説明

単一ウイルス粒子のナノアレイ、その製造および使用のための方法および器具

ディップ・ペン・ナノリソグラフィを含むリソグラフィによって作製されるナノアレイテンプレート上で、TMVなどのウイルス粒子のサイト分離および配向を制御するための、新規な配位化学または金属イオン結合アプローチである。多くのウイルスに固有の表面の化学的性質を用いることによって、金属イオンに基づく化学または無機の配位化学を用いて、個々のウイルス粒子を、遺伝子改変を必要とすることなく固定化した。単一粒子の制御によって、ウイルス構築物とアレイを構成する装備との間のサイズの不一致によりマイクロアレイが不可能であったウイルスを含む広範な研究が可能となる。これらには以下が含まれる:単一粒子、単一細胞感染性の研究、材料合成および分子電子工学におけるテンプレートのような構造物の探索、ならびに表面の提示がその生物活性にいかに影響しうるかの理解を目的とした研究。これは、単一粒子レベルでのそのような制御の先駆的な例であり、従って、生物学的システムにおけるナノアレイの商業的な使用である。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本願は、全体の内容が参照により本明細書に組み入れられる2005年8月31日出願の仮特許出願第60/712,432号(Mirkin et al.)の優先権の恩典を主張するものである。本願はまた、全体の内容が参照により本明細書に組み入れられる、2006年6月13日出願の米国PCT特許出願第 号を表すPCT出願“Metal Ion-Based Immobilization”(Mirkin et al.)の優先権も主張するものである。
【0002】
政府の権利
本発明は以下の助成金のもとで政府の援助を受けてなされた:Air Force Office of Science Research(AFOSR)助成金MURI F49620-00-1-0283、NIH助成金1DP1OD000285-01;NSF/NSEC助成金EEC-0118025;DARPA/AFOSR助成金FA9550-05-1-0348;およびARO-MURI 28065-3-A1//W91NF-04-1-071。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
背景
マイクロアレイ技術は、医学および生物学の研究の多くの領域における大きな進歩をもたらし[1]、一塩基多型(SNP)のコンビナトリアルスクリーニングおよび同定[2]、タンパク質の高感度発現プロファイリング[3、4]、およびタンパク質機能のハイスループット解析[5]の手段をもたらした。しかしながら、ピンアレイ用いたスポッティング、インクジェットプリンティング、またはフォトリソグラフィの派生方法などの現在のマイクロアレイ技術は、その技術によって、それらの実際の分解能である数百〜数十μmに制限される。製造されたアレイの電荷密度、および配置された別個の生物学的実体の数(タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、および特に、ウイルスまたは細胞成分のようなそれらの複合体または集合体を含むがこれらに限定されない)は制限される。従って、該生物学的実体の数μmおよびμm未満のスケールのアレイを可能とする方法が必要とされている。
【0004】
さらに、現在製造されているマイクロアレイの各サイトの寸法は、典型的には、配置される個別の生物学的分子または集合体のサイズよりもずっと大きい。従って、多数の該実体が各サイトに存在し、これら全体の統計的、集合的な挙動しか調べることができない。例えば、綿密に選択された表面の化学的性質を用いて綿密に選択された時間にわたって、生物学的粒子の非常に希薄な溶液を固体基板に接触させ、任意でその後リンスする工程を行うことによって、単離された生物学的粒子を固体基板上にランダムに配置していた。この方法は、任意の対照が該粒子の電荷密度および配置を上回る場合にはほとんど提示しない。従って、単一粒子レベルで、正確な位置付けとともにナノ-およびマイクロスケールの生物学的実体を「サイト分離する(site-isolate)」可能性を有する、ナノメートルの長さのスケールまでの小型化の方法が必要とされている。そのような方法を用いて、生化学および生物医学の研究界では、そのような実体について、集合的にではなく個別に調べることが可能になった。サイト分離は、薬物発見の間の、特に薬物候補とその標的との間の相互作用の基本的なメカニズムを迅速に解明するための、結晶化およびX線解析のような難しく時間のかかる技術を必要とすることなく、例えば薬剤のR&Dにおいて商業的な関心対象である。他の商業的に関連した単一粒子生物実験には、例えば以下を調べることが含まれる:(a)生物学的実体間の相対配向がそれらの相互作用に及ぼす影響;(b)例えば細胞に同時に感染している、選択された数の病原体の協同的な挙動;(c)単一抗体の抗原との結合、または逆に抗原に対する複数の抗体の協同的な挙動;(d)標的薬物の、個々の形態の多型タンパク質、または同じタンパク質ファミリーの様々なメンバーとの相互作用における変化;および(e)アレイ中のウイルス間における遺伝的変異が、別の生物学的要素との相互作用に及ぼす影響。
【0005】
本発明に先立ち、DPNおよびマイクロコンタクトプリンティングによって作製したテンプレート上へのウイルス粒子の固定化が進歩した[11、12]。しかし、固定化されたウイルス構造物の位置を単一粒子レベルで化学的に制御する性能を備える必要性が生じている。これは一部分において、制限された分解能のために(上記参照)、粒子のサイズが調べられ、特に化学的性質を用いてそれらを固定化する。実際、先の試みにより、パターニングされた界面への人為的な表面結合機能を与えるためにウイルス粒子の遺伝子改変に焦点が当てられた[11、12]。コストやスケーラビリティのために、該ウイルスの操作を回避することが好ましい。該ウイルスを化学的修飾または遺伝子改変する必要なく、固定化されたウイルス構造物の位置を単一粒子レベルで化学的に制御する方法が必要である。
【0006】
この背景部分またはその後引用されるいかなる参考文献も、先行技術であるとは認められない。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
以下は本発明の非限定的な発明の概要である。さらなる態様は詳細な説明および特許請求の範囲に見出される。
【0008】
本発明は概して、生物学的実体のアレイ、および特にサイト分離された生物学的実体のアレイに関する。それはさらに、(a)それらの製造のための直接書き込みナノリソグラフィプリンティングの使用、および(b)これらのアレイの使用法に関する。
【0009】
いくつかの態様において本発明は、サイトの横の寸法の少なくとも1つが数μmまたはμm未満の範囲にある、生物学的粒子のアレイ(ナノアレイを含む)を提供する。本発明はまた、サイト分離された生物学的粒子の配列され、設計されたアレイ、特にサイト分離されたウイルス粒子のアレイを開示する。
【0010】
例えば、1つの態様において以下を含むアレイを提供する:基板表面上の各ウイルス結合サイトが一定の形およびサイズを有する、ウイルス結合サイトを含みかつウイルスと結合しないサイトも含む基板表面;およびそれぞれの結合サイトに配置された1つのウイルス粒子。ウイルス結合サイトの形およびサイズにより、1つのウイルス粒子のみが各結合サイトに配置されることが規定される。基板表面は実質的に平らでありうる。
【0011】
別の態様は以下を含むアレイを提供する:実質的に平らな基板表面上の複数のウイルス結合サイトであって、該サイトが、ウイルス結合に対して不動態化された不動態化基板表面に囲まれており、該ウイルス結合サイトが、ウイルスを結合するためのイオン基を含み、かつ該ウイルス結合サイトが、1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように一定の形およびサイズを有し、該ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約30,000nm2〜約100,000nm2の表面積を備える、結合サイト。
【0012】
別の態様は以下を含むアレイを提供する:実質的に平らな基板表面上の複数のウイルス結合サイトであって、該サイトが、ウイルス結合に対して不動態化された不動態化基板表面に囲まれており、該ウイルス結合サイトが、1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように一定の形およびサイズを有し、該ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約30,000nm2〜約100,000nm2の表面積を備え、1つのウイルスが各サイトに結合し、結合していない形のウイルスが、約100,000nm2未満の断面積を示す、結合サイト。
【0013】
別の態様は、以下の工程の組み合わせを含むアレイの作製法を提供する:基板表面を提供する工程、基板表面を修飾して、ウイルス結合サイトを提供し、かつウイルスと結合しないサイトも提供する工程、実質的に1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように、ウイルスをウイルス結合サイトに結合させる工程。
【0014】
好ましい態様において、アレイにおけるウイルス結合サイトの形およびサイズにより、1つのウイルス粒子のみが各結合サイトに配置されることが規定される。ウイルスと結合しないサイトはウイルス結合に対して不動態化され、実質的にウイルスを含まなくてもよい。ウイルス結合サイトはイオン結合サイトを含んでもよい。ウイルス結合サイトの平均サイズは、各サイトに約100,000nm2未満、または各サイトに約50,000nm2未満、または各サイトに約30,000nm2〜約100,000nm2の表面積を備える。ウイルス結合サイトの形は実質的に円、線形、曲線形、正方形、または長方形であってもよい。長方形のウイルス結合サイトの形は、約300nm〜約600nmの長さ、および約100nm〜約200nmの幅を有する長方形を含みうる。ウイルス自体は実質的に球状の形状を有することもあり、または異方性の形状および特に管状の形状を有することもある。ウイルス粒子は、タンパク質のような、少なくとも1つのウイルスに結合した追加の成分を含んでもよい。ウイルス結合サイトおよびウイルスと結合しないサイトは単分子層を含んでもよい。各ウイルス結合サイトの形およびサイズは実質的に同じであってもよく、または形またはサイズが異なっていてもよい。
【0015】
特に好ましい態様において、本発明は、サイトが、ウイルス結合に対して不動態化された基板表面に囲まれており、ウイルス結合サイトが、ウイルスを結合するためのイオン基を含み、かつ該ウイルス結合サイトが、1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように一定の形およびサイズを有し、該ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約30,000nm2〜約100,000nm2の表面積を備える、実質的に平らな基板表面上の複数のウイルス結合サイトを含む、アレイを提供する。
【0016】
本発明はさらに、(a)サイトが、ウイルス結合に対して不動態化された基板表面に囲まれており、ウイルス結合サイトが、1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように一定の形およびサイズを有し、該ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約30,000nm2〜約100,000nm2の表面積を備える、実質的に平らな基板表面上の複数のウイルス結合サイト;および(b)結合していない形のウイルスが約100,000nm2未満の断面積を示す、各サイトに結合した1つのウイルスを含む、アレイを提供する。
【0017】
本発明はさらに該アレイの製造および使用のための方法、キット、および器具を開示する。
【0018】
別の態様において、本発明は、以下の工程を含むアレイの作製法を提供する:基板表面を提供する工程、基板表面を修飾して、ウイルス結合サイトを提供し、かつウイルスと結合しないサイトも提供する工程、実質的に1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように、ウイルスをウイルス結合サイトに結合させる工程。
【0019】
別の態様は基本的に以下からなるアレイを提供する:基板表面上の各ウイルス結合サイトが一定の形およびサイズを有する、ウイルス結合サイトを含みかつウイルスと結合しないサイトも含む基板表面;およびウイルス結合サイトの形およびサイズにより、1つのウイルス粒子のみが各結合サイトに配置されることが規定される、各結合サイトに配置された1つのウイルス粒子。基本的かつ新しい特徴は、本発明の優位性を損なう成分を取り除く、または実質的に取り除く必要がある場合の使用である。
【0020】
結論として、TMVウイルス粒子を表面上に固定化するための可変性の配位、すなわち金属イオンに基づく化学的性質を用いたアプローチを記載し、ならびにDPNおよび小さな装備の使用を通じて、これらウイルス粒子を分離し、配向を制御することが可能であることを示す。多くのウイルス粒子は、その外被タンパク質にZn2+および他の金属結合基を有する[18]。従ってこのアプローチは、単一粒子レベルでの多くの分類のウイルス構造物の操作に一般化することができる。そのような可能性は、生物学から分子電子工学にわたる分野におけるウイルス構造物の用途範囲を拡大させ[19]、そのような制御により、マイクロアレイまたはバルクシステムを用いて調べることができない研究に新たな可能性が開かれるだろう。
【0021】
好ましい態様の詳細な説明
概論
本発明の好ましい態様に対して詳細に言及がなされ、その例は添付の図面において説明される。本発明を好ましい態様とともに説明するが、それらは本発明をそれらの態様に限定することを意図するものではないと理解されるべきである。それどころか、本発明は添付の特許請求の範囲によって定義された本発明の精神および範囲に含まれうる代替物、修飾物、および同等物を対象として含むことを意図する。
【0022】
明細書中の全ての参考文献はその全体が参照により組み入れられ、本発明の実施において全般的に依拠しうる。
【0023】
2005年8月31日に出願された先の仮特許出願第60/712,432号(Mirkin et al.)は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0024】
以下の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる:“Nanoarrays of Single Virus Particles”, Rafael A. Vega, Daniel Maspoch, Khalid Salaita, and Chad A. Mirkin, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 2-4, 6013-6015。
【0025】
2005年6月13日に出願された米国仮特許出願第60/689,828号(Mirkin et al.)、および2006年6月13日に出願されたPCT特許出願第 号“Metal-Ion Based Immobilization”(Mirkin et al)も金属イオン結合技術について記載しており、概要、図面、詳細な説明、特許請求の範囲、要約、および生物種、タンパク質、抗体、金属結合タンパク質、細胞/ウイルス、金属イオン、表面の機能化、化合物、パターニング、表面の不動態化、方法、不動態化剤、表面、基板、生成物、および実施例およびスキームに関する部分を含むその全体が参照により本明細書に組み入れられている。
【0026】
アレイ
本発明は、少なくとも1つのサイトの横の寸法が数μmまたはμm未満の範囲である、生物学的粒子(細胞および細胞構成成分、細菌成分、胞子、ウイルス、およびその他の抗体を含むタンパク質、核酸、脂質、および炭水化物の集合体および複合体など)のアレイ(ナノアレイを含む)を開示する。好ましい態様において本発明は、サイト分離された生物学的粒子の、配列され、設計されたアレイ、特にサイト分離されたウイルス粒子のアレイを開示する。アレイは100もしくはそれを上回る、または好ましくは1000もしくはそれを上回る、または好ましくは10,000もしくはそれを上回る生物学的実体、または好ましくは100,000またはそれを上回る生物学的実体を含んでもよい。該生物学的実体は同一でも、異なっていてもよい。
【0027】
ウイルス
ウイルスアレイは好ましい態様であり、TMVアレイを説明する実施例がこの後示される。しかしながら、本発明はこの、または任意の他の植物ウイルスに限定されるわけではない。HIV、呼吸器ウイルス、およびインフルエンザウイルスを含む動物およびヒトウイルスもまた使用されうる。
【0028】
当業者にとって一般に公知のウイルスが使用されうる。例えばCann, A.J., Principles of Modern Virology, Academic Press, 1993; Chiu, W., Burnett, R.M., and Garcea, R.L. (Eds), StructuralBiology of Viruses, Oxford University Press, 1997を参照されたい。また、R.C. Bohinski, Modern Concepts in BioChemistry, 4th Ed., 1983も参照されたい。
【0029】
例えば、本明細書において使用されるウイルスは、生物有機体の細胞に感染しうる粒子でありうる。個々のウイルス、またはウイルス粒子もビリオンと呼ばれ、キャプシドとして公知の保護タンパク質外被によって囲まれた1つまたは複数の核酸分子、いわゆるウイルスゲノムを含みうる。核酸分子が一般にDNAで構成されている細胞性有機体とは異なり、ウイルス核酸分子はDNAまたはRNAのどちらか一方を含む。場合によっては、ウイルス核酸分子はDNAおよびRNAの両方を含む。ウイルスDNAは通常二本鎖であり、環状または線状配列のどちらかであるが、ウイルスRNAは通常一本鎖である。しかしながら、一本鎖ウイルスDNAおよび二本鎖ウイルスRNAの例もまた知られている。ウイルスRNAは(異なるRNA分子上に異なる遺伝子を有して)セグメントに分かれていてる、または(単一のRNA上に全ての遺伝子を有して)セグメントに分かれていない場合がある。ウイルスゲノムのサイズは、大きなばらつきがある。本明細書において、DNAウイルスおよびRNAウイルスの両方を使用することができる。
【0030】
本明細書中で使用されるウイルスにおいて、ウイルスキャプシドは、ウイルスゲノムによってコードされた1つまたは数個の異なるタンパク質の繰り返しユニットを含みうる。これらのユニットはプロトマーまたはキャプソメアと呼ばれる。ウイルス粒子を構成するこれらのタンパク質は、構造タンパク質と呼ばれる。ウイルス粒子の構造タンパク質の数は1(例えばサテライト・タバコ・ネクローシスウイルス(Satellite tobacco Necrosis Virus))から377(パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス(Paramecium bursaria Chlorella virus))まで変動しうる。
【0031】
本明細書中に使用されるウイルスは形の変化を有しうる。例えば、ウイルスキャプシドはらせん状(スパイラル形)または正20面体でありうる。らせん状のウイルスキャプシドを有するウイルスの一例にはトマトモザイクウイルスがあり、正20面体のウイルスキャプシドを有するウイルスの例にはトマト畑スタントウイルスおよびシミアンウイルス40が含まれる。より複雑なウイルスには、純粋ならせん状でも純粋な正20面体でもないキャプシドを有するものがある。より複雑なウイルスには、タンパク質尾部または複雑な外壁のような超構造を持っているものもある。例えば、いくつかのバクテリオファージ、すなわち細菌細胞に感染しうるウイルスは、らせん状尾部に結合した正20面体の頭部を含むキャプシドを含んでもよく、同時に多数の突出末端タンパク質ファイバーを有する六角形のベースプレートを有してもよい。
【0032】
そこに含まれるウイルスキャプシドおよびウイルスゲノムは、共にヌクレオキャプシドと呼ばれる。ウイルス粒子にはヌクレオキャプシドを含むものがあり、一方で追加の構造物を含むものがある。例えばいくつかのウイルスでは、宿主細胞膜を通ってウイルスが出芽する際に獲得する脂質膜中に封入されうる。ウイルス粒子を感受性の宿主細胞に結合する1つまたは複数の糖タンパク質が、この膜にと挿入されうる。糖タンパク質はウイルスゲノムおよび宿主細胞ゲノムの両方にコードされ、一方、膜脂質および存在する任意の炭水化物は全て宿主細胞のゲノムによってコードされている。
【0033】
本明細書に用いられるように、ウイルスはサイズにばらつきがある。例えば、ウイルスキャプシドの直径は約10nm〜約400nmであり、通常約10nm〜約300nmである。いくつかのウイルスキャプシドはかなりの長さ対直径の比率を有しうる。例えば、いくつかのフィロウイルスは最高1400nmまでの長さ、およびわずか80nmの直径を有しうる。
【0034】
ウイルスはそのゲノム物質の種類、その複製方法、およびその構造によって分類することができる。そのゲノムおよび複製方法により、ウイルスを以下のように分類することができる。
A)DNAウイルス:
第I群:二本鎖DNAを含むウイルス。例には、ヘルペスウイルス科(ヘルペスウイルス)、およびポックスウイルス科(水痘および天然痘)、尾部を有する多くのバクテリオファージ、および公知の最大のウイルスゲノムを有するウイルスであるミミウイルスのようなウイルスファミリーが含まれる。
第II群:一本鎖DNAを含むウイルス。例には、パルボウイルス科およびバクテリオファージM13のようなウイルスファミリーが含まれる。
B)RNAウイルス:
第III群:二本鎖RNAゲノムを含むウイルス。これらのゲノムはセグメントに分かれている。
第IV群:ポジティブセンス一本鎖RNAゲノムを含むウイルス。例にはSARSウイルス、C型肝炎ウイルス、黄熱病ウイルス、および風疹ウイルスが含まれる。
第V群:ネガティブセンス一本鎖RNAゲノムを含むウイルス。例には嚢尾虫、ムンプスおよび狂犬病ウイルスとともに、エボラウイルスおよびマルブルクウイルスのようなフィロウイルスが含まれる。
C)逆転写ウイルス:
第VI群:一本鎖RNAゲノムを含み、逆転写酵素を用いて複製するウイルス。例にはHIVウイルスのようなレトロウイルスが含まれる。
第VII群:二本鎖DNAゲノムを含み、逆転写酵素を用いて複製するウイルス。例にはB型肝炎ウイルスが含まれる。
【0035】
ウイルスは、例えば異方性の形でありうる。例えば、ウイルスは管状の形を有しうる。
【0036】
ウイルスは、ウイルスに結合した追加の成分を含みうる。
【0037】
遺伝子操作されたウイルス、および人工的に改変されたウイルスを使用することができる。例えば、Genetically Engineered Viruses, Ed. CJA Ring, E.D. Blair, 2001を参照されたい。
【0038】
多くの場合、ウイルスはそのままで、または改変を加えない野生型として使用することができる。
【0039】
ウイルスに加えて、マラリアのような細胞寄生生物を含む他の病原体も可能である。細胞小器官(リボソーム、細胞核、および他の小胞および細胞器官を含むがこれに限定されない)が可能である。
【0040】
基板表面
基板表面は例えば実質的に平らでありうるが、特にそのように限定されない。ガラスまたは金属などの基板を使用することができる。超微細加工法を用いて基板を調製し、層および適切な表面を構築することができる。ウイルス結合サイトおよびウイルスと結合しないサイトは、例えば単分子層を含みうる。有機化合物の薄層は、無機基板上に単分子層を形成しうる。
【0041】
結合サイト
結合サイトは複数の分子結合サイトを有する領域を含みうる。ウイルス結合サイトはイオン結合サイトを含みうる。これらは例えば、二価、三価、または四価の結合サイトを含む多価金属イオン結合サイトでありうる。金属、金属イオン、および金属イオン結合は概ね例えば、Advanced Inorganic Chemistry, 4th Ed., Cotton and Wilkinson, 1980に記載されている。
【0042】
本明細書において用いられる例示的なアプローチは、金属イオン、および二価金属カチオン(例えば、好ましくはZn2+、他のイオンも可能)のようなイオンの、例えば自己集合単分子層(例えば、16-メルカプトヘキサデカン酸、MHA)の末端基のような反対の電荷を保持する装備を有するパターニングされた表面、またはカルボキシル基リッチなウイルス膜のような荷電した生物学的実体の外表面を架橋する能力に依拠する。該基板に結合し、適切な官能基(例えばω位が官能性を持ったアルカンチオールまたはオルガノシラン)を提示するその他の分子が可能である。
【0043】
例えばZn(II)、Cu(II)、Ni(II)、およびCo(II)を含む金属との金属イオン結合が機能しうる。金属イオンは、例えばルテニウム、コバルト、ロジウム、ルビジウム、バナジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、クロミウム、モリブデン、アルミニウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、プラチナ、鉄、銅、チタン、タングステン、銀、金、亜鉛、ジルコニウム、カドミウム、インジウム、およびスズのイオン形態に基づきうるが特にこれらに限定されない。多価金属カチオンにはCd2+、Zn2+、Pb2+、Cu2+、およびNi2+が含まれる。
【0044】
タンパク質およびペプチドナノアレイおよび結合サイトもまた、例えば参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願第2003/0068446号(Mirkin et al.)に記載されている。
【0045】
金属ベースの結合サイトの設計において、IMAC (Immobilized Metal Affinity Chromatography)法を用いることができる。例えば、米国特許第5,932,102号および同第6,942,802号を参照されたい。
【0046】
いくつかの態様において、ウイルスが結合にかかわらずその形を維持し、実質的に変形しないように結合サイトが適合している。
【0047】
ウイルスと結合しないサイト
表面のその他の部分は、ウイルスとの結合を妨げる、および実質的に妨げるように不動態化されうる。結果として、ウイルスと結合しないサイトは実質的にウイルスを含まない。不動態化は例えば米国特許出願公開第2003/0068446号(Mirkin et al.)に記載されるように一般に公知である。単分子層は基板上を覆い、例えばアルカンチオールもしくは線状アルカンチオール、または末端基を含むアルカンチオール、ならびにポリ-またはオリゴアルキレングリコールチオールを含むアルカンチオールなどの不動態化を与える。
【0048】
単一サイト結合のための結合サイトのサイズおよび形
基板の結合サイトは、1つのウイルス粒子のみが各結合サイトに配置されるように適合しうる。アレイにおいて、例えば少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%の結合サイトが1つのウイルス粒子を有し、ところどころの結合サイトは複数のウイルス粒子を有しうる。本発明はさらに、既知の位置にマイクロメートル〜ナノメートルスケールのサイズで設計する方法を提供し、選択された数の粒子のみが各サイトに配置されるように、形状および寸法を標的の生物学的粒子のそれらに近づける。好ましくは、およそ1つの粒子のみが各サイトに吸着しうる。さらに、多数のそのようなサイトは非常に高速で同時に作製され、かつ正確な位置決め、配向、および粒子間の間隔が保障される。
【0049】
例えば、各サイトの最長の横の寸法は5μm〜1μmの間、または1μm〜500nmの間、または500nm〜300nmの間、または300nm〜100nmの間、または100nm未満、または50nm未満であってもよい。
【0050】
例えば、サイトは実質的に円、線形、曲線形、正方形、または長方形であってもよい。例えば長方形、正方形、または円盤状でありうる。
【0051】
長方形のサイトは、長さおよび幅が600nm×200nm〜500nm×180nmの間、または500nm×180nm〜400nm×150nmの間、または400nm×150nm〜350nm×110nmの間であってもよい。形は、例えば約300nm〜約600nmの長さ、および約100nm〜約200nmの幅を有する長方形でありうる。
【0052】
ドット形のサイトは1000nm〜500nmの間の直径、または好ましくは500nm〜350nmの間の直径、または好ましくは350nm〜100nmの間の直径、または好ましくは100nm未満の直径であってもよい。
【0053】
サイト間の離隔距離は15μm〜5μmの間、または5μm〜1μmの間、または1μm〜500nmの間、または500nm〜100nmの間、または100nm未満、または50nm未満であってもよい。
【0054】
ウイルス結合サイトの平均サイズは、各サイトに例えば約100,000nm2未満、または約50,000nm2未満、または約30,000nm2〜約100,000nm2の表面積を備えうる。
【0055】
リソグラフィ
パターニング、プリンティング、製図、書き込み、マイクロリソグラフィ、およびナノリソグラフィの方法が当技術分野において公知であり、直接書き込みリソグラフィおよび直接書き込みナノリソグラフィが含まれる。例えばDirect-Write Technologies for Rapid Prototyping Applications,(Ed. Alberto Pique and D.B. Chrisey), Academic, 2002を参照されたい。
【0056】
バイオアレイに関するリソグラフィおよび直接書き込みリソグラフィの例には、例えばAFMチップを用いたリソグラフィ、DPNプリンティング、マイクロコンタクトプリンティング、ロボティックスポッティング(robotic spotting)などが含まれる。
【0057】
1つの態様において、本発明は、生物学的実体の構造物をナノメートル長のスケールへと小型化するためのディップ・ペン・ナノリソグラフィ(DPN)[6]のような高分解能の直接書き込みリソグラフィの方法を改良する[7-9](DPN(商標), Dip Pen Nanolithography(商標)、NanoInk(商標)、DPNWrite(商標)、NScriptor(商標)はNanoInk, Inc.,Chicago, ILの商標または登録商標である)。器具、ソフトウェア、インク、およびプロセスを含み、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、チップを用いたナノリソグラフィのさらなる態様は、例えばGinger et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 2004, 43, 30-45、ならびに米国特許出願第6,635,311号(Mirkin et al.)、同第6,827,979号(Mirkin et al.)、および同第6,887,443号(Liu et al)も参照されたい。そのような大規模な小型化は、複合化学および生物学的システムのスクリーニングに、より大きな、高電荷密度のライブラリーの優位性を与える。
【0058】
好ましい態様において、イオン捕捉サイトは、DPNプリンティングなどの直接書き込みナノリソグラフィプリンティングを用いて製造してもよい。
【0059】
必要に応じて、例えば2006年7月5日に出願された米国特許出願第11/480,557号(Mirkin et al.)に記載されるように、複数のインク、または二相インクシステムの組み合わせを使用することができる。
【0060】
製造および使用の方法
さらに本発明は、大型のアレイにおいて生物学的粒子を正確に固定化および位置付けするために、金属イオンまたは配位化学と組み合わせたDPNプリンティングを利用する新規な技術について記載する。第2の態様において、固定化前に生物学的粒子を人為的な遺伝子改変または化学修飾せずに、少なくとも1つの生物学的粒子を基板上に正確に固定化するための方法は、以下の工程を含む:(a)基板をパターニングし、例えば亜鉛(例えばZn2+)、またはCu2+またはNi2+のような金属カチオンなどのイオンを捕捉することができるアレイのサイトを形成する工程;(b)パターニングされていない基板領域を、任意で、イオンおよび生物学的実体の吸着を妨げる少なくとも1つの化合物を用いて不動態化する工程;(c)例えば該基板を該イオンの溶液中に浸漬することによって、該イオンを該サイト表面上に選択的に捕捉する工程;(d)例えば該基板を該生物学的粒子の溶液中に浸漬することによって、該生物学的粒子を該サイト上に選択的に固定化する工程。
【0061】
別の態様において、本発明は、ナノメートルスケールのアレイの1つのサイトにつきほぼ単一の生物学的粒子を固定化するための方法を提供し、既知の位置にサイト分離された生物学的実体の生成物がもたらされ、ここで該生物学的実体の分離は非常に薄い溶液からのランダム吸着によるものではない。
【0062】
別の態様において、本発明は生物学的粒子のアレイの製造のための方法を提供し、ここで生物学的粒子の大部分は特定の配向または形を呈する。好ましくは、該配向または形は、物理的方法ではなく化学的方法により、例えば該サイトの形状および表面の化学的性質と、該生物学的実体の外表面の形状および表面の化学的性質との相互作用によって与えられる。
【0063】
アレイの特徴
好ましくは、本方法は、該生物学的粒子がその生物活性を維持するように配置することを可能にする。例えば、該粒子上の該生物学的粒子に特異的な抗体の結合により、または溶液中に存在する相補核酸鎖とのワトソン-クリック対形成により、生物活性を検証することができる。特徴は走査プローブ法により調べることができる。
【0064】
さらなる態様
本発明はさらに、該アレイの製造および使用のための方法、キット、および器具を開示する。
【0065】
本発明はまた、基板、少なくとも1つのプローブ、化学組成物、不動態化溶液、イオン溶液、および生物学的実体の溶液を含む、サイト分離された生物学的実体のアレイの製造のためのキットも提供し、ここで、化学組成物は少なくとも1つのプローブを覆い、基板上に配置されて少なくとも1つのパターンを形成するように適合され、不動態化溶液はパターニングされていない基板領域を不動態化することができ、ここでイオン溶液中でパターニングおよび不動態化された基板を浸漬する工程は、イオンをパターニング領域に選択的に結合させ、生物学的実体はイオン処理されたパターニング領域に吸着されうる。
【0066】
本発明はまた、サイト分離された生物学的実体のアレイの製造が可能な器具を提供し、該器具は少なくとも1つのプローブ、および上記のキットの溶液を順序どおりに加えるための液体調合法を含む。マルチプローブAFMを用いたリソグラフィ法を用いることができる。活性化されたプローブを使用することができる。器具は例えば、直接書き込みナノリソグラフィプリンティングが可能な、改良された原子間力顕微鏡であり、プローブは、チップを用いる、もしくは用いないAFMカンチレバー、またはSPMプローブであってもよい。
【0067】
本発明はまた、分離された生物学的実体と、少なくとも1種類の少なくとも1つの第2の生物学的実体との相互作用の観察および特徴付けのための器具および方法を提供する。
【0068】
実施例
非限定的な実施例を提供する。
【0069】
実施例:サイト分離TMVアレイ
本実施例において、ウイルス粒子はサイト分離され、ディップ・ペン・ナノリソグラフィによって作製されたZn2+-MHAナノテンプレート上に位置付けられ、配向された。ウイルスの固定化は、抗体-ウイルス認識および赤外分光法を用いて特徴付けされた。
【0070】
本実施例において使用されたアプローチは、金属イオン(Zn2+)の、16-メルカプトヘキサデカン酸(MHA)によって作られた装備でパターニングされた表面と、カルボキシル基リッチな表面を有するTMVとを架橋する能力に依拠する。
【0071】
タバコモザイクウイルス(TMV)は、その異方性の管状構造(約300nm長、18nm直径)、サイズ、安定性、および十分に特徴付けされたカルボキシル基リッチな表面を有するという理由で選択された[10]。これは、ナノスケールのウイルス粒子の拡大したアレイへの位置付けおよび配向を制御するために、いかにDPNを使用しうるかを評価するための優れた例示的なシステムとして機能する。
【0072】
初めに、DPNを用いて金薄膜上のMHA化学テンプレートを作製することにより、ウイルスナノアレイを製造した(図1)。基板をアルカンチオール溶液中(5mM、エタノール中)に30分間浸漬し、その後多量のエタノールでリンスすることによって、これらの装備を囲む領域を11-メルカプトウンデシル-ペンタ(エチレングリコール)(PEG-SH)の単分子層で不動態化した。不動態化層により、パターニングされていない領域へのウイルス粒子の非特異的結合が最小化される。基板をZn(NO3)2・6H2O (5 mM)のエタノール溶液に1時間曝露させ、その後エタノールでリンスして結合していない金属イオンを表面から除去することによって、MHAのカルボン酸基をZn2+イオンに配位させた(同じく図2を参照)。次に、金属付着された(metallated)基板を、TMV(American Type Culture Collectionsから入手)を含む0.15 M NaCl 10 mMリン酸バッファー pH7 (PBS)溶液(100μg/mL)に、密封湿度チャンバー中で24時間、室温で曝露させた。NANOpure水を用いて基板を洗浄することによって過剰なウイルス粒子を除去した。次に、洗浄された基板をN2気流下で乾燥させた。全てのウイルスアレイをタッピングモードAFM(TMAFM)によって特徴付け、結合すると各ウイルス粒子の高さを増加させるような、TMVに対して高度に特異的な抗血清(American Type Culture Collectionsから入手)での処理によって、表面に固定化されたウイルス粒子の化学的同一性を確かめた(以下参照)。
【0073】
寸法が異なる(長さおよび幅:600nm×200nm、500nm×180nm、400nm×150nm、および350nm×110nm)、DPNパターニングされたMHAの線状ナノ構造物を系統的に調べ、単一のウイルス粒子の接着に最適な装備のサイズを決定した。調べた条件下において、1μmの間隔で、装備の寸法350nm×110nmを有するMHAテンプレートが個々の粒子のアセンブリーにとって理想的であることが証明された。最大数の配位サイトを占有する各ウイルスの傾向により、全てのウイルス粒子が長方形の各テンプレートの長軸に沿ってほぼ完全に整列した(図3aおよび3b)。テンプレート上の各装備の平均の高さは16±1nmであった。さらに、線上の各ウイルス粒子は45±2nmの幅、320±40nmの長さであり、パラメータは、各MHA装備上の1つのTMV粒子のみの存在と一致した[13]。
【0074】
アレイ内の装備の寸法は、ウイルス粒子のサイト分離に重大な意味を持つ。例えば、500nm長、または200nm幅より大きい長方形のテンプレートは、各サイトに複数の、しかも配向されたウイルスをもたらし、このようにして単一ウイルス粒子アレイの形成を妨げる(図5参照)。有意により小さな装備(300nm×100nm未満)は、占有されない状態の多数のサイトが残って、均一なウイルス粒子のアセンブリーをもたらさない。
【0075】
化学テンプレートはまた、順応性のあるウイルスのアセンブリーを、円または他の曲線状の構築物のような人為的な構造へと制御するために用いることができる。例えば、直径350nmのドットテンプレートは複数のウイルス粒子を捕捉することができ、それらの多くはドットの縁に付着し、曲線状の構築物を取り入れる(図3c)。曲線状のTMV構造物は以前にも作製されていたが、しかしウイルスの機械的操作を介するものである[14]。ウイルスを曲げるためのこのアプローチは、これらの実験に記載されるテンプレートアプローチと対照的なものである。
【0076】
ウイルスの配向が、洗浄、N2気流または毛細管効果による乾燥などの外的な変化による結果ではないことを証明するために、1つのアレイ中で2つの異なる方向に沿って固定化することにより、各ウイルス粒子の独立した配列について試験した。実際、互いに垂直な350nm×110nmの装備からなるMHAテンプレートを使用し、サイト分離され、互いに垂直な単一TMVウイルスのアレイを得た(図3b)。
【0077】
TMVアレイを作製するために用いられる同じ金属イオンまたは配位化学のアプローチを用いてTMVで修飾したバルク金薄膜基板を特長付けるために、偏光変調高感度反射赤外分光法(PM-IRRAS)を使用した(図4aおよび図6)。MHA単分子層は、2856および2930cm-1に高周波の-CH2-伸縮領域における2つのメインバンドを提示し、ならびに1741および1718cm-1にC=O伸縮領域における2つのバンドを提示し、それらはそれぞれ遊離のおよび水素結合したカルボキシル基の存在によるものである[15]。基板をエタノールZn(NO3)2・6H2O溶液(5mM)で1時間浸漬した後、ΛCOのバンドの低エネルギー(1602/1556および1453cm-1)へのシフトによって、MHAのカルボキシル基のZn2+金属イオンへの配位を確認した。C=O伸縮領域は、MHA-Zn表面をTMV溶液に曝露した後再び変化する。このスペクトル領域において、TMV上のタンパク質の特長である、1661cm-1を中心としたアミドIバンド[16]、1546cm-1を中心としたアミドIIおよび非対称のCOO-バンド、ならびに1458cm-1を中心とした対称なCOO-バンドとして同定されうる3つのメインバンドを検出した。また、メチル基を有するタンパク質に起因するCH3基の存在は、TMVとのインキュベーション後の、2967cm-1のバンドの新たな伸びによって確かめられる。
【0078】
本実施例において、Zn2+配位の化学的性質を含む配位化学は、ウイルス粒子のアセンブリープロセスに重要であると考えられる。本結論に一致して、対照実験において、ウイルスのPBS溶液に48時間テンプレートを曝露した後でさえ、TMVは、MHA被覆されたまたはパターニングされた基板(直径1μmドット)上に会合しない。
【0079】
AFMにより画像化された管状ウイルス構造物の化学的同一性のためのさらなる証拠を提供するために、本発明者らは単一ウイルスアレイを、TMVに対する抗血清のPBS溶液(200μg/mL、pH7)で37℃、30分間処理し、基板を10mMのPBS溶液でリンスし、次にそれらをN2気流下で乾燥した。抗体とのインキュベーション前および後での基板のAFM像の比較により、およそ9nmの高さの増加が示される(図4cおよび4d;図7も参照)。この増加量は抗体の高さと一致し(図4b)、従って、TMV粒子はアレイ上に存在する。初めに、350nm×110nmの寸法の装備を有するMHAの長方形の線をパターニングするためのDPNを用いて抗体アレイを作製した。これらの装備の周囲の領域をPEG-SHで30分間不動態化し、次に非特異的結合を阻害するために多量のエタノールでリンスした。最後に、TMVに対する抗血清を、MHA不動態化基板とともに4℃で24時間インキュベートした。更なる詳細については参考文献[8]を参照されたい。
【0080】
抗体結合下での予想される高さの増加は、MHAアレイへの抗体の直接吸着を用いて独立に実験および測定したものであることに留意されたい(図4b)。本アプローチは他のタンパク質の固定化実験との関連で、タンパク質結合事象について調べるために使用されている[8]。
【0081】
一部の例において、結合サイトの全てが単一のウイルスを有しているわけではないが、実質的に全ての結合サイトが単一のウイルスを有する。一部の例において、結合サイトの少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%が単一のウイルスを有する。残りのサイトは複数のウイルス粒子を有するか、または場合によってはウイルス粒子を有しない。
【0082】
実験部分
全てのDPNパターニングは市販のリソグラフィソフトウェア(DPNwrite(商標), NanoInk Inc., Chicago, IL)に接続されたThermoMicroscopes社のCP AFM、および従来のSi3N4カンチレバー(サーモマイクロスコープ形のマイクロカンチレバーA、力定数0.05 N/m)を用いて行った。タッピングモード像をDigital Instruments社からのナノスコープIIIaおよびマルチモードマイクロスコープで撮影した。特記されない限り、全てのDPNパターニング実験は35%の相対湿度および24℃で、チップ-基板接触力0.5nNで行われた。金基板上(シリコンウェーハ(Silicon Sense, Inc.)上、50nm Auおよび10nm Cr)にMHAをパターニングするために、DPNを使用した。卓上光学モジュール(Tabletop optics module)(TOM)とともにThermo Nicolet, Nexus 870を用いて4cm-1の分解能で走査した2048のPM-IRRASスペクトルを得た。従来のIRRASデータと比較するために、PM-IRRAS差分反射率(% ?R/R)値を吸光度の単位に変換した。
【0083】
以下の参考文献は本発明の実施に有用であり、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。

【0084】
最後に、39の好ましい態様は以下を含む。
1. 基板表面上のウイルス結合サイトがそれぞれ一定の形およびサイズを有する、ウイルス結合サイトを含みかつウイルスと結合しないサイトも含む基板表面;および
ウイルス結合サイトの形およびサイズにより、1つのウイルス粒子のみが各結合サイトに配置されることが規定される、それぞれの結合サイトに配置された1つのウイルス粒子
を含むアレイ。
2. 基板表面が実質的に平らである、1に記載のアレイ。
3. ウイルスと結合しないサイトがウイルス結合に対して不動態化されている、1に記載のアレイ。
4. ウイルスと結合しないサイトが実質的にウイルスを含まない、1に記載のアレイ。
5. ウイルス結合サイトがイオン結合サイトを含む、1に記載のアレイ。
6. ウイルス結合サイトが、多価金属イオン結合サイトを含む、1に記載のアレイ。
7. ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約100,000nm2未満の表面積を備える、1に記載のアレイ。
8. ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約50,000nm2未満の表面積を備える、1に記載のアレイ。
9. ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約30,000nm2〜約100,000nm2の表面積を備える、1に記載のアレイ。
10. ウイルス結合サイトの形が実質的に円、線形、曲線形、正方形、または長方形である、1に記載のアレイ。
11. ウイルス結合サイトの形が、約300nm〜約600nmの長さ、および約100nm〜約200nmの幅を有する長方形を含む、1に記載のアレイ。
12. ウイルスが異方性の形を有する、1に記載のアレイ。
13. ウイルスが管状の形を有する、1に記載のアレイ。
14. ウイルス粒子が、ウイルスと結合した追加の成分を含む、1に記載のアレイ。
15. ウイルス結合サイト、およびウイルスと結合しないサイトが単分子層を含む、1に記載のアレイ。
16. ウイルス結合サイトの形およびサイズが実質的に同じであり、かつウイルスと結合しないサイトが実質的にウイルスを含まないようにウイルス結合に対して不動態化されている、1に記載のアレイ。
17. ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約100,000nm2未満の表面積を備える、16に記載のアレイ。
18. ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約50,000nm2未満の表面積を備える、16に記載のアレイ。
19. ウイルス結合サイトの形が実質的に円、線形、曲線形、正方形、または長方形であり、それぞれのウイルス結合サイトの形およびサイズが実質的に同じである、1に記載のアレイ。
20. サイトが、ウイルス結合に対して不動態化された不動態化基板表面によって囲まれており、ウイルス結合サイトが、ウイルスを結合するためのイオン基を含み、かつ該ウイルス結合サイトが、1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように形およびサイズを有し、該ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約30,000nm2〜約100,000nm2の表面積を備える、実質的に平らな基板表面上の複数のウイルス結合サイト
を含むアレイ。
21. ウイルス結合サイトが金属イオンを含む、20に記載のアレイ。
22. ウイルス結合サイトが遷移金属イオンを含む、20に記載のアレイ。
23. ウイルス結合サイトが二価の金属イオンを含む、20に記載のアレイ。
24. 結合サイトに結合したウイルスをさらに含む、20に記載のアレイ。
25. ウイルスが野生型のウイルスである、24に記載のアレイ。
26. サイトが、ウイルス結合に対して不動態化された不動態化基板表面によって囲まれており、ウイルス結合サイトが、1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように一定の形およびサイズを有し、該ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約30,000nm2〜約100,000nm2の表面積を備える、実質的に平らな基板表面上の複数のウイルス結合サイト;
結合していない形のウイルスが約100,000nm2未満の断面積を示す、各サイトに結合した1つのウイルス
を含むアレイ。
27. ウイルスが野生型のウイルスである、26に記載のアレイ。
28. 結合サイトが金属イオンを含む、26に記載のアレイ。
29. 基板表面上の結合サイトがそれぞれ一定の形およびサイズを有する、生物学的粒子のための結合サイトを含みかつ生物学的粒子と結合しないサイトも含む基板表面;および
それぞれの結合サイトに配置された1つの生物学的粒子
を含むアレイ。
30. 生物学的粒子がウイルス、タンパク質、抗体、または細胞である、29に記載のアレイ。
31. 生物学的粒子が抗体である、29に記載のアレイ。
32. 生物学的粒子が特定の配向を呈する、29に記載のアレイ。
33. 基板表面上のウイルス結合サイトがそれぞれ一定の形およびサイズを有する、ウイルス結合サイトを含みかつウイルスと結合しないサイトも含む基板表面;および
それぞれの結合サイトに配置された1つのウイルス粒子
を含むアレイ。
34. 以下の工程の組み合わせを含む、アレイの製造法:
基板表面を提供する工程、
基板表面を修飾して、ウイルス結合サイトを提供し、かつウイルスと結合しないサイトも提供する工程、
実質的に1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように、ウイルス結合サイトにウイルスを結合させる工程。
35. ウイルス結合サイトが金属イオン結合サイトを含む、34に記載の方法。
36. ウイルス結合サイトが二価カチオン金属結合サイトを含む、34に記載の方法。
37. ウイルス結合サイトが、約1μm未満の横の寸法を有する、34に記載の方法。
38. ウイルス結合サイトが、各サイトに約100,000nm2未満の表面積を備える、34に記載の方法。
39. ウイルスが野生型のウイルスである、34に記載の方法。
39の態様を終了する。さらに特許請求の範囲部分を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】Zn(NO3)2・6H2Oの溶液で処理した、DPNで作製されたMHAナノテンプレート上の、単一ウイルス粒子の選択的固定化を記載した説明図である。図は縮尺どおりではない。
【図2】以下を記載した説明図である(a)グルタメートおよびアスパルテートアミノ酸由来の多数のカルボキシル/カルボン酸基を示す、タバコモザイクウイルス(TMV)外表面。TMVはpH3.5で脱プロトン化される;(b)一方のメルカプトヘキサデカン酸の自己集合単分子層パターンのカルボン酸基と、亜鉛カチオンと、他方のTMVウイルス上に提示されるカルボン酸基によって形成されるサンドイッチ。理論に縛られるのを望むわけではないが、正に荷電した亜鉛イオンと負に荷電したカルボン酸によって形成される静電気的な架橋により、TMVウイルスが該MHAパターン上へ固定化される。図は縮尺どおりではない。
【図3】AFMタッピングモード像(シリコンカンチレバーを使用、バネ定数=〜40N/m)およびTMVナノアレイの高さの概要である。(a)より大きなアレイにおける1対のウイルス粒子の三次元トポグラフィー像:(左)並列アレイ、(中央)垂直アレイ、および(右)ドットアレイ。(b)単一ウイルス粒子の垂直アレイのトポグラフィー像および高さの概要(40×40μm)。(c)Zn(NO3)2・6H2Oで前処理した350nm MHAドット装備のアレイ上に形成された、TMVナノアレイのトポグラフィー像および高さの概要(20×20μm)。全ての像は0.5Hzの走査周波数で撮影した。
【図4】(a)Au上のMHA単一分子層のPM-IRRASスペクトル(下スペクトル)、Zn(NO3)2・6H2Oでの処理後(中央スペクトル)、および次にTMVとのインキュベーション(上スペクトル)。(b)TMVに対する抗血清で処理したMHAアレイのトポグラフィー像および高さの概要。抗体は静電気的にMHA装備に付着する。TMVに対する抗血清を含むPBS溶液での処理前(c)および処理後(d)の1対の並列単一ウイルス粒子のトポグラフィー像の高さの概要である。全てのAFM像はタッピングモードで0.5Hzの走査周波数で撮影した。
【図5】600nm×200nmの長方形の装備からなるMHAテンプレート上に形成された、TMVナノアレイのAFMタッピングモード(シリコンカンチレバー、バネ定数=約40N/m)の2Dおよび3D像である。配向した複数のウイルスが各装備に観察される。像は0.5Hzの走査周波数で撮影した。
【図6】Zn2+-MHA修飾表面上のTMVの単分子層を含むバルク金薄膜試料(7.5cm×2.5cm)のAFMタッピングモード像(シリコンカンチレバー、バネ定数=約40N/m)および高さの概要である。この像は0.5Hzの走査周波数で撮影した。
【図7】37℃で30分間の抗血清の溶液とのインキュベーションの前および後(それぞれa、b)の、タッピングモードAFM(Vecco)からのサイト分離されたTMVのトポグラフィー像である。観察された高さの増加により、抗体がTMVに結合したことが示され、従ってそれらが固定化後に生物学的に活性であることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面上のウイルス結合サイトがそれぞれ一定の形およびサイズを有する、ウイルス結合サイトを含みかつウイルスと結合しないサイトも含む基板表面;および
ウイルス結合サイトの形およびサイズにより、1つのウイルス粒子のみが各結合サイトに配置されることが規定される、それぞれの結合サイトに配置された1つのウイルス粒子
を含むアレイ。
【請求項2】
ウイルスと結合しないサイトがウイルス結合に対して不動態化されている、請求項1記載のアレイ。
【請求項3】
ウイルスと結合しないサイトが実質的にウイルスを含まない、請求項1記載のアレイ。
【請求項4】
ウイルス結合サイトがイオン結合サイトを含む、請求項1記載のアレイ。
【請求項5】
ウイルス結合サイトが、多価金属イオン結合サイトを含む、請求項1記載のアレイ。
【請求項6】
ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約100,000nm2未満の表面積を備える、請求項1記載のアレイ。
【請求項7】
ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約50,000nm2未満の表面積を備える、請求項1記載のアレイ。
【請求項8】
ウイルスが異方性の形を有する、請求項1記載のアレイ。
【請求項9】
ウイルスが管状の形を有する、請求項1記載のアレイ。
【請求項10】
それぞれのウイルス結合サイトの形およびサイズが実質的に同じであり、かつウイルスと結合しないサイトが実質的にウイルスを含まないようにウイルス結合に対して不動態化されている、請求項1記載のアレイ。
【請求項11】
サイトが、ウイルス結合に対して不動態化された不動態化基板表面によって囲まれており、ウイルス結合サイトが、1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように一定の形およびサイズを有し、該ウイルス結合サイトの平均サイズが、各サイトに約30,000nm2〜約100,000nm2の表面積を備える、実質的に平らな基板表面上の複数のウイルス結合サイト;
結合していない形のウイルスが約100,000nm2未満の断面積を示す、各サイトに結合した1つのウイルス
を含むアレイ。
【請求項12】
ウイルスが野生型のウイルスである、請求項11記載のアレイ。
【請求項13】
結合サイトが金属イオンを含む、請求項11記載のアレイ。
【請求項14】
基板表面上の結合サイトがそれぞれ一定の形およびサイズを有する、生物学的粒子のための結合サイトを含みかつ生物学的粒子と結合しないサイトも含む基板表面;および
それぞれの結合サイトに配置された1つの生物学的粒子
を含むアレイ。
【請求項15】
生物学的粒子がウイルス、タンパク質、抗体、または細胞である、請求項14記載のアレイ。
【請求項16】
生物学的粒子が抗体である、請求項14記載のアレイ。
【請求項17】
生物学的粒子が特定の配向を呈する、請求項14記載のアレイ。
【請求項18】
以下の工程の組み合わせを含む、アレイの製造法:
基板表面を提供する工程、
基板表面を修飾して、ウイルス結合サイトを提供し、かつウイルスと結合しないサイトも提供する工程、
実質的に1つのウイルス粒子のみが各サイトに結合するように、ウイルス結合サイトにウイルスを結合させる工程。
【請求項19】
ウイルス結合サイトが金属イオン結合サイトを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
ウイルス結合サイトが二価カチオン金属結合サイトを含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
ウイルス結合サイトが約1μm未満の横の寸法を有する、請求項18記載の方法。
【請求項22】
ウイルス結合サイトが、各サイトに約100,000nm2未満の表面積を備える、請求項18記載の方法。
【請求項23】
ウイルスが野生型のウイルスである、請求項18記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−521663(P2009−521663A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530067(P2008−530067)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2006/032316
【国際公開番号】WO2008/020851
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(508061860)ノースウエスタン ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】