説明

半導体結晶成長方法

【課題】高品質な半導体結晶を再現性よく得ることのできる半導体結晶成長方法を提供することにあり、更には、転位密度の均一な半導体結晶を提供する。
【解決手段】VGF法による結晶成長炉1は、ルツボ20内に収容した融液34を、ルツボ20の一端に設置された種結晶30と接触させた状態で、ルツボの側面側及びルツボの開口部側から加熱することにより、少なくとも結晶成長中は、開口部側から加熱する温度を側面側から加熱する温度よりも高く保持して、種結晶30側のルツボ20の一端を、ルツボ20の他端(ルツボ20の開口部側)よりも低温に保持しつつ、融液34の温度を降下させて、種結晶30側からルツボ20の他端に向けて融液34を徐々に固化させ、化合物半導体結晶の単結晶を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体結晶成長方法に関する。特に、本発明は、半導体融液から半導体結晶を成長させる半導体結晶成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、III−V族化合物半導体結晶等の結晶成長方法として、半導体融液をルツボ内で下方から上方に向けて徐々に固化させることにより単結晶を成長させる縦型成長法である縦型徐冷(Vertical Gradient Freeze:VGF)法、及び縦型ブリッジマン(Vertical Bridgman:VB)法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、原料融液を収容する容器と、容器の周囲に配置した温度勾配炉と、温度勾配炉を容器に対して相対的に移動する手段とを有し、容器の一端から固化成長させる単結晶の製造装置において、容器の壁内にBを含有させたBN製容器を用いた単結晶の製造装置が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の単結晶製造装置によれば、使用時にBN製容器の壁面から徐々にBが染み出してB膜でルツボの壁面が覆われるので、原料融液とルツボ表面の凹凸壁面とが接触することにより生じる結晶核の発生を防止できる。
【特許文献1】特許第2585415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の従来の化合物半導体結晶の製造装置では、双晶及び多結晶が結晶成長中に生成する場合があった。また、結晶内部に発生する転位の欠陥の密度が結晶内部で結晶成長方向に沿って大きく変化する場合もあった。本発明者は、結晶内部に発生する転移の欠陥の密度が結晶内部で結晶成長方向に沿って変化するのは、成長中の結晶の径方向において温度勾配が生じていることが原因であるとの知見に至った。更に、結晶成長ごとに欠陥の密度がばらつくことがあり、欠陥の少ない単結晶を再現性よく得ることが困難であった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、高品質な半導体結晶を再現性よく得ることのできる半導体結晶成長方法を提供することにあり、更には、転位密度の均一な半導体結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、半導体の種結晶と半導体の原料とを収容したルツボを加熱して、原料を融液とする原料融解工程と、ルツボの側面側及びルツボの開口部側から加熱して、少なくとも結晶成長中は、開口部側から加熱する温度を側面側から加熱する温度よりも高く保持して半導体の単結晶を成長する結晶成長工程とを備える半導体結晶成長方法が提供される。
【0008】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長工程は、側面側及び開口部側から加熱される領域内で前記ルツボを降下させることにより、融液を固化させて単結晶を成長してもよい。また、結晶成長工程は、側面側から加熱する温度及び開口部側から加熱する温度を徐々に降下させることにより、融液を固化させて単結晶を成長してもよい。更に、結晶成長工程は、少なくとも結晶成長の進行中は、融液内の垂直方向(結晶成長方向)の温度分布が変曲点を有さずに、単結晶を成長してもよい。
【0009】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長工程は、少なくとも結晶成長の進行中は、凝固した単結晶内の垂直方向(結晶成長方向)の温度分布が変曲点を有さずに、単結晶を成長してもよい。また、結晶成長工程は、結晶成長界面の移動速度を略一定にして単結晶を成長してもよい。また、半導体が、III−V族化合物半導体であってもよく、半導体が、GaAsであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体結晶成長方法によれば、高品質な半導体結晶を再現性よく得ることができ、更には、転位密度の均一な半導体結晶を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る結晶成長炉の断面の概要を示す。
【0012】
(結晶成長炉1の構造)
第1の実施の形態に係る結晶成長炉1は、成長する化合物半導体結晶の原料を収容する容器としてのルツボ20と、ルツボ20を収容するルツボ収容容器としてのサセプタ50と、サセプタ50を収容して保持するサセプタ支持部材55と、ルツボ20を上部から加熱する上部加熱部としての上部加熱ヒータ10と、ルツボ20を側面から加熱する複数の外周加熱部としての外周加熱ヒータ12とを備える。
【0013】
更に、結晶成長炉1は、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12が発する熱の結晶成長炉1の外部への伝熱を防止する複数の断熱材60と、一の外周加熱ヒータ12(例えば、外周加熱ヒータ12b)と他の外周加熱ヒータ12(例えば、外周加熱ヒータ12c)との間に設けられる断熱材62と、複数の断熱材60及び断熱材62等を外部から覆うチャンバー70とを備える。
【0014】
本実施形態に係る結晶成長炉1は、VGF法で化合物半導体結晶の単結晶を成長する。すなわち、結晶成長炉1は、ルツボ20内に収容した融液34を、ルツボ20の一端に設置された種結晶30と接触させた状態で、種結晶30側のルツボ20の一端を、ルツボ20の他端(ルツボ20の開口部側)よりも低温に保持しつつ、融液34の温度を降下させて、種結晶30側からルツボ20の他端に向けて融液34を徐々に固化させることにより、化合物半導体結晶の単結晶を成長する。そして、結晶成長炉1で成長する化合物半導体結晶は、一例として、III−V族化合物半導体であるGaAsの単結晶である。
【0015】
ルツボ20は、化合物半導体結晶の種結晶30を収容する種結晶配置部としての細径部25と、所定の角度で細径部25に連続して設けられる傾斜部26と、傾斜部26に連続して設けられ、細径部25の長手方向と略平行な部分を含む断面円形の直胴部27とを有する。ルツボ20の直胴部27は、上面視において略円形状であり、一例として、直径160mm、長さ300mmの略円筒形に形成される。また、ルツボ20は、熱分解窒化ホウ素(Pyrolytic Boron Nitride:pBN)から形成される。なお、ルツボ20は石英から形成することもできる。
【0016】
すなわち、ルツボ20は細径部25を底部に有すると共に、略円筒形状の直胴部27の端部にルツボ20の内部を露出するルツボ開口部22を有する。ルツボ20は、細径部25に種結晶30を収容すると共に、ルツボ開口部22から導入された化合物半導体結晶の原料とp型用又はn型用の所定のドーパントとを所定量ずつ収容する。また、ルツボ20は、B等の液体封止材40を更に収容する。なお、化合物半導体結晶の原料は、成長する化合物半導体の多結晶である。
【0017】
ルツボ20内では、所定の温度で融解した化合物半導体の原料の融液34が細径部25の種結晶30と接触して単結晶が生成する。そして、生成した単結晶は、ルツボ20内において、種結晶30の側から結晶成長炉1の上方に向かって、成長結晶32として徐々に成長していく。
【0018】
サセプタ50はグラファイトから形成され、ルツボ20を保持して収容する。また、サセプタ支持部材55は、結晶成長炉1内で昇降及び回転が自在にできるように設けられる。そして、サセプタ支持部材55の上にサセプタ50が搭載されて保持される。この場合に、サセプタ50の下方のサセプタ下部52がサセプタ支持部材55に接触して、サセプタ支持部材55の上にサセプタ50が搭載される。これにより、ルツボ20内の温度分布を緩やか、かつ、一定に保つことを目的として、結晶成長中にルツボ20を回転させることができる。
【0019】
複数の外周加熱ヒータ12はそれぞれ、結晶成長炉1の上部から下部へ向かう方向に沿って配置される。この場合に、複数の外周加熱ヒータ12は、サセプタ50の周囲を囲むように結晶成長炉1の内部の所定の高さの位置にそれぞれ配置される。具体的には、外周加熱ヒータ12aと、外周加熱ヒータ12aの下に配置される外周加熱ヒータ12bと、外周加熱ヒータ12bの下に配置される外周加熱ヒータ12cと、外周加熱ヒータ12cの下に配置される外周加熱ヒータ12dとが、結晶成長炉1の上部から下部へ向かう方向に沿って配置される。
【0020】
そして、複数の外周加熱ヒータ12の設定温度は、結晶成長炉1の上部から下部へ向かう方向に沿って順次、低下するように設定される。すなわち、外周加熱ヒータ12aの設定温度>外周加熱ヒータ12bの設定温度>外周加熱ヒータ12cの設定温度>外周加熱ヒータ12dの設定温度、となるように複数の外周加熱ヒータ12の設定温度が設定される。
【0021】
上部加熱ヒータ10は、ルツボ開口部22の上方に配置される。すなわち、上部加熱ヒータ10は、種結晶30が収容される細径部25よりもルツボ開口部22の近くに配置される。そして、上部加熱ヒータ10は、ルツボ20内の融液34を、サセプタ上部51及びルツボ開口部22の側から加熱する。すなわち、上部加熱ヒータ10は、ルツボ20の側面を加熱せずに、端面を加熱する。なお、上部加熱ヒータ10は、発熱面を有しており、当該発熱面が、ルツボ20の長手方向に略垂直に配置される。換言すると、当該発熱面が、ルツボ20が収容する融液34の液面と略水平に配置される。
【0022】
上部加熱ヒータ10は、融液34を加熱する熱を融液34の上方から供給することにより、ルツボ20の上方から下方への一方向に熱流が流れるようにする。すなわち、ルツボ20内の融液34を通過する熱流が、ルツボ開口部22側から種結晶30の側に向かって略直線となるように、上部加熱ヒータ10は、所定の熱量の熱を融液34の上方から供給する。
【0023】
また、上部加熱ヒータ10の設定温度は、複数の外周加熱ヒータ12のいずれの設定温度よりも高く設定される。なお、上部加熱ヒータ10は、ルツボ開口部22の上方に配置される限り、その形状及び大きさ、並びに外周加熱ヒータ12に対する位置は問わない。なお、結晶成長炉1は、サセプタ下部52の側からルツボ20を加熱する下部加熱ヒータを更に備えて形成することもできる。下部加熱ヒータは、その加熱面が、ルツボ20内の融液34の液面と略平行となるようにチャンバー70内に配置される。
【0024】
上部加熱ヒータ10、下部加熱ヒータ、及び複数の外周加熱ヒータ12はそれぞれ、一例として、炭化ケイ素(SiC)等の材料から形成される抵抗加熱ヒータで構成される。なお、上部加熱ヒータ10、下部加熱ヒータ、及び複数の外周加熱ヒータ12はそれぞれ、カーボンヒータ、赤外線加熱ヒータ、RFコイルで加熱した発熱体を2次ヒータとして用いるヒータ等で構成することもできる。
【0025】
断熱材60は、複数の外周加熱ヒータ12及び上部加熱ヒータ10の外側を包囲して設けられる。断熱材60を設けることにより、複数の外周加熱ヒータ12及び上部加熱ヒータ10が発した熱を、ルツボ20に効率的に伝熱させることができる。一方、断熱材62は、一の外周加熱ヒータ12と他の外周加熱ヒータ12との間で所定の温度差を確保するために、一の外周加熱ヒータ12と他の外周加熱ヒータ12との間に配置される。
【0026】
チャンバー70は、ルツボ20と、ルツボ20を収容するサセプタ50と、サセプタ50を保持するサセプタ支持部材55と、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12と、断熱材60及び断熱材62とを密閉する。なお、結晶成長炉1は、チャンバー70内の雰囲気を所定のガス雰囲気(例えば、窒素等の不活性雰囲気)に設定する機能と、チャンバー70内の圧力を一定値に保つガス圧制御機能とを有する。
【0027】
なお、本実施形態に係る結晶成長炉1においては、GaAsの単結晶だけではなく、他のIII−V族化合物半導体結晶を成長することもできる。例えば、結晶成長炉1を用いて、InP、InAs、GaSb、又はInSb等の化合物半導体の単結晶を成長することができる。また、結晶成長炉1を用いてAlGaAs、InGaAs、又はInGaP等のIII−V族化合物半導体結晶の三元混晶結晶、若しくは、AlGaInP等のIII−V族化合物半導体結晶の四元混晶結晶を成長することもできる。
【0028】
また、結晶成長炉1を用いて、ZnSe、CdTe等のII−VI族化合物半導体結晶、又は、Si、Ge等のIV族半導体結晶の成長をすることもできる。更に、結晶成長炉1を用いて、化合物半導体結晶又は半導体結晶ではない材料の結晶である、金属結晶、酸化物結晶、フッ化物結晶の結晶を成長することもできる。
【0029】
また、本実施形態においてルツボ20内において成長する化合物半導体の融液34が、大気圧以上の解離圧を有する場合、チャンバー70を圧力容器とすることもできる。チャンバー70を圧力容器とすることにより、化合物半導体の融液34が大気圧以上の解離圧を有する場合であっても、チャンバー70内を解離圧以上の圧力に設定することにより、融液34の蒸発等を防止して化合物半導体の単結晶を成長させることができる。
【0030】
また、ルツボ20の全体を石英等から形成されたアンプルに封入することもできる。そして、ルツボ20を封入したアンプルを結晶成長炉1内の所定の位置に設置して、化合物半導体の単結晶を成長することもできる。
【0031】
また、本実施形態に係る結晶成長炉1においては、サセプタ支持部材55を徐々に降下させることによりルツボ20内の融液34から単結晶としての成長結晶32を成長させるが、成長結晶32の成長方法はこれに限られない。例えば、サセプタ支持部材55を降下させずに、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の設定温度を所定の速度で徐々に低下させて、ルツボ20内の温度を低下させて成長結晶32を成長させてもよい。
【0032】
更に、本実施形態に係る結晶成長炉1においては、ルツボ20内に収容されている化合物半導体の融液34を種結晶30に接触させた状態で、種結晶30の側からルツボ20の上方に向けて徐々に単結晶を成長させる方法であるVB法やVGF法を用いているが、この方法と類似の半導体結晶の成長方法を結晶成長炉1に適用することができる。
【0033】
例えば、結晶成長炉1に、半導体の融液を収容する容器が水平に設置され、容器の一端に種結晶が配置された状態で、融液の凝固が水平方向に進行する横型ボート法を適用することができる。また、結晶成長炉1に、半導体の融液を収容する容器が垂直に設置され、容器の上端に種結晶が配置された状態で、融液の凝固が上方から下方に進行するKyropulos法を適用することができる。
【0034】
また、結晶成長炉1に、加熱ヒータを有する炉体をルツボ20に対して移動させて結晶成長を行う炉体移動法(Traveling Furnace法:TF法)を適用することもできる。
【0035】
また、本実施形態に係る結晶成長炉1においては、上部加熱ヒータ10があれば複数の外周加熱ヒータ12は必須ではないが、ルツボ20内で加熱すべき融液34が所定量より多い場合や、ルツボ20内の上下方向における温度勾配が所定の温度勾配より大きくなる場合には、上部加熱ヒータ10と複数の外周加熱ヒータ12とを組み合わせて結晶成長炉1を構成することが好ましい。
【0036】
図2は、比較例に係る結晶成長炉の断面の概要を示す。
【0037】
比較例に係る結晶成長炉2は、本発明の第1の実施の形態に係る結晶成長炉1から上部加熱ヒータ10を取り除いた点を除き、結晶成長炉1と略同一の構成を備えるので、詳細な説明は省略する。
【0038】
図3は、比較例に係る結晶成長炉内における模式的な温度分布を示す。
【0039】
比較例に係る結晶成長炉2においては、ルツボ20を加熱する手段として複数の外周加熱ヒータ12だけが設置されている。したがって、ルツボ20は、ルツボ側面24側からだけ加熱される。そのため、ルツボ20内部では、外周加熱ヒータ12に近い側から、A−A線で示す結晶成長炉2の中心線に向かうにつれて温度が低くなる。
【0040】
例えば、結晶成長炉2の外周加熱ヒータ12aに最も近い等温線90cから、等温線90cよりもルツボ20に近い位置の等温線90b、等温線90bよりもルツボ20に近い位置の等温線90aに移るにつれて温度が低下する。これにより、ルツボ20内の化合物半導体の融液34には、ルツボ20の径方向において温度勾配が生じる。この温度勾配は、ルツボ20の外周からルツボ20の中心に向かって温度が低下する勾配である。
【0041】
ここで、化合物半導体の単結晶の成長は種結晶30の上端部から開始する。そして、化合物半導体の融液34がルツボ20の下方から上方に向かって徐々に凝固して、種結晶30と同じ方位を有する単結晶が成長していく。この場合に、結晶成長炉2の上下方向に所定の温度差を設けることを要するので、結晶成長炉2の複数の外周加熱ヒータ12はそれぞれ異なる温度に設定され、結晶成長炉2の上方から下方に向かって多段に設けられる。
【0042】
比較例に係る結晶成長炉2では、複数の外周加熱ヒータ12のそれぞれの設定温度は、外周加熱ヒータ12aの設定温度>外周加熱ヒータ12bの設定温度>外周加熱ヒータ12cの設定温度>外周加熱ヒータ12dの設定温度、となるように設定される。そして、第1の実施の形態に係る結晶成長炉1とは異なり、結晶成長炉2は、上部加熱ヒータ10を備えていない。したがって、一の外周加熱ヒータ12と当該一の外周加熱ヒータ12に隣接して設けられる他の外周加熱ヒータ12との間には、ルツボ20が加熱されない領域が生じる。
【0043】
そのため、一の外周加熱ヒータ12と当該一の外周加熱ヒータ12に隣接する他の外周加熱ヒータ12との間の加熱されない領域、例えば、等温線90gと等温線90hとの間に位置する領域に対応するルツボ20内の温度は、外周加熱ヒータ12によって加熱されているルツボ20の部分に比べて低い温度となる。これにより、ルツボ20の径方向において生じる温度勾配は結晶成長炉2の上下方向で一定とならない。
【0044】
したがって、結晶成長炉2では、外周加熱ヒータ12の位置と、ルツボ20が配置される位置との関係によって、ルツボ20内の径方向の温度勾配はルツボ20の上下方向で複雑に変化する。すなわち、ルツボ20の上下方向の各位置において、ルツボ20の中心からルツボ側面24に向かう方向への温度勾配がそれぞれ大きく異なることとなる。更に、結晶成長炉2ではルツボ側面24からルツボ20内に熱が伝熱するので、ルツボ20内の融液34から成長結晶32に流れる熱流は、ルツボ側面24からルツボ20の中心に向かって徐々にルツボ20の底部に進行方向を曲げながら進行する。
【0045】
このような結晶成長炉2を用いて化合物半導体の結晶成長を実施すると、ルツボ20の径方向の温度勾配が所定の温度勾配よりも大きいルツボ20内の部分では、所定の温度勾配よりも小さい部分で成長させた結晶よりも結晶の転位密度が大きい結晶が成長する。また、ルツボ20内で成長する結晶中での温度分布が結晶の成長位置によって変化するので、成長した結晶内部に発生する転位の密度に成長結晶32の長手方向に沿ってばらつきが生じる。
【0046】
したがって、結晶内に発生する転位以外の結晶の特性、例えば、結晶内に存在する転位に応じて決定される結晶の電気的特性の分布及び結晶の光学特性の分布についてもばらつきが生じる。更に、結晶の成長界面近傍の温度勾配が結晶成長の進行に応じて変化するので、結晶成長の速度を一様に保つことが困難であり、結晶成長の進行が不安定となる。その結果、結晶成長炉2で化合物半導体を成長させた場合、双晶又は多結晶が発生する確率が高まることとなる。
【0047】
なお、図3に示す複数の等温線90の形状は、説明の簡略化のために模式的な形状で示している。すなわち、複数の外周加熱ヒータ12、複数の断熱材60及び断熱材62、化合物半導体の融液34、成長した結晶、ルツボ20、サセプタ50、雰囲気ガス等のそれぞれを形成する材料に固有の熱伝導率、伝達率、輻射率等の影響を考慮していない模式的な等温線90として示している。
【0048】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る結晶成長炉内における模式的な温度分布を示す。
【0049】
第1の実施の形態に係る結晶成長炉1においては、ルツボ20の上方に上部加熱ヒータ10を備える。特に、上部加熱ヒータ10の温度を外周加熱ヒータ12の温度よりも高く保つことにより、ルツボ側面24から伝熱する外周加熱ヒータ12の熱の影響が相対的に低減して、比較例に係る結晶成長炉2の場合に比べてルツボ20内の径方向の温度勾配を緩やかにすることができる。例えば、図4に示した等温線90i及び等温線90jのように、ルツボ20の径方向に沿った方向での温度勾配は、比較例に係る結晶成長炉2の場合に比べると急激に変化する部分をなくすことができる。
【0050】
すなわち、第1の実施の形態に係る結晶成長炉1においては、ルツボ20の上方に上部加熱ヒータ10を備えることにより、ルツボ20内の径方向の温度勾配を所定値以下に維持することができる。そして、ルツボ20内の径方向の温度勾配を所定値以下に維持したまま、結晶成長炉1は、ルツボ20内において結晶の成長を進行させることができる。これにより、融液34及び成長結晶32内の等温面が略平坦に維持される。また、上部加熱ヒータ10を備えることにより、融液34及び成長結晶32内の等温面を、成長結晶32と融液34との固液界面形状と略平行となるように制御することができる。すなわち、融液34及び成長結晶32内には、結晶成長の進行中において、結晶が成長する方向に沿った方向において、温度分布に変曲点が存在しないこととなる。
【0051】
また、第1の実施の形態に係る結晶成長炉1においても、比較例に係る結晶成長炉2と同様に、外周加熱ヒータ12aの設定温度>外周加熱ヒータ12bの設定温度>外周加熱ヒータ12cの設定温度>外周加熱ヒータ12dの設定温度、と設定される。しかし、比較例に係る結晶成長炉2とは異なり、結晶成長炉1は、上部加熱ヒータ10を備える。
【0052】
結晶成長炉1では、上部加熱ヒータ10を備えることによりルツボ20の上部からルツボ20内を加熱することができる。これにより、一の外周加熱ヒータ12と当該一の外周加熱ヒータ12に隣接して設けられる他の外周加熱ヒータ12との間のルツボ20が加熱されない領域は上部加熱ヒータ10からの熱により加熱されることとなる。よって、ルツボ20の上下方向のそれぞれの位置において、ルツボ20の径方向の温度勾配のばらつきを、上部加熱ヒータ10がない場合に比べて小さくすることができる。
【0053】
そして、ルツボ20内においてルツボ20の上下方向のいずれの位置においても、複数の等温線90のそれぞれは、略平行となる。例えば、等温線90iと、等温線90iより下側の等温線90jと、等温線90jより下側の等温線90kと、等温線90kより下側の等温線90lとはそれぞれ、互いに略平行となる。なお、成長結晶32と融液34との界面の移動速度を略一定として結晶成長は実施される。
【0054】
このような結晶成長炉1を用いて化合物半導体の結晶成長を実施すると、ルツボ20の径方向の温度勾配が比較例に係る結晶成長炉2に比べて小さくなるので、成長する結晶内で発生する転位は、結晶成長炉2で成長した結晶に比べて低減する。また、ルツボ20内で結晶成長中の温度勾配が結晶成長位置によらず安定化するので、成長した結晶内部に発生する転位の密度のばらつきが低減する。
【0055】
したがって、結晶内に発生する転位以外の結晶の特性、例えば、結晶内に存在する転位に応じて決定される結晶の電気的特性の分布及び結晶の光学特性の分布についてもばらつきが低減する。また、結晶内に存在する転位密度のばらつきの低減により、成長した結晶の機械的特性のばらつきも低減する。更に、結晶の成長界面近傍の温度勾配を、結晶成長の進行中に略一定に保つことができるので、結晶成長の進行が安定化する。その結果、結晶成長炉1で化合物半導体を成長させた場合、双晶又は多結晶の発生を抑制できる。
【0056】
(第1の実施の形態の効果)
本発明の第1の実施の形態に係る結晶成長炉1によれば、結晶成長中のルツボ20内の径方向の温度勾配を緩やかにすることができるので、成長結晶32内の転位等の欠陥の発生密度を低減することができる。そして、成長結晶32内の欠陥の発生密度を低減することができるので、結晶成長炉1を用いて成長した半導体結晶においては、成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【0057】
また、第1の実施の形態に係る結晶成長炉1によれば、ルツボ20の上方から下方への熱流を実現できると共に、ルツボ20の径方向の温度勾配を緩やかにすることができるので、結晶成長中に成長結晶32が受ける熱履歴を、成長結晶32の部分によらず略一定にすることができる。これにより、成長結晶32をスライスして形成される複数の半導体基板間での欠陥密度、電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等のばらつきが低減する。
【0058】
また、第1の実施の形態に係る結晶成長炉1によれば、結晶成長中の成長界面の近傍の温度勾配を略一定に保持することができるので、融液34内における急激な温度変化を抑制でき、結晶成長の工程が安定化する。したがって、成長結晶32中に双晶及び多結晶が発生する確率を低減できる。
【0059】
また、第1の実施の形態に係る結晶成長炉1によれば、ルツボ20の上方から下方への熱流を実現できるので、成長する結晶の長手方向について結晶成長に伴う温度環境の変化を小さくでき、結晶成長で生じた成長結晶32の内部に加わる熱応力が低減する。これにより、長尺の結晶成長を実施する場合であっても、成長結晶32中に生じる転位等の欠陥の発生が抑制されるので、成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【0060】
また、第1の実施の形態に係る結晶成長炉1によれば、結晶成長中のルツボ20内の径方向の温度勾配を緩やかにすることができるので、ルツボ20の径が大口径であるほどより顕著に成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【0061】
[第2の実施の形態]
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る結晶成長炉の断面の概要を示す。
【0062】
第2の実施の形態に係る結晶成長炉3は、第1の実施の形態に係る結晶成長炉1とは、上部加熱ヒータ11に挟まれて配置される熱伝導部材15がある点を除き、略同一の構成を備えるので、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0063】
第2の実施の形態に係る結晶成長炉3は、ルツボ20の外周の上方に上部加熱ヒータ11を備える。一例として、上面視にて少なくともルツボ開口部22が覆われる配置となるように、結晶成長炉3は、上部加熱ヒータ11を備える。そして、結晶成長炉3は、上部加熱ヒータ11に挟まれた位置であってルツボ開口部22の上方に、上部加熱ヒータ11が発した熱を上部加熱ヒータ11から受け取って外部に放射する熱伝導部材15を備える。熱伝導部材15は、一例として、窒化アルミニウム(AlN)から形成することができる。
【0064】
(第2の実施の形態の効果)
第2の実施の形態に係る結晶成長炉3によれば、ルツボ20の上方へ上部加熱ヒータ11を直接に配置することが困難である場合であっても、熱伝導部材15が上部加熱ヒータ11からの熱をルツボ開口部22の側へ放熱するいわゆる2次ヒータとして機能するので、ルツボ20内の融液34を上方から間接的に加熱することができる。これにより、第1の実施の形態に係る結晶成長炉1と同様の効果が得られる。
【0065】
(変形例)
本発明の第1の実施の形態及び第2の実施の形態に係る結晶成長炉1及び結晶成長炉3は、ルツボ20内の化合物半導体の原料の融液34の揮発及び蒸発を防止することを目的として、ルツボ開口部22を塞ぐ蓋を更に有していてもよい。なお、ルツボ20内の融液34に上部加熱ヒータ10からの熱を効率よく伝熱させることを目的として、熱伝導率が高い材料からルツボ開口部22を塞ぐ蓋を形成することが好ましい。一例として、当該蓋はAlNから形成することができる。
【0066】
また、ルツボ開口部22の上方からルツボ20内の融液34を加熱する上部加熱ヒータ10を備え、上部加熱ヒータの温度が外周加熱ヒータよりも高い温度である限り、本発明に係る結晶成長炉はいずれの位置に他の加熱ヒータを備えていてもよい。一例として、ルツボ20の下方に加熱ヒータを備え、ルツボ20の上下方向の温度勾配を制御可能にした結晶成長炉を構成することもできる。
【0067】
また、ルツボ20内での化合物半導体の結晶の成長条件を安定化させ、単結晶の成長の再現性を向上させることを目的として、ルツボ20の細径部25側に冷却手段を組み合わせた結晶成長炉を構成することもできる。
【0068】
なお、加熱される物体である被加熱物中の温度勾配は、被加熱物の大きさが小さいほど緩やかになる。したがって、ルツボ20内で成長する化合物半導体の結晶の大きさが小さいと、結晶成長炉1又は結晶成長炉3が上部加熱ヒータ10を備えていない場合であっても被加熱物中の温度勾配は緩やかである。一例として、直径が2インチから3インチであり、直胴部分の長さが100mmから150mm程度のGaAsの結晶を成長させる場合には、成長する結晶中に発生する転位のばらつきが問題となるほどの温度勾配は、ルツボ20内の径方向においては生じない場合がある。
【0069】
一方、直径が4インチから6インチであり、直胴部分の長さが200mm以上のGaAs等の結晶を成長させる場合には、結晶成長炉1又は結晶成長炉3が上部加熱ヒータ10を備えていないと、成長する結晶中に発生する転位のばらつきが問題となる温度勾配がルツボ20内の径方向において生じ得る。
【0070】
したがって、第1及び第2の実施形態に係る結晶成長炉1及び結晶成長炉3は、一例として、直径が4インチ以上の大口径であって、直胴部分が200mm以上の長尺の結晶の成長が要求されているIII−V族化合物半導体結晶、特にGaAs又はInPの結晶成長に適用することが効果的である。
【実施例】
【0071】
図6は、本発明の実施例に係る結晶成長の工程の流れを示す。
【0072】
まず、直胴部27の直径160mm、直胴部27の長さ300mmのpBN製のルツボ20の細径部25に、GaAsの種結晶を収容した(S100)。続いて、予め合成した塊状のGaAsの多結晶をルツボ20内に24000g充填した(S105)。次に、ドーパントとしてのSiを7.2gと、液体封止材40としてのBを400g、ルツボ20内に添加した(S110)。
【0073】
次に、このルツボ20を、グラファイト製のサセプタ50に収容した(S115)。更に、このサセプタ50を、結晶成長炉1内で昇降が自在であって、回転が自在であるサセプタ支持部材55の上に搭載した(S120)。次に、結晶成長炉1を密閉して、結晶成長炉1内を不活性ガスとしての窒素ガスでガス置換した(S125)。これにより、結晶成長炉1内のガス雰囲気は、窒素ガス雰囲気となった。
【0074】
続いて、ルツボ20の回転を開始した(S130)。ここで、ルツボ20の回転速度は1rpmに設定した。なお、ルツボ20の回転は、サセプタ支持部材55を回転させて行い、結晶成長が終了するまでルツボ20の回転を継続した。そして、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12のそれぞれに通電して、ルツボ20の加熱を開始した(S135)。ルツボ20の加熱の開始後、所定時間ルツボ20を加熱し続けることにより、ルツボ20内のGaAs多結晶を完全に融解して融液34とした(S140)。
【0075】
なお、ルツボ20を加熱する工程で、チャンバー70内の雰囲気ガスの体積は膨張する。そこで、チャンバー70内の圧力が0.5MPaを超えないように、チャンバー70内の圧力を制御した。すなわち、本実施例においては、チャンバー70内の圧力が結晶成長中も常に0.5MPaに保持されるように、自動的かつ連続的にチャンバー70内のガス圧を制御した。
【0076】
ここで、ルツボ20内のGaAs多結晶を融解させる過程において、ルツボ20内に添加されたBは、GaAs多結晶が融解するより早く軟化した。そして、軟化したBは、透明な水飴状になって融液34の表面を覆った。これにより、GaAsの分解によるAsの揮発を抑制できた。
【0077】
続いて、上部加熱ヒータ10の設定温度を1295℃に設定した(S145)。また、複数の外周加熱ヒータ12の設定温度を、結晶成長炉1の上から下に行くにつれて低下する温度に設定した(S145)。具体的には、複数の外周加熱ヒータ12のうち上部加熱ヒータ10に最も近い位置に配置されている外周加熱ヒータ12aの設定温度を1260℃に設定した。そして、外周加熱ヒータ12aの下に配置されている外周加熱ヒータ12bの設定温度を1240℃に設定した。
【0078】
更に、外周加熱ヒータ12bの下に配置されている外周加熱ヒータ12cの設定温度を1100℃、外周加熱ヒータ12cの下に配置されている外周加熱ヒータ12dの設定温度を1050℃に設定した(S145)。そして、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度を設定した後、融液34の温度が安定するまで4時間保持した(S150)。
【0079】
なお、S150の工程において、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の位置に対するルツボ20の位置は、予め結晶成長炉1内に熱電対を挿入して計測した温度分布に基づいて決定した。具体的には、ルツボ20を保持している間に種結晶30が融解して消失することを防止すべく、GaAsの融点である1238℃の等温線が、種結晶30の上端部分にかかるようにルツボ20を配置した。
【0080】
結晶成長炉1内の温度が安定した後、サセプタ支持部材55を1rpmの回転速度で回転させながら4mm/hの速度で降下させて、ルツボ20を結晶成長炉1の下方に降下させた(S155)。そして、約2.5日かけてルツボ20を約240mm降下させたところでルツボ20の降下を停止して、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度が950℃になるように24時間かけて徐冷した(S160)。
【0081】
その後、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度が400℃になるまで、−20℃/hの速度で上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度を低下させた。続いて、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の通電を停止して、ルツボ20を室温まで冷却した(S165)。ルツボ20を室温まで冷却した後、ルツボ20内の成長結晶32が全長にわたってGaAsの単結晶であることが確認された。
【0082】
なお、上記S100からS165の工程で、連続して20回の結晶成長を実施した。その結果、いずれの結晶成長においても、全長がGaAsの単結晶である結晶を得ることができた。
【0083】
結晶成長炉1を用いて図6に示した工程で得られた20本のGaAs単結晶の内の1本を選択した。そして、選択した1本のGaAs単結晶の直胴部分に該当する部分をスライスして、(100)面を有する略円形状の複数のウェハを切り出した。次に、切り出したウェハ表面に溶融KOHによるエッチング処理を施した。続いて、転位に対応して発生するピットの密度測定、すなわち転位密度測定を実施した。
【0084】
図7は、本発明の実施例に係る結晶成長炉で成長したGaAs単結晶のウェハ面内の平均転位密度の結晶長手方向の分布を示す。
【0085】
本発明の実施例に係る結晶成長炉で成長したGaAs単結晶では、その全長にわたってリネージ等の欠陥の発生は認められなかった。そして、切り出したウェハ面内の平均転位密度はGaAs単結晶の直胴部の全体にわたって0.5×10cm−2以下であった。具体的には、GaAs単結晶の直胴部の長さは250mmであり、GaAs単結晶の少なくとも5mmから250mmまでの範囲内において、平均転位密度が0.3×10cm−2から0.5×10cm−2の範囲であった。平均転位密度の最小値と最大値との差は、0.2×10cm−2未満に収まった。
【0086】
また、他の19本のGaAs単結晶についても、GaAs単結晶の種結晶側、直胴部の中央部、及び直胴部の尾部からウェハを切り出して、溶融KOHによるエッチング処理を施した。そして、上記と同様の転位密度測定を実施した。その結果、19本全てのGaAs単結晶のいずれの部分においても、平均転位密度は0.5×10cm−2以下であった。すなわち、19本のGaAs単結晶のいずれについても平均転位密度が所定値以下である結晶が、再現性よく得られることが示された。
【0087】
(比較例の成長A)
まず、比較例に係る結晶成長炉2を用いて、上部加熱ヒータ10に関する設定を除いた上で、図6と同様の工程でGaAs単結晶の成長を実施した。すなわち、上部加熱ヒータ10を備えていない結晶成長炉2において、上部加熱ヒータ10への通電(S135)、設定温度の設定(S145)、徐冷(S160)等の条件を除き、他の条件を同一にして、GaAs単結晶の成長を実施した。なお、結晶成長炉2によるGaAs単結晶の成長は2回実施した。
【0088】
1回目の成長によって得られたGaAsの結晶は、ルツボ20の傾斜部26から直胴部27に移行する部分において多結晶が発生しており、GaAsの単結晶は得られなかった。また、2回目の成長では、得られたGaAsの結晶の直胴部分に多結晶が発生しており、GaAsの単結晶が全長にわたっては得られなかった。
【0089】
(比較例の成長B)
次に、比較例に係る結晶成長炉2を用いて、上部加熱ヒータ10に関する設定を除くと共に、図6のS155におけるルツボ20の降下速度を2.5mm/hrに設定して、結晶成長速度を遅くして結晶成長を実施した。なお、その他の条件は図6と同様である。但し、図6で説明した実施例においては、約2.5日かけてルツボ20を降下させていたところ、本比較例においては4日間を要した。この成長において得られたGaAsの結晶は、全長にわたって単結晶であった。
【0090】
次に、得られたGaAsの単結晶の直胴部分に該当する部分をスライスして、(100)面を有する略円形状の複数のウェハを切り出した。次に、切り出したウェハ表面に溶融KOHによるエッチング処理を施した。続いて、転位密度測定を実施した。
【0091】
図8は、比較例に係る結晶成長炉で成長したGaAs単結晶のウェハ面内の平均転位密度の結晶長手方向の分布を示す。
【0092】
比較例に係る結晶成長炉で成長したGaAs単結晶では、結晶内で平均転位密度が最も低い部位でも、ウェハ面内平均で0.6×10cm−2程度であり、多い部位では10×10cm−2を超える転位密度であった。平均転位密度の最小値と最大値との差は、少なくとも0.4×10cm−2以上あった。更に、ウェハ面内で転位密度が高い領域には、リネージ欠陥の発生が多く観察された。
【0093】
図8を参照すると、比較例の成長Bで得られた結晶においては、本発明の実施例に係る結晶よりも全体的に大きい平均転位密度を示した。更に、成長した結晶の長手方向にわたって、転位密度の分布の変化が大きかった。これは、結晶の加熱がルツボ側面24の外周加熱ヒータ12だけに依存しているので、ルツボ20と外周加熱ヒータ12との位置関係の変化に応じて、成長結晶32に加わる熱応力の変化が大きかったためと推測された。
【0094】
なお、比較例の成長Bにおいては、10回の成長を実施した。その結果、7本の結晶は結晶の全長にわたって単結晶となったが、2本の結晶については結晶の直胴部分の途中から多結晶が発生していた。また、残りの1本の結晶については、ルツボ20の傾斜部26から直胴部27に移行する部分において双晶の発生が見られた。これも、結晶に加わる熱応力の変化が大きかったためと推測された。
【0095】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】第1の実施の形態に係る結晶成長炉の断面の概要図である。
【図2】比較例に係る結晶成長炉の断面の概要図である。
【図3】比較例に係る結晶成長炉内における温度分布の模式図である。
【図4】第1の実施の形態に係る結晶成長炉内における温度分布の模式的図である。
【図5】第2の実施の形態に係る結晶成長炉の断面の概要図である。
【図6】実施例に係る結晶成長のフローチャートである。
【図7】実施例に係る結晶成長炉で成長したGaAs単結晶のウェハ面内の平均転位密度の結晶長手方向の分布図である。
【図8】比較例に係る結晶成長炉で成長したGaAs単結晶のウェハ面内の平均転位密度の結晶長手方向の分布図である。
【符号の説明】
【0097】
1、2、3 結晶成長炉
10、11 上部加熱ヒータ
12a、12b、12c、12d 外周加熱ヒータ
15 熱伝導部材
20 ルツボ
20a、20b ルツボ端
22 ルツボ開口部
24 ルツボ側面
25 細径部
26 傾斜部
27 直胴部
30 種結晶
30a 種結晶端
32 成長結晶
34 融液
40 液体封止材
50 サセプタ
51 サセプタ上部
52 サセプタ下部
55 サセプタ支持部材
60、62 断熱材
70 チャンバー
90a、90b、90c、90d、90e、90f、90g、90h 等温線
90i、90j、90k、90l 等温線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体の種結晶と前記半導体の原料とを収容したルツボを加熱して、前記原料を融液とする原料融解工程と、
前記ルツボの側面側及び前記ルツボの開口部側から加熱して、少なくとも結晶成長中は、前記開口部側から加熱する温度を前記側面側から加熱する温度よりも高く保持して前記半導体の単結晶を成長する結晶成長工程と
を備える半導体結晶成長方法。
【請求項2】
前記結晶成長工程は、前記側面側及び前記開口部側から加熱される領域内で前記ルツボを降下させることにより、前記融液を固化させて前記単結晶を成長する請求項1に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項3】
前記結晶成長工程は、前記側面側から加熱する温度及び前記開口部側から加熱する温度を徐々に降下させることにより、前記融液を固化させて前記単結晶を成長する請求項1に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項4】
前記結晶成長工程は、少なくとも結晶成長の進行中は、前記融液内の垂直方向(結晶成長方向)の温度分布が変曲点を有さずに、前記単結晶を成長する請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項5】
前記結晶成長工程は、少なくとも結晶成長の進行中は、凝固した前記単結晶内の垂直方向(結晶成長方向)の温度分布が変曲点を有さずに、前記単結晶を成長する請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項6】
前記結晶成長工程は、結晶成長界面の移動速度を略一定にして前記単結晶を成長する請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項7】
前記半導体が、III−V族化合物半導体である請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項8】
前記半導体が、GaAsである請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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