説明

半同軸型フィルタ

【課題】比較的低い周波数帯域においても、そのサイズを従来よりもさらに小型化した、折り返し構造を有する半同軸型フィルタを提供する。
【解決手段】断面矩形上の導体ケース10の内部に、仕切壁11を設け、この仕切壁11により折り返し用空間を形成する。仕切壁11の両面部には、軸心が共通となるように共振器22、23が設けられる。これにより、折り返し構造を持ちつつ小型化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯やミリ波帯の高周波無線通信装置等で用いられるフィルタに係り、特に、折り返し構造を持つ半同軸型フィルタに関する。半同軸とは、同軸線路の一方が短絡していることをいう。
【背景技術】
【0002】
例えば移動体通信等のように、使用する周波数帯域が広く、且つ、一時期に複数の帯域幅の周波数が使用される用途では、広帯域で、通過帯域以外は減衰量が大きくなるフィルタが要求される。このようなフィルタを実現するために、内部導体及び共振器の数を多くすることができる半同軸型フィルタが注目されている。
【0003】
図6は、従来のこの種の半同軸型フィルタのうち、コムライン型の半同軸型フィルタの概念図、図7は、インターデジタル型の半同軸型フィルタの概念図である。この半同軸型フィルタは、使用周波数によって決まる所定の幅、高さ及び長さを有する断面矩形状の導体ケース10の内部に、約λ/4(λは通過信号の波長)で共振する共振器21、22、23を備えて構成される。共振器21、22、23としては、公知の半同軸型共振器(又は素子)が用いられる。
【0004】
各共振器21、22、23の基端は、ネジあるいは半田づけ等によって電気的に導体ケース10の主面部(幅方向と長さ方向のサイズにより決定される面部、以下同じ)内壁と接合されており、その開放端付近には、対向する導体ケース10の外壁から挿入された、共振周波数を調整するための調整用ビス31、32、33が、対応する共振器21、22、23と平行に配されている。これらの調整用ビス31、32、33は、その先端と共振器21、22、23の開放端との間のキャパシタンスを変化させることによって、所望の共振周波数が得られるように微調整するものである。
【0005】
これらの共振器同士の結合の様子を図8に示す。
半同軸型フィルタは、ある共振器の周囲を取り巻く磁界成分Mが、図8のように隣り合う共振器の周囲を取り巻く磁界成分Mと結合することによってフィルタ機能を形成する。そのため、隣り合う共振器21、22は、導体ケース10の高さ方向(以下、Z軸方向)において平行で、且つ、導体ケース10の長さ方向(以下、Y軸方向)において同一軸線上に配される必要がある。なお、電界成分については磁界成分と直交するだけなので、ここでは言及しない。
このため、半同軸型フィルタの全体長は、共振器の数つまり共振器段数に左右され、共振器段数が多くなるにつれて、半同軸型フィルタの長さ方向のサイズが大きくなる。それを解決する手段として、折り返し構造がある。
【0006】
図9は、折り返し構造をもつ半同軸型フィルタの具体的な構造を示す切り欠き図である。折り返し構造は、導電性の仕切壁11を導体ケース10の一対の内側壁に対して平行に、且つ導体ケース10の幅方向(X軸方向)の略中央部を起点として接合し、仕切壁11の先端部とそれに対向する導体ケース10の内端壁との間に折り返し用の空間が形成されるようにするとともに、この仕切壁11によって仕切られた導体ケース10の主面部内壁上に、それぞれ共振器22、23を互いに平行に配列することによって実現することができる。
このような折り返し構造においても、磁界成分を結合し易くするためには、すべての共振器22、23の軸心がZ軸に対して平行となる必要がある。
【0007】
一方、折り返し構造をもつ半同軸型フィルタであっても、その高さサイズ(Z軸方向)は、使用周波数(通過帯域の中心周波数)に左右され、使用周波数が低くなるにつれてZ軸方向のサイズが大きくなる。これは、高周波の場合、内蔵する共振器の長さが使用周波数との関係で一意に定まる(例えば、通過信号の約λ/4長となる)ためである。
【0008】
そこで、特許文献1に示すような半同軸型フィルタが提案されている。図10に示す特許文献1の半同軸型フィルタは、断面矩形上の導体ケース10の内部に、仕切板11を設け、この仕切板11により折り返し用の空間を形成する。導体ケース10の内側壁には共振器23が設けられ、仕切板11からは、その軸心が、共振器23の軸心の延長線上に位置するように共振器22が配される。また、上記空間には共振器22、23の結合の仲介を行う同軸線路40が配されている。このような構成の半同軸型フィルタは、使用周波数が比較的低い場合であっても、高さ方向と長さ方向の両方向で小型化が図れる。
【特許文献1】特開2004−235770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の半同軸型フィルタは、共振器22、23の結合の仲介に同軸線路40を用いる。同軸線路40を設ける分、半同軸型フィルタはY軸方向に大きくなる。しかし、共振器の結合には同軸線路40が不可欠であるために、特許文献1の同軸型フィルタはこれ以上の小型化が困難である。
【0010】
本発明は、このような問題点を解消すべく、比較的低い周波数帯域においても、そのサイズを従来よりもさらに小型化した、折り返し構造を有する半同軸型フィルタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する本発明の半同軸型フィルタは、所定の幅、高さ及び長さを有する断面矩形状の導体ケースの内部に、両面部を有する導電性の仕切壁が設けられた折り返し構造の半同軸型フィルタであって、前記仕切壁は、前記導体ケースの一対の内側壁に対して平行に、前記導体ケースの幅方向の略中央部を起点として設けられ、前記仕切壁の先端部とそれに対向する前記導体ケースの内端壁との間には折り返し用の空間が形成されており、前記仕切壁の一方の面部からは、使用周波数に応じて選定されたサイズの第1の共振器が、当該仕切壁の一方の面部に対向する前記導体ケースの前記一対の内側壁の一方に向けて配されており、前記仕切壁の他方の面部からは、当該仕切壁の他方の面部に対向する前記導体ケースの前記一対の内側壁の他方に向けて第2の共振器が配されていることを特徴とする。
このような半同軸型フィルタでは、使用周波数が比較的低い周波数であっても、全体的なサイズを大型化させることなく、フィルタ機能を実現することができる。
【0012】
本発明の半同軸型フィルタの前記第1の共振器及び前記第2の共振器は、例えば軸心が同一になるように配されている。このような第1、第2の共振器には、例えば半同軸共振器を用いることができる。
【0013】
また、本発明の半同軸型フィルタには、前記第1の共振器及び前記第2の共振器の各々に対応する部位に、共振周波数及び/又は他の共振器との結合度を調整するための調整用ビスが前記導体ケース内にその挿入量を調整できるように設けられていてもよい。また、前記仕切壁で二つに仕切られる前記導体ケースの2つの内部空間の一方に電磁波を導く入力用コネクタが設けられ、前記2つの内部空間の他方に電磁波を出力するための出力用コネクタが設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明の半同軸型フィルタによれば、使用周波数が比較的低い場合であっても、高さ方向と長さ方向の両方向で小型化が図れる半同軸型フィルタを構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の発振装置の実施形態を図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、この実施形態による半同軸型フィルタの構造を示す部分切り欠き図、図2は図1の半同軸型フィルタの上部断面図である。
図1及び図2のうち、図6〜図10に示したものと同一の部品又は対応する部品については、同一符号を付してある。
【0017】
図1及び図2に示されるように、導体ケース10内に設けられた仕切壁11の両面には、使用周波数(通過帯域の中心周波数)に応じたサイズ及び数の半同軸型の共振器22、23が、仕切壁11の両面に平行な導体ケース10の一対の内側壁に向けて配される。共振器22、23はそれぞれの軸心が同じになるように配置される。共振器22、23の基端は、仕切壁11に半田づけ等によって電気的に接合される。
【0018】
このような構造の半同軸型フィルタでは、一方の共振器23の周りを取り巻く磁界は、仕切壁11の先端部と導体ケースの内端壁により形成される折り返し用空間を通して、他方の共振器22と結合される。結合の強さは折り返し用空間の大きさと、共振器22、23の位置とに依存する。折り返し用空間が大きく、共振器22、23が折り返し用空間に近いほど、強い結合が得られる。
【0019】
図3は、この実施形態による半同軸型フィルタのうち、コムライン型の半同軸型フィルタの概念図、図4は、インターデジタル型の半同軸型フィルタの概念図である。
コムライン型の半同軸型フィルタでは、仕切壁11の両側に対称に共振器21、22、23、24、25、26が設けられている。共振器の開放端付近には、対抗する導体ケース10の外壁から挿入された、共振周波数を調整するための調整用ビス31、32、33、34、35、36が、対応する共振器21、22、23、24、25、26に対向して配されている。
【0020】
インターデジタル型の半同軸型フィルタでは、共振器21、23、24、26及び調整用ビス31、33、34、36が、コムライン型の半同軸型フィルタと同様の構成である。共振器22、25は、外壁に基端が接続されて開放端が仕切壁11方向を向くように配される。調整用ビス32、35は、共振器22、25の開放端付近に、他の調整用ビス31、33、34、36に対して垂直になるように配される。
【0021】
コムライン型、インターデジタル型のいずれの半同軸型フィルタにおいても、これらの調整用ビス31、32、33、34、35、36が、その先端と共振器21、22、23、24、25、26の開放端との間のキャパシタンスを変化させるように動くことによって、所望の共振周波数が得られるように微調整される。
【0022】
導体ケース10の仕切壁11の基端が接続される面には、電磁波を入力するための入力用コネクタ61と、電磁波を出力するための出力用コネクタ62とが設けられている。入力用コネクタ61から入力された電磁界は、仕切壁11で仕切られた一方の内部空間に導かれる。この電磁界のうち、複数の共振器21、22の周りを取り巻く成分は、共振器23へ補足された後、折り返し用空間を介して共振器24に補足される。その後、共振器24から共振器25、26へと補足されて、出力用コネクタ62に到達する。
【0023】
<実施例>
図5は、この実施例による半同軸型フィルタの構造例を示す切り欠き図である。
この半同軸型フィルタは、X軸方向に一対の内側壁、Y軸方向に一対の内端壁、Z軸方向に一対の主面部内壁がそれぞれ形成された断面矩形状の導体ケース10を有している。この導体ケース10の主面部内壁の一方(図では下部面)には、一対の内側壁に対して平行に、X軸方向の略中央部を起点として、真鍮等からなる仕切壁11が設けられている。
【0024】
仕切壁11の先端部とそれに対向する導体ケース10の内端壁との間には、折り返し用の空間が形成されている。仕切壁11の一方の面部からは、互いに同一の共振周波数で共振する複数の共振器23、24が当該仕切壁11を起点として図の左側の内側壁に向けて配されている。仕切壁11の他方の面部からは、その軸心が、共振器23、24の軸心の延長線上に位置するように、複数の共振器22、21が配されている。各共振器21、22、23、24は、例えば、使用周波数(通過信号)のλ/4の長さの半同軸共振器(又は素子)である。半同軸共振器(又は素子)自体の構造については公知なので、ここではその説明を省略する。
【0025】
共振器21、22、23、24は、その基端が仕切壁11の面部に例えば半田づけにより電気的に接合されている。
導体ケース10の前面端部(Y軸方向)には、電磁波を入力するための入力用コネクタ61と、電磁波を出力するための出力用コネクタ62とが設けられている。
【0026】
この実施例の半同軸型フィルタは、また、共振周波数を調整するための調整用ビス31、32、33、34が、図6の矢線の方向に移動自在に設けられている。これらの調整用ビス31、32、33、34は、導体ケース10の内側壁に直接設けられる。
調整用ビス31、32、33、34は、当該共振器21、22、23、24がその要素として含まれる磁気回路のキャパシタンスを事後的に変化させて共振周波数を微調整できるようにするものである。
【0027】
この実施例の半同軸型フィルタには、また、共振器21、22間及び共振器23、24間に形成される内部空間に、結合調整用ビス51、52が、矢線で示される方向に移動自在に設けられている。
結合調整用ビス51、52は、共振器21、22、23、24と垂直方向つまり導体ケース10内の磁界と平行になるように、導体ケース10の主面部外壁から内部方向に挿入される。挿入量が増えるにつれて磁界成分の強さを弱めるように作用するため、結果的に、共振器間の結合の強さを弱くすることができる。
【0028】
なお、結合調整用ビス51、52は、共振器21、22、23、24と平行になる方向に設けても構わない。この場合は、共振器21、22、23、24と垂直方向に設けた場合と逆の作用となる。つまり、挿入量が増えるにつれて、磁界成分が強まり、共振器間の結合を強くすることができる。
【0029】
図5のように構成される半同軸型フィルタの動作は、以下のようになる。
すなわち、入力用コネクタ61から入力された電磁界は、仕切壁11で仕切られた一方の内部空間に導かれる。この電磁界のうち、共振器21の周りを取り巻く成分は、共振器22に補足された後、折り返し空間を介して共振器23に補足される。その後、共振器23から共振器24へと補足されて、出力用コネクタ62に到達する。その際、結合の強さは結合調整用ビス51、52で調整され、共振周波数は調整用ビス31、32、33、34によって調整される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態による半同軸型フィルタの構造を示す部分切り欠き図。
【図2】図1の半同軸型フィルタの上部断面図。
【図3】本実施形態によるコムライン型の半同軸型フィルタの概念図。
【図4】本実施形態によるインターデジタル型の半同軸型フィルタの概念図。
【図5】本実施形態による半同軸型フィルタの構造を示す部分切り欠き図。
【図6】従来のコムライン型の半同軸型フィルタの概念図。
【図7】従来のインターデジタル型の半同軸型フィルタの概念図。
【図8】従来の半同軸型フィルタの動作概念を説明する説明図。
【図9】折り返し構造をもつ従来の半同軸型フィルタの構成例を示す切り欠き図。
【図10】特許文献1に開示される半同軸型フィルタの構成例を示す切り欠き図。
【符号の説明】
【0031】
10 導体ケース
11 仕切壁
21、22、23、24、25、26 共振器
31、32、33、34、35、36 共振周波数の調整用ビス
40 同軸線路
51、52 結合調整用ビス
61 入力用コネクタ
62 出力用コネクタ
M 磁界成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の幅、高さ及び長さを有する断面矩形状の導体ケースの内部に、両面部を有する導電性の仕切壁が設けられた折り返し構造の半同軸型フィルタであって、
前記仕切壁は、前記導体ケースの一対の内側壁に対して平行に、前記導体ケースの幅方向の略中央部を起点として設けられ、
前記仕切壁の先端部とそれに対向する前記導体ケースの内端壁との間には折り返し用の空間が形成されており、
前記仕切壁の一方の面部からは、使用周波数に応じて選定されたサイズの第1の共振器が、当該仕切壁の一方の面部に対向する前記導体ケースの前記一対の内側壁の一方に向けて配されており、
前記仕切壁の他方の面部からは、当該仕切壁の他方の面部に対向する前記導体ケースの前記一対の内側壁の他方に向けて第2の共振器が配されていることを特徴とする、
半同軸型フィルタ。
【請求項2】
前記第1の共振器及び前記第2の共振器は軸心が同一になるように配されている、
請求項1記載の半同軸型フィルタ。
【請求項3】
前記第1の共振器及び前記第2の共振器の各々が半同軸共振器である、
請求項1又は2記載の半同軸型フィルタ。
【請求項4】
前記第1の共振器及び前記第2の共振器の各々に対応する部位には、共振周波数及び/又は他の共振器との結合度を調整するための調整用ビスが前記導体ケース内にその挿入量を調整できるように設けられており、
さらに、前記仕切壁で二つに仕切られる前記導体ケースの2つの内部空間の一方に電磁波を導く入力用コネクタが設けられ、前記2つの内部空間の他方に電磁波を出力するための出力用コネクタが設けられる、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の半同軸型フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−283335(P2008−283335A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124174(P2007−124174)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】