説明

半合成の血小板ゲル及びその調製方法

【課題】半合成血小板ゲル及びその調製方法を提供する。
【解決手段】多血小板血漿と、少なくとも一種の血小板活性化物質と、カルボマー類、ポリアルキレングリコール類、ポロキサマー類、ポリエステル類、ポリエーテル類、ポリ酸無水物類、ポリアクリレート類、ポリ酢酸ビニル類、ポリビニルピロリドン類、多糖類及びそれらの誘導体を含む群から選択される生体適合性を有するポリマーとを含む半合成の血小板ゲル。a)多血小板血漿を少なくとも一種の血小板活性化物質と混合する工程と、血餅の形成が始まる前に、b)得られた混合物を、カルボマー類、ポリアルキレングリコール類、ポロキサマー類、ポリエステル類、ポリエーテル類、ポリ酸無水物類、ポリアクリレート類、ポリ酢酸ビニル類、ポリビニルピロリドン類、多糖類及びそれらの誘導体を含む群から選択される生体適合性を有するポリマーに加える工程とを含む半合成の血小板ゲルの調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉及び/又は骨組織を再生するのに有用な半合成の血小板ゲル、並びにその調製方法に関するものである。より詳しくは、本発明は、多血小板血漿と、少なくとも一種の血小板活性化物質と、生体適合性を有するポリマーとを含む半合成血小板ゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
筋肉及び/又は骨組織の再構築のために、フィブリンシーラント若しくはフィブリン糊としても知られるフィブリンゲルに代わって、血小板ゲルがますます使用されるようになってきている。
【0003】
フィブリンゲルは、二成分系であり、フィブリノゲン、フィブリン安定化因子及びフィブロネクチンを含有する第1成分と、トロンビン、塩化カルシウム及びフィブリン溶解抑制剤を含有する第2成分とを含む。フィブリンゲルは、(ドナーに由来する)相同なものであっても、(患者自身に由来する)自系のものであってもよい。相同なゲルは、適合性及び感染症の伝染の問題を有する可能性があり、また、人為的なミスをこうむることもある。自系のゲルには、調製に長時間(3〜5日も)かかるという欠点がある。
【0004】
前記血小板ゲルは、現在、顎顔面の外科手術、特に上顎洞をもりあげインプラントに適合させるために、糖尿病の、血管の及び褥瘡の潰瘍の治療において、並びに心臓外科手術後の創傷治癒において使用されており、また最近では、人工器官を埋め込むため及び骨折の治癒スピードを上げるために、偽関節を扱う整形外科手術においても使用されている。
【0005】
血小板ゲルは、血小板の濃度がより高く、また、天然のフィブリノゲンの濃度がより高いという点において、フィブリンゲルと異なる。
【0006】
血小板ゲルを調製するための種々の手順が文献に記載されている。しかしながら、一般的手法は、以下の工程を含む:
1.(相同なゲルの場合は)ドナーから、或いは(自系のゲルの場合は)患者自身から適量の全血を採取し、クエン酸ナトリウム又はクエン酸リン酸デキストロースで該全血を抗凝血処理すること。
2.血小板が活性化するのを避けながら、血液成分分離装置を用い、或いは、周知技術に従う逐次遠心分離法により、或いは、簡易沈殿法(E. スミダら, IADR/AADR/CADR 第82回一般セッション, 2004年3月10〜13日)により、血小板を濃縮すること及び大部分の赤血球を除去すること。この方法では、多血小板血漿(PRP)が、おそらく百万/μL以上の血小板濃度で得られる。
3.カルシウム塩(例えば、塩化カルシウム又はグルコン酸カルシウム)、トロンビン(ヒト又はウシ)、バトロキソビン、又は他の活性化物質(例えば、米国特許第6 322 785号に記載のコラーゲン、ADP及びセロトニン)を添加してPRPを活性化し、凝血プロセスを活性化し、それにより血小板ゲルを形成すること。
【0007】
骨の再生治療においては、次に、生成した血小板ゲルに、骨及び骨髄と混合されたリン酸カルシウムの鉱物添加剤を加えることができる。
【0008】
血小板の活性化は、血小板自体の脱顆粒プロセスを引き起こし、PDGF(血小板由来増殖因子)、EGF(上皮成長因子)、TGF(形質転換成長因子)、PDAF(血小板由来血管新生因子)、並びに、当該技術分野で公知の、及び、例えば、米国特許第5,834,418号及び米国特許第6,524,568号に記載の他の因子等の成長因子を放出させ、フィブリノゲンを、架橋され且つ血餅の進行に適した組織を形成するフィブリンに転換する。従って、血小板ゲルは、血小板ゲルが生じた傷から自然に形成される血餅の特性を利用するものである。血小板ゲルの形成は、速い(1時間未満ですらある)。
【0009】
これらの利点を有するものの、公知の血小板ゲルには、幾つかの限界がある。
【0010】
第1の限界は、血餅の形成時間が添加された活性化物質(カルシウム、トロンビン、バトロキソビン等)の量及びタイプに依存し、経験的に予測しなければならないことである。
【0011】
他の重要な限界は、保管に関するものである。例えば、PRPは保管できるが、血餅は、使用時だけ活性化されなければならず、処理領域に塗布するのに必要な稠度、或いは実施手法に必要な稠度に達したときに使用されるべきである。しかしながら、周知のように、一旦血餅が生成し、収縮プロセスが始まると、血餅のサイズが小さくなり、可塑性がどんどん低くなる。そのため、使用には、実に短い時間帯があるだけである。
【0012】
同程度に重要な他の限界は、血餅収縮プロセス中に血清液の分離があり、もちろん、該血清液は、血小板によって放出された成長因子を含有し、そのため、我々がこれらの因子の有益な効果を失わないには、血餅から放出された血清部分を使用できるようにする手法に頼る必要がある。
【0013】
米国特許出願公開2003/0152639号には、損傷した組織の治療に使用するための製剤が開示されており、該製剤の分離は、(a)患者から、ある量の全血を分離し、該全血を抗凝血剤で処理し、該全血を遠心分離プロセスにかけ、ある量の多血小板血漿を得る工程;(b)該多血小板血漿に、有効量の抗凝血剤中和剤及びフィブリン溶解抑制剤を添加する工程;及び(c)マルトデキストリン粉末、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸カルシウム、カラゲナン、ヒドロキシエチルデンプン、ヒアルロン酸、再生酸化セルロース、メチルセルロース、及び/又はグリセリンからなる群から選択される一種以上の構造マトリクスに多血小板血漿を混合して、多血小板血漿を懸濁させる工程;及び(d)続いて、ゼラチン状の製剤を不活性な状態で保管する工程を含む。
【0014】
2003/0152639号のセクション[0019]によれば、そこに開示された製剤は、生体外で活性化されない。持続可能で且つ自然に、多血漿な血漿濃縮物の生理的な活性化を開始又は引き起こすのは、従来技術の外から且つ人工の活性化製品ではなく、損傷した組織である。そのため、この製剤は、活性化の程度及び速度が、時として、傷の表面に存在し、生理的に生じる活性化剤に依存するといった欠点に苦しむ。
【0015】
米国特許出願公開2004/0197319号には、低血小板濃度血漿製剤に由来する創傷治癒組成物が開示されている。該組成物は、低血小板濃度血漿が調製される遠心条件が、多血小板血漿及び血小板濃縮物の調製用の条件に比べて、厳しくないという点において、従来の血小板ゲル製剤と異なる。該公文書に記載された組成物中の血小板濃度は、50,000から500,000/μlで、より好ましくは、約80,000から200,000/μlであり、患者の基線血小板レベルに依存する。
【0016】
【非特許文献1】"Platelet Gel: An autologous alternative to fibrin glue with applications in oral and maxillofacial surgery", Whitman, D. H. et al., J. Oral Maxillofacial Surgery, 1294-1299 (1997).
【非特許文献2】"Platelet-rich plasma: Growth factor enhancement for bone grafts", Marx, R. E. et al., Oral Surg. Oral Med. Oral Pathol. Oral Radiol. Endod., Vol. 85, 638-646, (1998).
【非特許文献3】"Thrombin signalling and protease-activated receptors", Coughlin, S. R. Nature, Vol. 407, 14 September 2000, pages 258-264.
【非特許文献4】"Design and evaluation of potent peptide-mimetic PAR1 antagonists", Derian C. K. et al., Drug Development Research 59: 355-366 (2003), Wiley-Liss Inc.
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の視点によれば、本発明は、多血小板血漿と、少なくとも一種の血小板活性化物質と、カルボマー類、ポリアルキレングリコール類、ポロキサマー類、ポリエステル類、ポリエーテル類、ポリ酸無水物類、ポリアクリレート類、ポリ酢酸ビニル類、ポリビニルピロリドン類、多糖類及びそれらの誘導体を含む群から選択される生体適合性を有するポリマーとを含む半合成の血小板ゲルを提供する。
【0018】
第2の視点によれば、本発明は、
1.多血小板血漿を少なくとも一種の血小板活性化物質と混合する工程と、血餅の形成が始まる前に、
2.得られた混合物を、カルボマー類、ポリアルキレングリコール類、ポロキサマー類、ポリエステル類、ポリエーテル類、ポリ酸無水物類、ポリアクリレート類、ポリ酢酸ビニル類、ポリビニルピロリドン類、多糖類及びそれらの誘導体を含む群から選択される生体適合性を有するポリマーに加える工程と
を含む半合成の血小板ゲルの調製方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の半合成血小板ゲルは、上述した欠点を克服し、凝血する傾向がなく、レオロジカル特性が長期に渡って相当に安定である。更に、該半合成血小板ゲルは、従来の血小板ゲルと同等以上の治療活性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
「多血小板血漿(PRP)」とは、少なくとも100万個/マイクロリットルの血小板濃度を有する血漿を意味する。
【0021】
「半合成血小板ゲル」とは、血小板活性化物質及び半合成ポリマーを添加することによって多血小板血漿から得られる本発明のゲルを意味する。
【0022】
本発明に使用するための多血小板血漿(PRP)は、本技術分野で既知である種々の手法に従って製造することができる。“Platelet-rich plasma: Growth factor enhancement for bone grafts”,Marx, R.E.ら,Oral Surg. Oral Med. Oral Pathol. Oral Radiol. Endod.,Vol. 85,638-646,(1998)に記載されている手法が非常に容易であり、該手法によって良い結果が得られる。
【0023】
該手法は、患者から特定の量の血液を採取することと、前記血液をクエン酸塩−リン酸塩−デキストロースのタイプの抗凝血剤と共に容器に移すことを有する。次に、血液を遠心管に移し、約5600rev/分で遠心し、そのようにして、少血小板血漿(PPP)の透明な上層、赤血球の暗色の下層、及び多血小板血漿画分を含む中層といった多くの層に分離する。少血小板血漿の上層を吸引によって除去し、残部を、残っている画分をさらに分離するために、2400rev/分で再び遠心する。次に、多血小板血漿画分を含む中層を取り出し、後で使用するために室温で保管する。
【0024】
使用可能な別の方法が米国特許第6,398,972号に記載されており、該方法は、患者から採取した血液の第1の遠心分離を行って、赤血球を含む暗色の下層と多血小板血漿から成る透明な上層とに分離し、容器を傾けて上層を移し、当該上層の第2の遠心分離を行って、少血小板血漿(PPP)から成る上層と多血小板血漿(PRP)の下層とに分離する。第1の遠心分離は約1200g、すなわち約3600rev/分で約2分間行い、第2の遠心分離は好ましくは約1000g、すなわち約3000rev/分で約8分間行う。
【0025】
概して、「血小板活性化物質」という用語は、血小板増殖因子の放出とフィブリノーゲンのフィブリンへの変換を活性化することができる化合物を意味する。本発明において、「血小板活性化物質」という用語は、血小板増殖因子の放出を活性化することができるが、15分以下の時間で血餅を形成することができない化合物を意味する。
【0026】
本発明に使用するための血小板活性化物質は、好ましくは、医薬として許容されるカルシウム塩、例えば塩化カルシウム又はグルコン酸カルシウム(又は英国特許第495,675号に記載されているそれらの溶液)、及びトロンビン受容体を活性化させることが可能なペプチド(トロンビン受容体活性化ペプチド、TRAP)、又はそれらの混合物を含む群より選択される。種々のトロンビン受容体に特異的ないくつかの種類のTRAPは本技術分野において既知である。3種の異なるトロンビン受容体がヒトにおいて既知であり、PAR-1、PAR-3及びPAR-4と名付けられている(PAR:プロテアーゼ活性化受容体)。PAR-1受容体はトロンビンの血小板活性化を担う主要な受容体であると考えられている。既知のTRAPは5〜14のアミノ酸のペプチド配列を有する。本発明に従う好ましいTRAPは、PAR-1へのトロンビンの作用によって露出されるアミノ酸配列に相当する。前記配列は、ペプチド配列Ser-Phe-Leu-Leu-Arg-Asn(SFLLRN)に相当する。使用することが可能である他の既知のTRAPは、SFLLR(TRAP-5)、SFLLRNP(TRAP-7)、SFLLRNPNDKYEPF(TRAP-14)である。これらのTRAPはそれらのアミドの形態、すなわち、カルボキシ末端基(-COOH)がアミド基(-CONH2)に変換されている形態でも有用である。
【0027】
医薬として許容されるカルシウム塩は、PRPのリットル当たり1〜100ミリモル、好ましくはPRPのリットル当たり2〜50ミリモルの範囲内のカルシウム濃度が得られるような量で添加される。TRAPは、PRPのリットル当たり5〜500マイクロモル、好ましくはPRPのリットル当たり10〜250マイクロモルの範囲内の濃度が得られるような量で添加される。
【0028】
有利には、本発明に使用される生物学的適合を有するポリマーは、カルボマー類(ポリアルケニルポリエーテルで架橋したアクリル酸ポリマー類)、ポリアルキレングリコール類(例えば、ポリエチレングリコール類及びポリプロピレングリコール類)、ポロキサマー類(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン・ブロック共重合体)、ポリエステル類、ポリエーテル類、ポリ酸無水物類、ポリアクリレート類、ポリ酢酸ビニル類、ポリビニルピロリドン類、並びに例えばヒアルロン酸、ヒアルロン酸の誘導体、特に架橋ヒアルロン酸及びヒアルロン酸のエステル類(例えば、ヒアルロン酸のベンジルエステル)、ヒドロキシアルキルセルロース類(例えば、ヒドロキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース)及びカルボキシアルキルセルロース類(例えば、カルボキシメチルセルロース)などの多糖類を含む群より選択される。
【0029】
好ましくは、本発明に使用される生物学的適合を有するポリマーは、ポリエチレングリコール類、ポロキサマー類、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ベンジルヒアルロン酸エステル類、架橋ヒアルロン酸、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースを含む群より選択される。
【0030】
典型的には、本発明の方法において、工程1(すなわち、多血小板血漿と少なくとも1種の血小板活性化物質とを混合すること)と、工程2(すなわち、生物学的適合を有するポリマーを添加すること)との間に経過する最大の時間は15分、好ましくは10分、さらに好ましくは5分である。
【0031】
そのような血餅の形成を防ぐ時間内に生物学的適合を有するポリマーを添加して得られた製造物は、活性化された多血小板血漿の特性を長期に渡り保持する。
【0032】
PRPと活性化物質との混合物に添加される生物学的適合を有するポリマーは、水溶液又は水分散液の形態であってもよい。さらに、前記生物学的適合を有するポリマーは、繊維状のドレッシング又はゲルの形態であってもよい。有利には、市販のドレッシング又は繊維状マトリックスを使用することができ、例えば、Fidia Advanced Biopolymers Srl(イタリア)より販売されているヒアルロン酸とベンジルアルコールとのエステル(HIAFF(商標))から完全に構成される製品の商標名で、Hyalofill-Fドレッシング及びHyalossマトリックスがある。ゲルの好都合な形態はACPゲルであり、該ACPゲルは、20〜60mg/mlの範囲内の濃度の自己架橋したヒアルロン酸の微粒子の懸濁水溶液である。
【0033】
一実施態様において、本発明に従う半合成血小板ゲルは、同時に起こる作用が有用である薬理活性物質を含む。前記薬理活性物質の典型的な例は、例えば、概して、ポリマーマトリックスから形成されるゲルとして製剤される、治癒を促進することが可能な化合物または製品(例えばPDGF、ラクトフェリンなど)、消毒薬(例えば塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン)、抗生物質(例えばテトラサイクリン、アムフェニコール、ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム、スルファミド、マクロライド、リンコサミド、アミノグリコシド、フルオロキノリン、グリコペプチド)、抗炎症剤及び鎮痛薬(例えば、ナプロキセン、ジクロフェナク、ケトプロフェン、ケトロラク、ニメスリド、イブプロフェン、アセチルサリチル酸、ピロキシカム、メロキシカムなどのNSAID)、局所麻酔剤(例えば、リドカイン、プラモキシン、ジクロニン、ブピバカイン、メピバカイン、キニジン、プロカインアミド、メキシレチン、トカイニド、ベンジダミン)、オピオイド(例えば、ブプレノルフィン、コデイン、ジヒドロコデイン、フェンタニール、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、メタドン、モルヒネ、オキシコドン、オキシモルフォン、ペンタゾシン)、蛋白同化剤(例えば、クロステボル、ゼラノール、ダナゾール)である。
【0034】
本発明に従う方法は、本技術分野で既知である血小板ゲルよりはるかに再生産可能なゲルを提供する。
【0035】
本発明において、重要な変量は、患者から採取された血液(開始全血)中の血小板の濃度である。開始全血中の血小板濃度が高いほど、PRP中の血小板濃度が高くなる。
【0036】
本発明の半合成血小板ゲルの粘度は増殖因子が分散することなく長期に渡って安定している。有利には、本発明の半合成血小板ゲルの粘度は3000cPより高く、好ましくは4000cP〜50000cPの範囲内であり、さらにより好ましくは5000cP〜20000cPの範囲内である。
【0037】
活性化したPRPの混合物に添加されるポリマーの量は望ましいレベルの粘度が得られるような量である。従って、前記の量は使用したポリマーの種類及び本発明の半合成血小板ゲルの必要とされる粘度に依存して変動する。
【0038】
時に、種々の実験条件において本発明の血小板ゲルから放出されるPDGF-ABの測定値が従来の血小板ゲルの場合に測定されたものより低い。本発明を何ら制限するものではないが、このことは、測定されないPDGF-ABの一部の存在を隠す本発明のいくつかのポリマーの能力によるものであると推測される。
【実施例】
【0039】
決して限定されるものではないが、本発明を説明するために、下記の実施例を提供する。
【0040】
例A
多血小板血漿(PRP)
静脈血45mlを、0.38%のクエン酸ナトリウム5mlを含む注射器を使って患者から採取した。全血をスイングアーム遠心機によって180gで20分間遠心し、赤血球を血小板血漿から分離した。赤血球の沈降物を、遠心管の栓に差し込んだカニューレを通して汲み上げた。血小板血漿を再度580gで15分間遠心し、血小板の沈降物を上澄みの貧血小板血漿(PPP)から分離した。約5mlの液状残留物が管に残されるまで、上澄みPPPを汲み上げた。血小板の沈降物は、液状残留物を振盪することによって懸濁し、多血小板血漿(PRP)を得た。
【0041】
この手順によって、1μl当り1,000,000を超える血小板濃度を有するPRPを得た。
【0042】
(比較例1)
血小板ゲル
バトロパーゼ(バトロキソビン500IUを含有)のバイアルを0.2Mの塩化カルシウム溶液0.5mlに溶解した。得られた溶液を前記例Aに記載の方法に従い調製したPRP5mlに添加して、注意深く攪拌し、ペトリ皿上に移した後、血餅形成時間を測定した。この試験を三回繰り返し行った。血餅形成が平均して10分以内に起きた。
【0043】
(比較例2)
血小板ゲル
ヒトトロンビン溶液(1ml当り500IU)50μlを、前記例Aに記載の方法に従い調製したPRP5mlに添加した。得られた溶液を注意深く混合した後、ペトリ皿上に移し、次いで血餅形成時間を測定した。この試験を三回繰り返し行った。血餅形成が平均して5分以内に起きた。
【0044】
(比較例3)
血小板ゲル
0.2Mの塩化カルシウム溶液0.5mlを、前記例Aに記載の方法に従い調製したPRP5mlに添加した。得られた溶液を注意深く混合した後、ペトリ皿上に移し、次いで血餅形成時間を測定した。この試験を三回繰り返し行った。血餅形成が平均して15分以内に起きた。
【0045】
(実施例4)
本発明の半合成血小板ゲル
0.2Mの塩化カルシウム溶液0.5mlを、前記例Aに記載の方法に従い調製したPRP5mlに添加した。得られた溶液を注意深く混合した後、ペトリ皿内の(面積が約40cm2の)ハイアロフィル−Fドレッシング上に移した。ハイアロフィル−Fは、専らフィディアアドヴァンスドバイオポリマーズSrI社で販売されているベンジルアルコールとヒアルロン酸のエステル(HIAFFTM)からなる繊維状ドレッシングの商標である。血餅形成は観察されなかった。
【0046】
(実施例5)
本発明の半合成血小板ゲル
10mMのTRAP溶液50μlを、前記例Aに記載の方法に従い調製したPRP5mlに添加した。用いたTRAPは、6個のアミノ酸配列SFLLRNを有するペプチドである。得られた溶液を注意深く混合した後、ペトリ皿内の(面積が約40cm2の)ハイアロフィル−Fドレッシング上に移した。血餅形成は観察されなかった。
【0047】
実施例4及び5において、ペトリ皿の上澄み中に含まれるPDGF−AB増殖因子の値を表1に示す時間間隔で測定した。値を、108血小板当りのPDGF−ABのpgで示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例4の場合(塩化カルシウムの添加)では1時間以内に、また実施例5の場合(TRAPの添加)では10〜15分以内に、放出の大半が起きたことが観察された。そして、これらのレベルは、その後の24時間に渡って実質的に安定なままであった。
【0050】
(実施例6)
本発明の半合成血小板ゲル
10mMのTRAP50μlをPRP5mlに添加した。得られた溶液を十分に均質化し、10%のトリエタノールアミン溶液によってpH7に調整した1%のカルボマー(グレード980)水溶液を含むゲル15gに加えた。十分に混合した後、ゲルを素早く創傷に塗布して、治療した。25℃での粘度は、約16,000cPであった。
【0051】
(実施例7)
本発明の半合成血小板ゲル
0.2Mの塩化カルシウム溶液0.5mlをPRP5mlに添加した。得られた溶液を十分に均質化し、20%のポリビニルピロリドン(コリドン90F、BASF社)水溶液を含むゲル15gに加えた。十分に混合した後、ゲルを素早く創傷に塗布して、治療した。25℃での粘度は、約6,000cPであった。
【0052】
(実施例8)
本発明の半合成血小板ゲル
10mMのTRAP50μlをPRP5mlに添加した。得られた溶液を十分に均質化し、レグラネックス(Regranex)(登録商標)[0.01%のベカプレルミン(becaplermin)(rhPDGF)を含有するカルボキシメチルセルロースナトリウム母材を用いたゲル]15gに加えた。十分に混合した後、ゲルを素早く創傷に塗布して、治療した。
【0053】
(実施例9)
本発明の半合成血小板ゲル
10mMのTRAP50μlをPRP5mlに添加した。得られた溶液を十分に均質化し、1%のrhラクトフェリンを含有するゲル(WO2004/024180に記載された1%のカルボマー(グレード980)母材を用いて調製されたゲル)15gに加えた。十分に混合した後、ゲルを素早く創傷に塗布して、治療した。25℃での粘度は、約15,000cPであった。
【0054】
(実施例10)
本発明の半合成血小板ゲル
10mMのTRAP50μlをPRP5mlに添加した。得られた溶液を十分に均質化し、ボルタレン(登録商標)エマルゲル(1.16%のジエチルアンモニウムジクロフェナクを含有するカルボマー母材を用いたゲル)15gに加えた。十分に混合した後、ゲルを素早く創傷に塗布して、治療した。
【0055】
(実施例11)
本発明の半合成血小板ゲル
0.2Mの塩化カルシウム溶液0.5mlをPRP5mlに添加した。得られた溶液を十分に均質化し、タンツム(Tantum)(登録商標)ゲル(5%の塩酸ベンジダミンを含有するヒドロキシエチルセルロース母材を用いたゲル)15gに加えた。十分に混合した後、ゲルを素早く創傷に塗布して、治療した。
【0056】
(実施例12)
本発明の半合成血小板ゲル
10mMのTRAP50μlをPRP5mlに添加した。得られた溶液を十分に均質化し、0.3%のヒアルロン酸ナトリウム塩水溶液を含むゲル15gに加えた。十分に混合した後、ゲルを直接、或いはガーゼ又はハイアロフィル(登録商標)−Fの一断片に展開した後、素早く創傷に塗布して治療した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多血小板血漿と、
少なくとも一種の血小板活性化物質と、
カルボマー類、ポリアルキレングリコール類、ポロキサマー類、ポリエステル類、ポリエーテル類、ポリ酸無水物類、ポリアクリレート類、ポリ酢酸ビニル類、ポリビニルピロリドン類、多糖類及びそれらの誘導体を含む群から選択される生体適合性を有するポリマーと
を含む半合成の血小板ゲル。
【請求項2】
前記血小板活性化物質の少なくとも一種が、医薬として許容されるカルシウム塩及びトロンビン受容体を活性化できるペプチドを含む群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の血小板ゲル。
【請求項3】
前記カルシウム塩が、塩化カルシウム及びグルコン酸カルシウムを含む群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の血小板ゲル。
【請求項4】
前記トロンビン受容体を活性化できるペプチドが、6〜14個のアミノ酸のペプチド配列を含むことを特徴とする請求項2に記載の血小板ゲル。
【請求項5】
前記トロンビン受容体を活性化できるペプチドが、アミノ酸配列Ser−Phe−Leu−Leu−Arg−Asnを含むことを特徴とする請求項2に記載の血小板ゲル。
【請求項6】
前記トロンビン受容体を活性化できるペプチドが、アミドの形態にあることを特徴とする請求項4又は5に記載の血小板ゲル。
【請求項7】
前記生体適合性を有するポリマーが、ポリエチレングリコール類、ポロキサマー類、ポリビニルピロリドン類、ヒアルロン酸、ベンジルヒアルロン酸エステル類、架橋ヒアルロン酸、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースを含む群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の血小板ゲル。
【請求項8】
前記生体適合性を有するポリマーが、水溶液又は水分散液の形態にあることを特徴とする請求項1に記載の血小板ゲル。
【請求項9】
前記生体適合性を有するポリマーが、ドレッシング又は繊維状マトリクスの形態にあることを特徴とする請求項1に記載の血小板ゲル。
【請求項10】
前記生体適合性を有するポリマーが、ゲルの形態にあることを特徴とする請求項1に記載の血小板ゲル。
【請求項11】
更に、少なくとも一種の医薬として有用な化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の血小板ゲル。
【請求項12】
前記医薬として有用な化合物が、治癒剤、消毒薬、抗生物質、抗炎症剤、鎮痛薬、局所麻酔薬、オピオイド及び蛋白同化剤を含む群から選択されることを特徴とする請求項11に記載の血小板ゲル。
【請求項13】
a)多血小板血漿を少なくとも一種の血小板活性化物質と混合する工程と、血餅の形成が始まる前に、
b)得られた混合物を、カルボマー類、ポリアルキレングリコール類、ポロキサマー類、ポリエステル類、ポリエーテル類、ポリ酸無水物類、ポリアクリレート類、ポリ酢酸ビニル類、ポリビニルピロリドン類、多糖類及びそれらの誘導体を含む群から選択される生体適合性を有するポリマーに加える工程と
を含む半合成の血小板ゲルの調製方法。
【請求項14】
前記血小板活性化物質が、医薬として許容されるカルシウム塩及びトロンビン受容体を活性化できるペプチドを含む群から選択されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記カルシウム塩が、塩化カルシウム及びグルコン酸カルシウムを含む群から選択されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記トロンビン受容体を活性化できるペプチドが、6〜14個のアミノ酸のペプチド配列を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記トロンビン受容体を活性化できるペプチドが、アミノ酸配列Ser−Phe−Leu−Leu−Arg−Asnを含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記混合物の前記生体適合性を有するポリマーへの添加を、前記血小板活性化物質による処理から15分以内に行うことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記生体適合性を有するポリマーが、ポリエチレングリコール類、ポロキサマー類、ポリビニルピロリドン類、ヒアルロン酸、ベンジルヒアルロン酸エステル類、架橋ヒアルロン酸、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースを含む群から選択されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記生体適合性を有するポリマーが、水溶液又は水分散液の形態にあることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記生体適合性を有するポリマーが、ドレッシング又は繊維状マトリクスの形態にあることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記生体適合性を有するポリマーが、ゲルの形態にあることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項23】
治癒剤、消毒薬、抗生物質、抗炎症剤、鎮痛薬、局所麻酔薬、オピオイド及び蛋白同化剤を含む群から選択される少なくとも一種の医薬として有用な化合物を、前記半合成の血小板ゲルに加えることを特徴とする請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2006−181365(P2006−181365A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370123(P2005−370123)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(505473673)アドヴァンス ホールディングス リミテッド (2)
【Fターム(参考)】