説明

医薬組成物

【課題】バイオアベイラビリティーが優れた、多剤耐性症候群の処置に有用な製剤を提供すること。
【解決手段】有効成分としてサイクロスポリン、ラパマイシンまたはアスコマイシンまたはその誘導体を含有するエマルション組成物の調製法であって、かかる方法は、
a)有効成分
b)リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、ジアシルホスファチジルグリセロール、卵−ホスファチジルグリセロール、大豆−ホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジルグリセロール、またはその塩;または飽和、モノ−またはジ−不飽和(C12−24)脂肪酸またはその塩から選択される安定化剤、および
c)有機溶媒
(ただし、有効成分と安定化剤との重量比は400:1ないし0.5:1である)を含有する濃縮液をプラセボ脂肪エマルションに混合する段階を含む。
本発明は、また、上記の方法を用いて調製した例えば静脈内投与用の既使用型エマルションを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多剤耐性症候群の処置に有用なサイクロスポリン(cyclosporin)、サイクロスポリン誘導体、あるいはラパマイシンまたはアスコマイシンなどのマクロライドを有効成分として含有する医薬組成物に関する。特に、本発明は[3'−デスオキシ−3'−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリン(ciclosporin)(PSC833)を有効成分として含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞の化学療法剤に対する耐性が、化学療法が失敗に終わる主な原因である。化学療法剤に対する耐性の形態の1つに「多剤耐性」があり、これは、腫瘍細胞が、例えばアルカロイド、アントラサイクリン、アクチノマイシンD、アドリアマイシンおよびコルヒチンなどの種々の化学療法剤に交差耐性を示すようになるものである。数多くの報告書によると、多剤耐性症候群はP−糖蛋白質(Pgp)と呼ばれる膜貫通糖蛋白質の過剰発現と関連している。サイクロスポリン類は多剤耐性症候群を回復し、特に[3'−デスオキシ−3'−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンが効果的であることが判明した。[3'−デスオキシ−3'−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンおよびその有用性が欧州特許公開第296122号に記載されている。
【0003】
かかるサイクロスポリン類は、構造的に特有で環状のポリ−N−メチル化ウンデカペプチド類を包含し、一般的に薬理学的、特に免疫抑制、抗炎症および/または抗寄生虫活性の各々を多かれ少なかれ有する。サイクロスポリン類は一般的に水性媒体には容易に溶けない。それゆえに、容易に使用できるように十分な高濃度で医薬を輸送可能で、医薬を体に効率的かつ定常的に吸収させ得る医薬的に許容されるキャリヤーを開発することは難しい。しばしば、個々のサイクロスポリン類は、投与、特にガレヌス製剤での投与に関連する非常に特殊な問題を引き起こす。種特異性の問題も、薬物バイオアベイラビリティーに関連して生じてくる。これは特に[3'−デスオキシ−3'−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリン化合物において事実であり、ガレヌス製剤におけるその取り込みに関連した非常に特殊な問題を引き起こす。
【0004】
サイクロスポリン類の製剤化における一般的な問題を処理するために、英国特許出願第2222770A号では、マイクロエマルション形またはマイクロエマルション前濃縮形のサイクロスポリン類を含有するガレヌス製剤が開示されている。かかる製剤は親水性相、親油性相および界面活性剤から構成される。親水性相に適当なものとして以下の成分が記載されている:トランスクトール、グリコフロールおよび1,2−プロピレングリコール。親油性相に適当なものとして中鎖脂肪酸トリグリセリドが開示されている。天然または硬化植物油およびエチレングリコールの反応生成物が界面活性剤として記載されている。しかし、この英国特許出願は、他の大部分のサイクロスポリン類よりもはるかに親油性である[3'−デスオキシ−3'−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンの製剤化に関する問題は扱っていない。PCT出願公開番号WO93/20833では、[3'−デスオキシ−3'−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンの界面活性剤含有組成物(クレモホアが好ましい界面活性剤である)が開示されている。平成3年特許願第147892号は、注射用サイクロスポリン、例えばサイクロスポリンA、CまたはD、精製ダイズ油および乳化剤を含む注射用油状エマルションを記載する。非イオン性界面活性剤、例えばヒマシ油のポリオキシアルキレン誘導体が存在し得る。
【0005】
ラパマイシンは、例えばStreptomyces hygroscopicusにより産生され得る免疫抑制性ラクタムマクロライドである。ラパマイシンの構造はKesseler,H.,et al.;1993;Helv.Chim.Acta76:117に示されている。ラパマイシンは極めて強力な免疫抑制剤であり、抗腫瘍および抗真菌活性も有することが示されている。しかしながら、医薬品としての有用性は、バイオアベイラビリティーが非常に低くかつ変動することから限定される。さらに、ラパマイシンは水などの水性媒体には非常に溶けにくいため、安定なガレヌス組成物を製剤化することは難しい。非常に多数のラパマイシン誘導体が公知である。ある16−O−置換ラパマイシン類がWO94/02136に記載されており、その内容を本明細書に参照して取り込む。40−O−置換ラパマイシン類は、例えば、US5 258 389およびWO94/09010(O−アリールおよびO−アルキルラパマイシン類);WO92/05179(カルボン酸エステル)、US5 118 677(アミドエステル)、US5 118 678(カルバメート)、US5 100 883(フッ化エステル)、US5 151 413(アセタール)、US5 120 842(シリルエーテル)、WO93/11130(メチレンラパマイシンおよび誘導体)、WO94/02136(メトキシ誘導体)、WO94/02385およびWO95/14023(アルケニル誘導体)に記載されており、その全てを本明細書に参照して取り込む。32−O−ジヒドロまたは置換ラパマイシンが、例えばUS5 256 790に記載されており、これを本明細書に参照して取り込む。
【0006】
さらに別のラパマイシン誘導体がPCT出願EP96/02441号に記載されており、例えば32−デオキソラパマイシンは実施例1に、16−ペント−2−イニルオキシ−32(S)−ジヒドロラパマイシンは実施例2および3に記載されている。PCT出願EP96/02441号の内容を本明細書に参照して取り込む。
【0007】
本発明の組成物に使用するラパマイシンは、上記、または上記の特許出願に開示したように、ラパマイシンまたはその誘導体であり得る。
【0008】
従って、本発明の組成物で使用するラパマイシンは、ラパマイシンまたはO−置換誘導体[ただし、ラパマイシンのシクロヘキシル環のヒドロキシル基は−OR(ここで、Rはヒドロキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、アシルアミノアルキルおよびアミノアルキルである)で置換されている];例えば、WO94/09010に記載されているように、例えば40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシンおよび40−O−(2−アセトアミノエチル)−ラパマイシンであり得る。ラパマイシン誘導体は26−または28−置換誘導体であってもよい。
【0009】
本発明の組成物に使用するに好ましいラパマイシン類は、ラパマイシン、40−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシン、32−デオキソラパマイシンおよび16−ペント−2−イニルオキシ−32(S)−ジヒドロラパマイシンを包含する。より好ましいラパマイシンは、40−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシンである。本明細書で使用したラパマイシン誘導体のナンバリングは、公開PCT出願WO96/13273の4ページの式Aに開示した構造に関してのものであり、その内容を本明細書に参照して取り込む。
【0010】
FK−506およびアスコマイシンが最もよく知られているアスコマイシン類は、さらに別のラクタムマクロライド類からなり、その多くが強力な免疫抑制および抗炎症活性を有する。FK506はStreptomyces tsukubaensisNo.9993により産生されるラクタムマクロライド系免疫抑制剤である。FK506の構造は、メルク・インデックス、11版(1989)の補遺のA5アイテムに示されている。アスコマイシンは、例えば米国特許第3,244,592号に記載されている。EP427 680に記載の33−エピ−クロロ−デスオキシ−アスコマイシンなどのハロゲン化誘導体を含めた数多くのアスコマイシンおよびFK506の誘導体が合成されている。アスコマイシン、FK−506およびその構造類似体および誘導体をまとめて「アスコマイシン類」とよぶ。
【0011】
アスコマイシンまたはFK506系の化合物の例は、上記したものである。それらには、例えばFK506、アスコマイシンおよび他の天然に存在する化合物が包含される。それらにはまた合成類似体も包含される。
【0012】
本発明の有効成分として使用するために好ましいFK506系の化合物はEP427 680、例えば実施例66aに開示されており、33−エピ−クロロ−33−デスオキシ−アスコマイシンとしても知られている。他の好ましい化合物はEP465 426およびEP569 337に記載されており、例えばEP569 337の実施例6dおよび実施例7lに開示された化合物である。他の好ましい化合物には、EP626 385に開示されたテトラヒドロピラン誘導体、例えばEP626 385の実施例8に開示された化合物が包含される。
【発明の開示】
【0013】
今回、驚くべきことに、良好なバイオアベイラビリティー特性をもつ[3'−デスオキシ−3'−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンを含有する安定な製剤を得ることができることが判明した。
【0014】
従って、1つの態様において、本発明は、医薬化合物および安定化剤の溶液をプラセボ脂肪エマルションと混合して調製した、静脈内または経口投与可能な医薬化合物含有医薬脂肪水中エマルションを提供するものであって、かかるエマルションは孔直径0.2μmのヌクレポア(Nuclepore)(登録商標)フィルターを通して2日間まで濾過残渣を残さずに濾過可能であり、その脂肪液滴は医薬化合物であるサイクロスポリンを脂肪重量に対して0.1〜20重量%含有し、直径は500nmまでである。
【0015】
別の態様において、本発明は、有効成分としてサイクロスポリン、ラパマイシンまたはアスコマイシンまたはその誘導体を含有するエマルション組成物の調製法を提供するものであって、かかる方法は、
a)有効成分
b)リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、ジアシルホスファチジルグリセロール、卵−ホスファチジルグリセロール、大豆−ホスファチジルグリセロール、ジアシル−ホスファチジルグリセロール、またはその塩;または飽和、モノ−またはジ−不飽和(C12−24)脂肪酸またはその塩から選択される安定化剤、および
c)有機溶媒
(ただし、有効成分と安定化剤の重量比は400:1ないし0.5:1である)
を含有する濃縮液をプラセボ脂肪エマルションに混合する段階を含む。
【0016】
混合は、濃縮液をプラセボ脂肪エマルションに注入することで簡単に行い得る。 かかる組成物は驚くべきほどに高いバイオアベイラビリティーを示し、従って、例えば[3'−デスオキシ−3'−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンなどの有効成分の輸送に必要とされる投与量を減らすことができる。かかる組成物はまた使用が簡便で、[3'−デスオキシ−3'−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンを効率的かつ定常的に体に吸収させることができる。かかる組成物は、例えば化学療法を受けている癌患者の多剤耐性症候群の処置に特に効果的である。
【0017】
平均脂肪液滴サイズは約250nmないし500nmである。例えば直径>200nmのサイズの固体物質、例えば非溶解医薬化合物(有効成分)は、フィルター孔で集められ、保持される。しかし、脂肪液滴は柔軟性であり、フィルター孔を通過する。本発明の脂肪エマルション組成物の液滴の平均直径は、実質的に、プラセボエマルションの液滴直径に近似している。「ヌクレオポア」フィルターは市販されている高品質のフィルターの一例である。
【0018】
「プラセボ脂肪エマルション」なる用語は、有効成分を含有しない脂肪エマルションを意味すると理解される。プラセボ脂肪エマルションは既知方法で製造でき、およびまた例えばイントラリピッド(Intralipid)またはリポフンディン(Lipofundin)の登録商標で市販されている。
【0019】
「医薬エマルション」は、本明細書中で、個々の成分または物質がそれ自体医薬的に許容され、また、特定の投与形を想定する場合には、その投与形に適当または許容される組成物と理解される。
【0020】
エマルションは、1〜30、好ましくは8〜20、特に10〜20および殊に10〜16重量%の脂肪を含有する。脂肪液滴の直径は好ましくは300nm(=0.3μm)までである。
【0021】
特に臓器移植直後または化学療法との併用では経口投与は不可能であることから、経口投与に加えて、サイクロスポリンまたはマクロライドの静脈内投与が特に関心を集めている。
【0022】
サイクロスポリンは水性媒体に不溶性であるので、静脈内投与できるように典型的にはアルコールとポリ(オキシエチレン)−40−ヒマシ油との混合物に溶解し、使用直前に生理食塩水またはグルコース溶液で希釈し、徐々に点滴する。
【0023】
かかる理由からサイクロスポリンAの静脈内投与形は、アルコールおよびポリ(オキシエチレン)−40−ヒマシ油を含む濃縮液(サンディミュン(Sandimmune)(登録商標)−点滴液−濃縮液)としてのみ使用できるが、これは理想的な添加剤ではない。注射および点滴溶液中のポリ(オキシエチレン)−40−ヒマシ油は、特にアレルギー症状の人、または直前に注射または点滴で同添加剤を含有する同等な組成物を投与された人に過敏性反応を引き起こす可能性がある。過敏性反応は血圧下降、血液循環障害または酸素不足を含み得る。長期の使用では、リポ蛋白質状態の病的変化を伴なう血中脂肪値の上昇、血液流動性変性および凝集性向亢進が起こる可能性がある。ポリ(オキシエチレン)−40−ヒマシ油、例えばクレモホア(Cremophor)(登録商標)ELといった非イオン性乳化剤は天然油ではないが、それにもかかわらず水溶性である。
【0024】
上記の理由から、ポリ(オキシエチレン)−40−ヒマシ油を含有せず、治療効果を得るに十分な量で、患者が耐用でき、上記の副作用を伴なわない、サイクロスポリンなどの有効成分を含有するサイクロスポリン含有注射または点滴溶液を利用可能にすることが最も重要である。
【0025】
本発明により、天然の添加剤を含有する静脈内投与可能な混合物中でサイクロスポリンまたはマクロライドが治療効力を発揮する濃度で存在するような、サイクロスポリンまたはマクロライド含有注射または点滴溶液が提供される。
【0026】
US Pharmacopoeia XXII,619では、サイクロスポリンのアルコールおよび植物油の混合物中の無菌溶液であるサイクロスポリン濃縮液が記載されている。しかし、かかる組成物は注射には適していない。なぜなら、このような濃縮形での油の注射は、致死的な塞栓を引き起こす可能性があるからである。
【0027】
サイクロスポリン類は天然油に溶けるので、結晶サイクロスポリンを市販の脂肪エマルション(例えばイントラリピッド(登録商標))に添加すると容易に溶けることは明らかである。しかし、これは現実には起こらない。なぜなら、強力に撹拌した後にも、ほとんどが未溶解の結晶形で残存するからである。水性脂肪エマルションに脂肪液滴を溶解させることはほとんど不可能であり、最終的な結果として、適当な治療効果を得るにはサイクロスポリン溶解量が不十分であり、加えて、静脈内注射または点滴には危険な大きいサイズの固体サイクロスポリン結晶粒子を含有するエマルションが得られる。
【0028】
他のサイクロスポリンよりも親油性であるPSC833を用いた場合でも、本発明によってこの欠点は克服できる。かかる理由から、PSC833は本発明のエマルションにおける好ましいサイクロスポリン化合物である。プラセボ脂肪エマルショ中に使用する脂肪は、好ましくはアシルグリセロールまたはグリセロール部分の1位に(C8−22)−1−アルキルエーテルまたは−1−α,β−アルケニルエーテル基を有するアシルグリセロールである(Albert.L.Lehninger,Biochemie,Edition Chemie,Weinheim,New York 1979 230ページ参照)。エマルション中に使用する脂肪量は好ましくは1〜30、特に8〜20重量%である。好ましくは、アシルグリセロールはエーテル基をもたず、そうであるならば、特に、(C8−22)脂肪酸鎖を有するジ−および/またはトリアシルグリセロール、特に脂肪酸鎖の(C8−12)部分および(C18−22)部分を有するジ−および/またはトリアシルグリセロール混合物である。
【0029】
脂肪酸鎖中、好ましくは40〜60、より好ましくは45〜55重量%が不飽和である。特に適当な脂肪は大豆油である。本発明の脂肪エマルションの成分として適当な既製脂肪エマルションは、リポフンディン10%MCT、またはカビ(Kabi)のイントラリピッドまたはアボリピッド(Abbolipid)のような市販で入手できる製品を含む。
【0030】
リポフンディンMCTは、油相として、長鎖トリグリセリド(LCT)および中鎖トリグリセリド(MCT、ミグリオール(Miglyol)810または812、その大半がカプリル酸/カプリン酸トリグリセリドからなる)の1:1混合物を含有する。この混合物は血流への脂肪液滴の取り込み速度を高め、よって、肝機能の免疫系障害を防ぐ。血中LCT/MCTの半減期は10ないし30分である。脂質キャリヤーが迅速に除去されれば血中に蓄積せず、従って、長期点滴をする間の医薬化合物の消失動態には全く影響を及ぼさないか、または最少限の影響しか及ぼさないことが期待される。MCT/LCT混合物はLCT単独よりも良好な溶解特性を有す。
【0031】
プラセボ脂肪エマルションは、好ましくは、(C12−22)飽和またはモノ−またはジ−不飽和アルキル基を有する正または負に荷電したまたは極性の界面活性剤、特に荷電したホスファチド、双性イオンではなく、好ましくは負に荷電したホスファチドである乳化剤を包含する。
【0032】
乳化剤は好ましくはエマルション重量に対して0.4〜3重量%である。適当な乳化剤の良い代表例は大豆−または卵−レシチンである。それは主要な成分である双性イオン構造のホスファチジルコリンとは別に、他の負に荷電した極性成分も含有している。
【0033】
例えばポロキサマーなどの極性界面活性剤も使用できる。もしあれば、レシチンなどの天然の界面活性剤が好ましい。
【0034】
本発明の医薬添加脂肪エマルションは、さらに、安定化剤、好ましくはリン脂質、または1位に(C12−22)−1−アルキルエーテルまたは−1−α,β−アルケニルエーテル基を有するリン脂質を含有する(かかる特別な構造については:Karlson、DoeneckeおよびKoolman、Kurzes Lehrbuch der Biochemie fur Mediziner und Naturwissenschaftler、1994、306ページ、図13.2、プラスマニル−またはプラスメニルエタノールアミン参照)。
【0035】
糖脂質(Karlson、289ページ、表および303ページも参照)、リン酸シリーズの代わりにモノ−またはオリゴ−糖部分を含む化合物、特にスフィンゴ脂質(303、308ページ)、例えばスフォンゴミエリン(308、309ページ)もまた安定化剤と考えられる。
【0036】
しかしながら、好ましいのは負に荷電したリン脂質、例えばジアシルホスファチジルグリセロール、特に不飽和(C12−22)脂肪酸部分を有するリン脂質、例えばパルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(以後POPGと呼ぶ)、卵−ホスファチジルグリセロール、大豆−ホスファチジルグリセロール、またはジアシル−ホスファチジルグリセロール、またはその塩、例えばナトリウム−、カリウム−またはアンモニウム−POPG、より好ましくはNaPOPGの使用である。
【0037】
好ましい別の安定化剤は、飽和、モノ−またはジ−不飽和(C12−24)脂肪酸、特にオレイン酸、またはその塩、例えばオレイン酸ナトリウム、カリウムまたはアンモニウム、より好ましくはオレイン酸ナトリウムである。
【0038】
本発明で使用する安定化剤は、即使用型脂肪エマルション中の有効成分濃度を増加させ、エマルションの形成速度を増加させる。従って、有効成分はプラセボ脂肪エマルションの脂肪液滴内に安定かつ迅速に取り込まれる。即使用型エマルションが形成された後、有効成分の沈殿は全く生じないので、かかるエマルションを患者に安全に投与し得る。即使用型のエマルションは、迅速に、例えば1秒以内でまたは約1秒または数秒で形成され得る。
【0039】
従って、本出願人は、本発明の組成物に安定化剤を使用すると、プラセボ脂肪エマルションの脂肪液滴中での有効成分の可溶化が、単なるプラセボ脂肪エマルションと有効成分との混合物と比較して、少なくとも2倍、例えば3倍、4倍、5倍またはそれ以上に増進されることを発見した。従って、脂肪エマルション1mlあたりPSC833が少なくとも約5mg、そして約20mg/mlまでの濃度で得られ得る。従って、サイクロスポリン、アスコマイシンおよびラパマイシンについては、有効成分濃度が少なくとも約3mmol/l脂肪エマルション、例えば4mmol/l、5mmol/lまたはそれ以上および約20mmol/lまでで得られ得る。
【0040】
出願人は、安定化剤の非存在下で例えば有効成分のエタノール溶液を用いると、安定化剤を用いて得られるものと比べて、かなり有効成分濃度が低くなることを発見した。さらに、有効成分の沈殿が生じ、これは静脈内投与を考慮する場合には許容不可能である。
【0041】
医薬化合物含有脂肪エマルションは、さらに増量された医薬化合物を添加するためには、追加して、例えばポリエチレングリコール、例えばポリエチレングリコール300または400などの有機溶媒を含有させる。例えば1:99〜99:1重量混合物、例えば25:75〜75:25のエタノールおよびプロピレングリコールでもよく、好ましくはエタノールおよびプロピレングリコールの約45:55〜55:45の混合物、例えば50:50重量混合物が使用され、それに関して、エタノールは良好な溶解効力を有することと、エマルション投与後の高い血中アルコール濃度は望ましくないことが認められた。
【0042】
別の態様において、本発明は、医薬化合物であるサイクロスポリンまたはマクロライド(例えばラパマイシンまたはアスコマイシン)またはその誘導体、および本発明の脂肪エマルション成分である安定化剤を、医薬化合物と安定化剤の重量比が400:1〜0.5:1、例えば200:1〜1:1、好ましくは100:1〜1:1、より好ましくは100:1〜10:1、例えば50:1、40:1、30:1、20:1または10:1で含む医薬濃縮液を提供する。
【0043】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の有効成分であるサイクロスポリン、ラパマイシンまたはアスコマイシンまたはその誘導体の即使用型脂肪エマルション中濃度を、プラセボ脂肪エマルション中濃度よりも増加させ、および/または即使用型エマルションの形成を促進する、本明細書に記載の安定化剤の使用を提供する。
【0044】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の有効成分であるサイクロスポリン、ラパマイシンまたはアスコマイシンまたはその誘導体の即使用型脂肪エマルション中濃度を、プラセボ脂肪エマルション中濃度よりも増加させ、および/または本明細書に記載した安定化剤を使用して即使用型エマルションの形成を促進する方法を提供する。
【0045】
ほぼ同じ形の製品が英国特許GB2 269 536Bで一般的に公知であるが、脂肪エマルションに取り込むための出発物質としてではない。200nm孔のフィルターを通してGB2 269 536で開示された製品を濾過すると、有効成分(例えば、ペプチド)を含有する全ての製品がフィルター上に残される。
【0046】
好ましくは本発明の濃縮液は、濃縮液の重量に対して医薬化合物の20%まで、例えば0.1〜20重量%で有機溶媒中に存在し、かかる溶媒により濃縮液は少なくとも静脈内投与可能となる。
【0047】
本発明の濃縮液中の安定化剤は、もしプラセボ脂肪エマルション中に存在するならば、リン脂質、糖脂質または脂肪酸であり得る。
【0048】
濃縮液中に使用するサイクロスポリンは、サイクロスポリンAまたはPSC833であり得、好ましくはPSC833である。好ましいラパマイシンおよびアスコマイシンは上記した通りである。かかる濃縮液は、医薬化合物と安定化剤を完全に溶解するまで有機溶媒中、好ましくは上記の医薬化合物含有脂肪エマルション中にも存在する溶媒中で混合することにより調製する。濃縮液は液体または固体形であり得る。固体形は調製に使用した有機溶媒を取り除いて得られ得る。もしエタノールを使用していれば、例えば凍結または噴霧乾燥などの蒸発により除去してもよい。
【0049】
「有機溶媒」なる用語は、本明細書において、単一成分の有機溶媒または2つ以上の有機溶媒の混合物を包含すると理解される。
【0050】
医薬含有脂肪エマルションは、好ましくは、液体または固体形、好ましくは液体形(医薬化合物および安定化剤の溶解した脂肪液滴への取り込みを促進するため)の濃縮液をプラセボ脂肪エマルションに注入することによって混合して調製し、その後、好ましくは調製から24時間後までに、医薬含有脂肪エマルションを患者に投与される。
【0051】
濃縮溶液およびプラセボ脂肪エマルションは別々のアンプルに保存してよく、数カ月または数年といった長期間、通常の条件下で安定である。
【0052】
従って、本発明は、好ましい態様において
a)プラセボ脂肪エマルション、および
b)安定化剤であるオレイン酸ナトリウムまたはNaPOPGを含有する有効成分の有機溶媒(例えば、エタノールおよび/またはプロピレングリコールを含む)溶液
(ただし、有効成分と安定化剤の重量比は400:1〜10:1である)
を含む、有効成分[3'−デスオキシ−3−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンの静脈内投与用のエマルションを提供する。
【0053】
本発明は、別の態様において、有効成分[3'−デスオキシ−3−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンの静脈内投与用エマルションの調製法を提供するものであって、かかる方法は、
a)有効成分および
b)安定化剤であるオレイン酸ナトリウムまたはNaPOPG
c)有機溶媒(例えばエタノールおよび/またはプロピレングリコールを含む)
(ただし、有効成分と安定化剤の重量比は400:1〜10:1である)
を含有する濃縮液をプラセボ脂肪エマルションに混合する段階を含む。
【0054】
従って、また、本発明は、また、医薬的に安全な粒子サイズの医薬化合物の必要量に関して患者の要求に合致する割合で内容物を混合するために適当な、濃縮液が入るアンプルおよびプラセボ脂肪エマルションが入るビンの組合せを提供する。
【0055】
静脈内投与に加えて、出願人は、本発明の濃縮液またはエマルションの経口投与(例えばフレーバー付き飲料またはミルクとして);鼻腔投与;吸入;または局所投与、例えば経皮投与も考慮する。
【0056】
医薬サイクロスポリンまたはマクロライド含有脂肪エマルションは、それぞれサイクロスポリンまたはマクロライドの公知の処方で同じ適応症に、同じ用法で使用する。
【0057】
使用すべき正確な用量は、慣用的な方法、例えばイヌなどの動物における標準的なバイオアベイラビリティー試験で決定し得る。一般的に、用量は公知の製剤の用量の約100%〜200%である。
【0058】
本発明の組成物は、サイクロスポリンまたはマクロライド(例えばラパマイシン)の公知の適応症、例えば以下の症状に有用である:
a)例えば臓器または組織同種または異種移植拒絶などの移植拒絶の処置および予防、例えば心臓、肺、同時心肺、肝臓、腎臓、膵臓、皮膚または角膜移植などの受容者の処置。それらは、また、例えば骨髄移植後の移植片対宿主疾患の予防にも適応される。
b)自己免疫疾患および炎症症状、特に関節炎(例えば、慢性関節リウマチ、進行性慢性関節炎および変形性関節炎)およびリウマチ疾患などの自己免疫因子を含む病因をもつ炎症症状の処置および予防。本発明の化合物を使用し得る特定の自己免疫疾患には、自己免疫血液障害(例えば、溶血性貧血、再生不良性貧血、先天性形成不良性貧血および特発性血小板減少症)、全身性エリテマトーデス、多発性軟骨炎、スクレロドーマ(sclerodoma)、ウェゲナー肉芽腫症、皮膚筋炎、慢性活動性肝炎、重症筋無力症、乾癬、スティーブン−ジョンソン症候群、特発性スプルー、自己免疫炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む)、内分泌性眼病、グレーヴズ病、サルコイドーシス、多発性硬化症、原発性胆汁性肝硬変、若年性糖尿病(I型糖尿病)、ブドウ膜炎(前部および後部)、乾性角結膜炎および春季角結膜炎、間質性肺繊維症、乾癬性関節炎、糸球体腎炎(例えば特発性ネフローゼ症候群または最小変化の腎症を含むネフローゼ症候群を伴うおよび伴わないもの)および若年性皮膚筋炎を含む。
c)喘息の処置および予防。
d)多剤耐性(MDR)の処置。従って、かかる組成物は、多剤耐性癌または多剤耐性AIDSなどの多剤耐性症状の処置および制御において、他の化学療法剤の効力を増強するのに有用である。
e)例えば癌、過増殖皮膚疾患等の増殖性疾患の処置。
f)真菌感染の処置。
g)炎症の処置および予防、特にステロイドの作用の増強。
h)感染、特にMipまたはMip様因子を有する病原体による感染の処置および予防。
i)FK−506および他のマクロフィリン結合性免疫抑制剤の過剰投与の処置。 本明細書に開示したアスコマイシン、FK506またはアスコマイシン誘導体の組成物は、例えば、炎症性および過増殖性皮膚疾患および免疫が関与する疾患の皮膚発現の処置に有用である。より具体的には、本発明の組成物は抗炎症剤および免疫抑制剤および抗増殖剤として、炎症症状および免疫抑制を必要とする症状の予防および処置、例えば
a)−心臓、腎臓、肝臓、骨髄および皮膚などの臓器または組織移植の拒絶、
−例えば骨髄移植後の移植片対宿主疾患、
−例えば慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、橋本甲状腺炎、多発性硬化症、重症筋無力症、I型糖尿病およびブドウ膜炎などの自己免疫疾患、
−免疫が関与する疾患の皮膚発現
の予防および処置;
b)例えば乾癬、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、さらに湿疹様皮膚炎、脂漏性皮膚炎、扁平苔癬、天疱瘡、水疱性類天泡瘡、表皮水疱症、蕁麻疹、血管浮腫、脈管炎(vasculitides)、紅斑、皮膚好酸球増加症、エリテマトーデスおよびざ瘡などの炎症性および過増殖皮膚疾患の処置;および
c)円形脱毛症
に使用するのに有用である。
【0059】
投与すべき組成物の正確な量は、例えば所望の処置持続時間および有効成分の放出速度などの種々の因子による。
【0060】
医薬組成物の有用性は、標準的な臨床試験で、例えば有効成分の公知の適応症において血中レベルが等しくなるような投与量、例えば75kgの成人に対して1日あたり1mg〜1000mg、例えば5mg〜100mgの範囲の有効成分量を用いて、標準的な動物モデルで観察することができる。かかる組成物がもたらす医薬物質のバイオアベイラビリティーの上昇は、標準的な動物試験および臨床試験で観察できる。例えば腎移植後の成人の1日あたりの指示量は50〜200mg/日である。
【0061】
本発明の方法および組成物の利点は:
−有効成分濃縮液中に添加剤がほとんど含まれないこと;
−即使用型エマルションが迅速に形成されること;
−即使用型エマルション中において有効成分が全く沈殿しないこと;
−即使用型エマルション中において液滴サイズ分布が狭いこと;
−エマルション中の有効成分濃度が高いこと;および
−プラセボエマルションと有効成分濃縮液とを混合し、穏やかに撹拌した後、直ちにこの脂肪エマルションを使用できることが含まれる。
【0062】
下記は、本発明の組成物のみを実施例を用いて記載したものである。
【実施例】
【0063】
1.プラセボ脂肪エマルションに導入するPSC833含有濃縮液
【表1】

【0064】
2.PSC833含有脂肪エマルション
実施例1の濃縮液を、例えば希釈率約17で注入することにより、リポフンディン(登録商標)MCT10%、すなわちプラセボ脂肪エマルションに導入すると以下の組成が得られる:
【表2】

【0065】
注射必要投与量は体重1kgあたりPSC833が9mgであり、これは体重70kgの患者に対しては630mgに相当するので、PSC833含有脂肪エマルション(濃縮液7mlおよびリポフンディン(登録商標)MCT10%100mlから得られる)107mlは、体重70kgの患者には十分な投与量であり、これにより1日あたり、脂肪10g、エタノール2.6g、プロピレングリコール2.5gおよびPSC833が631mgという穏当な量が添加されることになる。経口で使用する場合には、1日につき体重1kgあたりPSC833が20mg必要である。従って、体重70kgの患者に対し経口使用では、脂肪エマルション中PSC833が約1400mg必要であり、これは実施例1の濃縮液14mlとリポフンディン(登録商標)10%MCT100ml以上とを混合することにより調製され得る。
【0066】
医療用途には、必要量の医薬溶液を、PSC833濃縮液500mgが入った5mlアンプルおよび/またはPSC833が250mg入った2.5mgアンプルから取り出し、リポフンディン(登録商標)MCT10%100mlに注入して導入し、その後、合わせた混合物を点滴または経口適用により患者に投与し得る。
【0067】
サイクロスポリンを含有する慣用的な脂肪エマルションは、薬物に必要とされる物理学的安定性を欠失しているので(必要な量の医薬を添加すると結晶が形成される)、慣用的なプラセボ脂肪エマルション(非経口栄養摂取用)へのPSC833の添加を、安定化剤の非存在下および存在下に、24時間以内に患者に投与しなければならないという条件下で検討した。溶解効果は0.2μのヌクレオポア・フィルターを通して、医薬添加脂肪エマルションを濾過することで決定した。溶けない医薬化合物をフィルターにとどめ、重量測定および/またはHPLC測定を行った。
【0068】
脂肪エマルションに単なるPSC833のエタノール溶液を注入すると完全に溶解しない:30分後に87%のみが溶解する(表参照)。このように完全に溶解しない理由は、全てのPSC833分子が油滴に達する前に、医薬化合物が急速に沈殿するからである。別の実験および本発明で、かかる脂肪エマルション中のこれらのPSC833沈殿物をパルミトイル−オレオイルホスファチジルグリセロールのナトリウム塩(POPG.Na)で安定化することを試みた。さらにまた、POPG.Naの代わりにオレイン酸ナトリウムを使用してみた。
【0069】
驚くべきことに、POPG.Na(日本ファインケミカル)またはオレイン酸ナトリウム(Fluka、純度>99%)を添加すると、PSC833は完全に溶解した。5分後、HPLCで測定したところ、フィルター上に保持されたものは0.1%以下である。オレイン酸ナトリウムおよびPOPG.Naは、PSC833を完全に溶解するにあたり同等に非常に適していることが分かった。次いで、プロピレングリコールを使用してエタノール含量の一部と置き換えた。
【0070】
リポフンディン(登録商標)10%MCTの使用に際して、脂肪相にPSC833を20%まで添加できることが判明した。これはPSC833の2gまでが10%脂肪エマルション100ml中に溶解できることを意味している。
【0071】
脂肪エマルション中PSC833*の可溶化の測定:濃縮液中の添加剤の影響。組成物3〜7および8〜12は本発明に記載のものである
【表3】


【0072】
組成物8〜12 0.2μフィルター上で回収された非
溶解PSC833(括弧内の数値は濾
過開始後の時間)
有効成分と安定化剤の比
実施例8
【表4】


実施例9
【表5】

実施例10
【表6】

実施例11
【表7】

実施例12
【表8】

*薬物を添加した脂肪エマルションは0.2μのヌクレオポアフィルターを通して濾過する。
#NaOL=オレイン酸ナトリウム;PG=プロピレングリコール;EtOHAbs=無水エタノール;EtOH90=水10%含有エタノール;RT=室温
平均粒子サイズ(250mm)および粒子サイズ分布(単蜂形分布、全ての粒子が500mmよりも小さい)を光子相関分光測定法で決定した。
【0073】
本発明の濃縮液の例えば5または10mlをリポフンディン(登録商標)MCT10%100mlに急速注入し、続いて混合する場合、混合物は室温で48時間物理化学的に安定である(混合物5および6)。
【0074】
実施例13:イヌの実験
ビーグル犬を用いて、対照として経口剤形を用いて、使用した静脈内投与した脂肪エマルションキャリヤーが消失動態に影響を及ぼすかどうかを決定するために、薬物動態学的研究を行った。下記の組成物を調製した:
13a (「低脂肪」形)
脂肪エマルション中100mgPSC833:上記5および6番の濃縮 組成物1mLを10部のリポフンディンMCT10%で希釈した。
13b (「高脂肪」形)
脂肪エマルション中100mgPSC833:上記5および6番の濃縮 組成物1mLを20部のリポフンディンMCT10%で希釈した。
13c 200mgのPSC833を、2個の硬ゼラチンカプセル剤を用いて経 口飲料で投与する。
プロピレングリコール 96mg
ラブラフィルM2125CS 150mg
(内部エステル化コーン油)
クレモフォアRH40 524mg
(ポリオキシル−40硬化ヒマシ油)
PSC833 100mg
DL−α−トコフェロール 1mg
無水エタノール 104mg
【0075】
4匹のイヌを用いて交差実験を行い、製剤を遅速点滴(組成物13aおよび13b:持続時間2時間)または経口(13c)のいずれかで、断食させたイヌに投与した。製剤による有意な副作用は全く観察されなかった。ラジオイムノアッセイ(RIA)で血中濃度を決定し、投与した3つの組成物の結果を図1にグラフで示す。
【0076】
有効成分(PSC833は「PSC」と略す)の血中濃度を縦軸にログ単位でプロットする。投与開始後の時間を時間単位で横軸にプロットする。図1の各グラフの勾配から明らかなように、3つの剤形の間に消失動態に関する有意な差は全く観察されない。各グラフの勾配は、約2時間、すなわち点滴終了時以降他のものと近似して観察される。驚くべきことに、親油性化合物PSCの消失動態に関する脂肪エマルションの有意な影響は全くないようである。注射剤形の消失動態は経口剤形のものと類似しているようである。
【0077】
実施例14
脂肪エマルションは、公開欧州特許出願EP569337の実施例6dおよび7lで開示された化合物(化合物A)を有効成分として用いて調製する。
有効成分として化合物Aを含有する濃縮液
【表9】

脂肪エマルション中化合物A*の可溶化の決定:濃縮液中の添加剤の影響。組成物14aは本発明に記載のものである

【表10】

*有効成分添加脂肪エマルションを0.2μフィルター(ヌクレオポアフィルター)を通して濾過する
#NaOL=オレイン酸ナトリウム;PG=プロピレングリコール;EtOHAbs=無水エタノール
【0078】
実施例15〜54
有効成分PSCを40−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシン(実施例15〜24)、32−デオキソラパマイシン(実施例25〜34)、16−ペント−イニルオキシ−32(S)−ジヒドロラパマイシン(実施例35〜44)、および33−エピ−クロロ−33−デスオキシ−アスコマイシン(実施例45〜54)で置きかえて、別の有効成分の上記組成物3〜12に類似した組成物を調製する。それぞれの有効成分濃縮液をプラセボ脂肪エマルションに注入して混合すると、安定なエマルション組成物が迅速に得られる。
【0079】
ある程度まで、本発明の医薬化合物含有脂肪エマルションおよび濃縮液に匹敵する組成物が、文献に記載されている:
【0080】
EP0570829 A1では、静脈内投与可能な脂肪エマルションが記載されており、これにはサイクロスポリン、天然油、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンおよび水、加えて所望により脂肪酸のアルカリ塩が含有されている。実施例5では、サイクロスポリンを油相に溶かし、次いで水相中で乳化することにより、油重量に対して4重量%のサイクロスポリンを含有するエマルションを調製し、これには上記した他の全ての添加剤が含有されている。脂肪エマルションの欠点は、より高濃度のサイクロスポリンを得ようとしても一部のサイクロスポリンしか溶けず、他は脂肪粒子の内部に固体形で存在することである(4ページ、41〜46行参照)。
【0081】
実施例5の組成物を、孔直径5μのフィルターを通して濾過する(5ページ、38行)。従って、存在する固体粒子の粒子サイズ(8ページ、表参照)は、本発明の組成物の粒子サイズ(かかる粒子は濾過残渣を残さずに直径0.2μmの孔サイズのフィルターで濾過されている)よりも大きくてもよい。従って、EP0570829 A1のエマルションの静脈内投与は全く危険がないわけではない。さらに別の欠点は、特に、より多くの医薬を油相に添加しようとする場合、3カ月以上貯蔵すると医薬化合物が沈澱する傾向があることである。
【0082】
EP0331755 B1では、本発明の組成物とは対照的に、POPG.Na、オレイン酸ナトリウムまたは他の安定化剤を全く含まない医薬化合物含有脂肪エマルションが記載されており、かかる組成物では、脂肪液滴への取り込み前に沈殿を生じて一部が水相に存在することなく、満足の行く割合で脂肪液滴に取り込まれているサイクロスポリンを調製することは不可能である。
【0083】
従って、かかる脂肪エマルションは、前記したエマルションと全く同じように、粒子を含み得、特に、もしエマルションへの医薬添加濃度が高いならば、全く危険性を伴わずに投与することはできない。
【0084】
Derwent Abstract 92-352740(JP 042253907-A)では、医薬化合物であるサイクロスポリン、ホスファチジルコリン(レシチン)、オレイン酸ナトリウム、大豆油、グリセロールおよび水を含有する脂肪エマルションが記載され、これは静脈内投与用である。脂肪エマルションは、エマルション重量に対して0.2重量%のサイクロスポリンおよび大豆油などの脂肪に対して2重量%のサイクロスポリンを含有する。
【0085】
本発明により、従来公知の組成物の10分の1量の脂肪量に対する添加剤を有する相当する量の医薬化合物を含む脂肪エマルションが得られる。
【0086】
当該分野の脂肪エマルションは全て異なる成分を出発原料として形成され、これを高圧下でホモジナイザー中で混合する。1工程で形成するので、前記したEP0570829 A1のエマルションと同等であり、有効成分の沈澱を生じ易いという同じ欠点を有する。
【0087】
本発明の組成物は安全であるという利点を有し、例えば数分または約1時間という投与直前に調製し、2つの別々のユニット、すなわち濃縮液およびプラセボ脂肪エマルション(これは各々、長時間、特にアンプル中で安定でり、ホモジナイザーを使用せず、濃縮液を脂肪エマルションに注入することにより簡単に混合できる)を混合して製剤化する。
【0088】
EP0317120 A1では、酸性媒体中、所望によりホスファチジルコリンおよびコレステロールの存在下、ホスファチジルグリセロールを用いて、アムホテリシンを水溶性複合体に変換している。代表的実施例1では、モル比は、0.4部アムホテリシン:0.8部ジステアロイルホスファチジルグリセロール:2.0部水素化卵ホスファチジルコリン:1.0部コレステロールである(ページ7、表および請求の範囲7も参照)。pHは4.5である。添加剤の量が非常に多いので、かかる医薬中間体に水相を添加した時に、医薬化合物を取り込んだリポソーム(2ページ、5行参照)が形成される。本発明では、pHは好ましくは酸性範囲内にない。単なる中間体であるこの医薬混合物から、本発明とは異なる次の製造段階で、リポソームが形成され、これを、凍結乾燥法して安定化すると適当な貯蔵寿命が保証される。
【0089】
PCT出願WO88/06438の実施例3では、安定化剤と、極めて水に溶けにくい医薬化合物サイクロスポリンAのコロイド粒子を、有効成分:安定化剤の重量比2:1、直径約1.0μmで調製し、よって、これは、本発明の脂肪エマルジョンの成分として使用した濃縮液中の医薬化合物:安定化剤の重量比の範囲内にある。サイクロスポリンおよび安定化剤の無水エタノールおよびポリエチレングリコール400溶液を、本発明のように脂肪エマルション中にではなく、デキストロース含有水に注入し、安定なコロイド粒子懸濁液を調製する。しかし、ホスファチジルコリンからなる安定化剤は、双性イオンであるので、静電気的な安定化作用がない。安定化剤は、血中の生理的pH範囲内において、水の存在下で荷電する不溶性リン脂質を部分的に含んでいる。記載の有機溶液中で溶解させるために、安定化剤を脱塩する。このことは(上記引用文献の14ページ、28〜32行参照)、荷電部分を可溶性遊離酸または塩基に変換し、その荷電を取り去ることを意味する。サイクロスポリン懸濁液中の固体粒子のサイズ分布はあまり好ましくない。40μmまでの直径をもつ粒子がいくつか発見されたが、これは静脈内投与には大きすぎる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、4匹のイヌを用いて交差実験を行い、製剤を遅速点滴(組成物13aおよび13b:持続時間2時間)または経口(13c)のいずれかで、断食させたイヌに投与し、ラジオイムノアッセイ(RIA)で血中濃度を決定し、投与した3つの組成物の結果をグラフで示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてサイクロスポリン、ラパマイシンまたはアスコマイシンまたはその誘導体を含有するエマルション組成物の調製法であって、
a)有効成分
b)リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、ジアシルホスファチジルグリセロール、卵−ホスファチジルグリセロール、大豆−ホスファチジルグリセロール、ジアシル−ホスファチジルグリセロール、またはその塩;または飽和、モノ−またはジ−不飽和(C12−24)脂肪酸またはその塩から選択される安定化剤、および
c)有機溶媒
(ただし、有効成分と安定化剤との重量比は400:1ないし0.5:1である)を含有する濃縮液をプラセボ脂肪エマルションに混合する段階を含む方法。
【請求項2】
有機溶媒がエタノールおよびプロピレングリコールを含むものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
安定化剤がオレイン酸ナトリウムまたはNaPOPGである請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
有効成分であるサイクロスポリン、ラパマイシンまたはアスコマイシンまたはその誘導体の既使用型脂肪エマルション中の濃度を、プラセボ脂肪エマルション中の濃度よりも増加させ、および/または既使用型エマルションの形成を促進する、請求項1または請求項3に記載の安定化剤の使用。
【請求項5】
a)プラセボ脂肪エマルション、および
b)安定化剤であるオレイン酸ナトリウムまたはNaPOPGを含む有効成分の有機溶媒溶液
(ただし、有効成分と安定化剤の重量比は400:1〜10:1である)
を含有する、有効成分[3'−デソキシ−3−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンの静脈内投与用エマルション。
【請求項6】
有機溶媒がエタノールおよび/またはプロピレングリコールを含むものである請求項5に記載のエマルション。
【請求項7】
有効成分[3'−デソキシ−3−オキソ−MeBmt]−[Val]−シクロスポリンの静脈内投与用エマルションの調製法であって、
a)有効成分および
b)安定化剤であるオレイン酸ナトリウムまたはNaPOPG
c)有機溶媒
(ただし、有効成分と安定化剤の重量比は400:1〜10:1である)
を含有する濃縮液をプラセボ脂肪エマルションに混合する段階を含む方法。
【請求項8】
有機溶媒がエタノールおよび/またはプロピレングリコールを含むものである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
既使用型エマルションを形成するために、医薬的に安全な粒子サイズの有効成分の必要量に関して患者の要求に合致する割合に内容物を混合するのに適当な、請求項1に記載の濃縮液が入るアンプルおよびプラセボ脂肪エマルションが入るビン組合せ。
【請求項10】
実施例のいずれか1つに関して本明細書に実質的に前記した方法、濃縮液またはエマルション。

【図1】
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【公開番号】特開2007−246543(P2007−246543A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161630(P2007−161630)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【分割の表示】特願2003−337458(P2003−337458)の分割
【原出願日】平成9年1月20日(1997.1.20)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】