説明

医療用顕微鏡装置及びこれを備える医療用診療装置

【課題】簡単且つ安価に実現できる防振機能を備えた医療用顕微鏡装置と、これを備えた医療用診療装置を提供する。
【解決手段】医療用診療台2の近傍に配置される医療用顕微鏡装置3において、鉛直な円柱形固定支軸10に同心的に嵌装接続される接続部材11と、該接続部材に水平旋回可能に支持されるハンガーアーム30と、該ハンガーアーム30の先端に取付けられる顕微鏡本体31とを含み、前記固定支軸10と接続部材11との嵌装部分には転がり軸受12が介在され、且つ、前記接続部材10は、回り止め部材によって、固定支軸に対する相対軸心回転が阻止されるよう構成されていることを特徴とする医療用顕微鏡装置3と、該医療用顕微鏡装置3が医療用診療台2の近傍に配置されて構成される医療用診療装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用顕微鏡装置及び医療用診療装置に係り、例えば、歯科用診療台の近傍に配置される歯科用顕微鏡装置とこの歯科用顕微鏡装置を備える歯科用診療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、歯科の診療においても、歯科用診療台の近傍に顕微鏡装置を配置して、診療精度をより高めるようにした歯科用診療装置が多く採用されるようになった(特許文献1〜3参照)。特許文献1〜3には、歯科用診療台の側部に設けられるアームや支柱に支持されるハンガーアームと、該ハンガーアームの先端に取付けられる顕微鏡本体とから構成される顕微鏡装置が開示されている。
また、特許文献4には、防震架台に支持される天吊式手術用顕微鏡が開示されている。更に、特許文献5には、架台のアームの先端に保持されて使用された場合に、観察者の目に識別可能な程度の像ブレが生じる蓋然性の高い顕微鏡に、像ブレを防ぐための機構を組み込んだ防振顕微鏡が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−52718号公報
【特許文献2】特開2010−253087号公報
【特許文献3】特開2011−72727号公報
【特許文献4】特開2010−115287号公報
【特許文献5】特開2002−90650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1〜3に開示されたような顕微鏡装置を備えた歯科用診療装置の場合、歯科用診療台の側部に直接或いはスピットン装置を介して一体に設けられたアームや支柱に支持されている。そのため、診療台を昇降させ、或いは、無影灯(デンタルライト)やインスツルメント類を操作すると、アームや支柱を介して顕微鏡本体に振動が伝達し、その間は、顕微鏡による正確な患部の観察診療を行うことができなくなる。顕微鏡は、細部の対象を拡大して観察するものであるから、わずかな振動でも観察視野に大きな影響を及ぼす。特に、前記支柱は診療台に一体とされたスピットン装置に設けられ、該支柱が無影灯の支柱を兼ねていたり、スピットン装置にアシスタント用のインスツルメントホルダが設けられていたりすると、アシスタントの無影灯やインスツルメントの操作によって、顕微鏡本体が不意に振動し、術者はこれによってフラストレーションが溜まって正常な診療を行えなくなる事態も生じる。このような振動は、顕微鏡本体を位置付け操作する際にも生じ、しかも、一旦振動が発生すると、直ぐには治まらず、これによって診療効率が阻害されることもある。
【0005】
前記のような顕微鏡本体の振動は、診療台に設けられている場合に限られず、診療室の天井に設けられている場合、壁面に設けられている場合、或いは、床面を移動自在に配備される移動備品に設けられている場合であっても、人の動きや各種機器(例えば、エアコン等)の作動等の周囲環境によって発生することもある。特許文献1〜3には、このような振動を防止する機構について、特に言及されていない。特許文献4には、天吊式手術用顕微鏡の除震架台が開示されているが、天井裏に大掛かりな装置を組込む必要があり、実用化の面で難点があった。さらに、特許文献5に開示された防振顕微鏡は、顕微鏡光学系の傾斜を測定するセンサ、顕微鏡光学系の移動を検出するセンサ、顕微鏡光学系内を進行する被写体光を所望の方向へ所望の角度で偏向する偏向手段等によって構成される。この場合、防振構成が複雑であり、また、マイクロモータを用いてフィードバック情報を管理する必要もあるため、コストが高くなることは避けられなかった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みなされたもので、簡単且つ安価に実現できる防振機能を備えた医療用顕微鏡装置と、これを備えた医療用診療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る医療用顕微鏡装置は、医療用診療台の近傍に配置される医療用顕微鏡装置であって、鉛直な円柱形固定支軸に同心的に嵌装接続される接続部材と、該接続部材に水平旋回可能に支持されるハンガーアームと、該ハンガーアームの先端に取付けられる顕微鏡本体とを含み、前記固定支軸と接続部材との嵌装部分には転がり軸受が介在され、且つ、前記接続部材は、回り止め部材によって、固定支軸に対する相対軸心回転が阻止されるよう構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の医療用顕微鏡装置において、前記回り止め部材が、前記接続部材と固定支軸とに跨って装着されるストッパ部材からなるもの、或いは、前記接続部材に装着され、前記固定支軸の周面に圧接されるブレーキ部材からなるもの、さらには、前記ブレーキ部材及び前記ストッパ部材の両部材からなるであっても良い。前記ブレーキ部材は、前記接続部材と固定支軸とに跨って装着されるストッパ機能部を更に備えているものであっても良い。また、前記ストッパ部材の前記接続部材に対する装着部には、弾性緩衝部材が取付けられていても良い。また、前記ブレーキ部材は、前記固定支軸の周面に対する圧接度合いを調整する調整手段を備えていても良い。
【0009】
発明の医療用顕微鏡装置において、前記転がり軸受が、深溝ラジアル玉軸受であっても良い。また、前記固定支軸が、前記医療用診療台に立設される垂直支柱、該医療用診療台が設置される診療室の天井から垂下される垂直支柱、該診療室の床面上に移動自在に配備される移動備品に設けられる垂直支柱、及び、該診療室の壁面に取付けられる取付部材のいずれかに設けられていても良い。
【0010】
第2の発明に係る医療用診療装置は、医療用診療台を含む医療用診療装置であって、前記医療用診療台の近傍に、前記いずれかの医療用顕微鏡装置が配置されていることを特徴とする。
本発明の医療用診療装置において、前記固定支軸が、前記医療用診療台の側部に一体に固定された垂直支柱に設けられているものとしても良い。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に係る医療用顕微鏡装置及び第2の発明に係る医療用診療装置によれば、術者は、ハンガーアームを水平旋回させて該ハンガーアームに支持された顕微鏡本体を適正位置に位置付け、医療用診療台の上の患者の患部を、顕微鏡本体をとおして観察することができる。この時、前記固定支軸には前述のような周囲環境による様々な振動が伝達されるが、該固定支軸と前記接続部材とは転がり軸受を介して同心的な嵌装接続状態とされているから、転がり軸受を構成する転動体の軌道面間での相互の転動作用により、前記振動がハンガーアームを通じて顕微鏡本体に伝達することが緩和される。従って、術者は振動によって煩わされることなく、患部の顕微鏡観察診療を精度よく実施することができる。また、前記接続部材は、回り止め部材によって、固定支軸に対する相対軸心回転が阻止されるよう構成されているから、前記転がり軸受による作用とも相俟って、前記振動の伝達の防止がより的確になされる。加えて、術者自らが顕微鏡本体を位置決め操作した後の顕微鏡本体及びハンガーアームの惰性的動きも、回り止め部材によって速やかに静止され、顕微鏡観察を含む診療作業全体の効率化が図られる。
【0012】
前記回り止め部材が、前記接続部材と固定支軸とに跨って装着されるストッパ部材からなる場合、接続部材の固定支軸に対する相互回転及び前記惰性的動きが確実に阻止され、前記転がり軸受による振動伝達防止機能がより的確に発揮される。この場合、ストッパ部材の前記接続部材に対する装着部に、弾性緩衝部材が取付けられているものとすれば、固定支軸とストッパ部材との相互の当止関係によって、固定支軸の前記振動がストッパ部材に伝達しても、弾性緩衝部材によってこの伝達が吸収され、接続部材及びハンガーアームを介して顕微鏡本体に伝達されることがない。
【0013】
また、前記回り止め部材が、前記接続部材に装着され、前記固定支軸の周面に圧接されるブレーキ部材からなる場合、ストッパ部材と同様に、接続部材の固定支軸に対する相互回転及び前記惰性的動きが確実に阻止され、前記転がり軸受による振動伝達防止機能がより的確に発揮される。この場合、ブレーキ作用によって、急激な回り止めがなされず、ハンガーアームを水平旋回させるような操作の際の馴染み性が良くなる。そして、ストッパ部材とブレーキ部材とを併用して、これを回り止め部材とすれば、両者の相乗効果が得られる。或いは、ブレーキ部材が、ストッパ機能部を更に備えているものとすれば、同様の相乗効果が得られる。
【0014】
前記転がり軸受を、深溝ラジアル玉軸受とした場合、円柱形の固定支軸の周面(ラジアル面)と、接続部材の円筒形内周面(ラジアル面)との間に当該軸受が介在され、前記軌道面間の転動体の転動作用によって前記振動伝達防止機能がより効果的に発揮される。しかも、深溝であることから、転動体が安定的に保持され、固定支軸と接続部材との鉛直方向での嵌装関係が安定化し、これが振動防止性をより向上させる。
【0015】
また、前記固定支軸は、前記医療用診療台に立設される垂直支柱、該医療用診療台が設置される診療室の天井から垂下される垂直支柱、該診療室の床面上に移動自在に配備される移動備品に設けられる垂直支柱、及び、該診療室の壁面に取付けられる取付部材のいずれかに設けることができる。従って、医療用診療装台及びこれが設置される診療室の仕様に応じて、当該顕微鏡装置の配置レイアウトを設定することができ、いずれの場合でも、前記防振機能が発揮され、精度良く、術者がフラストレーションを持つことなく、且つ効率的な顕微鏡観察診療を実施することができる。
特に、第2の発明に係る医療用診療装置おいて、前記固定支軸が、前記医療用診療台の側部に一体に固定された垂直支柱に設けられているものとした場合でも、医療用診療台による医療用顕微鏡装置への振動の影響が抑制されるから、医療用診療台及び医療用顕微鏡装置を含む医療用診療装置のシステム化を図る上で有効である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の医療用診療装置の一例を示す概略的斜視図である。
【図2】同医療用診療装置を構成する医療用顕微鏡装置の第1の実施形態を示す正面図である。
【図3】図2におけるA部の拡大断面図である。
【図4】図3におけるB部の拡大図である。
【図5】図4に示すブレーキ部材(回り止め部材)の分解斜視図である。
【図6】図3におけるC部の拡大図である。
【図7】図6に示すストッパ部材(回り止め部材)の分解斜視図である。
【図8】回り止め部材の他の実施形態を示す図4と同様図である。
【図9】図8に示す回り止め部材を用いた場合の固定支軸と接続部材との嵌装接続構造の一例を示す分解図である。
【図10】医療用顕微鏡装置の第2の実施形態を示す正面図と、固定支軸と接続部材との嵌装接続構造を示す分解拡大図である。
【図11】医療用顕微鏡装置の第3の実施形態を示す正面図である。
【図12】医療用顕微鏡装置の第4の実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の医療用顕微鏡装置とこれを備える医療用診療装置の実施の形態について図面に基づき説明する。図1は、歯科用(医療用)診療装置1を示し、歯科用(医療用)診療台2の近傍に、歯科用(医療用)顕微鏡装置3が配置されている。歯科用診療台(以下、診療台と略称する)2の側部には、スピットン装置4が一体に付設され、また、このスピットン装置4とは反対側の診療台2の側部には、ドクター用トレー5が水平移動可能に取付られている。図例のドクター用トレー5は、薬品や器具等を載せ、或いは充填物の調合作業等のためのテーブル51と、該テーブル51の側部に設けられた操作パネル52と、主にドクターが使用する各種インスツルメント53…を取出し自在に保持する複数のインスツルメントホルダ54…を備えている。前記スピットン装置4には、垂直(鉛直)支柱40が一体に設けられ、これにより、該垂直支柱40は実質的に診療台2の側部に一体に設けられている。該垂直支柱40には、本発明に係る歯科用顕微鏡装置3と、無影灯装置6とが、水平方向及び上下方向の移動が可能に支持されている。無影灯装置6は、前記垂直支柱40に水平旋回可能に支持される多関節のハンガーアーム60と、該ハンガーアーム60の先端に首振り自在に取付けられる無影灯61とよりなる。ハンガーアーム60を構成する複数のアームは、互いに水平旋回及び上下揺動可能に連結され、先端の無影灯61が所望の位置に位置付けられるよう構成されている。
【0018】
前記垂直支柱40の途中には、カルテ情報や、本発明に係る顕微鏡装置3による観察映像等を表示して、診療台2上の患者にカウンセリングするため等に用いられるディスプレイ装置7が取付けられている。前記診療台2の近傍の床面には、ドクターやアシスタントが、前記診療台2を昇降や傾動をさせるため、或いは、各種インスツルメント53を駆動制御するためのフートコントローラ8が設置されている。前記スピットン装置4は、スピットン装置本体41と、該スピットン装置本体41の上面部に設置されるベースン42と、給水栓43とよりなる。前記垂直支柱40は、このスピットン装置本体41に一体に立設され、図例のスピットン装置本体41には、アシスタント用のトレー付インスツルメントホルダ9が伸縮アーム90を介して引き出し自在に装備されている。該インスツルメントホルダ9には、主にアシスタントが使用する各種インスツルメント91…が取出し自在に保持されている。
【0019】
前記垂直支柱40の上端には、図2に示すように円柱形の固定支軸10が一体に固着されている。前記固定支軸10に接続部材11が嵌装接続され、該接続部材11に歯科用顕微鏡装置3を構成するハンガーアーム30が、垂直軸心a回りに水平旋回可能に支持されている。歯科用顕微鏡装置3は、ハンガーアーム30とその先端に取付けられた顕微鏡本体31とより構成される。ハンガーアーム30は、第1アーム30a、第2アーム30b及び第3アーム30cからなる多関節アームによって構成されている。第1アーム30aは、前記のとおり、接続部材11に垂直軸心aの回りに水平旋回可能に支持され、第2アーム30bは、第1アーム30aの先端に垂直軸心bの回りに水平旋回可能に支持されている。第3アーム30cは、前記第2アーム30bに、内蔵される平行リンク機構30dを介して第2アーム30bと共に上下揺動(矢印d参照)可能に接続され、且つ垂直軸心cの回りに水平旋回可能に支持されている。そして、第3アーム30cの先端には、前記顕微鏡本体31が、水平支軸31aを介して矢印eに示すように上下首振り可能に支持されている。このようなハンガーアーム30の構成及び顕微鏡本体31の支持構造によって、診療台2上の患者の口腔内を観察し得る適正位置に顕微鏡本体31を位置付けることができる。
【0020】
次に、固定支軸10と接続部材11との嵌装接続構造の詳細について、図3〜図7も参照して詳細に説明する。前記垂直支柱40の上端には中空の円柱形固定支軸10が嵌合一体に固着されている。接続部材11は、転がり軸受12,12を介して固定支軸10に同心的に嵌装される円筒部110と、前記第1アーム30aを水平旋回可能に支持するブラケット部111とよりなり、円筒部110とブラケット部111とは、正面視或いは側面視して逆U字状に連結一体とされている。転がり軸受12,12は、いずれも1列の深溝ラジアル玉軸受からなり、図例では、円筒部110の固定支軸10に対する嵌装部分の上下部位に配設されている。後記する回り止め部材(ブレーキ部材13、ストッパ部材14)が存在しない場合には、接続部材11は、転がり軸受12,12によって、固定支軸10に対してその軸心の回りに回動可能な嵌装状態とされる。この回動を阻止するための回り止め部材として、図例ではブレーキ部材13及びストッパ部材14が用いられている。
前記固定支軸10及び接続部材11の円筒部110のそれぞれの上端部は開口しており、この開口部より前記無影灯装置6のハンガーアーム60の基部が嵌装され、水平旋回可能に支持されている。このハンガーアーム60の支持構造の詳細についての説明は割愛する。また、固定支軸10及び垂直支柱40は、いずれも中空体であり、この中空部内には、前記無影灯61の電源供給電線、更には顕微鏡本体31による画像を電気的に処理して取り出す場合にはその伝送用電線等、が内装される。そして、これら電線は、接続部材11及びハンガーアーム60,30内を経て、それぞれ、無影灯61及び顕微鏡本体31に配線接続される。
【0021】
ブレーキ部材13は、図3、図4及び図5に示すように、筒状の六角穴付雄ねじ部材131と、該六角穴付雄ねじ部材131の先側の内筒部131aに圧入一体とされる断面T字形の樹脂製ブレーキパッド部材132と、雄ねじ部材131とブレーキパッド部材132との間に圧縮状態で介在される1個の平ワッシャ133と、2個の皿ばね134,134とよりなる。前記接続部材11の円筒部110の筒壁には、径方向の雌ねじ孔110aが貫設され、前記雄ねじ部材131が、前記内筒部131aに連通する六角穴131bに、六角レンチ(不図示)を作用させることによって、この雌ねじ孔110aに螺合される。前記固定支軸10の周面には、座ぐり加工によってフラット面101が形成され、前記雌ねじ孔110aに雄ねじ部材131をして螺合されたブレーキ部材13は、前記ブレーキパッド部材132を介してこのフラット面101に圧接された状態とされる。ブレーキパッド部材132のフラット面101に対する圧接に伴う樹脂部材特有の制動作用によって、接続部材11の固定支軸10に対する軸回転が阻止される。この圧接力は、雄ねじ部材131の雌ねじ孔110aに対する螺合度合いによって調整され、従って、雄ねじ部材131及び雌ねじ孔110aが、圧接度合いの調整手段として位置付けられる。また、前記2個の皿ばね134,134は、圧縮されることによりブレーキパッド部材132に圧縮反力によるフリクション機能を付与し、ブレーキパッド部材132の前記制動作用の発現がより的確になされる。
【0022】
ストッパ部材14は、図3、図6及び図7に示すように、リング部材141と、該リング部材141を固定支軸10に固定するための六角穴ボルト142と、リング部材141の外周に嵌装されるゴム製Oリング143とよりなる。リング部材141の周体にはOリング溝141aが形成され、Oリング143は、内径側部分がこのOリング溝141aに嵌り込んだ状態でリング部材141の外周に嵌装される。リング部材141の内筒部は、小径部141bと大径部141cとが同心的に連通してなり、小径部141bの内径は前記六角穴ボルト142の胴部142aを遊挿し得るも、頭部142bを挿通し得ない大きさとされ、小径部141bは雌ねじ孔とされている。また、大径部141cの内径は、前記六角穴ボルト142の頭部142bの外径よりやや大とされている。接続部材11の前記円筒部110には、径方向に貫通する透孔110bが形成されており、この透孔110bの内径は、前記リング部材141の外径よりやや大とされている。また、この透孔110bと対向する固定支軸10の周面には、前記リング部材141の外径よりやや大きい内径の座ぐり部102が形成され、さらにこの座ぐり部102の底部中央には、前記六角穴ボルト142を螺合し得る雌ねじ孔103が形成されている。
【0023】
このように構成されたストッパ部材14は、前記Oリング143を装着したリング部材141を、前記透孔110bにOリング143が圧縮された状態で圧入し、前記六角穴ボルト142を、リング部材141の内筒部に挿通し、六角穴142cに六角レンチ(不図示)を作用させて前記雌ねじ孔103に螺合することによって固定される。この固定状態では、リング部材141の先端部が前記座ぐり部102に嵌り込み、ストッパ部材14が接続部材11と固定支軸10とに跨った状態とされ、これによって、接続部材11の固定支軸10に対する軸回転が阻止される。そして、ストッパ部材14のこのような装着状態では、リング部材141と接続部材11の前記透孔110bとの間にOリング143が圧縮された状態で介在する。従って、Oリング143が防振ゴムの役割を果たし、固定支軸10からの振動がストッパ部材14を介して接続部材11に伝達することが防止される。
ストッパ部材14を取外す際は、先ず、六角穴ボルト142を緩めて取り出すが、この状態では、前記Oリング143のフリクション力が作用しており、リング部材141はまだ透孔110bに保持された状態とされる。そのため、前記雌ねじ孔141bと同径の雄ねじ部材(不図示)を、該前記雌ねじ孔141bに螺合させ、その先端を前記座ぐり部102に当接させ、前記フリクション力を超える反作用力によって、リング部材141を雄ねじ部材と共に取り出すことできる。
【0024】
前記のような支持構造の歯科用顕微鏡装置3を備えた歯科用診療装置1においては、無影灯装置6を操作したり、アシスタント側のインスツルメントホルダ9を引き出し、或いは、アシスタント用インスツルメント91を取り出し(ピックアップ)したりすると、垂直支柱40及び固定支軸10に振動が発生する。而して、垂直支柱40と歯科用顕微鏡装置3との間には、前記のような固定支軸10と接続部材11との嵌装接続構造が存在するから、垂直支柱40及び固定支軸10の振動は、前記深溝ラジアル玉軸受(転がり軸受)12によって遮断され、接続部材11への伝達が抑制される。従って、歯科用顕微鏡装置3の顕微鏡本体31には振動が至らず、顕微鏡本体31による正常な顕微鏡観察を実施することができる。また、固定支軸10と接続部材11とには、ブレーキ部材13及びストッパ部材14による回り止め部材が設けられているから、接続部材11が固定支軸10に対して軸回転することなく支持される。そして、接続部材11に装着されるブレーキ部材13が固定支軸10の周面に圧接されるから、そのフリクション作用によって、固定支軸10の振動が接続部材11に直接伝わらず、特に、樹脂からなるブレーキパッド部材132と、圧縮状態の皿ばね134の存在により、フリクション作用がより効果的に発現される。加えて、ストッパ部材14が、接続部材11と固定支軸10とに跨るように装着されているから、接続部材11の固定支軸10に対する軸回転が確実に阻止される。また、Oリング143が接続部材11との装着部との間に弾性緩衝部材として介在するから、前記ブレーキ部材13のフリクション作用とも相俟って、前記垂直支柱40からの振動があった場合や、顕微鏡本体31を手で操作し被写体の位置に位置付ける場合等において、顕微鏡本体31がガタツキ等を生じず、速やかに静止し、顕微鏡観察診療の効率化が図られる。
尚、本実施形態では、回り止め部材として、ブレーキ部材13及びストッパ部材14を併用しているが、どちらか一方を用いるようにしても良い。
【0025】
図8は、回り止め部材の他の実施形態を示している。即ち、本実施形態の回り止め部材はストッパ機能部をさらに備えたブレーキ部材15からなる。該ブレーキ部材15の主たる構成は、前記ブレーキ部材13とほぼ同様であり、六角穴151bを有する筒状の雄ねじ部材151と、該六角穴雄ねじ部材151の先側の内筒部151aに圧入一体とされる樹脂製のブレーキパッド部材152と、雄ねじ部材151とブレーキパッド部材152との間に圧縮状態で介在される1個の平ワッシャ153と、3個の皿ばね154…とよりなる。そして、ブレーキパッド部材152の先端部、平ワッシャ153、及び皿ばね154のそれぞれの外径を、前記例のブレーキパッド部材132の先端部、平ワッシャ133、及び皿ばね134のそれぞれの外径より大としている。また、固定支軸10の周面には、前記雄ねじ部材151の外径よりやや大きい内径の座ぐり部103が底面がフラットになるよう形成され、前記雄ねじ部材151の先端部151cが嵌り込み得るようになされている。これによってストッパ機能部を構成する。更に、ブレーキパッド部材152の先端部表面には、セレーションのような細かな凹凸加工152aが施されている。その他の構成は、前記ブレーキ部材13と同様である。
【0026】
このようなブレーキ部材15は、前記と同様に接続部材11の円筒部110に形成された雌ねじ孔110bに雄ねじ部材151に螺合することによって装着され、基本的には前記ブレーキ部材13と同様の機能を奏する。この例のブレーキ部材15は、雄ねじ部材151の先端部151cがこれよりやや径大の座ぐり部103に嵌り込むことによって、接続部材11と固定支軸10とに跨って装着されることになり、これによってストッパ機能も奏する。また、ブレーキパッド部材152の先端部の外径が前記ブレーキパッド部材132の外径より大きく、加えて、ブレーキパッド部材152の表面に凹凸加工152aが施されていることにより、座ぐり部103の底面に対する圧接による制動作用もより強く発揮される。更に、皿ばね154が前記例より多く組み込まれていることにより、前記フリクション作用もより効果的に発現される。この例の場合も、ブレーキパッド部材152の前記座ぐり部103の底面に対する圧接力は、雄ねじ部材151の雌ねじ孔110aに対する螺合度合いによって調整され、従って、雄ねじ部材151及び雌ねじ孔110aが、圧接度合いの調整手段として位置付けられる。
【0027】
図9は、前記ブレーキ部材15を用いた場合の固定支軸10と接続部材11との嵌装接続構造の一例を示す分解図である。この例では、回り止め部材としてストッパ機能を備えたブレーキ部材15のみを用い、前記例の深溝ラジアル玉軸受12よりスラスト方向に長い複数列の深溝ラジアル玉軸受(或いは、針状ころ軸受)12Aを1個用いている。この例でも、固定支軸10と接続部材11との嵌装接続関係による作用効果が同様に発揮される。このような深溝ラジアル玉軸受(或いは、針状ころ軸受)12Aは、スラスト方向の幅広い範囲で前記のような振動遮断機能を奏するもので、図3の例で、回り止め部材として、ブレーキ部材13及びストッパ部材14のどちらか一方のみを採用する場合にも用いることができる。
【0028】
図10は、歯科用顕微鏡装置3の第2の実施形態を示し、固定支軸10が、診療台が設置される診療室の天井Tから垂下される垂直支柱40Aに設けられ、この固定支軸10に接続部材11が嵌装接続されている。この場合、接続部材11は固定支軸10に対して、前記と同様の上下の深溝ラジアル玉軸受12,12を介して下から嵌装される。接続部材11の脱落を防止するため、接続部材11が固定支軸10に嵌装された状態で支持ナット112が、固定支柱10の下端に形成された雄ネジ部104に螺合されている。そして、歯科用顕微鏡装置3を構成するハンガーアーム30が、前記と同様に接続部材11に水平旋回可能に支持され、診療台上の患者の患部を観察し得る位置に顕微鏡本体31を位置付けることが可能とされている。また、接続部材11と固定支軸10との嵌装接続構造においては、図2及び図3に示す例と同様の回り止め部材(ブレーキ部材13及びストッパ部材14)によって接続部材11の固定支軸10に対する軸回転が防止されるよう構成されている。従って、接続部材11及び固定支軸10には、これらブレーキ部材13及びストッパ部材14に関係する雌ねじ孔110a、透孔110b、座ぐり部101,102も同様に形成されている。このように天井Tに歯科用顕微鏡装置3が取付けられている場合、エアコンその他の機器の振動が、垂直支柱40Aを介して固定支軸10に伝達されるが、固定支軸10と接続部材11との前記と同様の嵌装接続構造によって、歯科用顕微鏡装置3に対する振動の伝達が前記と同様に抑制される。
歯科用顕微鏡装置3のその他の構成は前記例と同様であるので、共通部分に同一の符号を付して、その説明及び一部図示を省略する。また、図例では、無影灯を垂直支柱40Aに支持させていないが、支持させるよう構成しても良い。
【0029】
図11は、歯科用顕微鏡装置3の第3の実施形態を示し、固定支軸10が、診療台が設置される診療室の床面F上を移動自在に配備される移動備品400に設けられる垂直支柱40Bの上端に一体に設けられ、この固定支軸10に図2及び図3の例と同様に接続部材11が嵌装接続されている。そして、接続部材11には、歯科用顕微鏡装置3を構成するハンガーアーム30が、前記と同様に接続部材11に水平旋回可能に支持されている。この例では、歯科用顕微鏡装置3を使用する際、移動備品400を、床面F上を移動させることによって、歯科用顕微鏡装置3を観察対象位置に位置付けることができ、不使用時には他の診療作業の邪魔にならない位置に待機させることができる。このように床面F上を移動自在とされている場合、移動備品400の移動時の振動や床面F上の人の歩行等によって垂直支柱40Bに振動が発生するが、固定支軸10と接続部材11との前記と同様の嵌装接続構造によって、歯科用顕微鏡装置3に対する振動の伝達が前記と同様に抑制される。図例では、移動備品400が歯科用顕微鏡装置3の専用のものとして示しているが、これに限らず器具や薬品を収納し得る移動式キャビネットとして、これに前記垂直支柱40Bを設けたものであっても良い。
歯科用顕微鏡装置3の構成は、前記例と同様であるので、共通部分に同一の符号を付して、その説明及び一部図示を省略する。また、図例では、無影灯を垂直支柱40Bに支持させていないが、この場合も、支持させるよう構成しても良い。
【0030】
図12は、歯科用顕微鏡装置3の第4の実施形態を示し、固定支軸10が、診療台が設置される診療室の壁面Wに取付けられる取付部材401に一体に設けられ、この固定支軸10に図2及び図3の例と同様に接続部材11が嵌装接続されている。図例では、取付部材401に、鉛直方向に向く筒型の端寸垂直支柱40Cが設けられ、該端寸垂直支柱40Cに固定支軸10が上方より嵌合され一体に固着されている。そして、接続部材11には、歯科用顕微鏡装置3を構成するハンガーアーム30が、前記と同様に接続部材11に水平旋回可能に支持されている。このように壁面Wに歯科用顕微鏡装置3が取付けられている場合、エアコンその他の機器の振動が、取付部材401及び端寸垂直支柱40Cを介して固定支軸10に伝達されるが、固定支軸10と接続部材11との前記と同様の嵌装接続構造によって、歯科用顕微鏡装置3に対する振動の伝達が前記と同様に抑制される。
歯科用顕微鏡装置3の構成は、前記例と同様であるので、共通部分に同一の符号を付して、ここでもその説明及び一部図示を省略する。また、図例では、無影灯を端寸垂直支柱40Cに支持させていないが、この場合も、支持させるよう構成しても良い。
【0031】
尚、前記の各実施形態では、歯科用顕微鏡装置及び歯科用診療装置を例示したが、耳鼻科用、眼科用等のその他の医療用顕微鏡装置及び医療用診療装置にも本発明が適用可能である。また、転がり軸受として、深溝ラジアル玉軸受、或いは針状ころ軸受を例示したが、アンギュラ玉軸受、自動調心玉軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、自動調心ころ軸受、スラスト玉軸受、スラストアンギュラ玉軸受、スラスト円筒ころ軸受等であっても良い。この場合、ラジアル軸受とスラスト軸受を併用することも可能である。更に、スラスト軸受の代わりに、摩擦係数の小さい樹脂で作られたブッシュ等を用いても良い。更にまた、歯科用顕微鏡装置を構成するハンガーアームの構造も図例のものに限定されず、他の構造のものであっても良い。加えて、図8に示す回り止め部材は、ブレーキ部材にストッパ機能部を付加したものであるが、ストッパ部材にブレーキ機能部を付加したものも採用可能である。更に、ブレーキ部材13として、固定支軸10の周面に1箇所でスポット的に圧接する例を述べたが、周方向の複数個所で圧接するもの、或いは、固定支軸10の周面に巻回されるベルト状の部材を締め付けることによって全周において圧接するもの等も採用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 歯科用(医療用)診療装置
2 歯科用(医療用)診療台
3 歯科用(医療用)顕微鏡装置
30 ハンガーアーム
31 顕微鏡本体
10 固定支軸
11 接続部材
12,12A 転がり軸受
13 ブレーキ部材(回り止め部材)
131 雄ねじ部材(調整手段)
151 雄ねじ部材(調整手段)
110a 雌ねじ孔(調整手段)
14 ストッパ部材(回り止め部材)
15 ストッパ機能部を備えるブレーキ部材(回り止め部材)
151c ストッパ機能部
40,40A,40B 垂直支柱
400 移動備品
401 取付部材
T 天井
F 床面
W 壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用診療台の近傍に配置される医療用顕微鏡装置において、
鉛直な円柱形固定支軸に同心的に嵌装接続される接続部材と、該接続部材に水平旋回可能に支持されるハンガーアームと、該ハンガーアームの先端に取付けられる顕微鏡本体とを含み、
前記固定支軸と接続部材との嵌装部分には転がり軸受が介在され、且つ、前記接続部材は、回り止め部材によって、固定支軸に対する相対軸心回転が阻止されるよう構成されていることを特徴とする医療用顕微鏡装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用顕微鏡装置において、
前記回り止め部材が、前記接続部材と固定支軸とに跨って装着されるストッパ部材からなることを特徴とする医療用顕微鏡装置。
【請求項3】
請求項1に記載の医療用顕微鏡装置において、
前記回り止め部材が、前記接続部材に装着され、前記固定支軸の周面に圧接されるブレーキ部材からなることを特徴とする医療用顕微鏡装置。
【請求項4】
請求項1に記載の医療用顕微鏡装置において、
前記回り止め部材が、前記接続部材と固定支軸とに跨って装着されるストッパ部材と、前記固定支軸の周面に圧接されるブレーキ部材とからなることを特徴とする医療用顕微鏡装置。
【請求項5】
請求項3に記載の医療用顕微鏡装置において、
前記ブレーキ部材が、前記接続部材と固定支軸とに跨って装着されるストッパ機能部を更に備えていることを特徴とする医療用顕微鏡装置。
【請求項6】
請求項2または4に記載の医療用顕微鏡装置において、
前記ストッパ部材の前記接続部材に対する装着部には、弾性緩衝部材が取付けられていることを特徴とする医療用顕微鏡装置。
【請求項7】
請求項3、4及び5のいずれか1項に記載の医療用顕微鏡装置において、
前記ブレーキ部材が、前記固定支軸の周面に対する圧接度合いを調整する調整手段を備えていることを特徴とする医療用顕微鏡装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の医療用顕微鏡装置において、
前記転がり軸受が、深溝ラジアル玉軸受であることを特徴とする医療用顕微鏡装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の医療用顕微鏡装置において、
前記固定支軸が、前記医療用診療台に立設される垂直支柱、該医療用診療台が設置される診療室の天井から垂下される垂直支柱、該診療室の床面上に移動自在に配備される移動備品に設けられる垂直支柱、及び、該診療室の壁面に取付けられる取付部材のいずれかに設けられていることを特徴とする医療用顕微鏡装置。
【請求項10】
医療用診療台を含む医療用診療装置において、
前記医療用診療台の近傍に、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の医療用顕微鏡装置が配置されていることを特徴とする医療用診療装置。
【請求項11】
請求項10に記載の医療用診療装置において、
前記固定支軸が、前記医療用診療台の側部に一体に固定された垂直支柱に設けられていることを特徴とする医療用診療装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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