説明

半導体装置

【課題】回路配線パターンのレイアウトの自由度の高さを有し、かつ、高い組立性を有し、かつ、厳しい温度環境下においても部材接続信頼性を維持するようなパワー半導体装置を提供すること。
【解決手段】交流端子の基板接続端と直流端子の基板接続端とは、ケースの外周部において対向するように配置され、交流端子と直流端子それぞれは、基板接続端と外部機器接続端との間に基板の主面と略平行な平面部(130b、131b、132b)を有し、交流端子と直流端子それぞれは、平面部よりも幅の狭い連結部(130c、131c)を有し、交流端子と直流端子は、交流端子の基板接続端側において連結部によって連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に関するものであり、特にIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子を有するパワー半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体装置は、大出力のモータや発電機等の電気機器の制御や電力変換のために用いられる半導体装置である。近年は、電気機器の高効率化や大容量化のため、パワー半導体装置の大電力化がさらに進展し、要求される使用温度環境等も一層厳しくなっている。長期間使用されるパワー半導体装置においては信頼性低下を引き起こさないことが重要なので、過酷な温度条件に耐えうる構造が求められている。
【0003】
例えば、当該パワー半導体装置の動作中は半導体チップ等にジュール熱が発生し高温になるが、停止中は周囲環境温度まで冷却される。よって、パワー半導体装置においては、動作時と停止時とで大きな温度差が発生することがある。その結果、電子部材間の接続部には熱応力が作用する。この繰り返し熱応力が大きい場合には、接続部の亀裂や破断等を引き起こす可能性があり、パワー半導体装置の機能低下を引き起こしかねない。したがって、熱膨張差に起因する接合部の応力低減は重要な課題である。
【0004】
接合部の応力を低減する技術として、特許文献1に、端子の積層平面部が金属ベースの平面に対して略平行になるように構成されることにより、温度サイクルによって端子の接続端と回路配線パターンとの接続面の垂直方向に加わる応力を緩和する技術が開示されている。また、他にパワー半導体装置の信頼性を高める技術が、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−010505号公報
【特許文献2】特開2008−294362号公報
【特許文献3】特開2000−353777号公報
【特許文献4】特開平08−111503号公報
【特許文献5】特開2007−165600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電化製品や産業用電子機器、自動車、電鉄用機器等、様々な製品の省エネルギーに不可欠であるパワー半導体装置に対して、近年は、高効率化の要求のみならず、搭載スペース削減等の目的から小型化の要求も益々高まっている。
【0007】
特許文献1に記載されているパワーモジュールでは、直流正極端子および直流負極端子として、3相で共有する幅広な端子が使用されている。しかし、装置の小型化が進行すると端子と回路配線パターンとを接続できる位置が限定される。
【0008】
装置のレイアウト自由度を向上させるためには、1相毎に独立した端子を用いることが有効である、さらに、端子の、外部装置との接続端と回路との接続端との間の距離を延ばすことが有効である。ただしこの場合、端子の幾何学的なバランスが悪くなり、端子を装置に組付ける際に端子が傾いて組立性が低下する可能性がある。
【0009】
また、組立性向上のために端子の拘束箇所を多くしすぎると、端子と回路との接続面の応力が増加し、接続面の剥離等の原因となる。
【0010】
以上のことから、本発明が解決しようとする課題は、回路配線パターンのレイアウトの自由度の高さを有し、かつ、高い組立性を有し、かつ、厳しい温度環境下においても部材接続信頼性を維持するようなパワー半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、交流端子と直流端子ならびに、それらが接続される基板と、前記基板に接続されるベースと、前記ベースに接続され前記基板を格納するケースを有し、前記交流端子と前記直流端子それぞれは、前記基板との接続部位である基板接続端および、他の外部装置と接続するための外部接続端を有しており、前記交流端子の前記基板接続端と前記直流端子の前記基板接続端とは、前記ケースの外周部において対向するように配置されているパワー半導体装置において、前記交流端子と前記直流端子それぞれは、前記基板接続端と前記外部接続端との間に前記基板の主面と略平行な平面部を有し、前記交流端子と前記直流端子それぞれは、前記平面部よりも幅の狭い連結部を有し、前記交流端子と前記直流端子は、前記交流端子の前記基板接続端側において、前記連結部によって連結する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、交流端子と直流端子とが連結されることにより回路配線パターンのレイアウトの自由度の高さを有し、かつ、高い組立性を有する。さらに、熱的変形の少ない交流端子の基板接続端側において交流端子と直流端子が連結されることにより、厳しい温度環境下においても部材接続信頼性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例に係るパワー半導体装置の構成の例を示す図であり、(a)は上方斜視図、(b)は上面図、(c)は当該パワー半導体装置が備える主端子の上面図である。
【図2】本発明の実施例であるパワー半導体装置の主端子の分解斜視図である。
【図3】本発明の実施例であるパワー半導体装置のパワー半導体回路の断面模式図である。
【図4】本実施例とは異なり、連結部を無くした場合のパワー半導体装置の構造の例を示し、(a)はパワー半導体装置の上面図、(b)は主端子の上面図である。
【図5】本実施例とは異なる形態を有するパワー半導体装置の構造の例を示し、(a)はパワー半導体装置の上面図、(b)は主端子の上面図である。
【図6】組立性および主端子の回路接続部の信頼性の比較。
【図7】主端子と回路との接続界面に作用する応力最大値の比較。
【図8】パワー半導体装置全体の変形形状を示し、(a)は図4に示した構造についての変形形状であり、(b)は本実施例の構造についての変形形状である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1(a)は本実施例に係るパワー半導体装置の上方斜視図である。図1(b)は当該パワー半導体装置の上面図である。図1(c)は当該パワー半導体装置が備える主端子の上面図である。
【0016】
当該パワー半導体装置は、例えばCu、Al、もしくは、CuまたはAlのいずれかあるいは両方を含む、例えばAlSiC等の合金のような金属材料からなる金属ベース10の上に、セラミック製の絶縁基板上に回路配線パターンが接合され、かつこの回路配線基板上に半導体素子が接合されるパワー半導体回路部1を備え、パワー半導体回路部1を囲み保護する例えばPBT(Polybutylene Terephtalate)、PPS(Polyphenylene Sulfide)等の樹脂製のケース11を金属ベース10の上に備えている。パワー半導体回路部1は、絶縁基板7の下面の導体層8と金属ベース10とが、はんだ9によって半田付けされることにより、金属ベース10に接続される。また、外部と電気的に接続するための端子として主端子13および、図中には示していないが制御用の電極を備えている。
【0017】
樹脂製ケース11は、金属ベース10の上面にシリコンゴム系の接着剤とネジにより固定されている。樹脂製ケース11は絶縁基板7を囲み、絶縁基板7を含むパワー半導体回路部1は樹脂製ケース11に格納される。
【0018】
また、図示していないが、樹脂製ケース11の内部はシリコンゲルが満たしており、さらに樹脂製ケース11の上面には樹脂製のフタを備えている。これらのシリコンゲルによる封止およびフタによって、パワー半導体回路部1が保護されている。
【0019】
主端子13は3種類に分類される。その3種類とは、モータや発電機等と接続するための交流端子130と、バッテリ等と接続するための直流正極端子131および直流負極端子132である。それぞれの主端子は、絶縁基板7上の回路配線パターン6(図3参照)との接続部である回路接続端130a、131a、132aおよび、モータ、発電機、バッテリ等と接続するための外部機器接続端130d、131d、132dを有する。交流端子130と直流正極端子131は、連結部130c、131cにおいて、絶縁紙16を挟んで積層構造をなすように互いに連結されている。ここで、交流端子130、直流正極端子131および直流負極端子132は、Cu、Al、もしくは、CuまたはAlのいずれかあるいは両方を含む合金のような金属材料からなる。
【0020】
また、それぞれの主端子は、平板状の平面部130b、131b、132bを備えており、直流正極端子131と直流負極端子132は、平面部131b、132bにおいて絶縁紙16を挟んで積層構造をなすように互いに連結されている。連結部130c、131cと絶縁紙16との間の接続および、平面部131b、132bと絶縁紙16との間の接続には、接着剤を用いる。このとき、交流端子130の連結部130cは、その幅が平面部130bの幅よりも狭く、回路接続端130aに近い側に寄って位置している。また直流正極端子131の連結部131cは、その幅が平面部131bの幅よりも狭く、交流端子130の回路接続端130aに近い側に寄って位置している。なお、平面部130b、131b、132bの幅は、それぞれ、回路接続端130a、131a、132aの幅の合計値よりも大きな値に設定される。
【0021】
金属ベース10及び樹脂製ケース11は、平面的に見た場合の外周形状が略長方形あるいは略正方形である。交流端子130の外部機器接続端130dは、樹脂製ケース11の外周部の一辺上に位置する。外部配線は、外部機器接続端130dの穴にネジを通して樹脂製ケース11にネジ止めされることにより、外部機器接続端130dに電気的に接続される。また、直流正極端子131の外部機器接続端131dと、直流負極端子132の外部機器接続端132dは、樹脂製ケース11の外周部において交流端子130の外部機器接続端130dが位置する一辺の対辺上に並んで位置し、交流端子130の外部機器接続端130dと同様に外部配線がネジ止めにより電気的に接続される。このように、交流端子130の外部機器接続端130dと、直流正極端子131の外部機器接続端131d及び直流負極端子132の外部機器接続端132dとは、樹脂製ケース11の外周部において対向配置される。樹脂製ケース11内のパワー半導体回路部1上において、直流正極端子131の平面部131b及び直流負極端子132の平面部132bは、それぞれ外部機器接続端131d及び外部機器接続端132dから、交流端子130の外部機器接続端130dに向かって伸びている。なお、交流端子130の平面部130b、直流正極端子131の平面部131b及び直流負極端子132の平面部132bは、金属ベース1の表面、並びにパワー半導体回路部1における絶縁基板7の表面すなわち絶縁基板7の主面である平面部に対して略平行に配置される。
【0022】
本実施例のパワー半導体装置が構成する回路の一例としては、いわゆるハーフブリッジ回路が有る。本回路では、IGBTなどの半導体スイッチング素子が2個直列に接続され、直列接続端が交流端子に接続され、直列接続体の両端が直流端子に接続される。なお、このハーフブリッジ回路を扱う交流の相数に等しい個数だけ並列接続すれば、直流電力を交流電力に変換するインバータ装置や交流電力を直流電力に変換するコンバータ装置などの電力変換装置を構成することができる。
【0023】
図2は当該パワー半導体装置の主端子の分解斜視図である。図2を用いて、主端子の構成の詳細について説明する。
【0024】
まず、主端子同士の接続について説明する。直流正極端子131と直流負極端子132とは、絶縁紙16を挟んで積層構造をなすように接着剤を用いて互いに接続されている。また、交流端子130と直流正極端子131は、連結部130cと131cとが絶縁紙16を挟んで積層構造をなすように接着剤を用いて互いに接続されている。絶縁紙16は複数枚重ねて用いられても良い。複数枚を重ねると絶縁の信頼性を高めることができる。また、絶縁紙16の代替物として、端子に絶縁物をコーティングしても構わない。絶縁物をコーティングする場合は、薄い領域の無いよう均一にコーティングすることが好ましいが、紙の切り抜きや貼り付けが不要となる。また、本実施例では直流正極端子131と直流負極端子132との間に挟む絶縁紙16と、連結部130cと131cとの間に挟む絶縁紙16とを同一の部材としたが、これが別々の部材であっても構わない。別々の部材とすることで、各連結部の電圧や温度に応じた絶縁部材の選定が可能となる。また、本実施例では交流端子130と直流正極端子131とが連結されているものとしたが、直流負極端子132が連結部を有していて絶縁紙16を挟んで交流端子130の連結部130cと接続されているとしても構わない。
【0025】
以上の接続により、交流端子130、直流正極端子131、直流負極端子132は、電気的には互いに絶縁されている一方で、機械的には3主端子一体の構造をなしている。当該パワー半導体装置の組立ての順序は概ね、まず金属ベース10の上面にパワー半導体回路部1を接続し、次に金属ベース10の上面に樹脂製ケース11を固定し、その後パワー半導体回路部1および樹脂製ケース11の上面に主端子を接続する、というものである。3つの主端子同士の連結は、このパワー半導体回路部1および樹脂製ケース11の上面に主端子を接続する前に実施される。予め主端子を一体化しておくことで、主端子を組付ける際に主端子を保持する箇所が増えて安定性が向上し、主端子が傾くことなく自立するので、組立性が向上する。なお、平面部130b、131b、132bが互いに積層され、かつ金属ベース10及びパワー半導体回路部1の表面に対して略平行に配置されるため、樹脂製ケース11の高さが低減され、パワー半導体装置が薄型化できる。
【0026】
次に、主端子13と他の装置構成部材との接続について説明する。交流端子130、直流正極端子131、直流負極端子132はそれぞれ、外部機器接続端130d、131d、132dにおいて樹脂製ケース11の上面と固定される。
【0027】
また、交流端子130、直流正極端子131、直流負極端子132は、回路配線パターン6と接続するための回路接続端130a、131a、132aを有している。各回路接続端130a、131a、132aは、それぞれ平面部130b、131b、132bから回路配線パターン6の方向に向かって突出しており、かつ回路配線パターン6との接合面を形成するために、その先端部が屈曲している。回路接続端130a、131a、132aと回路配線パターン6とは、超音波溶接により直接金属同士を接続(メタルボンディング)されるか、はんだなどを介して接続されており、機械的にも電気的にも接続されている。本実施例ではメタルボンディング接続を用いている。メタルボンディング接続の場合は加熱工程が不要であり、また金属同士の直接接続を行うため、接続信頼性が高く電気抵抗も小さい。はんだ接続の場合は装置全体を高温に加熱する必要があるが、回路接続端130a、131a、132aの上部にメタルボンディング用の工具の挿入スペースを確保する必要が無く、超音波振動による金属屑も出ない。
【0028】
各回路接続端130a、131a、132aの本数は1本のみでも良いし、各主端子についてそれぞれ複数本ずつ存在しても良い。1本のみの場合は回路上の接続スペースを削減できる。本実施例に係るパワー半導体装置は、回路接続端130a、131a、132aそれぞれ2本ないし3本、すなわち複数本ずつを有しており、それぞれの回路接続端が横並びになるよう配置されている。複数の回路接続端を有することにより主端子の接続安定性が高まる。また、回路接続端が横並びに配置されていることにより、主端子と回路との接続箇所を省スペース化できる効果があり、またメタルボンディング工程を同時または連続的に実施しやすく生産性が向上するという効果がある。さらに、本実施例に係るパワー半導体装置では、図3ないし図2に示すように交流端子の回路接続端130aと、直流端子の回路接続端131aおよび132aとが、平面部131b、132bを挟んで互いに逆側になるよう配置されている。交流側と直流側とで回路接続端が逆側に配置されることにより、交流側の回路接続端130aと直流側の回路接続端131a、132aとの間に半導体素子を挟む電流経路を、スペースの無駄無くレイアウトできる。
【0029】
また、交流端子130、直流正極端子131、直流負極端子132はそれぞれ、外部機器接続端130d、131d、132dと回路接続端130a、131a、132aとの間に平面部130b、131b、132bを有している。これにより、回路接続端130a、131a、132aの位置を、外部機器接続端130d、131d、132dと離れた任意の位置に設計することが可能となる。よって、回路配線パターン6のレイアウトの自由度が向上し、ひいては装置全体の設計自由度が向上するので、設置スペースに合わせた装置設計が容易になる。また、平面部130b、131b、132bは、主端子の発熱を抑制する役割も果たしている。通電時の主端子の電流密度を下げてジュール熱を低減するために、平面部130b、131b、132bの幅は大きくとる。
【0030】
図3はパワー半導体回路部1の断面模式図である。図3を用いて、本実施例に係るパワー半導体装置のパワー半導体回路部1の縦構造について説明する。
【0031】
絶縁基板7の上面に例えばCu、Al等からなる金属製の回路配線パターン6が形成されており、下面には金属製の下面導体層8が形成されている。本実施例では絶縁基板7として熱伝導性の良いセラミック製基板を用いた。金属製の下面導体層8は、金属ベース10の上面とはんだ9で接続されている。回路配線パターン6の上面には半導体素子2を備える。半導体素子2には、例えばスイッチング用半導体素子IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)3とダイオード4とがあり、ダイオード4はIGBT3のコレクタ電極とエミッタ電極との間に、金属ワイヤ14により電気的に接続されている。これらの半導体素子2は、はんだ5により回路配線パターン6と接続されている。半導体素子2と金属製回路配線パターン6とは、金属ワイヤ14により電気的に接続されている。
【0032】
ここで、本実施例に係るパワー半導体装置(図1)と、図4、図5に示すパワー半導体装置を比較して、本実施例の効果を説明する。
【0033】
パワー半導体装置は、運転時の温度サイクルによって膨張および収縮を繰り返す。特に体積の大きい金属ベース10および樹脂製ケース11は大きく変形する。このとき、金属ベース10の熱膨張率は例えばCu製の場合約17ppm/Kであるのに対して、樹脂製ケース11の熱膨張係数は約25ppm/Kと大きい。主端子13は外部機器接続端130d、131d、132dにおいて樹脂製ケース11と固定されているため、温度上昇の際には樹脂製ケース11の大きな膨張に引張られる。しかし一方で主端子13は回路接続端130a、131a、132aにおいて回路配線パターン6と接続されており、変形が拘束される。したがって、温度サイクルが生じると、回路接続端130a、131a、132aと回路配線パターン6との接続界面に繰返し応力が作用する。特に平面部131b、132bにおいて積層されている直流正極端子131、直流負極端子132は、積層部分での曲げ剛性が高くなっており、平面部131b、132bにおいて金属ベース10と樹脂製ケース11との熱膨張差を吸収しにくいため、回路接続端131a、132aの接続界面での応力が課題となる。
【0034】
図4は、本実施例に係るパワー半導体装置の構造とは異なり、交流端子170と直流正極端子171との連結部を無くし、連結しない場合の構造の例を示している。図4(a)はパワー半導体装置の上面図である。図4(b)は主端子の上面図である。
【0035】
交流端子170と直流正極端子171とが連結されていない場合は、主端子を装置に組付ける際に主端子を保持する箇所が減少することで幾何学的に不安定になり、装置の組立性は低下する。しかし一方で、温度サイクルにより装置が熱変形する際に、主端子同士が互いの反りの影響を受けないため、その分、主端子の回路接続面に作用する応力の増加は抑えられる。
【0036】
図5は、本実施例に係るパワー半導体装置の構造とは異なり、交流端子180と直流正極端子181の連結部180c、181cの幅を拡張し、交流端子180の回路接続端180aに近い側のみならず、直流正極端子181の回路接続端181aに近い側も含めて広範囲で連結する場合の構造を示している。図5(a)はパワー半導体装置の上面図である。図5(b)は主端子の上面図である。
【0037】
連結部180c、181cの幅が拡張されている場合は、本実施例の構造と同様に主端子を組付ける際に主端子を保持する箇所が増えて安定性が向上し、主端子が傾くことなく自立するので、装置の組立性は変わらない。しかし、主端子同士の連結箇所が増えたことで、主端子同士が互いの反りの影響を受けやすくなり、主端子の回路接続面に作用する応力は、交流端子170と直流正極端子171とを連結しない場合と比較して大きくなる。
【0038】
図6は、図4に示した交流端子と直流端子との連結を行わない構造Aと、図5に示した連結部の幅を平面部と同等にした構造Bおよび、本実施例に係るパワー半導体装置の構造Cのそれぞれについて、組立性および主端子の回路接続部の信頼性を比較してまとめたものである。相対的に性能がより良いものを○として表記している。なお、主端子の回路接続部の信頼性評価の手法としては、有限要素法による応力解析を用いた。それぞれの構造を満たすパワー半導体装置の三次元モデルについて装置全体の温度を−40℃から125℃に上昇させる解析を実施し、主端子と回路との接続界面に作用する相当応力の最大値を取得した。
【0039】
交流端子と直流端子との連結を行わない構造Aの応力の最大値は209MPaと算出された。これに対して、連結部の幅を平面部と同等にした構造Bの主端子の回路接続面の応力最大値は227MPaとなり、約9%高い値となった。一方、本実施例の構造Cの主端子の回路接続面の応力最大値は211MPaとなり、構造Aと比較して1%以下の増加に止まった。
【0040】
本実施例に係るパワー半導体装置は、主端子同士を連結することにより高い組立性を有する一方で、主端子回路接続部については、交流端子と直流端子とを連結しない場合と同等の高い信頼性を有する。
【0041】
図7は、交流端子と直流端子との連結部の形状を変更した場合の、主端子と回路との接続界面に作用する応力最大値を比較して、まとめたものである。構造Cは本実施例に係るパワー半導体装置の構造である。構造D、E、Fは、主端子形状以外は本実施例に係る構造と同じだが、交流端子および直流正極端子の連結部の形状が本実施例とは異なる構造である。
【0042】
構造Dは、交流端子200の連結部200cおよび直流正極端子201の連結部201cが、回路接続端200aおよび201aのいずれに近い側の端にも寄っておらず、主端子平面部の中央に位置している場合の構造である。
【0043】
構造Eは、交流端子210の連結部210cが回路接続端210aに近い側から直流正極端子211の回路接続端211aの方へ向って伸びており、一方直流正極端子211の連結部211cが回路接続端211aに近い側から交流端子210の回路接続端210aの方へ向って伸びている構造である。
【0044】
構造Fは、交流端子220の連結部220cが直流正極端子221の回路接続端221aに近い側に位置しており、直流正極端子221の連結部221cが直流正極端子221の回路接続端221aに近い側に位置している構造である。
【0045】
それぞれの構造のパワー半導体装置の三次元モデルで装置全体の温度を−40℃から125℃に上昇させる解析を実施し、主端子と回路との接続界面に作用する相当応力の最大値を取得した。その結果、いずれの構造においても直流負極端子の主端子と回路との接続界面で応力が最大となり、構造Dは構造Cよりも11%高い値となり、構造Eは構造Cよりも7%高い値となり、構造Fは構造Cよりも7%高い値となった。すなわち、構造C、D、E、Fの中で、本実施例に係る構造である構造Cの主端子と回路との接続界面での応力が最も低い値となる。
【0046】
構造Cの主端子と回路との接続界面での応力が低い理由について、以下の図8を用いて説明する。
【0047】
図8(a)は、図4に示した交流端子と直流正極端子とが連結部を持たない構造について、全体の温度を−40℃から125℃まで上昇させた場合の変形を有限要素解析により計算し、その125℃における変形形状を、変形量を50倍に拡大して表示したものである。交流端子170、直流正極端子171および直流負極端子172が、外部機器接続端170d、171d、172dにおいて樹脂製ケース11と接続されているため、熱膨張率の大きい樹脂製ケース11の膨張に引張られて反り返っている。樹脂製ケース11や回路配線パターン6に直接接続されていない交流端子の端部23aおよび直流端子側の端部24aは、上方向(金属ベース10等から遠ざかる方向)へ大きく変位している。主端子と回路配線パターン6との接続面のうち、温度サイクル時の応力振幅が最大となる箇所は、直流負極端子172側の主端子と回路との接続面である。直流端子側の主端子と回路との接続面での応力が最大となる理由は、直流端子側では平面部(171b等)が積層された構造であるため平面部での剛性が高くなっており、平面部においてケース/ベース間の熱膨張差を吸収しにくいからである。
【0048】
図8(b)は本実施例に係るパワー半導体装置の温度を−40℃から125℃まで上昇させた場合の変形を有限要素解析により計算し、その125℃における変形形状を、変形量を50倍に拡大して表示したものである。
【0049】
本実施例に係るパワー半導体装置は、図8(a)の構造と同じように直流端子の平面部(131b等)が積層構造を成しているため、直流正極端子131及び直流負極端子132の側の主端子と回路との接続面において温度サイクル時の応力振幅が最大となる。熱膨張時は、主端子が外部機器接続端131d、132dにおける樹脂製ケース11との接続を通して樹脂製ケース11の熱膨張に引張られることで、主端子と回路との接続面での応力は増加する。しかし、本実施例に係るパワー半導体装置は連結部(131c等)を有しており、直流端子側も、交流端子130の回路接続端130aでの拘束の影響を受けるため、直流端子側の端部24での変位を抑制することができる。一方、交流端子130の端部23は直流端子の積層体に覆われず露出しており、直流正極端子131及び直流負極端子132は交流端子130において変位の大きい端部23とは連結されていないため、端部23の変位に引張られる影響による応力の増加は少ない。
【0050】
このように、本実施例に係るパワー半導体装置は、交流端子の回路接続端130aに近い側に主端子連結部を備えることにより、直流正極端子131及び直流負極端子132の反りが交流端子の回路接続端130aの拘束によって抑制され、かつ、交流端子130の端部23の反りの影響は受けない。よって、本実施例に係るパワー半導体装置では、平面部(131b等)の剛性の高い直流端子側においても、主端子と回路との接続界面での応力が低い。
【0051】
以上により、本実施例に係るパワー半導体装置では、パワー半導体装置において回路配線パターン6の高いレイアウト自由度と装置の高い組立性を維持しながら、温度サイクル時に主端子の回路接続端130a、131a、132aの接続界面に作用する応力振幅の増大を抑制することが可能となる。
【0052】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 パワー半導体回路部
2 半導体素子
3 IGBT
4 ダイオード
5、9 はんだ
6 回路配線パターン
7 絶縁基板
8 下面導体層
10 金属ベース
11 樹脂製ケース
13 主端子
14 金属ワイヤ
16 絶縁紙
23、23a 交流端子の端部
24、24a 直流端子側の端部
130、170、180、200、210、220 交流端子
130a、131a、132a 回路接続端
130b、131b、132b、182b 平面部
130c、131c、180c、181c、200c、201c、210c、211c、220c、221c 連結部
130d、131d、132d 外部機器接続端
131、171、181、201、211、221 直流正極端子
132、172、182 直流負極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流端子と直流端子ならびに、それらが接続される基板と、前記基板に接続されるベースと、前記ベースに接続され前記基板を格納するケースを有し、
前記交流端子と前記直流端子それぞれは、前記基板との接続部位である基板接続端および、他の外部装置と接続するための外部接続端を有しており、
前記交流端子の前記外部接続端と前記直流端子の前記外部接続端とは、前記ケースの外周部において対向するように配置されているパワー半導体装置において、
前記交流端子と前記直流端子それぞれは、前記基板接続端と前記外部接続端との間に前記基板の主面と略平行な平面部を有し、
前記交流端子と前記直流端子それぞれは、前記平面部よりも幅の狭い連結部を有し、
前記交流端子と前記直流端子は、前記交流端子の前記基板接続端側において、前記連結部によって連結されていることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパワー半導体装置において、
前記直流端子は、直流正極端子および直流負極端子が絶縁物を挟み積層されて構成されていることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項3】
請求項2に記載のパワー半導体装置において、
前記直流正極端子と前記直流負極端子と前記絶縁物とが互いに接着剤により固定されていることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のパワー半導体装置において、
前記交流端子と前記直流正極端子ならびに前記直流負極端子のそれぞれの前記平面部の幅は、各端子が有する前記基板接続端の幅の合計よりも大きいことを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項5】
請求項1〜4に記載のパワー半導体装置において、
前記交流端子ならびに前記直流端子の前記基板接続端は、前記平面部との接続箇所から前記基板の方向へ向かって屈曲していることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のパワー半導体装置において、前記交流端子ならびに前記直流端子は、Cu、Al、もしくは、CuまたはAlを含む合金からなることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のパワー半導体装置において、前記ベースはCu、Al、もしくは、CuまたはAlを含む合金からなることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のパワー半導体装置において、前記ケースの線膨張係数は前記ベースの線膨張係数よりも大きいことを特徴とするパワー半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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