説明

医薬化合物の結晶形

薬学的化合物「[9S-(9α,10β,12α)]-5,16-ビス[(エチルチオ)メチル]-2,3,9,10,11,12-ヘキサヒドロ-10-ヒドロキシ-9-メチル-1-オキソ-9,12-エポキシ-1H-ジインドロ[1,2,3-fg:3′,2′,1′-kl]ピロロ[3,4-i][1,6]ベンゾジアゾシン-10-カルボン酸メチルエステル」の結晶形、およびこれらの使用方法および製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物の結晶形、および特にパーキンソン病の治療用薬剤の製造における前記結晶形の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下に記載される構造を有する化合物は、現在、パーキンソン病に対する臨床試験が行われている(非特許文献1)。
【0003】
【化1】

【0004】
この化合物は、以下、化合物Iとして表す。化合物Iの化学名は、[9S-(9α,10β,12α)]-5,16-ビス[(エチルチオ)メチル]-2,3,9,10,11,12-ヘキサヒドロ-10-ヒドロキシ-9-メチル-1-オキソ-9,12-エポキシ-1H-ジインドロ[1,2,3-fg:3′,2′,1′-kl]ピロロ[3,4-i][1,6]ベンゾジアゾシン-10-カルボン酸メチルエステルである。
【0005】
以下の引用文献は、化合物I、特にその製造方法、およびその主に中枢神経系(CNS)の疾患における、特に、神経変性疾患、例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、末梢性ニューロパシー、AIDS痴呆および耳障害、例えば騒音性難聴の治療のための医薬的用途の可能性に関する(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8)。
【0006】
以下の特許文献は、その医薬的用途および合成を含む化合物Iに関する:特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4および特許文献5。
【特許文献1】国際公開第9402488号パンフレット
【特許文献2】国際公開第9749406号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5621100号明細書
【特許文献4】欧州特許第0651754号明細書
【特許文献5】欧州特許第112 932号明細書
【非特許文献1】Idrugs, 2003, 6(4), 377-383
【非特許文献2】Progress in Medicinal Chemistry (2002), 40, 23-62
【非特許文献3】Bioorg. Med. Chem. Lett. 2002,12(2), 147-150
【非特許文献4】Neuroscience, Oxford, 1998, 86(2), 461-472
【非特許文献5】J. Neurochemistry (2001), 77(3), 849-863
【非特許文献6】J. Neuroscience (2000), 20(1), 43-50
【非特許文献7】J. Neurochemistry (2002), 82(6), 1424-1434
【非特許文献8】Hearing Research, 2002, 166(1-2), 33-43
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
公知の方法によれば、化合物Iは固体の非結晶体で合成される。本発明者は今回、化合物Iの5つの結晶形(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタおよびイプシロンと名付ける)を見出し、それにより化合物Iの製造方法およびその医薬的用途を改善することができる。所望のおよび有益な化学的および物理的特性を示す結晶形が必要とされている。商業化を可能とするための、確実で再現性のある化合物Iの製造方法、精製方法、および製剤化方法もまた必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様において、本発明は、結晶質化合物I、特に化合物Iの結晶形に関する。
【0009】
従って、本発明は、アルファと名付けられ、以下のうちの1つまたはそれ以上により特徴付けられる、化合物Iの結晶形を提供する:(i)CuKα線(CuKα radiation)を用いて測定される、図1に示されるような粉末X線ディフラクトグラム(diffractogram);(ii)CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:5.2, 7.3, 8.1, 10.1, 10.4, 11.2, 13.2, 15.1, 15.5, 17.3, 21.7, 23.8, 25.1における反射;(iii)図7に示される固体炭素13 NMR(solid state Carbon-13 NMR)スペクトル;(iv)図10に示されるNIR反射スペクトル。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、ベータと名付けられ、以下のうちの1つまたはそれ以上により特徴付けられる、化合物Iの結晶形を提供する:(i)CuKα線を用いて測定される、図2に示されるような粉末X線ディフラクトグラム;(ii)CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:6.6, 8.9, 10.7, 11.4, 11.7, 13.7, 17.0, 18.5, 18.8, 19.2, 20.3, 24.4, 30.6における反射;(iii)図8に示される固体炭素13 NMRスペクトル;(iv)図11に示されるNIR反射スペクトル。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、ガンマと名付けられ、以下のうちの1つまたはそれ以上により特徴付けられる、化合物Iの結晶形を提供する:(i)CuKα線を用いて測定される、図3に示されるような粉末X線ディフラクトグラム;(ii)CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:7.5, 8.3, 9.6, 11.5, 11.8, 12.5, 15.9, 16.3, 16.7, 17.2, 18.0, 19.3, 21.0, 28.1における反射;(iii)図9に示される固体炭素13 NMRスペクトル;(iv)図12に示されるNIR反射スペクトル。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、デルタと名付けられ、以下のうちの1つまたはそれ以上により特徴付けられる、化合物Iの結晶形を提供する:(i)CuKα線を用いて測定される、図13に示されるような粉末X線ディフラクトグラム;(ii)CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:7.3, 8.3, 9.7, 11.1, 11.7, 12.1, 15.6, 16.1, 17.3, 18.3, 20.9, 22.1, 22.2, 25.7, 25.8における反射。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、イプシロンと名付けられ、以下のうちの1つまたはそれ以上により特徴付けられる、化合物Iの結晶形を提供する:(i)CuKα線を用いて測定される、図15に示されるような粉末X線ディフラクトグラム;(ii)CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:8.9, 9.2, 10.2, 12.6, 14.2, 14.6, 17.0, 18.6, 20.4, 21.1, 23.9, 25.2における反射。
【0014】
本発明はさらに、本発明の結晶形を製造する方法、および活性成分として化合物Iを含む薬剤の製造において該結晶形を使用する方法に関する。
【0015】
<図面の簡単な説明>
図1は、化合物Iのアルファ型の粉末X線ディフラクトグラムを示す。
【0016】
図2は、化合物Iのベータ型の粉末X線ディフラクトグラムを示す。
【0017】
図3は、化合物Iのガンマ型の粉末X線ディフラクトグラムを示す。
【0018】
図4は、化合物Iのアルファ型のDSCサーモグラムを示す。
【0019】
図5は、化合物Iのベータ型のDSCサーモグラムを示す。
【0020】
図6は、化合物Iのガンマ型のDSCサーモグラムを示す。
【0021】
図7は、化合物Iのアルファ型の固体炭素13 NMRスペクトルを示す。
【0022】
図8は、化合物Iのベータ型の固体炭素13 NMRスペクトルを示す。
【0023】
図9は、化合物Iのガンマ型の固体炭素13 NMRスペクトルを示す。
【0024】
図10は、化合物Iのアルファ型のNIR反射スペクトルを示す。
【0025】
図11は、化合物Iのベータ型のNIR反射スペクトルを示す。
【0026】
図12は、化合物Iのガンマ型のNIR反射スペクトルを示す。
【0027】
図13は、化合物Iのデルタ型の粉末X線ディフラクトグラムを示す。
【0028】
図14は、化合物Iのデルタ型のDSCサーモグラムを示す。
【0029】
図15は、化合物Iのイプシロン型の粉末X線ディフラクトグラムを示す。
【0030】
図16は、化合物Iのイプシロン型のDSCサーモグラムを示す。
【0031】
図17は、化合物Iのアルファ型における一方の分子(分子1)のコンホメーションを示す。
【0032】
図18は、化合物Iのアルファ型における他方の分子(分子2)のコンホメーションを示す。
【0033】
図19は、化合物Iのアルファ型における分子のパッキングを示す。
【0034】
図に関する詳細は後述の実施例において示す。
【0035】
薬学的に有用な化合物の結晶形の発見は、医薬製品および製造方法のパフォーマンス特性を改善する機会を提供する。
【0036】
化合物の異なる固体形態により示される、物理的特性、例えば安定性(有効期間)、生物学的利用能、溶解性、溶解速度の相違は、化合物の製造および製剤化において重要な因子である。安定性における相違により、化学反応性(例えば酸化)における変化または機械的変化(例えば保管において崩壊する錠剤が、熱力学的により安定な結晶形へ変換し得る)またはその両方が生じ得る。固体形態の物理的特性は、処理過程において重要であり、例えばある固体形態は、不純物を含まないようにろ過および洗浄するのが困難である。これは、他方に対する一方の結晶形と 非結晶体との間の粒子の形状および粒度分布における相違のためである。
【0037】
さらに、種々の結晶形で存在し、固体の形態で販売されている薬物に関しては、医学的および商業的理由の両方のために、公知の結晶形を製造、販売することが一般的に重要である。結晶質化合物Iの発見および5つの結晶形の存在により、非結晶固体の代わりに、定義した結晶形の開発が可能となる。また、結晶質化合物Iの物理的特性は、製剤の開発および錠剤の製造に有利であり、例えば定義した結晶形を有することにより、直接圧縮が容易になる。
【0038】
結晶質化合物は一般的に、対応する非結晶化合物よりも安定であり、このことは、エアセンシティブ(air sensitive)および光センシティブな化合物Iの場合には特に重要である。
【0039】
Heraeus社製のサンテストCPS+において、結晶形アルファ、ベータおよびガンマに関して、固体化合物を光に650Wで14時間暴露させる実験を行った。光での処理により、非結晶物質で約60%の分解が生じ、一方、結晶形は30%未満の分解を示した。
【0040】
化合物Iは、2つの硫黄原子を含み、容易にスルホンおよびスルホキシドの複合体混合物に酸化される。この酸化感受性により、化合物Iの精製の間には細心の注意を必要とする。本発明は、結晶化による化合物Iの精製を可能にし、発明者がクロマトグラフィーのような他の精製方法を使用した場合に得られる生成物と比較して、酸化化合物のレベルを減少させる。さらに化合物Iには、エステル交換反応を受けることができ、加水分解も受けやすい活性エステル基が含まれる。
【0041】
化合物Iの合成の最終段階において、所望のチオールエチル側鎖がエチルメルカプタンを反応剤として用いて導入される(J.Med. Chem. 1997, 40(12), 1863-1869; Curr. Med. Chem. - Central Nervous System Agents, 2002, 2(2), 143-155)。エチルメルカプタンは、特有の強力な臭いを有し、医薬製品には望ましくない。非結晶固体として化合物Iを単離すると、固体生成物中にはエチルメルカプタンが含まれるが、この不要な反応剤のレベルは、結晶化を経て減少する。
【0042】
さらに、本発明の結晶形の物理的性質は、例えば、化合物Iの非結晶体と比較してろ過回数を減少させることで単離段階を改善させ、これは化合物Iの大規模な製造において非常に重要なことである。この点に関しては、デルタ型がアルファ型よりも良好なろ過特性を有することが見出された。
【0043】
非結晶体と比較した結晶形の物理化学的特性におけるさらなる相違は、高い融点であり(下記の実施例9における表Iを参照)、これはさらなる工程において有利である。
【0044】
上述のように、本発明者は、化合物Iを結晶形で製造することができ、少なくとも5つの、本明細書においてはアルファ、ベータ、ガンマ、デルタおよびイプシロンと名付けられた結晶形の化合物Iが存在することを見出した。
【0045】
従って、広い態様において本発明は、結晶質化合物I、特に化合物Iの結晶形に関する。本明細書において使用される場合に、「化合物Iの結晶形」という語句は、化合物Iの結晶形、すなわち非結晶体と対照的ないずれの結晶形をも含む。特に、「結晶質化合物I」という語句は、化合物Iのアルファ、ベータ、ガンマ、デルタおよび/またはイプシロン結晶形を含み、結晶形は本明細書において定義されるとおりである。
【0046】
化合物の結晶形は、固化した化合物の単位胞における原子核の位置により識別される。このような相違により、温度特性、蒸気透過性および溶解性のような異なる巨視的な特性が生じ、これらは上述のように実際上、製薬業において重要性を有する。本明細書に記載される種々の結晶形は、当業者に公知の種々の解析技術を使用することによって、お互いを区別することができる。これらの技術には、限定はされないが、粉末X線回折(XRD)、示差走査熱量測定(DSC)、固体核磁気共鳴(NMR)分光法および近赤外(NIR)分光法が含まれる。化合物の結晶形は、X線解析により最も容易に区別することができる。単結晶X線結晶学により、核の位置を決定するために使用できるデータが得られ、その結果、コンピューターまたは機械上のモデルを用いて可視化することができ、従って、化合物の3次元画像が提供される。単結晶X線研究は無比の構造情報を提供する一方で、高価であり、良質なデータを得るのが困難な場合がある。粉末X線回折は、薬物の新しい結晶形の特性を明らかにするために、製薬業界において単結晶X線解析よりも頻繁に使用されている。粉末X線回折により、結晶形に特有なフィンガープリントが得られ、それにより、該結晶形を非結晶化合物および該化合物のその他の全ての結晶形から区別することができる。
【0047】
従って、本発明の1つの実施態様は、アルファと名付けられ、CuKα線を用いて測定される、図1に示されるような粉末X線ディフラクトグラムにより特徴付けられる化合物Iの結晶形に関する。さらなる実施態様において、化合物Iのアルファ型は、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:5.2, 10.1, 10.4, 13.2, 15.1, 25.1における反射により特徴付けられる。化合物Iのアルファ型はまた、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:5.2, 7.3, 8.1, 10.1, 10.4, 11.2, 13.2, 15.1, 15.5, 17.3, 21.7, 23.8, 25.1における反射によっても特徴付けられる。化合物Iのアルファ型はまた、図7に示される固体炭素13 NMRスペクトルによっても特徴付けられる。化合物Iのアルファ型はまた、図10に示されるNIR反射スペクトルによっても特徴付けられる。化合物Iのアルファ型はまた、180〜190℃の範囲に融点を有することによっても特徴付けられる。化合物Iのアルファ型はまた、図4に示されるものと実質的に一致するDSCサーモグラムを有することによっても特徴付けられる。化合物Iのアルファ型はまた、約170℃〜約200℃において吸熱を有するDSCサーモグラムによっても特徴付けられる。アルファ型の結晶構造(実施例8.5)は、結晶格子に、より小さい溶剤、特に水またはメタノール分子により占められていてもまたは占められていなくてもよい空間を有する。従って、化合物の結晶アルファ型は、可変量の水および/またはメタノールの溶媒和物であってもよい。
【0048】
従って、本発明はまた、122Kで以下の特性を有する結晶構造により特徴付けられる結晶形に関する:空間群:P212121、単位胞の大きさ(Unit cell dimensions):a = 10.227(2) Å、b = 23.942(2) Åおよびc = 24.240(2) Å、α= 90°、β = 90°、γ= 90°、非対称単位あたり2分子。この結晶構造における非対象単位は、2分子の化合物Iおよび1つの溶剤部位を含むので、溶剤部位が完全に占有されると半溶媒和物(hemi-solvate)となる。本発明はさらに、実質上、表2〜4における座標によって記載されるような原子位置を有する上述の結晶構造に関する。
【0049】
本明細書において粉末X線ディフラクトグラムデータに関して反射(ピーク)を表す場合に、反射が度(2θ角における、すなわち2-シータ角における)で表されることは理解されるだろう。
【0050】
さらなる実施態様は、ベータと名付けられ、CuKα線を用いて測定される、図2に示されるような粉末X線ディフラクトグラムにより特徴付けられる化合物Iの結晶形に関する。さらなる実施態様において、ベータ型は、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:6.6, 8.9, 10.7, 11.7, 24.4, 30.6における反射により特徴付けられる。化合物Iのベータ型はまた、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:6.6, 8.9, 10.7, 11.4, 11.7, 13.7, 17.0, 18.5, 18.8, 19.2, 20.3, 24.4, 30.6における反射によっても特徴付けられる。化合物Iのベータ型はまた、図8に示される固体炭素13 NMRスペクトルによっても特徴付けられる。化合物Iのベータ型はまた、図11に示されるNIR反射スペクトルによっても特徴付けられる。化合物Iのベータ型はまた、209〜213℃の範囲、好ましくは約211℃に融点を有することによっても特徴付けられる。化合物Iのベータ型はまた、図5に示されるものと実質的に一致するDSCサーモグラムを有することによっても特徴付けられる。化合物Iのベータ型はまた、約205℃〜約220℃において吸熱を有するDSCサーモグラムによっても特徴付けられる。
【0051】
さらなる実施態様は、ガンマと名付けられ、CuKα線を用いて測定される、図3に示されるような粉末X線ディフラクトグラムにより特徴付けられる化合物Iの結晶形に関する。1つの実施態様において、ガンマ型は、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:9.6, 11.5, 12.5, 16.7, 19.3, 28.1における反射により特徴付けられる。化合物Iのガンマ型はまた、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:7.5, 8.3, 9.6, 11.5, 11.8, 12.5, 15.9, 16.3, 16.7, 17.2, 18.0, 19.3, 21.0, 28.1における反射によっても特徴付けられる。化合物Iのガンマ型はまた、図9に示される固体炭素13 NMRスペクトルによっても特徴付けられる。化合物Iのガンマ型はまた、図12に示されるNIR反射スペクトルによっても特徴付けられる。化合物Iのガンマ型はまた、212〜218℃の範囲に融点を有することによっても特徴付けられる。化合物Iのガンマ型はまた、図6に示されるものと実質的に一致するDSCサーモグラムを有することによっても特徴付けられる。化合物Iのガンマ型はまた、約210℃〜約225℃において吸熱を有するDSCサーモグラムによっても特徴付けられる。
【0052】
さらなる実施態様は、デルタと名付けられ、CuKα線を用いて測定される、図13に示されるような粉末X線ディフラクトグラムにより特徴付けられる化合物Iの結晶形に関する。1つの実施態様において、デルタ型は、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:9.7, 12.1, 16.1, 18.3, 22.1, 22.2, 25.7, 25.8における反射により特徴付けられる。化合物Iのデルタ型はまた、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:7.3, 8.3, 9.7, 11.1, 11.7, 12.1, 15.6, 16.1, 17.3, 18.3, 20.9, 22.1, 22.2, 25.7, 25.8における反射によっても特徴付けられる。化合物Iのデルタ型はまた、211〜223℃の範囲に融点を有することによっても特徴付けられる。化合物Iのデルタ型はまた、図14に示されるものと実質的に一致するDSCサーモグラムを有することによっても特徴付けられる。化合物Iのデルタ型はまた、約210℃〜約228℃において吸熱を有するDSCサーモグラムによっても特徴付けられる。
【0053】
さらなる実施態様は、イプシロンと名付けられ、CuKα線を用いて測定される、図15に示されるような粉末X線ディフラクトグラムにより特徴付けられる化合物Iの結晶形に関する。1つの実施態様において、化合物Iのイプシロン型は、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:8.9, 9.2, 10.2, 14.6における反射により特徴付けられる。化合物Iのイプシロン型はまた、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2θ角:8.9, 9.2, 10.2, 12.6, 14.2, 14.6, 17.0, 18.6, 20.4, 21.1, 23.9, 25.2における反射によっても特徴付けられる。化合物Iのイプシロン型はまた、180〜185℃の範囲に融点を有することによっても特徴付けられる。化合物Iのイプシロン型はまた、図16に示されるものと実質的に一致するDSCサーモグラムを有することによっても特徴付けられる。化合物Iのイプシロン型はまた、約175℃〜約190℃において吸熱を有するDSCサーモグラムによっても特徴付けられる。
【0054】
本発明はさらに、本発明の結晶形の混合物、例えば化合物Iのアルファおよびガンマ結晶形の混合物に関する。
【0055】
本明細書において使用される場合に、「CuKαを用いて測定される、図(1)に示されるような粉末X線ディフラクトグラムにより特徴付けられる化合物Iの結晶形」のような表現は、図1と実質的に類似の粉末X線ディフラクトグラムを有する、すなわち、その図において例示されるような粉末X線回折パターンを示し、実施例7.1の記載と同様の条件下で測定されるか、またはCuKαを用いる同様の方法によって測定される化合物Iの結晶形を意味する。この定義はまた、解析的なばらつきの範囲が考慮に入れられるように必要な変更を加えた上で、NMRおよびNIRの図、および本明細書に記載されるその他の全てのX線データ(例えばX線ピークデータ)、および同定された5つの結晶形の全て、すなわち、それぞれアルファ、ベータ、ガンマ、デルタおよびイプシロンにも適用される。
【0056】
本明細書において用いられる固体炭素13 NMRスペクトルは、好ましくはCP/MASプローブを有する分光測定装置において、5000Hzの試料回転速度を用いて測定される。従って、NMRスペクトルは好ましくは実施例7.2に記載されるように、または類似の方法により与えられる。本明細書におけるNIR反射スペクトルは、好ましくは実施例7.3に記載されるように、または特に、分解能2cm-1で、多重散乱補正(Multiplicative Scatter Correction:MSC)によりベースラインのシフトおよびスロープ(slope)が補正される類似の方法により与えられる。
【0057】
さらなる実施態様において、本発明は、実質的に純粋な化合物Iの結晶形に関する。本明細書において使用される場合に「実質的に純粋」という語句は、化合物Iの結晶形、例えばアルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはイプシロン型が、例えば少なくとも93%および少なくとも約95%を含む少なくとも約90%の純度を有することを意味する。
【0058】
化合物Iの非結晶体は約150℃の温度で融解し、これは、本明細書に記載される化合物Iの結晶形の融点から容易に区別される(実施例9の表1参照)。従って、少なくとも175℃、または少なくとも180℃、例えば175℃〜225℃、180℃〜225℃、180℃〜220℃または181℃〜218℃の範囲内、あるいは180℃〜190℃または210℃〜225℃の範囲内である融点を有する結晶質化合物Iもまた、本発明の範囲に包含される。
【0059】
本明細書において使用される場合に「融点」という語句は、DSCにより測定した場合に融解吸熱の開始する値を意味する(実施例7.4参照)。
【0060】
さらなる実施態様は、結晶質化合物Iのアルファ型を含む固体化合物Iに関する。本発明はまた、主に本明細書に記載される化合物Iの結晶アルファ型を含む固体化合物Iに関する。この場合における「主に」という語句は、固体化合物Iが、化合物I全体のうち少なくとも75%、例えば少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の結晶アルファ型を含むことを意味する。
【0061】
さらなる実施態様は、結晶質化合物Iのベータ型を含む固体化合物Iに関する。本発明はまた、主に本明細書に記載される化合物Iの結晶ベータ型を含む固体化合物Iに関する。この場合における「主に」という語句は、固体化合物Iが、化合物I全体のうち少なくとも75%、例えば少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の結晶ベータ型を含むことを意味する。
【0062】
さらなる実施態様は、結晶質化合物Iのガンマ型を含む固体化合物Iに関する。本発明はまた、主に本明細書に記載される化合物Iの結晶ガンマ型を含む固体化合物Iに関する。この場合における「主に」という語句は、固体化合物Iが、化合物I全体のうち少なくとも75%、例えば少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の結晶ガンマ型を含むことを意味する。
【0063】
さらなる実施態様は、結晶質化合物Iのデルタ型を含む固体化合物Iに関する。本発明はまた、主に本明細書に記載される化合物Iの結晶デルタ型を含む固体化合物Iに関する。この場合における「主に」という語句は、固体化合物Iが、化合物I全体のうち少なくとも75%、例えば少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の結晶デルタ型を含むことを意味する。
【0064】
さらなる実施態様は、結晶質化合物Iのイプシロン型を含む固体化合物Iに関する。本発明はまた、主に本明細書に記載される化合物Iの結晶イプシロン型を含む固体化合物Iに関する。この場合における「主に」という語句は、固体化合物Iが、化合物I全体のうち少なくとも75%、例えば少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の結晶イプシロン型を含むことを意味する。
【0065】
大まかに言うと、化合物Iの新規結晶形は、適当な溶剤からの化合物Iの結晶化を含むがこれに限定はされない種々の方法により製造することができる。化合物Iは、本明細書において記載されるような当業者に公知の方法により製造することができる。一般的な手引きとしては、化合物Iは、化合物Iの溶解を促進させるために加熱することができる適当な溶剤と混合することができる。溶剤と化合物Iの組み合わせもまた、続いて起こる結晶形への変換を促進するために、加熱することができる。この際に好ましい温度は、約30℃〜およそ沸点(すなわち、還流温度)の範囲の溶剤である。さらに好ましい温度は、約60℃〜およそ沸点の範囲の溶剤である。得られる溶剤および化合物Iの混合物は、結晶化の開始および/または継続のために冷却することができる。混合物は、好ましくは 約−20℃〜約20℃、例えば常温(ambient temperature)の範囲の温度に冷却される(すなわち、常温への自然冷却を含む)。沈殿した固体は、例えば、ろ過または遠心分離により、冷却した混合物から単離することができ、必要に応じて適当な溶剤、限定はされないが、例えば結晶化に用いられる溶剤で洗浄され、そして減圧下、常温またはわずかに上昇させた温度において、例えば窒素パージ下で乾燥させる。
【0066】
結晶化を促進するために、種結晶を結晶化混合物に添加することができる。
【0067】
上述のように、結晶質化合物I、特に本発明の種々の結晶形は、(a)適当な溶剤へ化合物Iを溶解させる工程、(b)化合物Iを溶剤から沈殿により結晶化させる工程、および(c)得られた結晶質化合物Iから溶剤を分離する工程により;または二者択一的に、以下の段階を含む工程により製造することができる:(a)結晶形に変換するのに十分な時間の間、化合物Iを適当な溶剤に懸濁させる工程、および(b)得られた結晶質化合物Iからアルコールを分離する工程。以下に、化合物Iの異なる結晶形、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタおよびイプシロンを作製するために、種々の溶剤をどのように使用することができるかを記載する。好ましい実施態様において、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはイプシロン型を含む結晶質化合物Iを製造するための本発明の方法は、化合物Iの適当な溶剤からの沈殿による結晶化、および得られた結晶質化合物Iからの溶剤の分離を含む。本発明の種々の結晶形、および得ることができる生成物、またはさらに具体的には前記方法により得られる生成物の製造を参照すれば、これが、「結晶質化合物Iを含む固体化合物I」、特に上述に記載される「主に、化合物Iの1つの特定の結晶形(例えばアルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはイプシロン型)を含む固体化合物I」にも適用されるということが理解される。
【0068】
従って、1つの態様において、本発明は、前記結晶質化合物Iが以下からなる群から選択される溶剤中に形成することを特徴とする、結晶質化合物Iの製造方法に関する:(i)0%〜約8%の水を有するメタノール;(ii)脂肪族C3〜C6アルコール(例えば、1-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール)であって、4〜8%の水を有する脂肪族C3〜C6アルコール(例えば、4%の水を有する1-ブタノール;4%の水を有する1-プロパノール;4%の水を有する1-ペンタノール;7%の水を有するtert-ブタノール、4%の水を有する2-ブタノール);(iii)少なくとも4%の水が存在する酢酸エステルであって、式CH3CO2Rにより定義され、RがC1-C6-アルキルである酢酸エステル、例えば酢酸エチルまたは酢酸イソプロピル(例えば、4%の水を有する酢酸エチルまたは6%の水を有する酢酸イソプロピル)。本発明はまた、得ることができる、特に前記方法によって得られる結晶質化合物Iに関する。好ましい実施態様においては、この方法により、結晶質化合物Iアルファ型が形成する。
【0069】
さらなる態様において、本発明は、結晶質化合物Iが溶剤である酢酸イソプロピル中に形成することを特徴とする、結晶質化合物Iの製造方法に関する。本発明はまた、得ることができる、特に前記方法によって得られる結晶質化合物Iに関する。好ましい実施態様においては、この方法により、結晶質化合物Iベータ型が形成する。
【0070】
さらなる態様において、本発明は、結晶質化合物Iが、以下からなる群から選択される溶剤中に形成することを特徴とする、結晶質化合物Iの製造方法に関する:(i)脂肪族C1〜C3ニトリル(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)であって、約12%までの水を有する脂肪族C1〜C3ニトリル(例えば、4%の水を有するプロピオニトリルまたは12%の水を有するアセトニトリル)、プロピオニトリル(CH3CH2CN)がC3-ニトリルであることは理解される;(ii)0%〜約8%の水を有するエタノール:(iii)脂肪族C3〜C6アルコール(例えば、1-プロパノールまたは1-ブタノール)であって、少なくとも約10%の水を有する脂肪族C3〜C6アルコール(例えば、10%の水を有する1-プロパノール、10%の水を有する1-ブタノール);(iv)試薬グレードの酢酸エチル。「試薬グレードの酢酸エチル」という語句は、水が0.5%未満であることを意味する。本発明はまた、得ることができる、特に前記方法によって得られる結晶質化合物Iに関する。好ましい実施態様においては、この方法により、結晶質化合物Iガンマ型が形成する。
【0071】
さらなる実施態様において、本発明は、結晶質化合物Iが、以下からなる群から選択される溶剤中に形成することを特徴とする、結晶質化合物Iの製造方法に関する:(i)脂肪族C2〜C6アルコール(例えば、エタノール、シクロプロピルメタノールまたは1-プロパノール)であって、4%未満の水、例えば3%未満、例えば約2%の水を有する脂肪族C2〜C6アルコール(例えば、シクロプロピルメタノール、2%の水を有する1-プロパノール、約2%の水を有するエタノール(撹拌しない))。本発明はまた、得ることができる、特に前記方法によって得られる結晶質化合物Iに関する。好ましい実施態様においては、この方法により、結晶質化合物Iデルタ型が形成する。
【0072】
さらなる実施態様において、本発明は、結晶質化合物Iが、溶剤であるブチルニトリル(CH3CH2CH2CN)中に形成することを特徴とする、結晶質化合物Iの製造方法に関する。本発明はまた、得ることができる、特に前記方法によって得られる結晶質化合物Iに関する。好ましい実施態様においては、この方法により、結晶質化合物Iイプシロン型が形成する。
【0073】
結晶形アルファおよびベータのそれぞれは、実施例6.1に示されるように、適当な溶剤、特にアセトニトリルの存在下で、結晶ガンマ型に変換することができる。結晶ベータ型は、実施例6.1に示されるように、メタノールの存在下で、結晶アルファ型に変換することができる。
【0074】
本発明はまた、結晶質生成物、特に、得ることができる、または好ましい実施態様において、結晶質化合物Iの製造に関する本明細書に記載の方法により得られる、化合物Iの結晶形に関する。
【0075】
さらなる態様において本発明は、化合物Iの結晶形(例えば、本明細書に記載されるようなアルファ、ベータまたはガンマ型またはそれらのいずれかの混合物)の化合物Iの非結晶体への変換を含む、化合物Iの製造方法に関する。好ましい実施態様における前記工程は、以下の工程を含む:(a)芳香族溶剤、すなわち、芳香族炭化水素、好ましくはキシレンまたはトルエンのようなアルキルベンゼンに結晶質化合物Iを溶解させる工程、(b)化合物Iを芳香族溶剤から沈殿させる工程;および(c)沈殿した非結晶化合物Iから芳香族溶剤を分離する工程。
【0076】
上述のように、結晶質化合物Iの形成は、とりわけ医薬的用途のための化合物Iの製造において、精製段階として非常に有用である。
【0077】
1つの態様において本発明は、本明細書に記載されるような結晶化段階を含む化合物Iの製造方法に関する。従って、本発明の1つの実施態様は、化合物Iの製造方法に関し、この方法は、化合物Iを結晶質化合物Iに変換する段階を含む。本発明の結晶質化合物Iが、本明細書に記載される方法により、例えば、本明細書に記載されるように、溶剤から結晶形にある化合物Iを沈殿させ、そして得られた結晶質化合物Iを溶剤から分離することにより製造できることは理解される。
【0078】
本発明は特に、化合物Iが、化合物Iの粗製混合物から、本発明の結晶形、例えばアルファまたはガンマ型を含む結晶質化合物に変換される、化合物Iの製造方法に関する。この場合に、粗製混合物という語句は、該混合物が化合物Iから生じ、除去することが望ましい不純物、例えば酸化生成物を含むことを意味する。粗製混合物は反応混合物から直接分離することができ、または粗製反応混合物をいくつかの初期精製、例えば塩基での処理に付すことができる。本発明はさらに、本発明の結晶質化合物Iまたは固体を、化合物Iを活性成分として含む薬剤の製造に使用する方法に関する。
【0079】
従って、本発明はまた、化合物Iの医薬調合物の製造方法に関し、この方法は、本明細書において定義され、例えば本明細書において記載される方法により得られ、本発明の結晶形または固体を含む結晶質化合物Iから、前記調合物を製造する工程を含む。1つの特定の実施態様は、本発明のアルファまたはガンマ型を医薬調合物の製造において前記のように使用する方法に関する。上述のように、定義されるような結晶形から製剤を製造することは、純度および収率が改善され、溶解性のような明確な特性を有するという利点を有する。これに関連して、本発明はまた、得ることができる、または本発明の結晶質化合物Iの製造方法により得られる、本発明の結晶形、例えばアルファまたはガンマ型を含む化合物Iを、有効量で含む医薬調合物を提供する。この医薬調合物は、化合物Iの投与に適していることが見出されるいずれの調合物、例えば固体分散体製剤または固溶体製剤でもよい。
【0080】
1つの実施態様において、本発明の結晶生成物、すなわち、特にアルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはイプシロン結晶形またはそれらの混合物を含む結晶生成物は、固溶体または固体分散体に製剤化することができる。固溶体は、本発明の結晶生成物を溶融ビヒクル(molten vehicle)に溶解させることにより製造することができる。常温に冷却することにより固溶体が形成する。固体分散体は、本発明の結晶生成物を溶融ビヒクルに分散させることにより製造することができる。常温に冷却することにより固体分散体が形成する。固溶体または固体分散体の製造に使用されるビヒクルは、1つの成分またはそれ以上の成分の混合物でよい。固溶体または固体分散体の製造に使用されるビヒクルは、通常、室温において固体または半固体であり、通常それは、粘着性の、油質の、またはろう質の性質を有する。しかし、該ビヒクルはまた、室温または5℃以下の温度でさえ流動体であることができる。ビヒクルの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポロキサマー、ポリエチレングリコールのエステル、ワックス、グリセリド、脂肪酸アルコール、脂肪酸、糖アルコール、ビタミンEおよびビタミンE誘導体が挙げられる。固溶体または固体分散体はそのまま使用することができ、あるいは、錠剤、カプセル剤等のような医薬調合物に製剤化することもできる。固溶体または固体分散体は、その他の方法により、例えばソルベント法またはフュージョン法(Serajuddin, A.T.M., Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol. 88, 1058-1066)により製造することもできる。本発明の1つの実施態様は、本発明の結晶質化合物Iから、例えば本発明の結晶アルファまたはガンマ型から作製された固溶体である医薬調合物に関する。
【0081】
従って、本発明の結晶生成物、特にアルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはイプシロン結晶形またはそれらの混合物は、溶液中に化合物Iを有する医薬調合物、例えば米国特許第6,200,968号明細書に記載されるものと類似の調合物の製造に使用することができる。
【0082】
有効量の本明細書に記載されるような結晶質化合物I、特に本明細書に定義されるアルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはイプシロン型またはそれらの混合物、および薬学的に許容されるキャリアーを含む医薬調合物もまた、本発明の範囲に包含される。
【0083】
本発明の結晶生成物、すなわち結晶アルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはイプシロン型またはそれらの混合物を含む結晶生成物は、種々の医薬調合物に製剤化することができる。本発明の結晶生成物(例えば、結晶アルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはイプシロン型)を含む前記製剤の例としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、坐剤および懸濁剤が挙げられる。「本発明の結晶生成物」という表現は、本明細書に記載されるような結晶質化合物Iまたは固体化合物Iを意味し、すなわちこの場合には、「固体化合物I」により、非結晶化合物と比較して結晶質化合物Iを主に含む固体化合物Iを理解することができる。
【0084】
本発明の医薬調合物は、薬学的に許容されるキャリアーまたは希釈剤、およびその他のアジュバントおよび賦形剤とともに、例えば「Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 19 Edition, Gennaro, Ed., Mack Publishing Co., Easton, PA, 1995」に開示されるような技術に従って、製剤化することができる。
【0085】
前記医薬調合物は、経口、 直腸、 経鼻、 肺、 局所(口腔および舌下腺(sublingual)を含む)、 経皮、 嚢内(intracisternal)、 腹腔内、 膣および非経口 (皮下、 筋肉内、 髄腔内(intrathecal)、 静脈内および皮内を含む)経路のような適切な経路、好ましくは経口経路による投与のために特異的に製剤化されてもよい。好ましい経路は、治療対象者の一般的な状態および年齢、治療されるべき状態の性質および選択される有効成分に依存するということは認識されるだろう。
【0086】
医薬調合物の実施態様において、化合物Iは、1日につき体重1 kgあたり約0.001〜約100 mgの量で投与される。化合物Iは、例えば約0.01〜約100 mgの量で前記化合物を含む単位剤形(unit dosage form)で投与される。1日あたりの全用量は、例えば約0.05〜500 mgの範囲内である。製剤は、都合よくは当業者に公知の方法により単位剤形で存在することができる。1日あたり1〜3回のような1日あたり1回または2回以上の経口投与のための典型的な単位剤形は、0.01〜約1000 mg、好ましくは約0.05〜約500 mgを含むことができる。静脈内、 髄腔内、 筋肉内および類似の投与のような非経口経路のためには、典型的な用量は、経口投与で用いられる用量のほぼ半分の次数である。
【0087】
上述のように、以下の実施態様は本発明の範囲に包含される:薬剤として使用するための結晶質化合物I;薬剤として使用するための結晶アルファ型;薬剤として使用するための結晶ベータ型;薬剤として使用するための結晶ガンマ型;薬剤として使用するための結晶デルタ型;薬剤として使用するための結晶イプシロン型。
【0088】
本発明はさらに、本明細書において記載されるような結晶質化合物I、例えば本明細書において定義されるアルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはイプシロン型またはそれらの混合物を、CNS疾患の治療用、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、末梢性ニューロパシー、AIDS痴呆または耳障害、例えば騒音性難聴のような神経変性疾患治療用薬剤の製造に使用する方法に関する。
【0089】
同様に、薬学的有効量の本明細書に記載される化合物I、例えば本明細書において定義されるアルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはイプシロン型またはそれらの混合物を投与することを含む、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、末梢性ニューロパシー、AIDS痴呆または耳障害、例えば騒音性難聴のような神経変性疾患を治療する方法もまた本発明の範囲に包含される。
【0090】
本発明の結晶質化合物Iおよび結晶形の、例えば、パーキンソン病の治療のための前記の医薬的用途および医薬調合物は、同様に、本明細書に本発明の結晶形を含むものとして定義される固体化合物I、特に本発明の結晶形を主に含む固体化合物Iにも適用することができる。
【0091】
本明細書において疾患と関連して使用される「治療」という語句には、場合により予防も含まれる。本明細書において使用される「疾患」という語句には、場合により障害も含まれる。
【0092】
本明細書において開示される発明を以下の実施例によりさらに説明するが、本発明はそれらに限定されない。
【実施例】
【0093】
以下における出発物質「化合物I」は、例えば「Kaneko M. et al in J. Med. Chem. 1997, 40, 1863-1869」に記載されるように製造することができる。
【0094】
<実施例1> 化合物Iの結晶アルファ型の製造
方法I):
6.0 gの非結晶化合物Iを30 mlのアセトンに溶解した。0.6 gの炭酸カリウムを添加し、懸濁液を室温で1時間撹拌した後に、それをろ過して潜在的で副次的な不溶性不純物および無機塩類を除去した。フィルターケーキをアセトンで洗浄した。その後、最終容量が10 mlになるまで、ロータリーエバポレーターにおいて減圧下、60℃でろ液を蒸発させ、100 mlのメタノールをゆっくりと添加した。生成物は油状物として分離し、これは加熱還流においてほとんど溶解する。引き続き、残った不溶性不純物をろ過により除去した。ろ液は室温で撹拌した。結晶質固体を分離し、ろ過により単離した。フィルターケーキをメタノールで洗浄し、減圧下60℃で一晩乾燥した。
【0095】
収量2.83 g (47%)、mp=182.4℃ (DSCにおける開始値)、加熱減量:0.5%、元素分析:6.71%N, 63.93%C, 5.48%H、0.5% H2Oに対して補正した理論値:6.79%N, 64.05%C, 5.43%H。XRPD解析によりアルファ型であることを確認した。
【0096】
方法II):
5 gの非結晶化合物Iを、穏やかに加熱することにより25 mlのアセトンに溶解した。溶液が濁るまで、10 mlのメタノールを非常にゆっくりと添加した。溶液を自然冷却により室温まで冷却した。懸濁液をろ過し、フィルターケーキは廃棄した。ろ過の間に、ろ液中にさらに物質が沈殿した。全ての物質が再溶解するまでろ液を加熱した。その後、沈殿が観察されるまで、該溶液に冷メタノールを添加した。その後、わずかに濁った溶液を全ての物質が溶解するまで加熱した。該溶液を室温まで冷却し、そして沈殿をろ過により除去した。第2のフィルターケーキは廃棄した。ろ過の間に、一部の物質がろ液中に分離された。加熱により、ろ液中の結晶化開始物を再溶解させた。その後、沈殿が観測されるまで、該溶液に冷メタノールを添加した。透明な溶液が得られるまで、該懸濁液を加熱した。該溶液を自然冷却により室温にした。短時間(15分)の後に、沈殿が開始した。沈殿した淡黄色生成物をろ過により単離し、減圧下の50℃において一晩乾燥した。
【0097】
mp=188.9℃(DSCにおける開始値)、加熱減量:0.3%、元素分析:6.53%N, 64.33%C, 5.43%H、理論値:6.82%N, 64.37%C, 5.37%H。XRPD解析によりアルファ型であることを確認した。
【0098】
方法III:
酢酸イソプロピル(10 mL)および水(0.6 mL)の混合物における0.5 gの化合物Iを、撹拌しながら加熱還流した。化合物は完全に溶解しないので、酢酸イソプロピル(10 mL)および水(0.6 mL)を添加し、加熱還流した。撹拌を止め、実験全体を室温に冷却した。得られた結晶生成物をろ過により単離し、減圧下40℃で乾燥した。収量 = 0.25g、mp = 183.7℃ (DSCにおける開始値)。XRPD解析によりアルファ型であることを確認した。
【0099】
方法IV:
酢酸エチル(10 mL)および水(0.4 mL)の混合物における0.5 gの化合物Iを、撹拌しながら70℃に加熱した。実験全体を室温に冷却した。得られた結晶生成物をろ過により単離し、減圧下40℃で乾燥した。XRPD解析によりアルファ型であることを確認した。
【0100】
<実施例2> 化合物Iの結晶ベータ型の製造
28.0 gの非結晶化合物Iを250 mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、60 gのシリカゲル上で蒸発させた。化合物をシリカゲルにおけるカラムクロマトグラフィー(O:10 cm、h:5 cm、2.7LのTHF/ヘプタン(2/1))により精製した。所望の化合物を含む溶出液を、ロータリーエバポレーターにおいて減圧下50℃で蒸発させて固体(26 g)を得た。固体を600 mlの酢酸イソプロピルに懸濁し、ほぼ全ての物質が溶解するまで懸濁液を加熱還流した。該懸濁液を水/氷浴上で冷却した。冷却した懸濁液をろ過し、フィルターケーキを酢酸イソプロピルで洗浄して、減圧下50℃で一晩乾燥した。
【0101】
収量:16.9 g(61%)、mp=211.7℃(DSCにおける開始値)、加熱減量:0.2%、元素分析:6.59%N, 64.63%C, 5.41%H、理論値:6.82%N, 64.37%C, 5.40%H、XRPD解析によりベータ型であることを確認した。
【0102】
<実施例3> 化合物Iの結晶ガンマ型の製造
方法I:
15 gの非結晶化合物Iを75 mlのアセトンに溶解した。1.5 gの炭酸カリウムを添加し、懸濁液を90分間撹拌した。該懸濁液をろ過した。ろ液を、ロータリーエバポレーターにおいて減圧下60℃で、約30 mlまで減量させた。150 mlのメタノールを減量したろ液に添加し、一部の粘着性物質を分離した。懸濁液を加熱還流した。加熱の間に全ての物質が溶解する。該溶液を自然冷却により室温まで冷却すると、この間に固体物質が分離した。懸濁液を室温で一晩撹拌した。
【0103】
該懸濁液をろ過し、フィルターケーキをメタノールで洗浄した。フィルターケーキを減圧下50℃で一晩乾燥した。中間体の収量は10.2グラムである(68%)。
【0104】
乾燥したフィルターケーキを100 mlのアセトニトリル(ACN)に懸濁し、加熱還流した。還流において、濁った溶液が得られた。透明な溶液が得られるまで追加のアセトニトリルを添加し;フィルターケーキを、懸濁のために使用した100 mlを含む全体として200 mlのアセトニトリルに溶解した。
【0105】
該溶液を一晩室温に冷却した。次の日に、結晶生成物をろ過により単離した。フィルターケーキを少量のアセトニトリルにより洗浄し、減圧下55℃で一晩乾燥した。
【0106】
収量:6.17 g、41%、mp=218.0℃(DSCにおける開始値)、加熱減量:<0.1%、元素分析:6.80%N, 64.38%C, 5.43%H、理論値:6.82%N, 64.37%C, 5.40%H、純度(HPLC, area%):98.6、XRPD解析によりガンマ型であることを確認した。
【0107】
方法II:
アセトニトリル(8.8 mL)および水(1.2 mL)の混合物における0.5 gの化合物Iを、撹拌しながら70℃に加熱した。溶液を室温までゆっくりと冷却した。次の日に、結晶生成物をろ過により単離し、減圧下40℃で乾燥した。mp = 214.2℃(DSC開始値)。 XRPD解析によりガンマ型であることを確認した。
【0108】
方法III:
酢酸エチル(5 mL)における0.5 gの化合物Iを、撹拌しながら70℃に加熱した。溶液を室温までゆっくりと冷却した。12日後に、結晶生成物をろ過により単離し、減圧下40℃で乾燥した。XRPD解析によりガンマ型であることを確認した。
【0109】
<実施例4> 化合物Iの結晶デルタ型の製造
方法I:
シクロプロピルメタノール(10 mL)における0.5 gのアルファ型化合物Iを70℃に加熱した。該溶液を室温にゆっくりと冷却した。2日後に、結晶生成物をろ過により単離し、減圧下40℃で乾燥した。収量 = 0.24 g、mp = 212.1℃(DSC開始値)。XRPD解析によりデルタ型であることを確認した。
【0110】
方法II:
エタノール(10mL)における0.2 gのアルファ型化合物Iを、撹拌しながら70℃に加熱した。撹拌を止め、溶液を室温までゆっくりと冷却した。次の日に、結晶質化合物をろ過により単離し、減圧下40℃で乾燥した。収量 = 0.15 g、mp = 221.6℃(DSC開始値)。XRPD解析によりデルタ型であることを確認した。
【0111】
方法III:
1-プロパノール(15mL)における0.5 gの化合物Iを、撹拌しながら70℃に加熱した。撹拌を止め、溶液を室温までゆっくりと冷却した。次の日に、結晶生成物をろ過により単離し、減圧下40℃で乾燥した。収量 = 0.23 g。XRPD解析によりデルタ型であることを確認した。
【0112】
<実施例5> 化合物Iの結晶イプシロン型の製造
ブチルニトリル(10mL)における0.5 gのアルファ型化合物Iを、撹拌しながら70℃に加熱した。該溶液を室温までゆっくりと冷却した。次の日に、結晶生成物をろ過により単離し、減圧下40℃で乾燥した。収量 = 0.3 g、mp = 181.8℃(DSC開始値)。XRPD解析によりイプシロン型であることを確認した。
【0113】
<実施例6> 化合物Iの異なる固体形態間の変換
(6.1 結晶質化合物Iへの変換)
以下の実施例においては、過剰量の固体化合物Iが使用され、すなわち、全ての固体物質が溶液にならないように溶剤と比較した固体化合物Iの量が使用される。使用される量は、25〜50 mgの固体化合物Iおよび2〜5 mlの溶剤の間で変化する。この場合に、「固体化合物I」は、以下に示されるような非結晶化合物Iまたは化合物Iの結晶形のいずれかを意味する。
【0114】
(i)過剰量の非結晶化合物Iをメタノールに添加し、得られる懸濁液をローターミックス(rotarmix)上で4日間、室温に置いた。4日後に、粉末X線回折により測定すると固体はアルファ型であった。
【0115】
(ii)過剰量の化合物Iの結晶アルファ型をメタノールに添加し、得られる懸濁液をローターミックス上で4日間、室温に置いた。4日後に、粉末X線回折により測定すると固体はなおアルファ型であった。
【0116】
(iii)過剰量の化合物Iの結晶ベータ型をメタノールに添加し、得られる懸濁液をローターミックス上で4日間、室温に置いた。4日後に、粉末X線回折により測定すると固体はアルファ型であった。
【0117】
(iv)過剰量の化合物Iの結晶ガンマ型をメタノールに添加し、得られる懸濁液をローターミックス上で4日間、室温に置いた。4日後に、粉末X線回折により測定すると固体はガンマ型であった。
【0118】
(v)過剰量の、化合物Iのアルファおよびガンマ型の1:1混合物をメタノールに添加し、得られる懸濁液をローターミックス上で4日間、室温に置いた。4日後、大部分の固体がガンマ型であった。ろ過後、溶剤の留去のために上清は置いたままにした。得られた固体は粉末X線回折により測定するとアルファ型であった。
【0119】
(vi)過剰量の非結晶化合物Iをアセトニトリル(ACN)に添加し、得られる懸濁液をローターミックス上で4日間、室温に置いた。4日後に、粉末X線回折により測定すると固体はガンマ型であった。
【0120】
(vii)過剰量の化合物Iの結晶アルファ型をACNに添加し、得られる懸濁液をローターミックス上で4日間、室温に置いた。4日後に、粉末X線回折により測定すると固体はガンマ型であった。
【0121】
(viii)過剰量の化合物Iの結晶ベータ型をACNに添加し、得られる懸濁液をローターミックス上で4日間、室温に置いた。4日後に、粉末X線回折により測定すると固体はガンマ型であった。
【0122】
(ix)過剰量の化合物Iの結晶ガンマ型をACNに添加し、得られる懸濁液をローターミックス上で4日間、室温に置いた。4日後に、粉末X線回折により測定すると固体はなおガンマ型であった。
【0123】
結論:
非結晶化合物Iおよび結晶ベータ型は、メタノール懸濁液中で結晶アルファ型に変換することができる。
【0124】
非結晶化合物I、結晶アルファ型および結晶ベータ型は、アセトニトリル中における過剰量の固体物質の懸濁により、結晶ガンマ型に変換することができる。
【0125】
(6.2 結晶アルファ型から非結晶化合物Iへの変換)
15 gの化合物Iの結晶アルファ型をトルエン(110 mL)およびメタノール(1 mL)の混合物中で加熱還流し;透明な溶液を得た。減圧下で、溶剤容量を10 mLまで減少させ、該溶液を冷凍機で一晩冷却した。得られる固体をろ過により単離し、減圧下40℃で2日間以上乾燥することにより、13.2 gの固体を得た。この固体の溶融温度(melting temperature)は約150℃であり、これは、結晶形と比較した場合の化合物Iの非結晶体の特徴である(以下の表1参照)。
【0126】
<実施例7 解析方法>
(7.1)XRPDパターンを回折装置において、以下のうちの1つの条件下で測定した:
(i)STOE社製回折装置
線源:Cu(Kα1)、ゲルマニウムモノクロメーター、λ= 1.540598Å
7°をカバーする位置敏感検出器(Position Sensitive Detector:PSD)
スキャンタイプ:ステップスキャン、ステップ幅:0.1°、各ステップ毎の測定時間125〜150秒
測定範囲:5〜45°2θ
試料測定法:透過。
(ii)PANalytical社製 X’Pert PRO X線回折装置(CuKα1線を使用)
エクセラレータ検出器、5〜40°2θの範囲を測定
試料測定法:反射。
【0127】
(7.2)以下の条件下で固体NMRを行った:
炭素-13 CP/MAS(交差分極/マジック角回転)NMRスペクトルを、室温で、4 mmのCP/MASプローブを装備したBruker社製Avance DRX-500分光測定装置において、11.75テスラで採取した。試料回転速度は5000Hzであり、5秒の繰り返し時間(recycle delay)を用いて10240スキャンを採取した。交差分極のために、50 kHzのスピンロック周波数領域および5 m秒の接触時間を用いた。
【0128】
(7.3)近赤外(NIR)データを、紛体成分測定装置(Powder SamplIR)を有するBomem社製MB 160 FT/NIR分光測定装置を用いて収集した。NIR反射率スペクトルを、14,000〜4,000cm-1の間で分解能2cm-1で記録した(16スキャン、高ゲイン)。しばしば紛体において見られる、NIRスペクトルにおけるベースラインのシフトおよびスロープは、多重散乱補正により除去した。
【0129】
(7.4)融点は 融解吸熱の開始温度としてDSC(示差走査型熱量計)において測定した。約 2 mgのサンプルを、蓋を緩めた(loose lid)アルミニウムパン(crucible)中で、N2気流下、5℃/分で加熱した。
【0130】
(7.5)アルファ型の結晶構造は、以下の条件下で測定した:回折データはNonius KappaCCD回折測定装置において収集した。データ収集は、単色化されたMoKα線(λ=0.71073Å)を用いて122 Kで実施した。
【0131】
<実施例8> 解析結果
8.1. 粉末X線データ:
それぞれの粉末X線ディフラクトグラム(XRPD)を、アルファ型は図1に示し;ベータ型は図2に示し;ガンマ型は図3に示し;デルタ型は図13に示し;イプシロン型は図15に示した。異なる結晶形は、CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムにおいて測定される2-シータ角度での異なる反射(ピーク)により特徴付けられた:
アルファ(5.2, 10.1, 10.4, 13.2, 15.1, 25.1; 5.2, 7.3, 8.1, 10.1, 10.4, 11.2, 13.2, 15.1, 15.5, 17.3, 21.7, 23.8, 25.1);
ベータ(6.6, 8.9, 10.7, 11.7, 24.4, 30.6; 6.6, 8.9, 10.7, 11.4, 11.7, 13.7, 17.0, 18.5, 18.8, 19.2, 20.3, 24.4, 30.6);
ガンマ(9.6, 11.5, 12.5, 16.7, 19.3, 28.1; 7.5, 8.3, 9.6, 11.5, 11.8, 12.5, 15.9, 16.3, 16.7, 17.2, 18.0, 19.3, 21.0, 28.1);
デルタ(9.7, 12.1, 16.1, 18.3, 22.1, 22.2, 25.7, 25.8; 7.3, 8.3, 9.7, 11.1, 11.7, 12.1, 15.6, 16.1, 17.3, 18.3, 20.9, 22.1, 22.2, 25.7, 25.8);
イプシロン(8.9, 9.2, 10.2, 14.6; 8.9, 9.2, 10.2, 12.6, 14.2, 14.6, 17.0, 18.6, 20.4, 21.1, 23.9, 25.2)。
【0132】
8.2. DSCサーモグラム:
DSCサーモグラムを図4〜6、14、16(図4にアルファ型;図5にベータ型;および図6にガンマ型、図14にデルタ型、図16にイプシロン型)に示す。
【0133】
8.3. 固体NMRデータ:
固体NMRスペクトルを、アルファ型については図7に、ベータ型については図8に、そしてガンマ型については図9に示す。
【0134】
8.4. NIRデータ:
NIRスペクトルを、アルファ型については図10に、ベータ型については図11に、そしてガンマ型については図12に示す。
【0135】
8.5. 化合物Iアルファ型の結晶構造:
アルファ型の結晶構造を122 Kでの単結晶X線回折により決定した。構造決定に使用した結晶は、MeOHからゆっくり沈殿させることにより得られ、0.5 X 0.3 X 0.2 mmの大きさを有する。
【0136】
得られた結晶構造により、化合物Iのα型が、斜方晶系、空間群P212121で結晶化され、122 Kで以下の単位胞の大きさを有することが示される:a = 10.227(2)Å、 b = 23.942(2)Åおよびc = 24.240(2)Å、α= 90°、β = 90°、γ = 90°、V = 5935.3(12) Å3、Z = 8、密度= 1.378 g/cm3(カッコ内の数字は、最後の桁における標準偏差である)。重みなしアグリーメントファクター(un-weighted agreement factor)はR[I>2σ(I)] = 0.0699であった。
【0137】
この結晶の非対称単位には2つの化合物I単位、および0〜1の溶剤分子が含まれる。溶剤分子はMeOHまたは水のどちらでもよい。構造決定において、溶剤に対応する原子は、C2′′:0.70、O1′′:0.50およびO3′′:0.36の占有率で見出される。非対称単位には、2分子の化合物Iおよび1つの溶剤部位が含まれるので、前記部位が完全に占有されると半溶媒和物となる。非対称単位における2つの分子の、原子のナンバリング(atom numbering)およびコンホメーションを図17〜18に示し、結晶における分子のパッキングを図19に示す。原子座標は以下の表2〜4に示す。
【0138】
表2:分子1における非水素原子の原子座標および等方性原子変位パラメーター(equivalent isotropic displacement parameters)
【0139】
【表1】

【0140】
表3:分子2における非水素原子の原子座標および等方性原子変位パラメーター
【0141】
【表2】

【0142】
表4:存在する溶剤(solvent entity)における原子の原子座標および等方性原子変位パラメーターおよび占有率
【0143】
【表3】

【0144】
<実施例9> 融点
非結晶体および化合物Iの結晶アルファ、ベータ、ガンマ、デルタおよびイプシロンの固体形態に関して得られた融点(上述の実施例7.4参照)を以下の表1に示す。
表1
【0145】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】図1は、化合物Iのアルファ型の粉末X線ディフラクトグラムを示す。
【図2】図2は、化合物Iのベータ型の粉末X線ディフラクトグラムを示す。
【図3】図3は、化合物Iのガンマ型の粉末X線ディフラクトグラムを示す。
【図4】図4は、化合物Iのアルファ型のDSCサーモグラムを示す。
【図5】図5は、化合物Iのベータ型のDSCサーモグラムを示す。
【図6】図6は、化合物Iのガンマ型のDSCサーモグラムを示す。
【図7】図7は、化合物Iのアルファ型の固体炭素13 NMRスペクトルを示す。
【図8】図8は、化合物Iのベータ型の固体炭素13 NMRスペクトルを示す。
【図9】図9は、化合物Iのガンマ型の固体炭素13 NMRスペクトルを示す。
【図10】図10は、化合物Iのアルファ型のNIR反射スペクトルを示す。
【図11】図11は、化合物Iのベータ型のNIR反射スペクトルを示す。
【図12】図12は、化合物Iのガンマ型のNIR反射スペクトルを示す。
【図13】図13は、化合物Iのデルタ型の粉末X線ディフラクトグラムを示す。
【図14】図14は、化合物Iのデルタ型のDSCサーモグラムを示す。
【図15】図15は、化合物Iのイプシロン型の粉末X線ディフラクトグラムを示す。
【図16】図16は、化合物Iのイプシロン型のDSCサーモグラムを示す。
【図17】図17は、化合物Iのアルファ型における一方の分子(分子1)のコンホメーションを示す。
【図18】図18は、化合物Iのアルファ型における他方の分子(分子2)のコンホメーションを示す。
【図19】図19は、化合物Iのアルファ型における分子のパッキングを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物が以下の式
【化1】

を有する結晶質化合物I。
【請求項2】
化合物Iが請求項1において定義される式を有する、化合物Iの結晶形。
【請求項3】
以下のうちの1つまたはそれ以上により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形:
(i)CuKα線を用いて測定される、図1に示されるような粉末X線ディフラクトグラム(diffractogram);
(ii)CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:5.2, 10.1, 10.4, 13.2, 15.1, 25.1における反射;
(iii)図7に示される固体炭素13 NMR(solid state Carbon-13 NMR)スペクトル;
(iv)図10に示されるNIR反射スペクトル。
【請求項4】
CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:5.2, 10.1, 10.4, 13.2, 15.1, 25.1における反射により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項5】
CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:5.2, 7.3, 8.1, 10.1, 10.4, 11.2, 13.2, 15.1, 15.5, 17.3, 21.7, 23.8, 25.1における反射により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項6】
122 Kで以下の性質を持つ結晶構造を有することにより特徴付けられる、請求項2記載の結晶形:空間群:P212121、単位胞の大きさ(Unit cell dimensions):a = 10.227(2) Å、b = 23.942(2) Åおよびc = 24.240(2) Å、α = 90°、β = 90°、γ = 90°、非対称単位あたり2分子。
【請求項7】
以下のうちの1つまたはそれ以上により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形:
(i)CuKα線を用いて測定される、図2に示されるような粉末X線ディフラクトグラム;
(ii)CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:6.6, 8.9, 10.7, 11.7, 24.4, 30.6における反射;
(iii)図8に示される固体炭素13 NMRスペクトル;
(iv)図11に示されるNIR反射スペクトル。
【請求項8】
CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:6.6, 8.9, 10.7, 11.7, 24.4, 30.6における反射により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項9】
CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:6.6, 8.9, 10.7, 11.4, 11.7, 13.7, 17.0, 18.5, 18.8, 19.2, 20.3, 24.4, 30.6における反射により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項10】
以下のうちの1つまたはそれ以上により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形:
(i)CuKα線を用いて測定される、図3に示されるような粉末X線ディフラクトグラム;
(ii)CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:9.6, 11.5, 12.5, 16.7, 19.3, 28.1における反射;
(iii)図9に示される固体炭素13 NMRスペクトル;
(iv)図12に示されるNIR反射スペクトル。
【請求項11】
CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:9.6, 11.5, 12.5, 16.7, 19.3, 28.1における反射により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項12】
CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:7.5, 8.3, 9.6, 11.5, 11.8, 12.5, 15.9, 16.3, 16.7, 17.2, 18.0, 19.3, 21.0, 28.1における反射により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項13】
CuKα線を用いて測定される、図13に示されるような粉末X線ディフラクトグラムにより特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項14】
CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:9.7, 12.1, 16.1, 18.3, 22.1, 22.2, 25.7, 25.8における反射により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項15】
CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:7.3, 8.3, 9.7, 11.1, 11.7, 12.1, 15.6, 16.1, 17.3, 18.3, 20.9, 22.1, 22.2, 25.7, 25.8における反射により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項16】
CuKα線を用いて測定される、図15に示されるような粉末X線ディフラクトグラムにより特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項17】
CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:8.9, 9.2, 10.2, 14.6における反射により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項18】
CuKα線を用いて測定される粉末X線ディフラクトグラムでの、2-シータ角:8.9, 9.2, 10.2, 12.6, 14.2, 14.6, 17.0, 18.6, 20.4, 21.1, 23.9, 25.2における反射により特徴付けられる、請求項2記載の結晶形。
【請求項19】
実質的に純粋である、請求項2〜18のいずれか1つの記載の結晶形。
【請求項20】
化合物Iが請求項1において定義される式を有する、結晶質化合物Iのアルファ型を含む固体化合物I。
【請求項21】
前記アルファ型を主に含む、請求項20記載の固体。
【請求項22】
前記アルファ型が請求項3〜6のいずれか1つにおいて定義される、請求項20または21のいずれか1つに記載の固体。
【請求項23】
化合物Iが請求項1において定義される式を有する、結晶質化合物Iのベータ型を含む固体化合物I。
【請求項24】
前記ベータ型を主に含む、請求項23記載の固体。
【請求項25】
前記ベータ型が請求項7〜9のいずれか1つにおいて定義される、請求項23または24のいずれか1つに記載の固体。
【請求項26】
化合物Iが請求項1において定義される式を有する、結晶質化合物Iのガンマ型を含む固体化合物I。
【請求項27】
前記ガンマ型を主に含む、請求項26記載の固体。
【請求項28】
前記ガンマ型が請求項10〜12のいずれか1つにおいて定義される、請求項26または27のいずれか1つに記載の固体。
【請求項29】
化合物Iが請求項1において定義される式を有する、結晶質化合物Iのデルタ型を含む固体化合物I。
【請求項30】
前記デルタ型を主に含む、請求項29記載の固体。
【請求項31】
前記デルタ型が請求項13〜15のいずれか1つにおいて定義される、請求項29または30のいずれか1つに記載の固体。
【請求項32】
化合物Iが請求項1において定義される式を有する、結晶質化合物Iのイプシロン型を含む固体化合物I。
【請求項33】
前記イプシロン型を主に含む、請求項32記載の固体。
【請求項34】
前記の型が請求項16〜18のいずれか1つにおいて定義される、請求項32または33のいずれか1つに記載の固体。
【請求項35】
化合物Iが請求項1において定義される式を有し、結晶質化合物Iが0%〜約8%の水を有するメタノール溶剤中で形成されることを特徴とする、結晶質化合物Iの製造方法。
【請求項36】
化合物Iを溶剤から沈殿させ、そして得られた結晶質化合物Iからこの溶剤を分離することにより結晶化することを含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記結晶質化合物Iが請求項2〜6のいずれか1つに定義される、請求項35または36のいずれか1つに記載の方法。
【請求項38】
請求項35または36のいずれか1つに記載の方法により得ることができる結晶質化合物I。
【請求項39】
化合物Iの製造方法であって、この方法が化合物Iを結晶質化合物Iに変換する段階を含み、そこで化合物Iが請求項1において定義される式を有する、前記製造方法。
【請求項40】
結晶形にある化合物Iを溶剤から沈殿させ、そして得られた結晶質化合物Iからこの溶剤を分離することを含む、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記結晶質化合物Iが請求項2〜18のいずれか1つに定義される、請求項39または40のいずれか1つに記載の方法。
【請求項42】
前記結晶質化合物Iが請求項35〜37のいずれか1つに記載の方法により得られる、請求項39記載の方法。
【請求項43】
化合物Iを含む医薬調合物を製造することをさらに含む、請求項39〜42のいずれか1つに記載の方法。
【請求項44】
化合物Iの医薬調合物の製造方法であって、この方法が結晶質化合物Iから前記調合物を製造する工程を含み、そこで化合物Iが請求項1において定義される式を有する、前記製造方法。
【請求項45】
前記結晶質化合物Iが請求項2〜19のいずれか1つに定義される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記医薬調合物が固体分散体または固溶体製剤である、請求項44または45のいずれか1つに記載の方法。
【請求項47】
請求項1〜19のいずれか1つに記載の結晶質化合物Iを有効量で含む医薬調合物。
【請求項48】
CNS疾患の治療用薬剤の製造に、請求項1〜19のいずれか1つに記載の結晶質化合物Iを使用する方法。
【請求項49】
前記CNS疾患が神経変性疾患である、請求項47記載の使用方法。
【請求項50】
前記疾患がパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、末梢性ニューロパシーまたはAIDS痴呆からなる群から選択される、請求項48記載の使用方法。
【請求項51】
パーキンソン病治療用薬剤の製造において、請求項1〜19のいずれか1つに記載の結晶質化合物Iを使用する方法。
【請求項52】
請求項1〜18のいずれか1つに記載の結晶質化合物Iを薬学的有効量で投与することを含む、神経変性疾患の治療方法。
【請求項53】
前記疾患がパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、末梢性ニューロパシー、AIDS痴呆からなる群から選択される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
請求項1〜18のいずれか1つに記載の結晶質化合物Iを薬学的有効量で投与することを含む、パーキンソン病の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2007−523915(P2007−523915A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500051(P2007−500051)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【国際出願番号】PCT/DK2005/000127
【国際公開番号】WO2005/082920
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(591143065)ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット (129)
【Fターム(参考)】