説明

単層カーボンナノチューブを主材料とする空気極

本発明の実施態様は、単層炭素ナノチューブ(SWNT)を含む導電性触媒フィルムに接する少なくとも1つの疎水性表面を持った多孔質膜を有する空気極であって、前記ナノチューブ同士は密接に電気的接触している。導電性フィルムは、SWNTの他に、フラーレン、金属、合金、金属酸化物又は電気活性ポリマーを包含していてよい。本発明の他の実施形態では、前記空気極が、金属空気電池又は燃料電池の一構成要素をなす。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年4月30日出願の米国仮特許出願番号61/174,122の利益を享受するものであり、これにより米国仮特許出願のあらゆる式、表又は図面を包含する全てが参照として本明細書に組み込まれる。
【0002】
金属空気電池は、入手可能な最も安価な一次電池であると考えられ、一般に極めて高いエネルギー密度を有しており、しかも環境にやさしい。金属空気電池は、あらゆる一次電池システムの中で最大質量及び容積エネルギー密度を有している。この種の電池の再充電は他と比べると効果的ではない。開発中の再充電式金属空気電池の寿命はほんの数百サイクルであり、効率はわずか50%ほどである。しかし、金属空気電池は燃料を補給することができ、燃料補給できるように作られた場合は、金属空気燃料電池と呼ばれることが多く、消費した金属を機械的に交換し、そして使用済みの金属酸化物を別の装置で金属に還元することができる。金属空気燃料電池という用語はまた、金属を共反応物質として用いて代替燃料、例えば、水素、炭化水素又はアルコールの改質に役立てる電気化学システムと関連して用いられる。このように、自動車やポータブル機器若しくは携帯用機器に金属空気電池又は金属空気燃料電池で電力供給が可能な、「金属」の効率的利用が考えられている。
【0003】
金属空気電池、特に亜鉛は安価でしかも大量生産が容易なことから亜鉛空気電池を用いた電気自動車が研究されている。これら電池の比エネルギーは最高370W・h/kgであって、その端子電圧は、金属が80〜85%減耗するまで低下しない。このような電池の貯蔵寿命は、密封して酸素を排除した場合は非常に長いが、空気に触れると非常に高い自己放電率を示す。小さな亜鉛空気電池は補聴器によく用いられており、また、非常に薄い亜鉛空気電池系統は、家庭用電子機器用の低価格で長寿命の一次電池としての用途に、2009年の中頃から導入されている。
【0004】
金属空気電池のアノードは一般に、酸化すると電子を放出するペースト状の、水酸化物等の電解質と混合された微粒子状金属である。空気極は、典型的に、金属メッシュ上に多孔質炭素構造から作製されて、酸素の還元とその後の水との反応とによって水酸化物を形成する酸素還元触媒で被覆される。金属が亜鉛の場合、前記反応は最大1.65V発生させることが可能であるが、通常は、電池への空気の流れを制限して1.35〜1.4Vに抑えている。
【0005】
ポリマー電解質膜(PEM)燃料電池に用いられる空気極は、一般に金属、特に白金などの貴金属を含有している。これらの極は有効に作動し得るが、典型的に非常に高価である。金属空気電池及び燃料電池における改善点は一般に空気極の改善点に関与している。
【0006】
大半の空気極は、両面が大気と電池の水性電解質とに晒されている、典型的にシート状の膜である。空気極は、空気又は別の酸素供給源を透過させる必要があるが、水性電解質が滲出又は漏出しないように実質上疎水性でなければならず、しかも外部回路に接続された導電性要素を有している。従来の空気極の構造は、ビドー(Bidoult)らが「アルカリ燃料電池用ガス拡散カソード概説(Review of gas diffusion cathodes for alkaline fuel cells)」、Journal of Power Sources、187号(2009年)39〜48頁で述べている。従来の空気極は一般に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子と混合したナノスケールの金属触媒含浸活性炭の複数の層を導電性バッキング層に固着させた、厚い膜で構成されている。従来の空気極は、曲折した疎水性PTFE粒子と電解質で湿潤した炭素担持触媒との間に広い三相界面があるため、高度の面的酸素還元容量が得られる。
【0007】
これら従来の空気極は、多くの場合、幾つかの欠点を示す。親水性触媒と炭素との混合物を含む経路には完全に疎水性のものが少ないので、触媒粒子への気相酸素侵入経路を設けるように構成された孔が大量の電解質で氾濫することがある。氾濫は、触媒表面への酸素の拡散を極めて緩慢にする。氾濫を予防するには、酸素供給源の圧力と湿度を注意深く制御する必要がある。2つ目の欠点は、限流インピーダンスを生じさせるカソードの親水性部からの湾曲したイオン拡散経路による、水酸化物イオンの動的拡散バリアである。金属触媒は、白金などの貴金属であることが多く、そのことが空気極を割高にしている。燃料電池に使用される貴金属の主要部分、つまりその費用のかかる部分は前記極に存在する。
【0008】
炭化水素燃料電池、例えば直接メタノール燃料電池では、アノードからカソードへのメタノールのクロスオーバーが大きな問題である。直接メタノール燃料電池の発電効率は、メタノール又はメタノール酸化物が電池のカソード側に到達すると大幅に低下する。多くの燃料電池ではこれまで、アリコ(Arico)らが「技術開発の基本的観点からのDMFC(DMFCs:From fundamental aspects of technology development)」Fuel Cells 1、(2001年)133〜161頁で検討しているように、Nafion(登録商標)膜等のプロトン交換膜を用いて、プロトン伝導を保持しながらアノードからカソードへのメタノールクロスオーバーを大幅に抑制する、というよりむしろ縮小している。Ptを含有する従来の空気極内では、ナノスケール金属粒子は移動、アグロメレーション、及びオズワルド熟成による粒子成長が生じ易い。アグロメレーションと粒子成長は触媒部位の表面積を縮小させるので、カソードの効率が経時的に低下する。貴金属触媒はさらに、燃料の酸化中に形成され得る一酸化炭素によっても、又は酸化供給源及び/若しくは燃料中の不純物によっても汚染される。
【0009】
したがって、貴金属を控え、薄くし、氾濫し難くし、水酸化物イオン拡散バリアをほとんど又は全く有さずしかもCOで汚染されない空気極は、それを用いる技術に大幅な改善をもたらすであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の実施態様は、少なくとも1つの疎水性表面を有する多孔質膜が、当該多孔質膜の前記疎水性表面に接触する単層炭素ナノチューブ(SWNT)を含む導電性触媒フィルムを有する、金属空気電池又は燃料電池用の空気極を対象とする。導電性触媒フィルムのSWNTは、当該SWNT間で密接な電気的接触を示し、また、多くの実施態様では、フィルム全体にわたりSWNT間で密接な物理的接触を示す。疎水性表面は、ポリマー、セラミック又はガラスで作製されていてよい。必要に応じて、親水性表面を、処理して疎水性表面としてもよい。疎水性ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、任意のポリアミド、任意のポリスルホン、又はペルフルオロアルキル側鎖を有するポリオレフィンであってよい。本発明の一部の実施態様では、疎水性表面を有する多孔質膜は非平面形状をしており、そして導電性触媒フィルムは、非平面形状の疎水性表面に適合している。
【0011】
本発明の一部の実施態様では、SWNTは、黒鉛層間化合物等による電荷移動ドーピングか又はナノチューブの炭素原子等をホウ素原子若しくは窒素原子で置換できる置換ドーピングを行うことが可能である。本発明の他の実施態様では、導電性触媒フィルムはフラーレン又はフラーレン誘導体を包含していてよい。本発明の別の実施態様では、導電性触媒フィルムは、金属粒子、合金粒子、金属酸化物粒子、ミクロン径の導電性炭素繊維又はこれらのいずれかの組み合わせを包含していてもよい。本発明のもう一つの実施態様では、導電性触媒フィルムは、共役ポリマー、例えば粘着性末端を有するポリマーを包含することも可能である。例えば、本発明の一実施態様では、粘着性末端を有するポリマーは、導電性触媒フィルムのSWNTの疎水性を増大又は低下させ得るペンダント置換基を有している。導電性触媒フィルムは、厚さ10〜20,000nmであり得る。
【0012】
本発明の他の実施態様は、前記実施態様のうちいずれかの空気極と、金属含有アノードと、を有する金属空気電池を対象とする。金属は、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム又はリチウムであってよい。他の実施態様は、前記実施態様のうちいずれかの空気極と、燃料を酸化するアノードと、を有する燃料電池を対象とする。燃料は、水素、炭化水素又はアルコールであってよい。
【0013】
本発明の別の実施態様は、空気極の作製方法を対象とする。空気極は、SWNT含有懸濁液を均質なフィルムとして多孔質膜の疎水性表面上に析出することでフィルムを疎水性表面の形状に適合させ、そしてSWNT間に密接な電気的接触が達成されるようにフィルムを溶媒で洗浄することによって作製される。多孔質膜からの濾過によってSWNTを析出させることで、前記膜上にフィルムを形成することができる。金属などの導体をフィルムの一部に付着して、空気極を外部回路と結合させることも可能である。本発明の一部の実施態様では、懸濁液は、フラーレン又はフラーレン誘導体、金属粒子、合金粒子、金属酸化物粒子、電気活性ポリマー若しくはミクロン径の導電性炭素繊維を別々に又は組み合わせて包含してよい。本発明の別の実施態様では、SWNTフィルムは、当該フィルム上にフラーレン、金属粒子、合金粒子、金属酸化物粒子、電気活性ポリマー又はこれらのいずれかの組み合わせを後で析出させることによって変性してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】表面に本発明の実施態様による10μmの柱を含む、SWNTフィルムで覆われたパターン化膜の断面図を表す。
【図1B】表面に本発明の実施態様による30μmの柱を含む、SWNTフィルムで覆われたパターン化膜の断面図を表す。
【図2】本発明の実施態様による空気極の酸素還元容量を試験するための、電池の上面図及び側面図を表す。
【図3】対象発明の実施態様による、空気極でのクロノアンペロメトリーを表す。
【図4】本発明の実施態様による、表示されたpHでの電流密度対加電圧を表す。
【図5A】対象発明の実施態様に従って表示されたAlとNaCl電解質を金属アノードが含む場合の金属空気電池内の空気極における、抵抗が増大する状況下での2端子電池電流及び電位を表す。
【図5B】対象発明の実施態様に従って表示されたMgとNaCl電解質を金属アノードが含む場合の金属空気電池内の空気極における、抵抗が増大する状況下での2端子電池電流及び電位を表す。
【図5C】対象発明の実施態様に従って表示されたZnとNaOH電解質を金属アノードが含む場合の金属空気電池内の空気極における、抵抗が増大する状況下での2端子電池電流及び電位を表す。
【図5D】対象発明の実施態様に従って表示されたZnとH2SO4電解質を金属アノードが含む場合の金属空気電池内の空気極における、抵抗が増大する状況下での2端子電池電流及び電位を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施態様は、金属空気電池及び燃料電池に使用可能な、空気を含むSWNT(酸素還元カソードであって、ガスに多少の酸素が含有されているガス拡散カソード)を対象とする。本発明の一実施態様では、SWNTを含む空気極は、高い酸素還元容量を示し、しかも一酸化炭素で汚染されない。本発明の実施態様は、新規の空気極を備えた金属空気電池又は燃料電池での最大酸素還元率を目的として空気極の最大化された三相界面を有する、SWNTのフィルムを対象とする。本発明の他の実施態様は、濾過膜と濾液から空気極を構成する濾過捕集法によって極めて高い酸素還元率を達成することが可能な、広い三相界面を持つ空気極の形成を対象とする。本発明の別の実施態様は、SWNTを含む空気極を備えた、金属空気電池又は燃料電池を対象とする。
【0016】
本発明の一実施態様では、空気極は、複数の孔を有する膜と、前記膜の片面と物理的に接触しているSWNTの導電性触媒フィルムと、を備えている。膜は、耐水性の表面を少なくとも1つ有することで、流体の孔からの流れを助長し得る圧力差又は他の電位差が膜に加わらない限り膜の孔から水溶液(例えば、電解質溶液)又は他の親水性流体を流出させない。膜は、当該膜の片面では空気又は他の酸素含有気体を孔からSWNTフィルムへ流すことができるが、SWNTフィルムを有する面から膜を通して電解質溶液を流出させない。本発明の実施態様では、多孔質膜は、疎水性ポリマー、例えば、テトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル又はポリアミドで構成されてよい。本発明の他の実施態様では、多孔質膜は、疎水性表面を生じさせるように表面を処理した、一般に親水性とみなされるポリマーであってよい。本発明の他の実施態様では、膜は、本来耐湿性であり得るか又は疎水性表面を生じさせるように表面を処理することが可能な、多孔質ガラス又はセラミックであってもよい。例えば、焼結ガラス膜は、シランカップリング剤で表面処理することで表面を疎水性にして水溶液で濡れ難くしてもよい。
【0017】
フィルムは、膜の局所表面とほぼ平行な長軸に沿って配向された複数のSWNTを含んでいるが、前記ナノチューブがフィルムの局所平面内では不規則に配向しているので、フィルムの表面全体ではナノチューブ間が密接に電気的接触しており、一般には密接な物理的接触状態にある。この方法では、フィルム全体の導電性は、非常に薄いフィルム、例えば厚さが約20nm〜約200nmの場合に高くなる可能性がある。薄いSWNTフィルムを有する本発明の実施態様は、SWNTのコストが割高なため好都合であるが、更に厚いフィルム、例えば1〜100μmを使用するともある。
【0018】
疎水性の膜上にSWNTフィルムを備える本発明の実施態様による新規の空気極は、金属空気電池と燃料電池に共通する多くの技術的課題を解決する。新規の空気極は、膜の孔が氾濫しないようにするものであり、当業技術の一部では金属空気電池では酸素拡散を妨げる。本発明の一部の実施態様では、極薄いSWNTフィルムを使用するので、空気極を用いた当業技術のシステムに比べるとイオン拡散バリアが最小限に抑えられる。SWNT/疎水性膜を主材料とする空気極では貴金属触媒を必要としない。ほとんどの場合、必要とされる貴金属の量は多いが、本発明の薄いSWNTフィルムは高価な材料をほとんど必要とせず、かなり長時間使用可能である。カソードの汚染、特に燃料電池内でのCOによる汚染が新規の空気極では生じない。多くの燃料電池で用いられる燃料は、典型的な空気極の活性を低下させることがあるが、本発明の新規の空気極には作用しない。例えば、従来の貴金属系空気極を利用する場合には1%のメタノールでもカソードの活性を大幅に低下させる可能性があるので、メタノール燃料電池を機能させるにはプロトン交換膜が欠かせない。従来の貴金属触媒は、移動又はオズワルド熟成を生じることで空気極が失活する可能性があるが、本発明の実施態様によるSWNTを備えた空気極では、移動もオズワルド熟成も生じない。
【0019】
金属空気電池を対象とした本発明の一部の実施態様では、ナノチューブフィルムと接触している金属電極の電気化学的溶解は、金属電極を電解質溶液との境界を形成するシールと接触させて配置することで回避される。電解質が充満した電池では、膜表面を含む空気極のSWNTフィルム全体が濡れる。膜は疎水性なので、その開放孔構造内までは電解質溶液が浸透しない。SWNTフィルムとは反対側の膜は、酸素又は他の酸化剤を含有する気相媒体と接している。多くの実施態様では、気相媒体は空気である。酸素は、膜の孔から、酸化ガスと固体SWNTフィルムと液状電解質を含む三相界面へと拡散する。この三相界面では、酸素は、SWNTを濡らしている電解質溶液の表層に溶解しており、SWNTフィルムカソードと接触すると、外部回路からSWNTフィルムを介して与えられた電子で還元される。還元された酸素は、水性電解質溶液中の水と反応して水酸化物を形成し、電解質溶液を通して拡散して金属空気電池の金属アノードの金属イオンと結合する。水素燃料電池、メタノール燃料電池又は微生物燃料電池を対象とする本発明の実施態様では、還元された酸素は、アノードでの反応により、電解質中に含まれているプロトンと結合する。
【0020】
空気極は、リンズラー(Rinzler)らの米国特許第7,261,852号(この特許全体を参照として本明細書に組み込む)で示唆されているように、SWNTフィルム作製方法で濾過膜として用いられる疎水性多孔質膜上に薄いSWNTフィルムを析出することにより作製され得る。疎水性膜の孔が小さい、例えば約0.1〜約0.22μmの場合、加圧、例えば膜のSWNT側の気体の圧力、膜のSWNTとは反対側での圧力低下又はその両方の組み合わせにより生じる圧力差によってSWNT懸濁液が膜から押し出されると、SWNTが膜の片面に析出される。次に、SWNT分散液を形成するために用いた界面活性剤は、所望により又は必要に応じて、当該界面活性剤が作動条件下での電解質溶液の膜の穴への拡散を促進しない程度にSWNTから洗い流してよい。その後、SWNTフィルムと疎水性膜を乾燥させると、疎水性膜に担持された高導電性連続フィルムが生じる。本発明の実施態様では、金属は、蒸着又は電界析出などの多種多様な方法でSWNTフィルムの特定部位、例えば、ナノチューブフィルムの一方の縁部に析出させると、空気極を外部回路と容易に接続させるのに十分なSWNTとの電気的接触を生じさせることができる。本発明の一部の実施態様では、長い炭素繊維は、析出したナノチューブの上部に又はそれと絡み合わせて膜表面の主要部分全体に当該炭素繊維が広がるように分散することができ、ナノチューブフィルムの導電性を更に向上させ得る。
【0021】
当業者には自明のように、三相界面の有効寸法が増大するにつれて、あらゆる材料におけるどのような空気極の有用性も改善される。本発明の実施態様には、膜の表面をパターニングして突出部及び/又は陥凹部形状を持たせた、改質多孔質膜も包含される。パターニングされた多孔質膜上へのSWNTフィルムの析出は、SWNTフィルムが前記膜と接触ししかも接触している膜表面の形状と適合するように行われる。SWNTフィルム製造中に浸透している懸濁液の流体力学的抗力によって膜の利用可能な表面全体にナノチューブが作製されるので、フィルムは、膜のパターニング面の表面全体に形成されて、SWNTフィルムと膜との接触面積を大幅に増やし、そして三相界面の寸法も増大させる。
【0022】
膜のパターニングは幾つかの方法で実行できる。例えば、液状ポリマードーピング剤(例えば、PVDF、ナイロン、ポリスルホン)の注入成形によって形成される膜材料であって、液状ドーピング剤が溶媒と任意の共溶媒と非溶媒との混合液に溶解された膜ポリマーを有する場合は、液状ドーピング剤を平坦な基材表面に流し込んでドクターブレードで処理し、それを硬化することで多孔質膜が形成される。制御された温度と圧力の環境下でこれらの成分を蒸発させると、ドーピング剤の蒸発している溶媒成分と非溶媒成分とが相分離することで、膜に孔が形成される。本発明の一実施態様では、大面積の突出部及び/又は陥凹部配列を有する基材テンプレート上に液状ドーピング剤を流し込み、従来型微細加工技術によって基材テンプレート上に作製することができる。本発明の様々な実施態様では、大面積の突出部及び/又は陥凹部配列は、例えば従来型微細加工技術、同時に並列特徴を形成できるマイクロレンズ配列を場合により用いたレーザアブレーション、フォトリソグラフィーとその後の化学エッチング或いはマスキングと反応性イオンエッチングによって多孔質膜上に形成され得る。
【0023】
例えば、多孔質膜の表面は、図1Aの断面図に示すように、微細加工された四角柱配列として、四角柱を市松模様に配置してパターニングしてもよい。柱は、一般に当該柱の寸法の方が孔の口径よりも大きいとはいえ、膜の多孔性に影響を与えたり多孔質膜の機械的統合性を失ったりせずにパターンが形成できる程度に極めて小さな寸法にしてよい。例えば、ベース表面から10μm伸長した10μm×10μmの柱を有する、図1Aのように孔を0.22μm微細加工した多孔質膜は、柱の面全てに連続して適合するSWNTフィルムの析出を可能とする。膜の柱の側壁によってもたらされる追加表面積が、表面積を、微細加工前の平坦な膜表面よりも3倍大きく増大させる。このような微細加工は、空気極の電流密度も同様に3倍向上させる可能性がある。例えば、膜上で10μm×10μmの柱の高さを図1Bの断面図に示すように40μmまで伸長させることで、SWNTフィルムの表面積が増大して、微細加工した平面に対して9倍相当になり、結果として前記形状が得られる。さらに電流密度もほぼ同様に9倍向上する可能性がある。
【0024】
当業者には自明のように、他の規則正しい、不規則な又は外見上規則正しい(つまり、規則正しいパターンの一部が不規則にパターン化されているか、若しくはパターンが、全体規模では規則正しいが、より細かな規模では不規則なこと)形状も本発明の実施態様により利用可能である。膜の形状パターンは、膜のいろいろな部分からSWNTフィルムを析出させるのに用いられる流体の流量に対するデザインの影響を考慮して設計すべきである。というのも、有意差のある流れは、フィルムの一部にSWNTを不規則に分布させることがあり、空気極の機能に支障が出る可能性があるためである。最適なパターン化表面を設計するのには、パターニングで得られる予測面積に応じて物理的限界を考慮することもあり、そうすると、モデル化と実験をいろいろ組み合わせることが特定の膜材料に最適なパターンを確認するのに通常欠かせないであろう。
【0025】
パターン化膜はまた、多孔質膜上への疎水性多孔質粒子の析出と溶融を伴う方法で形成してもよく、例えば溶融は、気相溶剤暴露によっても、加圧下での加熱による粒子と膜の管理された溶融工程によっても実行可能である。さらに多孔質粒子の寸法や、その濃度及び析出方法を操作してもよいので、粒子の相対的な寸法及び粒子間の空隙が、作製されたSWNTフィルムの表面積を最大化するだけでなく、前記空隙へのSWNT分散液の流れを最適化してSWNTフィルムの所望の導電性及び接合性を維持することも可能である。
【0026】
本発明の一部の実施態様では、SWNTフィルムは、SWNTフィルムの酸素還元性能を高める1つ以上の第2の粒状材料を包含している。第2の材料は、SWNTと共析出しても、又は予め析出したSWNT表面上に析出して第2の材料を含むフィルムを形成してもよい。本発明の実施態様による空気極のための第2の材料としては、金属、合金及び金属酸化物粒子、例えばFe、Co、Ni、Ru、Pt、Pt−Ru合金、MoxRuySez合金、MoxRuyTez合金、NixMoyTez合金、MnOx、NiOx、CoOx、RuOxが挙げられる。これら触媒をSWNTフィルムと併用すると、電流が増大する。本発明の別の実施態様では、フラーレン(C60、C70若しくはそれ以上)又は[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル等のフラーレン誘導体を溶媒から又は熱蒸発法によりSWNTフィルム上へ析出した後、熱処理することで、SWNTフィルムへのフラーレンの分散を促すことも可能である。本発明の他の実施態様では、複数の小分子多環式芳香族化合物、例えばピレン、ベンゾピレン、アントラセン、クリセン、コロネン、ナフタセン、ペンタセン、ペリレン又はピリジン窒素、キノン及びピロンを含有するもののようなこれらの誘導体を、別々に又は組み合わせて、析出したSWNTフィルム上に析出することで、化学処理及び/又は電気化学処理するときの前記フィルムの酸化還元性能を高めることも可能である。SWNTフィルムが電極の働きをすることで、電気化学活性化された触媒部位が形成される。
【0027】
本発明のもう1つの実施態様では、空気極内に共役ポリマー及び/又は導電性ポリマーを組み込むために、PCT国際特許出願公開WO2008/046010に記載されておりかつ参照として本明細書に組み込まれるような、いわゆる「粘着性末端を有する」ポリマーをSWNTフィルムに包含させる。このような粘着性末端を有するポリマーは、おおよそ見込みでは単分子層として高い結合エネルギーでSWNTの表面に付着する。共役ポリマー主鎖は、酸素還元中心が結合できる追加の結合部位を提供する。このような粘着性末端を有するポリマーは、例えば、有機金属還元触媒及び/又は金属ナノ粒子に対して高い結合親和性を示す様々なリガンドで官能化してもよい。代表的なリガンドとしては、チオール、テルピリジル、ビピリジル、サレン、N−複素環式カルベン、シクロペンタジエニル、シクロオクタジエン、ビス(ジフェニルホスフィノ)アルキレン及びポルフリンが挙げられる。リガンドは、前記粘着性ポリマーをSWNTフィルムに吸着させる前に又は吸着させた後で金属中心又は金属ナノ粒子と結合することができる。本発明の他の実施態様では、粘着性末端を有するポリマーは、他の酸素還元増強部位で官能化することでSWNTフィルムに包含させてもよい。これら部位としては、C60、C70等のフラーレン、ナノホーンやグラフェンシート等の他の炭素ナノ粒子、並びに共役ポリマー及びオリゴマーが挙げられる。本発明の他の実施態様では、粘着性末端を有するポリマーを官能化してSWNTフィルムの疎水性を変性し、前記フィルムの表面特性を調節することで、フィルムの特性、例えばイオン輸送やガス拡散を向上させてもよい。官能化粘着性末端を有するポリマーは、例えば、ペルフルオロアルキル鎖、エチレンオキシド鎖、アルキル鎖、シロキサン鎖又はこれらの組み合わせ等のペンダント置換基を持つことで、SWNTフィルム表面の疎水性を増大又は軽減することも可能である。
【実施例】
【0028】
方法及び材料
図2は、多孔質膜上の金属電極接触型SWNTフィルム及び空気極の電気化学性能を試験するのに用いた電池の断面図を表している。空気極は、SWNTフィルム101、コンタクト電極102及び下地である多孔質疎水性膜103を有している。電池本体104は固体PTFEから作製した。電池側壁に開いた開口部106は、電池内の電解質用容積105に利用される。Oリング107は電池内の側壁開口部106の周囲にあり、SWNTフィルム101と電極102とを担持する膜103がプレキシガラス製のガスフローカバー108によってOリング107に押し付けられると、SWNTフィルム101に対して漏れ止めシールとなる。永久電池では、Oリング107は、クリンプシール、エポキシセメント、接着剤又は硬化シーラントと置き換えてもよい。ガスフローカバー108は、当該ガスフローカバー108の4つの穴109に挿入した4本のねじ(図示せず)で電池本体に固定した。ガスフローカバー108は、ガス吸気口取付部品110と、ガス室112までのスルーホール111と、それに続くガス排気口取付部品114までのスルーホール113と、を有している。電池本体104は、第2Oリング116の付いた第2側壁開口部115を有する対称型である。金属空気電池の構造中、金属箔117は、電池封止部の第2側壁孔115を覆うように、盲蓋118からの圧力によってOリング116に密着させて配置した。盲蓋118は、盲蓋の4つの穴(内、2つを表示)に通した4本のねじ(図示せず)で電池本体に固定した。電解質ガスパージチューブ120(及び取付部品)は上蓋123に差してある。白金フラグカウンター電極121が描写されており、また、(接続線及び)Ag/AgCl基準電極122は3端子クロノアンペロメトリーの測定に使用した。
【0029】
図3は、図2に示す構造の電池を用いた空気極の、3端子クロノアンペロメトリー測定結果を表している。空気極は、0.22μm孔を有するナイロン膜上に析出された厚さ120nmのSWNTフィルムを備えており、その上、電解質と隔絶した空気極の一部にPdをスパッタリングして外付けの電気接続を形成した。測定は、空気極アセンブリの前記膜側を図3に示したガスに暴露させながら、pH13の0.1Mリン酸緩衝液を用いてAg/AgCl基準電極に対して電位を−0.4Vに保持して行った。グラフは、N2、空気、純O2そして再びN2に暴露させるサイクルに付したときの、空気極の敏捷で安定な可逆仕事を表している。空気極を、空気、次に一酸化炭素(50〜100%)に数分間暴露させ、その後再び空気に暴露させた同様の実験では、COに暴露したことによる電流低下が現れなかった(データは図示せず)。
【0030】
図4のグラフは、O2供給源として空気を用いた様々な電解質pH値における、前記空気極で得た電流密度を表している。pH1の電解質は1M硫酸溶液であり、pH7の電解質は0.1Mリン酸緩衝液であり、そしてpH13の電解質もまた0.1Mリン酸緩衝液であった。繋いだデータ点は、Ag/AgCl基準電極に対する3端子測定値における、各加電圧で得た定常状態の電流密度を表している。
【0031】
金属空気電池における本発明の実施態様による空気電極の性能を、金属アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛について、様々な電解質を用いて試験した。試験を受ける電池の端子を電流計を介して可変抵抗器に接続して、いろいろな抵抗下での電池電位と電流を測定した。図5A〜Dに、これらの測定結果を示す。
【0032】
本明細書中で言及又は引用した特許、特許出願、仮出願及び公報はいずれも、それらが本明細書の明白な開示内容と矛盾しない限り、全ての図表を含むそれら全体を参照として組み込まれる。
【0033】
本明細書に記載の実施例及び実施態様は単に例示を目的とするものであって、そのことを踏まえた様々な修正又は変更は、当業者に示唆されており、本出願の精神及び範囲の範疇にあるものと解すべきである。
【符号の説明】
【0034】
101 SWNTフィルム
102 コンタクト電極
103 多孔質疎水性膜
104 電池本体
105 電解質用容積
106 電池内の側壁開口部
107、116 Oリング
108 ガスフローカバー
110 ガス吸気口取付部品
111、113 スルーホール
112 ガス室
114 ガス排気口取付部品
115 第2側壁開口部
117 金属箔
118 盲蓋
120 電解質ガスパージチューブ
121 白金フラグカウンター電極
122 Ag/AgCl基準電極
123 上蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属空気電池又は燃料電池用の空気極であって、
少なくとも1つの疎水性表面を有する多孔質膜と、
お互いの間に密接な電気的接触を有する単層炭素ナノチューブ(SWNT)を含む導電性触媒フィルムであって、前記フィルムが前記多孔質膜の前記疎水性表面と接触している導電性触媒フィルムと、
を備える、前記空気極。
【請求項2】
前記多孔質膜が、疎水性ポリマー、セラミック又はガラスを含む、請求項1に記載の空気極。
【請求項3】
前記疎水性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、任意のポリアミド、任意のポリスルホン又はペルフルオロアルキル側鎖を有するポリオレフィンを含む、請求項2に記載の空気極。
【請求項4】
前記SWNTが電荷移動ドーピング剤又は置換ドーピング剤でドーピングされている、請求項1に記載の空気極。
【請求項5】
前記ドーピング剤が黒鉛層間化合物を含む、請求項4に記載の空気極。
【請求項6】
前記置換ドーピング剤がホウ素又は窒素である、請求項4に記載の空気極。
【請求項7】
前記フィルムが更にフラーレン又はフラーレン誘導体を含む、請求項1に記載の空気極。
【請求項8】
前記フィルムが更に金属粒子、合金粒子、金属酸化物粒子又はこれらのいずれかの組み合わせを含む、請求項1に記載の空気極。
【請求項9】
前記フィルムが更に共役ポリマーを含む、請求項1に記載の空気極。
【請求項10】
前記共役ポリマーが粘着性末端を有するポリマーを含む、請求項9に記載の空気極。
【請求項11】
前記粘着性末端を有するポリマーが更にペンダント置換基を含んでおり、前記ペンダント置換基が前記SWNTの疎水性を変性するものである、請求項10に記載の空気極。
【請求項12】
前記多孔質膜が非平面形状をしており、前記フィルムが前記形状に適合している、請求項1に記載の空気極。
【請求項13】
前記形状が、規則正しい、外見上規則正しい又は不規則である、請求項12に記載の空気極。
【請求項14】
前記SWNTが密接な物理的接触状態にある、請求項1に記載の空気極。
【請求項15】
前記導電性触媒フィルムが厚さ10〜20,000nmである、請求項1に記載の空気極。
【請求項16】
外部回路を前記フィルムの一部に電気接続するための手段を更に備えている、請求項1に記載の空気極。
【請求項17】
ミクロン径の導電性炭素繊維を更に含む、請求項1に記載の空気極。
【請求項18】
金属空気電池であって、
少なくとも1つの疎水性表面を有する多孔質膜と、お互いの間が密接に電気的接触している単層炭素ナノチューブSWNTを含む導電性触媒フィルムと、を備える空気極であって、前記フィルムが前記多孔質膜の前記疎水性表面と接触している空気極と、
金属を含むアノードと、
を備える、前記金属空気電池。
【請求項19】
前記金属が、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム又はリチウムを含む、請求項18に記載の金属空気電池。
【請求項20】
燃料電池であって、
少なくとも1つの疎水性表面を有する多孔質膜と、お互いの間が密接に電気的接触している単層炭素ナノチューブ(SWNT)を含む導電性触媒フィルムと、を備える空気極であって、前記フィルムが前記多孔質膜の前記疎水性表面と接触している空気極と、
燃料を酸化するアノードと、
を備える、前記燃料電池。
【請求項21】
前記燃料が、水素、炭化水素又はアルコールを含む、請求項20に記載の燃料電池。
【請求項22】
空気極の製造方法であって、前記方法が、
少なくとも1つの疎水性表面を有する多孔質膜を提供する工程と、
複数のSWNTを含む懸濁液を前記多孔質膜からの濾過により析出する工程であって、前記SWNTの均質なフィルムが前記疎水性表面の形状に適合している工程と、
前記フィルムを溶媒で洗浄する工程であって、前記SWNT間の密接な電気的接触によって導電性触媒フィルムが形成されることと、
を含む、前記方法。
【請求項23】
前記フィルムの一部に導体を付着させる工程を更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記フィルムに、フラーレン、金属粒子、合金粒子、金属酸化物粒子、電気活性ポリマー又はこれらのいずれかの組み合わせを析出させる工程を更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記懸濁液が、フラーレン若しくはフラーレン誘導体、金属粒子、合金粒子、金属酸化物粒子、電気活性ポリマー、ミクロン径の導電性炭素繊維又はこれらのいずれかの組み合わせを更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
非平面形状の多孔質膜の形成方法であって、前記方法が、
ポリマーと、少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の非溶媒と、を含む液状ポリマードーピング剤を提供する工程と、
前記液状ポリマードーピング剤を固体表面上に流し込んで平らにならす工程と、
前記溶媒と前記非溶媒とを蒸発させる工程であって、蒸発中に前記ポリマー間に相分離が生じて、陥凹部及び/又は突出部を有する多孔質膜を少なくとも1つの多孔質膜表面に形成する工程と、
前記膜を前記固体表面から取り外す工程と、
を含む、前記方法。
【請求項27】
前記陥凹部及び/又は前記突出部を有する前記膜表面が、前記溶媒と前記非溶媒が蒸発する前記固体表面とは反対側の表面である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記固体表面が、陥凹部及び/又は突出部を含むテンプレートを構成し、前記少なくとも1つの膜表面のうちの1つが、前記固体表面に隣接した表面である、請求項26に記載の方法。

【図1B】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公表番号】特表2012−525682(P2012−525682A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508540(P2012−508540)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/031995
【国際公開番号】WO2010/126767
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(504433168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファウンデーション,インク. (10)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF FLORIDA RESEATCH FOUNDATION,INC.
【Fターム(参考)】