説明

印刷機、発光層形成方法、有機発光デバイス形成方法および有機発光デバイス

【課題】有機発光デバイスの発光素子層の発光層を形成するのに適した印刷機を提供する。
【解決手段】印刷機10は、フレーム5と、フレーム5上に配置され、その上面にグラビア版部14とアニックス版部1とを有する平板状のインキ版20と、インキ版20に当接してインキ30を受理する転写ロール24と、を備えている。転写ロール24は、中心ロール25と、中心ロール25の周面に設けられたブランケット部27およびフレキソ部23とを有している。このうちブランケット部27は、インキ版20のグラビア版部14からインキ30を受理するとともに基材52上に当該インキ30を転移させるものであり、このブランケット部27は弾性材料からなっている。またフレキソ部23は、インキ版20のアニックス版部1からインキ30を受けるとともに基材52上に当該インキ30を転移させるものであり、このフレキソ部23も弾性材料からなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブランケット部とフレキソ部とを有する転写ロールによって印刷を行う印刷機に関する。また本発明は、当該印刷機を用いて有機発光デバイスの発光素子層における発光層を形成する方法に関する。また本発明は、前記印刷機により発光層を形成する工程を含む有機発光デバイスの形成方法、および有機発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光デバイスは、有機発光材料に電場を与えることで励起し発光するデバイスである。有機発光デバイスは、自己発光性であるため視認性が高く、また完全固体素子であるため耐衝撃性に優れている等の特徴を有している。その他にも、有機発光デバイスは、印加電圧10V弱という低電圧であっても高輝度な発光が実現するなど発光効率が高いこと、単純な素子構造で発光が可能であること、輝度が高く長寿命であること等の利点を有している。
【0003】
また、有機発光デバイスは、主に対向する電極の間に少なくとも発光層を有する発光素子層が形成された積層構造である。ここで、有機発光デバイスを発光させる上で、発光素子層の各層を、ナノメートル単位の厚みとすることが可能である。このため、有機発光デバイスは、その他の発光デバイスに比べて、デバイスの薄型化及び軽量化が容易であるという利点を有している。さらに、有機発光デバイスの各層を、高分子材料を溶解させた塗布液を塗布することにより作製することができ、このため、有機発光デバイスは、紙への印刷法を応用した製法やインクジェット法を応用した製法を適用可能であるという利点等も有している。
【0004】
こうした多くの利点を有する有機発光デバイスを広告用ディスプレイなどとして用いることが検討されている。例えば、特許文献1においては、有機発光デバイスを用いて、特定の文字または図形などからなる固定パターンを発光表示させることが提案されている。また特許文献1においては、時間の経過につれて移動または変化する文字または図形などからなる可変パターンを発光表示させることも提案されている。このような可変パターンの発光表示は、発光素子層をドット状に縦横に配列し、時間に応じて各ドットを互いに独立して発光させることにより実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−111158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、広告用ディスプレイの固定パターンを大きくすることにより、不特定の人の注意を惹きつけることができる。また、可変パターンを設けることにより、惹きつけられた人の注意を長く保つことができる。従って、広告用ディスプレイの訴求効果を向上させるためには、一つの有機発光デバイスが、固定パターンを発光表示させる固定パターン領域と、可変パターンを表示させる可変パターン領域とをともに備えていることが好ましい。
【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、優れた訴求効果を有する広告用ディスプレイとして適用され得る有機発光デバイスを提供することを目的とする。また本発明は、当該有機発光デバイスの形成方法、または当該有機発光デバイスにおける発光素子層の発光層の形成方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、当該発光素子層の発光層を形成するのに適した印刷機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フレームと、前記フレーム上に配置され、その上面にグラビア版部とアニックス版部とを有する平板状のインキ版と、前記インキ版のグラビア版部およびアニックス版部にインキを供給するインキ供給部と、前記インキ版のグラビア版部およびアニックス版部に当接して前記インキを受理する転写ロールと、前記転写ロールとの間で基材を挟持して、転写ロール上のインキを基材上に転移させるバックアップ体と、を備え、前記転写ロールは、中心ロールと、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理するとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるブランケット部と、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のアニックス版部からインキを受けるとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるフレキソ部と、を有し、前記ブランケット部は、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理するインキ受理面を含み、前記フレキソ部は、前記インキ版のアニックス版部からインキを受ける凸部と、アニックス版部からのインキを受けない凹部と、を含み、前記フレキソ部の凸部は、前記ブランケット部のインキ受理面よりも転写ロール内方に引っ込んでいることを特徴とする印刷機である。
【0009】
本発明は、ロール状のインキ版であって、その外周面にグラビア版部とアニックス版部とを有するインキ版と、前記インキ版のグラビア版部およびアニックス版部にインキを供給するインキ供給部と、前記インキ版のグラビア版部およびアニックス版部に当接して前記インキを受理する転写ロールと、前記転写ロールとの間で基材を挟持して、転写ロール上のインキを基材上に転移させる圧胴と、を備え、前記転写ロールは、中心ロールと、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理するとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるブランケット部と、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のアニックス版部からインキを受けるとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるフレキソ部と、を有し、前記ブランケット部は、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理する第1インキ受理面を含み、前記フレキソ版部は、前記インキ版のアニックス版部からインキを受ける凸部と、アニックス版部からのインキを受けない凹部と、を含み、前記フレキソ版部の凸部は、前記ブランケット部のインキ受理面よりも転写ロール内方に引っ込んでいることを特徴とする印刷機である。
【0010】
本発明の印刷機において、好ましくは、前記フレキソ版部の凸部は、前記ブランケット部のインキ受理面よりも0.1〜0.5mmだけ転写ロール内方に引っ込んでいる。
【0011】
本発明の印刷機において、好ましくは、前記インキのせん断速度100/秒における粘度(インキ温度23℃)が51〜200cPの範囲内である。
【0012】
本発明の印刷機において、好ましくは、前記インキは、溶媒と、溶媒中に溶解された固形分からなり、前記溶媒は、その表面張力が37dyne/cm以下であり、かつその沸点が165〜250℃の範囲内である。
【0013】
本発明の印刷機において、好ましくは、前記インキにおける固形分の含有量が1.5〜3.5重量%の範囲内である。
【0014】
本発明の印刷機において、好ましくは、前記転写ロールの前記ブランケット部は、表面張力が35dyne/cm以上である樹脂フィルムからなっている。
【0015】
本発明の印刷機において、好ましくは、前記樹脂フィルムの厚みは、5〜200μmの範囲である。
【0016】
本発明の印刷機において、前記転写ロールのブランケット部は、転写ロールの中心ロールの周面に前記樹脂フィルムを一体的に備えるものであってもよい。
【0017】
本発明の印刷機において、前記転写ロールのブランケット部は、表面張力が35dyne/cm以上である樹脂フィルムからなり、前記グラビア版部からインキを受理する位置と、インキを前記基材上に転移する位置とを少なくとも含む範囲において、回転する中心ロールに巻き付く状態で前記樹脂フィルムが搬送されるものであってもよい。
【0018】
本発明の印刷機において、前記中心ロールと前記ブランケット部との間にクッション層が介在されていてもよい。
【0019】
本発明の印刷機において、前記転写ロールのフレキソ部は、水現像可能な樹脂材料からなっていてもよい。
【0020】
本発明の印刷機において、前記転写ロールのフレキソ部は、レーザ彫刻可能な樹脂材料からなっていてもよい。
【0021】
本発明の印刷機において、前記転写ロールのフレキソ部は、転写ロールの中心ロールの周面に粘着材により固定されていてもよい。
【0022】
本発明の印刷機において、前記版胴は、金属ロールと、金属ロールを取り囲む円筒状のプラスチックスリーブと、プラスチックスリーブの外周上に設けられたフレキソ版とからなっていてもよい。この場合、前記プラスチックスリーブは、前記金属ロール内に配置されたエアークランプ機構によって金属ロール上に固定されていてもよい。または、前記プラスチックスリーブは、前記金属ロール内に配置された吸着機構によって金属ロール上に固定されていてもよい。
【0023】
本発明は、対向する電極と、当該電極間に配設され少なくとも発光層を有する発光素子層と、を備えた有機発光デバイスの当該発光層を上記記載の印刷機により形成する方法において、少なくとも有機発光材料を含有するインキを前記インキ版のグラビア版部およびアニックス版部に充填させる工程と、当該グラビア版部およびアニックス版部から前記転写ロールに前記インキを受理させる工程と、前記転写ロール上の前記インキを基材上に転移させる工程と、を備え、前記転写ロールは、中心ロールと、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理するとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるブランケット部と、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のアニックス版部からインキを受けるとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるフレキソ部と、を有し、前記ブランケット部は、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理するインキ受理面を含み、前記フレキソ部は、前記インキ版のアニックス版部からインキを受ける凸部と、アニックス版部からのインキを受けない凹部と、を含み、前記フレキソ部の凸部は、前記ブランケット部のインキ受理面よりも内方に引っ込んでいることを特徴とする発光層の形成方法である。
【0024】
本発明は、対向する電極と、当該電極間に配設され少なくとも発光層を有する発光素子層と、を含む有機発光デバイスを形成する方法において、基材を準備する工程と、前記基材上に、所望のパターンを有する第1電極層を形成する工程と、前記基材上に、前記第1電極層の所望の部位を上方に露出させる複数の開口部を有する絶縁層を形成する工程と、前記開口部内に、少なくとも発光層を有する発光素子層を形成する工程と、前記発光素子層のうち所望の開口部内に位置する発光素子層に接続されるよう、第2電極層を形成する工程と、を備え、前記発光素子層の発光層は、上記記載の方法により形成されることを特徴とする有機発光デバイスの形成方法である。
【0025】
本発明の有機発光デバイスの形成方法において、前記開口部内に前記発光素子層が形成されている領域であって、かつ前記第1電極層と前記第2電極層との間に発光素子層が形成されている領域により発光領域が画定されてもよい。この場合、当該発光領域は、少なくとも1つの第1発光領域と、複数の第2発光領域と、からなり、前記第1発光領域の面積は、前記第2発光領域の面積よりも大きくなっている。また、前記第1発光領域における発光素子層の発光層は、前記ブランケット部から転移されるインキから形成され、前記第2発光領域における発光素子層の発光層は、前記フレキソ部から転移されるインキから形成される。
【0026】
本発明の有機発光デバイスの形成方法において、好ましくは、前記第1発光領域の面積は、1mm以上となっており、前記第2発光領域の面積は、1mmよりも小さくなっている。
【0027】
本発明の有機発光デバイスの形成方法において、前記絶縁層の開口部により、前記第1発光領域と前記第2発光領域とからなる前記発光領域が画定されてもよい。この場合、前記発光素子層を形成する工程において、発光素子層が、前記絶縁層および前記開口部を覆うよう形成される。
【0028】
本発明は、基材と、当該基材上に所望のパターンで形成された第1電極層と、前記基材上に形成され、前記第1電極層の所望の部位を上方に露出させる複数の開口部を有する絶縁層と、各開口部内の第1電極層を被覆するよう各開口部内に形成され、少なくとも発光層を有する発光素子層と、前記発光素子層のうち所望の開口部内に位置する発光素子層に接続されるよう形成された第2電極層と、を備え、前記開口部内に前記発光素子層が形成されている領域であって、かつ前記第1電極層と前記第2電極層との間に発光素子層が形成されている領域により発光領域が画定され、当該発光領域は、少なくとも1つの第1発光領域と、複数の第2発光領域と、からなり、前記第1発光領域の面積は、1mm以上となっており、前記第2発光領域の面積は、1mmよりも小さくなっていることを特徴とする有機発光デバイスである。
【0029】
本発明の有機発光デバイスにおいて、前記絶縁層の開口部により、前記第1発光領域と前記第2発光領域とからなる前記発光領域が画定されてもよい。この場合、開口部は、前記第1発光領域に対応する第1開口部と、前記第2発光領域に対応する第2開口部とからなり、前記第1開口部の面積は、1mm以上となっており、前記第2開口部の面積は、1mmよりも小さくなっている。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、印刷機の転写ロールは、中心ロールと、中心ロール上に設けられ、インキ版のグラビア版部からインキを受理するとともに基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるブランケット部と、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のアニックス版部からインキを受けるとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるフレキソ部と、を有している。また、ブランケット部は、インキ版のグラビア版部からインキを受理するインキ受理面を含み、フレキソ部は、インキ版のアニックス版部からインキを受ける凸部と、アニックス版部からのインキを受けない凹部と、を含んでいる。このため、インキ版のグラビア版部と転写ロールのブランケット部との組合せによるグラビアオフセット印刷と、インキ版のアニロックス版部と転写ロールのフレキソ部との組合せによるフレキソ印刷とを、一つの転写ロールで同時に行うことができる。
また、フレキソ部の凸部は、ブランケット部のインキ受理面よりも転写ロール内方に引っ込んでいる。このため、ブランケット部によるグラビアオフセット印刷における印圧を、フレキソ部によるフレキソ印刷における印圧よりも大きくすることができる。従って、グラビアオフセット印刷とフレキソ印刷とをそれぞれ適切な印圧で同時に行うことができる。このことにより、グラビアオフセット印刷により形成される層の厚みのばらつきと、フレキソ印刷により形成される層の厚みのばらつきとを、それぞれ適切に抑制することができる。
【0031】
また本発明によれば、発光層を形成する方法は、上記記載の印刷機により発光層を形成する工程を含んでいる。このため、インキ版のグラビア版部と転写ロールのブランケット部との組合せによるグラビアオフセット印刷と、インキ版のアニロックス版部と転写ロールのフレキソ部との組合せによるフレキソ印刷とを、一つの転写ロールで同時に行うことができる。また、フレキソ部の凸部が、ブランケット部のインキ受理面よりも転写ロール内方に引っ込んでおり、このため、ブランケット部によるグラビアオフセット印刷における印圧を、フレキソ部によるフレキソ印刷における印圧よりも大きくすることができる。従って、グラビアオフセット印刷により、大きな印圧で、厚みの均一な発光層を形成することができ、同時にフレキソ印刷により、グラビアオフセット印刷よりも小さな印圧で、厚みの均一な発光層を精度よく形成することができる。
【0032】
また本発明によれば、少なくとも発光層を有する発光素子層を含む有機発光デバイスを形成する方法は、上記記載の発光層形成方法により発光層を形成する工程を含んでいる。このため、グラビアオフセット印刷により、大きな印圧で、厚みの均一な発光層を形成することができ、同時にフレキソ印刷により、グラビアオフセット印刷よりも小さな印圧で、厚みの均一な発光層を精度よく形成することができる。このことにより、高品質な表示が可能で信頼性の高い有機発光デバイスを形成することができる。
【0033】
また本発明によれば、有機発光デバイスは、基材と、当該基材上に所望のパターンで形成された第1電極層と、基材上に形成され、第1電極層の所望の部位を上方に露出させる複数の開口部を有する絶縁層と、各開口部内の第1電極層を被覆するよう各開口部内に形成され、少なくとも発光層を有する発光素子層と、発光素子層のうち所望の開口部内に位置する発光素子層に接続されるよう形成された第2電極層と、を備えている。この場合、開口部内に発光素子層が形成されている領域であって、かつ第1電極層と第2電極層との間に発光素子層が形成されている領域により発光領域が画定される。この発光領域は、少なくとも1つの第1発光領域と、複数の第2発光領域と、からなっている。このうち第1発光領域の面積は、1mm以上となっており、第2発光領域の面積は、1mmよりも小さくなっている。このように面積の異なる二種類の発光領域を設けることにより、有機発光デバイスの誘引性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における印刷機を示す斜視図。
【図2】図2は、本発明の実施の形態におけるインキ版を示す平面図。
【図3】図3(a)(b)(c)は、本発明の実施の形態において、グラビア版部のセルまたはアニロックス版部のセルの印刷方向における幅bと、これに直交する方向における幅aの比b/aを示す平面図。
【図4】図4は、図1の印刷機の転写ロールのIV−IV線での断面図。
【図5】図5(a)は、図4の転写ロールをVa方向から見た場合を示す図、図5(b)は、図4の転写ロールをVb方向から見た場合を示す図。
【図6】図6は、本発明の実施の形態における有機発光デバイスを示す平面図。
【図7】図7(a)(b)は、本発明の実施の形態において、有機発光デバイスが発光する様子を示す図。
【図8】図8は、図6の有機発光デバイスのVIII−VIII線での部分断面斜視図。
【図9】図9(a)〜(f)は、本発明の実施の形態における有機発光デバイスの形成方法を示す図。
【図10】図10(a)〜(c)は、有機発光デバイスの形成方法の変形例を示す図。
【図11】図11は、本発明における印刷機の他の実施形態を示す図。
【図12】図12は、本発明における印刷機の他の実施形態を示す図。
【図13】図13は、本発明における印刷機の他の実施形態を示す図。
【図14】図14は、本発明における印刷機の他の実施形態を示す図。
【図15】図15は、本発明におけるインキ版の他の実施形態を示す図。
【図16】図16は、本発明におけるインキ版の他の実施形態を示す図。
【図17】図17は、本発明におけるインキ版の他の実施形態を示す図。
【図18】図18は、本発明における転写ロールの他の実施形態を示す図。
【図19】図19は、本発明における有機発光デバイスの他の実施形態を示す平面図。
【図20】図20は、図19に示す有機発光デバイスにおいて、発光層と絶縁層の開口部との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図1乃至図9を参照して、本発明の実施の形態について説明する。はじめに図1を参照して、印刷機10全体について説明する。
【0036】
〔印刷機〕
図1に示すように、印刷機10は、フレーム5と、フレーム5上に配置され、その上面にグラビア版部14とアニックス版部1とを有する平板状のインキ版20と、インキ版20のグラビア版部14およびアニックス版部1にインキ30を供給するインキ供給部7と、インキ供給部7から供給されたインキ30をグラビア版部14のセル15(後述)内およびアニックス版部1のセル2(後述)内に充填させるドクターシステム8と、インキ版20に当接してインキ30を受理する転写ロール24と、転写ロール24との間で基材52を挟持して、転写ロール24上のインキ30を基材52上に転移させるバックアップ体と、を備えている。ここで、図1に示すように、バックアップ体は、フレーム5上に配置され、平板状の基材52を載置する基材定盤6からなっている。また、転写ロール24は、フレーム5上を矢印Pで示す印刷方向に沿って走行可能となるようフレーム5に設けられている。またドクターシステム8は、インキ版20上のインキ30を図1における右方向に向かって掻く第1ドクター8aと、インキ30を図1における左方向に向かって掻く第2ドクター8bとを有している。
【0037】
このうち転写ロール24は、図1に示すように、矢印Rで示す方向に回転する中心ロール25と、中心ロール25の周面に設けられたブランケット部27およびフレキソ部23とを有している。このうちブランケット部27は、インキ版20のグラビア版部14からインキ30を受理するとともに基材52上に当該インキ30を転移させるものであり、このブランケット部27は弾性材料からなっている。またフレキソ部23は、インキ版20のアニックス版部1からインキ30を受けるとともに基材52上に当該インキ30を転移させるものであり、このフレキソ部23も弾性材料からなっている。
後述するように、このような印刷機10により有機発光デバイス51(後述)の透明基材52上に発光層58を形成する場合、ブランケット部27から透明基材52上に転移されるインキ30により、有機発光デバイス51の固定パターン領域61の発光層58が形成される。一方、フレキソ部23から透明基材52上に転移されるインキ30により、有機発光デバイス51の可変パターン領域62の発光層58が形成される。
【0038】
〔インキ版〕
次に図2および図3を参照して、インキ版20について詳細に説明する。図2は、本発明のインキ版20の一実施形態を説明するための平面図である。上述のように、インキ版20は、その上面にグラビア版部14とアニックス版部1とを有している。以下、グラビア版部14およびアニックス版部1についてそれぞれ詳細に説明する。
【0039】
グラビア版部
はじめにグラビア版部14について説明する。図2に示すように、グラビア版部14は、インキ供給部7からのインキ30が充填される複数のセル15を有している。また各セル15は、ストライプ状の形状を有しており、各セル15の間には非セル部16が存在する。そして、各セル15(斜線を付した部位)の幅(セル部長L)と、非セル部16の幅(非セル部長S)との比L/Sが0.8〜100、好ましくは1〜60の範囲内となっている。また、セル15の幅(セル部長L)が10〜500μm、好ましくは30〜300μmの範囲内となっており、非セル部16の幅(非セル部長S)が2〜500μm、好ましくは5〜200μmの範囲内となっており、セル15の深さ(版深)が20〜200μm、好ましくは30〜100μmの範囲内となっている。これらセル15および非セル部16は、成膜部位全体の面積(セル15および非セル部16全体の面積)に占めるセル15全体の面積の比率が55〜95%、好ましくは60〜90%の範囲内となるよう構成されている。
【0040】
また、本発明のグラビア版部14は、図3(a)に示すように、各セル15(斜線を付した部位)における印刷方向(図の矢印Pが示す方向)の幅bと印刷方向に直交する方向での幅aの比b/aが0.6以上であり上限には特に制限はない。尚、本発明において印刷方向とは、転写ロール24の回転方向と同義である。
また図2および図3(a)において、ストライプ状の形状を有する各セル15が印刷方向Pと平行に延びている例を示したが、これに限られることはない。例えば図3(b)(c)に示すように、各セル15が延びている方向と印刷方向Pとが平行となっていなくてもよい。この場合も、図3(b)(c)に示すように、各セル15(斜線を付した部位)における印刷方向(図の矢印Pが示す方向)の幅bと印刷方向に直交する方向での幅aの比b/aが0.6以上となっている。
【0041】
なお、グラビア版部14におけるセル部長Lと非セル部長Sとの比L/Sが0.8未満であると、厚膜形成が困難となり、100を超えると、グラビア版部14のセル形成が困難となり、また膜厚のバラツキが大きくなり好ましくない。また、セル15の幅(セル部長L)が10μm未満であると、厚膜形成が困難であり、500μmを超えると、膜厚のバラツキが大きくなり好ましくない。また、非セル部16の幅(非セル部長S)が2μm未満であると、グラビア版部14のセル形成が困難であり、500μmを超えると、膜厚のバラツキが大きく、また厚膜形成が困難となり好ましくない。
【0042】
また、セル15の深さ(版深)が20μm未満であると、厚膜形成が困難となり、200μmを超えるような版深としても、形成する塗膜の厚みは増加しない。さらに、比b/aが0.6未満であると、厚膜形成が困難となり、後述する発光層の形成において70nm以上の厚みの発光層の形成が困難となり好ましくない。
【0043】
アニロックス版部
次にアニロックス版部1について説明する。図2に示すように、アニロックス版部1は、インキ供給部7からのインキ30が充填される複数のセル2を有している。また各セル2は、ストライプ状の形状を有しており、各セル2の間には非セル部3が存在する。これらセル2および非セル部3は、成膜部位全体の面積(セル2および非セル部3全体の面積)に占めるセル2全体の面積の比率が55〜95%、好ましくは70〜95%となるよう構成されている。成膜部位全体の面積に占めるセル2全体の面積の比率を上述のように設定することにより、転写ロール24のフレキソ部23に対して十分な量のインキ30を渡すことができる。
セル2の幅(セル部長L)は、例えば10〜500μmの範囲内となっており、好ましくは30〜300μmの範囲内となっている。また、非セル部3の幅(非セル部長S)は、例えば2〜500μmの範囲内となっており、好ましくは5〜200μmの範囲内となっている。
【0044】
また、グラビア版部14のセル15の場合と同様に、各セル2における印刷方向(図の矢印Pが示す方向)の幅bと印刷方向に直交する方向での幅aの比b/aは、0.6以上となっている(図3(a)参照)。比b/aの上限には特に制限はない。また、グラビア版部14のセル15の場合と同様に、各セル2が延びている方向と印刷方向Pとが平行となっていなくてもよい(図3(b)(c)参照)。
【0045】
また、各セル2の深さ(版深)は、好ましくは20〜200μmの範囲内、さらに好ましくは30〜100μmの範囲内となっている。また、好ましくは、アニロックス版部1の各セル2の深さは、グラビア版部14の各セル15の深さと同一になっている。このように、セル2とセル15の深さを同一とすることにより、グラビア版部14とアニロックス版部1とを有するインキ版20をより容易に作製することができる。
【0046】
〔転写ロール〕
次に図4および図5(a)(b)を参照して、転写ロールについて詳細に説明する。ここで図4は、図1の印刷機10の転写ロール24のIV−IV線での断面図であり、図5(a)は、図4の転写ロール24をVa方向から見た場合を示す図であり、図5(b)は、図4の転写ロール24をVb方向から見た場合を示す図である。
上述のように、転写ロール24は、矢印Rで示す方向に回転する中心ロール25と、中心ロール25の周面に設けられたブランケット部27およびフレキソ部23とを有している。以下、ブランケット部27およびフレキソ部23についてそれぞれ詳細に説明する。
【0047】
ブランケット部
はじめにブランケット部27について説明する。上述のように、ブランケット部27は弾性材料からなっている。とりわけ好ましくは、ブランケット部27は、表面張力が35dyne/cm以上である樹脂フィルム27aからなっている。また図4および図5(a)に示すように、ブランケット部27を構成する樹脂フィルム27aは、転写ロール24の中心ロール25の周面に一体的に設けられている。また図4および図5(a)に示すように、ブランケット部27の外面27bは、ブランケット部27全域にわたって平坦になっている。この外面27bが、インキ版20のグラビア版部14からのインキ30を受理するインキ受理面となっており、外面27bには、グラビア版部14のセル15のパターンに応じた絵柄でインキ30が受理される。外面27bに受理されたインキ30は、その後、基材52上に転移される。
このように本実施の形態によれば、インキ版20のグラビア版部14と転写ロール24のブランケット部27との組合せにより、いわゆるグラビアオフセット印刷が行われる。
【0048】
ブランケット部27を構成する樹脂フィルム27aの表面張力が35dyne/cm未満であると、グラビア版部14からのインキ受理性が低下する。このため、基材52に均一な厚みでインキ30を転移させることが困難となる。なお、樹脂フィルム27aの表面張力(固体の表面張力[γs])は、例えば、自動接触角計(協和界面科学(株)製 DropMaster 700型)を用いることにより算出される。この場合、はじめに、2種以上の表面張力が判っている液体(標準物質)を使用して、自動接触角計にて接触角θを測定し、次に、γs(固体の表面張力)=γL(液体の表面張力)cosθ+γSL(固体の液体の表面張力)の式に基づいて樹脂フィルム27aの表面張力が算出される。
【0049】
使用する樹脂フィルム27aとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、易接着タイプのポリエチレンテレフタレートフィルム、コロナ処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、コロナ処理を施したポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、易接着タイプのポリエチレンナフタレートフィルム、ポリノルボルネンフィルム、メラミン焼付けポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルムを挙げることができる。樹脂フィルム27aの厚みは、例えば、5〜200μm、好ましくは10〜100μmの範囲とすることができる。樹脂フィルム27aの厚みが5μm未満であると、フィルム加工性、中心ロール25への装着性が低下して好ましくない。また、樹脂フィルム27aの厚みが200μmを超えると、硬度が高くなりすぎ、柔軟性が低下して好ましくない。
【0050】
なお、中心ロール25とブランケット部27の樹脂フィルム27aとの間にクッション層(図示せず)が介在されていてもよい。この場合、クッション層の硬度は、例えば、20〜80の範囲とすることができ、クッション層の厚みは、例えば、0.1〜30mmの範囲とすることができる。尚、上記の硬度は、JIS(K6253)デュロメータ硬さ試験によるTypeA硬度である。
【0051】
フレキソ部
次にフレキソ部23について説明する。上述のように、フレキソ部23は、転写ロール24の中心ロール25の周面に設けられている。この場合、フレキソ部23は、中心ロール25の周面に粘着材により固定されている。また上述のように、フレキソ版23は弾性材料から形成されており、また図4および図5(b)に示すように、フレキソ版23は、それぞれが転写ロール24の回転方向に沿って延びるとともに、ストライプ状に配置された複数の凸部23aと、各凸部23a間に形成された凹部23bとを有している。図4および図5(b)に示すように、凸部23aの上面23cが、インキ版20のアニックス版部1からのインキ30を受ける面となっている。このため、転写ロール24上のインキ30を基材52上に転移させる際、フレキソ部23からのインキ30は、フレキソ部23の凸部23aのパターンに応じた絵柄で転移される。
このように本実施の形態によれば、インキ版20のアニックス版部1と転写ロール24のフレキソ部23との組合せにより、いわゆるフレキソ印刷が行われる。
【0052】
弾性材料からなるフレキソ部23の作製方法が特に限られることはなく、例えば、水現像可能な樹脂材料を露光し、水現像し、硬膜処理などを施し、ベーキングすることにより作製することができる。水現像可能な樹脂材料としては、例えば、ポリビニルアルコールを用いることができる。
【0053】
また、中心ロール25周面上に粘着材により樹脂材料を設け、この樹脂材料をレーザ光で彫刻することによりフレキソ部23を作製してもよい。レーザ光による彫刻が可能な樹脂材料としては、例えば、無機多孔質体微粒子を含有する感光性樹脂を用いることができる。感光性樹脂の例としては、例えばエラストマー樹脂を挙げることができる。
【0054】
上述のように、転写ロール24は、ブランケット部27とフレキソ部23とをともに有している。この場合、上述のように、ブランケット部27によりグラビアオフセット印刷が行われ、フレキソ部23によりフレキソ印刷が行われる。
グラビアオフセット印刷においては、ブランケット部27の平坦な外面27bが全面にわたって基材52にインキ30を押しつける。このため、一般にグラビアオフセット印刷は、大面積の層を均一な厚みで形成する用途に適している。
一方、フレキソ印刷においては、フレキソ部23の凸部23aの上面23cのみが基材52にインキ30を押しつける。このため、一般にフレキソ印刷は、微細な層を均一な厚みで形成する用途に適している。
本実施の形態によれば、転写ロール24が、ブランケット部27とフレキソ部23とをともに有しており、このため、基材52上に、大面積かつ均一な厚みの層と、微細かつ均一な厚みの層と、を同時に形成することができる。
【0055】
上述のように、フレキソ部23は、微細な層を形成するために用いられる。ここで、微細な層を形成するためには、フレキソ部23を、大きなゴム硬度を有する弾性材料から構成することが好ましい。なぜなら、フレキソ部23を構成する弾性材料のゴム硬度が小さすぎると、フレキソ部23の凸部23aのインキ30を基材52に転移させる際、凸部23aが大きく弾性変形し、これによって、基材52に形成される層の面積が想定よりも広がることが考えられるからである。このため、好ましくは、フレキソ部23は、ブランケット部27の樹脂フィルム27aよりもゴム硬度が高い弾性材料から構成されている。
【0056】
上述のように、フレキソ部23のゴム硬度は、ブランケット部27のゴム硬度よりも高くなっている。例えば、フレキソ部のゴム硬度は83(JIS(K6253)デュロメータ硬さ試験によるTypeA硬度)となっており、ブランケット部27のゴム硬度は50〜80の範囲内となっている。この場合、フレキソ部23によるフレキソ印刷によって均一な厚みの層を形成するためには、フレキソ部23によるフレキソ印刷時の押し込み量を、ブランケット部27によるグラビアオフセット印刷時の押し込み量よりも小さくすることが好ましい。なぜなら、フレキソ部23によるフレキソ印刷時の押し込み量がブランケット部27によるグラビアオフセット印刷時の押し込み量と等しい場合、フレキソ部23が、押し込み量に対応するよう十分に弾性変形できないことが考えられるからである。フレキソ部23が、押し込み量に対応するよう十分に弾性変形できない場合、インキ版20または基材52に生じた振動がフレキソ部23の凸部23aにおいて十分に吸収されず、このことにより、形成される層の厚みにムラが生じることが考えられる。このため、フレキソ部23によるフレキソ印刷時の押し込み量を、ブランケット部27によるグラビアオフセット印刷時の押し込み量よりも小さくすることが好ましい。
【0057】
図4に示すように、転写ロール24において、フレキソ部23の凸部23aの上面23cは、ブランケット部27の外面27bからなるインキ受理面よりも転写ロール24内方(中心ロール25の方)にΔhだけ引っ込んでいる。このため、フレキソ部23によるフレキソ印刷時の押し込み量を、ブランケット部27によるグラビアオフセット印刷時の押し込み量よりも小さくすることができる。
また、Δhの引っ込みを設けることにより、転写ロール24上のインキ30を基材52上に転移させる際、ブランケット部27が基材52にインキ30を押し付ける力(グラビアオフセット印刷の印圧)が、フレキソ部23が基材52にインキ30を押し付ける力(フレキソ印刷の印圧)よりも大きくなっている。すなわち、ブランケット部27によって、大きな印圧で基材52上にインキ30を転移させることができ、同時に、フレキソ部23によって、ブランケット部27よりも小さな印圧で基材52上にインキ30を転移させることができる。
【0058】
Δhの範囲は、ブランケット部27またはフレキソ部23からのインキ30により基材52上に形成される各層の面積、厚み、厚みのばらつきの許容値、またはインキ30の特性などに応じて適宜選択されるが、好ましくは、上記Δhが0.1〜0.5mmの範囲内となっている。Δhをこのような範囲内で選択することにより、ブランケット部27によるグラビアオフセット印刷によって大面積かつ均一な厚みの層を形成し、同時に、フレキソ部23によるフレキソ印刷によって微細かつ均一な厚みの層を形成することができる。
【0059】
〔インキ〕
次に、本実施の形態における印刷機10で用いられるインキ30について詳細に説明する。インキ30は、溶媒と、溶媒中に溶解された固形分からなっている。インキ30としては、せん断速度100/秒における粘度(インキ温度23℃)が51〜200cPの範囲内となっているインキ30が用いられる。このように、本実施の形態における印刷機10で用いられるインキ30は、一般的なインキよりも粘度が小さくなっており、このため、一般的なインキを用いる場合に比べて、インキにより形成される層の高さにばらつきが生じやすい。この課題に対応するため、本実施の形態においては、上述のように、フレキソ部23の凸部23aの上面23cが、ブランケット部27の外面27bからなるインキ受理面よりも転写ロール24内方にΔhだけ引っ込むよう転写ロール24を構成している。このことにより、ブランケット部27によるグラビアオフセット印刷における印圧と、フレキソ部23によるフレキソ印刷における印圧とが、インキ30の粘度に応じて最適に設定される。
【0060】
なお、インキ30のせん断速度100/秒における粘度(インキ温度23℃)が5cP未満であると、インキダレが生じたり、所望の厚みの層の形成が困難となる。一方、200cPを超えると、インキ版20のグラビア版部14またはアニロックス版部1のセル目による凹凸が大きくなり、均一な厚みの層の形成が困難となる。尚、上記の粘度測定は、Physica社製の粘弾性測定装置MCR301型により、測定温度23℃で定常流測定モードにより行うものとする。また、インキ30において、せん断速度100/秒における粘度(インキ温度23℃)V1と、せん断速度1000/秒における粘度(インキ温度23℃)V2との比(V1/V2)が0.9〜1.5程度となっていることが好ましい。比(V1/V2)を上記の範囲内とすることにより、インキ30がニュートン流動を示すようになる。
【0061】
また、印刷機10で用いられるインキ30において、使用している溶媒の表面張力が37dyne/cm以下であり、かつ、沸点が165〜250℃の範囲内であることが好ましい。
なお、インキ30に使用している溶媒の表面張力が37dyne/cmを超えると、インキ版20から転写ロール24へのインキ30の受理性が低下することが考えられ、好ましくない。さらに、インキ30の溶媒の沸点が165℃未満であると、転写ロール24から基材52に転移されたインキ30が直ちに乾燥し、これによって、インキ30により形成される層にスジが発生しやすくなることが考えられる。また、インキ30の溶媒の沸点が250℃を超えると、インキ30の乾燥が困難となり、乾燥ゾーンでの乾燥による基材52等への影響が生じること、溶剤の残留を生じることなどが考えられ、好ましくない。尚、溶媒の表面張力の測定は、協和界面科学(株)製の表面張力計CBVP−Z型により、液温20℃で行うものとする。
【0062】
(インキの固形分)
インキ30に用いる溶媒および固形分は、印刷機10によって基材52上に形成する層に応じて適宜選択される。例えば、後述するように印刷機10によって有機発光デバイス51の発光素子層56の発光層58を形成する場合、発光層58用のインキ30の固形分として、下記のような色素系、金属錯体系、高分子系のものを挙げることができる。
(1)色素系発光材料
シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー等が挙げられる。
【0063】
(2)金属錯体系発光材料
アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポリフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、中心金属にAl、Zn、Be等、または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体が挙げられる。
【0064】
(3)高分子系発光材料
ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。
発光層用インキ30における上述の固形分の含有量は、好ましくは、1.5〜3.5重量%の範囲で設定される。
【0065】
(インキの溶媒)
また、印刷機10によって有機発光デバイス51の発光素子層56の発光層58を形成する場合、インキ30の溶媒として、表面張力が上記の範囲(37dyne/cm以下)を満足し、かつ、沸点が上記の範囲(165〜250℃)を満足するもの、例えば、クメン、アニソール、n−プロピルベンゼン、メシチレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、リモネン、p−シメン、o−ジクロロベンゼン、ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、安息香酸メチル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、アミルベンゼン、テトラリン、安息香酸エチル、フェニルヘキサン、シクロヘキシルベンゼン、安息香酸ブチル等を単独で使用することができる。また、混合溶媒を使用する場合には、混合比に応じた割合で計算した表面張力と沸点が上記の範囲を満足するものを使用する。例えば、表面張力がAdyne/cm、沸点がB℃の溶媒1と、表面張力がCdyne/cm、沸点がD℃の溶媒2とを3:7の重量比で混合した混合溶媒の場合、混合比に応じた割合で計算した表面張力[(A×3/10)+(C×7/10)]が上記の範囲(37dyne/cm以下)を満足し、かつ、混合比に応じた割合で計算した沸点[(B×3/10)+(D×7/10)]が上記の範囲(165〜250℃)を満足することが必要となる。したがって、混合溶媒を構成する個々の溶媒は、表面張力と沸点が上記の範囲から外れるものであってもよい。
【0066】
〔有機発光デバイス〕
次に図6乃至図8を参照して、本実施の形態における印刷機10により形成される発光層58を含む有機発光デバイス51について説明する。はじめに図6および図7(a)(b)を参照して、有機発光デバイス51を有機発光デバイス51の法線方向から見た場合の構造について説明する。図6は、本発明の実施の形態における有機発光デバイス51を示す平面図であり、図7(a)(b)は、本発明の実施の形態において、有機発光デバイス51が発光する様子を示す図である。
【0067】
図6および図7(a)(b)に示すように、有機発光デバイス51は、固定パターンが発光表示される固定パターン領域61と、可変パターンが発光表示される可変パターン領域62とを有している。このうち固定パターン領域61は、図6および図7(a)(b)に示すように、「A」、「B」、「C」という文字を表示するよう発光している3つの第1発光領域63を含んでいる。一方、可変パターン領域62は、ドット状に縦横に配列された多数の第2発光領域64を含んでいる。なお図6および図7(a)(b)において、黒塗りにされている第1発光領域63または第2発光領域64は、当該第1発光領域63または第2発光領域64が発光状態であることを示している。一方、白塗りにされている第1発光領域63または第2発光領域64は、当該第1発光領域63または第2発光領域64が非発光状態であることを示している。
【0068】
図6および図7(a)(b)からわかるように、第1発光領域63の面積は、第2発光領域64の面積よりも大きくなっている。例えば、第1発光領域63の面積は少なくとも1mm以上となっており、第2発光領域64の面積は1mmよりも小さくなっている。
このように、固定パターン領域61における第1発光領域63の面積を1mm以上とすることにより、有機発光デバイス51が広告用ディスプレイとして用いられる場合の訴求効果を大きくすることができる。
また、可変パターン領域62における第2発光領域64の面積を1mmよりも小さくすることにより、可変パターン領域62において任意の文字、図形などを精密に表示することができる。このことにより、有機発光デバイス51が広告用ディスプレイとして用いられる場合の訴求効果を大きくすることができる。
すなわち、面積の異なる二種類の発光領域63,64を設けることにより、有機発光デバイスが広告用ディスプレイとして用いられる場合の訴求効果や誘引性を向上させることができる。
また、後述するように、第1発光領域63および第2発光領域64における発光層58は、それぞれ本実施の形態による印刷機10から形成されている。このため、第1発光領域63と第2発光領域64の双方において、発光素子層56の発光時の輝度及び効率が高い、高品質な表示を実現することができる。このことにより、有機発光デバイスが広告用ディスプレイとして用いられる場合の訴求効果や誘引性をさらに向上させることができる。
【0069】
なお本実施の形態において、第1発光領域63の発光層58は、インキ版20のグラビア版部14と転写ロール24のブランケット部27との組合せによるグラビアオフセット印刷によって形成される。また、第2発光領域64における発光層58は、インキ版20のアニックス版部1と転写ロール24のフレキソ部23との組合せによるフレキソ印刷によって形成される。
上述のように、フレキソ部23のゴム硬度はブランケット部27のゴム硬度よりも高くなっており、かつ、フレキソ部23によるフレキソ印刷時の押し込み量はブランケット部27によるグラビアオフセット印刷時の押し込み量よりも小さくなっている。このため、第2発光領域64の面積を1mmよりも小さくすることが可能となっている。
一方、ブランケット部27によるグラビアオフセット印刷においては、上述のように、フレキソ印刷の場合よりも押し込み量が大きくなっている。このため、ブランケット部27によるグラビアオフセット印刷は、1mm以上の面積を有する第1発光領域63を形成するのに適している。
【0070】
次に図7(a)(b)を参照して、有機発光デバイス51が発光する様子について説明する。
図7(a)に示す有機発光デバイス51において、固定パターン領域61の3つの第1発光領域63は全て発光状態となっており、これによって「ABC」という文字が大きく表示されている。一方、可変パターン領域62においては、所定の第2発光領域64のみが発光状態となっており、これによって「123」という数字が表示されている。
図7(b)に示す有機発光デバイス51においても、固定パターン領域61の3つの第1発光領域63は全て発光状態となっており、これによって「ABC」という文字が大きく表示されている。一方、可変パターン領域62においては、図7(a)の場合とは異なる所定の第2発光領域64のみが発光状態となっており、これによって「234」という数字が表示されている。
このように、可変パターン領域62においては、発光状態とする第2発光領域64を任意に選択することにより、任意の文字、記号、図形などが表示される。また表示の内容を時間に応じて変化させることもできる。
【0071】
次に、有機発光デバイス51の層構成について説明する。なお有機発光デバイス51の固定パターン領域61と可変パターン領域62とは、後述する透明電極層53、絶縁層54または発光層58のパターンが異なるのみであり、層構成は略同一である。ここでは、可変パターン領域62における層構成について説明する。
【0072】
図8は、図6の有機発光デバイス51の可変パターン領域62におけるVIII−VIII線での断面図である。図8に示すように、有機発光デバイス51は、透明基材52と、この透明基材52上に矢印c方向に延設さられた帯状パターンの複数の透明電極層(第1電極層)53と、ストライプ形状の開口部55を有する絶縁層54と、開口部55内の透明電極層53を被覆するように配設された発光素子層56と、この発光素子層56上に透明電極層53と直交するように矢印d方向に延設された帯状パターンの複数の電極層60(第2電極層)とを備えている。
上記の絶縁層54の開口部55は、矢印c方向に沿ったストライプ形状の開口部であり、各透明電極層53の所望の部位を上方に露出させるよう、各透明電極層53上に位置している。なお図6および図8から分かるように、各開口部55は、印刷方向Pと直交する方向に延びている。
【0073】
また、発光素子層56は、絶縁層54と各開口部55内の透明電極層53とを被覆するように配設された正孔注入層57と、正孔注入層57上に所定パターンで配設された発光層58と、正孔注入層57および発光層58を被覆するように配設された電子注入層59と、からなる。なお発光層58は、図9(c)を参照して後述するように、帯状パターンの赤色発光層58R、緑色発光層58G、青色発光層58Bが、この順で矢印c方向に繰り返し配列されているものであってもよい。この場合、印刷機10において、各発光層58R,58G,58Bに対応するインキとして、赤色発光層用インキ30R、緑色発光層用インキ30G、青色発光層用インキ30Bが用いられる。
尚、電子注入層59は、絶縁層54を覆うように形成されているが、電極層60の下層となる領域のみに形成されたものであってもよい。
【0074】
このような有機発光デバイス51は、帯状パターンの透明電極層53と電極層60とが交差する領域であって、かつ開口部55内に発光素子層56が形成されている領域が第1発光領域63または第2発光領域64となるパッシブマトリックス型である。また発光層58(赤色発光層58R、緑色発光層58G、青色発光層58B)は、後述するように、印刷機10により形成される。このため、発光層58の厚みを均一に70nm以上とすることができ、これによって、発光素子層56の発光時の輝度及び効率が高く、高品質な表示が可能となる。また上述のように、発光素子層56の各層57,58,59は、電極層60の下層となる領域において、それぞれ絶縁層54と各開口部55内の透明電極層53とを被覆するように配設されている。このため、発光素子層56を挟持する位置に存在する透明電極層53と電極層60とが短絡するのをより確実に防ぐことができ、これによって信頼性を更に高くすることができる。
【0075】
次に、有機発光デバイス51の各構成部材について詳細に説明する。
【0076】
(透明基材)
はじめに透明基材52について詳述する。透明基材52は、ボトムエミッション方式の場合、観察者側の表面に設けられ、発光層58からの光を観察者が容易に視認することができる程度の透明性を有する材料からなる。尚、発光層58からの光を取り出す方向を反対方向とする場合(トップエミッション方式の場合)には、透明基板52に替えて不透明な基板を使用してもよい。
透明基板52(これに替わる不透明な基板も含む)としては、ガラス材料、樹脂材料、または、これらの複合材料からなるもの、例えば、ガラス板に保護プラスチックフィルムもしくは保護プラスチック層を設けたもの等が用いられる。
【0077】
透明基板52を構成する樹脂材料、保護プラスチック材料としては、例えば、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、アクリロニトリル−スチレン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、非晶質ポリオレフィン等が挙げられる。この他の樹脂材料であっても、有機発光デバイス用として使用できる高分子材料であれば、使用可能である。
透明基板52の厚さは、通常、50μm〜1.1mm程度である。
【0078】
このような透明基板52は、その用途にもよるが、水蒸気や酸素等のガスバリアー性の良好なものであれば更に好ましい。また、透明基板52に、水蒸気や酸素等のガスバリアー層を形成してもよい。このようなガスバリアー層としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機酸化物をスパッタリング法や真空蒸着法等の物理蒸着法により形成したものを用いることができる。
【0079】
(透明電極層)
次に、透明電極層53について詳述する。透明電極層53は、図5に示す例では陽極であり、発光層58に正電荷(正孔)を注入するために、正孔注入層57に隣接して配設されている。尚、透明電極層53は陰極であってもよく、この場合、発光素子層56を構成する正孔注入層57と電子注入層59とが入れ替わって配設される。
【0080】
透明電極層53は、通常の有機発光デバイスに使用されるものであれば特に限定されず、金属、合金、これらの混合物等を使用することができ、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛、酸化第二錫、または金等の薄膜電極材料を挙げることができる。中でも、正孔が注入し易いように、仕事関数の大きい(4eV以上)透明、または半透明材料であるITO、IZO、酸化インジウム、金が好ましい。
透明電極層53は、シート抵抗が数百Ω/□以下が好ましく、材質にもよるが、透明電極層53の厚みは、例えば、0.005〜1μm程度とすることができる。
この透明電極層53は、周辺の端子部から中央の画素領域まで所望のパターン形状で配設されている。このようなパターン形状の透明電極層53は、スパッタリング法や真空蒸着法等においてメタルマスクを用いることにより形成され、または、全面に透明電極層用の材料を成膜した後、感光性レジストをマスクとしてエッチングすることにより形成される。
【0081】
絶縁層54は、各透明電極層53上に位置するストライプ形状の開口部55を有している。この絶縁層54は、例えば、はじめに透明電極層53を覆うように全面に感光性樹脂材料を塗布し、次にパターン露光、現像を行うことにより形成される。または、熱硬化性樹脂材料を用いて絶縁層54を形成してもよい。
後述するように、絶縁層54が形成された部分は非発光領域となっている。絶縁層54の厚みは、絶縁層54を構成する樹脂固有の絶縁抵抗に応じて適宜設定できるが、例えば、0.05〜5.0μm程度とすることができる。また、上述の樹脂材料にカーボンブラックや、チタン窒化物、チタン酸化物、チタン酸窒化物等のチタン系黒色顔料の1種、あるいは2種以上の遮光性微粒子を混合することにより、ブラックマトリックスを形成して絶縁層54としてもよい。
尚、このような絶縁層54の形状は、上述の形状に限定されるものではない。
【0082】
(発光素子層)
次に発光素子層56について詳述する。発光素子層56は、図8に示す例では、透明電極層53側から正孔注入層57、発光層58、および電子注入層59が積層された構造となっている。しかしながら、このような構造に限られることはなく、正孔注入層57と発光層58とからなる構造、発光層58と電子注入層59からなる構造、さらに、正孔注入層57と発光層58との間に正孔輸送層(図示せず)を介在させた構造、発光層58と電子注入層59との間に電子輸送層(図示せず)を介在させた構造等としてもよい。
また、発光波長を調整し、または発光効率を向上させる等の目的で、上記の各層に適当な材料をドーピングすることもできる。
以下、発光素子層56の各層について詳細に説明する。
【0083】
発光層
発光素子層56の発光層58は、後に図9(c)に示す例では、赤色発光層58R、緑色発光層58G、青色発光層58Bからなっている。しかしながら、このような構造に限られることはなく、有機発光デバイスの使用目的等に応じて、所望の発光色(例えば、黄色、水色、オレンジ色)である発光層を単独で設けてもよく、または、赤色発光、緑色発光、青色発光以外の他の複数の発光色の所望の組み合わせなどを設けてもよい。
発光層58に用いる有機発光材料としては、上述のインキ30の固形分の説明で挙げた材料を用いることができる。
【0084】
正孔注入層
発光素子層56の正孔注入層57は、上述のように、絶縁層54と各開口部55内の透明電極層53とを被覆するように配設されている。正孔注入層57を形成する正孔注入材料としては、例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、ポリシラン系、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー等の誘電性高分子オリゴマー等、を挙げることができる。
【0085】
さらに、正孔注入材料として、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物を挙げることもできる。上記のポリフィリン化合物としては、ポリフィン、1,10,15,20−テトラフェニル−21H、23H−ポリフィン銅(II)、アルミニウムフタロシアニンクロリド、銅オクタメチルフタロシアニン等を挙げることができる。また、芳香族第三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1′−ビフェニル]−4,4′−ジアミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−[4(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン、3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン、4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル、4,4′,4″−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン等を挙げることができる。
【0086】
上述の材料から形成される正孔注入層57は、例えば、画像表示領域に相当する開口部を備えたマスク(周辺部の透明電極層53からなる電極端子への成膜を防止するためのマスク)を介して真空蒸着法等により成膜して形成される。また、スクリーン印刷法等の印刷方法により正孔注入層57を形成することもできる。
【0087】
正孔輸送層
正孔輸送層を形成する材料としては、例えば、オキサジアゾール系、オキサゾール系、トリアゾール系、チアゾール系、トリフェニルメタン系、スチリル系、ピラゾリン系、ヒドラゾン系、芳香族アミン系、カルバゾール系、ポリビニルカルバゾール系、スチルベン系、エナミン系、アジン系、トリフェニルアミン系、ブタジエン系、多環芳香族化合物系、スチルベン二量体等の材料が挙げられる。
また、π共役系高分子として、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリ(P−フェニレン)、ポリ(P−フェニレンスルフィド)、ポリ(P−フェニレンオキシド)、ポリ(1,6−ヘプタジエン)、ポリ(P−フェニレンビニレン)、ポリ(2,5−チエニレン)、ポリ(2,5−ピロール)、ポリ(m−フェニレンスルフィド)、ポリ(4,4′−ビフェニレン)等が挙げられる。
また、電荷移動高分子錯体として、ポリスチレン・AgC104、ポリビニルナフタレン・TCNE、ポリビニルナフタレン・P−CA、ポリビニルナフタレン・DDQ、ポリビニルメシチレン・TCNE、ポリナフタアセチレン・TCNE、ポリビニルアントラセン・Br2、ポリビニルアントラセン・I2、ポリビニルアントラセン・TNB、ポリジメチルアミノスチレン・CA、ポリビニルイミダゾール・CQ、ポリ−P−フェニレン・I2、ポリ−1−ビニルピリジン・I2、ポリ−4−ビニルピリジン・I2、ポリ−P−1−フェニレン・I2、ポリビニルピリジウム・TCNQ等が挙げられ、さらに、電荷移動低分子錯体として、TCNQ−TTF等が、高分子金属錯体としては、ポリ銅フタロシアニン等が挙げられる。
正孔輸送材料としては、イオン化ポテンシャルの小さい材料が好ましく、特に、ブタジエン系、エナミン系、ヒドラゾン系、トリフェニルアミン系が好ましい。
【0088】
電子注入層
電子注入層59を形成する材料としては、例えば、カルシウム、バリウム、アルミリチウム、フッ化リチウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ニトロ置換フルオレン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、上記のオキサジアゾール環の酸素原子をイオウ原子に置換したチアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有したキノキサリン誘導体、トリス(8−キノリノール)アルミニウム等の8−キノリノール誘導体の金属錯体、フタロシアニン、金属フタロシアニン、ジスチリルピラジン誘導体等を挙げることができる。このような材料から形成される電子注入層59は、例えば、画像表示領域に相当する開口部を備えたマスク(周辺部の透明電極層53からなる電極端子への成膜を防止するためのマスク)を介して真空蒸着法等により成膜して形成される。また、スクリーン印刷法等の印刷方法により電子注入層59を形成することもできる。
【0089】
上述の発光素子層56の各層において、その厚みが特に制限されることはなく、例えば、10〜1000nm程度とすることができる。また、発光素子層56の各層にドーピングされる材料の例として、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポリフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン等の材料を挙げることができる。
【0090】
(電極層)
次に電極層60について詳述する。電極層60は、図8に示す例では陰極であり、発光層58に負電荷(電子)を注入するために、電子注入層59に隣接して配設されている。尚、電極層60は陽極であってもよく、この場合、発光素子層56を構成する正孔注入層57と電子注入層59とが入れ替わって配設される。
このような電極層60の材料としては、通常の有機発光デバイスに使用されるものであれば特に限定されず、上述の透明電極層53と同様に、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛、酸化第二錫、または金等の薄膜電極材料、さらに、マグネシウム合金(例えば、MgAg等)、アルミニウムまたはその合金(AlLi、AlCa、AlMg等)、銀等を挙げることができる。中でも、電子が注入し易いように仕事関数の小さい(4eV以下)マグネシウム合金、アルミニウム、銀等が好ましい。このような電極層60はシート抵抗が数百Ω/□以下が好ましく、このため、電極層60の厚みは、例えば、0.005〜0.5μm程度とすることができる。
上記の電極層60は、上述の電極材料を用いてマスクを介したスパッタリング法や真空蒸着法等の方法によりパターン形状に成膜して形成することができる。
【0091】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。ここでは、発光層58を含む有機発光デバイス51の形成方法について、図1および図9を参照して説明する。
【0092】
はじめに、図9(a)に示すように、透明基材52上に、所望のパターンを有する透明電極層53を形成する。透明電極層53を形成する方法が特に限られることはなく、メタルマスクを用いたスパッタリング法や真空蒸着法等によって所望のパターンを有する透明電極層53を形成する方法、または、透明電極層用の材料を透明基材52上の全面にわたって成膜した後、感光性レジストをマスクとしてエッチングすることによって所望のパターンを有する透明電極層53を形成する方法などが適宜選択される。
【0093】
次に、図9(b)に示すように、透明基材52上に、透明電極層53の所望の部位を上方に露出させる複数の開口部55を有する絶縁層54を形成する。この場合、はじめに、透明電極層53を覆うように全面に感光性樹脂材料を塗布し、その後、塗布された感光性樹脂材料に対してパターン露光、現像を行う。このようにして、複数の開口部55を有する絶縁層54が形成される。
【0094】
その後、図9(c)に示すように、開口部55内の透明電極層53上および絶縁層54を被覆するよう、正孔注入層57を形成する。正孔注入層57を形成する方法が特に限られることはなく、例えば、固定パターン領域61および可変パターン領域62に相当する開口部を備えたフォトマスクを介して真空蒸着法等により成膜して形成することができる。
【0095】
次に、図9(d)に示すように、正孔注入層57上に発光層58を形成する。発光層58は、上述の印刷機10を用いて形成される。
【0096】
以下、印刷機10を用いて発光層58を形成する方法について詳述する。はじめに、発光層58の材料となる有機発光材料を含有するインキ30を、ドクター8を用いて、インキ版20の、グラビア版部14のセル15およびアニロックス版部1のセル2に充填させる。次に、インキ版20上で転写ロール24を走行させ、これによって、インキ版20のグラビア版部14のセル15から転写ロール24のブランケット部27へインキ30を受理させるとともに、インキ版20のアニロックス版部1のセル2から転写ロール24のフレキソ部23へインキ30を受けさせる。その後、転写ロール24を基材定盤6に向って走行させる。
【0097】
次に、基材定盤6上の透明基材52上で転写ロール24を走行させる。これによって、固定パターン領域61において、ブランケット部27により所定の印圧で、正孔注入層57上にインキ30がグラビアオフセット印刷される。同時に、可変パターン領域62において、フレキソ部23により所定の印圧で、正孔注入層57上にインキ30が図9(d)に示す所定のパターンでフレキソ印刷される。なお、このとき、赤色発光層用インキ30R、緑色発光層用インキ30G、青色発光層用インキ30Bが順に配列されるように印刷が行われてもよい。
その後、転移されたインキ30を適宜乾燥させることにより正孔注入層57上に発光層58(赤色発光層58R、緑色発光層58G、青色発光層58B)が形成される。
【0098】
その後、図9(e)に示すように、正孔注入層57および発光層58を被覆するよう、電子注入層59を形成する。電子注入層59を形成する方法が特に限られることはなく、例えば、正孔注入層57を形成する場合と同様に、固定パターン領域61および可変パターン領域62に相当する開口部を備えたフォトマスクを介して真空蒸着法等により成膜して形成することができる。
【0099】
最後に、発光素子層56のうち所望の開口部55内に位置する発光素子層56に接続されるよう、電極層60を所定のパターン形状で形成する。このようにして、図8に示す有機発光デバイス51が形成される。
【0100】
このようにして形成された有機発光デバイス51において、開口部55内に発光素子層56が形成されている領域であって、かつ透明電極層53と電極層60との間に発光素子層56が形成されている領域により、発光領域が画定される。このようにして画定される発光領域は、透明電極層53と電極層60との間に電圧を印加することによって光を放出する領域である。ここで、図9(f)に示すように、有機発光デバイス51の固定パターン領域61における発光領域が第1発光領域63となっており、可変パターン領域63における発光領域が第2発光領域64となっている。また上述のように、第1発光領域63における発光層58は、インキ版20のグラビア版部14と転写ロール24のブランケット部27との組合せによるグラビアオフセット印刷によって形成される。また、第2発光領域64における発光層58は、インキ版20のアニックス版部1と転写ロール24のフレキソ部23との組合せによるフレキソ印刷によって形成される。
【0101】
ところで、本実施の形態によれば、上述のとおり、転写ロール24において、フレキソ部23の凸部23aの上面23cは、ブランケット部27の外面27bからなるインキ受理面よりも転写ロール24内方にΔhだけ引っ込んでいる。このため、印刷機10によって発光層58を形成する際、ブランケット部27によるグラビアオフセット印刷における印圧が、フレキソ部23によるフレキソ印圧の印圧よりも大きくなっている。このため、ブランケット部27によるグラビアオフセット印刷によって大面積かつ均一な厚みの発光層58を形成し、同時に、フレキソ部23によるフレキソ印刷によって微細かつ均一な厚みの発光層58を形成することができる。このことにより、第1発光領域63と第2発光領域64の双方において、発光素子層56の発光時の輝度及び効率が高い、高品質な表示を実現することができる。
【0102】
なお、本実施の形態において、開口部55内に発光素子層56が形成されている領域であって、かつ透明電極層53と電極層60との間に発光素子層56が形成されている領域により発光領域が画定される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、絶縁層54の開口部55により発光領域が画定されていてもよい。
【0103】
例えば、図10(a)に示すようなパターンの開口部55を有する絶縁層54が透明電極層53上に形成される場合を考える。ここで、固定パターン領域61が形成される部分における開口部が第1開口部55Aとなっており、可変パターン領域が形成される部分における開口部が第2開口部55Bとなっている。この場合、絶縁層54が形成された後、図10(b)に示すように、少なくとも開口部55A,55Bを覆うように正孔注入層57、発光層58および電子注入層59が順次形成される。次に、図10(c)に示すように、電子注入層59上に電極層60が形成される。
【0104】
ここで有機発光デバイス51を上方から見た場合、絶縁層54が形成されている領域においては、透明電極層53と電極層60との間の電流の流れが絶縁層54により遮断される。このため、絶縁層54が形成されている領域が非発光領域となり、絶縁層54の開口部55A,55Bが形成されている領域が発光領域となる。すなわち、図10(a)(c)に示すように、第1開口部55Aにより、固定パターン領域61の第1発光領域63が画定され、第2開口部55Bにより、可変パターン領域62の第2発光領域64が画定される。
【0105】
このとき、第1開口部55Aの面積は、少なくとも1mm以上となっており、第2開口部55Bの面積は、1mmよりも小さくなっている。このため、固定パターン領域61における第1発光領域63の面積を少なくとも1mm以上とし、可変パターン領域62における第2発光領域64の面積を1mmよりも小さくすることができる。すなわち、各開口部55A,55Bの面積を適宜設定することにより、各発光領域63,64の面積を任意に設定することができる。
【0106】
〔印刷機の変形例〕
印刷機の変形例1
なお印刷機10において、インキ版20におけるグラビア版部14またはアニロックス版部1の配置が特に限られることはなく、同様に、転写ロール24におけるブランケット部27またはフレキソ部23の配置が特に限られることもない。例えば、図11に示すように、転写ロール24において、ブランケット部27とフレキソ部23とが転写ロール24の回転方向Rに沿って並ぶよう配置されていてもよい。この場合、転写ロール24のブランケット部27およびフレキソ部23に対応するよう、インキ版20において、グラビア版部14とアニロックス版部1とが印刷方向Pに沿って並ぶよう配置される。
【0107】
印刷機の変形例2
また本実施の形態において、転写ロール24との間で基材52を挟持するバックアップ体が、平板状の印刷定盤6からなる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、図12に示すように、バックアップ体が、転写ロール24との間で基材52を挟持するロール状の圧胴6aからなっていてもよい。この場合、はじめに、インキ供給部7によりインキ版20の上面にインキ30が供給され、次にドクター8により、インキ版20の上面における不要なインキ30が掻き取られる。その後、インキ版20の上面のインキ30が転写ロール24に受理される。次に、転写ロール24のインキ30が、圧胴6a上を搬送されている基材52上に転移される。
【0108】
印刷機の変形例3
また本実施の形態において、インキ版が、平板状の形状を有するインキ版20からなる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、図13に示すように、インキ版が、ロール状の形状を有するインキ版胴20aからなっていてもよい。この場合、インキ版胴20aの外周面には、平板状のインキ版20の場合と同様に、複数のセル15を有するグラビア版部14と、複数のセル2を有するアニロックス版部1とが形成されている。また平板状のインキ版20の場合と同様に、インキ版胴20aのグラビア版部14のインキ30は転写ロール24のブランケット部27によって受理され、インキ版胴20aのアニロックス版部1のインキ30は転写ロール24のフレキソ部23によって受けられる。
【0109】
ロール状のインキ版胴20aを備えた印刷機10においては、図13に示すように、はじめに、インキパン7a(インキ供給部)によりインキ版胴20aの外周面にインキ30が供給され、次にドクター8により、インキ版胴20aの外周面における不要なインキ30が掻き取られる。その後、インキ版20の上面のインキ30が転写ロール24によって受理される。次に、転写ロール24のインキ30が、圧胴6a上を搬送されている基材52上に転移される。
【0110】
印刷機の変形例4
また印刷機10において、転写ロール24のブランケット部27を構成する樹脂フィルム27aが、転写ロール24の中心ロール25の周面に一体的に設けられている例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、図14に示すように、樹脂フィルム27aが、中心ロール25に巻き付くように中心ロール25の回転とともに搬送されるものであってもよい。この場合、インキ版胴20aからインキ30を受理する位置(矢印eで示される位置)と、インキ30を基材52に転移させる位置(矢印fで示される位置)と、を少なくとも含む範囲において、中心ロール25に樹脂フィルム27aが巻き付けられる。
【0111】
〔インキ版の変形例〕
また、本実施の形態のインキ版20において、グラビア版部14のセルが、ストライプ状の形状を有するセル15からなる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、グラビア版部14のセル15が、グラビア版部14に格子状に配置されたセル15からなっていてもよい。同様に、アニロックス版部1のセル2が、アニロックス版部1に格子状に配置されたセル2からなっていてもよい。
【0112】
例えば、図15に示すように、グラビア版部14のセル15が、複数に区画された形状(図15に示す例では、各セル15は正方形)を有していてもよい。この場合、各セル15の間には非セル部16が存在する。また、アニロックス版部1のセル2についても同様に、図15に示すように、アニロックス版部1のセル2が、複数に区画された形状(図15に示す例では、各セル2は正方形)を有していてもよい。また図16に示すように、各セル2,15が菱形の形状を有していてもよい。さらに図17に示すように、各セル2,15が楕円形の形状を有していてもよい。
【0113】
図15〜図17に示す各セル2,15において、各セル2,15(斜線を付した部位)における印刷方向(図の矢印Pが示す方向)の最大幅bと印刷方向に直交する方向での最大幅aの比b/aが好ましくは0.6以上であり、上限には特に制限はない。また、成膜部位に占める総セル面積が好ましくは55〜95%の範囲内であり、非セル部3,16の幅(非セル部長S,S)が2〜500μm、好ましくは10〜200μmの範囲内であり、各セル2,15の深さ(版深)が15〜100μm、好ましくは15〜80μmの範囲内である。
【0114】
上記の比b/aが0.6未満であると、厚膜形成が困難となり、発光層58の形成において70nm以上の厚みの発光層58の形成が困難となり好ましくない。また、成膜部位に占める総セル面積が55%未満であると、厚膜形成が困難となり、95%を超えると、膜厚のバラツキが大きくなり好ましくない。また、非セル部3,16の幅(非セル部長S,S)が2μm未満であると、各セル2,15の形成が困難であり、500μmを超えると、膜厚のバラツキが大きくなり、かつ厚膜形成が困難となり好ましくない。また、各セル2,15の深さ(版深)が15μm未満であると、厚膜形成が困難となり、100μmを超えるような版深としても、形成する塗膜の厚みは増加しない。
尚、上述の各セル2,15の形状は例示であり、上述の形態に限定されるものではない。
【0115】
〔転写ロールの変形例〕
また、本実施の形態において、転写ロール24が、軸心となる中心ロール25と、中心ロール25の外周上に設けられたフレキソ部23およびブランケット部27とからなっている例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、図18に示すように、転写ロール24が、中心ロール25と、中心ロール25を取り囲む円筒状のプラスチックスリーブ26と、プラスチックスリーブ26の外周上に設けられたフレキソ部23およびブランケット部27とからなっていてもよい。この場合、プラスチックスリーブ26を中心ロール25上に固定する方法が特に限られることはない。例えば、プラスチックスリーブ26が、中心ロール25内に配置されたエアークランプ機構(図示せず)によって中心ロール25上に固定されていてもよく、または、プラスチックスリーブ26が、中心ロール25内に配置された吸着機構(図示せず)によって中心ロール25上に固定されていてもよい。
【0116】
〔有機発光デバイスの変形例〕
また、本実施の形態において、有機発光デバイスが、帯状パターンの透明電極層53と電極層60とが交差する部位が発光領域となるパッシブマトリックス型の有機発光デバイス51である例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、有機発光デバイスがアクティブマトリックス型であってもよい。
【0117】
図19および図20は、アクティブマトリックス型の本発明の有機発光デバイスの一例を説明するための図である。図19は電極配線パターンを示す図であり、透明基材(図示せず)上に形成された電極配線パターン73は、信号線73A、走査線73B、TFT(薄膜トランジスタ)73C、透明電極(画素電極)層73Dからなる。また、これらの電極配線パターン73を被覆するように絶縁層74(図19で斜線を付した部位)が形成されており、この絶縁層74は、各透明電極層73D上に位置する開口部75を備えている。また、絶縁層74には、各開口部75内の透明電極層73Dを被覆するように発光素子層(図示せず)が形成され、この発光素子層上に電極(共通電極)層(図示せず)が配設される。
【0118】
上記の発光素子層は、絶縁層74と各開口部75内の透明電極層73Dとを被覆するように配設された正孔注入層と、開口部75内の透明電極層73D(正孔注入層)を被覆するように各開口部75に配設された複数の発光層と、これらを被覆するように配設された電子注入層と、から構成することができる。図20は、絶縁層74の開口部75と発光層との関係を示す図である。図20では、発光層は、開口部75よりも大きい所望のパターン形状の赤色発光層78R、緑色発光層78G、青色発光層78Bからなっている。
【0119】
このようなアクティブマトリックス型の本発明の有機発光デバイスも、発光層(赤色発光層78R、緑色発光層78G、青色発光層78B)は、本発明の発光層形成方法により形成されたものであり、このため、発光層(赤色発光層78R、緑色発光層78G、青色発光層78B)の厚みのばらつきが小さくなっている。このことにより、発光素子層の発光時の輝度、効率の高い、高品質の表示が可能である。また、開口部75の周縁の絶縁層74に乗り上げるように発光素子層を形成した場合、発光素子層を挟持する位置に存在する透明電極層73Dと電極層(図示せず)との短絡を生じることがなく、信頼性が更に高いものとなる。
尚、上記の発光素子層は、上述の実施形態と同様に、正孔注入層と発光層とからなる構造、発光層と電子注入層とからなる構造、さらに、正孔注入層と発光層との間に正孔輸送層を介在させた構造、発光層と電子注入層との間に電子輸送層を介在させた構造等とすることができる。
【実施例】
【0120】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0121】
[実施例1]
本発明の印刷機10を用いて、基材52上にインキ30を印刷した。
インキ30としては、せん断速度100/秒における粘度(インキ温度23℃)が80cpであり、沸点が186℃であるインキを用いた。インキ30の固形分の重量%を2.5重量%、インキ30の溶媒の表面張力を32dyne/cmとした。
転写ロール24としては、フレキソ部23の凸部23aの上面23cの高さと、ブランケット部27の外面27bの高さとの差Δhが−0.1〜+0.8mmまで0.1mm刻みで異なっている計10種類の転写ロールを用いた。なお、Δhの値が正の値であることは、フレキソ部23の凸部23aの上面23cがブランケット部27の外面27bよりも内方に引っ込んでいることを意味している。
【0122】
上述の10種類の転写ロール24を用いて、計10通りの印刷を行った。各印刷において、転写ロール24のフレキソ部23およびブランケット部27によってそれぞれ形成された印刷物について、その厚み(膜厚)を複数の点で測定した。次に、複数の点で測定された膜厚の平均値(平均膜厚)、最大値(膜厚max)、最小値(膜厚min)を算出した。その後、当該平均値、最大値および最小値に基づき、膜厚変動率(%)を算出した。なお膜厚変動率(%)は、具体的には以下の式により導かれる。
膜厚変動率(%)={(膜厚max−膜厚min)/平均膜厚}×100
【0123】
印刷機10の転写ロール24におけるΔhを−0.1〜+0.8mmまで0.1mm刻みで変更して、印刷物30aの膜厚変動率を評価した結果を表1に示す。なお表1において、膜厚変動率が5%以内となっている場合を「OK」、膜厚変動率が5%よりも大きくなっている場合を「NG」と判定している。
【表1】

【0124】
表1に示されているように、Δhが0.1〜0.5mmの範囲内となっている場合に、フレキソ部23およびブランケット部27によって基材52上に形成された印刷物の膜厚変動率がそれぞれ5%以内となっていた。とりわけ、Δhが0.2〜0.4mmの範囲内となっている場合に、基材52上に形成される印刷物の膜厚変動率が4%以内となっており、更に好ましいといえる。
【符号の説明】
【0125】
1…アニロックス版部
2…セル
3…非セル部
5…フレーム
6…基材定盤
6a…圧胴
7…インキ供給部
7a…インキパン
8…ドクターシステム
8a…第1ドクター
8b…第2ドクター
10…印刷機
14…グラビア版部
15…セル
16…非セル部
20…インキ版
23…フレキソ部
23a…凸部
23b…凹部
23c…上面
24…転写ロール
25…中心ロール
26…プラスチックスリーブ
27…ブランケット部
27a…樹脂フィルム
27b…外面
30…インキ
51…有機発光デバイス
52…透明基材
53…透明電極層
54,74…絶縁層
55,75…開口部
56…発光素子層
57…正孔注入層
57a…正孔輸送層
58,58R,58G,58B,78R,78G,78G…発光層
59…電子注入層
60…電極層
61…固定パターン領域
62…可変パターン領域
63…第1発光領域
64…第2発光領域
73…電極配線パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
前記フレーム上に配置され、その上面にグラビア版部とアニックス版部とを有する平板状のインキ版と、
前記インキ版のグラビア版部およびアニックス版部にインキを供給するインキ供給部と、
前記インキ版のグラビア版部およびアニックス版部に当接して前記インキを受理する転写ロールと、
前記転写ロールとの間で基材を挟持して、転写ロール上のインキを基材上に転移させるバックアップ体と、を備え、
前記転写ロールは、中心ロールと、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理するとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるブランケット部と、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のアニックス版部からインキを受けるとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるフレキソ部と、を有し、
前記ブランケット部は、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理するインキ受理面を含み、
前記フレキソ部は、前記インキ版のアニックス版部からインキを受ける凸部と、アニックス版部からのインキを受けない凹部と、を含み、
前記フレキソ部の凸部は、前記ブランケット部のインキ受理面よりも転写ロール内方に引っ込んでいることを特徴とする印刷機。
【請求項2】
ロール状のインキ版であって、その外周面にグラビア版部とアニックス版部とを有するインキ版と、
前記インキ版のグラビア版部およびアニックス版部にインキを供給するインキ供給部と、
前記インキ版のグラビア版部およびアニックス版部に当接して前記インキを受理する転写ロールと、
前記転写ロールとの間で基材を挟持して、転写ロール上のインキを基材上に転移させる圧胴と、を備え、
前記転写ロールは、中心ロールと、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理するとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるブランケット部と、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のアニックス版部からインキを受けるとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるフレキソ部と、を有し、
前記ブランケット部は、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理する第1インキ受理面を含み、
前記フレキソ版部は、前記インキ版のアニックス版部からインキを受ける凸部と、アニックス版部からのインキを受けない凹部と、を含み、
前記フレキソ版部の凸部は、前記ブランケット部のインキ受理面よりも転写ロール内方に引っ込んでいることを特徴とする印刷機。
【請求項3】
前記フレキソ版部の凸部は、前記ブランケット部のインキ受理面よりも0.1〜0.5mmだけ転写ロール内方に引っ込んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷機。
【請求項4】
前記インキのせん断速度100/秒における粘度(インキ温度23℃)が51〜200cPの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷機。
【請求項5】
前記インキは、溶媒と、溶媒中に溶解された固形分からなり、
前記溶媒は、その表面張力が37dyne/cm以下であり、かつその沸点が165〜250℃の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の印刷機。
【請求項6】
前記インキにおける固形分の含有量が1.5〜3.5重量%の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の印刷機。
【請求項7】
前記転写ロールの前記ブランケット部は、表面張力が35dyne/cm以上である樹脂フィルムからなることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷機。
【請求項8】
前記樹脂フィルムの厚みは、5〜200μmの範囲であることを特徴とする請求項7に記載の印刷機。
【請求項9】
前記転写ロールのブランケット部は、転写ロールの中心ロールの周面に前記樹脂フィルムを一体的に備えるものであることを特徴とする請求項7または8に記載の印刷機。
【請求項10】
前記転写ロールのブランケット部は、表面張力が35dyne/cm以上である樹脂フィルムからなり、
前記グラビア版部からインキを受理する位置と、インキを前記基材上に転移する位置とを少なくとも含む範囲において、回転する中心ロールに巻き付く状態で前記樹脂フィルムが搬送されるものであることを特徴とする請求項2に記載印刷機。
【請求項11】
前記中心ロールと前記ブランケット部との間にクッション層が介在されていることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の印刷機。
【請求項12】
前記転写ロールのフレキソ部は、水現像可能な樹脂材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷機。
【請求項13】
前記転写ロールのフレキソ部は、レーザ彫刻可能な樹脂材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷機。
【請求項14】
前記転写ロールのフレキソ部は、転写ロールの中心ロールの周面に粘着材により固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷機。
【請求項15】
前記転写ロールは、中心ロールと、中心ロールを取り囲む円筒状のプラスチックスリーブと、プラスチックスリーブの外周上に設けられたブランケット部およびフレキソ部とからなり、
前記プラスチックスリーブは、前記中心ロール内に配置されたエアークランプ機構によって中心ロール上に固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷機。
【請求項16】
前記転写ロールは、中心ロールと、中心ロールを取り囲む円筒状のプラスチックスリーブと、プラスチックスリーブの外周上に設けられたブランケット部およびフレキソ部とからなり、
前記プラスチックスリーブは、前記中心ロール内に配置された吸着機構によって中心ロール上に固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷機。
【請求項17】
対向する電極と、当該電極間に配設され少なくとも発光層を有する発光素子層と、を備えた有機発光デバイスの当該発光層を請求項1乃至16のいずれかに記載の印刷機により形成する方法において、
少なくとも有機発光材料を含有するインキを前記インキ版のグラビア版部およびアニックス版部に充填させる工程と、
当該グラビア版部およびアニックス版部から前記転写ロールに前記インキを受理させる工程と、
前記転写ロール上の前記インキを基材上に転移させる工程と、を備え、
前記転写ロールは、中心ロールと、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理するとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるブランケット部と、中心ロール上に設けられ、前記インキ版のアニックス版部からインキを受けるとともに前記基材上に当該インキを転移させる弾性材料からなるフレキソ部と、を有し、
前記ブランケット部は、前記インキ版のグラビア版部からインキを受理するインキ受理面を含み、
前記フレキソ部は、前記インキ版のアニックス版部からインキを受ける凸部と、アニックス版部からのインキを受けない凹部と、を含み、
前記フレキソ部の凸部は、前記ブランケット部のインキ受理面よりも内方に引っ込んでいることを特徴とする発光層の形成方法。
【請求項18】
対向する電極と、当該電極間に配設され少なくとも発光層を有する発光素子層と、を含む有機発光デバイスを形成する方法において、
基材を準備する工程と、
前記基材上に、所望のパターンを有する第1電極層を形成する工程と、
前記基材上に、前記第1電極層の所望の部位を上方に露出させる複数の開口部を有する絶縁層を形成する工程と、
前記開口部内に、少なくとも発光層を有する発光素子層を形成する工程と、
前記発光素子層のうち所望の開口部内に位置する発光素子層に接続されるよう、第2電極層を形成する工程と、を備え、
前記発光素子層の発光層は、請求項17に記載の方法により形成されることを特徴とする有機発光デバイスの形成方法。
【請求項19】
前記開口部内に前記発光素子層が形成されている領域であって、かつ前記第1電極層と前記第2電極層との間に発光素子層が形成されている領域により発光領域が画定され、
当該発光領域は、少なくとも1つの第1発光領域と、複数の第2発光領域と、からなり、
前記第1発光領域の面積は、前記第2発光領域の面積よりも大きく、
前記第1発光領域における発光素子層の発光層は、前記ブランケット部から転移されるインキから形成され、
前記第2発光領域における発光素子層の発光層は、前記フレキソ部から転移されるインキから形成されることを特徴とする請求項18に記載の有機発光デバイスの形成方法。
【請求項20】
前記第1発光領域の面積は、1mm以上となっており、
前記第2発光領域の面積は、1mmよりも小さくなっていることを特徴とする請求項19に記載の有機発光デバイスの形成方法。
【請求項21】
前記絶縁層の開口部により、前記第1発光領域と前記第2発光領域とからなる前記発光領域が画定され、
前記発光素子層を形成する工程において、発光素子層が、前記絶縁層および前記開口部を覆うよう形成されることを特徴とする請求項19または20に記載の有機発光デバイスの形成方法。
【請求項22】
基材と、
当該基材上に所望のパターンで形成された第1電極層と、
前記基材上に形成され、前記第1電極層の所望の部位を上方に露出させる複数の開口部を有する絶縁層と、
各開口部内の第1電極層を被覆するよう各開口部内に形成され、少なくとも発光層を有する発光素子層と、
前記発光素子層のうち所望の開口部内に位置する発光素子層に接続されるよう形成された第2電極層と、を備え、
前記開口部内に前記発光素子層が形成されている領域であって、かつ前記第1電極層と前記第2電極層との間に発光素子層が形成されている領域により発光領域が画定され、
当該発光領域は、少なくとも1つの第1発光領域と、複数の第2発光領域と、からなり、
前記第1発光領域の面積は、1mm以上となっており、
前記第2発光領域の面積は、1mmよりも小さくなっていることを特徴とする有機発光デバイス。
【請求項23】
前記絶縁層の開口部により、前記第1発光領域と前記第2発光領域とからなる前記発光領域が画定され、
開口部は、前記第1発光領域に対応する第1開口部と、前記第2発光領域に対応する第2開口部とからなり、
前記第1開口部の面積は、1mm以上となっており、
前記第2開口部の面積は、1mmよりも小さくなっていることを特徴とする有機発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−148233(P2011−148233A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12391(P2010−12391)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】