説明

医薬組成物及び該組成物による遺伝子治療方法

【課題】無菌保証され、患者へ即投与が可能な、非ウイルスベクターを使用した医薬組成物を提供する。
【解決手段】分子中にカチオン性ブロック鎖及び非イオン性ブロック鎖を有する高分子化合物と核酸を親水性溶液中で混合することで得られる医薬組成物であって、前記高分子化合物が、多官能性化合物を核とし該核から複数の高分子鎖が結合していることを特徴とする分子構造を利用したことで、無菌保証された状態で、生体内に直接投与が可能となった。生体内では多臓器で遺伝子の発現が確認され、遺伝子治療用の医薬組成物として有用であることが確認された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子治療など動物の疾病の治療や細胞の形質転換、指標タンパク導入、GFP動物の作成など動物の疾病の診断、予防、治療法研究に使用する医薬組成物と、この医薬組成物を用いた遺伝子治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、幹細胞移植や遺伝子治療研究がますます重要視されている。幹細胞移植の研究では、移植した宿主内における細胞の由来を追跡するためにLacZやGFPなどの遺伝子を導入するマイグレーションが盛んに行われており、簡便に安定して幹細胞へ遺伝子を導入する技術が重要となる。
【0003】
また、遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。
【0004】
一般に細胞への外来DNAの導入のためにはベクターが利用されるが、ベクターとしてはレトロウイルス、アデノウイルス又はヘルペスウイルスなどのウイルスベクターのほかにジオレオイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムなどのカチオン性脂質又はポリエチレンイミンなどの合成高分子からなる非ウイルスベクターが存在する。このうち、現在、遺伝子治療の臨床応用に主として検討されているのはウイルスベクターである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遺伝子治療の臨床研究において、非ウイルスベクターでなく、感染などの副作用の危険性が高く、また実際に死亡事故があったウイルスベクターが現在も主流で検討されている理由としては、ウイルスベクターの遺伝子導入効率が高いことの他に、非ウイルスベクターの経時的安定性の問題が挙げられる。
【0006】
一般に、試験管内で細胞への遺伝子導入のために利用されている非ウイルスベクター、いわゆるトランスフェクション試薬は、遺伝子と混合するだけで遺伝子複合体を形成するものであり、この遺伝子複合体を細胞と接触させることでエンドシトーシス現象により細胞内へ取り込まれ、導入遺伝子が発現されるとされている。非ウイルスベクターには増殖能もなく、感染の危険性もないため、閉じ込め施設などを必要とせずに遺伝子複合体の調製や細胞への遺伝子導入操作が行える利点がある。
【0007】
しかしながら、これら非ウイルスベクターと遺伝子の複合体の安定性は一般に低く、経時性に凝集して失活するという問題があるため、ベクターと細胞とを接触させる直前遺伝子複合体を調製することが原則となる。
【0008】
その一方、ベクターを生体へ投与する医薬組成物として使用する場合には、投与しようとする遺伝子複合体は無菌状態であることが必須であるか又は望ましく、遺伝子複合体の調製を無菌的に行うことは勿論、無菌保証を行うことが望ましい。無菌保証とは、医薬組成物が生体に使用される時点で該組成物が無菌であることを保証するもので、日本薬局方で規定されている無菌試験、発熱性物質試験などの基準を満足させることで行えるが、これら試験は判定結果を得るのに約2週間の時間が必要であり、生体へ無菌保証された医薬組成物を投与するには、医薬組成物の経時的安定性が最低でも2週間以上必要ということになる。また、ベクターと遺伝子の混合を臨床の場で行うことは、菌や異物などのコンタミネーションの危険性があるし、投与量(ドーズ数)に誤差が生じる危険性もある。
【0009】
本発明は、無菌保証された状態で医療施設やバイオ研究施設へデリバリーが可能で、臨床の場において患者へ即投与が可能で、遺伝子治療や疾病の診断、予防、治療法研究に使用可能な医薬組成物と、この医薬組成物を用いた遺伝子治療方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の医薬組成物は、分子中にカチオン性ブロック鎖及び非イオン性ブロック鎖を有する高分子化合物と核酸を水溶液中で混合することで得られる医薬組成物であって、前記高分子化合物が、多官能性化合物を核とし該核から複数の高分子鎖が結合していることを特徴とする。
【0011】
請求項2の医薬組成物は、請求項1の医薬組成物をさらに凍結乾燥させたことを特徴とする。
【0012】
請求項3の医薬組成物は、請求項1または2において、多官能性化合物が芳香族環を有するものであることを特徴とする。
【0013】
請求項4の医薬組成物は、請求項3において、芳香族環がベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ビフェニル、ビフェニレン、フラン、ピリジン、チオフェン、ピロール、ピロリドン及びジフェニルエーテルからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項5の医薬組成物は、請求項1ないし4のいずれか1項において、カチオン性ポリマー鎖が、アミノアルキルアクリルアミド、アミノアルキルメタ(ア)クリレート、アミノスチレン、モノアルキルアミノアルキルアクリルアミド、モノアルキルアミノアルキルメタ(ア)クリレート、モノアルキルアミノスチレン、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ジアルキルアミノアルキルメタ(ア)クリレート及びジアルキルアミノスチレンからなる群から選択される1種又は2種以上の重合体であることを特徴とする。
【0015】
請求項6の医薬組成物は、請求項1ないし5のいずれか1項において、非イオン性ポリマー鎖が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、酢酸ビニル鹸化物、グリシドール開環付加体、アクリルアミド、モノアルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、ヒドロキシアルキルメタ(ア)クリレート及びアルコキシアルキルメタ(ア)クリレートからなる群から選択される1種又は2種以上の重合体であることを特徴とする。
【0016】
請求項7の医薬組成物は、請求項1ないし6のいずれか1項において、カチオン性ポリマー鎖の分子量が5000〜100,000で、非イオン性ポリマー鎖の分子量が5000〜100,000であることを特徴とする。
【0017】
請求項8の医薬組成物は、請求項1ないし7のいずれか1項において、核酸がVEGF遺伝子、HGF遺伝子、FGF遺伝子、EGF遺伝子、c−mycアンチセンス、c−mybアンチセンス、cdc2キナーゼアンチセンス、PCNAアンチセンス、E2Fデコイ、p21(sdi−1)遺伝子、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子)、リナマラーゼ遺伝子、p53癌抑制遺伝子、アポプチン遺伝子、BRCA1癌抑制遺伝子、TNF−α遺伝子、IL−1β遺伝子、IL−2遺伝子、IL−4遺伝子、HLA−B7/IL−2遺伝子、HLA−B7/B2M遺伝子、IL−7遺伝子、GM−CSF遺伝子、IFN−γ遺伝子、IL−12遺伝子、bcl2遺伝子、gp−100癌抗原ペプチド遺伝子、MART−1癌抗原ペプチド遺伝子、MAGE−1癌抗原ペプチド遺伝子、ジフテリア毒素遺伝子、ボツリヌス毒素遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、GFP遺伝子、RFP遺伝子及びルシフェラーゼ遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0018】
請求項9の医薬組成物は、請求項1ないし8のいずれか1項において、水溶液がpH5.2〜pH8.5の範囲の緩衝溶液であることを特徴とする。
【0019】
請求項10の医薬組成物は、請求項9において、緩衝溶液が乳酸バッファー、リン酸バッファー、重炭酸バッファー、Trisバッファー、グッドバッファー、及びHEPESからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0020】
請求項11の医薬組成物は、請求項1ないし10のいずれか1項において、親水性溶液中での高分子化合物の終濃度が0.001〜50,000μg/mLであり、核酸の終濃度が0.001〜50,000μg/mLであることを特徴とする。
【0021】
本発明(請求項12)の遺伝子治療方法は、請求項1ないし11のいずれか1項の医薬組成物を生体内へ投与することを特徴とする。
【0022】
請求項13の遺伝子治療方法は、請求項12において、生体内投与が経口、血管内、筋肉、皮下、腹腔、脈管内、粘膜、骨髄、歯髄、肺胞、鼻腔、口腔又は表皮へ投与するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、非ウイルスベクターと遺伝子の複合体で、無菌保証された状態で生体へ投与可能な医薬組成物と、これを用いた遺伝子治療方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の医薬組成物及び該組成物による遺伝子治療方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明の医薬組成物の第一の形態は、分子中にカチオン性ブロック鎖及び非イオン性ブロック鎖を有する高分子化合物と核酸を親水性溶液中で混合することで得られる医薬組成物であって、前記高分子化合物が、多官能性化合物を核とし該核から複数の高分子鎖が結合していることを特徴とする医薬組成物である。
【0026】
分子中にカチオン性ブロック鎖及び非イオン性ブロック鎖を有する高分子化合物は、多官能性化合物を核として複数の高分子鎖が伸延する構造を有するものであり、一般に当業者にはスターポリマーと呼ばれている。このような高分子化合物は電荷バランスとしてはカチオン性であるため、アニオン性の核酸と親水性溶液中で混合することで遺伝子複合体が形成される。本発明はこの遺伝子複合体を薬効物質とする医薬組成物である。
【0027】
核から伸延する、カチオン性ブロックと非イオン性ブロックを有する高分子鎖は、ランダムポリマーでもブロックポリマーのいずれでも良いが、好ましい配置は、カチオン性ブロックを核近傍の内側に、非イオン性ブロックをカチオン性ブロックの先端から、接ぎ木するように外側に配置した分子構造である。
【0028】
このような配置にすることにより、形成される遺伝子複合体の安定性も増加し、生体内へ投与した際に遺伝子複合体が凝集するのを抑制したり、陽電荷刺激による血液凝固因子の活性化を抑制する効果が期待できる。
【0029】
カチオン性ブロックとしては、アミノアルキルアクリルアミド、アミノアルキルメタ(ア)クリレート、アミノスチレン、モノアルキルアミノアルキルアクリルアミド、モノアルキルアミノアルキルメタ(ア)クリレート、モノアルキルアミノスチレン、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ジアルキルアミノアルキルメタ(ア)クリレート及びジアルキルアミノスチレンからなる群から選択される1種又は2種以上のポリマー鎖が使用可能であり、非イオン性ブロックとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、酢酸ビニル鹸化物、グリシドール開環付加体、アクリルアミド、モノアルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、ヒドロキシアルキルメタ(ア)クリレート及びアルコキシアルキルメタ(ア)クリレートからなる群から選択される1種又は2種以上の重合体が使用可能であるが、これらはいずれも当業者に周知のものであり、本発明のブロック鎖の種類も何らこの例示された範囲に限定されるものではない。
【0030】
カチオン性ポリマー鎖の分子量が5,000〜100,000で、非イオン性ポリマー鎖の分子量が5,000〜100,000であると遺伝子複合体の安定性が高く、遺伝子導入効率も高いため好ましい。
【0031】
核とする多官能性化合物としては、芳香族環を有するものが好適であり、具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ビフェニル、ビフェニレン、フラン、ピリジン、チオフェン、ピロール、ピロリドン及びジフェニルエーテルからなる郡から選択される1種又は2種以上が使用可能である。
【0032】
本発明の医薬組成物に使用する核酸の好ましい例としては、VEGF遺伝子、HGF遺伝子、FGF遺伝子、EGF遺伝子、c−mycアンチセンス、c−mybアンチセンス、cdc2キナーゼアンチセンス、PCNAアンチセンス、E2Fデコイ、p21(sdi−1)遺伝子、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子)、リナマラーゼ遺伝子、p53癌抑制遺伝子、アポプチン遺伝子、BRCA1癌抑制遺伝子、TNF−α遺伝子、IL−1β遺伝子、IL−2遺伝子、IL−4遺伝子、HLA−B7/IL−2遺伝子、HLA−B7/B2M遺伝子、IL−7遺伝子、GM−CSF遺伝子、IFN−γ遺伝子、IL−12遺伝子、bcl2遺伝子、gp−100癌抗原ペプチド遺伝子、MART−1癌抗原ペプチド遺伝子、MAGE−1癌抗原ペプチド遺伝子、ジフテリア毒素遺伝子、ボツリヌス毒素遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、GFP遺伝子、RFP遺伝子、及びルシフェラーゼ遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上が例示可能であるが、遺伝子治療や疾病の診断、予防、治療法研究に利用できるものであればこの限りではない。また、ここでいう遺伝子治療とは、腫瘍細胞へ作用するTNFαを腫瘍部位へ発現させるような直接的なものだけでなく、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子を導入して抗ウイルス剤ガンシクロビルの効果により前立腺ガンを治療する方法のように間接的に効果を狙うものも包含されることは当業者には周知のことである。
【0033】
また、使用する核酸は、単にペプチドやタンパクをコードするものでなく、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いることが好ましい。例えばDNAの場合、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されていることが好ましい。また、所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0034】
本発明において、高分子化合物と核酸とを混合する際に使用する水溶液としては、緩衝溶液が好ましく、該緩衝溶液のpHとしては、核酸及び高分子化合物の電荷状態を複合体が形成しやすい状態とし、得られた複合体を血中に投与することを考慮すれば5.2〜8.5の範囲が好ましく、このような緩衝溶液としては乳酸バッファー、リン酸バッファー、重炭酸バッファー、Trisバッファー、グッドバッファー、HEPESなどが例示されるが、Trisバッファーが好ましい。さらに、医薬組成物の浸透圧は、症例、投与部位、患者の状態、遺伝子の種類などを考慮して、当業者によって適宜設定されれば良いが、生理的に等張であることが好ましく、遺伝子の種類や高分子化合物の分子量などに応じて適宜低級アルコールなどを添加することで遺伝子複合体の経時的安定性をより高めることが可能な場合がある。本発明でいう親水性溶液とは、これら低級アルコール以外にも親水性有機化合物を添加できることを意味する。
【0035】
遺伝子と高分子化合物の終濃度は、そのまま投与量、すなわちドーズ数となるため、症例、治療方針、患者状態、体重などを考慮して当業者によって適宜選択されば良いが、典型的には、親水性溶液中での高分子の終濃度は0.001〜50,000μg/mLであり、核酸の終濃度は0.001〜50,000μg/mLの範囲である。また、遺伝子と高分子化合物の混合比は、高分子化合物のカチオン性官能基の数と遺伝子のアニオン性官能基の数から計算して決定される、当業者に周知のC/A比で、0.01〜1,000.0の範囲が好適に使用可能である。
【0036】
本発明の医薬組成物は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍及び乳癌等などの悪性新生物、エイズ、C型肝炎、B型肝炎及び日本住血吸虫等の感染症、ADA欠損症、嚢胞性線維症、α1−アンチトリプシン欠損症及びGaucher病などの単一遺伝病、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の血管病変による循環器疾患、糖尿病による四肢末端組織の壊死、bcl2遺伝子による損傷神経細胞の再生などが挙げられるが、この限りではない。
【0037】
本発明の医薬組成物の投与方法としては、血管内、筋肉、皮下、腹腔、脈管内、粘膜、骨髄、歯髄、肺胞、鼻腔、口腔、舌下又は表皮へ注射器、血管内カテーテルを利用した注入したり輸液へ混注することや方法や、内視鏡、貼付基材などを使用して注入噴霧や塗布により投与する方法を例示できる。
【0038】
本発明の医薬組成物が親水性溶液の形態である場合は、汎用の注射液のようにプラスチックやガラス製のアンプル管へ無菌的に充填された状態で医療施設にデリバリーが可能である。
【0039】
本発明の第二の実施形態は、上記した親水性溶液である医薬組成物をさらに凍結乾燥させたことを特徴とする。である。汎用の注射用粉末薬剤のようにベッドサイドやナースステーションにて生理食塩水などに溶解して投与することや、凍結乾燥したものを種々の賦形剤と混合して、粉末、錠剤、カプセルとして経口投与する方法や、l−メントールなどと配合して貼付材とし、経皮吸収させる疣、魚の目、ホクロ、火傷跡などの表皮の遺伝子治療用医薬組成物として使用可能である。
【実施例】
【0040】
実施例1(核の合成)
N,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物(関東化学、特級試薬)6.0グラムをエタノール50mLへ溶解し溶液へ攪拌下で1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼン1.0グラムを加えて分散懸濁させた。遮光下、室温下で5日間攪拌を継続し、濾過して沈殿物を回収した。沈殿物をメタノール中へ分散させて攪拌し、濾過することを繰り返して洗浄し、上澄から臭素が確認されなくなるまで洗浄した。減圧下でメタノールを除去して得た粉末をクロロホルムで再結晶して白色固体の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを得た。収率は約80%であった。
【0041】
H−NMR(300MHz、CDCL3)は、σ7.48ppm(s、2H、Ar−)、σ4.57ppm(s、8H、Ar−CS)、σ4.06ppm〜3.99ppm(q、8H、N−C−)、σ3.75ppm〜3.69ppm(q、8H、N−C−)、σ1.30ppm(t、24H、−CH−C)と帰属された。
【0042】
実施例2(分子中にカチオン性ブロック鎖を有する高分子化合物の合成)
1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン18mgを400μLのクロロホルムへ溶解し、1.1グラムのジメチルアミノプロピルアクリルアミドを混合し、メタノールで全量を20mLとした。高純度窒素ガスでバブリングを行って溶存酸素を除去し、攪拌、窒素ガスバブリングを継続しながら低圧水銀ランプにて照度約1mW/cm〜3mW/cmの紫外線照射を30分間行った。生成した反応溶液をエバポレーターで濃縮し、残渣を400mLのジエチルエーテル中へ滴下して反応生成物を析出させた。溶液をデカンテーションにて除去し、オイル状の生成物を得た。オイル状物質を水に溶解し、0.2μmフィルターで濾過した後に凍結乾燥して白色固体を得た。
【0043】
H−NMR(300MHz、DO)は、σ7.78〜7.40ppm(br、1H、−N−)、σ3.40〜3.00ppm(br、2H、NH−C−)、σ2.40〜2.20ppm(br、2H、−C−N(CH)、σ2.04ppm(br、6H、N(C)、σ1.80〜1.52ppm(br、2H、−CH−C−CH−)と帰属された。分子量は、GPC(カラム:Tosoh TSKgelα3000+TSKgelα5000の連結、移動相:30mM臭化リチウムを含むDMF、流速:0.5mL/分、カラム温度:40℃)にて約50,000(Mn)と測定された。
【0044】
実施例3(分子中にカチオン性ブロック鎖及び非イオン性ブロック鎖を有する高分子化合物の合成)
実施例2で合成したポリ(3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)鎖を有するポリマー63mgをN,N−ジメチルアクリルアミド250mgへ溶解し、メタノールで希釈して全量を20mLとした。高純度窒素ガスでバブリングを行って溶存酸素を除去し、攪拌、窒素ガスバブリングを継続しながら低圧水銀ランプにて照度約1mW/cm〜3mW/cmの紫外線照射を30分間行った。生成した反応溶液をエバポレーターで濃縮し、残渣を400mLのジエチルエーテル中へ滴下して反応生成物を析出させた。溶液をデカンテーションにて除去し、オイル状の生成物を得た。オイル状物質を水に溶解し、0.2μmフィルターで濾過した後に凍結乾燥して白色固体を得た。
【0045】
H−NMR(300MHz、DO)は、σ3.00ppm(br、2H、−NH−C−)、σ2.91〜2.79ppm(br、6H、−CO−N(C)、σ2.25ppm(br、2H、−C−N(CH)、σ2.10ppm(br、6H、−CH−N−(C)、σ1.56ppm(br、2H、−CH−C−CH−)と帰属された。分子量は約80,000(Mn)と測定された。
【0046】
実施例4(医薬組成物の調製)
実施例3で合成した分子中にカチオン性ブロック鎖及び非イオン性ブロック鎖を有する高分子化合物を10mMトリス・HCLバッファー(pH=7.4)へ溶解し、1.2mg/mLの溶液を調製した。同様にしてLacZ遺伝子を10mMトリス・HCLバッファー(pH=7.4)へ溶解し、5μg/mLの溶液を調製した。室温下で、これらLacZ遺伝子溶液5μLと高分子化合物5mLを混合し、10分間静置した後に0.2μmフィルターで濾過した。これをガラス製アンプル管へ充填し、常法により封管して本発明の医薬組成物を得た。
【0047】
続いて、日本薬局方一般試験法に記載されている無菌試験方法の直接法に準拠して試験を行った。培地にはソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地を使用し、培地の性能試験はBacillus subtilis(ATCC6633株)を用いて行った。無菌試験より、ガラス製アンプル管へ充填された本発明の医薬組成物は、調製から17日後に無菌状態であることが確認された。LAL法、ウサギによる発熱性物質試験も陰性であった。
【0048】
実施例5(遺伝子導入実験)
実施例4で調製し、室温下で17日間保存された発明の医薬組成物をマウス頚部静脈から投与し、飼育をした。飼料はオリエンタル酵母社製CR−LPFで、水は自由給水をした。ドーズ数は、遺伝子換算でマウス1匹あたりに25μgであり、遺伝子はLacZ又はGFPを使用した。いずれの遺伝子を投与した群でも、注入から92時間後に犠牲死させ、脾臓、腎臓、肺、肝臓を摘出してマクロ所見及び、組織の蛍光顕微鏡による観察を行った。結果、脾臓、腎臓、肺、肝臓でLacZに由来する着色が確認された(図1、図2、図3及び図4参照)。また、蛍光顕微鏡による観察では、脾臓、腎臓、肺、肝臓でGFPに由来する蛍光が確認された(図5及び図6参照)。
【0049】
以上より、本発明の医薬組成物を投与することで、多臓器において遺伝子が発現され、遺伝子治療が行えることが確認された。
【0050】
比較例(従来の非ウイルスベクターの遺伝子治療への応用)
実施例と同様にして、ベクターにポリエチレンイミン系の合成高分子(Fermentas社、ExGen500)を使用してLacZ遺伝子複合体を調製し、0.2μmフィルターで濾過を行ってからガラス製アンプル管へ充填して封管し、室温で17日間保存した。実施例4の記載と同様に無菌試験、発熱性物質試験を行った結果、無菌状態、エンドトキシンフリーであることが確認された。しかしながら、ガラス管の底面に白色の沈殿物が確認され、遺伝子複合体が凝集していることが確認された。これを振盪攪拌して白色沈殿物を分散させてからマウス頚部静脈へ投与すると、投与した血管内で即時に血栓が発生し、血管梗塞を惹起した。血管梗塞によりマウスが死亡したため、臓器での遺伝子発現性は評価できなかったため、遺伝子発現性は以下のようにインビトロで確認した。フィブロネクチンをコーティングした24WellプレートへCOS−1細胞を播種し、培地を加えて24時間培養した。播種密度は約6×104EA/Wellであった。ここにポリエチレンイミン系の合成ベクターで調製した遺伝子複合体を添加し、追加培養3日目にGFP発現を測定したが、GFP由来の蛍光はまったく観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】頚静脈投与92時間後に犠牲死させたマウスの脾臓の外観写真である。
【図2】頚静脈投与92時間後に犠牲死させたマウスの腎臓の外観写真である。
【図3】頚静脈投与92時間後に犠牲死させたマウスの肺の外観写真である。
【図4】頚静脈投与92時間後に犠牲死させたマウスの肝臓の外観写真である。
【図5】頚静脈投与92時間後に犠牲死させたマウスの腎臓の組織蛍光顕微鏡写真である。
【図6】頚静脈投与92時間後に犠牲死させたマウスの肝臓の組織蛍光顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にカチオン性ブロック鎖及び非イオン性ブロック鎖を有する高分子化合物と核酸を水溶液中で混合することで得られる医薬組成物であって、前記高分子化合物が、多官能性化合物を核とし該核から複数の高分子鎖が結合していることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
請求項1の医薬組成物をさらに凍結乾燥させたことを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
請求項1または2において、多官能性化合物が芳香族環を有するものである医薬組成物。
【請求項4】
請求項3において、芳香族環がベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ビフェニル、ビフェニレン、フラン、ピリジン、チオフェン、ピロール、ピロリドン及びジフェニルエーテルからなる群から選択される1種又は2種以上である医薬組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、カチオン性ポリマー鎖が、アミノアルキルアクリルアミド、アミノアルキルメタ(ア)クリレート、アミノスチレン、モノアルキルアミノアルキルアクリルアミド、モノアルキルアミノアルキルメタ(ア)クリレート、モノアルキルアミノスチレン、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ジアルキルアミノアルキルメタ(ア)クリレート及びジアルキルアミノスチレンからなる群から選択される1種又は2種以上の重合体である医薬組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、非イオン性ポリマー鎖が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、酢酸ビニル鹸化物、グリシドール開環付加体、アクリルアミド、モノアルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、ヒドロキシアルキルメタ(ア)クリレート及びアルコキシアルキルメタ(ア)クリレートからなる群から選択される1種又は2種以上の重合体である医薬組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、カチオン性ポリマー鎖の分子量が5000〜100,000で、非イオン性ポリマー鎖の分子量が5000〜100,000であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、核酸がVEGF遺伝子、HGF遺伝子、FGF遺伝子、EGF遺伝子、c−mycアンチセンス、c−mybアンチセンス、cdc2キナーゼアンチセンス、PCNAアンチセンス、E2Fデコイ、p21(sdi−1)遺伝子、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子)、リナマラーゼ遺伝子、p53癌抑制遺伝子、アポプチン遺伝子、BRCA1癌抑制遺伝子、TNF−α遺伝子、IL−1β遺伝子、IL−2遺伝子、IL−4遺伝子、HLA−B7/IL−2遺伝子、HLA−B7/B2M遺伝子、IL−7遺伝子、GM−CSF遺伝子、IFN−γ遺伝子、IL−12遺伝子、bcl2遺伝子、gp−100癌抗原ペプチド遺伝子、MART−1癌抗原ペプチド遺伝子、MAGE−1癌抗原ペプチド遺伝子、ジフテリア毒素遺伝子、ボツリヌス毒素遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、GFP遺伝子、RFP遺伝子及びルシフェラーゼ遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上である医薬組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、水溶液がpH5.2〜pH8.5の範囲の緩衝溶液である医薬組成物。
【請求項10】
請求項9において、緩衝溶液が乳酸バッファー、リン酸バッファー、重炭酸バッファー、Trisバッファー、グッドバッファー、及びHEPESからなる群から選択される1種又は2種以上である医薬組成物。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、親水性溶液中での高分子化合物の終濃度が0.001〜50,000μg/mLであり、核酸の終濃度が0.001〜50,000μg/mLであることを特徴とする医薬組成物。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項の医薬組成物を生体内へ投与する遺伝子治療方法。
【請求項13】
請求項12において、生体内投与が経口、血管内、筋肉、皮下、腹腔、脈管内、粘膜、骨髄、歯髄、肺胞、鼻腔、口腔又は表皮へ投与するものである遺伝子治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−131591(P2006−131591A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325236(P2004−325236)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】