fターム(参考)】