説明

単一光子放射線検出器

本発明は、CTスキャナにおけるエネルギー分解単一X線光子検出に特に適した放射線検出器100に関する。好ましい一実施形態において、検出器100はシンチレータ素子Sのアレイを有し、ここで入射X線光子Xは光学光子hνのバーストに変換される。シンチレータ素子Sに関連するピクセルPは、所定の収集間隔内にこれらが受け取る光学光子の数を決定する。そしてこれらの数は、単一X線光子Xを検出するため、及びそのエネルギーを決定するためにデジタル処理されることができる。ピクセルは特にデータ処理用の関連デジタル電子回路を備えるアバランシェフォトダイオードによって実現され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単一(例えばX線)光子を検出するための方法及び放射線検出器に関する。さらに、本発明はかかる検出器を有する画像システム、及びかかる方法を実行するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
WO 2006/34585 A1は、入射X線光子を光学光子のバーストに変換するためのシンチレータと、光学光子のバーストを電気パルスに変換するための半導体光電子増倍管を有する、放射線検出器を開示する。生成された電気パルスは、入射X線光子の速度とエネルギーを決定するために、そのピーク高さについてカウントされ、弁別される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この状況に基づき、本発明の目的は、単一光子、特にガンマ又はX線光子を検出するための代替的手段を提供することであり、高速の光子が検出されることができること、及び/又はそのエネルギーが分解されることができることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、請求項1に記載の放射線検出器、請求項12に記載の画像システム、請求項13に記載の方法、及び請求項15に記載のコンピュータプログラムによって達成される。好ましい実施形態は従属請求項に開示される。
【0005】
本発明にかかる放射線検出器は、電磁放射、特に約10keVから約200keVのエネルギー範囲のガンマ光子及び/又はX線光子の検出に役立つ。
【0006】
該検出器は以下の構成要素を有する。
a)入射光子を(これがシンチレータ材料と相互作用する場合)光学光子のバーストに変換するための少なくとも1つのシンチレータ素子。典型的には、約0.2μmから約1.0μmの波長を持つ数百から数千の光学光子のバースト又はシャワーが単一X線光子によって生成され、光学光子の数は変換されたX線光子のエネルギーに依存する。
b)光学光子の1バーストの期間内に、少なくとも2つの所定収集時間間隔の間に前述のシンチレータ素子から受け取られる光学光子の数を決定するための、少なくとも1つの"ピクセル"。"1バーストの期間"とは、この文脈において、バーストの光子束がその(初期)ピーク値の10%未満に減衰するまでの(平均)時間と定義される。この時間の典型的な値は10nsから1000ns、好ましくは45nsから115ns、最も好ましくは45nsから80nsの範囲である。好ましくは、各バーストは例えば10から50の多数の収集時間間隔においてピクセルによってサンプリングされる。ピクセルは、アナログ値ではなく数を決定して出力するので、デジタル回路を有する。
【0007】
上記放射線検出器は、検出プロセスの最初期段階において、すなわち例えばX線光子によって生成される光学光子をカウントするために、デジタルデータ処理を用いるという利点を持つ。従ってアナログ電気信号の処理に伴う問題が回避されることができる。複数の収集間隔において光学光子のバーストをサンプリングすることによって、バーストの形状が時間分解されることができ、従って関連プロセスについて有益な情報をもたらすことができる。さらに、該検出器は、その生データ、すなわち決定された光学光子のデジタル数の評価がソフトウェアによって大きく制御されることができるため、高い適応性を提供する。
【0008】
放射線検出器はたった1つのシンチレータ素子及び/又はたった1つのピクセルを持ってもよいが、これは典型的には一次元又は二次元のアレイに配置された複数のシンチレータ素子及びピクセルを有する。従って例えばコンピュータ断層撮影(CT)用途において必要とされるような空間分解検出器が設計されることができる。
【0009】
高エネルギー光子を光学光子に変換する様々な材料が、シンチレータ素子を実現するために使用されることができる。例えば単一X線光子によって生成される光学光子のバーストは、通常は高ピークで始まり、そして特徴的な減衰時間で指数関数的に減衰する(すなわちバーストのフラックスは減衰時間において1/e=37%に減少する)。この文脈において、シンチレータ素子は、100ナノ秒未満、好ましくは50ナノ秒未満である、生成された光学光子のバーストの減衰時間を持つ材料を有することが好ましい。この場合、高い入射速度であっても連続X線光子を分離することが可能である。短い減衰時間は、短い及び/又は密接に続く収集間隔、すなわち高速ピクセル操作を必要とすることに留意すべきである。
【0010】
放射線検出器は、デジタルクロック信号用の入力を随意に有してもよく、この信号の論理レベル(例えば"0"又は"1")は収集間隔がピクセルによって実行されるかどうかを決定する。クロック信号を生成する回路は、通常は放射線検出器の一部でもあるが、クロック信号は代替的に外部構成要素によって提供されてもよい。クロック信号を用いて、放射線検出器の動作が効率的に制御されることができる。従って例えば収集間隔の相対的長さ(デューティサイクル)を介するだけでピクセルの感度を調整することが可能である。クロック信号は通常、光学光子のバーストの十分に高い時間分解能を可能にするために、数十から数百メガヘルツの範囲の周波数を持つ。
【0011】
前述の実施形態において、デジタルクロック信号の論理レベルへの収集間隔の割り当ては任意である。従って放射線検出器はクロック信号の異なる論理レベルの間に収集間隔を実行するピクセルの2つのグループを有することが可能である。放射線検出器が例えばピクセルの二次元アレイを有する場合、これらの素子の二番目の列の各々はクロック信号の論理レベル"1"の間に収集間隔を実行し得、一方残りの列は論理レベル"0"の間に収集間隔を実行する。このようにしてリソース(例えば電力供給又はデータ処理能力)へのアクセスをより均一に分散させることが可能である。
【0012】
放射線検出器は随意に、以下の態様のうちの少なくとも1つについて、ピクセルによって決定される数を評価するための評価装置をさらに有し得る。
単一変換光子の検出。カウント数は例えば光学光子のバーストを時間の範囲における数の特徴的配列として分解し、これから根底にある変換光子が検出されることができる。
異なる変換光子によって生成される光学光子のパイルアップの補正。このアプローチは、特に高い光子束において、2つの連続光子が同じシンチレータ素子に連続してすぐに到達し得るため、これらの光学光子のバーストが重なってしまうことを考慮する。
所与の時間間隔(収集間隔よりもかなり長い)の間に決定される光学光子の積分数(integral number)。この積分値は、例えば入射X線ビームの強度を推定することを可能にし、従って特に単一X線光子の分解が最早不可能であるような高いX線フラックスの場合に、有益な情報を提供する。
単一変換光子のエネルギー。この情報は、該検出器がスペクトルCTにおいて適用される場合に特に必要である。これは検出された光子のバーストにおける光学光子の数(例えば総数又はピーク数)から得られる。
【0013】
評価装置は特に関連ソフトウェアを備えるデジタルデータ処理ハードウェアによって実現され得る。ピクセルは既に信号として(デジタル)数を提供しているので、評価装置の少なくとも一部をピクセルの近く又は内部に配置することが可能であり、こうして、長い信号線における時間遅延だけでなく信号損失と障害を避けることができる。
【0014】
評価装置の特定の実施形態において、これは2つの連続変換光子間の時間距離を決定するためのタイマーと、上記時間距離に基づいてこれら2光子の測定された効果を分離するための補正モジュールとを有し得る。単一の例えばX線光子によって生成される光学光子のバーストの開始は、通常、光学光子の数における関連するピークを介して簡単な方法で検出されることができ、従って2つの連続X線光子間の時間距離も容易に測定されることができる。そして2つのX線光子の効果における重なりを分離するためのアルゴリズムは、例えば検出ハードウェア(シンチレータ素子、ピクセル)の特性パラメータが適切な形式で保存されるデータベース(例えばルックアップテーブル)を使用することができる。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、ピクセルは検出器セルの(一次元又は二次元の)アレイを有し、この各々は単一光学光子の検出時に電気信号を生成する。電気信号は"光学光子が検出された"又は"光学光子が検出されない"という情報をあらわす2つの論理レベルのみを持つデジタル信号であり得る。代替的に、電気信号はアナログ値であってもよく、これは通常はさらなる処理中に(2値)デジタル値へと変換される。
【0016】
前述の検出器セルは随意に、単一光学光子の検出時に感受性状態から非感受性状態へと変化するように設計され得る。従って明らかな、検出可能な状態遷移が光学光子の入射を示すことが保証される。
【0017】
前述の場合、検出器セルは好ましくは連続収集間隔の間にあるリセット間隔の間に感受性状態へリセットされる(これらが非感受性状態である場合)。この場合、デジタルクロック信号は検出器セルにおいて収集とリセットの間隔の交互配列を決定することができる。
【0018】
検出器セルの特定の実施形態はガイガーモードで操作されるアバランシェフォトダイオードであり、感受性状態は降伏領域における状態であり、一方非感受性状態は降伏後とみなされる。
【0019】
検出器セルによって提供される電気信号を評価するために、ピクセルは好ましくは、1収集間隔の間に提供されるその全検出器セルからの電気信号を合計するための集線装置を有する。そして集線装置の出力はその期間中に受け取られる光学光子の必要数である。
【0020】
本発明はさらに、上記の種類の放射線検出器と、随意にX線を生成するためのX線源とを有する、画像システム、特にCT(コンピュータ断層撮影)、PET(ポジトロン放出断層撮影)、SPECT(単一光子放出コンピュータ断層撮影)、又は放射性画像システムに関する。
【0021】
さらに本発明は、光子、特にX線又はガンマ光子を検出するための方法に関し、該方法は以下のステップを有する。
a)シンチレータ素子に入射する光子を光学光子のバーストに変換するステップ。
b)光学光子の1バーストの期間内に少なくとも2つの所定収集間隔の間にシンチレータ素子から受け取られる光学光子の数を決定するステップ。
【0022】
該方法は、上記の種類の放射線検出器を用いて実行されることができるステップを一般形態で有する。従って、この方法の詳細、利点、及び改善点についてのさらなる情報については、前述の説明が参照される。
【0023】
該方法の好ましい実施形態によれば、決定された光学光子の数は、該光学光子を生成した変換光子の数及び/又はエネルギーについて評価される。かかる方法は特にCTスキャナにおいて実行されることができる。
【0024】
放射線検出器及び/又は画像システムは、典型的にはプログラム可能であり、例えばこれはマイクロプロセッサ又はFPGAを含み得る。従って本発明は、計算装置上で実行されるときに本発明にかかる方法のいずれかの機能を提供するコンピュータプログラムをさらに含む。
【0025】
さらに、本発明はデータキャリア、例えばフロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、又はコンパクトディスク(CD‐ROM)を含み、これらは機械可読形式でコンピュータプロダクトを保存し、該データキャリア上に保存されたプログラムが計算装置上で実行されるときに本発明の方法の少なくとも1つを実行する。
【0026】
今日では、かかるソフトウェアはダウンロード用にインターネット又は企業イントラネット上で提供されることが多く、従って本発明はローカル又はワイドエリアネットワーク上で本発明にかかるコンピュータプロダクトを伝送することも含む。計算装置はパーソナルコンピュータ又はワークステーションを含み得る。計算装置はマイクロプロセッサ及びFPGAのうちの1つを含み得る。
【0027】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下に記載される実施形態から明らかとなり、これらを参照して解明される。これらの実施形態は添付の図面の助けを借りて一例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は本発明にかかるX検出器を概略的に示す。
【図2】図2はX線検出器の例示的な出力を示す。
【図3】図3は典型的なクロック信号を図示する。
【図4】図4はデジタル化インバータを有するX線検出器用の検出器セルの第一の実施形態を示す。
【図5】図5はデジタル化インバータ無しの検出器セルの2つの実施形態を示す。
【図6】図6はデジタル化インバータ無しの検出器セルの2つの実施形態を示す。
【図7】図7は単一検出器セルの出力を加算するための集線装置回路の2つの実施形態を示す。
【図8】図8は単一検出器セルの出力を加算するための集線装置回路の2つの実施形態を示す。
【図9】図9は本発明にかかるX線装置における集線装置ネットワークの配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
類似する参照数字、又は100の整数倍だけ異なる数字は、図面において同一又は同様の構成要素をあらわす。
【0030】
スペクトルコンピュータ断層撮影は、3D X線イメージングに革命をもたらす高い可能性を持つ。単一量子計数モードにおけるエネルギー分散X線検出は、スペクトルCTスキャナを実現するための主要構成要素である。市販のスペクトルX線イメージャは、計数電子機器ASICにバンプボンドされた直接変換センサとしてセグメント化high‐Z半導体(例えばCdTe,CdZnTe,GaAs)を特徴とするが、CTに特有の高X線強度にさらされるときに偏光に悩まされる。
【0031】
有望な光子検出及び信号処置は、デジタル"シリコン光電子増倍管"(SiPM)によって提供される。そのアナログ対応物と同様に、デジタルSiPMはピクセル化センサであり、各ピクセルはガイガーモードで動作する単一のアバランシェフォトダイオードセルの高度にセグメント化されたアレイである。デジタルSiPMの製造はCMOSプロセスに基づくため、デジタルSiPMは能動クエンチング及び再充電、並びにセンサレベルでのデジタル信号処理などの追加機能を提供する。最も重要なことは、デジタルSiPMは変換光子の入射速度の高速サンプリング(最大で100MHzまで)を可能にする。例えばLYSOなどの高速シンチレータと組み合わされると、エネルギー弁別型の単一X線光子検出が可能になる。
【0032】
従ってここでは、高速クロック(周波数f)によって駆動されるデジタルサンプリングSiPMに接続される高速シンチレータを有する検出システムが提案される。該システムはさらなる処理のためにデジタル化センサデータを提供するデジタル出力を持つ。
【0033】
図1は前述の原理を実現するX線検出器100を概略的に示す。X線検出器100は、シンチレータ素子S(k=1,2,…N,例えばN=1000)の(一次元又は二次元の)アレイを備えるシンチレータ層110を有する。X線光子Xがシンチレータ素子Sと相互作用する場合、これは光学光子hνのバーストに変換される。例示的な検出器設計において、1mm厚のLYSOがシンチレータ材料として使用され得る。この入射X線光子に対する応答関数は、40nsの減衰時定数でゼロへ指数関数的に低下する立ち下りを持つ階段関数である。シンチレータ素子Sの横寸法は900μm×900μmであり得る。LYSOは好ましくは底部を除く全側面から反射コーティングに覆われる。
【0034】
X線検出器100はシンチレータ層110の下に(X線の入射方向に対して)配置されるデジタルシリコン光電子増倍管120(SiPM)をさらに有する。例えば光学的接着剤などの追加光ガイドが、シンチレータ層とデジタルSiPMの間のインターポーザとして使用されることができる。SiPM120はピクセルPのアレイを有する。図に示される通り、これらのピクセルPは対応するシンチレータ素子Sに1対1のやり方で関連するが、これは必ずしもそうとは限らない。1つのピクセルPのみについて示される通り、各ピクセルは単一光学光子hνの検出用の複数の(例えば30×30)"検出器セル"Ckj(j=1,2,…)を有する。各検出器セルCkjは例えば30μm×30μmの面積を持ち、これは光子感受性部分と、能動電子回路を備えるブロックに分割される。
【0035】
各ピクセルPの全検出器セルCkjの検出信号は集線装置ネットワークAに伝えられ、ここで収集間隔Tの間に検出された光学光子hνの総数がデジタル値として決定される。
【0036】
決定された全集線装置Aの数は、さらなるデジタル処理及び評価のためにSiPM120におけるある評価モジュール121へ伝えられる。このモジュール121の(デジタル)出力は、例えば外部マイクロコンピュータなど、ある上位データ処理装置130へ伝えられる。
【0037】
図2は時間領域におけるX線検出器100(又は類似装置)の動作の例示的シミュレーションを示す(縦軸:1ピクセルPによってカウントされる光学光子速度R;横軸:時間t)。連続する実線Iはシンチレータの理想的な光出力を示す。縦棒はデジタルSiPMによる光学光子のサンプリングを示す。図は光学光子の各バーストが複数回サンプリングされることを示す。さらに、シンチレータ光パルスのサンプル値は、変換光子の計数がポワソン統計によって支配されるため、理想値から外れている。後続のデジタル処理の主要目的は、信号対ノイズ比、従ってエネルギー分解能を最大化することである。
【0038】
図1に戻ると、SiPM120は、収集間隔Tが実行されるときを決定する周波数fを持つデジタルクロック信号用の入力をさらに有する。クロック信号は200MHzの典型的な周波数fで動作している。同期動作においては、光学光子の感知のために1クロックサイクル(収集間隔T、図3参照)が使用され、検出セルCkjの読み出し及び再充電のために次のサイクルが使用される。従って、全セルCkjは100MHzの速度でサンプリングされ、一度に読み出される。
【0039】
シンチレータから出る光子パルスの時間サンプリングは、単一光子に感受性のある非常に高速のセンサを必要とする。デジタルシリコン光電子増倍管(DSiPM)のコンセプトは、WO 2006/111883 A2(参照により本文に組み込まれる)に記載されるように、DSiPMは時間サンプリングをすることができず、従って高フラックスシナリオにおけるパイルアップ効果に悩まされることになるため、この目的を達成するためには適切ではない。また、スペクトルCTにおける検出イベントのグローバルタイムポイントを決定すること、又はセル無効化メカニズムの必要がない。従って"デジタルサンプリングシリコン光電子増倍管"(DSSiPM)と呼ばれる新たなセンサが以下に記載される。DSSiPMは、各々がデジタル回路に接続されるガイガーモードアバランシェフォトダイオードセルのアレイ上に構築される。これは、これらの装置がCMOSプロセスと一体化されるか、又は論理部を含むCMOSチップに他の方法で取り付けられる(例えばチップチップボンディングによって)ことを示唆する。
【0040】
図4は基本的なDSSiPM検出器セルCkjの可能な具現化を概略的に示し、ここではPMOSスイッチP2が出力線を供給電圧に接続し、最も簡単な実施例において、同じ列の全セルはこの出力線に接続され、これはさらに、その行が選択されているDSSiPMセルの状態変化を保存するためのラッチに接続する。
【0041】
デジタルクロック信号OE("Output Enable")が論理0であるとき、アバランシェフォトダイオードAPDのアノードはおおよそ降伏電圧にバイアスされ、一方カソードはトランジスタP0を通して過電圧VOVにバイアスされ得る。OE=1の場合P0はオフにスイッチされるが、ダイオードは、ダイオードリーケージが十分に低い限りしばらくの間バイアス状況を維持する。この時間の間、ダイオードは単一光学光子に感受性であり、カソードは検出時にVOVからおおよそGNDへスイングする。インバータ(N0,P1)はこの変化を感知し、この出力は0から1へ状態を変化させる。OE=1であるため、カスケードN1,N2(又は伝送ゲート)はインバータ出力を通過させ、出力線を放電し、対応するレベル変化が接続されたラッチ(図示せず)に登録される。出力線はOEが論理0になるときに再び再充電される。
【0042】
上記検出器セルCkjのレベルにおいて既に見られるいくつかの態様がある。
1.セルはOEによって"クロックされる"。これはOE=1の場合、セルは光学光子を検出することができ、この検出は直ちに出力に渡され、OE=0の場合、セルと出力線は次の光子検出に備えて再充電される、ということを意味する。OE=0の間にダイオードに入るいかなる光子も、検出されるかどうかわからないが、この結果は次の収集段階の間に出力に渡される。
2.デューティサイクル(収集時間Tからリセット時間T)は、OEのデユーティサイクルによって変化し得る(図3におけるクロック信号の図を参照)。(光学)光子束が低い場合、収集時間Tはリセット時間Tの何倍にもなり得る。逆に、ダイオードAPDの感度は、収集時間Tをリセット時間Tよりも小さくすることによって人為的に下げることができる。OEデューティサイクル(T:T)及び周波数fは両方とも、検出されるフラックスに動的に適合されることができる。
3.典型的に、VOVはダイオードの感度を決定し、ダイオードは最大感度に達するためにVOVに完全に再充電されなければならない。しかしながら、フルレベルに達するために必要な再充電時間は、P0の設計、キャパシタンス、及びダイオードの直列抵抗に依存して、極めて長くなり得る(5‐10ns)。リセット段階を短くすることは、ダイオードを部分的にしか充電されていないままにすることになり、従って低感度のままにすることになる。そのため、リセット段階Tの期間を削減することによってセンサの感度もまた低下され得る。2)と比較して、これは一定デューティサイクルの場合、ダイオードの過電圧を低下させることが低い暗計数率をもたらし、従って高い信号対ノイズ比をもたらすという明白な利点を持つ。(同じ効果はVOVを下げることによって実現され得るが、これは論理によって許容可能なレベルにしかなされることができない。)これは、インバータがダイオードレベルをデジタル化し、従って電圧に閾値を設定するため、上記回路によって特定レベルのみに実現され得ることに留意すべきである。しかしながらダイオードの部分的充電は、以下に記載される2つの回路とともに使用されることができる。
【0043】
図5及び図6は、共にデジタル化インバータを除く、セル論理の簡略版を備える2つの代替的回路を示す。代わりにセルに従う論理段階が信号のデジタイザの役割をする。主な利点は論理ブロックの小型性であり、従ってピクセルのデッドエリアを削減する。信号は最早反転されないので、Output Enable(OE)トランジスタは図5においてはPMOSに変わっている。また、ラインは反転され、光学光子が検出されている場合、論理1に充電される。N0はリセット段階の間にラインを放電して論理0へ戻すために使用される。
【0044】
図6における回路は図5の回路に相補的なものである。ここでの利点は、ダイオードがアノード上で感知されるため、ダイオードキャパシタンスがより小さいことである。また、NMOSトランジスタを用いることでより小型の回路をもたらす。ここでは数十ボルトの逆バイアス電圧がダイオードのカソードに印加される。
【0045】
図7はより精緻な読み出しスキームの第一の実施形態を図示し、ここでは検出器セルCkjは共通出力線を使用しない。代わりに、セルによって取得されたデータは、パイプライン集線装置回路の入力に渡される。基本的に、集線装置のタスクはセルCkjのN個の2値出力を検出光子のMビット数に集めることである(図7においてN=4かつM=3)。集線装置を実現するいくつかの可能性がある。図7はラッチLを備える従来の加算木(adder tree)を有する第一の実施形態を概略的に示す。図8は入力を効率的に圧縮するためにラッチLと全加算器(FA)回路を利用するネットワークを概略的に示す。
【0046】
図9が示す通り、集線装置ネットワークは、ピクセル列(A)の間、又はピクセル(Atot)の間、又はその両方のいずれかに置かれることができる。
【0047】
センサは一斉にリセットされるか(これは多くのダイオードが一度に再充電される場合、大きな過電流のために電源安定度に関連する問題につながり得る)、又はインターリーブされることができる。インターリーブモードにおいて、隣接列は逆OE(bOE)でクロックされ、これは一方の列がデータを取得する間に他方が再充電されることを意味する。このスキームはサンプリング点の数を倍増させるが、このスキームが機能するためにデューティサイクルが正確に50%でなければならないため、センサの感度も半分にする。実施される場合、これはVOVネットワーク上の電源サージ問題を軽減するのに役立つ。
【0048】
さらなる実施モードは、セルの条件付き演算を特徴とする。光学光子を検出したセルは、デジタル論理回路によって識別され、その後リセットされる。このモードは前述のクロックに同期するか、又は非同期モードで動作することができる、すなわち、セルは光学光子の登録後にのみリセットされる。
【0049】
集線装置ネットワークはフルクロック速度で動作しなければならないので、集線装置はデータ速度に対処するためにパイプライン化される必要がある。集線装置の出力は、その期間中に検出された光子を示す数のストリームである。このストリームは、X線衝突に対応するパルスを検出するため、及び/又は高いX線フラックス速度におけるパイルアップを検出及び補正するために適切な方法で分析されることができる。入射X線光子束が特定レベルを超える場合、パイルアップ補正は機能するのを止め、光子の積分数のみがデータ処理パイプラインに返され得る。
【0050】
以下のセクションは基本データ処理の可能性をより詳細に説明する。処理ステップのいくつかは、チップ外の不要なデータ転送を避けるためにピクセルの近くに一体化されるべきである。理想的には、各ピクセルによって返されるデータは、転送されるために必要な絶対最小値から構成される、すなわち、積分値(所与の時間間隔の間に検出される光学光子の総数)、代替的に又は付加的に、X線光子の数、及び最終的には、検出された各衝突のスペクトル情報で積分データを補完する検出エネルギーとピクセルidを含むパケットから成るデータストリーム。こうした検出された各X線光子に対するエネルギーデータの提供の代わりに、エネルギー分解ヒストグラム(エネルギービンのX線カウント数)が例えばスペクトルCTでは十分であり得る。
【0051】
典型的には、アナログX線検出器の出力は、信号対ノイズ比を最適化するため、及び付与されたエネルギーを決定するためのピーク検出を可能にするために、整形器に接続される。こうした整形フィルタは、DDSiPMによってもたらされるデータストリームに作用するFIR(有限インパルス応答)又はIIR(無限インパルス応答フィルタ)デジタルバンドパスフィルタとして実現されることもできる。ピーク検出は能動ベースライン復元と同様に直接的なやり方で実施されることができる。さらに、条件付き演算を伴う拡張整形フィルタ(アルゴリズムフィルタ)が使用されることができる。高度動作モードは、γパルスのアナログ信号処理から知られているゲートカウント及びパイルアップ抑制モードと同様に設計されることができる。
【0052】
シンチレータにおけるX線吸収の初期デルタパルスを回復するデコンボリューションフィルタのような他のアルゴリズムが同様に実施されることができる。しかしながら、アルゴリズムの複雑性は利用可能面積によって制限される。センサ及び処理チップの3Dスタッキングはこの問題を解決するのに役立ち得る。
【0053】
パイルアップを補正する別の簡単な方法は、ルックアップテーブルを使用し得る。シンチレータの特性は周知であり、パイルアップがあまり高くないとすれば2つの連続パルスは同じクロックサイクルに入らないので、新たなパルスの到達を決定するため、及びタイマーを開始するために、立ち上がり検出器が使用されることができる。タイマーは次のパルスが到達するまでクロックサイクルの数をカウントする。2つのパルスの時間的分離がわかっているとすると、ルックアップテーブルは、実際のエネルギー付与の近似を得るために使用されるべきパイルアップ補正因子を保持し得る。また、測定エネルギーと組み合わされた同じ因子が、次のパルスエネルギーから差し引かれるべきパイルアップに起因する過剰エネルギーを計算するために使用されることができる。エネルギー計算用の入力は単にタイマー間隔の間に検出された光学光子の合計である。ルックアップテーブルアプローチの利点はその簡単さと適応性である。
【0054】
最後に、前述の積分値が、数百マイクロ秒の間隔にわたって検出された光子を合計することによって容易に(かつ同時に)決定されることができる。この値は現在のCTシステムにおいて使用されるPINフォトダイオードによって変換される電荷に相当する。20ビットを超えるハイダイナミックレンジが実現されることができるが、おそらくDSSiPMの非線形性補正が実施される必要があるだろう。
【0055】
要約すれば、単一量子計数モードで動作する検出器を提供する、高速シンチレータと併せたデジタルサンプリングシリコン光電子増倍管(DSSiPM)が記載されている。開示された検出システムはまた、X線量子のエネルギー弁別も可能にする。これは好ましくはデジタル領域における信号処理によって達成される。この処理は一部はシリコン光電子増倍管内において、一部は後続のデジタルプロセッサにおいて実現されることができる。検出システムとデジタル信号処理はまた、計数モードと積分モードにおける同時読み出しも可能にする。
【0056】
DSSiPMの各ピクセルはシンチレータ素子に結合され、ここで入射X線光子は光学光子に変換される。単一光学光子はピクセルのセルによって登録される。積分期間Tの間、登録された光学光子がカウントされる。所与の積分期間内のピクセルの全セルのカウント数が加算され、デジタル出力に渡される。この手順はシンチレータの光出力の時間サンプリングを実現する。シンチレータの時間特性を追加入力として用いて、さらなるデジタル処理電子機器が入射X線光子の速度とエネルギーを再構成することができる。
【0057】
開示されたシステムはX線検出のための統合的解決法を提供する。標準部品又は標準プロセスが利用されることができるので、IDは費用効果的な検出器も記載する。本発明の主な応用分野は、スペクトルX線イメージング、特に非常に高い計数率が測定される必要があるCTである。本明細書に記載の方法はまた、例えば非破壊検査など、何らかの計数検出器が必要であり得るいかなる他の用途にとっても有益であり得る。
【0058】
最後に、本願において、"有する"という語は他の要素又はステップを除外せず、"a"又は"an"は複数形を除外せず、単一のプロセッサ又は他の装置が複数の手段の機能を満たし得ることが指摘される。本発明は、新たな特徴の各々及び全て、並びに特徴の組み合わせの各々及び全てに属する。さらに、請求項における参照符号はその範囲を限定するものと解釈されてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各入射光子を光学光子のバーストに変換するための少なくとも1つのシンチレータ素子と、
光学光子の1バーストの期間内に少なくとも2つの所定収集間隔の間に前記シンチレータ素子から受け取られる光学光子の数を決定するための少なくとも1つのピクセルとを有する、放射線検出器。
【請求項2】
前記シンチレータ素子が、100ns未満、好ましくは50ns未満の生成された光学光子のバーストに対する減衰時間を持つ材料を有する、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
その論理値が、収集間隔が実行されたかどうかを決定する、デジタルクロック信号に対する入力を有する、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記デジタルクロック信号の異なる論理レベルの間に収集間隔を実行するピクセルの2つのグループを有する、請求項3に記載の放射線検出器。
【請求項5】
単一変換光子の検出、
異なる変換光子によって生成される光学光子のパイルアップの補正、
所与の時間間隔の間に検出される光学光子の積分数、及び/又は、
単一変換光子のエネルギー、
について、前記ピクセルによって決定される数を評価するための評価装置を有する、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記評価装置が、2つの連続光子間の時間距離を決定するためのタイマーと、前記時間距離に基づいてこれらの測定された効果を分離するための補正モジュールとを有する、請求項5に記載の放射線検出器。
【請求項7】
前記ピクセルが、単一光学光子の検出時に電気信号を生成する検出器セルのアレイを有する、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項8】
前記検出器セルが単一光学光子の検出時に感受性状態から非感受性状態へ変化する、請求項7に記載の放射線検出器。
【請求項9】
前記検出器セルが、2つの収集間隔の間のリセット間隔の間に前記感受性状態にリセットされる、請求項8に記載の放射線検出器。
【請求項10】
前記検出器セルがアバランシェフォトダイオードを有する、請求項7に記載の放射線検出器。
【請求項11】
前記ピクセルが、収集間隔の間にその全検出器セルによって提供される前記電気信号を加算するための集線装置を有する、請求項7に記載の放射線検出器。
【請求項12】
請求項1に記載の放射線検出器を有する画像システム、特にCTスキャナ。
【請求項13】
シンチレータ素子に入射する光子を光学光子のバーストに変換するステップと、
光学光子の1バーストの期間内に少なくとも2つの所定収集間隔の間に前記シンチレータ素子から受け取られる光学光子の数を決定するステップとを有する、光子を検出するための方法。
【請求項14】
前記決定された光学光子の数が、前記変換された光子の数及び/又はエネルギーについて評価される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法を実行することを可能にするためのコンピュータプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2011−515676(P2011−515676A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500325(P2011−500325)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際出願番号】PCT/IB2009/051034
【国際公開番号】WO2009/115956
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】