説明

医薬組成物に用いられる粒子の製造方法

【課題】乾燥粉末吸入投与に適した肺投与用の医薬製剤の製造方法を提供する。
【解決手段】一つ以上のアミノ酸もしくはその誘導体、ペプチドもしくはその誘導体、またはステアリン酸金属塩もしくはその誘導体からなる添加物質粒子を含み、所定の幅を有する間隙中で、添加物質粒子の存在下に活性物質粒子を圧縮して磨砕することにより、添加物質粒子が活性物質粒子の表面に融合した複合活性粒子であり、活性物質上の被覆が平均して1μm未満または0.5μm未満の厚さである複合活性粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子および粒子の製造方法に関する。特に、本発明は、吸入用の薬学的に活性な物質からなる複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物を微細な粒子(活性粒子)の形態で患者に投与することは知られている。例えば、肺への投与では、粒子状医薬組成物が患者によって吸入される。肺への投与は、特に喘息のような呼吸症状の治療あるいは軽減のための医薬にとって好適であるとともに、ある生物学的高分子のような経口摂取に不向きな医薬にとっても好適である。呼吸組織への医薬投与用の公知の装置には、圧力式計量薬剤量吸入器(pMDI'S)および乾燥粉末吸入器(DPI's)が含まれる。
【0003】
活性粒子の大きさは、吸収部位を決定する上で極めて重要である。医薬粒子を肺の深い所まで運ぶために、医薬粒子は非常に微細で、例えば、10μm未満のマスメディアン空気力学的粒径を有していなければならない。10μmを超える空気力学的粒径を有する粒子は、喉の壁に密着する傾向があり、かつ一般的には肺にまでは到達しない。5μm〜0.5μmの範囲の空気力学的粒径を有する粒子は、一般的には細気管支に沈積するが、2μm〜0.05μmの範囲の空気力学的粒径を有する粒子は、肺胞に沈積する傾向がある。
【0004】
しかしながら、このような小さな粒子は、著しく過剰な表面自由エネルギーを与え、かつ粒子の集塊化を促進する程の高い表面積と容積の比率に起因して、熱力学的に不安定である。吸入器においては、小粒子の集塊と吸入器の壁への粒子の付着が問題であり、そのことによって活性粒子が大きな集塊として吸入器から離れるか、あるいは離れることができずに吸入器の内部に付着して残るという結果となる。
【0005】
このような状況を改善する試みの中で、乾燥粉末吸入器用の乾燥粉末は、しばしば微細な活性物質の粒子と混合された賦形剤物質の粒子を含む。賦形剤物質のそのような粒子は粗く、例えば90μmを超えるマスメディアン空気力学的粒径を有しているか(このような粗い粒子は担体粒子として参照される)、あるいは微細である。
【0006】
吸入用の微細な活性粒子のエアロゾルを形成するために、他の活性粒子および、存在するのであれば、賦形剤物質粒子から活性粒子を分散させる工程は、肺における望ましい吸収部位に到達する活性物質の量の割合を決定するのに極めて重要である。そのような分散の効率を改善するために、組成物中に添加剤を含ませることは知られている。そのような添加剤は、粒子間の引力を減じ、それによって粒子の分散を促進すると考えられている。微細な活性粒子と添加剤からなる組成物は、WO97/03649(特許文献1)に開示されている。
【0007】
肺への投与に適した活性物質の微細な粒子は、しばしば、例えばジェット磨砕のような磨砕によって調製されてきた。しかしながら、一旦、粒子が臨界的大きさと呼ばれる最小の大きさに到達すると、それらは破砕されるのと同じ割合で再結合をするか、または効率良く破砕しないから、大きさはさらに小さくはならない。かくして、磨砕による微細粒子の製造には、多大な労力を必要とするとともに、結果として、実際上はそのような磨砕工程によって達成され得る活性物質の粒子の最小の大きさに限界を設ける要素が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO97/03649
【発明の概要】
【0009】
本発明は、第一の観点では、肺への投与用医薬組成物に用いる複合活性粒子を製造するための方法を提供するものであって、その方法は、吸入器が作動すると複合活性粒子の分散促進に適した添加物質粒子の存在下に、活性物質粒子を磨砕する磨砕工程からなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の複合活性粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1の複合活性粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1aの複合活性粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2の複合活性粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【図5】図4で示される粒子と同じサンプルの走査電子顕微鏡写真で、より倍率の高いものである。
【図6】実施例3の複合粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【図7】図6で示される粒子と同じサンプルの走査電子顕微鏡写真で、より倍率の高いものである。
【図8】メカノ−フュージョン機械の部分概略図である。
【図9】本発明の方法によるサルブタモール硫酸塩とステアリン酸マグネシウムの割合19:1からなる複合活性粒子(実施例4)の電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の方法によるサルブタモール硫酸塩とステアリン酸マグネシウムの割合19:1からなる複合活性粒子(実施例4)の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法は、一般に複合活性粒子を製造する。この複合活性粒子は、活性物質の非常に微細な粒子であって、その粒子表面上にある量の添加物質が存在する。添加物質は、活性物質の粒子の表面上で、被覆の形態であることが好ましい。被覆は不連続被覆であることができる。添加物質は活性物質の粒子表面上に付着した粒子の形態であることができる。後で記載するように、少なくとも幾らかの複合活性粒子は集塊の形態である。
【0012】
この複合活性粒子が医薬組成物に含有されていると、吸入器の作動を通じてこの医薬組成物を患者に投与した場合、添加物質が複合活性粒子の分散を促進する(吸入器の作動とは、ある服用量の粉末が吸入器中の静止部位から除去される工程をいう。この工程は、粉末が直ちに使用可能な吸入器に詰め込まれた後に行われる)。この分散の推進効果は、似た大きさの活性物質の粒子と添加物質との単なる混合により製造される組成物と比較して、増強されていることが見出されている。
【0013】
活性物質粒子の表面における添加物質の存在は、制御された、または遅延された放出特性を与え、かつ湿気に対する障壁を与える。
【0014】
添加物質の存在下での活性物質粒子の磨砕では、添加物質不存在下で実施される同様の工程の場合よりも、著しく小さな粒子が生じること、および/または一層短い時間と一層少ないエネルギーを必要とすることも見出されている。
本発明の方法を用いることで、1μm未満の マスメディアン空気力学的粒径(MMAD)または ボリュームメディアン粒径(VMD)を有する複合活性粒子を製造することが可能になった。他の磨砕方法では、しばしば、このような小さな粒子を製造することはできない。
【0015】
磨砕工程は、そのことによって一層凝集性になる磨砕された粒子の表面における非晶質物質のレベルを生じるか、または増加させる傾向があるということが知られている。対照的に、本発明の複合活性粒子は、磨砕処理後には、一層凝集性でないことが、しばしば見出される。
【0016】
ここで用いられる「磨砕」という用語は、活性物質の粒子に十分な力を適用して、粗い粒子(例えば、マスメディアン空気力学的粒径が100μmを超える粒子)を、マスメディアン空気力学的粒径が50μm以下の微細な粒子に砕くことができる、あらゆる機械的工程、あるいはメカノ−フュージョン(Mechano-Fusion)およびサイクロミックス(Cyclomix) 法に関連して後記するごとく、相対的に制御された圧縮力を適用する、あらゆる機械的工程を意味する。
【0017】
高度の力を適用しない混和のような工程は、本発明の方法においては効果的ではないことが判明している。なぜなら、活性物質の個々の粒子を分離するのに、また活性粒子の強く結着した集塊を破壊するのに高度の力を必要とするので、効果的な添加物質の混合、およびこれら粒子表面への添加物質の効果的な適用が達成できると信じられている。
【0018】
磨砕工程の特に望ましい局面は、添加物質が磨砕中に変形し、かつ活性粒子の表面にしみつくかまたは融合すると信じられている。しかしながら、活性物質の粒子が既に微細である場合、例えば磨砕前のマスメディアン空気力学的粒径が20μm未満である場合には、これら粒子の大きさは著しく小さくならないことを理解しておくべきである。重要なことは、磨砕工程は十分に高度の力あるいはエネルギーを粒子に適用することである。
【0019】
本発明の方法は、一般に添加物質粒子を活性粒子の表面に密着させることを含む。被覆された粒子を達成するためには、両成分の集塊の十分なる破壊、分散および添加物質の活性物質母体への分布を確保すべく、ある程度の強い混合が必要とされる。
【0020】
添加物質の粒子が極めて小さい場合は(典型的には、1ミクロン未満)、第一に添加物質粒子の破壊あるいは変形ではなくて、粒子の脱集塊化、分散および活性粒子への包埋のみが必要であること、また第二にそのような小さな添加物質粒子の高い自然表面エネルギーに起因して、一般的に仕事量は少ない。
【0021】
2つの粉末成分が混合され、そしてこれら両成分の大きさが異なっている場合は、小さい粒子が大きな粒子に付着する傾向があることが知られている(いわゆる"ordered mixes" の形成)。そのような極めて微細な成分に対する小範囲のファンデルワールス相互作用は付着を確保するには十分である。
【0022】
しかしながら、添加物質粒子と活性粒子の両方が極めて微細な場合は(例えば、5ミクロン未満)、前記のように両成分の集塊の十分な破壊、分散および添加物質粒子の活性粒子上への分布を確保するために、実質的な程度の混合が必要とされる。ある場合においては、単純な接触付着では不十分であり、分離の防止あるいは被覆の構造と機能の強化のためには、添加物質粒子の活性粒子への強力な埋め込みあるいは融合が必要である。
【0023】
ファンデルワールス力のみで十分に付着する程には添加物質粒子が小さくない場合、あるいは添加物質粒子の変形および/または母体活性粒子への実質的な包埋に利点がある場合には、一層大きなエネルギーが磨砕に要求される。この場合、添加物質粒子は、粒子の軟弱化および/または破壊、変形および扁平化のために、十分な力を受けなければならない。これらの工程は、脱集塊性媒介物としてのみならず、磨砕媒介物として作用する相対的により硬い活性粒子の存在によって強化される。この工程の結果として、添加物質粒子は核活性粒子の周囲を包んで被覆を形成する。これらの工程は、上記のごとき圧縮力を適用することによっても強化される。
【0024】
磨砕工程の結果として、完全または部分的な、連続または不連続な、そして多孔質または非多孔質な被覆が形成される。この被覆は、活性粒子と添加物質粒子の組合せによって生じる。この被覆は、一方または両方の成分の溶解を必要とする湿式工程によって形成されるような被覆ではない。一般に、そのような湿式工程は、本発明の磨砕工程に比べるとコストが高く、かつ長い時間を要する上に、被覆の位置および構造を制御するのが容易でないという不利益をこうむる。
【0025】
本発明の方法には、広範囲の磨砕装置および条件が好適に利用できる。磨砕条件、例えば磨砕の強さと時間は、必要とされる力の程度を与えるために選択されなければならない。ボール磨砕は好適な方法である。遠心力利用式および遊星歯車式ボール磨砕は特に好適な方法である。また、粒子含有の流体を高い剪断と攪流を生じる高圧条件下で強制的にバルブを通過せしめる高圧ホモジナイザーが使用できる。粒子上の剪断力、粒子と機械表面あるいは他の粒子との間の衝突および流体の加速による空洞現象は、全て粒子の破壊に貢献し、かつ圧縮力を与える。
【0026】
このようなホモジナイザーは、大規模の複合活性粒子製造に用いるには、ボール磨砕よりも好適である。好適なホモジナイザーとしては、4000気圧まで可能なEmulsiFlex高圧ホモジナイザー、Niro Soavi 高圧ホモジナイザー(2000気圧まで可能)および Microfluidicsマイクロフルーダイザー(最大2750気圧)がある。
【0027】
また、磨砕工程は、例えばNetze高エネルギー媒体磨砕機あるいはDyno磨砕機(Willy A. Bachofen AG, スイス)のような、高エネルギー媒体磨砕機または攪拌溶球磨砕機を含む。また、磨砕はメカノ−フュージョン(Mechano-Fusion)システム(Hosokawa Micron LTD)または混成機(Nara)のような乾式被覆高エネルギープロセスである。他の可能な磨砕装置としては、空気ジェット磨砕機、ピン磨砕機、ハンマー磨砕機、ナイフミル、超遠心式磨砕機および ペスル・モルタル(Pestle and Mortar)ミルがある。
特に好適な方法は、メカノ−フュージョン、混成機、サイクロミックス(Cyclomix)装置を含む。
【0028】
磨砕工程は、好ましくは固定の予め決定された幅の間隙(または ニップ)における、活性粒子と添加物質粒子との混合物の圧縮を含む(例えば、後記のメカノ−フュージョンおよびサイクロミックス方法のように)。
【0029】
幾つかの好適な磨砕方法がより詳細に述べられる。
メカノ−フュージョン:
その名称が示すように、この乾式被覆工程は、第一の物質を第二の物質に機械的に融合させるように設計されている。第一の物質は一般に第二の物質よりも小さくおよび/または軟らかい。メカノ−フュージョンおよびサイクロミックスの作用原理は、内部要素と槽壁間の特別の相互作用を有する点において、別の磨砕技術とは異なり、そして制御された実質的な圧縮力によって供給されるエネルギーに基づいている。
【0030】
微細な活性粒子と添加物質粒子はメカノ−フュージョン運転槽に供給され、遠心力を与えられて槽内壁に押し付けられる。粉末は、ドラムと要素間の高い相対速度でもって、ドラム壁の隙間と曲がった内部の要素の間で圧縮される。 内壁と曲がった要素は共に、粒子が押しつけられる間隙またはニップを形成する。その結果、粒子が内部ドラム壁と内部要素(これは内部ドラム壁よりも大きな曲率をもつ)の間に捕集されると、粒子は非常に強い剪断力と非常に強い圧縮力を受ける。
【0031】
粒子は、局部的加熱、軟化、破壊、変形、扁平化および被覆形成のための添加物質粒子の核粒子周囲への被覆にとって十分なエネルギーでもって、互いに激しく衝突する。そのエネルギーは、一般に集塊を破壊するのに十分であり、かつ両成分のある程度の大きさの減少が起きる。添加物質粒子の活性粒子への埋包および融合が生じ、かつそれは両成分の硬度(および場合によっては大きさ)における相対的相違によって促進される。
【0032】
外部槽または内部要素のどちらかが、相対的な運動を与えるために回転する。これら表面間の間隙は相対的に小さく、典型的には10mm未満であり、好ましくは5mm未満、より好ましくは3mm未満である。この間隙は固定されており、それ故にボール磨砕機や媒体磨砕機のような他の形式の磨砕機におけるよりも、より好適な圧縮エネルギーの制御に至る。
【0033】
また、一般的には磨砕媒体表面の押しつけは存在しないので、磨耗とその結果としての汚染が最小限となる。回転速度は200〜10,000rpmの範囲である。また、槽表面に生成するいかなる固まった物質をも破壊するために、スクレイパーも設けられる。これは、微細な凝集性の出発物質を用いる場合に、特に有利である。局部温度は、ドラム槽壁に設けられた加熱/冷却ジャケットを用いて制御される。粉末は槽を経由して再循環される。
【0034】
サイクロミックス法(ホソカワ マイクロン):
サイクロミックスは、壁に動いて近づく櫂を備えた高速回転のシャフトをもった据付型円錐形槽からなる。櫂の高速回転に起因して、粉末は壁方向に推進させられ、その結果、混合物は壁と櫂の間で非常に強い剪断力と圧縮力を受ける。このような効果は、前記のメカノ−フュジョンの場合と類似しており、かつ局部的な加熱と軟化、破壊、変形、扁平化および被覆を形成するための添加物質粒子の活性粒子周囲への被覆にとっては十分である。エネルギーは、集塊を破壊するには十分であり、またある程度の両成分の大きさの縮小が諸条件と粒子の大きさと性質に依存して生じる。
【0035】
ハイブリダイザー法:
この方法は、ある粉末の別の粉末への生成物埋め込み、あるいは被膜形成として述べることのできる乾式工程である。微細な活性粒子および微細もしくは超微細な添加物質粒子は、所定の混合物を作るために、通常の高剪断混合機プレミックスシステムに供給される。そして、この粉末は混成機に供給される。
【0036】
この粉末は、固定子容器(stator vessel)内部の高速軸車上の翼によって衝突を受けさせられるので、超高速衝撃、圧縮および剪断に供せられて、槽内を再循環させられる。活性粒子と添加物質粒子は互いに衝突する。典型的な回転速度は5,000〜20,000rpmの範囲である。相対的に柔軟な微細添加物質粒子は、柔軟化、破壊、変形、扁平化および被覆を得るための活性粒子の被覆のために、十分な衝撃力を受ける。また、ある程度の活性粒子表面への埋め込みも起きる。
【0037】
他の好適な方法は、粒子間に望ましい高剪断力と圧縮力を与えることができるボール磨砕機および高エネルギー媒体磨砕機を含む。もっとも、隙間の間隙は制御できないので、被覆工程はメカノ−フュジョン磨砕の場合よりも良くは制御できないし、ある程度の望ましくない再集塊化という問題が生じる。これらの媒体磨砕機は、回転式、振動式、撹乱式、遠心利用式または遊星歯車式である。
【0038】
ある場合においては、活性粒子を添加物質粒子とともにボール磨砕すると、微細な粉末が生じないことが観察された。その代わりに、粉末は磨砕機の作動によって磨砕機の壁の上で締められて硬くなった。それは、磨砕機の作動を阻止し、複合活性粒子の調製を妨げた。特に、ある添加物質が用いられたとき、その添加物質が少ない割合で存在する場合(典型的には2%未満)、磨砕球が相対的に小さい場合(典型的には3mm未満)、磨砕速度が非常に遅い場合、そして出発粒子が極めて微細である場合に、問題が生じた。この問題の発生を防ぐためには、液体媒体中でボール磨砕をするのが有利である。液体媒体は、硬くなる傾向を減じ、添加物質の分散を助け、いかなる磨砕動作をも改善する。
【0039】
少ない数の重い磨砕球を用いるよりも、数多くの細かな磨砕球を用いた方が好ましいことが判明した。より細かな球は、一層効率的な共磨砕動作を遂行する。球は5mm未満の直径を有するのが好ましく、有利には2mm未満である。液体媒体は活性物質を溶解せず、かつ素早く十分に蒸発するのが好ましく、例えばジエチルエーテル、アセトン、シクロヘキサン、エタノール、イソプロパノール、ジクロロメタンのような非水性液体である。液体媒体は非可燃性のものが好ましく、例えばジクロロメタン、フッ素化炭化水素類、特に吸入器の中で推進剤として好適なフッ素化炭化水素類である。
【0040】
ペスル・モルタル磨砕機は、粒子間に非常に大きな剪断力と圧縮力を与える別の磨砕機である。
【0041】
ナラにより製造のメカノ−マイクロ磨砕機およびマイクロ磨砕機(粒子は磨砕環の回転によって圧縮される)も使用できる。衝撃ミキサー、摩擦磨砕機、ピン磨砕機および円盤磨砕機と呼ばれる磨砕機も使用される。
【0042】
活性物質の粒子のマスメディアン空気力学的粒径は、磨砕工程において、特に磨砕前に活性物質が粗い粒子の形状である場合に実質的に減少する。活性物質粒子のマスメディアン空気力学的粒径(MMAD)は、磨砕工程中に、磨砕条件および磨砕工程前の活性粒子のMMADに依存して、少なくとも10%、少なくとも50%、あるいは少なくとも70%減少する。
【0043】
磨砕工程の後に、活性粒子のMMADが9μm未満、好ましくは4μm未満、より好ましくは2μm未満であるのが有利である。
【0044】
同様に、添加物質が磨砕前は粗い粒子である場合に、そのMMADは磨砕工程中に実質的に減少する。添加物質粒子のMMADは、磨砕工程中に磨砕条件や磨砕工程前の添加物質粒子のMMDAに依存して、少なくとも10%、少なくとも50%、あるいは少なくとも70%減少する。磨砕後の添加物質の粒子の大きさは、添加物質を活性粒子に一層効果的に被覆させるために、活性粒子の大きさよりも有意に小さいことが好ましい。実際には、活性粒子と添加物質粒子間のそのような大きさの相違は、磨砕の結果として達成される。なぜなら、通常、添加物質は活性物質よりも容易に破砕もしくは変形され、それ故に活性物質よりも小さな粒子に破壊されるからである。
【0045】
上記のごとく、好ましくは添加物質粒子は活性物質粒子の表面に塗りつけられるか、または融合させられ、そのことによって実質的に連続または不連続の被覆を形成する。被覆が不連続である場合は、平均的には、被覆は少なくとも活性粒子の50%を覆うのが好ましく(すなわち、活性粒子の全表面積の50%が添加物質で被覆されている)、より有利には少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも90%である。被覆の厚さは、平均的には1μm未満が好ましく、より好ましくは0.5μm未満、最も好ましくは200nm未満である。
【0046】
磨砕工程は、例えば、ボール磨砕機またはメカノ−フュージョン装置のような閉鎖槽の中で行われる。閉鎖槽の使用は、ジエット磨砕または他の開放工程で起きることが判明した超微細粒子の損失あるいは添加物質の蒸発を防止する。好ましくは、磨砕はジェット磨砕(微粉化)でないことである。
【0047】
磨砕は湿式磨砕、すなわち磨砕工程は液体の存在下で実施される。液体媒体は高揮発性か低揮発性であり、有意の程度まで活性粒子を溶解せず、かつその粘度が効果的な磨砕を妨げない程度に高くない限り、固形分含有である。液体媒体は水性でないのが好ましい。
【0048】
液体媒体は、添加物質がそれに実質的に不溶であるのが好ましいが、不溶の添加物質の粒子が残るほどの十分な添加物質が存在する限り、ある程度までの溶解度は受け入れられる。液体媒体の存在は、活性物質の粒子が槽壁上で硬くなるのを阻止することを支援し、かつ乾式磨砕と比較して、活性物質粒子の表面に添加物質が一層等しく広がることを許す。
【0049】
上記のメカノ−フュージョンおよびサイクロミックス技術は、しばしば個々の粒子としての複合活性粒子、すなわち非集塊状の複合活性粒子を与える。これは、しばしば集塊状の複合活性粒子の形で複合活性粒子を製造することが判明したボール磨砕のような、制御の弱い方法とは対照的である。
【0050】
複合活性粒子のマスメディアン空気力学的粒径は、10μm以下が好ましく、有利には5μm以下、より好ましくは3μm以下、最も好ましくは1μm以下である。したがって、複合活性粒子の少なくとも90重量%が10μm以下の直径を有するのが有利であって、5μm以下が有利であり、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。
【0051】
磨砕工程後は、有利には、活性粒子は肺の望ましい部位への吸入に好適な大きさである。例えば、MMADについては、肺の深い部位での吸収には3〜0.1μm、呼吸系毛細気管支における吸収のためには5〜0.5μm、より高度の呼吸組織への送達のためには10〜2μm、肺胞への送達のためには2〜0.05μmである。
【0052】
したがって、複合活性粒子の少なくとも90重量%の直径が3〜0.1μmの空気力学的粒径を有するのが有利であり、好ましくは5〜0.5μmであり、有利には10〜2μmであり、特に有利には2〜0.05μmである。活性粒子のMMADは、通常0.01μm未満ではない。
上記のごとく、磨砕工程後に製造された複合活性粒子は、呼吸組織の望ましい部位に運ぶのに好適な大きさである。
【0053】
しかしながら、複合活性粒子は、そのような適切な大きさよりも小さいか、あるいは複合活性粒子の少なくとも幾らかは、磨砕工程の後では適切な大きさよりも大きい集塊の形態である。したがって、その方法は磨砕工程後に複合活性粒子の集塊の程度が変化する処理工程からなるのが好ましい。
【0054】
その処理工程は、活性物質の粒子が集塊して集塊状の複合活性粒子を形成する集塊化工程である。このように、要求に応じたオーダーメイドの大きさの集塊が製造される。例えば、造粒化のようないかなる集塊の方法も用いることができるが、好ましくは複合活性粒子は集塊状の複合活性粒子を形成するために乾式工程で集塊させられる(後記)。
【0055】
好ましくは、集塊化工程は噴霧乾燥工程である。噴霧乾燥条件は、1000μm〜0.5μmの範囲の望ましい大きさを有する小滴を製造するために選択される。製造される集塊の大きさは、噴霧供給での複合活性粒子の濃度および小滴の大きさに大いに依存する。例えば、結合剤のような他の物質も噴霧供給に含ませることができる。磨砕工程が湿式磨砕を含む場合は、懸濁液またはスラリーが、磨砕工程の後で直接噴霧乾燥される。集塊化はまた流動床乾燥機または造粒機の中でも行われる。
【0056】
磨砕工程の後で、複合活性粒子の少なくとも幾らかが集塊の形態であり、かつこれら集塊を破壊すること、あるいはその大きさを減じることが望まれる場合には、処理工程は脱集塊化工程である。脱集塊化工程は、望ましくない集塊を機械的に破壊することを含む。例えば、集塊を強制的に篩いに通したり、あるいは乾燥流動床、ジェット磨砕機、ボール磨砕機または他の磨砕装置での処理にかけることである。
【0057】
そのような処理工程の強さおよび/または時間は、一般に磨砕工程の場合よりも低く、短い。脱集塊化工程は噴霧乾燥工程でもある。というのは、乾燥工程としての噴霧乾燥は集塊状の複合活性粒子を調製するのに特に有用であるが、適切な条件制御によって集塊としてよりも単一の粒子として多くの複合活性粒子を製造することが可能であるからである。
【0058】
「集塊状複合活性粒子」という用語は、複数の複合活性粒子からなる粒子をいうのであって、それら複合粒子は互いに付着している。集塊状の粒子が吸入用である場合は、粒子は肺の望ましい部位に沈積するのに適したMMADを有するのが好ましい。磨砕工程後の方法は、複合活性粒子と液体との混合物を乾燥し、液体を除去する乾燥工程からなるのが好ましい。
【0059】
混合物はスラリーまたは懸濁液の形態である。特に、噴霧乾燥を用いる乾燥工程中は、複合活性粒子の集塊の程度が変化するが、その場合、乾燥工程は上記の処理工程と同じ工程である。しかしながら、他の理由から、例えば磨砕が湿式磨砕で、複合活性粒子を乾燥粉末として製造することが望まれる場合には、乾燥工程が含まれる。
【0060】
乾燥工程は、濾過に続く乾燥または液体の蒸発を含む。好ましくは、乾燥工程は噴霧乾燥工程である。あるいは、液体はゆっくりと蒸発させられるか、または乾燥工程は凍結乾燥工程である。
【0061】
磨砕は乾燥していることが好ましく、すなわち磨砕中には液体は存在せず、かつ磨砕対象の混合物は乾燥粒子の形態である。かかる場合、前記のごとく、通常、乾燥工程を使用して集塊化された複合活性粒子を形成するために、液体は磨砕工程の後で添加される。
【0062】
磨砕工程は低い温度、例えば10℃未満、好ましくは0℃未満で実施されるのが有利である。このような低温条件は、磨砕工程の効率を向上し、および/または活性物質の分解を減じる。
【0063】
添加物質の最適量は、添加物質の化学組成および他の性質、ならびに活性物質および/または賦形剤の性質に依存する。一般に、複合粒子中の添加物質の量は、活性物質の重量および/または賦形剤の重量に基づいて、60重量%以下である。しかしながら、ほとんどの添加物質の場合、添加物質の量は、磨砕される添加物質と活性物質の合計重量に基づいて、40%〜0.25%、好ましくは30%〜0.5%、より好ましくは20%〜2%の範囲であると考えられている。一般に、添加物質の量は、活性物質の重量に基づいて、少なくとも0.01重量%である。
【0064】
「添加剤粒子」および「添加物質の粒子」という用語は、ここでは置換可能に用いられる。添加物質粒子は1種またはそれ以上の添加物質からなる。好ましくは、添加物質粒子は添加物質からなるのを必須とする。
【0065】
添加物質は非付着性物質であり、かつ複合活性粒子間の結合および医薬組成物に存在する複合活性粒子と他の粒子間の結合を減じるものが有利である。
添加物質は抗摩擦剤(glidant)であって、例えばより良い薬剤量の再現性を導き、乾燥粉末吸入器中の医薬組成物の良好な流れを与えるものが有利である。
【0066】
非付着性物質あるいは抗摩擦剤に言及する場合、それはたとえその物質が通常は非付着性物質あるいは抗摩擦剤として参照されていなくても、粒子間の結合を減じる能力のある物質、あるいは吸入器の中で粉末の流れを向上させる傾向のある物質を含む。例えば、ロイシンはここで定義する非付着性物質であって、かつ一般に非付着性物質と考えられている。しかし、レシチンも複合活性粒子間の結合および医薬組成物中に存在する複合活性粒子と他の粒子間の結合を減じる傾向があるが故に、ここで定義する非付着性物質であるが、一般には非付着性と考えられていない。添加物質は1種またはそれ以上の物質の組合せを含む。
【0067】
添加物質の化学的組成は、特に重要であることが認められている。添加物質は自然に存在する動物性または植物性物質が好ましい。
添加物質は、有利にはアミノ酸、その誘導体、ペプチドおよびその誘導体から選択される1種またはそれ以上を含む。アミノ酸、ペプチドおよびペプチド誘導体は生理学的に許容され、かつ吸入時に活性粒子の許容できる放出をもたらす。
【0068】
添加物質がアミノ酸からなることは、特に有利である。添加物質は、下記のアミノ酸の一種またはそれ以上からなる:ロイシン、イソロイシン、リジン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン。添加物質は、例えばアスパルテームまたはアセサルフェームKのようなアミノ酸の塩または誘導体である。添加物質粒子は、実質的にアミノ酸からなるのが好ましく、より好ましくはロイシン、有利にはL−ロイシンからなる。D型およびDL型も使用できる。上記で指摘したように、ロイシンは吸入時に活性粒子の分散を特に効率的に行うことが見出された。
【0069】
添加物質は1種またはそれ以上の水溶性物質を含み得る。このことは、もし添加物質が下部の肺に到達したならば、身体による物質の吸収を助ける。添加物質は双極性イオンであり得る双極子イオンを含み得る。
あるいはまた、添加物質はリン脂質またはその誘導体を含み得る。レシチンは添加物質として良好な物質であることが見出された。
【0070】
添加物質は、ステアリン酸金属塩またはその誘導体、例えばステアリルフマル酸ナトリウムまたはステアリル乳酸ナトリウムからなるのが好ましい。有利には、添加物質はステアリン酸金属塩からなる。例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウムあるいはステアリン酸リチウムである。添加物質はステアリン酸マグネシウムからなるのが好ましい。
【0071】
添加物質は1種もしくはそれ以上の界面活性物質を含むか、あるいはそれらからなる。特に、固形状の界面活性で水溶性であり得る物質、例えば、レシチン、特に大豆レシチン、もしくは実質的に非水溶性である物質、例えばオレイン酸、ラウリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、エルカ酸、ベヘン酸、あるいはベヘン酸グリセリルのようなそれらの誘導体(エステルおよび塩)のような固形脂肪酸である。
【0072】
そのような物質の具体的な例は、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルグリセロール類である。天然および合成の肺表面活性剤の例としては、ラウリル酸およびその塩、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、Dynsan 118およびCutina HRのようなトリグリセライド、ならびに一般の糖エステルである。
【0073】
その他の可能な添加物質としては、安息香酸ナトリウム、室温で固体の水素化油、タルク、二酸化チタン、二酸化アルミニウム、二酸化珪素および澱粉である。
【0074】
添加物質は、アミノ酸類、レシチン類、リン脂質類、ステアリルフマル酸ナトリウム、ベヘナ酸グリセリルおよびステアリン酸金属塩(特にステアリン酸マグネシウム)からなる群から選択される1種またはそれ以上の物質からなるのが好ましい。
【0075】
「活性粒子」および「活性物質の粒子」という用語は、ここでは相互に置換可能に使用される。明細書を通じて言及される活性粒子は、1種またはそれ以上の薬学的に活性な薬物からなる。
【0076】
活性粒子は1種またはそれ以上の薬学的に活性な薬物を必須とするのが有利である。適切な薬学的に活性な薬物は、治療および/または予防に用いられる物質である。製剤に含まれる活性薬物としては、例えば、β―アゴニストのような呼吸器病のような病気の治療のために、通常、吸入によって経口投与される薬剤が含まれる。
【0077】
活性粒子は、少なくとも1種のβ2−アゴニスト、例えば、テルブタリン、サルブタモール、サルメテロールおよびホルメトロールから選択される1種またはそれ以上からなる。所望により、活性粒子は、これらの物質が貯蔵および使用状態で互いに適合できるならば、これら物質の複数種からなる。活性粒子はサルブタモール硫酸塩の粒子であるのが好ましい。ここでの活性薬物に対する参照は、生理学的に許容されるいかなる誘導体をも含むことが理解されるべきである。上記のβ2−アゴニストの場合は、生理学的に許容される誘導体として、硫酸塩を含む塩が含まれる。
【0078】
活性粒子は、イパトロピウムブロマイドの粒子であり得る。
活性粒子はステロイドを含み、それらはベクロメタゾンジプロピオネートあるいはフルチカゾンであり得る。活性成分は、クロモグリク酸ナトリウムまたはネドクロミールであるクロモンを含む。活性成分はロイコトリエン受容体拮抗剤を含む。
【0079】
活性粒子は炭水化物、例えばヘパリンを含有する。
活性粒子は、全身的な用途のための薬学的に活性な薬物からなるのが有利であり、また肺を通じて循環系に吸収され得る活性粒子が有利である。例えば、活性粒子はドナーゼ(Dnase)、ロイコトリエン類またはインシュリンのようなペプチドまたはポリペプチドからなる。
【0080】
特に、本発明の医薬組成物は、糖尿病患者へのインシュリンの投与における用途を有し、好ましくはインシュリンに通常用いられている侵入的投与を回避する。複合活性粒子は、例えば、痛みの軽減薬(例:偏頭痛の治療に用いられるフェンタニールまたはジヒドロエルゴタミンのような鎮痛剤)、抗癌活性薬、抗ウイルス薬、抗生物質のような他の薬物の局所投与、またはワクチンの呼吸器官への局所投与にも使用される。
【0081】
上記のごとく、複合活性粒子を乾燥形態で得ることがしばしば望まれているが、医薬組成物が例えば推進剤として液体からなる組成物である場合は、医薬組成物の成分として液体中にある複合活性粒子のスラリーまたは懸濁液を単に用いながら、そのような液体の存在下で活性粒子を磨砕し、乾燥工程は省略することが好ましい。
【0082】
例えば、医薬組成物がpMDIにおいて使用される場合は、活性粒子および添加物質は、液体推進剤の存在下で(必要ならば、加圧下または室温以下で)磨砕される。結果としてできたスラリーは、直接pMDIにおいて使用されるか、または例えばさらにもっと多くの推進剤、界面活性剤または共溶媒が添加される。
【0083】
したがって、本発明は一つの具体化の中で、つまり医薬組成物に用いる複合活性粒子を製造する方法、すなわち液体および供給装置が作動時に複合活性粒子の分散を促進するのに適した添加物質の存在下で、活性物質の粒子が磨砕される磨砕工程からなる方法を提供する。
【0084】
液体は、pMDIに用いるのに適した推進剤からなるのが好ましい。好適な推進剤としては、CFC−12、HFA−134a、HFA−227、HCFC−22(ジフルオロクロロメタン)、HCFC−123(ジクロロトリフルオロエタン)、HCFC−124(クロロテトラフロオロエタン)、ジメチルエーテル、プロパン、n−ブタン、イソブタン、HFA−125(ペンタフルオロエタン)およびHFA−152(ジフルオロエタン)が含まれる。しかし、乾燥複合活性粒子(またはその集塊)を分離することが望まれる場合には、その方法は乾燥工程、好ましくは噴霧乾燥工程を含む。
【0085】
したがって、さらなる具体化として、本発明は医薬組成物に用いる複合活性粒子を製造する方法、すなわち、活性物質の粒子が、液体および供給装置が作動すると複合活性粒子の分散を促進するのに適した添加物質の存在下で磨砕される湿式磨砕工程、ならびに液体が除去される乾燥工程からなる方法を提供する。
【0086】
上記のように、好ましくは噴霧乾燥工程である乾燥工程の条件は、望ましい大きさの集塊状の複合活性粒子を提供するために、あるいは実質的に非集塊状の粒子、つまり個々の複合活性粒子を提供するために選択される。ある場合においては、液体の不存在下で磨砕工程を遂行することが好ましい(乾燥磨砕)。複合活性粒子は液体との混合および乾燥によって集塊状になり、集塊状の複合活性粒子を形成する。
【0087】
したがって、さらなる具体化として、本発明は医薬組成物に用いる集塊状複合活性粒子を製造する方法、すなわち供給装置が作動すると複合活性粒子の分散を促進するのに適した添加物質の存在下に、活性物質の粒子が磨砕される乾燥磨砕工程、および複合活性粒子が液体と混合され、液体を除去するために混合物が乾燥させられる集塊化工程からなる方法を提供する。
【0088】
また、本発明は医薬組成物に用いる複合活性粒子、好ましくは吸入用医薬組成物、より好ましくは乾燥粉末吸入器用の粉末を提供する。
また、本発明は、医薬組成物に用いられる複合活性粒子であって、その個々の複合活性粒子は活性物質の粒子とその活性物質粒子の表面に存在する添加物質からなり、その複合活性粒子は2μm以下のマスメディアン空気力学的粒径を有し、かつその添加物質は供給装置の作動時に複合活性粒子の分散を促進するのに適したものである複合活性粒子を提供する。好ましくは、複合活性粒子は1μm以下の、特に有利には0.5μm以下のMMADを有する。上記のように、複合粒子は集塊状複合粒子の形態である。
【0089】
MMADはインピンジャー、例えば多段液体インピンジャーを用いて測定される。ボリュームメディアン粒子径およびある値未満の直径を有する粒子の割合の量は、マルヴェーンレーザー光散乱法によって測定される。
【0090】
複合活性粒子は、意味のある量(10重量%を超える量)の粒子をべたつかせる結果になるタイプの重合体を含まないのが好ましい。そのような重合体は、α―ヒドロキシカルボン酸の重合体、例えばポリ乳酸および乳酸の共重合体ならびにエチレンオキサイド・プロピレンオキサイド・ブロック共重合体のような共重合体、またはポロキサミンである。
【0091】
さらに、本発明は複合活性粒子からなる医薬組成物を提供する。医薬組成物は乾燥粉末であって、かつ乾燥粉末吸入器での使用に適していることが好ましい。そのような医薬組成物は、複合活性粒子のみを必須とするか、または担体粒子や香料のような成分を追加してなる。担体粒子は許容されるあらゆる賦形剤物質であるか、または物質の組合せである。例えば、担体粒子は、糖アルコール類、ポリオール類および結晶性糖類から選択される1種またはそれ以上の物質から構成される。
【0092】
その他の好適な担体として、塩化ナトリウムおよび炭酸カルシウムのような無機塩、乳酸ナトリウムのような有機塩、ならびにポリサッカライドやオリゴサッカライドのようなその他の有機化合物が含まれる。担体粒子はポリオールであることが好ましい。特に、担体粒子は結晶性糖、例えばマンニトール、デキストロースまたは乳糖の粒子である。担体粒子は乳糖の粒子であるのが好ましい。
【0093】
実質的に担体粒子の全て(重量で)が、20μm〜1000μm、好ましくは50μm〜1000μmの直径を有するのが有利である。実質的な全ての(重量で)担体粒子の直径が355μm未満であって、20μm〜250μmであるのが好ましい。担体粒子の少なくとも90重量%が60μm〜180μmの直径を有するのが好ましい。担体粒子の相対的に大きな直径は、他の一層小さな粒子が担体粒子の表面に付着する機会、ならびに良好な流れおよび飛沫同伴性、より下部の肺における活性粒子の沈積を増加するための通気孔における活性粒子の改善された放出を与える機会を改善する。
【0094】
担体粒子(存在する場合)と複合活性粒子が混合される割合は、勿論、使用される吸入装置のタイプ、活性粒子のタイプおよび要求される薬剤量に依存する。担体粒子は、複合活性粒子と担体粒子の合計重量に基づいて、少なくとも50%、より好ましくは70%、有利には90%、そして最も好ましくは95%の量で存在する。
【0095】
担体粒子が医薬組成物中に含まれる場合は、その医薬組成物も例えば5μm〜20μmの粒子径をもつ、小さな賦形剤粒子を含むのが好ましい。小さな賦形剤粒子は、担体粒子の重量に基づいて、好ましくは1%〜40%、より好ましくは5%〜20%の量で存在する。
【0096】
乾燥粉末吸入器に用いる担体粒子含有組成物は、組成物の合計重量に基づいて、好ましくは少なくとも2%、より好ましくは少なくとも5%、最も好ましくは少なくとも10%の重量割合で複合活性粒子を含有する。複合活性粒子は、意味ある量の担体粒子を含有しない乾燥粉末組成物に特に適しており、そのような組成物においては、組成物の合計重量に基づいて、複合活性粒子は好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%の重量割合で存在する。
【0097】
医薬組成物は推進剤を含んでいてもよく、かつ圧力式計量薬剤量吸入器に用いられるのに適するようになっていてもよい。
また、本発明は活性物質の粒子の磨砕における磨砕助剤としての添加物質の使用を提供する。磨砕助剤という用語は、活性物質および/または賦形剤物質の粒子を磨砕するのに必要なエネルギーの量を減じる物質に言及されることを理解すべきである。
【0098】
本発明の具体化は、後記の図に関連して例証の目的のみで述べられる。
図1及び2は、実施例1の複合活性粒子の走査電子顕微鏡写真である。
図3は、実施例1aの複合活性粒子の走査電子顕微鏡写真である。
図4は、実施例2の複合活性粒子の走査電子顕微鏡写真である。
図5は、図4で示される粒子と同じサンプルの走査電子顕微鏡写真で、より倍率の高いものである。
【0099】
図6は、実施例3の複合粒子の走査電子顕微鏡写真である。
図7は、図6で示される粒子と同じサンプルの走査電子顕微鏡写真で、より倍率の高いものである。
図8は、メカノ−フュージョン機械の部分概略図である。そして
図9と図10は、本発明の方法によるサルブタモール硫酸塩とステアリン酸マグネシウムの割合19:1からなる複合活性粒子(実施例4)の電子顕微鏡写真である。
全ての%表示は、特に断らない限り、重量による。
【実施例】
【0100】
実施例 1
微細化されたサルブタモール硫酸塩(粒度分布:1〜5μm)5gおよびステアリン酸マグネシウム0.5gを、ジクロロメタン20cm3および3mmのステンレス鋼球124gと共に、50cm3容量のステンレス鋼製の槽に加えた。この混合物はRetsch S100 遠心磨砕機の中で、550rpmの回転速度で、5時間磨砕された。粉末は、乾燥および磨砕球除去のための篩分けによって回収された。
図1にこの粉末の電子顕微鏡写真を示す。この工程は、ステアリン酸マグネシウムの代わりにロイシンを用いて、3回繰り返された。この粉末の電子顕微鏡写真を図2に示す。図1および図2で示される粉末は、0.1〜0.5μmの範囲の粒子径を有するように見える。
【0101】
実施例 1a
微細化されたサルブタモール硫酸塩およびステアリン酸マグネシウムは、プロパノール中、10:1の割合の懸濁液中の粒子として混合された。この懸濁液はEmulsilex C50 高圧ホモジナイザー中で25,000psi の圧力にて、5回の連続的な系通過によって処理された。そして、この乾燥物質はプロパノールを蒸発させることによって回収された。粒子を図3に示す。
【0102】
実施例 2
実施例1で調製された添加物質としてのステアリン酸マグネシムを含む粉末は、乾燥中に、脱集塊の困難な一次粒子の集合を形成することが見出された。この粉末のサンプルを、エタノール、ポリビニルピロリドン(PVPK30)およびHFA227液体推進剤からなる混合物中で、90分間、550rpmの回転速度でボール磨砕によって再分散させ、下記の組成物を得た。
0.6%w/w サルブタモール硫酸塩/ステアリン酸マグネシウム複合粒子
0.2%w/w PVPK30
5.0%w/w エタノール
94.2%w/w HFA227
(PVPは複合粒子のエタノール/HFA227懸濁液を安定化するために含ませた)。
【0103】
懸濁液はpMDIにおけるのと同様に、直接用いることができた。しかしながら、この実施例では、組成物を圧力のかかった缶から直径0.4mmまでの大きさの孔を通じて噴霧し、PVPを有するサルブタモール硫酸塩とステアリン酸マグネシウムの乾燥複合活性粒子を得た。これらの粒子(図4および図5に示す)は集められ、そして試験されて、空気力学的サイズが0.1〜4μmであることが見出された。
【0104】
実施例 3
下記の組成物であることを除いて、実施例2の工程が繰り返された。
3%w/w サルブタモール硫酸塩/ステアリン酸マグネシウム複合粒子
1%w/w PVPK30
3%w/w エタノール
93%w/w HFA227
製造された粒子を図6および図7に示す。
【0105】
実施例 4 サルブタモール硫酸塩とステアリン酸マグネシウムの混合
a)均質化されたステアリン酸マグネシウム
240gのステアリン酸マグネシウム(Riedel de Haen, マルヴェーンレーザー回折粒子径:d50=9.7μm)を2150gのジクロロエタンで懸濁した。次いで、この懸濁液を Silverson 高剪断ミキサーの中で、5分間混合した。 次いで、この懸濁液を熱交換器付のEmulsiflex C50高圧ホモジナイザーの中で、1000psi の圧力で20分間、循環モード(300cm3/分)で20分間処理した。次いで、懸濁液は冷却のため大気圧で20分間循環させられた。翌日、懸濁液は循環モード(260cm3/分)で、20000psiの圧力で、30分間処理された。ジクロロエタンは、回転蒸発とそれに続く37℃一夜の真空乾燥によって除去された。結果として得られた物質の塊は1分間のボール磨砕によって破壊された。均質化されたステアリン酸マグネシウムは2μm未満の粒子径を有していた。
【0106】
b)サルブタモール硫酸塩と2μm未満の粒子径を有する均質化されたステアリン酸マグネシウムとの重量比9:1の混和物が、スパーテルを用いてこれら両物質の混和によって調製された。混和された物質の電子顕微鏡写真は、混和物がほとんど集塊状の粒子の形態であること、および集塊が50μm以上の直径を有することを示した。次いで、混和物はメカノ−フュージョンミル (ホソカワ)の中で、次のように処理された。
機械データ:ホソカワ メカノ−フュージョン: AMS-Mini
推進: 2.2KW
囲い: ステンレス鋼
ローター: ステンレス鋼
スクレイパー:無
冷却: 水
ガスパージ:無
【0107】
メカノ−フュージョン装置(図8参照)は内部壁2を有する円筒形のドラムからなる。使用中、ドラムは高速で回転する。活性粒子と添加物質粒子の粉末3はドラム1の内壁2に対して遠心力で投入される。固定アーム4がドラムの内部から半径方向に突き出ている。壁2に最も近接のアームの端に、内壁の曲率半径よりも小さい曲率半径の弓状の表面6を与える部材5が、内壁に向かって取り付けられている。ドラムが回転すると、ドラムは粉末3を弓状の表面6と内壁2との間の間隙に運び、それによって粉末を圧縮する。間隙は固定の、予め決められた幅Aのものである。スクレイパー(図8には示さず)はドラムの壁から圧縮された粉末をかき集めるために設けられる。
【0108】
全てのサンプルは、機械を1000rpmの回転速度で5分間動かして予め混ぜられた。次いで、その機械の速度を30分間、5050rpmに増加させた。この手順を、サルブタモール硫酸塩とステアリン酸マグネシウムとの重量比率19:1、3:1および1:1について繰り返した。
比率19:1の製造物の電子顕微鏡写真は、図9および図10に示され、かつその製造物は5μm未満の単一の小粒子の形態であるか、もしくは目に見える元のタイプの1個の集塊のみをもつような粒子の非常に緩い集塊であったことが示されている。
【0109】
次いで、3:1および19:1の混和物が、それぞれ20mgカプセルに充填され、ツインステージインピンジャーから噴射された。未処理のサルブタモール硫酸塩のサンプルも、比較品提供のためにTSIから噴射された。
微細粒子フラクションが計算されて、表1に示される。
【0110】
【表1】

【0111】
実施例 5
微細化された グリコピロレート(glycopyrrolate)と均質化されたステアリン酸マグネシウム(実施例4で記載された)は重量比75:25で混合された。次いで、この混合物は(〜20g)下記の如く、メカノ−フュージョンAMS−Miniシステムによって磨砕された。粉末は900rpmまでの回転速度で予め5分間混合された。次いで、機械速度は30分間、4800rpmにまで増加させられた。磨砕処理の間、メカノ−フュージョン機は、要素と槽壁の間の3mmの隙間でもって稼動させられ、冷却水が用いられた。次いで、複合活性粒子の粉末がドラム槽から回収された。
【0112】
実験は同じ手順を用いて繰り返されたが、活性物質と均質化されたステアリン酸マグネシウムは95:5の比率で混合され、4800rpmの回転速度で60分間磨砕された。
この工程は、モデル薬としてのサリチル酸ナトリウムおよび均質化されたステアリン酸マグネシウムを90:10の比率で用いて、同様の方法でもって繰り返された。ここでサリチル酸ナトリウムはBuchi 191噴霧乾燥機から噴霧乾燥によって、おおよそミクロンサイズの球形として製造されたものであった。これらの粒子の球形は被覆工程で有利であると信じられた。磨砕は4800rpmで30分間であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺投与用の医薬組成物に用いるための複合活性粒子の製造方法であって、該方法が、添加物質の粒子が活性物質の粒子の表面に融合するように、活性物質および添加物質の両方の集塊の十分な崩壊、活性物質上への添加物質の分散および分布を確実にするように所定の幅を有する間隙中で活性物質の粒子と添加物質の粒子との混合物を圧縮することを含む磨砕工程を含み、前記添加物質が吸入器の作動時に複合活性粒子の分散の促進に適しており、かつ一つ以上のアミノ酸もしくはその誘導体、ペプチドもしくはその誘導体、またはステアリン酸金属塩もしくはその誘導体を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記の所定の幅を有する間隙が10mm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の所定の幅を有する間隙が5mm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
活性物質上の被覆が平均して1μm未満または0.5μm未満の厚さである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
活性物質粒子のマスメディアン空気力学的粒径(MMAD)が磨砕工程中に実質的に小さくなる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
添加物質粒子のマスメディアン空気力学的粒径(MMAD)が磨砕工程中に実質的に小さくなる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
磨砕工程の後に、複合活性粒子のマスメディアン空気力学的粒径が10μm未満である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
磨砕工程の後に、複合活性粒子の凝集の度合いが変えられる処理工程を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記の処理工程が集塊工程である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記の処理工程が脱集塊工程である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
磨砕工程の後に、液体が添加され、続く乾燥工程により複合活性粒子と液体との混合物が乾燥されて液体が除去される、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記の乾燥工程中に複合活性粒子が凝集して凝集複合活性粒子を形成する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記の乾燥工程が噴霧乾燥工程である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記の乾燥工程が凍結乾燥工程である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
前記のステアリン酸金属塩がステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウムまたはステアリン酸リチウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
各複合活性粒子が、活性物質粒子の表面に滲むかもしくは融合した添加物質粒子を有する活性物質の粒子を含み;複合活性粒子のマスメディアン空気力学的粒径が10μm未満であり;添加物質が一つ以上のアミノ酸もしくはその誘導体、ペプチドもしくはその誘導体、またはステアリン酸金属塩もしくはその誘導体を含み、吸入器の作動時に複合活性粒子の分散の促進に適しており;活性物質粒子表面上の添加物質の被覆の存在が制御もしくは遅延された放出特性を与えるか、または湿気に対する障壁を与える、肺投与用の医薬組成物に用いるための複合活性粒子。
【請求項17】
被覆が不連続的な被覆である、請求項16に記載の複合活性粒子。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれかに記載の方法により得られる複合活性粒子、または請求項16もしくは17に記載の複合活性粒子を含む医薬組成物。
【請求項19】
乾燥粉末であって乾燥粉末吸入器で用いるのに適している、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
推進剤を含み、加圧式定量吸入器で用いるのに適している、請求項18に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−242408(P2009−242408A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136162(P2009−136162)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【分割の表示】特願2002−545674(P2002−545674)の分割
【原出願日】平成13年11月30日(2001.11.30)
【出願人】(502357880)ヴェクトゥラ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】