説明

医療用複室容器

【課題】仕切部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分され、かつ、第2の薬剤室内に収納された小容器と有する医療用複室複室であって、小容器内の薬剤が混合されることなく投与されることを防止する医療用複室容器を提供する。
【解決手段】医療用複室容器1は、剥離可能な弱シール部により形成された仕切部9により第1の薬剤室11と第2の薬剤室12と、第2の薬剤室内に収納された小容器3を有する。小容器3は、下部側に設けられた剥離もしくは破断可能な開封可能部33と、下部側に設けられ、両面が容器本体2の内面に固着された固着部34を有し、仕切部9は、先行剥離完了部9cを備え、小容器3の固着部34は、先行剥離完了部9c付近に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部において輸液などの薬液に薬剤の調製や配合を行うことができる医療用複室容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者に輸液を行うに先だって、輸液剤の入ったバイアル瓶やソフト軟質バッグ等に、予め輸液剤に配合することが困難な薬剤、例えば、ビタミン剤、抗生物質等の薬剤を混合、溶解させ、薬液を調整することが行われている。このような薬液の調整は、液体状の薬剤の場合はそのまま、固体状の薬剤の場合は注射器で溶解液を加え溶解したのち、注射器に吸引し輸液剤が充填されたバイアル瓶もしくは軟質バッグに注入混合して行われている。しかし、このような薬液の調整は、操作手順が煩雑であるという欠点があり、迅速な輸液を必要とする場合等には特に不便である。また、上記のような薬液の調整は、一旦輸液剤の一部を取り出し、別の容器内で混合・溶解させるため汚染された雰囲気や器具に接触する可能性があり、薬液の細菌による汚染や異物混入のおそれがあった。
【0003】
このような問題を解決するものとして、例えば、特開2006−247378号公報(特許文献1)に示すものがある。この特許文献1の医療用複室容器は、仕切り用弱シール部13により、薬剤を収納可能な複数の収納室9,11に仕切られた容器本体5と、該容器本体5に取り付けられた薬剤排出部7と、収納室9,11の少なくとも1つに収納され、内部に薬剤を収納した小容器15とを備え、仕切り用弱シール部13は、容器本体5の対向する内壁面を離間可能に固着することで構成され、小容器15は、仕切り用弱シール部13の開封に伴う内壁面の離間に伴われて開封するように、容器本体5の対向する内壁面のそれぞれに固着された第1固着部19と、第1固着部19よりも仕切り用弱シール部13から離れた箇所で、容器本体5の対向する内壁面の少なくともどちらか一方に固着された第2固着部20とを有する。
【0004】
また、本件出願人は、特開2008−200367号公報(特許文献2)を提案している。特許文献2の図19ないし図21の医療用複室容器100は、容器本体120と、この容器本体120に取り付けられた排出ポート103とを備えている。容器本体120は、解除可能な仕切部19により区分された2つの薬剤収納部11,12と、それぞれの薬剤収納部に収納された薬剤を備えている。そして、排出ポート103は、第1の薬剤収納部11側に取り付けられており、混注ポート13は、第2の薬剤収納部12側に取り付けられている。
そして、第2の薬剤室12内には、小容器107が収納されている。そして、図19ないし図21に示すように、小容器107は、下端部付近に設けられた剥離可能な弱シール118により、密封されている。さらに、図21に示すように、小容器107を形成する一方のシート107aの下端部の表面は、容器本体120を構成する一方のシート120aの内面に固着部119a部分にて固着されており、同様に、小容器107を形成する他方のシート107bの下端部の表面は、容器本体120を構成する他方のシート120bの内面に固着部119b部分にて固着されている。小容器107を形成する2枚のシートの下端部間は、固着されていない。容器本体120には、小容器107に近接するとともに、その上方に位置する剥離可能な動き規制用弱シール部117を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−247378号公報
【特許文献2】特開2008−200367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1および2のものでも十分な効果を有するが、医療用複室容器の操作によっては、仕切り用弱シール部(仕切部)が、部分剥離し、2つの収納室(2つの薬剤室)は連通し、それらの収納室内の薬剤は、混合されたものの、小容器が開封しないという状態となることがあった。
そこで、本発明の目的は、剥離可能な弱シール部により形成された仕切部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分されており、かつ、第1の薬剤室に充填された第1の薬剤と、第2の薬剤室に収納された第2の薬剤と、第2の薬剤室内に収納された第3の薬剤を収納した小容器と有する医療用複室複室であって、弱シール部の剥離後、すみやかに小容器が開封し、小容器内の薬剤が混合されることなく投与されることを防止する医療用複室容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
(1) 可撓性材料により形成され、薬液が収納された容器本体と、前記容器本体内に収納された薬液を排出するための排出ポートとを備える医療用複室容器であって、
前記容器本体は、剥離可能な弱シール部により形成された仕切部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分されており、かつ、前記第1の薬剤室に充填された第1の薬剤と、前記第2の薬剤室に収納された第2の薬剤を備え、前記排出ポートは、前記容器本体の前記第1の薬剤室に固定されており、
前記第2の薬剤室内には、第3の薬剤を収納した小容器が収納されており、該小容器は、下部側に設けられた剥離もしくは破断可能な開封可能部と、下部側に設けられ、両面が前記容器本体の内面に固着された固着部を有し、前記仕切部は、前記薬剤室の押圧により剥離可能であり、かつ、該仕切部の他の部分に比して剥離完了が早い先行剥離完了部を備え、前記小容器の前記固着部は、前記先行剥離完了部付近に設けられている医療用複室容器。
【0008】
(2) 前記仕切部の前記先行剥離完了部は、前記仕切部の他の部分より幅が狭い小幅部により形成されている上記(1)に記載の医療用複室容器。
(3) 前記仕切部の前記先行剥離完了部が形成された部分は、前記仕切部の前記第2の薬剤室側が窪んだ凹部を有するものとなっている上記(1)に記載の医療用複室容器。
(4) 前記小容器の下部は、前記仕切部の前記凹部内に侵入しており、前記小容器の前記固着部は、前記凹部に形成されている上記(3)に記載の医療用複室容器。
(5) 前記凹部は、前記容器本体の側部方向に所定長延びるものである上記(3)または(4)に記載の医療用複室容器。
(6) 前記凹部は、前記容器本体の側部方向に延びる短い凹部でありかつ、複数設けられている上記(3)または(4)に記載の医療用複室容器。
(7) 前記仕切部の前記先行剥離完了部は、前記第1の薬剤室の下方に向かう突出部により形成されている上記(1)に記載の医療用複室容器。
(8) 前記仕切部の前記先行剥離完了部は、前記仕切部の少なくとも中央部に形成された前記第1の薬剤室の下方を向いたV字状部分により形成されている上記(1)に記載の医療用複室容器。
(9) 前記小容器の下部は、前記仕切部の前記V字状部分の形状に対応したV字形状となっている上記(8)に記載の医療用複室容器。
(10) 前記小容器は、前記開封可能部より下方に延び、かつ内面が固着されていない2枚のシート状の下端部を持ち、該下端部に前記固着部が形成されている上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の医療用複室容器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療用複室容器は、可撓性材料により形成され、薬液が収納された容器本体と、容器本体内に収納された薬液を排出するための排出ポートとを備え、容器本体は、剥離可能な弱シール部により形成された仕切部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分されており、第1の薬剤室に充填された第1の薬剤と、第2の薬剤室に収納された第2の薬剤を備え、排出口を有する排出ポートは、前記容器本体の前記第1の薬剤室に固定されており、第2の薬剤室内には、第3の薬剤を収納した小容器が収納されており、小容器は、下部側に設けられた剥離もしくは破断可能な開封可能部と、下部側に設けられ、両面が容器本体の内面に固着された固着部を有し、仕切部は、薬剤室の押圧により剥離可能であり、かつ、仕切部の他の部分に比して剥離完了が早い先行剥離完了部を備え、小容器の固着部は、先行剥離完了部付近に設けられている。
このため、第1の薬剤室を押圧することにより、仕切部は、先行剥離完了部より剥離を開始し、他の部分に先行して剥離が完了し、仕切部の他の部分の剥離に先立ち、先行剥離完了部付近に設けられた小容器の容器本体との固着部に応力が確実に負荷される。このため、小容器の開封可能部が確実に開封される。その後、仕切部の他の部分が剥離し、第1の薬剤室と第2の薬剤室が連通する。これにより、第1の薬剤、第2の薬剤および第3の薬剤が確実に混合され、小容器内の薬剤が混合されることなく投与されることを防止する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の医療用複室容器の一実施例の正面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線断面図である。
【図3】図3は、図2の部分拡大図である。
【図4】図4は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図である。
【図5】図5は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図である。
【図6】図6は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図である。
【図7】図7は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図である。
【図8】図8は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図である。
【図9】図9は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の医療用複室容器について、図面に示す実施例を用いて説明する。
本発明の医療用複室容器1は、可撓性材料により形成され、薬液が収納された容器本体2と、容器本体2内に収納された薬液を排出するための排出ポート4とを備える。容器本体2は、剥離可能な弱シール部により形成された仕切部9により第1の薬剤室11と第2の薬剤室12に区分されており、かつ、第1の薬剤室11に充填された第1の薬剤と、第2の薬剤室に収納された第2の薬剤を備え、排出口を有する排出ポート4は、容器本体2の第1の薬剤室に固定されている。そして、第2の薬剤室12内には、第3の薬剤を収納した小容器3が収納されている。小容器3は、下部側に設けられた剥離もしくは破断可能な開封可能部33と、下部側に設けられ、両面が容器本体2の内面に固着された固着部34を有し、仕切部9は、薬剤室(具体的には、第1の薬剤室11)の押圧により剥離可能であり、かつ、仕切部9の他の部分に比して剥離完了が早い先行剥離完了部9cを備え、小容器3の固着部34は、先行剥離完了部9c(9e)付近に設けられている。
【0012】
本発明の医療用複室容器1は、容器本体2と、容器本体2内に収納された小容器3と、容器本体2の第1の薬剤室側に固定された排出ポート4と、容器本体の第2の薬剤室側に固定された薬剤注入ポート13を備えている。
なお、図中の上側を「上端」、下側を「下端」として説明する。
容器本体2は、表面側シート部2aおよび裏面側シート部2bと、上端側シール部5および下端側シール部6と、下端側シール部6側となる第1の薬剤室11と上端側シール部5側となる第2の薬剤室12に区分する剥離可能な仕切部9とを備える。
容器本体2は、軟質合成樹脂により形成されている。容器本体2は、インフレーション成形法により筒状に成形されたものが好ましい。なお、容器本体2は、例えば、ブロー成形法、共押出インフレーション法などの種々の方法により製造されたものでもよい。また、容器本体2は、上記のような筒状体の外周部の全周(4辺)をシールしたもの、2枚のシート材を重ねその外周部全周をシールしたもの、一枚のシートを2つ折りし、折り曲げ部以外の3辺をシールしたものなどの袋状物であってもよい。
容器本体2は、水蒸気バリヤー性を有することが好ましい。水蒸気バリヤー性の程度としては、水蒸気透過度が、50g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下であることが好ましく、より好ましくは10g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下であり、さらに好ましくは1g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下である。この水蒸気透過度は、JISK7129(A法)に記載の方法により測定される。
【0013】
このように容器本体2が水蒸気バリヤー性を有することにより、医療用複室容器1の内部からの水分の蒸散が防止できる。その結果、充填される薬剤(具体的には、薬液)の減少、濃縮を防止することができる。また、医療用複室容器1の外部からの水蒸気の侵入も防止することができる。
このような容器本体2の形成材料として、ポリオレフィン類が含有されるとき、本発明の有用性が大きいものとなる。したがって、本発明においては、容器本体2の形成材料として、ポリオレフィン類を含むものであるのが好ましい。容器本体2の形成材料として、特に好ましいものとして、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン類に、スチレン−ブタジエン共重合体やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマーあるいはエチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン共重合体,プロピレン−αオレフィン共重合体等のオレフィン系熱可塑性エラストマーをブレンドし柔軟化した軟質樹脂を用いてもよい。この材料は、高強度で柔軟性に富み、耐熱性(特に滅菌時の耐熱性)、耐水性が高い他、加工性が特に優れ、製造コストの低減を図ることができる点で好ましい。
【0014】
さらに、上記のブレンド樹脂を用いる場合には、2種以上の融点の異なる材料を用いることになり、容器本体2の上端側シール部5、下端側シール部6、仕切部9の各シール条件の設定、各シール部分のシール強度の安定化を容易かつ良好に図ることができる。
また、容器本体は、前述したような材料よりなる単層構造のもの(単層体)であってもよいし、また種々の目的で、複数の層(特に異種材料の層)を重ねた多層積層体であってもよい。多層積層体の場合、複数の樹脂層を重ねたものであってもよいし、少なくとも1層の樹脂層に金属層を積層したものであってもよい。複数の樹脂層を重ねたものの場合、それぞれの樹脂の利点を併有することができ、例えば、容器本体2の耐衝撃性を向上させたり、耐ブロッキング性を付与したりすることができる。また、金属層を有するものの場合、容器本体2のガスバリヤー性等を向上させることができる。例えば、アルミ箔等のフィルムが積層された場合、ガスバリヤー性の向上とともに、遮光性を付与したりすることができる。また、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素等の酸化物からなる層を形成した場合、ガスバリヤー性の向上とともに、容器本体2の透明性を維持することができ、内部の視認性を確保することができる。なお、容器本体2が多層積層体である場合、その内表面部分を形成する材料が、前述した材料であるのが好ましい。
容器本体2を構成するシート材の厚さは、その層構成や用いる素材の特性(柔軟性、強度、水蒸気透過性、耐熱性等)等に応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、100〜550μm程度であるのが好ましく、200〜400μm程度であるのがより好ましい。
【0015】
容器本体2は、剥離可能な仕切部9により、2室に区分されている。そして、仕切部は、仕切用弱シール部により形成されている。仕切部9は、第1の弱シール部9aと第1の弱シール部9aの両側に設けられた第1の弱シール部よりバッグへの押圧操作では剥離しにくいもしくは剥離不能な第2の弱シール部9bとを備えている。第1の弱シール部9aが剥離可能な仕切部を実質的に構成している。さらに、この実施例の容器本体2は、仕切部9は、仕切部9の中央部に位置する先行剥離完了部9cを有している。先行剥離完了部9cは、仕切部9の中央部に位置し、仕切部9(第1の弱シール部9a)の他の部分より狭い幅にて所定長延びる小幅部により形成されている。このため、先行剥離完了部9cは、第1の弱シール部9aより、剥離強度が低いものとなっている。
具体的には、剥離可能な仕切部(第1の弱シール部9a)のシール強度(初期の剥離強度)は、1〜7N/10mm、特に、2〜4N/10mmであることが好ましい。シール強度がこの範囲内であれば、輸送や保管中等に誤って第1の弱シール部が剥離することがなく、また、第1の弱シール部を剥離する作業も容易である。第2の弱シール部のシール強度(初期の剥離強度)は、3N/10mm以上、特に、4N/10mm以上であることが好ましい。
【0016】
そして、先行剥離完了部9cのシール強度は、第1の弱シール部9aのシール強度(初期の剥離強度)と同じ強度であっても良いが、シール強度で開封強度を制御(先行剥離完了部を形成)する場合は、1〜5N/10mm、特に、1〜3N/10mm小さいものであることが好ましい。また、先行剥離完了部9cの幅は、第1の弱シール部9aの幅の1/3〜1/4程度であることが好ましい。
また、シール幅もしくはシール形状で開封強度を制御(先行剥離完了部を形成)する場合は、先行剥離完了部9cのシール強度は、第1の弱シール部9aのシール強度と同等であることが製造上好ましいが、それより低いものであってもよい。
また、第2の弱シール部9bのシール強度は、第1の弱シール部9aのシール強度(初期の剥離強度)より、3〜30N/10mm、特に、4〜25N/10mm大きいものであることが好ましい。
特に、この実施例の容器本体2では、仕切部9の先行剥離完了部9cが形成された部分は、仕切部9の第2の薬剤室側が窪んだ凹部を有するものとなっている。そして、この実施例の複室容器1では、後述するように、小容器3の下部は、仕切部9の凹部内に侵入しており、小容器3の固着部34は、凹部に形成されている。
なお、本件出願におけるシール強度の具体的な測定方法としては、以下のようにして行うことができる。
医療用複室容器を各測定対象シール部を含む部分を容器の幅方向に10mmの長さに切断して、それぞれのシール強度部分に含まれる切断片を引張速度300mm/分で測定した値の各シール強度部分の平均値である。
また、医療用複室容器1の容積は、内部に収納する薬剤の種類等によって異なるが、通常は、第1の薬剤室の容積が、50〜3000mL程度であることが好ましく、第2の薬剤室の容積が、50〜3000mL程度であることが好ましい。第1の薬剤室11は、第2の薬剤室12より大きいことが好ましい。第1の薬剤室11と第2の薬剤室12の容積比は、8:2〜6:4であることが好ましい。
【0017】
このように薬剤室を第1の薬剤室11と第2の薬剤室12の2つに区分することにより、反応等による変質、劣化を生じる物質を含有する液体を使用するまでは別々に保存でき、使用に際し、両液を混合することが好ましいとき等に適用することができる。それぞれの薬剤室に収納される薬剤としては、薬液、散剤などが考えられる。特に、本発明の医療用複室容器では、第1の薬剤は、薬液であることが好ましい。第2の薬剤は、薬液もしくは散剤いずれであってもよい。好ましくは、薬液である。第1の薬剤および第2の薬剤の組合せとしては、例えば、輸液剤では、メーラード反応による着色を防止するために、アミノ酸電解質液とブドウ糖液との組合せとしたり、他に、ブドウ糖液と重曹液等の組み合わせ、また、腹膜透析液剤としてブドウ糖が配合される側のpHを3〜5とし、他方の電解質液を混合後、投薬時にほぼ中性域のpHとなるように調整したものなどが挙げられる。
なお、本発明において、第1の薬剤および第2の薬剤は、特に限定されず、例えば、生理食塩水、電解質溶液、リンゲル液、高カロリー輸液、ブドウ糖液、アミノ酸輸液、脂肪輸液、注射用水、腹膜透析液、経口・経腸栄養剤等、いかなるものであってもよい
【0018】
また、本発明の医療用複室容器が備える薬剤排出ポート4は、下端側シール部6の排出ポート固定部のシート材間に挟まれた状態にて融着され、容器本体2に対し液密に固着されている。
薬剤排出ポート4は、容器本体2内に充填された薬剤を排出するためのものである。この実施例における排出ポート4は、図2に示すように、上端(第1の薬剤室側端部)が開口した筒状部材41と、筒状部材41の下端側に液密に取り付けられた薬剤排出用針により連通可能な連通部を備えている。連通部は、キャップ部材42と、その後端開口を封止するとともに薬剤排出用針の刺通が可能な弾性部材43とを備えている。連通部としては、このような形態のものに限定されるものではない。
また、この実施例の医療用複室容器1は、薬剤注入ポート13を備えている。薬剤注入ポート13は、容器本体2内に薬剤を注入するためのものである。この実施例における注入ポート4は、図1に示すように、下端(第2の薬剤室側端部)が開口した筒状部材と、筒状部材の上端側に液密に取り付けられた薬剤注入用針により連通可能な連通部を備えている。連通部は、キャップ部材と、その後端開口を封止するとともに薬剤注入用針の刺通が可能な弾性部材とを備えている。連通部としては、このような形態のものに限定されるものではない。
【0019】
そして、本発明の医療用複室容器1は、第2の薬剤室12内には、小容器3が収納されている。そして、図1ないし図3に示すように、小容器3は、下端部付近に破断もしくは破断可能な開封可能部33と、容器本体2への固着部34(34a,34b)を有している。特に、この実施例の医療用複室容器1では、小容器3は、剥離可能な弱シールにより開封可能部33が形成されており、さらに、図3に示すように、小容器3を形成する一方のシート31aの下端部の表面は、容器本体2を構成する一方のシート2aの内面に固着部34a部分にて固着されており、同様に、小容器3を形成する他方のシート31bの下端部の表面は、容器本体2を構成する他方のシート2bの内面に固着部34b部分にて固着されている。そして、小容器3を形成する2枚のシートの下端部間は、固着されていない。また、小容器3は、上端シール部32が強シールとなっている。また、小容器33は、両側部および下部が、弱シールからなる開封可能部33となっている。このため、仕切部の剥離、特に、側部の剥離を阻害しない。
【0020】
さらに、小容器3の下端部は、図1に示すように、仕切部9の先行剥離完了部9cの形成部分に設けられた凹部内に侵入しており、小容器3の固着部34a,34bは、凹部に形成されている。つまり、小容器3の下端部は、仕切部の凹部の内面にて、容器本体2に固着されている。また、この実施例では、先行剥離完了部9cは、薬剤室(具体的には、第1の薬剤室11)の押圧時の剥離開始部でもある。このため、第1の薬剤室11を押圧することにより、仕切部9は、先行剥離完了部9cより剥離を開始し、当該部分(先行剥離完了部9c)の剥離後、応力は小容器3の容器本体2との固着部に応力が負荷されるため、小容器3の開封可能部33が剥離され、開封される。その後、仕切部9の他の部分が剥離し、第1の薬剤室と第2の薬剤室が連通する。
小容器3の容積としては、2〜6mlが好ましい。小容器3内に収納される薬剤35としては、輸液剤に配合・溶解させるものであって、例えば抗生物質、ビタミン剤(総合ビタミン剤)、各種アミノ酸、ヘパリン等の抗血栓剤、インシュリン、抗腫瘍剤、鎮痛剤、強心剤、静注麻酔剤、抗パーキンソン剤、潰瘍治療剤、副腎皮質ホルモン剤、不整脈用剤、補正電解質、抗ウィルス薬、免疫賦活剤等が挙げられる。小容器3の構成材料としては、容器本体2において説明したものが好適に使用できる。
【0021】
また、容器本体2の仕切部9の先行剥離完了部の形態および小容器3の形態は、図4に示す医療用複室容器10のようなものであってもよい。
この実施例の医療用複室容器10では、仕切部9は、仕切部9の中央部に位置する先行剥離完了部9cを有している。先行剥離完了部9cは、仕切部9の中央部に位置する他の部分より幅が狭い複数の小幅部により形成されている。このため、先行剥離完了部9cは、第1の弱シール部9aより、剥離強度が低いものとなっている。また、この実施例においても、先行剥離完了部9cは、薬剤室(具体的には、第1の薬剤室11)の押圧時の剥離開始部でもある。
特に、この実施例の容器本体2では、仕切部9の先行剥離完了部9cが形成された部分は、仕切部9の第2の薬剤室側が窪んだ凹部を有するものとなっている。そして、この実施例の複室容器10では、後述するように、小容器3の下部は、仕切部9の各凹部内に侵入する突出部を有しており、小容器3の固着部34は、突出部かつ凹部に形成されている。このため、固着部も複数に分割された状態となっている。
そして、この実施例においても、仕切部9(第1の弱シール部9a)のシール強度(初期の剥離強度)、仕切部9(第1の弱シール部9a)と先行剥離完了部9cのシール強度差は、上述した実施例と同じであることが好ましい。
また、容器本体2の仕切部9の先行剥離完了部の形態は、図5に示す医療用複室容器20のようなものであってもよい。
この実施例の医療用複室容器20では、先行剥離完了部は、仕切部9の少なくとも中央部に形成された第1の薬剤室11の下方を向いたV字状部分9eにより形成されている。小容器3は、下端部がV字状部分9eの上縁付近に固定されている。この実施例では、先行剥離完了部9eを構成するV字状部分の先端部が、薬剤室(具体的には、第1の薬剤室11)の押圧時の剥離開始部となる。
【0022】
さらに、容器本体2の仕切部9の先行剥離完了部の形態および小容器3の形態は、図6に示す医療用複室容器30のようなものであってもよい。
この実施例の医療用複室容器30では、仕切部9は、第1の薬剤室11の下方を向いたV字状部分となっており、V字状部分により先行剥離完了部9eが形成されている。この実施例では、先行剥離完了部9eを構成するV字状部分の先端部が、薬剤室(具体的には、第1の薬剤室11)の押圧時の剥離開始部となる。
そして、この実施例の小容器3aでは、下端部が、上記の先行剥離完了部(V字状部分)9eの上縁形状に対応した形状のV字状形状となっている。そして、小容器3aは、V字状の下端部が、仕切部のV字状部分9eの上縁付近に固定されている。そして、この実施例の小容器3aでは、剥離可能な弱シールにより形成された開封可能部33の下部もV字状となっており、さらに、容器本体2への固着部34もV字状となっている。
さらに、容器本体2の仕切部9の先行剥離完了部の形態および小容器3の形態は、図7に示す医療用複室容器40のようなものであってもよい。
この実施例の医療用複室容器40と上述した医療用複室容器30との相違は、仕切部9の側部形状のみである。上述した医療用複室容器30では、仕切部9は、その全体がV字状となっているが、この実施例の医療用複室容器40では、中央部のみがV字状となり、先行剥離完了部9fを構成し、側部は、容器本体2の長手方向に対して直交するように延びている。
【0023】
さらに、容器本体2の仕切部9の先行剥離完了部の形態および小容器3の形態は、図8に示す医療用複室容器50のようなものであってもよい。
この実施例の医療用複室容器50では、仕切部9は、第1の薬剤室11の下方を向いたV字状部分となっており、V字状部分により先行剥離完了部9gが形成されている。さらに、先行剥離完了部9gが形成された部分は、他の部分より狭い幅にて所定長延びる小幅部となっている。また、仕切部9の先行剥離完了部が形成された部分は、仕切部9の第2の薬剤室側が窪んだV字状の凹部を有するものとなっている。この実施例では、先行剥離完了部9gを構成するV字状部分の先端部が、薬剤室(具体的には、第1の薬剤室11)の押圧時の剥離開始部となる。
そして、この実施例の小容器3aでは、下端部が上記の先行剥離完了部9gのV字状の凹部に対応した形状のV字状形状となっている。この実施例の複室容器50では、小容器3aのV字状の下部は、仕切部9のV字状の凹部内に侵入しており、小容器3aの固着部34は、凹部に形成されている。また、この実施例の小容器3aでは、剥離可能な弱シールにより形成された開封可能部33の下部もV字状となっており、さらに、容器本体2への固着部34もV字状となっている。
【0024】
さらに、容器本体2の仕切部9の先行剥離完了部の形態および小容器3の形態は、図9に示す医療用複室容器60のようなものであってもよい。
この実施例の医療用複室容器60では、仕切部9は、全体がほぼ同じ幅で形成され、かつ、明確な剥離開始部を持たないものとなっている。具体的には、仕切部9は、ほぼ同じ幅を有し、かつ、中央部が排出ポート方向に突出した突出部9hを有するものとなっており、この突出部が、先行剥離完了部9hを構成している。特に、この実施例の医療用複室容器60では、仕切部9の先行剥離完了部9hが形成された部分は、仕切部9の第2の薬剤室側が窪んだ凹部を有するものとなっている。そして、上述した医療用複室容器1と同様に、小容器3の下部は、仕切部9の凹部内に侵入し固着されている。言い換えれば、小容器3の固着部34は、凹部に形成されている。なお、このようなほぼ同じ幅の仕切部9を有する場合、先行剥離完了部9hは、他の部分の仕切部9のシール強度(初期の剥離強度)より十分に小さいものであることが好ましい。この実施例では、先行剥離完了部9hが、薬剤室(具体的には、第1の薬剤室11)の押圧時の剥離開始部となる。
【符号の説明】
【0025】
1 医療用複室容器
2 容器本体
3 小容器
4 排出ポート
9 仕切部
9c 先行剥離完了部
9e 剥離開始部
11 第1の薬剤室
12 第2の薬剤室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性材料により形成され、薬液が収納された容器本体と、前記容器本体内に収納された薬液を排出するための排出ポートとを備える医療用複室容器であって、
前記容器本体は、剥離可能な弱シール部により形成された仕切部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分されており、かつ、前記第1の薬剤室に充填された第1の薬剤と、前記第2の薬剤室に収納された第2の薬剤を備え、前記排出ポートは、前記容器本体の前記第1の薬剤室に固定されており、
前記第2の薬剤室内には、第3の薬剤を収納した小容器が収納されており、該小容器は、下部側に設けられた剥離もしくは破断可能な開封可能部と、下部側に設けられ、両面が前記容器本体の内面に固着された固着部を有し、前記仕切部は、前記薬剤室の押圧により剥離可能であり、かつ、該仕切部の他の部分に比して剥離完了が早い先行剥離完了部を備え、前記小容器の前記固着部は、前記先行剥離完了部付近に設けられていることを特徴とする医療用複室容器。
【請求項2】
前記仕切部の前記先行剥離完了部は、前記仕切部の他の部分より幅が狭い小幅部により形成されている請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項3】
前記仕切部の前記先行剥離完了部が形成された部分は、前記仕切部の前記第2の薬剤室側が窪んだ凹部を有するものとなっている請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項4】
前記小容器の下部は、前記仕切部の前記凹部内に侵入しており、前記小容器の前記固着部は、前記凹部に形成されている請求項3に記載の医療用複室容器。
【請求項5】
前記凹部は、前記容器本体の側部方向に所定長延びるものである請求項3または4に記載の医療用複室容器。
【請求項6】
前記凹部は、前記容器本体の側部方向に延びる短い凹部でありかつ、複数設けられている請求項3または4に記載の医療用複室容器。
【請求項7】
前記仕切部の前記先行剥離完了部は、前記第1の薬剤室の下方に向かう突出部により形成されている請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項8】
前記仕切部の前記先行剥離完了部は、前記仕切部の少なくとも中央部に形成された前記第1の薬剤室の下方を向いたV字状部分により形成されている請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項9】
前記小容器の下部は、前記仕切部の前記V字状部分の形状に対応したV字形状となっている請求項8に記載の医療用複室容器。
【請求項10】
前記小容器は、前記開封可能部より下方に延び、かつ内面が固着されていない2枚のシート状の下端部を持ち、該下端部に前記固着部が形成されている請求項1ないし9のいずれかに記載の医療用複室容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−110169(P2011−110169A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268124(P2009−268124)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】