説明

半導体デバイスのための電力推定

【課題】半導体装置の電力消費量に関し制約がある用途にて、電力消費量の監視を簡単な手段で実現する。
【解決手段】集積回路のジャンクション温度をはかることによりチップの消費電力量を推定する。高温部(プロセッサのコア部等)、および低温部(ヒートシンク等に近い部分)の温度を集積回路に内蔵させた複数のセンサー回路で測定し、温度差を求め、予め求められている熱抵抗値等から演算処理し、チップにおける消費電力を推定する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
さまざまな半導体用途において、チップ(またはチップの一部)が消費している電力量を監視できるようにすることがメリットになりつつある。例えば、用途によっては、最大消費電力の必要条件が課されることもあり得るが、同時に、パフォーマンスを向上させるためには、このような最大消費電力の必要条件に限りなく近づいて動作できるのが望ましい。既存の消費電力の監視(および/または推定)方法では、電圧および/または電流を測定し、その後、消費電力を算出するのだが、このような方法は、例えば、それらを実行するための回路または製造資源などの点で比較的費用が高くなってしまう。したがって、消費電力を監視するための新しい方法が求められている。
【図面の簡単な説明】
【0002】
添付の図面における例を用いて本発明の実施形態を示すが、これらに限定されない。
同様の参照符号は、同様の構成要素を示す。
【0003】
【図1】いくつかの実施形態に従う、消費電力を推定する温度センサを有する半導体デバイスの側面図である。
【0004】
【図2】いくつかの実施形態に従う、図1の半導体デバイスにおける消費電力を推定する方法を示すフローチャートである。
【0005】
【図3】いくつかの実施形態に従う、マルチコアプロセッサの電力推定システムを示すブロック図である。
【0006】
【図4】図3のプロセッサにおける消費電力を推定するルーチンを示すフローチャートである。
【0007】
【図5】いくつかの実施形態に従う、電力推定システムを備えたプロセッサチップを有するコンピュータシステムのブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願明細書中に教示されるように、本開示の基本概念は、チップの消費電力を推定するために集積回路ジャンクション温度(Tj)を用いることができるということである。
一般的には、ジャンクション温度は、
【数1】

として知られる。
【0009】
Tj(hot)は、動作中の半導体デバイスの高温部分(例えば、最も高温であるか、または、最も高温な状態にかなり近づいている)部分の温度(摂氏)である。
【数2】

は、半導体デバイスにとっての、ジャンクションからケースまでの熱抵抗である。Pは、デバイスの消費された電力である。Tcaseは、半導体ケースの温度である。(ここで用いられているように、ケースは、半導体チップの外側に対応し、一般的に、チップから熱を逃がすために1つ以上の表面が用いられる。例えば、Tcaseは、チップに熱装着される熱分散部材の温度に対応することができる。)
【0010】
特に、マルチコアプロセッサ・チップのような比較的大きなチップでは、一般的に、ケース温度(Tcase)は、チップの動作範囲内の「冷たい」領域の温度にかなり近いことが観察されている。したがって、上記の方程式により、Tj(cool)は、Tcaseと置換されることができる。したがって、この置換により、Pが以下のように導出される。
【数3】

【0011】
図1を参照すると、この近似値は、半導体チップが操作される際の半導体チップにおける消費電力を推定するために用いることができる。図1は、熱分散部材104に熱結合されるチップ(例えばシリコンチップ)102の側面図を示す。(図は、一定の比率で描かれているわけではなく、集積回路パッケージの全ての要素を含むというわけでもない。)チップ102は、システムオンチップ(SOC)、マイクロコントローラ、マルチコアプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)などを含むが、これらに限らず、いかなるタイプのチップであってもよい。しかしながら、本願明細書中に開示される電力推定方法は、一般に、より大きいおよび/またはより高い電力を消費しているチップに関してより正確になることに注目されたい。
【0012】
半導体チップ102は、チップの比較的低温を決定する温度センサ回路106、および、チップの比較的高温を決定するための温度センサ回路108を有する。半導体チップは、上記近似値を用いて、チップにより消費される推定電力を計算すべく、センサからの信号を受信するロジック(図示せず)も有する。(実施形態によっては、実際には必ずしも熱抵抗で除されるわけではないことに留意されたい。すなわち、熱抵抗は定数なので、例えば、実際の電力値を算出する必要なしに、消費電力を制御すべく、高/低の温度差が用いられてよい。)
【0013】
センサ106または108を実行するためのいかなる適切な温度感知回路が用いられてよい。温度感知回路については、当業者に知られた多くの異なるタイプのものが存在する。
例えば、「集積回路の熱感知」と題された米国特許出願公開番号第20060265174に適切な温度感知回路、および、方式が示されており、本願明細書中に参照によって組み込まれる。
【0014】
温度センサ信号を処理し、上記の式を用いて電力推定値を決定するロジック(図示せず)は、チップ内のいかなる適切な回路と共に実行されてよい。例えば、それは、オンボードコントローラ内のファームウェア命令と共に実行されてもよく、または、有限状態機械を実行する回路部品のような、専用回路と共に実行されてよい。
【0015】
センサ106、108は、好ましい正確な消費電力推定を実現するのに充分なチップのいかなる領域に配置されてよい。例えば、図に示すように、高温センサ108は、動作温度が最も高くなり得るプロセッサのコア内など、比較的中央に配置される。対照的に、低温センサは、チップの最も冷たい部分であり得、熱分散部材104の温度にかなり近い、チップの外側の領域に配置される。しかしながら、最も高温か最も低温の場所が電力を推定するために必要なわけではないことを理解されたい。ただし、実施形態によっては、それらの場所が最も正確な結果を出すこともあり得る。
【0016】
(これらの方針に沿い、本願明細書中に用いられるような用語、「高温の」および「低温の」は、相対語であって、特定の範囲の温度に限定するべきでないことを理解されたい。それらの用語は、温度間の関係を示すために用いられるのであって、例えば、高温は、低温より高く、低温は、高温より高い。例えば、100℃の解釈は、他のより高い温度と比較すると「冷たい」かもしれない。同じ理由で、20℃は、他のより低い温度と比較すると「熱い」かもしれない。)
【0017】
いくつかの実施形態では、ジャンクションからケースまでの熱抵抗
【数4】

が、電力推定のために用いられ得る。このことは、それがすでに得られる状態にあるという点で好都合かもしれない。あるいは、特に、高温センサと低温センサとの間の熱傾斜に対応する異なる熱抵抗値が用いられてもよい。それは、測定される実際の消費電力を伴う十分な数のチップを用いた特徴付けにより決定されることができ、その結果チップタイプのための
【数5】

が得られる。
【0018】
図2は、図1のチップのようなチップにおける電力を推定するルーチンを概略的に示す。まず最初に、202において、センサ108から高温が決定される。次に、204において、センサ106から低温が決定される。最後に、206において、高温と低温との差を決定し、その結果を
【数6】

で除することにより、消費されている電力の推定値が導かれる。
【0019】
チップのタイプ、その用途、および、その複雑度によって、推定された電力は、様々な目的のために使用されることができる。いくつかの実施形態では、それは、チップをその最大定格電力(あるいはそれに近い電力)で動作させるべく、駆動されずらいチップを実際に制御するために十分正確であり得る。他の用途では、それは、他のさらに正確な方式に加え、例えば、フェールセーフのような、二次電力監視リング方式として用いることもできる。また、他の用途では、それは、例えば、モバイル機器の節電モードと共に用いることもできる。
【0020】
図3は、電力推定システムを有するマルチコアプロセッサ・チップ300のブロック図を示す。図は、特に、コア302(コア0乃至コア3)、キャッシュブロック304、および、コアの動作を管理するコントローラ305を含む。また、低温を決定する4つの温度センサ306(TSc0乃至TSc3)、および、高温を決定する4つの温度センサ308(TSh3乃至TSh0)も含む。それらは、コントローラ305にそれぞれ結合されることにより、チップ300における消費電力を推定すべく、それらの温度を示す信号を受信できる。(マルチコアプロセッサにより、それぞれのコアのホットスポットを用いてコアごとの電力推定が実行され得ることに注目されたい。)それぞれのホットスポット(例えば、それぞれのコアにおける)の電力を計算することによって、相対的なコアごとの電力が推定でき、いくつかの用途では、より正確なフルチップ総電力の推定ばかりか、コア間のロードバランシングの援助なども可能にする。
【0021】
コアは、チップの外側の領域に位置するキャッシュ304の間に配置される。図に示すように、低温センサ306は、一般的にチップの低温部分を有する、コアから離れたキャッシュにより近い外周コーナーに配置される。反対に、高温センサ308は、一般的にチップのより高温な領域であるコア内に配置される。
【0022】
図4は、図3のマルチコアチップ302での消費電力を推定するためのルーチンを示す。本実施形態において、ルーチンは、コントローラ305によって実行される。まず最初に、402において、チップ内で最も高く測定された温度を識別すべく、高温センサ308をポーリングする。404において、最も低く測定された温度を識別すべく、低温センサ306をポーリングする。(これらの作業は、任意の順序で行われてよい。)406において、最高測定温度と最低測定温度との間の差を求め、この差を熱抵抗
【数7】

で除することにより、消費された電力の推定を計算する。
【0023】
利用された
【数8】

は、チップの単一の熱抵抗であり得る(例えば、ジャンクションからケースまでの
【数9】

、または、差、特に、チップ内の特徴付けられたポイントからポイントまでの
【数10】

)。
あるいは、それぞれの高温センサから低温センサまでの傾斜の組み合わせに対し特徴付けられた一群の熱抵抗値
【数11】

から選ばれてよい。
【0024】
図5は、図3に示されるような電力推定システムを有するンピュータシステムの一例を示す。このシステムは、通常、電源504と、外部記憶装置506とに結合されるマルチコアプロセッサ・チップ502を含む。(図には示さないが、ネットワークインターフェースを介して複数のクライアントに結合されてもよい。)プロセッサは、電源504に結合されることにより、動作中に電源504から電力を受け取る。また、付加的なランダムアクセスメモリとしてのメモリ506に結合される。プロセッサ502は、チップ502内の消費電力を推定すべく、図3に開示されるような電力推定システム(PES)503を有する。いくつかの実施形態では、電力推定システムは、「過電力」状態を防止するための支援として用いられることもできる。
【0025】
記載されるシステムは、異なる形式で実行され得ることに留意されたい。すなわち、電力推定システムは、単一のチップモジュール、回路基板、または、複数の回路基板を有するシャーシ内で実行され得る。同様に、電力推定システムは、1つ以上の完成したコンピュータを構成することができるか、あるいは、コンピュータシステム内で役立つ構成要素を構成することもできる。
【0026】
本発明は、記載されている実施形態に限定されず、添付の請求項の趣旨および範囲内での種々な修正および変更がなされ得る。例えば、本発明は、あらゆるタイプの半導体集積回路(「IC」)チップの用途に利用可能であると理解されたい。これらのICチップの例は、プロセッサ、コントローラ、チップセット構成要素、プログラマブル・ロジック・アレイ(PLA)、メモリチップ、ネットワークチップ、などを含むが、これらに限定されない。
【0027】
さらに、サイズ/形式/値/範囲の例が与えられているが、本発明は、これらに限定されない。製造技術(例えばリソグラフィ)が時を経て成熟するにつれ、より小型のデバイスが製造され得ると予測される。また、説明を簡潔にし、かつ、本発明を不明瞭にしない目的から、ICチップおよび他の構成要素へのよく知られた電力/接地接続は、図の中に示してもよいし、あるいは、示さなくてもよい。さらに、説明を簡潔にし、かつ、本発明を不明瞭にしない目的から、配置はブロック図形式で示され、さらに、このようなブロック図に関する詳細から見て、配置は、本発明が実施されるプラットフォームにかなり依存する。すなわち、詳細は、当業者の良く知る範囲内にあるということである。本発明の例示的実施形態を説明すべく、具体的な詳細(例えば回路)が記載されるが、これら特定の詳細がなくても、あるいは、これら具体的な詳細の変形によっても本発明が実施できることは、当業者にとり明らかであろう。したがって、説明は限定ではなく、例示とみなされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ消費電力の一の推定のための高温および低温情報を提供する2つ以上の温度センサ回路を含むチップ。
【請求項2】
前記2つ以上の温度センサの一の第1の温度センサは、一の低温を感知し、前記チップの一の外側の領域に配置される、請求項1に記載のチップ。
【請求項3】
前記2つ以上のセンサは、それらの複数の温度を示す複数のアナログ信号を供給する、請求項1に記載のチップ。
【請求項4】
前記情報を受信して、前記電力推定を計算すべく、前記2つ以上のセンサに結合される一のコントローラを含む、請求項1に記載のチップ。
【請求項5】
前記コントローラは、前記低温と高温との間の一の差を生成し、該差を前記チップに関連した一の熱抵抗値で除することにより前記電力推定をもたらす、請求項4に記載のチップ。
【請求項6】
前記熱抵抗値は、一のジャンクションからケースまでの値である、請求項5に記載のチップ。
【請求項7】
前記熱抵抗値は、複数のチップの特徴付けから導かれる、請求項5に記載のチップ。
【請求項8】
前記2つ以上の温度センサは、高温情報を提供する2つ以上のセンサ回路と、低温情報を提供する2つ以上のセンサ回路とを含む、請求項1に記載のチップ。
【請求項9】
前記電力推定は、前記複数のセンサ回路から受け取られる最高および最低温度に基づき決定される、請求項1に記載のチップ。
【請求項10】
高温情報を提供する少なくとも1つの高温センサを備える複数のプロセッサコアと、
低温情報を提供する少なくとも1つの低温センサと、
前記高温および低温情報を受け取ることにより、前記高温情報と前記低温情報との間の一の差に基づき、前記チップ内の消費電力に影響を及ぼす回路と、
を含むチップ。
【請求項11】
前記回路は、一のコントローラの少なくとも一部を形成する、請求項10に記載のチップ。
【請求項12】
前記コントローラは、前記温度情報の差を決定する最高および最低温度を識別すべく、前記複数の高温センサおよび少なくとも1つの低温センサを前記コントローラにポーリングさせる複数の関連した命令を有する、請求項11に記載のチップ。
【請求項13】
前記コントローラは、一の電力推定を決定する、請求項11に記載のチップ。
【請求項14】
前記コントローラは、前記導かれた温度情報の差を前記チップの一の関連する熱抵抗の特徴付けから導かれる一の熱抵抗値で除する、請求項13に記載のチップ。
【請求項15】
前記コントローラは、前記温度情報の差を選択された高温および低温に関連する一の熱抵抗値で除する、請求項13に記載のチップ。
【請求項16】
前記少なくとも1つの低温センサは、前記チップの一の外側の領域内にある、請求項10に記載のチップ。
【請求項17】
一のコンピュータシステムの一部として一の電源および1つ以上のメモリチップと組み合わせた請求項16に記載のチップ。
【請求項18】
一のチップ内の一の高温を決定することと、
前記チップ内の一の低温を決定すること、
前記決定された高温および低温に基づき、前記チップの消費電力を推定することと、
を含む方法。
【請求項19】
前記高温と低温との間の差を計算して、該差を前記チップに関連した一の熱抵抗値で除することにより、前記消費電力が推定される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記低温は、前記チップの一部である複数の異なる温度センサから最低温度を識別することにより決定される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記高温は、前記チップの一部である複数の異なる温度センサから最高温度を識別することにより決定される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記推定された消費電力に基づき、前記チップの消費電力を調整することを含む、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−42211(P2009−42211A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−69177(P2008−69177)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(591003943)インテル・コーポレーション (1,101)
【Fターム(参考)】