説明

半導体レーザモジュール用パッケージ

【課題】CuW合金からなり、放熱性が高くかつ強度に優れた半導体レーザモジュール用パッケージを得る。
【解決手段】銅タングステン合金からなる半導体レーザモジュール用パッケージであって、この銅タングステン合金の微細構造がタングステン粒子間の隙間に銅が入り込んだ構造であり、銅タングステン合金中のタングステン粒子の粒径が15μm以下で、かつ平均粒径が0.5〜3.5μmであり、銅の含有量が10〜30重量%である半導体レーザモジュール用パッケージ。平均粒径が0.1〜5μmのタングステン粉末と銅粉末を用い、金属射出成型法によって作成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信装置などに使用する高出力半導体レーザ素子と光ファイバとの結合器である高出力の半導体レーザモジュールを収容するパッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光信号を直接増幅する光増幅器が開発され、特にエルビウム光ファイバを用いた光増幅器が注目されている。この光増幅器は、エルビウムをドープした光ファイバにレーザ光が入射すると、信号光が増幅されるという原理を利用したものであり、レーザ光源として用いられる半導体レーザ素子やレンズ等をパッケージ内に収容して半導体レーザモジュールを構成し、これに光ファイバを結合してなるものである。
【0003】
図5は、バタフライタイプの前記半導体レーザモジュールの一例を示すものであり、半導体レーザ装置20が、パッケージ10に収容されてなるものである。
前記パッケージ10は、枠体11と底板12からなり、前記枠体11の一方の側壁には光取り出し窓14が形成され、また他の一方の側壁には、図示しない一対のリード線がハーメチックシールにより設けられている。また、枠体11の上部には気密用のカバー13が取り付けられている。
このようなパッケージ10の枠体11に囲まれた内部の底板12上には、半導体レーザ装置20が設置され、前記光取り出し窓14には、光ファイバ34との接合部が形成されている。
【0004】
前記半導体レーザ装置20は、絶縁板21a上に設けられたベース板23上に、半導体レーザ素子26、レンズ27および受光素子29などの構成部品が搭載されてなるものである。
前記絶縁板21は、一対の絶縁板21aおよび21bからなり、これらの間には、複数個のP型半導体化合物素子とN型半導体化合物素子とからなるペルチェ素子22、22…が狭持されている。
そして、前記ペルチェ素子22においては、図示しない電極により複数のP型素子と複数のN型素子とがP、N、P、Nの順に電気的に直列に接続され、さらに、端部のP型素子およびN型素子を結合した電極にそれぞれ図示しないリード線を接続して構成されている。
なお、前記絶縁板21a、21bはアルミナなどから形成されており、この上にペルチェ素子22、22…の電極と固定を兼ねた金属導体パターン(電極パターン)が薄膜状あるいは厚膜状に形成されている。
【0005】
前記半導体レーザ素子26はレーザ光源として用いられ、ヒートシンク25に搭載されており、このヒートシンク25は、ヘッダ24に搭載されている。
前記ヒートシンク25は、半導体レーザ素子26とほぼ同じ膨張係数を有する材料(例えばダイヤモンド、SiC、シリコンなど)から構成され、半導体レーザ素子26の放熱を行うとともに、熱応力による故障を防止している。
前記ヘッダ24は、半導体レーザ素子26の電極用の端子を有し、ベース板23に固定されている。
【0006】
そして、前記半導体レーザ素子26の後部(レーザ出射方向と逆方向)には、モニタ用の受光素子29が、前記ベース板23に固定されて設けられている。
前記受光素子29は、半導体レーザ素子26の温度変化などによる光出力の変化を監視し、その光出力が常に一定になるように制御するものである。
そして、前記半導体レーザ素子26の前部(レーザ出射方向)には、レンズ27がレンズホルダ28に保持され、設置されている。
前記レンズ27は、半導体レーザ素子26から出射され広がったレーザ光を、平行光とするものである。前記レンズ27は光軸調整後、レンズホルダ28により前記ベース板23に、YAGレーザにより溶接固定される。
【0007】
そして、前記レンズ27の前方には、パッケージ10の光取出し窓14が設置され、この光取出し窓14には、スリーブ31が配置され、このスリーブ31には、フェルール33を介してレンズ32が固定されている。そして、前記フェルール33の端部には、光ファイバ34が接続される。
レンズ32は、光ファイバ34に効率よくレーザ光が入射するように光軸調製された後、スリーブ31のA、B部で、YAGレーザ溶接固定されている。
【0008】
このように構成された半導体モジュール50においては、半導体レーザ素子26から出射されたレーザ光は、レンズ27で平行光に変換され、この平行光が取り出し窓14を通過して、レンズ32によって、光ファイバ34に効率よく結合される。
【0009】
ところで、前記半導体レーザモジュール50における半導体レーザ素子26においては、レーザの高出力が要求され、数百mAの駆動電流を必要とするため、半導体レーザ素子26の発熱による光出力の低下や、寿命の低下を招くおそれがある。
また、半導体レーザ素子26は、その雰囲気温度が変化すると波長が変化して光特性が変わることがある。そのため、半導体レーザモジュール50においては、前記ペルチェ素子22により、半導体レーザ素子26を常時冷却し、その発熱量を低減するようにしている。
【0010】
一方、半導体レーザモジュールの他の形態としては、ステムタイプ、同軸タイプ、DIPタイなどのパッケージを用いたものがある。
図6は、ステムタイプのパッケージを用いた半導体モジュールの一例を示したものである。
このステムタイプのパッケージ15は、バタフライタイプの枠板11に相当する部分がなく、底板1に相当する底板17と、半導体レーザ装置20を載置するとともに内部部品を有する載置部16から概略構成されている。
【0011】
このようなパッケージ15においては、載置部16の一側面部に、レーザが上向きに発振するようにレーザ素子26が載置され、このレーザ素子26の下部には、レーザの出力を監視、制御するための受光素子29が載置される。また、載置部16を固定する底板17には、図示しないリード線やアースなどが接続される。
また、このパッケージ15においては、内部の気密性を保つために、キャップ40が取り付けられる。このキャップ40の先端部には光ファイバ34が接続され、この光ファイバ34に効率よくレーザ光が入射するように、その内部には、前記半導体モジュール50のレンズ32に相当するレンズ(図示略)が収容されている。
【0012】
このように構成されたステムタイプの半導体モジュール51においては、半導体レーザ素子26から上方に出射されたレーザ光は、レンズによって、光ファイバ34に効率よく結合される。
また、このようなステムタイプの半導体レーザモジュール51においては、図5に示したバタフライタイプの半導体レーザモジュール50のように、ベルチェ素子22などの冷却手段を有しない構造とされ、特に、載置部16においては、その材料に放熱性が要求される。
【0013】
ところで、このような半導体レーザモジュールのパッケージを構成する材料としては、鉄−ニッケル−コバルト合金や、銅−タングステン合金(以下、CuW合金とする)等の合金が用いられている。
例えば、通常バタフライタイプのパッケージ10の枠体11は、鉄−ニッケル−コバルト合金(Fe-Ni-Co合金)などの合金で構成され、底板12は、放熱性(熱伝導性)の高い、CuW合金などの材料で構成されている。
【0014】
また、ステムタイプのパッケージ15では、載置部16はCuW合金などの材料、底板17はSPCC等の材料が用いられている。
そして、このようなバタフライタイプのパッケージ10およびステムタイプのパッケージ15のCuW材料は、溶浸法または金属粉末射出成型法(以下、MIM法とする)により形成される。また、Fe−Ni−Co合金やSPCC等の材料は溶浸法、MIM法により形成される。
【0015】
このような半導体レーザモジュール用パッケージにおいては、上述のように、搭載する半導体レーザ素子26が温度依存性を有するものであるため、半導体レーザ素子を一定の温度に保つ必要があるため、これを構成する材料の放熱性は、極めて重要な特性である。
しかしながら、前記従来用いられている図5に示すバタフライタイプのパッケージ10においては、放熱性が不十分であるため、前記半導体モジュール50のように、ベルチェ素子22等の冷却手段を用いる必要があった。
【0016】
このような冷却手段を用いる場合、ベルチェ素子22等の冷却素子は、その性能上、レーザの温度調節が可能な程度とするには、相対的に大きくする必要があり、このためにパッケージ10全体を大きく構成する必要があり、不経済であった。
また、冷却手段を用いない図6に示すステムタイプのパッケージ15においては、パッケージ15の放熱性の問題から、レーザ素子26の放熱量を抑え、安定したレーザの発振を行うために、レーザ出力を2mW程度までとしなければならなかった。
【0017】
また、前記問題に加えて、前記パッケージを構成する材料においては、その強度が不十分なために、その組立時や、取り付け時において、ねじの締め付けなどにより、前記バタフライタイプのパッケージ10の固定孔13およびステムタイプのパッケージ15の固定孔18に割れが生じるといった問題があった。特に、前記パッケージが金属の溶浸法により製造されたものである場合には、強度に問題があることが多かった。
【特許文献1】特開平5−327031号公報
【特許文献2】特開平9−312363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
よって、本発明における課題は、放熱性が高く、かつ強度に優れた半導体レーザモジュール用パッケージを得ることを目的とするものである。
詳しくは、パッケージの放熱性を高めて、半導体レーザモジュールにおいて冷却装置なしでも、高レーザ出力での運転を可能とすること、およびパッケージの強度を高めて、固定時に割れることのないパッケージを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
かかる課題を解決するために、
請求項1にかかる発明は、銅タングステン合金からなる半導体レーザモジュール用パッケージであって、
この銅タングステン合金の微細構造がタングステン粒子間の隙間に銅が入り込んだ構造であり、銅タングステン合金中のタングステン粒子の粒径が15μm以下で、かつ平均粒径が0.5〜3.5μmであり、銅の含有量が10〜30重量%であることを特徴とする半導体レーザモジュール用パッケージである。
【0020】
請求項2にかかる発明は、平均粒径が0.1〜5μmのタングステン粉末と銅粉末を用い、金属射出成型法によって得られたことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザモジュール用パッケージである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の半導体レーザモジュール用パッケージによれば、熱伝導率に優れたCuW合金を用いているので、放熱性が高い。このため、収容するレーザ素子が発熱し、パッケージ内に放熱しても、パッケージの放熱性が高く、その熱を外部に放熱することができる。
したがって、この半導体レーザモジュール用パッケージを用いた半導体レーザモジュールにおいては、内部が高温になることがなく、レーザ素子による光出力や寿命の低下を招くおそれがなく、安定した半導体レーザ素子の光特性が得られる。
【0022】
また、特に冷却手段を設置しなくても、レーザ素子の出力を2.5〜5mW程度の高出力とすることができる。また、前記パッケージにおいては、強度に優れるため、その組立時や、取り付け時において割れが生じることが少ない。特に、その固定時のねじの締め付けなどにより、パッケージの固定孔部分に割れ等の破損が生じることが少ない。よって製品の歩留まりがよい。また本発明の半導体レーザモジュール用パッケージにおいては、放熱性かつ強度に優れるため、部品の熱等による変形が少なくなり、半導体レーザモジュールにおける光軸ずれを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1および図2は、本発明の半導体レーザモジュール用パッケージの一例を示したもので、図1はバタフライタイプのパッケージ、図2はステムタイプのパッケージの一例を示しものである。
これらは、構成材料に違いはあるが、従来例で説明した、図5に示すバタフライタイプのパッケージ10、図6に示したステムタイプのパッケージ15と、構造はそれぞれ同様である。よって、図1および図2においては、同様の部位においては、図5および図6に用いたものと同様の符号を付すとともに、これらの説明を省略する。
【0024】
図1に示すバタフライタイプのパッケージ10および図2に示すステムタイプのパッケージ15は、それぞれ以下に説明するMIM法により得られるCuW合金からなるものである。
このMIM法は、一般に、金属粉末に適当なバインダーを加え、これらを混練して成型用組成物とし、ついで、この成型組成物を造粒し、この造粒した成型用組成物を所望の形状の金型により射出成型して成型体(グリーン体)とし、ついで、このグリーン体を乾燥脱脂して、バインダーを除去したブラウン体とし、ついで、このブラウン体を焼結して焼結体とするものである。
【0025】
以下、本発明の半導体レーザモジュール用パッケージを製造する方法についてに説明する。
まず、成型材料としてW粉末とCu粉末とを混合して、CuW混合粉末を得る。
W粉末としては、平均粒径が0.1〜5μmであるものを用いる。この範囲の平均粒径の小さいW粉末であれば、CuW合金としたときの熱伝達率を向上させることができるとともに、強度を十分なものとすることができる。
【0026】
Cu粉末としては、粒径は特に限定されないが、平均粒径が0.1〜45μm程度のものを用いると分散性が高く好ましい。前記Cu粉末の配合量としては、CuとWの合計重量に対して、10〜30重量%が好ましい。10重量%未満であるとCuW合金における熱伝達率が十分に向上せず、30重量%を越えるとCuW合金の強度が十分なものとならない。
【0027】
また、前記CuW混合粉末においては、前記WおよびCu以外に、焼結助剤として、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)から選ばれる1種の金属を含有するものであっても良い。これらの金属によれば、放熱性をより向上させることができ、熱膨張係数が低く、熱伝導率が高いCuW合金を得ることができる。CuW合金におけるこれらの金属の含有量としては、0.001〜1.0重量%が好ましい。
【0028】
前記CuW混合粉末(前記焼結助剤の金属を配合したものも含む)においては、次のバインダー添加混練工程前に、バインダーとの結合性を増すために、またこれらの焼結を容易にするために、カップリング剤による表面処理を施すことが好ましい。
前記表面処理方法としては、湿式処理法と、乾式処理法の2つがある。
【0029】
前記湿式処理法は、カップリング剤を大量に水に分散させたものに、未処理のCuW混合粉末を添加して撹拌し、これを常温で10〜30分程度放置した後、105℃程度の温度で、10時間以上加熱乾燥させることによって、CuW混合粉末を表面処理する方法である。
前記乾式処理法は、CuW混合粉末をヘンシェルミキサー(商標名)等の高速ミキサーにより高速撹拌しながら、カップリング剤を徐々に添加し、さらに、60〜80℃に加湿した状態で、1000〜1500rpm程度の高速で2〜10分間程度撹拌することにより、金属粉末に表面処理を施すものである。
【0030】
このような表面処理に用いられるカップリング剤としては、加水分解により水酸基となり金属粉末と相互作用し得る官能基と、バインダーと相互作用し得る有機官能基とを有するものが好ましく用いられ、具体的には、有機官能基側の側鎖にアミノ基、アミド基、水酸基のうち少なくとも1つの基を有するチタネート系カップリング剤や、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0031】
前記カップリング剤の添加量としては、CuW混合粉末の単位重量当たり0.5〜3%であることが好ましい。0.5%未満であると、カップリング剤の添加効果が得られず、3%を越えても、カップリング剤の添加効果は、飽和状態となり変わらない。
【0032】
ついで、前記CuW混合粉末にバインダーを添加して、混練して成型用組成物を得る。
前記バインダーとしては、以下に例示するものを用いることが好ましい。
(1)ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアセタール、EVA、ポリエチレングリコール、樟脳などの有機系樹脂。
(2)パラフィンワックス、カルナウパワックス、密蝋などのワックス類。
(3)前記(1)(2)の群から選ばれるを2種以上のバインダーを混合した有機バインダー。例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂、APP、パラフィンワックスの混合物、ポリエチレン、ポリスチレン、パラフィンワックスの混合物、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、パラフィンワックス、カルナバワックスの混合物などが挙げられる。
(4)寒天(アガロースを主成分とする海草からの抽出物)。
【0033】
バインダーの添加量としては、前記CuW混合粉末に対して、35〜55体積%であることが好ましい。35体積%未満であると、射出成形時に十分な粘度が得られず、成形機内のスクリューが磨耗したり、成形機内で材料詰まりを起こし好ましくない。また55体積%を超えると、脱バインダー工程時に膨れ、亀裂が生じやすくなったり、成型体にヒゲが生じるため好ましくない。
【0034】
ついで、前記成型用組成物を造粒してペレット化する。ついで、所望の半導体レーザモジュール用パッケージの形状を有する金型を用意し、この金型を用いた射出成型法により、成型用組成物からグリーン体を得る。このときの射出温度としては90〜180℃、金型温度としては20〜50℃が好ましい。
【0035】
ついで、得られたグリーン体を、真空乾燥して水分を除去し、続いて加熱してバインダーを除去し(脱バインダー)、ブラウン体を得る。
前記真空乾燥条件としては、乾燥温度40〜80℃、圧力1.33322×10Pa(1Torr)で、4時間以上真空乾燥し、含水率を0.5重量%以下となるようにするのが望ましい。
また前記脱バインダーの条件としては、N、Arなどの不活性ガス雰囲気下で行い、昇温速度を0.1〜1℃/分、加熱温度を380〜450℃とし、0.1〜5L/minの気流中で行うことが望ましい。
【0036】
ついで、得られたブラウン体を焼結炉で焼結して焼結体とし、成型体を得る。このときの焼結条件としては、昇温速度を1〜10℃/分、昇温温度を1200〜1500℃、焼結時間を1〜10時間とするのが好ましい。また、この工程は、ArとHの混合雰囲気下(H濃度0.1〜100%が好ましい)で、0.1〜10L/minの気流中で行うことが好ましい。
【0037】
ついで、パッケージのタイプによって、得られた成型体を組み立てててパッケージを作製する。パッケージが複雑な形状を有する場合、いくつかの部位に分けて成型し、これを組み立ててパッケージとすることが好ましい。
例えば、図1に示すバタフライタイプのパッケージ10の場合、枠体11と、底板12の成型体を別々に前記製造方法により作製し、これらを組み立てる。このときの組立方法としては、各部位を構成する成型体を蝋付けにより固着して一体化する方法、焼結により一体化する方法等が挙げられる。
【0038】
このようにして製造された半導体レーザモジュール用パッケージにおいては、これを構成するCuW合金の微細構造が、大部分のWが粒子形状を保ち、このW粒子間の隙間にCuが入り込んだ構造となっており、W粒子表面においては、WとCuとが溶け合い強く密着した状態となっている。
【0039】
また、前記微細構造のCuW合金からなる成型体におけるW粒子の粒径は、15μm以下、平均粒径が0.5〜3.5μm以下となっている。また、CuW合金中のCu含有量が10〜30重量%となっている。
このように、前記半導体レーザモジュール用パッケージにおいては、粒径が小さいW粉末を成型したものであるため、得られる成型体におけるW粒子の平均粒径は小さく、これらの隙間は小さく、そこにCuが入り込む構造となっているため、高密度化が可能とされる。
【0040】
このようなCuW合金であれば、熱伝達率および強度を向上させることができる。このため、このようなCuW合金においては、例えば、Cuの含有量が20重量%である場合において、200〜240W/mK程度とすることができ、通常用いられるCuW合金よりも格段に向上させることができる。
前記熱伝導性に優れるCuW合金からなる半導体レーザモジュール用パッケージにおいては、放熱性に優れ、内部の温度が上がったときにも効率よく、熱を逃がすことができ、内部温度を安定して保つことができる。このため、冷却素子を必要とせず、2.5〜5mWの高出力のレーザ運転にも耐えることができる。
【0041】
また、このCuW合金からなる半導体レーザモジュール用パッケージにおいては、機械的強度に優れたものであるので、組立時や、取り付け固定時において、部品の一部、例えば、ネジ固定のための固定孔に割れが生じることがない。よって、製品の歩留まりを向上させることができる。
また、このようなMIM法を用いた製造方法によれば、前記CuW合金からなる半導体レーザモジュール用パッケージを精度よく、容易に成型することができる。
【0042】
そして、このようなパッケージを用いた半導体モジュールであれば、パッケージ内部が高温になることがなく、レーザ素子による光出力や寿命の低下を招くおそれがなく、安定した半導体レーザ素子26の光特性が得られる。よって、冷却手段を設置しなくても、レーザ素子の出力を2.5〜5mW程度の高出力とすることができる。
また、図1に示すバタフライタイプのパッケージ10においては、枠体11および底板12に前記CuW合金を用いれば、冷却素子を必要とすることなく、パッケージ10をコンパクトに設計することが可能となる。
【0043】
また、前記半導体レーザモジュール用パッケージにおいては、パッケージのすべての部材に前記CuW合金を用いたが、パッケージの一部に他の合金を用いたものであってもかまわない。
この場合、パッケージの少なくとも半導体レーザ素子を載置する部位と、固定孔が形成され部位に、前記CuW合金を用いることが好ましい。このような場合、各部位を前記MIM法により製造し、蝋づけ、焼結等により組み立てることによって半導体レーザモジュール用パッケージとすることができる。
【0044】
例えば、図1に示すようなバタフライタイプのパッケージにおいては、底板12に前記CuW合金を用い、枠板11を鉄−ニッケル−コバルト合金から構成したものであってもかまわない。このようなものでも、前記CuW合金の熱伝導率が高いため、パッケージにおいて、十分な放熱性を有することができる。
【0045】
以下、本発明の作用効果について説明する。
通常、半導体レーザモジュール用パッケージに用いられるCuW合金は、平均粒径が5μm以上のW粉末を用いてなるものである。このような比較的大きな平均粒径のW粉末を用いて得られるCuW合金の熱伝導率は、最大でも、Cu含有量が20重量%のとき、200W/mK程度であった。これに対して、本発明のように、平均粒径の小さいW粉末を用いることによって、かつCuの含有量を10〜30重量%とすることによって、CuW合金の熱伝導率および強度を向上させることができる。
【0046】
このように、MIM法におけるW粒子の平均粒径を小さくすることによって、熱伝導率および強度を向上することができるのは、以下の理由によるものと考えられる。
まず、前記CuW混合粉体の焼結の際、W粉末の平均粒径が小さいことにより、CuW合金におけるW粒子とCuの接触部分が増大することによって、CuW合金の高密度化が可能となる。
【0047】
そして、このようなCuW合金の高密度化と、W粒子とCuとの接触界面の増大によって、CuW合金における熱伝導率が飛躍的に向上する。また、CuW合金の高密度化により、またCuW合金中のW粒子の粒径が細かくなることで、一般の金属材料と同様にして、CuW合金の機械的強度が向上する。
【0048】
また、CuW合金における熱伝導率と強度は、銅の含有量にも関係し、銅の含有量が多くなれば、CuW合金における熱伝導率は上昇するが、機械的強度は低下する。逆に、銅の含有量が少なくなれば、CuW合金における熱伝達率は低下するが、機械的強度は向上する。これらを考慮して銅の含有量を10〜30重量%とすることで、熱伝達率と強度ともにバランスのとれた優れた値が得られる。
【0049】
図3は、CuW合金におけるW粉末の平均粒径と、CuW合金の熱伝導率との関係をCuの含有量が10重量%の場合と、30重量%の場合とを示したグラフである。
また、図4は、CuW合金におけるW粉末の平均粒径と、CuW合金の強度との関係を示したグラフであり、Cuの含有量が10重量%の場合と、30重量%の場合とを示したグラフである。
【0050】
これらのグラフは、実際に用いるW粉末の平均粒径と銅の含有量を変えて、MIM法において、CuW合金(試料)を製造し、この熱伝導率および強度を測定したデータをもとに作成したものである。
【0051】
このグラフから、CuW合金中のW粉末の平均粒径が0.5〜3.5μmとしたときに、CuW合金の熱伝導率および強度が向上すること、これらの特性がCu含有量に関係することがわかる。また、CuW合金における銅の含有量を10〜30%とすることで、CuW合金における熱伝導率を、160〜280W/mKと高くすることができるとともに、その強度を1300〜1650MPaとすることができることがわかる。
【0052】
以下、実施例を示す。
図1に示すバタフライタイプのパッケージ10を製造した。
(1)枠体11および底板12の作製
最大粒径45μm以下、平均粒径25μmのCu粉末20重量部と、最大粒径25μm以下、平均粒径2μmのW粉末80重量部とを混合してCuW混合粉末とした。
【0053】
ついで、このCuW混合粉末に、カップリング剤として、シランカップリング剤を前記混合粉末に対して単位重量あたり1.5%の割合となるように添加し、表面処理を施した。
この表面処理は、乾式処理法を用いて行い、CuW混合粉末をヘンシェルミキサー(商標名)により、1750rpmの高速で5分間撹拌し、その後攪拌しながら前記カップリング剤を5分間かけて徐々に添加し、さらに添加後5分間攪拌しておこなった。
【0054】
ついで、前記表面処理を施したCuW混合粉末に対して、45容量%のバインダーを加え、加圧ニーダーにて165℃で1時間、混練して成型用組成物を得た。このとき、バインダーとしては、ポリスチレン20重量%、アクリル樹脂20重量%、APP15重量%、パラフィンワックス44.5重量%、滑剤として、ステアリン酸0.5重量%を適宜加えて調整したものを用いた。
【0055】
ついで、この成型用組成物をダイス温度150℃でペレット化し、これを枠体11または底板12の形状を有する金型を用いて、射出温度160℃、金型温度40℃で射出成型して、枠体11および底板12のグリーン体を得た。
【0056】
ついで、枠体11および底板12のグリーン体を真空乾燥装置内に配置した後、80℃、1.33322×10−3Paの圧力で、4時間真空乾燥し、含水率が0.5質量%となるように水分を除去した。ついで、この乾燥されたグリーン体を、1atm(常圧)で、常温から昇温速度を0.5℃/分として、400℃まで加熱して、前記グリーン体を脱バインダー化してブラウン体とした。この工程は、N雰囲気下で、1L/minの気流中で行った。
【0057】
ついで、このブラウン体を焼結炉に入れ、昇温速度を5℃/分として、1200〜1500℃まで昇温した後、この温度を2時間保持することにより、ブラウン体を焼結して、CuW焼結体からなる枠体11および底板12を得た。この工程は、ArとHの混合雰囲気下(H濃度を4%とした)で行い、1L/minの気流中で行った。
【0058】
(2)パッケージ10の作製(枠体11と底板12との一体化) 上述のようにして得られた底板12上の溝部に、枠体11の下端周辺に形成された突起部に嵌合したあと、蝋材(銀蝋)によりこの嵌合部の周囲を蝋付けして固着し、枠体11と底板12とを一体化してパッケージ10を得た。
【0059】
このようにして、得られたパッケージを構成するCuW焼結体のCu含有量は20重量%であった。得られたCuW合金(20重量%Cu)の熱伝導率を、JIS R1611によるレーザフラッシュ法にて測定したところ、240W/mKの値が安定して得られた。
さらに、得られたCuW合金において、強度をJIS Z2248による材料曲げ試験法により測定したところ、1600MPaの破断強度が得られた。これらの値はともに従来のものに比べ高い値となり、熱伝導率および強度とも実用上有用な値である。
このように、得られたパッケージにおいては、これを構成するCuWの熱伝導率が高いために、パーケージの放熱性に優れ、レーザ出力が高い場合においても内部に熱がたまることなく、安定したレーザ運転が可能である。
【0060】
(比較例)
溶浸法により、パッケージ10の枠体11の作製を行った。前記用いたWと同じ平均粒径のW粉末を仮焼結させて、複数の小穴のあいた金属Wの成型体を得た。このときの条件としては、昇温速度を5℃/分として、1300〜1800℃まで昇温した後、この温度を2時間保持するようにした。
【0061】
この工程は、ArとHの混合雰囲気下で行った。1リットル/minの気流中で行った。ついで、この金属Wの上に、銅板をのせ、圧力1気圧〜10気圧、温度1100℃にてホットプレスし、銅板を溶解して前記Wの穴に銅を染み込ませようとしたが、穴が小さいためにWの焼結体にCuが含浸せず、穴のあいたままのCuW合金となってしまった。
【0062】
得られたCuW合金の強度は低く測定することができなかった。また、熱電導率、熱膨張係数も測定することができず、低いものであった。このように溶浸法の場合、W平均粒径が小さくなると、WがCuを含浸することが難しく、事実上、Wの粒径が5μmを越えるものでないとパッケージを作製することができない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の半導体レーザモジュール用パッケージの一実施形態を示した斜視図である。
【図2】本発明の半導体レーザモジュール用パッケージの一実施形態を示した斜視図である。
【図3】本発明の半導体レーザモジュール用パッケージの製造方法におけるW粒子の平均粒径と、得られたCuW合金における熱伝導率との関係を示したグラフである。
【図4】本発明の半導体レーザモジュール用パッケージの製造方法におけるW粒子の平均粒径と、得られたCuW合金における強度との関係を示したグラフである。
【図5】バタフライタイプの半導体レーザモジュール用パッケージを説明するための概略構成図である。
【図6】ステムタイプの半導体レーザモジュール用パッケージを説明するための概略構成図である。
【符号の説明】
【0064】
10、15・・・パッケージ 11・・・枠体 12・・・底板 13・・・固定孔 16・・・載置部 17・・・底板 18・・・固定孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅タングステン合金からなる半導体レーザモジュール用パッケージであって、
この銅タングステン合金の微細構造がタングステン粒子間の隙間に銅が入り込んだ構造であり、銅タングステン合金中のタングステン粒子の粒径が15μm以下で、かつ平均粒径が0.5〜3.5μmであり、銅の含有量が10〜30重量%であることを特徴とする半導体レーザモジュール用パッケージ。
【請求項2】
平均粒径が0.1〜5μmのタングステン粉末と銅粉末を用い、金属射出成型法によって得られたことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザモジュール用パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−47816(P2007−47816A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276544(P2006−276544)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【分割の表示】特願2000−137751(P2000−137751)の分割
【原出願日】平成12年5月10日(2000.5.10)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】