説明

印刷方法、カラーフィルターの製造方法およびカラーフィルター

【課題】ガラス基材やプラスチックフィルムなどの基材上へ、高解像度部と低解像度部とが混在する画像パターンをパターン欠落なく一括で精度よく印刷できるようにした印刷方法とこの印刷方法を利用したカラーフィルターの印刷方法、並びに前記した印刷方法によって製造されたカラーフィルターの提供を目的とする。
【解決手段】インキ剥離性のフィルム基材上に、インキ膜を設けてからそのインキ膜を予備乾燥させて予備乾燥インキ膜を得た後、印刷しようとする画像パターンに対応する凹部と画像パターン以外の非画像部に対応する凸部とを有する中間転写用凸版の版面を予備乾燥インキ膜に押し当て、中間転写用凸版の凸部に予備乾燥インキ膜を転移させ、しかる後にインキ剥離性のフィルム基材上に画像パターン状に残されている予備乾燥インキ膜の部分を被印刷基材表面上へ転写する印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基材やプラスチックフィルムなどの基材上へ、高解像度部と低解像度部とが混在する画像パターンをパターン欠落なく一括で精度よく印刷できるようにした印刷方法とこの印刷方法を利用したカラーフィルターの印刷方法、および前記した印刷方法によって製造されたカラーフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイは、省エネルギー性、省スペース性などに優れるため、据え置き型、壁掛け型、携帯型などの様々な形態の画像表示装置として利用されている。特に携帯型の画像表示装置においては、携帯時に落下しても破損しないような耐衝撃性の付与や、軽量化、薄型化などの要望があり、プラスチック化が進んでいる。また、壁掛け型においては、例えば円柱状の柱へ設置したいという要望があり、可撓性のあるディスプレイの開発が盛んに行われている。
【0003】
しかしながら、従来のフラットパネルディスプレイは、何れもガラス基板上に作製された物であり、プラスチック基板を利用したものではなかった。その理由は、従来のフラットパネルディスプレイの部材の作製には高温での加熱工程とフォトリソ工程とが含まれているためである。例えば、液晶ディスプレイ用のカラーフィルターの製造には、感光性樹脂のパターニングに際して、現像、洗浄、ベーキングなどの工程があり、プラスチック基板は加工時の熱により損傷や伸縮が生じてしまうため使用できず、延いてはプラスチック化や可撓性の付与ができないでいた。
【0004】
以上のことから、プラスチック基板上への精密なパターニングが可能な印刷方法やこのような印刷方法を用いたカラーディスプレイ用部材の製造方法などの開発が強く求められていた。
【0005】
このような中、プラスチック基板上へインクジェット法で高精細なパターンの印刷法する方法が種々検討されている。このインキジェット法は、所定の部分にのみ所定の材料でパターを印刷できることから、材料の利用効率が高く、しかも版も使用しないことから、簡便なパターニング方法として期待されている。
【0006】
現状のインキジェット法による印刷におけるインキ液滴の直径は数十μm程度であり、着弾精度も数μm程度である。また、インクジェット法を用いて精密なパターニングをするためには、あらかじめ基板上にフォトリソ工程により隔壁を形成しなければならない。したがって、例えば、カラーフィルターのブラックマトリクスや印刷方式で形成される薄膜トランジスタ配線などの10μm程度のパターンを形成する方法としては、このインクジェット法を採用することが困難である。
【0007】
インクジェット法以外の方法としては、スクリーン印刷法を挙げることができる。このスクリーン印刷法は、電子部品における配線や抵抗体、誘電体の印刷などで広く利用されている。しかしながら、孔版印刷であることからインキはペースト状の高粘度のものに限られ、また、スクリーンメッシュを使用することから、数十μm程度の厚膜のものを形成するための印刷法としては採用できても、10μm程度のパターンを形成する方法としては採用できない。
【0008】
また、インクジェット法やスクリーン印刷法以外の、高精細なパターンを形成することができる画像形成方法としては反転印刷法がある。
【0009】
この反転印刷法は、シリンダーに巻き付けたインキ剥離性のブランケットの上にインキ膜を塗工し、さらにそのインキ膜を予備乾燥させて予備乾燥インキ膜とし、しかる後、非画像部となる部分が凸部となり、画像部となる部分が凹部となっている凸版を予備乾燥インキ膜に押圧することにより凸版の凸部に予備乾燥インキ膜を転移せしめ、最後に、ブランケット上に転移しないで残っている画像パターン状の予備乾燥インキ膜を被印刷基材上に転写し、被印刷基材上に所定の画像パターンを形成する画像形成方法である(特許文献1参照)。
【0010】
この反転印刷法は、インキ膜の膜厚を調整することが容易であり、インキ剥離性のブランケット上に予備乾燥インキ膜の一部で構成する画像パターンを一旦転移させる方法であることから、被印刷基材へのインキ転写性が良好であり、薄膜の微細パターンの形成が可能である。
【0011】
しかしながら、反転印刷法では、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂からなるインキ剥離性のブランケット上でインキ膜の予備乾燥を行う時に、ブランケット表面のインキ濡れ性や転写性が不安定になるという問題点を有している。これはシリンダーの周囲に巻きつけられて固定されているブランケット上に形成されたインキ膜を均一に予備乾燥させることが困難であり、しかも塗工されたインキ膜中の溶剤がブランケット内に吸収されブランケットが膨潤し、部分的な転写性のバラツキが発生し、精度が劣ってしまうことなどが原因である。
【0012】
また、転写後のクリーニングやブランケットの乾燥によるブランケットの膨潤量の調整を転写工程毎に行う必要があるため、連続加工には不向きである。また、ブランケットがシリンダーに固定されているので、ある画像パターンが既に形成されている被印刷基材上にブランケット上の画像パターンを見当を合わせて転写、形成する場合には、ブランケット上から転写させる画像パターンと基材上の既存の画像パターンやマークなどとの位置合わせが非常に難しかった。
【0013】
反転印刷法における上記のような課題を解決すべく、巻取りロールから供給されるインキ剥離性のフィルム基材上に、インキ膜を塗工して設け、さらにこのインキ膜を予備乾燥させて予備乾燥インキ膜とした後、必要な画像パターンを凹部として有する凸版を予備乾燥インキ膜に押し当て、前記予備乾燥インキ膜の一部を凸版の凸部に転移させ、しかる後にインキ剥離性のフィルム基材上に残されている画像パターン状の予備乾燥インキ膜を被印刷基材表面上へ転写する印刷方法が提案されている。
【0014】
この印刷方法によれば、順次新しいインキ剥離性のフィルム基材を送り出して使用することが出来るため転写の連続安定性を確保することが可能である。また、インキ剥離性のフィルム基材を光学的に透明とすることで、インキ剥離性のフィルム基材表面に残っている予備乾燥インキ膜からなる画像パターンやアライメントマーク越しに、被印刷基材上の既存画像パターンやアライメントマークとの位置関係を確認することができることから、転写位置を正確に合わせることが容易となり、再現性の高い高精細パターンを形成することが可能である。
【0015】
しかしながら、上述した反転印刷法やインキ剥離性のフィルム基材を用いたこの印刷方法では、例えば、カラーフィルターのように線幅が10μm程度の格子状の部分を有するブラックマトリックス部(高解像度部)とこの部分を取り囲んでいて線幅が数mm程度の画線で構成される、いわゆる額縁部(低解像度部)が混在したパターンを一括で印刷することは困難である。その理由について以下に説明する。
【0016】
反転印刷法には通常、ガラス製の版を用いるが、ガラス版はガラス基板にフォトリソ法にてレジストパターン形成し、ウェットエッチングを施すことで作製される。
【0017】
しかしながら、ウェットエッチングは等方的であり、例えば、上記したようなパターン構成を有するカラーフィルターにおけるブラックマトリクス部を印刷するための版を製造しようとした場合、版深を深くすることに伴って版の凹部の画線幅も広くなり、それによって形成される液晶表示部(画像表示部)で必要な解像度が得られなくなる。逆に、解像度を得ようとして凹部の画線幅を狭くすれば版深が浅くなり、額縁部のような低解像度部においては転写時に版の凹部にブランケットが接触することでインキが版の凹部に転移してしまうという、いわゆる版底当たりが起こり、結果として印刷されるパターンが欠落して中抜けしてしまうとことがある。
【0018】
これを解決すべく、フォトリソ工程、ウェットエッチング工程を2回繰り返し、低解像度部のみ版深を深くする方法があるが、この方法では工程が複雑になり製造コストも高くなる。
【0019】
一方、特許文献2では低解像度部を形成するための凹部領域に複数の凸部を形成し、版底当たりを最小限にする方法がとられているが、この方法では版底当たりの面積を減少させることは可能であるが、問題点を根本的に解決するまでには至っておらず、部分的にパターンの欠落が発生してしまい、精度を欠くことがあるため、カラーフィルターの印刷方法には適用できない。
【特許文献1】特許第3689536号
【特許文献2】特開2007−160769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記のような問題を解決すべくなされたものであって、その課題とするところは、カラーフィルターにおけるブラックマトリクス部とその周辺の額縁部のように高解像度部と低解像度部とが混在するような画像パターンをパターン欠落なく一括で精度よく印刷できるようにした印刷方法とこの印刷方法を利用したカラーフィルターの印刷方法、および前記した印刷方法によって製造されたカラーフィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するためになされ、請求項1に記載の発明は、インキ剥離性のフィルム基材上に、インキ膜を設けてからそのインキ膜を予備乾燥させて予備乾燥インキ膜を得た後、印刷しようとする画像パターンに対応する凹部と画像パターン以外の非画像部に対応する凸部とを有する中間転写用凸版の版面を予備乾燥インキ膜に押し当て、中間転写用凸版の凸部に予備乾燥インキ膜を転移させ、しかる後にインキ剥離性のフィルム基材上に画像パターン状に残されている予備乾燥インキ膜の部分を被印刷基材表面上へ転写する印刷方法であって、中間転写用凸版の所定の凹部に粉体を配置させた後に凸版を予備乾燥インキ膜に押し当て、粉体を予備乾燥インキ膜の上に部分的に転移させると共に、インキ剥離性のフィルム基材上に画像パターン状に残されている予備乾燥インキ膜の部分を被印刷基材表面上へ転写することを特徴とする印刷方法である。
【0022】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の印刷方法において、前記粉体はガラスもしくは樹脂からなり、球状であることを特徴とする。
【0023】
さらにまた、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の印刷方法において、前記粉体はその表面もしくは内部が着色されていることを特徴とする。
【0024】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷方法において、前記粉体の粒径が前記予備乾燥インキ膜の膜厚以上で且つ中間転写用凸版の版深の1.25倍以下であることを特徴とする。
【0025】
さらにまた、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の印刷方法において、前記粉体をインクジェット法もしくはディスペンサー法により中間転写用凸版の所定の凹部に選択的に配置させることを特徴とする。
【0026】
さらにまた、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の印刷方法を用いたカラーフィルターの製造方法であって、前記中間転写用凸版の凹部がカラーフィルターのカラー画素の表示域とこの表示域を取り囲む額縁部の形成用の部分となっていて、前記粉体をカラーフィルターの額縁部を形成するための凹部に選択的に配置させることを特徴とするカラーフィルターの製造方法である。
【0027】
さらにまた、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のカラーフィルターの製造方法によって得られるカラーフィルターであって、カラーフィルターのカラー画素の表示域を取り囲む額縁部の表面には前記粉体が配置されていることを特徴とするカラーフィルターである。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に係る発明によれば、中間転写用凸版の凹部に予め粉体を配置させた後に中間転写用凸版を予備乾燥インキ膜に押し当てることにより、粉体を予備乾燥インキ膜上の所定部分に転移させながら、その粉体を含む画像パターン状の予備乾燥インキ膜を目的の被印刷基材表面上へ転写することによって、いわゆる版底当たりを回避でき、カラーフィルターにおけるブラックマトリクス部とその周辺の額縁部のような高解像度部と低解像度部とが混在する画像パターンでも、パターンの欠落なく一括で印刷することが可能となる。
【0029】
請求項2に係る発明によれば、粉体がガラスもしくは樹脂からなり、球状であることによって配置する粉体の高さを均一に揃えることが可能となる。
【0030】
請求項3に係る発明によれば、粉体が着色されていることによって、被印刷基材上に形成される画像パターンにおける色抜けを防止することが可能となった。
【0031】
請求項4に係る発明によれば、粉体の粒径が前記予備乾燥インキ膜の膜厚以上で且つ中間転写用凸版の版深の1.25倍以下であることによって、より確実に高精細なパターンをパターン欠落なく印刷することが可能となる。
【0032】
請求項5に係る発明によれば、粉体をインクジェット法もしくはディスペンサー法により配置することによって、粉体を所定の位置に高精度で均一に配置することが可能となる。
【0033】
請求項6に係る発明によれば、カラーフィルターを印刷する際に、カラーフィルターの表示域である高精細な画像部を形成するための画像形成部(凹部)と、この表示域を取り囲むいわゆる額縁部を形成するための画像形成部(凹部)が混在する中間転写用凸版の額縁部形成用の凹部に粉体を選択的に配置することによって、額縁部をパターン欠落なく一括で精度よく印刷することが可能となる。
【0034】
請求項7に係る発明によれば、カラーフィルターの表示域を取り囲むいわゆる額縁部に前記粉体が配置されていることによって、額縁部においては光抜けがなく、高品質なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に、本発明に係る実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
図1は、本発明の印刷方法の一例を示す説明図であり、(a)はインキ剥離性のフィルム基材にインキ膜を設ける工程を、(b)は予備乾燥インキ膜を凸版に押し当てる工程を、(c)は予備乾燥インキ膜と凸版とを剥離する工程を、さらに(d)は画像パターン状の予備乾燥インキ膜を被印刷基材に転写する工程をそれぞれ示している。また、図2は、本発明の印刷方法によって作製されたカラーフィルターの概略の断面構成を示している。
【0037】
本発明の印刷方法は、図にも示すように、インキ剥離性のフィルム基材201上に、インキ膜203を設けてからそのインキ膜203を予備乾燥させて予備乾燥インキ膜208を得た後、印刷しようとする画像パターンに対応する凹部205、206と画像パターン以外の非画像部に対応する凸部212、213とを有する中間転写用凸版204の版面を予備乾燥インキ膜208に押し当て、中間転写用凸版204の凸部215、216に予備乾燥インキ膜208を転移させ、しかる後にインキ剥離性のフィルム基材上に残されている画像パターン状の予備乾燥インキ膜210を被印刷基材表面211上へ転写する印刷方法であって、中間転写用凸版204の所定の凹部206に粉体を配置させた後に中間転写用凸版204を予備乾燥インキ膜208に押し当て、粉体207を予備乾燥インキ膜の上に部分的に転移させると共に、インキ剥離性のフィルム基材上に残されている画像パターン状の予備乾燥インキ膜201の部分を被印刷基材211表面上へ転写することを特徴とするものである。
【0038】
ここで、インキ剥離性フィルムの基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ナイロン、アラミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロースなどからなるフィルムやシートを用いることができる。
【0039】
上記基材用部材の表面にはへインキ剥離性を付与するために、シリコーンオイル、シリコーンワニスで代表される離型剤を塗ってもよいし、あるいはシリコーンゴムの薄膜層を形成してもよい。また同様の効果を得るために、フッ素系樹脂、フッ素系ゴムなどを用いることもできる。さらには、フッ素系樹脂微粉末をシリコーンゴムあるいは普通のゴムに混ぜて剥離性を付与するようにしてもよい。これらのシリコーン系材料からなる塗膜は通常のフィルム基材との密着性が低いが、熱硬化または紫外線硬化性のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂などからなる樹脂層をアンカーコート層としてあらかじめフィルム基材上に設け、その上層に上記した材料からなる薄膜を設けるようにしてもよい。
【0040】
具体的なシリコーンとしては、ジメチルポリシロキサンの各種分子量のもの、その他メチルハイドロジエンポリシロキサン、メチルフェニルシリコーンオイル、メチル塩素化フェニルシリコーンオイル、あるいはこれらポリシロキサンと有機化合物との共重合体や、変成物を用いることができる。また、シリコーンゴムとしては、二液型のジオルガノポリシロキサンと架橋剤としての三官能性以上のシラン、またはシロキサン及び硬化触媒を組み合わせたもの、あるいは一液型ではジオルガノポリシロキサンとアセトンオキシム、各種メトキシシラン、メチルトリアセトキシシランなどを組み合わたものや、その他ゴム硬度を調節するためのポリシロキサンなどを適宜用いることができる。
【0041】
このようにして得られるインキ剥離性のフィルム基材のインキ剥離性は、処理面へインキを滴下した際の接触角が、10°以上90°以下程度であることが好ましい。20°以
上70°以下であればより好ましい。この接触角が小さいと後工程におけるインキ剥離性フィルムの剥離性が低下してパターンの欠陥(再現性不良等)が発生しやすくなり、接触角が大きいとインキ膜を形成する際にハジキが生じ、均一なインキ膜を形成することが困難になる。
【0042】
上記に示したインキ剥離性のフィルム基材上へインキ膜を形成する方法としては、インキの粘度や溶媒の乾燥性によって公知の塗工方法の中から適宜のものを選択して用いることができる。具体的には、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法などが挙げられる。中でも、ダイコート、キャップコート、ロールコート、アプリケータコートなどの塗工方法は、広い範囲の粘度のインキで均一なインキ膜を形成することができるので好ましく用いられる。さらにその中でも、搬送されるインキ剥離性のフィルム基材上へ連続的にインキ膜を形成する場合は、ダイコート法が最も効率的であり、より好ましく用いられる。
【0043】
インキ剥離性のフィルム基材上へ前記方法によりインキ膜を形成した後は、インキ膜を予備乾燥する。この予備乾燥には自然乾燥、冷風・温風乾燥、マイクロ波、減圧乾燥などを用いることができる。また、紫外線、電子線などの放射線を用いて乾燥するようにしてもよい。
【0044】
この予備乾燥は、インキ膜の粘度またはチキソトロピー性、脆性を上げることを目的とするもので、完全乾燥はさせない。ただし、乾燥が不十分な場合は、後工程において中間転写用凸版の凸部を押し当てた後に剥離する際に、インキ膜が断裂して転移不良が発生する場合がある。逆に乾燥が行き過ぎた場合は、中間転写用凸版にインキ膜が転写されなくなる。そのため使用するインキの組成に合わせてインキ膜の乾燥状態を適切に調整する必要がある。
【0045】
一方、中間転写用凸版としては、例えば、無アルカリガラスなどの低膨張ガラス表面に感光性樹脂を用いてマスクパターンを形成した後、既存のドライエッチング処理やウェットエッチング処理、もしくはサンドブラスト処理を用いて、版深が2μmから30μmの凹部を有する凸版を用いることができる。
【0046】
また、本発明の印刷方法においては、被印刷基材としては、ガラス板やプラスチック板などが適用できるが、より具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ナイロン、アラミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロースなどからなるフィルムやシートを用いることができる。使用する被印刷基材は、印刷に適用するインキの乾燥条件に合わせて選定すればよく、耐熱性のものとしてはポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミドなどが好適である。また、無機フィラーを樹脂に添加して耐熱性を向上させた材料からなる基材でもよい。プラスチックからなるフィルムやシートは、延伸されていても、未延伸であってもよく、また、可撓性のある被印刷基材には必要に応じてガスバリア層や平滑化層、インキ受像層などが印刷面または他の面に積層されていてもよい。
【0047】
他方、インキ膜を構成するインキの材料としては、色材などを溶媒に溶解または分散させたものを用いることができる。例えば、カラーフィルターにおけるブラックマトリクスを本発明の印刷方法により形成する場合は、顔料成分と樹脂成分を溶媒中に溶解、分散させてなるインキを用いればよい。
【0048】
また、カラーフィルターのブラックマトリクスを形成するために用いられるインキ中に含有する黒色顔料としては、カーボンブラックやチタンブラックが単独または混合して用いられる。
【0049】
インキの樹脂成分としては、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂などが使用される。溶剤としては、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤及び炭化水素系溶剤などが使用される。この中では、エステル系溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エトキシエチルプロピオネートが、また、アルコール系溶剤としては、1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、1−ヘキサノール、1,3−ブタンジオール、1−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノールが、また、エーテル系溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール−t−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルが、さらに、炭化水素系溶剤としては、ソルベッソ100、ソルベッソ150(製品名 エクソン化学社製)などがそれぞれ挙げられる。
【0050】
また、回路基材配線を本発明の印刷方法により形成する場合、例えば金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウムなどの金属微粒子分散液を水やアルコール、グリコール系溶媒に溶解、分散させてなるインキが用いられる。また、これらのインキには必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、レベリング剤などが添加されていてもよい。なお、本発明において用いられるインキはこれらに限定されるものではない。
【0051】
さらに、本発明に用いられる粉体としては、例えば、無機系のものとしてはガラス、有機系のものとしてはアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジビニルベンゼン共重合体、ジビニルベンゼン―アクリルエステル共重合体、ジアクリルフタレート共重合体、アリルイソシアヌレート共重合体などからなるものが使用可能である。本発明の印刷方法により導電性、絶縁性を有する画像パターンを形成する際にはそれらの性質を有した粉体材料を用いたり、粉体の表面に導電処理や絶縁処理を施したものを用いることができる。また、着色パターンを形成する際には、色抜けや光抜けを防止するために、必要に応じて粉体の表面を着色するか、もしくは粉体内部に染料や顔料を分散させたものを用いることができる。また、形状としては、配置さえたときの高さを揃えるために球状であることが好ましい。
【0052】
また、粉体の粒径としては予備乾燥インキ膜の膜厚以上で且つ凸版の版深の1.25倍以下であることが好ましい。より好ましくは予備乾燥インキ膜の膜厚以上且つ凸版の版深以下であればよい。粒径が予備乾燥インキ膜の膜厚より小さいと粉体が予備乾燥インキ膜の内部に完全に入り込み版底当たり引き起こし、凸版の版深の1.25倍より大きいと予備乾燥インキ膜を押し当てる際や、画像パターンを被印刷基材に転写する際に印圧を均一に掛けることが困難になり好ましくない。
【0053】
このような粉体は、分散媒に分散させたものをインクジェット法やディスペンサー法などにより中間転写用凸版の所定の凹部へ吐出させて配置するようにすればよい。粉体の具体的な分散媒としては、水、エチレングリコール、イソプロピルアルコールなどが挙げられ、必要に応じてこれらに適宜助剤を混合し、揮発性や粘度、表面張力などを調節するようにしてもよい。また分散媒中の粉体の混合割合としては、粉体分散剤を吐出した時、版底当たりを防止するだけの粉体が中間転写用凸版の所定の凹部に配置される程度の混合割
合であることが必要である。混合量が多過ぎると粉体が凝集したり、重なったり、また、インキジェット装置などのノズル閉塞を引き起こすことがあるため好ましくない。
【0054】
粉体の凸版の凹部への配置をインクジェット法によって行う場合、粉体分散剤の吐出には熱エネルギーを用いた方法や、ピエゾ方式を用いたインクジェットヘッドを用いた方法を採用することができるが、粉体分散剤を所定の位置に連続的に安定して吐出できるものであれば、これらの方式に関わらず既存の他の方法を用いることができる。しかしながら、粉体によるノズル閉塞を回避させるには、限定されるわけではないが粉体の径の5倍以上のノズル径を有する吐出ノズルを使用することが好ましい。
【0055】
インキジェット装置は公知のものを使用できるが、インクジェットヘッドの方式は、サーマル方式、バブル方式、静電アクチュエータ方式、ピエゾ方式などのいずれのものでもよい。
【0056】
中間転写用凸版の凹部に配置させる粉体の密度は、特に限定されるものではないが1000〜30000個/cm2程度が好ましい。配置密度が1000個/cm2未満であると確実に版底当たりを防止することは困難になり、逆に30000個/cm2を超えると凸版の凹部で粉体が凝集したり、画像パターンを被印刷基材に転写する際に印圧を均一に掛けることが難かしくなり好ましくない。
【0057】
図2には本発明の印刷方法によって作製されたカラーフィルターの概略の断面構成が示してある。このカラーフィルターは、図面からも分かるように、額縁部には粉体が配置されていて、その一部が額縁部のパターンに内包されている。したがって、額縁部において突出している部分の粉体の高さは液晶表示装置製造の後工程における液晶層のセルギャップを保持するためのスペーサーの高さ以下であり、スペーサー形成工程に影響を及ぼさないようになっている。
【0058】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0059】
まず、下記の組成の混合物を均一に撹拌混合した後、直径1mmのガラスビーズを用い、サンドミルで5時間分散し、カラーフィルター用黒色インキを調整した。
[カラーフィルター用黒色インキの組成]
・ポリイミド前駆体 東レ(株)製 「セミコファインSP−510」 10重量部
・黒色顔料 カーボンブラック 7.5重量部
・溶媒 N−メチル−2−ピロリドン(NMP) 130重量部
・分散剤 銅フタロシアニン誘導体 5重量部
・レベリング剤 ビックケミージャパン(株)製「BYK333」 0.5重量部。
【0060】
次に、中間転写用凸版の所定の凹部に粉体をインクジェット法によって配置する際に用いる下記組成の粉体分散剤をソニケーターを用いて撹拌して調整した。
[粉体分散剤の組成]
・液晶表示装置用着色(黒色)ビーズスペーサー
(積水化学工業(株)製 ミクロパールKBS−505 5μmφ) 1重量部
・分散媒
純水 10重量部
イソプロピルアルコール 10重量部
エチレングリコール 80重量部。
【0061】
インキ剥離性のフィルム基材としては、基材厚約100μmのシリコーン系離型ポリエ
ステルフィルム:K1504(東洋紡績(株)製)を300mm角に切り出したものを用意した。
【0062】
また、中間転写用凸版としては、ガラス板(300mm角、厚さ0.7mm)をウェットエッチングし、そこに画像形成部としてカラーフィルターにおけるブラックマトリクスパターン形成用の凹部およびブラックマトリックスを取り囲む額縁部形成用の凹部を設けたものを使用した。尚、得られた凸版のブラックマトリクスパターン形成用の凹部の線幅は10μm、版深は5μmであり、額縁部形成用の凹部の線幅は3mm、版深は5μmであった。
【0063】
そして、被印刷基材には厚さ100μmのPETフィルムを用いた。
【0064】
以上のような材料を用いて以下の要領でカラーフィルターにおけるブラックマトリクス部と額縁部の一括転写を行った。
【0065】
初めに、インキ剥離性のフィルム基材上にドライ膜厚が1.7μmとなるように、ダイコーターを用いて前記黒色インキを塗工し、インキ膜を設けた。その後、120℃のドライオーブンにて120秒間予備乾燥を行いインキ膜を予備乾燥させ、予備乾燥インキ膜を得た。
【0066】
次に、インクジェット法により粉体分散剤を凸版の額縁部形成用凹部(低解像度部)に選択的に吐出し、粉体を配置させた。尚、吐出した液滴一滴あたりの体積は35plであり、液滴中に含まれる粉体は1〜4個であった。その後、120℃のホットプレートにて60秒間乾燥を行った。
【0067】
次に粉体を所定の凹部に配置した中間転写用凸版とインキ剥離性のフィルム基材上の予備乾燥インキ膜とを接触させゴムローラーで押付けた後に剥離してインキ剥離性のフィルム基材上に画像パターン状の予備乾燥インキ膜を転写させた。
【0068】
続いて、画像パターンを形成したインキ剥離性のフィルム基材をPETフィルムと接触させゴムローラーで押付けた後に剥離して画像パターンをPETフィルム上に転写、印刷した。
【0069】
PETフィルム上のブラックマトリクスパターン周縁の額縁部においてはパターン欠落なく、印刷に際して版底当たりを防止できたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は基材上に、高解像度部と低解像度部とを併せ持つ高精細な画像パターンを形成することができ、種々の用途に利用できるが、とりわけカラーフィルターや導電性インキによる配線パターニングに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の印刷方法の一例を示す説明図であり、(a)はインキ剥離性のフィルム基材にインキ膜を設ける工程を、(b)は予備乾燥インキ膜を凸版に押し当てる工程を、(c)は予備乾燥インキ膜と凸版とを剥離する工程を、さらに(d)は予備乾燥インキ膜からなる画像パターンを被印刷基材に転写する工程をそれぞれ示している。
【図2】本発明の印刷方法によって作製されたカラーフィルターの概略の断面構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0072】
101・・・基材
102・・・カラー画素
103・・・ブラックマトリクス
104・・・額縁部
105・・・粉体
201・・・インキ剥離性のフィルム基材
202・・・ダイコーターヘッド
203・・・インキ膜
204・・・中間転写用凸版
205・・・凹部(高解像度パターン形成用)
206・・・凹部(低解像度パターン形成用)
207・・・粉体
208・・・予備乾燥インキ膜
209・・・ゴムローラー
210・・・画像パターン状の予備乾燥インキ膜
211・・・被印刷基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ剥離性のフィルム基材上に、インキ膜を設けてからそのインキ膜を予備乾燥させて予備乾燥インキ膜を得た後、印刷しようとする画像パターンに対応する凹部と画像パターン以外の非画像部に対応する凸部とを有する中間転写用凸版の版面を予備乾燥インキ膜に押し当て、中間転写用凸版の凸部に予備乾燥インキ膜を転移させ、しかる後にインキ剥離性のフィルム基材上に画像パターン状に残されている予備乾燥インキ膜の部分を被印刷基材表面上へ転写する印刷方法であって、中間転写用凸版の所定の凹部に粉体を配置させた後に凸版を予備乾燥インキ膜に押し当て、粉体を予備乾燥インキ膜の上に部分的に転移させると共に、インキ剥離性のフィルム基材上に画像パターン状に残されている予備乾燥インキ膜の部分を被印刷基材表面上へ転写することを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記粉体はガラスもしくは樹脂からなり、球状であることを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記粉体はその表面もしくは内部が着色されていることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記粉体の粒径は前記予備乾燥インキ膜の膜厚以上で且つ中間転写用凸版の版深の1.25倍以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項5】
前記粉体はインクジェット法もしくはディスペンサー法により中間転写用凸版の所定の凹部に選択的に配置させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の印刷方法を用いたカラーフィルターの製造方法であって、前記中間転写用凸版の凹部がカラーフィルターのカラー画素の表示域とこの表示域を取り囲む額縁部を形成する部分となっていて、前記粉体をカラーフィルターの額縁部を形成するための凹部に選択的に配置させることを特徴とするカラーフィルターの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のカラーフィルターの製造方法によって得られるカラーフィルターであって、カラーフィルターのカラー画素の表示域を取り囲む額縁部の表面には前記粉体が配置されていることを特徴とするカラーフィルター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−96073(P2009−96073A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269913(P2007−269913)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】