説明

半フッ素化ブロック共重合体またはフッ素化ブロック共重合体から形成されるフルオラスコアおよびフルオラス内側シェルのミセルにおける化学物質のカプセル化

フルオラスコアの薬物封入ミセルを形成するために、親水性の領域と半フッ素化領域とを含むブロック共重合体を合成し、臨界ミセル濃度より低い濃度でフッ素化薬物と混合した後温度を低下させ、またはブロック共重合体濃度を高めるか他の溶液条件を変更する。溶液中で既に形成したミセルでも薬物を取り込める。フルオラスコアのフッ素化薬物封入ミセルの懸濁液を、血流内へ注射し薬物を標的の組織や器官へ送達する。また、親水性ブロックと、疎水性ブロックと、半フッ素化ブロックとを含むブロック共重合体を用いてフルオラスコアの薬物封入ミセルを形成する。また、親水性ブロックと、半フッ素化ブロックと、疎水性ブロックとを含むブロック共重合体を用いて疎水性コアの薬物封入ミセルを形成する。さらに、様々な種類のブロックを含むブロック共重合体を合成して種々の用途の化合物をカプセル化するのに適した内側シェルおよびコア領域を含むミセルを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2004年1月2日に出願した仮出願第60/534,178号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、薬物送達のための合成小胞における化学物質のカプセル化、特に、半フッ素化(semifluorinated)ブロック共重合体から形成されるフルオラスコア(fluorous-core)のミセル内にフッ素化(fluorinated)薬物をカプセル化すること、および、フルオラスコアとフルオラス内側シェルを含有するミセルおよびリポソーム様構造に化学物質をカプセル化すること、についての薬物送達法およびシステム(system:系、組成物)に関する。
【背景技術】
【0003】
身体内の標的組織および標的器官への薬物の送達は、現在、多大な労力と費用を傾けて調査および研究が継続的に行われている分野である。多くの場合、薬物は比較的不活性の成分と混合して丸剤を形成するか、またはゼラチンカプセル剤の中に入れることができ、それを経口摂取し、消化器系を介して血流へ薬物を送達する。しかし、この通常の送達システムは、薬物を含め、多くの条件に依存している。それらは、(1)消化の過程で比較的傷のない胃および腸上部を通過すること、(2)消化器系により取り込まれ、血流へ送達されること、(3)血流により標的器官または標的組織へ治療効果を有するのに十分な濃度で移動すること、(4)標的組織または標的器官に効果的に取り込まれてその組織または器官に治療用量を与えること、ならびに(5)消化器系から標的組織または標的器官へと、排出するための異化作用を介して標的組織または標的器官から、または薬物の分解生成物を身体へ取り込む同化作用のために、薬物が通過する組織および器官において有害な副作用が生じないことである。多くの一般的な薬物がこの方法で送達されているが、そのようにして問題なく送達されている薬物はほとんどない。例えば、アスピリンは経口摂取により送達されて、遠隔標的組織において炎症および熱を制御するプロスタグランジンを合成するシクロオキシゲナーゼCOX−2を阻害するが、胃のムチン分泌を調節するプロスタグランジンの合成を触媒するCOX−1を阻害することによって多大な副作用を生じ、胃の内層を刺激し、薄化させる。別の例として、タンパク質およびポリペプチド薬物は、タンパク質およびポリペプチドが消化酵素により分解されるため、経口摂取により効果的に投与できるものはほとんどない。
【0004】
代替的な薬物送達システムとしては、(1)揮発性の薬物、揮発性担体中に溶解され得る薬物、およびエアゾールを生成できる液状担体と混合できる薬物の吸入、ならびに(2)担体液へ懸濁または溶解された薬物の血流への直接注射が挙げられる。両送達システムともに経口摂取による送達の場合と同じ依存的条件の多く、ならびに送達システムに特異的な依存的条件を多数含んでいる。例えば、注射された薬物は、治療期間の間治療濃度で、血流によって標的組織および器官に効果的に運搬されるだけでなく、非抗原性である必要があり、または致死的な免疫応答の可能性の誘発を回避するために化学的にカプセル化される必要がある。吸入された薬物は、上皮細胞内層の膜を介して肺を効果的に通過する必要がある。
【0005】
薬物の効果的な治療的使用には、効果的な一次送達システムが利用可能であるだけでなく、少なくとも1つの代替的な送達システムも利用可能であることが必要となる場合が多い。例えば、ある薬物が通常は吸入により効果的に送達され得るとしても、例えば意識不明および不安定な患者、重篤な肺鬱血患者、または肺気量もしくは機能が著しく低下した患者にとっては吸入が利用できない状況もあり得る。
【0006】
薬物送達システムは集中的に研究されている上、経口摂取、注射、および吸入という一般的な薬物送達経路を補うために特定の薬物/標的組織の組み合わせのための効果的なシステムが多く開発されているが、効果的な送達システムが未だ発見されていない薬物、および一次送達システムによって効果的に送達されるが、その代替的な送達経路が未だ見出されていない薬物も多く残っている。この理由から、研究者、製薬会社、医療専門家、および治療薬の恩恵を必要とする人々らは、新規かつ代替的な薬物送達システムの必要性を認識してきた。
【発明の開示】
【0007】
本発明の一実施形態では、フルオラスコアの、薬物封入ミセルを形成するために、親水性ブロックとフッ素化または半フッ素化ブロックとを含むブロック共重合体を合成し、臨界ミセル濃度より低い濃度でフッ素化薬物と混合し、その後温度を下げ、その後ブロック共重合体濃度を高めるか、その後他の溶液条件を変更する。あるいは、溶液中で既に形成したミセルによって薬物を取り込むこともできる。
【0008】
フッ素化薬物は、その中でフルオラスコアミセルが形成される大量の水溶液に対する場合よりも、ミセルのフルオラスコアに対して高い親和性を有し、したがってミセルのフルオラスコア内にカプセル化され得る。本発明の第2の実施形態では、フルオラスコアの、フッ素化薬物封入ミセルの懸濁液を血流に注射して、そのフッ素化薬物を標的組織および器官へ送達する。本発明の第3の実施形態では、フルオラス成分と親水性成分とを含む薬物は、親水性ブロック/半フッ素化ブロックの境界でフルオラスコアミセル中へカプセル化され、薬物のフルオラス成分および親水性成分はそれぞれミセルの半フッ素化コアおよび親水性シェルに埋め込まれるように配向される。一般に、異なる薬物は、その薬物の化学的性質に応じてミセルの異なる部分にカプセル化できる。薬物の多くが完全に疎水性であり、そのため、ミセルの内側コア内に存在するか、またはフッ素化ポリマー鎖シェル内に存在する。
【0009】
本発明の第4の実施形態では、フルオラスコアの、薬物封入ミセルを形成するために、親水性ブロックと、疎水性ブロックと、半フッ素化ブロックとを含むブロック共重合体を合成し、臨界ミセル濃度よりも低い濃度で疎水性成分とフルオラス成分とを含む薬物と混合し、その後温度を下げ、その後ブロック共重合体濃度を高めるか、他の溶液条件を変更する。あるいは、薬物を溶液中で既に形成されたミセルによって取り込むこともできる。疎水性成分とフルオラス成分とを含む薬物は、疎水性ブロック/半フッ素化ブロックでフルオラスコアミセル内にカプセル化し、薬物のフルオラス成分および疎水性成分はそれぞれ、ミセルの半フッ素化コアおよび疎水性シェルに埋め込まれるように配向される。代替の実施形態では、薬物は、その疎水性およびミセル内の異なる局所的な環境に対する親和性を薬物へ与える官能基を含め、薬物の化学的性質に応じて、ミセルの異なる部分へ集中し得る。また、疎水性内側シェル、フルオラスコアのミセルを用いて疎水性化合物およびフッ素化合物の双方をカプセル化することもできる。本発明のさらなる実施形態では、親水性ブロックと、フッ素化ブロックと、疎水性の炭化水素ブロックとを含む共重合体を合成し、薬物封入ミセルを形成するために使用する。この実施形態では、疎水性薬物を疎水性コアにカプセル化し、フッ素化薬物はまたフルオラス内側シェルでのカプセル化も可能である。フルオラス内側シェルは疎水性コアの密封化に役立ち、同時にフルオラスコアミセルのミセル安定性をさらに高め、薬物送達システムに使用される場合には、ミセルの遅効性の徐放特性を向上させる。さらなる実施形態では、多様な種類のブロックを含むブロック共重合体を合成し、合成、診断、分析、薬物送達、ナノファブリケーション、および他の用途を含め、種々の用途のための、特定の化学物質のカプセル化に適した、内側シェルおよびコアを含むミセルを形成するために用いる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の種々の実施形態は、ミセル内への分子のカプセル化を包含する薬物送達システムを対象とする。超分子構造体の区画化された疎水性相および水性相内に分子がカプセル化されることは周知の現象であり、生物学研究および薬物送達に広く活用されてきた。薬物分子のカプセル化は、治療時間間隔において、治療濃度を供給するために、その薬物が注射後に確実に血流内に徐々に放出されるようにするのに有用である。また、カプセル化は、カプセル化された薬物が標的組織または標的器官へ移動する間、薬物を生理的条件から遮蔽するのに有用である。薬物を遮蔽することで、その薬物が異化作用によって分解されること、意図しない標的と結合すること、免疫応答を誘発すること、および薬物を血流内へ直接注射することで生じる他の結果を防ぐことができる。本発明のさらなる実施形態は、「さらなる実施形態」とされる最終項に記載する。
【0011】
リポソームは、周知の、自然発生ならびに合成によって製造される小胞で、水溶性分子をカプセル化することができる。図1は、両親媒性のホスファチジルコリン分子の自己凝集により形成されたリポソームを示す。図1では、リポソーム102は、3つの別個のシェルを含む球形の構造となるように示されている。外側のシェル104は、放射状に配向されたホスファチジルコリン分子の外層の極性頭部置換基(polar head-group substituents)から成る。リポソームは比較的大きな構造を有し、直径は、数十ナノメートルから最大1ミクロン、またはそれ以上の範囲にわたる。内部シェル106は、ホスファチジルコリン分子の外層および内層の双方が疎水性の脂質置換基から成る。内側シェル108は、ホスファチジルコリン分子外層の配向と反対に放射状方向に配向されたホスファチジルコリン分子の内層の極性頭部置換基から成る。リポソームの内部110は、一般に球形で、水性相の空洞であり、リポソームによって、特に、極性水溶性化合物に対し比較的不浸透性の、比較的厚い疎水性の内側のシェルによって、その中に水溶性または親水性の分子をカプセル化できる。リポソームは、十分に高い濃度のホスファチジルコリン分子を含む水性媒質中で自発的に形成され、図1では単純に、シンボル112を含め、2本の尾のあるシンボルで示されている。
【0012】
図2はホスファチジルコリン分子の化学構造を示す。ホスファチジルコリン分子202は、極性頭部204(図2中、破線の多角形で区切られている)と2本の長い脂質尾部206〜207とを含む。リポソーム構造は、ホスファチジルコリンの明確な極性領域と疎水性領域に起因する。リポソームは、水溶性薬物のカプセル化および送達、ならびに核酸分子の細胞核への挿入に用いられてきた。
【0013】
ミセルは幾分単純で、自己凝集する球形構造をし、薬物のカプセル化に使用できる。また、ミセルは一般にリポソームよりもかなり小さく、直径10〜30ナノメートルである。図3は、両親媒性のリゾリン脂質分子の自己凝集により形成された疎水性コアミセルを示す。リゾリン脂質は、2本の脂質尾部のうちの1本が取り去られた、ホスファチジルコリンのようなリン脂質である。疎水性コアミセル302は、極性の、親水性外部シェル304と疎水性コア306とを含む球形構造である。そのため、疎水性コアミセルはリポソームに似ているが、内部の親水性シェルおよび水性相の空洞はない。疎水性コア306は強固な結晶構造を有しないが、その代わりに疎水性相互作用およびファンデルワールス相互作用により安定化された液相である。疎水性コアでは、非極性の分子は、可溶性であるかまたは少なくとも外部の水性環境に対して熱力学的に好ましい状態にあるかのいずれかであり、したがって、非極性分子を、ミセルが形成されるに際にミセルの疎水性コアの内にカプセル化できる。疎水性コアミセルは、ブロック共重合体、洗浄剤、および脂肪酸を含め、リゾリン脂質の他、多種多様な両親媒性分子で構成できる。疎水性コアミセルは、個々の両親媒性分子の濃度が臨界ミセル濃度(「CMC」)に達すると自発的に形成される。残念ながら、疎水性コアミセルのCMCは、多くが極めて高いレベルであるため、懸濁した疎水性コアミセルを含む溶液を血流へ注射した場合、両親媒性分子の濃度は直ちにCMCよりも低い濃度に落ち込み、ミセルは消散し、カプセル化された薬物分子を放出する。
【0014】
ある一定の場合においては、リポソームが、水溶性の極性薬物のカプセル化および送達に適し、疎水性コアミセルが疎水性薬物のカプセル化および送達に適し得る場合もあるが、いずれの部類にも属さない薬物の種類も多い。例えば、製薬業界は現在、多数の新規なフッ素化薬物を開発中であり、この10年間に多数のフッ素化薬物が製薬業界によって開発および商品化されてきた。高度にフッ素化された薬物は、疎水性の傾向と疎油性の傾向の双方を示し、そのため、リポソームの内部の水性の空洞または疎水性コアミセルの疎水性コアのいずれにも、十分に溶媒和せず、高い親和性を示さない。
【0015】
図4は高度にフッ素化された薬物セボフルランの化学構造を示す。セボフルランは広く用いられている麻酔薬物であり、通常吸入により投与される。しかし、セボフルランのための二次送達システムは、肺に損傷があるか、肺鬱血を呈する患者にとって、既に麻酔をかけた患者においてセボフルランのレベルを急速に押し上げる場合、麻酔中により効果的かつ制御可能にセボフルランを投与する場合、セボフルランと同時投与されることの多いデスフルレン(desflurane)などの刺激薬物を避ける場合、および麻酔を導入および維持するために患者へ投与されるセボフルランの量を減らす場合に有利である。
【0016】
図5は、本発明の第1の実施形態を示す。図5では、半フッ素化ブロック共重合体分子、例えば半フッ素化ブロック共重合体分子502が、親水性ブロック504と、半フッ素化または親フッ素性(fluorophilic)ブロック506とを含有するよう調製される。半フッ素化ブロック共重合体分子は自己凝集して、親水性の外側のシェル510とフルオラスコア512とを含む安定したフルオラスコアなミセル508となる。フルオラスコア512は、リポソームの内側の脂質シェル、または疎水性コアミセルの疎水性コアのように、液相の媒質である。リポソームおよび疎水性コアミセルとは異なり、フルオラスコアなミセルのフルオラスコアは、高度にフッ素化された薬物が可溶性であるか、または少なくとも水性環境および疎水性環境に対して比較的低いエネルギーの熱力学状態にあるかのいずれの化学的環境を提供する。半フッ素化ブロック共重合体を、フッ素化薬物を含有する溶液に加えると、フッ素化薬物は、発生期のフルオラスコアミセル内部のフルオラス性の液相媒質により高い溶解性を有し、高い効率でフルオラスコアミセル内にカプセル化される。フルオラスコアミセルがフッ素化薬物を溶媒和することのできる液体コアを提供することに加えて、フルオラスコアミセルは極めて低いCMCを示し、そのため、懸濁液中で血流中へ注射された場合に消散する傾向がさらに低くなる。CMCが低いことと希薄溶液中の安定性が高いことは、フルオロカーボンの大きいファンデルワールス表面とフッ素の分極率の低さに起因し、これらはともに通常フルオロカーボンに炭化水素よりも大きな疎水性を与える。フルオロカーボンは、疎水性であるのに加えて疎油性である。
【0017】
図6は、本発明の一実施形態を表す疎水性の内側シェルの、フルオラスコアミセルを示す。図6では、ブロック共重合体分子、例えばブロック共重合体分子602が、親水性領域604と、疎水性領域606と、半フッ素化または親フッ素性領域608とを含有するよう調製される。ブロック共重合体分子は自己凝集して、それぞれ、親水性の外部シェル612、疎水性の内側シェル614、およびフルオラスコア616を有する安定したフルオラスコアミセル610となる。フルオラスコア616は、高度にフッ素化された薬物が可溶性であるかまたは少なくとも比較的低いエネルギーの熱力学状態にあるかのいずれかである液相媒質である。さらに、非極性の薬物は、疎水性ミセルの疎水性コアに可溶性であるように、疎水性の内側シェル614に可溶性である。フッ素化および疎水性の両方の成分もしくは領域を含む薬物は、フルオラスコア/疎水性内側シェルの境界に組み込まれ、フルオラス成分がフルオラスコアの中に埋め込まれ、疎水性領域が疎水性内側シェルに埋め込まれるように配向される。また、フルオラスコアの疎水性シェルミセルは、疎水性コアミセルよりも極めて低いCMCを示し、従って懸濁液として血流中へ注射された場合に消散する傾向がより低い。ブロック共重合体の半フッ素化領域は、疎油性でもあり疎水性でもあるため、他のブロック共重合体の極性ブロック、他のブロック共重合体の疎水性ブロック、およびそれらが形成される水溶液との接触を避けるように熱力学的に働く。
【0018】
別の実施形態では、親水性ブロックと、フッ素化ブロックと、疎水性炭化水素ブロックとを含む共重合体を合成し、薬物封入ミセルを形成するために使用する。この実施形態では、疎水性薬物が疎水性コア内にカプセル化され、フッ素化薬物もフルオラス性の内側シェル内にカプセル化され得る。フルオラス性の内側シェルは、疎水性コアの密封化に役立ち、同時にフルオラスコアミセルのミセル安定特性をさらに高め、薬物送達システムに使用される場合には、ミセルの遅効性の徐放特性を向上させる。
【0019】
図7は、本発明の一実施形態を表す半フッ素化ブロック共重合体の化学構造を示す。図7に示される半フッ素化ブロック共重合体の完全な化学名は、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘプタデカフルオロ−1−ノナニル(nonanyl)−ポリ(エチレングリコール)であり、以下の考察では「F8P6」と省略する。F8P6は、6000原子質量単位の数平均分子量を有する親水性のポリエチレングリコール(「PEG」)ポリマーブロック706と、単一の架橋アルキルカーボン704によって結合している、高度にフッ素化された8カーボンポリマーブロックから成る。PEGポリマーブロックは、比較的無毒であり、親水性が高く、免疫系の認識(recognition)から抗原を遮蔽するための、周知の化学偽装物質であるという理由から、半フッ素化ブロック共重合体には望ましい。F8P6は、およそ1mg/mlのCMCで室温、水中で自己凝集してフルオラスコアミセルとなる。F8P6ミセルは、室温、水中で直径13nmであると推定される。セボフルランを56℃でF8P6ポリマー溶液に添加し、1時間攪拌し、その後室温まで冷却すると、15mMのセボフルランが、3mg/mlのF8P6濃度で、F8P6ミセルの中に完全にカプセル化される。一実施形態では、F8P6から構成されたフルオラスコアミセルは、各々300個を超えるセボフルラン分子をカプセル化させると測定されており、代替の実施形態では、400個のセボフルラン分子が測定された。
【0020】
図8は、本発明の一実施形態を示すF8P6の合成の際の合成ステップを示す。第1ステップ802では、無水テトラヒドロフラン(「THF」)中3.3mmolのPEG(Mn=6000a.m.u.)溶液(20g)を調製し、それに0.8gの水素化ナトリウム(「NaH」)を添加して濃度10.0mmolとする。10分間攪拌した後、乾燥シリンジで10分間かけて0.24グラムの臭化ベンジル、CBrを加えて濃度1.4mmolとする。この混合物を10時間攪拌し、水で不活化させる。第1ステップの結果、1つのベンジル保護基によってPEGポリマーの一方の末端−OH基が保護された、モノ−ベンジル保護PEGポリマーと、不要なジ保護(di-protected:2つの保護された)ポリマーが得られた。THF溶媒を部分的に蒸発させ、その後エチルエーテルを添加して、モノ保護およびジ保護PEGを再結晶化させる。
【0021】
第2ステップ804では、モノ−ベンジル保護PEGポリマーの非保護末端−OH基をメシル化するために、無水THFに溶かしたベンジル保護PEGに、0.16gの塩化メタンスルホニル、CHSOCl、および0.2gのN,N−ジイソプロピルエチルアミン(「DIEA」)を添加してそれぞれ濃度1.4mmolおよび1.5mmolとする。代替的な合成では、塩化トシルを加えて末端−OH基をトシル化してもよい。反応混合物を一晩攪拌し、得られたベンジル−メタンスルホニルポリ(エチレングリコール)を、THF溶媒の部分的蒸発およびエチルエーテルを用いて再結晶化すると、収率50%で回収される。
【0022】
第3ステップ806では、半フッ素化化合物をメシル基の求核置換によってメシル化PEGポリマーと結合させるために、4.8gのベンジル−メタンスルホニルポリ(エチレングリコール)を無水THFへ加えて濃度0.8mmolとし、それに0.5gのNaHを加え、それに0.36gの半フッ素化化合物2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘプタデカフルオロ−1−ノナニルを加えて濃度0.8mmolとする。次いで、反応混合物を2日間還流し、水で不活化させ、THF溶媒を部分的に蒸発させ、エチルエーテルを加えてパーフルオロアルキル−ベンジル−ポリ(エチレングリコール)を再結晶化させる。
【0023】
第4ステップ808では、95%無水エタノール中、10%活性パラジウム/炭素、Pd/C、触媒の存在下、H下で10時間、ベンジル保護基を除去する。混合物をセライト(商標)545パッドで濾過してPd/C粉末を取り除き、エタノール溶媒を回転蒸発させた。固体生成物を水に溶解し、分子量カットオフ3500a.m.u.のSeptra/por(商標)膜内で7時間透析し、過フッ素化ポリエチレンエーテル(FC−72)で5回抽出する。過フッ素化ポリエチレンエーテル抽出相の5つを合わせ、溶媒を回転蒸発させ、得られたF8P6ポリマーを凍結乾燥させ、ステップ3および4用の粉末化F8P6が収率70%を得ることができる。あるいは、ポリマー生成物をエチルエーテルで沈殿させ、ヘキサンで倍散し、2時間還流し、t−ブチルメチルエーテル中に懸濁し、還流し、t−ブチルメチルエーテルを蒸発させると、純粋な、固体のポリマー生成物が得られる。
【0024】
図9は、本発明の一実施形態を表す2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘンエイコサフルオロ(heneicosafluoro)−1−ウンデカニル(undecanyl)−ポリ(エチレングリコール)モノ−メチルエーテルの合成における合成ステップを示す。第1ステップ902では、無水テトラヒドロフラン(「THF」)中、ポリ(エチレングリコール)モノ−メチルエーテルと、5当量の塩化メシルと、10当量のN,N−ジイソプロピルエチルアミン(「DIEA」)との溶液を調製し、これがメシル化ポリ(エチレングリコール)モノ−メチルエーテル生成物となる。第2ステップ904では、THF中、メシル化ポリ(エチレングリコール)モノ−メチルエーテル溶液に、2当量の2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘンエイコサフルオロ−1−ウンデカノールと20当量の水素化ナトリウム(「NaH」)とを加えると、最終生成物2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘンエイコサフルオロ−1−ウンデカニル−ポリ(エチレングリコール)モノ−メチルエーテル(「HFUPEG」)が得られる。HFUPEG生成物は、エチルエーテルを添加することにより溶液から沈殿させ、真空濾過により固体として得ることができる。
【0025】
さらなる実施形態
半フッ素化界面活性剤は、対応する水素付加対応物の典型的な両親媒性挙動を示す。しかし、フッ素化鎖のファンデルワールス体積が大きくなるほど、フッ素の低い分極率とあいまって、フルオロカーボンを、対応する炭化水素よりもいっそう高い疎水性にするだけでなく、疎油性にもする。この特有の特性の設定が過フッ素化界面活性剤に、水溶液中で自己組織化して、高度に安定な、かつ十分に組織化された薄膜、二重層、および明確な超分子システム、例えば小胞、細管、およびミセルとなる原動力をもたらす。過フッ素化界面活性剤は、それらの水素付加された対応物よりも臨界ミセル濃度が低く、このことは対応する凝集体の安定性が高いことを意味する。過フッ素化アルキル鎖のこれらの特性は、自己組織化して安定なミセルとなり、高度にフッ素化された薬物の送達に用いることのできる半フッ素化ブロック共重合体を設計するために用いられる。
【0026】
単分散のポリ(エチレングリコール)(Mn=6000a.m.u.)と過フッ素化アルキル鎖をカップリングすると、自己組織化してナノスコピックなミセル構造となる両親媒性のブロック共重合体(F8P6)が生成される。ポリ(エチレングリコール)は、その親水性およびステルス特性(stealth properties)のために選択されてきた。F8P6に由来するミセルは、広く用いられているガス状麻酔薬であるセボフルランをカプセル化するために用いることができる。次いで、ミセルセボフルラン複合体をセボフルランの静脈内送達のための手段として用いることができる。
【0027】
実験の項
材料 試薬は全て、さらなる精製を行わずに用いた。1H,1H−パーフルオロ−1−ノナノール、臭化ベンジル(98%)、塩化トシル(99.5%)、ポリ(エチレングリコール)、およびパラジウム活性炭素は、アルドリッチケミカル社(Aldrich Chemical Co.)から購入した。有機溶媒を精製し、アルミナを含有するカラムに流して乾燥させる。FC−72(パーフルオロヘキサン)はシンクェスト社(SynQuest Labs., Inc)から購入した。
【0028】
計測手段 Bruker REFLEX II [マトリックス支援レーザー脱離/イオン化、飛行時間型分析器]を用いて分子量を測定した。ポリマーの19F−NMRスペクトルは、5mm o.d.管を用いるバリアン(Varian)AC−400分光計で得た;サンプルは、内部標準として20mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを含有するCDODまたはDOで調製した。蛍光スペクトルはF3010日立蛍光光度計で得た。ミセルサイズはゼータ電位/粒度分布計Nicomp(商標)380ZLSの動的光散乱から測定した。
【0029】
ベンジル−トシル−ポリ(エチレングリコール)の合成 水素化ナトリウム(0.8g、10.0mmol)を、無水THF中のポリ(エチレングリコール)(Mn=6000、20g、3.3mmol)に加えた。混合物を10分間攪拌した後、臭化ベンジル(0.17g、1.0mmol)をシリンジポンプで10分間かけて加えた。反応混合物を一晩攪拌した後、水で不活化させた。THFを部分的に蒸発させ、エチルエーテルを加えて、モノベンジル−ポリ(エチレングリコール)を、ジベンジル化生成物とともに沈殿させた。さらなる精製を行わずに、モノ保護された(mono-protected:単独の保護を受ける)生成物を無水THFに溶かした、塩化トシル(0.27g,1.4mmol)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(0.4g、3.0mmol)とでトシル化した。反応混合物を一晩攪拌した後、溶媒を部分的に蒸発させ、エチルエーテルを加えて、ベンジル−トシル−ポリ(エチレングリコール)を収率80%で再結晶させた(2ステップ)。生成物の純度をHPLCで確認した。
【0030】
1H,1H−パーフルオロ−1−ノナニル−ポリ(エチレングリコール)の合成 無水THF中、4.8g(0.8mmol)のベンジル−トシル−ポリ(エチレングリコール)へ、水素化ナトリウム(0.5g、21mmol)および1H,1H−パーフルオロ−1−ノナノール(0.36g、0.8mmol)を加えた。反応混合物を2日間還流した後、水で不活化させた。溶媒を部分的に蒸発させ、エチルエーテルを添加して、パーフルオロアルキル−ベンジル−ポリ(エチレングリコール)を沈殿させた。次いでパーフルオロアルキル−ベンジル−ポリ(エチレングリコール)のベンジル保護基を、Hおよび95%エタノール中の10%活性Pd/C下で一晩除去した。得られた混合物をセライト(商標)545パッドで濾過してPd/C粉末を取り除いた。エタノール溶媒を回転蒸発によって部分的に除去した後、エチルエーテルを加えてポリマー生成物を沈殿させた。次いで、不純なポリマー生成物をヘキサンで倍散して、2時間還流した。次いで、得られた沈殿物をt−ブチルメチルエーテルに懸濁し、得られた混合物を一晩還流して、確実に固体から純粋なポリマーを完全抽出した。次いで、t−ブチルメチルエーテル抽出の溶液相を回収し、蒸発させて、純粋なパーフルオロアルキルブロック−ポリ(エチレングリコール)が得られたことを19F−NMR、MALDI−TOF/MS、およびHPLCで確認した。
【0031】
結果および考察
パーフルオロアルキルブロックポリ(エチレングリコール)、略してF8P6の合成を以下に要約する。出発ポリ(エチレングリコール)上のヒドロキシル基の一方をベンジル官能基で保護した。ポリ(エチレングリコール)上の第2のヒドロキシル基をトシル化して対応するフッ素化アルコキシドによる求核置換を容易にした。最後に、ベンジル保護基を水素分解により定量的に取り除いた。最終生成物を、実験の項に記載のように、種々の有機溶媒中での倍散、還流、および抽出の組み合わせにより精製した。最終純度はHPLCにより確認した。
【化1】

【0032】
F8P6は、ポリ(エチレングリコール)鎖(親水性)と、両親媒性の特性をこの直鎖状の共重合体へ付与するパーフルオロカーボンセグメント(超疎水性)との間の疎水性の違いによって自己組織化する能力を有する。水溶液中では、この特性は、自己組織化ナノスコピックミセル構造の形成によって明らかになる。本発明者らは、19F核磁気共鳴、22動的光散乱23および蛍光相関分光法24〜27により種々の濃度のポリマー溶液を調べることによって、この凝集体の特性を決定した。19F−NMR実験は水中のF8P6の凝集特性を調べるために用いた。精製したF8P6を、重水素化されたメタノール(deuterated methanol)かまたは酸化重水素(deuterium oxide)のいずれかに溶解し、対応する19F−NMRスペクトルを記録した。遊離ポリマーのトリフルオロメチル基の共鳴は、重水素化されたメタノールでは、δ=−82.6ppmで1つの鋭いシグナルとして現れる。しかし、酸化重水素では、同じ基がδ=−81.2および−83.2ppmの異なる2つの共鳴として現れる。また、酸化重水素では、全てのNMR共鳴は、重水素化されたメタノールにおける共鳴よりも非常に幅広く、このことはF8P6の凝集を示す。遅い変換条件と仮定すると、CF共鳴の2つは、遊離ポリマーとミセルのものである。
【0033】
共鳴がユニマー(unimer)、またはミセルのいずれのものかを判断するため、19F−NMR実験を、F8P6濃度を漸増させて実施した。DOにおけるF8P6のトリフルオロメチル基の19F−NMRスペクトルは、有意な濃度依存を示す。20mg/mlは、−83.2ppmで、非常に広いシグナルのみが現れるが、低い濃度では−81.2ppmのシグナルが現れてくる。また、−81.2ppmでのシグナルが−83.2ppmでのシグナルよりも鋭く現れる。したがって、−81.2ppmでの共鳴は遊離ポリマーのCFに割り当てられ、−83.2ppmでの共鳴はミセルのCFに割り当てられ、これは遊離ポリマーにおけるCFのより大きい反遮蔽と一致する。
【0034】
F8P6溶液中のミセルの大きさおよびF8P6の臨界ミセル濃度(cmc)を動的光散乱実験によって得た。F8P6の濃度が0.4mg/mlよりも低い場合、粒子は検出されなかった。ポリマー濃度が0.75mg/mlへと増加するにつれ、測定されたミセルサイズは、球形のミセル形成と想定して10.7nmまで増加した。F8P6の濃度が1mg/mlを超えると、自己組織化したミセルの大きさは一定のままであった。
【0035】
ピレンは、凝集の開始とミセルコアの内側への水の浸透度の双方を調べるためのプローブとして広く用いられている。ピレンプローブの振電蛍光スペクトル(vibronic fluorescence spectrum)の第1と第3ピークの強度の比(I/I)は、その直接の環境の極性に応じて変わる。本発明者らの測定した水および過フッ素化ヘキサン(FC−72)におけるI/I値は、それぞれ1.70および0.85に等しい。I/I値はF8P6の濃度が臨界ミセル濃度値まで増加すると急激に低下するが、このことは内部フルオラス相を特徴とするミセルの形成を示している。1mg/mlに相当する、界面活性剤の濃度での1.35という値は、既に認識されているピレンの親フッ素性環境での制限された溶解度、および、ポリエチルグリコール鎖26の高い溶媒和によってフルオラスコアに近接して水が存在すると仮定されることの双方に一致する。ピレンは、ポリ(エチレングリコール)とフルオロカーボン鎖の境界面に位置すると推測される。したがって、その蛍光は、水相よりも疎水性であるが純粋なフルオラス相よりも疎水性の低い環境を反映する。その結果、対応するI/I比は、純粋なフルオラス相において測定されたI/Iよりも大きくなる。
【0036】
動的光散乱データを、種々のポリマー濃度で観察したピレン蛍光の変化と組み合わせると、F8P6の臨界ミセル濃度を0.75mg/mlとして正確に測定することが可能となった。ミセルの会合数(各ミセルを含むポリマーのモノマー数)も定常状態の蛍光の不活化(quenching:消滅させる)技術によって測定した。本発明者らはピレンをフルオロフォアとして、また3,4−ジメチルベンゾフェノンを不活化剤として用いた。本発明者らは各ミセルが7個のポリマー分子で構成されていることを見出した。
【0037】
F8P6が自己組織化してナノスコピックなフルオラスコアミセルとなることを発見したことから、本発明者らはこれらのミセルのカプセル化特性を調べることとなった。高度にフッ素化された分子は、その親フッ素性の特性のために認識および結合が困難であることは周知である。セボフルラン、111,333−ヘキサフルオロイソプロピル−フルオロメチルエーテルは、米国で最も効果的、かつ広く用いられている麻酔薬であるが、これをカプセル化の研究に用いた。
【0038】
この目的のため、2μlのセボフルランおよびトリフルオロ酢酸ナトリウム(内部標準)を、0.5mg/ml〜6mg/mlの濃度範囲のF8P6ポリマー溶液1mlへ加えた。この溶液を密閉バイアル中56℃で1時間攪拌し、次いで室温で30分間冷却してセボフルラン−ミセル複合体の形成を誘導した。これらの複合体のNMR調査により、セボフルランの2つの19F−NMR共鳴が、F8P6の添加によって有意にシフトしたことが示され、このことがF8P6ミセルのフルオラスコア内へのセボフルランのカプセル化を示している。セボフルラン−ミセル複合体形成の開始点は、F8P6の臨界ミセル濃度で検出できる。ポリマーの濃度の上昇、ひいてはミセルの数の増加によって、溶液中のセボフルラン全てのミセルフルオラスコア内への完全なカプセル化がもたらされた。ポリ(エチレングリコール)を含有する溶液での対照実験は、セボフルランの化学シフトにいかなる変化も示さなかったことから、F8P6のパーフルオロアルキル基が麻酔薬の認識およびカプセル化に重要であることが証明された。
【0039】
2μlのセボフルランは、3mg/mlポリマー溶液1ml中のミセルを飽和させることができる。これは、F8P6のミセルあたり300個のセボフルラン分子に相当する。この数の多さは提案されるF8P6の臨床適用に非常に有望である。
【0040】
本発明を特定の実施形態に対して記載してきたが、本発明がそれらの実施形態に限定されるというものではない。本発明の精神の範囲内における改変は当業者には明白である。例えば、具体的なブロック共重合体F86Pの合成を本発明の一実施形態として記載し、ブロック共重合体2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘンエイコサフルオロ−1−ウンデカニル−ポリ(エチレングリコール)モノ−メチルエーテルの合成を本発明の代替の実施形態として記載しているが、特定の薬物のカプセル化に適した非常に多数の化学的に別個のブロック共重合体を、上記の原則に従って考案することができる。開示される半フッ素化/親水性ブロック共重合体は注射用のセボフルランをカプセル化するために適しているが、また、高度にフッ素化された多数の薬物のカプセル化にも有用である。上記の半フッ素化/疎水性/親水性−3−ブロック共重合体は、多種多様なフッ素化薬物および疎水性薬物、およびフッ素化および疎水性双方の領域または成分を含有する薬物のカプセル化に適し得る。具体的な半フッ素化/疎水性/親水性−3−ブロック共重合体の合成は上記では記載していないが、候補共重合体としては、架橋アルキルカーボン(図7の704)が、8個以上の炭素を有する炭化水素ポリマーブロックに拡大されるF8P6様分子が挙げられる。F8P6に類似するが、半フッ素化鎖がそれよりも長いおよび短い、半フッ素化およびフッ素化ブロック共重合体をさらに用いてもよい。例えば、C1021またはC13フッ素化ブロックを用いて異なる薬物カプセル化特性および徐放特性を有するフルオラスコアミセルを形成できる。C2041と同じ長さの半フッ素化およびフッ素化ブロックを用いて薬物封入ミセルを形成することができる。代替の実施形態では、上記に論じたように、半フッ素化/疎水性/親水性−3−ブロック共重合体における領域の順序を変えて疎水性コアとフルオラス性の内側シェルを有するミセルを生成することもできる。さらに他の代替の実施形態では、特定の生物学的受容体によって認識および結合される、特定の標的組織または器官により選択的に取り込まれる、あるいは免疫応答を含めた、特定の応答を誘発する、カプセル化された薬物の活性化または化学活性に適した生理学的環境をもたらす化学置換基を加えることを含め、共重合体の親水性ブロックを化学的に変更または置換して、ミセルを特定の器官または組織へ導くことができる。ミセルを形成するために用いられるブロック共重合体のブロックは、毒性、適当な時間でのミセル消散、ミセルの内側シェルまたはコア内での特定の薬物の溶解度の調整、およびその他の理由のために化学的に変更してもよい。F8P6が適した濃度で水中でミセルを形成する一方で、異なるブロック共重合体は特定の薬物送達システムに有用な固有の特性を有する内側シェルによって被包された水性の空洞を含むリポソーム様構造を導く。さらに、フッ素化または半フッ素化ブロックを有するポリマーを含む多様な他の種類の超分子構造体が、溶液中で安定に形成され、生体液内で医薬をカプセル化および輸送するために使用できる。さらなる超分子構造体としては、管様構造、小胞、折り重なったシート状の構造、二重層、薄膜、および複雑な不規則構造が挙げられる。本発明の実施形態は、構造の特定の形態よりも、安定した超分子構造体のフッ素化または半フッ素化領域内での医薬の安定化に応じて変わる。フルオラスコアミセルおよび他のフルオラス相を含有する超分子構造体の注射は、フルオラスコアミセルおよび他のフルオラス相含有超分子構造体にカプセル化された薬物を投与するための1つの可能性ある方法であるが、フルオラスコアミセルおよび他のフルオラス相含有超分子構造体を患者の外部の生物液または合成液へ導入すること、例えば透析中に、フルオラスコアミセルおよび他のフルオラス相含有超分子構造体の皮膚または膜組織からの吸収によって、また他の手段によって導入することを含め、フルオラスコアミセルおよび他のフルオラス相含有超分子構造体を患者または動物へ導入するための他の方法も使用できる。上記の実施形態は薬物送達を対象とするが、フルオラスコアミセルの代替的な実施形態は、薬物合成に有用な中間体ミセルナノ構造、分析および診断目的に有用なミセル、物質回収のためフッ素化分子および他の種類の分子を隔離するために有用なミセル、汚染の軽減、および他の目的を対象とできる。また、ナノ微細加工装置内の指定された場所でフッ素化低分子を順序づけて設置するために、フルオラスコアミセルをナノテクノロジーで用途を見出すこともできる。
【0041】
以上の記載には、説明を目的として、本発明の完全な理解をもたらすために具体的な学術用語を用いた。しかし、当業者であれば、本発明を実践するためには具体的な詳細は必要でないことは明らかである。以上の本発明の具体的な実施形態の記載は、例証および説明を目的として示している。それらは本発明を余すところなく記載しようとするものでも、開示される明確な形態に本発明を限定しようとするものでもない。先の教示を考慮する場合、多くの改変および変形が可能であることは明らかである。実施形態は、本発明の原則およびその実際的な適用を最もよく説明するために、それによって本発明および企図される特定の使用に適した種々の改変を含む種々の実施形態を当業者が最大限に活用することができるように示し、記載している。本発明の範囲は以下の特許請求の範囲およびそれらの同等物により定義されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】両親媒性ホスファチジルコリン分子の自己凝集により形成されたリポソームを示す図である。
【図2】ホスファチジルコリン分子の化学構造を示す図である。
【図3】両親媒性リゾリン脂質分子の自己凝集により形成された疎水性コアミセルを示す図である。
【図4】高度にフッ素化された薬物セボフルランの化学構造を示す図である。
【図5】本発明の第一の実施形態を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態を表す疎水性の内側シェル、フルオラスコアミセルを示す図である。
【図7】本発明の一実施形態を表す半フッ素化ブロック共重合体の化学構造を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態を表すF8P6の合成における合成ステップを示す図である。
【図9】本発明の一実施形態を表す2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘンエイコサフルオロ−1−ウンデカニル−ポリ(エチレングリコール)モノ−メチルエーテルの合成における合成ステップを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親フッ素性化学物質カプセル化システムであって、
親フッ素性化学物質と、
いくつかのブロック共重合体分子を含む超分子構造体と、を含み、
各ブロック共重合体分子が、フッ素化ブロックおよび半フッ素化ブロックのうちの少なくとも一方を含有する、システム。
【請求項2】
親フッ素性化学物質が少なくとも1個のフッ素原子を含有する、請求項1に記載の親フッ素性化学物質カプセル化システム。
【請求項3】
親フッ素性化学物質が少なくとも1個のフッ素原子を含有する薬物である、請求項1に記載の親フッ素性化学物質カプセル化システム。
【請求項4】
薬物がセボフルランである、請求項3に記載の親フッ素性化学物質カプセル化システム。
【請求項5】
いくつかのブロック共重合体分子を含む超分子構造体が、
ポリエチレングリコール/半フッ素化アルカンブロック共重合体分子、
およびポリエチレングリコール/フッ素化アルカンブロック共重合体分子
のうちの一方を含むフルオラスコアミセルである、請求項1に記載の親フッ素性化学物質カプセル化システム。
【請求項6】
ブロック共重合体分子の各々が、20〜300個の間のエトキシモノマーを含有するポリエチレングリコールブロックを含む、請求項5に記載の親フッ素性化学物質カプセル化システム。
【請求項7】
ブロック共重合体分子の各々が、4〜70個の間の炭素原子を有する半フッ素化アルカンおよびフッ素化アルカンのうちの一方を含む、請求項5に記載の親フッ素性化学物質カプセル化システム。
【請求項8】
ブロック共重合体分子が、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘンエイコサフルオロ−1−ウンデカニル−ポリ(エチレングリコール)モノ−メチルエーテルと、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘプタデカフルオロ−1−ノナニル−ポリ(エチレングリコール)
のうちの一方である、請求項5に記載の親フッ素性化学物質カプセル化システム。
【請求項9】
いくつかのブロック共重合体分子を含む超分子構造体が、各々、少なくとも1つの親水性ブロックと、1つの疎水性ブロックと、1つのフッ素化または半フッ素化ブロックとを有するブロック共重合体分子を含有するフルオラスコアミセルである、請求項1に記載の親フッ素性化学物質カプセル化システム。
【請求項10】
いくつかのブロック共重合体分子を含む超分子構造体が、各々、少なくとも1つの親水性ブロックと、1つのフッ素化または半フッ素化ブロックと、1つの疎水性ブロックとを有するブロック共重合体分子を含有する疎水性コアミセルである、請求項1に記載の親フッ素性化学物質カプセル化システム。
【請求項11】
いくつかのブロック共重合体分子を含む超分子構造体が、フルオラス相の領域を含有し、前記超分子構造体が、
ミセル、管様の超分子構造体、小胞、折り重なったシート状の超分子構造体、二重層、規則的な薄膜および複雑な不規則構造体
のうちの1つである、請求項1に記載の親フッ素性化学物質カプセル化システム。
【請求項12】
親フッ素性薬物を投与する方法であって、
親フッ素性薬物を、各々が
フッ素化ブロックおよび半フッ素化ブロックのうちの少なくとも一方を含有する、いくつかのブロック共重合体分子を含む超分子構造体にカプセル化することと、
親フッ素性薬物を患者に導入することと、を含む、方法。
【請求項13】
親フッ素性薬物を、注射、透析、および吸収のうちの1つにより患者に導入する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
親フッ素性薬物が少なくとも1個のフッ素原子を含有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
親フッ素性薬物がセボフルランである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
いくつかのブロック共重合体分子を含む超分子構造体が、
ポリエチレングリコール/半フッ素化アルカンブロック共重合体分子、
およびポリエチレングリコール/フッ素化アルカンブロック共重合体分子
のうちの一方を含むフルオラスコアミセルである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
ブロック共重合体分子の各々が、20〜300個の間のエトキシモノマーを含有するポリエチレングリコールブロックを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ブロック共重合体分子の各々が、4〜30個の間の炭素原子を有する半フッ素化アルカンとフッ素化アルカンのうちの一方を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ブロック共重合体分子が、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘンエイコサフルオロ−1−ウンデカニル−ポリ(エチレングリコール)モノ−メチルエーテルと、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘプタデカフルオロ−1−ノナニル−ポリ(エチレングリコール)
のうちの一方である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
いくつかのブロック共重合体分子を含む超分子構造体が、各々、少なくとも1つの親水性ブロックと、1つの疎水性ブロックと、1つのフッ素化または半フッ素化ブロックとを有するブロック共重合体分子を含有するフルオラスコアミセルである、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
いくつかのブロック共重合体分子を含む超分子構造体が、各々、少なくとも1つの親水性ブロックと、1つのフッ素化または半フッ素化ブロックと、1つの疎水性ブロックとを有するブロック共重合体分子を含有する疎水性コアミセルである、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
いくつかのブロック共重合体分子を含む超分子構造体が、フルオラス相領域を含有する、前記超分子構造体が、
ミセル、管様の超分子構造体、小胞、折り重なったシート状の超分子構造体、二重層、規則的な薄膜および複雑な不規則構造
のうちの1つである、請求項12に記載の化学的カプセル化システム。
【請求項23】
ポリエチレングリコールブロックと、
ポリエチレングリコールブロックと共有結合したフッ素置換アルカンブロックと、
を含む、フルオラス相含有ミセル成分化合物。
【請求項24】
ポリエチレングリコールブロックが20〜300個の間のエトキシモノマーを含む、請求項23に記載のフルオラス相含有ミセル成分化合物。
【請求項25】
ポリエチレングリコールブロックがメトキシ基で終わる、請求項23に記載のフルオラス相含有ミセル成分化合物。
【請求項26】
フッ素置換アルカンブロックが、4〜70個の間の炭素原子を有する半フッ素化アルカンである、請求項23に記載のフルオラス相含有ミセル成分化合物。
【請求項27】
フッ素置換アルカンブロックが、4〜30個の間の炭素原子を有するフッ素化アルカンである、請求項23に記載のフルオラス相含有ミセル成分化合物。
【請求項28】
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘンエイコサフルオロ−1−ウンデカニル−ポリ(エチレングリコール)モノ−メチルエーテルと、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘプタデカフルオロ−1−ノナニル−ポリ(エチレングリコール)
のうちの一方をさらに含む、請求項23に記載のフルオラス相含有ミセル成分化合物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−519634(P2007−519634A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547619(P2006−547619)
【出願日】平成17年1月3日(2005.1.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/000100
【国際公開番号】WO2005/067517
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(506223510)ウィスコンシン・アルムニ・リサーチ・ファウンデーション (11)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】