説明

印刷基材用積層体

【課題】印刷工程で用いるインキへの耐性が高く、優れたクッション性を有する円筒状印刷基材用積層体の提供。
【解決手段】本発明では、フィルムと、前記フィルムの少なくとも一方の表面に、凹凸パターンを形成するように突設された樹脂硬化物とを備えるシートを含む印刷基材用円筒状積層体であって、前記樹脂硬化物がフィルム間に配設され、前記凹部にて、前記フィルムとともに気体を保持する空隙を画成するように、前記シートを複数層円筒状に積層させた、印刷基材用円筒状積層体を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷工程で用いるインキへの耐性が高く、優れたクッション性を有する印刷基材用積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
段ボール、紙器、紙袋、軟包装用フィルムなどの包装材、壁紙、化粧板などの建装材、ラベル印刷などに用いられるフレキソ印刷は各種の印刷方式の中でその比重を高めている。これに用いられるクッション層は、印刷品質確保のために重要な役割を果たしている。クッション層は、印刷機の版胴とフレキソ印刷版の間に挟む形で使用される。
【0003】
従来から、クッションの形成には、ポリウレタンやポリエチレンが用いられている。また、これらの材料に気泡を含有させた発泡体材料が特に多く用いられている。発泡体材料をシート状に成型したクッションテープが市販されている。さらに、シート状に成形された発泡体材料の両面に接着剤層あるいは粘着剤層が形成されている場合もあり、印刷機の版胴に接着、固定し易い工夫のなされているものもある。クッション層の材料としては、熱硬化性材料が用いられており、熱硬化に要する時間のため成型時間が長いという問題点があった。
【0004】
一方、特許文献1には、電子線あるいはX線を用いて硬化させる樹脂中に熱膨張性カ
プセルを混合し、シート状に成形する印刷版の製造方法が開示されている。しかしながら、電子線あるいはX線を用いて硬化させる方法は、装置が複雑で高価となり、また電
子線、X線の樹脂中への侵入深さが浅く厚膜を十分に硬化させることが難しい問題点が
あった。
【0005】
また、特許文献2には、感光性樹脂中に熱膨張性カプセルを混合し、円筒状に成形したクッション層の記載があり、感光性樹脂を用いて短時間にクッション層を形成する技術が開示されている。
【0006】
ところで、フレキソ印刷の分野では、溶剤インキを用いる用途が多く、また印刷終了後に版面に付着したインキを、溶剤系洗浄液を用いて除去する処理が行われることもある。このような溶剤インキを用いた印刷工程や溶剤系洗浄液による洗浄工程において、用いているクッション層に溶剤が染み込み、クッション層が膨潤したり、溶剤によりクッション層の成分が抽出され機械的物性が大きく低下するという大きな問題もあり、改善が求められている。印刷に用いる印刷版の寸法安定性が高く溶剤バリア性の高いポリエステルフィルムを支持体として用いていない場合、すなわち、クッション層に、直接あるいは接着剤層を介して感光性樹脂版が接着されている場合において、溶剤の影響が大きい。これは、印刷時のインキ中の溶剤成分が感光性樹脂を浸透してクッション層あるいは接着剤層に達するためと推測される。
【0007】
他方、特許文献3には、シート状支持体上に感光性樹脂を、写真製版技術を用いてパターン化し、表面に鉛筆状あるいは釘状のパターンが形成されたシート状支持体を、単層で用いることが開示されている。しかしながら、この構造ではクッション層としての性能を充分に発揮することができない問題点が指摘されている。
【0008】
このように、従来技術においては、印刷工程で用いる溶剤インキ中の溶剤への耐性が高く、しかもクッション層としての特性が高いクッション層が切望されている。
【特許文献1】特表2003−519036号公報
【特許文献2】特開2004−255811号公報
【特許文献3】特開平11−180065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、印刷工程で用いるインキへの耐性が高く、優れたクッション性を有する印刷基材用積層体の提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、上記事情に鑑み、本発明者らは印刷基材用積層体について鋭意検討したところ、フィルムの少なくとも一方の表面に、樹脂硬化物からなる凹凸パターンを形成されたシートを、複数層円筒状に積層した積層体からなる印刷基材用円筒状積層体を用いることにより、フィルム間の凹凸パターンの凹部にて気体を保持する空隙が形成されるため、クッション特性が飛躍的に向上するとともに、耐溶剤製も改善させるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1] フィルムと、前記フィルムの少なくとも一方の表面に、凹凸パターンを形成するように突設された樹脂硬化物とを備えるシートを含む印刷基材用円筒状積層体であって、
前記樹脂硬化物がフィルム間に配設され、前記凹部にて、前記フィルムとともに気体を保持する空隙を画成するように、前記シートを複数層円筒状に積層させた、印刷基材用円筒状積層体、
[2] 前記樹脂硬化物の凹凸パターンが、前記フィルム上に所定の間隔で規則的に配設されている、前項[1]に記載の印刷基材用円筒状積層体、
[3] 前記樹脂硬化物が、感光性樹脂組成物を光硬化させて形成した感光性樹脂硬化物である、前項[1]又は[2]に記載の印刷基材用円筒状積層体、
[4] 前記樹脂硬化物のショアA硬度が、厚み2mmに成形したサンプルにおいて、10度以上80度以下であることを特徴とする前項[1]ないし[3]のうち何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体、
[5] 前記積層体の密度が、0.2g/cm3以上0.8g/cm3以下である、前項[1]ないし[4]のうち何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体、
[6] 前記樹脂硬化物が、カーボネート結合、エステル結合、エーテル結合から選ばれる少なくとも1種類の結合を有する、及び/又は脂肪族飽和炭化水素鎖、脂肪族不飽和炭化水素鎖から選ばれる少なくとも1種類の分子鎖を有し、かつ、ウレタン結合を有する化合物を含有する、前項[1]ないし[5]のうち何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体、
[7] 前記フィルムが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルから選択される少なくとも1種類のフィルムである、前項[1]ないし[6]のうち何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体、
[8] 前記フィルム上に、規則的に配設した樹脂硬化物からなる凹凸パターンの1繰り返し単位に存在する凹部の体積が、1μm3以上8×106μm3以下である、前項[1]ないし[7]のうち何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体、
[9] フィルムと、前記フィルム上に樹脂硬化物からなる凹凸パターンを少なくとも一方の表面に有するシートを含む印刷基材用円筒状積層体の製造方法であって、
前記フィルム上に感光性樹脂組成物層を形成する工程と、
前記感光性樹脂組成物層に凹凸パターンを形成するように、前記感光性樹脂組成物層に、型を押圧する工程と、
前記凹凸パターンが形成された感光性樹脂組成物層に、光を照射し凹凸パターンを有する感光性樹脂硬化物層を形成する工程と、
前記凹凸パターンを有するシートを円筒状に積層する工程と、
を含む印刷基材用円筒状積層体の製造方法、
[10] 前記積層工程は、前記凸部を、前記凹凸パターンを有しないフィルムの面に接着する工程を含む、前項[9]に記載の製造方法、
[11] 前記積層工程は、前記凸部を、前記フィルムの凹凸パターンの他の凸部に接着する工程を含む、前項[9]に記載の製造方法、
[12] 前記型が、ロールの表面に凸状パターンを有する、前項[9]ないし[11]のうち何れか一項に記載の製造方法、
[13] 前記ロールに継ぎ目が存在しないエンドレスロールである、前項[12]に記載の製造方法、
[14] 前記感光性樹脂組成物層が、20℃において液状の感光性樹脂組成物を塗布することにより形成される、前項[9]ないし[13]のうち何れか一項に記載の製造方法、
[15] 前項[1]ないし[8]のうちの何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体の上に、表面にパターンの形成が可能な印刷基材あるいは表面にパターンを形成された印刷基材を積層して得られる印刷材料、
[16] 前記表面にパターンの形成が可能な印刷基材が、感光性樹脂組成物層あるいは感光性樹脂硬化物層を含む、前項[15]に記載の印刷材料、
[17] 感光性樹脂硬化物層を含む印刷基材の表面にパターンを形成する方法が、レーザーを照射して、レーザーが照射された部分の樹脂が除去され凹パターンの形成されるレーザー彫刻法である、前項[15]又は[16]に記載の印刷材料、
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、印刷工程で用いるインキへの耐性が高く、優れたクッション性を有する印刷基材用積層体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施態様を詳細に説明する。
本発明に係る印刷基材用円筒状積層体は、フィルムの少なくとも一方の表面上に、樹脂硬化物からなる凸状物を配設し、当該表面に該樹脂硬化物の凹凸パターンが形成されたシート10を、複数層に積層した積層体から構成される。つまり、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体は、フィルム間に凹凸パターン形状を有する樹脂硬化物を介在させることにより、積層体を構成するフィルム間に、樹脂硬化物の凹凸パターンの凹部に気体を保持し得る空隙を画成する。かかる構成を採用することにより、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体は、クッション性を備える。
【0014】
図1は、樹脂硬化物からなる凸状物がフィルムの少なくとも一方の表面上に形成されたシートの概略断面図を示す。なお、図1では、説明の便宜のため、円筒状の一部を取り出して、平面状にて表示する。フィルム1の一方の表面11に、樹脂硬化物からなる凸状物2が形成されている。
【0015】
図2は、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体の一の実施態様による、フィルム1の一方の表面11に、樹脂硬化物からなる凸状物を配設させたシート10を、2層に積層して形成した積層体の一例の概略断面図である。図2も図1と同様に、説明の便宜のため、円筒状の一部を取り出して、平面状にて表示する。図2から分かるように、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体は、フィルム1の一方の表面11に樹脂硬化物2を配設するとともに、前記フィルムの一方の表面11に配設された樹脂硬化物2を、円筒状に積層させるフィルム1の他方の表面12に接着させることにより、シート10を複数層に積層させた積層体になる。なお、図2に示すフィルム1は、一枚のフィルム1から構成されている。このように、フィルム間には、樹脂硬化物からなる凸状物を、所定の間隔で介在させることにより、空隙3が画成される。かかる空隙の存在により、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体に、優れたクッション性が付与される。
【0016】
図3は、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体の別の実施態様による、フィルム1の両面11、12に、樹脂硬化物2からなる凸状物を配設させたシート10を、2層に積層して形成した積層体の一例の概略断面図である。図3も、図1及び図2と同様に、説明の便宜のため、円筒状の一部を取り出して、平面状にて表示する。図3では、シート1の両面に、凹凸パターンを形成するように樹脂硬化物2を配設させ、樹脂硬化物2同士が接着するように、シート10を積層させた積層体である。図3に例示するように、樹脂硬化物2の頂部5を、フィルム間にて接着させることにより、気体を保持し得る空隙3が画成される。かかる空隙の存在により、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体に、優れたクッション性が付与される。なお、図3では、樹脂硬化物2の頂部5が完全に重なり合うように接着されているが、頂部5の一部が重なり合うように、樹脂硬化物2を接着させてもよい。
【0017】
図4は、フィルム1の一方の表面に、樹脂硬化物2からなる凸状物を配設させたシート10を、4層積層して形成された、本発明の一の印刷基材用円筒状積層体の概略断面図を示す。ここで、フィルム間の介在される樹脂硬化物2の関係について説明する。図2にて例示するように、フィルム1間に挟まれた樹脂硬化物2同士の位置関係は、図2に例示する構成に限定されるものではないが、積層体のクッションを確保する観点から、上に存在する樹脂硬化物2とその直ぐ下に存在する樹脂硬化物2との関係では、下に存在する樹脂硬化物2の頂部5の少なくとも一部が、上に存在する樹脂硬化物2の凹部4が、配設されるフィルム1を介して、該凹部4の反対の表面に配設されることが好ましい。また、下に存在する樹脂硬化物2の頂部5の少なくとも一部が、上に存在する樹脂硬化物2の凸部が、配設されるフィルムを介して、該凸部の反対の表面に配設されることが好ましい。
【0018】
本発明に係る印刷基材用円筒状積層体で用いるフィルムの厚さは、通常、1μm以上200μm以下であり、好ましくは10μm以上100μm以下、より好ましくは10μm以上50μm以下である。フィルムの厚さが上記の範囲であれば、フィルムの硬さが影響せずに優れたクッション特性を得ることができる。フィルムの材質として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルの群から選択される少なくとも1種類のフィルムであることが好ましい。単独の材質であっても、複数種類のフィルムであっても構わない。
【0019】
本発明では、フィルム1の少なくとも一方の表面に、樹脂硬化物2からなる凹凸パターンが形成されている。凹凸パターンの凸部の厚さは、通常、1μm以上200μm以下であり、好ましくは10μm以上100μm以下、より好ましくは10μm以上50μm以下である。フィルム表面に形成された凹凸パターンの厚さが上記範囲であれば、優れたクッション特性を確保することが可能である。
【0020】
本発明に係る印刷基材用円筒状積層体で用いるフィルムの表面の凹凸パターンは、樹脂硬化物から構成される。樹脂硬化物を形成するための材料として、熱硬化性樹脂組成物、感光性樹脂組成物を挙げることができるが、硬化速度の観点から感光性樹脂組成物が好ましい。フィルム表面に樹脂硬化物からなる凹凸パターンは規則的に配列させることが好ましい。凹凸パターンを規則的に配列させると、積層体のクッション特性が均一となるため、該積層体を用いて作製された印刷基材を用いて実施された印刷物において、微細な網点部分においても高い印刷品質を得ることができる。
【0021】
本発明において、クッション性を有する積層体の形成に用いる感光性樹脂組成物は、樹脂(a)、有機化合物(b)を含有していることが好ましい。本発明で用いる感光性樹脂組成物は、20℃において固体状であっても液状であっても構わない。比較的薄膜を形成するためには、20℃において液状の感光性樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0022】
樹脂(a)は、分子内にカーボネート結合、エステル結合、エーテル結合から選ばれる少なくとも1種類の結合を有するか、及び/又は脂肪族飽和炭化水素鎖、脂肪族不飽和炭化水素鎖から選ばれる少なくとも1種類の分子鎖を有し、かつウレタン結合を有する化合物を含むことが、印刷工程で用いる溶剤インキへの耐性の観点から特に好ましい。また、樹脂(a)は、数平均分子量が1000以上50万以下の重合性不飽和基を有することが好ましい。樹脂(a)の数平均分子量のより好ましい範囲は、2000以上20万以下、さらに好ましい範囲は5000以上10万以下である。樹脂(a)の数平均分子量は1000以上であれば、後に架橋して作製したクッション層が強度を保ち、繰り返しの使用にも耐えられる。また、樹脂(a)の数平均分子量が50万以下であれば、感光性樹脂組成物の成形加工時の粘度が過度に上昇することもなく、フィルム表面に塗布することが可能となる。なお、本発明で用いる用語「数平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0023】
樹脂(a)として、特に分子鎖の主鎖、側鎖あるいは末端に重合性不飽和基を有していることが好ましい。本発明において用いる用語「重合性不飽和基」の定義は、ラジカル又は付加重合反応に関与する重合性不飽和基である。より好ましい樹脂(a)として、1分子あたり平均で0.7以上の重合性不飽和基を有するポリマーを挙げることができる。1分子あたり平均で0.7以上であれば、本発明の樹脂組成物より得られるクッション層の機械強度に優れる。さらにその耐久性も良好で、繰り返しの使用にも耐えられるものとなり好ましい。樹脂硬化物の機械強度を考慮すると、樹脂(a)の重合性不飽和基は1分子あたり0.7以上が好ましく、1を越える量がより好ましい。樹脂(a)において、重合性不飽和基の位置は、高分子主鎖の末端、高分子側鎖の末端や高分子主鎖中や側鎖中に直接結合していることが好ましい。樹脂(a)1分子に含まれる重合性不飽和基の数の平均は、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)による分子構造解析法で求めることができる。
【0024】
樹脂(a)を製造する方法としては、例えば直接、重合性の不飽和基をその分子末端に導入したものを用いてもよいが、別法として、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、アルコキシカルポニル基などの反応性基を複数有する数千程度の分子量の上記成分の反応性基と結合しうる基を複数有する結合剤(例えば水酸基やアミノ基の場合のポリイソシアネートなど)を反応させ、分子量の調節、及び末端の結合性基への変換を行った後、この末端結合性基と反応する基と重合性不飽和基を有する有機化合物と反応させて末端に重合性不飽和基を導入する方法などの方法が好適に挙げられる。
【0025】
樹脂(a)の例として、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのポリジエン類等の分子主鎖あるいは側鎖に重合性不飽和基を有する化合物を挙げることができる。また、重合性不飽和を有しない高分子化合物を出発原料として、置換反応、脱離反応、縮合反応、付加反応等の化学反応により重合性不飽和基を分子内に導入した高分子化合物を挙げることもできる。重合性不飽和基を有しない高分子化合物の例として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリ塩化ビニルポリ塩化ビニリデン等のポリハロオレフィン類、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルエーテル等のC−C連鎖高分子の他、ポリフェニレンエーテル等のポリエーテル類、ポリプェニレンチオエーテル等のポリチオエーテル類、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリアミド、ポリウレア、ポリイミド、ポリジアルキルシロキサン等の高分子化合物、或いはこれらの高分子化合物の主鎖にヘテロ原子を有する高分子化合物、複数種のモノマー成分から合成されたランダム共重合体、ブロック共重合体を挙げることができる。更に、分子内に重合性不飽和基を導入した高分子化合物を複数種混合して用いることもできる。
【0026】
特に樹脂(a)として、ガラス転移温度が20℃以下の液状樹脂が好ましく、ガラス転移温度0℃以下の液状樹脂を用いることが成形性の観点からより好ましい。このような液状樹脂として、例えばポリエチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポイソプレン等の炭化水素類、アジペート、ポリカプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン類、(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体の重合体及びこれらの混合物やコポリマー類を用いて合成され、分子内に重合性不飽和基を有する化合物を用いることができる。その含有量は、樹脂(a)全体に対して30wt%以上含有することが好ましい。特に耐候性の観点からポリカーボネート構造を有する不飽和ポリウレタン類が好ましい。ここで、本発明で用いる用語「液状樹脂」とは、容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する高分子体を意味し、外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間に元の形状を回復する性質を有するエラストマーに対応する用語である。樹脂(a)が20℃において液状樹脂である場合は、感光性樹脂組成物も20℃において液状である。シート状に成形する際、良好な厚み精度や寸法精度を得ることができる本発明の感光性樹脂組成物は、好ましくは20℃における粘度が10Pa・S以上10kPa・S以下である。より好ましくは50Pa・S以上5kPa・S以下である。粘度が10Pa・S以上であれば、作製される積層体の機械的強度が十分であり、加工し易い。粘度が10kPa・S以下であれば、常温でも変形し易く、加工が容易である。フィルム表面上に成形し易く、プロセスも簡便である。
【0027】
本発明に用いる有機化合物(b)は、数平均分子量が1000未満の重合性不飽和基を有した化合物である。樹脂(a)との希釈のし易さから数平均分子量は1000以下が好ましい。重合性不飽和基の定義は、ラジカルまたは付加重合反応に関与する重合性不飽和基である。有機化合物(b)におけるラジカル反応性化合物の具体例として、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリールアルコール、アリールイソシアネート等のアリール化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール等が挙げられるが、その種類の豊富さ、価格、レーザー光照射時の分解性等の観点から(メタ)アクリル酸及びその誘導体が好ましい例である。前記化合物(b)の例としては、シクロアルキル、ビシクロアルキル、シクロアルケン、ビシクロアルケンなどの脂環族構造や、ベンジル、フェニル、フェノキシ、フルオレンなどの芳香族構造を有する化合物、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、テトラヒドロフルフリル、グリシジル等の構造を有する化合物、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールやトリメチロールプロパン等の化合物とのエステル化合物、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン等のポリシロキサン構造を有する化合物などが挙げられる。また、窒素、硫黄等の元素を含有した複素芳香族化合物であっても構わない。
【0028】
また、本発明に用いる有機化合物(b)における開環付加反応するエポキシ基を有する化合物としては、種々のジオールやトリオールなどのポリオールにエビクロルヒドリンを反応させて得られる化合物、分子中のエチレン結合に過酸を反応させて得られるエポキシ化合物などを挙げることができる。エポキシ基を有する化合物の具体的として、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジェチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAにエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドが付加した化合物のジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコールアジペート)ジオールジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコールアジペート)ジオールジグリシジルエーテル、ポリ(カプロラクトン)ジオールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物、エポキシ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製、商標名「HF−105」)を挙げることができる。
【0029】
本発明において、これら重合性不飽和基を有する有機化合物(b)は、その目的に応じて1種若しくは2種以上のものを選択できる。例えば、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体を構成する樹脂硬化物として用いる場合、印刷インキの溶剤であるアルコールやエステル等の有機溶剤に対する膨潤を押さえるために用いる有機化合物として、長鎖脂肪族、脂環族又は芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましい。本発明に係る印刷基材用円筒状積層体を構成する樹脂硬化物の機械強度を高めるためには、有機化合物(b)としては脂環族又は芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましく、この場合、有機化合物(b)の全体量の20wt%以上であることが好ましく、更に好ましくは50wt%以上である。また、前記芳香族の誘導体として、窒素、硫黄等の元素を有する芳香族化合物であっても構わない。
【0030】
本発明に用いる感光性樹脂組成物を光もしくは電子線の照射により架橋して樹脂硬化物などとしての物性を発現させるが、その際に光重合開始剤(c)を添加することができる。光重合開始剤(c)は一般に使用されているものから選択でき、例えば高分子学会編「高分子データ・ハンドブックー基礎編」1986年培風館発行、に例示されているラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合の開始剤等が使用できる。また、光重合開始剤を用いて光重合により架橋を行なうことは、本発明に用いる感光性樹脂組成物の貯蔵安定性を保ちながら、生産性良く樹脂硬化物を生産出来る方法として有用であり、その際に用いる開始剤も公知のものが使用できる。ラジカル重合反応を誘起させる光重合開始剤(c)としては、水素引き抜き型光重合開始剤(d)と崩壊型光重合開始剤(e)が、特に効果的な光重合開始剤として用いられる。
【0031】
水素引き抜き型光重合開始剤(d)として、特に限定するものではないが、芳香族ケトンを用いることが好ましい。芳香族ケトンは光励起により効率良く励起三重項状態になり、この励起三重項状態は周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化学反応機構が提案されている。生成したラジカルが光架橋反応に関与するものと考えられる。本発明で用いる水素引き抜き型光重合開始剤(d)として、励起三重項状態を経て周囲の媒体から水素を引き抜きいてラジカルを生成する化合物であれば何でも構わない。芳香族ケトンとして、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン類、キサンテン類、チオキサントン類、アントラキノン類を挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾフェノン類とは、ベンゾフェノンあるいはその誘導体を指し、具体的には3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−テトラメトキシベンゾフェノン等である。なお、ミヒラーケトン類とはミヒラーケトンおよびその誘導体をいい、キサンテン類とは、キサンテンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体をいい、チオキサントン類とは、チオキサントンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体をいい、エチルチオキサントン、メチルチオキサントン、クロロチオキサントン等を挙げることができる。アントラキノン類とは、アントラキノンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基等で置換された誘導体をいう。
【0032】
水素引き抜き型光重合開始剤(d)の添加量は、感光性樹脂組成物全体量の0.1wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.5wt%以上5wt%以下である。添加量がこの範囲であれば、液状感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合、硬化物表面の硬化性は充分に確保でき、また、耐候性を確保することができる。
【0033】
崩壊型光重合開始剤(e)とは、光吸収後に分子内で開裂反応が発生し活性なラジカルが生成する化合物を指し、特に限定するものではない。具体的には、ベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジアルコキシ−2−フェニルアセトフェノン類、アセトフェノン類、アシルオキシムエステル類、アゾ化合物類、有機イオウ化合物類、ジケトン類等を挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾインアルキルエーテル類としては、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソプチルエーテル、「感光性高分子」(講談社、1977年出版、頁228)に記載の化合物を挙げることができる。2,2−ジアルコキシ−2−フェニルアセトフェノン類としては、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジェトキシ−2−フェニルアセトフェノン等を挙げることができる。アセトフェノン類としては、アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルアセトフェノン、2,2−ジェトキシアセトフェノン等を挙げることができる。アシルオキシムエステル類としては、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム等を挙げることができる。アゾ化合物としては、アゾビスイソプチロニトリル、ジアゾニウム化合物、テトラゼン化合物等を挙げることができる。有機イオウ化合物としては、芳香族チオール、モノおよびジスルフイド、チウラムスルフイド、ジチオカルバメート、S−アシルジチオカルバメート、チオスルホネート、スルホキシド、スルフェネート、ジチオカルポネート等を挙げることができる。ジケトン類としては、ベンジル、メチルベンゾイルホルメート等を挙げることができる。
【0034】
崩壊型光重合開始剤(e)の添加量は、感光性樹脂組成物全体量の0.1wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.3wt%以上3wt%以下である。添加量がこの範囲であれば、感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合、硬化物内部の硬化性は充分に確保できる。
【0035】
水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を同一分子内に有する化合物を、光重合開始剤として用いることもできる。α−アミノアセトフェノン類を挙げることができる。例えば、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、下記一般式(1)で示される化合物を挙げることができる。
【化1】

(式中、R1は、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。また、Xは炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)
【0036】
水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を同一分子内に有する化合物の添加量としては、感光性樹脂組成物全体量の0.1wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.3wt%以上3wt%以下である。添加量がこの範囲であれば、感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合であっても、硬化物の機械的物性は充分に確保できる。
【0037】
また、光を吸収して酸を発生することにより、付加重合反応を誘起させる光重合開始剤を用いることもできる。例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩等の光カチオン重合開始剤、あるいは光を吸収して塩基を発生する重合開始剤などが挙げられる。これらの光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物全体量の0.1wt%以上10wt%以下の範囲が好ましい。
【0038】
本発明に用いる樹脂硬化物を形成するための感光性樹脂組成物における樹脂(a)、有機化合物(b)の割合は、樹脂(a)100重量部に対して、有機化合物(b)は5〜200重量部が好ましく、20〜100重量部の範囲がより好ましい。その他、本発明の樹脂組成物には用途や目的に応じて重合禁止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、滑剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを添加することができる。
【0039】
本発明に係る印刷基材用円筒状積層体の製造方法は、フィルムと、前記フィルム上に樹脂硬化物からなる凹凸パターンを少なくとも一方の表面に有するシートを含む印刷基材用円筒状積層体の製造方法であって、(1)前記フィルム上に感光性樹脂組成物層を形成する工程と、(2)前記感光性樹脂組成物層に凹凸パターンを形成するように、前記感光性樹脂組成物層に、型を押圧する工程と、(3)前記凹凸パターンが形成された感光性樹脂組成物層に、光を照射し凹凸パターンを有する感光性樹脂硬化物層を形成する工程と、(4)前記凹凸パターンを有するシートを円筒状に積層する工程とを含む。
【0040】
本発明に用いる感光性樹脂組成物をフィルム上に形成する方法は、既存の樹脂の成形方法を用いることができる。例えば、注型法、ポンプや押し出し機等の機械で樹脂をノズルやダイスから押し出し、ブレードで厚みを合わせる、ロールによりカレンダー加工して厚みを合わせる方法等が例示できる。その際、樹脂の性能を落とさない範囲で加熱しながら成形を行なうことも可能である。本発明で用いるフィルムの表面に物理的、化学的処理を行うことにより、感光性樹脂組成物層あるいは接着剤層との接着性を向上させることができる。物理的処理方法としては、サンドブラスト法、微粒子を含有した液体を噴射するウエットブラスト法、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、紫外線あるいは真空紫外線照射法などを挙げることができる。また、化学的処理方法としては、強酸・強アルカリ処理法、酸化剤処理法、カップリング剤処理法などである。
【0041】
本発明に用いる感光性樹脂組成物を用いて、フィルム上に凹凸パターンを形成する方法として、写真製版技術を用いて露光、現像工程を経てパターン化する方法、感光性樹脂組成物をフィルム上に塗布後、光を照射し硬化させた感光性樹脂硬化物をレーザー彫刻法にて凹パターンを形成する方法、感光性樹脂組成物をフィルム上に塗布した後、表面に凹凸パターンを有するロールで型押し、その後光を照射して硬化させる方法、感光性樹脂組成物をフィルム上に、ディスペンサーを用いて塗布し、その後光硬化させる方法、溶剤に溶解させた樹脂組成物を、フィルム上にディスペンサーを用いて塗布し、その後溶剤を乾燥除去する方法などを挙げることができる。生産性の観点から、型押しにより凹凸パターンを形成した後に、光硬化させる方法が好ましい。
【0042】
本発明においてフィルム上に形成される樹脂硬化物からなる凹凸パターンは規則的に配列していることが好ましい。規則的に配列している凹凸パターンの寸法としては、パターンの1繰り返し単位当りに存在する凹部の体積が1μm3以上8×106μm3以下であることが好ましい。より好ましい範囲は1000μm3以上8×106μm3以下、さらに好ましくは1000μm3以上1×106μm3以下である。パターンの1繰り返し当りに存在する凹部の体積が上記の範囲であれば、クッション層としての特性を充分に発揮することができる。
【0043】
型押しにより凹凸パターンを形成する方法で用いる表面に凹凸パターンを有するロールの材質として、鉄、アルミニウム、ニッケル等の金属あるいはゴム、プラスチック等の有機系材料を挙げることができる。特に有機系材料の場合、レーザー彫刻法によりパターンを形成する方法が好ましい。また前記表面に凹凸パターンを有するロールの表面は、フッ素系離型剤あるいはシリコーン系離型剤で処理されていることが好ましい。また、フィルム上に塗布された感光性樹脂組成物を、前記ロールにより凹凸パターンを形成した後、光を照射して硬化させることができる。あるいは、前記ロールで凹凸パターンを形成しながら光を照射して硬化させることもできる。
【0044】
本発明に係る印刷基材用円筒状積層体は、表面に樹脂硬化物からなる凹凸パターンを有するフィルムを複数層積層して形成される。厚さ100μm以下のフィルムを用いて複数層積層した場合には、形成された積層体は支持体としての機能も併せ持たせることができる。
【0045】
形成された感光性樹脂組成物層は光照射により架橋せしめ、樹脂硬化物、具体的には感光性樹脂硬化物層を形成する。また、成型しながら光照射により架橋させることもできる。硬化に用いられる光源としては高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、殺菌灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等を挙げることができる。感光性樹脂組成物層に照射される光は、200nmから300nmの波長の光を有することが好ましい。特に水素引き抜き型光重合開始剤は、この波長領域に強い光吸収を有するものが多いため、200nmから300nmの波長の光を有する場合、感光性樹脂硬化物層表面の硬化性を充分に確保することができる。硬化に用いる光源は、1種類でも構わないが、波長の異なる2種類以上の光源を用いて硬化させることにより、樹脂の硬化性が向上することがあるので、2種類以上の光源を用いることも差し支えない。
【0046】
このようにして製造された感光性樹脂硬化物層を有するフィルムからなるシートを円筒状積層することにより、本発明に係る印刷基材用積層体を製造することができる。この積層工程には、大別して、2種類の方法がある。第一の方法としては、積層工程が、凹凸パターンの凸部を、凹凸パターンを有しないフィルムの面に接着するようにして積層が実行される。この場合、感光性樹脂硬化物自体が接着性を有するため、別の接着層を必要とせずに、シートを円筒状に積層することができる。一方で、第二の方法としては、積層工程が、凹凸パターンの凸部を、前記フィルムの凹凸パターンの他の凸部と接着するようにして積層を実行される。これは、樹脂硬化物の凸部同士を接着させる方法であるが、前述のように、感光性樹脂硬化物自体は、接着性を有するため、別の接着層を必要とせずに、シートを円筒状に積層することができる。
【0047】
このようにして製造された本発明に係る印刷基材用円筒状積層体における積層回数が限定されないが、該積層体の硬度は、積層回数が多く該積層体の厚さが厚くなると低下する傾向にある。また、該積層体の硬度は、凹凸パターンあるいはフィルムを形成する材質、凹凸パターンの形状や寸法によっても変化する。
【0048】
また、このようにして製造された本発明に係る印刷基材用円筒状積層体における積層回数が限定されないが、該積層体の密度が、0.2g/cm3以上0.9g/cm3以下であることが好ましく、より好ましくは、0.2g/cm3以上0.7g/cm3以下、さらに好ましくは0.3g/cm3以上0.6g/cm3以下である。上記の密度範囲であれば、本発明に係る積層体のクッション性を十分に確保することができ、該積層体の機械的強度を確保することが可能である。本発明に係る積層体の密度は、積層体の体積と質量から算出される。体積の測定方法は、特に限定されないが、積層体の面積と厚さから計算させる方法、あるいは、本発明に係る積層体が円筒状である場合、水中に浸漬した状態でも水の体積変化を測定することにより求められる。この際、積層体内部に水が浸入しないように、端面をシールすることが好ましい。
【0049】
次に、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体の使用形態について説明する。かかる使用形態の具体例としては、以下のもの限定されるわけではないが、印刷版としての表面にパターンの形成可能な印刷基材又は表面にパターンが形成された印刷基材を、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体に積層して構成される印刷材料として利用できる。本発明に係る印刷基材用円筒状積層体は、印刷工程で用いるインキへの耐性が高く、優れたクッション性を発揮するため、印刷機と印刷基材との間に、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体を介在させることにより、前記印刷基材を用いた印刷品質の確保が可能となる。
【0050】
本発明に用いる印刷基材は、表面に感光性樹脂組成物層又は感光性樹脂硬化物層を含むものであれば、特に限定されない。本発明に用いる印刷基材用感光性樹脂組成物層は、前述の樹脂(a)、有機化合物(b)及び光開始剤(c)を含有し、感光性樹脂硬化物層は、かかる印刷基材用感光性樹脂組成物層を、光もしくは放射線の作用により架橋させた硬化物層を含有する。
【0051】
さらに、本発明に用いる印刷基材用感光性樹脂組成物層は、無機多孔質体(f)を含有させることもできる。
【0052】
ここで、無機多孔質体(f)とは、粒子中に微小細孔を有する、あるいは微小な空隙を有する無機粒子であり、レーザー彫刻において多量に発生する粘稠性の液状カスを吸収除去するための添加剤であり、印刷版面のタック防止効果も有する。本発明に用いる無機多孔質体(f)は、粘稠な液状カスの除去を最大の目的として添加するものであり、数平均粒子径、比表面積、平均細孔径、細孔容積、灼熱減量がその性能に大きく影響する。
【0053】
本発明に用いる無機多孔質体(f)は、数平均粒径が0.1〜100μmであることが好ましい。より好ましい平均粒子径の範囲は、0.5〜20μmであり、さらに好ましい範囲は3〜10μmである。本発明に用いる多孔質無機吸収剤の平均粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した値である。
【0054】
本発明に用いる無機多孔質体(f)の比表面積の範囲は、10m2/g以上1500m2/g以下であることが好ましい。より好ましい範囲は、100m2/g以上800m2/g以下である。比表面積が10m2/g以上である場合、レーザー彫刻時の液状カスの除去が充分となり、また、1500m2/g以下であれば、印刷基材用感光性樹脂組成物の粘度上昇を抑え、また、チキソトロピー性を抑えることができる。本発明に用いる無機多孔質体(f)の比表面積は、−196℃における窒素の吸着等温線からBET式に基づいて求められる。
【0055】
本発明に用いる無機多孔質体(f)の平均細孔径は、レーザー彫刻時に発生する液状カスの吸収量に極めて大きく影響を及ぼす。平均細孔径の好ましい範囲は、1nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上200nm以下、さらに好ましくは2nm以上50nm以下である。
【0056】
本発明に用いる無機多孔質体(f)の平均細孔径は、窒素吸着法を用いて測定した値である。平均細孔径が2〜50nmのものは特にメソ孔と呼ばれ、メソ孔を有する多孔質粒子が液状カスを吸収する能力が極めて高い。本発明に用いる無機多孔質体(f)の細孔径分布は、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。本発明に用いる無機多孔質体(f)の細孔容積は、好ましくは0.1ml/g以上10ml/g以下、より好ましくは0.2ml/g以上5ml/g以下である。細孔容積が0.1ml/g以上の場合、粘稠性液状カスの吸収量は十分であり、また10ml/g以下の場合、粒子の機械的強度を確保することができる。本発明において細孔容積の測定には、窒素吸着法を用いる。本発明に用いる無機多孔質体(f)の細孔容積は、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。なお、本発明において液状カス吸着量を評価する指標として、吸油量がある。これは、無機多孔質体100gが吸収する油の量で定義する。本発明で用いる無機多孔質体(f)の吸油量の好ましい範囲は、10ml/100g以上2000ml/100g以下、より好ましい範囲は50ml/100g以上1000ml/100g以下である。吸油量が10ml/100g以上であれば、レーザー彫刻時に発生する液状カスの除去が十分であり、また2000ml/100g以下であれば、無機多孔質体の機械的強度を十分に確保できる。吸油量の測定は、JIS−K5101にて行った。
【0057】
本発明に用いる無機多孔質体(f)は、特に赤外線波長領域のレーザー光照射により変形あるいは溶融せずに多孔質性を保持することが好ましい。950℃において2時間処理した場合の灼熱減量が、15wt%以下が好ましく、より好ましくは10wt%以下である。
【0058】
本発明の無機多孔質体の粒子形状は特に限定するものではなく、球状、扁平状、針状、無定形、あるいは表面に突起のある粒子などを使用することができる。特に耐磨耗性の観点からは、球状粒子が好ましい。また、粒子の内部が空洞になっている粒子、シリカスポンジ等の均一な細孔径を有する球状顆粒体など使用することも可能である。特に限定するものではないが、例えば、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、シリカ−ジルコニア多孔質ゲル、ポーラスアルミナ、多孔質ガラス等を挙げることができる。また、層状粘土化合物などのように、層間に数nm〜100nmの空隙が存在するものについては、細孔径を定義できないため、本発明においては層間に存在する空隙の間隔を細孔径と定義する。
【0059】
本発明において、これらの無機多孔質体(f)は1種類もしくは2種類以上のものを選択でき、無機多孔質体(f)を添加することによりレーザー彫刻時の液状カスの発生抑制、及びレリーフ印刷版のタック防止等の改良が有効に行われる。
【0060】
本発明に用いる印刷基材用感光性樹脂組成物における樹脂(a)、有機化合物(b)、及び無機多孔質体(f)の割合は、通常、樹脂(a)100重量部に対して、有機化合物(b)は5〜200重量部が好ましく、20〜100重量部の範囲がより好ましい。また、無機多孔質体(f)は1〜100重量部が好ましく、2〜50重量部の範囲がより好ましく、さらに好ましい範囲は、2〜20重量部である。
【0061】
本発明に用いる印刷基材用感光性樹脂組成物には、用途や目的に応じて重合禁止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、滑剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを添加することができる。
【0062】
本発明に用いる印刷基材用感光性樹脂組成物をシート状又は円筒状に成形する方法は、既存の樹脂の成形方法を用いることができる。例えば、注型法、ポンプや押し出し機等の機械で樹脂をノズルやダイスから押し出し、ブレードで厚みを合わせる、ロールによりカレンダー加工して厚みを合わせる方法等が例示できる。その際、樹脂の性能を落とさない範囲で加熱しながら成形を行なうことも可能である。また、必要に応じて圧延処理、研削処理などをほどこしても良い。通常はPETやニッケルなどの素材からなるシート状支持体の上に成形される場合が多いが、直接印刷機のシリンダー上に成形する場合などもありうる。また、繊維強化プラスチック(FRP)製、プラスチック製あるいは金属製の円筒状支持体を用いることもできる。円筒状支持体は軽量化のために一定厚みで中空のものを使用することができる。シート状支持体あるいは円筒状支持体の役割は、印刷原版の寸法安定性を確保することである。したがって、寸法安定性の高いものを選択する必要がある。線熱膨張係数を用いて評価すると、好ましい材料の上限値は100ppm/℃以下、より好ましくは70ppm/℃以下である。材料の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンチオエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂からなる液晶樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。また、これらの樹脂を積層して用いることもできる。また、多孔質性のシート、例えば繊維を編んで形成したクロスや、不織布、フィルムに細孔を形成したもの等をシート状支持体として用いることができる。シート状支持体として多孔質性シートを用いる場合、印刷基材用感光性樹脂組成物を孔に含浸させた後に光硬化させることで、印刷基材用感光性樹脂硬化物層とシート状支持体とが一体化するために高い接着性を得ることができる。クロスあるいは不織布を形成する繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アルミナ・シリカ繊維、ホウ素繊維、高珪素繊維、チタン酸カリウム繊維、サファイア繊維などの無機系繊維、木綿、麻などの天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド等の合成繊維を挙げることができる。また、バクテリアの生成するセルロースは、高結晶性ナノファイバーであり、薄くて寸法安定性の高い不織布を作製することのできる材料である。
【0063】
また、支持体の線熱膨張係数を小さくする方法として、充填剤を添加する方法、全芳香族ポリアミド等のメッシュ状クロス、ガラスクロスなどに樹脂を含浸あるいは被覆する方法などを挙げることができる。充填剤としては、通常用いられる有機系微粒子、金属酸化物あるいは金属等の無機系微粒子、有機・無機複合微粒子など用いることができる。また、多孔質微粒子、内部に空洞を有する微粒子、マイクロカプセル粒子、低分子化合物が内部にインターカレーションする層状化合物粒子を用いることもできる。特に、アルミナ、シリカ、酸化チタン、ゼオライト等の金属酸化物微粒子、ポリスチレン・ポリブタジエン共重合体からなるラテックス微粒子、高結晶性セルロース等の天然物系の有機系微粒子等が有用である。
【0064】
本発明で用いるシート状支持体あるいは円筒状支持体の表面に物理的、化学的処理を行うことにより、印刷基材用感光性樹脂組成物層との接着性を向上させることができる。物理的処理方法としては、サンドブラスト法、微粒子を含有した液体を噴射するウエットブラスト法、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、紫外線又は真空紫外線照射法などを挙げることができる。また、化学的処理方法としては、強酸・強アルカリ処理法、酸化剤処理法、カップリング剤処理法などである。
【0065】
成形された印刷基材用感光性樹脂組成物層は光照射により架橋せしめ、印刷原版を形成する。また、成型しながら光照射により架橋させることもできる。硬化に用いられる光源としては高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、殺菌灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等を挙げることができる。印刷基材用感光性樹脂組成物層に照射される光は、200nmから300nmの波長の光を有することが好ましい。特に水素引き抜き型光重合開始剤は、この波長領域に強い光吸収を有するものが多いため、200nmから300nmの波長の光を有する場合、印刷基材用感光性樹脂硬化物層の表面の硬化性を充分に確保することができる。硬化に用いる光源は、1種類でも構わないが、波長の異なる2種類以上の光源を用いて硬化させることにより、樹脂の硬化性が向上することがあるので、2種類以上の光源を用いることも差し支えない。
【0066】
レーザー彫刻に用いる原版の厚みは、その使用目的に応じて任意に設定して構わないが、印刷版として用いる場合には、一般的に0.1〜7mmの範囲である。場合によっては、組成の異なる材料を複数積層していても構わない。例えば、最表面にYAGレーザー、ファイバーレーザーあるいは半導体レーザー等の近赤外線領域に発振波長を有するレーザーを用いて彫刻することができる層を形成し、その層の下に炭酸ガスレーザー等の赤外線レーザーあるいは可視・紫外線レーザーを用いてレーザー彫刻できる層を形成することも可能である。このような積層構造を形成することにより、極めて出力の高い炭酸ガスレーザーを用いて比較的粗いパターンを深く彫刻し、表面近傍の極めて精細なパターンをYAGレーザー、ファイバーレーザー等の近赤外線レーザーを用いて彫刻することが可能となる。極めて精細なパターンは比較的浅く彫刻できれば良いので、該近赤外線レーザーに感度のある層の厚さは、0.01mm以上0.5mm以下の範囲が好ましい。このように近赤外線レーザーに感度のある層と赤外線レーザーに感度のある層を積層することにより、近赤外線レーザーを用いて彫刻されたパターンの深さを正確に制御できる。これは、赤外線レーザーに感度のある層を、近赤外線レーザーでは彫刻することが困難である現象を利用しているからである。彫刻可能なパターンの精細さの違いは、レーザー装置固有の発振波長の違い、すなわち、絞れるレーザービーム径の違いに起因する。このような方法でレーザー彫刻する場合、赤外線レーザーと近赤外線レーザーを搭載した別々のレーザー彫刻装置を用いて彫刻することもでき、また、赤外線レーザーと近赤外線レーザーの両方を搭載したレーザー彫刻装置を用いて行うことも可能である。
【0067】
レーザー彫刻においては、形成したい画像をデジタル型のデータとしてコンピューターを利用してレーザー装置を操作し、原版上にレリーフ画像を作成する。レーザー彫刻に用いるレーザーは、原版が吸収を有する波長を含むものであればどのようなものを用いてもよいが、彫刻を高速度で行なうためには出力の高いものが望ましく、炭酸ガスレーザーやYAGレーザー、半導体レーザー等の赤外線あるいは赤外線放出固体レーザーが好ましいものの一つである。また、可視光線領域に発振波長を有するYAGレーザーの第2高調波、銅蒸気レーザー、紫外線領域に発振波長を有する紫外線レーザー、例えばエキシマレーザー、第3あるいは第4高調波へ波長変換したYAGレーザーは、有機分子の結合を切断するアブレージョン加工が可能であり、微細加工に適する。また、レーザーは連続照射でも、パルス照射でもよい。一般には樹脂は炭酸ガスレーザーの10μm近傍に吸収を持つため、特にレーザー光の吸収を助けるような成分の添加は必須ではないが、YAGレーザーは1.06μm近傍の波長であり、この波長の吸収を有するものはあまりない。その場合、これの吸収を助ける成分である、染料、顔料の添加が好ましい。このような染料の例としては、ポリ(置換)フタロシアニン化合物および金属含有フタロシアニン化合物、;シアニン化合物;スクアリリウム染料;カルコゲノピリロアリリデン染料;クロロニウム染料;金属チオレート染料;ビス(カルコゲノピリロ)ポリメチン染料;オキシインドリジン染料;ビス(アミノアリール)ポリメチン染料;メロシアニン染料;及びキノイド染料などが挙げられる。顔料の例としてはカーボンブラック、グラファイト、亜クロム酸銅、酸化クロム、コバルトクロームアルミネート、酸化銅、酸化鉄等の暗色の無機顔料や鉄、アルミニウム、銅、亜鉛のような金属粉およびこれら金属にSi、Mg、P、Co、Ni、Y等をドープしたもの等が挙げられる。これら染料、顔料は単独で使用してもよいし、複数を組み合わせて使用してもよいし、複層構造にするなどのあらゆる形態で組み合わせてもよい。ただし、光を用いて印刷基材用感光性樹脂組成物を硬化させる系の場合、硬化に使用する光の波長における光吸収が大きな有機/無機化合物の添加量は、光硬化性に支障のない範囲にすることが好ましく、印刷基材用感光性樹脂組成物全体量に対する添加比率は、好ましくは5wt%以下、より好ましくは2wt%以下である。
【0068】
レーザーによる彫刻は酸素含有ガス下、一般には空気存在下もしくは気流下に実施するが、炭酸ガス、窒素ガス下でも実施できる。彫刻終了後、レリーフ印刷版面にわずかに発生する粉末状もしくは液状の物質は適当な方法、例えば溶剤や界面活性剤の入った水等で洗いとる方法、高圧スプレー等により水系洗浄剤を照射する方法、高圧スチームを照射する方法などを用いて除去してもよい。
【0069】
本発明において、レーザー光を照射し凹パターンを形成する彫刻後に、版表面に残存する粉末状あるいは粘性のある液状カスを除去する工程に引き続き、パターンを形成した印刷版表面に波長200nm〜450nmの光を照射する後露光を実施することもできる。表面のタック除去に効果がある方法である。後露光は大気中、不活性ガス雰囲気中、水中のいずれの環境で行っても構わない。本発明で用いる印刷基材用感光性樹脂組成物中に水素引き抜き型光重合開始剤が含まれている場合、特に効果的である。更に、後露光工程前に印刷版表面を、水素引き抜き型光重合開始剤を含む処理液で処理し露光しても構わない。また、水素引き抜き型光重合開始剤を含む処理液中に印刷版を浸漬した状態で露光しても構わない。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0071】
(製造例1)
温度計、攪拌機、還流器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、旭化成株式会社製ポリカーボネートジオールである、商標「PCDL L4672」(数平均分子量1990、OH価56.4)447.24gとトリレンジイソシアナート30.83gを加え80℃に加温下に約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート14.83gを添加し、さらに約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約2個)である数平均分子量約10000の樹脂(ア)を製造した。この樹脂は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0072】
(実施例1)
樹脂(a)として、製造例1で合成した樹脂(ア)100重量部、有機化合物(b)として、フェノキシエチルメタクリレート25重量部とポリプロピレングリコールモノメタクリレート19重量部、光重合開始剤として、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン0.9重量部を混合し、感光性樹脂組成物を調製した。
調製した感光性樹脂組成物を、表面を易接着処理した厚さ15μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に厚さ25μmで塗布した。表面に微小な四角錐台の凸部が規則的に配列した金属製円筒型を、前記PETフィルム上に塗布された感光性樹脂組成物層に型押しすることにより、感光性樹脂組成物層に微小な凹部を形成し、さらにPETフィルム側からメタルハライドランプ(米国、フュージョン社製)の光を照射し、微小な凹部を有する感光性樹脂硬化物を得た。フッ素系離型剤で表面処理された前記金属製円筒型の表面から、感光性樹脂硬化物は簡単に剥がすことができた。金属製円筒型表面に存在する微細な四角錐台の凸部の寸法は、四角錐台の上面が一辺40μmの正方形、底面の一辺は60μmの正方形であり、高さは100μmであった。更に、この四角錐台の凸パターンがピッチ80μmで金属円筒型の表面全面に規則配列したものであった。型のパターンが転写された感光性樹脂硬化物の厚さは、約50μmであって、四角錐台を逆に配置した凹パターンが形成されていた。凹部底面は一辺40μmの正方形、開口部は一辺は約50μmの正方形であった。このような微小な凹部がピッチ80μmで規則配列した立体的なパターンであった。得られた凹パターンの寸法から、1繰り返し単位の凹部の体積は、約9×104μm3、凹パターンを有する感光性樹脂硬化物を積層されたシートを10層積層して形成した中空円筒状積層体の密度は、約0.5g/cm3であった。
【0073】
表面をフッ素系離型剤で処理されたエアーシリンダーの表面に、前記感光性樹脂組成物を厚さ約10μmで均一に塗布し、その上に上記のようにして形成されたシートをPETフィルム側が下面になるように、前記エアーシリンダーの表面に10回転巻きつけ積層することにより、中空円筒状積層体を形成した。
【0074】
さらに、形成された中空円筒状積層体の表面に、印刷基材用として前記の感光性樹脂組成物を厚さ約1.9mm塗布し、その表面に厚さ約10μmのPETカバーフィルムを被覆した後、前記メタルハライドランプの光を照射して、感光性樹脂組成物を光硬化させた。PETカバーフィルムを剥離した後、感光性樹脂硬化物の厚さが1.7mmとなるまで、表面を研削・研磨し、レーザー彫刻可能な中空円筒状印刷原版を作製した。
【0075】
得られた中空円筒状印刷原版の表面には、レーザー彫刻法を用いてレリーフパターンを形成し、その後、エアーシリンダーに装着することによりフレキソ印刷に用いた。得られた印刷物は、網点パターン、細字パターンも鮮明に印刷されていた。
【0076】
前記感光性樹脂組成物を厚さ2mmでPETフィルム上にシート状に塗布し、PETカバーフィルムでその表面を被覆した後、前記メタルハライドランプの光で硬化させてシート状の感光性樹脂硬化物層を得た。得られた感光性樹脂硬化物層のショアA硬度を測定したところ、71度であった。
【0077】
(比較例1)
実施例1と同様にフィルムの片側に感光性樹脂硬化物からなる凹パターンが形成されたシートを、PETフィルム側が外側になるようにフレキソ印刷機の金属製シリンダー上に両面接着テープを用いて、1層分を巻き付け固定した。その上に実施例1で用いた、印刷基材用として感光性樹脂組成物を厚さ1.9mm塗布し、実施例1と同様にして感光性樹脂硬化物を得た。得られた感光性樹脂硬化物の表面に、レーザー彫刻法を用いてレリーフパターンを形成し、その後、フレキソ印刷機を用いて印刷を実施した。得られた印刷物は、網点パターンにおいて不鮮明な部分が存在した。また、べた部においてもインキがかすれた部分が確認された。シリンダー表面上に形成された1層分のシートがクッション層として充分に機能していなかったものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、フレキソ印刷板、ドライオフセット印刷板、レタープレス印刷板、オフセット印刷用ブランケットに適したレーザー彫刻印刷基材に適する積層体が提供され、印刷工程で用いるインキへの耐性が高く、優れたクッション性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、樹脂硬化物からなる凸状物がフィルムの少なくとも一方の表面上に形成されたシートの概略断面図を示す。
【図2】図2は、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体の一の実施態様による、フィルムの一方の表面に、樹脂硬化物からなる凸状物を配設させたシートを、2層に積層して形成した積層体の一例の概略断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る印刷基材用円筒状積層体の別の実施態様による、フィルムの両面に、樹脂硬化物からなる凸状物を配設させたシートを、2層に積層して形成した積層体の一例の概略断面図である。
【図4】図4は、フィルムの一方の表面に、樹脂硬化物からなる凸状物を配設させたシートを、4層積層して形成された、本発明の一の印刷基材用円筒状積層体の概略断面図を示す。
【符号の説明】
【0080】
1;フィルム、2;樹脂硬化物、3;空隙、4;凹部、5;頂部、10;シート、11;一方の表面、12;他方の表面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムと、前記フィルムの少なくとも一方の表面に、凹凸パターンを形成するように突設された樹脂硬化物とを備えるシートを含む印刷基材用円筒状積層体であって、
前記樹脂硬化物がフィルム間に配設され、前記凹部にて、前記フィルムとともに気体を保持する空隙を画成するように、前記シートを複数層円筒状に積層させた、印刷基材用円筒状積層体。
【請求項2】
前記樹脂硬化物の凹凸パターンが、前記フィルム上に所定の間隔で規則的に配設されている、請求項1に記載の印刷基材用円筒状積層体。
【請求項3】
前記樹脂硬化物が、感光性樹脂組成物を光硬化させて形成した感光性樹脂硬化物である、請求項1又は2に記載の印刷基材用円筒状積層体。
【請求項4】
前記樹脂硬化物のショアA硬度が、厚み2mmに成形したサンプルにおいて、10度以上80度以下であることを特徴とする請求項1ないし3のうち何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体。
【請求項5】
前記積層体の密度が、0.2g/cm3以上0.8g/cm3以下である、請求項1ないし4のうち何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体。
【請求項6】
前記樹脂硬化物が、カーボネート結合、エステル結合、エーテル結合から選ばれる少なくとも1種類の結合を有する、及び/又は脂肪族飽和炭化水素鎖、脂肪族不飽和炭化水素鎖から選ばれる少なくとも1種類の分子鎖を有し、かつ、ウレタン結合を有する化合物を含有する、請求項1ないし5のうち何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体。
【請求項7】
前記フィルムが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルから選択される少なくとも1種類のフィルムである、請求項1ないし6のうち何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体。
【請求項8】
前記フィルム上に、規則的に配設した樹脂硬化物からなる凹凸パターンの1繰り返し単位に存在する凹部の体積が、1μm3以上8×106μm3以下である、請求項1ないし7のうち何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体。
【請求項9】
フィルムと、前記フィルム上に樹脂硬化物からなる凹凸パターンを少なくとも一方の表面に有するシートを含む印刷基材用円筒状積層体の製造方法であって、
前記フィルム上に感光性樹脂組成物層を形成する工程と、
前記感光性樹脂組成物層に凹凸パターンを形成するように、前記感光性樹脂組成物層に、型を押圧する工程と、
前記凹凸パターンが形成された感光性樹脂組成物層に、光を照射し凹凸パターンを有する感光性樹脂硬化物層を形成する工程と、
前記凹凸パターンを有するシートを円筒状に積層する工程と、
を含む印刷基材用円筒状積層体の製造方法。
【請求項10】
前記積層工程は、前記凸部を、前記凹凸パターンを有しないフィルムの面に接着する工程を含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記積層工程は、前記凸部を、前記フィルムの凹凸パターンの他の凸部に接着する工程を含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記型が、ロールの表面に凸状パターンを有する、請求項9ないし11のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ロールに継ぎ目が存在しないエンドレスロールである、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記感光性樹脂組成物層が、20℃において液状の感光性樹脂組成物を塗布することにより形成される、請求項9ないし13のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし8のうちの何れか一項に記載の印刷基材用円筒状積層体の上に、表面にパターンの形成が可能な印刷基材あるいは表面にパターンを形成された印刷基材を積層して得られる印刷材料。
【請求項16】
前記表面にパターンの形成が可能な印刷基材が、感光性樹脂組成物層あるいは感光性樹脂硬化物層を含む、請求項15に記載の印刷材料。
【請求項17】
感光性樹脂硬化物層を含む印刷基材の表面にパターンを形成する方法が、レーザーを照射して、レーザーが照射された部分の樹脂が除去され凹パターンの形成されるレーザー彫刻法である、請求項15又は16に記載の印刷材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−268745(P2007−268745A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94626(P2006−94626)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】