説明

半導体ウェーハおよびその銀汚染評価方法

【課題】ウェーハ表面の銀汚染を高精度に評価でき、従来法に比べて銀の回収作業が簡便で、高い作業効率が得られる半導体ウェーハおよびその銀汚染評価方法を提供する。
【解決手段】シリコンウェーハの表面に硝酸水溶液を接触させ、ウェーハ表面の銀を硝酸水溶液に溶解して回収し、その回収された銀からシリコンウェーハの銀汚染度を評価するので、従来のHF/Hの混合水溶液により銀を回収し、シリコンウェーハの銀汚染度を評価するものに比べて、銀の評価精度が高まる。しかも、従来法より銀回収の作業が簡便となり、高い作業効率が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は半導体ウェーハおよびその銀汚染評価方法、詳しくは半導体ウェーハの表面の銀を硝酸水溶液に溶解して回収し、その回収液から半導体ウェーハの表面の銀汚染の度合いを評価する方法およびその評価値を満たす半導体ウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
300mmを超える大口径ウェーハに適したシリコンウェーハとして、ウェーハ表面に気相エピタキシャル成長により無欠陥層を成長させたエピタキシャルシリコンウェーハ、および、シリコンウェーハを高温(1200℃程度)で熱処理し、その表層中の酸素を外方拡散させることで無欠陥層を形成させたウェーハが注目されている。
これらのシリコンウェーハの無欠陥層には、シリコン結晶中の高い無欠陥性および高い清浄度がそれぞれ要求される。ウェーハの清浄度は、簡易的にはウェーハの表面に存在する重金属の濃度により評価される。すなわち、ある一定の濃度以上の重金属の存在はウェーハの清浄度を低下させ、その後のデバイス特性(酸化膜耐圧、ライフタイムなど)の劣化を招くおそれがあった。
このような金属汚染を招く重金属として、鉄(Fe),ニッケル(Ni),銅(Cu)などの他に、銀(Ag)が知られている。銀は、研磨後のシリコンウェーハを洗浄するAPM(NHOH/H/HO)洗浄液中、および、DHF(HF/HO)洗浄液中に含まれている。また、ウェーハ研磨時に、シリコンウェーハに供給されるスラリーにも含まれている。
【0003】
シリコンウェーハの表面からの銀の回収方法としては、従来、HF/Hの混合水溶液を使用している。例えば非特許文献1,2が知られている。HF/Hの混合水溶液中の過酸化水素は強い酸化剤である。そのため、シリコンウェーハの表面の汚染金属(銀)を酸化して分解する。その後、フッ酸が酸化後の汚染金属を溶解させる。その結果、ウェーハ表面の銀がHF/Hの混合水溶液中に溶け、回収される。この回収液の銀濃度を測定することで、シリコンウェーハの表面の銀汚染度を判定する。
【0004】
【非特許文献1】INTERNATIONAL STANDARD ISO 17331
【非特許文献2】Materials Science and Engineering B102 (2003)238-246 M.B.Shabani et al.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、HF/Hの混合水溶液では、シリコンウェーハの表面上の銀を一部(約5%)のみしか回収することができず、銀汚染を見落とすおそれがあった。これは、HF/Hの混合水溶液に対する銀の溶解度が低いためと推察される。銀汚染が発生すれば、デバイスの酸化膜耐圧が低下し、バルク中に銀拡散が生じて、ライフタイムも低下するおそれがあった。
そこで、HF/Hの混合水溶液に代えて、HF/HNOの混合水溶液を銀の回収液に採用することが考えられる。しかしながら、HF/HNOの混合水溶液の場合、シリコンウェーハの表面から1μmの深さまでウェーハ表層をHFにより溶解させる。その結果、銀評価の作業性の観点から、作業の簡便さおよび作業効率に問題があった。
この発明は、ウェーハ表面の銀汚染を高精度に評価することができ、しかもHF/Hの混合水溶液を使用して銀回収を行う場合に比べて、銀の回収作業が簡便で、高い作業効率を得ることができる半導体ウェーハの銀汚染評価方法を提供することを目的としている。
また、この発明は、この半導体ウェーハの銀汚染評価方法により良品の評価を得ることができる半導体ウェーハを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、半導体ウェーハの表面の銀を硝酸水溶液に溶解して回収し、回収された銀から半導体ウェーハの表面の銀汚染度を評価する半導体ウェーハの銀汚染評価方法である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、半導体ウェーハの表面に硝酸水溶液を接触させ、ウェーハ表面の銀を硝酸水溶液に溶解して回収し、回収された銀から半導体ウェーハの銀汚染の度合いを評価する。硝酸水溶液の回収液を使用すれば、半導体ウェーハの表面の銀を略100%回収することが可能となる。そのため、回収率約5%のHF/Hの混合水溶液に比べて、約20倍も銀が溶解し易い(図2のグラフ)。その結果、半導体ウェーハの表面の銀汚染の評価精度を高めることができる。しかも、HF/Hの混合水溶液を使用して銀回収を行う場合に比べて、銀の回収作業が簡便で、高い作業効率を得ることができる。また、HF/HNOの混合水溶液を使用する場合に比べて、銀評価作業の作業が簡便で、かつ高い作業効率を得ることができる。
【0008】
半導体ウェーハとしては、例えば、シリコンウェーハ、エピタキシャルシリコンウェーハ、高温熱処理によりウェーハ表層中の酸素を外方拡散させて無欠陥層を形成させたシリコンウェーハなどを採用することができる。
半導体ウェーハの銀が回収される表面とは、半導体ウェーハの露出した表面(露出面)を意味し、デバイスが形成される面のみでなく、この面とは反対側の面を含む。これは、シリコンウェーハの裏面側の銀汚染が問題になる場合もあるためである。
硝酸水溶液とは、所定量の硝酸を水に溶解させたものである。
硝酸水溶液の濃度は60〜70体積%である。60体積%未満では、金属を酸化する作用が低下する。また、70体積%を超える硝酸水溶液は一般的に流通していない。硝酸水溶液の好ましい濃度は、68〜70体積%である。この範囲であれば、短時間の表面回収作業により銀を100%回収できる。
【0009】
硝酸水溶液による半導体ウェーハの表面の銀回収方法としては、例えば、半導体ウェーハの表面に硝酸水溶液を100〜500μl滴下し、この液滴を半導体ウェーハの表面全域に接触するように転がし、この液滴に半導体ウェーハの表面の銀を吸収させ、その回収液中の金属を微量金属分析計により検出する方法を採用してもよい。微量金属分析計としては、例えばICP−MS(Inductively Coupled Plasma − Mass Spectrometry)を採用することができる。
回収液(銀を含む硝酸水溶液)中の銀濃度の測定方法としては、例えばAAS(Atomic−Absorption−Spectroscopy)などを採用することができる。
半導体ウェーハの表面の銀汚染度の評価としては、例えば半導体ウェーハの表面濃度に換算して2×10atoms/cm以下を良品、それを超えた場合には不良品とすることが考えられる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記回収された銀が、前記半導体ウェーハの表面濃度に換算して2×10atoms/cm以下を良品と評価する請求項1に記載の半導体ウェーハの銀汚染評価方法である。
【0011】
半導体ウェーハの表面濃度とは、半導体ウェーハの表面(露出面)の1cm当たり、銀原子が何個存在するかをいう。
回収された銀が、半導体ウェーハの表面濃度に換算して2×10atoms/cmを超えれば、ウェーハの表面に形成した酸化膜が品質劣化する。
【0012】
請求項3に記載の発明は、半導体ウェーハの表面に硝酸水溶液を接触させて回収した銀が、前記半導体ウェーハの表面濃度に換算して2×10atoms/cm以下の半導体ウェーハである。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、ウェーハの表面に硝酸水溶液を接触させて回収した銀の量(濃度)が、半導体ウェーハの表面濃度に換算して2×10atoms/cm以下であるので、請求項1および請求項2に記載されたこの発明の半導体ウェーハの銀汚染評価方法により良品の評価が得られる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、半導体ウェーハの表面に硝酸水溶液を接触させ、ウェーハ表面の銀を硝酸水溶液に溶解して回収し、その回収された銀から半導体ウェーハの銀汚染度を評価するので、従来のHF/Hの混合水溶液により銀を回収し、半導体ウェーハの銀汚染度を評価するものに比べて、銀の評価(検出)精度を高めることができる。しかも、HF/HNOの混合水溶液を使用する場合に比べて、銀回収の作業が簡便となり、高い作業効率を得ることができる。
【0015】
特に、請求項2に記載の発明によれば、回収された銀が、半導体ウェーハの表面濃度に換算して2×10atoms/cm以下を良品と評価するので、不良品の流出を防ぐことができる。
【0016】
また、請求項3に記載の発明によれば、ウェーハの表面に硝酸水溶液を接触させて回収した銀の量が、半導体ウェーハの表面濃度に換算して2×10atoms/cm以下であるので、請求項1または請求項2に記載された半導体ウェーハの銀汚染評価方法により、良品の評価を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0018】
以下、図1のこの発明の実施例1に係る半導体ウェーハの銀汚染評価方法のフローシートに基づき、この発明の銀汚染評価方法を具体的に説明する。
ここでは、チョクラルスキー法(CZ法)により、grow−in欠陥が存在しないように育成されたシリコン単結晶に対して、順次、外周研削、ブロック切断、スライス、研磨、洗浄が施されて得られたシリコンウェーハを採用する。シリコンウェーハは、厚さが725μm、直径が200mm、抵抗値が10Ωcm、主表面の軸方位が〈100〉のものである。
【0019】
ここでは、2枚のシリコンウェーハの表面(デバイス形成面)に対して、故意に所定量の銀をそれぞれ付着させ、各ウェーハ表面に存在する銀濃度を正確に評価可能な方法を検討した。
まず、シリコンウェーハの表面に銀濃度が約10ppmの水溶液を3000rpmで40秒間スピンコートする(S100)。次に、2枚のシリコンウェーハのうち、1枚目のウェーハの表面には、(a)HF/Hの混合水溶液を滴下し、2枚目のウェーハの表面には、(b)HNO水溶液を滴下する。各水溶液の滴下量は100μlとする。(a)HF/Hの混合比は1:1で、その濃度が2重量%の水溶液を採用している。(b)HNO(硝酸)水溶液は、濃度68〜70体積%のものを採用している。
【0020】
次に、各シリコンウェーハの表面において、(a),(b)の対応する液滴がウェーハ表面の全域(全面)に接触するように、液滴が落ちない程度にウェーハを任意方向に傾けながら転がし、ウェーハ表面の金属不純物をこの液滴の中に吸収させる(S102)。
その後、2枚のシリコンウェーハの表面から、対応する(a),(b)の液滴をマイクロピペットを用いてそれぞれ回収する(S103)。
得られた(a),(b)の各液滴を、AAS(Atomic−Absorption−Spectroscopy)を用い、それぞれの銀成分の分析を行った(S104)。それらの結果は表面濃度に換算した。また、全銀汚染量を評価するため、同じ条件でウェーハ作製し、同じ条件で銀を汚染させたシリコンウェーハを、(c)ウェーハの表面から1μmの深さまで、HF/HNOの混合水溶液の混合比は体積比1:1〜1:2で、その溶解液を前記AASにより分析した。HF(フッ酸)水溶液は、濃度38体積%のものを採用し、HNO(硝酸)水溶液は、濃度68体積%のものを採用している。
【0021】
図2のグラフは、(c)HF/HNOの混合水溶液を用いて検出した銀濃度を基準(100%回収)とした場合における、(a)〜(c)の3水準の回収液により得られた各ウェーハ表面の銀の回収率を示す。
図2から明らかなように、(b)HNO水溶液によりウェーハ表面の銀を回収すれば、(c)のHF/HNOの混合水溶液を用いた場合と同じ100%の回収率が得られることが判明した。また、ウェーハ表面の銀回収法で使用される回収液は、従来、HF/Hの混合水溶液が一般的であったが、これによる銀の回収率は5%程度に過ぎなかった。すなわち、HNO回収法と比較して従来法では、銀濃度を1/20も低く検出しており、銀シリコンウェーハの表面の銀汚染を見落とすおそれがあることが判明した。
しかも、作業性の観点から言えば、(b)HNO水溶液によりウェーハ表面の銀を回収する方法は、(c)HF/HNOの混合水溶液を用いる方法に比べて、銀の回収作業が簡便であり、その作業効率も高かった。
【0022】
シリコンウェーハの表面の銀汚染の有無評価(判定)は、ウェーハ表面の銀濃度が、シリコンウェーハの表面濃度に換算して2×10atoms/cm以下を銀汚染無しと評価した(S105)。
この評価基準値は、2×10atoms/cmレベルから、シリコンウェーハの酸化膜耐圧の良品率の低下が顕著になることから規定した(図3のグラフ)。以上のことから、高品質のシリコンウェーハを効率良く製造するためには、(c)HNO水溶液によるHNO回収法によってウェーハ表面の銀を回収し、シリコンウェーハの表面銀濃度を2×10atoms/cmレベル以下とする必要があることがわかった。
【0023】
酸化膜耐圧評価条件としては、3枚のシリコンウェーハに対して、熱処理温度950℃で所定時間、酸素雰囲気中で厚さ25nmのゲート酸化膜を形成し、その後、LPCVD法により厚さ400nmの多結晶シリコン膜を堆積し、さらにPOCl雰囲気中で多結晶シリコン膜中にリン(P)を拡散させる。次に、レジストコート、マスク露光、現像、エッチング処理を順に施し、電極面積8mmのポリシリコン製のゲート電極の配列を作製した。
測定方法は、ステップ状に電圧を掃引して(1秒間に1V)電流をモニタし、10−3A(11MV/cm)を超えた場合をブレイクダウンとみなし、その判定電界をクリアしたMOSキャパシタを良品とした。また、良品率は測定個数を分母、良品数を分子としてパーセントにより表した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施例1に係る半導体ウェーハの銀汚染評価方法のフローシートである。
【図2】銀回収液別の半導体ウェーハの表面の銀回収率を示すグラフである。
【図3】半導体ウェーハの表面銀濃度と半導体ウェーハの良品率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハの表面の銀を硝酸水溶液に溶解して回収し、回収された銀から半導体ウェーハの表面の銀汚染度を評価する半導体ウェーハの銀汚染評価方法。
【請求項2】
前記回収された銀が、前記半導体ウェーハの表面濃度に換算して2×10atoms/cm以下であれば良品と評価する請求項1に記載の半導体ウェーハの銀汚染評価方法。
【請求項3】
半導体ウェーハの表面に硝酸水溶液を接触させて回収した銀が、前記半導体ウェーハの表面濃度に換算して2×10atoms/cm以下の半導体ウェーハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−206252(P2009−206252A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46010(P2008−46010)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】