説明

医療用針及び蛇腹部材の製造方法

【課題】蛇腹部材の耐久性を低下させることなく、蛇腹部材の収縮時の全長を小さくできるとともに、患者の皮膚に与える影響を防止又は抑制することができる医療用針及び蛇腹部材の製造方法を提供する。
【解決手段】医療用針10は、針体12に対してプロテクタ20を先端方向に移動させることに伴って伸張する蛇腹部材16を備える。蛇腹部材16は、その蛇腹部36の一方側を構成し相対的に大きい折幅で形成された第1形状部42と、蛇腹部36の他方側を構成し相対的に小さい折幅で形成された第2形状部44とを有し、第1形状部42を上側に、第2形状部42を下側にした状態で配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採血、輸血、輸液等に用いられる医療用針及び医療用針に設けられる蛇腹部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
採血、輸血、輸液等において、血液バッグ、血液処理回路(成分採血回路、血液透析回路等)の採血器具、輸血セット、輸液セット等に接続して使用する医療用針が知られている。このような医療用針は、一般に、先端に鋭利な針先を有する針体と、この針体の基端に設けられたハブとから構成される。使用後の医療用針を廃棄する場合には、廃棄作業者が不用意に針体に触れることを防止するために、針体を覆う必要がある。そのため、従来では、使用後の針体を覆うことができるプロテクタを備えた医療用針が提案されている(例えば、下記特許文献1、2参照)。
【0003】
また、プロテクタを備えた従来の医療用針においては、プロテクタ本体とハブとを蛇腹部材で連結し、針体がプロテクタ本体の基端から抜け出ないように構成したものがある(例えば、下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3245843号公報
【特許文献2】特開平3−191965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、翼状針を用いて輸液等を行う場合、翼状針を患者の皮膚に穿刺した後、粘着テープ等により翼状針のウイングを患者の皮膚に固定する。蛇腹部材は、蛇腹の折幅を大きくするほど収縮時の全長を短くできるが、折幅が大きいと収縮時の外径が大きくなる。このため、折幅の大きい蛇腹部材を翼状針に適用した場合、翼状針を患者の皮膚に固定した際に、患者の皮膚に蛇腹部材が押圧状態で接触し、患者の皮膚に影響を与える。
【0006】
一方、患者の皮膚への蛇腹部材の接触を避けるために、蛇腹部材の折幅を小さくして小径にすると、蛇腹の折数が増大することにより、収縮時の全長を小さくすることができないばかりか、畳んだ際の負荷が大きくなり、蛇腹部材の耐久性が低下する。
【0007】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、蛇腹部材の耐久性を低下させることなく、蛇腹部材の収縮時の全長を小さくできるとともに、患者の皮膚に与える影響を防止又は抑制することができる医療用針及び蛇腹部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、先端に針先を有する針体と、針体に対して相対的に先端方向に移動して少なくとも前記針先を覆うことが可能なプロテクタと、前記プロテクタの基端部に接続されるとともに前記針体が挿通され、前記針体に対して前記プロテクタを先端方向に移動させることに伴って伸張する蛇腹部材と、を備え、前記蛇腹部材は、その蛇腹部の一方側を構成し相対的に大きい折幅で形成された第1形状部と、前記蛇腹部の他方側を構成し相対的に小さい折幅で形成された第2形状部とを有し、前記第1形状部を上側に、前記第2形状部を下側にした状態で配置されることを特徴とする。
【0009】
上記のように構成された医療用針では、蛇腹部材は、第1形状部の折幅が大きく、第2形状部の折幅が小さいため、収縮時の全長を小さくできる。また、第2形状部の折幅を小さくすることで、医療用針を患者の皮膚に固定した際に、患者の皮膚に第2形状部が接触しにくく、患者の皮膚に与える影響を防止又は抑制することができる。さらに、第2形状部の折幅を小さくしても、折幅が大きい第1形状部では、折数が少ないため、折り畳んだ際の負荷が小さいことから、蛇腹部材の耐久性を低下させることがない。
【0010】
上記の医療用針において、前記第1形状部は、ジグザグ状に形成されているとよい。このように、第1形状部がジグザグ状に形成された蛇腹部材は、製造工程において、筒状体の下側部分がジグザグ状の折り目に引き込まれ、下側部分のたるみの発生が抑制されているため、第2形状部の折幅を確実に小さくできるとともに、蛇腹部材の全長を短くできる。
【0011】
上記の医療用針において、前記蛇腹部材は、フィルム材により構成されるとよい。蛇腹部材をフィルム材で構成することにより、蛇腹部材の収縮時の全長を効果的に短くできる。
【0012】
また、本発明は、医療用針に設けられる蛇腹部材の製造方法であって、フィルム材からなる基材の端部同士を接合して筒状体を形成する筒状体形成工程と、前記筒状体を軸線方向に圧縮することにより、前記筒状体の一方側の部位を折り畳んで相対的に折幅の大きい第1形状部を形成するとともに、前記筒状体の他方側の部位を折り畳んで相対的に折幅の小さい第2形状部を形成する蛇腹部形成工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
この方法により製造された蛇腹部材は、第1形状部の折幅を大きく、第2形状部の折幅を小さくできる。従って、蛇腹部材の耐久性を低下させることなく、蛇腹部材の収縮時の全長を小さくできるとともに、患者の皮膚に与える影響を防止又は抑制することができる。
【0014】
上記の蛇腹部材の製造方法において、前記蛇腹部形成工程では、前記筒状体の前記一方側の部位をジグザグ状に折り畳むと、筒状体の他方側の部位がジグザグ状の折り目に引き込まれ、当該他方側の部位にたるみが発生することを効果的に抑制することができる。よって、折幅の小さい第2形状部を確実に形成することができる。
【0015】
上記の蛇腹部材の製造方法において、前記筒状体形成工程では、ループ状にした前記基材の内面側の縁部同士を接合すると、筒状体の一方側の部位をジグザグ状に折り畳み易くなる。
【0016】
上記の蛇腹部材の製造方法において、前記筒状体形成工程では、軸線方向に突出した筒部を前記筒状体の両端に形成し、前記蛇腹部形成工程は、前記筒状体に心棒を挿通させる工程と、前記心棒をガイドとして前記筒状体を軸線方向に圧縮する工程と、を有するとよい。これにより、折幅の大きい第1形状部と折幅の小さい第2形状部とを備えた蛇腹部材を簡単に製作できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、蛇腹部材の耐久性を低下させることなく、蛇腹部材の収縮時の全長を小さくできるとともに、患者の皮膚に与える影響を防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る医療用針の全体斜視図である。
【図2】図1に示した医療用針のプロテクタ本体の基端部とその周辺部位を示す一部省略縦断面図である。
【図3】収縮時よりも若干だけ伸張した状態の蛇腹部材の斜視図である。
【図4】プロテクタにより針体が覆われ、蛇腹部材が伸張した状態の医療用針の斜視図である。
【図5】図5Aは、蛇腹部材の中間成形品である筒状体の斜視図であり、図5Bは、筒状体に心棒を挿通させた状態の斜視図であり、図5Cは、筒状体を圧縮して蛇腹部材を形成した状態の斜視図である。
【図6】筒状体の下側部分がジグザグ形状の折り目に向かって引き込まれる現象を説明する図である。
【図7】図7Aは、比較例に係る蛇腹部材の中間成形品である筒状体を示す斜視図であり、図7Bは、図7Aに示した筒状体に心棒を挿通させた状態の斜視図であり、図7Cは、図7Bに示した筒状体を圧縮して比較例に係る蛇腹部材を形成した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る医療用針について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る医療用針10の構成を示す全体斜視図である。図2は、当該医療用針10の分解斜視図である。
【0021】
本実施形態において、医療用針10は、採血、輸血、輸液等に際し、患者の皮膚に穿刺した状態で固定して使用される翼状針として構成されている。なお、本発明は、翼状針に限らず、他の種類の医療用針10、例えば、持続的な点滴静注を行う際に用いられる留置針等にも適用可能である。
【0022】
翼状針として構成された医療用針10は、針体12と、翼部材14と、蛇腹部材16と、ハブ18とを備える。
【0023】
針体12は、採血、輸血、輸液等の処置を受ける患者の皮膚に穿刺される部分であり、例えば、ステンレス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタン又はチタン合金のような金属材料で構成され、その先端部には、鋭利な針先12aが形成されている。この針体12は、血液等の体液或いは輸液等の流路となる中空部を有する円管状に構成されている。針体12の先端部には、液体の出入口として機能する開口12bが形成されている。
【0024】
医療用針10の使用前において、医療用針10にはキャップ22が装着されている。このキャップ22は、その内部に針体12を収納可能な中空筒状に構成され、基端側において翼部材14の先端側と嵌合することで、針体12を覆った状態で医療用針10に装着可能に構成されている。医療用針10を使用する際は、キャップ22を先端方向に引っ張ることで、翼部材14から離脱し、針体12を露出させることができる。
【0025】
翼部材14は、針体12が挿通された中空状のウイング軸部28と、このウイング軸部28から左右にそれぞれ突出する一対のウイング26a、26bとを有する。ウイング軸部28は、一対のウイングを支持するハブとして機能する部分であるとともに、プロテクタ20を構成するプロテクタ本体29として構成されている。プロテクタ20の構成、機能については、後述する。
【0026】
図1に示すように、ウイング26a、26bは、根元部においてウイング軸部28と結合し、根元部から外端に向かって幅広になる板状に形成されている。ウイング26a、26bは、可撓性を有し、根元部付近が屈曲または湾曲することにより、開閉可能に構成されている。ウイング26a、26bの根元部付近には、開閉を容易にするため、ウイング軸部28の軸線方向に沿った薄肉部27a、27bが形成されている。
【0027】
一方のウイング26aの上面には、複数(図示例では2つ)の凸部31aが設けられ、他方のウイング26bの上面には、凸部31aと同数の複数(図示例で2つ)の凹部31bが設けられており、一対のウイング26a、26bが閉じられた(畳まれた)際に、凸部31aと凹部31bとが嵌合するようになっている。凸部31aと凹部31bは、それぞれ1つずつ設けられてもよい。
【0028】
図示例のウイング軸部28とウイング26a、26bとは、一体的に形成されているが、ウイング軸部28とウイング26a、26bとを別々に形成し、それらを結合して翼部材14としてもよい。ウイング軸部28とウイング26a、26bの構成材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)等が挙げられる。
【0029】
上述したように、ウイング26a、26bは、根元部が屈曲して開閉可能な構成とすべく、適度の可撓性を有することが好ましい。一方、ウイング軸部28は、ウイング26a、26bを支持するハブとして機能する部分であるため、使用時に撓まない程度の適度の剛性を有することが望ましい。このため、ウイング軸部28は剛性の高い材料で構成し、ウイング26a、26bは適度の可撓性を有する材料で構成するとよい。ウイング軸部28とウイング26a、26bとが一体的に形成された翼部材14は、例えば、比較的剛性の高い樹脂材料と、比較的剛性の低い樹脂材料を用いた二色成型により製作できる。
【0030】
針体12を生体に対し穿刺する際には、ウイング26a、26bを指で摘んで閉じた(畳んだ)状態とし、穿刺の操作を行う。また、針体12を留置する際には、ウイング26a、26bを開いた状態とし、ウイング26a、26bを粘着テープ等により皮膚に固定する。
【0031】
プロテクタ20は、ウイング軸部28でもあるプロテクタ本体29と、プロテクタ本体29内に設けられた図示しないシャッタとを有する。プロテクタ本体29は、軸線方向の両端が開口した中空状の部材であり、針体12に対して相対的に先端方向に移動することで、少なくとも針体12の針先12aを覆うことが可能である。図示しないシャッタは、プロテクタ本体29が針体12に対して相対的に先端方向に所定距離移動した際に、プロテクタ本体29に対する針体12の先端方法方向への移動を阻止するように作動するものであり、例えば、バネ等の弾性部材により構成される。
【0032】
図2は、プロテクタ本体29の基端部とその周辺部位を示す一部省略縦断面図である。図2に示すように、プロテクタ本体29の基端には、基端拡径部32が設けられている。基端拡径部32の内周部には、内方に突出する複数(図示例では2つ)の突起34が周方向に間隔をおいて設けられている。なお、突起34は1つでもよい。
【0033】
蛇腹部材16は、ウイング軸部28とハブ18との間で伸縮自在に構成されており、先端側でウイング軸部28に固定され、基端側でハブ18に固定されている。図3は、蛇腹部材16の斜視図である。図3では、最も収縮した状態よりも若干だけ伸張した状態の蛇腹部材16を示している。図2及び図3に示すように、蛇腹部材16は、伸縮可能な蛇腹部36と、当該蛇腹部36の先端側に設けられた先端筒部38と、当該蛇腹部36の基端側に設けられた基端筒部40とを有し、両端が開口した管状の部材である。
【0034】
蛇腹部36は、その一方側を構成し相対的に大きい折幅で形成された第1形状部42と、その他方側を構成し相対的に小さい折幅で形成された第2形状部44とを有する。医療用針10において、蛇腹部材16は、第1形状部42を上側に、第2形状部44を下側にした状態で配置される。医療用針10において、針体12の刃面は、上向きであり、第1形状部42は、蛇腹部材16の上部に設けられている。すなわち、針体12の軸線周りを基準とした周方向位置に関して、第1形状部42は、針体12の刃面が向く方向と同じ側(図1で上側)に位置する。
【0035】
第1形状部42は、平面視で、ジグザグ状(互いに反対方向に凸形状となる複数の折り目が軸線方向に沿って交互に配設された形状)に形成されている。第2形状部44は、断面略円弧形状であり、軸線方向に沿って大径部(山部)と小径部(谷部)とが交互に配設された蛇腹形状に形成されている。
【0036】
第2形状部44は、第1形状部42の折幅(図3中の符号W1参照)よりも小さい折幅(図2中のW2参照)で形成されている。第1形状部42の折幅は、例えば、2.0〜3.0mm程度であり、好ましくは、2.4〜2.8mm程度である。第2形状部44の折幅は、例えば、0.1〜1.0mm程度であり、好ましくは、0.3〜0.6mm程度である。
【0037】
先端筒部38は、ウイング軸部28の基端拡径部32に外嵌して固定されている。先端筒部38と基端拡径部32との固定は、接着、熱融着、係合等によることができる。基端筒部40は、ハブ18の後述するハブ軸部48に外嵌して固定されている。基端筒部40とハブ軸部48との固定は、接着、熱融着、係合等によることができる。
【0038】
蛇腹部材16は、例えば、射出成型等によって成形された樹脂成形品により構成することができるが、膜状のフィルム材により構成されることが好ましい。フィルム材により蛇腹部材16が構成されると、収縮時の全長が短い蛇腹部材16を容易に製作することができる。この場合、蛇腹部材16の基材となるフィルム材の厚さは、例えば、30〜100μm程度であり、好ましくは、50〜60μm程度である。
【0039】
また、蛇腹部材16の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、上述した翼部材14の構成材料として例示したものから選択した一種以上の材料を採用し得る。
【0040】
図1に示すように、ハブ18は、医療用針10の基端部を構成する部分である。図2に示すように、ハブ18は、ハブ本体46と、ハブ本体46の先端から突出したハブ軸部48と、ハブ本体46の基端から突出したチューブ接続部50とを有するとともに、針体12の中空部と連通する貫通孔52が軸線方向に形成されている。
【0041】
ハブ本体46は、使用者が指で摘む部分である。ハブ軸部48は、中空状であり、針体12の基端が挿入され固定されている。チューブ接続部50は、輸液バッグ、血液バッグ等に連結された図示しないチューブを接続できるように構成されている。ハブ18の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、上述した翼部材14の構成材料として例示したものから選択した一種以上の材料を採用し得る。
【0042】
図2に示すように、ハブ軸部48の先端寄りの外周部には、ウイング軸部28の基端拡径部32の内周部に形成された突起34と係合可能な複数の凹部49が設けられている。ウイング軸部28とハブ18に対して、ウイング軸部28とハブ18とを軸線方向に離間させる方向の力が作用し、その力が所定以上となったとき、突起34と凹部49との係合が解除され、ウイング軸部28が針体12に対して相対的に先端方向に変位可能となる。
【0043】
本実施形態に係る医療用針10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下、その作用及び効果について説明する。
【0044】
上記のように構成された医療用針10を用いて採血、輸血、輸液等を行うには、先ず、医療用針10からキャップ22(図1参照)を取り外し、針体12を露出させる。次に、一対のウイング26a、26bを指で摘んで閉じた(畳んだ)状態とする。具体的には、両ウイング26a、26bの根元部を屈曲させて一方のウイング26a、26bと他方のウイング26a、26bを重ね合わせるようにして閉じる。このとき、一方のウイング26a、26bに設けられた凸部31aと他方のウイング26a、26bに設けられた凹部31bとが嵌合し、互いのずれが防止される。
【0045】
ウイング26a、26bを閉じた状態としたら、次に、閉じられたウイング26a、26bを指で摘んで保持しつつ、針体12を生体に対して穿刺する。針体12を生体に対して穿刺した状態で留置する際には、ウイング26a、26bを開いた状態に戻し、ウイング26a、26bを粘着テープ等により皮膚に固定する。
【0046】
ここで、医療用針10における蛇腹部材16は、第1形状部42の折幅(図3中の符号W1参照)が大きく、第2形状部44の折幅(図2中の符号W2参照)が小さく構成されている。後述するように、このような蛇腹部材16は、折り畳んだ際には、折幅の大きい第1形状部42の側に第2形状部44が引き寄せられる作用により、収縮時の全長を小さくできる。従って、その分、医療用針10の全長を短くし、医療用針10をコンパクトに構成することができる。
【0047】
また、蛇腹部材16は、第2形状部44の折幅が小さいため、医療用針10を患者の皮膚に固定した際に、患者の皮膚に第2形状部44が接触しにくく、患者の皮膚に与える影響を防止又は抑制することができる。さらに、第2形状部44の折幅を小さくしても、折幅が大きい第1形状部42では折数が少ないため、折り畳んだ際の負荷が小さいことから、蛇腹部材16の耐久性を低下させることがない。
【0048】
本実施形態の場合、蛇腹部材16の第1形状部42は平面視でジグザグ状に形成されている。このため、後述するように、蛇腹部材16の製造工程において、筒状体60の下側部分60bがジグザグ状の折り目70に引き込まれ、下側部分60bのたるみの発生が抑制されるため(図6参照)、第2形状部44の折幅を小さくできるとともに、蛇腹部材16の全長を短くできる。
【0049】
採血、輸血、輸液等が終了したら、粘着テープ等による皮膚に対するウイング26a、26bの固定を解除し、針体12を生体から抜き取る。このようにして、医療用針10の使用が終わったら、当該医療用針10を廃棄する者等の医療従事者が針体12に不用意に触れることを防止するために、プロテクタ20により針体12を覆って収納する「収納操作」を行う。
【0050】
この収納操作では、針体12に対してプロテクタ本体29を先端方向に移動させるべく、翼部材14を針体12に対して先端方向に引っ張る。そうすると、ウイング軸部28の基端拡径部32の内周部に形成された突起34と、ハブ軸部48の外周部に形成された凹部49との係合(図2参照)が解除され、プロテクタ本体29が針体12に対して先端方向に移動可能となる。
【0051】
そして、図4に示すように、針体12の針先12aがプロテクタ本体29によって完全に覆われる位置まで、プロテクタ本体29を針体12に対して先端方向に所定距離移動させると、プロテクタ本体29内に設けられた図示しないシャッタが作動して、針体12のプロテクタ本体29からの突出が阻止された状態となる。
【0052】
図4に示すように、プロテクタ本体29(ウイング軸部28)とハブ18とは、蛇腹部材16を介して連結されているため、プロテクタ本体29を針体12本体に対して先端方向に移動させることに伴って、その移動距離の分だけ、蛇腹部材16の蛇腹部36も伸張する。この蛇腹部材16は、針体12に対するプロテクタ本体29の先端方向への移動を所定位置までに規制する規制部材としても機能する。このため、プロテクタ本体29が針体12に対して所定位置まで進出すると、それ以上のプロテクタ本体29の移動が阻止され、針体12がプロテクタ本体29の基端から抜き取られることが有効に防止される。
【0053】
次に、蛇腹部材16の製造方法を説明する。先ず、蛇腹部材16の基材として、所定形状にカットされたフィルム材を用意し、図5Aに示すような中間成形品である筒状体60を形成する筒状体形成工程を行う。筒状体形成工程では、フィルム材からなる基材の端部同士を接合して筒状体60を形成する。具体的には、フィルム材をループ状に丸め、ループ状にしたフィルム材の内面の一端側と他端側の縁部同士を接触させて重ね合わせ、当該重ね合わせた部分を接合することにより、接合部62からなる縁部を有する筒状体60が形成される。この場合、上記接合は、熱融着、接着等によることができる。
【0054】
また、筒状体形成工程では、接合部62の形成と同時に、軸線方向に突出した筒部64a、64bが形成される。すなわち、筒状体60は、上側部分(一方側の部位)60aと下側部分(他方側の部位)60bとを有し、下側部分60bの一方側に上側部分60aが突出した形状に形成されている。接合部62は、上側部分60aの周縁に沿って延在するとともに、上側部分60aの一端側と他端側でそれぞれ筒部64a及び筒部64bに連続して筒状体60の軸線方向に延在する。この筒部64a、64bは、最終的に、それぞれ先端筒部38、基端筒部40(図3、図5C参照)となるべき部分である。
【0055】
次に、図5Bに示すように、筒状体60に心棒66を挿通させる。この心棒66は、筒状体60の全長よりも長く、断面略円形状であり、その外径は、筒状体60の筒部64a、64bの開口径と略同じか、それよりも僅かに小さい。次に、第1形状部42と第2形状部44とを形成する蛇腹部形成工程を行う。具体的には、蛇腹部形成工程では、図5Cに示すように、心棒66をガイドとして筒状体60を軸線方向に圧縮することにより、筒状体60の上側部分60aを折り畳んで第1形状部42を形成するとともに、筒状体60の下側部分60bを折り畳んで第1形状部42の折幅よりも小さい折幅で折り畳まれた第2形状部44を形成する。
【0056】
この場合、筒状体60の上側部分60aを平面視でジグザグ状に大きい折幅で折り畳んでいくと同時に、筒状体60の下側部分60bを小さい折幅で蛇腹状に折り畳んでいく。なお、第1形状部42及び第2形状部44になるべき箇所に、折り目になるスジを予め形成しておくと、第1形状部42と第2形状部44の各々において折幅を均一化することができる。
【0057】
上述した蛇腹部材16の製造方法により、大きい折幅で形成された第1形状部42と小さい折幅で形成された第2形状部44とを有する蛇腹部材16を製作することができる。上述したように、このような蛇腹部材16は、耐久性を低下させることなく、収縮時の全長を小さくできるとともに、患者の皮膚に与える影響を防止又は抑制することができる。
【0058】
上述した蛇腹部材16の製造方法では、筒状体60の上側を平面視でジグザグ状に折り畳むことで、図6において矢印で示すように、筒状体60の下側部分60bがジグザグ状の折り目70に引き込まれ、筒状体60の下側部分60bにたるみが発生することを効果的に抑制することができる。よって、収縮時の全長が短い蛇腹部材16を容易に製作することができる。
【0059】
また、上述した蛇腹部材16の製造方法では、筒状体形成工程において、基材であるフィルム材の端部同士を重ね合わせ、重ね合わせた端部同士を接合することにより、接合部62を形成するので、筒状体60の上側部分60aをジグザグ状に折り畳み易い。さらに、上述した蛇腹部材16の製造方法では、軸線方向に突出した筒部64a、64bを筒状体60の両端に形成したうえで、心棒66をガイドとして筒状体60を軸線方向に圧縮するので、折幅の大きい第1形状部42と折幅の小さい第2形状部44とを備えた蛇腹部材16を簡単に製作できる。
【0060】
なお、上述した蛇腹部材16の製造方法では、ループ状にしたフィルム材の内面の一端側と他端側の縁部同士を接合して、縁部に接合部62を有する形状の筒状体60(図5A参照)を形成したが、このような構成の筒状体60に代えて、ループ状にしたフィルム材の一端側の外面と、ループ状にした当該フィルム材の他端側の内面とを接合して、縁部の無い筒状体を形成し、当該筒状体から、図3等に示した蛇腹部材16と同様に、相対的に大きい折幅で形成された第1形状部と相対的に小さい折幅で形成された第2形状部を有する蛇腹部材を製作してもよい。
【0061】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【0062】
[実施例]
図5A〜図5Cを参照して説明した方法に従って、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる厚さ50μmのフィルム材を基材として、蛇腹部36となるべき部分の長さL1a(図5A参照)が32.42mmの筒状体60を形成し、この筒状体60に心棒66を挿通して両端から圧縮することで、蛇腹部材16を複数個製作した。このとき、蛇腹部材16の蛇腹部36の長さは、平均4.18mmとなり、元の長さに対して約8分の1となった。なお、製作した複数の蛇腹部材16の長さL1b(図5C参照)は、平均値に対して、−0.15mm〜+0.11mmの範囲でバラついた。
【0063】
また、比較例として、PETからなる厚さ50μmのフィルム材を基材として、蛇腹部76となるべき部分の長さL2aが31.28mmの円筒形の筒状体72を形成し(図7A参照)、この筒状体72に心棒66を挿通し(図7B参照)、筒状体72を両端から圧縮することで、図7Cに示す蛇腹部材74を複数個製作した。このとき、蛇腹部材74の蛇腹部76の長さL2bは、平均6.18mmとなり、元の長さに対して約5分の1となった。なお、製作した複数の蛇腹部材74の長さは、平均値に対して、−0.21mm〜+0.33mmの範囲でバラついた。
【0064】
以上のとおり、本発明の実施例に係る蛇腹部材16は、比較例に係る蛇腹部材74よりも短くできた。また、比較例に係る蛇腹部材74は、綺麗に折り畳めない場合に収縮時の長さのバラツキが比較的大きいが、本発明の実施例に係る蛇腹部材16は、収縮時の長さのバラツキが小さく、略均一な状態で綺麗に折り畳むことができた。
【符号の説明】
【0065】
10…医療用針 12…針体
16…蛇腹部材 18…ハブ
20…プロテクタ 36…蛇腹部
42…第1形状部 44…第2形状部
60…筒状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に針先を有する針体と、
針体に対して相対的に先端方向に移動して少なくとも前記針先を覆うことが可能なプロテクタと、
前記プロテクタの基端部に接続されるとともに前記針体が挿通され、前記針体に対して前記プロテクタを先端方向に移動させることに伴って伸張する蛇腹部材と、を備え、
前記蛇腹部材は、その蛇腹部の一方側を構成し相対的に大きい折幅で形成された第1形状部と、前記蛇腹部の他方側を構成し相対的に小さい折幅で形成された第2形状部とを有し、前記第1形状部を上側に、前記第2形状部を下側にした状態で配置される、
ことを特徴とする医療用針。
【請求項2】
請求項1記載の医療用針において、
前記第1形状部は、ジグザグ状に形成されている、
ことを特徴とする医療用針。
【請求項3】
請求項1記載の医療用針において、
前記蛇腹部材は、フィルム材により構成される、
ことを特徴とする医療用針。
【請求項4】
医療用針に設けられる蛇腹部材の製造方法であって、
フィルム材からなる基材の端部同士を接合して筒状体を形成する筒状体形成工程と、
前記筒状体を軸線方向に圧縮することにより、前記筒状体の一方側の部位を折り畳んで相対的に折幅の大きい第1形状部を形成するとともに、前記筒状体の他方側の部位を折り畳んで相対的に折幅の小さい第2形状部を形成する蛇腹部形成工程とを含む、
ことを特徴とする蛇腹部材の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の蛇腹部材の製造方法において、
前記蛇腹部形成工程では、前記筒状体の前記一方側の部位をジグザグ状に折り畳む、
ことを特徴とする蛇腹部材の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の蛇腹部材の製造方法において、
前記筒状体形成工程では、ループ状にした前記基材の内面側の縁部同士を接合する、
ことを特徴とする蛇腹部材の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の蛇腹部材の製造方法において、
前記筒状体形成工程では、軸線方向に突出した筒部を前記筒状体の両端に形成し、
前記蛇腹部形成工程は、前記筒状体に心棒を挿通させる工程と、前記心棒をガイドとして前記筒状体を軸線方向に圧縮する工程と、を有する、
ことを特徴とする蛇腹部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−70851(P2013−70851A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212215(P2011−212215)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】