説明

医療用複室容器及びこれを用いた薬剤混合の認識方法ならびに薬剤入り医療用複室容器

【課題】薬剤の混合作業を容易に、かつ目視のみに頼ることなく確実に行える低コストな医療用複室容器と、これを用いた薬剤混合の認識方法および薬剤入り医療用複室容器の提供。
【解決手段】可撓性を有する容器本体20を有し、該容器本体20は該容器本体20の対向面を剥離可能な弱シール部26により2以上の薬剤収納室22、24に区画され、弱シール部26を挟持するように共振タグ30,40が設けられている医療用複室容器10。この医療用複室容器10によれば、弱シール部26の剥離前には共振タグ30,40は共振せず、エコー波を発信しないが、剥離後には共振し、エコー波を発信するようになる。このエコー波を受信手段で受信することにより、弱シール部26の剥離による薬剤の混合を認識できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用複室容器及びこれを用いた薬剤混合の認識方法ならびに薬剤入り医療用複室容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミン剤等を生理食塩水に混合して患者に注射あるいは点滴する等、複数の薬剤を混合して患者に投与することが行われている。複数の薬剤を混合する場合、薬剤の種類によっては予め混合しておくと変質するものがある。従来、変質の可能性のある薬剤を組み合わせる場合には、使用直前にガラス容器中の薬剤に対して別の薬剤を注射器等で注入し混合していた。このような混合作業では、混合率を間違えたり、混合をし忘れたりするという人的ミスを生じるおそれがあった。
【0003】
上述のような薬剤の混合における手違いを回避するために、入力された処方に基づいて2種類以上の薬剤を調合するシステムが提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、緊急性を要する場合等では、簡易な方法により薬剤の混合を正確に行う必要がある。こうした要請に対し、容器本体を弱シール部により区画して複数の薬剤収納室を設け、該薬剤収納室にそれぞれの薬剤を混合することなく収容し、使用する際に薬剤収納室に外部から圧力を加えることにより、薬剤収納室を区画する弱シール部を剥離開通させて薬剤を混合する医療用複室容器が知られている(例えば、特許文献2)。このような医療用複室容器の使用により、正確な混合率で2種以上の薬剤を混合することができる。
【0004】
上述のような医療用複室容器を用いた場合には、複数の薬剤を混合する作業の簡易化が図れるが、薬剤の混合の確認は目視に頼らざるを得ない。このため、弱シール部の剥離開通をし忘れるおそれがある。加えて、医療用に用いられる輸液容器は、内容物を目視で確認できるように透明な包装材料が使用されることが多い。このため、弱シール部の剥離開通の確認がし難いという問題がある。
【0005】
こうした問題に対し、容器本体の一部を固定部材により折曲状態で固定し、薬剤収納室の昇圧によって弱シール部を剥離開通すると共に、前記折曲状態を解除することで弱シール部の剥離開通が容易に確認できる医療用複室容器が提案されている(例えば、特許文献3)。また、複数の空間を隔成し、かつ、外力により破断開通され、前記空間の間を医療用物質が移動可能とする破断開通部を備え、該破断開通部の近傍に配置されたRFID(Radio Frequency Identification)が、破断開通する際に通信不能に破断される医療用複室容器が提案されている(例えば、特許文献4)。特許文献4の医療用複室容器は、目視に頼っていた破断開通の確認をRFIDの通信不能化により、検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−515213号公報
【特許文献2】特開2003−111818号公報
【特許文献3】特開2007−282707号公報
【特許文献4】特開2007−267869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4の技術では、RFIDが意図せぬ破損などにより通信不能になった場合に、破断開通部が破断開通していないにもかかわらず破断開通したものと認識され、混合前の薬剤が誤投与されてしまうおそれがある。
また、RFIDは、使い捨て用途としては構成が複雑で、高コストであるという問題があった。
そこで、本発明は、薬剤の混合作業を容易に、かつ目視のみに頼ることなく確実に行える低コストな医療用複室容器と、これを用いた薬剤混合の認識方法および薬剤入り医療用複室容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の医療用複室容器は、可撓性を有する容器本体を有し、該容器本体は、該容器本体の対向面が剥離可能な弱シール部でシールされて2以上の薬剤収納室に区画され、前記弱シール部を挟持するように一対の共振タグが設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明の薬剤混合の認識方法は、2種以上の薬剤を収容した前記医療用複室容器を用いた薬剤混合の認識方法であって、前記弱シール部がシールされた状態とし、前記弱シール部を剥離することで前記2種以上の薬剤を混合すると共に、前記一対の共振タグを互いに離間させることで、前記一対の共振タグのうち少なくとも一方を発信手段からの電磁波に共振させてエコー波を発信させ、前記エコー波を受信手段が受信することで、前記弱シール部の剥離を認識することを特徴とする。
【0010】
本発明の薬剤入り医療用複室容器は、前記医療用複室容器に薬剤を収容したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、薬剤の混合作業を容易に、かつ目視のみに頼ることなく確実に行える低コストな医療用複室容器と、これを用いた薬剤混合の認識方法および薬剤入り医療用複室容器を提供でき、医療行為の正確性を確実に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の医療用複室容器の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の医療用複室容器のI−I’線に沿う断面図である。
【図3】図1の医療用複室容器に使用されている共振タグを示す図であって、(a)一方の面から見た平面図、(b)長手方向の側面図である。
【図4】他の例の共振タグを示す図であって、一方の面から見た平面図である。
【図5】図1の医療用複室容器の弱シール部を剥離した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の医療用複室容器の一例について、図1、2を用いて説明する。図1は、本発明の医療用複室容器10の一例を示す斜視図である。図2は、図1のI−I’線に沿う断面図である。
【0014】
この例の医療用複室容器10は、可撓性を備えた矩形状の容器本体20を有している。この容器本体20は、2枚の可撓性フィルム11,12の周縁部が剥離不能に融着されて形成され、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12との周縁部以外の対向面に剥離可能にシールされた弱シール部26を有している。弱シール部26は、容器本体20の短手方向に直線状に設けられ、これにより容器本体20は第一薬剤収納室22と第二薬剤収納室24とに区画されている。そして、第一薬剤収納室22及び第二薬剤収納室24は、容器本体20の長手方向に並んで配置されている。
【0015】
容器本体20の下端部15側には、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とで狭持された樹脂製の中空形状の排出口14が設けられている。排出口14は、輸送・保管時には、図示しないゴム栓等で閉栓されており、使用時に刺栓針が刺入できる構成となっている。加えて、排出口14には、刺栓針が刺入できる面を覆う図示しない保護フィルムが剥離可能に設けられている。そして、排出口14と第二薬剤収納室24とは連通されており、図示しないゴム栓等により薬剤の流出が阻止されている。また、上端部13側の周縁部には、円形の吊孔16が設けられている。
【0016】
弱シール部26における一方の面、すなわち可撓性フィルム11側の面と、弱シール部26の他方の面、すなわち、もう一方の可撓性フィルム12側の面とには、共振タグ30,40が接着剤38によりそれぞれ貼着されている。これら2枚で一対をなす共振タグ30,40は、互いに対向し、弱シール部26を挟持するように配置されている。
【0017】
共振タグ30,40は、通信機などの発信手段から発信される特定の周波数の電磁波に共振し、エコー波を発信するものであって、この特定の周波数は共振周波数と呼ばれている。
共振タグは、共振ラベル、RFタグ、RFラベルなどと呼ばれる他、慣用的には万引き防止タグなどとも呼ばれている。そして、例えば小売店で商品に取り付けられ、商品が不当に持ち出された場合には、共振タグが発信したエコー波を受信手段が受信して警報ブザーが鳴るようにするなどして、万引きを防止するための手段として利用されている。
【0018】
一対の共振タグ30,40は、このように弱シール部26がシールされ、剥離していない場合には、互いに近傍に位置しているために、それぞれの通信を互いに阻害してしまう。そのため、発信手段から上述した特定の周波数の電磁波が発信されていても、共振タグ30,40はいずれも共振しない。
【0019】
図3はこの例で使用されている共振タグ30,40を示す図であって、図3(a)は、共振タグ30,40を一方の面から見た平面図、図3(b)は共振タグ30,40の側面図である。
この例の共振タグ30,40は、タグ状、ラベル状等のシート状に形成されたものであって、フィルム状の基材36の一方の面に、面状の電極32aと、この電極32aに連続した渦巻き状のアンテナ部34とが形成され、他方の面に、電極32aと対をなす電極32bと、この電極32bに連続したリード線部37とが形成されたものである。そして、リード線部37の端部37aとアンテナ部34の端部34aとが、基材36を貫通する接続部39により互いに接続され、全体としてLC共振回路が形成されている。
また、この例では、互いに対をなす電極32a,32bが基材36の略中央部に配置され、その周囲を取り巻くように、渦巻き状のアンテナ部34が配置されている。
また、この例では、共振タグ30,40の他方の面、すなわちリード線部37が形成された側の面が、接着剤38により可撓性フィルム11,12に貼着されている。
【0020】
共振タグ30,40が貼着される可撓性フィルム11,12は、医療用容器の分野で用いられる樹脂であって、共振タグ30,40の通信を阻害しない材質である。詳しくは後述するが、この医療用複室容器10においては、弱シール部26が剥離した場合には、共振タグ30,40の少なくとも一方が発信手段からの特定の周波数に共振してエコー波を発する。そして、このエコー波を受信手段が受信することにより、弱シール部26の剥離が認識されるようになっている。そのため、可撓性フィルム11,12は、共振タグ30,40と発信手段および受信手段とのこのような通信を阻害しないことが重要である。
【0021】
このような樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルサルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらの内、透明性、柔軟性及び衛生性に優れ、低コストである点では、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0022】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン−αオレフィンランダム共重合体等のオレフィン系エラストマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、α−オレフィン−プロピレンランダム共重合体等のポリプロピレン系樹脂や、環状ポリオレフィン樹脂、これらの混合物の単層、及び多層フィルム等が挙げられる。こうした樹脂は、耐熱性向上等を目的として一部架橋されていてもよい。このような樹脂製のフィルムは、厚みが50〜1000μm、好ましくは100〜500μm程度のものを用いればよい。
【0023】
さらに、酸素、水蒸気等からのバリア性が必要な場合には、アルミニウム箔、アルミニウム箔ラミネートフィルム等、金属を有する材質を使用することができる。
遮光、バリア目的などで、アルミニウム箔やアルミニウム箔ラミネート等の金属を有するフィルムを使用することは差し支えないが、このような金属を有するフィルムは、共振タグ30,40の通信に影響を与える可能性がある。そのため、このようなフィルムを採用する場合には、医療用複室容器10の使用時に先立って、このフィルムを可撓性フィルム11,12から剥離する等、本発明の目的に反しない態様で用いることが必要である。
【0024】
共振タグ30,40の基材36には、誘電性を有する材料が用いられる。例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂等からなる樹脂フィルムが好適に使用される。基材36の厚みは5〜500μmが好ましい。
電極32a、32b、アンテナ部34、リード線部37は、アルミニウムなどの金属から形成される。形成方法には特に制限はなく、基材36に貼り合わされたアルミニウム箔をエッチングする方法や、パターン印刷による方法など、公知の方法が挙げられる。
【0025】
なお、共振タグ30,40としては、求める機能を勘案して公知のものを使用でき、図3に例示したものに限定されない。しかしながら、図示例のように、互いに対をなす電極32a,32bが基材36の略中央部に配置され、その周囲に渦巻き状のアンテナ部34が配置されている共振タグ30,40は、加熱された場合において、基材36の収縮が認められにくい。そのため、これら共振タグ30,40が貼着され、薬剤を収容した医療用複室容器10を高温でレトルト殺菌処理した場合でも、基材36の収縮による共振タグ30,40の変形が抑制され、共振タグ30,40の外観が低下したり、通信に悪影響が生じたりすることがない。
例えば共振タグとしては、図4に示すように、中央部ではなく一方の端部側に、一対の電極32a,32bが配置され、これら電極32a,32bが配置されていない部分に、渦巻き状のアンテナ部34が配置された形態のものもある。このような共振タグを採用してもよいが、この共振タグは、電極32aとアンテナ部34との間に筋状の基材部分36aを有しているため、この部分に大きなストレスが加わりやすく、その結果、この部分36aが局部的に収縮しやすい。このような場合、共振タグの外観低下や、通信への悪影響が懸念される。その点、図3の形態の共振タグ30,40は、略中央部に電極32a,32bが配置され、その周囲にアンテナ部34が配置された形態であり、電極32a,32bおよびアンテナ部34が全体的に偏りなく配置されている。そのため、基材36が加熱により収縮したとしても、その収縮の程度は全体的に均質であり、図4の共振タグの場合のように、局部的な収縮は発生しにくい。
【0026】
共振タグ30,40の大きさ、形状は、弱シール部26が離間する際に、可撓性フィルム11,12の動作に追随し、互いに離間できるものであればよい。共振タグ30、40は、このようなものである限り、大きさ、形状が互いに異なっていても、同じでもよい。
また、共振タグ30,40の共振周波数としては、共振タグ30,40が発信手段からの電磁波と共振してエコー波が発せられ、これを受信手段が受信できるものであればよく、制限はない。具体的には、8.2MHz、9.5MHz、10.5MHz等が挙げられ、医療用複室容器10の使用態様に応じて決定される。
また、共振タグ30と共振タグ40とは、同じ共振周波数を有するものであっても、異なる共振周波数を有するものであってもよいが、詳しくは後述するが、同じ共振周波数を有するものを使用する方が、薬剤混合の認識を安定に行える点で好ましい。
【0027】
共振タグ30,40は、弱シール部26を挟持するように設けられる。ただし、弱シール部26の開通、未開通が判別できる程度の範囲内で、共振タグ30,40は、互いにずれて配置されてもよい。また、この例では、共振タグ30,40は、リード線部37が形成されている面が接着剤38により可撓性フィルム11に接着されているが、アンテナ部34が形成されている面が接着されていてもよい。
【0028】
医療用複室容器10は、例えば次の製造方法により製造できる。
まず、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とを重ね合わせ、側端部17側の周縁部をヒートシールすることにより融着する。次いで、第一薬剤収納室22と第二薬剤収納室24とに区画する位置に、剥離可能なシールをして弱シール部26を設ける。弱シール部26を挟持するように、共振タグ30,40を配置する。そして、共振タグ30,40のリード線部37の形成された面が可撓性フィルム11,12と接するように接着剤38で貼着する。排出口14を下端部15側の任意の位置に位置するように、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とで排出口14を挟み込み、下端部15側をヒートシールすることにより融着する。こうして、医療用複室容器10を得ることができる。
【0029】
医療用複室容器10には、上端部13から第一薬剤収納室22に任意の量の第一薬剤Aを充填する。上端部13側をヒートシールにより融着し、融着された上端部13側の任意の位置を穿孔して、吊孔16を設ける。次いで、例えば、排出口14から第二薬剤収納室24内に第二薬剤Bを充填し、排出口14をゴム栓等で閉栓し、さらに剥離可能に保護フィルムで排出口14を覆う。こうして、第一薬剤Aが第一薬剤収納室22に充填され、第二薬剤Bが第二薬剤収納室24に充填された医療用複室容器10を得ることができる。
【0030】
また、例えば、医療用複室容器10は次の製造方法によっても、製造することができる。
まず、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とを重ね合わせ、側端部17側の周縁部をヒートシールすることにより融着する。排出口14を下端部15側の任意の位置に位置するように、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とで排出口14を挟み込み、下端部15側をヒートシールすることにより融着する。第一薬剤収納室22と第二薬剤収納室24とに区画する位置に、剥離可能なシールをして弱シール部26を設ける。次いで、上端部13から第一薬剤収納室22に任意の量の第一薬剤Aを充填する。上端部13側をヒートシールにより融着し、融着された上端部13側の任意の位置を穿孔して、吊孔16を設ける。次いで、排出口14から第二薬剤収納室24内に第二薬剤Bを充填し、排出口14をゴム栓等で閉栓し、さらに剥離可能に保護フィルムで排出口14を覆う。
その後、弱シール部26を挟持するように可撓性フィルム11,12に共振タグ30,40を設けることで、医療用複室容器10に第一薬剤A及び第二薬剤Bを収容した薬剤入り医療用複室容器を得ることができる。
【0031】
弱シール部26の形成方法として、例えば、容器本体20の内面側をポリエチレンとポリプロピレンの混合物等の融点や相溶性の異なる樹脂組成物からなる層を形成させた樹脂製のフィルムを用いて、高融点の樹脂の溶融温度以下でシールする方法が挙げられる。あるいは、ヒートシールを低温で行い、半溶着状態で弱接着させる方法、また、弱シール部26の形成部分に予め電子線等で架橋した可撓性材料を用いたり、強融着部分を特定の面積割合で発生させるシールバーを用いたり、あるいは、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12との間に易剥離性の樹脂テープを挟む方法等が挙げられる。
【0032】
共振タグ30,40を貼着するタイミングは特に限定されず、例えば、弱シール部26を設ける前にこれらを設けてもよい。
【0033】
第一薬剤Aは流動性を有するものであればよく、液体、粉体等の薬剤を挙げることができる。第二薬剤Bは第一薬剤Aと同様である。ただし、医療用複室容器10は、輸液用の薬剤や、注射用の薬剤の収容に用いられることが多いため、第一薬剤A又は第二薬剤Bの一方が液体の薬剤であるか、第一薬剤A及び第二薬剤Bが共に液体の薬剤である。
【0034】
第一薬剤A、第二薬剤Bの充填量は、薬剤の種類に応じて決定できる。医療用複室容器10の容量及び形状は、弱シール部26を剥離した際の共振タグ30,40同士の離間の程度を勘案して決定することができる。弱シール部26を剥離した際の共振タグ30と共振タグ40との離間の程度は、互いが近傍に位置することによる影響が排除され、共振タグ30,40が発信手段から発せられる特定の周波数と共振可能となる距離であればよく、共振タグ30,40の能力に応じて決定することができる。例えば、離間距離は5mm以上となることが好ましい。
【0035】
本発明の医療用複室容器10を用いた薬剤混合の認識方法について、共振タグ30と共振タグ40とが、同じ共振周波数を有するものである場合について、図2、5を用いて説明する。図5は弱シール部26が剥離した状態の医療用複室容器10の断面図である。
まず、図2に示すように、弱シール部26がシールされた状態の医療用複室容器10を用意する。この時点では、弱シール部26がシールされた状態、即ち、共振タグ30,40同士が弱シール部26を介して隣接する状態であるため、発信手段から共振周波数の電磁波が発せられていても、共振タグ30,40は互いに影響を及ぼしあい、通信が阻害され、いずれも共振しない。そのため、共振タグ30,40はエコー波を発信せず、チェッカーなどの受信手段とは通信しない。
次に、図2に示す医療用複室容器10の第一薬剤収納室22又は第二薬剤収納室24を外部から任意の圧力で押圧すると、図5に示すように、弱シール部26が剥離し、第一薬剤収納室22と第二薬剤収納室24とが連通する。そして、第一薬剤Aと第二薬剤Bとが混合される。
【0036】
また、このように弱シール部26が剥離すると、可撓性フィルム11側の共振タグ30と可撓性フィルム12側の共振タグ40とが離間する。このように共振タグ30,40が互いに離間すると、互いの影響が排除され、共振タグ30,40はいずれも、発信手段からの電磁波に共振し、エコー波を発信する。そして、このエコー波を受信手段が受信する。その結果、弱シール部26が剥離し、第一薬剤Aと第二薬剤Bとが混合されたことを認識することができる。
この例のように、共振タグ30と共振タグ40とが、同じ共振周波数を有するものであると、可撓性フィルム11側の共振タグ30と可撓性フィルム12側の共振タグ40との両方が発信手段および受信手段と通信する。そのため、発信手段および受信手段と医療用複室容器10との位置関係、向きなどによらず、安定に通信を行うことができ、薬剤混合の認識をより安定に行える。
【0037】
共振タグ30と共振タグ40とが、異なる共振周波数を有するものである場合には、発信手段からは、共振タグ30,40のうちいずれか一方の共振周波数を発するようにすればよい。その場合、弱シール部26が剥離して、共振タグ30,40が互いに離間すると、発信手段から発せられる共振周波数に共振する方の共振タグが、共振してエコー波を発信する。そして、受信手段がこのエコー波を受信することにより、第一薬剤Aと第二薬剤Bとの混合が認識できる。
ただし、このように共振タグ30と共振タグ40とが、異なる共振周波数を有するものであると、いずれか一方の共振タグしか発信手段および受信手段と通信しない。そのため、通信する方の共振タグが設けられた面が、発信手段および受信手段の方に向くように医療用複室容器を配置するなど、発信手段および受信手段と医療用複室容器との位置関係、向きなどを配慮し、安定な通信が行えるようにすることが好ましい。
【0038】
なお、発信手段と受信手段は別々の装置であってもよく、両方の機能を備える同一の装置であってもよい。
【0039】
本発明の医療用複室容器によれば、弱シール部の剥離によって共振タグを通信可能とすることで、目視のみに頼ることなく薬剤の混合作業を容易かつ確実に行える。そして、弱シール部の剥離後においても、随時、薬剤が混合していることを認識できるため、医療行為の正確性を確実に確認できる。さらに、特にこのような共振タグを用いた方法では、弱シール部の剥離前に共振タグが意図せず破損したとしても、混合前の薬剤を誤投与するおそれはない。すなわち、共振タグが破損した場合には、弱シール部を剥離しても共振タグが共振せず、弱シール部が依然剥離されていないものと誤認識されるだけであり、混合前の薬液の誤投与にはつながらない。
また、特に、共振タグ30と共振タグ40とが、同じ共振周波数を有するものであると、発信手段および受信手段と医療用複室容器との位置関係、向きなどによらず、より安定に薬剤混合を認識できる。
また、共振タグは、使い捨て用途としては構成がシンプルであり、比較的安価であるため、低コストで医療用複室容器を提供できる。
【0040】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
上述の医療用複室容器10は、第一薬剤収納室22と第二薬剤収納室24との2つの薬剤収納室に区画された容器本体20を有するが、本発明の医療用複室容器は、容器本体が3つ以上の薬剤収納室に区画されていてもよい。
【0041】
上述の医療用複室容器10の弱シール部26の形状は直線状のもので説明しているが、弱シール部の形状は、曲線状や円弧状に形成されていてもよい。
【0042】
上述の医療用複室容器10には、接着剤38により共振タグ30,40が貼着されているが、例えば、可撓性フィルムを多層フィルムとして、前記多層フィルムを構成する層との間に共振タグが配置されていてもよい。
【0043】
上述の医療用複室容器10は、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とを貼り合わせて容器本体20が形成されているが、例えば、容器本体はブロー成形により形成されたものであってもよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
(実施例)
実施例には、図1に示す医療用複室容器10と同様の医療用複室容器を下記仕様にて製造して用いた。製造した医療用複室容器の第一薬剤収納室には水1000mLを充填し、第二薬剤収納室には水1000mLを充填した。
ついで、こうして調製された水入り医療用複室容器の弱シール部に、周波数8.2MHzの電磁波を発信する発信手段としての機能と、共振タグが発信するエコー波を受信する受信手段としての機能とを備えた共振タグハンディタイプリーダ(BODY SCANNER、gatway社製)を近づけた。この時点では、共振タグハンディタイプリーダは、何も受信しなかった。
この状態で、医療用複室容器の弱シール部を剥離して、第一薬剤収納室と第二薬剤収納室とを連通させ、その際の共振タグハンディタイプリーダでのエコー波の受信状況を確認した。
合計3袋の水入り医療用複室容器について、同様の操作を行い、受信状況を確認した。
【0045】
<医療用複室容器の仕様>
可撓性フィルム材質:ポリエチレン
第一薬剤収納室:幅29cm×長さ16cm
第二薬剤収納室:幅29cm×長さ17cm
共振タグ:一対の共振タグには同じものを用いた。すなわち、(株)三宅製、型番DS3040、共振周波数8.2MHzで、厚み20μmのポリプロピレン製基材を具備している共振タグを用いた。
【0046】
上述のように合計3袋について受信状況の確認を行った結果、3袋全てにおいて、弱シール部の剥離前には、共振タグハンディタイプリーダはエコー波を受信せず、剥離することによって、エコー波を受信することができた。
また、医療用複室容器と共振タグハンディタイプリーダとの位置関係を様々に変化させても、同様に安定にエコー波を受信することができた。
このことから、本発明の医療用複室容器では、弱シール部が剥離したことを共振タグハンディタイプリーダ等での受信により確認でき、薬剤の混合作業を目視のみに頼ることなく確実に行えることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0047】
10 医療用複室容器
11,12 可撓性フィルム
20 容器本体
22 第一薬剤収納室
24 第二薬剤収納室
26 弱シール部
30,40 共振タグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する容器本体を有し、該容器本体は、該容器本体の対向面が剥離可能な弱シール部でシールされて2以上の薬剤収納室に区画され、前記弱シール部を挟持するように一対の共振タグが設けられていることを特徴とする、医療用複室容器。
【請求項2】
2種以上の薬剤を収容した請求項1に記載の医療用複室容器を用いた薬剤混合の認識方法であって、
前記弱シール部がシールされた状態とし、
前記弱シール部を剥離することで前記2種以上の薬剤を混合すると共に、前記一対の共振タグを互いに離間させることで、前記一対の共振タグのうち少なくとも一方を発信手段からの電磁波に共振させてエコー波を発信させ、前記エコー波を受信手段が受信することで、前記弱シール部の剥離を認識することを特徴とする、薬剤混合の認識方法。
【請求項3】
請求項1に記載の医療用複室容器に薬剤を収容したことを特徴とする、薬剤入り医療用複室容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−193980(P2011−193980A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62678(P2010−62678)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000143880)株式会社細川洋行 (130)
【出願人】(000144452)株式会社三宅 (14)
【Fターム(参考)】