説明

半導体電力変換装置

【課題】検出遅れや制御演算の遅れがあっても制御誤差が生じることのない半導体電力変換装置を提供する。
【解決手段】交流系統に接続された負荷2の負荷電流を検出し、この負荷電流をdq変換制御手段10に与え、この出力を交流系統に接続された電力変換器1の出力電流指令値とする。dq変換制御手段10は、交流系統の電圧位相を検出する位相検出手段11と、位相検出手段11の出力する基準位相に従って負荷電流を回転座標変換してd軸電流及びq軸電流に変換するdq変換手段12と、d軸電流及びq軸電流の夫々から必要な周波数成分を抽出するd軸フィルタ13及びq軸フィルタ14と、位相検出手段11の出力する基準位相を補正して補正基準位相を出力する位相補正手段16、17と、d軸フィルタ13及びq軸フィルタ14の出力を補正基準位相に従って逆回転座標変換して3相の出力電流指令を得る逆dq変換手段15を具備する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転座標変換および逆回転座標変換を用いて電力を制御する半導体電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流系統に含まれる無効電力、高調波電力あるいは逆相電力を所望の値に制御するために、従来から半導体電力変換装置が使用されている。
【0003】
このような半導体電力変換装置において、所謂dq変換のような回転座標変換を用いる制御方式が度々使用されている。このdq変換を用いる制御方式は、例えば、半導体電力変換装置への3相出力電流を電流検出器によって検出し、電圧検出器によって検出された交流系統の電圧位相を基準位相として有効電流を示すq軸と、このq軸と直交し無効電流を示すd軸との回転座標変換上の2軸に変換して制御処理を行い、再び逆変換を行なって3相の操作量を求めて半導体電力変換装置を制御する。このようにしてdq変換を用いる制御を行えば、例えば電流の有効分と無効分を各々独立して制御することが可能となる。しかしながら、例えば、半導体電力変換装置の出力側にフィルタ回路が挿入される場合など、主回路部において電圧位相が変化すると、無効電力を正確に補償することが困難となる。このため変化する電圧位相に応じてq軸電流基準とd軸電流基準を補正する提案が為されている(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−105261号公報(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示された方法によれば、主回路部の電圧位相の変化に応じた無効電力補償を行なうことが可能となる。しかしながら現実には、電流検出器の検出遅れとdq変換演算の演算時間の遅れがあり、これらの遅れによって制御誤差が生じてしまう。
【0005】
本発明は上記問題点を解決するために為されたもので、その目的は、検出遅れや制御演算の遅れがあっても制御誤差が生じることのない半導体電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の発明である半導体電力変換装置は、交流系統に接続された負荷の負荷電流を検出し、この負荷電流をdq変換制御手段に与え、前記dq変換制御手段の出力を前記交流系統に接続された電力変換器の出力電流指令値とするようにした半導体電力変換装置において、前記dq変換制御手段は、前記交流系統の電圧位相を検出する位相検出手段と、前記位相検出手段の出力する基準位相に従って前記負荷電流を回転座標変換してd軸電流及びq軸電流に変換するdq変換手段と、前記d軸電流及びq軸電流の夫々から必要な周波数成分を抽出するd軸及びq軸フィルタと、前記位相検出手段の出力する基準位相を補正して補正基準位相を出力する位相補正手段と、前記d軸及びq軸フィルタの出力を前記補正基準位相に従って逆回転座標変換して3相の前記出力電流指令を得る逆dq変換手段とを具備したことを特徴としている。
【0007】
また、本発明の第2の発明である半導体電力変換装置は、交流系統の系統電圧を検出し、この系統電圧をdq変換制御手段に与え、前記dq変換制御手段の出力を前記交流系統に接続された電力変換器の出力電圧指令値とするようにした半導体電力変換装置において、
前記dq変換制御手段は、前記交流系統の電圧位相を検出する位相検出手段と、前記位相検出手段の出力する基準位相に従って前記系統電圧を回転座標変換してd軸電圧及びq軸電圧に変換する第1のdq変換手段と、前記電力変換器の出力電流を前記位相検出手段の出力する基準位相に従って回転座標変換してd軸電流及びq軸電流に変換する第2のdq変換手段と、前記d軸電流及び前記q軸電流を夫々の指令値に追従させるd軸及びq軸電流制御器と、前記d軸電圧及びq軸電圧から前記d軸及びq軸電流制御器の出力を夫々減算するd軸及びq軸減算手段と、前記位相検出手段の出力する基準位相を補正して補正基準位相を出力する位相補正手段と、前記d軸及びq軸減算手段の出力を前記補正基準位相に従って逆回転座標変換して3相の前記出力電圧指令を得る逆dq変換手段とを具備したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、検出遅れや制御演算の遅れがあっても制御誤差が生じることのない半導体電力変換装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の実施例1に係る半導体電力変換装置を図1乃至図3を参照して説明する。
【0011】
図1は本発明の実施例1に係る半導体電力変換装置の回路構成図である。
【0012】
交流系統に変圧器を介して接続されている電力変換器1は、例えば電力系統の無効電力、高調波等を補償するために設置されている。電力変換器1は通常はスイッチング素子をブリッジ接続して構成された交流直流変換器であり、その直流部には直流電源、コンデンサ等が接続されているがその図示を省略している。交流系統には負荷2が接続されている。
【0013】
負荷2の入力電流は電流検出器3によって検出され、dq変換制御部10に与えられる。同様に交流系統の電圧は電圧検出器4によって検出され、dq変換制御部10に与えられる。また、電力変換器1の交流系統側への出力電流は電流検出器5によって検出されている。
【0014】
以下、dq変換制御部10の内部構成について説明する。
【0015】
電圧検出器4によって検出された瞬時交流電圧は位相検出器11に与えられる。位相検出器11においては、瞬時交流電圧の検出位相に基づいて出力電流指令値の基準の位相(ωt+φ)を生成する。電流検出器3によって検出された瞬時交流電流は、3相から2相に変換するdq変換器12によってd軸電流とこのd軸電流と直交するq軸電流に変換される。この変換は、上記の基準位相(ωt+φ)に基づいて行なわれる。
【0016】
上記のdq変換において、dq変換の座標系を回転座標としておけば、d軸電流及びq軸電流は直流成分となる。そして、d軸電流及びq軸電流を夫々フィルタ13及びフィルタ14を介して2相から3相に変換する逆dq変換器15に入力する。この逆dq変換器15によって3相変換するときの基準位相は、上記の基準位相(ωt+φ)に補正位相設定器16で設定された位相δを加算器17で加算した(ωt+φ+δ)を用いる。尚、上記においてフィルタ13及びフィルタ14を適切に選定することによって、所望の制御を実現する。例えば、フィルタ13を全成分カットするように選定し、フィルタ14において高周波の変動分をカットするようにすれば、負荷2に流れる電流の力率を1とし、且つ高次の高調波をキャンセルする制御が可能となる。
【0017】
逆dq変換器15の出力は電力変換器1の出力電流指令値となり電流制御器20に与えられる。電流制御器20においては、上記出力電流指令値と電流検出器5によって検出された出力電流との偏差がゼロになるようにその出力である電圧指令値を調節する。そしてこの電圧指令値を入力としてPWM制御器21はパルス幅変調を行い、電力変換器1を構成するスイッチング素子にゲートパターンを与える。
【0018】
上記における基本動作について図2及び図3を参照して以下説明する
今、電力変換器1の3相の出力電流をia、、iとすると、これらは(1)式のように表される。
【数1】

【0019】
ここで、Iは出力電流の実効値、ωtは位相、φは微小位相差である。
【0020】
図2は、静止座標系における直交座標であるα、β軸と回転座標系で表したときの直交座標であるd、q軸の関係を示すベクトル図である。図2に示すように、α、β軸が位相ωt+微小位相差φの位相分だけ回転した座標がd、q軸となる。この図3で示す静止座標系(α、β軸)と回転座標系(d、q軸)の関係を式で表すと、(2)式のようになる。尚ここでは反時計回り回転を正としている。
【数2】

【0021】
(2)式より、d、q軸の電流とα、β軸の電流の関係式は、(3)式のようになる。
【数3】

【0022】
従って、図2のα、β軸とd、q軸の関係は(2)式と(3)式のような関係となる。
【0023】
ここで、電力変換器1の出力3相(a相、b相及びc相)の各々の電流はia、、iであるので、静止座標系で表現した式は(4)式のようになる。
【数4】

【0024】
a相、b相及びc相は3相から2相に変換するdq変換器12によりd、q軸で表現することができる。(3)式に(4)式を代入すると
【数5】

【0025】
となる。従って、dq変換器12の内部変換式は(6)式となることが分かる。
【数6】

【0026】
(5)式に(1)式を代入すると、dq変換器12によってdq変換したd軸とq軸の電流成分を求めることができる。
【数7】

【0027】
この(7)式を展開し、計算すると、
【数8】

【0028】
となる。
【0029】
上記に対し、位相δ分の遅れを考慮し事前に補正位相設定器16で設定された位相δを用いたときの逆dq変換器15で生成される3相の電流指令値をi、i、iとすると、2相から3相に変換する逆dq変換器15の内部変換式により、これは(9)式のように求めることができる。
【数9】

【0030】
この(9)式を展開すると、以下のように(10)、(11)式が得られる。
【数10】

【数11】

【0031】
この(11)式で示されているように、位相δ分を補正した電力変換器1への電流指令値i、i、iは(1)式における電流基準位相(ωt+φ)より位相δ分に相当する時間だけ進ませたことになる。これにより、半導体電力器1が出力する電流ia、、iは、適切に位相補正されて本来出力すべき電流となり、半導体電力器1による適切な電力補償が可能となる。尚、上記における補正した変換は実質的には、図2に示したようにd軸及びq軸電流を位相δ分進ませる補正を行ったあと通常の逆変換を行なったことと等価となる。
【0032】
図3は、図1の逆dq変換15を実施した直後の出力電流指令値の1相分の波形である。本来の制御目標である出力電流指令値W1に対し、位相遅れを考慮しない制御を行うと、位相δ分の遅れ時間が生じたままの出力電流指令値W2による制御となる。これに対し、位相δ分の遅れ時間を考慮して、事前に補正位相設定器16によって位相δだけ進ませて指令することによって、出力電流指令値W1に限りなく近い出力電流指令値W3によって制御を行うことができる。
【0033】
以上説明したように、電流検出器3による検出時間遅れとdq変換制御部10内の時間遅れ時間分の和を位相に換算した位相δを、補正位相設定器16によって予め設定しておけば、電力変換器1に遅れ時間を加味した出力電流指令値が与えられる。従って、この実施例1によれば、時間遅れによる制御誤差をキャンセルすることができ、高精度の電力制御を実施することが可能となる。
【実施例2】
【0034】
図2は本発明の実施例2に係る半導体電力変換装置の回路構成図である。
【0035】
この実施例2の各部について、図1の本発明の実施例1に係る半導体電力変換装置の回路構成図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、dq変換制御部10Aのdq変換器12Aの入力を電圧検出器4の出力とした点、フィルタ13、14に変えて減算器18、19を設けるようにし、減算器18、19の出力を逆dq変換器15Aに与える構成とした点、電流検出器5の出力をdq変換制御部10A内に設けたdq変換器12Bに与え、そのd軸、q軸の各々の出力を電流制御器20A、20Bに夫々与える構成とした点、電流制御器20A、20Bは与えられたd軸電流基準、q軸電流基準となるように夫々の出力を調節し、この夫々の出力を減算器18、19の減算信号とした点、逆dq変換器15Aの出力を電力変換器1の電圧指令としてPWM制御器21に与える構成とした点である。
【0036】
上記において、dq変換器12Bにおける変換の基準位相はdq変換器12Aと同様(ωt+φ)、逆dq変換器15Aの変換の基準位相は、補正された(ωt+φ+δ)とする。また、上記におけるd軸電流基準及びq軸電流基準は、電力変換器1の出力側で、変圧器などのインピーダンスによる電圧降下を考慮した値となるように設定する。
【0037】
以上の実施例2の制御によれば、例えば系統電圧に逆相成分が含まれている場合、その逆相成分の位相に応じて減算器18、19の出力が発生し、この逆相成分をゼロにするように電圧指令値は電力変換器1の出力電圧を制御する。
【0038】
また、実施例1と同様、電圧検出器4による検出時間遅れとdq変換制御部10A内の時間遅れ時間分の和を位相に換算した位相δを、補正位相設定器16によって予め設定しておけば、電力変換器1に遅れ時間を加味した出力電圧指令値が与えられる。更に、電力変換器1の出力側の変圧器などのインピーダンスにより電圧降下が発生するがこの補正も可能となる。従ってこの実施例2によれば、電力変換器1に対して遅れ時間と電圧降下による制御誤差をキャンセルすることができ、高精度の電力制御を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1に係る半導体電力変換装置の回路構成図。
【図2】静止座標α軸、β軸と、回転座標d軸、q軸を示すベクトル図。
【図3】本発明の出力電流指令値の説明図。
【図4】本発明の実施例2に係る半導体電力変換装置の回路構成図。
【符号の説明】
【0040】
1 電力変換器
2 負荷
3 電流検出器
4 電圧検出器
5 電流検出器

10、10A dq変換制御部
11 位相検出器
12、12A、12B dq変換器
13、14 フィルタ
15、15A 逆dq変換器
16 補正位相設定器
17 加算器
18、19 減算器
20、20A、20B 電流制御器
21 PWM制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統に接続された負荷の負荷電流を検出し、この負荷電流をdq変換制御手段に与え、前記dq変換制御手段の出力を前記交流系統に接続された電力変換器の出力電流指令値とするようにした半導体電力変換装置であって、
前記dq変換制御手段は、
前記交流系統の電圧位相を検出する位相検出手段と、
前記位相検出手段の出力する基準位相に従って前記負荷電流を回転座標変換してd軸電流及びq軸電流に変換するdq変換手段と、
前記d軸電流及びq軸電流の夫々から必要な周波数成分を抽出するd軸及びq軸フィルタと、
前記位相検出手段の出力する基準位相を補正して補正基準位相を出力する位相補正手段と、
前記d軸及びq軸フィルタの出力を前記補正基準位相に従って逆回転座標変換して3相の前記出力電流指令を得る逆dq変換手段と
を具備したことを特徴とする半導体電力変換装置。
【請求項2】
交流系統の系統電圧を検出し、この系統電圧をdq変換制御手段に与え、前記dq変換制御手段の出力を前記交流系統に接続された電力変換器の出力電圧指令値とするようにした半導体電力変換装置であって、
前記dq変換制御手段は、
前記交流系統の電圧位相を検出する位相検出手段と、
前記位相検出手段の出力する基準位相に従って前記系統電圧を回転座標変換してd軸電圧及びq軸電圧に変換する第1のdq変換手段と、
前記電力変換器の出力電流を前記位相検出手段の出力する基準位相に従って回転座標変換してd軸電流及びq軸電流に変換する第2のdq変換手段と、
前記d軸電流及び前記q軸電流を夫々の指令値に追従させるd軸及びq軸電流制御器と、
前記d軸電圧及びq軸電圧から前記d軸及びq軸電流制御器の出力を夫々減算するd軸及びq軸減算手段と、
前記位相検出手段の出力する基準位相を補正して補正基準位相を出力する位相補正手段と、
前記d軸及びq軸減算手段の出力を前記補正基準位相に従って逆回転座標変換して3相の前記出力電圧指令を得る逆dq変換手段と
を具備したことを特徴とする半導体電力変換装置。
【請求項3】
前記位相補正手段は、
前記負荷電流の検出遅れ時間と、前記dq変換制御手段の演算遅れ時間と
の和を位相角に換算した位相補正を行なうようにしたことを特徴とする請求項1に記載の半導体電力変換装置。
【請求項4】
前記位相補正手段は、
前記系統電圧の検出遅れ時間と、前記dq変換制御手段の演算遅れ時間と
の和を位相角に換算した位相補正を行なうようにしたことを特徴とする請求項2に記載の半導体電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−234298(P2008−234298A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72744(P2007−72744)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】