説明

医科及び歯科診療用車椅子補助具および該補助具を備える車椅子

【課題】加齢により衰えてくる身体機能の低下や疾患などの後遺症により増え続けている身体障害者の患者に対して、車椅子に乗ったままの状態で医科診療や歯科診療等の診療行為を施し得るようにした医科及び歯科診療用車椅子補助具を提供せんとするにある。
【解決手段】医科及び歯科診療時に患者が車椅子に乗ったまま診療可能にするための着脱自在な補助具であって、該補助具は複数のエアマットからなり、予め収縮した状態で車椅子に載置した後に患者を車椅子に導入し、患者の診療時に前記夫々のエアマットを膨張させて診療姿勢を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体障害者が車椅子に乗った状態で歯科診療または医科診療を受けるための医科及び歯科診療用車椅子補助具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の到来に伴い、加齢により衰えてくる身体機能の低下や疾患などの後遺症による身体障害者は増え続けている。従って、車椅子に乗った患者に対しての医科診療や歯科診療等の診療行為を施す要求も増加している。
【0003】
従来、例えば、特開2004−105414号公報(特許文献1)に記載されている歯科治療椅子への乗降補助装置の場合は、車椅子に乗った患者が歯科治療椅子へ乗降する際、患者の歯科治療椅子への乗降を助けるようにしたものである。
【0004】
また、特開平9−94274号公報(特許文献2)では、従来ある歯科治療椅子のヘッドレストを背板に対し、背板の長手方向に設けた略垂直なヘッドレスト支持部材を軸芯として水平方向に回転可能に取り付けることで、車椅子に患者を搭乗させた状態で車椅子の背中と診療椅子の背中を背中合わせになるように配置するとともに、ヘッドレストの凹み部の向きをバックレストの向きと反対方向に回転させるものである。
【0005】
さらに、特開平11−226064号公報(特許文献3)では、車椅子に乗ったままの状態で上顎の歯科治療が受けられるように、車椅子を乗り上げることができる基板と、この基板の手前側を回転中心として前方を上下動する駆動機構を有する治療台が開示されている。
更に又、特開2002−65749号公報(特許文献4)は、車椅子の座部にエアバッグを設け、患者の立ち上がりを補助する、起立補助装置が記載されているが、診療体系を補助するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−105414
【特許文献2】特開平9−94274
【特許文献3】特開平11−226064
【特許文献4】特開2002−65749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら特許文献の何れもが、診療室に車椅子のまま入室して、特別な装置を使用することなく健常者の診療装置を使用し得るようにしたものではない。
即ち、特開2004−105414号公報(特許文献1)に記載されている歯科治療椅子への乗降補助装置は、移動のため患者への負担がかかり、移動する際に時間や、介護が必要になり能率的な治療ができないという問題があった。
【0008】
また、特開平9−94274号公報(特許文献2)では、このような問題を解決すべく、車椅子に患者を搭乗した状態で診療できるようにしたものであるが、広い診療スペースが必要となり、術者や患者の移動の妨げになったり、術者の診療体系に無理が生ずるなどの問題が発生している。また患者を傾けることができないため、上顎治療が困難となる、と云う問題があった。
【0009】
さらに、特開平11−226064号公報(特許文献3)では、車椅子に乗ったままの状態で上顎の歯科治療が受けられるが、装置が大掛かりになり高価である。
更に又、特開2002−657449号公報(特許文献4)は、患者の立ち上がりを補助する車椅子であるが、診療体系を補助するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、加齢により衰えてくる身体機能の低下や疾患などの後遺症により増え続けている身体障害者の患者に対して、車椅子に乗ったままの状態で医科診療や歯科診療等の診療行為を施し得るようにした医科及び歯科診療用車椅子補助具を提供せんとするにある。
本発明の他の目的は、かかる補助具を備える医科及び歯科診療用車椅子を提供せんとするにある。
【0011】
本発明の請求項1の医科及び歯科診療用車椅子補助具は、医科及び歯科診療時に患者が車椅子に乗ったまま診療可能にするための着脱自在な補助具であって、該補助具は複数のエアマットからなり、予め収縮した状態で車椅子に載置した後に患者を車椅子に導入し、患者の診療時に前記夫々のエアマットを膨張させて診療姿勢を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2の医科及び歯科診療用車椅子補助具は、前記複数のエアマットをエアチューブによって一体に連通して構成し、外部の圧縮エア供給源から、一つのエア供給口にエアを供給することで全てのエアマットにエアが充填されるようにする。
本発明の請求項3の医科及び歯科診療用車椅子補助具は、車椅子のシート面と患者の身体との隙間を埋めるように配置し、前記複数のエアマットの表面を摩擦係数の高い材質で被覆して構成し得るようにする。
【0013】
本発明の請求項4の医科及び歯科診療用車椅子補助具の前記エアチューブには、少なくとも1個のエアの充填を制御する開閉弁と、少なくとも1個のエア排気を制御する開閉弁とを有し、各開閉弁の開閉を制御することでエアマットのエア充填の順番、エア排気の順番を時間制御可能にし得るようにする。
本発明の請求項5の医科及び歯科診療用車椅子補助具は、前記エア充填開始時間およびエア排気開始時間の制御を自動で行い得るようにする。
【0014】
本発明の請求項6の医科及び歯科診療用車椅子補助具では、前記複数のエアマットは、そのうちの一つを、患者の上体を背面側に傾斜した姿勢に保持させるための背部マットとし、該背部マットの患者側のマット面に沿って患者の胴体を固定するベルトを具備し得るようにする。
本発明の請求項7の医科及び歯科診療用車椅子補助具では、前記複数のエアマットは、そのうちの一つを患者の臀部及び大腿部をサポートする座部マットとし、該座部マットは、そのうちの、患者の左右両脇部が中央部より高く膨張するように、また足先方向先端部が中央部より高く膨張するように構成する。
【0015】
本発明の請求項8の医科及び歯科診療用車椅子補助具では、前記複数のエアマットは、そのうちの一つを、患者の頭を保持する枕と、その支持体とからなる頭部サポートマットとする。
本発明の請求項9の医科及び歯科診療用車椅子補助具では、前記複数のエアマットのうち、少なくとも一つを、患者の肘をサポートするための肘部サポートマットとする。
本発明の請求項10の医科及び歯科診療用車椅子補助具は車椅子のシート面と患者の身体との隙間を埋めるように配置され、かつ前記エアマットは内外二層構造からなり外層がボディーラインに合わせて自由に形状変形可能な素材で構成され、内層が外部のエア供給源からエア供給可能なエアバッグで構成し得るようにする。
【0016】
本発明の請求項11の医科及び歯科診療用車椅子補助具では、前記エアマット部に生体情報計測を目的とするための空気層を設け、該空気層の患者が乗った状態の空気圧の変化をチューブによって外部に伝達し、患者の呼吸、心拍数などの生体情報を検知し得るようにする。
本発明の請求項12の医科及び歯科診療用車椅子補助具では、歯科診療時には歯科診療台の近傍に車椅子を寄せて使用し、前記外部の圧縮エア供給源を歯科治療用ユニットに常設されているエア回路とし、該エア回路に接続可能なエア供給口を有するようにする。
【0017】
本発明の請求項13の医科及び歯科診療用車椅子補助具は、患者の足部をサポートする足部補助プレートを含み、車椅子の座部と、前記補助具との間に挟み込んで使用し得るようにする。
本発明の請求項14の医科及び歯科診療用車椅子補助具は、患者の頭部をサポートする頭部補助プレートを含み、車椅子の背部と、前記補助具との間に挟み込んで使用し得るようにする。
本発明の請求項15の医科及び歯科診療用車椅子補助具は、診療をサポートするうがい補助具を含み、歯科治療装置に付設するバキュームホース先端口に延長ホースを接続し、該延長ホースの他方の接続口にうがい用の鉢を接続し、該うがい用鉢を使用して、患者が治療中にうがいを行えるように、車椅子および/または鉢部に着脱可能な固定具を設けるようにする。
本発明の請求項16の医科及び歯科診療用車椅子補助具は、背部マット、座部マット、頭部サポートマット、左肘部サポートマットおよび右肘部サポートマットにより構成し、各マットはエアチューブで一体に連通し得るようにする。
本発明の請求項17の医科及び歯科診療用車椅子は、請求項1乃至16に記載の車椅子補助具を固着し、および/または、着脱自在に装着し得るようにする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の構成によれば、自宅から来院するまでは、一般の車椅子に萎んだ状態の座部エアマット及び背凭れ部エアマットを敷いてその上に座り、診療時に、エアマットを膨張させることで、医科及び歯科診療姿勢を形成することができる。従って、患者は車椅子から下りることなく診療を受けることができる。
【0019】
請求項2に記載の構成によれば、着脱自在な補助具は一体に構成され、車椅子載置時にエアマット間を配管接続する煩わしい作業は不要であり、一つの補助具を折り畳むことで持ち運びも容易になる。また1カ所からのエア充填で、各マットへのエア供給が完了し、患者を乗せた状態で診療姿勢への組み立てが完了する。
請求項3に記載の構成によれば、診療時に患者が補助具のマット面から滑ることなく安定して着座することができる。また、車椅子シート面と補助具マット面とが滑らないように患者を補助具マット面上に載置させることができる。
【0020】
請求項4に記載の構成によれば、各エアマットを膨らませる順番を制御することが可能になる。またエアを収縮する順番を制御することが可能になる。これによりエア充填時あるいはエア排気時に患者を安定した状態で、診療姿勢や診療前後の姿勢に制御することが可能になる。つまりエア充填時に患者の身体が左右に傾いたり、前方に押し出されたりしないように、患者の両脇や、座部先端、肘掛け部などを先に膨張させることで、患者が転倒、落下しないように防止することができる。
請求項5に記載の構成によれば、エアの開閉バルブの切替作業を自動で行うことが可能なため、ドクター、介助者の負担が軽減される。
請求項6に記載の構成によれば、患者の上体を傾けることが可能になるため、患者は車椅子に乗ったままで患者の口腔内の診療を受けることができる。またベルトで患者の胴体を押さえることで患者の上体が動かないように固定することができる。
【0021】
請求項7に記載の構成によれば、患者の臀部をマット内に安定して着座させることができる。また患者の両脇や、座部先端、などを先に膨張させることでエア充填時の患者の落下を防止することができる。
請求項8に記載の構成によれば、患者の頭部を傾けて安定させることができるため、患者は車椅子に乗ったままで患者の口腔内の診療を受けることが可能となる。
請求項9に記載の構成によれば、エア充填時、エア排気時、診療時に患者を安定させ、患者に恐怖感を与えないようにすることができる。
請求項10に記載の構成によれば、エアバッグへのエア供給により障害部分をカバーするようにエアバッグが膨らみ、さらに、外層部を流動可能なパウダー状のビーズ素材や、低反発ウレタン素材のように自由に形状変形可能な素材で構成することで、患者の姿勢や体形に合わせて隙間部を埋めることができ、エアの反発力を受けないように患者を安定した状態で固定することができる。
また、外層部が患者にやさしくフィットしその独特の触り心地の感触により、患者に癒し効果与え、安心して治療が受けられるようにすることができる。
【0022】
請求項11に記載の構成によれば、診察中に高齢者、身障者の体調の変化を検知し配慮することができる。
請求項12に記載の構成によれば、歯科用ユニットに常設されているエア供給用のワンタッチジョイントに容易に連結が可能なので着脱自在に移動して使用することが可能となる。
請求項13に記載の構成によれば、長時間の診療でも、患者の足部を楽に安定して支持させ得るようにすることができる。
【0023】
請求項14に記載の構成によれば、頭部サポートマットの枕と支持体の補強、または、頭部サポートマットに代えて使用することで、患者の頭部をさらに安定して支持することができる。
請求項15に記載の構成によれば、車椅子での歯科診療の際、うがいすることが通常の診療と同様に容易に行えるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明車椅子の補助具を患者が使用する場合の使用状態を示す側面図である。
【図2】(a)は本発明補助具に使用する座部マットの構造を示す断面図である。(b)は本発明補助具に使用するエアマットの構造を示す断面図である。
【図3】本発明車椅子の補助具の構成を示す平面図である。
【図4】本発明車椅子の補助具を車椅子に装着した状態を示す側面図である。
【図5】本発明車椅子の補助具を車椅子に装着した状態を示す正面図である。
【図6】本発明車椅子の補助具の背部マットの構成を示す説明図である。
【図7】本発明車椅子の補助具の座部マットの構造を示す説明図である。
【図8】本発明車椅子の補助具のエアバッグに対する圧縮エア供給系および排気系の一例を説明する回路図である。
【図9】同じくその他の例を示す回路図である。
【図10】同じくその更に他の例を示す回路図である。
【図11】本発明車椅子の補助具の各マットのエアの充填制御の工程を示すタイムチャート図である
【図12】本発明補助具を装着した車椅子を使用して歯科診療所において歯科診療開始までの手順を説明する上面図である。
【図13】同じくその他の例を示す上面図である。
【図14】本発明補助具を装着した車椅子を使用して歯科診療所において歯科診療時に必要となるうがい補助具の構成を示す説明図である。
【図15】本発明補助具を装着した車椅子を使用する際の車椅子自体に対する補助具を示す説明図である。
【図16】本発明補助具を装着した車椅子を使用する際の車椅子自体に対する補助具を示す説明図である。
【図17】本発明車椅子の補助具の背部マットに生体情報を計測するための空気層を設けた構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
エアマットの構造:
図2aに示すように、本発明医科及び歯科診療用車椅子WHCの補助具AIに使用するエアマット4は、ビニール素材またはゴム素材を使用した1乃至複数のエアバッグ(空気袋)11,12,13に分かれている。斯様に複数のエアバッグを使用することで、患者Pの荷重による反発力を分散して、耐圧分布を分散させることができる。このエアバッグを被覆する表面層14は車椅子WHCの座部や背部のシート面に対し、摩擦係数の高い、且つ滑りにくいシリコン材質や布地を使用する。滑りにくい材質を使用することで、患者Pはマット面から滑ることなく安定して着座することができる。また車椅子WHCのシート面と補助具AIのマット面とが滑らないように患者Pを載置させることができる。
【0026】
また、図2bに示す様に、エアマット10は内外二層構造からなり、外層16はボディーラインに合わせて自由に形状変形可能な素材、例えば、流動可能なパウダー状のビーズ素材や低反発ウレタン素材で構成し、内層15は外部のエア供給源(図示せず)よりエア供給可能なエアバッグで構成することもできる。このように構成すると、患者Pの姿勢や体形に合わせて隙間部を埋めることができ、エアの反発力を受けないように患者Pを安定した状態で固定することができる。
また、外層部16が患者Pにやさしくフィットしその独特の触り心地の感触により、患者Pに癒し効果与え、安心して治療を受けることができる。この内層15および外層16はその外側を表面層17で被覆する。
【実施例】
【0027】
本発明の補助具AIを使用して患者Pが車椅子WHCに乗って診療を受ける場合の使用状態を図1に示す。
補助具の構造:
図3に示す様に、この補助具AIは、前記エアマットの構造を使用して、背部マット1、座部マット3、頭部サポートマット5、左肘部サポートマット7および右肘部サポートマット9から構成し、各マットはエアチューブで一体に連通するように接続する。
図6に示す様に、背部マット1は患者Pの上体を車椅子WHCの背板側に傾斜した姿勢に保持させるためのマットで、内部にエアバッグ22(図17参照)を収納する。また背部マット1の患者P側のマット面に沿って患者Pの胴体を保持するためのベルト19を具備している。このベルト19はその先端のバックル20で患者Pの胴体を安定させるように締付ける。
【0028】
図7に示す様に、座部マット3は、患者Pの左右両脇部a,bが中央部cより高く膨張するように、また足先方向先端部dが中央部cより高く膨張するように、別々の空気袋によって区切られた状態に形成する。これにより、圧縮空気充填時に患者Pの身体が左右前後に移動しないように安定化させるようにしている。(図7に座部マットのA−A断面図およびB−B断面図を示す)
図3および図4に示す様に、頭部サポートマット5は、患者Pの頭を保持する枕6と、その支持体8とから構成する。この支持体8は、頭部が安定して起立できるように形成された一体のエアバッグから構成する。また、支持体8は枕6を車椅子WHCに保持させるために、背部マット1と車椅子WHCのシートの間に挟み込んで固定し得るように構成する。
図1の使用状態を示す側面図に示す様に、背部マット1、座部マット3、頭部サポートマット5をエアで充填したときに、患者口腔位置は、ドクターが立位状態で診療する上で、良好な診療姿勢となるように構成配置され、床から患者口腔位までの高さは概ね1000mm前後となるようにする。
また、背部マットの傾斜角度は概ね63度に設定している。これは患者が車椅子に乗った診療状態で負担にならない体位であり、ドクターも立位診療するうえで、上顎および下顎の診療に対応可能な望ましい角度である。
【0029】
図4および図5に示す様に、左右の肘部サポートマット7,9は、患者Pの左右の肘をサポートするためのマットで、その中に、車椅子WHCの肘掛部の上部を覆って固定するように、左右ひとつずつエアバッグを収納する。
次に図8、図9、図10使って便宜上3個のエアバックを制御する回路について説明をする。
図8に示す様に、これらエアバッグは圧縮エア供給用のエアチューブ21、23,25と排気用のエアチューブ27,29,31とを接続し、圧縮エア供給用の各エアチューブ21、23,25には、開閉弁33,35,37と安全弁39,41,43とが接続する。これら開閉弁は電磁弁であっても、手動の開閉コックであってもよい。
電磁弁の場合は、図示しないコンピュータやシーケンス制御によって自動制御することが可能である。
【0030】
安全弁は、エアバッグに外部から異常な圧力が加わった場合に、エアバッグが破裂しないように適正圧に調整し、空気が抜ける構造とする。
なお、前述したように、各エアバッグに1個ずつ開閉弁を使用してもよいが、いくつかのエアバッグのエアチューブをまとめて、一つにして開閉弁を設けてもよい。また安全弁も同様にいくつかのエアバッグのエアチューブをまとめて、一つにして安全弁を設けてもよい。
更に、各エアバッグには排気用のエアチューブ27,29,31が接続されおり、これら排気用のエアチューブには開閉弁45,47,49が接続されている。これら排気用の開閉弁も、各エアバッグに1個ずつ開閉弁を使用してもよいが、いくつかのエアバッグのエアチューブをまとめて、ひとつにして開閉弁を設けてもよい。(図9参照)
またエアバッグに対して、圧縮エア供給用のエアチューブと排気用のエアチューブを一つのエアチューブにして供給排気兼用エアチューブ51,53,55にしてもよい。この場合、エアチューブに供給用の開閉弁、排気用の開閉弁、安全弁を接続して圧縮エアの供給排気制御が可能なようにする。(図10参照)
【0031】
補助具の動作:
各供給用の開閉弁、排気用の開閉弁は個々或いは纏まり毎に順番に開くことが可能である。
例えば、座部マット1の場合、中央部c、左脇部a、右脇部b、足部dの4つのエアバッグに分けて、各エアバッグの圧縮エア供給、排気を時間差で順番に開閉することができる。(図7参照)
この場合、エア充填時に患者Pの臀部が滑って移動することのないように、先に両脇a、b、前方dをエアバッグで高めに土手を作ってから、中央部cのエアを供給するように開閉弁を開閉すればよい。
開閉弁が手動コックの場合、左脇部a、右脇部b、足部dの開閉コックを先に開き、その後中央部cの開閉コックを開く。エア排気時はこの順番とは逆の順番に手動コックを閉じればよい。
【0032】
開閉弁が電磁弁の場合は、電気的に制御が可能になる。即ち、開閉スイッチ(図示せず)を制御することで自動制御を行うことができる。なお、通電の順番は予めプログラムされている図示しないコンピュータやシーケンス制御で容易に制御することができる。
上述した所は、座部マット3の内部のエアバッグの制御について説明したが、補助具AIを構成する全てのマットおよび各マットに内蔵されているエアバッグについても、エアの充填の順番、エアの排気の順番を時間制御することが可能である。
各マットのエアの充填制御に於いて、特に背部マット1は他のエアマットとは同時にエアを充填せずに、他の全てのエアマットの充填が完了した後に、患者Pの位置を確認しながら膨らませることで、最適な診療姿勢を形成することが容易になる。(図11参照)
【0033】
診療:
歯科診療位置までの移動準備;
自宅から歯科医院来院まではエアマットを事前に患者Pの家族に取りに来てもらい(即ちレンタル)、患者Pが車椅子WHCに移る前にマットを敷いておく。この時、エアマットは萎んだ状態にある。
患者Pは車椅子WHCに移動し着座したら、背部マット1に具備されたベルト19を固定し準備が完了する。
エアマットは診療終了まで貸与し、家に着いたら歯科医院に返却するか、或いは、次回診療まで貸与したままにする。
歯科診療開始までの手順;
図12及び図13は本発明補助具を装着した車椅子を使用して歯科診療所において歯科診療開始までの手順を説明する上面図である。
歯科診療所では、診療所にスペースがある場合には、車椅子WHCを歯科治療椅子DTCと平行になるまで導入することが望ましい。この時には、歯科診療ユニット57のドクターテーブル59は患者Pのお腹のあたりに配置する。(図12参照)
ドクターDは患者Pの右頭部側に立って診療を行う。この時アシスタントAは、患者Pの頭の後ろ側に位置し,ドクターDの介助を行う。(図12参照)
【0034】
診療所にスペースが無く、車椅子WHCが導入できない場合には、車椅子WHCの向きを歯科治療椅子DTCの向きとは反対にして、治療を行う。この時には、歯科診療ユニット57のドクターテーブル59は、患者Pの頭近くに配置される。ドクターDは患者Pの右頭部側に立って診療を行う。アシスタントAは、患者Pの頭の横側に位置しドクターDの介助を行う。(図13参照)
いずれの場合も、歯科診療ユニット57の無影灯61は患者Pの口腔を照らすことが可能になる。
図示しないが、車椅子WHCの固定は、車椅子WHCの車輪を固定するための、ストッパー(図示せず)で固定する。さらに安全を考えた場合、バスや電車などと同様な車椅子WHCの固定装置(マジックテープ(登録商標)のようなもの)で歯科治療ユニット57と車椅子WHCとを固定してもよい。
【0035】
車椅子WHCに予め敷かれている補助具AIにエアを供給する。エア供給源は歯科治療用ユニット57に常設されているサービスエア回路63(図12参照)に接続することができる。歯科治療用ユニット57のサービスエア回路63にはエア供給用のエアワンタッチジョイント(図示せず)が用意されており、着脱自在に連結が可能で、補助具AIのエア供給口を接続してエアを充填することができる。
なお、歯科治療用ユニット57にサービスエア回路63がない場合には、エア供給口を携行用の小型の電動エアポンプに接続してエア供給してもよい。さらに、足踏み式のエアポンプを使用してもよい。
エア供給時、前述したようにエアバッグに順番にエアを充填していく。エア充填の順序は、図11に示す順序に従って行う。
アシスタントAは、歯科診療ユニット57の付設するアシスタントハンガー65に搭載された、シリンジ(図示せず)、バキュームチップ67(図12参照)、排唾(図示せず)を使用してドクターの介助を行う。この際、車椅子WHCの向きが歯科治療椅子DTCの向きとは反対の場合は、隣に設置されている歯科診療ユニット57のアシスタントハンガー65を使用することができる。
【0036】
補助具を使用した例:
うがい補助具;
また、患者Pのうがいの際は、歯科治療ユニット57のアシスタント側に付設するバキュームチップ67のチップを取り外し、バキュームホース68の先端口に延長ホース69を接続し、その延長ホース69の他方の接続口に、うがい用の鉢71を接続したものを使用することができる。この場合には、バキュームを作動させることで、歯科診療ユニット57の排水溝に汚水を流すことが可能となる。うがい用の鉢71の固定には、患者Pが治療中にうがいを行えるように、車椅子WHCおよび/または鉢71に着脱可能な鉢固定具73を設けてもよい。
また車椅子WHCに隣接させた専用のポール75に鉢固定具73を設けてもよい。鉢固定具73は、鉢の根本部に設けたL字型の引っ掛け金具77を、車椅子WHCの肘掛部や、車椅子WHCに隣接させた専用のポール75に引っ掛けることが可能である。(図14参照)
なお、バキュームチップ67を外し、鉢71に接続してアシスタントハンガー65に載置し、アシスタントハンガー65を車椅子WHCの患者側に寄せて使用してもよい。
【0037】
足部補助プレート;
図15に示す様に、座部マット3には足を浮かせておくために、せり出し部が設けられているが、このせり出し部分を長くして荷重で撓まないようにすることで、長時間の診療にも、患者Pの足を楽に保持させることができる。そのためには、座部マット3を補助するための足部補助プレート79を使用してもよい。足部補助プレート79は長方形のアルミニューム板等で構成する。この足部補助プレート79は車椅子WHCと補助具AIの座部マット3との間に挟み込んで使用することができる。足部補助プレート79は先端部を上方へ傾斜させてもよい。
【0038】
頭部補助プレート;
更に、図15に示す様に、頭部サポートマット5の安定度をさらに増大させるためには、頭部補助プレート81を使用することができ、この頭部補助プレート81を使用すれば、頭部サポートマット5の枕6と支持体8の補強、または、頭部サポートマット5に代えて患者Pの頭部をさらに安定して支持させることが可能である。頭部補助プレート81は長方形のアルミニューム板等を診療姿勢に合わせた角度で曲げて構成する。
この頭部補助プレート81は、車椅子WHCの背部と、前記補助具AIの頭部サポートマット5との間に挟み込んで使用する。
また、上顎の治療時には患者Pの頭部を下顎治療時よりも傾けて治療することが望まれる。このような場合にも,頭部補助プレート81を使用すれば、エアマットを補強することができ、安定して治療を行なうことができる。
【0039】
即ち、図16に示す様に、頭部サポートマット5に代えて頭部補助プレート81を車椅子WHCの背部と、補助具AIの背部マット1との間に挟み込んで使用する。この場合には、頭部補助プレート81に予め歯科治療椅子DTCに使用される枕90を固定できるようにしてもよい。
なお,頭部補助プレート81は、車椅子WHCの介護者が操作するハンドル部分Hに頭部補助プレート81を固定できるようなハンドル部固定具83を設けてもよい。
【0040】
歯科診終了後の手順:
診療終了時にエアマットのエア抜きを行う。このエア抜きは排気用の開閉弁45,47,49を開くことで患者Pの荷重で自然に排気される。また、エアの充填の順番とは逆の順番に排気することで、車椅子WHCを着座定位置に戻すことも可能である。
診療が完了し、車椅子WHCで自宅に戻り、患者Pが車椅子WHCから降りた後、エアマットは手で押せば、残留していたエアは負担なく排気することができる。車椅子補助具AIはその後、家族が歯科医院に返却する。或は又、この補助具AIを患者自信が購入することもできる。
【0041】
生体センサを内蔵した例:
図17は背部マット1に生体情報を計測するための空気層85を設けた構造を示す側面図である。
なお、この空気層85はエアチューブによってエア供給口に接続するものではなく、生体情報検出空気層85として設けられた別箇の空気層で、一定圧で加圧された閉鎖された空気層である。生体情報検出空気層85は、エアバッグ22と表面層88の間に設ける。
この生体情報計測を目的とするための生体情報検出空気層85に、患者Pがよりかかった状態の空気圧の変化から患者Pの呼吸、心拍数、体動などの生体情報を、これに連結された生体情報検出用エアチューブ87によって外部の生体情報検出手段91に伝達し、診察中に高齢者や身障者の体調の変化を検知することができる。
即ち、生体情報検出空気層85はそのエア圧の変化をエアマットの外部に連結されたチューブの先端に設けられた空電変換手段89に伝達し、例えば感圧センサ、圧電素子、マイクロフォンなどで検出し、空気信号を電気信号に変換し、患者Pの呼吸数、心拍数、体動を術者に伝達するものである。その信号伝達方法は音や表示手段を使用すればよい。これにより、診察中に高齢者や身障者の体調の変化を検知し、患者Pの安全を確保することができる。
【0042】
なお、本願発明の先の発明(特許第3,982,750号公報)に示すように、生体情報計測手段からのデータから変化量を計測し基準値と比較して判定し、警告音などで告知したり、治療装置を止めたり、パワーを落としたりするようにして治療制限を加えたり、緊張緩和するような音楽などを流すこともできる。
【0043】
歯科診療以外の応用例:
医科の耳鼻科で治療する際や、内科で腹部や心臓の診察の際に、車椅子WHCに乗ったままで横にして診察出来るので、有効である。
また、車椅子WHCのままで患者Pを横にすることが出来れば、ベットやストレッチャー、あるいは高齢者療養施設でお風呂に入れる際に患者Pを移すことが極めて容易となる。
ベットやストレッチャーへ移動する場合は、空気を抜いたマットを両脇から持ち上げることで患者の移動が容易になる。また、お風呂への移動は患者を滑り台のようにゆっくりと滑らせて入れることが可能になる。
【0044】
訪問診療時の使用法:
訪問診療先で、足踏み式や他の方法で充分な空気圧が得られるのであれば、訪問する前に患者Pの家族にエアマットを借りに来てもらい、訪問診療に伺った際には、患者Pの下にエアマットが敷いてあれば、スムーズで危険の少ない治療が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願の医科及び歯科診療車椅子補助具は〔0043〕の歯科診療以外の応用例で示したように、介護用品としても使用することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 背部マット
3 座部マット
4 エアマット
5 頭部サポートマット
6 枕
7 左肘部サポートマット
8 支持体
9 右肘部サポートマット
10 エアマット
11、12、13 エアバッグ
14 表面層
15 内層
16 外層
17 表面層
19 ベルト
20 バックル
21、23、25 圧縮エア供給用のエアチューブ
22 エアバッグ
27、29、31 排気用のエアチューブ
33、35、37 開閉弁
39、41、43 安全弁
45、47、49 開閉弁
51、53,55 供給排気兼用エアチューブ
57 歯科診療ユニット
59 ドクターテーブル
61 無影灯
63 サービスエア回路
65 アシスタントハンガー
67 バキュームチップ
68 バキュームホース
69 延長ホース
71 鉢
73 鉢固定具
75 ポール
77 引っ掛け金具
79 足部補助プレート
81 頭部補助プレート
83 ハンドル部固定具
85 生体情報計測空気層
87 生体情報検出用エアチューブ
88 表面層
90 枕
91 外部生体情報検出手段
WHC 車椅子
AI 車椅子補助具
P 患者
H 車椅子ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医科及び歯科診療時に患者が車椅子に乗ったまま診療可能にするための着脱自在な補助具であって、前記補助具は複数のエアマットから構成し、予め収縮した状態で車椅子に載置した後に患者を導入し、患者の診療時に前記夫々のエアマットを膨張させて診療姿勢を形成するようにしたことを特徴とする医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項2】
前記複数のエアマットは、エアチューブによって一体に連なるように構成し、外部の圧縮エア供給源から、一つのエア供給口にエア供給することで全てのエアマットにエアが充填されるようにしたことを特徴とする請求項1記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項3】
前記補助具は、車椅子のシート面と患者の身体との隙間を埋めるように配置し、前記複数のエアマットの表面を摩擦係数の高い材質で被覆して構成することを特徴とする請求項1乃至請求項2記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項4】
前記エアチューブには、少なくとも1個のエア充填を制御する開閉弁と、少なくとも1個のエア排気を制御する開閉弁とを有し、各開閉弁の開閉を制御することでエアマットのエア充填の順番、エア排気の順番を時間制御可能にすることを特徴とする請求項2記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項5】
前記エア充填開始時間および前記エア排気開始時間の制御を自動で行うようにしたことを特徴とする請求項4記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項6】
前記複数のエアマットは、そのうちの一つを患者の上体を背面側に傾斜した姿勢に保持させるための背部マットとし、該背部マットの患者側マット面に沿って患者の胴体を固定するベルトを具備するようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項7】
前記複数のエアマットは、そのうちの一つが患者の臀部及び大腿部をサポートする座部マットとし、患者の左右両脇部が中央部より高く膨張するように、また足先方向先端部が中央部より高く膨張するように形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項8】
前記複数のエアマットは、そのうちの一つが患者の頭を保持する枕と、その支持体からなる頭部サポートマットとすることを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項9】
前記複数のエアマットは、そのうちの少なくとも一つを患者の肘をサポートするための肘部サポートマットとすることを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項10】
前記補助具は、車椅子シート面と患者の身体との隙間を埋めるように配置し、かつ前記エアマットは内外二層構造からなり外層がボディーラインに合わせて自由に形状変形可能な素材で構成し、内層が外部のエア供給源よりエア供給可能なエアバッグで構成することを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項11】
前記エアマット部に生体情報計測を目的とするための空気層を設け、該空気層の、患者が乗った状態における空気圧の変化をチューブによって外部に伝達し、患者の呼吸、心拍数などの生体情報を検知可能とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項12】
歯科診療時には歯科診療台近傍に車椅子を寄せて使用し、前記外部の圧縮エア供給源を歯科治療用ユニットに常設されているエア回路とし、該エア回路に接続可能なエア供給口を設けることを特徴とする請求項1乃至請求項2記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項13】
前記補助具は、患者の足部をサポートする足部補助プレートを含み、車椅子の座部と、前記補助具との間に挟み込んで使用することを特徴とする請求項1、請求項2、請求項7記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項14】
前記補助具は、患者頭部をサポートする頭部補助プレートを含み、車椅子の背部と前記補助具との間に挟み込んで使用することを特徴とする請求項1、請求項2、請求項8記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項15】
前記補助具は、診療をサポートするうがい補助具を含み、歯科治療装置に付設するバキュームホース先端口に延長ホースを接続し、該延長ホースの他方の接続口にうがい用の鉢を接続し、該うがい用鉢を使用して、患者が治療中にうがいを行えるように、車椅子および/または鉢部に着脱可能な固定具を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項16】
前記補助具は、背部マット、座部マット、頭部サポートマット、左肘部サポートマットおよび右肘部サポートマットにより構成し、各マットはエアチューブで一体に連通するようにしたことを特徴とする
請求項1、請求項6乃至請求項9の何れかに記載の医科及び歯科診療用車椅子補助具。
【請求項17】
請求項1乃至16に記載の車椅子補助具を固着し、および/または、着脱自在に装着したことを特徴とする医科及び歯科診療用車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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