説明

単球分離材料及びそれを利用した単球・樹状細胞調製方法

【課題】 単球を簡便かつ低コストで高純度、高収率でしかも閉鎖系にて回収できる単球親和性材料を開発し、該単球親和性材料を用いた選択的単球分離デバイス、単球培養用デバイス、並びにその処理方法、該方法により得られた単球、樹状細胞を提供すること。
【解決手段】 糖構造を有する単球親和性材料を使用した単球分離材料または該分離材料が充填されたデバイス、該単球分離材料またはデバイスを使用して単球を捕捉し、該単球分離材料に使用された同種の高濃度糖溶液にて捕捉された単球を回収することを特徴とする単球分離方法、および、得られた単球を培養して樹状細胞へ分化誘導させる樹状細胞の調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢血などの体液から単球を選択的に分離できる細胞分離材料及びこれを用いた細胞分離デバイスならびに該材料、デバイスを使用した単球及び樹状細胞の調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、血液、骨髄などのふくまれる細胞を分離し、血管などの組織再生ならびにガン患者の免疫賦活を目的として移植する細胞治療が実用化されるともに治療に有用な細胞を選択的に分離する材料、デバイスが種々開発されている。血液に代表される体液中に存在する細胞の中で、単球は、血管再生能を有するとともに(非特許文献1,2)細胞免疫療法のひとつである樹状細胞療法における樹上細胞の前駆細胞として注目されている(非特許文献3)。血液などの体液から単球を分離する方法としては以下のものが報告されている。
【0003】
末梢血単球を利用する方法では、細胞の比重差を利用して分離する比重密度勾配遠心法や、アフェレーシスなどによって末梢血から単球を含んだ血液成分を分離し、付着性の高い単球をポリスチレン製フラスコなどの理化学器具に付着させ、非付着性細胞の除去を行うことによって単球を分離する方法や、単球に対する抗体を結合した磁気ビーズを利用して、単球を選択的に分離する方法など挙げられる。分離された単球は、IL−4、GM−CSFなどのサイトカインを加えて培養することにより樹状細胞に分化誘導され、癌治療用細胞として使用されている。
【0004】
しかしながら比重密度勾配遠心法にて単球を分離する方法は、密度勾配に使用する液の細胞毒性などの安全性の問題、また遠心洗浄操作などに時間を要し、細胞のロスが多い、開放系での操作であるためにコンタミネーションを起こしやすいなど操作性の問題、分離効率の点において非付着性細胞の除去が十分でなくリンパ球の混入が生じるなど、多くの課題を残している。また、比重遠心分離法により単核球を分離した後、単球とリンパ球との基材への付着性の差を利用して、単球を選択的にプラスチックディッシュなどの理化学器具に付着させる方法が知られているが、本方法は、操作が煩雑であるとともに、分離される単球の回収率、純度ともに十分なものではない。抗体を使用した磁気ビーズによる分離法は、単球を比較的高純度に分離することができるが、細胞処理に長時間要し、また高価である。エルトリエーション法は、傾斜を持つチャンバー内に細胞浮遊液を入れて遠心し、一方では緩衝液を遠心と逆方向に流すことで特定の細胞層を形成させる方法である。この方法は、高純度の単球を得る方法であるが、装置が高価である、熟練の操作技術、また細胞分離に長時間を要する。
【0005】
また、近年、細胞分離フィルターを使用した単球分離が報告されている。例えば特許文献1 には、赤血球は通過するフィルターに有核細胞を捕捉させた後、最初の通液方向とは逆方向の液流を惹起させて有核細胞を回収する方法が開示されている。しかしながら、同公報は有核細胞を回収するフィルターであり、単球に対して選択性を有するものではない。また特許文献2には、単球および/ 又は単球由来のマクロファージ選択除去フィルター装置が開示されている。しかしながら、同公報はフィルターの平均細孔断面積、および嵩密度を規定した物理的な濾過フィルターであり、単球との親和性を活用して単球を選択的に分離する本発明とは明らかに異なる。また、特許文献3に関しても、フィルターの充填密度および繊維径を規定することにより単球の捕捉率が向上することが開示されているが、前記と同様の理由で本発明とは明らかに異なる。
【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci,vol.100,No.5:2, 426−2431,2003.
【非特許文献2】Cardiovasc Reserch,49(3):671−680,2001.
【非特許文献3】Cancer Res. vol.59:56−58.1999.
【特許文献1】WO98/32840
【特許文献2】特開平9−75076
【特許文献3】特開2004−129550
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、末梢血などの体液から簡便に、選択的に単球を分離する材料及びデバイスの提供、また、該材料又はデバイスを使用した、簡便で、高効率な単球ならびに樹状細胞の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、種々素材と単球との相互作用について、鋭意検討した。その結果、材料の表面の少なくとも一部が単球親和性材料から構成されている細胞分離材料により、単球を選択的に分離でき、また該単球より樹状細胞が調整されることを見いだし、本発明に至った。よって、本発明が提供するのは以下の通りである:
(1)材料表面の少なくとも一部が糖構造を有する物質から構成されていることを特徴とする、単球分離用の細胞分離材料。
(2)糖構造を有する物質が、細胞分離材料の基材に固定化されている(1)の細胞分離材料。
(3)細胞分離材料の基材が、糖構造を有する物質で被覆されている(1)の細胞分離材料。
(4)糖構造を有する物質の糖が、マンノース、グルコース、ガラクトース、及びフコースからなる群より選択されるいずれか1種類以上である(1)〜(3)のいずれかの細胞分離材料。
(5)(1)〜(4)のいずれかの細胞分離材料を液体入口および/または液体出口を有する容器に充填した細胞分離デバイス。
(6)(1)〜(4)のいずれかの細胞分離材料、または(5)の細胞分離デバイスを用いて、体液を処理し、体液中から単球を選択的に捕捉することを特徴とした単球分離方法。
(7)1)(1)〜(4)のいずれかの細胞分離材料、または(5)の細胞分離デバイスに体液を接触させて単球を捕捉させる工程、
2)非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、
3)捕捉された単球を回収する工程、
をこの順に実施することを特徴とする細胞採取方法。
(8)捕捉された単球を回収する工程において、細胞回収液として、マンノース、グルコース、ガラクトース、及びフコースからなる群より選択される1種類以上の糖を含む細胞回収溶液を使用することを特徴とする(7)の細胞採取方法。
(9)(7)又は(8)の細胞採取方法によって回収された単球を、分化誘導し樹状細胞にすることを特徴とする樹状細胞調製方法。
(10)(6)の単球分離方法によって捕捉された単球を、回収せずに分化誘導し樹状細胞にすることを特徴とする樹状細胞調製方法。
(11)1)(1)〜(4)のいずれかの細胞分離材料、または(5)の細胞分離デバイスに体液を接触させて単球を捕捉させる工程、
2)非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、
3)捕捉された単球を分化誘導する工程、
4)分化誘導された樹状細胞を回収する工程、
をこの順に実施することを特徴とする樹状細胞調製方法。
(12)(9)〜(11)いずれかの樹状細胞調製方法によって得られた樹状細胞含有組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の細胞分離材料及びデバイスを使用することにより、単球を簡便かつ高純度、高収率で回収することが可能となり、また分離された単球は樹状細胞への分化誘導することにより高効率で簡便に樹状細胞を調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0010】
本発明の第1は、単球を選択的に捕捉する細胞分離材料に関する。本発明の細胞分離材料とは、材料表面の少なくとも一部が糖構造を有する物質から構成されていることを特徴とする。材料表面の少なくとも一部が糖構造を有する物質から構成されているとは、1)細胞分離材料自体が糖構造を有する物質で構成されている場合、または、2)細胞分離材料の基材と糖構造を有する物質が異なり、細胞分離材料の表面の全てまたは一部が、糖構造を有する物質で構成される場合、が挙げられる。
【0011】
本発明の細胞分離材料において使用される、糖構造を有する物質としては、単糖、オリゴ糖または多糖構造を物質の部分構造とするもので、それ自体で細胞分離材料として成型可能な物質、あるいは細胞分離材料の基材の表面に固定化または被覆できるものであれば特に限定されないが、反応性官能基を有する単糖誘導体、オリゴ糖誘導体、または多糖誘導体や、単糖、オリゴ糖または多糖を部分構造として有する高分子などが挙げられる。該糖構造を有する物質における糖の種類は特に限定されないが、マンノース、グルコース、ガラクトース、フコースなどの単糖、またはこれら糖単位を含むオリゴ糖あるいは多糖が好ましく、また複数種の糖であっても構わない。糖構造とは、これら糖の部分構造あるいは誘導体を意味する。糖構造の糖がオリゴ糖または多糖類の場合、直鎖構造でも分岐構造いずれでもよいが、糖構造の末端糖がマンノース、グルコース、ガラクトース、フコースのいずれかより選択される構造を有していることが好ましい。ここでいう末端糖とは、非還元性末端側にある末端の糖を意味する。
本発明の細胞分離材料において、糖構造を有する物質を細胞分離材料の基材に固定化する場合、その固定化方法としては、イオン結合法、共有結合法などがあげられ、その固定の方法としては、公知の種々の方法を特別な制限なしに用いることが出来る。この場合には、糖構造を有する物質として、反応性官能基を有する単糖誘導体、オリゴ糖誘導体、多糖誘導体が好適に使用される。単糖誘導体、オリゴ糖誘導体、多糖誘導体の反応性官能基としては、細胞分離材料の基材と直接またはスベーサを介して化学結合するものであれば特に限定されないが、水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、アミド基、エポキシ基、ハロゲン基、サクシニルイミド基、酸無水物基などが挙げられる。また、反応性官能基を有する単糖誘導体、オリゴ糖誘導体、多糖誘導体を細胞分離材料に固定化するにあたり、細胞分離材料の基材の表面に反応性基を導入してもよい。反応基を導入する方法としては、例えば、特開平2−261833号公報に開示されているハロゲンあるいは疑似ハロゲンの固定化、特開平6−219051号、特許第1887096号公報に開示されているエポキシ基の導入などが好適に利用される。また、細胞分離材料の基材へ、糖構造を有する物質あるいはその前駆体をグラフト重合することにより固定化することもできる。この場合には、グラフト重合が可能なスチレン基、メタクリル基、ビニル基、アクリル基などを反応性官能基とする、単糖、オリゴ糖、多糖誘導体を糖構造を有する物質として使用できる。その固定化方法としては、放射線や電子線を用いた公知の方法を特別な制限なしに用いることが出来る。
【0012】
本発明の細胞分離材料において、細胞分離材料の基材が、糖構造を有する物質によって、被覆される場合には、糖構造を有する物質として、単糖、オリゴ糖、または多糖を部分構造とする高分子物質が好適に使用される。単糖、オリゴ糖、または多糖を部分構造とする高分子としては、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、アラミド、ポリアミド、アクリル樹脂等に代表される合成高分子、キチン、キトサン、酢酸セルロース、セルロース、レーヨン、アガロース、アルギン酸等に代表される天然高分子に、単糖、オリゴ糖、多糖構造が導入されたものなどが挙げられる。細胞分離材料の基材に、糖構造を有する物質を被覆する方法としては特に限定されないが、被覆層を形成する糖構造を有する物質を溶解した液中に、細胞分離材料の基材を浸漬する、或いは該溶液を細胞分離材料の基材に噴霧する、または、細胞分離材料の基材上に該溶液を注入する、などのコーティング方法が挙げられる。またコーティング処理後は、該溶液を洗浄後、あるいは、未洗浄のまま、乾燥を行っても良い。あるいは乾燥せずに、洗浄のみしても良く、公知の方法を特別な制限なしに用いることが出来る。また、被覆層を形成する糖構造を有する物質の溶液中に重合性化合物も共存させ、コーティング後に架橋させるものであってもよい。
【0013】
本発明の細胞分離材料の基材としては、シャーレ、フラスコ、プレート、バッグ、カートリッジ、カセットなど平板構造を有する器具、あるいは連通孔を持つ構造体、例えば不織布、繊維、多孔体、球状担体などが挙げられるが、特に形態は限定されない。
【0014】
本発明の細胞分離材料の基材が、シャーレ、フラスコ、プレート、バッグ、カートリッジ、カセットなどの場合には、その形態、大きさはとくに限定されない。材質としても特に限定されないが、非反応性ポリマーまたは生物親和性金属あるいはその合金などが好ましく使用される。または、これら非反応性ポリマーや生物親和性金属でコートあるいはメッキされた材料でも良い。具体的には、該ポリマーとして、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、コポリマーテトラフルオロエチレンまたはヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化ポリマー、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、スチレンブタジエンコポリマー、ポリスチレン等が挙げられる。金属材料としては、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、またはそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、または窒化チタン被覆ステンレス鋼などが挙げられる。また、シリコンコートされたガラスであっても良い。とくに好ましくは耐滅菌性を有する素材であるが、具体的にはシリコンコートされたガラス、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリメチルペンテンなどがあげられる。
【0015】
また、本発明の細胞分離材料の基材として、シャーレ、フラスコ、プレート、バッグ、カートリッジ、カセットなどの場合に、ガス透過性構造を有する材料を使用したものも好ましく使用できる。ガス透過性構造を有する材料として、コンタミネーションの抑制が可能な程度の微細な孔構造やスリット構造を有するものや、材質的にガス透過性が高い素材が挙げられる。ガス透過性が高い素材としては、例えばポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどが挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
本発明の細胞分離材料の基材として、不織布状、または多孔体状の場合には、その平均孔径は例えば、9μm〜80μmの範囲が好ましく、その素材としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、アラミド、ポリアミド、アクリル樹脂等に代表される合成高分子、キチン、キトサン、酢酸セルロース、セルロース、レーヨン、アガロース、アルギン酸等に代表される天然高分子、ハイドロキシアパタイト、ガラス、アルミナ等に代表される無機材料、ステンレス、チタン等に代表される金属等が挙げられる。多孔状の形態は、スポンジ状、フエルト状、綿状、繊維状、粒子状、パイプ状、円盤状、円筒状などのいずれの形態であっても良い。細胞分離材料の基材が球形担体の場合、粒径は10μm〜2000μmが好ましく、処理効率からより好ましくは70μm〜1000μmである。その素材としては、例えば、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリルアミドグラフト化ポリエチレンなどの合成高分子化合物や結晶性セルロース、架橋セルロース、セルロース誘導体、架橋アガロース、架橋デキストリン、キチン、キトサンなどの多糖類からなる有機担体、さらにはこれらの組合せによって得られる、有機−有機、有機−無機などの複合担体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本発明の第2は、単球を選択的に分離する細胞分離デバイスに関する。本発明の細胞分離デバイスは、前記細胞分離材料を、液体入口および/または液体出口を有する容器に充填したものである。本発明の細胞分離デバイスに好適に使用される細胞分離材料は、不織布、繊維、多孔体、球状担体など連通孔を有する構造体である。本発明の細胞分離デバイスは、これら構造体を、それぞれの形態にあったカラム、バッグ、カセット等の容器に装着・充填、またはフラスコ、バッグ培養器具に収納したものなどをいう。
【0018】
該容器の形態、材質、大きさにはとくに限定されず、コンテナ、バッグ、チューブ、カラム、カセット、フラスコなど任意の形態であってよい。本発明の細胞分離デバイスの一例を挙げると、容量約0.1〜500ml程度、直径約0.1〜10cm程度の透明または半透明の筒状容器に、球状担体などの連通孔を有する構造体を充填し、カラム形状とすることなどがあげられ、該カラムは単球選択的な細胞分離デバイスとして本発明に含まれる。該デバイスは、体液流入口および体液流出口のある容器に体液流入口と体液流出口を仕切るように装着・充填し、フィルターまたはクロスフロー型モジュールとすることが好ましく、該フィルターおよびクロスフロー型モジュールも単球選択的な細胞分離デバイスとして本発明に含まれる。また容器に不織布、多孔体を装着・充填する場合は、単層もしくは複数枚積層することができ、また材料表面が糖構造を有する物質から構成されていない材料と組み合わせて装着・充填することもできる。
【0019】
本発明の細胞分離デバイスの容器素材としては、特に限定されるものではないが、非反応性ポリマーまたは生物親和性金属あるいはその合金などが使用される。または、これら非反応性ポリマーや生物親和性金属でコートあるいはメッキされた材料でも良い。具体的には、該ポリマーとして、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、コポリマーテトラフルオロエチレンまたはヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化ポリマー、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリスチレン等が挙げられる。金属材料としては、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、およびそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、および窒化チタン被覆ステンレス鋼などが挙げられる。また、シリコンコートされたガラスであっても良い。とくに好ましくは耐滅菌性を有する素材であるが、具体的にはシリコンコートされたガラス、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。
【0020】
本発明の第3は、上記細胞分離材料、または細胞分離デバイスを使用した、単球の分離、回収方法である。以下のその詳細について説明する。
【0021】
本発明の単球の分離、回収方法は、上述したような本発明の細胞分離材料または細胞分離デバイスを用いて行われる。具体的には、上記細胞分離材料または細胞分離デバイスと、体液とを適宜接触させることで行う。
【0022】
その好ましい態様は、以下の工程からなる。
【0023】
1)細胞分離材料、または細胞分離デバイスに体液を接触させて単球を捕捉させる工程、
2)非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、
3)捕捉された単球を回収する工程。
【0024】
該処理工程により調製された単球は、血管再生や樹状細胞への分化誘導など、再生医療、細胞医療分野に使用される。なお本発明における体液とは、末梢血液、骨髄液、臍帯血液、または末梢血液のアフェレーシス産物、末梢血液,骨髄液,臍帯血の液遠心分離処理液、または所望によりフィコール、パーコール、バクティナーチューブ、リフォプレップ、HES(ヒドロキシエチルスターチ)などを使用し、比重密度遠心分離処理を施した単球を含む細胞懸濁液を指す。また単球とは、造血幹細胞由来の単球系細胞である。体液を採取する際、一般的に使用されている抗凝固剤として、ヘパリン、低分子量ヘパリン、メシル酸ナファモスタット、メシル酸ガベキサート、アルガトロバンや、アシッド・シトレート・デキストロース液(ACD液)やシトレート・フォスフェート・デキストロース液(CPD液)などのクエン酸含有抗凝固剤などを使用しても良い。なかでもクエン酸含有抗凝固剤、またはヘパリンは、一般的に最も好ましく用いられる抗凝固剤として挙げることができる。
【0025】
以下に該処理工程の詳細について、細胞分離材料、または細胞分離デバイスの代表的な形態を例に説明する。
【0026】
<細胞分離材料またはその基材が、シャーレ、フラスコ、プレート、バッグ、カートリッジ、カセットなどの場合>
1)細胞分離材料への体液の接触工程;
対象となる体液を、シャーレ、フラスコ、プレート、バッグ、カートリッジ、カセットなどを基材とする本発明の細胞分離材料に注入後、5分から120分間、静置または振とうすることにより該細胞分離材料と体液の接触を行う。単球の安定した捕捉および細胞に対するダメージを少なくするという観点より、接触時間は15分から90分の間がより好ましい。
【0027】
2)非捕捉細胞の洗浄工程;
細胞分離材料と体液を所定時間接触後、体液とともに非捕捉着細胞を細胞分離材料より除去する。体液の除去方法は、ピペットやシリンジにて吸引する、あるいはデカンテーションなどにて体液を除去する方法が挙げられる。体液を除去後、生理食塩液または培養液、緩衝溶液などを再度細胞分離材料に注入し、細胞付着面を洗浄後、上清を前記方法にて除去することにより、非接着細胞の洗浄・除去を行う。非接着細胞の除去が不十分な場合は、該操作を数回繰り返すことにより、非接着細胞の洗浄を行うことができる。
【0028】
3)単球回収工程;
細胞分離材料に捕捉された単球の回収は、上記洗浄後の細胞分離材料に、生理食塩水、培地、細胞保存液などからなる回収液、またはアシッド・シトレート・デキストロース液(ACD液)やシトレート・フォスフェート・デキストロース液(CPD液)などの2価カチオンキレート剤、または糖を含む回収液などを接触させることで行う。特に単球の回収効率から、細胞分離材料の一部を構成する糖構造の糖種と同種の糖を含む回収液、例えば、マンノース、グルコース、ガラクトース、フコースまたはこれらの混合物を含む回収液を使用するのが好ましい。回収液として糖含有細胞回収液を使用する場合の糖濃度は、0.01%(W/V)から該糖の37℃における飽和溶解度まで、いずれの濃度でも使用可能であるが、回収効率の点から0.1%(W/V)〜飽和溶解度の1/2量が好ましい。さらに好ましくは、0.5%(W/V)〜飽和溶解度の1/5量が好ましい。また該糖含有細胞回収液に、アシッド・シトレート・デキストロース液(ACD液)やシトレート・フォスフェート・デキストロース液(CPD液)などの2価カチオンキレート剤を含んでもよい。単球と上記細胞回収液との接触は、3分から30分程度、静置あるいは振とうで行い、所定時間後、ピペッティング、振動の付加、捕捉された単球に損傷を与えない程度に回収液を勢いよく押し出す(例えばフラッシングなど)方法などにより、単球を回収することができる。押し出す手段としては、空気あるいは不活性ガス、生理食塩液などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。この際、回収効率を上げるために、4℃まで冷却、あるいは37℃までの加温操作を併用してもよい。また単球の回収が不十分な場合は、上記回収操作を繰り返し行ってもよい。
【0029】
<不織布、繊維、多孔体、球状担体など連通孔を有する構造体からなる細胞分離材料を容器に充填した細胞分離デバイスの場合>
1)細胞分離デバイスへの体液の接触工程;
細胞分離デバイスを使用する場合、体液と細胞分離デバイスとの接触は、細胞分離デバイスに体液を通液させることで行う。本発明における体液の通液方法は、本発明の単球分離デバイスの液体入口から体液を導入し、一定方向に通液させることをいう。体液を導入する手段は、シリンジポンプ、ペリスタポンプ等の機械を用いる方法や、シリンジを用いた手動通液、高低差を利用した自然落下処理等が挙げられるが、この限りではない。通液の速度は、0.1ml/min〜100ml/minの間が好ましく、体液を該デバイスに1回通液させてもよいし、循環処理にて複数回接触させてもよい。
【0030】
2)非捕捉細胞の洗浄工程;
細胞分離デバイスを使用する場合の非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する方法は、細胞分離デバイスに洗浄液を、液体入口から(体液流入方向と同一方向)、あるいは液体出口から(体液流入方向と逆方向)通液させることをいう。細胞洗浄液の具体例としては、生理的食塩液、リンゲル液、リン酸緩衝液等の緩衝液、RPMI1640等の細胞培養用培地が挙げられるが、この限りではない。洗浄液を導入する手段は、シリンジポンプ、ペリスタポンプ等の機械を用いる方法や、シリンジを用いた手動通液、高低差を利用した自然落下処理等が挙げられるが、この限りではない。ポンプにより通液する場合の流速は、0.1ml/min〜100ml/min程度が挙げられる。洗浄液量は、細胞分離材料、または該デバイス容積により異なるが、容積の約1〜5倍程度の体積で洗浄することが好ましい。
【0031】
3)単球回収工程;
細胞分離デバイスに捕捉された単球の回収は、細胞分離デバイスに、生理食塩水、培地、細胞保存液などからなる回収液、またはアシッド・シトレート・デキストロース液(ACD液)やシトレート・フォスフェート・デキストロース液(CPD液)などの2価カチオンキレート剤、または糖を含む回収液などを通液することで行われる。特に単球の回収効率から、細胞分離材料の一部を構成する糖構造の糖種と同種の糖を含む回収液、例えば、マンノース、グルコース、ガラクトース、フコースまたはこれらの混合物を含む回収液を使用するのが好ましい。回収液として糖含有細胞回収液を使用する場合の回収液の糖濃度は、0.01%(W/V)から該糖の37℃における飽和溶解度まで、いずれの濃度でも使用可能であるが、回収効率の点から0.1%(W/V)〜飽和溶解度の1/2量が好ましい。さらに好ましくは、0.5%(W/V)〜飽和溶解度の1/5量が好ましい。また該糖含有細胞回収液にアシッド・シトレート・デキストロース液(ACD液)やシトレート・フォスフェート・デキストロース液(CPD液)などの2価カチオンキレート剤を含んでもよい。細胞分離デバイスと上記細胞回収液は、3分から30分程度接触させることが好ましく、接触方法は、静置または、循環方式などが挙げられる。循環する際の流速は、0.1ml/min〜200ml/minが好ましい。またこの際、回収効率を上げるために、4℃まで冷却、あるいは37℃までの加温操作を併用してもよい。また単球の回収が不十分な場合は、上記回収操作を繰り返し行ってもよい。
【0032】
このようにして得られた単球は、そのままで、血管再生用細胞や樹状細胞の前駆細胞として使用することが出来る。
【0033】
本発明の第4は、樹状細胞の調製方法および得られる樹状細胞に関する。本発明の樹状細胞の調製方法としては、捕捉された単球を回収して、樹状細胞へ分化誘導する方法と、回収せずに細胞分離材料または細胞分離デバイスに捕捉したまま樹状細胞へ分化誘導する方法とがある。
【0034】
本発明でいう樹状細胞とは、単球をIL−4,GM−CSFなどのサイトカイン類により分化誘導した未熟樹状細胞、さらにTNFα、IL1−β、IL−6、PGE2などのサイトカイン類を添加して分化誘導した成熟樹状細胞、癌抗原の添加に代表される抗原提示能を獲得させる工程を経て、癌抗原を提示させた樹状細胞などを意味する。
【0035】
以下にその方法を詳細に説明する。
【0036】
<細胞分離材料、または細胞分離デバイスから捕捉された単球を回収し、樹状細胞へ分化誘導する方法>
この場合、単球の分離・回収方法としては、上述した単球の分離・回収方法が適用できる。上記方法によって回収された単球を分化誘導することで、樹状細胞を調製することが出来る。
【0037】
回収単球の樹状細胞への分化誘導工程は例えば以下のように実施できる。
【0038】
細胞分離材料または細胞分離デバイスより回収された単球は、一般的に細胞培養に使用されているシャーレやフラスコ内に移動させ、そこでGM−CSF,IL−4含有培養液を添加し、約1週間培養することにより未熟樹状細胞に分化させる。その後、IL−1β,PGE2,IL−6,TNF−αを含む培養液にて、約1週間培養することにより成熟樹状細胞に分化誘導することもできる。また必要に応じ、癌抗原の添加に代表される抗原提示能を獲得させる工程を経て、癌抗原を提示させた樹状細胞を分化誘導することもできる。得られた樹状細胞は、例えば一般的に用いられているピペッティングなどにより回収することが可能である。
【0039】
<細胞分離材料、または細胞分離デバイスに捕捉された単球を回収せずに、樹状細胞へ分化誘導する方法>
その好ましい態様は、以下の工程からなる。
【0040】
1)細胞分離材料、または細胞分離デバイスに体液を接触させて単球を捕捉させる工程、
2)非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、
3)捕捉された単球を分化誘導する工程、
4)分化誘導された樹状細胞を回収する工程。
【0041】
上記1)及び2)の工程においては、上述した単球分離工程に準じて実施することが出来る。以下、3)および4)の工程の詳細について説明する。
【0042】
細胞分離材料がシャーレ、フラスコ、プレート、バッグ、カートリッジ、カセットなどの場合
【0043】
3)捕捉単球の樹状細胞への分化誘導工程;
非捕捉細胞の洗浄工程を行った後、GM−CSF,IL−4含有培養液を添加し、約1週間培養することにより細胞分離材料中に捕捉されている単球を、未熟樹状細胞に分化させる。その後、IL−1β,PGE2,IL−6,TNF−αを含む培養液にて、約1週間培養することにより成熟樹状細胞に分化誘導することができる。また必要に応じ、癌抗原の添加に代表される抗原提示能を獲得させる工程を経て、癌抗原を提示させた樹状細胞を分化誘導することもできる。
【0044】
4)樹状細胞の回収工程;
該細胞分離材料から、未熟あるいは成熟樹状細胞を回収する場合、通常一般的に使用されているピペッティング操作やアシッド・シトレート・デキストロース液(ACD液)やシトレート・フォスフェート・デキストロース液(CPD液)などの2価カチオンキレート剤より構成される細胞回収液を用いて回収することができる。より高い回収率を実現させる上では、糖溶液を利用した回収方法が有利である。好ましい糖回収液としては、細胞分離材料を構成する糖と同種の糖を含む回収液と接触させることにより回収が可能となる。該糖を含む細胞回収液の糖濃度は、0.01%(W/V)から該糖の37℃における飽和溶解度まで、いずれの濃度でも使用可能であるが、回収効率の点から0.1%(W/V)〜飽和溶解度の1/2量が好ましい。さらに好ましくは、0.5%(W/V)〜飽和溶解度の1/5量が好ましい。また該糖含有細胞回収液にアシッド・シトレート・デキストロース液(ACD液)やシトレート・フォスフェート・デキストロース液(CPD液)などの2価カチオンキレート剤を含んでもよい。樹状細胞と上記細胞回収液との接触は、3分から30分程度、静置あるいは振とうで行い、所定時間後、ピペッティング、振動の付加、樹状細胞に損傷を与えない程度に回収液を勢いよく押し出す(例えばフラッシングなど)方法などにより樹状細胞を回収する方法が挙げられる。押し出す手段としては、空気あるいは不活性ガス、生理食塩液などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。この際、回収効率を上げるために、4℃まで冷却、あるいは37℃までの加温操作を併用してもよい。また樹状細胞の回収が不十分な場合は、上記回収操作を繰り返し行ってもよい。
【0045】
不織布、繊維、多孔体、球状担体など連通孔を有する構造体からなる細胞分離材料を容器に充填した細胞分離デバイスの場合
3)捕捉単球の樹状細胞への分化誘導工程;
非捕捉細胞の洗浄工程を行った後、細胞分離デバイスに、GM−CSFまたはIL−4含有培養液を通液し、その後GM−CSF,IL−4を含んだ培養液中で約1週間培養することにより未熟樹状細胞に分化させる。その後、IL−1β,PGE2,IL−6またはTNF−αを含む培養液をさらに通液し、IL−1β,PGE2,IL−6またはTNF−αを含む培養液中で、約1週間培養することにより成熟樹状細胞に分化誘導することができる。また必要に応じ、癌抗原を含有する培養液を通液または接触させるといった抗原提示能を獲得させる工程を経て、癌抗原を提示させた樹状細胞を分化誘導することもできる。
【0046】
該細胞分離デバイスから、未熟、あるいは成熟樹状細胞を回収する場合、通常一般的に使用されている回収液を用いて通液することで回収することが出来る。さらに、アシッド・シトレート・デキストロース液(ACD液)やシトレート・フォスフェート・デキストロース液(CPD液)などの2価カチオンキレート剤より構成される細胞回収液を用いても回収することができる。より高い回収率を実現させる上では、回収液として糖含有溶液を利用した回収方法が有利である。好ましい糖含有回収液としては、細胞分離材料を構成する糖と同種の糖を含む回収液である。該糖を含む細胞回収液の糖濃度は、0.01%(W/V)から該糖の37℃における飽和溶解度まで、いずれの濃度でも使用可能であるが、回収効率の点から0.1%(W/V)〜飽和溶解度の1/2量が好ましい。さらに好ましくは、0.5%(W/V)〜飽和溶解度の1/5量が好ましい。また該糖含有細胞回収液にアシッド・シトレート・デキストロース液(ACD液)やシトレート・フォスフェート・デキストロース液(CPD液)などの2価カチオンキレート剤を含んでもよい。樹状細胞と上記細胞回収液との接触は、3分から30分程度接触させることが好ましく、接触方法としては、回収液を細胞分離デバイスに通液後、細胞分離デバイスを静置、あるいは振とう状態で一定時間保持する、あるいは、回収液を循環させるなどが挙げられる。循環する際の流速は、0.1ml/min〜200ml/minが好ましい。所定時間後、樹状細胞を回収する方法としては、振動の付加、樹状細胞に損傷を与えない程度に回収液を勢いよく押し出す(例えばフラッシングなど)方法などにより樹状細胞を回収する方法が挙げられる。樹状細胞を押し出す手段としては、空気あるいは不活性ガス、生理食塩液などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。この際、回収効率を上げるために、4℃まで冷却、あるいは37℃までの加温操作を併用してもよい。また樹状細胞の回収が不十分な場合は、上記回収操作を繰り返し行ってもよい。
【実施例】
【0047】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
(1)細胞分離材料の調製
マンノビオース結合ポリスチレン誘導体(Poly〔N−p−vinylbenzyl−O−β−D−mannopyranosyl−(1→4)−D−mannamide〕,生化学工業(株)製)を0.1%(W/V)の濃度で蒸留水に溶解した。該溶液を市販の1mlポリスチレンシャーレ(直径35mm)に1ml添加し、室温で約1Hr静置した。つぎに、上清ポリマーを除去した後に、生理食塩液1ml添加し、余剰のマンノビオース結合ポリスチレン誘導体を洗浄後、上清を除去した。本操作を3回繰り返すことにより、マンノビオース結合ポリスチレン誘導体コーティングシャーレを調製した。
【0049】
(2)単球の分離
翼付注射針を健常人上腕部に穿刺した後、リンパ球分離用チューブ(バクティナーチューブ(ベクトンディッキンソン製))に血液を約7.5ml採取した。採血後、該バクティナーチューブに3.8%クエン酸溶液を、血液:クエン酸=10:1になるように添加し、該バクティナーチューブを速やかに3000rpm,20min,室温にて遠心分離した。血漿成分を回収した後に、単核球層を別途容器に回収し、生理食塩液を40ml加え、1500rpm,5min,4℃で遠心分離した。本操作を数回繰り返すことにより、単核球の洗浄を行った。洗浄単核球に、上記で回収した血漿に再懸濁し、所定濃度の単核球懸濁液を調製した。
【0050】
次に、調製した単核球懸濁液1ml(有核細胞数2.0×106cells)を(1)のマンノビオース結合ポリスチレン誘導体コーティングシャーレ添加した後に、37℃、5%CO2インキュベーター内にて30分間静置した。所定時間後、上清の回収を行い、またシャーレは生理食塩液1mlにて3回洗浄を行った。つぎに10%マンノース溶液を1ml添加し、37℃、5%CO2インキュベーター内にて15分間静置した後に、ピペッティングにてシャーレに付着した単球の回収を行った。単球の収率は下式にて求めた。

単球収率(%)=(シャーレから回収した単球数/播種前の単球数)
×100・・・・・式(1)

単球数は、シャーレから回収した細胞懸濁液中の白血球数を、血球カウンター(KX−21NV,シスメックス製)にて測定し、該細胞懸濁液をCD14−PE蛍光抗体(日本ベクトンディッキンソン製)にて標識を行い、フローサイトメーター(BD FACS Canto,日本ベクトンディッキンソン製)にて単球の比率を求め、白血球数に該単球の比率を掛けることにより求めた。なお播種前の単球数についても播種前細胞懸濁液を対象に同様の操作を行い求めた。
【0051】
単球の純度は、シャーレから回収した細胞懸濁液をCD14−PE蛍光抗体(日本ベクトンディッキンソン製)にて標識を行い、フローサイトメーター(BD FACS Canto,日本ベクトンディッキンソン製)にて測定した。その結果、単球の回収率78%、純度96%で単球が選択的に分離回収されていることがわかった。
【0052】
(実施例2)
マンノビオース結合ポリスチレン誘導体の代わりに、ラクトース結合ポリスチレン誘導体(非還元性末端の糖がガラクトース、生化学工業(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、単球の回収率、および純度を求めた。その結果、単球の回収率は81%、純度73%で単球が選択的に分離回収されていることがわかった。
【0053】
(実施例3)
マンノビオース結合ポリスチレン誘導体を、マルトース結合ポリスチレン誘導体(非還元性末端の糖がグルコース、生化学工業(株)製)にした以外は、実施例1と同様の方法にて、単球の回収率、および純度を求めた。その結果、単球の回収率は76%、純度71%で単球が選択的に分離回収されていることがわかった。
【0054】
(比較例1)
ポリマーをコーティングしないポリスチレンシャーレを用いた以外は、実施例1と同様の方法にて単球の収率、純度、樹状細胞回収率を求めた。その結果、単球の回収率は56%、純度46%であった。
【0055】
以上の結果を表1にまとめた。
【0056】
【表1】

(実施例4)
細胞分離材及び単球の調製:
実施例1(1)記載の方法に準じ調整した、単核球懸濁液1ml(有核細胞数2.0×106cells)を、マンノビオース結合ポリスチレン誘導体コーティングシャーレに添加した後に、37℃、5%CO2インキュベーター内にて30分間静置した。30分後、上清を除去し生理食塩液を1ml添加後、ゆっくりとシャーレを攪拌し、上清を除去した。該洗浄操作を5回繰り返すことにより、非捕捉細胞の洗浄を行った。その後、IL−4:500IU/ml,GM−CSF:500IU/mlになるように調製したAIM−V(GIBCO製)培地を1.5ml添加し、6日間培養を行った。
【0057】
樹状細胞の回収:
培養6日後、シャーレ上清中に浮遊している細胞を回収し、さらに、10%マンノース溶液を1mlシャーレに添加し、37℃、5%CO2インキュベーター内にて15分間静置した。15分後ピペッティング操作にて、シャーレに捕捉されている細胞を回収し、先に回収した細胞と合わせて、回収した細胞の総数を血球計算盤にて求めた。
【0058】
樹状細胞の同定:
樹状細胞の回収操作で得られた細胞懸濁液をポリプロピレン製試験管に200μl分取し、抗CD14抗体(PE標識)、及び抗HLA−DR抗体(FITC標識)(ベクトンディッキンソン製)をそれぞれ10μlづつ添加し、冷暗所にて20分間静置した。所定時間後、1500rpm,5分間遠心分離を行い、上清を除去した後にリン酸緩衝液を1ml添加し、フローサイトメーターにて測定を行った。測定の結果、表面抗原CD14+かつHLA−DR+を単球、CD14−かつHLA−DR+を樹状細胞とし各細胞の陽性率を求めた。
なお樹状細胞の回収率は、下式(2)および(3)より求めた。

シャーレから回収した樹状細胞数=シャーレから回収した総細胞数×樹状細胞陽性率
・・・式(2)

樹状細胞回収率(%)=(シャーレから回収した樹状細胞数/シャーレ捕捉単球数) ×100 ・・・式(3)

その結果、樹状細胞の回収率は47.6%であった。
【0059】
(比較例2)
ポリマーをコーティングしないポリスチレンシャーレを用いた以外は、実施例4と同様の方法にて樹状細胞回収率を求めた。その結果、樹状細胞の回収率は23.6%であった。
【0060】
以上の結果を表2にまとめた。
【0061】
【表2】

(実施例5)
1.マンノースアミン固定化細胞分離材料の調製
酢酸セルロースをジメチルスルホキシドとプロピレングリコールの混合溶剤に溶解し、この溶液を特開昭63―117039号公報に記載された方法(振動法)により液滴化し、凝固させて酢酸セルロースの球形の粒子を得た。得られた球形粒子の粒径は、約400μmであった。この粒子を沈降体積比で、4規定水酸化ナトリウム水溶液と1:1(V/V)の割合で混合し、温度10℃〜15℃、120分間接触させることにより、加水分解反応を行った。得られた多孔質セルロース担体を沈降体積で40ml分取し、40mlの逆浸透水(Yamato Pure line RO21、ヤマト科学(株)製)を加え、内温を40℃に昇温した。2N NaOHを24ml添加し、40℃にて30分間振盪した。次にエピクロルヒドリン8.2mlを添加し40℃にて2時間反応させた。反応終了後、約4Lの水にて担体の洗浄を行いエポキシ化担体を得た(エポキシ導入量;32.9μmol/g)。次にマンノースアミン(シグマ(株)製、分子量 約215)0.783gを、pH10.5に調製した0.5M 炭酸水素ナトリウムバッファー51mlに溶解した。そこへエポキシ化担体を沈降体積で51ml加え、37℃にて16時間反応を行い、マンノースアミンの固定化を行った。反応終了後、洗浄液が中性になるまで担体の洗浄を行い、マンノースアミン固定化担体を得た。マンノースアミン固定化担体(沈降体積で51ml)に逆浸透水を加え、全量を102mlにした。そこへモノエタノールアミン510μlを加えて45℃にて2時間反応を行った。反応終了後、洗浄液が中性になるまで担体の洗浄を行い、本反応により未反応のエポキシ基の封止反応を行った。
【0062】
2.血液−顆粒球吸着カラムの接触条件
得られた上記吸着材をヘパリン(ヘパリンナトリウム注射液、吉富製薬(株製))加生理食塩水(ヘパリンの最終濃度が5IU/mlになるように調製)で洗浄を行い、ヘパリンの平衡化を行った。次に担体の脱泡を行った後、沈降体積で1.0mlをミニカラム(アクリル製,内径10 mm,高さ10 mm)に充填した。カラム入口側にポリ塩化ビニル製のチューブ(内径1 mm,外径3 mm,長さ50cm)を装着し、またカラム出口側にも同様のポリ塩化ビニル製のチューブ(長さ20cm)を装着した。
【0063】
実施例1(1)記載の方法に準じ調製した単核球懸濁液5ml(総有核細胞数6.0×105cells)を、流速0.2ml/minでミニカラムに通液を開始した。カラム出口側から単核球懸濁液が出てきた時点を開始時点として、出口側チューブの先端を細胞プール容器に戻し、灌流を60分間行った。
【0064】
[血球数の測定]
所定時間後にカラム出口側の細胞懸濁液を採取し、血球計数装置(KX−21NV シスメックス(株)製)にて白血球数を測定し、単球の比率をフローサイトメーター(FACSCanto ベクトンディッキンソン)にて求め、その結果を表3に示した。
その結果、リンパ球数の変化は認められなかったが、単球数がカラム処理後大幅に減少していることから、カラム内細胞分離材料に単球が選択的に捕捉されていることがわかる。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料表面の少なくとも一部が糖構造を有する物質から構成されていることを特徴とする、単球分離用の細胞分離材料。
【請求項2】
糖構造を有する物質が、細胞分離材料の基材に固定化されている請求項1記載の細胞分離材料。
【請求項3】
細胞分離材料の基材が、糖構造を有する物質で被覆されている請求項1記載の細胞分離材料。
【請求項4】
糖構造を有する物質の糖が、マンノース、グルコース、ガラクトース、及びフコースからなる群より選択されるいずれか1種類以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞分離材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞分離材料を液体入口および/または液体出口を有する容器に充填した細胞分離デバイス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞分離材料、または請求項5記載の細胞分離デバイスを用いて、体液を処理し、体液中から単球を選択的に捕捉することを特徴とした単球分離方法。
【請求項7】
1)請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞分離材料、または請求項5記載の細胞分離デバイスに体液を接触させて単球を捕捉させる工程、
2)非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、
3)捕捉された単球を回収する工程、
をこの順に実施することを特徴とする細胞採取方法。
【請求項8】
捕捉された単球を回収する工程において、細胞回収液として、マンノース、グルコース、ガラクトース、及びフコースからなる群より選択される1種類以上の糖を含む細胞回収溶液を使用することを特徴とする請求項7記載の細胞採取方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載の細胞採取方法によって回収された単球を、分化誘導し樹状細胞にすることを特徴とする樹状細胞調製方法。
【請求項10】
請求項6記載の単球分離方法によって捕捉された単球を、回収せずに分化誘導し樹状細胞にすることを特徴とする樹状細胞調製方法。
【請求項11】
1)請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞分離材料、または請求項5記載の細胞分離デバイスに体液を接触させて単球を捕捉させる工程、
2)非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、
3)捕捉された単球を分化誘導する工程、
4)分化誘導された樹状細胞を回収する工程、
をこの順に実施することを特徴とする樹状細胞調製方法。
【請求項12】
請求項9〜11いずれか1項記載の樹状細胞調製方法によって得られた樹状細胞含有組成物。

【公開番号】特開2007−312737(P2007−312737A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148620(P2006−148620)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】