説明

半導体装置の製造方法

【課題】 レーザ照射による結晶へのダメージを小さくすることが可能な半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】 シリコン基板の表層部にイオンを注入してアモルファス化させる。アモルファス化された領域に不純物を注入する。不純物の注入された領域に、波長400〜650nmのパルスレーザビームを入射させて、注入された不純物を活性化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関し、特に半導体基板に注入した不純物をレーザ照射によって活性化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板に不純物を注入し、紫外領域のエキシマレーザ、例えば波長308nmのXeClエキシマレーザや波長248nmのKrFエキシマレーザを照射することにより、注入された不純物を活性化させる技術が知られている。以下、従来の活性化方法について説明する。
【0003】
まず、シリコン基板の表層部にゲルマニウム(Ge)をドープして、シリコン基板の表層部をアモルファス化させる。その後、所望の不純物イオンを注入する。表層部をアモルファス化しておくことにより、不純物イオンのチャネリング現象を防止することができる。
【0004】
半導体基板表面にエキシマレーザを照射し、融点の低いアモルファス部分を溶融させ、再結晶化させる。これにより、注入された不純物が活性化する。
【0005】
【特許文献1】特開平6−69149号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2001/0039063号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0086502号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の方法では、アモルファス部分を溶融させ、その後再結晶化させるときの熱履歴が、半導体結晶にダメージを与える。また、紫外波長域におけるシリコンの光吸収係数が大きいため、レーザビームのエネルギがシリコン基板の極薄い領域(厚さ10nm程度の領域)で吸収されてしまう。深い領域は、表層部からの熱伝導によって加熱されるため、厚さ方向に関して温度が均一になりにくい。
【0007】
さらに、エキシマレーザは、通常、パルスエネルギの揺らぎが7%程度あるため、ショットごとに活性化率が変動してしまう。
【0008】
本発明の目的は、レーザ照射による結晶へのダメージを小さくすることが可能な半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によると、
シリコン基板の表層部にイオンを注入してアモルファス化させる工程と、
アモルファス化された領域に不純物を注入する工程と、
前記不純物の注入された領域に、波長400〜650nmのパルスレーザビームを入射させて、注入された前記不純物を活性化させる工程と
を有する半導体装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
波長400〜650nmのパルスレーザビームを用いることにより、アモルファス領域を優先的に加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に、本発明の実施例で使用されるレーザアニーリング装置の概略図を示す。レーザアニーリング装置は、処理チャンバ40、搬送チャンバ82、搬出入チャンバ83、84、レーザ光源71、ホモジナイザ72、CCDカメラ88、及びビデオモニタ89を含んで構成される。処理チャンバ40には、ベローズ67、結合部材63、65、リニアガイド機構64及びリニアモータ66等を含む直動機構60が取り付けられている。直動機構60は、処理チャンバ60内に配置されたステージ44を並進移動させることができる。
【0012】
処理チャンバ40と搬送チャンバ82がゲートバルブ85を介して結合され、搬送チャンバ82と搬出入チャンバ83、及び搬送チャンバ82と搬出入チャンバ84が、それぞれゲートバルブ86及び87を介して結合されている。処理チャンバ40、搬出入チャンバ83及び84には、それぞれ真空ポンプ91、92及び93が取り付けられ、各チャンバの内部を真空排気することができる。
【0013】
搬送チャンバ82内には、搬送用ロボット94が収容されている。搬送用ロボット94は、処理チャンバ40、搬出入チャンバ83及び84の各チャンバ相互間で処理基板を移送する。
【0014】
処理チャンバ40の上面に、レーザビーム透過用の石英窓38が設けられている。なお、石英の代わりに、BK7等の可視光学ガラスを用いてもよい。レーザ光源71から出力されたパルスレーザビームがアッテネータ76を通ってホモジナイザ72に入射する。ホモジナイザ72は、レーザビームの断面形状を細長い形状にするとともに、その長軸方向に関する強度を均一にする。ホモジナイザ72を通過したレーザビームは、ビームの断面形状に対応した細長い石英窓38を透過し、処理チャンバ40内のステージ44上に保持された処理基板に入射する。基板の表面がホモジナイズ面に一致するように、ホモジナイザ72と処理基板との相対位置が調節されている。
【0015】
直動機構60によりステージ44が並進移動する方向は、石英窓38の長尺方向に直交する向きである。これにより、基板表面の広い領域にレーザビームを照射することができる。基板表面はCCDカメラ88により撮影され、処理中の基板表面をビデオモニタ89で観察することができる。
【0016】
図2を参照して、本発明の実施例によるレーザアニーリング方法について説明する。
【0017】
図2(A)に示すように、アニーリング対象であるシリコン基板1の表面上にレジスト膜2を形成し、露光及び現像を行うことにより、レジスト膜2に開口を形成する。
【0018】
図2(B)に示すように、レジスト膜2をマスクとし、開口2aを通してシリコン基板1の表層部にゲルマニウムイオンを注入する。これにより、開口2aに対応する領域の表層部がアモルファス化され、アモルファス領域3が形成される。なお、アモルファス化される領域は、例えばMOSFETのソース及びドレイン領域等である。ソース及びドレイン領域をアモルファス化させる場合には、MOSFETのゲート電極をマスクとして、ソース及びドレイン領域となる領域にゲルマニウムイオンを注入する。
【0019】
注入するイオンはゲルマニウムに限らず、他のVI族元素のイオンを用いることも可能である。
【0020】
図2(C)に示すように、レジスト膜2をマスクとして、シリコン基板1の表層部に不純物を注入する。不純物は、例えば周知のボロン(B)、リン(P)、砒素(As)等である。これにより、不純物注入領域4が形成される。その後、レジスト膜2を除去する。
【0021】
図2(D)に示すように、図1に示したレーザアニーリング装置のステージ44にシリコン基板1を保持し、基板表面にレーザビーム5を入射させる。レーザビーム5は、Nd:YLFレーザの2倍高調波であり、その波長は527nmである。
【0022】
図2(E)に示すように、基板表面上のビーム入射領域6は、一方向に長い直線状の形状を有する。例えば、ビーム入射領域6の幅は0.1mm、長さは17mm、レーザビーム5のパルス幅は110nsである。基板表面における1パルスあたりのエネルギ密度は、基板の表層部が溶融しない程度の大きさであり、一例として700〜800mJ/cmである。ビーム入射位置を、ビーム入射領域6の短軸方向に移動させながら、基板全面にレーザビーム5を照射する。このとき、レーザビーム5の入射領域が、前回のショットにおけるビーム入射領域と部分的に重なるように、ビーム入射位置を移動させる。
【0023】
レーザビーム5の1パルスあたりのエネルギ密度は、基板表面の温度がアモルファスシリコンの融点(1147℃)を超えないように調節されている。レーザビーム5の照射によって基板表面が加熱され、固相成長が生じ、アモルファス領域が再結晶化されるとともに、不純物注入領域4内の不純物が活性化する。
【0024】
図3に、シリコン基板1とビーム入射領域との位置関係、及び両者の相対位置を調節する装置のブロック図を示す。シリコン基板1の表面に、格子状のスクライブライン10X及び10Yが画定されている。スクライブライン10Xの各々は、図の横方向に延在し、スクライブライン10Yの各々は、図の縦方向に延在する。格子状のスクライブライン10X及び10Yによって複数のチップ11が画定される。
【0025】
位置センサ45が、ステージ44に保持されたシリコン基板1の面内の並進方向及び回転方向の位置を検出する。位置検出結果が制御装置46に入力される。制御装置46は、ビーム入射領域6aの長軸方向がスクライブライン10Yに平行になり、かつ、その両端が、相互に隣り合う2本のスクライブライン10X上に位置するように、XYステージ44を駆動する。なお、ビーム入射領域6aの長さは、図1に示したホモジナイザ72により、2本のスクライブライン10Xの間隔と等しくなるように予め調節されている。パルスレーザビームを照射しながら、ビーム入射領域6aの両端がスクライブライン10X上を移動するように、シリコン基板1を移動させる。
【0026】
なお、ビーム入射領域の長さを、スクライブライン10Xの間隔の整数倍にしてもよい。例えば、スクライブライン10Xの間隔の2倍の長さのビーム入射領域6bを、その両端が共にスクライブライン10X上を移動するようにしてもよい。
【0027】
上記実施例では、基板の表層部を溶融させないため、基板に加わる熱負荷が軽減され、熱履歴に起因する結晶性の劣化を防止することができる。
【0028】
また、上記実施例では、直線状のビーム入射領域を、部分的に重ねながらその短軸方向に移動させている。基板表面におけるビーム断面が正方形のレーザビームを用いて、ビーム入射位置を、正方形の1つの辺に平行な方向に移動させる場合には、移動方向に平行な辺に対応する部分で、アニーリング効果が不均一になりやすい。上記実施例では、ビーム入射領域6a及び6bの両端が、スクライブライン10X上を移動するため、アニーリング効果の不均一になる位置が、ちょうどスクライブライン10Xに一致する。このため、チップ11内においては、アニーリング効果を均一にすることが可能になる。
【0029】
次に、レーザビームの波長の好ましい範囲について説明する。
【0030】
図4に、アモルファスシリコンと単結晶シリコンとの光吸収係数の波長依存性を示す。横軸は波長を単位「nm」で表し、縦軸は吸収係数を単位「×10cm−1」で表す。図中の黒丸及び白丸は、それぞれ単結晶シリコンの吸収係数及びアモルファスシリコンの吸収係数を示す。
【0031】
波長が約340nm以上の領域で、アモルファスシリコンの吸収係数が単結晶シリコンの吸収係数よりも大きいことがわかる。単結晶シリコンの吸収係数よりもアモルファスシリコンの吸収係数の方が大きな波長域の光を使用することにより、図2(B)及び(C)に示したアモルファス領域3を優先的に加熱することができる。単結晶シリコン領域の加熱が抑制されるため、不純物が単結晶シリコン領域内に拡散しにくくなり、浅いPN接合を形成することが容易になる。
【0032】
また、波長400nm以上の領域におけるアモルファスシリコンの吸収係数は、紫外域における吸収係数に比べて小さい。このため、波長400nm以上の光は、アモルファスシリコン領域内の深い位置まで到達しやすい。紫外域のレーザビームを用いる場合には、基板の表面の極浅い領域のみが加熱され、熱伝導によって深い領域が間接的に加熱される。これに対し、波長400nm以上のレーザビームを用いると、深い領域もレーザビームのエネルギによって直接加熱される。このため、厚さ方向に関する温度分布を均一に近づけることが可能になる。これにより、厚さ方向に関して、不純物の活性化率を均一に近づけることができる。
【0033】
波長が長くなり過ぎると、アモルファスシリコンの吸収係数が小さくなるため、効率的に加熱することが困難になる。従って、シリコン基板のアニーリング用のレーザビームの波長を400〜650nmとすることが好ましい。なお、この波長域のレーザビームは、シリコン基板の比較的深い領域まで到達するため、電力用半導体装置の深いPN接合を形成するためのレーザアニールにも適している。
【0034】
波長400〜650nmのパルスレーザの例として、上記Nd:YLFレーザの2倍高調波の他に、Nd:YAGレーザの2倍高調波、Nd:YVOレーザの2倍高調波等が挙げられる。これらのレーザ媒質をレーザダイオードで励起する全固体レーザは、パルスエネルギの揺らぎがエキシマレーザに比べて小さいという特徴を有する。このため、レーザ光源として全固体レーザを使用することにより、アニーリング効果の面内均一性を高めることができる。
【0035】
以上説明したように、半導体基板の表層部を、その融点を超えない温度まで加熱して、不純物を活性化させることにより、半導体基板の受ける熱履歴の影響を軽減することができる。半導体基板の表面におけるビーム断面が一方向に長い形状になるようにレーザビームを整形し、ビーム断面の短軸方向にビーム入射位置を移動させることにより、基板を均一にアニールすることが可能になる。また、シリコン基板の表層部をアモルファス化させておき、波長400〜650nmのレーザビームを用いることにより、アモルファス化した部分を優先的に加熱することができる。これにより、単結晶領域への不純物の拡散を抑制することができる。
【0036】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例によるレーザアニーリング方法で使用するアニーリング装置の概略平面図である。
【図2】本発明の実施例によるレーザアニーリング方法を説明するためのアニール対象基板の平面図である。
【図3】本発明の実施例による方法でアニールされる半導体基板とレーザビームの入射位置との相対位置関係を示す平面図、及び半導体基板とビーム入射領域との位置制御装置のブロック図である。
【図4】単結晶シリコンとアモルファスシリコンとの吸収係数の波長依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1 シリコン基板
2 レジスト膜
2a 開口
3 アモルファス領域
4 不純物注入領域
5 レーザビーム
6、6a、6b レーザビーム入射領域
10X、10Y スクライブライン
11 チップ
38 石英窓
40 処理チャンバ
44 ステージ
45 位置センサ
46 制御装置
60 直動機構
63、65 結合部材
64 リニアガイド機構
66 リニアモータ
67 ベローズ
71 レーザ光源
72 ホモジナイザ
76 アッテネータ
82 搬送チャンバ
83、84 搬出入チャンバ
85、86、87 ゲートバルブ
88 CCDカメラ
89 ビデオモニタ
91、92、93 真空ポンプ
94 搬送用ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の表層部にイオンを注入してアモルファス化させる工程と、
アモルファス化された領域に不純物を注入する工程と、
前記不純物の注入された領域に、波長400〜650nmのパルスレーザビームを入射させて、注入された前記不純物を活性化させる工程と
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記半導体基板の表面におけるビーム断面が、一方向に長い形状を有し、
さらに、パルスレーザビームの入射位置がビーム断面の短軸方向に移動し、かつ、既にパルスレーザビームの照射された領域とパルスレーザビームの入射領域とが部分的に重なるように、パルスレーザビームの入射位置を移動させながら、複数ショットの照射を行う工程を有する請求項1に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−306210(P2008−306210A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209874(P2008−209874)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【分割の表示】特願2002−314737(P2002−314737)の分割
【原出願日】平成14年10月29日(2002.10.29)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)