半導電性部材の製造方法及び無端ベルト
【課題】所望の電気抵抗値を有する半導電性部材を得るための半導電性塗料を効率的に調製することができ、製造工程への負荷を低減することができると共に、電気抵抗値の均一な半導電性部材を安定して得ることができる半導電性部材の製造方法及びそれを用いた無端ベルトを提供することである。
【解決手段】少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む樹脂溶液にカーボンブラックを分散したカーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない粘度調整液を混合して半導電性塗料を作製する工程と、該半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形する工程と、を含む半導電性部材の製造方法であって、粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液にカーボンブラックを分散させて前記カーボンブラック分散液を調製し、該カーボンブラック分散液と前記樹脂溶液より粘度の高い粘度調整液とを混合して前記半導電性塗料を作製することを特徴とする半導電性部材の製造方法。
【解決手段】少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む樹脂溶液にカーボンブラックを分散したカーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない粘度調整液を混合して半導電性塗料を作製する工程と、該半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形する工程と、を含む半導電性部材の製造方法であって、粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液にカーボンブラックを分散させて前記カーボンブラック分散液を調製し、該カーボンブラック分散液と前記樹脂溶液より粘度の高い粘度調整液とを混合して前記半導電性塗料を作製することを特徴とする半導電性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタ等の静電複写方式の画像形成装置に用いられる半導電性部材の製造方法及びそれを用いた無端ベルトに関し、特に、所望の抵抗値を有する半導電性部材を効率的に得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置では、感光体、転写部材、定着部材などに、金属、樹脂、またはゴム製の回転体が使用されるが、装置の小型化或いは高性能化のために、回転体は変形可能なものが好ましいことがあり、それには肉厚が薄い樹脂製ベルトが用いられる。その材料としては、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド(以後、「PI」と略す場合がある)樹脂や、ポリアミドイミド(以後、「PAI」と略す場合がある)樹脂が好ましい。この場合、ベルトに継ぎ目(シーム)があると、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じるので、継ぎ目がない無端ベルトが好ましい。
【0003】
無端ベルトの製造方法として、例えば、円筒芯体の表面に皮膜形成樹脂溶液を塗布して乾燥し、必要に応じて加熱して反応させた後、樹脂皮膜を芯体から剥離する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、無端ベルトを感光体や転写体等に使用する場合には、抵抗値を所定の半導電性領域(体積抵抗率で105〜1011Ωcm程度の範囲)の値に調整した半導電性部材を用いる必要がある。半導電性部材の成形は、前記所定の抵抗値が得られるように調整された半導電性塗料を塗布してなされる。
【0005】
半導電性塗料は、皮膜形成樹脂溶液に導電性を付与するカーボンブラックを分散して作製するが、使用する材料のロットや、カーボンブラック分散時の条件ばらつきなどの影響により、同じ組成比で製造しても、得られる部材の抵抗値は、同じにならない場合がある。また、カーボンブラックは微細に分散しないと、抵抗値の不均一や変動が生じる不具合があった。
【0006】
すなわち、前記半導電性塗料の抵抗値の調整は、主にカーボンブラックの添加量で制御できるが、上記ばらつきのため、カーボンブラックの添加量を一定に、あるいは調整して分散しても、期待通りの抵抗値が得られないことがある。このような抵抗のずれや分散不良は、半導電性部材、すなわち無端ベルトの電気的特性に大きく影響し画像特性の低下につながるので、極力低く抑える必要がある。
【0007】
皮膜形成樹脂がPI樹脂の場合、抵抗値を調整するにはPI前駆体であるポリアミド酸へカーボンブラックを分散するほか、溶剤やモノマー溶液中にあらかじめカーボンブラックを分散しておき、重合して分散液を作る方法がある。
【0008】
上記方法に関しては、メディアを用いた分散機を用い、ポリアミド酸溶液中にDBP吸収量が40cm3以上90cm3以下、比表面積100m2/g当りの揮発分が2.5質量%以上の酸性カーボンブラックを微細に分散することが記載されているが(例えば、特許文献2参照)、抵抗の維持安定性を得るためには十分ではない。また、メディアを用いた分散機は、メディアや容器に残る量が約20質量%と多いほか、メディアや容器から入る不純物による皮膜欠陥が発生する、メディア径が使用中に小さくなって分散能力が変化する、メディアを高速で回転させるので高粘度の溶液には適用できない、といった問題がある。
【0009】
また、溶剤中にカーボンブラックを分散させた後、酸無水物とジアミンとを加えてポリアミド酸を重合する方法が提案されているが(例えば、特許文献3参照)、この方法では、カーボンブラック表面の各種の官能基がポリアミド酸重合反応に不具合を生じるため、カーボンブラックをあらかじめ不活性化しておく必要があるという問題がある。
【0010】
一方、転写部材として、カーボンブラックの混合液を2つ以上に分割し、150MPa以上の圧力で衝突させて分散して作製したPI樹脂無端ベルトが開示されている(例えば、特許文献4参照)。このような衝突型分散機でカーボンブラックを分散すると、上記メディアを用いた分散機の問題点は解消されるのであるが、分散に好適な溶液の粘度と、塗布に好適な液の粘度が必ずしも同等ではないため、それぞれ最適な条件では処理できない問題点があった。
【0011】
さらに、前記のような各種分散法によりカーボンブラック分散液を作製しても、結局分散ロットごとで分散状態がばらつくため、成形した半導電性部材の電気抵抗値もばらついてしまい、抵抗値の微妙な調整を要求される無端ベルト用の半導電性部材の製造上、大きな問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−91027号公報
【特許文献2】特開2001−342344号公報
【特許文献3】特開2000−355432号公報
【特許文献4】特開2004−279531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、所望の電気抵抗値を有する半導電性部材を得るための半導電性塗料を効率的に調製することができ、製造工程への負荷を低減することができると共に、電気抵抗値の均一な半導電性部材を安定して得ることができる半導電性部材の製造方法及びそれを用いた無端ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の本発明により達成される。すなわち本発明は、
<1> 少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む樹脂溶液にカーボンブラックを分散したカーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない粘度調整液を混合して半導電性塗料を作製する工程と、該半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形する工程と、を含む半導電性部材の製造方法であって、
粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液にカーボンブラックを分散させて前記カーボンブラック分散液を調製し、該カーボンブラック分散液と前記樹脂溶液より粘度の高い粘度調整液とを混合して前記半導電性塗料を作製する半導電性部材の製造方法である。
<2> 前記粘度調整液は少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む<1>に記載の半導電性部材の製造方法である。
【0015】
<3> 前記カーボンブラックの分散を、2つ以上に分割したカーボンブラック混合液を、150MPa以上の圧力で衝突させて行う<1>または<2>に記載の半導電性部材の製造方法である。
【0016】
<4> 予め、前記カーボンブラック分散液及び前記粘度調整液の混合比の異なる2種以上の試験塗料を調製し、該試験塗料を用いて各々抵抗確認部材を成形し、該各々の抵抗確認部材の抵抗値から前記半導電性塗料におけるカーボンブラック分散液及び粘度調整液の混合比を決定する<1>〜<3>のいずれかに記載の半導電性部材の製造方法である。
【0017】
<5> <1>〜<4>のいずれかに記載の半導電性部材の製造方法により得られる半導電性部材を用いた無端ベルトである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所望の電気抵抗値を有する半導電性部材を得るための半導電性塗料を効率的に調製することができ、製造工程への負荷を低減することができると共に、電気抵抗値の均一な半導電性部材を安定して得ることができる半導電性部材の製造方法及びそれを用いた無端ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】カーボンブラックの分散方法の一例を示す説明図である。
【図2】塗布装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】表面抵抗率を測定する円形電極を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)である。
【図4】体積抵抗率を測定する円形電極を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)である。
【図5】所望の抵抗値とするための混合比の決定法を示す説明図である。
【図6】抵抗確認部材を作製する方法の一例を示す説明図である。
【図7】抵抗確認部材を作製する方法の一例を示す説明図であり、(A)は塗膜形成前の状態、(B)、(C)は塗膜形成後の状態を示す。
【図8】抵抗確認部材を作製する方法の他の一例を示す説明図である。
【図9】抵抗確認部材を作製する方法の他の一例を示す説明図であり、(A)は塗膜形成前の状態、(B)、(C)は塗膜形成後の状態を示す。
【図10】塗料ごとの表面抵抗率を示す図である。
【図11】塗膜の加熱条件の一例を示すグラフである。
【図12】塗膜の加熱条件の他の一例を示すグラフである。
【図13】覆いを設けた円筒状芯体を示す模式図である。
【図14】無端ベルトの体積抵抗率の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
<半導電性部材の製造方法>
本発明の第1の半導電性部材の製造方法(以下、「第1の本発明」と称する)は、少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む樹脂溶液にカーボンブラックを分散したカーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない粘度調整液を混合して半導電性塗料を作製する工程と、該半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形する工程と、を含む半導電性部材の製造方法であって、粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液にカーボンブラックを分散させて前記カーボンブラック分散液を調製し、該カーボンブラック分散液と前記樹脂溶液より粘度の高い粘度調整液とを混合して前記半導電性塗料を作製することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の第2の半導電性部材の製造方法(以下、「第2の本発明」と称する)は、前記第1の本発明の要件を満たし、更に前記第1の製造方法と同様の工程を有し、予め前記カーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない抵抗調整液(前記「粘度調整液」を表す。以下同じ。)の混合比の異なる2種以上の試験塗料を調製し、該試験塗料を用いて各々抵抗確認部材を成形し、該各々の抵抗確認部材の表面抵抗率から前記半導電性塗料におけるカーボンブラック分散液及び抵抗調整液の混合比を決定することを特徴とする。
【0022】
半導電性部材を半導電性塗料から成形して作製する場合、カーボンブラックを分散した半導電性塗料を用いるが、前記のように樹脂溶液中へのカーボンブラックの微細な分散困難であり、その結果、分散液ごとに分散状態がばらつきやすい。そのため、同一配合で半導電性塗料を作製しても成形される半導電性部材の抵抗値は一定とならず、抵抗値のそろった半導電性部材を安定して効率よく製造することができなかった。特に、粘度が21Pa・s以上の高粘度の樹脂溶液を用いた分散液を作製する場合には、分散がより困難となり、上記問題が顕著となる。
【0023】
本発明者等は、半導電性塗料の作製をカーボンブラックを分散したカーボンブラック分散液とカーボンブラックを含まない粘度調整液を混合することにより行うこととし、さらに、前記カーボンブラック分散液の分散状態の均一化、カーボンブラック分散液及び粘度調整液の混合比の決定法等について検討を行うことにより、前記問題を解決することができることを見出した。
以下、第1〜第2の本発明について、各々説明する。
【0024】
(第1の本発明)
前記のように、第1の本発明に係る半導電性部材の製造方法は、カーボンブラック分散液と粘度調整液とを混合して半導電性塗料を作製する工程と、該半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形する工程とを含むものである。第1の本発明においては、上記カーボンブラック分散液を粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液を用いて分散を行うことにより調製し、これに前記樹脂溶液より高粘度の粘度調整液を混合することにより、半導電性塗料を作製する。
【0025】
このようにカーボンブラックの樹脂溶液への分散を、最終的な半導電性塗料に近い高粘度の状態で行うのではなく、カーボンブラックの分散に適した比較的低粘度の状態で行い、次いで、より高粘度の粘度調整液を混合して半導電性塗料とすることで、従来に比べてカーボンブラックの分散粒径が小さく、しかも粒径が均一な分散液を得ることができる。
【0026】
また、上記カーボンブラック分散液は分散状態が均一で安定しているため、分散ロットごとで抵抗値のばらつきが少なくなり、前記粘度調整液と混合する場合にもほぼ一定の混合比で同程度の抵抗値の半導電性部材が得られるようになる。さらに、作製後の液特性(分散状態、粘度等)が安定しているため、製造時における部材ごとの抵抗変化が少なく、また塗布条件の調整を行う必要もない。
【0027】
−半導電性塗料作製工程−
まず、本発明におけるカーボンブラック分散液について説明する。
カーボンブラック分散液は樹脂溶液に所定量のカーボンブラックを混合し、分散機にて分散することにより調製される。樹脂溶液に用いられる樹脂としては、特に制限されないが、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等から選択することができる。
【0028】
これらの中では特に、PI樹脂、PAI樹脂が無端ベルトとしての強度や柔軟性等を確保できる点で好ましい。
なお、本発明においては、前記各種樹脂を溶剤に溶解して樹脂溶液を調製するが、該樹脂溶液としては、高分子量化した樹脂を溶解した溶液だけでなく、後述するポリイミド前駆体溶液のように、反応して樹脂になる樹脂前駆体の溶液も含まれる。
【0029】
ここでは、好ましい樹脂であるPI樹脂、PAI樹脂を用いた樹脂溶液について詳述する。
PI樹脂はその前駆体を加熱反応して得る。PI前駆体であるポリアミド酸溶液は、テトラカルボン酸の無水物とジアミンとから合成される。テトラカルボン酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの混合物が挙げられる、ジアミンとしては、例えば、パラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0030】
特に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなるポリアミド酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとからなるポリアミド酸、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなるポリアミド酸は、皮膜強度等、無端ベルトとしての諸特性を満たすことが可能な点から好適である。
【0031】
一方、PAI樹脂は、酸無水物、例えばトリメリット酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物等と、上記ジアミンとを組み合わせて、当モル量で重縮合反応することで得られる。PAI樹脂は100%イミド化したものが好ましい。
【0032】
前駆体溶液(樹脂溶液)は、前記成分をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン系極性溶剤などに溶解することで調製される。なお、この調製の際における前駆体の混合比等の選択は、適宜調整して行われる。
【0033】
第1の本発明においては、樹脂溶液の粘度を1〜20Pa・sの範囲とする。樹脂溶液の粘度をこの範囲とすることにより、カーボンブラックの分散時における粘度を分散に適正な範囲とすることができ、目標とする分散状態に短時間で到達させることができる。
粘度が1Pa・s未満の場合、カーボンブラックのブラウン運動が起こりやすいために、粒子の結合による再凝集が起きやすい。また、粘度が20Pa・sを越える場合、溶液の流動性が低下するために、分散時の圧力をさらに高くしなくてはならなくなったり、分散により多くの時間を要するようになり、通過回数を増やさなくてはならなくなったりする。
【0034】
樹脂溶液の粘度は1〜18Pa・sの範囲とすることが好ましく、2〜15Pa・sの範囲とすることがより好ましい。なお、上記樹脂溶液の粘度は、円錐平板方式粘度計(東機産業(株)製、型式RE80U)を用いて、ローター:3°×R14を使用して、5rpmの条件下、25℃、55%RHの測定環境下で測定した。以下の粘度についても同様である。
【0035】
樹脂溶液の濃度は、上記粘度範囲となるように適宜選択されるが、好ましい溶液の固形分濃度は10〜40質量%であり、より好ましくは12〜30質量%の範囲である。
【0036】
カーボンブラックとしては、pHが5以下でかつ揮発分が3.5質量%以上のものを好ましく用いることができ、例えば、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック等の一般的なカーボンブラックが挙げられるが、分散性の点でカーボンブラックを酸化処理したものが好ましい。また、1種類でなく複数種類配合することも可能である。
【0037】
カーボンブラックの混合量は、分散が可能であれば特に制限はないが、後述する分散作業というのは手間と時間がかかるので、分散時はカーボンブラックをなるべく高濃度で行って液量を少なくし、分散後に樹脂溶液(粘度調整液など)を加えて増量し、所定のカーボンブラック含有量に調整するのが好ましい。そのため、分散時のカーボンブラック混合量は、皮膜形成用樹脂100質量部に対して、40〜120質量部の範囲が好ましく、50〜100質量部の範囲とするのがより好ましい。
【0038】
カーボンブラックの分散は、通常の塗料作製に用いられる種々の方法、例えばボールミル、サンドミル、ペイントシェーカーなどを用いた方法により行うことができる。ただし、カーボンブラックは均一かつ微細に分散しないと、所望の抵抗特性を有し、表面抵抗率の維持性に優れた半導電性部材は得られない。
【0039】
上記観点から、本発明においては、分散後のカーボンブラックの数平均粒子径を500nm以下にすることが好ましく、400nm以下とすることがより好ましい。カーボンブラックの数平均粒子径が500nmより大きいと、成形後の半導電性部材の機械的強度が落ちることがあるほか、表面抵抗率変化量が大きくなることがある。
なお、カーボンブラックの数平均粒子径は、例えば大塚電子製の動的光散乱式測定器PAR−IIIを用いて測定できる。測定条件は、clock rate:100μs、accumulate time:10回、correlate ch:128、温度:20℃、溶媒:N−メチルピロロドンである。
【0040】
以下に、第1の本発明において、カーボンブラックを均一かつ微細に分散する方法として、好適な例を挙げて説明する。
本発明においては、分散方法としてメディアを使用しない衝突型分散機を用いるのが好適である。衝突型分散機とは、2つ以上に分割した溶液を衝突させて分散する分散機であり、上記溶液として、樹脂溶液とカーボンブラックとを混合したカーボンブラック混合液を用いる。
【0041】
分散をするには、まず前記樹脂溶液にカーボンブラックを混合し、予備分散を行う。予備分散とは、撹拌機でカーボンブラックの混合液をよく撹拌し、カーボンブラックの固まりを細かくほぐすことである。次に、予備分散が済んだカーボンブラック混合液を衝突型分散機に通す。
【0042】
図1は、衝突型分散機の原理を模式的に示す説明図であり、矢印で示す液の流れの上流から下流に向かって一点に連結された2つの第1流路管50と、連結部を構成する連結管52と、この連結管52の一端から2つ以上に分岐した第2流路管54と、から構成された流路に、カーボンブラック混合液を流すことにより分散する。
【0043】
その操作はまず、2つの第1流路管50にそれぞれカーボンブラック混合液を流す。この流圧を一定以上とし、連結部を構成する連結管52の一端52a近傍で互いの溶液を衝突させる。衝突した混合液は、連結管52を通過し、2つ以上に分岐した第2流路管54にそれぞれ流れ、再び2つに分割される。この再び2つに分割された混合液を、さらに第1流路管50に流し、混合・分割を2回以上の複数回繰り返すこともできる。このように、混合液を衝突させて混合させることで、カーボンブラック混合液にせん断力と共に、強い圧力で衝突力を付加することが可能となり、均一かつ微細にカーボンブラックを高濃度で分散させることができる。
【0044】
前記流圧は、150MPa以上とすることが好ましく、より好ましくは150〜250MPaの範囲、さらに好ましくは180〜220MPaの圧力で互いに衝突させることが好ましい。流圧が150MPa未満であると、カーボンブラックを微細に分散することができなくなる場合がある。
【0045】
衝突した混合液は、連結管52を通過するが、この2つの第1流路管50の連結部(図中では、連結管52の一端52a近傍)、即ち2つの溶液が衝突する衝突部の最小断面積を0.07mm2以下(好ましくは0.007〜0.05mm2以下、より好ましくは0.015〜0.04mm2)とするのが好ましい。これは、混合液を衝突させる面積を小さくすることで、効率良く混合液に圧力を付加させることができるからである。ここで、2つの溶液が衝突する衝突部の最小断面積は、図中では連結管52入り口近傍での流路管50の断面積に相当する。
【0046】
上記衝突型分散機としては、例えば、ジーナス製「Geanus PY」や、スギノマシン製「アルティマイザ」、ナノマイザ製「ナノマイザ」等が挙げられる。
【0047】
分散時間としては、分散する全カーボンブラック混合液量によるが、例えばカーボンブラック混合液量100Lを、流圧200Pa・sとして好ましい分散状態まで分散するためには、約5〜10時間分散することが好ましい。
なお、分散後の溶液粘度は、微細に分散されたカーボンブラックが加わることにより分散前の粘度より上昇し、3〜30Pa・sになることがある。
【0048】
さらに、分散時、不純物の混入やカーボンブラック凝集体があった場合、溶液を例えば、目開き25μm以下のフィルタを通すことで粗大粒子を除去し、均一な分散状態のカーボンブラック分散液を得ることが可能である。
【0049】
次に、得られたカーボンブラック分散液に粘度調整液を加え混合して半導電性塗料を作製する。上記粘度調整液は、カーボンブラックを分散するために低粘度で調製したカーボンブラック分散液の粘度を、実際の塗布に使用する塗布液の粘度まで上昇させ、同時にカーボンブラック(P)と樹脂(B)とのP/B比を調整する目的で加えられる。したがって、通常は前記樹脂溶液に用いた樹脂と同一の樹脂を含む溶液が用いられる。
【0050】
第1の本発明では、粘度調整液としてカーボンブラック分散液に用いた樹脂溶液より粘度の高い溶液を用いる。具体的には、樹脂溶液の粘度の5〜100倍程度の粘度を有することが好ましく、より具体的には、粘度を50〜1000Pa・sの範囲とすることが好ましく、100〜500Pa・sの範囲とすることがより好ましい。
【0051】
粘度調整液の粘度が50Pa・sより低いと、カーボンブラック分散液の粘度を上げる効果が小さい場合があり、粘度1000Pa・sより高すぎると、カーボンブラック分散液と混合する際の作業が行いにくくなる場合がある。
【0052】
以上のような樹脂溶液と粘度調整液との粘度の組み合わせとしては、低粘度の樹脂溶液の粘度が1〜20Pa・sの範囲であるとき、高粘度の粘度調整液の粘度が50〜1000Pa・sの範囲であることが好ましい。また、カーボンブラック分散液の混合液量Aと粘度調整液の混合液量Bとの質量比A/Bは、1/5〜5/1の範囲とすることが好ましい。
【0053】
このように、カーボンブラックを高濃度で分散し、次いで、高粘度の溶液を加えてカーボンブラック含有量を調整することにより、分散時の液量を少なくして、分散作業の効率化を図ることができる。
【0054】
なお、後述する画像形成装置に用いられる無端ベルト用の半導電性部材に必要とされる電気抵抗値を考慮すると、混合後のカーボンブラックの含有量は、前記皮膜形成用の樹脂100質量部に対して22〜33質量部の範囲となることが好ましく、24〜32質量部の範囲となることがより好ましい。
【0055】
カーボンブラックの含有量が22質量部未満であると、例えば転写部材として半導電性部材を用いる場合抵抗が高くなってトナーを転写できなくなることがある。一方、33質量部を超えると、抵抗が低くなりすぎるとともに、皮膜がもろくなって屈曲性が低下することになる場合がある。
【0056】
カーボンブラック分散液と粘度調整液との混合は、通常液混合に用いる攪拌機等を用いて、通常の混合条件で行うことができる。カーボンブラックの分散の安定性を考慮すると、カーボンブラック分散液を攪拌しながら所定量の粘度調整液を徐々に加えていくことが好ましい。
【0057】
混合後の半導電性塗料の粘度は5〜100Pa・sとすることが好ましく、10〜50Pa・sの範囲とすることがより好ましい。具体的には、樹脂、カーボンブラックを含めた固形分量が20〜40質量%の範囲の塗料とすることが好ましい。
【0058】
−半導電性部材成形工程−
本工程では、作製した半導電性塗料を金属等の基体に塗布して、必要により乾燥、熱処理等を行って半導電性部材を成形する工程である。
以下、本発明の半導電性部材が好ましく用いられる無端ベルトの成形を例にとって説明する。
【0059】
まず、前記半導電性塗料を円筒状芯体等の基体の表面に塗布し、塗膜を形成する。この塗布方法としては浸漬塗布法や環状塗布法があるが、環状体を用いて膜厚を調整する環状塗布法を用いることが好ましい。
【0060】
基体は、アルミニウムやステンレス、ニッケル等の金属製の円筒状芯体が好ましい。円筒状芯体の長さは、目的とする無端ベルト以上の長さが必要であり、複数の無端ベルトを同時に作製する場合には、その本数分以上の長さが必要である。また、端部に生じる無効領域に対する余裕幅を確保するため、目的の長さより、10〜40%程度長いことが望ましい。
【0061】
円筒状芯体の外径は、目的とする無端ベルトの直径に合わせ、肉厚は芯体としての強度が保てる厚さにする。形成される皮膜が円筒状芯体表面に接着するのを防ぐため、円筒状芯体の表面には離型性を付与するが、それには、芯体表面をフッ素樹脂やシリコーン樹脂で被覆したり、表面に離型剤を塗布したりする方法がある。
【0062】
なお、前記PI樹脂の場合、イミド化時には残留溶剤や反応時に発生する水の蒸発があり、反応後の皮膜には部分的に膨れを生じることがあり、特に膜厚が50μmを越える場合に顕著である。この膨れを防止するために、特開2002−160239号公報開示の如く、芯体表面を粗面化することが好ましい。その方法には、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法があり、表面粗さは算術平均粗さRaで0.2〜2μmの範囲程度が好ましい。これにより、皮膜から生じる気体は、芯体と皮膜の間に形成されるわずかな隙間を通って外部に出ることができ、膨れを生じない。
【0063】
次に、前記環状体を用いる環状塗布方法の一例を説明する。
図2は、塗布中の塗布装置の概略断面図である。但し、塗布主要部のみを示し、円筒状芯体の昇降手段などの周辺部は省略した。なお、本明細書において、「円筒状芯体上に塗布する」とは、円筒状芯体の表面及び該表面に層を有する場合はその層上に塗液を塗布する意味である。また、「円筒状芯体を上昇」とは液面との相対関係であり、「円筒状芯体を停止し、塗布液面を下降」させる場合を含む。
【0064】
図2において、溶液(半導電性塗料)2を環状塗布槽7に入れ、その下部から上部へ円筒状芯体1を通過させると、塗膜4が形成され、塗布が行われる。円筒状芯体1の下には、他の円筒状芯体1’が重ねられる。環状塗布槽7の底部には、溶液2が漏れないよう、シール材8を取り付ける。シール材8は、ポリエチレンやシリコーンゴム、フッソ樹脂等の柔軟性板材から成る。塗液2の液面には、円筒状芯体1の軸方向の断面の外周外径よりも大きな円孔6を設けた環状体5を自由移動可能状態で設置する。環状体5は、塗布中は溶液2に浮上するが、静止時に浮力が不足する場合は、沈没防止のために環状体5の外周面または塗布槽に、環状体5を支える足や腕を設けてもよい。
【0065】
塗布の際は、円筒状芯体1と円孔6との間隙により、塗膜4の膜厚が調整されるので、その間隙は、所望の塗布膜厚を鑑みて調整する。円筒状芯体1の上昇速度は0.1〜1.5m/min程度であるのが好ましく、円孔6を通して円筒状芯体1を上昇させると、溶液2の介在により、円筒状芯体1と環状体5との間隙にて摩擦抵抗が生じ、環状体5は持ち上げられる。このように環状体5が持ち上げられた際、環状体5は円筒状芯体1との摩擦抵抗が周方向で一定になるように水平方向に移動し、間隙が周方向で一定になる。そこで、環状体5が円筒状芯体1と接触することはなく、常に一定間隙が保たれる。
【0066】
この塗布方法が適用できる溶液の粘度は、1〜1000Pa・sの範囲であるが、無端ベルトの塗布溶液を塗布するのに好適な溶液の粘度は、5〜100Pa・sの範囲である。したがって、本発明における前記カーボンブラック分散液は、前記の通り、カーボンブラックの含有量を調整するのに合わせて、粘度を高くするよう、粘度調整液を加えられて半導電性塗料として調製される
【0067】
前記円筒状芯体1への塗布後、塗膜4を乾燥して溶媒を除去することが行なわれる。乾燥条件は、乾燥後の塗膜に含まれる残留溶剤が30〜50質量%前後になるように設定することが好ましく、温度は100〜200℃の範囲、時間は10〜60分程度が好ましい。溶剤の乾燥を促進するために、塗膜表面には熱風を吹きつけてもよい。乾燥時、塗膜が下方に垂れないよう、円筒状芯体1の軸方向を水平にして、2〜20rpmで回転させるのが好ましい。
【0068】
次いで、円筒状芯体1を加熱して皮膜を形成する。皮膜形成樹脂がPI樹脂の場合、加熱温度は一般に250〜400℃の範囲、好ましくは300〜350℃の範囲程度である。一方、皮膜形成樹脂がPAI樹脂の場合、反応はないが、残留溶剤を完全に乾燥させるために、通常220〜320℃の範囲、好ましくは250〜300℃の範囲程度に加熱する。
【0069】
前記PI樹脂の加熱温度に関し、酸成分としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とするPI樹脂のイミド化反応は、250℃以上の温度にある時間以上置かないと完結しにくく、250℃の温度に2時間以上置くことで、イミド化がほほ完結する。時間が2時間未満の場合、イミド化が不十分であり、諸特性が十分に発揮されない。
【0070】
一方、該PI樹脂の耐屈曲性が向上するのは、300℃以上の温度で1時間以上加熱した時である。したがって、上記2条件を組み合せ、250℃の温度に2時間以上、かつ300℃以上の温度で1時間以上加熱することが、PI樹脂のイミド化を完結させ、かつ必要な耐屈曲性も獲得するために好ましい条件となる。
【0071】
上記の加熱条件について、図11に示すグラフを用いて具体的に説明する。図11の横軸は時間、縦軸は芯体の温度であり、時間の経過と共に芯体温度が上昇し、次いで下降する経過を示すものである。なお、縦軸の芯体温度は実温を測定した値であり、PI皮膜と同じ温度を示していると言えるが、加熱炉の設定温度や炉内雰囲気温度はこれより高いことがある。
【0072】
図中、条件イは、常温から300℃まで2時間で上昇させ、300℃に1時間20分保持し、常温まで1時間40分で冷却した例であり、条件ロは、常温から250℃まで1時間で上昇させ、次いで250℃から300℃まで30分間で上昇させ、300℃に1時間保持し、常温まで1時間40分かけて冷却した例である。また、条件ハは常温から250℃まで30分間で上昇させ、250℃に30分間保持し、次いで250℃から300℃まで20分間で上昇させ、300℃に1時間保持し、常温まで1時間30分かけて冷却した例である。
【0073】
加熱条件としては上記どの条件によってもよいが、条件ロは250℃まで速やかに昇温させたので、全体の所要時間は条件イより短く、条件ハはさらに条件ロより短くしたものである。但し、250℃まで急速に加熱しすぎると、温度むらが大きくなるばかりでなく、皮膜中の残留溶剤が泡になることがあるので、限度がある。また、芯体の熱容量が大きい場合、急速に加熱するのは困難なことがある。
【0074】
なお、250℃の温度に置かれる時間には、300℃以上の温度に置かれた後の冷却過程での時間も含まれる。具体的に条件イでは、点線の補助線で示した250℃に2時間、300℃に1時間20分置かれており、条件ロでは、250℃に2時間、300℃に1時間置かれ、条件ハでは250℃に2時間15分、300℃に1時間置かれている。加熱条件はこのほか各種取りうるが、本発明では要するに、250℃の温度に2時間以上、かつ300℃以上の温度に1時間以上置くことが要件である。
【0075】
一方、250℃の温度に置く時間として、4時間を越える時間は、製造時間として非効率であるばかりでなく、樹脂を劣化させる虞もあるので不要である。また、300℃以上の温度で2時間を越えて置くことは、非効率であるほか、熱エネルギーのむだにもなるので、やはり不要である。さらに、温度の上限として、400℃以上の温度では、PI樹脂の剛直性が高くなり過ぎ、耐屈曲性が逆に低下することがあるので好ましくない。ジアミン成分がパラフェニレンジアミン以外のPI樹脂の場合、温度の上限が350℃以下であることはさらに好ましい。
【0076】
一方、イミド化は、加熱時の温度むらによって反応速度のばらつきを生じやすい。一般にPI樹脂はイミド化の際に収縮することが知られているが、反応速度のばらつきがあると、収縮度合いにもばらつきを生じ、膜厚や機械的特性のばらつきの原因になって好ましくない。特にPI樹脂にカーボンブラックなどの導電性粒子を分散させてある場合、抵抗値のばらつきを生じやすい。無端ベルトを転写ベルトとして使用する場合、抵抗値のばらつきが大きいと、転写画像の濃度むらになるので好ましくない。
【0077】
温度むらを小さくするには、溶剤乾燥後のPI前駆体皮膜を加熱する時、熱風を芯体表面に直に当てない方が良い。その方法として、例えば加熱炉として、熱風が上方から吹き降りる方式の装置が好ましい。また、熱風が芯体内側を通り、芯体表面に当たらないようにすることも好ましい。
【0078】
熱風が側面から吹き出される加熱炉においては、例えば図13に示すように、円筒状芯体30に覆い32を被せて加熱炉に入れる方法もある。この場合、円筒状芯体30と覆い32の隙間は、20〜100mm程度が好ましい。たとえその隙間に熱風が入っても、皮膜に強く当たることはないので、この程度の隙間はあっても良い。円筒状芯体30への伝熱は、円筒状芯体30の内部に入る熱風によるほか、覆い32が加熱されることからくる輻射熱によってもなされる。
【0079】
冷却後、円筒状芯体を取り出し、形成された皮膜(半導電性部材)を芯体から剥離して無端ベルトを得る。無端ベルトは、端部の不要部分を切って所定長さに切断し、さらに必要に応じて、穴あけ加工やリブ付け加工、等が施されることがある。
【0080】
本発明における半導電性部材は、転写ベルトなどに用いる無端ベルト成形する場合には、厚さは75〜85μの範囲とすることが好ましい。
また、好ましい表面抵抗率は1×108Ω/□〜1×1015Ω/□の範囲、より好ましくは1×1010Ω/□〜1×1013Ω/□の範囲であり、さらに好ましくは1×1011Ω/□〜1×1012Ω/□の範囲である。
【0081】
一方、好ましい体積抵抗率は1×106Ω・cm〜1×1013Ω・cmの範囲であり、より好ましくは1×108Ω・cm〜1×1012Ω・cmの範囲であり、さらに好ましくは1×109Ω・cm〜1×1011Ω・cmの範囲である。
表面抵抗率または体積抵抗率が低すぎると、例えば、転写部材として用いる場合に転写時に電流が流れすぎて転写画像が乱れることがあり、一方、表面抵抗率または体積抵抗率が高すぎると、転写電流が流れないために転写できなくなることがある。
【0082】
また、本発明の製造方法によれば、カーボンブラックを均一かつ微細に樹脂に含有させることができるので、転写ベルトとして用いた場合、半導電性部材の使用前後での表面抵抗率の変化量(常用対数値)を±0.8logΩ以内とすることが可能となり維持性に優れたものとなる。変化量(常用対数値)が±0.8logΩを越えると転写時の濃度ムラとなることがある。
【0083】
なお、この表面抵抗率の変化量とは、表面抵抗率値を常用対数で表し、使用後の表面抵抗率値から使用前の表面抵抗率値を引いたときの値である。また、使用前後とは、100〜1000V程度の印加電圧条件で1時間程度画像出力に供した前後をいう。
【0084】
なお、前記表面抵抗率は、図3に示す円形電極(例えば、三菱油化(株)製ハイレスターIPのHRプローブ)を用い、JIS K6911に従い、22℃、55%RHにて電圧100Vを印加し、10秒後の電流値から求めた値である。図3は、円形電極の例を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)であり、円形電極は、第一電圧印加電極Aと板状絶縁体Bとを備える。第一電圧印加電極Aは、円柱状電極部Cと、該円柱状電極部Cの外径よりも大きい内径を有し、かつ円柱状電極部Cを一定の間隔で囲む円筒状のリング状電極部Dとを備える。
【0085】
第一電圧印加電極Aにおける円柱状電極部C及びリング状電極部Dと板状絶縁体Bとの間に試験片Tを挟持し、第一電圧印加電極Aにおける円柱状電極部Cとリング状電極部Dとの間に電圧V(V)を印加したときに流れる電流I(A)を測定し、下記式(1)により、表面抵抗率ρs(Ω/□)を算出することができる。ここで、下記式(1)中、d(mm)は円柱状電極部Cの外径を示し、D(mm)はリング状電極部Dの内径を示す。
ρs=π×(D+d)/(D−d)×(V/I) ・・・ 式(1)
【0086】
また、前記体積抵抗率は、図4に示す円形電極(例えば、三菱油化(株)製ハイレスターIPのHRプローブ)を用い、JIS K6911に従って、22℃、55%RHにて電圧100Vを印加し、30秒後の電流値から求めた値である。図4は、円形電極の例を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)であり、円形電極は、第一電圧印加電極A’と第二電圧印加電極B’とを備える。第一電圧印加電極A’は、円柱状電極部C’と、該円柱状電極部C’の外径よりも大きい内径を有し、且つ円柱状電極部C’を一定の間隔で囲む円筒状のリング状電極部D’とを備える。
【0087】
第一電圧印加電極A’における円柱状電極部C’及びリング状電極部D’と第二電圧印加電極B’との間に試験片Tを挟持し、第一電圧印加電極A’における円柱状電極部C’と第二電圧印加電極B’との間に電圧V(V)を印加したときに流れる電流I(A)を測定し、下記式(2)により、転写部材T’の体積抵抗率ρv(Ωcm)を算出することができる。ここで、下記式(2)中、tは転写部材T’の厚さを示す。
ρv=19.6×(V/I)×t ・・・ 式(2)
【0088】
(第2の本発明)
第2の本発明に係る半導電性部材の製造方法は、前記第1の本発明の要件を満たし、更に第1の本発明と同様の工程を含み、半導電性塗料を作製する工程において、予め、前記カーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない抵抗調整液の混合比の異なる2種以上の試験塗料を作製し、該試験塗料を用いて各々抵抗確認部材を成形し、該各々の抵抗確認部材の抵抗値から前記半導電性塗料におけるカーボンブラック分散液及び抵抗調整液の混合比を決定するものである。
ここで、上記抵抗確認部材の抵抗値とは、表面抵抗率または体積抵抗率のいずれかを意味する。以下同様である。
【0089】
前述のように、カーボンブラックを含む半導電性塗料を用いて半導電性部材を製造する場合、塗料に用いる材料のロットや、カーボンブラック分散時の条件ばらつきなどの影響により、同じ組成比で塗料を作製しても、得られる部材の抵抗値はほとんど同じにならない。これは転写部材などの精密な抵抗値制御が必要な部材として半導電性部材を製造する場合に大きな問題である。
【0090】
そこで、第2の本発明では、予めカーボンブラックを高い濃度で分散してカーボンブラック分散液を調製し、これとカーボンブラックを含まない樹脂溶液(抵抗調整液)とを混合して、その混合比の異なる2種以上の半導電性塗料を作製し、それぞれについて抵抗確認部材を成形して抵抗値を求め、これらの抵抗値から所望の抵抗値にするためのカーボンブラック分散液と抵抗調整液との混合比を決定することで、精度良く一定の抵抗値をもつ半導電性部材が得られることを見出した。
【0091】
この方法は、予め高い濃度で分散したカーボンブラック分散液を用いて半導電性試料を成形し、その抵抗値からカーボンブラック分散液とカーボンブラックを含まない抵抗調整液との混合比を決定するよりも、誤差は小さくなる。その理由は、高い濃度で分散したカーボンブラック分散液を用いた試料は、最終的に半導電性部材として所望の抵抗値よりも低く離れた抵抗値を示すので、この値からカーボンブラック分散液と抵抗調整液との混合比を決定すると、誤差が大きくなるからである。
【0092】
−半導電性塗料作製工程−
第2の本発明におけるカーボンブラック分散液、抵抗調整液に用いられる好ましい材料は、第1の本発明において説明したカーボンブラック分散液、粘度調整液に各々好ましく用いられるものと同様であり、また、カーボンブラック分散液における樹脂とカーボンブラックとの比率も同様である。
【0093】
第2の本発明においては、第1の本発明で説明したように、カーボンブラックの分散のためには低粘度で行うことが好ましいので、抵抗調整液の粘度より樹脂溶液の粘度を低くする(この場合、第2の本発明における抵抗調整液と第1の本発明における粘度調整液とは、機能的に同一のものとなる)。
【0094】
具体的には、樹脂溶液の粘度は1〜20Pa・sの範囲とし、抵抗調整液の粘度は50〜1000Pa・sの範囲とすることが好ましい。このとき、樹脂溶液の固形分濃度は10〜40質量%の範囲とすることが好ましく、抵抗調整液の固形分濃度は10〜40質量%の範囲とすることが好ましい。また、カーボンブラックの分散は、特に制限されないが、第1の本発明で説明した衝突型分散機を用いて行うことが好ましい。
【0095】
第2の本発明では、半導電性塗料におけるカーボンブラック塗料と抵抗調整液との混合比を、例えば2種以上の試験塗料を用いた抵抗確認部材の表面抵抗率から決定する。
すなわち、塗料中のカーボンブラック含有量と該塗料から成形される部材の表面抵抗率は比例関係にあるため、図5の抵抗調整液の混合比と部材の表面抵抗率との関係に示すように、抵抗調整液の混合比と部材の表面抵抗率との関係も比例関係となる。したがって、所望の抵抗値を跨るように任意の混合比P、Qの試験塗料を調整しそれらの部材としての表面抵抗率を確認すれば、比例計算により最適混合比Rを決定することができる。
【0096】
なお、上記混合比の決定法に関して、表面抵抗率により説明したが、体積抵抗率の確認によっても同様に行うことができる。
【0097】
上記混合比の異なる2種以上の試験塗料を作製し、それぞれについて抵抗確認部材を成形する際、目的とする半導電性部材そのものを抵抗確認部材としても可であるが、抵抗値の相関がとれれば、目的とする部材より小さなテストピース等でも可能であり、試料作製時の塗料使用量の削減や作業のしやすさ等のために好ましい。
【0098】
前記テストピースとして、形状が板状のものを用いる場合、試験塗料の塗布方法は、ワイヤーバーや、掻き取りブレードや、棒を使用した簡便な方法をとることができる。具体的には、例えば図6に示すように、金属等の基板10上に一定の厚さを有する粘着テープ12を必要なテストピースの形の型となるように貼り付け、端部に液溜まりとして配置した試験塗料16を掻き取り棒14により矢印方向に広げて試験塗膜を作製する。
【0099】
この状態を図6の左側から見ると、図7に示すようになる。図7(A)は塗膜形成直前の状態を示すが、基板10の左端に配置された試験塗料16は、掻き取り棒14が矢印方向にスライドすることによって広げられる。その結果、図7(B)の断面図に示すように、一定の厚さ(高さ)を有する粘着テープ12によって囲まれた部分には一定の厚さの試験塗料が充填される。最後に図7(C)に示すように、粘着テープ14を剥がせば基板10上に一定厚みの試験塗膜が形成されることとなる。その後、これをそのまま加熱すれば抵抗確認用のテストピースが得られる。
【0100】
このような方法でテストピースを作製することによって、常に一定の大きさ、厚さのテストピースを簡易的に得ることができ、また、抵抗確認部材としての抵抗値のばらつきを少なくすることができる。
テストピースの面積は50mm×200mm程度、厚みは2〜10mm程度とすることが好ましい。
【0101】
一方、板状のテストピースよりは、大きさは小さくても、実際の無端ベルトに合わせるために、円筒状のテストピースも好ましい。
円筒状のテストピースの場合、簡便な塗布方法として、図8に示すように、試験塗料26を付着させた金属等の円柱基体20を回転させてこれに掻き取り棒を押し当てて塗布する方法が採用できる。その際、所望の膜厚を得るには、例えば円柱基体20表面の両端部に所望の厚さの粘着テープ22を巻いて、円柱基体20の表面から段差を持たせ、その間隙に試験溶液26を付着させ、円柱基体20を回転させて掻き取り棒を押し当てて掻きとることが好ましい。
【0102】
その状態を図8の左側から見ると、図9(A)に示すようになる。図9(A)は回転する円柱基体20に掻き取り棒24を押し当てている状態を示すが、円柱基体20に付着させた試験塗料26は、掻き取り棒24が押し当てられることにより一定膜厚の塗膜に広げられる(図では粘着テープを省略している)。その結果、図9(B)に示すように、一定の厚さ(高さ)を有する粘着テープ12によって囲まれた部分には一定の厚さの試験塗料が充填される。最後に図7(C)に示すように、粘着テープ24を剥がせば円柱基体20上に一定厚みの試験塗膜が形成されることとなる。その後、これをそのまま加熱すれば抵抗確認用のテストピースが得られる。
【0103】
このような方法でテストピースを作製することによって、実際の無端ベルト製造と同様の条件で、一定厚さのテストピースを簡易的に得ることができ、また、抵抗確認部材としての抵抗値のばらつきを少なくすることができる。
この場合の円柱基体20の外径は30〜80mm、長さは100〜500mmとするこが好ましく、また、テストピースの厚みは1〜5mm程度とすることが好ましい。
【0104】
なお、抵抗値の相関を正確にとるためには、上記抵抗確認用の試験塗膜の加熱処理も実際の無端ベルト等の製品と同じ条件で行わないと、誤差を生じる原因になる。そこで、前記基板10や円柱基体20に試験塗料を塗布したものを、製品の半導電性部材を成形する工程と同じ条件で乾燥・焼成等の加熱処理をすることが、抵抗を確実に合わせることができるため好ましい。
上記半導電性部材を成形する工程と同じ条件としては、第1の本発明において無端ベルトの加熱処理条件として例示した条件が好ましい。
【0105】
−半導電性部材成形工程−
上記のようにして作製した半導電性塗料を用いて半導電性部材を成形する工程の詳細は、第1の本発明において説明した内容と同様である。第2の本発明により製造された半導電性部材は、前述の好ましい表面抵抗率、体積抵抗率の範囲において所望の抵抗値に精度よく制御されたものであり、また、第1の本発明のように調製したカーボンブラック分散液を用いれば、同様に使用前後での表面抵抗率の変化量が少ないものとして製造することができる。
【0106】
<無端ベルト>
本発明の無端ベルトは、前記各製造方法により作製される半導電性部材を用いてなる。無端ベルトを構成する好ましい材料、好ましい製造方法は前述の通りである。無端ベルトの厚さは、75〜85μmの範囲であることが好ましい。
【0107】
本発明の無端ベルトは、前記各製造方法により作製される半導電性部材を用いているため、常に抵抗値が所望の範囲内にあるものとして得ることができる。また、前述のように、カーボンブラック分散性に優れた半導電性部材をも得ることができるので、無端ベルトとしても使用前後での抵抗値の変化や抵抗値ばらつきが少ない。
【0108】
また、酸成分としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とし、前記の好ましい条件で加熱処理して得られたPI樹脂からなる半導電性部材では、MIT試験による耐屈曲回数を1000回以上確保できるので、これにより作製された無端ベルトは、破断に対して強いものとなる。
【0109】
なお、膜厚は、ダイヤルゲージや渦電流式膜厚計などで測定でき、MIT試験による耐屈曲回数は、既製のMIT試験機(例えば上島製作所製や東洋精機製作所製)で測定することができる。通常、MIT試験による耐屈曲回数の測定には誤差が大きいので、本発明においては、無端ベルトから10点以上の試験片を取り、耐屈曲回数を測定し、その平均値が1000回以上であることを要件とする。さらに、各測定値全てが1000回以上であることが好ましい。
【0110】
本発明の無端ベルトを転写ベルトとして用いる場合、抵抗値は、体積抵抗率で107〜1013Ωcm、表面抵抗率で108〜1013Ω/□程度であるのが好ましいが、ばらつきはその中心値に対して、それぞれ1桁以下の範囲内であるのがよい。前記本発明の半導電性部材の製造方法では、半導電性部材を上記抵抗範囲の所望の抵抗値に容易に制御することができる。
【0111】
また、前述のようにイミド化時の温度むらを小さくして加熱したものは、耐屈曲回数や抵抗値のむらが小さくなっているので好ましい。
【0112】
本発明の無端ベルトから定着ベルトを製造するには、樹脂表面にトナーの付着を防止するために、非粘着性被膜を形成する。非粘着性の材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂層の厚さは5〜50μmが好ましく、10〜45μmがより好ましい。
【0113】
フッ素樹脂層を形成するには、その水分散液を塗布して焼き付け加工する方法を適用することが好ましい。塗布方法としては、PI前駆体皮膜を形成した芯体を、フッ素樹脂分散液に浸漬し、次いで上昇させて、フッ素樹脂の塗膜を形成する浸漬塗布方法が、塗膜の平滑性や膜厚の均一性の面で好ましい。
【0114】
塗布後、溶媒を乾燥し、フッ素樹脂を焼成する。焼成の際に、PI前駆体皮膜のイミド化処理を同時に行ってもよい。
【0115】
本発明の無端ベルトを感光体に適用する場合、無端ベルト表面に導電層を設け、必要に応じて下引き層を形成した後、感光層を形成する。感光層には、単層型と、電荷発生層(CGL)と電荷輸送層(CTL)に機能分離した積層型がある。
【0116】
CGLはフタロシアニン顔料、ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料等を、ポリビニルブチラール、ポリエステル、アクリル系などのバインダー樹脂に分散して塗布される。
CTLはヒドラゾン化合物、スチルベン化合物、ベンジジン化合物、ブタジエン化合物、トリフェニルアミン化合物などの電荷輸送剤を、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステルなどのバインダー樹脂と混合して塗布される。
CGLの膜厚は、0.05〜1μm程度、CTLの膜厚は、15〜40μm程度が一般的である。上記各層の形成は、環状塗布法や他の公知の方法で行ってよい。各層形成の際、特開2003−337434号公報開示のように、芯体上の無端ベルトを取り外さない状態で各層を塗布し、全てができた後に芯体から取り外すのがよい。
【実施例】
【0117】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。
<各特性の測定方法>
まず、下記の実施例等において用いた特性測定方法について説明する。
(カーボンブラックの数平均粒子径)
各例において、ポリアミド酸ワニスにカーボンブラックを分散した分散液について、大塚電子製の動的光散乱式測定器PAR−IIIを用いて測定を行った。測定条件はclock rate:100μs、accumulate time:10回、correlate ch:128、温度:20℃、溶媒:NMPである。このときの個数基準平均粒子径のメジアン値を数平均粒子径とした。
【0118】
(表面抵抗率)
表面抵抗率の測定は、図3に示す円形電極(三菱油化(株)製ハイレスターIPのHRプローブ、円柱状電極部Cの外径:16mm、リング状電極部Dの内径:30mm、外径:40mm)を用い、電圧100Vを印加し、10秒後の電流値を求めて算出した。
【0119】
(体積抵抗率)
体積抵抗率の測定は、図4に示す円形電極(三菱油化(株)製ハイレスターIPのHRプローブ、円柱状電極部Cの外径:16mm、リング状電極部Dの内径:30mm、外径:40mm)を用い、電圧100Vを印加し、30秒後の電流値を求めて算出した。
【0120】
〔第1の本発明に関する試験例〕
<実施例1−1>
低粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとが等モル含まれるポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が5Pa・s)100質量部に、カーボンブラック(Degussa製、SpecialBlack4、pH:3、揮発分:14質量%)を14.4質量部添加して混合しカーボンブラック混合液とし、衝突型分散機であるジーナス製「Geanus PY、衝突部の最小部断面積0.032mm2」を用い、圧力を200MPaで前記カーボンブラック混合液を2分割後衝突させ、再度2分割する経路を5回通過させて分散した。分散に要した時間は、12時間であった。次いで、目開き25μmのステンレス焼結フィルターを用いてろ過し、粗大粒子物類を除去し、カーボンブラック分散液を得た。分散液の収率は93%であった。
【0121】
上記カーボンブラック分散液100質量部に、高粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとが等モル含まれるポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が140Pa・s)を150質量部添加し、プラネタリー型ミキサーを使用して減圧状態で30分間攪拌した。攪拌後2時間真空脱泡して、粘度が46Pa・sの半導電性塗料を得た。
この半導電性塗料の特性を表1に示す。
【0122】
別途、外径366mm、肉厚10mm、長さ450mmのアルミニウム製円筒を用意し、ブラスト処理により、表面を算術平均粗さRaで1.0μmに粗面化した。次いで、円筒の表面にシリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布し、円筒状芯体とした。
【0123】
図2に示す環状塗布装置において、内径500mm、内高80mmの環状塗布槽7の底面に内径386mmの穴をあけ、底面の裏面には、内径362mmの穴を有する厚さ0.5mmの硬質ポリエチレン製の環状シール材8を取り付けた。環状塗布槽7の側面には、下から20mmの位置に、内径9mmのフッ素樹脂チューブが取り付けられる供給口を、60°間隔で6箇所設置した。
【0124】
環状体5として、外径420mm、円孔6の最小部の内径367.1mm、高さ50mmのアルミニウム製のものを作製した。内壁は直線傾斜状であり、鉛直線との傾斜角は7°とした。上端には円筒状芯体と平行になる部分を2mm形成したが、その内径の真円度は8μmであった。
【0125】
環状塗布装置の中央に円筒状芯体1を通し、環状体5を配置した後、加圧容器(図示せず)から0.5MPaの圧力で、環状塗布槽7に前記半導電性塗料を注入した。該塗料が環状塗布槽7を満たした後、液面の高さが50mmになった時点で、塗料の注入を停止した。次いで、円筒状芯体1の下にもう一つの円筒状芯体1’を配置し、約0.8m/分で押し上げて塗布を行った。その際、環状体5は約20mm持ち上げられた。これにより、円筒状芯体1には、濡れ膜厚が約500μmのPI前駆体塗膜4が形成された。
【0126】
塗布後、円筒状芯体1を水平にし、6rpmで回転させながら、80℃で20分間、130℃で30分間、加熱してPI前駆体塗膜を乾燥させた。これにより、厚さ約150μmのPI前駆体皮膜を得た。次いで、円筒状芯体1を垂直にし、加熱装置に入れて200℃で30分、320℃で30分加熱反応させ、円筒状のPI樹脂皮膜(半導電性部材)を形成した。
【0127】
室温に冷えた後、皮膜を円筒状芯体1から抜き取り、上記半導電性部材を用いた無端ベルトを得た。この無端ベルトの初期の表面抵抗率、体積抵抗率を表1にまとめて示す。
【0128】
得られたPI樹脂無端ベルトを、カラーレーザープリンタDocuPrint C2220(富士ゼロックス社製)に転写ベルトとして組み込み、10℃、15%RHの環境でA4縦サイズの用紙を用いて30000枚コピーを行い、3000枚コピー後、用紙が通過しなかった部分の無端ベルトの表面抵抗率を前述の方法で測定し、テスト前の表面抵抗率からテスト後の表面抵抗率を差し引いて表面抵抗率の変化量(常用対数値)を求めた。
結果を表1に示す。なお、この変化量(常用対数値)が±0.8logΩを越えると転写時の濃度ムラとなる。
【0129】
<実施例1−2>
低粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが等モル含まれるポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が20Pa・s)100質量部に、カーボンブラック(Degussa製SpecialBlack4、pH:3、揮発分:14質量%)を11.2質量部添加し、衝突型分散機であるジーナス製「Geanus PY、衝突部の最小部断面積0.032mm2」を用い、圧力を200MPaで溶液を2分割後衝突させ、再度2分割する経路を5回通過させて分散した。分散に要した時間は、12時間であった。次いで、目開き25μmのステンレス焼結フィルターを用いてろ過し、粗大粒子物類を除去し、カーボンブラック分散液を得た。
【0130】
上記カーボンブラック分散液100質量部に、高粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとが等モル含まれるポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が80Pa・s)を100質量部添加し、プラネタリー型ミキサーを使用して減圧状態で30分間攪拌した。攪拌後2時間真空脱泡して、粘度が49Pa・sの半導電性塗料を得た。
【0131】
この半導電性塗料を使用して実施例1と同じ方法で無端ベルトを作製し、同様の評価を行った。半導電性塗料の特性、無端ベルトの初期抵抗値、表面抵抗率変化量(常用対数値)をまとめて表1に示す。
【0132】
<比較例1−1>
低粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを等モル含むポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が35Pa・s)100質量部に、カーボンブラック(Degussa製SpecialBlack4、pH:3、揮発分:14質量%)を5.6質量部添加し、衝突型分散機であるジーナス製「Geanus PY、衝突部の最小部断面積0.032mm2」を用い、圧力を200MPaで溶液を2分割後衝突させ、再度2分割する経路を5回通過させて分散した。分散に要した時間は、14時間であった。次いで、目開き25μmのステンレス焼結フィルターを用いてろ過し、粗大粒子物類を除去し、カーボンブラック分散液を得た。
【0133】
このカーボンブラック分散液をそのまま塗布液として使用して、実施例1と同じ方法で無端ベルトを作製し、同様の評価を行った。
カーボンブラック分散液の特性と無端ベルトの初期抵抗値、表面抵抗率変化量(常用対数値)をまとめて表1に示す。
【0134】
<比較例1−2>
低粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを等モル含むポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が35Pa・s)100質量部に、カーボンブラック(Degussa製SpecialBlack4、pH:3、揮発分:14質量%)を11.2質量部添加し、衝突型分散機であるジーナス製「Geanus PY、衝突部の最小部断面積0.032mm2」を用い、圧力を200MPaで溶液を2分割後衝突させ、再度2分割する経路を5回通過させて分散した。分散に要した時間は、35時間であった。次いで、目開き25μmのステンレス焼結フィルターを用いてろ過し、粗大粒子物類を除去してカーボンブラック分散液を得た。
【0135】
上記カーボンブラック分散液100質量部に、高粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを等モル含むポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が35Pa・s)を100質量部添加し、プラネタリー型ミキサーを使用して減圧状態で30分間攪拌した。攪拌後2時間真空脱泡して、粘度が46Pa・sの半導電性塗料を得た。
【0136】
この半導電性塗料を使用して実施例1と同じ方法で無端ベルトを作製し、同様の評価を行った。
半導電性塗料の特性、無端ベルトの初期抵抗値、表面抵抗率変化量をまとめて表1に示す。
【0137】
<実施例1−3>
実施例1において使用したものと同一の低粘度ワニス及びカーボンブラックを用い、低粘度ワニス100質量部にカーボンブラックを14質量部添加したものを、横型サンドミル(Dyno社製、Dynomill KDL)に直径2mmのジルコニアビーズを内容積の約60体積%充填し、直径90mmの攪拌羽を回転数1592rpmで回転させたところへ5回通して分散を行った。分散時間は12時間であった。次いで、目開き25μmのステンレス焼結フィルターを用いてろ過し、粗大粒子物類を除去し、カーボンブラック分散液を得た。分散液の収率は78%であった。
【0138】
上記カーボンブラック分散液100質量部に、高粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを等モル含むポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が140Pa・s)を150質量部添加し、プラネタリー型ミキサーを使用して減圧状態で30分間攪拌した。攪拌後2時間真空脱泡して、粘度が47Pa・sの半導電性塗料を得た。
【0139】
この半導電性塗料を使用して実施例1と同じ方法で無端ベルトを作製し、同様の評価を行った。
半導電性塗料の特性、無端ベルトの初期抵抗値、表面抵抗率変化量(常用対数値)をまとめて表1に示す。なお、表1において「分散時間」とは最終的な塗料100質量部あたりの分散時間として換算したものである。また、CBとはカーボンブラックの略である。
【0140】
【表1】
【0141】
表1に示すように、実施例で作製した半導電性塗料はカーボンブラックの分散性が良好であり、使用前後の表面抵抗率の変化量も少なかった。一方、比較例では、カーボンブラックの分散性がやや悪く、その結果表面抵抗率の安定性も悪化した。
【0142】
〔第2の本発明に関する試験例〕
<実施例2−1>
まず、実施例1−1と同様にして、カーボンブラック分散液を作製した。このカーボンブラック分散液100質量部に、抵抗調整液としてカーボンブラックを含まないワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを等モル含むポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が140Pa・s)を各々141.9質量部、156.2質量部の混合比で混合し、脱泡して、試験塗料を2種作製した。
【0143】
厚さ10mm、大きさ150mm×150mmのアルミ板上の周囲に、図6に示すように厚みが約500μmの粘着テープ12を張り、直径8mmのSUS304製掻き取り棒14を端部に配置した。次いで、掻き取り棒14の近くに前記試験塗料16の液溜りをつくり、掻き取り棒14を矢印方向にゆっくりスライドさせることにより、濡れ膜厚が約500μmの塗膜を各塗料ごと各々2枚ずつ形成した。これらを165℃の連続式乾燥機内で22分間乾燥させ、次いで、加熱装置に入れて320℃で30分加熱反応させ、PI樹脂の抵抗確認部材を作製した。
【0144】
このPI樹脂皮膜を板から剥がし、表面抵抗率を測定したところ、抵抗調整液を141.9質量部混合した部材が2.14×1010Ω/□、2.51×1010Ω/□であり、156.2質量部混合した部材が2.24×1011Ω/□、2.75×1011logΩ/□であった。これらの結果から、最小二乗法により所望の抵抗値である6.31×1010Ω/□となる抵抗調整液の混合比を算出すると、147.7質量部となった。
【0145】
上記の結果から、前記カーボンブラック分散液100質量部に対し、前記抵抗調整液を147.7質量部添加し、プラネタリー型ミキサーを使用して減圧状態で30分間攪拌し、その後2時間真空脱泡して半導電性塗料を得た。
この半導電性塗料を用いて、実施例1−1と同様にして円筒状の半導電性部材を作製し、室温に冷えた後、皮膜を円筒状芯体から抜き取り、無端ベルトを得た。この方法で同じ塗布液から20本の無端ベルトを作製して、表面抵抗率の平均を求めた。
【0146】
以上のカーボンブラック分散液調製から抵抗調整液の混合比決定、無端ベルトの作製及びそれらの表面抵抗率測定までを計5回繰返した。
それらの各々の決定された混合比、半導電性部材の表面抵抗率の平均値の結果をまとめて表2に示した。
【0147】
【表2】
【0148】
<比較例2−1>
実施例2−1において、半導電性塗料の作製を抵抗確認部材の作製を行わずに、カーボンブラック分散液100質量部に対して抵抗調整液を実施例2−1における5回の分散の平均混合比である144.0質量部として塗料を作製し、同様に無端ベルトを作製して表面抵抗率の測定を行った。
同様のカーボンブラック分散から無端ベルト作製及び表面抵抗率測定までを計5回繰返した。各々の半導電性部材の表面抵抗率の平均値の結果をまとめて表3に示した。
【0149】
【表3】
【0150】
表2の結果のように、実施例では5回の分散液ロットの塗布液を使用したロット間のベルトの抵抗ばらつきは小さいことがわかる。一方、表3に示した比較例では、分散5回でかなり表面抵抗率がばらついてしまうことがわかる。
【0151】
<参考例1>
芯体として、外径30mm、長さ400mmのアルミニウム管を用意し、球形アルミナ粒子によるブラスト処理により、表面をRa:0.3μmに粗面化した。その表面にシリコーン系離型剤(商品名:KS700、信越化学(株)製)を塗布して、250℃で1時間、焼き付け処理した。次いで、芯体1を図2に示すように、環状塗布槽7に通し、その下にも他の芯体1’を取り付けた。
【0152】
PI前駆体として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、パラフェニレンジアミンとをN−メチル−2−ピロリドン中で等モル反応させた、固形分濃度18%、粘度約50Pa・sの溶液を用意した。これを内径80mm、高さ50mmの環状塗布槽7に入れた。環状塗布槽の中央には内径29mmの穴を設けた0.5mm厚の硬質ポリエチレン製の環状シール材8を取り付けた。
【0153】
環状体5として、高さが25mm、外径が60mmで、最も狭い部分の内径が31.2mmの孔6を設けたポリアセタール樹脂製の中空体を作製した。その内壁は傾斜面であり、鉛直線となす傾斜角は7°とした。また、孔6の真円度は13μmであった。環状体の外側面には、長さ30mm、太さ0.5mmのステンレス棒材からなるアームを3本、等間隔に取り付けた。そのアームを環状塗布槽7の上縁に載せて塗液上に設置した。
【0154】
次に、環状体5の液面からの高さを目視によって検出しながら、芯体1を0.8m/minの速度で上昇させたところ、環状体5はすぐに液面より約15mm持ち上げられ、さらに環状体5の高さは増した。そこで、速度を徐々に減じ、芯体1が約60mm上昇した時点で、環状体5の高さは20mmで安定したので、芯体の上昇速度を一定にした。その時の速度は0.6m/minであった。
【0155】
芯体1の上昇途中で環状体5が芯体1に接触することはなく、濡れ膜厚が約600μmの塗膜4が形成された。塗布後から約1分後、芯体を取り出して水平にして、10rpmで回転させながら、120℃で30分間乾燥した。
【0156】
次いで芯体1を縦にして加熱炉に入れ、芯体内面に熱電対線を貼り付けて温度を測定しながら、芯体の加熱を行った。条件は図12のニに示すように、250℃まで30分で上昇させ、250℃に30分間保持し、次に380℃に20分間で上昇させ、380℃に40分間保持した後、1時間30分かけて常温に戻した。
この条件では、250℃に2時間10分、300℃以上の温度に1時間15分、置かれている。なお、380℃というのは後述するPFAが焼成できる温度である。
【0157】
芯体1が室温に冷えてから皮膜を取り出し、PI樹脂製の無端ベルトを得た。膜厚は80μmでほぼ均一であった。無端ベルトを切り開いて10箇所から試験片を切り取り、MIT試験機(上島製作所製FT701型)にて、破断が起こるまでの屈曲回数を測定したところ、最大値3900回、最小値3150回、平均値3540回という結果が得られた。
【0158】
別途、PI前駆体溶液を塗布して乾燥させた芯体1に対し、一端の皮膜端部に粘着テープで被覆処理をした。また、PFAの水性塗料(商品名:710CL、三井デュポンフロロケミカル社製、濃度60%、粘度400mPa・s、溶媒として水のほかに、エタノール、t−ブタノールを含む)を、内径90mm、高さ480mmの塗布槽に入れ、この中に、前記芯体1を、被覆を下側にして垂直にし、上部のPI前駆体皮膜を5mmだけ残して浸漬した。次いで0.3m/分の速度で引き上げ、PFA塗膜を形成した。
【0159】
80℃で10分間の乾燥後、被覆を除去した。その後、前記の条件で加熱してPI前駆体を反応させてPI樹脂皮膜を形成すると共に、PFA塗膜を焼成した。室温に冷えた後、芯体1から皮膜を取り外し、無端ベルトを得た。PI樹脂とPFA層の密着性は強固であった。膜厚を測定すると、PI樹脂は80μm、PFA層は30μmであった。この無端ベルトを320mmの長さに切断して、定着ベルトとした。
【0160】
この定着ベルトを特開平11−133776号公報記載にある定着装置に使用し、画像定着試験を行った。該定着装置内では、定着ベルトは変形を受けながら回転が繰り返されるが、A4用紙5万枚の耐久試験を行っても、定着ベルトは何ら支障なく使用することができた。但し、PFA層の磨耗のため、約10万枚で定着ベルトとしての寿命が尽きるものがあったが、PI樹脂層の問題はなかった。
【0161】
<参考例2>
参考例1において、PI樹脂の加熱条件として、図12のホに示すように、380℃まで1時間で上昇させ、次に380℃に40分間保持した後、1時間20分かけて常温に戻した。この条件では、250℃に1時間30分、300℃以上の温度に1時間15分、置かれていることになり、250℃での時間が不足である。実施例1と同様にしてMIT試験機にて破断が起こるまでの屈曲回数を測定したところ、最大値1200回、最小値750回、平均値940回という結果であった。
【0162】
やはり表面にPFA層を形成して定着ベルトを作製し、同様にして評価したところ、A4用紙約4万枚にて、定着ベルトは端部からひびが入り、破断が起こった。定着ベルトは繰り返して変形を受けるため、耐屈曲性が劣るものは、寿命が短いという結果であった。
【0163】
<参考例3>
実施例1と同様にして、円筒状芯体に塗膜を形成した。次いで、3分以内に芯体の軸方向を水平にし、6rpmで回転させながら、140℃で30分間乾燥した。乾燥機内では、熱風が上方から約5m/sの速度で吹き降りて芯体に当たっている。
【0164】
次いで芯体を縦にして、図13に示すように、芯体32の外側に、厚さ0.5mm、直径460mmのステンレス円筒からなる覆い30を取り付けて加熱炉に入れた。その中では熱風が側面から約2m/sの速度で流れていたが、覆い30があるため、芯体32に直に熱風が当たることはなかった。次いで、図11の条件イに示すように、常温から300℃まで2時間で上昇させ、300℃に1時間20分保持し、常温まで1時間40分で冷却した。この場合、250℃に2時間、300℃に1時間20分置かれたことになる。室温に冷えてから皮膜を取り出すことにより、PI樹脂製の無端ベルトを得ることができた。
【0165】
膜厚を測定すると、上端部から30mmを除いて、80μmで均一であった。上端部から30mm内の膜厚は、周方向で厚い部分と薄い部分があったが、これは、環状体が水平方向に移動して、芯体との間隙が均一に合うまでに、多少の時間がかかったためと考えられる。
【0166】
次に、参考例1の場合と同様に、ベルトを切り開いて10箇所から試験片を切り取り、MIT試験機にて、破断が起こるまでの屈曲回数を測定したところ、最大値1800回、最小値1100回、平均値1550回という結果が得られた。
また、無端ベルトを切り開いた後、体積抵抗を細かく測定した結果を図14に示す。図の横軸は無端ベルトの周方向の位置、縦軸は無端ベルトの軸方向の位置を示し、目盛は任意座標であり、図中の数値は体積抵抗の指数を示す。この結果によれば、体積抵抗は109.1〜109.4Ωcmの範囲であり、ばらつきは小さかった。
この無端ベルトは電子写真用転写ベルトとして使用することができ、直径20mmのロールに張架して、A4用紙5万枚の通紙耐久試験を行っても、転写ベルトは何ら支障なく使用することができた。
【0167】
<参考例4>
参考例3において、イミド化の加熱条件として、常温から300℃まで2時間で上昇させ、300℃に30分間保持し、常温まで1時間40分で冷却した。この場合、250℃に1時間、300℃に30分間置かれたことになる。他は同様にして無端ベルトを作製し、実施例2と同様に破断が起こるまでの屈曲回数を測定したところ、最大値1100回、最小値700回、平均値850回という結果であった。
この無端ベルトを直径20mmのロールに張架して電子写真用転写ベルトとして使用した場合、A4用紙の通紙耐久試験を行うと、約2万枚で転写ベルトは端部から破断が生じ、耐久性は不足する結果であった。
【符号の説明】
【0168】
1、32…円筒状芯体、2…溶液、3…軸、4…塗膜、5…環状体、6…環状体の円孔、7…環状塗布槽、8…シール材、10…基板、12、22…粘着テープ、14…掻き取り棒、16、26…試験塗料、20…円柱基体、30…覆い、50…第1流路管、52…連結管、54…第2流路管
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタ等の静電複写方式の画像形成装置に用いられる半導電性部材の製造方法及びそれを用いた無端ベルトに関し、特に、所望の抵抗値を有する半導電性部材を効率的に得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置では、感光体、転写部材、定着部材などに、金属、樹脂、またはゴム製の回転体が使用されるが、装置の小型化或いは高性能化のために、回転体は変形可能なものが好ましいことがあり、それには肉厚が薄い樹脂製ベルトが用いられる。その材料としては、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド(以後、「PI」と略す場合がある)樹脂や、ポリアミドイミド(以後、「PAI」と略す場合がある)樹脂が好ましい。この場合、ベルトに継ぎ目(シーム)があると、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じるので、継ぎ目がない無端ベルトが好ましい。
【0003】
無端ベルトの製造方法として、例えば、円筒芯体の表面に皮膜形成樹脂溶液を塗布して乾燥し、必要に応じて加熱して反応させた後、樹脂皮膜を芯体から剥離する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、無端ベルトを感光体や転写体等に使用する場合には、抵抗値を所定の半導電性領域(体積抵抗率で105〜1011Ωcm程度の範囲)の値に調整した半導電性部材を用いる必要がある。半導電性部材の成形は、前記所定の抵抗値が得られるように調整された半導電性塗料を塗布してなされる。
【0005】
半導電性塗料は、皮膜形成樹脂溶液に導電性を付与するカーボンブラックを分散して作製するが、使用する材料のロットや、カーボンブラック分散時の条件ばらつきなどの影響により、同じ組成比で製造しても、得られる部材の抵抗値は、同じにならない場合がある。また、カーボンブラックは微細に分散しないと、抵抗値の不均一や変動が生じる不具合があった。
【0006】
すなわち、前記半導電性塗料の抵抗値の調整は、主にカーボンブラックの添加量で制御できるが、上記ばらつきのため、カーボンブラックの添加量を一定に、あるいは調整して分散しても、期待通りの抵抗値が得られないことがある。このような抵抗のずれや分散不良は、半導電性部材、すなわち無端ベルトの電気的特性に大きく影響し画像特性の低下につながるので、極力低く抑える必要がある。
【0007】
皮膜形成樹脂がPI樹脂の場合、抵抗値を調整するにはPI前駆体であるポリアミド酸へカーボンブラックを分散するほか、溶剤やモノマー溶液中にあらかじめカーボンブラックを分散しておき、重合して分散液を作る方法がある。
【0008】
上記方法に関しては、メディアを用いた分散機を用い、ポリアミド酸溶液中にDBP吸収量が40cm3以上90cm3以下、比表面積100m2/g当りの揮発分が2.5質量%以上の酸性カーボンブラックを微細に分散することが記載されているが(例えば、特許文献2参照)、抵抗の維持安定性を得るためには十分ではない。また、メディアを用いた分散機は、メディアや容器に残る量が約20質量%と多いほか、メディアや容器から入る不純物による皮膜欠陥が発生する、メディア径が使用中に小さくなって分散能力が変化する、メディアを高速で回転させるので高粘度の溶液には適用できない、といった問題がある。
【0009】
また、溶剤中にカーボンブラックを分散させた後、酸無水物とジアミンとを加えてポリアミド酸を重合する方法が提案されているが(例えば、特許文献3参照)、この方法では、カーボンブラック表面の各種の官能基がポリアミド酸重合反応に不具合を生じるため、カーボンブラックをあらかじめ不活性化しておく必要があるという問題がある。
【0010】
一方、転写部材として、カーボンブラックの混合液を2つ以上に分割し、150MPa以上の圧力で衝突させて分散して作製したPI樹脂無端ベルトが開示されている(例えば、特許文献4参照)。このような衝突型分散機でカーボンブラックを分散すると、上記メディアを用いた分散機の問題点は解消されるのであるが、分散に好適な溶液の粘度と、塗布に好適な液の粘度が必ずしも同等ではないため、それぞれ最適な条件では処理できない問題点があった。
【0011】
さらに、前記のような各種分散法によりカーボンブラック分散液を作製しても、結局分散ロットごとで分散状態がばらつくため、成形した半導電性部材の電気抵抗値もばらついてしまい、抵抗値の微妙な調整を要求される無端ベルト用の半導電性部材の製造上、大きな問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−91027号公報
【特許文献2】特開2001−342344号公報
【特許文献3】特開2000−355432号公報
【特許文献4】特開2004−279531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、所望の電気抵抗値を有する半導電性部材を得るための半導電性塗料を効率的に調製することができ、製造工程への負荷を低減することができると共に、電気抵抗値の均一な半導電性部材を安定して得ることができる半導電性部材の製造方法及びそれを用いた無端ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の本発明により達成される。すなわち本発明は、
<1> 少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む樹脂溶液にカーボンブラックを分散したカーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない粘度調整液を混合して半導電性塗料を作製する工程と、該半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形する工程と、を含む半導電性部材の製造方法であって、
粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液にカーボンブラックを分散させて前記カーボンブラック分散液を調製し、該カーボンブラック分散液と前記樹脂溶液より粘度の高い粘度調整液とを混合して前記半導電性塗料を作製する半導電性部材の製造方法である。
<2> 前記粘度調整液は少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む<1>に記載の半導電性部材の製造方法である。
【0015】
<3> 前記カーボンブラックの分散を、2つ以上に分割したカーボンブラック混合液を、150MPa以上の圧力で衝突させて行う<1>または<2>に記載の半導電性部材の製造方法である。
【0016】
<4> 予め、前記カーボンブラック分散液及び前記粘度調整液の混合比の異なる2種以上の試験塗料を調製し、該試験塗料を用いて各々抵抗確認部材を成形し、該各々の抵抗確認部材の抵抗値から前記半導電性塗料におけるカーボンブラック分散液及び粘度調整液の混合比を決定する<1>〜<3>のいずれかに記載の半導電性部材の製造方法である。
【0017】
<5> <1>〜<4>のいずれかに記載の半導電性部材の製造方法により得られる半導電性部材を用いた無端ベルトである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所望の電気抵抗値を有する半導電性部材を得るための半導電性塗料を効率的に調製することができ、製造工程への負荷を低減することができると共に、電気抵抗値の均一な半導電性部材を安定して得ることができる半導電性部材の製造方法及びそれを用いた無端ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】カーボンブラックの分散方法の一例を示す説明図である。
【図2】塗布装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】表面抵抗率を測定する円形電極を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)である。
【図4】体積抵抗率を測定する円形電極を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)である。
【図5】所望の抵抗値とするための混合比の決定法を示す説明図である。
【図6】抵抗確認部材を作製する方法の一例を示す説明図である。
【図7】抵抗確認部材を作製する方法の一例を示す説明図であり、(A)は塗膜形成前の状態、(B)、(C)は塗膜形成後の状態を示す。
【図8】抵抗確認部材を作製する方法の他の一例を示す説明図である。
【図9】抵抗確認部材を作製する方法の他の一例を示す説明図であり、(A)は塗膜形成前の状態、(B)、(C)は塗膜形成後の状態を示す。
【図10】塗料ごとの表面抵抗率を示す図である。
【図11】塗膜の加熱条件の一例を示すグラフである。
【図12】塗膜の加熱条件の他の一例を示すグラフである。
【図13】覆いを設けた円筒状芯体を示す模式図である。
【図14】無端ベルトの体積抵抗率の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
<半導電性部材の製造方法>
本発明の第1の半導電性部材の製造方法(以下、「第1の本発明」と称する)は、少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む樹脂溶液にカーボンブラックを分散したカーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない粘度調整液を混合して半導電性塗料を作製する工程と、該半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形する工程と、を含む半導電性部材の製造方法であって、粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液にカーボンブラックを分散させて前記カーボンブラック分散液を調製し、該カーボンブラック分散液と前記樹脂溶液より粘度の高い粘度調整液とを混合して前記半導電性塗料を作製することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の第2の半導電性部材の製造方法(以下、「第2の本発明」と称する)は、前記第1の本発明の要件を満たし、更に前記第1の製造方法と同様の工程を有し、予め前記カーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない抵抗調整液(前記「粘度調整液」を表す。以下同じ。)の混合比の異なる2種以上の試験塗料を調製し、該試験塗料を用いて各々抵抗確認部材を成形し、該各々の抵抗確認部材の表面抵抗率から前記半導電性塗料におけるカーボンブラック分散液及び抵抗調整液の混合比を決定することを特徴とする。
【0022】
半導電性部材を半導電性塗料から成形して作製する場合、カーボンブラックを分散した半導電性塗料を用いるが、前記のように樹脂溶液中へのカーボンブラックの微細な分散困難であり、その結果、分散液ごとに分散状態がばらつきやすい。そのため、同一配合で半導電性塗料を作製しても成形される半導電性部材の抵抗値は一定とならず、抵抗値のそろった半導電性部材を安定して効率よく製造することができなかった。特に、粘度が21Pa・s以上の高粘度の樹脂溶液を用いた分散液を作製する場合には、分散がより困難となり、上記問題が顕著となる。
【0023】
本発明者等は、半導電性塗料の作製をカーボンブラックを分散したカーボンブラック分散液とカーボンブラックを含まない粘度調整液を混合することにより行うこととし、さらに、前記カーボンブラック分散液の分散状態の均一化、カーボンブラック分散液及び粘度調整液の混合比の決定法等について検討を行うことにより、前記問題を解決することができることを見出した。
以下、第1〜第2の本発明について、各々説明する。
【0024】
(第1の本発明)
前記のように、第1の本発明に係る半導電性部材の製造方法は、カーボンブラック分散液と粘度調整液とを混合して半導電性塗料を作製する工程と、該半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形する工程とを含むものである。第1の本発明においては、上記カーボンブラック分散液を粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液を用いて分散を行うことにより調製し、これに前記樹脂溶液より高粘度の粘度調整液を混合することにより、半導電性塗料を作製する。
【0025】
このようにカーボンブラックの樹脂溶液への分散を、最終的な半導電性塗料に近い高粘度の状態で行うのではなく、カーボンブラックの分散に適した比較的低粘度の状態で行い、次いで、より高粘度の粘度調整液を混合して半導電性塗料とすることで、従来に比べてカーボンブラックの分散粒径が小さく、しかも粒径が均一な分散液を得ることができる。
【0026】
また、上記カーボンブラック分散液は分散状態が均一で安定しているため、分散ロットごとで抵抗値のばらつきが少なくなり、前記粘度調整液と混合する場合にもほぼ一定の混合比で同程度の抵抗値の半導電性部材が得られるようになる。さらに、作製後の液特性(分散状態、粘度等)が安定しているため、製造時における部材ごとの抵抗変化が少なく、また塗布条件の調整を行う必要もない。
【0027】
−半導電性塗料作製工程−
まず、本発明におけるカーボンブラック分散液について説明する。
カーボンブラック分散液は樹脂溶液に所定量のカーボンブラックを混合し、分散機にて分散することにより調製される。樹脂溶液に用いられる樹脂としては、特に制限されないが、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等から選択することができる。
【0028】
これらの中では特に、PI樹脂、PAI樹脂が無端ベルトとしての強度や柔軟性等を確保できる点で好ましい。
なお、本発明においては、前記各種樹脂を溶剤に溶解して樹脂溶液を調製するが、該樹脂溶液としては、高分子量化した樹脂を溶解した溶液だけでなく、後述するポリイミド前駆体溶液のように、反応して樹脂になる樹脂前駆体の溶液も含まれる。
【0029】
ここでは、好ましい樹脂であるPI樹脂、PAI樹脂を用いた樹脂溶液について詳述する。
PI樹脂はその前駆体を加熱反応して得る。PI前駆体であるポリアミド酸溶液は、テトラカルボン酸の無水物とジアミンとから合成される。テトラカルボン酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの混合物が挙げられる、ジアミンとしては、例えば、パラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0030】
特に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなるポリアミド酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとからなるポリアミド酸、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなるポリアミド酸は、皮膜強度等、無端ベルトとしての諸特性を満たすことが可能な点から好適である。
【0031】
一方、PAI樹脂は、酸無水物、例えばトリメリット酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物等と、上記ジアミンとを組み合わせて、当モル量で重縮合反応することで得られる。PAI樹脂は100%イミド化したものが好ましい。
【0032】
前駆体溶液(樹脂溶液)は、前記成分をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン系極性溶剤などに溶解することで調製される。なお、この調製の際における前駆体の混合比等の選択は、適宜調整して行われる。
【0033】
第1の本発明においては、樹脂溶液の粘度を1〜20Pa・sの範囲とする。樹脂溶液の粘度をこの範囲とすることにより、カーボンブラックの分散時における粘度を分散に適正な範囲とすることができ、目標とする分散状態に短時間で到達させることができる。
粘度が1Pa・s未満の場合、カーボンブラックのブラウン運動が起こりやすいために、粒子の結合による再凝集が起きやすい。また、粘度が20Pa・sを越える場合、溶液の流動性が低下するために、分散時の圧力をさらに高くしなくてはならなくなったり、分散により多くの時間を要するようになり、通過回数を増やさなくてはならなくなったりする。
【0034】
樹脂溶液の粘度は1〜18Pa・sの範囲とすることが好ましく、2〜15Pa・sの範囲とすることがより好ましい。なお、上記樹脂溶液の粘度は、円錐平板方式粘度計(東機産業(株)製、型式RE80U)を用いて、ローター:3°×R14を使用して、5rpmの条件下、25℃、55%RHの測定環境下で測定した。以下の粘度についても同様である。
【0035】
樹脂溶液の濃度は、上記粘度範囲となるように適宜選択されるが、好ましい溶液の固形分濃度は10〜40質量%であり、より好ましくは12〜30質量%の範囲である。
【0036】
カーボンブラックとしては、pHが5以下でかつ揮発分が3.5質量%以上のものを好ましく用いることができ、例えば、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック等の一般的なカーボンブラックが挙げられるが、分散性の点でカーボンブラックを酸化処理したものが好ましい。また、1種類でなく複数種類配合することも可能である。
【0037】
カーボンブラックの混合量は、分散が可能であれば特に制限はないが、後述する分散作業というのは手間と時間がかかるので、分散時はカーボンブラックをなるべく高濃度で行って液量を少なくし、分散後に樹脂溶液(粘度調整液など)を加えて増量し、所定のカーボンブラック含有量に調整するのが好ましい。そのため、分散時のカーボンブラック混合量は、皮膜形成用樹脂100質量部に対して、40〜120質量部の範囲が好ましく、50〜100質量部の範囲とするのがより好ましい。
【0038】
カーボンブラックの分散は、通常の塗料作製に用いられる種々の方法、例えばボールミル、サンドミル、ペイントシェーカーなどを用いた方法により行うことができる。ただし、カーボンブラックは均一かつ微細に分散しないと、所望の抵抗特性を有し、表面抵抗率の維持性に優れた半導電性部材は得られない。
【0039】
上記観点から、本発明においては、分散後のカーボンブラックの数平均粒子径を500nm以下にすることが好ましく、400nm以下とすることがより好ましい。カーボンブラックの数平均粒子径が500nmより大きいと、成形後の半導電性部材の機械的強度が落ちることがあるほか、表面抵抗率変化量が大きくなることがある。
なお、カーボンブラックの数平均粒子径は、例えば大塚電子製の動的光散乱式測定器PAR−IIIを用いて測定できる。測定条件は、clock rate:100μs、accumulate time:10回、correlate ch:128、温度:20℃、溶媒:N−メチルピロロドンである。
【0040】
以下に、第1の本発明において、カーボンブラックを均一かつ微細に分散する方法として、好適な例を挙げて説明する。
本発明においては、分散方法としてメディアを使用しない衝突型分散機を用いるのが好適である。衝突型分散機とは、2つ以上に分割した溶液を衝突させて分散する分散機であり、上記溶液として、樹脂溶液とカーボンブラックとを混合したカーボンブラック混合液を用いる。
【0041】
分散をするには、まず前記樹脂溶液にカーボンブラックを混合し、予備分散を行う。予備分散とは、撹拌機でカーボンブラックの混合液をよく撹拌し、カーボンブラックの固まりを細かくほぐすことである。次に、予備分散が済んだカーボンブラック混合液を衝突型分散機に通す。
【0042】
図1は、衝突型分散機の原理を模式的に示す説明図であり、矢印で示す液の流れの上流から下流に向かって一点に連結された2つの第1流路管50と、連結部を構成する連結管52と、この連結管52の一端から2つ以上に分岐した第2流路管54と、から構成された流路に、カーボンブラック混合液を流すことにより分散する。
【0043】
その操作はまず、2つの第1流路管50にそれぞれカーボンブラック混合液を流す。この流圧を一定以上とし、連結部を構成する連結管52の一端52a近傍で互いの溶液を衝突させる。衝突した混合液は、連結管52を通過し、2つ以上に分岐した第2流路管54にそれぞれ流れ、再び2つに分割される。この再び2つに分割された混合液を、さらに第1流路管50に流し、混合・分割を2回以上の複数回繰り返すこともできる。このように、混合液を衝突させて混合させることで、カーボンブラック混合液にせん断力と共に、強い圧力で衝突力を付加することが可能となり、均一かつ微細にカーボンブラックを高濃度で分散させることができる。
【0044】
前記流圧は、150MPa以上とすることが好ましく、より好ましくは150〜250MPaの範囲、さらに好ましくは180〜220MPaの圧力で互いに衝突させることが好ましい。流圧が150MPa未満であると、カーボンブラックを微細に分散することができなくなる場合がある。
【0045】
衝突した混合液は、連結管52を通過するが、この2つの第1流路管50の連結部(図中では、連結管52の一端52a近傍)、即ち2つの溶液が衝突する衝突部の最小断面積を0.07mm2以下(好ましくは0.007〜0.05mm2以下、より好ましくは0.015〜0.04mm2)とするのが好ましい。これは、混合液を衝突させる面積を小さくすることで、効率良く混合液に圧力を付加させることができるからである。ここで、2つの溶液が衝突する衝突部の最小断面積は、図中では連結管52入り口近傍での流路管50の断面積に相当する。
【0046】
上記衝突型分散機としては、例えば、ジーナス製「Geanus PY」や、スギノマシン製「アルティマイザ」、ナノマイザ製「ナノマイザ」等が挙げられる。
【0047】
分散時間としては、分散する全カーボンブラック混合液量によるが、例えばカーボンブラック混合液量100Lを、流圧200Pa・sとして好ましい分散状態まで分散するためには、約5〜10時間分散することが好ましい。
なお、分散後の溶液粘度は、微細に分散されたカーボンブラックが加わることにより分散前の粘度より上昇し、3〜30Pa・sになることがある。
【0048】
さらに、分散時、不純物の混入やカーボンブラック凝集体があった場合、溶液を例えば、目開き25μm以下のフィルタを通すことで粗大粒子を除去し、均一な分散状態のカーボンブラック分散液を得ることが可能である。
【0049】
次に、得られたカーボンブラック分散液に粘度調整液を加え混合して半導電性塗料を作製する。上記粘度調整液は、カーボンブラックを分散するために低粘度で調製したカーボンブラック分散液の粘度を、実際の塗布に使用する塗布液の粘度まで上昇させ、同時にカーボンブラック(P)と樹脂(B)とのP/B比を調整する目的で加えられる。したがって、通常は前記樹脂溶液に用いた樹脂と同一の樹脂を含む溶液が用いられる。
【0050】
第1の本発明では、粘度調整液としてカーボンブラック分散液に用いた樹脂溶液より粘度の高い溶液を用いる。具体的には、樹脂溶液の粘度の5〜100倍程度の粘度を有することが好ましく、より具体的には、粘度を50〜1000Pa・sの範囲とすることが好ましく、100〜500Pa・sの範囲とすることがより好ましい。
【0051】
粘度調整液の粘度が50Pa・sより低いと、カーボンブラック分散液の粘度を上げる効果が小さい場合があり、粘度1000Pa・sより高すぎると、カーボンブラック分散液と混合する際の作業が行いにくくなる場合がある。
【0052】
以上のような樹脂溶液と粘度調整液との粘度の組み合わせとしては、低粘度の樹脂溶液の粘度が1〜20Pa・sの範囲であるとき、高粘度の粘度調整液の粘度が50〜1000Pa・sの範囲であることが好ましい。また、カーボンブラック分散液の混合液量Aと粘度調整液の混合液量Bとの質量比A/Bは、1/5〜5/1の範囲とすることが好ましい。
【0053】
このように、カーボンブラックを高濃度で分散し、次いで、高粘度の溶液を加えてカーボンブラック含有量を調整することにより、分散時の液量を少なくして、分散作業の効率化を図ることができる。
【0054】
なお、後述する画像形成装置に用いられる無端ベルト用の半導電性部材に必要とされる電気抵抗値を考慮すると、混合後のカーボンブラックの含有量は、前記皮膜形成用の樹脂100質量部に対して22〜33質量部の範囲となることが好ましく、24〜32質量部の範囲となることがより好ましい。
【0055】
カーボンブラックの含有量が22質量部未満であると、例えば転写部材として半導電性部材を用いる場合抵抗が高くなってトナーを転写できなくなることがある。一方、33質量部を超えると、抵抗が低くなりすぎるとともに、皮膜がもろくなって屈曲性が低下することになる場合がある。
【0056】
カーボンブラック分散液と粘度調整液との混合は、通常液混合に用いる攪拌機等を用いて、通常の混合条件で行うことができる。カーボンブラックの分散の安定性を考慮すると、カーボンブラック分散液を攪拌しながら所定量の粘度調整液を徐々に加えていくことが好ましい。
【0057】
混合後の半導電性塗料の粘度は5〜100Pa・sとすることが好ましく、10〜50Pa・sの範囲とすることがより好ましい。具体的には、樹脂、カーボンブラックを含めた固形分量が20〜40質量%の範囲の塗料とすることが好ましい。
【0058】
−半導電性部材成形工程−
本工程では、作製した半導電性塗料を金属等の基体に塗布して、必要により乾燥、熱処理等を行って半導電性部材を成形する工程である。
以下、本発明の半導電性部材が好ましく用いられる無端ベルトの成形を例にとって説明する。
【0059】
まず、前記半導電性塗料を円筒状芯体等の基体の表面に塗布し、塗膜を形成する。この塗布方法としては浸漬塗布法や環状塗布法があるが、環状体を用いて膜厚を調整する環状塗布法を用いることが好ましい。
【0060】
基体は、アルミニウムやステンレス、ニッケル等の金属製の円筒状芯体が好ましい。円筒状芯体の長さは、目的とする無端ベルト以上の長さが必要であり、複数の無端ベルトを同時に作製する場合には、その本数分以上の長さが必要である。また、端部に生じる無効領域に対する余裕幅を確保するため、目的の長さより、10〜40%程度長いことが望ましい。
【0061】
円筒状芯体の外径は、目的とする無端ベルトの直径に合わせ、肉厚は芯体としての強度が保てる厚さにする。形成される皮膜が円筒状芯体表面に接着するのを防ぐため、円筒状芯体の表面には離型性を付与するが、それには、芯体表面をフッ素樹脂やシリコーン樹脂で被覆したり、表面に離型剤を塗布したりする方法がある。
【0062】
なお、前記PI樹脂の場合、イミド化時には残留溶剤や反応時に発生する水の蒸発があり、反応後の皮膜には部分的に膨れを生じることがあり、特に膜厚が50μmを越える場合に顕著である。この膨れを防止するために、特開2002−160239号公報開示の如く、芯体表面を粗面化することが好ましい。その方法には、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法があり、表面粗さは算術平均粗さRaで0.2〜2μmの範囲程度が好ましい。これにより、皮膜から生じる気体は、芯体と皮膜の間に形成されるわずかな隙間を通って外部に出ることができ、膨れを生じない。
【0063】
次に、前記環状体を用いる環状塗布方法の一例を説明する。
図2は、塗布中の塗布装置の概略断面図である。但し、塗布主要部のみを示し、円筒状芯体の昇降手段などの周辺部は省略した。なお、本明細書において、「円筒状芯体上に塗布する」とは、円筒状芯体の表面及び該表面に層を有する場合はその層上に塗液を塗布する意味である。また、「円筒状芯体を上昇」とは液面との相対関係であり、「円筒状芯体を停止し、塗布液面を下降」させる場合を含む。
【0064】
図2において、溶液(半導電性塗料)2を環状塗布槽7に入れ、その下部から上部へ円筒状芯体1を通過させると、塗膜4が形成され、塗布が行われる。円筒状芯体1の下には、他の円筒状芯体1’が重ねられる。環状塗布槽7の底部には、溶液2が漏れないよう、シール材8を取り付ける。シール材8は、ポリエチレンやシリコーンゴム、フッソ樹脂等の柔軟性板材から成る。塗液2の液面には、円筒状芯体1の軸方向の断面の外周外径よりも大きな円孔6を設けた環状体5を自由移動可能状態で設置する。環状体5は、塗布中は溶液2に浮上するが、静止時に浮力が不足する場合は、沈没防止のために環状体5の外周面または塗布槽に、環状体5を支える足や腕を設けてもよい。
【0065】
塗布の際は、円筒状芯体1と円孔6との間隙により、塗膜4の膜厚が調整されるので、その間隙は、所望の塗布膜厚を鑑みて調整する。円筒状芯体1の上昇速度は0.1〜1.5m/min程度であるのが好ましく、円孔6を通して円筒状芯体1を上昇させると、溶液2の介在により、円筒状芯体1と環状体5との間隙にて摩擦抵抗が生じ、環状体5は持ち上げられる。このように環状体5が持ち上げられた際、環状体5は円筒状芯体1との摩擦抵抗が周方向で一定になるように水平方向に移動し、間隙が周方向で一定になる。そこで、環状体5が円筒状芯体1と接触することはなく、常に一定間隙が保たれる。
【0066】
この塗布方法が適用できる溶液の粘度は、1〜1000Pa・sの範囲であるが、無端ベルトの塗布溶液を塗布するのに好適な溶液の粘度は、5〜100Pa・sの範囲である。したがって、本発明における前記カーボンブラック分散液は、前記の通り、カーボンブラックの含有量を調整するのに合わせて、粘度を高くするよう、粘度調整液を加えられて半導電性塗料として調製される
【0067】
前記円筒状芯体1への塗布後、塗膜4を乾燥して溶媒を除去することが行なわれる。乾燥条件は、乾燥後の塗膜に含まれる残留溶剤が30〜50質量%前後になるように設定することが好ましく、温度は100〜200℃の範囲、時間は10〜60分程度が好ましい。溶剤の乾燥を促進するために、塗膜表面には熱風を吹きつけてもよい。乾燥時、塗膜が下方に垂れないよう、円筒状芯体1の軸方向を水平にして、2〜20rpmで回転させるのが好ましい。
【0068】
次いで、円筒状芯体1を加熱して皮膜を形成する。皮膜形成樹脂がPI樹脂の場合、加熱温度は一般に250〜400℃の範囲、好ましくは300〜350℃の範囲程度である。一方、皮膜形成樹脂がPAI樹脂の場合、反応はないが、残留溶剤を完全に乾燥させるために、通常220〜320℃の範囲、好ましくは250〜300℃の範囲程度に加熱する。
【0069】
前記PI樹脂の加熱温度に関し、酸成分としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とするPI樹脂のイミド化反応は、250℃以上の温度にある時間以上置かないと完結しにくく、250℃の温度に2時間以上置くことで、イミド化がほほ完結する。時間が2時間未満の場合、イミド化が不十分であり、諸特性が十分に発揮されない。
【0070】
一方、該PI樹脂の耐屈曲性が向上するのは、300℃以上の温度で1時間以上加熱した時である。したがって、上記2条件を組み合せ、250℃の温度に2時間以上、かつ300℃以上の温度で1時間以上加熱することが、PI樹脂のイミド化を完結させ、かつ必要な耐屈曲性も獲得するために好ましい条件となる。
【0071】
上記の加熱条件について、図11に示すグラフを用いて具体的に説明する。図11の横軸は時間、縦軸は芯体の温度であり、時間の経過と共に芯体温度が上昇し、次いで下降する経過を示すものである。なお、縦軸の芯体温度は実温を測定した値であり、PI皮膜と同じ温度を示していると言えるが、加熱炉の設定温度や炉内雰囲気温度はこれより高いことがある。
【0072】
図中、条件イは、常温から300℃まで2時間で上昇させ、300℃に1時間20分保持し、常温まで1時間40分で冷却した例であり、条件ロは、常温から250℃まで1時間で上昇させ、次いで250℃から300℃まで30分間で上昇させ、300℃に1時間保持し、常温まで1時間40分かけて冷却した例である。また、条件ハは常温から250℃まで30分間で上昇させ、250℃に30分間保持し、次いで250℃から300℃まで20分間で上昇させ、300℃に1時間保持し、常温まで1時間30分かけて冷却した例である。
【0073】
加熱条件としては上記どの条件によってもよいが、条件ロは250℃まで速やかに昇温させたので、全体の所要時間は条件イより短く、条件ハはさらに条件ロより短くしたものである。但し、250℃まで急速に加熱しすぎると、温度むらが大きくなるばかりでなく、皮膜中の残留溶剤が泡になることがあるので、限度がある。また、芯体の熱容量が大きい場合、急速に加熱するのは困難なことがある。
【0074】
なお、250℃の温度に置かれる時間には、300℃以上の温度に置かれた後の冷却過程での時間も含まれる。具体的に条件イでは、点線の補助線で示した250℃に2時間、300℃に1時間20分置かれており、条件ロでは、250℃に2時間、300℃に1時間置かれ、条件ハでは250℃に2時間15分、300℃に1時間置かれている。加熱条件はこのほか各種取りうるが、本発明では要するに、250℃の温度に2時間以上、かつ300℃以上の温度に1時間以上置くことが要件である。
【0075】
一方、250℃の温度に置く時間として、4時間を越える時間は、製造時間として非効率であるばかりでなく、樹脂を劣化させる虞もあるので不要である。また、300℃以上の温度で2時間を越えて置くことは、非効率であるほか、熱エネルギーのむだにもなるので、やはり不要である。さらに、温度の上限として、400℃以上の温度では、PI樹脂の剛直性が高くなり過ぎ、耐屈曲性が逆に低下することがあるので好ましくない。ジアミン成分がパラフェニレンジアミン以外のPI樹脂の場合、温度の上限が350℃以下であることはさらに好ましい。
【0076】
一方、イミド化は、加熱時の温度むらによって反応速度のばらつきを生じやすい。一般にPI樹脂はイミド化の際に収縮することが知られているが、反応速度のばらつきがあると、収縮度合いにもばらつきを生じ、膜厚や機械的特性のばらつきの原因になって好ましくない。特にPI樹脂にカーボンブラックなどの導電性粒子を分散させてある場合、抵抗値のばらつきを生じやすい。無端ベルトを転写ベルトとして使用する場合、抵抗値のばらつきが大きいと、転写画像の濃度むらになるので好ましくない。
【0077】
温度むらを小さくするには、溶剤乾燥後のPI前駆体皮膜を加熱する時、熱風を芯体表面に直に当てない方が良い。その方法として、例えば加熱炉として、熱風が上方から吹き降りる方式の装置が好ましい。また、熱風が芯体内側を通り、芯体表面に当たらないようにすることも好ましい。
【0078】
熱風が側面から吹き出される加熱炉においては、例えば図13に示すように、円筒状芯体30に覆い32を被せて加熱炉に入れる方法もある。この場合、円筒状芯体30と覆い32の隙間は、20〜100mm程度が好ましい。たとえその隙間に熱風が入っても、皮膜に強く当たることはないので、この程度の隙間はあっても良い。円筒状芯体30への伝熱は、円筒状芯体30の内部に入る熱風によるほか、覆い32が加熱されることからくる輻射熱によってもなされる。
【0079】
冷却後、円筒状芯体を取り出し、形成された皮膜(半導電性部材)を芯体から剥離して無端ベルトを得る。無端ベルトは、端部の不要部分を切って所定長さに切断し、さらに必要に応じて、穴あけ加工やリブ付け加工、等が施されることがある。
【0080】
本発明における半導電性部材は、転写ベルトなどに用いる無端ベルト成形する場合には、厚さは75〜85μの範囲とすることが好ましい。
また、好ましい表面抵抗率は1×108Ω/□〜1×1015Ω/□の範囲、より好ましくは1×1010Ω/□〜1×1013Ω/□の範囲であり、さらに好ましくは1×1011Ω/□〜1×1012Ω/□の範囲である。
【0081】
一方、好ましい体積抵抗率は1×106Ω・cm〜1×1013Ω・cmの範囲であり、より好ましくは1×108Ω・cm〜1×1012Ω・cmの範囲であり、さらに好ましくは1×109Ω・cm〜1×1011Ω・cmの範囲である。
表面抵抗率または体積抵抗率が低すぎると、例えば、転写部材として用いる場合に転写時に電流が流れすぎて転写画像が乱れることがあり、一方、表面抵抗率または体積抵抗率が高すぎると、転写電流が流れないために転写できなくなることがある。
【0082】
また、本発明の製造方法によれば、カーボンブラックを均一かつ微細に樹脂に含有させることができるので、転写ベルトとして用いた場合、半導電性部材の使用前後での表面抵抗率の変化量(常用対数値)を±0.8logΩ以内とすることが可能となり維持性に優れたものとなる。変化量(常用対数値)が±0.8logΩを越えると転写時の濃度ムラとなることがある。
【0083】
なお、この表面抵抗率の変化量とは、表面抵抗率値を常用対数で表し、使用後の表面抵抗率値から使用前の表面抵抗率値を引いたときの値である。また、使用前後とは、100〜1000V程度の印加電圧条件で1時間程度画像出力に供した前後をいう。
【0084】
なお、前記表面抵抗率は、図3に示す円形電極(例えば、三菱油化(株)製ハイレスターIPのHRプローブ)を用い、JIS K6911に従い、22℃、55%RHにて電圧100Vを印加し、10秒後の電流値から求めた値である。図3は、円形電極の例を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)であり、円形電極は、第一電圧印加電極Aと板状絶縁体Bとを備える。第一電圧印加電極Aは、円柱状電極部Cと、該円柱状電極部Cの外径よりも大きい内径を有し、かつ円柱状電極部Cを一定の間隔で囲む円筒状のリング状電極部Dとを備える。
【0085】
第一電圧印加電極Aにおける円柱状電極部C及びリング状電極部Dと板状絶縁体Bとの間に試験片Tを挟持し、第一電圧印加電極Aにおける円柱状電極部Cとリング状電極部Dとの間に電圧V(V)を印加したときに流れる電流I(A)を測定し、下記式(1)により、表面抵抗率ρs(Ω/□)を算出することができる。ここで、下記式(1)中、d(mm)は円柱状電極部Cの外径を示し、D(mm)はリング状電極部Dの内径を示す。
ρs=π×(D+d)/(D−d)×(V/I) ・・・ 式(1)
【0086】
また、前記体積抵抗率は、図4に示す円形電極(例えば、三菱油化(株)製ハイレスターIPのHRプローブ)を用い、JIS K6911に従って、22℃、55%RHにて電圧100Vを印加し、30秒後の電流値から求めた値である。図4は、円形電極の例を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)であり、円形電極は、第一電圧印加電極A’と第二電圧印加電極B’とを備える。第一電圧印加電極A’は、円柱状電極部C’と、該円柱状電極部C’の外径よりも大きい内径を有し、且つ円柱状電極部C’を一定の間隔で囲む円筒状のリング状電極部D’とを備える。
【0087】
第一電圧印加電極A’における円柱状電極部C’及びリング状電極部D’と第二電圧印加電極B’との間に試験片Tを挟持し、第一電圧印加電極A’における円柱状電極部C’と第二電圧印加電極B’との間に電圧V(V)を印加したときに流れる電流I(A)を測定し、下記式(2)により、転写部材T’の体積抵抗率ρv(Ωcm)を算出することができる。ここで、下記式(2)中、tは転写部材T’の厚さを示す。
ρv=19.6×(V/I)×t ・・・ 式(2)
【0088】
(第2の本発明)
第2の本発明に係る半導電性部材の製造方法は、前記第1の本発明の要件を満たし、更に第1の本発明と同様の工程を含み、半導電性塗料を作製する工程において、予め、前記カーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない抵抗調整液の混合比の異なる2種以上の試験塗料を作製し、該試験塗料を用いて各々抵抗確認部材を成形し、該各々の抵抗確認部材の抵抗値から前記半導電性塗料におけるカーボンブラック分散液及び抵抗調整液の混合比を決定するものである。
ここで、上記抵抗確認部材の抵抗値とは、表面抵抗率または体積抵抗率のいずれかを意味する。以下同様である。
【0089】
前述のように、カーボンブラックを含む半導電性塗料を用いて半導電性部材を製造する場合、塗料に用いる材料のロットや、カーボンブラック分散時の条件ばらつきなどの影響により、同じ組成比で塗料を作製しても、得られる部材の抵抗値はほとんど同じにならない。これは転写部材などの精密な抵抗値制御が必要な部材として半導電性部材を製造する場合に大きな問題である。
【0090】
そこで、第2の本発明では、予めカーボンブラックを高い濃度で分散してカーボンブラック分散液を調製し、これとカーボンブラックを含まない樹脂溶液(抵抗調整液)とを混合して、その混合比の異なる2種以上の半導電性塗料を作製し、それぞれについて抵抗確認部材を成形して抵抗値を求め、これらの抵抗値から所望の抵抗値にするためのカーボンブラック分散液と抵抗調整液との混合比を決定することで、精度良く一定の抵抗値をもつ半導電性部材が得られることを見出した。
【0091】
この方法は、予め高い濃度で分散したカーボンブラック分散液を用いて半導電性試料を成形し、その抵抗値からカーボンブラック分散液とカーボンブラックを含まない抵抗調整液との混合比を決定するよりも、誤差は小さくなる。その理由は、高い濃度で分散したカーボンブラック分散液を用いた試料は、最終的に半導電性部材として所望の抵抗値よりも低く離れた抵抗値を示すので、この値からカーボンブラック分散液と抵抗調整液との混合比を決定すると、誤差が大きくなるからである。
【0092】
−半導電性塗料作製工程−
第2の本発明におけるカーボンブラック分散液、抵抗調整液に用いられる好ましい材料は、第1の本発明において説明したカーボンブラック分散液、粘度調整液に各々好ましく用いられるものと同様であり、また、カーボンブラック分散液における樹脂とカーボンブラックとの比率も同様である。
【0093】
第2の本発明においては、第1の本発明で説明したように、カーボンブラックの分散のためには低粘度で行うことが好ましいので、抵抗調整液の粘度より樹脂溶液の粘度を低くする(この場合、第2の本発明における抵抗調整液と第1の本発明における粘度調整液とは、機能的に同一のものとなる)。
【0094】
具体的には、樹脂溶液の粘度は1〜20Pa・sの範囲とし、抵抗調整液の粘度は50〜1000Pa・sの範囲とすることが好ましい。このとき、樹脂溶液の固形分濃度は10〜40質量%の範囲とすることが好ましく、抵抗調整液の固形分濃度は10〜40質量%の範囲とすることが好ましい。また、カーボンブラックの分散は、特に制限されないが、第1の本発明で説明した衝突型分散機を用いて行うことが好ましい。
【0095】
第2の本発明では、半導電性塗料におけるカーボンブラック塗料と抵抗調整液との混合比を、例えば2種以上の試験塗料を用いた抵抗確認部材の表面抵抗率から決定する。
すなわち、塗料中のカーボンブラック含有量と該塗料から成形される部材の表面抵抗率は比例関係にあるため、図5の抵抗調整液の混合比と部材の表面抵抗率との関係に示すように、抵抗調整液の混合比と部材の表面抵抗率との関係も比例関係となる。したがって、所望の抵抗値を跨るように任意の混合比P、Qの試験塗料を調整しそれらの部材としての表面抵抗率を確認すれば、比例計算により最適混合比Rを決定することができる。
【0096】
なお、上記混合比の決定法に関して、表面抵抗率により説明したが、体積抵抗率の確認によっても同様に行うことができる。
【0097】
上記混合比の異なる2種以上の試験塗料を作製し、それぞれについて抵抗確認部材を成形する際、目的とする半導電性部材そのものを抵抗確認部材としても可であるが、抵抗値の相関がとれれば、目的とする部材より小さなテストピース等でも可能であり、試料作製時の塗料使用量の削減や作業のしやすさ等のために好ましい。
【0098】
前記テストピースとして、形状が板状のものを用いる場合、試験塗料の塗布方法は、ワイヤーバーや、掻き取りブレードや、棒を使用した簡便な方法をとることができる。具体的には、例えば図6に示すように、金属等の基板10上に一定の厚さを有する粘着テープ12を必要なテストピースの形の型となるように貼り付け、端部に液溜まりとして配置した試験塗料16を掻き取り棒14により矢印方向に広げて試験塗膜を作製する。
【0099】
この状態を図6の左側から見ると、図7に示すようになる。図7(A)は塗膜形成直前の状態を示すが、基板10の左端に配置された試験塗料16は、掻き取り棒14が矢印方向にスライドすることによって広げられる。その結果、図7(B)の断面図に示すように、一定の厚さ(高さ)を有する粘着テープ12によって囲まれた部分には一定の厚さの試験塗料が充填される。最後に図7(C)に示すように、粘着テープ14を剥がせば基板10上に一定厚みの試験塗膜が形成されることとなる。その後、これをそのまま加熱すれば抵抗確認用のテストピースが得られる。
【0100】
このような方法でテストピースを作製することによって、常に一定の大きさ、厚さのテストピースを簡易的に得ることができ、また、抵抗確認部材としての抵抗値のばらつきを少なくすることができる。
テストピースの面積は50mm×200mm程度、厚みは2〜10mm程度とすることが好ましい。
【0101】
一方、板状のテストピースよりは、大きさは小さくても、実際の無端ベルトに合わせるために、円筒状のテストピースも好ましい。
円筒状のテストピースの場合、簡便な塗布方法として、図8に示すように、試験塗料26を付着させた金属等の円柱基体20を回転させてこれに掻き取り棒を押し当てて塗布する方法が採用できる。その際、所望の膜厚を得るには、例えば円柱基体20表面の両端部に所望の厚さの粘着テープ22を巻いて、円柱基体20の表面から段差を持たせ、その間隙に試験溶液26を付着させ、円柱基体20を回転させて掻き取り棒を押し当てて掻きとることが好ましい。
【0102】
その状態を図8の左側から見ると、図9(A)に示すようになる。図9(A)は回転する円柱基体20に掻き取り棒24を押し当てている状態を示すが、円柱基体20に付着させた試験塗料26は、掻き取り棒24が押し当てられることにより一定膜厚の塗膜に広げられる(図では粘着テープを省略している)。その結果、図9(B)に示すように、一定の厚さ(高さ)を有する粘着テープ12によって囲まれた部分には一定の厚さの試験塗料が充填される。最後に図7(C)に示すように、粘着テープ24を剥がせば円柱基体20上に一定厚みの試験塗膜が形成されることとなる。その後、これをそのまま加熱すれば抵抗確認用のテストピースが得られる。
【0103】
このような方法でテストピースを作製することによって、実際の無端ベルト製造と同様の条件で、一定厚さのテストピースを簡易的に得ることができ、また、抵抗確認部材としての抵抗値のばらつきを少なくすることができる。
この場合の円柱基体20の外径は30〜80mm、長さは100〜500mmとするこが好ましく、また、テストピースの厚みは1〜5mm程度とすることが好ましい。
【0104】
なお、抵抗値の相関を正確にとるためには、上記抵抗確認用の試験塗膜の加熱処理も実際の無端ベルト等の製品と同じ条件で行わないと、誤差を生じる原因になる。そこで、前記基板10や円柱基体20に試験塗料を塗布したものを、製品の半導電性部材を成形する工程と同じ条件で乾燥・焼成等の加熱処理をすることが、抵抗を確実に合わせることができるため好ましい。
上記半導電性部材を成形する工程と同じ条件としては、第1の本発明において無端ベルトの加熱処理条件として例示した条件が好ましい。
【0105】
−半導電性部材成形工程−
上記のようにして作製した半導電性塗料を用いて半導電性部材を成形する工程の詳細は、第1の本発明において説明した内容と同様である。第2の本発明により製造された半導電性部材は、前述の好ましい表面抵抗率、体積抵抗率の範囲において所望の抵抗値に精度よく制御されたものであり、また、第1の本発明のように調製したカーボンブラック分散液を用いれば、同様に使用前後での表面抵抗率の変化量が少ないものとして製造することができる。
【0106】
<無端ベルト>
本発明の無端ベルトは、前記各製造方法により作製される半導電性部材を用いてなる。無端ベルトを構成する好ましい材料、好ましい製造方法は前述の通りである。無端ベルトの厚さは、75〜85μmの範囲であることが好ましい。
【0107】
本発明の無端ベルトは、前記各製造方法により作製される半導電性部材を用いているため、常に抵抗値が所望の範囲内にあるものとして得ることができる。また、前述のように、カーボンブラック分散性に優れた半導電性部材をも得ることができるので、無端ベルトとしても使用前後での抵抗値の変化や抵抗値ばらつきが少ない。
【0108】
また、酸成分としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とし、前記の好ましい条件で加熱処理して得られたPI樹脂からなる半導電性部材では、MIT試験による耐屈曲回数を1000回以上確保できるので、これにより作製された無端ベルトは、破断に対して強いものとなる。
【0109】
なお、膜厚は、ダイヤルゲージや渦電流式膜厚計などで測定でき、MIT試験による耐屈曲回数は、既製のMIT試験機(例えば上島製作所製や東洋精機製作所製)で測定することができる。通常、MIT試験による耐屈曲回数の測定には誤差が大きいので、本発明においては、無端ベルトから10点以上の試験片を取り、耐屈曲回数を測定し、その平均値が1000回以上であることを要件とする。さらに、各測定値全てが1000回以上であることが好ましい。
【0110】
本発明の無端ベルトを転写ベルトとして用いる場合、抵抗値は、体積抵抗率で107〜1013Ωcm、表面抵抗率で108〜1013Ω/□程度であるのが好ましいが、ばらつきはその中心値に対して、それぞれ1桁以下の範囲内であるのがよい。前記本発明の半導電性部材の製造方法では、半導電性部材を上記抵抗範囲の所望の抵抗値に容易に制御することができる。
【0111】
また、前述のようにイミド化時の温度むらを小さくして加熱したものは、耐屈曲回数や抵抗値のむらが小さくなっているので好ましい。
【0112】
本発明の無端ベルトから定着ベルトを製造するには、樹脂表面にトナーの付着を防止するために、非粘着性被膜を形成する。非粘着性の材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂層の厚さは5〜50μmが好ましく、10〜45μmがより好ましい。
【0113】
フッ素樹脂層を形成するには、その水分散液を塗布して焼き付け加工する方法を適用することが好ましい。塗布方法としては、PI前駆体皮膜を形成した芯体を、フッ素樹脂分散液に浸漬し、次いで上昇させて、フッ素樹脂の塗膜を形成する浸漬塗布方法が、塗膜の平滑性や膜厚の均一性の面で好ましい。
【0114】
塗布後、溶媒を乾燥し、フッ素樹脂を焼成する。焼成の際に、PI前駆体皮膜のイミド化処理を同時に行ってもよい。
【0115】
本発明の無端ベルトを感光体に適用する場合、無端ベルト表面に導電層を設け、必要に応じて下引き層を形成した後、感光層を形成する。感光層には、単層型と、電荷発生層(CGL)と電荷輸送層(CTL)に機能分離した積層型がある。
【0116】
CGLはフタロシアニン顔料、ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料等を、ポリビニルブチラール、ポリエステル、アクリル系などのバインダー樹脂に分散して塗布される。
CTLはヒドラゾン化合物、スチルベン化合物、ベンジジン化合物、ブタジエン化合物、トリフェニルアミン化合物などの電荷輸送剤を、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステルなどのバインダー樹脂と混合して塗布される。
CGLの膜厚は、0.05〜1μm程度、CTLの膜厚は、15〜40μm程度が一般的である。上記各層の形成は、環状塗布法や他の公知の方法で行ってよい。各層形成の際、特開2003−337434号公報開示のように、芯体上の無端ベルトを取り外さない状態で各層を塗布し、全てができた後に芯体から取り外すのがよい。
【実施例】
【0117】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。
<各特性の測定方法>
まず、下記の実施例等において用いた特性測定方法について説明する。
(カーボンブラックの数平均粒子径)
各例において、ポリアミド酸ワニスにカーボンブラックを分散した分散液について、大塚電子製の動的光散乱式測定器PAR−IIIを用いて測定を行った。測定条件はclock rate:100μs、accumulate time:10回、correlate ch:128、温度:20℃、溶媒:NMPである。このときの個数基準平均粒子径のメジアン値を数平均粒子径とした。
【0118】
(表面抵抗率)
表面抵抗率の測定は、図3に示す円形電極(三菱油化(株)製ハイレスターIPのHRプローブ、円柱状電極部Cの外径:16mm、リング状電極部Dの内径:30mm、外径:40mm)を用い、電圧100Vを印加し、10秒後の電流値を求めて算出した。
【0119】
(体積抵抗率)
体積抵抗率の測定は、図4に示す円形電極(三菱油化(株)製ハイレスターIPのHRプローブ、円柱状電極部Cの外径:16mm、リング状電極部Dの内径:30mm、外径:40mm)を用い、電圧100Vを印加し、30秒後の電流値を求めて算出した。
【0120】
〔第1の本発明に関する試験例〕
<実施例1−1>
低粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとが等モル含まれるポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が5Pa・s)100質量部に、カーボンブラック(Degussa製、SpecialBlack4、pH:3、揮発分:14質量%)を14.4質量部添加して混合しカーボンブラック混合液とし、衝突型分散機であるジーナス製「Geanus PY、衝突部の最小部断面積0.032mm2」を用い、圧力を200MPaで前記カーボンブラック混合液を2分割後衝突させ、再度2分割する経路を5回通過させて分散した。分散に要した時間は、12時間であった。次いで、目開き25μmのステンレス焼結フィルターを用いてろ過し、粗大粒子物類を除去し、カーボンブラック分散液を得た。分散液の収率は93%であった。
【0121】
上記カーボンブラック分散液100質量部に、高粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとが等モル含まれるポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が140Pa・s)を150質量部添加し、プラネタリー型ミキサーを使用して減圧状態で30分間攪拌した。攪拌後2時間真空脱泡して、粘度が46Pa・sの半導電性塗料を得た。
この半導電性塗料の特性を表1に示す。
【0122】
別途、外径366mm、肉厚10mm、長さ450mmのアルミニウム製円筒を用意し、ブラスト処理により、表面を算術平均粗さRaで1.0μmに粗面化した。次いで、円筒の表面にシリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布し、円筒状芯体とした。
【0123】
図2に示す環状塗布装置において、内径500mm、内高80mmの環状塗布槽7の底面に内径386mmの穴をあけ、底面の裏面には、内径362mmの穴を有する厚さ0.5mmの硬質ポリエチレン製の環状シール材8を取り付けた。環状塗布槽7の側面には、下から20mmの位置に、内径9mmのフッ素樹脂チューブが取り付けられる供給口を、60°間隔で6箇所設置した。
【0124】
環状体5として、外径420mm、円孔6の最小部の内径367.1mm、高さ50mmのアルミニウム製のものを作製した。内壁は直線傾斜状であり、鉛直線との傾斜角は7°とした。上端には円筒状芯体と平行になる部分を2mm形成したが、その内径の真円度は8μmであった。
【0125】
環状塗布装置の中央に円筒状芯体1を通し、環状体5を配置した後、加圧容器(図示せず)から0.5MPaの圧力で、環状塗布槽7に前記半導電性塗料を注入した。該塗料が環状塗布槽7を満たした後、液面の高さが50mmになった時点で、塗料の注入を停止した。次いで、円筒状芯体1の下にもう一つの円筒状芯体1’を配置し、約0.8m/分で押し上げて塗布を行った。その際、環状体5は約20mm持ち上げられた。これにより、円筒状芯体1には、濡れ膜厚が約500μmのPI前駆体塗膜4が形成された。
【0126】
塗布後、円筒状芯体1を水平にし、6rpmで回転させながら、80℃で20分間、130℃で30分間、加熱してPI前駆体塗膜を乾燥させた。これにより、厚さ約150μmのPI前駆体皮膜を得た。次いで、円筒状芯体1を垂直にし、加熱装置に入れて200℃で30分、320℃で30分加熱反応させ、円筒状のPI樹脂皮膜(半導電性部材)を形成した。
【0127】
室温に冷えた後、皮膜を円筒状芯体1から抜き取り、上記半導電性部材を用いた無端ベルトを得た。この無端ベルトの初期の表面抵抗率、体積抵抗率を表1にまとめて示す。
【0128】
得られたPI樹脂無端ベルトを、カラーレーザープリンタDocuPrint C2220(富士ゼロックス社製)に転写ベルトとして組み込み、10℃、15%RHの環境でA4縦サイズの用紙を用いて30000枚コピーを行い、3000枚コピー後、用紙が通過しなかった部分の無端ベルトの表面抵抗率を前述の方法で測定し、テスト前の表面抵抗率からテスト後の表面抵抗率を差し引いて表面抵抗率の変化量(常用対数値)を求めた。
結果を表1に示す。なお、この変化量(常用対数値)が±0.8logΩを越えると転写時の濃度ムラとなる。
【0129】
<実施例1−2>
低粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが等モル含まれるポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が20Pa・s)100質量部に、カーボンブラック(Degussa製SpecialBlack4、pH:3、揮発分:14質量%)を11.2質量部添加し、衝突型分散機であるジーナス製「Geanus PY、衝突部の最小部断面積0.032mm2」を用い、圧力を200MPaで溶液を2分割後衝突させ、再度2分割する経路を5回通過させて分散した。分散に要した時間は、12時間であった。次いで、目開き25μmのステンレス焼結フィルターを用いてろ過し、粗大粒子物類を除去し、カーボンブラック分散液を得た。
【0130】
上記カーボンブラック分散液100質量部に、高粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとが等モル含まれるポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が80Pa・s)を100質量部添加し、プラネタリー型ミキサーを使用して減圧状態で30分間攪拌した。攪拌後2時間真空脱泡して、粘度が49Pa・sの半導電性塗料を得た。
【0131】
この半導電性塗料を使用して実施例1と同じ方法で無端ベルトを作製し、同様の評価を行った。半導電性塗料の特性、無端ベルトの初期抵抗値、表面抵抗率変化量(常用対数値)をまとめて表1に示す。
【0132】
<比較例1−1>
低粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを等モル含むポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が35Pa・s)100質量部に、カーボンブラック(Degussa製SpecialBlack4、pH:3、揮発分:14質量%)を5.6質量部添加し、衝突型分散機であるジーナス製「Geanus PY、衝突部の最小部断面積0.032mm2」を用い、圧力を200MPaで溶液を2分割後衝突させ、再度2分割する経路を5回通過させて分散した。分散に要した時間は、14時間であった。次いで、目開き25μmのステンレス焼結フィルターを用いてろ過し、粗大粒子物類を除去し、カーボンブラック分散液を得た。
【0133】
このカーボンブラック分散液をそのまま塗布液として使用して、実施例1と同じ方法で無端ベルトを作製し、同様の評価を行った。
カーボンブラック分散液の特性と無端ベルトの初期抵抗値、表面抵抗率変化量(常用対数値)をまとめて表1に示す。
【0134】
<比較例1−2>
低粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを等モル含むポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が35Pa・s)100質量部に、カーボンブラック(Degussa製SpecialBlack4、pH:3、揮発分:14質量%)を11.2質量部添加し、衝突型分散機であるジーナス製「Geanus PY、衝突部の最小部断面積0.032mm2」を用い、圧力を200MPaで溶液を2分割後衝突させ、再度2分割する経路を5回通過させて分散した。分散に要した時間は、35時間であった。次いで、目開き25μmのステンレス焼結フィルターを用いてろ過し、粗大粒子物類を除去してカーボンブラック分散液を得た。
【0135】
上記カーボンブラック分散液100質量部に、高粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを等モル含むポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が35Pa・s)を100質量部添加し、プラネタリー型ミキサーを使用して減圧状態で30分間攪拌した。攪拌後2時間真空脱泡して、粘度が46Pa・sの半導電性塗料を得た。
【0136】
この半導電性塗料を使用して実施例1と同じ方法で無端ベルトを作製し、同様の評価を行った。
半導電性塗料の特性、無端ベルトの初期抵抗値、表面抵抗率変化量をまとめて表1に示す。
【0137】
<実施例1−3>
実施例1において使用したものと同一の低粘度ワニス及びカーボンブラックを用い、低粘度ワニス100質量部にカーボンブラックを14質量部添加したものを、横型サンドミル(Dyno社製、Dynomill KDL)に直径2mmのジルコニアビーズを内容積の約60体積%充填し、直径90mmの攪拌羽を回転数1592rpmで回転させたところへ5回通して分散を行った。分散時間は12時間であった。次いで、目開き25μmのステンレス焼結フィルターを用いてろ過し、粗大粒子物類を除去し、カーボンブラック分散液を得た。分散液の収率は78%であった。
【0138】
上記カーボンブラック分散液100質量部に、高粘度ワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを等モル含むポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が140Pa・s)を150質量部添加し、プラネタリー型ミキサーを使用して減圧状態で30分間攪拌した。攪拌後2時間真空脱泡して、粘度が47Pa・sの半導電性塗料を得た。
【0139】
この半導電性塗料を使用して実施例1と同じ方法で無端ベルトを作製し、同様の評価を行った。
半導電性塗料の特性、無端ベルトの初期抵抗値、表面抵抗率変化量(常用対数値)をまとめて表1に示す。なお、表1において「分散時間」とは最終的な塗料100質量部あたりの分散時間として換算したものである。また、CBとはカーボンブラックの略である。
【0140】
【表1】
【0141】
表1に示すように、実施例で作製した半導電性塗料はカーボンブラックの分散性が良好であり、使用前後の表面抵抗率の変化量も少なかった。一方、比較例では、カーボンブラックの分散性がやや悪く、その結果表面抵抗率の安定性も悪化した。
【0142】
〔第2の本発明に関する試験例〕
<実施例2−1>
まず、実施例1−1と同様にして、カーボンブラック分散液を作製した。このカーボンブラック分散液100質量部に、抵抗調整液としてカーボンブラックを含まないワニス(ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを等モル含むポリアミド酸のNMP溶液で、イミド転化後の固形分率が18質量%、粘度が140Pa・s)を各々141.9質量部、156.2質量部の混合比で混合し、脱泡して、試験塗料を2種作製した。
【0143】
厚さ10mm、大きさ150mm×150mmのアルミ板上の周囲に、図6に示すように厚みが約500μmの粘着テープ12を張り、直径8mmのSUS304製掻き取り棒14を端部に配置した。次いで、掻き取り棒14の近くに前記試験塗料16の液溜りをつくり、掻き取り棒14を矢印方向にゆっくりスライドさせることにより、濡れ膜厚が約500μmの塗膜を各塗料ごと各々2枚ずつ形成した。これらを165℃の連続式乾燥機内で22分間乾燥させ、次いで、加熱装置に入れて320℃で30分加熱反応させ、PI樹脂の抵抗確認部材を作製した。
【0144】
このPI樹脂皮膜を板から剥がし、表面抵抗率を測定したところ、抵抗調整液を141.9質量部混合した部材が2.14×1010Ω/□、2.51×1010Ω/□であり、156.2質量部混合した部材が2.24×1011Ω/□、2.75×1011logΩ/□であった。これらの結果から、最小二乗法により所望の抵抗値である6.31×1010Ω/□となる抵抗調整液の混合比を算出すると、147.7質量部となった。
【0145】
上記の結果から、前記カーボンブラック分散液100質量部に対し、前記抵抗調整液を147.7質量部添加し、プラネタリー型ミキサーを使用して減圧状態で30分間攪拌し、その後2時間真空脱泡して半導電性塗料を得た。
この半導電性塗料を用いて、実施例1−1と同様にして円筒状の半導電性部材を作製し、室温に冷えた後、皮膜を円筒状芯体から抜き取り、無端ベルトを得た。この方法で同じ塗布液から20本の無端ベルトを作製して、表面抵抗率の平均を求めた。
【0146】
以上のカーボンブラック分散液調製から抵抗調整液の混合比決定、無端ベルトの作製及びそれらの表面抵抗率測定までを計5回繰返した。
それらの各々の決定された混合比、半導電性部材の表面抵抗率の平均値の結果をまとめて表2に示した。
【0147】
【表2】
【0148】
<比較例2−1>
実施例2−1において、半導電性塗料の作製を抵抗確認部材の作製を行わずに、カーボンブラック分散液100質量部に対して抵抗調整液を実施例2−1における5回の分散の平均混合比である144.0質量部として塗料を作製し、同様に無端ベルトを作製して表面抵抗率の測定を行った。
同様のカーボンブラック分散から無端ベルト作製及び表面抵抗率測定までを計5回繰返した。各々の半導電性部材の表面抵抗率の平均値の結果をまとめて表3に示した。
【0149】
【表3】
【0150】
表2の結果のように、実施例では5回の分散液ロットの塗布液を使用したロット間のベルトの抵抗ばらつきは小さいことがわかる。一方、表3に示した比較例では、分散5回でかなり表面抵抗率がばらついてしまうことがわかる。
【0151】
<参考例1>
芯体として、外径30mm、長さ400mmのアルミニウム管を用意し、球形アルミナ粒子によるブラスト処理により、表面をRa:0.3μmに粗面化した。その表面にシリコーン系離型剤(商品名:KS700、信越化学(株)製)を塗布して、250℃で1時間、焼き付け処理した。次いで、芯体1を図2に示すように、環状塗布槽7に通し、その下にも他の芯体1’を取り付けた。
【0152】
PI前駆体として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、パラフェニレンジアミンとをN−メチル−2−ピロリドン中で等モル反応させた、固形分濃度18%、粘度約50Pa・sの溶液を用意した。これを内径80mm、高さ50mmの環状塗布槽7に入れた。環状塗布槽の中央には内径29mmの穴を設けた0.5mm厚の硬質ポリエチレン製の環状シール材8を取り付けた。
【0153】
環状体5として、高さが25mm、外径が60mmで、最も狭い部分の内径が31.2mmの孔6を設けたポリアセタール樹脂製の中空体を作製した。その内壁は傾斜面であり、鉛直線となす傾斜角は7°とした。また、孔6の真円度は13μmであった。環状体の外側面には、長さ30mm、太さ0.5mmのステンレス棒材からなるアームを3本、等間隔に取り付けた。そのアームを環状塗布槽7の上縁に載せて塗液上に設置した。
【0154】
次に、環状体5の液面からの高さを目視によって検出しながら、芯体1を0.8m/minの速度で上昇させたところ、環状体5はすぐに液面より約15mm持ち上げられ、さらに環状体5の高さは増した。そこで、速度を徐々に減じ、芯体1が約60mm上昇した時点で、環状体5の高さは20mmで安定したので、芯体の上昇速度を一定にした。その時の速度は0.6m/minであった。
【0155】
芯体1の上昇途中で環状体5が芯体1に接触することはなく、濡れ膜厚が約600μmの塗膜4が形成された。塗布後から約1分後、芯体を取り出して水平にして、10rpmで回転させながら、120℃で30分間乾燥した。
【0156】
次いで芯体1を縦にして加熱炉に入れ、芯体内面に熱電対線を貼り付けて温度を測定しながら、芯体の加熱を行った。条件は図12のニに示すように、250℃まで30分で上昇させ、250℃に30分間保持し、次に380℃に20分間で上昇させ、380℃に40分間保持した後、1時間30分かけて常温に戻した。
この条件では、250℃に2時間10分、300℃以上の温度に1時間15分、置かれている。なお、380℃というのは後述するPFAが焼成できる温度である。
【0157】
芯体1が室温に冷えてから皮膜を取り出し、PI樹脂製の無端ベルトを得た。膜厚は80μmでほぼ均一であった。無端ベルトを切り開いて10箇所から試験片を切り取り、MIT試験機(上島製作所製FT701型)にて、破断が起こるまでの屈曲回数を測定したところ、最大値3900回、最小値3150回、平均値3540回という結果が得られた。
【0158】
別途、PI前駆体溶液を塗布して乾燥させた芯体1に対し、一端の皮膜端部に粘着テープで被覆処理をした。また、PFAの水性塗料(商品名:710CL、三井デュポンフロロケミカル社製、濃度60%、粘度400mPa・s、溶媒として水のほかに、エタノール、t−ブタノールを含む)を、内径90mm、高さ480mmの塗布槽に入れ、この中に、前記芯体1を、被覆を下側にして垂直にし、上部のPI前駆体皮膜を5mmだけ残して浸漬した。次いで0.3m/分の速度で引き上げ、PFA塗膜を形成した。
【0159】
80℃で10分間の乾燥後、被覆を除去した。その後、前記の条件で加熱してPI前駆体を反応させてPI樹脂皮膜を形成すると共に、PFA塗膜を焼成した。室温に冷えた後、芯体1から皮膜を取り外し、無端ベルトを得た。PI樹脂とPFA層の密着性は強固であった。膜厚を測定すると、PI樹脂は80μm、PFA層は30μmであった。この無端ベルトを320mmの長さに切断して、定着ベルトとした。
【0160】
この定着ベルトを特開平11−133776号公報記載にある定着装置に使用し、画像定着試験を行った。該定着装置内では、定着ベルトは変形を受けながら回転が繰り返されるが、A4用紙5万枚の耐久試験を行っても、定着ベルトは何ら支障なく使用することができた。但し、PFA層の磨耗のため、約10万枚で定着ベルトとしての寿命が尽きるものがあったが、PI樹脂層の問題はなかった。
【0161】
<参考例2>
参考例1において、PI樹脂の加熱条件として、図12のホに示すように、380℃まで1時間で上昇させ、次に380℃に40分間保持した後、1時間20分かけて常温に戻した。この条件では、250℃に1時間30分、300℃以上の温度に1時間15分、置かれていることになり、250℃での時間が不足である。実施例1と同様にしてMIT試験機にて破断が起こるまでの屈曲回数を測定したところ、最大値1200回、最小値750回、平均値940回という結果であった。
【0162】
やはり表面にPFA層を形成して定着ベルトを作製し、同様にして評価したところ、A4用紙約4万枚にて、定着ベルトは端部からひびが入り、破断が起こった。定着ベルトは繰り返して変形を受けるため、耐屈曲性が劣るものは、寿命が短いという結果であった。
【0163】
<参考例3>
実施例1と同様にして、円筒状芯体に塗膜を形成した。次いで、3分以内に芯体の軸方向を水平にし、6rpmで回転させながら、140℃で30分間乾燥した。乾燥機内では、熱風が上方から約5m/sの速度で吹き降りて芯体に当たっている。
【0164】
次いで芯体を縦にして、図13に示すように、芯体32の外側に、厚さ0.5mm、直径460mmのステンレス円筒からなる覆い30を取り付けて加熱炉に入れた。その中では熱風が側面から約2m/sの速度で流れていたが、覆い30があるため、芯体32に直に熱風が当たることはなかった。次いで、図11の条件イに示すように、常温から300℃まで2時間で上昇させ、300℃に1時間20分保持し、常温まで1時間40分で冷却した。この場合、250℃に2時間、300℃に1時間20分置かれたことになる。室温に冷えてから皮膜を取り出すことにより、PI樹脂製の無端ベルトを得ることができた。
【0165】
膜厚を測定すると、上端部から30mmを除いて、80μmで均一であった。上端部から30mm内の膜厚は、周方向で厚い部分と薄い部分があったが、これは、環状体が水平方向に移動して、芯体との間隙が均一に合うまでに、多少の時間がかかったためと考えられる。
【0166】
次に、参考例1の場合と同様に、ベルトを切り開いて10箇所から試験片を切り取り、MIT試験機にて、破断が起こるまでの屈曲回数を測定したところ、最大値1800回、最小値1100回、平均値1550回という結果が得られた。
また、無端ベルトを切り開いた後、体積抵抗を細かく測定した結果を図14に示す。図の横軸は無端ベルトの周方向の位置、縦軸は無端ベルトの軸方向の位置を示し、目盛は任意座標であり、図中の数値は体積抵抗の指数を示す。この結果によれば、体積抵抗は109.1〜109.4Ωcmの範囲であり、ばらつきは小さかった。
この無端ベルトは電子写真用転写ベルトとして使用することができ、直径20mmのロールに張架して、A4用紙5万枚の通紙耐久試験を行っても、転写ベルトは何ら支障なく使用することができた。
【0167】
<参考例4>
参考例3において、イミド化の加熱条件として、常温から300℃まで2時間で上昇させ、300℃に30分間保持し、常温まで1時間40分で冷却した。この場合、250℃に1時間、300℃に30分間置かれたことになる。他は同様にして無端ベルトを作製し、実施例2と同様に破断が起こるまでの屈曲回数を測定したところ、最大値1100回、最小値700回、平均値850回という結果であった。
この無端ベルトを直径20mmのロールに張架して電子写真用転写ベルトとして使用した場合、A4用紙の通紙耐久試験を行うと、約2万枚で転写ベルトは端部から破断が生じ、耐久性は不足する結果であった。
【符号の説明】
【0168】
1、32…円筒状芯体、2…溶液、3…軸、4…塗膜、5…環状体、6…環状体の円孔、7…環状塗布槽、8…シール材、10…基板、12、22…粘着テープ、14…掻き取り棒、16、26…試験塗料、20…円柱基体、30…覆い、50…第1流路管、52…連結管、54…第2流路管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む樹脂溶液にカーボンブラックを分散したカーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない粘度調整液を混合して半導電性塗料を作製する工程と、該半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形する工程と、を含む半導電性部材の製造方法であって、
粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液にカーボンブラックを分散させて前記カーボンブラック分散液を調製し、該カーボンブラック分散液と前記樹脂溶液より粘度の高い粘度調整液とを混合して前記半導電性塗料を作製することを特徴とする半導電性部材の製造方法。
【請求項2】
前記粘度調整液は少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む請求項1に記載の半導電性部材の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンブラックの分散を、2つ以上に分割したカーボンブラック混合液を、150MPa以上の圧力で衝突させて行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導電性部材の製造方法。
【請求項4】
予め、前記カーボンブラック分散液及び前記粘度調整液の混合比の異なる2種以上の試験塗料を調製し、該試験塗料を用いて各々抵抗確認部材を成形し、該各々の抵抗確認部材の抵抗値から前記半導電性塗料におけるカーボンブラック分散液及び粘度調整液の混合比を決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導電性部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導電性部材の製造方法により得られる半導電性部材を用いたことを特徴とする無端ベルト。
【請求項1】
少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む樹脂溶液にカーボンブラックを分散したカーボンブラック分散液及びカーボンブラックを含まない粘度調整液を混合して半導電性塗料を作製する工程と、該半導電性塗料を塗布して半導電性部材を成形する工程と、を含む半導電性部材の製造方法であって、
粘度が1〜20Pa・sの範囲の樹脂溶液にカーボンブラックを分散させて前記カーボンブラック分散液を調製し、該カーボンブラック分散液と前記樹脂溶液より粘度の高い粘度調整液とを混合して前記半導電性塗料を作製することを特徴とする半導電性部材の製造方法。
【請求項2】
前記粘度調整液は少なくとも樹脂または樹脂前駆体を含む請求項1に記載の半導電性部材の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンブラックの分散を、2つ以上に分割したカーボンブラック混合液を、150MPa以上の圧力で衝突させて行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導電性部材の製造方法。
【請求項4】
予め、前記カーボンブラック分散液及び前記粘度調整液の混合比の異なる2種以上の試験塗料を調製し、該試験塗料を用いて各々抵抗確認部材を成形し、該各々の抵抗確認部材の抵抗値から前記半導電性塗料におけるカーボンブラック分散液及び粘度調整液の混合比を決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導電性部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導電性部材の製造方法により得られる半導電性部材を用いたことを特徴とする無端ベルト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−113315(P2012−113315A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−34458(P2012−34458)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【分割の表示】特願2005−276069(P2005−276069)の分割
【原出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【分割の表示】特願2005−276069(P2005−276069)の分割
【原出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
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