説明

医薬組成物

【課題】
本発明は、新規な医薬組成物、より具体的には、抗炎症用組成物として有用な医薬組成物を提供する。
【解決手段】
トラネキサム酸またはその塩と、クレマスチンまたはその塩を併用すると、クレマスチンまたはその塩がトラネキサム酸またはその塩の抗炎症作用を増強し、優れた抗炎症作用を示すことを新たに見出した。
(1)トラネキサム酸およびフマル酸クレマスチンを含有する抗炎症作用増強医薬組成物。
(2)フマル酸クレマスチンを添加することを特徴とするトラネキサム酸の抗炎症作用増強剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トラネキサム酸またはその塩、特にトラネキサム酸は、抗プラスミン作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用が知られており、その効能・効果は、全身性線溶亢進が関与すると考えられる出血傾向(白血病、再生不良性貧血、紫斑病等および手術中・術後の異常出血);局所線溶亢進が関与すると考えられる異常出血(肺出血、鼻出血、性器出血、腎出血、前立腺手術中・術後の異常出血);湿疹およびその類症、蕁麻疹、薬疹・中毒疹における紅斑・腫脹・そう痒等の症状;扁桃炎、咽喉頭炎における咽頭痛・発赤・充血・腫脹等の症状;口内炎における口内痛および口内粘膜アフタである(非特許文献1参照)。上記の作用や効能・効果以外にトラネキサム酸またはその塩が色素沈着症の治療薬となり得ることも知られている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、クレマスチンまたはその塩、特にフマル酸クレマスチンは、抗ヒスタミン作用、鎮静作用、抗コリン作用、抗セロトニン作用、抗アドレナリン作用等が知られており、アレルギー性皮膚疾患(じんま疹、湿疹、皮膚炎、そう痒症)やアレルギー性鼻炎に抗ヒスタミン薬として用いられている(非特許文献2および非特許文献3参照)。しかしながら、このものが抗炎症作用を有することは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−243825号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】財団法人日本医薬情報センター編 医療薬 日本医薬品集 2002(第25版) 株式会社じほう 1369頁
【非特許文献2】第14改正日本薬局方解説書 株式会社廣川書店 C−2443頁
【非特許文献3】財団法人日本医薬情報センター編 医療薬 日本医薬品集 2002(第25版) 株式会社じほう 642頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な医薬組成物、より具体的には、抗炎症用組成物、かぜ薬として有用な医薬組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、トラネキサム酸またはその塩と、クレマスチンまたはその塩を併用すると、クレマスチンまたはその塩がトラネキサム酸またはその塩の作用を増強し、優れた抗炎症作用を示すことを新たに見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明はトラネキサム酸またはその塩、およびクレマスチンまたはその塩を含有する医薬組成物に関するものであり、以下の発明に関する。
(1)トラネキサム酸およびフマル酸クレマスチンを含有する抗炎症作用増強医薬組成物。
(2)フマル酸クレマスチンを添加することを特徴とするトラネキサム酸の抗炎症作用増強剤。
【発明の効果】
【0009】
後記実施例から明らかなように、クレマスチンまたはその塩は、トラネキサム酸またはその塩の作用を増強し、トラネキサム酸またはその塩およびクレマスチンまたはその塩を併用すると、優れた抗炎症作用を示した。したがって、トラネキサム酸またはその塩、およびクレマスチンまたはその塩を含有する組成物は、抗炎症用組成物、がぜ薬等として有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明にかかるトラネキサム酸(トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸)またはその塩は、公知の化合物であり、その入手方法としては、市販品を用いてもよく、また公知の方法に基づき製造することも可能である。トラネキサム酸の塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を挙げることができる。本発明において、トラネキサム酸またはその塩としては、トラネキサム酸が好ましい。
【0011】
本発明にかかるクレマスチン((2R)−2−{2−[(1R)−1−(4−クロロフェニル)−1−フェニルエトキシ]エチル}−1−メチルピロリジン)またはその塩は、公知の化合物であり、その入手方法としては、市販品を用いてもよく、また公知の方法に基づき製造することも可能である。クレマスチンの塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩等を挙げることができる。本発明において、クレマスチンまたはその塩としては、フマル酸クレマスチンが好ましい。
【0012】
本発明の医薬組成物には、トラネキサム酸またはその塩、およびクレマスチンまたはその塩以外に、さらに以下に示す医薬成分を配合してもよい。配合可能な成分としては、アスピリン、アスピリンアルミニウム、サザピリン、エテンザミド、サリチルアミド、イブプロフェン、アセトアミノフェン、イソプロピルアンチピリン等の解熱鎮痛薬、カフェイン、無水カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン等の中枢神経興奮薬、ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素等の鎮静剤、マレイン酸クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸カルビノキサン、メキタジン、酒石酸アリメマジン、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸トリプロリジン等の抗ヒスタミン薬、塩化リゾチーム、ブロメライン、セラペプターゼ、セミアルカリプロティナーゼ、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルレチン酸、アズレンスルホン酸ナトリウム等の抗炎症薬、リン酸ジヒドロコデイン、リン酸コデイン、塩酸ノスカピン、ノスカピン、臭化水素酸デキストロメトルファン、デキストロメトルファンフェノールフタリン塩、リン酸ジメモルファン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、塩酸エプラジノン、メチルエフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸メトキシフェナミン、塩酸トリメトキノール、塩酸フェニルプロパノールアミン等の鎮咳薬、塩酸L−エチルシステイン、グアヤコールスルホン酸カリウム、クレゾール酸カリウム、グアイフェネシン、塩酸ブロムヘキシン、カルボシステイン、塩酸アンブロキソール等の去痰薬、テオフィリン、アミノフィリン、ジプロフィリン等の気管支拡張薬、ベラドンナ(総)アルカロイド、ベラドンナエキス、ヨウ化イソプロパミド、臭化水素酸スコポラミン、ロートエキス、臭化ブチルスコポラミン、臭化メチルベナクチジウム、臭化チメピジウム、ピレンゼピン等の抗アセチルコリン剤、セチルピリジニウム、塩化セチルピリジニウム、ポピドンヨード、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム、チモール、ヨウ素・ヨウ化カリウム、フェノール、塩酸クロルヘキシジン、クレオソート、塩化ベンゼトニウム等の殺菌消毒剤、塩酸ジブカイン、アミノ安息香酸エチル、リドカイン、塩酸リドカイン、オキセサゼイン等の局所麻酔剤、ビタミンA、肝油、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、アスコルビン酸カルシウム、ビタミンD、ビタミンE、コハク酸トコフェロールカルシウム等のビタミン剤、パントテン酸、パンテノール、パントテン酸ナトリウム、パントテン酸カルシウム、パンテチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、グルクロン酸、グルクロノラクトン、アミノエチルスルホン酸、ビオチン、γ−オリザノール等の代謝性成分、地竜、ケイヒ、ゴオウ、ショウキョウ、キキョウ、マオウ、カンゾウ、キョウニン、ハンゲ、シャゼンソウ、セネガ、サイコ、ブクリョウ、シンイ等の生薬およびこれら生薬の抽出物(エキス、チンキ等)等を挙げることができるが、上記のもののみに限定されるべきものではない。これらの医薬成分は、単一成分を配合してもよく、2種以上のものを組み合わせて配合してもよい。
【0013】
本発明の医薬組成物は、経口または非経口的に投与することができる。非経口的に投与する製剤としては、注射剤、硬膏剤、酒精剤、エキス剤、坐剤、懸濁剤、チンキ剤、軟膏剤、パップ剤、点鼻剤、吸入剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤等を挙げることができる。また、経口的に投与する製剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、液剤、トローチ剤、ゼリー剤等を挙げることができる。また、本発明の医薬組成物をうがい薬、のどスプレーや洗口液等に配合してもよい。本発明においては、経口投与製剤が好ましい。中でも、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、トローチ剤、ゼリー剤等の固形製剤が好ましい。
【0014】
製剤化は、公知の製剤技術により行うことができ、製剤中には適当な製剤添加物を加えることができる。製剤添加物は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜加えればよい。製剤添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等を挙げることができる。
賦形剤としては、結晶セルロース、粉末セルロース、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、沈降炭酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、乳酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、合成ケイ酸アルミニウム、乳糖、白糖、D−マンニトール、トレハロース、ブドウ糖、果糖等を挙げることができる。
崩壊剤としては、例えば、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、アルギン酸、部分アルファー化デンプン、ベントナイト等を挙げることができる。
結合剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニールアルコール、ポビドン、マクロゴール、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニールポリマー、ゼラチン、デキストリン、ペクチン、ポリアクリル酸ナトリウム、プルラン等を挙げることができる。
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、硬化油等を挙げることができる。これら製剤添加物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0015】
本発明の医薬組成物における、トラネキサム酸またはその塩、およびクレマスチンまたはその塩の配合比は、2:1〜10000:1が好ましく、200:1〜1500:1がさらに好ましい。
【0016】
本発明の医薬組成物の患者への投与量は、患者の性別、年齢、症状、投与方法、投与回数、投与時期等により適宜検討を行い、適当な投与量を決めればよい。例えば、経口投与の場合、トラネキサム酸またはその塩については、トラネキサム酸として1日当たり10〜3000mg投与することが好ましく、400〜750mg投与することがさらに好ましく、750mg投与することがより好ましい。クレマスチンまたはその塩については、クレマスチンとして1日当たり0.4〜5mg投与することが好ましく、0.5〜2mg投与することがさらに好ましく、1mg投与することがより好ましい。
【0017】
すなわち、トラネキサム酸またはその塩、およびクレマスチンまたはその塩を含む本発明の医薬組成物において、その配合量は、1日当たりトラネキサム酸またはその塩をトラネキサム酸として10〜3000mg、クレマスチンまたはその塩をクレマスチンとして0.4〜5mg投与(服用)することになるように配合したものが好ましく、1日当たりトラネキサム酸またはその塩をトラネキサム酸として400〜750mg、クレマスチンまたはその塩をクレマスチンとして0.5〜2mg投与(服用)することになるように配合したものがさらに好ましく、1日当たりトラネキサム酸またはその塩をトラネキサム酸として750mg、クレマスチンまたはその塩をクレマスチンとして1mg投与(服用)することになるように配合したものが特に好ましい。
【0018】
本発明の医薬組成物は、本発明に係る2成分を含む単一の製剤として製し、これを投与(服用)してもよいし、また本発明に係る各成分を分けて別の製剤とし、それら製剤を同時または順次投与(服用)可能としたキット製剤としてもよい。
【0019】
本発明の医薬組成物は、本発明の医薬組成物は、抗炎症薬、かぜ薬として用いられるのが好ましい。かぜ薬の効能・効果としては、かぜの諸症状(鼻水、鼻づまり、くしゃみ、のどの痛み、せき、たん、悪寒、発熱、頭痛、関節の痛み、筋肉の痛み等)の緩和等を挙げることができる。
【0020】
以下に、実施例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらにのみ限定されるべきものではない。
【実施例】
【0021】
1.抗炎症試験
6週齢の雄性Std:Syrianハムスター(日本エスエルシー株式会社)10匹を1群に分け検討した(ただし、検体4投与群については、5匹)。ハムスターをジエチルエーテルで麻酔し、直径約5mmのステンレス棒を液体窒素に1分間以上入れ、充分に冷えた状態でハムスターの咽頭部に約20秒間接触させ、炎症を発生させた。ハムスターが麻酔から醒めた後、以下に示した検体1〜4を投与した。なお、検体2および3については、トラネキサム酸およびフマル酸クレマスチンを必要量秤量し、注射用水にて溶解または懸濁させたものを投与した。翌日以降1日1回投与を行い、検体を計4日間投与した。
【0022】
検体1:注射用水(10mg/kg)
検体2:トラネキサム酸(750mg/kg)
検体3:トラネキサム酸(750mg/kg)+フマル酸クレマスチン(1mg/kg)
検体4:注射用水(10mg/kg)(ただし、炎症発生操作なし)
【0023】
最終投与日の翌日に、ジエチルエーテル麻酔下で放血致死させた後、咽頭部を摘出し、炎症部をデジタルカメラ(COOLPIX 995、株式会社ニコン製)で撮影した。撮影した画像から、炎症部の程度を以下の炎症スコアにて評価した。
【0024】
炎症スコア
1:異常なし(治癒)
2:炎症の痕跡は有るが、潰瘍なし
3:炎症の痕跡は有るが、30%未満が潰瘍
4:炎症の痕跡は有るが、30%以上60%未満が潰瘍
5:炎症の痕跡は有るが、60%以上が潰瘍
【0025】
炎症スコアを各群毎に平均値および標準誤差を算出し、Steel検定を行った。結果を表1に示した。
【0026】
【表1】

** p<0.01 検体1投与群に対して有意差あり
【0027】
結果から明らかなように、抗炎症作用を有さないフマル酸クレマスチンが、トラネキサム酸の作用(抗炎症作用)を増強し、トラネキサム酸とフマル酸クレマスチンを併用すると優れた抗炎症作用を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
前記実施例から明らかなように、クレマスチンまたはその塩は、トラネキサム酸またはその塩の作用を増強し、トラネキサム酸またはその塩およびクレマスチンまたはその塩を併用すると、優れた抗炎症作用を示した。したがって、トラネキサム酸またはその塩、およびクレマスチンまたはその塩を含有する組成物は、抗炎症用組成物、かぜ薬として有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラネキサム酸およびフマル酸クレマスチンを含有する抗炎症作用増強医薬組成物。
【請求項2】
フマル酸クレマスチンを添加することを特徴とするトラネキサム酸の抗炎症作用増強剤。

【公開番号】特開2009−143966(P2009−143966A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79485(P2009−79485)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【分割の表示】特願2004−125371(P2004−125371)の分割
【原出願日】平成16年4月21日(2004.4.21)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】