説明

半固定式物質同定装置および方法

【課題】税関や空港における手荷物検査等において、被検査物を連続的に検査して、短時間にその物質を識別することができ、かつ遮蔽体全体の厚さを低減し、装置全体を小型化できる半固定式物質同定装置および方法を提供する。
【解決手段】検査物5を搬送する搬送装置12と、被検査物に対し搬送方向に直交する複数の異なる方向から所定のエネルギー分布を有する入射X線7を照射するX線照射装置14と、入射X線が被検査物5を透過した各透過X線8から2以上のエネルギー領域のX線強度を弁別して計測するX線検出装置16と、入射X線と透過X線の各強度分布から断面内の被検査物の物質分布を演算し表示する演算表示装置18とを備える。さらにX線照射装置及び/又はX線検出装置を搬送方向に直交する面内で周方向に所定の角度範囲で揺動駆動する揺動駆動装置22A,22Bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線により被検査物の物質識別を行う半固定式物質同定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
税関や空港における手荷物検査等において、X線を被検査物に照射し、透過したX線の強度分布を画像化して内部の危険物(銃器等)を検出するX線検査装置が従来から広く用いられている。
さらに、近年になって、被検査物の物質を識別する手段が種々提案されている(例えば特許文献1〜3)。
また、放射線を使った検査装置における放射線の遮蔽のための手段も提案されている(例えば特許文献4〜6)。
【0003】
特許文献1の「内容物識別装置および内容物識別方法」は、容器,袋あるいは機器の中に存在する内容物を簡便にかつ正確に表示してその識別を行うことを目的とする。
そのため、この発明の装置は、X線透視画像信号を作成する手段、中性子画像信号を作成する手段、これらの信号を基にX線透視画像の中に中性子透視画像を合成して表示する手段からなるものである。
【0004】
特許文献2の「X線CT装置」は、端部効果によるアーチファクトを軽減し、診断能の高い再構成画像に得られるX線CT装置を目的とする。
そのためこの装置は、被検体のある断面に、その周囲の多数の角度方向からX線を照射し、透過したX線を多数のX線検出素子を配列してなる多チャンネルX線検出器で検出し、デジタルデータとして測定すると共に、該測定したデジタルデータから前記被検体の断面の像を再構成するX線CT装置において、計測したX線強度値であるデジタルデータあるいはそれに相当する値のうち、隣接する複数の値から補間操作によって1X線検出素子内を細分化した後、該細分化したX線強度値のそれぞれをログ変換し、ログ変換した値の加重平均値を1X線検出素子でのX線吸収係数の線積分値あるいはそれに相当する値として出力する補正処理手段を具備し、補正処理手段の出力値を用いて画像再構成するものである。
【0005】
特許文献3の「X線CT装置」は、動きのある心臓等と、高画質化のために高X線量、高管電流の必要な腹部や脚等の両方の撮像が可能なX線CT装置を目的とする。
そのためこの装置は、図6に示すように、被検体53を中心にして対向するようにX線源54とX線検出器56とを配置したガントリを、被検体53を中心にして円周方向に回転させながら、X線源54から被検体53に向かってX線を照射し、X線検出器56により、被検体53を透過したX線のスキャンデータを検出し、検出したスキャンデータより画像再構成演算を行って被検体53の体軸を横断する任意の断面の断層撮影像を得るX線CT装置において、検出部位の大きさに応じて、ガントリのスキャン回転数を可変設定する手段50と、スキャンを複数回行った場合には複数のスキャンデータを加算したデータを用いて画像形成をする手画像処理装置52を備えるものである。
【0006】
特許文献4の「CTスキャナ装置」は、容易に移動することができ、検査室でのX線遮蔽工事が不要となるCTスキャナ装置を目的とする。
そのためこの装置は、スキャナ部を収容する空間が放射線遮蔽壁により包囲されて形成され、且つ放射線遮蔽壁の内部に放射線制御部及びデータ処理部の電子回路配線が組込まれてなるブースを具備するものである。
【0007】
特許文献5の「非破壊検査装置」は、流れ作業の効率を向上しながら作業員の被爆を防ぐことを目的とする。
そのためこの装置は、非破壊検査装置に、異常部検出手段と異常部同定手段及び流れ作業制御手段を備え、かつ被検査体の流れ作業ラインを迷路状にするものである。
【0008】
特許文献6の「放射線検査装置」は、ベルトコンベアの出入口でX線漏洩を防護し、搬送される被検査物の邪魔にならずにX線遮蔽をし、正常に検査できる放射線検査装置を目的とする。
そのためこの装置は、図7に示すように、操作パネル63からベルトコンベアの駆動部72を回転させ、ループベルト68をプーリ86、75、84、87上に回転移動させる。X線制御器61によってX線管62からX線を放射させ、スリット66を通してベルトコンベア上に照射する。一方、被検査物73が補助台70から検査ボックス74内に導入され、上部のベルト81に取付けられたX線遮蔽のれん80が回転して垂れ下がり、被検査物73がX線遮蔽のれん80の間に位置して、同じ方向と速度で移動し、X線ビーム中を通過し、再び次のX線遮蔽のれん80に仕切られて、開口部69から補助台71に搬出されるものである。
【0009】
【特許文献1】特開平11−64248号公報、「内容物識別装置および内容物識別方法」
【特許文献2】特許第2798998号公報、「X線CT装置」
【特許文献3】特開2005−40465号公報、「X線CT装置」
【特許文献4】特開平6−38960号公報、「CTスキャナ装置」
【特許文献5】特開平7−5124号公報、「非破壊検査装置」
【特許文献6】特開2002−82199号公報、「放射線検査装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来のX線を使った検査技術として、X線と検出器が固定されているものとX線CT装置のようにX線と検出器が対象物の周囲を周回するものがあった。
また、従来の放射線を使った検査装置は、外部に放射線が漏洩するのを防ぐために周囲に重厚な遮蔽体を備えていた。
【0011】
X線源と検出器が固定されている場合、一定方向からの透過像しか得られず、かつ物質識別をすることが困難であった。
またX線CT装置では対象物の厚さは精度良く得られるため、水等との相対値で物質を評価することができるが、X線と検出器を対象物周囲を周回させる必要があるため、検査時間がかかっていた。
さらに、通常は放射線の照射方向に対向する面により重厚な遮蔽体を配置するため、X線CT装置のように多方向から放射線が照射されるような場合は全周に渡って重厚な遮蔽体を配置しなければならず、装置全体のサイズが大きくなってしまっていた。
【0012】
すなわちX線CT装置(X線断層撮影装置)では、検査対象物の周囲を360度回転させて対象物の断層データを取得し、これからコンピュータによって画像を再構築して二次元断面像を得ることができ、さらに内部にある物質を識別することもできる。
しかし、X線CT装置では、X線と検出器を回転させるための回転機構を有するため、検査速度が遅い。また検査対象物の周囲の360度分のデータを取得するため、バッチ式処理となってしまい、連続的に検査できない。さらにX線エネルギーのスペクトルが連続であるため、物質は経験値利用による目安でしか識別できなかった。
【0013】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、税関や空港における手荷物検査等において、被検査物を連続的に検査して、短時間にその物質を識別することができ、かつ遮蔽体全体の厚さを低減し、装置全体を小型化できる半固定式物質同定装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、被検査物を搬送する搬送装置と、
前記被検査物に対し、搬送方向に直交する複数の異なる方向から、所定のエネルギー分布を有する入射X線を照射するX線照射装置と、
前記入射X線が被検査物を透過した各透過X線から2以上のエネルギー領域のX線強度を弁別して計測するX線検出装置と、
前記入射X線と透過X線の各強度分布から搬送方向に直交する断面内の被検査物の物質分布を演算し表示する演算表示装置とを備える、ことを特徴とする半固定式物質同定装置が提供される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記X線照射装置及び/又はX線検出装置を、搬送方向に直交する面内で周方向に所定の角度範囲で揺動駆動する揺動駆動装置を備える。
【0016】
また、前記X線照射装置は、前記搬送装置の片側及び上面に配置されており、
前記X線検出装置は、前記搬送装置の前記X線照射装置に対向する反対側及び下面に配置されており、
さらに、前記X線検出装置の背面に、前記入射X線を遮蔽する遮蔽体を有する。
【0017】
また本発明によれば、被検査物を搬送し、
前記被検査物に対し、搬送方向に直交する複数の異なる方向から、所定のエネルギー分布を有する入射X線を照射し、
前記入射X線が被検査物を透過した各透過X線から2以上のエネルギー領域のX線強度を弁別して計測し、
前記入射X線と透過X線の各強度分布から搬送方向に直交する断面内の被検査物の物質分布を演算し表示する、ことを特徴とする半固定式物質同定方法が提供される。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、被検査物に入射X線を照射して計測中、或いは計測後の被検査物の搬送中において、
前記X線照射装置及び/又はX線検出装置を、搬送方向に直交する面内で周方向に所定の角度範囲で揺動駆動する。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明の装置及び方法によれば、搬送装置により被検査物を搬送しながら、X線照射装置により複数の異なる方向から入射X線を照射し、X線検出装置により被検査物を透過した各透過X線から2以上のエネルギー領域のX線強度を弁別して計測し、演算表示装置により入射X線と透過X線の各強度分布から搬送方向に直交する断面内の被検査物の物質分布を演算し表示することができる。
【0020】
従って、被検査物を搬送装置で搬送するだけで、断面内の物質分布が画像表示されるので、税関や空港における手荷物検査等において、被検査物を連続的に検査して、短時間にその物質を識別することができる。
【0021】
また、揺動駆動装置により、被検査物に入射X線を照射して計測中、或いは計測後の被検査物の搬送中において、X線照射装置及び/又はX線検出装置を、搬送方向に直交する面内で周方向に所定の角度範囲で揺動駆動することにより、被検査物を搬送装置で前後に繰り返して搬送するだけで、画像表示の解像度を向上できる。
【0022】
また、X線照射装置を搬送装置の片側及び上面に配置し、X線検出装置を搬送装置のX線照射装置に対向する反対側及び下面に配置し、さらに、X線検出装置の背面に入射X線を遮蔽する遮蔽体を有する構成により、遮蔽体の設置位置を限定することができるため、装置の小型化が図れる。
特に、放射線の照射方向が床面に向いている場合には床自体が遮蔽の役割を果たせるため、床から散乱した放射線(一般的にはエネルギーが減衰している)を遮蔽できればよいため、遮蔽体自体の簡素化、軽量化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0024】
はじめに本発明の原理について説明する。
図1は、本発明で使用するX線管とX線検出器のスペクトル図である。
この図において、横軸はX線のエネルギー、縦軸は信号強度、1はX線管から放射される入射X線の強度分布、2はエネルギー弁別機能付きX線検出器による入射X線の検出強度分布、3はある物質を透過した透過X線のX線検出器による検出強度分布である。
【0025】
この図から明らかなように、X線管から放射されるX線の強度分布1は、ある波長領域において、連続した連続X線である。
X線の波長は、約0.01〜100Å(10-12〜10-8m)程度であり、波長λ[Å]とX線エネルギーE[keV]との間には、式(1)の関係がある。
E=12.4/λ・・・(1)
従って、波長λ[Å]と光量子エネルギーE[keV]は1対1で対応している。
【0026】
図1において、X線エネルギーE,Eの2種の入射X線(強度I10,I20)を厚さxの物質に照射し、その透過X線の強度I,Iを計測すると、以下の関係がある。
=I10exp(−μx)・・・(2a)
=I20exp(−μx)・・・(2b)
ここで、μ,μはX線エネルギーE,Eにおける減弱係数(又は線吸収係数)である。
【0027】
上記(2a)(2b)の式から、厚さxが既知であれば、入射X線(強度I10,I20)と透過X線強度(I,I)から減弱係数μ,μを求めることができる。
【0028】
また、減弱係数μ,μは、光電効果とコンプトン効果の和であり、以下の関係がある。
μ=ρZ+ρB・・・(3a)
μ=ρZ+ρB・・・(3b)
【0029】
ここで、Zは物質の原子番号、ρは物質の電子密度、A,A,B,Bは、原子番号によって決まる比例定数である。
減弱係数μ,μを実験的に求めることにより、上記式(3a)(3b)において、A,A,B,Bは理論的に求まるため、2つの未知数Z,ρを求めることができる。
【0030】
図2は、本発明による半固定式物質同定装置の実施形態を示す全体構成図である。この図において、本発明の半固定式物質同定装置10は、搬送装置12、X線照射装置14、X線検出装置16及び演算表示装置18を備える。
【0031】
搬送装置12は、例えばベルトコンベアであり、被検査物5を水平(この図で左右方向)に搬送する。この搬送装置12は、図で右方への搬送のみではなく、左方への搬送もでき、操作員(検査員)の判断で、操作パネル23により、被検査物5を前後に任意に搬送することができるようになっている。
また被検査物5は、X線に対して透明な任意の容器6(例えば旅行用ケース)内に収納されている。なお、9は、容器6を通すための遮蔽カバーである。
【0032】
図3Aは、図2のA−A矢視図であり、図3Bは、図2のB−B矢視図である。
図3A及び図3Bに示すように、X線照射装置14は、被検査物5に対し、搬送方向に直交する複数の異なる方向(この例では4方向)から、所定のエネルギー分布を有する入射X線7を照射する。入射X線7のエネルギー分布は、例えば図1に1で示した入射X線の連続した強度分布であるのがよい。
【0033】
またこの例において、X線照射装置14は、搬送方向に一定の間隔を隔てて配置された上流側照射装置14Aと下流側照射装置14Bとからなる。この間隔は、短いほどよく、好ましくは100mm以内である。
【0034】
上流側照射装置14Aは、図3Aにおいて、垂直方向上部(以下、「0度の位置」)と垂直方向から時計回りに90度の位置に配置された2台のX線管15a,15bである。
また、下流側照射装置14Bは、図3Bにおいて、垂直位置から時計回りに45度の位置と135度の位置に配置された2台のX線管15c,15dである。図中の小さい数字はそれぞれの垂直位置からの角度を示している。
【0035】
X線管15a,15bとX線管15c,15dは、それぞれ搬送方向に直交する同一断面内で被検査物5に対し所定のエネルギー分布の入射X線7を線状かつ扇状に同時に照射するようになっている。
【0036】
X線検出装置16は、上述したエネルギー弁別機能付きX線検出器であり、入射X線7が被検査物5を透過した各透過X線8から2以上のエネルギー領域E,EのX線強度I,Iを弁別して計測する。
またこの例において、X線検出装置16は、搬送方向に一定の間隔を隔てて配置された上流側検出装置16Aと下流側検出装置16Bとからなる。この間隔は、X線照射装置14の間隔と同一である。
【0037】
上流側検出装置16Aは、図3Aにおいて、2台のX線管15a,15bに対向するように、X線管15aから時計回りに180度の位置に水平に配置された線状検出器17aと、270度の位置に垂直に配置された線状検出器17bからなる。
また、下流側検出装置16Bは、図3Bにおいて、2台のX線管15c,15dに対向するように、X線管15aから時計回りに225度の位置と315度の位置に水平に対し45度の角度で配置された線状検出器17c,17dからなる。
【0038】
線状検出器17a,17b,17c,17dは、それぞれ被検査物5を透過した線状のX線から2以上のエネルギー領域E,Eの強度分布I,Iを弁別して計測するようになっている。
【0039】
演算表示装置18は、例えばコンピュータであり、2以上のエネルギー領域E,Eにおける入射X線7と透過X線8の強度I10,I20、I,Iから、被検査物5の原子番号Zと電子密度ρを算出し、これから被検査物5の物質を識別する。
【0040】
演算表示装置18は、2以上の異なる方向から得られた透過X線8の強度分布から、各方向の被検査物5の厚さxを特定する。この特定は、例えば異なる方向が互いに直交していれば、X線強度の変化から容易にできる。
次いで、2以上のエネルギー領域E,Eにおける入射X線7と透過X線8の強度と厚さxから、式(2a)(2b)により、各エネルギー領域E,Eにおける2以上の減弱係数μ,μを求める。
次に、光電効果、コンプトン効果及び減弱係数の関係(上記(3a)(3b)の式)から、原子番号Zと電子密度ρを算出する。被検査物5の物質は、原子番号Zと電子密度ρから一般的に容易に特定でき識別が完了する。
【0041】
演算表示装置18は、さらに搬送方向に直交する断面内の被検査物5の物質分布を演算し表示する表示装置を備え、被検査物5の断面内の物質分布を画像表示するようになっている。断面内の被検査物5の物質分布を演算し画像表示する手段は、周知のX線CT装置と同様である。
【0042】
図3A,図3Bにおいて、X線照射装置14A,14Bは、搬送装置12の片側(図で右側)及び上面に配置されている。また、X線検出装置16A,16Bは、搬送装置12のX線照射装置14A,14Bに対向する反対側(図で左側)及び下面に配置されている。
さらに、本発明の半固定式物質同定装置10は、X線検出装置16A,16Bの背面に、入射X線7を遮蔽する遮蔽体20を有する。
この遮蔽体20は、図で左側及び下側は、入射X線7を直接遮断できるように十分厚い遮蔽材20a,20bで構成され、図で右側及び上側は、床から散乱した放射線(一般的にはエネルギーが減衰している)を遮蔽できればよいため、薄い遮蔽材20c,20dで構成されている。
【0043】
さらに、本発明の半固定式物質同定装置10は、X線照射装置14A,14B及びX線検出装置16A,16Bを、搬送方向に直交する面内で周方向に所定の角度範囲で揺動駆動する揺動駆動装置22A,22Bをそれぞれ備える。揺動駆動装置22A,22Bは、操作パネル23と演算表示装置18により制御され、その出力は演算表示装置18に入力される。
【0044】
図4A,図4Bは、それぞれ図3A,図3Bの揺動駆動装置22A,22Bによる揺動状態を示す図である。
図4Aにおいて、X線照射装置14AとX線検出装置16Aは、一体で容器6の回りを周方向に、図3Aの位置から−30度から30度の範囲で揺動できるようになっている。その結果、この例では2台のX線管15a,15bは、−30〜30度、60〜120度の範囲で揺動する。
同様に図4Bにおいて、X線照射装置14BとX線検出装置16Bは、一体で容器6の回りを周方向に、図3Bの位置から−30度から+0度の範囲で揺動できるようになっている。その結果、この例では2台のX線管15c,15dは、−15〜45度、105〜135度の範囲で揺動する。
また、上記各角度制御は数値制御により、任意の角度に任意のピッチで移動することができるようになっている。
【0045】
なお、本発明はこの構成に限定されず、X線照射装置14のみを揺動しても、X線検出装置16のみを揺動してもよい。また、X線照射装置14及びX線検出装置16を、それぞれ上流側又は下流側の一方のみで構成してもよく、或いは搬送方向に3列以上で構成してもよい。さらに各断面において、X線管及び/又は線状検出器を1台としてもよく、3台以上にしてもよい。
【0046】
本発明の半固定式物質同定方法は、上述した装置を用い、搬送ステップS1、照射ステップS2、計測ステップS3、および演算表示ステップS4からなる。
【0047】
搬送ステップS1では、例えばベルトコンベアにより被検査物5を水平に搬送する。
照射ステップS2では、被検査物5に対し、搬送方向に直交する複数の異なる方向から、所定のエネルギー分布1を有する入射X線7を照射する。
計測ステップS3では、入射X線7が被検査物5を透過した各透過X線8から2以上のエネルギー領域E,EのX線強度I,Iを弁別して計測する。
演算表示ステップS4では、2以上のエネルギー領域E,Eにおける入射X線7と透過X線8の各強度分布I10,I20、I,Iから、搬送方向に直交する断面内の被検査物5の物質分布を演算し表示する。
【0048】
上記照射ステップS2では、同一断面内で被検査物5に対し所定のエネルギー分布1のX線を線状かつ扇状に照射し、計測ステップS3では、被検査物5を透過した線状のX線から2以上のエネルギー領域E,Eの強度分布を弁別して計測する。
【0049】
また、被検査物5に入射X線7を照射して計測中、或いは計測後の被検査物5の搬送中において、X線照射装置14及び/又はX線検出装置16を、搬送方向に直交する面内で周方向に所定の角度範囲で揺動駆動する。
【0050】
識別ステップS4は、厚さ特定ステップS41、減弱係数算出ステップS42、原子番号・電子密度算出ステップS43、および物質識別ステップS44からなる。
厚さ特定ステップS41では、2以上の異なる方向から得られたX線の強度分布から、前記各方向の被検査物5の厚さxを特定する。
減弱係数算出ステップS42では、2以上のエネルギー領域における入射X線7と透過X線8の強度と被検査物5の厚さxから、各エネルギー領域E,Eにおける2以上の減弱係数μ,μを求める。
原子番号・電子密度算出ステップS43では、光電効果、コンプトン効果及び減弱係数の関係から原子番号Zと電子密度ρを算出する。
物質識別ステップS44では、原子番号Zと電子密度ρから被検査物の物質を決定する。
さらに、周知のX線CT装置と同様にして、断面内の被検査物5の物質分布を演算し画像表示する。
【0051】
図5は、上述した装置を用いて取得されるX線画像の取得時間と検出角度との関係を示す図である。また、表1は、この例における検出位置A,Bと検出角度の関係を示している。なお表中の数字は検出順序を示している。
【0052】
【表1】

【0053】
図5及び表1において、被検査物5を収容した容器6を搬送装置12で順方向に送り、被検査物5が上流側照射装置14Aの位置を通過するとき(NO.1)に、X線管15a,15bの位置に対応する0度と90度のX線画像が同時に取得される。
次いで、被検査物5が下流側照射装置14Bの位置を通過するとき(NO.2)に、X線管15c,15dの位置に対応する45度と135度のX線画像が同時に取得される。NO.1とNO.2の時間差は、例えば搬送装置12の搬送速度が30cm/sの場合に0.5sec未満である。
【0054】
この時点で、合計4枚の複数の異なる方向(0,45,90,135度)から照射した入射X線の透過X線の画像が得られている。また、回転中心に対して点対象の方向(180,225,270,315度)からの透過画像もほぼ同様の画像となるため、合計8枚の画像が得られたこととなる。
【0055】
この時点で、X線検出装置16により被検査物5を透過した合計8枚の透過X線から2以上のエネルギー領域のX線強度を弁別して計測し、演算表示装置18により2以上のエネルギー領域における入射X線と透過X線の強度分布から搬送方向に直交する断面内の被検査物5の物質分布を演算し表示することができる。
従って、被検査物5を搬送装置12で搬送し、上流側照射装置14Aと下流側照射装置14Bの位置を通過するだけで、断面内の物質分布が画像表示されるので、税関や空港における手荷物検査等において、被検査物を連続的に検査して、短時間にその物質を識別することができる。
【0056】
また、この時点で、画像が不鮮明で判別が困難な場合には、搬送装置12を逆方向に戻すと同時に揺動駆動装置22A,22Bを例えば15度づつ作動させ、被検査物5が下流側照射装置14Bの位置を通過するとき(NO.3)に、X線管15c,15dの位置に対応する15度と105度の画像を取得し、上流側照射装置14Aの位置を通過するとき(NO.4)に、X線管15a,15bの位置に対応する−30度と60度の画像を取得し、更に、15度づつ作動させて順方向に送り、No.5で−15度と75度、No.6で30度と120度の画像を取得する。
この時点で、合計12枚の複数の異なる方向(−30〜135度、ピッチ15度)から照射した入射X線の透過X線の画像が得られ、点対象の方向を含めれば合計24枚の画像が得られたこととなる。
【0057】
この時点で、X線検出装置16により被検査物5を透過した合計24枚の透過X線から2以上のエネルギー領域のX線強度を弁別して計測し、演算表示装置18により2以上のエネルギー領域における入射X線と透過X線の強度分布から搬送方向に直交する断面内の被検査物5の物質分布を演算し解像度を高めて表示することができる。
従って、被検査物5を搬送装置12で前後に繰り返して搬送するだけで、画像表示の解像度を向上できる。
【0058】
なお、搬送装置12、X線照射装置14、X線検出装置16、演算表示装置18及び揺動駆動装置22A,22Bの作動順序は、上述した例に限定されない。
例えば、ある容器(例えば旅行用ケース)の各部分の断面画像を作成しながら、順に搬送してもよく、或いは容器の搬送を停止して揺動駆動装置22A,22Bを連続的に小ピッチで作動させて特定の断面について精密に検査してもよい。
【0059】
上述したように、本発明の装置と方法によれば、搬送装置12により被検査物5を搬送しながら、X線照射装置14により複数の異なる方向から入射X線7を照射し、X線検出装置16により被検査物を透過した各透過X線8から2以上のエネルギー領域のX線強度を弁別して計測し、演算表示装置18により入射X線と透過X線の各強度分布から搬送方向に直交する断面内の被検査物の物質分布を演算し表示することができる。
【0060】
従って、被検査物5を搬送装置12で搬送するだけで、断面内の物質分布が画像表示されるので、税関や空港における手荷物検査等において、被検査物を連続的に検査して、短時間にその物質を識別することができる。
【0061】
また、揺動駆動装置により、被検査物5に入射X線を照射して計測中、或いは計測後の被検査物の搬送中において、X線照射装置14及び/又はX線検出装置16を、搬送方向に直交する面内で周方向に所定の角度範囲で揺動駆動することにより、被検査物を搬送装置で前後に繰り返して搬送するだけで、断面内の物質分布の画像表示の解像度を向上できる。
【0062】
また、X線照射装置14を搬送装置12の片側及び上面に配置し、X線検出装置16を搬送装置のX線照射装置に対向する反対側及び下面に配置し、さらに、X線検出装置16の背面に入射X線を遮蔽する遮蔽体20を有する構成により、遮蔽体20の設置位置を限定することができるため、装置の小型化が図れる。
特に、放射線の照射方向が床面に向いている場合には床自体が遮蔽の役割を果たせるため、床から散乱した放射線(一般的にはエネルギーが減衰している)を遮蔽できればよいため、遮蔽体自体の簡素化、軽量化が図れる。
【0063】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明で使用するX線管とX線検出器のスペクトル図である。
【図2】本発明による半固定式物質同定装置の実施形態を示す全体構成図である。
【図3】図2のA−A矢視図とB−B矢視図である。
【図4】図3の揺動駆動装置による揺動状態を示す図である。
【図5】X線画像の取得時間と検出角度との関係を示す図である。
【図6】特許文献3の「X線CT装置」の模式図である。
【図7】特許文献6の「放射線検査装置」の模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1 入射X線の強度分布、
2 入射X線の検出強度分布、
3 透過X線の検出強度分布、
5 被検査物、7 入射X線、8 透過X線、9 遮蔽カバー、
10 半固定式物質同定装置、12 搬送装置、
14 X線照射装置、14A 上流側照射装置、14B 下流側照射装置、
15a,15b,15c,15d X線管、
16 X線検出装置、16A 上流側検出装置、16B 下流側検出装置、
17a,17b,17c,17d 線状検出器、
18 演算表示装置(コンピュータ)、
20 遮蔽体、20a,20b 主遮蔽材、20c,20d 副遮蔽材、
22A,22B 揺動駆動装置、23 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物を搬送する搬送装置と、
前記被検査物に対し、搬送方向に直交する複数の異なる方向から、所定のエネルギー分布を有する入射X線を照射するX線照射装置と、
前記入射X線が被検査物を透過した各透過X線から2以上のエネルギー領域のX線強度を弁別して計測するX線検出装置と、
前記入射X線と透過X線の各強度分布から搬送方向に直交する断面内の被検査物の物質分布を演算し表示する演算表示装置とを備える、ことを特徴とする半固定式物質同定装置。
【請求項2】
前記X線照射装置及び/又はX線検出装置を、搬送方向に直交する面内で周方向に所定の角度範囲で揺動駆動する揺動駆動装置を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の半固定式物質同定装置。
【請求項3】
前記X線照射装置は、前記搬送装置の片側及び上面に配置されており、
前記X線検出装置は、前記搬送装置の前記X線照射装置に対向する反対側及び下面に配置されており、
さらに、前記X線検出装置の背面に、前記入射X線を遮蔽する遮蔽体を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の半固定式物質同定装置。
【請求項4】
被検査物を搬送し、
前記被検査物に対し、搬送方向に直交する複数の異なる方向から、所定のエネルギー分布を有する入射X線を照射し、
前記入射X線が被検査物を透過した各透過X線から2以上のエネルギー領域のX線強度を弁別して計測し、
前記入射X線と透過X線の各強度分布から搬送方向に直交する断面内の被検査物の物質分布を演算し表示する、ことを特徴とする半固定式物質同定方法。
【請求項5】
被検査物に入射X線を照射して計測中、或いは計測後の被検査物の搬送中において、
前記X線照射装置及び/又はX線検出装置を、搬送方向に直交する面内で周方向に所定の角度範囲で揺動駆動する、ことを特徴とする請求項4に記載の半固定式物質同定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−8441(P2009−8441A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167920(P2007−167920)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】