半割軸受
【課題】 異物排出性に優れた内燃機関のクランク軸用の半割軸受を提供する。
【解決手段】 下半割軸受3には、クランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる下半割軸受3の内周面3aの周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5と下半割軸受3の内周面3aとに隣接するように、幅方向の全体に亘って軸線方向溝6が形成されることにより、回転するクランク軸10表面に付随して流れる油とともに、リリーフ隙間7に排出された異物11が軸線方向溝6側に向かって流れたとしても、この異物11がクラッシュリリーフ5に埋収され難く、軸線方向溝6内を流れる油とともに、下半割軸受3の幅方向端部から外部へ効率よく排出することができる。
【解決手段】 下半割軸受3には、クランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる下半割軸受3の内周面3aの周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5と下半割軸受3の内周面3aとに隣接するように、幅方向の全体に亘って軸線方向溝6が形成されることにより、回転するクランク軸10表面に付随して流れる油とともに、リリーフ隙間7に排出された異物11が軸線方向溝6側に向かって流れたとしても、この異物11がクラッシュリリーフ5に埋収され難く、軸線方向溝6内を流れる油とともに、下半割軸受3の幅方向端部から外部へ効率よく排出することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内周面の周方向両端部にクラッシュリリーフが形成された内燃機関のクランク軸用の半割軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のクランク軸におけるジャーナル部やクランクピン部のすべり軸受は、2つの半割軸受を組み合わせて円筒形にしたものを使用している。このすべり軸受に対する油の供給は、まず、ジャーナル部用のすべり軸受の外部から該すべり軸受の内周面に形成された油溝内に供給され、その潤滑油がジャーナル部用のすべり軸受の摺動面に供給されるとともに、クランク軸の内部油路を経て、クランクピン部用のすべり軸受の摺動面に供給される(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、従来のクランク軸におけるジャーナル部やクランクピン部のすべり軸受では、半割軸受の内周面にクラッシュリリーフを形成することにより、一対の半割軸受を軸受ハウジングに組み付けたとき、該半割軸受の突き合わせ端面の位置ずれや変形を吸収することが図られている。なお、クラッシュリリーフとは、半割軸受の円周方向端面に近い領域の軸受壁厚さを円周方向端面に向かって次第に減じた壁厚減少領域を指し、該壁厚減少領域における軸受内周面の曲率中心位置が、その他の領域における軸受内周面の曲率中心位置と異なっている(SAE J506(項目3.26、項目6.4参照)、DIN1497(セクション3.2)、JIS D3102(項目2.4)で規定されている)。
【0004】
また、すべり軸受に供給される油中に混入する異物がすべり軸受の摺動面へ混入することを防止するため、半割軸受の内周面の周方向端部にクラッシュリリーフだけでなく面取を形成し、そのクラッシュリリーフ及び面取とクランク軸表面との隙間を異物排出路とするすべり軸受が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−277831号公報
【特許文献2】特開2005−69283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、内燃機関のオイルポンプが小型化され、すべり軸受に供給される油量が少なくなっている。これに伴い、クランク軸表面とすべり軸受の内周面(摺動面)との間の軸受隙間は、この軸受隙間から外部へ漏れ出る油量を少なくするため、小さく設定される傾向にある。このような状況下でも、油に付随してすべり軸受の内周面に混入する異物のうち軸受隙間より小さな異物は、軸受隙間に混入しても油とともに流れ去るので、すべり軸受の内周面に埋収し難く、軸受性能への影響が少ない。
【0007】
一方で、すべり軸受の内周面に混入する異物のうち軸受隙間より大きな異物は、半割軸受の内周面にクラッシュリリーフを形成した場合、給油路から軸受隙間よりも隙間が大きいクラッシュリリーフ部に排出される。このクラッシュリリーフ部、すなわちクラッシュリリーフ面とクランク軸表面との間のリリーフ隙間に排出された異物は、その一部の異物は、半割軸受の幅方向両端部のリリーフ隙間から外部へ漏れ出る油とともに排出されるが、残留した異物は、回転するクランク軸表面に付随してクランク軸の回転先側へ流れる油とともに、半割軸受の内周面側へ流れる。
【0008】
しかしながら、クランク軸の相対回転方向の後方側にあたる半割軸受の周方向端部に形成されたクラッシュリリーフは、クランク軸の相対回転方向の前方側に向かって次第にリリーフ隙間が小さくなっている。このため、半割軸受の内周面側へ流れた異物は、リリーフ隙間が小さくなる部分でクランク軸表面と接触するようになり、クラッシュリリーフ面やクラッシュリリーフと隣接する半割軸受の内周面に押し込まれてしまう。特に、近年では軸受隙間が小さく設定される傾向にあるため、多量の異物の埋収部が、クランク軸の相対回転方向の後方側にあたる半割軸受の内周面の周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ面やクラッシュリリーフと隣接する半割軸受の内周面に形成されやすい。このように、半割軸受に局部的な多量の異物の埋収部が形成されると、異物とクランク軸表面との接触による発熱で、半割軸受の内周面に焼付が発生するおそれがある。
【0009】
また、特許文献2に開示された技術のように、半割軸受の内周面の周方向端部にクラッシュリリーフだけでなく軸線方向溝(面取)を形成した場合、クラッシュリリーフ部に排出された異物の多くは、回転するクランク軸表面に付随してクランク軸の回転先側へ流れる油とともに、軸線方向溝を通過してしまう。このため、リリーフ隙間に排出された異物は、クランク軸の相対回転方向の後方側におけるリリーフ隙間の小さい部分に流されやすく、半割軸受の内周面の周方向端部にクラッシュリリーフのみを形成した場合と同じく、クランク軸表面によりクラッシュリリーフ面に押し込まれて半割軸受に局部的な異物の埋収部が形成されやすい。
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、異物排出性に優れた内燃機関のクランク軸用の半割軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、内周面の周方向両端部にクラッシュリリーフが形成された内燃機関のクランク軸用の半割軸受において、少なくとも前記クランク軸の相対回転方向の後方側にあたる前記半割軸受の内周面の周方向端部に形成された前記クラッシュリリーフと前記半割軸受の内周面とに隣接する位置に軸線方向溝を形成し、前記軸線方向溝は、前記半割軸受の内周面の幅方向の全体に亘って形成されることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に係る発明においては、請求項1記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受において、前記軸線方向溝の深さは、0.1mm以上0.5mm以下であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に係る発明においては、請求項1又は請求項2に記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受において、前記軸線方向溝の幅は、0.1mm以上2mm以下であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受において、前記軸線方向溝は、前記クランク軸の相対回転方向の前方側にあたる前記半割軸受の内周面の周方向端部に形成された前記クラッシュリリーフと前記半割軸受の内周面とに隣接する位置にも形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明においては、少なくともクランク軸の相対回転方向の後方側にあたる半割軸受の内周面の周方向端部に形成されたクラッシュリリーフと半割軸受の内周面とに隣接する位置に軸線方向溝を形成し、軸線方向溝は、半割軸受の内周面の幅方向の全体に亘って形成されることにより、給油路からリリーフ隙間(クラッシュリリーフ面とクランク軸表面との間の隙間)に排出された異物が、回転するクランク軸表面に付随して流れる油とともに、軸線方向溝側に向かって流れる。そして、リリーフ隙間をクランク軸の回転先側へ流れる油が軸線方向溝に到達すると、軸受隙間(クランク軸表面とすべり軸受の内周面との間の隙間)と軸線方向溝に分岐して流れるが、リリーフ隙間に排出された異物のうち軸受隙間より大きな異物は、軸線方向溝に進入するようになる。このように、半割軸受の内周面に隣接したリリーフ隙間がもっとも小さくなる部分には、軸線方向溝が形成されているので、リリーフ隙間に排出された異物がクラッシュリリーフ面に埋収され難く、軸線方向溝内を流れる油とともに、半割軸受の幅方向端部から外部へ効率よく排出することができる。
【0016】
また、請求項2に係る発明のように、軸線方向溝の深さは、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。軸線方向溝の深さは、油中に混入する異物のサイズが最大で0.1mm程度であるため、異物が進入できるように0.1mm以上とする必要がある。一方、軸線方向溝の深さは、過度に深くすると、軸線方向溝からの油の漏れ量が多くなり過ぎるため、0.5mm以下とすることが好ましい。
【0017】
また、請求項3に係る発明のように、軸線方向溝の幅は、0.1mm以上2mm以下であることことが好ましい。軸線方向溝の幅は、油中に混入する異物のサイズが最大で0.1mm程度であるため、異物が進入できるように0.1mm以上とする必要がある。一方、軸線方向溝の幅は、過度に広くすると、軸線方向溝からの油の漏れ量が多くなり過ぎるため、2mm以下とすることが好ましい。
【0018】
また、請求項4に係る発明においては、軸線方向溝は、クランク軸の相対回転方向の後方側のみならず、クランク軸の相対回転方向の前方側にあたる半割軸受の内周面の周方向端部に形成されたクラッシュリリーフと半割軸受の内周面とに隣接する位置にも形成されることにより、半割軸受を軸受ハウジングに組み付ける際に、クランク軸の相対回転方向の前方側にあたる半割軸受の内周面のみに軸線方向溝が位置されて組み付けられるという誤りを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】クランク軸のジャーナル部を支持する一対の半割軸受からなるすべり軸受の側面図である。
【図2】ジャーナル部用すべり軸受における上半割軸受の平面図である。
【図3】ジャーナル部用すべり軸受における下半割軸受の平面図である。
【図4】クランク軸のクランクピン部を支持する一対の半割軸受からなるすべり軸受の側面図である。
【図5】クランクピン部用すべり軸受における上半割軸受の平面図である。
【図6】クランクピン部用すべり軸受における下半割軸受の平面図である。
【図7】クランクピン部用すべり軸受における異物の排出メカニズムを説明するためのすべり軸受の側面図(A)及び平面図(B)である。
【図8】クランクピン部用すべり軸受における異物の排出メカニズムを説明するためのすべり軸受の側面図(A)及び平面図(B)である。
【図9】軸線方向溝の横断面図である。
【図10】クランク軸のクランクピン部を支持する一対の半割軸受に各々2つの軸線方向溝を形成したすべり軸受の側面図である。
【図11】半割軸受における軸線方向溝を形成する範囲を説明するための半割軸受の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図1乃至図11を参照して説明する。図1は、クランク軸10のジャーナル部を支持する一対の半割軸受2,3からなるすべり軸受1の側面図であり、図2は、ジャーナル部用すべり軸受1における上半割軸受2の平面図であり、図3は、ジャーナル部用すべり軸受1における下半割軸受3の平面図であり、図4は、クランク軸10のクランクピン部を支持する一対の半割軸受2,3からなるすべり軸受1の側面図であり、図5は、クランクピン部用すべり軸受1における上半割軸受2の平面図であり、図6は、クランクピン部用すべり軸受1における下半割軸受3の平面図であり、図7及び図8は、クランクピン部用すべり軸受1における異物11の排出メカニズムを説明するためのすべり軸受1の側面図(A)及び平面図(B)であり、図9は、軸線方向溝6の横断面図であり、図10は、クランク軸10のクランクピン部を支持する一対の半割軸受2,3に各々2つの軸線方向溝6を形成したすべり軸受1の側面図であり、図11は、半割軸受2,3における軸線方向溝6を形成する範囲を説明するための半割軸受2,3の側面図である。なお、上記した図は、実施形態に係るすべり軸受1の概略図であり、構成,構造等を理解し易くするために各箇所が誇張あるいは省略して描かれている。
【0021】
まず、クランク軸10のジャーナル部に本発明の半割軸受2,3を適用した第1実施形態について、図1乃至図3を参照して説明する。図1に示すように、内燃機関のクランク軸10を回転可能に支持するすべり軸受1は、半割形状に形成された一対の半割軸受2,3を上下2個組み合わせて円筒形状となるように形成されている。この半割軸受2,3の内周面2a,3aは、耐焼付性など半割軸受2,3の軸受特性を満足するために、例えば、鋼裏金に銅系合金、アルミニウム合金、錫系または鉛系合金等の摺動材がライニングされており、必要に応じて錫系または鉛系合金や合成樹脂系等のオーバーレイが施されている。
【0022】
また、図2に示すように、半割軸受2,3のうち上半割軸受2の内周面2aには、半割軸受2,3と該半割軸受2,3に支持されるクランク軸10との間に潤滑油を供給するための油溝4が、円周方向の全体に沿って幅方向ほぼ中央に形成されている。この油溝4は、円周方向の所定の範囲に亘って一定の深さ、若しくは深さを漸減または漸増するように形成される。また、油溝4には、外部から油の供給を受けるための供給穴4aが、上半割軸受2の半径方向に貫通して形成されている。
【0023】
また、図2及び図3に示すように、半割軸受2,3の内周面2a,3aには、凹形状に切り欠かれたクラッシュリリーフ5が、幅方向の全体に亘って周方向両端部に形成されている。このクラッシュリリーフ5は、図1に示すように、2つの半割軸受2,3を組み合わせて円筒形状にした際、クランク軸10表面との間にリリーフ隙間7が形成されることになり、半割軸受2,3の突き合わせ端面での位置ずれや変形を吸収し、クランク軸10との局部当たりを防止するものである。なお、半割軸受2,3のクランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5は、クランク軸10の相対回転方向の前方側へ向かって次第にリリーフ隙間7が小さくなり、半割軸受2,3のクランク軸10の相対回転方向の前方側にあたる周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5は、クランク軸10の相対回転方向の後方側へ向かって次第にリリーフ隙間7が小さくなるように形成されている。
【0024】
ところで、図1及び図3に示すように、第1実施形態に係る下半割軸受3には、この内周面3aの周方向両端部に形成されたクラッシュリリーフ5のうち、クランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる下半割軸受3の内周面3aの周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5と下半割軸受3の内周面3aとに隣接するように、幅方向の全体に亘って、V字形状に切り欠かれた軸線方向溝6が形成されている。
【0025】
上記のように構成される下半割軸受3においては、上半割軸受2の油溝4からリリーフ隙間7に排出された異物11(図7及び図8参照)が、回転するクランク軸10表面に付随して流れる油とともに、軸線方向溝6側に向かって流れる。そして、リリーフ隙間7をクランク軸10の回転先側へ流れる油が軸線方向溝6に到達すると、クランク軸10表面と半割軸受2,3の内周面2a,3aとの間の軸受隙間8と軸線方向溝6に分岐して流れるが、リリーフ隙間7に排出された異物11のうち軸受隙間8より大きな異物11は、軸線方向溝6に進入するようになる。このように、下半割軸受3の内周面3aに隣接したリリーフ隙間7がもっとも小さくなる部分には、軸線方向溝6が形成されているので、リリーフ隙間7に排出された異物11がクラッシュリリーフ5に埋収され難く、軸線方向溝6内を流れる油とともに、下半割軸受3の幅方向端部から外部へ効率よく排出することができる。
【0026】
次に、クランク軸10のクランクピン部に本発明の半割軸受2,3を適用した第2実施形態について、図4乃至図8を参照して説明する。なお、第1実施形態と同じ機能を奏する部材については、第1実施形態と同じ符号が付してある。図4に示すように、クランク軸10表面には、クランク軸10の内部油路を経て、半割軸受2,3と該半割軸受2,3に支持されるクランク軸10との間に潤滑油を供給するための油孔10aが開口している。
【0027】
また、図4乃至図6に示すように、第2実施形態に係る半割軸受2,3には、この内周面2a,3aの周方向両端部に形成されたクラッシュリリーフ5のうち、クランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる半割軸受2,3の内周面2a,3aの周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとに隣接するように、幅方向の全体に亘って、V字形状に切り欠かれた軸線方向溝6が形成されている。このように、第2実施形態では、下半割軸受3の内周面3aだけでなく上半割軸受2の内周面2aにも、軸線方向溝6が形成されている。ただし、第2実施形態では、一対の半割軸受2,3のいずれもが軸線方向溝6を有する構成を示したが、一対の半割軸受2,3のいずれか一方のみが軸線方向溝6を有する構成としてもよい。
【0028】
上記のように構成される半割軸受2,3においては、図7(A),(B)に示すように、クランク軸10の内部油路内の油と異物11が、クランク軸10表面に開口する油孔10aからリリーフ隙間7に排出される。そして、リリーフ隙間7に排出された異物11は、回転するクランク軸10表面に付随してクランク軸10の回転先側へ流れる油とともに、軸線方向溝6側に向かって流れるが、クランク軸10表面に開口する油孔10aよりも僅かに遅れて軸線方向溝6に到達する。また、クランクピン表面に開口する油孔10aが軸線方向溝6を通過し終わるときには、図8(A),(B)に示すように、クランク軸10表面に開口する油孔10aの大部分が下半割軸受3の内周面3aにより閉塞されるため、軸線方向溝6を流れる油の流速が瞬間的に極めて速くなる。このため、クランク軸10表面に開口する油孔10aよりも僅かに遅れて軸線方向溝6に到達する異物11は、この軸線方向溝6内の速い油の流れにより、下半割軸受3の幅方向端部から外部へ速やかに排出することができる。このように、クランク軸10のクランクピン部に本発明の半割軸受2,3を適用した第2実施形態では、軸線方向溝6内に瞬間的な速い油の流れが形成されるため、クランク軸10のジャーナル部に本発明の半割軸受2,3を適用した第1実施形態よりも、軸線方向溝6内に到達した異物11の排出を効果的に行うことができる。
【0029】
なお、本願の半割軸受2,3とは異なり、クラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとの境界に軸線方向溝6を形成しない場合には、クランク軸10表面に開口する油孔10aがクラッシュリリーフ5を通過し終わるときには、クランク軸10表面に開口する油孔10aからの油がリリーフ隙間7全体に分散して流れるので、異物11を半割軸受2,3の幅方向端部側へ押し流すほど速い油の流れが形成されることがない。また、本発明の半割軸受2,3の構成とは異なり、例えば、クラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとの境界付近に複数の軸線方向溝6を形成した場合には、複数の軸線方向溝6から半割軸受2,3の外部への油の漏れ量が多くなり過ぎる。また、クランク軸10表面に開口する油孔10aが複数の軸線方向溝6を通過し終わるときには、クランク軸10表面に開口する油孔10aからの油が複数の軸線方向溝6に分散して流れるため、複数の軸線方向溝6内に瞬間的な速い油の流れが形成されないので、複数の軸線方向溝6内からの異物排出性が低くなってしまう。
【0030】
また、図9に示すように、軸線方向溝6の横断面形状は、V字形状に形成されているが、その深さD及び幅Wは、油中に混入する異物11のサイズが最大で0.1mm程度であるため、異物11が進入できるように各々を0.1mm以上とする必要がある。一方、軸線方向溝6の深さDを過度に深くしたり、軸線方向溝6の幅Wを過度に広くしたりすると、軸線方向溝6からの油の漏れ量が多くなり過ぎる。このため、軸線方向溝6の深さDは0.5mm以下、軸線方向溝6の幅Wは2mm以下とすることが好ましい。なお、軸線方向溝6の深さDは、半割軸受2,3の内周面2a,3aにクラッシュリリーフ5及び軸線方向溝6を形成しなかった場合における仮想の半割軸受2,3の内周面2a,3a(図9に示す点線)からの距離で算出している。また、軸線方向溝6の横断面形状は、本実施形態に示すV字形状に限定されず、例えば、逆台形形状やU字形状などの任意の形状に形成してもよい。
【0031】
また、本実施形態に示す軸線方向溝6は、半割軸受2,3の内周面2a,3aの周方向両端部に形成されたクラッシュリリーフ5のうち、クランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる半割軸受3の内周面2a,3aの周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5と半割軸受3の内周面2a,3aとに隣接する位置のみに形成されたが、図10に示すように、クランク軸10の相対回転方向の後方側だけでなく、クランク軸10の相対回転方向の前方側にあたる半割軸受2,3の内周面2a,3aの周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとに隣接する位置にも、同様の形状の軸線方向溝6を形成してもよい。これにより、半割軸受2,3を軸受ハウジングに組み付ける際に、クランク軸10の相対回転方向の前方側にあたる半割軸受2,3の内周面2a,3aのみに軸線方向溝6が位置されて組み付けられるという誤りを防ぐことができる。
【0032】
また、本実施形態に示す軸線方向溝6は、軸線方向溝6の幅方向中心がクラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとの境界と一致する位置に形成される場合がもっとも好ましい。しかしながら、軸線方向溝6の形成加工時には、工作機械の加工精度により決まる不可避の寸法誤差が発生するため、本発明ではこの不可避の寸法誤差が許容される。具体的には、図11に示すように、半割軸受2,3に軸線方向溝6を形成しなかった場合における仮想のクラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとの境界から半割軸受2,3中心を結ぶ線と、半割軸受2,3の周方向端面から半割軸受2,3中心を結ぶ線とがなす角度θに対し、軸線方向溝6の幅方向中心から半割軸受2,3中心を結ぶ線の−2°〜+2°の範囲での位置ずれが許容される。
【符号の説明】
【0033】
1 すべり軸受
2 上半割軸受
3 下半割軸受
4 油溝
5 クラッシュリリーフ
6 軸線方向溝
7 リリーフ隙間
8 軸受隙間
10 クランク軸
11 異物
【技術分野】
【0001】
本発明は、内周面の周方向両端部にクラッシュリリーフが形成された内燃機関のクランク軸用の半割軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のクランク軸におけるジャーナル部やクランクピン部のすべり軸受は、2つの半割軸受を組み合わせて円筒形にしたものを使用している。このすべり軸受に対する油の供給は、まず、ジャーナル部用のすべり軸受の外部から該すべり軸受の内周面に形成された油溝内に供給され、その潤滑油がジャーナル部用のすべり軸受の摺動面に供給されるとともに、クランク軸の内部油路を経て、クランクピン部用のすべり軸受の摺動面に供給される(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、従来のクランク軸におけるジャーナル部やクランクピン部のすべり軸受では、半割軸受の内周面にクラッシュリリーフを形成することにより、一対の半割軸受を軸受ハウジングに組み付けたとき、該半割軸受の突き合わせ端面の位置ずれや変形を吸収することが図られている。なお、クラッシュリリーフとは、半割軸受の円周方向端面に近い領域の軸受壁厚さを円周方向端面に向かって次第に減じた壁厚減少領域を指し、該壁厚減少領域における軸受内周面の曲率中心位置が、その他の領域における軸受内周面の曲率中心位置と異なっている(SAE J506(項目3.26、項目6.4参照)、DIN1497(セクション3.2)、JIS D3102(項目2.4)で規定されている)。
【0004】
また、すべり軸受に供給される油中に混入する異物がすべり軸受の摺動面へ混入することを防止するため、半割軸受の内周面の周方向端部にクラッシュリリーフだけでなく面取を形成し、そのクラッシュリリーフ及び面取とクランク軸表面との隙間を異物排出路とするすべり軸受が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−277831号公報
【特許文献2】特開2005−69283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、内燃機関のオイルポンプが小型化され、すべり軸受に供給される油量が少なくなっている。これに伴い、クランク軸表面とすべり軸受の内周面(摺動面)との間の軸受隙間は、この軸受隙間から外部へ漏れ出る油量を少なくするため、小さく設定される傾向にある。このような状況下でも、油に付随してすべり軸受の内周面に混入する異物のうち軸受隙間より小さな異物は、軸受隙間に混入しても油とともに流れ去るので、すべり軸受の内周面に埋収し難く、軸受性能への影響が少ない。
【0007】
一方で、すべり軸受の内周面に混入する異物のうち軸受隙間より大きな異物は、半割軸受の内周面にクラッシュリリーフを形成した場合、給油路から軸受隙間よりも隙間が大きいクラッシュリリーフ部に排出される。このクラッシュリリーフ部、すなわちクラッシュリリーフ面とクランク軸表面との間のリリーフ隙間に排出された異物は、その一部の異物は、半割軸受の幅方向両端部のリリーフ隙間から外部へ漏れ出る油とともに排出されるが、残留した異物は、回転するクランク軸表面に付随してクランク軸の回転先側へ流れる油とともに、半割軸受の内周面側へ流れる。
【0008】
しかしながら、クランク軸の相対回転方向の後方側にあたる半割軸受の周方向端部に形成されたクラッシュリリーフは、クランク軸の相対回転方向の前方側に向かって次第にリリーフ隙間が小さくなっている。このため、半割軸受の内周面側へ流れた異物は、リリーフ隙間が小さくなる部分でクランク軸表面と接触するようになり、クラッシュリリーフ面やクラッシュリリーフと隣接する半割軸受の内周面に押し込まれてしまう。特に、近年では軸受隙間が小さく設定される傾向にあるため、多量の異物の埋収部が、クランク軸の相対回転方向の後方側にあたる半割軸受の内周面の周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ面やクラッシュリリーフと隣接する半割軸受の内周面に形成されやすい。このように、半割軸受に局部的な多量の異物の埋収部が形成されると、異物とクランク軸表面との接触による発熱で、半割軸受の内周面に焼付が発生するおそれがある。
【0009】
また、特許文献2に開示された技術のように、半割軸受の内周面の周方向端部にクラッシュリリーフだけでなく軸線方向溝(面取)を形成した場合、クラッシュリリーフ部に排出された異物の多くは、回転するクランク軸表面に付随してクランク軸の回転先側へ流れる油とともに、軸線方向溝を通過してしまう。このため、リリーフ隙間に排出された異物は、クランク軸の相対回転方向の後方側におけるリリーフ隙間の小さい部分に流されやすく、半割軸受の内周面の周方向端部にクラッシュリリーフのみを形成した場合と同じく、クランク軸表面によりクラッシュリリーフ面に押し込まれて半割軸受に局部的な異物の埋収部が形成されやすい。
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、異物排出性に優れた内燃機関のクランク軸用の半割軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、内周面の周方向両端部にクラッシュリリーフが形成された内燃機関のクランク軸用の半割軸受において、少なくとも前記クランク軸の相対回転方向の後方側にあたる前記半割軸受の内周面の周方向端部に形成された前記クラッシュリリーフと前記半割軸受の内周面とに隣接する位置に軸線方向溝を形成し、前記軸線方向溝は、前記半割軸受の内周面の幅方向の全体に亘って形成されることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に係る発明においては、請求項1記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受において、前記軸線方向溝の深さは、0.1mm以上0.5mm以下であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に係る発明においては、請求項1又は請求項2に記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受において、前記軸線方向溝の幅は、0.1mm以上2mm以下であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受において、前記軸線方向溝は、前記クランク軸の相対回転方向の前方側にあたる前記半割軸受の内周面の周方向端部に形成された前記クラッシュリリーフと前記半割軸受の内周面とに隣接する位置にも形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明においては、少なくともクランク軸の相対回転方向の後方側にあたる半割軸受の内周面の周方向端部に形成されたクラッシュリリーフと半割軸受の内周面とに隣接する位置に軸線方向溝を形成し、軸線方向溝は、半割軸受の内周面の幅方向の全体に亘って形成されることにより、給油路からリリーフ隙間(クラッシュリリーフ面とクランク軸表面との間の隙間)に排出された異物が、回転するクランク軸表面に付随して流れる油とともに、軸線方向溝側に向かって流れる。そして、リリーフ隙間をクランク軸の回転先側へ流れる油が軸線方向溝に到達すると、軸受隙間(クランク軸表面とすべり軸受の内周面との間の隙間)と軸線方向溝に分岐して流れるが、リリーフ隙間に排出された異物のうち軸受隙間より大きな異物は、軸線方向溝に進入するようになる。このように、半割軸受の内周面に隣接したリリーフ隙間がもっとも小さくなる部分には、軸線方向溝が形成されているので、リリーフ隙間に排出された異物がクラッシュリリーフ面に埋収され難く、軸線方向溝内を流れる油とともに、半割軸受の幅方向端部から外部へ効率よく排出することができる。
【0016】
また、請求項2に係る発明のように、軸線方向溝の深さは、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。軸線方向溝の深さは、油中に混入する異物のサイズが最大で0.1mm程度であるため、異物が進入できるように0.1mm以上とする必要がある。一方、軸線方向溝の深さは、過度に深くすると、軸線方向溝からの油の漏れ量が多くなり過ぎるため、0.5mm以下とすることが好ましい。
【0017】
また、請求項3に係る発明のように、軸線方向溝の幅は、0.1mm以上2mm以下であることことが好ましい。軸線方向溝の幅は、油中に混入する異物のサイズが最大で0.1mm程度であるため、異物が進入できるように0.1mm以上とする必要がある。一方、軸線方向溝の幅は、過度に広くすると、軸線方向溝からの油の漏れ量が多くなり過ぎるため、2mm以下とすることが好ましい。
【0018】
また、請求項4に係る発明においては、軸線方向溝は、クランク軸の相対回転方向の後方側のみならず、クランク軸の相対回転方向の前方側にあたる半割軸受の内周面の周方向端部に形成されたクラッシュリリーフと半割軸受の内周面とに隣接する位置にも形成されることにより、半割軸受を軸受ハウジングに組み付ける際に、クランク軸の相対回転方向の前方側にあたる半割軸受の内周面のみに軸線方向溝が位置されて組み付けられるという誤りを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】クランク軸のジャーナル部を支持する一対の半割軸受からなるすべり軸受の側面図である。
【図2】ジャーナル部用すべり軸受における上半割軸受の平面図である。
【図3】ジャーナル部用すべり軸受における下半割軸受の平面図である。
【図4】クランク軸のクランクピン部を支持する一対の半割軸受からなるすべり軸受の側面図である。
【図5】クランクピン部用すべり軸受における上半割軸受の平面図である。
【図6】クランクピン部用すべり軸受における下半割軸受の平面図である。
【図7】クランクピン部用すべり軸受における異物の排出メカニズムを説明するためのすべり軸受の側面図(A)及び平面図(B)である。
【図8】クランクピン部用すべり軸受における異物の排出メカニズムを説明するためのすべり軸受の側面図(A)及び平面図(B)である。
【図9】軸線方向溝の横断面図である。
【図10】クランク軸のクランクピン部を支持する一対の半割軸受に各々2つの軸線方向溝を形成したすべり軸受の側面図である。
【図11】半割軸受における軸線方向溝を形成する範囲を説明するための半割軸受の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図1乃至図11を参照して説明する。図1は、クランク軸10のジャーナル部を支持する一対の半割軸受2,3からなるすべり軸受1の側面図であり、図2は、ジャーナル部用すべり軸受1における上半割軸受2の平面図であり、図3は、ジャーナル部用すべり軸受1における下半割軸受3の平面図であり、図4は、クランク軸10のクランクピン部を支持する一対の半割軸受2,3からなるすべり軸受1の側面図であり、図5は、クランクピン部用すべり軸受1における上半割軸受2の平面図であり、図6は、クランクピン部用すべり軸受1における下半割軸受3の平面図であり、図7及び図8は、クランクピン部用すべり軸受1における異物11の排出メカニズムを説明するためのすべり軸受1の側面図(A)及び平面図(B)であり、図9は、軸線方向溝6の横断面図であり、図10は、クランク軸10のクランクピン部を支持する一対の半割軸受2,3に各々2つの軸線方向溝6を形成したすべり軸受1の側面図であり、図11は、半割軸受2,3における軸線方向溝6を形成する範囲を説明するための半割軸受2,3の側面図である。なお、上記した図は、実施形態に係るすべり軸受1の概略図であり、構成,構造等を理解し易くするために各箇所が誇張あるいは省略して描かれている。
【0021】
まず、クランク軸10のジャーナル部に本発明の半割軸受2,3を適用した第1実施形態について、図1乃至図3を参照して説明する。図1に示すように、内燃機関のクランク軸10を回転可能に支持するすべり軸受1は、半割形状に形成された一対の半割軸受2,3を上下2個組み合わせて円筒形状となるように形成されている。この半割軸受2,3の内周面2a,3aは、耐焼付性など半割軸受2,3の軸受特性を満足するために、例えば、鋼裏金に銅系合金、アルミニウム合金、錫系または鉛系合金等の摺動材がライニングされており、必要に応じて錫系または鉛系合金や合成樹脂系等のオーバーレイが施されている。
【0022】
また、図2に示すように、半割軸受2,3のうち上半割軸受2の内周面2aには、半割軸受2,3と該半割軸受2,3に支持されるクランク軸10との間に潤滑油を供給するための油溝4が、円周方向の全体に沿って幅方向ほぼ中央に形成されている。この油溝4は、円周方向の所定の範囲に亘って一定の深さ、若しくは深さを漸減または漸増するように形成される。また、油溝4には、外部から油の供給を受けるための供給穴4aが、上半割軸受2の半径方向に貫通して形成されている。
【0023】
また、図2及び図3に示すように、半割軸受2,3の内周面2a,3aには、凹形状に切り欠かれたクラッシュリリーフ5が、幅方向の全体に亘って周方向両端部に形成されている。このクラッシュリリーフ5は、図1に示すように、2つの半割軸受2,3を組み合わせて円筒形状にした際、クランク軸10表面との間にリリーフ隙間7が形成されることになり、半割軸受2,3の突き合わせ端面での位置ずれや変形を吸収し、クランク軸10との局部当たりを防止するものである。なお、半割軸受2,3のクランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5は、クランク軸10の相対回転方向の前方側へ向かって次第にリリーフ隙間7が小さくなり、半割軸受2,3のクランク軸10の相対回転方向の前方側にあたる周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5は、クランク軸10の相対回転方向の後方側へ向かって次第にリリーフ隙間7が小さくなるように形成されている。
【0024】
ところで、図1及び図3に示すように、第1実施形態に係る下半割軸受3には、この内周面3aの周方向両端部に形成されたクラッシュリリーフ5のうち、クランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる下半割軸受3の内周面3aの周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5と下半割軸受3の内周面3aとに隣接するように、幅方向の全体に亘って、V字形状に切り欠かれた軸線方向溝6が形成されている。
【0025】
上記のように構成される下半割軸受3においては、上半割軸受2の油溝4からリリーフ隙間7に排出された異物11(図7及び図8参照)が、回転するクランク軸10表面に付随して流れる油とともに、軸線方向溝6側に向かって流れる。そして、リリーフ隙間7をクランク軸10の回転先側へ流れる油が軸線方向溝6に到達すると、クランク軸10表面と半割軸受2,3の内周面2a,3aとの間の軸受隙間8と軸線方向溝6に分岐して流れるが、リリーフ隙間7に排出された異物11のうち軸受隙間8より大きな異物11は、軸線方向溝6に進入するようになる。このように、下半割軸受3の内周面3aに隣接したリリーフ隙間7がもっとも小さくなる部分には、軸線方向溝6が形成されているので、リリーフ隙間7に排出された異物11がクラッシュリリーフ5に埋収され難く、軸線方向溝6内を流れる油とともに、下半割軸受3の幅方向端部から外部へ効率よく排出することができる。
【0026】
次に、クランク軸10のクランクピン部に本発明の半割軸受2,3を適用した第2実施形態について、図4乃至図8を参照して説明する。なお、第1実施形態と同じ機能を奏する部材については、第1実施形態と同じ符号が付してある。図4に示すように、クランク軸10表面には、クランク軸10の内部油路を経て、半割軸受2,3と該半割軸受2,3に支持されるクランク軸10との間に潤滑油を供給するための油孔10aが開口している。
【0027】
また、図4乃至図6に示すように、第2実施形態に係る半割軸受2,3には、この内周面2a,3aの周方向両端部に形成されたクラッシュリリーフ5のうち、クランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる半割軸受2,3の内周面2a,3aの周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとに隣接するように、幅方向の全体に亘って、V字形状に切り欠かれた軸線方向溝6が形成されている。このように、第2実施形態では、下半割軸受3の内周面3aだけでなく上半割軸受2の内周面2aにも、軸線方向溝6が形成されている。ただし、第2実施形態では、一対の半割軸受2,3のいずれもが軸線方向溝6を有する構成を示したが、一対の半割軸受2,3のいずれか一方のみが軸線方向溝6を有する構成としてもよい。
【0028】
上記のように構成される半割軸受2,3においては、図7(A),(B)に示すように、クランク軸10の内部油路内の油と異物11が、クランク軸10表面に開口する油孔10aからリリーフ隙間7に排出される。そして、リリーフ隙間7に排出された異物11は、回転するクランク軸10表面に付随してクランク軸10の回転先側へ流れる油とともに、軸線方向溝6側に向かって流れるが、クランク軸10表面に開口する油孔10aよりも僅かに遅れて軸線方向溝6に到達する。また、クランクピン表面に開口する油孔10aが軸線方向溝6を通過し終わるときには、図8(A),(B)に示すように、クランク軸10表面に開口する油孔10aの大部分が下半割軸受3の内周面3aにより閉塞されるため、軸線方向溝6を流れる油の流速が瞬間的に極めて速くなる。このため、クランク軸10表面に開口する油孔10aよりも僅かに遅れて軸線方向溝6に到達する異物11は、この軸線方向溝6内の速い油の流れにより、下半割軸受3の幅方向端部から外部へ速やかに排出することができる。このように、クランク軸10のクランクピン部に本発明の半割軸受2,3を適用した第2実施形態では、軸線方向溝6内に瞬間的な速い油の流れが形成されるため、クランク軸10のジャーナル部に本発明の半割軸受2,3を適用した第1実施形態よりも、軸線方向溝6内に到達した異物11の排出を効果的に行うことができる。
【0029】
なお、本願の半割軸受2,3とは異なり、クラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとの境界に軸線方向溝6を形成しない場合には、クランク軸10表面に開口する油孔10aがクラッシュリリーフ5を通過し終わるときには、クランク軸10表面に開口する油孔10aからの油がリリーフ隙間7全体に分散して流れるので、異物11を半割軸受2,3の幅方向端部側へ押し流すほど速い油の流れが形成されることがない。また、本発明の半割軸受2,3の構成とは異なり、例えば、クラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとの境界付近に複数の軸線方向溝6を形成した場合には、複数の軸線方向溝6から半割軸受2,3の外部への油の漏れ量が多くなり過ぎる。また、クランク軸10表面に開口する油孔10aが複数の軸線方向溝6を通過し終わるときには、クランク軸10表面に開口する油孔10aからの油が複数の軸線方向溝6に分散して流れるため、複数の軸線方向溝6内に瞬間的な速い油の流れが形成されないので、複数の軸線方向溝6内からの異物排出性が低くなってしまう。
【0030】
また、図9に示すように、軸線方向溝6の横断面形状は、V字形状に形成されているが、その深さD及び幅Wは、油中に混入する異物11のサイズが最大で0.1mm程度であるため、異物11が進入できるように各々を0.1mm以上とする必要がある。一方、軸線方向溝6の深さDを過度に深くしたり、軸線方向溝6の幅Wを過度に広くしたりすると、軸線方向溝6からの油の漏れ量が多くなり過ぎる。このため、軸線方向溝6の深さDは0.5mm以下、軸線方向溝6の幅Wは2mm以下とすることが好ましい。なお、軸線方向溝6の深さDは、半割軸受2,3の内周面2a,3aにクラッシュリリーフ5及び軸線方向溝6を形成しなかった場合における仮想の半割軸受2,3の内周面2a,3a(図9に示す点線)からの距離で算出している。また、軸線方向溝6の横断面形状は、本実施形態に示すV字形状に限定されず、例えば、逆台形形状やU字形状などの任意の形状に形成してもよい。
【0031】
また、本実施形態に示す軸線方向溝6は、半割軸受2,3の内周面2a,3aの周方向両端部に形成されたクラッシュリリーフ5のうち、クランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる半割軸受3の内周面2a,3aの周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5と半割軸受3の内周面2a,3aとに隣接する位置のみに形成されたが、図10に示すように、クランク軸10の相対回転方向の後方側だけでなく、クランク軸10の相対回転方向の前方側にあたる半割軸受2,3の内周面2a,3aの周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとに隣接する位置にも、同様の形状の軸線方向溝6を形成してもよい。これにより、半割軸受2,3を軸受ハウジングに組み付ける際に、クランク軸10の相対回転方向の前方側にあたる半割軸受2,3の内周面2a,3aのみに軸線方向溝6が位置されて組み付けられるという誤りを防ぐことができる。
【0032】
また、本実施形態に示す軸線方向溝6は、軸線方向溝6の幅方向中心がクラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとの境界と一致する位置に形成される場合がもっとも好ましい。しかしながら、軸線方向溝6の形成加工時には、工作機械の加工精度により決まる不可避の寸法誤差が発生するため、本発明ではこの不可避の寸法誤差が許容される。具体的には、図11に示すように、半割軸受2,3に軸線方向溝6を形成しなかった場合における仮想のクラッシュリリーフ5と半割軸受2,3の内周面2a,3aとの境界から半割軸受2,3中心を結ぶ線と、半割軸受2,3の周方向端面から半割軸受2,3中心を結ぶ線とがなす角度θに対し、軸線方向溝6の幅方向中心から半割軸受2,3中心を結ぶ線の−2°〜+2°の範囲での位置ずれが許容される。
【符号の説明】
【0033】
1 すべり軸受
2 上半割軸受
3 下半割軸受
4 油溝
5 クラッシュリリーフ
6 軸線方向溝
7 リリーフ隙間
8 軸受隙間
10 クランク軸
11 異物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面の周方向両端部にクラッシュリリーフが形成された内燃機関のクランク軸用の半割軸受において、
少なくとも前記クランク軸の相対回転方向の後方側にあたる前記半割軸受の内周面の周方向端部に形成された前記クラッシュリリーフと前記半割軸受の内周面とに隣接する位置に軸線方向溝を形成し、
前記軸線方向溝は、前記半割軸受の内周面の幅方向の全体に亘って形成されることを特徴とする内燃機関のクランク軸用の半割軸受。
【請求項2】
前記軸線方向溝の深さは、0.1mm以上0.5mm以下であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受。
【請求項3】
前記軸線方向溝の幅は、0.1mm以上2mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受。
【請求項4】
前記軸線方向溝は、前記クランク軸の相対回転方向の前方側にあたる前記半割軸受の内周面の周方向端部に形成された前記クラッシュリリーフと前記半割軸受の内周面とに隣接する位置にも形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受。
【請求項1】
内周面の周方向両端部にクラッシュリリーフが形成された内燃機関のクランク軸用の半割軸受において、
少なくとも前記クランク軸の相対回転方向の後方側にあたる前記半割軸受の内周面の周方向端部に形成された前記クラッシュリリーフと前記半割軸受の内周面とに隣接する位置に軸線方向溝を形成し、
前記軸線方向溝は、前記半割軸受の内周面の幅方向の全体に亘って形成されることを特徴とする内燃機関のクランク軸用の半割軸受。
【請求項2】
前記軸線方向溝の深さは、0.1mm以上0.5mm以下であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受。
【請求項3】
前記軸線方向溝の幅は、0.1mm以上2mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受。
【請求項4】
前記軸線方向溝は、前記クランク軸の相対回転方向の前方側にあたる前記半割軸受の内周面の周方向端部に形成された前記クラッシュリリーフと前記半割軸受の内周面とに隣接する位置にも形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の内燃機関のクランク軸用の半割軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−2247(P2012−2247A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135572(P2010−135572)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
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