説明

半導体廃水から金属イオンを沈殿させ、同時にマイクロフィルターの運転を向上させる組成物および方法

【課題】DTC官能基を含有する新しい水溶性ポリマー、および研磨固体を含む半導体廃水から金属イオンを沈殿させると同時にマイクロフィルター運転を向上させる方法を提供する。
【解決手段】ジチオカルバミン酸塩官能基を含有する有効量の水溶性ポリマーを排水に添加することにより、研磨固体を含む半導体廃水からの可溶性重金属イオンの沈殿と同時にマイクロフィルター運転の向上が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には廃水処理に関し、特に、半導体廃水から金属イオンを沈殿させ、同時にマイクロフィルター運転を向上させる組成物と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅接続技術の進展まで、半導体工業による多層マイクロチップの製造からの廃水に銅が見出されることはなかった。銅は、低電気抵抗のためにいまではアルミニウムおよびタングステンの代替物として使用される。多層チップの製造過程において、誘電層(ケイ素二酸化物または低−kポリマー)の堆積、接続パターン(トレンチおよびバイア)の誘電層へのエッチング、トレンチおよびバイアへの銅金属の堆積、およびチップの次層の作製に先立ち、過剰の銅を除去し、平らな表面を作るために化学機械的研磨(CMP)を含む、多数の工程が存在する。CMP工程は、研磨パッドおよびアルミナ等の研磨固体、過酸化物等の酸化剤、クエン酸塩等のキレート化剤、および腐食防止剤等の他の添加剤を含む独自の研磨スラリーを使用することにより行われる。それゆえ、生成する廃水はキレート化された銅、酸化剤、添加剤および研磨固体を含む。200−5000mg/Lの濃度での研磨固体の存在により、この廃水は、電気メッキからの通常の金属含有廃水と異なる。
【0003】
マイクロチップ製造の金属−CMP工程からの廃水は、元のスラリー組成物およびCMPツールの設計および運転パラメータに依って広く変わり得る。スラリーは、研磨時のリンス水により希釈される。リンス水の使用量は、廃水中の金属と研磨固体のレベルを決定する。
【0004】
金属−ポリマー固体の沈殿を生じる、銅−エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)等の遷移金属錯体を含有するいくつかのポリマー化学薬品が廃水処理に使用されてきた。これらのポリマー化学薬品は、アミン官能基を含有し、二硫化炭素と反応されて、ポリマー骨格上にジチオカルバミン酸塩(DTC)官能基を形成することができる。このようなポリマーの一つは、米国特許第5,164,095号に記載されているような、二硫化炭素変性の二塩化エチレン−アンモニア縮合ポリマーである。この’095特許に開示されているポリマーは、低分子量の、高分岐性の材料である。二硫化炭素による変性に好適な他のポリマー骨格は、米国特許第5,387,365に記載されているポリエチレンイミン(PEI)ポリマーを含み、エピクロロヒドリンと多官能基アミンの縮合ポリマーは米国特許第4,670,160号と第5,500,133号に開示され、ポリアリルアミンポリマーはEP0581164A1に教示されている。しかしながら、これらの公知のポリマー化学薬品にも拘らず、廃水を効率的に処理し、低レベルの製品不純物(例えば、毒性で、悪臭のある硫化ナトリウム)、製造の相対的な容易さ(例えば、二塩化エチレンにおけるガス状アンモニアとPEIにおけるアゼリジンを回避すること)および改善された固体/液体分離性能等の他の望ましい属性を保有する、DTC官能基を含有する新しいポリマーに対するニーズがなお存在する。
【0005】
米国特許第5,346,627号は、可溶性金属の処理と、マイクロフィルターを含む濾過装置での沈殿した固体の除去にDTC官能基を含有するポリマーを使用することを述べている。しかしながら、’627特許は、半導体廃水からの金属イオンの沈殿と同時にマイクロフィルター運転を向上させるのにこのようなポリマーを使用することは述べていない。
【0006】
マイクロフィルター運転時に問題になる2つのパラメータがある。一つは、膜面積で割った精製した水の流量として定義される流束である。ミクロ濾過において、これを表わす一つの方法は、1日当たり1平方フィートの膜面積当たりの純水のガロンあるいはGFDとしてである。これを表わすもう一つの方法は、膜間圧力(TMP)により割った流束である透過性である。透過性は、基本的には系圧力の変化を考慮に入れた「正規化された」流束である。流束および透過性の双方は、膜の水の通過を記載するために使用されるが、互換性はない。問題になるもう一つのパラメータは、固体の通過である。一般的に言って、マイクロフィルターの目的は、バルク液中で液体から固体を分離することである。マイクロフィルターは画然とした分画サイズ(製造方法に依ってほぼ0.1から5.0ミクロンの範囲)を持つために、理論的には、分画より大きい粒子のみが保持される。しかしながら、すべての膜工程の場合がそうであるように、全固体のあるパーセンテージが膜を通過する。それゆえ、供給水の初期濃度が増加するに従って、透過液の固体含量の絶対値も増加する。しかしながら、フィルターを通過する材料のパーセンテージは、膜の損傷が起こらない限りほぼ同一である。
【0007】
多数の運転においては、清澄器と媒体フィルターの機能を果たすために、ミクロ濾過が使用される。これは、ミクロ濾過が小さい足跡を有し、慣用の技術よりも急速にこれらの機能を果たすためである。それゆえ、マイクロフィルターを良好な運転条件に維持することは重要である。ミクロ濾過についての主要な問題は、このフィルターが微細な固体により汚染を起こすか、あるいは詰まる可能性があるということである。これは、ユニット中で流束を減少させ、フィルターをクリーニングのためにラインから取り外さなければならない。マイクロフィルター運転は、流束の値を増大し、汚染発生の間の時間を延長する結果をもたらす添加剤を使用することにより向上され得る。流束の増大は、装置が休止する時間を減少させ、それにより全体の効率を増大させるために望ましい。
【0008】
それゆえ、金属で汚染した廃水を効率的に処理し、低レベルの製品不純物、製造の相対的な容易さおよび改善された固体/液体分離性能等の他の望ましい性質を保有するDTC官能基を含有する新しい水溶性ポリマーを提供することは望ましいことである。研磨固体を含む半導体廃水から金属イオンを沈殿させるのと同時にマイクロフィルター運転を向上させるのにこのようなポリマーを使用する方法を提供することも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,164,095号明細書
【特許文献2】米国特許第5,387,365号明細書
【特許文献3】米国特許第4,670,160号明細書
【特許文献4】米国特許第5,500,133号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0581164号明細書
【特許文献6】米国特許第5,346,627号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、DTC官能基を含有する新しい水溶性ポリマーおよび研磨固体を含む半導体廃水から金属イオンを沈殿させると同時にマイクロフィルター運転を向上させる方法にこのようなポリマーを使用することを指向する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
DTC官能基を含有するこの新しい水溶性ポリマーは、半導体廃水を効率的に処理し、低レベルの製品不純物を含み、比較的容易に製造され、そして改善された固体/液体分離性能を示す。DTC官能基を含有する有効量のこのポリマーまたは類似のポリマーを半導体廃水に添加する場合、廃水から可溶性重金属イオンを沈殿させるのと同時にマイクロフィルター運転を向上させることが達成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、研磨固体を含む半導体廃水からの金属イオンを沈殿させ、同時にマイクロフィルター運転を向上させる組成物と方法を指向する。
【0013】
本発明の組成物は、DTC官能基を含有する水溶性ポリマーであり、下式
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、RはHまたはCSであり、Xはアルカリ金属(ナトリウムまたはカリウム等の)、アルカリ土類金属またはアンモニウムであり、nはこのポリマーが約3000から約100,000の範囲の合計分子量となるような繰り返し単位の数を持つ)
を有する。
【0016】
新しい組成物は、ジアリルアミンを重合し、次に引き続いてそれをCSと反応させて、ポリマー骨格上にDTC官能基を形成することにより製造される。ジアリルアミンは、また、好適なモノマーと共重合されてもよい。例えば、この好適なモノマーは、アニオン、カチオンあるいは中性電荷を有してよく、アクリレート、アクリルアミドまたはビニル含有モノマーを含んでよい。この合成は下記に示される。
【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
ポリマー上のDTC官能基(すなわち、CSとしてのRのパーセント)の量は制御可能であり、少なくとも約5%、好ましくは約20から約70%であるべきである。DTC官能基を含有する生成水溶性ポリマーは、ポリエチレンイミン型骨格を用いる他の既知のDTCポリマーよりもさらに線状である、すなわち分岐が少なく、環状アミンを含む。また、本発明のポリマーは、ポリマー骨格中に2級アミン基のみを含み、不安定なナトリウムジチオカルバミン酸塩の形成と引き続いての硫化ナトリウムへの分解が除外される。
【0020】
本発明の方法によれば、DTC官能基を含有する新しい水溶性ポリマーまたは既知の水溶性ポリマーが使用されて、研磨固体を含む半導体廃水からの金属イオンを沈殿させ、同時にマイクロフィルター運転を向上させる。
【0021】
水溶性ポリマーはDTC官能基を含有し、式R’N−Rを有する。式中、R’はアルキル基、アリール基またはこれらの置換誘導体であり、RはHまたはCSあり、Xはアルカリ金属(ナトリウムまたはカリウム等の)、アルカリ土類金属またはアンモニウムである。当業者ならば、R’N−Rはポリマー中の繰り返し単位であることを認識するであろう。本発明の実施で使用され得る水溶性ポリマーは、参照としてここに組み込まれている、好ましくは場合によっては米国特許第5,387,365号のポリジアリルアミン、ポリエチレンイミンとエピクロロヒドリンおよび多官能基のアミン縮合ポリマーのジチオカルバミン酸塩誘導体を含む。ここで使用されるように、「ポリエチレンイミン」は、二塩化エチレンとアンモニアから製造される縮合ポリマーを含む意味である。変性されて、ジチオカルバミン酸塩官能基を形成することができる、第一級あるいは第二級アミン基を含むいかなる好適なポリマーも本発明の実施で使用されてよい。
【0022】
半導体廃水から沈殿され得る可溶性重金属イオンは、銅、ニッケル、亜鉛、鉛、水銀、カドミウム、銀、鉄、マンガンおよびこれらの混合物を含む。
【0023】
半導体廃水中に存在し得る研磨固体は、アルミナ、シリカ、セリア、ゲルマニア、チタニア、ジルコニアおよびこれらの混合物を含む。
【0024】
酸化剤も半導体廃水中に存在してもよい。これらの酸化剤は、ヨウ素酸カリウム、フェリシアン化カリウム、過酸化水素、硝酸酸化鉄、硝酸銀、硝酸、硫酸、次亜塩素酸カリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アンモニウムペルオキシ二硫酸塩、過酢酸、過ヨウ素酸、ペルオキシモノ硫酸、カリウムペルオキシモノ硫酸、ペルオキシモノ硫酸、マロンアミド、尿素−過酸化水素、重クロム酸カリウム、臭素酸カリウム、三酸化バナジウム、酸素飽和水、オゾン化水およびこれらの混合物を含む。
【0025】
本発明の必須要件ではないが、この酸化剤は、場合によっては廃水から除去されてよい。これらの酸化剤を除去する方法は、当業者には概ね知られている(例えば、米国特許第5,464,605号を参照)。しかしながら、この酸化剤が廃水から除去されない場合、あるいはいかなる酸化剤も残存する場合には、これらは、本発明の方法により還元されてよい。
【0026】
DTC官能基を含有する水溶性ポリマーは、研磨固体を含む半導体廃水からの金属イオンを効率的に沈殿させ、マイクロフィルター運転を同時に向上させる量で添加される。DTCポリマーは、少なくとも廃水から重金属イオンを沈殿するのに有効な量で廃水に添加されることが好ましい。このような有効量の添加は、マイクロフィルター運転を同時に向上させる。マイクロフィルターを通る透過液の流束をさらに増加させることが望ましい場合には、金属を沈殿させる量よりも多い量を廃水に添加することができる。添加量の調節は、マイクロフィルター運転の業者により手動で、あるいはポリマー−特異的センサーの使用により自動で行われ得る。
【0027】
DTCポリマーは、好ましくはマイクロフィルターの前にいかなる慣用の方法によっても、半導体廃水に添加され得る。また、DTCポリマーの半導体廃水への添加に先立ち、廃水のpHは、好ましくは4と12の間に調節されてよい。さらに好ましくは、pHは、6と10の間に調節されてよく、7と9の間が最も好ましい。
【0028】
本発明の実施での使用に好適なマイクロフィルターの形は、当業者には概ね知られている。このようなマイクロフィルターは、それぞれ、U.S.Filter Membralox(登録商標)およびU.S.Filter Memtekユニット等のセラミック膜および合成膜ユニットを含む。このマイクロフィルターは約0.1から約5ミクロンの範囲、さらに好ましくは、約0.1から約1ミクロンの範囲の分画分子サイズを有することが好ましい。
【0029】
本発明者らは、DTC官能基を含有する新しい水溶性ポリマーは、半導体廃水を効率的に処理し、低レベルの製品不純物を含み、比較的容易に製造され、改善された固体/液体分離特性を示すことを見出した。さらには、DTC官能基を含有する有効量の本発明のポリマーまたは類似のポリマーを半導体廃水に添加する場合、廃水からの可溶性重金属イオンの沈殿とマイクロフィルター運転の向上が同時に達成されることが見出された。DTC官能基を含有するポリマーは処理pHで負に帯電し、カチオン性ポリマーは流束の増大の用途等で通常使用される(Water Treatment Membrane Processes、American Water Works Association Research Foundation、Lyonnaisedes des Eaux、Water Research Commission of South Africa、McGraw−Hill、1996、Chap.16、Coagulation and Membrane Separationを参照)ので、これは驚くべきことである。
【0030】
小分子沈殿剤のナトリウムジメチルジチオカルバミン酸塩(DMDTC)をカチオン性凝固剤と共に使用することは、金属イオンの沈殿およびマイクロフィルター装置を用いての廃水からの除去についての当業者には知られている。しかしながら、その場合には、分散性と金属含有量の変化するレベルにより凝固剤と沈殿剤について適切な添加量の個別の決定を行わなければならない。凝固剤製品は流束を改善するかもしれないが、性能の一貫性が劣り、すなわち、透過液流束と品質が低減するという事は起こる。DTC官能基を含有するポリマーを使用する利点は、透過液の流束と透過液の品質に対する膜ユニットの増大した性能、並びに変化する廃水組成物に対する性能の一貫性である。また、使用される薬品と最終的には、生成する薬品スラッジの量はDMDTCと凝固剤に比べてDTCポリマーにより大いに低減される。
【実施例】
【0031】
次の実施例は、本発明を例示し、当業者に本発明を使用する方法を教示することを意図している。これらの実施例は本発明を限定すること、またはいかなる方法であれその保護を意図したものではない。
【0032】
実施例1
ポリジアリルアミンジチオカルバミン酸塩(ポリ(DAADTC))の製造
24.25gの濃HCl水溶液を24.25gの冷却されたジアリルアミンに添加した。この混合物を0.6にpH調節し、l1.62gの水と0.25mLのギ酸を添加した。この溶液を撹拌し、窒素で掃気し、次に80℃まで温めた。3.71gの過硫酸ナトリウムと5.7gの脱イオン水からなる開始剤溶液を調整し、注射器ポンプを用いて、1時間の時間にわたって連続して添加した。反応が開始して約5分間後、この溶液は発熱を開始し、還流(106℃)させられた。発熱は1/2時間後おさまり始めた。開始剤の添加の完了に続いて、反応物を80℃でもう1時間温め、次に冷却した。10.3gの水とpHを7.5に調節するために、数滴のNaOHを冷却した混合物に添加した。最終のポリジアリルアミン製品は金色であり、80cpsの粘度を有していた。理論的なポリマー固体(遊離アミンとして)は30%であった。
【0033】
ポリ(DAADTC)化合物を製造するのに次の方法を使用した。すなわち、50%のアミン基をCSにより官能基化し、上記で製造した25.0gのポリジアリルアミン製品を9.0gの25%NaOH溶液と混合し、次に、12.0mLのメタノールを添加して、いかなる不溶性ポリマーも溶解させた。引き続き、追加の6.2gの25%NaOH溶液を1滴のDowfax 2A1界面活性剤と共にこの混合物に添加した。次に、この混合物を反応フラスコに入れ、35℃まで温めた。次に、この反応物に2.94gのCSを注射器により少量ずつ1時間の時間にわたって添加した。CS添加の過程で、この溶液を均質に保つために、小量(合計5.7g)の25%NaOHを添加した。CS添加が完了した後、この溶液温度を45℃まで上げ、撹拌しながら2時間保った。得られた透明な、金褐色の溶液は12.2のpHと、19%の理論ポリマー固体値(ナトリウム塩として)を有していた。
【0034】
実施例2
NALCO(登録商標)603、高分子量の二塩化エチレン−アンモニア縮合ポリマー(NALCO(登録商標)603はNalco Chemical Companyから市販されている)を使用し、それがほぼ35%のDTC官能基の量を包含するように変性することにより、以下のポリマー製品(8702−1)を製造した。得られた製品は、本質的にNALMET(登録商標)8702(NALMET(登録商標)8702はNalco Chemical Companyから市販されている)の高分子量バージョンであった。150mLのNALCO(登録商標)603ポリマーの試料を50%のNaOHを用いて9.1にpH調節した。123.54gのpH調節したポリマーを還流コンデンサーと磁気撹拌棒を備えたフラスコに添加した。35mLの脱イオン(D.I.)水、36.5gの50%NaOHおよび0.24gのDowfax 2A1界面活性剤を次に添加した。この溶液を34℃まで温め、20.72gの二硫化炭素を注射器により少量ずつ1時間の時間にわたって添加した。添加が完了した後、反応温度を45℃まで上げ、混合物を撹拌し、追加で3時間加熱した。得られた透明な、金色の溶液は、12.3のpHと28%の理論ポリマー固体値(ナトリウム塩として)を有していた。
【0035】
実施例3
NALCO(登録商標)634(若干高分子量バージョンのNALCO(登録商標)603)を使用し、それがほぼ35%のDTC官能基(NALCO(登録商標)634はNalco Chemical Companyから市販されている)を包含するように変性することにより、以下のポリマー製品(8702−2)を製造した。得られた製品は、本質的にNALMET(登録商標)8702の高分子量バージョンであった。8702−2の分子量は8702−1の分子量よりも高かった。150mLのNALCO(登録商標)634ポリマーの試料を50%のNaOHを用いて9.0にpH調節した。100.0gのpH調節したポリマーを還流コンデンサーと磁気撹拌棒を備えたフラスコに添加した。23.9mLのD.I.水、27.35gの50%NaOHおよび0.18gのDowfax 2A1界面活性剤を次に添加した。この溶液を34℃まで温め、l5.54gの二硫化炭素を注射器により少量ずつ1時間の時間にわたって添加した。添加が完了した後、反応温度を45℃まで上げ、混合物を撹拌し、追加で3時間加熱した。得られた透明な、金色の溶液は、12.3のpHと27%の理論ポリマー固体値(ナトリウム塩として)を有していた。
【0036】
一般的な実験条件
以下のマイクロフィルター実験(実施例4−9)のすべてにおいて、ガロン/ft/日(GFD)での膜流束またはGFDBでの透過性を使用して、性能データを比較した。膜透過性は、バール(B)で表わした膜間圧力(TMP)で割った流束(GFDでの)として定義される。
【0037】
【数1】

【0038】
標準温度で、透過性(P)は
【0039】
【数2】

と表わされる。
【0040】
種々の温度下での運転に対しては、適切な補正を行わなければならない。実験において可能な場合には、温度を一定あるいはほぼ一定に保って、温度による流束の変化を最小にした。きっちりとした制御が可能でない場合には、補正を行って、温度で誘起された流束変化を計算に入れた。
【0041】
セラミックマイクロフィルターの方法
指定された間隔で短い逆パルスを印加する連続逆パルス装置が備えられたT1−70卓上型セラミック膜ミクロ濾過パイロットユニット(U.S.Filter、ワレンダール、ペンシルベニア州)を次の実施例のすべてにおいて使用した。逆パルスは、ほぼ2分間毎に動作するように設定され、2−3秒の継続時間を有していた。特記しない限り、「連続再循環モード」でマイクロフィルターを動作した。4リットルの供給液を毎日新しく調製し、処理に添加するのに先立ち、特記しない限りpHを7.0と7.5の間で調節した。次に、これを処理液と一緒に合わせ、へらにより静かに撹拌して、混合(約30秒)し、必要ならばpH調節し、マイクロフィルタータンク中に入れた。試験は通常4−8時間の間継続した。連続再循環モードにおいては、濃縮液と透過液の流れをマイクロフィルタータンク中で一緒に合わせ、一定組成の供給液を与えた。
【0042】
ウェハー加工で使用される通常のスラリー組成物は、50nmから300nmもの大きなサイズの範囲の研磨粒子を含むことがあり得る。この研究群において見られる種々の試料に基づいて、Nalco標準試験溶液は、1000ppmの75nm(0.075μ)のコロイド状SiO粒子(NALCO(登録商標)2329、40%シリカ混合物)からなると決められた。この溶液にクエン酸銅アンモニウムを添加して、0から10ppmの最終Cu濃度を得た。
【0043】
以下の実施例においてある場合に見ることができるように、スラリー固体の濃度、スラリー固体の内容、Cuの濃度および標準混合物のpHを変えた。マイクロフィルターの運転条件を次のパラメータ内に保った。
温度:24℃から30℃
P入口:10−25psig
P出口:10−25psig(TMP=0.6から1.7バール)
流量:2.5gpm
実験的な圧力とTMPはいくつかの実験時に広く変わったために、セラミックマイクロフィルターのすべての実験結果(流束)を温度補正した透過性の形で示す。
【0044】
セラミック膜のクリーニング方法
清浄な水の透過性が450−500GFDB範囲以下に低下した場合に、膜をクリーニングした。脱イオン水はセラミック膜の孔を汚染するのに充分な溶解物を含んでいるために、Milli−Q精製水を用いて、すべての清浄な水の流束を得た。Milli−Q水は、脱イオンされ、活性炭、UV光および粒子濾過により処理した水道水から製造された、18メガオームの高純度水である。
【0045】
クリーニング溶液は、2%NaOHと1000ppmの漂白剤からなっていた。この溶液を約70℃まで加熱し、膜を通してほぼ1時間再循環した。冷却後、ユニットを排水し、Milli−Q水によりリンスした。
【0046】
以下の表1に示したポリマーを次の実施例で使用した。
【0047】
【表1】

【0048】
NALMET(登録商標)8702とNALMET(登録商標)1689(Nalco Chemical Company、ナパヴィル、イリノイ州から市販)およびポリマー8702−1と8702−2(それぞれ実施例2および3で製造された)は、すべて二塩化エチレンとアンモニアから製造された縮合ポリマーからのポリエチレンイミンのDTC誘導体である。Betz1722−150(BetzDearborn、トレボース、ペンシルベニア州から市販)は、ポリエチレンイミン(PEI)のDTC誘導体である。ポリジアリルアミンのDTC誘導体(ポリ(DAADTC))を実施例1で製造した。
【0049】
実施例4
一連の実験において、標準試験溶液を用いて、膜を通る流束をモニターした。ジメチルジチオカルバミン酸塩(DMDTC)により、あるいはジチオカルバミン酸塩官能基を含有するように誘導化されたポリマーにより、この溶液を処理した。ベンチマークとしてDMDTCをこの試験に含めた。すべてのポリマー製品を200ppmの添加量で供給した。下記の表2は、種々の化学薬品に対する結果を要約する。
【0050】
このポリマー製品のすべて(Betz1722−150を除く)は、未処理溶液に対して、またDMDTCにより処理された溶液に対して増大した流束(向上)を示した。Beta1722−150とNALMET(登録商標)1689等の高パーセントでCS包含する製品は、このマトリックス中で他よりも低性能であった。それにも拘らず、これらの製品は、金属濃度、固体濃度、pH、添加量などの最適化された条件下でマイクロフィルターを通しての流束を向上させると期待される。最終銅濃度は、すべての場合において1ppm未満であった。
【0051】
【表2】

【0052】
実施例5
標準スラリー溶液(1000ppmSiO、10ppmCu)を用いて、NALMET(登録商標)8702を試験した。この製品を200ppmの添加量で供給した。7と11の間のpH値で性能を試験した。以下の表3は、試験結果を要約する。流束の増大はpH7と9で良好であり、pH11で劣っていた(未処理の溶液の値に近づく)。Cuは、すべての試料の透過液において<0.5ppmであった。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例6
2000ppmのSiOと10ppmのCuを含む実験溶液を種々の添加量のNALMET(登録商標)702により処理した。これらの条件下でCu除去に必要とされる理論量のNALMET(登録商標)8702は、200ppmである(20:1製品/Cu比)。表4に示すように、Cuを1ppmCu未満まで除去するのに必要とされるよりも少ない添加量で流束の増大が認められた。添加量を増加した結果、約500ppmの製品まで流束の増大が得られた。この濃度以上では、更なる性能の向上は見られなかった。理論的最小値あるいはそれ以上で、Cuは1ppm未満まで除去された。
【0055】
【表4】

【0056】
実施例7
実施例1で製造したポリ(DAADTC)製品を標準条件下(1000ppmのSiO、10ppmのCu、pH7)、種々の添加量で試験した。下記の表5に示すように、300から600ppmの範囲の添加量で、未処理の溶液に比べて流束の増大が見られた。最終銅濃度はすべての場合において0.1ppm未満であった。
【0057】
【表5】

【0058】
実施例8
研磨固体を含む溶液における流束の増大とCu除去について、NALMET(登録商標)8702を試験した。試験した固体は、アルミナスラリー(MSW1500−Rodel,Inc.、ニューアーク、デラウェア州から市販)とヒュームドシリカスラリー(Semi−Sperse 12−Cabot Corporation、ボストン、マサチューセッツ州から市販)であった。試験を1000ppmの固体と10ppmのCuで行った。加えて、600−800ppmの重亜硫酸塩によりこのアルミナスラリーを前処理して、スラリー中に存在する過剰の酸化剤を除去した。すべての場合に、このポリマーを200ppmで添加した。以下の表6および7に示すように、未処理(ブランク)溶液に比べて、良好な流束の増大が見られた。この実験の間、透過液中のCu濃度は、1ppm(アルミナスラリー)未満であり、0.1ppm(ヒュームドシリカスラリー)未満であった。
【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

【0061】
実施例9
2000ppmのヒュームドシリカ固体と10ppmのCuを含む試験溶液をNALMET(登録商標)8702により200および400ppmの添加量で処理した。未処理のヒュームドシリカスラリーに比べて、200ppmの処理物の添加は、表8に示すように、流束の増大を生じた。さらに高添加量のNALMET(登録商標)8702は、流束をさらに向上させなかった。透過液試料中のCu濃度は検出限界以下であった。
【0062】
【表8】

【0063】
本発明は、好ましい実施形態または例示の実施形態と関連して上述されているが、これらの態様は、本発明を網羅するもの、あるいは限定するものとして意図されていない。むしろ、本発明は、添付の特許請求に規定されているような、精神と範囲に含まれているすべての代替、修正および同等物を含むとして意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式
【化1】

(式中、Rは独立して各単位ごとにHまたはCSから選択され、Rの合計単位の5%から70%未満はCSであり、Xはアルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニウムであり、nはこの化合物が3000から100,000の範囲の合計分子量を有するような繰り返し単位の数である)
のジチオカルバミン酸塩化合物。
【請求項2】
Rの合計単位の20%から70%がCSである請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Rの合計単位の35%から50%がCSである請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
さらに、アクリレート、アクリルアミドまたはビニル含有モノマーのうち少なくとも1つを含む請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
研磨固体を含有する半導体廃水から重金属イオンを沈殿させ、同時にマイクロフィルターの運転を向上させる方法であって、
(a)請求項1に記載の、有効量のジチオカルバミン酸塩化合物を、少なくとも200ppmの量で研磨固体を含有する半導体廃水に添加する工程であって、
前記重金属イオンが、銅、ニッケル、亜鉛、鉛、水銀、カドミウム、銀、鉄、マンガンおよびこれらの混合物からなる群から選ばれ、
前記研磨固体が、アルミナ、シリカ、セリア、ゲルマニア、チタニア、ジルコニアおよびこれらの混合物からなる群から選ばれ、
前記マイクロフィルターが0.1から5ミクロンの範囲の分画分子サイズを有しており、
請求項1に記載の式中のRの合計単位の35%から50%がCSである
ところの工程と、
(b)前記重金属イオンを沈殿させ、そして、前記廃水をマイクロフィルターを通過させて、研磨固体および沈殿した重金属イオンを除去し、マイクロフィルターの運転を向上し、前記運転によって、1日に、1フィート平方当り少なくとも48ガロン(GFD)(1平方メートル当たり少なくとも2.2637×10−5)の増加量をもって、平均流束の量を増加させる工程と
を含む方法。
【請求項6】
前記ジチオカルバミン酸塩化合物を廃水に添加するのに先立ち、半導体廃水のpHを4と12の間で調節する工程をさらに含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記半導体廃水がさらに酸化剤を含む請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化剤がヨウ素酸カリウム、フェリシアン化カリウム、過酸化水素、硝酸酸化鉄、硝酸銀、硝酸、硫酸、次亜塩素酸カリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アンモニウムペルオキシ二硫酸塩、過酢酸、過ヨウ素酸、ペルオキシモノ硫酸、カリウムペルオキシモノ硫酸、ペルオキシモノ硫酸、マロンアミド、尿素−過酸化水素、重クロム酸カリウム、臭素酸カリウム、三酸化バナジウム、酸素飽和水、オゾン化水およびこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項7に記載の方法。

【公開番号】特開2011−117000(P2011−117000A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50504(P2011−50504)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【分割の表示】特願2000−593549(P2000−593549)の分割
【原出願日】平成11年12月2日(1999.12.2)
【出願人】(599109663)ナルコ ケミカル カンパニー (8)
【氏名又は名称原語表記】NALCO CHEMICAL COMPANY
【住所又は居所原語表記】One Nalco Center,Naperville,Illinois 60563−1198,United States of America
【Fターム(参考)】