説明

医薬用酸化マグネシウム

【課題】酸に不安定な薬剤との混合において薬剤の安定化効果が高く、かつ自身の安定性も優れた医薬用酸化マグネシウムを提供する。
【解決手段】酸に不安定な薬剤と混合して用いられる医薬用酸化マグネシウムであって、
BET法による比表面積が20〜200m2/gで、かつ活性度が40〜200Img/gであることを特徴とする医薬用酸化マグネシウム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸に不安定な薬剤と混合して用いられる医薬用酸化マグネシウムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばベンズイミダゾール化合物のような酸に不安定な薬剤を含む製剤は、その薬剤の性質から経時的な劣化を生じ易い。
【0003】
このようなことから、特許文献1には酸に不安定なベンズイミダゾール化合物およびその塩および塩基性無機塩を含む組成物を陽腸性被覆層で覆った細粒で、かつ水溶性糖アルコールを含有する口腔内崩壊錠が開示されている。塩基性無機塩の例は、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムであることが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1ではベンズイミダゾール化合物およびその塩の安定化のために酸化マグネシウムのような塩基性無機塩が配合されているものの、安定化の観点から塩基性無機塩の諸物性に着目することは全くなされていない。その結果、ベンズイミダゾール化合物およびその塩に対する安定化の点で必ずしも十分満足するものではなかった。
【特許文献1】特許第3746167号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、塩基性無機塩の中で酸化マグシウムに着目し、BET法による比表面積を20〜200m2/g、活性度を40〜200Img/gに規定することによって、酸に不安定な薬剤との混合において薬剤の安定化効果が高く、かつ自身の安定性も優れた医薬用酸化マグネシウムを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、酸に不安定な薬剤と混合して用いられる医薬用酸化マグネシウムであって、
BET法による比表面積が20〜200m2/gで、かつ活性度が40〜200Img/gであることを特徴とする医薬用酸化マグネシウムが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酸に不安定な薬剤との混合において薬剤の安定化効果が高く、かつ自身の安定性も優れ、薬剤に対する混合量を低減して原料および製造コストを安価にでき、かつ剤形を小型化することを可能にして患者の服用を容易にできる医薬用酸化マグネシウムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る医薬用酸化マグネシウムを詳細に説明する。
【0009】
実施形態に係る医薬用酸化マグネシウムは、酸に不安定な薬剤と混合して用いられ、BET法による比表面積が20〜200m2/gで、かつ活性度が40〜200Img/gである。
【0010】
『酸に不安定な薬剤との混合』は、酸に不安定な薬剤に医薬用酸化マグネシウムを混合し、その混合物を錠剤として用いる形態、その混合物を結晶セルロース単独、糖単独または糖と結晶セルロースのような担体(核粒子)にコーティングして錠剤として用いる形態等を挙げることができる。このような酸に不安定な薬剤への医薬用酸化マグネシウムの混合において、実施形態に係る医薬用酸化マグネシウムはその薬剤に対する安定化効果が高いために混合割合を低減することが可能になる。その結果、原料および製造コストを安価にでき、かつ剤形を小型化することを可能にして患者の服用を容易にできる。
【0011】
酸に不安定な薬剤は、例えば
ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール、パントプラゾール、レミノプラゾール、テナトプラゾール、TU−199のようなベンズイミダゾール系化合物またはその塩;
イミダゾピリジン系化合物またはその塩;
セラペプターゼ、セミアルカリプロティナーゼのような消炎酵素剤;
エリスロマイシンのようなマクロライド系抗生物質;
α−トコフェノール、コハク酸トコフェノールカルシウム、コハク酸d1−α−トコフェノールカルシウム、コハク酸d−α−トコフェノールカルシウムのようなコハク酸トコフェノールまたはその塩;
塩酸チアミン、硝酸チアミン、リン酸チアミンのようなチアミン無機酸またはその塩、プロスルチアミン、フルスルチアミン、チアミンジスルフィド、リン酸チアミンジスルフィド、ピスベンチアミン、ビスプチチアミン、ビスイブチアミンのような活性型ビタミンB1誘導体またはその塩などのビタミンB1またはその塩;
アズレンスルホン酸ナトリウム、アズレンスルホン酸カリウムのようなアズレンスルホン酸塩;
イブプロフェン、イブプロフェンリシン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ナプロキセンのような2−アリールプロピオン酸誘導体等
が用いられる。
【0012】
前記『BET法による比表面積』および『活性度』は、次の方法により測定した値である。
【0013】
1)BET法による比表面積
酸化マグネシウム粉末の試料0.1gを下記の測定装置、前処理条件および試験条件によりBET法による比表面積を測定する。
【0014】
・測定装置:高速比表面積最高分布測定装置(ユアサイオニクス社製;NOVA4000e)、
・前処理条件:脱気しながら、105℃で1時間保持、
・試験条件:窒素吸着法により3点プロット法で測定。
【0015】
2)活性度
最初にヨウ素13gに四塩化炭素を加えて全量を1000mLとして1N−ヨウ素四塩化炭素溶液を調製する。ヨウ化カリウム0.5gに75(W/L)%のエチルアルコールを加えて全量を100mLとして0.03N−ヨウ化カリウム溶液を調製する。また、チオ硫酸ナトリウム5水和物13および無水炭酸ナトリウム0.1gに水を加えて全量を1000mLとして0.05N−チオ硫酸ナトリウム溶液を調製する。
【0016】
酸化マグネシウム粉末の試料2.0gおよび前記1N−ヨウ素四塩化炭素溶液100mLを分液ロートに入れ、30分間振盪した後、15分間放置する。上澄み液20mLを三角フラスコに入れ、さらに前記0.03N−ヨウ化カリウム溶液50mLを入れ、混合した後、前記0.05N−チオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、赤茶色から白色に変化したときを終点とし、そのときの滴定量を測定する。
【0017】
同様に試料を添加しない空試験を行って、0.05N−チオ硫酸ナトリウム溶液の滴定量を測定する。
【0018】
本試験で測定した0.05N−チオ硫酸ナトリウム溶液の滴定量(V1)および空試験で測定した0.05N−チオ硫酸ナトリウム溶液の滴定量(V0)を次式(1)に代入することにより活性度を求める。
【0019】
活性度(Img/g)={(V1−V0)×127×N}/0.4 …(1)
ここで、Nはチオ硫酸ナトリウム溶液の規定度×係数(ファクタ)である。
【0020】
実施形態に係る医薬用酸化マグネシウムにおいて、BET法による比表面積および活性度がそれぞれ前記範囲を逸脱すると、酸に不安定な薬剤との混合に際しての薬剤の安定化効果および自身の優れた安定性を達成することが困難になる。より好ましいBET法による比表面積および活性度は、それぞれ60〜150m2/g、60〜150Img/gで、最も好ましいBET法による比表面積および活性度はそれぞれ70〜150m2/g、80〜150Img/gである。
【0021】
実施形態に係る医薬用酸化マグネシウムは、平均粒径が0.1〜50μmであることが好ましい。また、嵩密度が0.5g/mL以上であることが好ましい。
【0022】
ここで、『平均粒径』および『嵩密度』は次の方法で測定した値である。
【0023】
3)平均粒径
試料をエタノールに分散させ、超音波ホモジナイザーで前処理した後、日機装社製のマイクロトラックにより粒度分布を測定する。粒度分布の小さい粒子から積算し、50重量%の積算値の粒径を平均粒径とする。
【0024】
4)嵩密度
・測定装置:筒井理化学器機社製の粉体減少度測定器(TPM−7−P)、
・試験条件:タッピング回数100回、タッピング高さ4cm、タッピング速度36回/分間。
【0025】
まず、酸化マグネシウム粉末の試料20gを50mLメスシリンダーに入れ、このメスシリンダーを前記測定装置にセットした。前記条件で試験した後、容量F(mL)を目視で測定した。その後、20/Fにて嵩密度(g/mL)を算出した。
【0026】
実施形態に係る医薬用酸化マグネシウムは、例えば次のような方法により製造することができる。
【0027】
水酸化マグネシウム単独を焼成するか、または水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムまたは塩化マグネシウムとを焼成した後、混合するか、或いは酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムまたは塩化マグネシウムとを混合した後、焼成するか、いずれかの方法によりBET法による比表面積が20〜200m2/g、活性度が40〜200Img/gの医薬用酸化マグネシウムを製造する。
【0028】
以下,本発明の実施例を説明する。
【0029】
(実施例1)
水酸化マグネシウムNK(富田製薬株式会社商品名;平均粒径49.6μm、BET法による比表面積38.4m2/g、嵩密度0.54g/mL)および局方炭酸マグネシウム(富田製薬株式会社商品名;平均粒径11.7μm、BET法による比表面積21.9m2/g、嵩密度0.48g/mL)をそれぞれ大気雰囲気下で600℃まで昇温し、この温度を2時間保持して焼成した後、前者の焼成物と後者の焼成物とを重量比で1:3の割合で混合することにより酸化マグネシウム粉末を製造した。
【0030】
(実施例2)
軽質酸化マグネシウム粉末(富田製薬株式会社の製品)を使用した。
【0031】
(実施例3)
水酸化マグネシウムNK(富田製薬株式会社商品名;平均粒径49.6μm、BET法による比表面積38.4m2/g、嵩密度0.54g/mL)を大気雰囲気下で500℃まで昇温し、この温度を1時間保持して焼成することにより酸化マグネシウム粉末を製造した。
【0032】
得られた実施例1〜3の酸化マグネシウム粉末についてBET法による比表面積、活性度、平均粒径、嵩密度、吸油量およびpHを測定した。その結果を下記表1に示す。
【0033】
比表面積、活性度、平均粒径、嵩密度は前述した項目1)〜4)の試験方法に従って測定した。吸油量およびpHは、下記方法により測定した。
【0034】
5)吸油量
酸化マグネシウム粉末の試料10gを黒色プラスチック板上に置いた。ビュレットから煮アマニ油を紙料上に滴下し、へらで小円形を描くように練り、試料全体が1つの塊になった時点の煮アマニ油の滴下量を終点とし、次式(2)から吸油量を算出した。
【0035】
吸油量(mL/g)=V/W …(2)
ここで、Vは煮アマニ油の滴下量(mL)、
Wは試料の重量(10g)、
である。
【0036】
6)pH
酸化マグネシウム粉末の試料2gを室温の水50mLに懸濁させ、この懸濁液のpHをpH計で測定した。
【0037】
<酸化マグネシウム粉末の評価>
実施例1〜3と、下記表1に示すBET法による比表面積、活性度、平均粒径、嵩密度、吸油量およびpHを有する比較例1の酸化マグネシウム粉末(神島化学工業社製商品名:スターマグP)とを酸に不安定な薬剤であるオメプラゾール(UNION QUIMICO社の製品)10gにそれぞれ50g混合した。
【0038】
各混合物の一部をポリエチレン/アルミニウム箔/ポリプロピレンのアルミニウムラミネート袋に入れて密封し、冷蔵保存し、標準サンプルとした。
【0039】
各混合物の残りをそのまま恒温恒湿槽に入れ、40℃、75RT%の条件で7日間放置して評価サンプルとした。
【0040】
得られた標準サンプルおよび4種の評価サンプルの色度を色差計(日本電色工業社製;Z−300A)により計測し、標準サンプルの色度(E0)に対する評価サンプルの色度(E1)の差(色差ΔE;E1−E0)を求めた。これらの結果を下記表1に示す。
【0041】
また、実施例1〜3および比較例1の酸化マグネシウム粉末を酸に不安定な薬剤であるラベプラゾール(HETERO LABS LIMITED社の製品)10gにそれぞれ50g混合した。
【0042】
各混合物について、同様な方法により色差ΔEを求めた。これらの結果を下記表1に示す。
【0043】
さらに、実施例1〜3および比較例1の酸化マグネシウム粉末を酸に不安定な薬剤であるランソプラゾール(UNION QUIMICO社の製品)10gにそれぞれ50g混合した。
【0044】
各混合物について、同様な方法により色差ΔEを求めた。これらの結果を下記表1に示す。
【0045】
なお、これらの評価において色差ΔEが小さいほど、評価サンプルの色度が低い、つまり経時劣化が低く、酸に不安定な薬剤に対する安定化効果が高いことを示す。
【表1】

【0046】
前記表1から明らかなようにBET法による比表面積が20〜200m2/gで、かつ活性度が40〜200Img/gである実施例1〜3の酸化マグネシウム粉末は、BET法による比表面積および活性度がそれぞれ20m2/g未満、40Img/g未満の比較例1の酸化マグネシウム粉末に比べて酸に不安定な薬剤(オメプラゾール、ラベプラゾール、ランソプラゾール)に混合したときの色差ΔEが小さく、恒温恒湿での加速試験下での薬剤の劣化を低減できることがわかる。
【0047】
特に、BET法による比表面積が70〜150m2/gで、かつ活性度が80〜150Img/gである実施例1の酸化マグネシウム粉末は酸に不安定で劣化が甚だしいラベプラゾールに対してより一層高い安定化効果を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸に不安定な薬剤と混合して用いられる医薬用酸化マグネシウムであって、
BET法による比表面積が20〜200m2/gで、かつ活性度が40〜200Img/gであることを特徴とする医薬用酸化マグネシウム。
【請求項2】
BET法による比表面積が60〜150m2/gで、かつ活性度が60〜150Img/gであることを特徴とする請求項1記載の医薬用酸化マグネシウム。
【請求項3】
BET法による比表面積が70〜150m2/gで、かつ活性度が80〜150Img/gであることを特徴とする請求項1記載の医薬用酸化マグネシウム。
【請求項4】
嵩密度が0.5g/mL以上であることを特徴とする請求項1記載の医薬用酸化マグネシウム。

【公開番号】特開2009−209048(P2009−209048A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50603(P2008−50603)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000237972)富田製薬株式会社 (30)
【Fターム(参考)】