説明

単色X線発生装置及びその方法

【課題】低エネルギーの相対論的電子ビームを用い、大強度の単色X線を発生することができ、発生する単色X線の波長を変化させることができる単色X線発生装置及びその方法を提供すること。
【解決手段】単色X線発生装置は、電子ビーム(7)が入射されてX線を発生するラジエータ(R1)と、ラジエータ(R1)から発生するX線を回折させる結晶体(C1)とを備え、ラジエータ(R1)が結晶体(C1)とは異なり、所定波長のX線の発生効率が高い物質で形成されており、ラジエータ(R1)と結晶体(C1)とが相互に近接して配置されており、X線は結晶体(C1)によって2方向(Xr、Xt)に出力されて第1及び第2ポート(5、6)から取り出され、結晶体(C2、C3)によって反射されて単色X線(Xr’、Xt’)として出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生装置に関し、特にエネルギースペクトル幅の狭い単色X線の発生装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を発生する方法に関しては、種々の方法が知られている。その一つとして、電子ビームをターゲット(陽極)金属に当ててターゲット物質固有の特性X線を発生するX線管による方法がある。さらに、シンクロトロン放射を利用してX線を発生する方法、みらくる型放射光発生装置によるX線発生方法、加速器の高エネルギー電子ビームを用いたX線レーザーを発生する方法、パラメトリックX線を発生する方法などが知られている。
【0003】
放射光を単色化するためには、2結晶分光器が用いられている。一方、単色X線を直接発生させる方法として、パラメトリックX線発生装置がある。下記特許文献1には、1つの高エネルギー電子ビームから複数の単色X線を取り出すX線発生装置が開示されている。また、下記特許文献2には、加速器を使用しない低エネルギーの電子を用いてパラメトリックX線を発生させる方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−147510号公報
【特許文献2】特開2000−30892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、ライナックからの高エネルギー電子ビーム(相対論的電子ビーム)を用い、パラメトリックX線の発生源であるラジエータとしてSi単結晶を用いているので、装置が大型であるとともに、十分な強度の単色X線を発生することができない。また、特許文献1では、高エネルギー電子ビームを使用するので、反射X線しか利用することができない。即ち、ターゲットを透過した後の電子ビームの軌道と、電子ビームの入射方向に出力されるX線とが重なるので、この方向に出力されるX線(ラウエ型X線)を利用することができない。
【0005】
また、特許文献2では、非相対論的な電子ビームを用いて、Si、Ge、ダイヤモンドの単結晶を使用しているので、十分な強度の単色X線を発生することができない。
【0006】
従って、本発明の目的は、低エネルギーの相対論的電子ビーム(0.9MeV〜50MeV)を用い、大強度の単色X線を発生することができ、発生する単色X線の波長を変化させることができる単色X線発生装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、以下の手段によって達成される。
【0008】
即ち、本発明に係る第1の単色X線発生装置は、電子ビームが入射されてX線を発生するラジエータと、前記ラジエータから発生する前記X線を回折させる第1結晶体とを備え、前記ラジエータが前記第1結晶体とは異なり、所定波長のX線の発生効率が高い物質で形成されており、前記ラジエータと前記第1結晶体とが相互に近接して配置され、前記ラジエータを通過した電子ビームが前記第1結晶体を通過する。
【0009】
また、本発明に係る第2の単色X線発生装置は、上記した第1の単色X線発生装置において、前記ラジエータ及び前記第1結晶体を保持し、電子の周回軌道の近傍に配置された第1保持部と、前記X線を取り出す第1ポート及び第2ポートとを有するシンクロトロンをさらに備える。
【0010】
また、本発明に係る第3の単色X線発生装置は、上記した第2の単色X線発生装置において、前記第1保持部が、前記第1結晶体によって反射されたX線が前記第1及び第2ポートの一方から出力され、前記ラジエータへの前記電子ビームの入射方向に出力されたX線が前記第1及び第2ポートの他方から出力されるように、前記第1結晶体の位置及び傾斜を変化させる機構を有している。
【0011】
また、本発明に係る第4の単色X線発生装置は、上記した第2又は第3の単色X線発生装置において、前記第1ポートから出力するX線を所定の方向に反射させる第2結晶体を保持する第2保持部と、前記第2ポートから出力するX線を所定の方向に反射させる第3結晶体を保持する第3保持部とをさらに備え、前記第2保持部が、前記第1ポートから出力するX線の方向に応じて前記第2結晶体の位置及び傾斜を変化させる機構を有し、前記第3保持部が、前記第2ポートから出力するX線の方向に応じて前記第3結晶体の位置及び傾斜を変化させる機構を有している。
【0012】
また、本発明に係る第5の単色X線発生装置は、陽極及び陰極を有するX線管であって、電子ビームが入射されてX線を発生するラジエータと、前記ラジエータで発生する前記X線を回折させる結晶体とを備え、前記ラジエータが前記結晶体とは異なり、所定波長のX線の発生効率が高い物質で形成されており、前記ラジエータ及び前記結晶体が、前記陽極及び前記陰極の間に配置され、前記ラジエータが、前記陰極及び前記結晶体の間に配置されている。
【0013】
また、本発明に係る第6の単色X線発生装置は、上記した第5の単色X線発生装置において、前記電子ビームの前記結晶体への入射角度が変化するように、前記陰極又は前記結晶体を変位させる機構を備えている。
【0014】
本発明に係る第1の単色X線発生方法は、第1結晶体と、前記第1結晶体とは異なり、所定波長のX線の発生効率が高い物質で形成されたラジエータとを備える装置において、前記ラジエータを通過した電子ビームが前記第1結晶体を通過するように、前記ラジエータと前記第1結晶体とを相互に近接させて配置し、前記ラジエータに電子ビームを照射して、前記ラジエータから発生するX線を前記第1結晶体によって回折させ、所定の方向から取り出す。
【0015】
また、本発明に係る第2の単色X線発生方法は、上記した第1の単色X線発生方法において、前記ラジエータが電子の周回軌道上に配置され、前記X線を取り出す第1ポート及び第2ポートを有するシンクロトロンをさらに備える前記装置において、前記第1結晶体によって反射されたX線が前記第1及び第2ポートの一方から出力され、前記ラジエータへの前記電子ビームの入射方向に出力されたX線が前記第1及び第2ポートの他方から出力されるように、前記第1結晶体の位置及び傾斜を変化させる。
【0016】
また、本発明に係る第3の単色X線発生方法は、上記した第2の単色X線発生方法において、前記第1ポートから出力するX線を所定の方向に反射させる第2結晶体と、前記第2ポートから出力するX線を所定の方向に反射させる第3結晶体とをさらに備える前記装置において、前記第1ポートから出力するX線の方向に応じて前記第2結晶体の位置及び傾斜を変化させ、前記第2ポートから出力するX線の方向に応じて前記第3結晶体の位置及び傾斜を変化させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ラジエータとして、結晶体(例えばSi)と異なる、目的とするX線波長の発生効率が高い物質を用いることによって、結晶体のみを用いる場合よりも強度の強い単色X線を発生することができる。
【0018】
また、本発明によれば、直線軌道の電子ビームの代わりに、シンクロトロンによる円軌道の電子ビームをラジエータに照射することによって、ラジエータを透過した後の電子ビームの軌道が、ラジエータへの電子の入射方向(接線方向)と重ならないので、電子の入射方向に出力されるラウエ型X線を利用することが可能となる。特に、入射する電子ビームの円軌道半径が小さくなるほど、ラウエ型X線の利用がより容易になる。さらに、低エネルギーの相対論的電子ビーム(0.9MeV〜50MeV)を用いることによって、ラウエ型X線の出力方向と電子ビームの入射方向及び制動放射との角度のずれを大きくすることができ、これによってもラウエ型X線の利用が容易になる。
【0019】
また、本発明によれば、シンクロトロンによる円軌道の電子ビームをラジエータに照射する場合に、目的とするX線エネルギーに応じて、電子軌道に沿って結晶体の位置及び傾斜角度を変化させることができ、これによって、所定の位置に設けられたX線の取り出しポートから、波長の異なる単色X線をいつでも同じ方向に取り出すことができる。これによって、単色X線を種々の目的に容易且つ効率的に利用することが可能となる。
【0020】
また、本発明を、低エネルギーの電子ビームを用いるX線管に適用することにより、より容易に単色X線を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態に関して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る単色X線発生装置の概略構成を示す平面図である。本単色X線発生装置は、内部に電子を周回させて電子ビームを形成するシンクロトロンリング部1と、第1結晶体C1及びラジエータR1を搭載した第1保持部2と、発生したX線をシンクロトロンリング部1の外部に取り出す第1ポート5及び第2ポート6と、第1ポート5から出力するX線を所定の方向に反射する第2結晶体C2を搭載した第2保持部4と、第2ポート6から出力するX線を所定の方向に反射する第3結晶体C3を搭載した第3保持部5とを備えて構成されている。第1結晶体C1は、例えば図2に示したように、電子ビームの下流側のラジエータR1表面に取り付けられている。図2は、ラジエータR1が第1保持部2に搭載された状態を示す斜視図である。第2及び第3結晶体C2、C3は、表面にラジエータは取り付けられていないが、図2と同様に、それぞれ第2及び第3保持部3、4に搭載されている。
【0023】
図1において、シンクロトロンを構成するために必要な機器、例えば、電子の周回軌道を制御するためにシンクロトロンリング部1に装備される磁石(電磁石、永久磁石)、電磁石の電流の時間変化を制御する制御装置、及び、電子を発生させてシンクロトロンリング部1に導く入射器などは省略されている。それらによって、真空状態になっているシンクロトンリング部1の内部に、シンクロトロンリング部1の中心Oを中心とする、半径rのほぼ円軌道の電子ビーム7が形成される。
【0024】
第1〜第3結晶体C1〜C3が搭載された第1〜第3保持部2〜4は、搭載した各々の結晶体の位置及び傾斜角度を変化させる機構を備えている。即ち、図1に示したように、電子ビームの軌道面とXY平面とが一致するように直交するXYZ軸を設定した場合、各結晶体は、XY面内での平行移動、Z軸の回りの回転移動、及びXY面内の所定軸の回りの回転移動を受ける。さらに、第1保持部2は、ラジエータR1に入射した電子ビーム7が第1結晶体C1を透過し、シンクロトロンリング部1内部を周回できるように、電子ビーム7を遮らない形状に形成されている。
【0025】
第1〜第3結晶体C1〜C3には、例えばSi、ダイヤモンド、Ge、CaFなどの単結晶を使用する。第1結晶体C1に取り付けられるラジエータR1には、第1結晶体C1を構成する物質と異なり、目的とする単色X線と同じ波長のX線の発生効率が高い物質を使用することが望ましい。ここで、特定の波長のX線の発生効率が高い物質とは、換言すれば、X線の吸収端がその波長と一致しない物質である。ラジエータに電子ビームが入射すると、ラジエータではX線の発生とともに、発生したX線の吸収も生じる。従って、目的とする単色X線の波長(λとする)のX線を最大限にラジエータ外部に出力するためには、波長λの位置にX線の吸収端を有さない物質を用いるのが望ましい。
【0026】
次に、図1のように構成された本単色X線発生装置による単色X線の生成及び取り出しについて具体的に説明する。図3は、第1結晶C1が取り付けられたラジエータR1を搭載した状態の第1保持部2を示す平面図である。シンクロトロンリング部1の内部で、電子ビーム7がラジエータR1に入射すると、X線が発生する。本発明では、代表的には制動放射(遷移放射を使うこともある)によって発生するX線を対象とする。
【0027】
第1に、制動放射によって発生したX線は、電子ビーム7の入射方向、即ち図3に破線で示した円軌道である電子ビーム7の接線方向に出力する。このX線は回折を受けなかった連続スペクトルのX線と回折を受けた単色X線が混在した状態であり、本明細書ではラウエ型X線と記す。より正確にはラウエ型X線は、図3に示したように、電子ビーム7の接線方向と少しずれた方向(Xtで示す)に、主として出力する。この角度のずれをφ(rad)で表すと、入射電子のエネルギーEe(eV)に依存し、φ=1/γ=0.511/Ee の関係がある。本発明では、低エネルギーの相対論的電子ビーム(Ee=0.9〜50(MeV))を使用するので、高エネルギーの電子ビーム(例えば100MeV)を使用する場合と比べて、角度のずれφは比較的大きい。なお、図3では、角度のずれを明瞭に示すために、誇張して示している。
【0028】
第2に、ラジエータR1で制動放射によって発生したX線の一部は、直ちに第1結晶体C1によって反射、即ち第1結晶体C1の結晶格子配列(結晶面を平行な斜線で示す)によって回折され、結晶面とブラッグ角θBを成す方向(入射する電子ビーム7の方向とは2θBの角度を成す)に、エネルギースペクトル幅の狭い単色X線として出力する。本明細書では、この単色X線をブラッグ型X線と記す。より正確にはブラッグ型X線は、図3に示したように、結晶面とブラッグ角θBを成す方向と少しずれた方向(Xrで示す)に、主として出力する。この角度のずれも、上記と同様に入射する電子のエネルギーEe(eV)に依存し、φ=1/γ(=0.511/Ee)で表される。
【0029】
本明細書においては、結晶体を基準にして、入射する電子ビームの側に出力するX線を反射X線Xr(ブラッグ型X線)と記し、反射X線Xrの反対側に出力するX線(電子ビームの進行方向)を透過X線Xt(ラウエ型X線)と記す。通常、ブラッグ型X線Xrの強度はラウエ型X線Xtの強度よりも大きい。
【0030】
ブラック角θB(rad)は、電子の入射エネルギーをEe(keV)、結晶面の間隔d(Å)とするとθB=sin-1{12.4/(2dEe)} となる。従って、電子の入射エネルギーEeに応じて、第1保持部2によって第1結晶体C1の位置及び傾斜角度を調節し、結晶面の方向を適切に調節すれば、図1に示したように、単色X線であるブラッグ型X線Xrを第1ポート5から取り出し、連続スペクトルに単色X線のピークが混在したX線であるラウエ型X線Xtを第2ポート6から取り出すことができる。このことは、第1及び第2ポート5、6を、シンクロトロンリング部1の大きさ、電子の周回軌道の位置、使用する電子のエネルギー範囲などを考慮して、シンクロトロンリング部1上の適切な位置に配置できることを意味する。
【0031】
なお、第1結晶体C1の表面は、結晶面に平行である場合に限らず、ブラッグ反射に使用する結晶面に対して所定の角度で傾斜していてもよい。特に、電子ビーム7が第1結晶体C1中を通過する距離をできるだけ短くするために、第1結晶体C1の電子ビームが入射する側の表面が、ブラッグ反射に使用する結晶面に対して適切な角度を成すように、第1結晶体C1を形成することが望ましい。また、第1結晶体C1の幅は、電子ビームが第1結晶体C1中を通過する距離が短くなるように、狭く形成されることが望ましく、本実施の形態ではラジエータR1と同じ幅になっている。
【0032】
第1ポート5から出力した単色X線である反射X線Xrは、第2保持部3に搭載された第2結晶体C2によってブラッグ反射され、所定の方向に反射される。このとき、第1保持部2を適宜平行移動及び回転移動させたのと同様に、所定の方向にX線Xr’が反射されるように、第2保持部3を平行移動及び回転移動させる。第2ポート6から出力した連続スペクトルのX線である透過X線Xtは、上記と同様に、第3保持部4が平行移動及び回転移動され、第3保持部4に搭載された第3結晶体C3によって、所定の方向に所定の波長のX線だけがX線Xt’として反射される。即ち、第3結晶体C3は、連続スペクトルに単色X線ピークが混在したX線Xtから単色X線Xt’を得るための手段である。
【0033】
これらの第2及び第3結晶体C2、C3は、ブラッグ反射によってX線を所定の方向に反射させる手段であるが、使用する単色X線以外のX線をカットする手段でもある。上記では、第1結晶体C1から出力される反射X線Xrを単色X線として説明したが、実際には制動放射などによって、ラジエータRからは、エネルギー幅の広いより高エネルギーのX線も同時に発生しており、それらも第1ポート5から出力する。しかし、第1ポート5から出力したX線を、第2結晶体C2で反射させることによって、所定のブラッグ角の方向に単色X線が反射され、連続スペクトルの高エネルギーX線はブラッグ角の方向には反射されない。即ち、第2結晶体C2によって連続スペクトルの高エネルギーX線をカットすることができる。
【0034】
図4は、第1〜第3結晶体C1〜C3の位置及び角度の変化によるX線の出力方向の変化を示す平面図(複雑さを回避するために構成の一部のみを示し、1/γの角度のずれを省略している)である。図4では、第1保持部2に搭載されたラジエータR1に取り付けられた第1結晶体C1は、ラジエータR1の点O(電子の周回軌道7の中心点)側の面に取り付けられている。ラジエータR1の位置が電子の周回軌道7上に位置する状態を維持したまま、ラジエータR1及び第1結晶体C1を、実線で示した位置から破線で示した位置に平行移動させる場合、第1結晶体C1の傾斜角度を調節することによって、破線で示したように、第1及び第2ポート5、6からそれぞれ、反射X線Xr及び透過X線Xtを取り出すことができる。そして、第2結晶体C2の位置及び傾斜角度を、破線で示したように適切に調節することによって、実線で示した配置でのX線反射方向と同じ方向にX線Xr’を出力することができる。同様に、第3結晶体C3の位置及び傾斜角度を、適切に調節することによって、最初の配置でのX線反射方向と同じ方向にX線Xt’を出力することができる。
【0035】
以上では、第1ポート5から反射X線Xrが出力し、第2ポート6から透過X線Xtが出力する場合を説明したが、第2ポート6から反射X線Xrが出力し、第1ポート5から透過X線Xtが出力するようにすることもできる。その一例を図5(複雑さを回避するために構成の一部のみを示し、1/γの角度のずれを省略している)に示す。図5では、第1保持部2に搭載されたラジエータR1に取り付けられた第1結晶体C1は、図4の場合と異なり、ラジエータR1の点Oと反対側の面に取り付けられている。この配置において、第1結晶体C1の位置及び角度を調節することによって、第1結晶体C1による反射X線Xrを第2ポート6から出力させ、第1結晶体C1による透過X線Xtを第1ポート5から出力させることができる。
【0036】
また、ラジエータ及び結晶体の形状及び大小関係は、図2に示した例に限定されず、ラジエータが電子の入射を受けてX線を発生し、発生したX線がその場で結晶体によって回折されることができる形状及び大小関係であればよく、例えば図6に示したように、ラジエータR2が結晶体C4より小さく、ラジエータR2が取り付けられた結晶体C4が保持部2に搭載されてもよい。図6において、電子ビームeは、ラジエータR2に入射して結晶体C4から出力される。
【0037】
また、ラジエータと結晶体とが接触している場合に限定されず、ラジエータと結晶体とが近接(接触した状態を含む)していても、即ち、ラジエータを通過した電子ビームが結晶体中を通過する程度の間隔(例えば約5mm以内)で配置されていてもよい。その場合、ラジエータと結晶体とを各々独立に、位置及び傾きを調節できる機構を備えていることが望ましい。
【0038】
さらに、上記では、シンクロトロンの中にラジエータと結晶体とを配置する場合を説明したが、本発明はこれに限定されず、ラジエータと結晶体とが相互に近接(接触を含む)して配置され、ラジエータが結晶体と異なり、目的とする波長のX線の発生効率が高い物質で形成されていればよく、例えば、本発明をX線管に適用することもできる。例えば、図7に示したように、X線管において、フィラメント(陰極)8から発生した電子ビームeが入射する電極(陽極)9に、相互に接触させた結晶体C5及びラジエータR3を配置してもよい。結晶体C5には、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などの結晶を使用することができ、ラジエータR3には、結晶体C5に採用した物質と異なり、目的とする波長のX線の発生効率が高い物質を使用する。陽極及び陰極の電位差は、通常のX線管と同様の範囲に設定すればよい。結晶体C5に対する電子ビームeの入射角度を変化させるためには、ラジエータR3、結晶体C5及び電極9の保持部10に変位(回転を含む)機能を持たせてもよく、図7に破線で示したようにフィラメント8に変位(回転を含む)機構(図示せず)を装備してもよい。通常のX線管では、ターゲット物質に応じた特性X線と制動放射によるX線が発生するが、図7に示した構成とすることによって、所定の方向に、従来のX線管よりも強い強度で単色X線を出力することができる。
【0039】
図7では、ラジエータR3及び結晶体C5が接して配置されているが、これに限定されず、ラジエータR3及び結晶体C5が近接して配置されていればよい。その場合、ラジエータR3及び結晶体C5を独立に変位させる機構を装備してもよい。
【0040】
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されず、種々の変更を加えて実施することができ、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態に係る単色X線発生装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】ラジエータ及び結晶体の一例を示す斜視図である。
【図3】ラジエータが取り付けられた第1結晶を搭載した第1保持部を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る単色X線発生装置において、各結晶体の位置及び角度の変化によるX線出力方向の変化を示す平面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る単色X線発生装置において、ラジエータ及び第1結晶を図4と異なる向きに配置した状態を示す平面図である。
【図6】ラジエータ及び結晶体の別の例を示す斜視図である。
【図7】本発明をX線管に適用する場合の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 シンクロトロンリング部
2 第1保持部
3 第2保持部
4 第3保持部
5 第1ポート
6 第2ポート
7 電子ビーム(電子周回軌道)
8 フィラメント(陰極)
9 電極(陽極)
10 保持部
C1〜C5 結晶体
R1〜R3 ラジエータ
O 電子周回軌道の中心
r 電子周回軌道の半径
Xr 反射X線
Xt 透過X線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームが入射されてX線を発生するラジエータと、
前記ラジエータで発生する前記X線を回折させる第1結晶体とを備え、
前記ラジエータが前記第1結晶体とは異なり、所定波長のX線の発生効率が高い物質で形成されており、
前記ラジエータと前記第1結晶体とが相互に近接して配置され、
前記ラジエータを通過した電子ビームが前記第1結晶体を通過することを特徴とする単色X線発生装置。
【請求項2】
前記ラジエータ及び前記第1結晶体を保持し、電子の周回軌道の近傍に配置された第1保持部と、前記X線を取り出す第1ポート及び第2ポートとを有するシンクロトロンをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の単色X線発生装置。
【請求項3】
前記第1保持部が、前記第1結晶体によって反射されたX線が前記第1及び第2ポートの一方から出力され、前記ラジエータへの前記電子ビームの入射方向に出力されたX線が前記第1及び第2ポートの他方から出力されるように、前記第1結晶体の位置及び傾斜を変化させる機構を有することを特徴とする請求項2に記載の単色X線発生装置。
【請求項4】
前記第1ポートから出力するX線を所定の方向に反射させる第2結晶体を保持する第2保持部と、
前記第2ポートから出力するX線を所定の方向に反射させる第3結晶体を保持する第3保持部とをさらに備え、
前記第2保持部が、前記第1ポートから出力するX線の方向に応じて前記第2結晶体の位置及び傾斜を変化させる機構を有し、
前記第3保持部が、前記第2ポートから出力するX線の方向に応じて前記第3結晶体の位置及び傾斜を変化させる機構を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の単色X線発生装置。
【請求項5】
陽極及び陰極を有するX線管であって、
電子ビームが入射されてX線を発生するラジエータと、
前記ラジエータで発生する前記X線を回折させる結晶体とを備え、
前記ラジエータが前記結晶体とは異なり、所定波長のX線の発生効率が高い物質で形成されており、
前記ラジエータ及び前記結晶体が、前記陽極及び前記陰極の間に配置され、
前記ラジエータが、前記陰極及び前記結晶体の間に配置されていることを特徴とする単色X線発生装置。
【請求項6】
前記電子ビームの前記結晶体への入射角度が変化するように、前記陰極又は前記結晶体を変位させる機構を備えていることを特徴とする請求項5に記載の単色X線発生装置。
【請求項7】
第1結晶体と、
前記第1結晶体とは異なり、所定波長のX線の発生効率が高い物質で形成されたラジエータとを備える装置において、
前記ラジエータを通過した電子ビームが前記第1結晶体を通過するように、前記ラジエータと前記第1結晶体とを相互に近接させて配置し、
前記ラジエータに電子ビームを照射して、前記ラジエータから発生するX線を前記第1結晶体によって回折させ、所定の方向から取り出すことを特徴とする単色X線発生方法。
【請求項8】
前記ラジエータが電子の周回軌道上に配置され、前記X線を取り出す第1ポート及び第2ポートを有するシンクロトロンをさらに備える前記装置において、
前記第1結晶体によって反射されたX線が前記第1及び第2ポートの一方から出力され、前記ラジエータへの前記電子ビームの入射方向に出力されたX線が前記第1及び第2ポートの他方から出力されるように、前記第1結晶体の位置及び傾斜を変化させることを特徴とする請求項7に記載の単色X線発生方法。
【請求項9】
前記第1ポートから出力するX線を所定の方向に反射させる第2結晶体と、
前記第2ポートから出力するX線を所定の方向に反射させる第3結晶体とをさらに備える前記装置において、
前記第1ポートから出力するX線の方向に応じて前記第2結晶体の位置及び傾斜を変化させ、
前記第2ポートから出力するX線の方向に応じて前記第3結晶体の位置及び傾斜を変化させることを特徴とする請求項8に記載の単色X線発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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