説明

単結晶育成装置

【課題】特に、高融点の原料からなる大径の単結晶を、容易に、安定して育成することができる単結晶育成装置を提供する。
【解決手段】育成する単結晶の原料からなる原料棒の、軸方向の、一定長の領域を、誘導加熱によって溶融させるための誘導コイル6に、環の外周から径方向の内方へ向けて凹入した凹部19を設けると共に、凹部19内に、誘導コイル6を冷却するための冷媒を、環の径方向の内方へ向けて流入させて、凹部19の底面21に当接させた後、凹部19外へ流出させるための流路を設けた単結晶育成装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローティングゾーン(FZ)法によって単結晶を育成するための、単結晶育成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属や半導体等の単結晶を、所定の大きさに育成するための単結晶育成方法として、いわゆるフローティングゾーン法が知られている。フローティングゾーン法は、特に、高い純度が要求される単結晶を育成する場合や、育成する原料の融点が高いため、前記原料の融液と反応しない材料からなる適当な坩堝が存在しない場合等に、広く採用される。図10は、フローティングゾーン法を実施するために用いる従来の、単結晶育成装置1の一例を示す断面図である。
【0003】
図10を参照して、この例の単結晶育成装置1は、育成する単結晶の原料からなる原料棒2を、前記原料棒2の軸方向を鉛直方向(図10において上下方向)に向けた状態で保持するための上ホルダ3と、原料棒2の下端に当接されて、結晶成長の開始点として機能する種結晶4を保持するための下ホルダ5と、略環状に形成され、前記上ホルダ3によって保持される原料棒2と同軸に配設された状態で、交流電圧が印加されることによって、誘導磁場を生じて、前記原料棒2の、軸方向の、一定長の領域にジュール熱を発生させて、いわゆる誘導加熱によって溶融させるための誘導コイル6と、前記各部材を内部に収容するための耐圧容器7とを備えている。
【0004】
また、上ホルダ3および下ホルダ5は、それぞれ、耐圧容器7外に配設された駆動装置8、9から、耐圧容器7の気密を維持した状態で、前記耐圧容器7内に突設され、駆動装置8、9によって個別に駆動されて、原料棒2の軸を中心として回転しながら、前記原料棒2の軸方向に上下動する駆動軸10、11の先端に接続されている。
【0005】
前記各部を備えた、図の例の単結晶育成装置1を用いて、単結晶を育成するためには、まず、原料棒2を、上ホルダ3に保持させると共に、種結晶4を、原料棒2の下端から離間させて、下ホルダ5に保持させた状態で、耐圧容器7を密閉し、内部の空気を除去すると共に、数気圧の不活性ガス雰囲気とする。
【0006】
次に、原料棒2の下端を、上方から、誘導コイル6に近づけた状態で、駆動装置8、9を駆動させて、前記原料棒2と種結晶4とを、それぞれ、原料棒2の軸を中心として、一定速度で、図10中に実線の矢印で示すように、同方向に回転させながら、誘導コイル6に交流電圧を印加して、原料棒2の下端を、誘導加熱によって、原料の融点以上の温度に加熱して溶融させる。
【0007】
次に、駆動装置9を駆動させて、種結晶4を上方向に移動させて、原料棒2の下端と接触させた後、原料棒2と種結晶4の回転を続けながら、前記両者を、それぞれ個別に、任意の速度で、図中に実線の矢印で示すように、下方向に移動させる。そうすると、原料棒2に、前記原料棒2を形成する原料の融液からなり、原料棒2の軸方向に一定長を有する溶融帯12が形成されると共に、前記溶融帯12が、原料棒2の、下方向への移動に伴って、原料棒2の上方へ移動することで、溶融帯12より下側に、前記溶融帯12が通過した後の温度降下による融液の凝固によって、種結晶4の結晶とマッチングした単結晶13が成長し、育成される。
【0008】
図11は、前記単結晶育成装置1に用いる、従来の、誘導コイル6の一例を示す、図10と同方向の断面図、図12は、前記誘導コイル6の平面図である。図11、図12を参照して、この例の誘導コイル6は、図12に示す平面形状が、円周上の1個所にスリット14を設けることで遮断された、略環状に形成されていると共に、図11に示す、前記環の中心から放射方向で、かつ原料棒2の軸方向の断面形状が、扁平状(ニードルアイ形状と呼ばれる)に形成されたものである(特許文献1参照)。
【0009】
前記ニードルアイ形状を有する誘導コイル6は、通常、熱伝導性に優れた金属材料によって形成され、内部に、溶融帯12や単結晶13からの熱によって溶融したり軟化したりすることで変形するのを防止するための冷却機構として、水等の冷媒を流通させるための冷却管16が形成された構造に形成される。
【0010】
また、冷却管16としては、図12に破線で示すように、一端が、誘導コイル6の、スリット14を挟む2個所から、環の径方向の外方へ突設された、2本の、前記冷却管16に冷媒を供給するための配管17のうちの一方と接続され、環を略一周するように誘導コイル6内に形成されて、他端が、前記2本の配管17のうちの他方と接続されたものが一般的に用いられる。
【0011】
前記冷却管16に、水等の冷媒を、一方(図12では左側)の配管17から供給し、冷却管16を通して環内を循環させた後、他方(図12では右側)の配管17から排出させることによって、誘導コイル6の略全周が、冷却される。なお、図12の例では、配管17が、前記誘導コイル6を、単結晶育成装置1の所定の位置に支持するための支持部材としても用いられると共に、図12に示すように、誘導コイル6に、交流電源18から、誘導加熱のための交流電圧を印加するための端子としても利用されている。
【0012】
前記ニードルアイ形状を有する誘導コイル6によれば、特に、金属や半導体等の、導電性の原料からなり、溶融帯12を形成する融液に、前記誘導コイル6の、環の内側の縁部15付近の領域から、電磁誘導による浮遊力を付与して、前記融液を、溶融帯12の中心部の方向に集中させることができる。
【0013】
そのため、図11に示すように、誘導コイル6の、環の内径を、原料棒2や単結晶13の外径より小さく設定することにより、前記誘導コイル6の、環の内側の縁部15を、原料棒2や単結晶13の外径よりも、径方向の内側に入り込ませた状態で、そのさらに内側に、溶融帯12を、安定に維持させることができる。
【0014】
したがって、溶融帯12の、原料棒2の軸方向の長さを、できるだけ小さくして、前記溶融帯12の、単結晶13との界面の、外周付近での静水圧を小さくできるため、たとえ、育成する単結晶13の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、静水圧の上昇を、極力、抑制して、溶融帯12が、前記単結晶13の周方向に不規則な垂れを生じて、均一な単結晶13を育成できなくなるという不具合が生じるのを、確実に防止することができる。
【0015】
そして、例えば、シリコン(融点約1400℃)等の、比較的、低融点の原料からなる単結晶の場合であれば、これまでよりも大径化された単結晶を、より安定に育成することができる。
【特許文献1】特開2002−249393号公報(段落[0003]〜[0004]、図2、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、ホウ化ジルコニウム(融点約3200℃)等の、融点が3000℃を超えるような、極めて融点の高い原料からなる単結晶を育成する場合には、図12の誘導コイル6では、前記冷却管16を備えた冷却機構による冷却が不十分であり、特に、高温の溶融帯12を囲む、環の内側の縁部15付近の領域が高温になって、溶融したり、軟化したりして変形することによって、単結晶を育成する工程を続けることができなくなるおそれがある。
【0017】
冷却管16の内径を太くして、流通させる冷媒の流量を増加させることも考えられるが、扁平なニードルアイ形状の誘導コイル6では、冷却管16の内径を太くできる範囲にも限界があり、それによって得られる、冷却能力を向上する効果にも限界がある。そのため、前記高融点の原料からなる単結晶を育成する場合には、通常、ニードルアイ形状ではなく、内径が、原料棒2および単結晶13の外径よりも大きい誘導コイル6が使用されるが、前記誘導コイル6では、融液に、先に説明した、電磁誘導による浮遊力を、十分に付与することができないため、溶融帯12が、下方に垂れ下がる傾向がある。
【0018】
そして、前記垂れ下がりが生じて、溶融帯12が、同方向に長くなるほど、前記溶融帯12の、単結晶13との界面の、外周付近での静水圧が増加することになるため、特に、育成する単結晶13の径が大きいほど、溶融帯12が、前記単結晶13の周方向に不規則な垂れを生じて、均一な単結晶13を育成できなくなるという不具合を生じるおそれが増大する。
【0019】
本発明の目的は、特に高融点の原料からなる大径の単結晶を、容易に、安定して育成することができる単結晶育成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1記載の発明は、略環状に形成され、育成する単結晶の原料からなる原料棒と同軸に配設されて、前記原料棒の、軸方向の、一定長の領域を、誘導加熱によって溶融させるための誘導コイルを備え、前記誘導コイルと原料棒とを、前記原料棒の軸方向に、相対的に移動させることで、前記溶融によって形成される溶融帯を、前記軸方向に移動させて、溶融帯が通過した後の凝固によって単結晶を成長させ、育成するための単結晶育成装置であって、誘導コイルが、環の外周から径方向の内方へ向けて凹入した凹部を備えると共に、前記凹部内に、誘導コイルを冷却するための冷媒を、凹部の開口から、環の径方向の内方へ向けて流入させて、前記凹部の、環の径方向の底面に当接させた後、開口から凹部外へ流出させるための流路が設けられていることを特徴とする単結晶育成装置である。
【0021】
図12の誘導コイル6において、冷却管16を備えた冷却機構による冷却が不十分になるのは、前記冷却管16が、誘導コイル6の、略全周に亘って、環内を循環するように形成されており、長すぎて、水等の冷媒が、冷却管16内を流れている間に高温に加熱されてしまうためである。
【0022】
これに対し、請求項1記載の発明によれば、水等の冷媒を、誘導コイルの、環の外周から径方向の内方へ向けて凹入した凹部に流入させて、誘導コイルの、最も高温になる、環の内側の縁部に最も近い、前記凹部の、環の径方向の底面に、直接に当接させて冷却することができる。
【0023】
そのため、低温の新しい冷媒が、常時、連続して、凹部に供給されることと、冷媒を、前記凹部の底面に当接させることによる冷却効果が、従来の、冷却管の壁面に沿う冷媒の流れによる冷却効果よりも格段に高いこととが相まって、誘導コイルを、ニードルアイ形状として、高融点の原料からなる単結晶の育成に使用した際に、前記誘導コイルの、特に、高温の溶融帯を囲む、環の内側の縁部付近の領域を低温に維持して、前記領域が、溶融したり、軟化したりして変形するのを防止することができる。したがって、前記高融点の原料からなる大径の単結晶を、容易に、安定して育成することが可能となる。
【0024】
なお、冷媒を、凹部の底面に当接させることによる冷却効果が、冷却管の壁面に沿う冷媒の流れによる冷却効果よりも高いのは、前記底面に形成される、冷媒の、温度の境界層の厚みを、前記底面に当接させる冷媒の圧力によって、効果的に薄くして、底面からの入熱を、効率よく、冷媒に伝えることができるためである。
【0025】
そのため、前記冷却効果を、さらに向上することを考慮すると、前記底面は、請求項2に記載したように、原料棒の軸方向に沿う、環の径方向と直交する垂直面とするのが好ましい。また、冷媒の流路は、請求項3に記載したように、凹部の、環の周方向の中央に設けられた冷媒の流入路と、前記流入路の、環の周方向の左右に設けられた、冷媒の流出路とを備えているのが好ましい。さらに、前記凹部は、誘導コイルの、環の内側の縁部を、前記環の周方向に均一に冷却するため、請求項4に記載したように、誘導コイルの、環の周方向の複数個所に設けられているのが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、特に高融点の原料からなる大径の単結晶を、容易に、安定して育成できる単結晶育成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の単結晶育成装置1の、実施の形態の一例を示す断面図である。図2は、前記単結晶育成装置1の要部である、誘導コイル6の部分を拡大した断面図である。
【0028】
両図を参照して、この例の単結晶育成装置1は、育成する単結晶13の原料からなる原料棒2を、前記原料棒2の軸方向を鉛直方向(図において上下方向)に向けた状態で保持するための上ホルダ3と、原料棒2の下端に当接されて、結晶成長の開始点として機能する種結晶4を保持するための下ホルダ5と、略環状に形成され、前記上ホルダ3によって保持される原料棒2と同軸に配設された状態で、交流電圧が印加されることによって、誘導磁場を生じて、前記原料棒2の、軸方向の、一定長の領域に、ジュール熱を発生させて、いわゆる誘導加熱によって溶融させるための誘導コイル6と、前記各部材を内部に収容するための耐圧容器7とを備えている。
【0029】
また、上ホルダ3および下ホルダ5は、それぞれ、耐圧容器7外に配設された駆動装置8、9から、耐圧容器7の気密を維持した状態で、前記耐圧容器7内に突設され、駆動装置8、9によって個別に駆動されて、原料棒2の軸を中心として回転しながら、前記原料棒2の軸方向に上下動する駆動軸10、11の先端に接続されている。
【0030】
前記各部を備えた、図1の例の単結晶育成装置1を用いて、単結晶13を育成するためには、まず、原料棒2を、上ホルダ3に保持させると共に、種結晶4を、原料棒2の下端から離間させて、下ホルダ5に保持させた状態で、耐圧容器7を密閉し、内部の空気を除去すると共に、数気圧の不活性ガス雰囲気とする。
【0031】
次に、原料棒2の下端を、上方から、誘導コイル6に近づけた状態で、駆動装置8、9を駆動させて、前記原料棒2と種結晶4とを、それぞれ、原料棒2の軸を中心として、一定速度で、図1中に実線の矢印で示すように、同方向に回転させながら、誘導コイル6に交流電圧を印加して、原料棒2の下端を、誘導加熱によって、前記原料棒2を形成する原料の融点以上の温度に加熱して溶融させる。
【0032】
次に、駆動装置9を駆動させて、種結晶4を上方向に移動させて、原料棒2の下端と接触させた後、原料棒2と種結晶4の回転を続けながら、前記両者を、それぞれ個別に、任意の速度で、図1中に実線の矢印で示すように、下方向に移動させる。そうすると、原料棒2に、前記原料棒2を形成する原料の融液からなり、原料棒2の軸方向に一定長を有する溶融帯12が形成されると共に、前記溶融帯12が、原料棒2の、下方向への移動に伴って、原料棒2の上方へ移動することで、溶融帯12より下側に、前記溶融帯12が通過した後の温度降下による融液の凝固によって、種結晶4の結晶とマッチングした単結晶13が成長し、育成される。
【0033】
図3は、前記単結晶育成装置1に用いる誘導コイル6の一例を示す平面図、図4は、前記誘導コイル6の要部である凹部の周辺を拡大した部分切欠き平面図、図5は、図4のV−V線断面図、図6は、図4のVI−VI線断面図、図7は、前記誘導コイル6の他の凹部の周辺を拡大した部分切り欠き平面図である。図1〜図3を参照して、誘導コイル6は、図3に示す平面形状が、円周上の1個所にスリット14を設けることで遮断された、略環状に形成されていると共に、図2に示す、前記環の中心から放射方向で、かつ原料棒2の軸方向の断面形状が、ニードルアイ形状に形成されている。
【0034】
図3〜図7を参照して、誘導コイル6は、従来同様に、銅等の、熱伝導性に優れた金属材料によって形成されていると共に、環の外周から径方向の内方へ向けて凹入した凹部19を、環の周方向に9つ備えている。また、前記複数の凹部19のうち、スリット14を挟む2つ以外の、7つの凹部19は、図3、図4に示す平面形状が、誘導コイル6の、環の外周に開かれた開口20から、環の径方向の内方へ向けて、幅が徐々に狭くなって、前記径方向の底面21に達する、略台形状に形成されている。底面21は、原料棒2の軸方向に沿い、かつ環の径方向と直交する、平面状の垂直面とされている。
【0035】
また、前記凹部19は、環の周方向の2個所に設けられた仕切板22によって、前記周方向の中央の、冷媒の流入路23と、前記流入路23の左右の、冷媒の流出路24とに仕切られていると共に、前記仕切板22の、径方向の内方側の先端が、底面21に達しないように、離間させた状態で形成されることによって、前記流入路23と、2つの流出路24とが、互いに接続されている。
【0036】
各凹部19の、環の外周の開口20には、断面形状が矩形状で、かつ、内部が、前記2枚の仕切板22と連続する仕切板25によって、前記流入路23と連続する冷媒の流入路26と、その左右の、前記流出路24と連続する冷媒の流出路27とに仕切られた、冷媒の供給管28が接続されている。
【0037】
図3、図7を参照して、スリット14を挟む2つの凹部19は、先に説明した台形を、約半分にした半台形状の平面形状に形成されており、底面21は、原料棒2の軸方向に沿い、かつ環の径方向と直交する、平面状の垂直面とされている。また、凹部19内は、環の周方向の1個所に設けられた仕切板22によって、前記スリット14側の、冷媒の流入路23と、反対側の、冷媒の流出路24とに仕切られていると共に、前記仕切板22の、径方向の内方側の先端が、底面21に達しないように、離間させた状態で形成されることによって、前記流入路23と、流出路24とが、互いに接続されている。
【0038】
また、前記2つの凹部19の、環の外周の開口20には、断面形状が、図示していないが矩形状で、かつ、内部が、前記1枚の仕切板22と連続する仕切板25によって、前記流入路23と連続する冷媒の流入路26と、前記流出路24と連続する冷媒の流出路27とに仕切られた、冷媒の供給管29が接続されている。
【0039】
前記各部のうち、供給管28、29は、それぞれ、図示していないが、耐圧容器7外に設けた冷媒の供給および回収のための設備と接続されている。また、各供給管28、29は、それぞれ、環の外周から、前記環の、放射方向の外方へ延設されて、誘導コイル6を、耐圧容器7内の、図1に示す位置に保持するための支持部材を兼ねている。さらに、スリット14を挟む2つの供給管29は、例えば銅等の、導電性に優れた金属によって形成されて、図3に示すように、誘導コイル6に、交流電源18から、誘導加熱のための交流電圧を印加するための端子を兼ねている。これらの構成により、誘導コイルの周囲の構造を、簡略化することができる。
【0040】
一方、供給管28は、アルミナセラミックス、ジルコニアセラミックス等の、高い耐熱性を有すると共に、絶縁性の材料によって形成するのが好ましい。供給管28を、絶縁性の材料で形成すると、誘導コイル6への端子として機能する、導電性の供給管29の部分を除いて、誘導コイル6を流れる電流の、育成する単結晶13の軸に対する軸対称性を保つことができ、溶融帯12に作用するローレンツ力の軸対称性を保つこともできるため、溶融帯12が、前記単結晶13の周方向に不規則な垂れを生じるのを、さらに確実に、抑制することができる。
【0041】
これに対し、供給管28を、供給管29と同様に、銅等の良導体で形成した場合には、流入路23と流出路24とを仕切る仕切板22にも、わずかながら電流が流れるため、溶融帯12に作用するローレンツ力の軸対称性が、わずかに低下する。そのため、育成する単結晶13の密度が小さい等、垂れを生じにくい場合には問題とならないが、溶融帯12が垂れやすい単結晶13を育成する場合には、特に、先に説明したように、供給管28を、絶縁性の材料で形成するのが好ましい。
【0042】
前記誘導コイル6によれば、図4、図7中に実線の矢印で示すように、耐圧容器7外から、供給管28、29の流入路26を通して供給された冷媒を、開口20から、流入路23を通して、凹部19内へ流入させて、前記凹部19の、環の内側の縁部15に最も近い、環の径方向の底面21に当接させた後、流出路24を通して、前記開口20から、凹部19外へ流出させて、供給管28、29の流出路27を通して、耐圧容器7外へ流出させる操作を、単結晶13を育成する工程の間、継続して行うことにより、特に、前記縁部15を、従来に比べて、十分に冷却することができる。
【0043】
これは、先に説明したように、低温の新しい冷媒が、常時、連続して、凹部19に供給されることと、冷媒を、前記凹部19の底面21に当接させることによる冷却効果が、従来の、冷却管の壁面に沿う冷媒の流れによる冷却効果よりも高いこととが相まって、高い冷却効果を得ることができるためである。また、冷媒を、凹部19の底面21に当接させることによる冷却効果が高いのは、前記底面21に形成される、冷媒の、温度の境界層の厚みを、前記底面21に当接させる冷媒の圧力によって、薄くすることができ、底面21からの入熱を、効率よく、冷媒に伝えることができるためである。
【0044】
また、図4、図7の例では、先に説明したように、底面21を、原料棒2の軸方向に沿い、かつ環の径方向と直交する、平面状の垂直面としているため、前記底面21に冷媒を当接させることによる冷却効果を、より一層、向上することもできる。これは、底面21を垂直面とすることで、前記垂直面と略直交するように、環の、径方向の内方へ向けて配設された流入路23を通して供給される冷媒を、底面21に対して、略垂直に当接させることができ、前記冷媒の圧力を、より有効に、境界層に加えて、前記境界層の厚みを、より効果的に、小さくすることができるためである。
【0045】
なお、冷媒を、底面21に対して略垂直に当接させることによる効果は、発明者の検討によると、底面21の平面に対する垂線(正確に垂直方向)からのずれ角が15°以内の範囲内であれば、略同様に得ることができる。さらに、図4、図7の例では、環の周囲に9つの凹部19を設けることで、前記冷却効果を、環の周方向に均一化することもできる。
【0046】
したがって、ニードルアイ形状を有する図3〜図7の誘導コイル6を、先に説明した、
融点が3000℃以上という高融点の原料からなる単結晶13の育成に使用した場合には、特に、高温の溶融帯12を囲む、環の内側の縁部15付近の領域を低温に維持して、前記領域が、溶融したり、軟化したりして変形するのを防止して、前記高融点の原料からなる大径の単結晶13を、容易に、安定して育成することが可能となる。
【0047】
図8は、凹部19の変形例を示す部分切欠き平面図である。図8を参照して、この変形例では、前記凹部19の底面21が、平面状の垂直面ではなく、母線が、原料棒2の軸方向に沿い、かつ環の径方向と直交する方向に向けられた、円柱面状の垂直面とされた点が、先の、図3〜図6の例と相違している。その他の部分は、先の例と同一であるので、同一個所に同一符号を付して、説明を省略する。底面21を、図のように、円柱面状の垂直面としても、冷媒を当接させることで、平面状の垂直面とした図3〜図6の例と、ほぼ同様の高い冷却効果を得ることができる。
【0048】
図9は、凹部19の、他の変形例を示す部分切欠き平面図である。図9を参照して、この変形例では、仕切板22、25を1つにして、凹部19内、および供給管28内を、図において下側の、冷媒の流入路23、26と、上側の、冷媒の流出路24、27とに仕切った点が、先の、図3〜図6の例と相違している。その他の部分は、先の例と同一であるので、同一個所に同一符号を付して、説明を省略する。仕切板22、25を、図9のように1つにして、冷媒の流路を変更しても、底面21に冷媒を当接させることで、図3〜図6の例と、ほぼ同様の高い冷却効果を得ることができる。
【0049】
図13は、流路の相対的な大小関係を示すものであり、特に、流入路23,26の幅30、仕切板22の先端と凹部19との間の距離である流出路24の幅31、仕切板22の先端と底面21との間の距離である突当り距離32を図示したものである。幅30、幅31、突当り距離32はそれぞれ、最大値が最小値の4倍以下あることが好ましい。
【0050】
幅30をW1、幅31をW2、突当り距離32をLとした場合、W1:W2:L=1:(0.4〜0.6):(0.4〜0.6)であることが好ましい。このような流路条件では、渦の発生を最小限に抑制することができ、冷媒の交換がスムーズに行われ、その結果底面21を効果的に冷却することが可能となる。
【0051】
また、幅30が、幅31あるいは突当り距離32の4分の1よりも小さい場合、図14に示すように、底面21に突入する流れ33の流速が大きくなり、流出路24にける冷媒の流れ35の流速との差が大きくなるために、仕切板22の先端と底面21との間で渦36が発生する。この渦36の中では冷媒の交換が滞るため、渦36の内部にある冷媒が激しく沸騰し、誘導コイル6が焼損する危険性がある。
【0052】
幅30が、幅31あるいは突当り距離32の4倍よりも大きい場合、流入路23,26における冷媒の流れ33の流速が、底面21に沿う冷媒の流れ34の流速及び流出路24,27における冷媒の流れ35の流速と比較して遅くなる。その結果、同じポンプ圧で冷媒を流し込んだ場合、最も冷却効率を上げるべき底面21の冷却度が弱くなる。従って、高温の溶融帯12を囲む、環の内側の縁部15付近の領域が、溶融したり、軟化したりして変形する可能性が生じる。
【0053】
突当り距離32が、幅30あるいは幅31の4分の1よりも小さい場合、図15に示すように、流出路27の中で渦37が発生する。この結果、前述したように、誘導コイル6が焼損する危険性が発生する。
【0054】
突当り距離32が、幅30あるいは幅31の4倍よりも大きい場合、流入路23,26における冷媒の流れ33の流速が底面21に突き当る前に遅くなる。その結果、同じポンプ圧で冷媒を流し込んだ場合、最も冷却効率を上げるべき底面21の冷却度が弱くなる。従って、高温の溶融帯12を囲む、環の内側の縁部15付近の領域が、溶融したり、軟化したりして変形する可能性が生じる。
【0055】
幅31が、幅30あるいは突当り距離32の4分の1よりも小さい場合、流入路23,26から流出路24,27へ向かう冷媒の流れが停滞し易くなるために、流入路23,26における冷媒の流れ33の流速が流出路24,27における冷媒の流れ35の流速よりも小さくなる。その結果、同じポンプ圧で冷媒を流し込んだ場合、最も冷却効率を上げるべき底面21の冷却度が弱くなる。従って、高温の溶融帯12を囲む、環の内側の縁部15付近の領域が、溶融したり、軟化したりして変形する可能性が生じる。
【0056】
幅31が、幅30あるいは突当り距離32の4倍よりも大きい場合、図16に示すように、流出路24における冷媒の流れ35の流速が、流入路23,26における冷媒の流れ33の流速よりも小さくなる。その結果、流出路24に渦38が発生し、上述したように、誘導コイル6が焼損する危険性がある。
【0057】
流入路23,26における冷媒の流れ33の流速は1.0〜10m/s程度がよく、1.0m/s未満では、冷却効率が低下して上記の不具合が発生し易くなり、10m/sを超えると、コイル内の圧力が高くなるためコイルが破損する可能性がある。
【0058】
以上より、本発明による単結晶の育成装置は、単結晶の融点が3000℃以上という高融点の原料からなる単結晶13の育成に使用した場合においても、特に、高温の溶融帯12を囲む、環の内側の縁部15付近の領域を低温に維持して、前記領域が溶融したり軟化したりして変形するのを防止することができる。従って、高融点の原料からなる大径の単結晶13を、容易に、安定して育成することを可能とする単結晶育成装置となる。
【0059】
なお、本発明の構成は、以上で説明した図の例に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を施すことができる。
【実施例】
【0060】
《実施例1》
〈誘導コイル6〉
図3に示す平面形状を有し、かつ、内部に、9つの凹部19を有すると共に、外径が100mm、内径が38.5mmの、銅製の、ニードルアイ形状を有する誘導コイル6を作製し、前記誘導コイル6の、各凹部19の開口20に、それぞれ、アルミナセラミックス製の7つの供給管28と、銅製の2つの供給管29とを接続した。そして、前記誘導コイル6を、各供給管28、29を支持部材として利用して、図1に示す単結晶育成装置1の、円筒状の耐圧容器7内の、高さ方向の中心位置に、誘導コイル6の環の中心が、上ホルダ3によって保持される原料棒2の軸と同軸となるように配設した。また、誘導コイル6の、スリット14の両側の2本の供給管29を、端子として利用して、交流電源18に接続した。
【0061】
図4〜図6および図13に示すように、凹部19は、平面形状を、誘導コイル6の、環の外周に開かれた開口20から、環の径方向の内方へ向けて、幅が徐々に狭くなって、前記径方向の底面21に達する、略台形状に形成すると共に、底面21を、原料棒2の軸方向に沿い、かつ環の径方向と直交する、平面状の垂直面とした。また、凹部19内、および、接続する供給管28内は、それぞれ、環の周方向の2個所に仕切板22、25を設けることによって、前記周方向の中央の、冷媒の流入路23、26と、前記流入路23、26の左右の、冷媒の流出路24、27とに仕切ると共に、前記仕切板22の、径方向の内方側の先端を、底面21に達しないように、離間させた状態で形成することによって、前記流入路23と、2つの流出路24とを、互いに接続した。このときの流入路の幅30を8m、流出路の幅31を4ミリ、突当り距離32を4ミリとした。
【0062】
〈単結晶の育成〉
前記各部を備えた、図1の単結晶育成装置1の、上ホルダ3に、ホウ化ジルコニウムの多結晶からなる、直径50mm、長さ150mmの原料棒2を保持させると共に、下ホルダ5に、ホウ化ジルコニウムからなる、直径15mm、長さ10mmの種結晶4を保持させた状態で、耐圧容器7を密閉し、内部の空気を除去すると共に、10気圧の不活性ガス雰囲気とした。
【0063】
そして、誘導コイル6の各凹部19に、各供給管28、29を通して、冷媒として、20℃の水を供給しながら、先に説明した手順で、各部を動作させると共に、上ホルダ3と下ホルダ5の下降速度を調整して、毎時20mm(20mm/h)の速度で、直径60mmのホウ化ジルコニウムの単結晶13を育成した。誘導コイル6に印加する交流電圧の周波数は400kHz、入力は80kWとした。
【0064】
耐圧容器7に設けた観察窓から、前記単結晶13を育成途中の様子を観察したところ、誘導コイル6が十分に冷却されて、変形を生じることなく、有効に機能して、溶融帯12を、原料棒2の軸方向の長さが、できるだけ小さい状態に形成すると共に、前記溶融帯12を、崩壊させることなく、単結晶13を育成する工程の最後の段階まで、前記形状を安定的に維持して、単結晶13を育成できることが確認された。また、単結晶13の育成途中に、凹部19内を流通して、耐圧容器7の外に排出された水の温度を測定したところ60℃以下であった。
【0065】
そして、単結晶13が、長さ100mmまで成長した時点から3時間かけて、入力をゼロまで落とした後、育成した単結晶13の温度が室温(20℃)まで低下したことを確認した上で、前記単結晶13を、耐圧容器7から取り出して観察したところ、双晶や多結晶のない、全体に亘って単一の、良好な単結晶が育成されていることが確認された。
【0066】
《比較例1》
誘導コイル6として、図12に示す平面形状を有し、かつ、内部に、1本の冷却管16を、環を略一周するように形成すると共に、外径が100mm、内径が30mmの、銅製の、ニードルアイ形状を有するものを用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で、前記冷却管16に水を流通させながら、誘導コイル6に、周波数400kHz、入力80kWの交流電圧を印加して、ホウ化ジルコニウムの単結晶13を育成しようとしたところ、単結晶13の直径が40mmに達した時点で、冷却管16に水を送っていたポンプのポンプ圧が不安定になったため、作業を中止した。そして、冷却後、耐圧容器7を開いて内部を観察したところ、誘導コイル6が変形しているのが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の単結晶育成装置の、実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】前記単結晶育成装置の要部である、誘導コイルの部分を拡大した断面図である。
【図3】前記単結晶育成装置に用いる誘導コイルの一例を示す平面図である。
【図4】前記誘導コイルの要部である凹部の周辺を拡大した部分切欠き平面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】前記誘導コイルの他の凹部の周辺を拡大した部分切り欠き平面図である。
【図8】凹部の変形例を示す部分切欠き平面図である。
【図9】凹部の、他の変形例を示す部分切欠き平面図である。
【図10】フローティングゾーン法を実施するために用いる従来の、単結晶育成装置の一例を示す断面図である。
【図11】前記単結晶育成装置に用いる、従来の、誘導コイルの一例を示す、図10と同方向の断面図である。
【図12】前記誘導コイルの平面図である。
【図13】流路の相対的な大小関係を示す凹部の部分切り欠き平面図である。
【図14】流入路の幅が小さい場合の渦の発生状態を示す凹部の部分切り欠き平面図である。
【図15】仕切板が凹部の底面に近接している場合の渦の発生状態を示す凹部の部分切り欠き平面図である。
【図16】流出路の幅が大きい場合の渦の発生状態を示す凹部の部分切り欠き平面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 単結晶育成装置
2 原料棒
3 上ホルダ
4 種結晶
5 下ホルダ
6 誘導コイル
7 耐圧容器
8 駆動装置
9 駆動装置
10 駆動軸
11 駆動軸
12 溶融帯
13 単結晶
14 スリット
15 縁部
16 冷却管
17 配管
18 交流電源
19 凹部
20 開口
21 底面
22 仕切板
23 流入路
24 流出路
25 仕切板
26 流入路
27 流出路
28 供給管
29 供給管
30 流入路の幅
31 流出路の幅
32 突当り距離
33 流入路における冷媒の流れ
34 底面に沿う流れ
35 流出路における冷媒の流れ
36,37,38 渦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略環状に形成され、育成する単結晶の原料からなる原料棒と同軸に配設されて、前記原料棒の、軸方向の、一定長の領域を、誘導加熱によって溶融させるための誘導コイルを備え、前記誘導コイルと原料棒とを、前記原料棒の軸方向に、相対的に移動させることで、前記溶融によって形成される溶融帯を、前記軸方向に移動させて、溶融帯が通過した後の凝固によって単結晶を成長させ、育成するための単結晶育成装置であって、誘導コイルが、環の外周から径方向の内方へ向けて凹入した凹部を備えると共に、前記凹部内に、誘導コイルを冷却するための冷媒を、凹部の開口から、環の径方向の内方へ向けて流入させて、前記凹部の、環の径方向の底面に当接させた後、開口から凹部外へ流出させるための流路が設けられていることを特徴とする単結晶育成装置。
【請求項2】
前記凹部の、環の径方向の底面が、原料棒の軸方向に沿う、環の径方向と直交する垂直面である請求項1記載の単結晶育成装置。
【請求項3】
前記冷媒の流路が、凹部の、環の周方向の中央に設けられた冷媒の流入路と、前記流入路の、環の周方向の左右に設けられた、冷媒の流出路とを備えている請求項1または2記載の単結晶育成装置。
【請求項4】
前記凹部が、誘導コイルの、環の周方向の複数個所に設けられている請求項1〜3のいずれかに記載の単結晶育成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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